説明

複合材料

【課題】 分散剤の影響が少なく、且つ、ナノカーボンが高濃度分散している複合材料及びその製造方法の提供。
【解決手段】 ナノカーボン水系分散液とポリマー有機溶媒溶液とを混合してなる混合分散液から、水相と有機相とに相分離させて、前記有機溶媒を除去して得られる複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ナノカーボンとポリマーとを含む複合材料であって、ナノカーボンが高濃度で分散している導電性の高い複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックやゴム等のポリマー化合物に、無機系フィラーを添加することは一般的に行われている。その中でも、炭素系フィラーは、強度や導電性の点で、従来から幅広く用いられている。炭素系フィラーには、古くからカーボンブラックが用いられ、その他には最近、炭素繊維や、特にカーボンナノチューブ(CNT)のようなナノカーボンを用いることがよく検討されている。最近これらの中でも特に、CNTが、生成物に対して高い強度や高い導電性を付与できるため、多く用いられている。
【0003】
CNTを含有するポリマー化合物として、例えば、ポリカーボネート(PC)の組成物がよく検討されている。PCをマスターバッチ(MB)化した製品は既にハイペリオン社より販売され、電子部品用静電防止用トレイ等に実用されている。PC等の樹脂に、CNTを直接混練ではなく、分散液を使用してマスターバッチ化したものも知られている(特許文献1)。当該文献に記載された方法は、樹脂ペレットにCNT分散液を塗布してなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−274060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、CNTとPC等のポリマーとの複合材料を調製するためには、通常は2軸押出機のような設備により混練が行なわれてきた。しかし、この方法では熱を加えながら機械的に混合するため、樹脂やCNTへのダメージが無視できない。更に、CNTの能力を引き出すには、その分散レベルが重要であるが、分散度を高めようとすると、必然的に上記のダメージが増加し、その結果、特にCNTが折れたりすることで所望の性能が発揮できないことがあった。
【0006】
また、最近では取扱性の向上等のため、特許文献1のように、CNTをペレット形状として供給するケースもあるが、このような場合、CNTが凝集し絡み合っているため、分散のためには凝集(アグロメレート)をほぐす必要がありこれを使いこなすには、より強力な物理的な力が必要で、従来の混練による方法では限界があった。即ち、上記の特許文献1に係る方法は、樹脂ペレットの表面のみにCNTが存在し、樹脂中に均一に分散させるのは混合プロセスになる。更に、分散剤が同時に存在するため、導電性への悪影響が考えられる。更にそのプロセス性質上、高濃度なマスターバッチを作ることもできない。そこで、当該課題を解決するため、分散剤の影響が少なく、且つ、ナノカーボンが高濃度分散している複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、ナノカーボン水系分散液と、ポリマー有機溶媒溶液とを混合してなる混合分散液から、水相と有機相とに相分離させて、前記有機溶媒を除去して得られる複合材料である。
【0008】
本発明(2)は、前記混合分散液に対して凝固剤を加える、前記発明(1)の複合材料である。
【0009】
本発明(3)は、前記有機溶媒除去が、有機相と水相とが共存した状態で攪拌しながら加熱し溶媒を除去する工程である、前記発明(1)又は(2)の複合材料である。
【0010】
本発明(4)は、前記ポリマーが、熱可塑性樹脂である、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの複合材料である。
【0011】
本発明(5)は、前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネートである、前記発明(4)の複合材料である。
【0012】
本発明(6)は、前記有機溶媒が塩化メチレンである、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの複合材料である。
【0013】
本発明(7)は、前記発明(1)〜(6)のいずれか一つの複合材料を含む、成形品である。
【0014】
本発明(8)は、ナノカーボンが分散している複合材料を製造する方法において、
ナノカーボン水系分散液と、ポリマー有機溶媒溶液とを混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた分散液から、有機相と水相とに相分離させる相分離工程と、
前記相分離工程により分離された有機相の有機溶媒を除去する、有機溶媒除去工程と、
を含むことを特徴とする製造方法である。
【0015】
本発明(9)は、前記混合工程又は相分離工程において、更に、凝固剤を加える、前記発明(8)の製造方法である。
【0016】
本発明(10)は、前記有機溶媒除去工程が、有機相と水相が共存した状態で攪拌しながら加熱し溶媒を除去する工程である、前記発明(8)又は(9)の製造方法である。
【0017】
本発明(11)は、前記相分離工程後に、更に、水相と有機相とを分液し、当該有機相を水及び/又は水系洗浄液で洗浄する水洗工程を含む、前記発明(8)〜(10)のいずれか一つの製造方法である。
【0018】
本発明(12)は、前記洗浄工程において使用する洗浄液が、酸系洗浄液である、前記発明(11)の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明(1)及び(8)によれば、過度の熱や機械的な力を加えることなく、CNTを高効率で樹脂に分散することが可能となる。そのため、従来の方法より導電性や熱伝導性等が優れたCNT樹脂組成物が得られる。
