説明

複合体及びその製造方法

【課題】接着剤を用いずに金属とポリ乳酸樹脂とを一体化させた複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物4は、樹脂分としてポリ乳酸が主成分である。金属部品1と樹脂組成物4の複合体7を次の工程を含む方法で製造する。まず、金属部品1の表面を、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われた表面とする表面処理工程。次に、前記表面処理工程がなされた金属部品1を射出成形金型2、3にインサートし、樹脂組成物4に結晶核剤を少なくとも有する添加剤を含有させた上で、インサートされた金属部品1に射出接合させる接合工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその製造方法に関し、特に、金属と樹脂組成物の複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種材料である金属と合成樹脂を接着剤で一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器などの広い産業分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。
【0003】
この接着剤による金属と樹脂の一体化を用いて機器の筐体を作成するには、特に電子機器においては、プレス成形やダイカスト成形で作成した金属の成形体に、射出成形などで作成した樹脂の成形体を接着剤で貼り付ける工程が必要となり、樹脂の成形体の数だけ射出成形用の金型を作成する必要があった。また、樹脂の成形体を金属に貼り付ける際の位置決めを厳密に行わなくてはならなかった。
【0004】
一方、接着剤を使用しないで金属と合成樹脂を一体化する技術が従来から研究されてきている。マグネシウムやアルミニウム、及びその合金である軽金属合金類、ステンレスなどの鉄合金類の表面に、極微細な凹凸形状を薬品処理によって作成したものに対して、接着剤の介在無しでPPS(ポリフェニレンサルファイド)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)、ナイロン樹脂を射出成形で接合させる技術が開発され、実用化され始めている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
この接着剤を用いないで金属と樹脂を一体化する技術によれば、金属の成形体を樹脂の射出金型にインサートして、1回の射出成形で金属と樹脂の一体化した成形体を作成することができる。これにより、射出成形用の金型は1つで済み、また樹脂成形体の金属成形体上における位置決めなども厳密に行うことができるため、上記の接着剤を使用する筐体作成方法に比べて筐体の量産効率が格段に高められる利点がある。
【0006】
特許文献1の提案におけるこの射出接合の方法は、おおむね次の通りである。アルミニウム合金を水溶性アミン系化合物の希薄水溶液に浸漬させて、アルミニウム合金を水溶液の弱い塩基性によって微細にエッチングさせると同時に、アルミニウム合金表面にアミン系化合物分子を吸着させる。この処理がされたアルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、溶融した熱可塑性樹脂を高圧で射出する。このとき熱可塑性樹脂とアルミニウム合金表面に吸着していたアミン系化合物分子が遭遇して発熱すると、低温の金型温度に保たれたアルミニウム合金に接して急冷とともに結晶化して固化せんとした樹脂は、若干の時間の間であるが結晶化による固化が遅れて超微細なアルミニウム合金面上の凹部に潜り込むことになる。そのことによりアルミニウム合金と熱可塑性樹脂は、樹脂がアルミニウム合金表面から剥がれることなく強固に接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−216425号公報
【特許文献2】特開2010−064496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、限りある石油資源の枯渇対策と、大気中への二酸化炭素の放出抑制による地球温
暖化対策を目的として、石油原料由来ではない植物原料由来の合成樹脂であるバイオプラスチックが開発され、その利用量が増してきている。
【0009】
バイオプラスチックの中でもポリ乳酸樹脂は世界で最も生産量が多い樹脂であり、地球環境保全の観点からその利用量がさらに増すことが世界的に期待されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は従来からあるいわゆるエンジニアリングプラスチック類に比べると、強度特性や耐熱性に劣るため、この樹脂を電子機器などの筐体でますます多く使用するには、これらの特性を補う必要があった。
【0010】
ポリ乳酸樹脂の石油系樹脂に対する特性の低さをカバーするには、これら特性に優れる金属材料との一体化が接着剤を用いずに合理的に行えることが望ましい。しかしながら、接着剤を用いずに金属とポリ乳酸樹脂を一体化する技術はまだ開発されていなかった。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、接着剤を用いずに金属とポリ乳酸樹脂組成物とを一体化させた複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑みて鋭意開発を行い、上記目的を達成させる本発明を完成させた。本発明によれば、下記の態様(1)〜(4)が提供される。
