説明

複合成形体

【課題】耐衝撃性、耐候性および意匠性に優れた複合成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつ特定のヘイズ値の透明樹脂層を有する複合成形体であって、前記ノルボルネン系樹脂成形体と前記透明樹脂層とが、その接触界面において、直接接合していることを特徴とする複合成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつ特定のヘイズ値を有する透明樹脂層が形成された複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から反応射出成形(RIM)法により、ノルボルネン系モノマーおよびメタセシス触媒を含む反応液を金型内に注入し、塊状開環重合させることによりノルボルネン系樹脂からなる樹脂成形体を製造することが実用化されている。この反応射出成形に用いられる反応液は、通常、2以上の反応原液を衝突混合装置などで瞬間的に混合して得られる。このような反応原液は、1液のみでは塊状重合しないが、全ての液を混合すると、各成分を所定の割合で含む反応液となり、ノルボルネン系モノマーが塊状重合するものである。
【0003】
このようなRIM法で得られる樹脂成形体は、たとえば、天井や壁パネル、キッチンカウンター、洗面ボウル等の住宅設備資材分野などで用いられるが、このような用途に用いる場合には、剛性に優れていることが求められる。これに対して、RIM法で得られる樹脂成形体を高剛性にするために、反応液に各種の充填材を添加して成形する方法が知られており、たとえば、特許文献1では、充填材として炭酸カルシウムを用いて、高剛性の樹脂成形体を得ている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂成形体は、耐候性に劣るため、経時的に色が劣化してしまうという問題があった。特に、上述した住宅設備資材分野においては、剛性に優れていることに加え、意匠性に優れていることも求められるため、耐候性の向上による、経時的な色の劣化の防止が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−321597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、耐衝撃性、耐候性および意匠性に優れた複合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつ特定のヘイズ値を有する透明樹脂層を有する複合成形体において、ノルボルネン系樹脂成形体と透明樹脂層とを、その接触界面において、直接接合させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を有する複合成形体であって、前記ノルボルネン系樹脂成形体と前記透明樹脂層とが、その接触界面において、直接接合していることを特徴とする複合成形体が提供される。
【0009】
本発明の複合成形体は、前記透明樹脂層の厚みが、0.01〜7mmであることが好ましい。
本発明の複合成形体は、前記ノルボルネン系樹脂成形体を金型内に配置し、該金型内に、前記透明樹脂層を形成することとなる透明樹脂層用組成物を注入し、注入した前記透明樹脂層用組成物を反応硬化させることにより製造されるものであることが好ましい。
本発明の複合成形体においては、前記透明樹脂層が、不飽和ポリエステル、重合性化合物および有機過酸化物重合開始剤を含有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合成形体によれば、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を形成しているため、優れた意匠性を有する成形体を提供することができる。しかも、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とを、その接触界面において、直接接合させることにより、意匠性に加え、耐衝撃性および耐候性に優れた複合成形体を提供することができる。そして、このような本発明の複合成形体は、特に優れた意匠性が要求される用途に好適に用いることができる。また、これに加えて、本発明の複合成形体は、意匠性および耐候性に優れているため、塗装やめっきを施す必要もなく、塗装工程やめっき工程を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の複合成形体は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を有し、前記ノルボルネン系樹脂成形体と前記透明樹脂層とが、その接触界面において、直接接合してなるものである。
【0012】
ノルボルネン系樹脂成形体
まず、本発明のノルボルネン系樹脂成形体について説明する。本発明のノルボルネン系樹脂成形体は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させることにより得られるものである。
【0013】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環構造を有する化合物であれば良く、特に限定はされないが、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等を挙げることができる。
これらのノルボルネン系モノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;エチリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール等の置換基を有していてもよく、さらに、これらのノルボルネン系モノマーは、エステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0014】
このようなノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、エチレンビス(5−ノルボルネン)等が挙げられる。
ノルボルネン系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記ノルボルネン系モノマーのうち、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる成形体を耐熱性に優れたものとすることができる点から、三環体、四環体または五環体のノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0016】
また、塊状重合により生成する開環重合体が熱硬化型となることが好ましく、そのためには、上記ノルボルネン系モノマーの中でも、対称性のシクロペンタジエン三量体等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを少なくとも含むものを用いることが好ましい。このような架橋性モノマーの割合は、全ノルボルネン系モノマー中に、2〜30重量%であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、ノルボルネン系モノマーと開環共重合し得るシクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、シクロドデセン等の単環シクロオレフィン等を、コモノマーとして用いてもよい。
【0018】
ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させる際には、ノルボルネン系モノマーに、重合触媒を加えた反応液を準備し、反応液を型内に注入し、これを塊状重合させることが一般的である。
【0019】
重合触媒としては、ノルボルネン系モノマーを開環重合することができる触媒であればよく、特に限定されないが、本発明では、メタセシス重合触媒が好ましい。
メタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5,6および8族(長周期型周期表、以下同様)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、たとえばタンタルが挙げられ、第6族の原子としては、たとえばモリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、たとえばルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0020】
第6族タングステンやモリブデンを中心金属とするメタセシス重合触媒としては、六塩化タングステン等の金属ハロゲン原子;タングステン塩素酸化物等の金属オキシハロゲン化物;酸化タングステン等の金属酸化物;トリドデシルアンモニウムモリブデートやトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート等の有機金属酸アンモニウム塩等を用いることができる。これらのなかでは、有機モリブデン酸アンモニウム塩が好ましい。
【0021】
本発明では、メタセシス重合触媒として、第5,6および8族の金属原子を中心金属とする金属カルベン錯体を用いることも好ましい。金属カルベン錯体の中では、第8族のルテニウムやオスミウムのカルベン錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムやオスミウムのカルベン錯体は、塊状重合時の触媒の活性が優れているため、これらを触媒として用いることにより、ノルボルネン系樹脂成形体の生産性を向上させることができ、しかも、得られるノルボルネン系樹脂成形体の、未反応のノルボルネン系モノマーに由来する臭気を少なくすることができる。
ルテニウムカルベン錯体のなかでは、少なくとも2つのカルベン炭素がルテニウム金属原子に結合しており、該カルベン炭素のうち少なくとも一つにはヘテロ原子を含む基が結合しているルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。
【0022】
メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用するモノマー1モルに対して、通常、0.01ミリモル以上であり、好ましくは0.1〜50ミリモル、より好ましくは0.1〜20ミリモルである。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪くなる。一方、使用量が多すぎると反応が激しすぎるため型内に十分に充填される前に硬化し易くなったり、触媒が析出し易くなり、均質に保存することが困難になる。
【0023】
このようなメタセシス重合触媒を用いる場合には、重合活性を制御する目的で、活性剤(共触媒)として有機アルミニウム化合物、有機亜鉛化合物、または有機スズ化合物を併用することが好ましい。
【0024】
このような活性剤としては、特に限定されないが、周期表第11〜14族の金属の有機金属化合物を挙げることができる。
周期表第11〜14族の金属の有機金属化合物としては、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、アルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;等が挙げられる。
【0025】
活性剤の使用量は、特に限定されないが、反応に使用するメタセシス重合触媒1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上であり、使用量の上限は、好ましくは100モル以下、より好ましくは20モル以下である。活性剤の使用量が少なすぎると、重合活性が低くなりすぎて、反応に要する時間が長くなるため生産効率が悪くなる。逆に、使用量が多すぎると、反応が激しくなり過ぎてしまい、型内に十分に充填される前に硬化してしまうことがある。ただし、メタセシス重合触媒として、ルテニウムカルベン錯体を用いる場合には、このような活性剤を用いても用いなくてもいずれでもよい。