【0020】
本発明(2)及び(9)によれば、分散剤がポリマー中に残存しにくくなるため、熱安定性や機械的物性の低下、ブリードの発生、導電性の低下といった好ましくない現象を低減するという効果を奏する。
【0021】
本発明(3)及び(10)によれば、複合材料が球状(ビーズ状)の粒子で得られるため取扱がしやすく、その後の操作において好都合であるという効果を奏する。
【0022】
本発明(4)によれば、複合材料をそのまま、あるいはバスターバッチとして混練し、従来と同様の射出成形、押出成形、プレス成形、といった成形加工が容易に行える、という効果を奏する。
【0023】
本発明(5)によれば、特にポリカーボネートの有する高強度に、導電性などのポリカーボネートの有していない性能を付与できる、という効果を奏する。
【0024】
本発明(6)によれば、ポリマー溶解性が高く、沸点が高いため溶媒除去が容易であるという効果を奏する。
【0025】
本発明(7)によれば、導電性と強度が優れたCNT分散複合材料により構成される、成型品を得ることができるという効果を奏する。これらの成型品は、各種電気・電子部品等に用いられる。また、従来では考えられなかった高濃度でも製造可能なので、その他の用途にも使用可能性がある。
【0026】
本発明(11)によれば、CNT分散液に含まれる分散剤等の不純物を除去することが可能で、当該複合材料の熱安定性、ブリード、その他導電性・強度低下等といった好ましくない影響を低減することができるという効果を奏する。
【0027】
本発明(12)によれば、上記の効果に加えて、CNTに含まれることがある金属触媒を除去することが可能で、当該複合材料の熱安定性、耐加水分解性等といった、残存金属が樹脂の分解反応を触媒しうるような好ましくない影響を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本最良形態に係る複合材料は、ナノカーボン水系分散液と、ポリマー有機溶媒溶液とを混合してなる混合分散液を調製し、水相と有機相を相分離し、相分離した有機相の有機溶媒を除去して得られる。尚、最終的に得られる複合材料は、水が含まれる状態で使用してもよいが、水が除去されていることが好適である。ここで、「ナノカーボン」としては、特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブ(単層・二層・多層タイプ、カップスタック型)、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン又はフラーレンを挙げることができる。
【0029】
ナノカーボン水系分散液
ナノカーボン水系分散液は、ナノカーボンと、分散剤と、水系溶媒(分散媒)とを含有する。ここで、「水系」とは、水又は水と親水性溶媒(例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン(MEK)等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、が挙げられる。)との混合液を意味する。ナノカーボンとして使用可能なカーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)であっても、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)であってもよい。カーボンナノチューブの長さは、0.1〜100μmが好適であり、0.1〜50μmがより好適であり、0.1〜20μmが更に好適である。カーボンナノチューブの直径は、5〜100nmが好適であり、9〜60nmがより好適であり、9.5〜50nmが更に好適である。尚、当該チューブの長さ、直径は、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて、所定範囲内に存在する100個以上の構造体について測定し、90%以上の個数が入る範囲とする。
【0030】
また、カーボンナノチューブの合成法も特に限定されず、いかなる合成方法、例えば、電気放電法(C.Journet et al., Nature 388, 756(1997)及びD.S.Bethune et al., Nature 363, 605(1993))、レーザー蒸着法(R.E.Smally et al., Science 273, 483(1996))、気相合成法(R.Andrews et al., Chem. Phys. Lett.,303,468, 1999)、熱化学気相蒸着法(W.Z.Li et al., Science, 274, 1701(1996)、Shinohara et al., Jpn.J.Appl.Phys. 37, 1257(1998))、プラズマ化学気相蒸着法(Z.F.Ren et al., Science. 282,1105(1998))等により製造されたものでもよい。尚、合成に際し金属触媒が用いられた粗生成物に関しては、酸で処理して金属触媒を除去することが好適である。酸処理に関しては、例えば、特開2001−26410記載のように、酸水溶液としては硝酸溶液または塩酸溶液を用い、例えば、硝酸溶液は50倍の水に希釈された溶液を、塩酸溶液も50倍の水に希釈された溶液を使用する手法を挙げることができる。そして、このように酸処理した後、洗浄し、フィルタリングし、カーボンナノチューブ水溶液とする。
【0031】
