説明

複合布帛

【課題】従来の潜在捲縮型コンジュゲート糸より高い嵩高性と優れた潜在捲縮発現能力を示し、無撚〜甘撚でも揚柳調のシボが発現しにくく、高品位でソフトストレッチ性に優れた布帛を得ることが可能なポリエステル系複合糸および羊毛繊維や獣毛繊維との複合によって両者の欠点を補完し、長所を生かす複合布帛を提供する。
【解決手段】2種類以上のポリエステル系重合体からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルから構成される収縮と三次元捲縮を発現したポリエステル系複合糸と、羊毛繊維および/または獣毛繊維とを含むことを特徴とする複合布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系複合糸と羊毛や獣毛繊維との複合において、3次元捲縮と熱処理での優れた捲縮発現により、さらに好ましくは熱処理前の半顕在化捲縮と熱処理時に発現する潜在捲縮の発現効果により布帛にした際にソフトなふくらみとストレッチ性を与えるとともに、高密度でコンパクトな表面感とソフトで反発感のある風合いを与えることのできるポリエステル系複合糸と羊毛および獣毛繊維との複合布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
羊毛や獣毛繊維は衣料用素材として、あらゆる用途に広く使用されアウターウエアの分野では圧倒的なシェアを持っている。しかし、近年アウターウエアのカジュアル化、軽量化に伴ない羊毛や獣毛はセータ−やカーディガン等のニットで多く使用されているが、スーツやボトムの分野ではストレッチ性、W&W性(ウオッシュアンドウエア性)の機能性が要求されていることから、需要が伸び悩んでいる。このストレッチ性やW&W性を得るため、ウールの改質や染め加工での技術開発が行われているが、完成されたものでなくスパンデックス等の弾性繊維や市販のポリエステル繊維との複合で対処しているが満足な状況に至っていない。
【0003】
一方、ポリエステルは機械的特性をはじめ、様々な優れた特性を有しているため衣料用途のみならず幅広く展開されている。また、近年のストレッチブームによりポリエステル系布帛にもストレッチ性を与えるため、種々の方法が採用されている。
【0004】
例えば、織物中にポリウレタン系の弾性繊維を混用し、ストレッチ性を付与する方法がある。しかしながら、ポリウレタン系弾性繊維を混用した場合、ポリウレタン固有の性質として風合いが硬く、織物の風合いやドレープ性が低下するとともに、ポリエステル用の分散染料には染まり難く、汚染の問題がつきまとう。
そのため、還元洗浄の強化など染色工程が複雑になるばかりか、所望の色彩に染色することが困難であった。
【0005】
また、ポリエステル繊維に仮撚加工を施し、加撚/解撚トルクを発現させた繊維を用いることにより、織物にストレッチ性を付与する方法がある。しかしながら、仮撚加工糸はぼてつき感があるとともに、トルクが織物表面のシボに転移し易い傾向があり、織物欠点となり易い問題がある。このため、熱処理やS/Z撚りとすることでトルクバランスを取り、ストレッチ性とシボ立ちによる欠点をバランスさせることも行われているが、概ねストレッチ性が低下しすぎることが問題となっていた。
【0006】
一方、ポリウレタン系弾性繊維や仮撚加工糸を用いない方法として、サイドバイサイド型複合を利用した潜在捲縮発現性ポリエステル繊維が種々提案されている。潜在捲縮発現性ポリエステル繊維は、熱処理により捲縮が発現するか、あるいは熱処理前より微細な捲縮が発現する能力を有するものであり、通常の仮撚加工糸とは区別されるものである。
【0007】
例えば、特公昭44−2504号公報や特開平4−308271号公報には、固有粘度差あるいは極限粘度差を有するポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)のサイドバイサイド型複合糸、特開平5−295634号公報にはホモPETとそれより高収縮性の共重合PETのサイドバイサイド型複合糸が記載されている。しかし、これらのサイドバイサイド型複合糸は、布帛でアルカリ減量を施した後100℃以上の湿熱温度が30分以上与えられることによって伸縮性が発現されることや、高収縮性の共重合PETを使用することによって3次元捲縮の効果として深色性が得られると記載されているが、いずれもポリエステル系100%においてであり、羊毛繊維や獣毛繊維のように染色工程が化学薬品の影響を受けやすく、常温・常圧領域で行われるものに混用して使用し、伸縮性を得ることは到底不可能であった。
【0008】
これは、上記したようなサイドバイサイド型複合糸は織物拘束中での高温と籾効果がないと捲縮発現能力が低い、あるいは捲縮が外力によりヘタリ易いためである。サイドバイサイド型複合糸はポリウレタン系弾性繊維のように繊維自身の伸縮によるストレッチ性を利用しているのではなく、複合ポリマ間の収縮率差によって生じる3次元コイルの伸縮をストレッチ性に利用している。このため、例えば、ポリマーの収縮が制限される織物拘束下で熱処理を受けるとそのまま熱固定され、それ以上の収縮能を失うためコイルが十分に発現せず、上記問題が発生すると考えられる。さらに、当該複合糸を単体で布帛に用いる場合はまだしも、他繊維との複合で用いる場合にはさらに拘束力による捲縮発現能力に問題があった。
【0009】
