説明

複合型真空計

【課題】電離型の第1の測定素子による中真空から高真空領域の圧力の測定と、第2の測定素子の固有測定領域の、双方に及ぶ測定領域を安定して測定できる。
【解決手段】複合型真空計は、測定子容器2と、測定子容器中に設けられ、かつフィラメント3、グリッド4及びイオンコレクタ8を含む構成電極を具える、電離型構造を有する第1測定部と、グリッド4の軸延長上付近に設けられ、水晶振動子18と該水晶振動子18を包みこむ構造を有する水晶振動子容器19を具える、第2の測定部と、前記第1の測定部と前記第2の測定部とを空間的に分離するシールド板13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は複合型真空計、特に電離真空計に他の測定部を組み込んだ複合型電離真空計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高真空領域を利用する各種半導体製造装置や電子デバイス製造装置においては、装置の立ち上げ、メンテナンス、並びに各種プロセス条件により、大気圧から高真空領域にかけての広範囲における圧力測定が必要になっている。また、測定用途によって様々な真空計が使い分けられている。
【0003】
一般に、105Pa〜1Pa程度の高圧力領域(低真空領域)ではピラニ真空計などの熱伝導真空計、水晶摩擦真空計、及び回転型粘性真空計などの気体の輸送現象に基づく真空計が用いられる。また、プロセス中の圧力測定においては、圧力制御の容易性、高精度といった要求に対し、主に隔膜真空計が用いられている。一方、1Pa以下の低圧力領域(高真空領域)ではベヤードアルパート型電離真空計(以下、B-A型電離真空計と呼ぶ)に代表される電離真空計が広く用いられている。さらに、上述した大気圧から高真空領域にかけての広範囲における圧力測定を行うための真空計として、高圧力領域(低真空領域)の測定を行う真空計と低圧力領域(高真空領域)の測定を行う真空計を組み合わせた複合型真空計が開発されている。
【0004】
この複合型真空計の例として、105Pa〜1Pa程度の高圧力領域(低真空領域)の測定に用いられる水晶摩擦真空計と1Pa以下の低圧力領域(高真空領域)の測定に用いられるB-A型電離真空計を同一フランジに設置した、特許文献1に開示されている真空計がある。
【0005】
この真空計の構造と原理を図4と図5を参照して説明する。図4は従来技術の電離真空計の構成を示す断面図であり、図5は従来技術の電離真空計の制御回路を示すブロック図である。
【0006】
この真空計は、B-A型電離真空計及び水晶摩擦真空計を共通のフランジ2bに設置し、Oリング5によって真空容器1に接続されている。B-A型電離真空計部分はイオンコレクタ8、フィラメント3、グリッド4の三つの電極で構成され、それぞれフランジ2bに取り付けられた電流導入端子7に接続されている。その隣に設置される水晶摩擦真空計部分はフランジ2bに取り付けられた電流導入端子7に接続された水晶振動子18と水晶振動子容器19で構成される。
【0007】
10-1Pa以下の圧力領域はB-A型電離真空計によって計測する。
【0008】
低圧力領域(高真空領域)においてグリッド4に正のグリッド電圧を印加すると共に、フィラメント3を通電加熱すると、フィラメント3からグリッド4に向かって熱電子が放出される。この熱電子はグリッド4に到達する前にその近傍で往復運動をしながらグリッド4内に蓄積され、真空容器1内に残留する気体分子と衝突し、電離によって正電荷のイオンが生成される。
【0009】
最終的に熱電子がグリッド4に到達すると、フィラメント3とグリッド4との間にエミッション電流が流れる。また、イオンコレクタ8にフィラメント電位に対して負の電圧を印加しておくと、正電荷のイオンはイオンコレクタ8で捕捉され、従って、イオンコレクタ8にはイオン電流が流れ込む。このとき、各電極の印加電圧を一定電圧とし、エミッション電流を定電流とすると、グリッド4近傍で往復運動をする熱電子の密度が一定になる。従って、生成するイオンの量が真空容器1内の気体分子の密度、即ち圧力に比例するので、イオンコレクタ8に流入するイオン電流の大きさを測定することにより真空容器1内の圧力を測定することができる。
【0010】
一方、1Paから大気圧までの領域は水晶摩擦真空計によって計測する。
【0011】
振動子容器19は水晶振動子18を包み込む構造になっている。従って、B-A型電離真空計から放射される荷電粒子や熱輻射を防ぎ、蒸着及びスパッタされた物質が水晶振動子18に付着するのを防止する。開口部50は水晶振動子18を真空容器1内の気体圧力に導通させるためのものである。
【0012】
ここで水晶振動子18に一定交流電圧を印加し、かつ共振周波数で振動させた場合、交流インピーダンスの抵抗成分は気体圧力によって変化する。従って、交流インピーダンスの抵抗成分を測定することにより、真空容器1内の圧力を測定することができる。
【0013】
次に図5を参照して、この真空計の動作を説明する。
【0014】
ピン12a、12bにはB-A型電離真空計のフィラメント3、ピン9にはイオンコレクタ8、及びピン10にはグリッド4が接続されている。またピン22a及び22bには水晶振動子18のリード線21がそれぞれ接続されている。ピン12a、12b間にはフィラメント遮断スイッチ39を介して、フィラメント動作用電源27が接続されており、フィラメント3を加熱して熱電子を放出する。フィラメント遮断スイッチ39は水晶振動子18によって測定された真空容器1内の圧力が所定の圧力に達したことを確認してONとなり、フィラメント動作用電源27がフィラメント3に電流を供給し、B-A型電離真空計を動作させる。ピン9にはコレクタ電位電源51が接続され、コレクタ電位を例えば−50Vに保つことにより生成したイオンを収集する。コレクタ電位電源51と接地間にはイオン電流計33が接続され、イオン電流値を計測する。イオン電流は、イオン電流―圧力変換回路34によって圧力に換算され、その結果が表示装置25に示される。ピン10にはグリッド電位電源29が接続され、グリッド4を正電圧(例えば+150V)に保つ。その結果、フィラメント3より放出された熱電子を捕捉することができる。
【0015】
また、ピン22a及び22bにはフェーズ・ロックド・ループ回路(PLL回路)36を接続し、水晶振動子18を固有振動周波数にて安定振動させる。共振インピーダンスに対応する共振電圧信号は共振インピーダンス−圧力変換回路37によって圧力値に換算され、その結果が表示装置25に表示される。
【0016】