カーボンナノチューブは、当該分散液中で孤立分散していることが好適である。ここで、カーボンナノチューブが孤立分散した分散体を調製する手段としては、カーボンナノチューブを含む溶媒に孤立分散可能な分散剤を添加する方法や、カーボンナノチューブ自体に親水性の官能基を導入する化学修飾法(自己分散化)が挙げられる。ここで、孤立分散可能な分散剤としては、特に限定されないが、例えば、リン脂質系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の界面活性剤、シクロデキストリン類といった包摂化合物を形成するホスト化合物、その他核酸やたんぱく質等の天然由来の高分子化合物等が挙げられる。「リン脂質系界面活性剤」とは、リン酸基を官能基とする陰イオン性界面活性剤・両性イオン界面活性剤であり、リン脂質(グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質の両方を含む)及び改質リン脂質(例えば、水素添加リン脂質、リゾリン脂質、酵素変換リン脂質、リゾホスファチジルグリセロール、他の物質との複合体)のいずれでもよい。このようなリン脂質は、生物を構成する細胞の種々の膜系、例えば原形質膜、核膜、小胞体膜、ミトコンドリア膜、ゴルジ体膜、リソソーム膜、葉緑体膜、細菌細胞膜に存在し、好適には、リポソームの調製に用いられるリン脂質が好適である。具体的には、例えば、ホスファチジルコリン{例えば、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトリルホスファチジルコリン(DPPC)}、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。特に好適な界面活性剤は、両性イオン界面活性剤である。両性イオン界面活性剤としては、四級アンモニウム塩基/スルホン酸基(−SOH)タイプ、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に可溶)、四級アンモニウム塩基/リン酸酸基タイプ(水に不溶)、四級アンモニウム塩基/カルボキシル基タイプの両性イオン界面活性剤が挙げられる。尚、前記の酸基は塩であってもよい。特に、前記の両性イオン界面活性剤が一分子中に+と−の両電荷を有することが好適であり、前記の酸基の酸解離定数(pKa)が、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。具体的には、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO)、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアミノ]−プロパンスルホン酸(CHAPS)、N,N−ビス(3−D−グルコナミドプロピル)−コラミド、n−オクタデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−デシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−ドデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−テトラデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸{Zwittergent(商標)−3−14}、n−ヘキサデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸、n−オクタデシル−N,N’−ジメチル−3−アミノ−1−プロパンスルホン酸等のアンモニウムスルホベタイン類、n−オクチルホスホコリン、n−ノニルホスホコリン、n−デシルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリン等のホスホコリン類、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン類が挙げられる。
【0032】
尚、本最良形態に係る分散液中に含まれるナノカーボンの濃度は、0.2〜50wt%が好適であり、0.5〜20wt%がより好適であり、1〜10wt%が更に好適である。また、分散剤のナノカーボンに対する重量比は、0.01〜100が好適であり、0.05〜20がより好適であり、0.1〜10が更に好適である。
【0033】
ポリマー有機溶媒溶液
ポリマー有機溶媒溶液は、ポリマーと、有機溶媒とを含有する。その他、熱安定剤、離型剤、シランカップリング剤等が含まれていてもよい。本最良形態において用いられるポリマーは、有機溶媒に溶解可能であれば特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、セルロースアセテート、エチルセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリラート、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジン、シュークロースオクタアセテート、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、メタクリル樹脂(PMMA)、6−ナイロン、6,6−ナイロン、全/部分芳香族ポリアミド等のポリアミド(PA)類全般、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、全/部分芳香族ポリエステル等のポリエステル類全般、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリカーボネートが好適である。
【0034】
本最良形態において使用できるポリカーボネートは、通常二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法で反応させて得られるものである。ここで使用できる二価フェノールとしては、特に限定されないが、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールAが好適である。また、これらの二価フェノールは、単独または2種以上を混合して使用できる。
【0035】