(1)
金属と樹脂の複合体であって、
前記金属は、表面加工処理により表面が数平均内径10〜80nmの凹部で覆われており、前記樹脂は、樹脂分としてポリ乳酸が主成分である樹脂組成物であり、該樹脂組成物は、結晶核剤を少なくとも有する添加剤を含有し、
前記樹脂組成物が前記金属の表面に射出成形され、前記凹部に嵌入した状態で固着されていることを特徴とする、複合体。
(2)
前記樹脂組成物は、前記結晶核剤を0.1〜20%含有することを特徴とする、(1)記載の複合体。
(3)
前記結晶核剤は、無機系結晶核剤、及び有機系結晶核剤から選択される1種以上であることを特徴とする、(1)又は(2)記載の複合体。
(4)
前記結晶核剤に加え、結晶成長を促進する可塑剤を併用することを特徴とする、(3)記載の複合体。
(5)
金属と樹脂の複合体の製造方法であって、
前記樹脂は、樹脂分としてポリ乳酸が主成分である樹脂組成物であり、
前記金属の表面を、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われた表面とする表面処理工程と、
前記表面処理工程がなされた前記金属の部品を射出成形金型にインサートし、前記樹脂組成物に結晶核剤を少なくとも有する添加剤を含有させた上で、インサートされた前記金属の部品に射出接合させる接合工程と、
を含むことを特徴とする、複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤を用いずに金属とポリ乳酸樹脂組成物とを一体化させた複合体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の金属部品1と樹脂組成物4の複合体7を製造する過程を模式的に示す金型構成図である。
【図2】本実施形態により製造された複合体7を模式的に示す外観図である。
【図3】実施例により製造された複合体を模式的に示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、以下、図面を参照して説明する。
【0016】
[金属部品]
本発明の金属部品としては、特に限定するものではないが、例えば、マグネシウム又はアルミニウム合金、ステンレス合金、マグネシウム−リチウム合金からなるものが挙げられる。また、この金属部品は、表面構成からいえば、例えば、侵食性水溶液又は侵食性懸濁液に金属を浸漬して得たもので、電子顕微鏡観察により測定して表面は無数の凹部で覆われた形となっており、その凹部の数平均内径は80nm以下である。
【0017】
この無数の超微細な凹部は、孔開口部様のものであってもよい。また、数平均内径の下限であるが、電子顕微鏡により明確な観察ができる範囲で10nmである。10nm未満でも本発明を適用できると推定しているが現段階では確認できていない。
【0018】
この金属表面に構成された、無数の超微細な凹部は、凹部内に複雑な形状を有し、本発明の樹脂組成物との強固な接合に寄与する。すなわち、本発明の樹脂組成物は、射出成形の条件下で金属側に形成されている超微細な凹部に入り込み、入り込んだ後で結晶化して容易には剥がれない状態になる。もし後部の径と深さが超微細で且つこれが無数に金属表面を覆っているのであれば、凹部に入り込んで結晶化した樹脂と金属部分の接合力は、無数のアンカー効果で支えられることになり、非常に強い接合力を生じる。化学的結合でない物理的な引っかかり、すなわちアンカー効果、に過ぎないが、ナノオーダーまで来れば高性能接着剤による接合より強くなる。
【0019】
[金属部品の表面加工]
上記無数の凹部で覆われた表面構成を有する本発明の金属部品を得る表面加工方法について述べる。本発明の金属部品の表面加工としては、まず、侵食性水溶液又は侵食性懸濁液に金属を浸漬して表面に無数の凹部を形成する、いわゆる化学エッチングが挙げられる。他には、陽極酸化法により形成する方法が挙げられる。
【0020】
侵食性水溶液又は侵食性懸濁液に金属を浸漬する表面加工法においては、金属がマグネシウム又はマグネシウム合金からなる部品であり、前記金属部品を酸性水溶液などに浸漬して化学エッチングする工程と、前記化学エッチングした部品を、金属塩や酸などを含む水溶液に浸漬し、表面に金属酸化物などを成分とする薄層を形成する工程からなる化成処理工程などによって電子顕微鏡で見て数平均内径が10〜80nmの凹部を有するものであることを特徴とする。
【0021】
また、金属がアルミニウム部品又はアルミニウム合金部品である場合には、金属部品をPH8.5〜11.0の侵食性水溶液又は侵食性懸濁液に浸漬する化学エッチングにより電子顕微鏡で見て数平均内径が10〜80nmの凹部を表面に有するものであることを特徴とする。
【0022】
陽極酸化法においては、金属がアルミニウム合金のとき、周知のアルマイト化を行う。その際、染色や封孔をしないで使用する。すなわち、未封孔で使用する。また、金属がマグネシウム合金のときも、同様に、封孔処理をしないで周知の技術により陽極酸化を行う