制御回路38は共振インピーダンス−圧力変換回路37に接続されており、水晶振動子18で計測した圧力の値が所定値(例えば1Pa)以下になったことを検出したときには、制御信号をフィラメント遮断スイッチ39及び圧力表示装置25に送る。この制御信号によるフィラメント遮断スイッチ39のON、OFFによって、B-A型電離真空計動作を切替え、その後、大気圧から高真空の広い圧力領域を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭62-218834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら上述の従来技術では、以下に示すような問題点があった。
【0019】
第1の問題点として、同一フランジにB-A型電離真空計と水晶摩擦真空計を組み込むことにより、フランジ寸法が、各単一測定子のみをフランジに取り込んだときのフランジ寸法に比べて大きくなる。この場合、真空容器への取付スペースの確保が必要となるほか、取付フランジ寸法の制約が大きくなってしまう。
【0020】
また、第2の問題点として、B-A型電離真空計に隣接して水晶摩擦真空計を取り付けると、たとえ水晶振動子をシールドケースで保護したとしても、フィラメントからの熱輻射はシールドケースから振動子リード線の固体熱伝導により水晶振動子に及び、従って、水晶振動子への熱影響は避けられない。特に、グリッド通電によるガス出し操作時においては、グリッドからの熱輻射の影響をもろに受ける構造となっている。水晶振動子の共振インピーダンスは圧力以外に温度によっても変化する。従って、フィラメント及びグリッドに通電されている際、あるいは通電OFF時であっても余熱による熱影響が残っている場合、水晶摩擦真空計による圧力測定値には温度変化による測定誤差を多分に含む結果となる。
【0021】
また、第3の問題点として、本構造のように、B-A型電離真空計における気体分子のイオン化空間内に他の圧力測定子を設置することは、気体分子のイオン化によって生じた気相イオンや二次電子、或いはスパッタ物の影響を避ける上では合理的でない。シールドの開口部を通じて気相イオンや二次電子、或いはスパッタ物が水晶振動子に入射し、衝撃影響を受けることは避けがたい。
【0022】
さらに、第4の問題点として、B-A型電離真空計のフィラメントやグリッドの各電極に隣接して水晶摩擦真空計を組み込むことにより、測定子容器内のグリッド近傍に水晶摩擦真空計による新たな電界が発生する。従って、グリッド内に蓄積される熱電子の密度が減少し、及び気体分子をイオン化させるための熱電子の進行に寄与する電界に大きな影響を及ぼす。その結果、B-A型電離真空計の測定感度の低下を引き起こす。
【0023】
さらに、第5の問題点として、測定子取付に際してフィラメント背後の真空容器壁が離れている場合には気相イオンがフィラメントに流れ込むため、実エミッション電流の減少を生じ、その結果、10-1Pa以上の高圧力側の測定限界が悪化する。
【0024】
これらの問題点は、B-A型電離真空計の場合に限らず、フィラメント、グリッド及びイオンコレクタの構成電極を具える殆どの電離真空計において発生する。また、別の測定素子としては、水晶摩擦真空計に限らず、電離真空計からの熱、電子などの影響を受けやすい測定素子であれば、上述の問題点が発生する。
【0025】
従って、この発明の目的は、電離型の第1の測定部による中真空から高真空領域の圧力の測定と、第2の測定部の固有測定領域の、双方に及ぶ測定領域を安定して測定できる複合型真空計を提供することにある。
【0026】
具体的には、上述のフランジ寸法が大きくなる問題、及び、フィラメントとグリッドとからの熱輻射の影響、並びに気相イオン等の影響を受けるという問題を解決する。さらに、測定子容器とグリッドとの間に形成される円筒電界に不均一を生じるという問題点を解決する。さらに、気相イオンがフィラメントに流れ込み、実エミッション電流の減少を生じるという問題点を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記の目的の達成を図るため、この発明の複合型真空計によれば、測定子容器と、前記測定子容器中に設けられ、かつフィラメント、グリッド及びイオンコレクタを含む構成電極を具える、電離型構造を有する第1測定部と、前記グリッドの軸延長上付近に設けられ、水晶振動子と該水晶振動子を包みこむ構造を有する水晶振動子容器を具える、第2の測定部と、前記第1の測定部と前記第2の測定部とを空間的に分離するシールド板と、を備えることを特徴とする。
【0028】
ここで、グリッドの軸とは、コイル状に巻かれているグリッドに対し、コイル状の内部にあって、ほぼグリッドの対称軸になっている軸のことを意味する。また、グリッドの軸延長上付近とは、グリッドの軸の延長上又はその近傍のことを意味する。また、主要飛行空間とは、熱電子が飛行している空間のうち、相対的に大量に飛行している空間のことを意味する。フィラメントから放射される熱電子の主要飛行空間からはずれた空間とは、すなわち、熱電子、あるいは気体分子のイオン化に伴って生成される二次電子、気相イオンなどによる衝撃影響を可及的に低減できる空間のことを意味する。また、第1の測定部とは異なる機能を有するとは、第2の測定部が圧力を測定する測定部であっても第1の測定部と構造が異なることにより、測定する原理が異なっていたり、又は、測定する圧力範囲が異なっていることを意味する。
【0029】
このような構成にすることにより、第1及び第2の測定部の両方を測定子容器に組み込んでも、測定子容器の大きさは測定部が一つの真空計と比較してそれほど大きくならず、また、フランジの大きさも変化させる必要が無く、従って、第1の問題点を解決できる。また、フィラメント及びグリッドからの熱輻射が第2の測定部に与える影響を最小限とするように作用するので、第2の問題点を解決できる。さらに、グリッド周辺に蓄積されるフィラメントとグリッド間で加速された熱電子はグリッドの軸に垂直な方向に飛行するものが主であるため、これら熱電子、あるいは気体分子のイオン化に伴って生成される二次電子、気相イオンなどによる衝撃影響を第2の測定部が受けないように作用し、従って、第3の問題点を解決できる。その結果、測定部を電離型の第1の測定部による中真空から高真空領域の圧力の測定と、第2の測定部の固有測定領域の、双方に及ぶ測定領域を安定して測定できる。
【0030】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記第2の測定部を、前記測定子容器の壁面のうち前記グリッドの軸延長上付近の壁面と、前記構成電極との間の空間に設置してあると良い。
【0031】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記第2の測定部と前記構成電極との間に、前記第2の測定部と前記構成電極とを空間的に分離するシールド板を設けると良い。
【0032】
