説明

複合材料構造体の常圧プラズマ・ビームによる表面処理法

本発明は、複合材料製構造体の所定の場所を表面処理する方法に関し、それを他の構造体と接合するために、放出ノズルを装備するプラズマ発生器により発生した少なくとも1個の常圧プラズマ・ビームを照射する。本発明によれば、a)ノズルから放出された同プラズマ・ビームは0.2〜10cmの距離から複合材料構造体に照射され、そしてb)同プラズマ・ビームは75〜105°の入射角で複合材料構造体に照射される。本発明は、炭素繊維あるいはガラス繊維とエポキシ樹脂あるいはビスマレイミド樹脂を含有する構造体に対して特に適している。本発明に関連する他の操作変数は同プラズマ・ビームの電力と処理速度を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、複合材料表面の常圧プラズマ・ビームによる表面処理法に関し、特に他の複合材料表面あるいは他の基板に対するそれの接着接合を容易化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
接着接合の設計は、現在航空産業内でますます関心を集めている分野であり、これは特に炭素繊維強化複合材料で製作された構造体の接合の場合に見られる。接着接合の事例数およびそれの構造的な重要性はこれまで数年の間次第に増大しており、そして大半の場合、これら構造体の強度は接着接合強度によって決まる。
【0003】
接着接合は伝統的な機械的接合(リベットあるいはネジを使用した)に比べて数々の利点を有している。接着接合は構造体を穿孔する必要がなく、機械的接合に比べてより広い面積にわたって応力を分布でき、また重量増が少なく疲労に対しても強い。
【0004】
接着接合の実施によって得られる結果は、接触している相間の相互作用の種類によって決まる。このような相互作用は、いくつかの接着機構(界面での化学的な結合の形成、機械的な架橋、静電的な結合、高分子の拡散および吸着あるいは濡れ)によって発生する。
【0005】
接着接合に関する機械的試験を実施する際には、計算によって得られた理論的な接合エネルギーに比べて数倍高いエネルギーが使用される。これは、接着接合部にかかる機械的応力により局所的な相変形が相当な程度起こり、その材料が散逸性の場合、粘弾性的あるいは塑性的な変形により破損部の近傍で相当な量のエネルギーが消費されるからである。界面接合の切断に要するエネルギーと固体の変形に要するエネルギーの間に起こるこのような相乗作用は接着接合強度を高める働きがある。
【0006】
しかしながら、接着接合が有する全ての利点は、それの効率に影響を及ぼす一連の因子により調整される。このような因子の例として、基板の接合前に実施される表面処理、接合部の使用温度、接着剤と被接着体の間の熱膨張率の差に起因する残留熱応力および接合形状が挙げられる。同様にして、外部剤の作用にさらされる接着接合構造体での界面接着の耐久性は極めて重要であることを考慮に入れなければならない。これは、高湿度、温度変動および紫外線にさらされることにより影響を受けるからである。
【0007】
接着接合の設計が最適化されたならば、形状や熱に関連する因子を考慮するならば、基板を接合する前に実施されるそれの表面処理は、接合の最終的な効率と耐久性に対する多分最も決定的な因子であろう。
【0008】
ポリマーの表面は、表面エネルギーが低く、接着剤となじまないあるいは化学的に不活性ですらある可能性があり、あるいは低強度の境界層あるいは不純物により容易に被覆される可能性があるので、通常は濡らすことと接合することが困難である。
【0009】
ポリマー間の接着接合の最終的な効率と耐久性に多くの因子が影響を及ぼすことを考えると、その品質を保証するシステムを見つけ出すことは非常に困難である。接着現象に非常に多くの変数が介入するので、接着接合の結果の安定性および再現性を達成することは、いくつかの場合、複雑となる。これが、多くの場合、最終品質保証のために複雑かつ高価な試験が接合部管理に必要とされる理由である。信頼性と再現性のある接合プロセスの開発により、これらの試験を削減あるいは削除でき、それによって製造コストを相当低下して最終品質を保証できる。
【0010】
基板の表面処理は接合プロセスのひとつの段階であり、これは接合によって得られる最終結果に対して大きな影響を及ぼすので、この段階の最適化は得られる品質の保証の条件となる。これこそが、ポリマー基板の接着性改善のためにこれまでの開発歴史を通じて異なった表面処理法が開発されてきた理由である。これらの全ての処理方法は、接着接合の最終的な効率の改善と得られた結果の不変性の確保を可能にすることを目的としている。これまで開発されてきた処理方法の中で最も普通のものは酸化性の化学剤の使用、各種の物理化学的な方法の使用、そして最終的に基板表面上に官能基を導入することに関連している。