活性剤は、モノマーに溶解して用いることが好ましいが、反応射出成形法により得られる成形体の性質を本質的に損なわない範囲であれば、少量の溶剤に懸濁させた上で、モノマーと混合することにより、析出しにくくしたり、溶解性を高めたりして用いてもよい。
【0026】
また、本発明で用いる反応液には、活性調節剤をさらに添加することが好ましい。活性調節剤は、後述するように反応液を、2つ以上の反応原液(たとえば、重合触媒のモノマー溶液および活性剤のモノマー溶液)に分け、これらを混合して金型に注入して重合が開始する際に、注入途中で重合が開始することを防止するためのものである。
【0027】
このような活性調節剤としては、エーテル、エステル、ニトリル等のルイス塩基、アルコール類、アセチレン類およびα−オレフィン類などが挙げられる。
ルイス塩基の具体例としては、ブチルエーテル、安息香酸エチル、ジグライム等が挙げられる。アルコール類の具体例としては、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2−クロロエタノール、1−クロロブタノールが挙げられる。アセチレン類の具体例としては、フェニルアセチレン等が挙げられる。α−オレフィンの具体例としては、ビニルノルボルネン等が挙げられる。
一方で共重合モノマーとして、極性基含有モノマーを用いる場合には、モノマー自体がルイス塩基であることがあり、この場合には、活性調節剤としても働くこともある。活性調節剤は、上述の活性剤等の活性化成分を含む溶液に添加するのが好ましい。
【0028】
また、本発明で用いる反応液には、モノマーの重合転化率を向上させるため、さらに重合促進剤を添加することが好ましい。重合促進剤としては、塩素原子含有化合物が好ましく、なかでも、有機塩素化合物および塩素化ケイ素化合物が好ましい。このような化合物としては、たとえば、2,4−ジクロロベンゾトリクロリド、ヘキサクロロ−p−キシレン、2,4−ジクロロ−トリクロロトルエン、四塩化ケイ素等を挙げることができる。
【0029】
上記活性調節剤および重合促進剤の添加量は、特に限定されないが、本発明に用いる反応液全体に対して、重量比で、10ppm〜10%程度である。
【0030】
本発明においては、ノルボルネン樹脂成形体が着色剤を含有していることが好ましい。着色剤としては、有機顔料、無機顔料、染料などが挙げられる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどのアゾ顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレット、ペリレンブラックなどのペリレン系顔料;イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料;等が例示できる。無機顔料としては、例えばベンガラ、チタンイェロー、チタンブラック、ケッチェンブラック、黒色酸化鉄、グラファイト、カーボンブラック、酸化チタン(白色顔料)、クロム酸銅、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。染料としては、例えばアンスラキノン系、カーボンブラック含有の黒色染料などが挙げられる。
着色剤の配合量としては、ノルボルネン樹脂成形体100重量部に対し、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部である。
【0031】
本発明で用いる反応液には、任意成分として、充填材を配合してもよい。充填材としては、種々の充填材を用いることができ、特に限定されないが、アスペクト比が5〜100の繊維状充填材およびアスペクト比が1〜2の粒子状充填材からなる無機充填材を用いることが好ましい。充填材のアスペクト比とは、充填材の平均長軸径と50%体積累積径との比をいう。ここで、平均長軸径は、光学顕微鏡写真で無作為に選んだ100個の充填材の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均長軸径である。 また、50%体積累積径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる値である。
【0032】
繊維状充填材と粒子状充填材との含有重量比率(繊維状充填材/粒子状充填材)は、好ましくは95/5〜55/45であり、より好ましくは80/20〜60/40である。これらの比率を上記範囲内とすることにより、剛性および寸法安定性に優れた成形体を得ることが、より容易に可能になる。
【0033】
上記繊維状充填材としては、5〜100のアスペクト比を有するものであることが好ましく、10〜50のアスペクト比を有するものであることがより好ましい。繊維状充填材の50%体積累積径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。50%体積累積径が小さすぎると、これを用いて得られる成形体の剛性や寸法安定性が不十分になる場合がある。逆に、50%体積累積径が大きすぎると、重合反応液を金型内に注入する際に、重合反応液がタンクや配管内で沈降したり、注入ノズルが詰まったりする場合がある。
【0034】
このような繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポッド型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、ウィスカー状炭酸カルシウム、ウィスカー状ベーマイト等を挙げることができる。中でも、塊状重合を阻害せず、得られる成形体の剛性を少ない使用量で高めることができるウォラストナイトおよびウィスカー状炭酸カルシウムが好ましい。
