説明

複合材及びその製造方法とこの複合材を用いた装置

【課題】 加工が容易で低コスト、耐衝撃性に優れ、高硬度で、電波透過性がよく、平滑な面を形成可能で、量産性のよい複合材を提供する事。
【解決手段】 強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、強化材は高張力繊維を用いた布からなり、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、吹き付け塗装を行うことにより形成した塗装膜である複合材である。塗装膜として使用する合成樹脂性の塗料は、エフレタンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工が容易、耐衝撃性に優れ、高硬度で、電波透過性がよく、平滑な面を形成可能な複合材及びその製造方法とこの複合材を用いた装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、野外に設置される野営用テント、アンテナ等を保護するためのレドーム、電波を反射する反射板、電波を遮蔽するシールド材、気球、海上に設置されているブイ、排煙ダクト、タンク、ヘルメット、ヨット等の船舶、野外スポーツ用品、車両、住宅用材等は、風雨等の外的要因や衝撃により損傷、破損する場合が多い。
又、屋内で使用される住宅用材、商品につけるICタグ、防弾チョッキ、各種の実験に使用される人造人間、木工製品、金属製品、玩具等は、各種の衝撃等により損傷され、耐久性が悪い。
【0003】
これらの損傷、破損を防止して耐久性を良くするためには、それぞれに防護用の装置を付加するか、それぞれに耐久性の良い部材を使用しなければならず、いずれもコストの増加、重量の増加等の問題を避けることは出来なかった。このような問題を解決するために、FRP(Fiber
Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)をはじめとした各種の複合材が考案され、使用されてきた。
【0004】
各種の複合材を使用したものとして、例えば、特許文献1に記載のように、フォークリフトの載台として使用されるパレットは、合成樹脂の発泡成型体からなる発泡体性パレットが使用されている。この発泡体性パレットの表面にウレタン樹脂皮膜を塗装したものがある。
【0005】
また、特許文献2に記載のように、フレキシブルな複合布材からなるレドームであって、複合布材はフレキシブルな樹脂マトリックス材中にポリエステル−ポリアリレート繊維を含んだものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−276934号公報
【特許文献2】特表2007−532019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の合成樹脂の発泡成型体からなる発泡体性パレットには、その表面にウレタン樹脂皮膜が塗装されているが、このウレタン樹脂皮膜は、発泡体性のパレットとは密着性が良く、硬度を強化することが出来る。
【0008】
しかしながら、単に合成樹脂の発泡成型体にのみ塗装可能なものではなく、あらゆるものに対して、加工が容易で耐衝撃性に優れ、高硬度で、平滑な面を形成可能な複合材が求められていた。
【0009】
また、上記特許文献2に記載のフレキシブルな複合布材からなるレドームは、フレキシブルな樹脂マトリックスとしてポリエステルの代わりにポリウレタン樹脂としたものも開示されている。
【0010】
しかしながら、フレキシブルな樹脂マトリックスとして使用されるポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂は、主剤と硬化剤からなる2液反応型の樹脂を用いたとしても、硬化するのに時間を要し、複合布材の製造に際し、マトリックスの硬化、乾燥のための時間が必要となる。従って、複合材からなるレドームの製造に際し、加工する時間や手間、コストを要し、量産性が悪いという問題点があり、加工が容易で低コスト、耐衝撃性に優れ、高硬度で、電波透過性がよく、平滑な面を形成可能で、量産性もよい複合材が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、強化材は布からなり、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜である複合材である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、塗装膜は主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとによる同時吹き付け塗装により形成した複合材である。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の発明において、塗装膜は、エフレタン(登録商標)を用いた複合材である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明において、強化材の布は、高張力繊維を用いた複合材である。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の発明において、塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いた複合材である。