【0011】
これらの全ての処理法は、数えきれないほどの工業上の適用において広く開発されているが、これらの多くの方法はある種の欠点を内包している。
【0012】
−化学的な方法:洗浄および表面処理のためのプロセスでの有機溶剤(例えばメチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトンあるいはトルエン)の使用には、可燃性および運転員の安全・衛生に関する危険性が存在している。
【0013】
−物理的な方法:機械的な研磨システム(サンディング、サンドブラスティング等)は、それに先立って洗浄および脱脂処理を必要とする。これらのプロセスでは廃棄物が発生し、これは接合表面の汚染を防ぐために除去されなければならない。更に、過剰な研磨は処理表面形状は深刻な打撃を与え、接触表面を減少し、機械的な架橋に影響を及ぼし、要するに接着接合の効果を低下する。
【0014】
−物理化学的な方法:物理化学的な処理法(火炎、クラウン、酸化性化学剤等の使用)はポリマー基板の濡れ性および接着性を著しく向上する。これは、含酸素基(カーボニル基、水酸基およびカルボキシル基)がポリマーの処理表面に導入されるからである。これらの全ての方法はポリマー処理産業に広く普及しているが、これらの主な欠点は処理表面の安定性の欠如にある。これらの処理法によって得られた接着性状の向上効果は時間の経過と共に徐々に低下し、従って、接着接合の最終的な特性は予備処理された基板の劣化によって決まることになろう。このような劣化は基本的には2種類の原因によって起こる:貯蔵期間中に含酸素官能基が再配向しポリマー内部に移動すること、および低分子量種が部分的に欠損すること。この種の処理の他の欠点は、分子切断プロセスを引き起こすことである。この分子切断により低分子量の表面種が生成して環境条件に大きな影響を受ける可能性がある新たな表面が発生する。これらが劣化すれば、接着接合の特性を低下すると同時にそれの長期的な耐久性をも低下するという影響を及ぼす可能性がある。
【0015】
これらの全ての方法による表面処理体の特性の劣化および欠損に起因する欠点を克服するために、以下の二段階に適用されるシステムによりポリマー基板の接着性を向上する方法が知られている:
【0016】
1.物理的あるいは物理化学的な方法による表面の活性化。
2.表面種に相互作用を及ぼし、活性化表面を保護し、接着促進剤として働く化合物の使用。
【0017】
これらの全ての方法の主な欠点は、処理プロセスに二段階を追加することによる複雑さの増大と接着促進剤として使用される化学剤の特異性である(すなわち、同化学剤は基板の各化学的性質に適するものでなければならない)。
【0018】
レーザーの使用による表面処理は高価かつ複雑な装置を必要とし、またレーザービームがカバーできる面積が小さいことと処理表面の熱による劣化に起因する問題のためにそれの効率は低下する。
【0019】
紫外線照射による処理は、ポリマー表面処理のための興味深い代案である。UVは独立して照射してもよいし、あるいは酸素あるいはオゾンと共に照射してもよい。この種の処理法の主な欠点は、有機溶剤による事前の洗浄プロセスを必要とすることであり、その結果処理コストは増加し、また安全および衛生上の問題を引き起こす。
【0020】
プラズマによる処理はポリマー基板の接着性を相当向上し、望ましい程度の活性化と濡れ性を与える。この種の処理法により、研磨法によって処理された場合に比べて接着接合強度は4倍増加する。
【0021】
プラズマシステムにガス、ガス混合物あるいはモノマーを併用して、制御されたプロセス条件下で異なった種類の化学種をポリマー表面に選択的に導入することにより表面エネルギーを高め、濡れ性を向上できる。
【0022】
通常型のプラズマシステムは大きな欠点を内包している。すなわち、プラズマは低圧で発生し、従って処理される部品の寸法は圧力室のサイズによって制約を受ける。常圧でプラズマを発生できる装置の出現により、寸法上の欠点が無くなりこの種の処理法の適用分野を相当な程度拡大した。これにより、これらの装置を自動システムに装着することが可能になり、大量生産システムに組み込むことが可能になった。同システムは単純であり、補助的な運転を必要とすることがなく、不純物を除去しつつ処理表面を活性化し、合理的な貯蔵期間中にかなりな低度の劣化を引き起こすことがない。
【0023】
常圧プラズマに関する既知の技術の中で、下記の特許文献に記載される技術を参照しなければならない。