ここで、空間的に分離するとは、概ね空間的に分離することを意味する。完全に空間を分離してしまうと、真空度を測定する気体が第2の測定部に入ることができなくなり、そのため、第2の測定部により正確な測定を行うことができなくなるからである。このような構成にすることにより、第2及び第3の問題点をさらに好適に解決できるほかに、電離型の第1の測定部の各構成電極によって形成される電界が第2の測定部に及ぼす影響を低減するという効果がある。
【0033】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記シールド板の電位は、接地電位であると良い。
【0034】
このとき、電離型の第1の測定部の各構成電極によって形成される電界が第2の測定部に及ぼす影響をさらに低減するという効果がある。
【0035】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記測定子容器は概ね軸対称形であり、及び該測定子容器と前記グリッドの軸がほぼ一致するように前記グリッドが配置されていると良い。
【0036】
このように、グリッドが測定子容器のほぼ中央に配置されていることによって、グリッドと測定子容器の内面間距離をほぼ一定に保つことができる。従って、グリッド内に蓄積される熱電子の密度が減少せず、及び気体分子をイオン化させるための熱電子の進行に寄与する電界に大きな影響を及ぼさない。その結果、第1の測定部により安定した感度で圧力を測定することができ、従って、さらに第4の問題点を解決できる。
【0037】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記測定子容器の電位は、前記フィラメントより低い電位であると良い。
【0038】
このような構成にすることにより、測定子容器壁は、気相イオンがフィラメントに流れ込んで実エミッション電流を減少させるのを防止する補助電極の役割を果たし、従って、10Paといった高圧力側まで測定限界が伸びる。従って、さらに、第5の問題点を解決できる。
【0039】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記第2の測定部は、熱伝導性に優れた材料で構成された素子固定板に固定してあると良い。
【0040】
素子固定板に第2の測定部を固定することにより、外部からの振動影響を低減できる。
【0041】
また、素子固定板は熱伝導性に優れた材料で構成されているので、第2の測定部への輻射入熱があったとしても、固体の熱伝導により、素子固定板の固定部を通じて、第2の測定部から素子固定板へ熱を逃がすことができる。
【0042】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記素子固定板は、熱伝導性に優れた材料で構成されていて、他端が前記測定子容器外部に突出しているパイプと接続されており、及び該パイプは、前記測定子容器と同程度の低電位にされていると良い。
【0043】
ここでパイプとは、一般的な円筒中空状のものだけにとらわれず、素子固定板と接続されていて測定子容器外部に突出している構造であれば、形状にとらわれない。このとき、第2の測定部は、熱伝導性の優れた材料で構成された素子固定板及びパイプを通じて測定子容器外部と接続されているので、第2の測定部への輻射入熱があったとしても、固体の熱伝導により、素子固定板の固定部を通じて、第2の測定部から測定子容器外部へ熱を好適に逃がすことができる。
【0044】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記測定子容器は、真空容器と着脱自在に結合可能な結合部を有していると良い。
【0045】
ここで、真空容器とは、真空度を測定する測定部が設置されている測定子容器以外の真空計の部分、例えばチャンバー等のことを意味する。
【0046】
このような構成にすることにより、測定子容器の真空容器への設置作業性の向上を図ることができると共に、測定子容器の設置スペースや設置コストを最小に抑えることができる。
【0047】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記測定子容器は、前記第1の測定部及び前記第2の測定部の構成電極に規定電圧を印加し、かつ該構成電極を固定するための、絶縁体材料で構成された電流導入端子を、該測定子容器の壁面の一部に具えていて、該電流導入端子には前記第1の測定部及び前記第2の測定部に電流を導入するピンが設置されていると良い。
【0048】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記電離真空計は、前記第1及び第2測定部を動作させる制御回路を具えていると良い。
【0049】
また、この発明の実施に当たり、好ましくは、前記制御回路は、前記測定子容器に付着しているガスを脱離させるための脱ガス用電源及び脱ガス用スイッチを具えていると良い。
【0050】
ここで、測定子容器に付着しているガスを脱離させるとは、測定子容器内壁表面や構成電極等に吸着していて、測定部による測定時に誤差の原因となりうる気体分子を取り除くことを意味する。脱ガス用電源及び脱ガス用スイッチを具えることにより、吸着分子を取り除くことができ、測定誤差を防ぐことができる。
【0051】
また、この発明の実施に当たり、前記第1の測定部は、ベヤードアルパート型電離真空計としても良い。
【0052】
また、この発明の実施に当たり、前記第2の測定部を、圧力を測定する測定部としても良い。
【0053】
また、この発明の実施に当たり、前記圧力を測定する測定部を、水晶振動子式圧力計としても良い。
【0054】
また、この発明の実施に当たり、前記第2の測定部を、温度を測定する測定部としても良い。
【発明の効果】
【0055】
以上詳細に説明したように、この発明によれば、測定子容器と、この測定子容器中に設けられた第1及び第2の測定部とを具え、第1の測定部は、フィラメント、グリッド及びイオンコレクタを含む構成電極を具える、真空状態の圧力を測定する、電離型構造とし、第2の測定部は、第1の測定部とは異なる機能を有する構造とした、電離真空計において、第2の測定部を、グリッドの軸延長上付近であって、フィラメントから放射される熱電子の主要飛行空間からはずれた空間に設置してある構造になっているので、測定子容器及びフランジの大きさが小さくなり、真空容器への設置作業性の向上が図れ、及び測定子の設置スペースやコストを最小に抑えられる。また、第1の測定部のフィラメントの熱輻射、二次電子、気相イオン、スパッタ物などによる影響及び第1の測定部の構成電極の電界による影響を受けることなく、第1の測定部による中真空から高真空領域の圧力の測定と、第2の測定部の固有測定領域の、双方に及ぶ測定領域を安定して測定できる。
【0056】