また、特公昭43−19108号公報にはポリトリメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートを利用したサイドバイサイド型複合糸が記載されている。本特公記載の方法を用いれば適度なストレッチ性を与えることができるが、単繊維間の捲縮が会合し合う傾向が強いためにコイル捲縮による収縮力に異方性をもち、そのため楊柳状のシボが発現する。また、本発明者らが追試を行ったところ、紡糸速度が低いことに起因すると思われる糸斑により染色斑が発生し、品位が悪いという問題も判明した。この問題は、これらのサイドバイサイド複合糸は、捲縮を発現する染色工程において満足する捲縮を発現させるための温度が常圧の範囲を超える高温・高圧条件が必要があることや拡布状での捲縮発現が難しく、例えば、ロ−プ状で液流のアクションで捲縮を発現させる必要があったため羊毛や獣毛混布帛の加工にはふむきであった。羊毛や獣毛繊維を使用した織物の通常一般的な染色方式において精練・リラックス工程が合繊と異なる先絨、煮絨、縮絨といった長年の技術において行われており、これらの工程を組み込む必要が時としてあることから合繊混用には大きな問題であった。
【特許文献1】特公昭44−2504号公報
【特許文献2】特開平4−308271号公報
【特許文献3】特開平5−295634号公報
【特許文献4】特公昭43−19108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維混用で問題となる染料汚染がなく、従来のポリエステル系潜在捲縮性繊維や仮撚加工糸で問題となっている常温・常圧染色条件下での織物拘束に抗して捲縮発現能力を発揮し、ストレッチ性に優れるとともに、ノントルク性であるためシボが発生しにくく、しかも染色加工時のしわ発生や染め斑発生の少ない拡布状でのリラックス熱処理が可能であり、高品位の布帛を得ることができるポリエステル系複合糸と羊毛繊維や獣毛繊維との複合布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するため本発明は、次の構成を採用する。すなわち、
(1)2種類以上のポリエステル系重合体からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルから構成され、収縮と三次元捲縮を発現し、熱処理前の伸縮伸長率が10〜40%である半顕在化捲縮嵩高性ポリエステル系複合糸と、羊毛繊維および/または獣毛繊維とを含むことを特徴とする複合布帛。
(2)前記半顕在化捲縮嵩高性ポリエステル複合糸が、90℃×20分熱処理後の伸縮伸長率が30%以上80%以下であり、かつ伸縮弾性率が85%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の複合布帛。
(3)前記ポリエステル系複合糸が、撚係数Kが0〜20,000の無撚または加撚が施されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の複合布帛。
【0012】
ただし、撚係数K=T×D0.5
T:糸長1m当たりの撚数、
D:糸条の繊度(dtex)
(4)前記ポリエステル系複合糸と羊毛繊維および/または獣毛繊維とが複合繊維束に形成されており、該複合繊維束の90℃×20分熱処理後の伸縮伸長率が10〜60%であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合布帛。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル系複合糸を用いることにより、嵩高性と優れた捲縮発現能力により羊毛繊維や獣毛繊維との複合により、交織や合撚糸使いで複合布帛にしたとき、製織後の生機に複合糸間の空隙があるため、繊維間拘束力が小さく、染色工程で潜在捲縮発現性が優れるため、潜在捲縮発現型コンジュゲート糸に比較してふくらみのあるソフトタッチで優れたストレッチ性を与えるとともに、ノントルクであるため、無撚〜甘撚でも楊柳調のシボが発現しにくく、ポリウレタン混用で問題となる染料汚染がなく、高品位な布帛を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用するポリエステル系複合糸を構成する複合繊維は、紡糸・延伸した繊維に3次元形態のコイル状の捲縮を発現した、さらに、熱処理によって3次元捲縮を発現する能力を有するものであり、粘度の異なる2種類以上のポリエステル系重合体が繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型、偏心芯鞘複合型、または多層構造複合型に貼り合わされたものなどであり、良好な捲縮特性を得るためにサイドバイサイド型または偏心芯鞘複合型が好ましい。
【0015】
粘度が異なる重合体を前記複合形態にすることによって、紡糸、延伸時に高粘度側に応力が集中するため、各成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および布帛の熱処理工程での熱収縮率差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差と熱収縮率差を足し合わせた値)によって決まるといってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。
【0016】
ストレッチ素材として要求されるコイル捲縮は、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多い(伸長特性に優れ、見映えが良い)、コイルの耐へたり性が良い(伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れる)、さらにはコイルの伸長回復時におけるヒステリシスロスが小さい(弾発性に優れ、フィット感がよい)などである。これらの要求を満足しつつ、ポリエステルとしての特性、例えば適度な張り腰、ドレープ性、高染色堅牢性を有することで、トータルバランスに優れたストレッチ素材とすることができる。
【0017】