−米国特許5,185,132「常圧プラズマの反応およびそのための装置」。同文献は、ガスあるいは希ガスおよび反応性ガスの混合物を、誘電材料で被覆された電極の作用の下でこれらのガスが反応する容器内に導入することにより常圧下でのプラズマ発生方法を開示しており、常圧プラズマ発生器の形状および運転も開示している。
−米国特許5,928,527「常圧グロー放電プラズマ源を用いた表面改質」。同文献は、高周波信号から発生した常圧プラズマを用いた表面改質法を開示している。同プラズマは、100°Cよりも低い温度の下での酸素あるいは酸素と不活性ガスの混合物から発生する。
同文献を通じて、非常に多様な物質(半導体、ポリマー、複合材料等々)に影響を及ぼす同表面改質法の適用、および産業上の適用分野(有機不純物の除去、塗料のストリッピング、生産工程中の局所的な腐食、微小電子機器内の部品アセンブリー、外科用器具の消毒、接着接合の前段階での複合材料の改質等々)を記載しているが、詳細な記載はなく、また操作因子や操作条件の設定に関する記載もない。
−日本特許2005005579「被処理物の安定した運搬のための常圧プラズマ処理装置および電磁波漏洩の防止」。同文献は、常圧プラズマによる連続処理のための装置、および同装置の電磁波漏洩を防止するための保護を開示している。
【0024】
接着促進剤として作用する化成品を使用する事前段階に表面活性化方法としての直接的に常圧プラズマを照射する異なった方法も同様に知られており、いくつかの例が下記の特許文献に開示されている。
【0025】
−米国特許6,800,331「機能性ポリマー表面の製作」。
−WO0216051「表面の洗浄および改質のプロセス、物理化学的に改質された高密度流体の噴霧を使用する方法および装置」。
−米国特許5,425,832「ガラス繊維織物表面処理のためのプロセス」。
先行技術により知られた他の特許文献を以下に示す。
−US−A−6013153「加硫処理されたゴムの表面処理プロセスおよびゴム系複合材料の製造プロセス」。同文献は接合を目的とする常圧プラズマを用いた加硫ゴムの表面処理プロセスを開示している。
−US 2001 000897 A1「グロー放電常圧プラズマ源を用いた表面改質」。同文献は、放電常圧プラズマを発生する方法および材料の表面層改質のための同プラズマの使用法を開示している。
−US 2005 181203 A1「アップリケ」。同文献は基板のアップリケ被覆および電気エネルギーからの基板保護法を開示している。
【0026】
現在、航空産業には複合材料で製作された一次構造体を使用する目立った傾向が見られる。これらの複合材料は主として航空機用構造体の製作のために用いられており、ポリマー母材を繊維(炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等)で強化したものである。この種の材料で製作された構造体は航空機の最終的な重量を相当減少し、その結果燃料消費量を低減する。一般的には、これらは母材となる部品の表面が強化材で被覆されている構造を有している。大半の場合、これらの強化材は積層体に接着接合されている。これらの接着の極めて大きな構造上の重要性に鑑みて、その表面前処理は特に重要となる。
【0027】
同産業においては、明らかに安全上の理由により、品質保証は特に重要である。これこそが、満足できかつ再現性のある結果を与え、また製作された部品の最終部品を確保するプロセスが探索されている理由である。接合された構造体の最終的な性状は表面処理の信頼性と再現性によって決められる。
【0028】
航空産業の分野では、ポリマーを母材とする複合材料で製作された部品の接着接合の前段階としての表面処理は伝統的に以下の2種類のシステムによって実施されている。
【0029】
1.機械的研磨(サンディング)+有機溶剤(MEKあるいはIPA)による洗浄。この方法の主な欠点は、同方法は通常は手作業によって実施されるので、その結果の再現性には限界があり、また運転員の処理条件に大きく依存することである。
2.剥離可能な織物の使用+有機溶剤による洗浄。剥離可能な織物とは、処理されるポリマー表面を被覆するポリマー繊維(ポリエステル、ポリアミド等)の織物であり、それにより同表面を汚染から保護し最終表面向上するためである。接着接合を実施する前に同織物をポリマー表面から剥離して、次いで同表面を有機溶剤で洗浄する。同織物の構造により、接着接合を実施する前に表面処理として必要とされる微小粗面を形成する。この方法の主な欠点は、同プロセスには非常に多数の因子が介入し、これがこの方法を用いて実施された接着接合の効率に影響を及ぼす可能性がある点である。同プロセス効率を変える可能性があるこのような多数の因子が介入するので、定常的な品質管理が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