一方、カーボネート前駆体としては、特に限定されないが、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用可能であり、より具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0036】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を溶液法または溶融法によって反応させてポリカーボネートを製造するに際して、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。また、三官能以上の多官能性芳香族化合物を分岐化剤として二価フェノールに対して、0.03〜3モル%の範囲で併用して分岐化ポリカーボネート樹脂とすることもできる。かかる分岐化剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、イサチンビスクレゾール等が例示される。また、ポリカーボネート樹脂は、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0037】
溶液法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもでき、末端停止剤として、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノール等の単官能フェノール類が用いられる。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0038】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を10〜0.1Torr程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。ここで、使用できるカーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基等のエステルが挙げられる。具体的には、特に限定されないが、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m―クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0039】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類等の通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10−7〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−6〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。
【0040】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮合反応の後期あるいは終了後に、例えば、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ブロモフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ビス(フェニルフェニル)カーボネート、クロロフェニルフェニルカーボネート、ブロモフェニルフェニルカーボネート、ニトロフェニルフェニルカーボネート、フェニルフェニルカーボネート、メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよびエトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることが好ましい。中でも、2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく使用される。
【0041】
ポリカーボネートの分子量は、粘度平均分子量(Mv)で10,000〜50,000が好ましく、12,000〜40,000がより好ましく、13,000〜35,000が特に好ましい。Mvがこの範囲より高いと、溶融時の粘度が高すぎるため成形加工が困難となる。また粘度が低いと製品の強度が低くなり実用に適しない。本発明でいう粘度平均分子量は塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0042】
有機溶媒は、使用する熱可塑性樹脂を溶解できれば、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素類であるトルエン、ベンゼン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、塩化芳香族炭化水素類であるクロルベンゼン、オルト−ジクロルベンゼン、塩化脂肪族炭化水素類である塩化メチレン、クロロホルム(トリクロルメタン)、四塩化炭素(テトラクロルメタン)、1,2−ジクロルエタン、1,1,1−トリクロルエタン、1,1,2,2−テトラクロルエタン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、トラクロルエチレン(パークロルエチレン)、アルコール類であるメタノール(メチルアルコール)、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)、ブチルアルコール、シクロヘキサノール、エステル類である酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル(酢酸アミル)、酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)、エーテル類であるエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