また、第2の測定部と構成電極との間に、第2の測定部と構成電極とを空間的に分離するシールド板を設けてあるので、第1の測定部のフィラメントの熱輻射、二次電子、気相イオン、スパッタ物などによる影響及び第1の測定部の構成電極の電界による影響をさらに受けることがない。
【0057】
また、測定子容器は概ね軸対称形であり、測定子容器とグリッドの軸がほぼ一致するようにグリッドが配置されているので、グリッドと測定子容器の内面間距離を一定に保つことができ、従って均一な円筒電界が形成される。このため、真空容器の取り付け形状に影響されず、第1の測定部において、常に安定した感度が得られる。
【0058】
また、第2の測定部は、熱伝導性に優れた材料で構成された素子固定板に固定してあるので、第2の測定部に入ってくる輻射熱を、容易に外部に逃がすことができる。
【0059】
また、測定子容器は、フィラメントより低い電位であるので、測定子容器が、イオンがフィラメントに流れ込んで実エミッション電流を減少させるのを防止する補助電極の役割を果たし、第1の測定部による高圧力側の測定限界が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】電離真空計の構成を示す断面図である。
【図2】電離真空計の制御回路を示すブロック図である。
【図3】大気圧から超高真空の広領域圧力を測定したグラフである。
【図4】従来技術の電離真空計の構成を示す断面図である。
【図5】従来技術の電離真空計の制御回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、この発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、図中、各構成成分の大きさ、形状および配置関係は、この発明が理解できる程度に概略的に示してあるにすぎず、また、以下に説明する数値的条件は単なる例示にすぎない。
【0062】
図1はこの発明の実施の形態の電離真空計の構成を示す断面図である。特に、被測定の真空容器の一部と、これに取り付けられた測定子容器及び真空測定部の要部構成を示す。図2はこの実施の形態の制御回路部の要部構成を示す図である。
【0063】
この実施の形態の電離真空計は、大きく分けて、被測定の真空容器1と測定子容器2から構成されている。さらに、測定子容器2中に設けられた第1及び第2の測定部とを具えている。第1の測定部は、フィラメント3、グリッド4及びイオンコレクタ8を含む構成電極を具える電離型構造の測定部であって、真空状態の圧力を測定する。また、第2の測定部は、第1の測定部とは異なる機能を有する。この実施の形態では、第1の測定部は、B-A型電離真空計としての機能するための測定部となっており、及び第2の測定部は、水晶振動子式圧力計としての機能するための測定部となっている。
【0064】
測定子容器2は、例えばSUS304などの金属でできた、例えばほぼ24mmの内径を持つ円筒状の容器としてある。つまり、測定子容器2は概ね軸対称形となっている。従って、フィラメント3及びグリッド4との距離を適切に保つことができる。また、測定子容器2は、接地電位点に接続されている。すなわち測定子容器2は、接地ケーブルあるいは測定子容器2の取り付けられる真空容器1を通じて、フィラメント3より低い電位、例えば接地電位、に保たれている。
【0065】
測定子容器2の上方には気体導入口2aが開口し、真空容器1との接続用に接続フランジ2bが設けられている。真空容器1とフランジ2bとの間は、Oリング5によって真空気密を保持する。測定子容器2は結合用のフランジ2bを有していることにより、真空容器1と着脱自在に結合可能になっている。従って、測定子容器2の真空容器1への設置作業性の向上を図ることができると共に、測定子容器2の設置スペースや設置コストを最小に抑えることができる。尚、真空気密を保持する上で、Oリング5の替わりに金属ガスケットを用いても良い。また、接続には接続フランジ2bを設けることなく、排気管2cをOリング5の構造によって真空容器1に接続しても良い。
【0066】
気体導入口2a近くには、例えばSUS304などの金属メッシュでできたシールド6が測定子容器2と同電位に保たれて取り付けられている。このシールド6は、真空容器1側より異物あるいは荷電粒子が測定子容器2内に侵入して測定に支障を来たすことを防ぐための侵入防止手段である。真空容器1中の気体は、測定子容器2の上部に開口した気体導入口2aより、シールド6の多数の開口穴をとおって測定子容器内に導入されるので、第1及び第2の測定部によって圧力を測定することができる。
【0067】
測定子容器2は、測定子容器2の壁面の一部に、電流導入端子7を具えている。この電流導入端子7は、第1の測定部及び第2の測定部の構成電極に規定電圧を印加すると共に、これら構成電極を固定する。この電流導入端子7は、絶縁体材料7aで構成されていて、第1の測定部及び第2の測定部に電流を導入するピンが設置されている。
【0068】
測定子容器2のほぼ中心軸上には、例えば太さ約0.2mmのタングステン製のイオンコレクタ8が、グリッド4のコイルのほぼ上端面に突き出るようにピン9に取り付けられる。このイオンコレクタ8を取り囲んで、表面に例えば白金がコーティングされた太さ約0.2mm、全長約180mmのモリブデン線によりコイル状に作製されたグリッド4が、ピン10aとピン10bに固定されたグリッド支柱11とで支持されている。グリッド4は、好ましくは、概ね軸対称であると良い。グリッド4により均一な電界が形成されるからである。この実施の形態のようなB-A型電離真空計の場合には、グリッド4の軸がイオンコレクタ8になっており、従って、測定子容器2とグリッド4の軸がほぼ一致するようにグリッド4が配置されている。さらに、グリッド4の外側には、例えば太さ約0.2mmのトリアコートイリジウム線を高さ約12mmのヘヤピン状に加工したフィラメント3が、グリッド4からの距離が例えば2.5mmの位置にピン12a、ピン12bに支持されて取り付けられている。以上の構造により、B-A型電離真空計の測定部である第1の測定部の構成電極を形成している。
【0069】
さらに、この発明では、このグリッドの軸延長上付近に第2の測定部を設置してある。また、後述するように、熱電子は、フィラメントの延在方向と主に垂直方向に放射され、及び、この実施の形態ではグリッドの軸とフィラメントの延在方向とは平行になっている。従って、第2の測定部は、フィラメントから放射される熱電子の主要飛行空間からはずれた空間に設置してあることになる。さらには、第2の測定部は、測定子容器2の壁面のうちグリッドの軸延長上付近の壁面、この実施の形態においては電流導入端子と、構成電極との間の空間に設置してあることになる。
【0070】