ポリマー母材を連続繊維で強化した複合材料で製作された部品を接着接合する際の前段階としての表面処理のために伝統的に採用される方法にはある種の欠点が内包されているので、上記の方法に取って代わる高信頼性、安価、連続的かつ高再現性の方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
(発明の概要)
本発明は、常圧プラズマ・ビームを用いる複合材料構造体の表面処理法を提案する。同プラズマ・ビームはプラズマ発生器により発生し、同発生器は他の複合材料構造体に対する接着接合を促進するために放出ノズルを装備している。同方法は以下の2点で特徴付けられる。
a)放出ノズルから放出されるプラズマ・ビームは反応性ガスを含有していてもよく、0.2〜10cmの距離から複合材料構造体に照射される;および
b)同プラズマ・ビームは75〜105°の入射角で複合材料構造体に照射される。
【0032】
本発明の方法の実態の採用により、効率的にポリマー基板を活性化できることが立証されており、表面エネルギーを増加し表面濡れ性を向上する。このような表面活性化は、炭素繊維で強化されたポリマーを母材とする複合材料製の部品同士の接着接合体の機械的性状を向上する際には極めて重要である。現時点では、極めて多くの航空機用構造体が上記のような複合材料製部品の接着接合で製作されている。従って、本発明の方法の実態の採用によりこれら構造体の一般的な性能が改善される。
【0033】
本発明の方法の実態の採用により処理されたポリマー基板の接着性が向上する。なぜならば、本発明は表面に含酸素活性種を生成し、形状を改質し、フッ素やシリコーンのような不純物(これらは接着接合効率を大きく低下する)を減少させるからである。このようにして、本発明は有機溶剤による事前あるいは事後の清浄工程を必要としないばかりでなく、それ自身が接合の機械的性状を低下する元素を処理表面から除去する能力を有している。
【0034】
本発明の方法の実態の一つの利点は、常圧で働く複数のプラズマ発生器の使用により、被処理構造体が通常は大形である航空機用部品の製作に適用できるという点である。常圧でプラズマを発生しそれを被処理構造体に照射することの可能性により、同プロセスの自動化および大量生産システムへの組み込みを容易化する。
【0035】
本発明の他の利点は、処理を自動化すれば、今度はこれが、例えば処理表面上の接触角度の測定のような表面処理プロセスの品質の大量モニタリングのシステムの開発を促進する点である。いずれにせよ、同システムは処理の再現性を確実にし、統計的なサンプリングによる品質管理システム、あるいはプロセス工程中での試験を必要としない品質保証システムですら、それらの生産システムへの組み込みを容易化する。
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を用いてそれの実態を説明する実施態様の詳細な説明により明らかになろう。
【0037】
(発明の詳細な説明)
本発明の実態である接着接合の前段階処理としての炭素繊維強化のポリマーを母材とする複合材料構造体の表面処理法は、処理されるポリマー母材の化学的な特性によって決まる最終結果を最適化するために以下に示す変数の使用に基づいている。
【0038】
常圧プラズマ発生器の種類
本発明の複合材料構造体の表面処理法は、それの個々の技術的特性およびプラズマ発生のために採用されるシステム如何にかかわらず、市販のプラズマ発生装置を用いて実施できる。本発明はノズル形状に関しては非常にフレキシブルであり、截頭円錐形状のプラズマ焦点を形成するためのポイント・ノズルを使用してもよいし、また重なり合った点源を揃えてより広い表面をカバーするノズルを設計してもよい。後者のシステムにより処理表面を選択する際にはフレキシビリティを高めることが可能になる。なぜならば、点源全体あるいはより狭い面積をカバーするためにそれの一部を使用できるからである。同様にして、線面にプラズマを分配するノズルも使用可能であり、これにより処理の均一性を高めることができる。あるいは、異なった処理プロファイルを形成可能な円形ノズルですら使用可能である。航空機用構造体を接合する際には、被処理表面は常に強化材とベース部品表面の間の接触表面と一致しており、従って強化材ベースの幅と長さによって決まる。
【0039】
ノズルと基板の間の距離
本発明の方法では、常圧でプラズマを截頭円錐形状で発射し、従ってノズルと基板の間の距離が増加すれば処理される表面は広がる。その一方で、基板までの距離が増加すれば、表面活性化のためのプラズマの電力と効果は低下する。これが、0.5〜10cmの距離の間で、プラズマ・ビ−ムで処理する面の寸法と処理効果の間での妥協点としての条件を探す必要性の理由である。炭素繊維強化複合材料を処理する際の最適距離は0.5〜3cmである。距離がそれよりも短いと通常は熱により母材および接合部の最終性状が損なわれ、またそれよりも長いと処理効果がかなり低下する。ノズルと基板の間の距離を減少することにより処理密度が増加し、またそれの線速度も上昇する可能性がある。