【0023】
[樹脂組成物部品]
本発明の樹脂組成物としては、電子機器などの筐体での利用や環境対応という本発明の趣旨に鑑みて、硬質系の生分解性プラスチックが挙げられる。その中でも量産性の観点から、ポリ乳酸が好ましい。
【0024】
ポリ乳酸としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0025】
このような他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0026】
ポリ乳酸で高い結晶性と耐熱性を得るためには、乳酸成分の光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分の内、L体あるいはD体が80モル%以上含まれることが好ましく、さらには90モル%以上含まれることが好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。結晶性ポリ乳酸樹脂としては、例えば、三井化学(株)製、レイシアH−100、H−400、H−440、ユニチカ(株)製テラマックT−4000等が挙げられる。
【0027】
ポリ乳酸の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0028】
[樹脂組成物の添加剤]
上記のポリ乳酸が主成分である本発明の樹脂組成物には、射出成形の際の結晶化を促進させることを目的として、添加剤を含ませる。無添加のポリ乳酸樹脂は、いわゆるエンジニアリングプラスチック類に比べると、結晶化のスピードが極度に遅く、インサート射出成形の際に結晶化のスピードを加速させて用いなければ、表面加工された金属部品との接合が不可能であった。
【0029】
これは、インサート射出成形の際に、低温の金型温度に保たれていた金属部品に接したポリ乳酸樹脂が冷却固化する際、若干の時間の間ではあるが接触面において発熱し、冷却固化が遅れることが期待されるものの、ポリ乳酸樹脂の結晶化のスピードが遅いため、結晶化熱の放出による冷却固化の若干の遅延がなされないまま未結晶化の状態で樹脂が冷却
固化してしまうためである。すなわち、この結晶化熱の放出による冷却固化の若干の遅延がなされないと、金属部品表面に形成された超微細な凹部の複雑な内部形状に、ポリ乳酸樹脂が嵌入してゆくプロセスが行われないこととなる。
【0030】
そこで本発明では、超微細な凹部にポリ乳酸樹脂を嵌入させるため、インサート射出成形の際に、ポリ乳酸を結晶化に伴い発熱させるべく、同樹脂の結晶化を促進する添加剤を添加したポリ乳酸樹脂組成物を用いれば、表面加工された金属部品との接合が可能となることを見出した。
【0031】
ここでのポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する添加剤とは、一つには結晶化のための核生成を促すという観点から結晶核剤を使用することが好ましい。もう一つには、結晶の成長を促進させるという観点から可塑剤を使用することも好ましい。
【0032】
上記の結晶核剤としては、タルクなどの無機系結晶核剤や、脂肪酸アミドなどの有機系結晶核剤などが挙げられ、これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0033】
無機系結晶核剤としては、タルク、シリカ、グラファイト、酸化マグネシウムなど、タルク、スメクタイト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等のケイ酸塩、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物や、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ワラスナイト、チタン酸カリウムウィスカー、珪素系ウィスカー等の繊維状無機充填剤等が挙げられる。
【0034】
無機充填剤の平均粒径は、良好な分散性を得る観点から、0.1〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。また、繊維状の無機充填剤のアスペクト比は、剛性向上の観点から5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
【0035】
無機充填剤の中でも、ポリ乳酸樹脂成形体の成形性及び耐熱性の観点からケイ酸塩、繊維状無機充填剤が好ましく、ケイ酸塩のなかでは、タルク又はマイカがより好ましく、タルクが特に好ましい。
【0036】
有機系結晶核剤としては、脂肪酸モノアミド、脂肪酸ビスアミド、芳香族カルボン酸アミド、ロジン酸アミド等のアミド類;ヒドロキシ脂肪酸エステル類;芳香族スルホン酸ジアルキルエステルの金属塩、フェニルホスホン酸金属塩、リン酸エステルの金属塩、ロジン酸類金属塩等の金属塩類;カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、有機顔料類等が挙げられるが、成形性、耐熱性、耐衝撃性及び有機結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物及びヒドロキシ脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、更にこれらの少なくとも1種と、フェニルホスホン酸金属塩を併用することがより好ましく、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物とフェニルホスホン酸金属塩を併用することが更に好ましい。