ここで、前記のコイル特性を満足するためには高収縮成分(高粘度成分)の特性が重要となる。コイルの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分に用いる重合体には特に高い伸長性および回復性が要求される。
【0018】
そこで、本発明者らはポリエステルの特性を損なうことなく前記特性を満足させるために鋭意検討した結果、高収縮成分にポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略記する)を主体としたポリエステルを用いることを見出した。PTT繊維は、代表的なポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート(以下PETと略記する)やポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略記する)繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性が極めて優れている。これは、PTTの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシュ−ゴーシュの構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えている。
【0019】
また、本発明の低収縮成分(低粘度成分)には高収縮成分であるPTTとの界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではない。ただし、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、繊維形成能のあるPTT、PET、PBTが好ましい。さらに高収縮成分(高粘度成分)、低収縮成分(低粘度成分)ともにPTTとし、融点、ガラス転移点を合わせることで、紡糸工程でより高粘度成分に応力集中させることができ、収縮率差を大きくできる点で、PTTがより好ましい。また、両成分をPTTとすることで繊維のヤング率を低くできるので、よりソフトで弾発性に優れた捲縮糸が得られるという利点もある。また、前記2成分よりもアルカリ減量速度の速い繊維形成性ポリエステルを第3成分として複合させることで、布帛とした後にアリカリ減量処理して特殊断面形状としてもよい。
【0020】
なお、本発明でいう粘度とは固有粘度(IV)を指し、オルソクロロフェノール中に試料を溶かして測定した値である。
【0021】
また、2成分としたときの複合比率は製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の点で、高収縮成分:低収縮成分=75:25〜35:65(重量%)の範囲が好ましく、65:35〜45:55の範囲がより好ましい。
【0022】
ここで、本発明のPTTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%、より好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合の形成が可能な共重合成分を含むものであってもよい。共重合可能な化合物として、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0023】
また、布帛拘束力に打ち勝って、安定的にコイル捲縮を発現させるためには、収縮応力および収縮応力の極大を示す温度が重要な特性となる。収縮応力は高いほど布帛拘束下での捲縮発現性がよく、収縮応力の極大を示す温度が高いほど仕上げ工程での取り扱いが容易となる。したがって、布帛の熱処理工程で捲縮発現性を高めるには、収縮応力の極大を示す温度は110℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上であり、収縮応力の極大値は0.15cN/dtex以上、好ましくは0.20cN/dtex以上、より好ましくは0.25cN/dtex以上である。
【0024】
また、本発明に使用するポリエステル系複合糸は、さらに好ましい様態としては紡糸・延伸した原糸の形状が布帛を製造する工程に供するため、巻き形態から解舒された時点で応力緩和による3次元捲縮が発現し、応力緩和によっていわゆる半顕在化し、あたかも仮撚り加工を施したごとく、3次元捲縮形態を構成する複合繊維間で捲縮位相がずれており、複合糸の嵩高度が高いものが望ましい。嵩高度を高くすることによって本発明の目的である適度なふくらみを与えるとともに、ソフトで反発感のある布帛とすることができる。さらには捲縮位相のずれがコイル捲縮によるトルクの分散効果を高め、無撚〜甘撚においても楊柳調のシボ立ちがほとんどなく、高品位な布帛とすることができる。また、無撚〜甘撚での加工を可能にすることによって、透け感がない織物とすることができる。前記の効果は嵩高度30cc/g以上で達成されるが、好ましくは40cc/g以上、より好ましくは50cc/g以上である。ちなみに、特公昭44−2504号公報記載のような固有粘度差のあるPET系複合糸、あるいは特開平5−295634号公報記載のようなホモPETと高収縮性共重合PETとの組み合わせでの複合糸の嵩高度は高々10cc/g程度であり、特公昭43−19108号公報の複合糸の嵩高度は20cc/g程度である。
【0025】
また、本発明のポリエステル系複合糸は、JIS L 1090(合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法)5.7項C法(簡便法)に示す伸縮伸長率が30%以上であり、かつ伸縮弾性率が85%以上であることが好ましい。従来は、特開平6−322661号公報等に記載されているように、潜在捲縮発現性ポリエステル繊維を荷重フリーに近い状態で熱処理し、そこでの伸縮伸長率を規定していたが、これでは布帛拘束下での伸縮特性を必ずしも反映しているとはいえない。