ケトン類であるアセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホン、グリコールエーテル(セロソルブ)類であるエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、脂環式炭化水素類であるシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、脂肪族炭化水素類であるノルマルヘキサン、脂肪族または芳香族炭化水素の混合物であるガソリン、ベンジン、ゴム揮発油、大豆揮発油、ミネラルスピリット、クリーニングソルベント、コールタールナフサ(沸点範囲120〜160℃、120〜180℃、140〜200℃)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、ミネラルスピリット、脂環族炭化水素(テレビン油)、混合炭化水素(HAWS、ソルベット100、ソルベット150)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カービトール、ブチルカービトール、メトキシブタノール)及びエステルエーテル類(酢酸セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸カービトール、酢酸メトキシブチル)、シリコーンオイル類(ポリジメチルシロキサン、部分オクチル置換ポリジメチルシロキサン、部分フェニル置換ポリジメチルシロキサン)、ハロゲン化炭化水素(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、ブロモベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン)、フッ素化物類、その他であるクレゾール、二硫化炭素、アミド系であるN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、ニトリル系であるアセトニトリル、スルホキシド系であるジメチルスルホキシド(DMSO)、等が挙げられる。またこれらを2種以上混合してもよい。さらに溶剤の量は、水分散液と混合できる適当な範囲になるように選定すればよい。これらの溶剤の中でも、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素類が好適である。尚、溶剤は水に不溶なもの、水と相溶性のあるもののいずれも使用可能であるが、水との相溶性がある溶剤の場合は、水分散液と混合したときにポリマーが沈降し所望の効果が得られない場合があるので、水に不溶な溶剤を用いるのがより好ましい。尚、後述する溶媒除去のプロセス上、その沸点は水より低い(常圧で100℃以下)ものを用いることが好ましい。ポリマーと溶媒の組合せは、ポリマー溶解性と沸点(溶媒除去の容易性)という観点から、ポリカーボネート(PC)と塩化メチレンが好適である。本最良形態に係るポリマー有機溶媒溶液におけるポリマー濃度は、0.1〜90wt%が好適であり、1〜50wt%がより好適であり、3〜30wt%が更に好適である。
【0043】
任意成分
上記のCNT分散液とPC溶液を混合する際、熱安定剤、離型剤等の各種添加剤や、シランカップリング剤を添加することが可能である。ここで、熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、リン系化合物、フェノール系化合物、が使用される。ここで、リン系化合物としては、特に限定されないが、例えば、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステルが挙げられる。亜リン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。続いて、リン酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等が挙げられる。次に、亜ホスホン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスホナイト等が挙げられ、またホスホン酸エステルとしては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。これらのリン化合物なかでも、亜リン酸エステルが好適であり、特にトリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好適である。これらの熱安定剤は単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0044】
本最良形態において使用可能なフェノール系化合物は、特に限定されないが、例えば、4−ヒドロキシ−3−メチル−t−ブチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート]メタン、ジステアリル(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチル)ベンジルマロネート等が挙げられる。当該フェノール系化合物は、さらにポリカーボネート樹脂の熱安定性を向上させるため、前記リン系化合物と共に用いられることが好適である。
【0045】
離型剤としては、特に限定されないが、例えば、高級アルコール、カルボン酸エステル、ポリオレフィンワックス、ポリアルキレングリコールが挙げられる。本最良形態において使用可能な高級アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数6〜40の一価のアルコールが挙げられる。具体的には、例えば、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、イコシルアルコール、ドコシルアルコール、トリアコンチルアルコール、テトラコンチルアルコール、ガーベットアルコール、ユニリンアルコール等が挙げられる。