【0037】
分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物としては、ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させる観点から、水酸基を2つ以上有し、アミド基を2つ以上有する脂肪族アミドが好ましい。
【0038】
また、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物の融点は、混練時の有機結晶核剤の分散性を向上させ、またポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させる観点から、65℃以上が好ましく、70〜220℃がより好ましく、80〜190℃が更に好ましい。
【0039】
分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物の具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒ
ドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び耐ブルーム性の観点から、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが好ましく、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドがより好ましい。
【0040】
ヒドロキシ脂肪酸エステルの具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸ジグリセライド、12−ヒドロキシステアリン酸モノグリセライド、ペンタエリスリトール−モノ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−ジ−12−ヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトール−トリ−12−ヒドロキシステアレート等のヒドロキシ脂肪酸エステルが挙げられる。ポリ乳酸樹脂成形体の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び有機結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドが好ましい。
【0041】
その他の有機系結晶核剤としては、安息香酸カルシウム、そのほかのカルボン酸金属塩、ベンジリデンソルビトールやその誘導体、その他、ポリマー系のものも利用できる。
【0042】
結晶核剤の含有率は、0.1〜20%であることが好ましい。含有率の上限(20%)を超えると、本発明の樹脂組成物に期待される物性(剛性、耐熱性、透明性など)に支障が出る。また、含有率の下限(0.1%)未満であると、結晶化のスピードが促進される効果が得られない。
【0043】
本発明に用いられる可塑剤としては特に限定されないが、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸等の多塩基酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル;グリセリン、エチレングリコール、ジグリセリン、1,4−ブタンジオール等の多価アルコールに、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加させた付加物のアセチル化物;ヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシル等のヒドロキシ安息香酸エステル;フタル酸ジ−2−エチルヘキシル等のフタル酸エステル;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル;マレイン酸ジ−n−ブチル等のマレイン酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル;リン酸トリクレジル等のアルキルリン酸エステル;トリメリット酸トリオクチル等のトリカルボン酸エステル;アセチル化ポリオキシエチレンヘキシルエーテル等のアセチル化ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数2〜15)エーテル等が挙げられる。
【0044】
ポリ乳酸樹脂の柔軟性、透明性、結晶化速度に優れる観点から、コハク酸、アジピン酸又は1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とポリエチレングリコール(エチレンオキサイドの平均付加モル数0.5〜5)モノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数3〜20)とのエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