【0026】
そこで、布帛拘束下での捲縮発現能力が重要であることに着目し、図1に示す方法にて熱処理を行い、以下に示す式にて伸縮伸長率および伸縮弾性率を定義した。
【0027】
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
伸縮弾性率(%)=[(L1−L2)/(L1−L0)]×100%
L0:繊維カセに1.8×10−3cN/dtex荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、1昼夜風乾した後のカセ長
L1:L0測定後、L0測定荷重を取り除いて90×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
L2:L1測定後、L1測定荷重を取り除いて2分間放置し、再び1.8×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
すなわち、布帛内での拘束力に相当する1.8×10−3cN/dtexと同じ荷重を繊維カセに吊して熱処理することで、布帛拘束下での捲縮発現能力を繊維カセの伸縮伸長率で表せるとした。この伸縮伸長率が高いほど捲縮発現能力が高いことを示しており、30%以上であれば適度なストレッチ特性を与えることができるので好ましい。当該熱処理後の伸縮伸長率は高いほど布帛にしたときのストレッチ性能が向上し、50%以上、80%以下が好ましい。
【0028】
なお、特公昭44−2504号公報記載のような固有粘度差のあるPET系複合糸、あるいは特開平5−295634号公報記載のようなホモPETと高収縮性共重合PETとの組み合わせでの複合糸では伸縮伸長率は高々5%程度である。
【0029】
また、コイル捲縮の伸縮によってストレッチ性を付与する場合、その捲縮の耐久性も重要な要素のひとつとなり、指標として伸縮弾性率が参考となる。伸縮弾性率は高いほど着用耐久性やフィット感に優れることを示し、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【0030】
また、本発明のポリエステル系複合糸は、上記の如く原糸段階で使用するポリマーの特性と繊維製造工程での条件により可能にする紡糸・延伸し、布帛の工程に使用する原糸を巻き形状の拘束力から解舒されたときに応力緩和によって発現し半顕在化捲縮する複合糸であればさらに良く、その発現する捲縮の程度を熱処理前の捲縮伸長率で表す。この熱処理前に半顕在化捲縮を有することは、複合布帛において染色工程での熱処理を実施する前の生機を構成する複合糸に捲縮が半顕在化した状態で存在することによって、布帛の拘束力を弱めて染色工程の熱処理で収縮応力による捲縮発現を大きく助長する役割をする極めて重要な要素である。そして、染色により潜在捲縮を発現することにより、従来の潜在型捲縮糸では不可能であったふくらみ、ストレッチ性等に優れた布帛を提供することが可能になった。特に、羊毛や獣毛繊維のように先絨や煮絨工程での繊維のスケールによって収縮するばあいや、セルロース系繊維のように湿潤時に水分を吸わない繊維に比較して膨潤等により繊維拘束性が大きいことや強度が低く毛羽やしわになり易いなど染色加工工程での布帛に対するアクションが過度にできないなど問題のある複合布帛に相性がよい。
【0031】
この熱処理前捲縮伸長率は、図2に示す方法にて示す熱処理を行って測定する捲縮伸長率の測定方法において、
以下に示す式にて伸縮伸長率を定義した。
【0032】
熱処理前伸縮伸長率(%)=[(L1−L2)/L2]×100%
L1:測定荷重90×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
L2:L1測定後、L1測定荷重を取り除いて2分間放置し、再び1.8×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
従来のPET/PET系コンジュゲート複合繊維では、この熱処理前の伸縮伸長率は、当該測定方法ではゼロである。すなわち、紡糸・延伸後の原糸の捲縮形態に緩やかな3次元捲縮状はあっても、見かけの形態であって真の顕在性の捲縮ではなく、捲縮は熱処理によって発現する潜在捲縮性である。
【0033】
また、本発明のポリエステル系複合繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、偏平断面、中空断面、X型断面その他公知の異形断面であってもよく、何等限定されるものではないが、捲縮発現性と風合いのバランスから、図3に示すような半円状サイドバイサイド型(a)、(b)、偏心芯鞘型(c)、(d)や軽量、保温を狙った中空サイドバイサイド(e)、ドライ風合いを狙った扁平断面サイドバイサイド(f)、(g)や三角断面サイドバイサイド(h)等、サイドバイサイド型または偏心芯鞘型が好ましく用いられる。特に、さらに好ましい様態とされる原糸形態が紡糸・延伸した原糸の形状が布帛を製造する工程に供するため、巻き形態から解舒された時点で応力緩和による3次元捲縮が発現し、応力緩和によっていわゆる半顕在化し、あたかも仮撚り加工を施したごとく、3次元捲縮形態を構成する複合繊維間で捲縮位相がずれており、複合糸の嵩高度が高いものが望ましいとされるものは上記の断面形状が(b)、(f)、(g)や(h)である。
【0034】
次に、本発明のポリエステル系複合糸を使用する複合布帛の様態に関し説明する。
【0035】
本発明のポリエステル系複合糸は無撚〜甘撚で織物にしてもシボ立ちが少なく、織物表面をフラットに仕上げることが可能である。当該ポリエステル系複合糸は、通常の織物ではタテ糸および/またはヨコ糸に使用し、従来のポリエステル潜在捲縮型複合繊維で使用されてきた条件より甘い領域で織物の生機設計し、染色加工条件において比較的制約がなく、またシボの発現がなく、ストレッチ性に優れた布帛を得ることができる。