また、第1の測定部の構成電極であるイオンコレクタ8、グリッド4及びフィラメント3と第2の測定部との間に、例えばSUS304などの金属でできたシールド板13が取り付けられており、第2の測定部と構成電極とを空間的に分離している。従って、第1の測定部による気体分子イオン化空間14から隔離された高さ約8mm程度の第2の測定部設置空間15が形成されている。このシールド板13は測定子容器2の内面に固定されており、上述のように測定子容器2は接地電位としてあるので、シールド板13も接地電位となっている。イオンコレクタ8、グリッド4及びフィラメント3の各電極に接続されるピンは、このシールド板13に接触しないように、シールド板13における各ピン位置の開口部で貫通している。
【0071】
第2の測定部は、水晶振動子容器19及び水晶振動子18を含んだ構造になっている。水晶振動子容器19は水晶振動子18を包み込む構造になっており、従って、B-A型電離真空計から放射される荷電粒子や熱輻射を防ぎ、蒸着及びスパッタされた物質が水晶振動子18に付着するのを防止できる。また、水晶振動子容器19は、開口部50を有しており、この開口部50により水晶振動子18を真空容器1内の気体圧力に導通させることができる。また、水晶振動子18は水晶振動子容器19と素子固定金具20を介して固定されている。さらに水晶振動子18は、リード線21を介して、電流導入端子7に設置されているピン22a及び22bに接続されている。
【0072】
また、第2の測定部のうち水晶振動子容器19は、例えばコバールなどの金属のような熱伝導性に優れた材料で構成された素子固定板17に固定してある。更に素子固定板17は、例えばコバールなどの金属のような熱伝導性に優れた材料で構成されたパイプ、例えば円筒パイプ16で支持されている。この円筒パイプ16は、電流導入端子7の中央に組み込まれ、円筒パイプ16の他端は測定子容器2外部に突出している。この円筒パイプ16及び素子固定板17を、例えば測定子容器2と接続することによって、円筒パイプ16及び素子固定板17を接地電位にすることができる。
【0073】
以上のような第1及び第2の測定部の構造、並びに周辺部品の構造を有することにより、以下に述べるような効果が発生する。
【0074】
第2の測定部がグリッドの軸延長上付近に設置してありシールド板13が設置してあるため、B-A型電離真空計の測定部である第1の測定部のフィラメント3及びグリッド4の通電時の熱輻射や気体分子のイオン化に伴い生じる二次電子、気相イオン、並びにスパッタ物が水晶振動子18に与える影響が、最小限に抑えられる。また、シールド板13は接地電位であるので、第1の測定部における構成電極からの第2の測定部への電界の影響を低減できる。
【0075】
更に、水晶振動子18は熱伝導性に優れた円筒パイプ16と素子固定板17に固定されているため、外部の振動により水晶振動子18本体が振れることで水晶振動子18周囲に形成される静電容量が変化し、その結果圧力測定の変動を引き起こすことが無くなる。また、水晶振動子容器19に流入する熱を円筒パイプ16を通じて大気側に放出する。この結果、フィラメント3がONの場合、またはOFFした直後においても、素子固定板17に取り付けられた水晶振動子18の温度上昇は抑えられる。また、この円筒パイプ16はイオンコレクタ8に接続されているピン9を囲むように電流導入端子7に設置されている。従って、円筒パイプ16を測定子容器2と同電位とすることにより、イオンコレクタ8に進入する電気的ノイズは円筒パイプ16によって逃がされ、その結果、イオンコレクタ8に進入する電気的ノイズを防ぐ役割も果たす。
【0076】
この結果、第2の測定部により、測定誤差の少なく安定した感度で圧力測定が行える。
【0077】
また、グリッドの軸と測定子容器の軸がほぼ一致しているために、グリッドによる均一な電界が形成でき、その結果、第1の測定部により、測定誤差の少なく安定した感度で圧力測定が行える。
【0078】
次に、この実施の形態の電離真空計の第1及び第2測定部を動作させる制御回路について図2を参照して説明する。この制御回路は、B-A型電離真空計の測定部である第1の測定部を動作させる電離真空計動作回路23と、水晶摩擦真空計の測定部である第2の測定部を動作させる水晶摩擦真空計動作回路24と、各真空計の圧力測定値を表示するための表示装置25と、更に圧力領域によって各真空計の圧力表示に切り替え及び第1の測定部のフィラメント3のON、又はOFFを行うための切り替え回路26とを具えている。
【0079】
電離真空計動作回路23は、フィラメント3から熱電子を発生させるフィラメント動作用電源27、フィラメント3にイオンコレクタ8の電位より高い電位を与えるフィラメント電位電源28、グリッド4にフィラメント3から放出された熱電子を蓄積するためのグリッド電位を与えるグリッド電位電源29、グリッド4を通電加熱するための脱ガス用電源30及び脱ガススイッチ31、グリッド4に流入する電子を一定量に制御するためのエミッション制御回路32、イオンコレクタ8と接地間に接続されイオン電流を測定するイオンコレクタ電流計33、イオン電流Iiを圧力に変換するためのイオン電流−圧力変換回路34、及びフィラメント電位電源28と接地間に接続されエミッション電流Ieを測定するエミッション電流計35で構成されている。
【0080】
水晶摩擦真空計動作回路24は、水晶振動子18をそれ自身の固有共振周波数にて安定振動させるためのフェーズ・ロックド・ループ回路(PLL回路)36、及び共振インピーダンスを圧力に変換するための共振インピーダンス−圧力変換回路37で構成されている。
【0081】
切り替え回路26は、共振インピーダンス−圧力変換回路37及びイオン電流−圧力変換回路34からの圧力信号を基にB-A型電離真空計のフィラメントON・OFF(オン・オフ)信号の出力を行う制御回路38と、制御回路38からのON・OFF信号を基にB-A型電離真空計のフィラメント3のON又はOFFを行うフィラメント遮断スイッチ39で構成される。
【0082】
また、脱ガス用電源30及びグリッド電位電源29はグリッド4と接続されているピン10a及び10bとそれぞれ接続され、イオンコレクタ電流計33はイオンコレクタと接続されているピン9と接続され、フィラメント動作用電源27及びフィラメント遮断スイッチ39はフィラメント3と接続されているピン12a及び12bとそれぞれ接続され、及びPLL回路は水晶振動子18と接続されているピン22a及び22bと接続されている。
【0083】
次に、第1及び第2の測定部の構造及び機能について、詳細に説明する。
【0084】
第1の測定部はB-A型電離真空計の測定部となっており、低圧力領域(高真空領域)の圧力を計測する。
【0085】