【0046】
カルボン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、一価又は多価アルコールの長鎖カルボン酸エステルが挙げられる。具体的には、例えば、炭素数が2〜40の一価又は多価アルコールの少なくとも一つの水酸基が、炭素数8〜40のモノ又はジカルボン酸とエステルを形成しているものが挙げられる。ここでの炭素数が2〜40の一価又は多価アルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、イコシルアルコール、ドコシルアルコール、トリアコンチルアルコール、テトラコンチルアルコール、ガーベットアルコール、ユニリンアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ネオペンチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ヘキサントリオール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリヒドロキシステアリルアルコール等が挙げられる。また、炭素数8〜40のモノ又はジカルボン酸としては、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、テトラコンタン酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸等が挙げられる。本最良形態に係るカルボン酸エステルとしては、例えば、オクタデシルオクタデシレート、ドコスルドコサレート、ドコシルオクタコサネート、エチレングリコールモノオクタデシレート、グリセリンモノオクタデシレート、グリセリンジドデシレート、グリセリンジオクタデシレート、グリセリントリオクタデシレート、グリセリントリドコサネート、トリメチロールプロパンモノオクタデシレート、トリメチロールプロパンジオレエート、トリメチロールプロパントリデシレート、トリメチロールプロパンジオクタデシレート、ペンタエリスリトールモノドコシレート、ペンタエリスリトールモノオクタデシレート、ペンタエリスリトールジオクタデシレート、ペンタエリスリトールトリオクタデシレート及びペンタエリスリトールテトラオクタデシレート等が挙げられる。
【0047】
ポリオレフィンワックスとしては、特に限定されないが、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。ポリエチレンワックスとしては、分子量が1000〜5000程度で、融点が100〜120℃の範囲のものが好適であり、ポリプロピレンワックスとしては、分子量15000〜40000程度のものが好適である。これらの中でもポリエチレンワックスが好ましい。
【0048】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリエチレン−プロピレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールの分子量としては、特に限定されないが、例えば、500〜20000の範囲のものが好適である。上記の離型剤は一種用いてもよく、又、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、分子内に下記一般式、
RSiX
(但し、Rは有機材料と結合することができる官能基、例えば、ビニル基、グリシド基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、等を含む有機置換基である。一方、Xは無機材料と反応することがきる加水分解性基であり、例えば、塩素、炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。)
で表される珪素含有化合物を表し、有機材料と無機材料の界面に介在して両者を結合させる機能を有する化合物である。
【0050】
該シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、等を挙げることができ、中でも、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。上記のシランカップリング剤は一種用いてもよく、又、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
《複合材料の組成》
ここで、本最良形態に係る複合材料のナノカーボンの濃度は、複合材料全体の質量の0.01〜90wt%が好適であり、0.1〜70wt%がより好適であり、1〜50wt%であることが更に好適である。本最良形態に係る複合材料の熱安定剤の濃度は、複合材料全体の質量の0.01〜10wt%が好適であり、0.05〜5wt%がより好適であり、0.1〜1wt%が更に好適である。また本最良形態に係る複合材料における離型剤の含有量としては、複合材料全体の質量の0.01〜10wt%が好適であり、0.05〜5wt%がより好適であり、0.1〜1wt%が更に好適である。また本最良形態に係る複合材料におけるシランカップリング剤の含有量としては、複合材料全体の質量の0.01〜10wt%が好適であり、0.05〜5wt%がより好適であり、0.1〜1wt%が更に好適である。
【0052】
《複合材料の性質》
複合材料の体積抵抗は、特に限定されないが、10Ω・cm以下が好適であり、10Ω・cm以下がより好適であり、10Ω・cm以下が更に好適である。下限は特に限定されないが、例えば、10−4Ω・cm以上である。尚、体積抵抗は、三菱化学ロレスタGP MCP−T610(4探針法)により測定する。
【0053】
《製造方法》