また、本発明で対象とする羊毛繊維はメリノウール種を代表する通常一般的に使用される羊毛であり、獣毛繊維はカシミヤ、アンゴラ、モヘヤ、アルパカ、ビキューレ等特に制限はない。
【0036】
編物においては、ヨコ編・丸編・タテ編に制限なく使用される。この場合、従来のポリエステル潜在捲縮型複合繊維に比較し、生機での密度の範囲を広く設定できる。特に、原糸が半顕在化捲縮を有する性能であれば構成する原糸間は発現した半顕在捲縮による構造的な空隙構造により、生機密度が甘い領域で染色加工におけるリラックス処理によって潜在捲縮の発現が容易であり、幅方向、長さ方向の収縮時に捲縮発現力が容易なため立体的に構造収縮がし易く十分に密度の入ったものとなる。また、生機密度が込んで詰まったものにおいては、構成する原糸間に半顕在化捲縮による繊維間空隙のため、染色加工の熱処理においてリラックスによる潜在捲縮の発現力を大きくすることができ、従来のポリエステル潜在捲縮型複合繊維を使用した場合に比較して、染色加工後の密度を高密度にでき、コンパクトな表面が得られ、さらにストレッチ性も大きくできる利点がある。
【0037】
使用するポリエステル系複合糸の特性として、潜在捲縮発現能である熱処理後の伸縮伸長率が30%以上80%以下であることが好ましい。この特性が30%未満であると染色工程のリラックス工程で十分に捲縮が発現しないので、ふくらみやストレッチ性が満足な領域を実現せず、80%を越えると逆に風合いが硬く、ストレッチ性やその弾性率が低下する。また、好ましくは、前記潜在捲縮発現性に加え半顕在化捲縮性であればさらに好ましく、その熱処理前伸長率は10〜40%がよい。これらの繊維特性を満足することによって無撚の領域で使用する複合布帛用に広く対応できる。
【0038】
複合布帛としては、まず織物ではタテ糸あるいはヨコ糸が羊毛繊維および/または獣毛繊維を使用した紡績糸に当該ポリエステル系複合糸をヨコ糸あるいはタテ糸として組み合わせで使用する。この場合使用する羊毛繊維および/または獣毛繊維を使用した紡績糸に特に限定される要素は少なない。羊毛繊維や獣毛繊維を使用した紡績糸は、通常の梳毛紡績や紡毛紡績方式で得られる羊毛100%、羊毛と獣毛の混紡糸が使用でき、さらにはこれらのほかに綿、麻、絹の天然繊維やビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、精製レーヨン(テンセル)さらにはアクリル、ナイロン、ポリエステル等を少量含むものであっても構わない。これらの紡績糸は単糸でも双糸でも差し支えない。また、羊毛や獣毛を含む粗糸を紡績工程の精紡工程で供給する際、他の原糸を精紡機のフロントローラに供給する一般的に精紡合撚で得られる複合糸であっても良い。さらに、羊毛および/または獣毛からなる紡績糸を使用し、撚糸機等で交撚や合撚、カバリング方式などの複合手段で作られた複合糸であっても良い。これらの羊毛および/または獣毛を含む原糸は、布帛にしてガーンメントに適用される衣料分野に適する布帛の目付にあった太さであれば特に制限されるものではない。通常、紡績糸羊毛や獣毛は原毛を使用した生成が一般的に使用されるが、バラ毛染めやトップ染めを使用した紡績糸でも良く、カセ染めやチーズ染めの紡績糸であっても良く、それに対しポリエステル系複合糸もカセ染め、マフ染めやチーズ染めを行った先染糸を使用しても良い。
【0039】
また、編物においても交編、配列編成による限定要素は少ない。一方当該ポリエステル系複合糸は無撚で使用することができる。また、追撚を実施して複合布帛に供する場合における撚数は、S方向、Z方向いずれの撚り方向でも良く、ポリエステル系複合糸単独で撚糸する場合は、撚係数K=T×D0.5(ただし、T:糸長1m当たりの撚数、D:糸条の繊度(dtex))において撚係数Kが0〜20,000の無撚または加撚が施されていることが好ましい。撚係数Kの上限範囲は20,000が好ましく、羊毛繊維および/または獣毛繊維との精紡合撚や複合撚糸の場合はそれより若干低い目の15,000〜18,000を上限範囲とすることが好ましい。また、この羊毛繊維および/または獣毛繊維との複合撚糸の場合、前記の熱処理後の伸縮伸長率が10〜60%の範囲にあるとき、複合布帛でふくらみ、ストレッチ性の満足できる領域にある。
【0040】
本発明の複合布帛は、薄地分野から厚地分野の広範囲であるため、シャツ、ブラウス、パンツ、スーツ、ブルゾン等に好適に用いることができる。
【0041】
次に、本発明のポリエステル系複合糸と羊毛繊維および/または獣毛繊維の複合布帛の好ましい製法を説明する。
【0042】
使用するポリエステル系複合糸は、2種類以上のポリエステル系重合体の一方にPTTを主体としたポリエステルAを配し、他方に繊維形成能を有するポリエステルBを配し、紡糸口金吐出孔上部で合流させ、サイドバイサイド複合流や偏心芯鞘複合流を形成させた後、所望の断面形状を得るための吐出孔から吐出させる。吐出された糸条は冷却され、固化した後、一旦巻き取ってから延伸する2工程法によって製造してもよいし、紡糸引取り後、そのまま延伸する直接紡糸延伸法によって製造したものであってもよい。また、本発明のさらに好ましい様態としての半顕在化捲縮嵩高性を付与するためには、単繊維ごとにコイル捲縮の位相をずらして単繊維間空隙を高めることが重要である。そのための手段として、PTTの高い弾性回復応力を利用する方法が好ましい。本発明の複合糸は、延伸直後の弾性回復応力により比較的高い張力下でも捲縮を発現させることが可能である。延伸機の各ホットロール間で延伸後に3〜15%のリラックス処理を行い糸条張力を下げることで、捲縮の発現とともに糸条の開繊が生じ、捲縮位相がずれて巻き形態の拘束力から自由な状態になった時点で応力緩和により捲縮の発現が起こり半顕在化し嵩高な形態となる。