グリッド4にグリッド電位電源29により正のグリッド電圧(以後、Vgと称する。)、例えば180Vを印加すると共に、フィラメント3にフィラメント電位電源28により例えば45Vのフィラメント電圧(以後、Vfと称する。)を印加し、さらにフィラメント動作用電源27により通電加熱すると、フィラメント3からグリッド4に向かって熱電子が放出される。この熱電子は、主に気体分子イオン化空間14、すなわち熱電子の主要飛行空間中に放出される。この熱電子はグリッド4に到達する前にその近傍で往復運動をしながら、グリッド4内に蓄積される。この際、放出された熱電子のうちいくらかは、測定子容器2内の気体分子と衝突し、その結果、気体分子の電離によって正電荷のイオンが生成される。
【0086】
最終的に熱電子がグリッド4に到達すると、フィラメント3とグリッド4との間にエミッション電流Ieが流れる。ここで、イオンコレクタ8にフィラメント電位に対して負のイオンコレクタ電圧(以後、Vtcと称する。)を印加しておくと正電荷のイオンはイオンコレクタ8で捕捉され、従って、イオンコレクタ8にはイオン電流Iiが流れ込む。この実施の形態では、イオンコレクタ8をピン9を介して接地することにより電位を0Vにしている。各電極の印加電圧を一定電圧とし、同時に、エミッション電流Ieを一定電流とすると、グリッド4近傍で往復運動をする熱電子の密度が一定になる。このとき、生成するイオンの量が真空容器1内の気体分子の密度、即ち圧力に比例する。従って、イオンコレクタ8に流入するイオン電流Iiの大きさをイオンコレクタ電流計33により測定し、そして、この測定結果(電流値)をイオン電流−圧力変換回路34で圧力に変換することによって、真空容器1内の圧力を測定することができる。
【0087】
ここで、グリッド4にフィラメント3から放出された熱電子が到達するためには、Vg>Vfでなくてはならない。また、生成した正電荷のイオンがイオンコレクタ8に進むエネルギーを与えるためには、Vg>Vtcでなければならない。さらに、熱電子がイオンコレクタ8に流れ込まないようにするために、Vf>Vtcでなければならない。従って、Vg>Vf>Vtcという関係を満たさなくてはならない。この実施の形態においては、Vg=180(V)、Vf=45(V)及びVtc=0(V)としたが、上述の関係を満たす電圧であれば、これらの数値は任意好適なものであっても良い。
【0088】
また、上述の通りエミッション電流Ieを一定値にするために、イオンコレクタ電流計33で計測されたイオン電流Iiとエミッション電流計35で計測されたエミッション電流Ieを基に、エミッション制御回路32を通じてフィラメント動作用電源27にフィードバックがかけられる。このフィードバックについて、以下に説明する。
【0089】
エミッション電流Ieに貢献するのは、気体分子に衝突せずグリッド4に到達する熱電子の他に、気体分子に衝突した後の熱電子及び気体分子が電離して正電荷のイオンが生成されたときに発生する二次電子も含まれる。従って、フィラメント電位電源によるVf及びフィラメント動作用電源27による通電パワーが一定であっても、気体分子の数、つまり圧力によってエミッション電流Ieは変化する。そこで、このエミッション電流Ieを一定値にするために、エミッション制御回路32により、フィードバックする必要がある。このフィードバックは、エミッション制御回路32が、エミッション電流計35におけるエミッション電流Ieを検知しながら、このエミッション電流Ieが一定値になるようにフィラメント動作用電源27による通電パワーを制御して行う。
【0090】
また、このフィードバックは、エミッション制御回路32が、上述のエミッション電流計35におけるエミッション電流Ieを検知すると同時に、イオンコレクタ電流計33におけるイオン電流値Iiを検知して行う。すなわち、上述のエミッション電流Ieの一定値は、測定する圧力領域、つまりイオン電流値Iiによって使い分けているために、まず、この一定値を決定する必要があるからである。エミッション電流Ieの一定値を、測定する圧力領域、つまりイオン電流値Iiによって使い分けている理由は、以下に述べるとおりである。すなわち、高圧力領域においては、フィラメントの酸化や腐食を防ぐために、フィラメントの表面温度を低くする、すなわちフィラメント動作用電源27による通電パワーを低くしている。このため、エミッション電流Ieの一定値を低めに設定する。これに対し、低圧力領域においては、気体分子密度が小さく、イオン電流Iiも小さくなるので、イオン電流検出能力を下回らなくするために、イオン電流Iiを増やす目的でエミッション電流Ieを高くする必要がある。このため、上述のフィラメントの酸化や腐食を防止する必要はあるものの、エミッション電流Ieを高めに設定する。従って、このエミッション電流Ieの一定値の設定切り換えの圧力を検知するために、エミッション制御回路32は、イオンコレクタ電流計33におけるイオン電流値Iiを検知してフィードバックを行う。
【0091】
以上のような機能及び原理でB-A型電離真空計の測定部及び制御回路を動作させた結果、測定圧力は、イオン電流−圧力変換回路34において、イオンコレクタ電流計33で計測したイオン電流Ii及びエミッション電流計35で計測したエミッション電流Ieに基づいて算出される。すなわち、測定圧力をPとすると、P=1/S・Ii/Ieの式より求められる。ここでSは測定子の感度である。
【0092】
また、グリッド4の脱ガスを、脱ガス用電源30及び脱ガススイッチ31により行うが、これについて以下説明する。B-A型電離真空計により真空度の測定を行うことにより、グリッド4及びその他の構成電極や測定子容器2等の周辺部品に気体分子が吸着するが、これらの吸着している気体分子は圧力測定を行う上でのノイズとなりうる。そこで、脱ガススイッチ31をONにして脱ガス用電源30によりグリッド4を通電加熱することによって、グリッド4及び周辺部品から吸着気体分子を脱離させて取り除く。このグリッド通電による脱ガス処理は、任意好適なとき、例えば、真空計による測定前に行えばよい。
【0093】
一方、第2の測定部は水晶摩擦真空計の測定部となっており、高圧力領域(低真空領域)の圧力を計測する。
【0094】
まず、水晶振動子18に水晶摩擦真空計動作回路24のPLL回路36により一定交流電圧を印加しかつ固有共振周波数で振動させる。このとき、気体分子が固有共振周波数にて安定振動している水晶振動子18に衝突すると、水晶振動子18表面に粘性抗力が発生する。この粘性抗力は気体の圧力に比例し、水晶振動子18の共振インピーダンス変化としてとらえることができる。このとき、PLL回路36で検出した共振インピーダンス値を共振インピーダンス−圧力変換回路37にて圧力に変換することにより、測定子容器2内の圧力を測定する。
【0095】
次に、B-A型電離真空計及び水晶摩擦真空計により圧力測定を行う際に、圧力領域の変化に対して測定の切り換えを行う方法について説明する。
【0096】
大気圧から高圧力領域(低真空領域)では切替回路26内の制御回路38を通じて水晶摩擦真空計の圧力測定値が表示され、低圧力領域(中、高真空領域)では制御回路38を通じてB-A型電離真空計の圧力測定値が表示される構造になっている。