本最良形態に係る複合材料は、ナノカーボン水系分散液と、ポリマー有機溶媒溶液とを混合する混合工程と、前記混合工程により得られた分散液から、水相と有機相とに相分離させる相分離工程と、前記相分離工程により分離された有機相の有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程とを含む製造方法により得られる。また、任意で、水洗浄工程を設けてもよい。更に、必要に応じて複合材料から水を除去する工程を含む。
【0054】
混合工程
はじめに、ナノカーボン水系分散液と、ポリマー有機溶媒溶液とを混合する。当該工程により、混合物は水相と有機相が混じった溶液もしくはスラリー、エマルジョン状態となるが、有機溶媒が水に不溶の場合は通常エマルジョン状態となる。また有機溶媒と水が相溶性があっても溶解/分散している物質の性状や濃度によってはエマルジョン状態となる。混合工程において、後の水相分離工程を効率よく行なうため、後述する凝固剤を加えることが好適である。尚、混合工程において用いるポリマー有機溶媒溶液の調製方法として、例えば、製品のポリカーボネートを有機溶媒に溶解してから使用してもよく、また、ポリカーボネートの製造工程(通常、ホスゲン法では塩化メチレンを溶媒として用いられる)で使用する塩化メチレン等の溶液をそのまま用いてもよい。ここで、ナノカーボン水系分散液のポリマー有機溶媒溶液に対する混合比は、先述の複合材料のナノカーボン濃度の範囲となるように調製出来る範囲であれば特に制限はないが、通常は重量比で0.001〜1000が好適であり、0.01〜100がより好適であり、0.1〜10が更に好適である。
【0055】
相分離工程
相分離工程において、放置して水相と有機相の2相に分離させてもよいが、実際は放置してもすぐには分離しないので、前記混合工程の後に、加熱、溶媒または水による希釈等の操作を行ってもよいが、特に、攪拌しながら凝固剤(無機塩等)を添加の後放置することにより2相に分離させるのが好ましい。ここで、凝固剤としては、水に溶解してナノカーボンの水への分散を不安定化させ、それと同時にナノカーボンを有機相に移行させる性質を有する化合物であれば、特に限定されないが、例えば、水に溶解してイオン化する化合物であり、その中でも好ましいのは金属塩類、特に硝酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム塩のような無機塩、酢酸ナトリウムや酢酸カルシウムのような有機酸の塩、硫酸、塩酸、硝酸のような無機酸、酢酸、安息香酸のような有機酸が挙げられる。尚、凝固剤は、固体のままで添加してもよいし、水溶液の状態として添加してもよい。またこのように2相分離させることで、水相に分散していたCNTを有機相に移行させるのが好ましい。この操作により、分散剤によって水相に分散していたCNTのみが有機相に移行すると同時に、界面活性剤等の分散剤は水に可溶であるため、水相に残り、有機相はポリマーとCNTのみが残る。その結果、分散剤(複合材中に含まれた場合不純物として作用することがある。)がポリマー中に残存しにくくなるため、当該複合材の熱安定性や機械的物性の低下、ブリードの発生、導電性の低下といった好ましくない現象を低減することが可能となる。尚、凝固剤の添加は加熱、溶媒または水による希釈等と併用することも可能である。分離した有機相は、その濃度によって状態が異なり、液状であってもスラリー状であっても、ペースト状であってもよい。尚、水相と有機相が分離した状態になっていれば、特に限定されず、2相に分離した状態で有機相の後述の溶媒除去工程により溶媒を除去してもよく、有機相と水相を分液してから溶媒を除去してもよい。また、有機相と水相を分液した場合には、更に、任意で、後述する水洗浄工程を追加してもよい。
【0056】
溶媒除去工程
溶媒除去工程において、溶媒を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、加熱、減圧操作が挙げられる。特に、有機相と水相が共存した状態で攪拌しながら加熱し溶媒を除去すると、複合材が球状(ビーズ状)の粒子で得られるため取扱がしやすく、その後の操作において好都合である。この場合、2層に分離した状態そのままで加熱しても良いが、分離した水相を除去したうえで、又はさらにその後の洗浄を行ったうえで、後述の水及び/又は水系洗浄液による水洗を行いながら、攪拌しつつ加熱して溶媒を除去するのが好ましい。この場合の操作は、水相と有機相を混合してから攪拌・加熱しても良く、また加熱攪拌している水相に有機相を添加する方法でも構わない。尚、この際の圧力は常圧でも減圧・加圧であっても構わないが、その際、温度は有機溶媒の沸点以上、かつ水の沸点以下で行うのが好ましい。ここで、得られるビーズ状粒子の直径範囲(ここで「直径範囲」とは、全粒子数のうち90%が含まれる分布範囲をいう。)は、通常0.1〜20mm、好ましくは0.2〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmである。直径がこれより小さいとパウダー状となり取扱性が劣る。これより大きくても塊状となり取扱性が劣ると同時に、粒子が大きいため洗浄効率が低下し、凝固剤や分散剤が残存しやすくなるため、当該複合材の熱安定性や機械的物性の低下、ブリードの発生、導電性の低下といった好ましくない現象が起こりやすくなる。尚、得られた粒子が上記範囲より大きい場合、粉砕等公知の処理を行い上記範囲に適合させたうえで、洗浄することも可能である。
【0057】
水洗工程
有機相は、前記水相分離工程において分液された場合、水及び/又は水系洗浄液で洗浄することが好適である。ここで、水系洗浄液としては、特に限定されないが、例えば、無機/有機酸水溶液等の酸系洗浄液や、アルカリ金属/アルカリ土類金属/4級アンモニウムの水酸化物/炭酸塩等、アミン類等のような塩基性化合物の水溶液、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)およびそれらの金属塩のようなキレート剤、さらにはエタノール、イソプロパノール、アセトン等水に可溶な有機溶媒を含む水溶液を用いることが可能である。また、当該水洗工程は、前記溶媒除去工程後に行われてもよく、溶媒除去工程の前後に併用しても構わない。特に、先述の有機溶媒除去の前に洗浄を行った後、さらに洗浄を行いながら加熱し溶媒除去操作を行うのが、操作の簡略化と洗浄効率の向上の点から好ましい。