【0043】
次に、羊毛繊維および/または獣毛繊維との複合化は、織編物いずれにも適用できる。織物では、タテ糸またはヨコ糸いずれでも良く、交撚や合撚、混繊等で複合された糸状の場合、タテ・ヨコ両方に使用しても構わない。通常生産されている羊毛繊維100%紡績糸、獣毛繊維との混紡糸あるいは羊毛繊維、獣毛繊維その他の天然繊維、化学繊維との複合紡績糸のタテ糸にポリエステル系複合糸をヨコ糸として無撚あるいは撚を施して使用しても構わない。羊毛繊維や獣毛繊維混紡糸と当該複合糸を精紡合撚、撚糸交撚(合撚)、混繊加工して複合布帛に適用することができる。この複合化においては、交撚や合撚の場合、半顕在化捲縮糸であれば捲縮がたるみがなく製織工程での通過性に問題ない複合糸形態にするために、石川製作所製等の通常延伸機として開発され複合撚糸用に改良されたDTF型のようなリング方式の撚糸機を使用し、複合するポリエステル系複合繊維の半顕在化捲縮を伸長することなく羊毛や獣毛繊維紡績糸と引き揃えて甘よりを加えて複合することが最大のポイントである。また、合撚の場合羊毛、獣毛繊維の紡績における精紡工程で当該ポリエステル系複合繊維と同時精紡する方法であることが特に推奨される。
【0044】
この引き揃え交撚、合撚条件が良くないと、複合によるそれぞれの特徴が活かされない。ポリエステル系複合糸を単独で配列・交織や交編の方法で複合布帛とする場合は、無撚〜中撚の場合の撚り係数はK=20,000を上限として行う。また、ポリエステル系複合繊維と羊毛繊維および/または獣毛繊維紡績糸を引き揃えて撚糸する場合の複合撚糸の撚数は、撚係数K=15、000を上限とすることが好ましい。
【0045】
撚糸の場合は、工程通過性面から撚り止めセットを実施するものであり、撚数レベルで異なるが、ポリエステル系複合糸の潜在する捲縮発現がリラックス熱処理、染色加工工程で十分に発揮させるため70℃以下が好ましい。
【0046】
次に、製織・編成においては、これらの原糸、複合交撚糸は織物の設計目的により、配列、組織等自由に構成を選べばよい。この複合布帛で使用する原糸の特徴を表現するためには、羊毛繊維や獣毛繊維が布帛の表面にでる比率を多くした方が風合い、外観的によい方向にあり、その比率は重量%で綿繊維20〜80%、ポリエステル系複合繊維80〜20%が好ましい。さらに好ましくはPPT複合率は35〜65%、また、編物においては、丸編での交編、タテ編での配列、ヨコ糸挿入いずれでも対応でき、混用比率は織物に準じたもので良い。
【0047】
次に、複合布帛の染色加工条件に関し重要な要件を列挙する。
【0048】
複合布帛の構成要件であるポリエステル系複合糸と羊毛繊維および/または獣毛繊維の複合布帛の染色加工工程においては、工程と処理温度条件が重要である。最大のポイントは、複合布帛にシボの発現としわの発生を抑え、ポリエステル系複合繊維が持つ潜在捲縮能力を十分に引き出すことが重要である。そのため、設備としては従来から羊毛繊維、獣毛繊維の染色設備および工程条件により行うことが好ましい。合成繊維の染色加工設備や条件では羊毛繊維や獣毛繊維の風合いを活かすには限度がある。合成繊維の染色加工設備を使用するのであれば、リラックス工程は、拡布状で行えるソフサーやオープンソーパータイプのマシンにより、処理液層が多段階の温度条件で行えるスペックが好ましい。その温度は、好ましくはリラックス温度は60℃以下からスタートし、常圧の温度98℃範囲で十分である。本発明のポリエステル系複合糸は当該条件で十分潜在捲縮発現し布帛に伸縮性を付与できるのが最大の特徴である。従来のPET/PET系バイメタル等のコンジュゲートの潜在捲縮発現は、沸騰水でのリラックス処理では捲縮発現が難しく、高圧温度領域の籾効果を与えて初めて可能であった。そのため、羊毛繊維や獣毛繊維は温度が高く脆化してしまい風合いや光沢などの特徴を発揮することが出来なかった。
【0049】
羊毛や獣毛繊維の布帛の染色加工における設備と染色加工条件であれば、羊毛繊維や獣毛繊維の風合いや外観、物理特性を変化することがないので、複合するポリエステル系複合糸の性能が発揮される条件を設定すればよい。ここで条件の設定において当該ポリエステル系複合糸は伸縮性を得るための潜在捲縮能は100℃以下の常温・常圧で十分発揮できるが、染色は105℃以上の高圧にする必要があるため、脆化を防ぐ助剤の併用が必要である。染色は従来ポリエステルの130℃まで昇温は必要でなく120℃以下で実施する。伸縮性を付与するために、染色工程に入る前に先絨工程や煮絨、縮絨工程でリラクッスし行う。
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0051】
A.固有粘度
オルソクロロフェノール(以下OCPと略記する)10ml中に試料ポリマを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、IVを算出した。
【0052】
ηr=η/η0=(t×d)/(t0 ×d0
IV=0.0242ηr+0.2634
ここで、η:ポリマ溶液の粘度、
η0 :OCPの粘度、
t:溶液の落下時間(秒)、
d:溶液の密度(g/cm3)、
0:OCPの落下時間(秒)、
0:OCPの密度(g/cm3)。
【0053】
B.収縮応力
カネボウエンジニアリング(株)社製熱応力測定器で、昇温速度150℃/分で測定した。サンプルは10cm×2のループとし、初期張力は繊度(dtex)×0.9×(1/30)gfとした。
【0054】
C.嵩高度