【0035】
また、上記粒子状充填材は、1〜2のアスペクト比を有するものであることが好ましく、1〜1.5のアスペクト比を有するものであることがより好ましい。粒子状充填材の50%体積累積径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜30μm、特に好ましくは1〜10μmである。50%体積累積径が小さすぎると、これを用いて得られる成形体の剛性や寸法安定性が不十分になる場合がある。逆に、50%体積累積径が大きすぎると、重合反応液を金型内に注入する際に、重合反応液がタンクや配管内で沈降したり、注入ノズルが詰まったりする場合がある。
【0036】
このような粒子状充填材の具体例としては、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。
【0037】
上記充填材は、その表面を疎水化処理したものであることが好ましい。疎水化処理した充填材を用いることにより、反応液中における充填材の凝集・沈降を防止でき、また、得られる成形体中の充填材の分散を均一にすることができる。そして、結果として、得られる成形体の剛性や寸法安定性を均一にでき、さらには、異方性を小さくすることができる。疎水化処理に用いられる処理剤としては、ビニルシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス等を挙げることができる。充填材の疎水化処理は、ノルボルネン系モノマー、重合触媒および充填材を含有してなる反応原液を調製する際に、疎水化処理剤を同時に混合することによっても可能であるが、予め疎水化処理を行なった充填材を用いて反応原液の調製を行なうことが好ましい。
【0038】
充填材の量は、ノルボルネン系モノマーおよび重合触媒の合計量100重量部に対して、好ましくは5〜55重量部、より好ましくは10〜45重量部である。充填材の量が多すぎると、反応液を金型内に注入する際にタンクや配管内で沈降したり、注入ノズルが詰まったりする場合がある。逆に、少なすぎると、充填材の添加効果が得難くなる。
【0039】
また、本発明で用いる反応液には、複合成形体とした場合における特性の改良または維持のために、上記以外の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、補強材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、エラストマー、ジシクロペンタジエン系熱重合樹脂およびその水添物、等を挙げることができる。
【0040】
特に、添加剤としてエラストマーを添加することにより、後述するように反応液を2つ以上の反応原液に分けた際における反応原液の粘度を調製し、得られる成形体の耐衝撃性を改良することができる。エラストマーとしては、たとえば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)およびこれらの水素化物を挙げることができる。
エラストマーの使用量は、ノルボルネン系モノマー100重量部に対し、通常、0.5〜20重量部、好ましくは2〜10重量部である。
【0041】
各種添加剤は、触媒や活性剤のモノマー溶液に添加して用いる方法;別途モノマー溶液として調製し、反応射出成形時に触媒や活性剤のモノマー溶液と混合する方法;予め型内に充填しておく方法;等により添加される。添加方法は、用いる添加剤の種類により適宜選定すればよい。
【0042】
ノルボルネン系モノマー、および重合触媒、ならびにその他必要に応じて添加される成分を含有してなる反応液を調製する方法は、特に限定されず、これらの成分を任意の方法で混合すればよいが、用いる重合触媒が活性剤(共触媒)を必要とするものであるか否かによって、たとえば、以下の2つの方法を挙げることができる。
【0043】
すなわち、用いる重合触媒が活性剤を必要としないものである場合には、ノルボルネン系モノマーを含有する反応原液(i)と、重合触媒を含有する反応原液(ii)とを調製し、これらを混合すればよい。ここで、重合触媒を含有する反応原液(ii)は、重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解または分散して調製することができる。
【0044】
一方、用いる重合触媒が活性剤を必要とするものである場合には、ノルボルネン系モノマーと重合触媒とを含有する反応原液(以下、「A液」ということがある。)と、ノルボルネン系モノマーと活性剤とを含有する反応原液(以下、「B液」ということがある。)とを調製し、これらを混合すればよい。この際に、ノルボルネン系モノマーのみからなる反応原液(以下、「C液」ということがある。)を併用してもよい。
【0045】
充填材を用いる場合には、上記のいずれの反応原液(「A液」、「B液」もしくは「C液」、または、反応原液(i)もしくは反応原液(ii))に配合してもよいが、ノルボルネン系モノマーを含有する反応原液に配合することが好ましい。繊維状充填材と粒子状充填材とを用いる場合には、これらは、それぞれ別個の反応原液に配合しても、両者を同一の反応原液に配合してもよいが、両者を同一の反応原液に配合する方法の方が好ましく、これにより、充填材の沈降が抑制され、反応液の保存安定性が良好になる。
【0046】
次いで、本発明で用いるノルボルネン系樹脂成形体の製造方法について説明する。本発明で用いるノルボルネン系樹脂成形体は、上述した反応液を、型内に注入し、型内で塊状重合させることにより得ることができる。
上述した反応液を型内で塊状重合させるために、たとえば、反応射出成形(RIM)装置として公知の衝突混合装置を用いることができる。
【0047】
そして、衝突混合装置に、2以上の反応原液(「A液」、「B液」および「C液」、または、反応原液(i)及び反応原液(ii))を、それぞれ別個に導入して、ミキシングヘッドで瞬間的に混合させて、反応液とし、この反応液を型内に注入して、この型内で塊状重合させることにより、ノルボルネン系樹脂成形体を得ることができる。 なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