【0040】
プラズマビ−ムの入射角
本発明の方法では、入射角は75〜105°の範囲内であれば処理表面性状に大きな影響を及ぼさないことが立証されている(プラズマ・ビ−ムが確立されている距離許容範囲内で発射されるとの前提下で)。入射角に依存しないことは、湾曲表面を処理する際には特に興味深いことである。
【0041】
プラズマ・ビ−ム発生のために印加される電力
本発明の方法では、プラズマ・ビ−ムの電力は処理によって得られた最終性状を決める。電力が過剰な場合には、表面の融除により微小表面粗さが全面的になくなる可能性すらあり、こうなれば接着接合の強度と耐久性を低下する。
同様にして、過剰な電力は処理表面を熱的に劣化する可能性があり、界面の強度を弱め、その結果接合効率を低下する。一方、プラズマ電力が不十分な場合には、ポリマー母材表面は望ましい程度までには活性化されず、従ってそれの接着接合の性能は顕著な程には改善しない。炭素繊維強化複合材料を処理する際の最適処理電力は2000〜3000Wの範囲内にある。
【0042】
使用するガスあるいはガス混合物
本発明の方法では、常圧プラズマを使用する表面処理は、一種あるいは複数種の反応性ガスと組み合わせて実施できる。これによって、それの性質あるいは活性化程度によっては基板の選択的な改質が可能になる。反応器内で発生したプラズマは圧縮空気システムによって基板に照射することができるが、被接着体の化学的性状から見てそうすることが必要であるのであれば、常圧プラズマの作用を高める他の反応性のガスあるいはガス混合物(O、N、Ar等々)を使用してもよい。この種のガスは活性化処理を受けるポリマーの表面エネルギーを増加する活性種として働く。
炭素繊維/エポキシ樹脂、ガラス繊維/エポキシ樹脂、あるいは炭素繊維/ビスマレイミド樹脂の複合材料基板を処理する際には、空気は適切な反応性ガスである。
【0043】
処理速度
航空機用構造体処理のための本発明の方法では、20m/時を越える処理速度の採用が推奨される。炭素繊維/エポキシ樹脂の複合材料を処理する際には、1m/分の線速度が最適であることが観察されている。この場合のプラズマ・ビ−ムの幅は処理表面幅と同一である。上記の速度の採用により、望ましい融除と組成が達成され、またそれはその後の航空機用構造体のアセンブリーのためのアセンブリーに使用される大形部品の大量生産から見て十分な速度である。
【0044】
処理表面
処理面積は、処理線速度とプラズマを発射するノズルがカバーできる表面積の両方に依存する。同処理の実態は大形部品に対してプラズマを照射することであり、それの被照射面は通常は25〜400mmの範囲内に幅が変動する本質的にはストリップである。
【0045】
自動化
本発明の方法の実態は自動化、そして現行の生産プロセスでの他の工程として組み込むことの容易化である。同プロセスの自動化のための2種類の方法を以下に述べる:
a)被処理部品の全体にわたって移動可能なロボットにプラズマ・ヘッドを装着し、選択的に処理を実施する。この種の自動化は、例えば裏地材や翼のスパーのような大形部品を製作する場合には望ましい。この自動化は、その後接着剤を塗布する部分を数値制御システムにより選択的に処理するためにプログラム化できる。この種のシステムは多目的に適用できるので、非常に多数の部品を基準線を参照して位置決めするだけで個々の処理をプログラム化できる。
b)プラズマ・ヘッドを定置式の支持体に装着し、部品をモーター駆動により3軸方向(回転運動も設計できる)に動くベンチ上で移動する。常圧プラズマ・ヘッドの技術的な複雑さによりそれの自動システムへの装着が難しい場合には、それを定置式の支持体に装着する。この場合には、部品はそれの被処理表面上の走査シーケンスを完了するために移動されることになろう。
【0046】
プロセス制御
処理の全面的な自動化により、例えば被処理部品での接触角の測定のような大量の表面を用意するプロセスでの品質モニタリングシステムの実行が可能になる。いずれにせよ、この種のシステムは処理の再現性を保証でき、統計的なサンプリングを、あるいはプロセス工程中での試験を必要としない品質保証システムの実施ですら、容易化する。このような場合には、自動システムは被処理部品での接触角を測定するように実施できる。
【0047】
本発明の実態を適用したいくつかの試験の結果を以下に述べる。
試験1
炭素繊維/エポキシ樹脂複合材料パネル(パネル977−2)を処理した。同試験は、可動パネルの移動速度を1〜10m/分の範囲内で変化させ、また以下に示すその他のプロセス変数の条件下で実施した:
プラズマ・ビーム電力:2362W
可動プレートとビーム間の距離:0.75cm
連続処理数:1
図1に、異なった標準液を用いた際の可動プレートの移動速度の変化に対する静的接触角の変化を示している。
可動プレートの移動速度が減少(処理時間が増加)するに従い接触角は減少し濡れ性は向上する(接触角の減少)。
【0048】
接着接合が有効に働くためには被接着体と接着剤が密接に接触することが必須条件であり、そしてそのためには接着剤が被接着体表面を全面的に濡らさなければならないので、接触角は非常に重要な指標である。この濡らす能力(すなわち濡れ性)は表面エネルギー(sSV)によって定量的に表される。この表面エネルギーは接触角によって変化する。接触角とは、接着剤が被接着体表面に接触した際にそれの表面によって形成される角度のことである。接触角の値は、主として接着剤/被接着体表面間の接着力と接着剤の凝集力の間の比率に依存する。接着剤の接着力が凝集力に比べて非常に高い場合には、接触角は90°未満となり、その結果接着剤は被接着体表面を濡らす。接触角が小さい(濡れ性が高い)と表面エネルギーは増加し、接着剤/被接着体表面間の接触が向上し、従って接着接合の効率は向上する。
【0049】
図2〜4は、可動プレートの移動速度を増加させた際(すなわち、ビームによる処理時間を短縮した際)には被処理表面でストリッピング(表面材の損失)がいくらか起こり、一方同表面がより長期間プラズマにさらされると(可動プレートの移動速度の低下により)表面粗さが減少することを示している。このような挙動はプラズマ・ビーム処理の結果起こる融除に起因している。すなわち、可動プレートの移動速度が低下し処理が活発化すれば、ストリッピングの程度も増加して複合材料表面の粗さが低下する。
【0050】
図5は、可動プレートの移動速度が減少(処理速度が増加)するに従い酸素原子濃度およびO/C比(両原子とも複合材料表面に存在する)が増加することを示しており、これは接着にとって有利な条件となる。同様にして、図6に示すように、最初の原子層のNおよびSは可動プレートの移動速度の低下に従って増加する。このことは、処理深さの増加を意味する。可動プレートの移動速度の低下に従ってF濃度は連続的に低下することも注目すべき現象である。Fの存在は離型剤の使用に起因し、接合部にとって有害である。
【0051】
表面エネルギーが低い表面は通常は非極性である。材料表面上に含酸素基が生成すると、その表面の極性は増加し、これはそれ自身の接着性にとって有利となる。なぜならば、「新たな」ファンデルワールス力(これは接合すべき表面の密接な接触と直接的に係わり合いがある)が発生し、また水素結合(これは接合部の構造上の要求事項を満たすに十分な力がある)が生成するからである。その結果、表面の極性が増加する(O/C比が増加する)に従い、表面エネルギーが増加し従って接着接合の効果は向上する。
【0052】
試験2
複合材料パネル)を処理した。同試験は、処理距離を変化させ、また以下に示すその他のプロセス変数の条件下で実施した:
プラズマ・ビーム電力:2200W
処理速度:1m/分
同試験の目的は、上述の元素濃度の変化と接合線の引張強度による処理耐久性の評価であり、以下の結果が得られた。
【0053】
【表1】

【0054】
プラズマ・ビームで処理された部品の損傷モードは凝集によるものである(すなわち、破壊は接着剤膜内に発生する)。一方、未処理部品の損傷モードは接着によるものである(すなわち破壊は複合材料と接着剤の間の界面内に発生する)。これらの試験結果は、複合材料中のプラズマ・ビーム処理により得られた表面は処理後少なくとも25日間は劣化しないことを示している。
【0055】
この種の試験は、活性化されたポリマー表面の性状は、それらが接合される以前の段階で通常の工場内で保管される日数以内には劣化しないことを示しており、従ってプラズマを使用する同プロセスの採用により、大気中での劣化からより大きな影響を受ける表面準備方法のための生産シーケンスのフレキシビリティは向上する。
【0056】
以下の特許請求の範囲で規定される範囲内で、上述の好ましい実施態様で説明した改質を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を炭素繊維強化のエポキシ樹脂複合材料をプラズマで処理して表面処理を実施する試験において、可動プレートの移動速度(処理時間)を変化させた場合の接触角の漸進的な変化を示している。
【図2】各々処理前の複合材料表面、および本発明の実態により5m/分および1m/分の速度で処理した表面の顕微鏡写真を示している。