【0016】
請求項6に係る発明は、強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材の製造方法において、布製の強化材の表面の汚れを除去した後、布製の強化材の一方の面に形成するマトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布してなる塗装膜とした複合材の製造方法である。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の発明において、塗装膜は、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとから同時に吹き付け塗布して前記塗装膜を形成した複合材の製造方法である。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の発明において、塗装膜は、合成樹脂製の塗料としてエフレタンを用いて形成した複合材の製造方法である。
【0019】
請求項9に係る発明は、請求項6〜請求項8の何れかに記載の発明において、塗装膜の表面を、加熱するとともに、加圧した複合材の製造方法である。
【0020】
請求項10に係る発明は、強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、布材を、レドームの形状に形作ってなる強化材と、レドーム形状の布材の表面に、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を塗布して形成された塗装膜からなるマトリックスとする複合材を用いて形成したレドームである。
【0021】
請求項11に係る発明は、請求項10に記載の発明において、塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いるとともに、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとにより同時吹き付け塗布して形成した複合材を用いて形成したレドームである。
【0022】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の発明において、塗装膜は、エフレタンを用いた複合材を用いて形成したレドームである。
【0023】
請求項13に係る発明は、請求項10〜請求項12の何れかに記載の発明において、強化材の布材は、高張力繊維を用いた複合材を用いて形成したレドームである。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る発明は、上記のように構成したので、強化材として布を用いるとともに、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜であるので、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有するとともに、軽量であり、いままでにない優れた複合材が得られる。
【0025】
請求項2に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1と同様な効果があるとともに、マトリックスである塗装膜は、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとから同時吹き付け塗装により形成したので、塗装膜の硬化速度が早く、製造時間を短縮することが出来る。又、強化材の種類によれば可撓性があり、柔軟な布でも塗装膜により型を保持出来るので成型性が良い。又、比強度(重量と強度の比)が大であり、耐久性良好な複合材が得られる。
【0026】
請求項3に係る発明は、上記のように構成したので、請求項2と同様な効果があるとともに、さらに、塗装膜は、速硬化性を有するので、加工が極めて容易で、マトリックスで使用する合成樹脂を硬化、乾燥するための製造工程を省くことができ、製造にかかる時間や手間及びコストを削減可能で、量産性も極めてよい。さらに、低粘度で速硬化性を有することから、目の粗い布であっても塗布可能であり、いかなる布製品にも塗装膜を形成可能である。
【0027】
請求項4に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項3と同様な効果があるとともに、さらに、強化材の布は、高張力繊維を用いたので、引っ張り強度の大きな複合材が得られる。
【0028】
請求項5に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1〜請求項4と同様な効果があるとともに、さらに、塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いたので、無線通信の分野でも使用出来、その応用範囲の広い複合材が得られる。
【0029】
請求項6に係る発明は、上記のように構成したので、強化材として布を用いるとともに、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜であるので、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有するとともに、軽量であり、いままでにない優れた複合材の製造方法が簡単である。その上、コストの安価な複合材が得られる。