また、供給前の反応原液の温度は、好ましくは10〜60℃であり、反応原液の粘度は、たとえば30℃において、通常、5〜3,000mPa・s、好ましくは50〜1,000mPa・s程度である。
【0048】
反応射出成形に用いる型としては、特に限定されないが、通常、雄型と雌型とで形成される金型を用いる。また、用いる型は、必ずしも剛性の高い高価な金型である必要はなく、金属製の型に限らず、樹脂製の型、または単なる型枠を用いることができる。金属製の型を用いる場合の材質としては、特に限定されないが、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等が挙げられ、鋳造、鍛造、溶射、電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。
【0049】
型の構造は、型内に反応液を注入する際の圧力を勘案して決定すればよい。また、型の型締め圧力は、ゲージ圧で、通常、0.1〜9.8MPaである。
成形時間は、ノルボルネン系モノマーや重合触媒、重合活性剤(共触媒)の種類や、組成比、金型温度等により変化するため、一様でないが、一般的には5秒〜6分、好ましくは10秒〜5分である。
【0050】
雄型および雌型を対とする金型で形成されるキャビティ内に反応原液を供給して塊状重合させる場合においては、雄型の温度T1(℃)を雌型の温度T2(℃)より高く設定しておくことが好ましい。これにより、意匠面(後述する反応硬化型かつ特定のヘイズ値を有する透明樹脂層を形成する面)を、ヒケや気泡のない表面外観の美麗な面とすることができる。
【0051】
雄型の温度T1と雌型の温度T2との差(T1−T2)は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、その上限は好ましくは60℃以下である。また、雄型の温度T1は、好ましくは110℃以下、より好ましくは95℃以下であり、その下限は好ましくは50℃以上である。また、雌型の温度T2は、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下であり、その下限は好ましくは30℃以上である。
金型温度を調整する方法としては、たとえば、ヒータにより金型の温度を調整する方法:金型内部に埋設した配管中に循環させる温調水、油等の熱媒体の温度を調整する方法;等が挙げられる。
【0052】
複合成形体
本発明の複合成形体は、上記したノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を形成してなり、これらノルボルネン系樹脂成形体と透明樹脂層とが、その接触界面において、直接接合(接着剤層を介さないで接合)してなるものである。
【0053】
本発明においては、ノルボルネン系樹脂成形体の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を形成することにより、得られる複合成形体を、優れた意匠性を有するものとすることができる。また、ノルボルネン系樹脂成形体と透明樹脂層とを、その接触界面において、直接接合させることにより、意匠性に加え、耐衝撃性および耐候性に優れた複合成形体とすることができる。なお、本発明において、反応硬化型の透明樹脂層は、ヘイズが80以下であり、50以下が好ましく、10以下が特に好ましい。
【0054】
このような本発明の複合成形体は、次の方法により製造することができる。
すなわち、上述の方法によりノルボルネン系樹脂成形体を製造する際に、金型内で塊状重合が進行すると、ノルボルネン系樹脂成形体が得られるとともに、成形収縮により金型と成形体との間に隙間が生じる。
【0055】
そして、本発明においては、この隙間に、反応硬化型の透明樹脂層を構成することなる透明樹脂層用組成物を注入口から注入し、注入した透明樹脂層用組成物を型内で反応させることにより、ノルボルネン系樹脂成形体の表面の少なくとも一部に反応硬化型の透明樹脂層を形成する。あるいは、雄型を雌型に対して、相対的に僅かに型開きし、雄型の内面とノルボルネン系樹脂成形体との間に十分な隙間を形成した後に、透明樹脂層用組成物を注入し、反応させても良い。
【0056】
このように型内に透明樹脂層用組成物を注入し、型内で透明樹脂層用組成物を反応させて、反応硬化型の透明樹脂層を形成することにより、ノルボルネン系樹脂成形体と、反応硬化型の透明樹脂層とを、その接触界面において、直接接合したものとすることができる。
【0057】
また、透明樹脂層用組成物を注入する際には、単一の注入口から型内に注入する方法以外に、複数の注入口から同時に注入する方法を採用しても良い。複数の注入口から同時に注入することで、注入ムラなく、透明樹脂層用組成物を注入することができる。なお、雄型と雌型とを閉じたままで、透明樹脂層用組成物を型締圧より高い圧力で、雄型の内面と成形体との間に注入しても良い。なお、透明樹脂層用組成物を注入するための隙間は、最終的に得られる反応硬化型の透明樹脂層の厚みを考慮して適宜決定すれば良い。本発明では、反応硬化型の透明樹脂層の厚みは、好ましくは0.01〜7mm、より好ましくは0.02〜5mm、さらに好ましくは0.02〜4mmである。透明樹脂層の厚みが薄すぎると、強度および耐候性に劣る場合がある。一方、厚すぎると、耐衝撃性に劣る場合がある。
【0058】
なお、反応硬化型の透明樹脂層は、ノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に形成すればよく、たとえば成形体の一面だけに形成しても良いし、あるいは、成形体の全面に形成してもよいが、本発明においては、複合成形体のうち、少なくとも意匠面となる部分全体に反応硬化型の透明樹脂層を形成することが好ましい。