これらの可塑剤の添加量としては、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性を保持しながら、可塑剤のブリードアウト等が起こらない範囲で適当な量とする必要がある。
【0046】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、更に、加水分解抑制剤を含有することができる。
加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等の
カルボジイミド化合物が挙げられ、ポリ乳酸樹脂成形体の成形性の観点からポリカルボジイミド化合物が好ましく、ポリ乳酸樹脂成形体の耐熱性、耐衝撃性及び有機結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、モノカルボジイミド化合物が好ましく、また、ポリ乳酸樹脂成形体の耐久性の観点から、モノカルボジイミド化合物とポリカルボジイミド化合物の併用が好ましい。
【0047】
上記カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸樹脂成形体の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び有機結晶核剤の耐ブルーム性を満たすために、単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂成形体の成形性の観点から、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、0.05〜7質量部が好ましく、0.1〜3質量部が更に好ましい。
【0049】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外に、更にヒンダードフェノール又はフォスファイト系の酸化防止剤、又は炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤等の他の成分を含有することができる。酸化防止剤、滑剤のそれぞれの含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、0.05〜3質量部が好ましく、0.1〜2質量部が更に好ましい。
【0050】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外の他の成分として、難燃化剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤等を、本発明の目的達成を妨げない範囲で含有することができる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、難燃性、曲げ破断歪み、耐衝撃性、及び耐熱性を向上させる観点から、難燃化剤を含有することが好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物への添加剤の添加は、単軸混練機、二軸混練機などによる一般的な溶融混練方法による。
【0052】
[インサートと射出成形]
本発明の複合体の製造方法としては、特に、複合体の生産性と確実性に優れることから、金属部品を金型にインサートした射出成形法により製造するものが好ましい。この方法は、以下のプロセスで該複合体を得るものである。
【0053】
図1に、本実施形態の金属部品1と樹脂組成物4の複合体7を製造する過程を模式的に示す。まず、射出成形金型2、3を用意し、金型2、3を開いてその一方に上述のような表面加工処理を施して得られた金属部品1をインサートし、金型2、3を閉じ、上述のような添加剤を添加した樹脂組成物4を樹脂注入ゲート5を通して射出し、固化した後に金型2、3を開き離型することにより、複合体7の製造を行う。得られた複合体7は接合面6により強固に一体化している。図1に示すように、樹脂組成物で、ノートパソコン筐体に設けられるリブ、ボス、窓などを形成する。
【0054】
射出条件については、射出温度、金型温度、射出圧、射出速度は通常の射出成形のものと変わらない条件を用いることができる。たとえば、金型温度については、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させる観点から、30から110℃が好ましく、40から90℃がより好ましく、60から90℃が更に好ましい。ただし、射出温度と射出圧、および射出速度は高めにすることが好ましい。
【0055】
図2に、上記インサート射出成形により得られた接合後の複合体7の外観例を示す。図示の複合体7は、一例として、ノートパソコン筐体を示す。図2(a)は外面、(b)は
A-A'断面で切断した断面図、(c)は内面の例示である。樹脂組成物4aと樹脂組成物4bは、それぞれ、金属部品1と強固に一体化している。ここで接合面6には接着剤が用いられていない。樹脂組成物4bは一例として金属部品1に設けられた窓を例示している。
【0056】
したがって、上記実施形態によれば、接着剤を用いずに金属とポリ乳酸樹脂とを一体化させた複合体及びその製造方法が提供される。また、金属との接合の支障となっていたポリ乳酸樹脂の冷却固化の遅さは、上記添加剤により冷却固化が促進され、金属とポリ乳酸樹脂とを一体化させることが可能になる。