【0097】
ここで、フィラメント遮断スイッチ39がON又はOFF状態にかかわらず、水晶摩擦真空計による圧力測定は常に行われている。これに対し、B-A型電離真空計は、フィラメント遮断スイッチ39がONの場合のみ、ピン12a及び12b間にフィラメント動作用電源27によって電流が流されるので、従って、フィラメント遮断スイッチ39がONの場合のみ圧力測定が行われる。尚、グリッド電位電源29によるグリッド4へのグリッド電位電圧の印加、及びフィラメント電位電源28によるフィラメント3へのフィラメント電位電圧の印加は常に行われる。
【0098】
まず、共振インピーダンス−圧力変換回路37で得られた圧力信号、つまり水晶摩擦真空計による測定値は切替回路26内の制御回路38に送られる。このとき、B-A型電離真空計のフィラメント3がOFF状態、つまりフィラメント遮断スイッチ39がOFFの場合には、水晶摩擦真空計の圧力測定値が表示装置25に表示される。一方、B-A型電離真空計のフィラメント3がON状態、つまりフィラメント遮断スイッチ39がONの場合には、B-A型電離真空計の圧力測定値が表示装置25に表示される。
【0099】
ここで、B-A型電離真空計のフィラメントONの信号は、共振インピーダンス−圧力変換回路37で得られた圧力信号が、例えば4Pa以下の場合に出力されるように設定しており、フィラメントOFFの信号は、電離真空計動作回路23におけるイオン電流−圧力変換回路34で得られた圧力信号が、例えば8Pa以上の場合に出力されるように設定している。
【0100】
つまり、水晶摩擦真空計により高圧力領域の測定を行っている際(このとき、フィラメントOFF信号になっている。)、真空容器1内の圧力が減少し、共振インピーダンス−圧力変換回路37にて得られた圧力値が4Pa以下であることを制御回路38が検知すると、制御回路38よりB-A型電離真空計のフィラメントON信号を出力する。次に、フィラメント遮断スイッチ39では、この信号を受けてフィラメント3へのパワー供給が行われる。同時に、表示装置25への圧力表示をB-A型電離真空計による圧力測定値に切り替える。反対に、B-A型電離真空計により低圧力領域の測定を行っている際(このとき、フィラメントON信号になっている。)、真空容器1内の圧力が上昇し、イオン電流−圧力変換回路34にて得られた圧力値が8Pa以上であることを制御回路38が検知すると、制御回路38よりB-A型電離真空計のフィラメントOFF信号を出力する。次に、フィラメント遮断スイッチ39では、この信号を受けてフィラメント3へのパワー供給を遮断する。同時に、表示装置25への圧力表示を水晶摩擦真空計による圧力測定値に切り替える。
【0101】
この発明の電離真空計の切替圧力領域は、上述のように4Pa〜8Pa、さらには10Pa程度にすることもできる。これに対し、従来技術においては、せいぜい10-1Pa〜1Pa程度であった。従来技術において、切り換え圧力領域が低かったのは、言い換えると、高圧力側の測定精度が悪く、測定限界が低いことを示しており、これは以下に述べる原因による。すなわち、イオンは正の電荷を持っているため、本来イオンコレクタ8に捕捉されるべきイオンがフィラメント3(イオンからみれば負電荷に当たる)にも流れ込んでくる。従って、見かけ上フィラメントから熱電子が放出されたことと同じになってしまう。その結果、気体分子のイオン化に寄与する本来の熱電子が少なくなり、本来の意味でのエミッション電流、つまり実エミッション電流が減少してしまうため、測定された圧力は信頼性が無くなる。この現象は、高圧力領域において、顕著である。これに対し、低圧力領域においては、エミッション電流が高く、気体分子も少ないので、実エミッション電流の減少はほとんどない。従って、実エミッション電流が減少する影響が大きい高圧力側の測定限界が悪化し、その結果、切り換え圧力領域が低くなっていた。
【0102】
この発明においては、測定子容器2をフィラメントより低い電位としてあるので、測定子容器2の内壁が、イオンがフィラメント3に流れ込んで実エミッション電流を減少させるのを防止する補助電極の役割を果たしている。従って、実エミッション電流が減少する影響が大きい高圧力側の測定限界が改善できる。この結果、切替圧力領域が上述のように従来技術に比べて高くなる。同時に、もともと温度や熱電子などによる圧力測定誤差の影響をうけやすい水晶摩擦真空計を使用する圧力範囲が減少するので、信頼性の高い測定を実現できるという効果がある。
【0103】
次に、この実施の形態の電離真空計を用いて圧力測定を行った実験結果について説明する。図3は、この実施の形態の電離真空計において、大気圧から超高真空までの広領域圧力を測定したグラフである。
【0104】
図3において、横軸は基準圧力(Pa)及び縦軸はこの実施の形態の真空計による測定圧力(Pa)を示す。図3の白抜き菱形は、圧力上昇時のB-A型電離真空計による測定データであり、黒塗り菱形は、圧力減少時のB-A型電離真空計による測定データであり、白抜き三角は、圧力上昇時の水晶摩擦真空計による測定データであり、及び黒塗り三角は、圧力減少時の水晶摩擦真空計による測定データである。なお、圧力測定する対象のガスとして、窒素を導入した。これらの測定データから、基準圧力とこの実施の形態の真空計による測定圧力は、直線関係をなしていることがわかる。従って、大気圧から1×10-7(Pa)の高真空領域までの測定が可能となることがわかる。特に水晶摩擦真空計からB-A型電離真空計への切換点(つまり減圧時圧力切換点)である4Pa、またはB-A型電離真空計から水晶摩擦真空計への切換点(つまり昇圧時圧力切換点)である8Paにおいて、連続性のある切換が行われている。通常、B-A型電離真空計から水晶摩擦真空計への切換の場合、フィラメントの熱輻射等の影響が懸念されるが、この測定データからみた切換点における温度等の影響はほとんど観測されていない。
【0105】
上述した実施の形態における構成、形状、材料、数値などは単なる一例であってこれに限られるものではなく、他の任意好適な構成、形状、材料、数値などで置き換えることができる。
【0106】
例えば、この実施の形態においては、第1の測定部として、B-A型電離真空計を用いたが、フィラメント、グリッド及びイオンコレクタを含む構成電極を具える構造の電離真空計であれば、この発明に使用することができる。例えば、中心軸にフィラメントがあり、その周りにグリッド、さらにはイオンコレクタが形成されている構造である、三極管型電離真空計、熱陰極電離真空計及び冷陰極電離真空計を用いても良い。さらには、エキストラクタ型電離真空計、サプレッサ真空計、シュルツゲージ等を用いることもできる。
【0107】