【0059】
反応硬化型の透明樹脂層を形成するための透明樹脂層用組成物としては、特に限定されないが、反応硬化性を有し、反応硬化させて、ノルボルネン系樹脂成形体表面に反応硬化型の透明樹脂層を形成することにより、複合成形体にUV吸収性および酸素バリア性を付与できるという観点より、不飽和ポリエステルと、重合性化合物と、硬化剤としての有機過酸化物重合開始剤と、を含有するものが挙げられる。
【0060】
本発明においては、このような不飽和ポリエステルと、重合性化合物と、硬化剤としての有機過酸化物重合開始剤とを含有する透明樹脂層用組成物を用いることにより、主として不飽和ポリエステルの効果により、反応硬化型の透明樹脂層を形成した面における意匠性を向上させることができる。加えて、このような構成を有する透明樹脂層用組成物を用い、上記方法により反応硬化型の透明樹脂層を形成することにより、重合性化合物と、ノルボルネン系樹脂成形体表面付近に存在するポリマー分子とを直接化学結合させることができる。そして、これにより、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とを、その接触界面において、直接接合させることができ、結果として、反応硬化型の透明樹脂層の有するUV吸収性および酸素バリア性を十分に発揮させることができ、得られる複合成形体を耐衝撃性および耐候性に優れたものとすることができる。
【0061】
本発明で用いられる不飽和ポリエステルは、α,β−オレフィン系不飽和ジカルボン酸またはその無水物とグリコールとを付加反応または脱水縮合反応させることによって合成されるものである。また、これら以外にも、飽和ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、またはその無水物、カルボン酸と反応するジシクロペンタジエンなども併用することができる。
【0062】
α,β−オレフィン系不飽和ジカルボン酸としては、たとえば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸およびこれらジカルボン酸の無水物が挙げられる。
また、α,β−オレフィン系不飽和ジカルボン酸と併用される飽和ジカルボン酸としては、たとえば、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、フタル酸無水物、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラクロロフタル酸などが挙げられる。
これらのなかでも、α,β−オレフィン系不飽和ジカルボン酸として、フマル酸を用い、これに飽和ジカルボン酸としてのイソフタル酸を併用することが好ましい。
【0063】
グリコールとしては、たとえば、次のものが挙げられる。
すなわち、ジオールとして、アルカンジオール、オキサアルカンジオール、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAにエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加したジオールやその水素添加物等が挙げあれる。
また、アルカンジオールとして、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
オキサアルカンジオールとして、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
また、これらグリコールに加えて、オクチルアルコール、オレイルアルコール等のモノオール;トリメチロールプロパン等のトリオール;を併用しても良い。
これらのなかでも、水素添加ビスフェノールA、ネオペンチルグリコール、および1,6−ヘキサンジオールを併用して用いることが好ましい。
【0064】
重合性化合物としては、たとえば、スチレン、ジビニルベンゼン、クロロスチレン、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0065】
透明樹脂層用組成物中における重合性化合物の含有割合は、不飽和ポリエステル100重量部に対して、好ましくは10〜900重量部、より好ましくは30〜500重量部である。重合性化合物の含有割合が低すぎると、透明樹脂層の硬化が不十分となり、耐衝撃性および耐候性が低下する場合がある。一方、含有割合が高すぎると、透明樹脂層用組成物の安定性を損なうこととなる。
【0066】
硬化剤としては、有機過酸化物重合開始剤が好ましく用いられる。このような有機過酸化物重合開始剤としては、たとえば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t―ブチルパーオキシピバレート、ラウロイルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0067】
透明樹脂層用組成物中における硬化剤の含有割合は、不飽和ポリエステル100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。硬化剤が少なすぎると、透明樹脂層の硬化が不十分となり、耐衝撃性および耐候性が低下する場合がある。一方、多すぎると、透明樹脂層用組成物の安定性を損なうこととなる。
【0068】
なお、透明樹脂層用組成物中には、必要に応じて、有機過酸化物重合開始剤用促進剤や、離型剤が含有されていてもよい。
有機過酸化物重合開始剤用促進剤としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸鉛などが挙げられる。透明樹脂層用組成物中の有機過酸化物重合開始剤用促進剤の含有割合は、不飽和ポリエステル100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.04〜10重量部である。