【0057】
また、上記インサート射出成形による製造方法により、例えば図2に示すように樹脂組成物による部品が複数(樹脂組成物4aと4b)あっても、一工程で一体化させることができる。また、一工程一体化により、射出成型用の金型は1つで済み、また、樹脂成形体の金属成形体上の位置決めなども厳密に行うことができるため、接合面に接着剤を使用する場合に比べて、複合体の量産効率が格段に高められる。
【0058】
以下、本発明の実施例を詳記する。
【0059】
(ポリ乳酸組成物の調製例1)
ポリ乳酸樹脂組成物として、下記の配合物を予備混合し、2軸押出機((株)池貝製PCM−45)にて190℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物(1)のペレットを得た。
【0060】
(ポリ乳酸樹脂組成物(1)の配合)
ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製、LACEA H−400)44wt%、水酸化アルミニウム(日本軽金属(株)製、BE033、平均粒径2μm、アルカリ金属系物質の含有量0.01質量%)47wt%、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル2.5wt%、アジピン酸ジエステル(大八化学(株)製、DAIFATTY-101)2.5wt%、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成(株)製、スリパックス H)0.5wt%、無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩(日産化学工業(株)製、PPA−Zn)0.5wt%、環状フェノキシフォスファゼン(大塚化学(株)製、SPS−100)2wt%、ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミー(株)製、スタバクゾール1−LF)0.5wt%、ポリジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミー(株)製、スタバクゾールP)0.5wt%。
【0061】
(ポリ乳酸組成物の調整例2)
ポリ乳酸樹脂組成物として、下記の配合物を予備混合し、2軸押出機((株)池貝製 PCM-45)にて190℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物(2)のペレットを得た。 なお、この調整例の配合は、ポリ乳酸組成物(1)から結晶核剤と可塑剤を除いたものである。
【0062】
(ポリ乳酸樹脂組成物(2)の配合)
ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製、LACEA H−400)50wt%、水酸化アルミニウム(日本軽金属(株)製、BE033、平均粒径2μm、アルカリ金属系物質の含有量0.01質量%)47wt%、環状フェノキシフォスファゼン(大塚化学(株)製、SPS−100)2wt%、ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミー(株))製、スタバクゾール1−LF)0.5wt%、ポリジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミー(株)製、スタバクゾールP)0.5wt%。
【0063】
得られたペレットは、70℃減圧下で1日乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0064】
上記の方法で調整したポリ乳酸樹脂組成物について、下記の方法で調整したアルミニウム合金板との接合を試みた。なお、複合体の接合強度の測定には、引張試験機「オートグラフAGS−10kNJ型(製品名)」(島津製作所社製)を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
【0065】
[実施例1]
市販の1.6mm厚のA1100アルミニウム合金板を18mm×45mmの長方形片多数に切断し、金属板1であるアルミニウム合金板とした。
このアルミニウム合金板1の端部に穴を開け、十数個に対しその穴に塩化ビニルでコートした銅線を通し、アルミニウム合金板同士が互いに重ならないように銅線を曲げて加工し、全てを同時にぶら下げられるようにした。
【0066】
槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%を水に溶解加熱して75℃とし、前記のアルミニウム合金板を5分浸漬し、よく水洗した。
続いて別の槽に40℃とした1%塩酸水溶液を用意し、これに前記アルミニウム合金板を1分浸漬してよく水洗した。
続いて別の槽に40℃とした1%苛性ソーダ水溶液を用意し、1分浸漬してよく水洗した。
続いて別の槽に40℃とした1%塩酸水溶液を用意し、1分浸漬してよく水洗した。
ここまでが前処理である。
【0067】
続いて別の槽に60℃とした5%の一水和ヒドラジン水溶液を用意し、1分浸漬して十分に水洗した。