【0030】
請求項7に係る発明は、上記のように構成したので、請求項6と同様な効果を有するとともに、塗装膜は、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとから同時に吹き付け塗布して塗装膜を形成したので、製造方法が簡単で、コストの安価な複合材が得られる。
【0031】
請求項8に係る発明は、上記のように構成したので、請求項7と同様な効果を有するとともに、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性があり、軽量で、その上、電波の透過損失の小さい部材を用いたので、無線通信の分野でも使用出来、その応用範囲の広い、いままでにない優れた複合材の製造方法が簡単であり、その上、コストの安価な複合材が得られる。また、塗装膜は、速硬化性を有するので、加工が極めて容易で、マトリックスで使用する合成樹脂を硬化、乾燥するための製造工程を省くことができ、製造にかかる時間や手間及びコストを削減可能で、量産性も極めてよい。さらに、低粘度で速硬化性を有することから、目の粗い布であっても塗布可能であり、いかなる布製品にも塗装膜を形成可能である。
【0032】
請求項9に係る発明は、上記のように構成したので、請求項6〜請求項8と同様な効果を有するとともに、塗装膜の表面を、加熱するとともに、加圧したので、塗装膜の表面を平滑に形成する事が出来る。
【0033】
請求項10に係る発明は、上記のように構成したので、強化材として布を用いるとともに、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜であるので、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有するとともに、軽量であり、いままでにない優れたレドームが得られる。
【0034】
請求項11に係る発明は、上記のように構成したので、請求項10と同様な効果があるとともに、塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いるとともに、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとにより同時吹き付け塗布して形成したので、レドームの製造方法が簡単で、その製造時間も短縮することが出来、レドームのコストを削減することが出来る。
【0035】
請求項12に係る発明は、上記のように構成したので、請求項11と同様な効果があるとともに、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性があり、軽量で、その上、電波の透過損失の小さい部材を用いたので、無線通信の分野でも使用出来、その応用範囲の広い、いままでにない優れた複合材の製造方法が簡単であり、その上、コストの安価なレドームが得られる。また、塗装膜は、速硬化性を有するので、加工が極めて容易で、マトリックスで使用する合成樹脂を硬化、乾燥するための製造工程を省くことができ、製造にかかる時間や手間及びコストを削減可能で、量産性も極めてよい。さらに、低粘度で速硬化性を有することから、目の粗い布であっても塗布可能であり、いかなる布製品にも塗装膜を形成可能である。
【0036】
請求項13に係る発明は、上記のように構成したので、請求項10〜請求項12と同様な効果があるとともに、さらに、強化材の布は、高張力繊維を用いたので、引っ張り強度の大きな複合材が得られ、いままでにない優れたレドームが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施例を示すもので、各種の高張力繊維に対してこの発明による複合材の製造方法を用いて形成した複合材の透過損失及び代表的なFRPの透過損失を示す図である。
【図2】この発明の実施例を示すもので、この発明による複合材をレドームに応用した場合のレドームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、強化材は高張力繊維を用いた布からなり、マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜である複合材である。塗装膜は主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとによる同時吹き付け塗装により形成したものであり、エフレタンを用いる。
【実施例1】
【0039】
この発明の第1の実施例を、図1に基づいて詳細に説明する。
図1は、この発明の実施例を示すもので、各種の高張力繊維に対してこの発明による複合材の製造方法を用いて形成した複合材の透過損失及び代表的なFRPの透過損失を示す図である。
【0040】
まず、発明者等は、この発明による複合材を用意するために、この複合材のマトリックス(母材)として使用する合成樹脂と布製の強化材を準備した。この発明の第1の実施例では、複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂はウレタン樹脂の一種であるエフレタン(登録商標)を使用し、強化材は高張力繊維である超高分子量ポリエチレンのダイニーマ(登録商標)を布状に形成したものを使用した。エフレタンは、無溶剤ウレタン樹脂の一種であり、防水性があり、乾燥状態の硬度が高く、強靱で耐衝撃性、耐摩耗性に優れ、主に発泡スチロールのコーティング用の樹脂として使用される。また、エフレタンは主剤と硬化剤との2液反応型の低粘度液状ウレタン樹脂であり、この2液を反応させた場合、数秒で硬化するという速硬化性を有する。この発明による複合材では特に、エフレタンの速硬化の性質を利用している。一方、ダイニーマは、高強度、高弾性率、低伸度で軽量の繊維である。なお、この発明の第1の実施例では、強化材は高張力繊維を布状に形成したものを使用しているが、不織布を使用してもよい。