また、離型剤としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、大豆油レシチン、シリコーン油、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール二塩基酸エステル類などが挙げられる。透明樹脂層用組成物中の離型剤の含有割合は、不飽和ポリエステル100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは0.04〜10重量部である。
【0069】
透明樹脂層用組成物中には、必要に応じて、上記以外の離型剤、硬化促進剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、改質樹脂、表面調製剤等を配合することができる。
【0070】
そして、本発明の複合成形体は、上述のノルボルネン系樹脂成形体および透明樹脂層用組成物を用いて、上記方法により製造することができる。
なお、透明樹脂層用組成物を型内に注入するタイミングとしては、ノルボルネン系樹脂成形体を構成する各成分を注入した後、型の内部で塊状重合反応が起こり、成形体の温度が最高温度となった時点から、好ましくは5秒後から20分以内、より好ましくは5秒後〜10分以内、特に好ましくは10秒後から5分以内である。透明樹脂層用組成物を注入するタイミングが早すぎると、反応原液の反応が不十分であるため、透明樹脂層用組成物の注入圧が変化してしまい、良好な透明樹脂層を形成できなくなるおそれがある。一方、透明樹脂層用組成物の注入のタイミングが遅すぎると、ノルボルネン系樹脂成形体と透明樹脂層との間の接合が不十分となるおそれがある。
【0071】
透明樹脂層用組成物の注入圧力は、好ましくは1〜50MPa、より好ましくは3〜30MPa、さらに好ましくは5〜22MPaである。
また、透明樹脂層用組成物を注入後、所定時間、所定温度に保持することにより硬化させることが好ましい。透明樹脂層用組成物の硬化温度は、好ましくは70〜130℃、より好ましくは80〜120℃であり、硬化時間は、好ましくは20秒〜6分、より好ましくは60秒〜4分である。
【0072】
このようにして得られる本発明の複合成形体は、意匠性に加え、耐衝撃性および耐候性に優れているという特性を活かし、天井や壁パネル、キッチンカウンター、洗面ボウル等の住宅設備資材用途、車輌用途、建築土木資材用途、遊具設備関連、用途などに好適に用いることができる。
【0073】
なお、上述の説明では、ノルボルネン系樹脂成形体を型内に配置した状態として、透明樹脂層用組成物を型内に注入し、反応硬化させることにより、本発明の複合成形体を製造する方法を例示したが、本発明の複合成形体を製造するための方法としては特に限定されず、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とが直接接合するような構成となるような製造方法であれば何でも良い。
たとえば、上述の透明樹脂層用組成物を70〜200℃に加熱成形して、半重合状態の成形体とし、この半重合状態の成形体をノルボルネン系樹脂成形体に積層させ、加熱下において加圧することにより、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とが直接接合する構成としても良い。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における「部」は、特に断りのない限り重量基準である。
また、各特性は、下記に示す方法により測定した。
【0075】
デュポン衝撃強度
複合成形体から縦100mm、横100mm、厚さ5mmの試験片を作製し、作製した試験片について、デュポン衝撃試験機を用い、R=24.7mmの半球状撃芯、荷重500g、温度23℃にて、JIS K7211にしたがって、50%破壊エネルギーを測定した。
【0076】
退色性
複合成形体から縦100mm、横100mm、各試験にて設定した厚さの試験片を作製し、作製した試験片の色相を、分光色差計(日本電色社製、機種名「SE2000」)を用いて、L*a*b*表色系で測定した。次いで、同じ試験片に対し、キセノンランプにより1,200時間光を照射し、光照射後の試験片の色相を、同様にして、L*a*b*表色系で測定した。そして、光照射前後の色相の変化量ΔL、ΔaおよびΔbを求めることにより退色性を評価した。ΔL、ΔaおよびΔbの値が小さいほど、退色性が低く、好ましいものと評価することができる。
【0077】
ヘイズ値
ヘイズ値の測定は、室温雰囲気にて、JIS K 7105に準じて行った。
【0078】
実施例1
ノルボルネン系モノマー混合物としてのジシクロペンタジエン90部およびトリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーに、エラストマーとして、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体5.7部を溶解させた。次いで、活性剤としてジエチルアルミニウムクロリド0.7部、活性調節剤としての1,3−ジクロロ−2−プロパノール0.7部、四塩化珪素0.07部を添加して、反応原液(A液)を得た。
【0079】
一方、上記とは別に、ノルボルネン系モノマー混合物としてのジシクロペンタジエン90部およびトリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーに、エラストマーとして、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体5.6部を溶解させた。次いで、酸化防止剤としてのジ-t−ブチルヒドロキシトルエン1.7部、重合触媒としてのトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート1.9部、白色顔料2.0部を添加して、反応原液(B液)を得た。
【0080】