【図3】各々処理前の複合材料表面、および本発明の実態により5m/分および1m/分の速度で処理した表面の顕微鏡写真を示している。
【図4】各々処理前の複合材料表面、および本発明の実態により5m/分および1m/分の速度で処理した表面の顕微鏡写真を示している。
【図5】本発明の方法の実態によって処理され材料表面でのO、CおよびO/C比の可動プレート移動速度に対する漸進的な変化を示している。
【図6】図6は、本発明の方法の実態によって処理され材料表面でのN、SおよびFの可動プレート移動速度に対する漸進的な変化を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料構造体の所定の場所に対して、放出ノズルを装備するプラズマ発生器により発生した少なくとも1個の常圧プラズマ・ビームを照射してそれと他の構造体との接着接合を容易化する方法であって、同プラズマ・ビームは反応性ガスを含有した状態で同ノズルから放出され、同反応性ガスは0.2〜10cmの距離から複合材料構造体に照射され、同プラズマ・ビームは75〜105°の入射角で複合材料構造体に照射される表面処理法であって、同プラズマ・ビームは同複合材料構造体に対して、そこで形成された接触角が90°未満となるように照射され、その結果同複合材料構造体は他の構造体表面を濡らすことを特徴とする(ここで、接着接合が有効に働くためには同複合材料構造体と他の構造体が密接に接触することが必須条件であるので、接触角は重要な指標である)。
【請求項2】
該プラズマ・ビームが少なくとも1種の反応性ガスを含有していることを特徴とする請求項1の複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項3】
該複合材料構造体が炭素繊維とエポキシ樹脂を含有し、また該反応性ガスが空気であることを特徴とする請求項2の複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項4】
該複合材料構造体が炭素繊維とビスマレイミド樹脂を含有し、また該反応性ガスが空気であることを特徴とする請求項2の複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項5】
ノズルから放出される該プラズマ・ビームが0.5〜3cmの距離から複合材料構造体に照射されることを特徴とする請求項3あるいは4いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項6】
処理速度が0.8〜2m/分であることを特徴とする請求項3あるいは4いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項7】
該プラズマ・ビームが2000〜3000Wの電力で照射されることを特徴とする請求項3あるいは4いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項8】
該複合材料構造体がガラス繊維とエポキシ樹脂を含有し、また該反応性ガスが空気であることを特徴とする請求項2の複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項9】
該プラズマ・ビームが静止している複合材料構造体に照射され、該プラズマ発生器が可動式であることを特徴とする請求項1〜8いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項10】
該プラズマ・ビームが静止式のプラズマ発生器から可動式の複合材料構造体に照射されることを特徴とする請求項1〜8いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。
【請求項11】
該プラズマ発生器と複合材料構造体の間の相対的移動を制御するために自動式手段を用い、また該プラズマ・ビームの複合材料構造体に対する入射角が構造体の異なった部分で異なることを特徴とする請求項9あるいは10いずれかの複合材料構造体の所定の場所を表面処理する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2009−510207(P2009−510207A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532812(P2008−532812)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/ES2005/070134
【国際公開番号】WO2007/039651
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507220970)
【Fターム(参考)】