【0041】
次に、発明者等は、強化材であるダイニーマを布状に形成したものの表面にエフレタンの主剤と硬化剤とを同時に吹き付けて塗装を行った。この吹き付け塗装により、発明者等はマトリックスとしてエフレタンの塗装膜を強化材の一面に形成し、この発明による複合材を形成した。この実施例では、エフレタンを二度塗りし、それぞれ1mmの厚さとなるように塗装している。さらに、このようにして形成された複合材のマトリックスである塗装膜の表面を加熱及び加圧することで、塗装膜表面の平滑化や脱泡を行うようにしても良い。しかしながら、この発明による複合材の形成に際し、一般的なスプレーアップ成形のようなマトリックスを強化材に含浸させるためや成形のための加熱及び加圧処理は必要ない。エフレタンの速硬化性により即座に複合材が形成可能であるのに加え、この複合材を加熱及び加圧することにより、複合材の成形の再調整をすることも可能である。なお、この発明の第1の実施例では、布状に形成した強化材の一面にマトリックスである塗装膜を形成しているが、強化材の両面に塗装膜を形成してもよい。この発明による複合材を形成するには、布状に形成した強化材の少なくとも一面にマトリックスである塗装膜を形成すればよい。
【0042】
さらに、発明者等は、強化材の違いによる特性の違いを検証する為に、ダイニーマ以外の高張力繊維を布状に形成したものを強化材として準備した。他の高張力繊維として、発明者等は、芳香族ポリアミド樹脂であるケブラー(登録商標)やポリアレート繊維であるベクトラン(登録商標)、ザイロン(登録商標)を準備した。これらの高張力繊維を布状に形成した強化材に対し、マトリックスとして使用する合成樹脂はエフレタンのままで、発明者等は、それぞれ上記の方法を用いてこの発明による複合材を形成し、用意した。また、発明者等は、この発明によるこれらの複合材と特性を比較するために、さらにいくつかの代表的なFRPを用意した。これらのFRPは、マトリックスをビニエステル樹脂、エポキシ樹脂とし、強化材をダイニーマ、ケブラー、ベクトラン、ザイロン、グラスとし、これらのマトリックス及び強化材を組み合わせた合計10種類の代表的なFRPである。
【0043】
このようにして用意したこの発明による複合材及び代表的なFRPによる透過損失の測定結果を図1に示す。
【0044】
図1において、縦軸はマトリックスとして使用する合成樹脂、横軸は布状に形成した強化材で使用されている高張力繊維を示し、測定周波数帯を75-110GHz帯としたときの透過損失(dB)を示している。この図1に示す結果より、この発明による複合材は、GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:ガラス繊維強化プラスチック)をはじめとした代表的なFRPと比較して透過損失が低いことが判明した。
【0045】
また、図1に示す結果より、同じ強化材を用いた時のこの発明による複合材とFRPとの透過損失を比較した場合、ザイロンを布状に形成したものを強化材とした場合を除いて、この発明による複合材の透過損失は、FRPの透過損失の約半分となり、透過損失の特性が改善されていることが判明した。
【0046】
この実施例では、この発明による複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂はエフレタンを使用しているが、速硬化性の性質を有し、電波に対する低い透過損失及びある程度の強度を有する樹脂であれば、どのような樹脂であっても良い。例えば、この発明の第1の実施例で使用したエフレタンの代わりに、ポリウレタン樹脂の一種であるフツ・ラッシュ(登録商標)を使用しても良い。
【0047】
また、この実施例でマトリックスとして使用する合成樹脂であるエフレタンは、上述の通り2液反応型の樹脂であるので、エフレタンの主剤と硬化剤とを2本のノズルで同時に吹き付けて硬化させることにより塗装を行うことで塗装膜を形成しているが、マトリックスとして使用する合成樹脂を、例えば酸化することにより即座に硬化するような樹脂を用いることにより1本のノズルで塗装するようにしても良い。
【0048】
さらに、この発明による複合材の製造方法は、FRPの製造方法と違い、強化材にマトリックスを含浸させる必要はなく、また、接着剤などで接着する必要もない。エフレタンのような速硬化性の性質を有し、電波に対する低い透過損失及びある程度の強度を有する樹脂を強化材にただ塗布し塗装膜を形成するだけで良く、この発明による複合材の成形が極めて容易である。加えて、FRPは硬化時間が長いために量産性が悪いのに対し、この発明による複合材はマトリックスとして使用する合成樹脂であるエフレタンの速硬化性により硬化時間が極めて短いため量産性が極めてよい。
【0049】