図4は嵩高度Mを測定する装置の正面図であり、図5はこの装置による測定方法を説明するための側面図である。試料台1の上面に2本の切り込み6を設け、その外側縁部間の間隔を6mmとし、この切り込みに巾2.5cmのPETフィルム2を掛け渡し、その下に指針付き金具3及び荷重4を結合する。金具3の指針は、試料を装着しない場合に目盛5のゼロ位を示すようにセットする。
【0055】
試料は周長1mの検尺機を用いて表示繊度50,000dtex、糸長50cmになるようにする(例えば50dtexの糸ならば50,000÷50÷2=500なので、500mの糸を検 尺機で500回巻して表示繊度50,000dtexのカセを作る)。次いで得られたカセ7を図4の正面図及び図5の側面図に示すようにPETフィルム2と試料台1との間に差し入れ、縮んでいる試料を引っ張り、カセ長25cmになるようにカセ7を固定する。荷重4は指針付き金具3と合計して50gになるようにし、指針の示すL(cm)を読みとる。測定は3回行い、平均のL値から次式によって嵩高度Mを算出する。
【0056】
M(cc/g)=フィルム中の体積V/フィルム中の糸重量W
V(cc)=L2 /π×2.5
W(g)=50000×(0.5/0.25)×(0.025/10000)=0.25
D.伸縮伸長率、伸縮弾性率
JIS L1090(合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法)、5.7項C法 (簡便法)に従い、図1に示す方法にて熱処理を行い、以下に示す式にて伸縮 伸長率および伸縮弾性率を定義した。
【0057】
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100%
伸縮弾性率(%)=[(L1−L2)/(L1−L0)]×100%
L0:繊維カセに1.8×10−3cN/dtex荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、1昼夜風乾した後のカセ長
L1:L0 測定後、L0測定荷重を取り除いて90×10-3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
L2:L1測定後、L1測定荷重を取り除いて2分間放置し、再び1.8×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長。
【0058】
E.熱処理前の伸縮伸長率
JIS L1090(合成繊維フィラメントかさ高加工糸試験方法)、5.7項C法(簡便法)に準じカセ取りを行い、図2に示す測定方法において、以下に示す式にて伸縮伸長率を定義した。
【0059】
熱処理前伸縮伸長率(%)=[(L2−L1)/L1]×100
L1:測定荷重1.8×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
L2:L1測定後、L1測定荷重を取り除き90×10−3cN/dtex荷重を吊して30秒後のカセ長
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0060】
実施例1
タテ糸に羊毛100%紡績糸16.8テックス/2(英国式梳毛番手番手2/60)を整経し、レピア織機に仕掛けた。ヨコ糸にポリエステル系複合糸を使用し織物を試作した。ポリエステル系複合糸は次により製造を行った。艶消し剤として酸化チタンを0.35重量%含有した固有粘度(IV)が1.38(溶融粘度1280poise)のホモPTTと、酸化チタンを0.35重量%含有した固有粘度(IV)が0.65(溶融粘度260poise)のホモPTTをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で36孔の複合紡糸口金から複合比(重量%)50:50で吐出し、紡糸速度1400m/分で引取り、179dtex、24フィラメントのサイドバイサイド型複合構造未延伸糸(繊維断面は図2a)を得た。該未延伸糸の最大延伸倍率は4.6倍であった。さらに未延伸糸を環境温度25℃×2日間エージングした後、延伸機を用い、第1ホットロール温度70℃、鏡面仕上げ(表面粗度0.8S)の第2ホットロール温度35℃、第1ホットロールと第2ホットロール間延伸倍率3.2倍(最大延伸倍率の70%)で延伸、さらに第3ホットロール温度170℃で第2ホットロールと第3ホットロール間のリラックス率13%とし、第3ホットロールとドローロールの間で1.02倍に延伸し、約56dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。なお、リラックス処理ゾーンの糸条張力は0.01cN/dtexであった。紡糸、延伸とも製糸性は良好であり、糸切れは発生しなかった。当該原糸は熱セット前の伸縮伸長率が30.8%の半顕在化捲縮により捲縮の位相がズレ、優れた嵩高性および伸縮特性を示した。また熱処理伸縮伸長率は63.9%であった。当該試作糸を無撚で平組織に打ち込み、生機巾170cm(経密度45本/2.5cm、緯密度85本/2.5cm))の生機をつくり、羊毛織物の一般工程で染色加工をおこなった。拡布状で洗絨機を通し80℃、3分間で精練・リラックス処理し、95℃の煮絨あがりで巾130cm、ヨコ密度80本/2.5cmであった。
【0061】
次に乾燥後、テンターでプレセットを行い、液流染色で温度100℃酸性染料で染色を行い、160℃仕上げセットし、セミデカで蒸絨仕上げをおこなった。幅125cm、ヨコ密度95本/2.5cmの複合布帛を得た。布帛の表面はフラットでシボの発生がなく、羊毛の上品な光沢と発色性に優れ、ヨコ方向の捲縮発現により幅が大きく入ったため、経糸密度のコンパクトで従来梳毛綿織物とひと味異なる高質感を有するものであった。巾方向に簡易方法で25%のスパンデックスのカバーリング糸を使用したような、従来のポリエステル(PET系)ではなかったソフトストレッチ性を有し、ソフトでふくらみのある風合いのものであった。L1096B法によるヨコ方向の伸長率が27%、伸長回復率1時間後88%であった。