また、この実施の形態においては、第2の測定部を水晶摩擦真空計としたが、この発明は真空中に設置できる圧力測定素子であれば、第2の測定部として使用することができる。この圧力測定素子としては、半導体並びに電子部品製造技術を利用した圧力測定素子、例えば拡散型圧力トランスデゥーサ、静電容量型シリコンダイヤフラム圧力素子、熱伝導圧力素子、更には温度検出素子や感ガス半導体を用いた感ガス素子なども用いることができる。
【0108】
更に、この実施の形態においては、第2の測定部による測定対象物を圧力としたが、この発明ではこれに限られるものではない。この発明では、電離真空計による圧力測定の機能・性能を維持したまま、熱・電子などの擾乱を受けないように第2の測定部を設置することが可能となっている。したがって、第2の測定部としては、圧力測定素子だけでなく、温度を測定するための温度測定素子を用いても大きな効果が発生する。さらには、測定対象物はどのようなものであっても熱・電子などの影響を受けやすい測定素子であれば効果が発生するといえる。
【0109】
また、この実施の形態においては、測定子容器中に第1及び第2の測定部が設置されており、接続フランジにより測定子容器が着脱可能な構造になっているが、例えば、接続フランジ及び電流導入端子のみが着脱可能であり、測定子容器が真空容器の一部となっている構造であっても良い。
【0110】
また、この実施の形態では、B-A型電離真空計の圧力測定値を検出してB-A型電離真空計のフィラメントOFF信号を出力する構造としたが、常時動作している水晶摩擦真空計の圧力測定値で検出しても良い。
【符号の説明】
【0111】
1:真空容器
2:測定子容器
2a:気体導入口
2b:接続フランジ
2c:排気管
3:フィラメント
4:グリッド
5:Oリング
6:シールド
7:電流導入端子
7a:絶縁体材料
8:イオンコレクタ
9:ピン
10a:ピン
10b:ピン
11:グリッド支柱
12a:ピン
12b:ピン
13:シールド板
14:気体分子イオン化空間
15:圧力測定素子設置空間
16:円筒パイプ
17:素子固定板
18:水晶振動子
19:水晶振動子容器
20:素子固定金具
21:リード線
22a:ピン
22b:ピン
23:電離真空計動作回路
24:水晶摩擦真空計動作回路
25:表示装置
26:切換回路
27:フィラメント動作用回路
28:フィラメント電位電源
29:グリッド電位電源
30:脱ガス用電源
31:脱ガススイッチ
32:エミッション制御回路
33:イオンコレクタ電流計
34:イオン電流−圧力変換回路
35:エミッション電流計
36:PLL回路
37:共振インピーダンス−圧力変換回路
38:制御回路
39:フィラメント遮断スイッチ
50:開口
51:コレクタ電位電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定子容器と、
前記測定子容器中に設けられ、かつフィラメント、グリッド及びイオンコレクタを含む構成電極を具える、電離型構造を有する第1測定部と、
前記グリッドの軸延長上付近に設けられ、水晶振動子と該水晶振動子を包みこむ構造を有する水晶振動子容器を具える、第2の測定部と、
前記第1の測定部と前記第2の測定部とを空間的に分離するシールド板と、
を備えることを特徴とする複合型真空計。
【請求項2】
前記水晶振動子は、U字形状であり、該U字の先端開口部が前記測定子容器の側壁に向くように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項3】
前記水晶振動子容器は、前記シールド側に向く開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項4】
前記測定子容器は、前記第1の測定部の構成電極及び前記第2の測定部に規定電圧を印加し、かつ該構成電極を固定するための、絶縁体材料で構成された電流導入端子を、具えていて、
該電流導入端子には前記第1の測定部及び前記第2の測定部に電流を導入する複数のピンが設置されており、
該複数のピンは、前記シールド板に接触しないように、前記複数のピンの位置に対応する位置の当該シールド板に設けられた開口部を貫通していることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項5】
前記第1及び第2の測定部を動作させる制御回路を具え、
前記制御回路は、前記グリッドと前記ピンを介して接続され、前記測定子容器に付着しているガスを脱離させるための脱ガス用電源及び脱ガス用スイッチを具えていることを特徴とする請求項4に記載の複合型真空計。
【請求項6】
前記シールド板の電位は、接地電位であることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項7】
前記測定子容器は概ね軸対称形であり、及び該測定子容器の中心軸と前記グリッドの軸がほぼ一致するように前記グリッドが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項8】
前記測定子容器の電位は、前記フィラメントより低い電位であることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項9】
前記第2の測定部は、熱伝導性に優れた材料で構成された素子固定板に固定してあることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項10】
前記素子固定板は、熱伝導性に優れた材料で構成されていて、他端が測定子容器外部に突出している円筒パイプと接続されており、
該円筒パイプは、前記イオンコレクタに接続されているピンを囲むように前記電流導入端子に設置され、及び、
該円筒パイプは、前記測定子容器と同電位にされていることを特徴とする請求項9に記載の複合型真空計。
【請求項11】
前記測定子容器は、真空容器と着脱自在に結合可能な結合部を有していることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。
【請求項12】
前記制御回路は、前記グリッドと接続されたグリッド電位電源と、該グリッドに流入する電子を一定量に制御するためのエミッション制御回路を具えていることを特徴とする請求項1に記載の複合型真空計。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−54518(P2010−54518A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278248(P2009−278248)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【分割の表示】特願2000−25165(P2000−25165)の分割
【原出願日】平成12年2月2日(2000.2.2)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】