また、この発明による複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂であるエフレタンは、布状に形成された強化材で使用する繊維や強化材の表面に離型剤や離型剤としての性質を有する物質が既に塗布されていなければ、いかなる材質の物にも塗装膜を形成可能であるので、強化材として使用可能な部材の選択の幅が広く、複合材としての応用範囲も広い。
【0050】
さらに、大きな部材を構成する際、金型等を用いて成形する必要がなく、この発明による複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂であるエフレタンをただ塗布するだけで成形できるので便利である。
【実施例2】
【0051】
この発明の第2の実施例を図2に基づいて詳細に説明する。図2は、この発明の実施例を示すもので、この発明による複合材をレドームに応用した場合のレドームの断面図である。
【0052】
この発明の第2の実施例以降の実施例は、第1の実施例の複合材の応用例を説明した実施例である。なお、第1の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
【0053】
この発明の第2の実施例は、第1の実施例の複合材の電波に対する透過損失の性質を利用して、この複合材をレドームに用いた応用例である。以下、図2に基づいてこのレドーム1の製造方法について説明する。
【0054】
図2において、レドーム1は、強化材2とマトリックスである塗装膜3(3a、3b)とから構成されている。強化材2は、超高分子量ポリエチレンのダイニーマを布状に形成したものを使用し、マトリックスである塗装膜3で使用する合成樹脂は、ウレタン樹脂の一種であるエフレタンを使用している。
【0055】
まず、発明者等は、図2に示すレドーム1の形状のような一般的なレドームの形状の型を用いて、図2に示すレドーム1の形状となるように布状の強化材2を成形するとともに、このように成形した強化材2を一時的に位置決めした。
【0056】
次に、発明者等は、このように一時的に位置決めした強化材2の表面にエフレタンの吹き付け塗装を行い、強化材2の一方の面に塗装膜3aを形成した。実施例1と同じように、エフレタンは二度塗りし、それぞれ1mmの厚さとなるように塗装することで塗装膜3を形成している。塗装膜3で使用しているエフレタンの乾燥状態における硬度の高さ及びその速硬化性により、強化材2の一方の面に塗装膜3aが即座に形成され、塗装膜3aを形成した後は、強化材2を一時的に位置決めするための型は不要となる。
【0057】
この型を取り除いた後、強化材2のもう一方の面にも同様にエフレタンの吹き付け塗装を行うことで塗装膜3bを形成し、発明者等は、この発明による複合材を形成するとともに、この複合材を用いたレドーム1を成形した。ここでさらに、塗装膜3a、3bの表面を加熱及び加圧することで、塗装膜3表面の平滑化や脱泡を行うようにしても良い。
【0058】
なお、この実施例では、強化材2の両面に塗装膜3を形成しているが、実施例1でも記載したように、強化材2の少なくとも一面に塗装膜3を形成すればよい。この場合、塗装膜3で使用しているエフレタンの耐候性を生かす観点から、レドーム1の外側の塗装膜3aを形成するようにするとよい。
【0059】
また、上述したように、この発明による複合材の製造方法を用いることにより、レドーム1を成形するための加工が極めて容易となる。従って、この発明による複合材の製造方法を用いることにより、図2に示すレドーム1の形状だけでなく、正二十面体で球面を近似し、そこに正三角形に組み合わせた構造材を多数並べることにより成形したドーム状の構造であるジオデシック構造をはじめとしたレドームの代表的な構造も全て容易に成形することができる。
【実施例3】
【0060】
この発明の第3の実施例を詳細に説明する。
この発明の第3の実施例は、第1の実施例の複合材の電波に対する透過損失の性質を利用して、いわゆるICタグ等の電波の発信源をこの発明による複合材の製造方法を用いて取り付ける応用例である。なお、第1の実施例〜第2の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
【0061】
この発明の第3の実施例では、複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂はエフレタンを使用し、強化材は第1の実施例や第2の実施例とは違い、ダイニーマ等の高張力繊維を布状に形成したものは使用せず、一般に広く使用されている繊維を布状に形成したものを使用している。
【0062】
上述したように、この複合材のマトリックスとして使用する合成樹脂であるエフレタンは、低粘度で速硬化性を有することから、目の粗い布であっても塗布可能であり、いかなる布製品にも塗装膜を形成可能である。
【0063】
まず、衣服をはじめとした布製品であってマークや模様などがプリントされるものに対してICタグを取り付ける場合について説明する。
【0064】
最初に、布製品のプリントする側の表面にエフレタンの吹き付け塗装を行い、下地となる塗装膜を形成する。次に、この下地となる塗装膜の上にICタグを置き、下地となる塗装膜及びICタグの上からさらにエフレタンの吹き付け塗装を行う。この吹き付け塗装により、下地となる塗装膜及びICタグの上にさらに塗装膜が形成され、ICタグが塗装膜の中にしっかりと封入される。このようにエフレタンからなる塗装膜の中にICタグを封入することにより、エフレタンの硬度の高さ、強靱さ、優れた耐衝撃性、耐摩耗性によって封入されたICタグが保護される。また、エフレタンの防水性により、ICタグを取り付けた状態で洗濯などの水に浸けたりすることも可能となる。このようにしてICタグを封入後に塗装膜表面にマークや模様などをプリントすればよい。