これを、40℃で15分、60℃で5分温風乾燥機に入れて乾燥した。
綺麗なアルミ箔の上にこのアルミニウム合金板を銅線を抜いて置き、まとめて包んだ。
このとき、接合すべき面(穴を開けたのと反対側の端部)に指は触れていない。
【0068】
1日後、うち1個を電子顕微鏡による観察を行ったところ、表面は数平均内径23nmの凹部で覆れていた。又、別の1個をXPS観察にかけて表面に存在する原子組成の分析を行ったところ窒素原子が明確に観察された。
これは液処理で使用したヒドラジンが乾燥後も残って、おそらく化学吸着して、アルミニウム合金表面に残っていることを示すものである。
【0069】
2日後、残りのアルミニウム合金板を取り出し、油分等が付着せぬよう穴のある方を手袋で摘まみ、金型温度を80℃とした射出成形金型にインサートした。
金型を閉じ、調製例1により得られたポリ乳酸樹脂組成物(1)を射出温度190℃で射出し、図3で示す一体化した複合体10個を得た。なお、樹脂部4の大きさは10mm×45mm×5mmであり、接合面6は10mm×5mmの0.5cm2であった。
この複合体を引っ張り試験機でせん断破断力を測定したところ、平均で10.5Mpaであった。
【0070】
[比較例1]
調製例1により得られたポリ乳酸樹脂組成物(1)の代わりに、調製例2により得られたポリ乳酸樹脂組成物(2)を用いて、射出成形時の金型温度を40℃とした以外は実施例1と同様の方法により複合体を得た。なお、この金型温度を40℃とした理由は、ポリ乳酸樹脂組成物には結晶核剤、および可塑剤が添加されていないためにポリ乳酸樹脂の結晶化が極めて遅くなる影響により、金型温度を低く設定しないとポリ乳酸樹脂成形体を変形なく金型から取り出すことができないからである。
しかしながら、成形した10個のうち半数は引っ張り試験機にかける前の扱いで壊れてしまった。
残分5個の平均のせん断破断力は1.0Mpaであった。
【0071】
上記の実施例1と比較例1の結果の比較から、実施例1に配合された結晶核剤と可塑剤の配合によってインサート射出成形の際に、溶融したポリ乳酸組成物が金型に接して冷却固化する際、若干の時間の間ではあるが接触面において結晶化熱の放出による冷却固化の若干の遅延がなされ、金属部品表面に形成された超微細な凹部の複雑な内部形状に、ポリ乳酸樹脂が嵌入してゆくプロセスが行われ、結果として金属部と樹脂部の接合が果たされたものと考える。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、ノートパソコン、モバイル端末、スレート端末などの電子機器の筐体や部品、また、その製造方法に適用できる。また、本発明は、電子機器に限らず、白物家電、自動車、産業機械、玩具など(これらの部品を含む)にも適用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 金属部品
2,3 金型
4,4a,4b 樹脂組成物(ポリ乳酸)
5 樹脂注入ゲート
6 接合面
7 複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と樹脂の複合体であって、
前記金属は、表面加工処理により表面が数平均内径10〜80nmの凹部で覆われており、前記樹脂は、樹脂分としてポリ乳酸が主成分である樹脂組成物であり、該樹脂組成物は、結晶核剤を少なくとも有する添加剤を含有し、
前記樹脂組成物が前記金属の表面に射出成形され、前記凹部に嵌入した状態で固着されていることを特徴とする、複合体。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記結晶核剤を0.1〜20%含有することを特徴とする、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記結晶核剤は、無機系結晶核剤、及び有機系結晶核剤から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
前記結晶核剤に加え、結晶成長を促進する可塑剤を併用することを特徴とする、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
金属と樹脂の複合体の製造方法であって、
前記樹脂は、樹脂分としてポリ乳酸が主成分である樹脂組成物であり、
前記金属の表面を、数平均内径10〜80nmの凹部で覆われた表面とする表面処理工程と、
前記表面処理工程がなされた前記金属の部品を射出成形金型にインサートし、前記樹脂組成物に結晶核剤を少なくとも有する添加剤を含有させた上で、インサートされた前記金属の部品に射出接合させる接合工程と、
を含むことを特徴とする、複合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−213925(P2012−213925A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81114(P2011−81114)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(311012169)NECパーソナルコンピュータ株式会社 (116)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】