さらに、上記とは別に、不飽和ポリエステル、スチレン及び無水シリカの混合物(商品名:ゲルコートUG−501、日本ユピカ(株)製)から遠心分離機により無水シリカを分離したもの100部、および硬化剤としての有機過酸化物(商品名:パーロイルTCP、日油(株)製)0.5部、有機過酸化物(商品名:パーキュアーHO(N)、日油(株)製)1部を混合し、透明樹脂層用組成物を調製した。
【0081】
次いで、縦500mm×横500mm×厚さ5mmの板状の成形体を製造するためのアルミ製雄型と雌型を準備し、中央部分の1箇所に透明樹脂層用組成物を注入するための最高注入圧力35MPaのインジェクターを取り付けた。そして、雄型および雌型を0.5MPaの圧力で型締めし、雄型を90℃、雌型を40℃にそれぞれ加熱した。
【0082】
そして、上記にて調製したA液およびB液をA液:B液=1:1(重量比)の割合で、スタティックミキサーで混合しながら、反応液注入孔より、反応射出成形用金型内に注入し、塊状重合反応を1分間行ない、その後、重合硬化したノルボルネン系樹脂成形体を得た。次いで、上記にて調製した透明樹脂層用組成物を20MPaの圧力で型内に注入し、金型温度に3分間保持し、透明樹脂層用組成物を反応させた。
【0083】
その後、型を開き、ノルボルネン系樹脂成形体の表面に、厚さ0.1mmの反応硬化型の透明樹脂層を有する複合成形体を取り出した。そして、得られた複合成形体について、上記方法にしたがい、デュポン衝撃強度および退色性を評価した。結果を表1に示す。
なお、別途、厚さが0.1mmとなるように透明樹脂層のみを成形し、その成形物のヘイズ値を測定したところ、2であった。
【0084】
実施例2
反応硬化型の透明樹脂層の厚みを2mmとした以外は、実施例1と同様にして、複合成形体を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、透明樹脂層のみのヘイズ値を測定したところ、10であった。
【0085】
比較例1
反応硬化型の透明樹脂層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、成形体を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
比較例2
透明樹脂層用組成物を調製する際に、硬化剤としてのパーロイルTCP、パーキュアーHO(N)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、複合成形体を作製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
比較例3
実施例1と同様にして調製した透明樹脂層用組成物を用い、硬化温度130℃、硬化時間7分の条件で、厚み2mmの透明樹脂層用成形体を作製した。次いで、実施例1と同様にして得られたノルボルネン系樹脂成形体の表面に、接着剤としてのJKS−100を塗布し、その上に、透明樹脂層用成形体を積層し、硬化温度23℃、硬化時間1週間の条件で接着剤を硬化させることにより、複合成形体を作製した。そして、得られた複合成形体について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示すように、ノルボルネン系樹脂成形体を型内に配置した状態として、透明樹脂層用組成物を型内に注入し、反応硬化させることにより、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とが直接接合するような構成となるような構成とした場合には、耐衝撃性(デュポン衝撃強度の50%破壊エネルギー)に優れ、また、全ての色相において変化がほとんど生じず、退色がほとんど発生しない結果となった(実施例1,2)。また、実施例1,2の複合成形体は意匠性にも優れるものであった。
【0090】
これに対し、反応硬化型の透明樹脂層を形成しない場合には、耐衝撃性に劣るとともに、色相(Δa、Δb)の変化が大きくなり、退色性に劣る結果となった(比較例1)。
また、透明樹脂層用組成物中に硬化剤としての有機過酸化物開始剤を添加しなかった場合には、透明樹脂層用組成物の硬化が不十分となり、界面剥離が発生してしまい、各種測定を行えるようなサンプルを得ることができなかった(比較例2)。
さらに、接着剤層を介して、ノルボルネン系樹脂成形体と反応硬化型の透明樹脂層とを積層させた場合には、耐衝撃性に劣るとともに、色相(Δb)の変化が大きくなり、退色性に劣る結果となった(比較例3)。また、比較例3の複合成形体は色合いも悪く、意匠性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体の少なくとも一部の表面に、反応硬化型かつヘイズ値が80以下の透明樹脂層を有する複合成形体であって、前記ノルボルネン系樹脂成形体と前記透明樹脂層とが、その接触界面において、直接接合していることを特徴とする複合成形体。
【請求項2】
前記透明樹脂層の厚みが、0.01〜7mmである請求項1に記載の複合成形体。
【請求項3】
前記ノルボルネン系樹脂成形体を金型内に配置し、該金型内に、前記透明樹脂層を形成することとなる透明樹脂層用組成物を注入し、注入した前記透明樹脂層用組成物を反応硬化させることにより製造される請求項1または2に記載の複合成形体。
【請求項4】
前記透明樹脂層は、不飽和ポリエステル、重合性化合物および有機過酸化物重合開始剤を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の複合成形体。

【公開番号】特開2009−263575(P2009−263575A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117544(P2008−117544)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(503423096)RIMTEC株式会社 (23)
【Fターム(参考)】