【0065】
衣服に対して、ICタグの代わりに、測位を行うためのGPS受信機及びその測位データを送信するための送信機を上記の方法で塗装膜の中に封入することにより、その衣服を着用した人物の測位を行うことができ、例えば徘徊する人などの位置の把握に応用することができる。また、従業者の位置を把握する必要のある職業(例えば警備員など)の制服にこのようなGPS受信機などを封入してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明は、野外に設置される野営用テント、アンテナ等を保護するためのレドーム、電波を反射する反射板、電波を遮蔽するシールド材、気球、海上に設置されているブイ、排煙ダクト、タンク、ヘルメット、ヨット等の船舶、野外スポーツ用品、車両、住宅用材等、屋内で使用される住宅用材、商品につけるICタグ、防弾チョッキ、各種の実験に使用される人造人間、木工製品、金属製品、玩具等に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 レドーム
2 強化材
3(3a、3b) 塗装膜(マトリックス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、
前記強化材は布からなり、
前記マトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布することにより形成した塗装膜であること
を特徴とする複合材。
【請求項2】
前記塗装膜は、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとから同時吹き付け塗装により形成したこと
を特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記塗装膜は、エフレタンを用いたこと
を特徴とする請求項2に記載の複合材。
【請求項4】
前記強化材の布は、高張力繊維を用いたこと
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の複合材。
【請求項5】
前記塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いたこと
を特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の複合材。
【請求項6】
強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材の製造方法において、
布製の強化材の表面の汚れを除去した後、
前記布製の強化材の一方の面に形成するマトリックスは、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を、塗布してなる塗装膜としたこと
を特徴とする複合材の製造方法。
【請求項7】
前記塗装膜は、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとから同時に吹き付け塗布して前記塗装膜を形成したこと
を特徴とする請求項6に記載の複合材の製造方法。
【請求項8】
前記塗装膜は、前記合成樹脂製の塗料としてエフレタンを用いて形成したこと
を特徴とする請求項7に記載の複合材の製造方法。
【請求項9】
前記塗装膜の表面を、加熱するとともに、加圧すること
を特徴とする請求項6〜請求項8の何れかに記載の複合材の製造方法。
【請求項10】
強化材と、この強化材の少なくとも一方の面に形成した母材(マトリックス)とからなる複合材において、
布材を、レドームの形状に形作ってなる前記強化材と、
前記レドーム形状の布材の表面に、耐浸透性、耐剥離性、耐衝撃性、耐摩耗性を有する合成樹脂性の塗料を塗布して形成された塗装膜からなる前記マトリックスと
からなることを特徴とする複合材を用いて形成したレドーム。
【請求項11】
前記塗装膜は、電波の透過損失の小さい部材を用いるとともに、主剤と硬化剤とからなる合成樹脂性の塗料を、それぞれ主剤用のノズルと硬化剤用のノズルとにより同時吹き付け塗布して形成したこと
を特徴とする請求項10に記載の複合材を用いて形成したレドーム。
【請求項12】
前記塗装膜は、エフレタンを用いたこと
を特徴とする請求項11に記載の複合材を用いて形成したレドーム。
【請求項13】
前記強化材の布材は、高張力繊維を用いたこと
を特徴とする請求項10〜請求項12の何れかに記載の複合材を用いて形成したレドーム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196012(P2011−196012A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−127301(P2011−127301)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(501152352)独立行政法人電子航法研究所 (44)
【出願人】(502235359)株式会社レンスター (5)
【Fターム(参考)】