【0058】
《使用方法》
当該複合材料はそのまま成形に用いてもよいし、得られたものを乾燥し、プレス成形してもよい。かかる成形品は、導電性と強度に優れるので、各種電機・電子部品等に用いられる。その他、高濃度品をマスターバッチ(MB)として用い、希釈して用いることも可能である。従来では考えられなかった高濃度のナノカーボンが分散した複合材料を製造可能なので、その他の用途にも使用できる可能性がある。
【実施例】
【0059】
実施例1
ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、パンライトP−K1300Y、粘度平均分子量(Mv)30,000)40gを、360gの塩化メチレンに溶解させた。これに、カーボンナノチューブ水分散液(バイエルマテリアルサイエンス社製、マルチウォールカーボンナノチューブC150P(チューブ径13〜16nm、長さ1〜10μm)3重量%、分散剤として3−(N,N−ジメチルテトラデシルアンモニオ)プロパンスルホネート0.6重量%(Fluka社製分散剤)とを含む)333gとを混合・攪拌して、カーボンナノチューブ/ポリカーボネート樹脂の複合体(以下、単に「複合体」と称することがある。)を含むスラリー状液体を得た。これに、凝固剤として硝酸カルシウム(4水和物)の水溶液を徐々に添加すると、ペースト状の複合体と塩化メチレンの混合物と、透明な水相との2相に分離し、水相に分散していたカーボンナノチューブが完全に塩化メチレン相(ポリマー相)に移行したことが確認された。ペースト状の塩化メチレン相の水による洗浄を3回行った後、さらに水を加えて攪拌しながら60〜80℃に加温することで、ペーストから塩化メチレンを除去しつつ造粒を行い、直径1〜5mmのビーズ状の粒子を得た。さらに温水洗浄を3回行った後乾燥し、所望のカーボンナノチューブ20%/ポリカーボネート複合体を得た。
得られた複合材料について300℃にてプレス成形を行い、2mm×10cm×10cmの成形片を製造した。当該成型品にはブリードや熱分解による気泡の発生、といった外観上の不良は見られなかった。このプレス片につき、体積抵抗値を測定した。結果は表1にまとめた。
【0060】
実施例2
各種原料の使用量を変更し、カーボンナノチューブ濃度を4%とした以外は、実施例1と同様に行った。結果は表1にまとめた。
【0061】
比較例1
カーボンナノチューブと、ポリカーボネートをラボプラストミル(東洋精機製作所)にて4%となるように300℃にて混練を行い、得られた複合体につきプレス成形したものにつき体積抵抗値を測定した。結果は表1にまとめた。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボン水系分散液とポリマー有機溶媒溶液とを混合してなる混合分散液から、水相と有機相とに相分離させて、前記有機溶媒を除去して得られる複合材料。
【請求項2】
前記混合分散液に対して凝固剤を加える、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
前記有機溶媒除去が、有機相と水相とが共存した状態で攪拌しながら加熱し溶媒を除去する工程である、請求項1又は2記載の複合材料。
【請求項4】
前記ポリマーが、熱可塑性樹脂である、請求項1〜3のいずれか一項記載の複合材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネートである、請求項4記載の複合材料。
【請求項6】
前記有機溶媒が塩化メチレンである、請求項1〜5のいずれか一項記載の複合材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の複合材料を含む、成形品。
【請求項8】
ナノカーボンが分散している複合材料を製造する方法において、
ナノカーボン水系分散液とポリマー有機溶媒溶液とを混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた分散液から、有機相と水相とに相分離させる相分離工程と、
前記相分離工程により分離された有機相の有機溶媒を除去する、有機溶媒除去工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記混合工程又は相分離工程において、更に、凝固剤を加える、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記有機溶媒除去工程が、有機相と水相が共存した状態で攪拌しながら加熱し溶媒を除去する工程である、請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
前記相分離工程後に、更に、水相と有機相とを分液し、当該有機相を水及び/又は水系洗浄液で洗浄する水洗工程を含む、請求項8〜10のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項12】
前記洗浄工程において使用する洗浄液が、酸系洗浄液である、請求項11記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−241989(P2010−241989A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93711(P2009−93711)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】