【0062】
実施例2
実施例1のタテ糸を用い、ヨコ糸としてPPT/PETバイメタルコンジュゲート糸56dtex、24フィラメント2本引き揃えて1,000T/m(撚り係数10,580)のS方向追撚を行い、70℃湿熱で30分間の真空セットによる撚り止めをし、平織物を試作した。生機幅は、175cm、密度(タテ糸43本/2.5cm、ヨコ糸65本/2.5cm)であった。当該生機を実施例1と同様の羊毛織物工程で洗絨、煮絨工程のあと染色(100℃)、セミデカ工程を通し仕上げた。仕上げ幅135cm、タテ糸密度56本/2.5cm、ヨコ糸密度81本/2.5cmであった。仕上がった織物は実施例1と比較し、双糸に追撚しているためドレープ性のあるコンパクト表面感のソフトストレッチ織物であった。L1096B法によるヨコ方向に伸長率22.0%のストレッチ性を有し、1時間後の伸長回復率は92%で問題ないものであった。
【0063】
実施例3
実施例1の56dtex、24フィラメントのポリエステル系複合糸を羊毛100%紡績の精紡工程でフロントローラーから供給し、撚係数9,500で精紡合撚糸19.2テックス(英国式梳毛番手1/52)の試紡を行い、撚り止めセットは65℃30分の湿熱真空セット方式で行った。この複合精紡合撚糸は、熱処理による捲縮伸長率は17%であった。この合撚複合糸を使用し、メリノウール64Sクォリテーの原毛80%にカシミヤ山羊の原毛を20%混紡し28.4テックス/2(英国式梳毛番手2/48)のヨコ糸に使用し、カシミヤ組織3/2綾)で織物を試作した。生機性量は、幅190cm、密度(タテ60本/2.5cm、ヨコ57本/2.5cm)であった。この生機を通常の羊毛染色工程に投入した。リラックスは拡布状で洗絨機で精練と同時に行った後、その後煮絨を行い、引き続き、100℃で酸性染料染めを行い、160℃で乾熱仕上げセットを行い、幅130cm、ヨコ密度67本/2.5cmであげた。仕上がった複合布帛は表面にシボの少ない高級感のあるもので、ソウトなふくらみ感に優れたヨコ方向に簡便法で15%程度のソフトストレッチを有するものであった。
【0064】
比較例
従来のPET/PETのIV差(0.5/0.75)複合紡糸による潜在捲縮発現型バイメタルコンジュゲート糸56dtex、12フィラメント糸を使用し、実施例1に比較して複合布帛を作成した。使用した潜在捲縮発現型コンジュゲート糸は、熱処理による捲縮伸長率は45.1%を示すものであった。このコンジュゲートマルチフィラメント糸を実施例1と同条件で複合布帛生機を作成した。生機の性量は実施例1に比較して捲縮発現がないため幅は入らず1178cmと広くあがった。当該生機を実施例1と同条件で拡布状リラックスを行いリラックス幅は170cm、ヨコ密度は45本であった。100℃で染色を行い幅168cm、ヨコ密度本45/2.5cmで全く収縮しなかった。有り幅仕上げセット条件で複合布帛をあげた。仕上がり品はややシボがあり、実施例1に比べ染色性差による品位、また伸縮性がなくストレッチ性面で劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】伸縮伸長率、伸縮弾性率の測定方法を説明するための図である。
【図2】熱処理前の原糸に発現する半顕在捲縮を表す伸縮伸長率の測定方法を示す図である。
【図3】本発明の布帛を構成する繊維の繊維横断面形状の一例を示す図である。
【図4】嵩高度を測定するための装置の正面図である。
【図5】嵩高度の測定方法を示す側面図である。
【符号の説明】
【0066】
1:試料台
2:PETフィルム
3:指針付き金具
4:荷重
5:目盛
6:切り込み
7:カセ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリエステル系重合体からなり、少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートを主体としたポリエステルから構成され、収縮と三次元捲縮を発現し、熱処理前の伸縮伸長率が10〜40%である半顕在化捲縮嵩高性ポリエステル系複合糸と、羊毛繊維および/または獣毛繊維とを含むことを特徴とする複合布帛。
【請求項2】
前記半顕在化捲縮嵩高性ポリエステル複合糸が、90℃×20分熱処理後の伸縮伸長率が30%以上80%以下であり、かつ伸縮弾性率が85%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合布帛。
【請求項3】
前記ポリエステル系複合糸が、撚係数Kが0〜20,000の無撚または加撚が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合布帛。
ただし、撚係数K=T×D0.5
T:糸長1m当たりの撚数、
D:糸条の繊度(dtex)
【請求項4】
前記ポリエステル系複合糸と羊毛繊維および/または獣毛繊維とが複合繊維束に形成されており、該複合繊維束の90℃×20分熱処理後の伸縮伸長率が10〜60%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−257632(P2006−257632A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145029(P2006−145029)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【分割の表示】特願2001−295898(P2001−295898)の分割
【原出願日】平成13年9月27日(2001.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】