説明

複合構造体及びその製造方法

【課題】 ポリ乳酸を主体とし、柔軟性と靱性のある構造体及びその製造方法を提供しようとする。
【解決手段】 乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とが混合されてなる固形物であって、該固形物中で、前記重合体が一の立体網目構造体をなし、前記共重合体が他の立体網目構造体をなし、該一の立体網目構造体と、該他の立体網目構造体とが相互に入り組んでなる複合構造体であり、乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とを溶媒に溶解させ該溶液を乾燥して固形物を得る工程を含む複合構造体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸及び乳酸共重合物からなる複合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は生分解性を有して自然環境下で分解するので環境保護の見地から注目されている。又、ポリ乳酸は農産物を原料とするため資源的にも有利である。しかし、機械的性状については靱性に欠けるところがあり、特にフィルム化した場合脆く柔軟性に欠けるという問題があった。
【0003】
このためポリ乳酸にアジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジオクチルのような可塑剤を添加することが開示されている(例えば、特許文献1参照。)が、その可塑化効果は小さく、一般フィルム用途に使用するには柔軟性が低い。更に、フタル酸系可塑剤としてフタル酸ジオクチルが開示されているがフタル酸ジオクチルは、可塑化効果はあるものの、その効果は小さく、他のプラスチックに移行し易いこと、ブリードアウトが発生しやすいこと、揮発し易いこと等の問題がある。またポリプロピレングリコールアジピン酸に代表されるようなポリエステル系可塑剤は、可塑化効果は高いものの低温雰囲気下では応力によるクレージングが発生する。
【特許文献1】特開平4−335060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリ乳酸を主体とし、柔軟性と靱性のある構造体及びその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とが混合されてなる固形物であって、該固形物中で、前記重合体が一の立体網目構造体をなし、前記共重合体が他の立体網目構造体をなし、該一の立体網目構造体と、該他の立体網目構造体とが相互に入り組んでなる複合構造体であることにある。
【0006】
前記複合構造体はフィルム状であり得る。
【0007】
さらに、本発明の要旨とするところは、乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とを溶媒に溶解させて溶液を得る工程、
該溶液を乾燥して固形物を得る工程
を含む複合構造体の製造方法であることにある。
【0008】
前記共重合体(B)中のポリアルキレンエーテルの重量分率は50%を超え95%以下であり得る。
【0009】
前記固形物中の前記共重合体(B)の含有率は10重量%以上、50重量%未満であり得る。
【0010】
前記ポリアルキレンエーテルはポリエチレングリコールであり得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ポリ乳酸を主体とし、柔軟性と靱性のある構造体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の構造体は、乳酸を主成分とする重合体と、水溶性のポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とが混合されてなる複合構造体であって、乳酸を主成分とする重合体(A)と、水溶性のポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体(B)とを溶媒に溶解させて溶液を得、該溶液を乾燥して固形物となすことにより得ることができる。
【0013】
乳酸を主成分とする重合体とは、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリL/D−乳酸などのポリ乳酸ホモポリマー、及びそれらにエステル結合形成性の重合材料を共重合した共重合ポリ乳酸で、重合体中の乳酸由来の成分が90重量%以上のものをいう。
【0014】
ポリアルキレンエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びそれらの共重合物が挙げられる。
【0015】
ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体(B)としては、ポリアルキレンエーテルとポリ乳酸との共重合体であってもよい。ポリ乳酸セグメントとポリアルキレンエーテルセグメントとが1対1で結合したものでもよく、多数のセグメントが交互に結合されていてもよい。又、両者の間に第3成分が継手として入っていてもよく、更にこれら以外の副次成分が加わっていてもよい。しかし主たる成分(80重量%以上)はポリアルキレンエーテルとポリ乳酸または乳酸である。
【0016】
共重合体(B)の分子量は特に限定されないが、例えば分子量500〜20000が最も広く用いられる。
【0017】
本発明おけるポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体(B)の製造方法の具体例としては、例えば、乳酸およびポリアルキレンエーテルの混合物を原料として直接脱水重縮合する方法、乳酸の環状二量体(ラクタイド)及びポリアルキレンエーテルを溶融状態で重合する開環重合法等を挙げることができるが、それらの製造方法には特に限定されない。
【0018】
重合体(A)と、共重合体(B)とを溶解させる溶媒としては特に限定されないが、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、アセトン、および塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、ジブロモメタン、ブロモホルムなどのハロゲン元素含有炭化水素などが挙げられる。あるいは、これらのうちの複数種が混合されたものであってもよい。溶媒としてはなかでもクロロホルムが好適に用いられる。溶液における溶媒の比率は、溶液に流動性が与えられれば特に限定されないが、重合体(A)と、共重合体(B)との総重量の300〜1000重量%であることが好ましい。
【0019】
溶液は、スピンコート法や、製膜用のダイを用いて所定の面の上に押し出し流延することによりシート状に成形されたのち乾燥されてフィルム状の固形物に成型される。
【0020】
この固形物は、重合体(A)が一の立体網目構造体をなし、共重合体(B)が他の立体網目構造体をなし、該一の立体網目構造体と、該他の立体網目構造体とが相互に入り組んでなる複合構造体である。この固形物からなるフィルムは柔軟かつ強靭なフィルムである。この柔軟性は本発明により得られた特異なこの相互に入り組んだ立体網目構造に起因するものと思われる。
【0021】
相互に入り組んだ立体網目構造を有する固形物の切断面には、図1に示すように、該一の立体網目構造体が断面に露出した模様2と、該他の立体網目構造体が断面に露出した模様4とが相互に入り組んだ断面模様が観察される。模様4は一見島状に見えるが該他の立体網目構造体が平面で切断されてできる切断面の形状である。この一見島状に見えるものの形状は、輪郭にそった位置でくびれた部分8を有する。
上述の溶液中における構造体の形成過程において重合体(A)の海とその海中に点在する島状の共重合体(B)が形成され、さらにその島同士が接触して島間がつながって島同士をつなぐ導通部となり、島全体として立体網目構造が形成される。くびれた部分8はその導通部であり、模様4にこのくびれた部分8が見られることが、模様4が立体網目構造体の断面模様であることを示す。模様2は網状に見えるが、これは、固形物における重合体(A)の重量分率が共重合体(B)より大きいためであり、相互に入り組んだ立体網目構造の断面においては重量分率が大きいほうの成分の立体網目構造の断面が網状に見え、他の成分の立体網目構造の断面が輪郭にそった複数の位置でくびれた部分8を有する島状に見える。
【0022】
乳酸を主成分とする重合体がポリL−乳酸であると、得られたフィルムは、乳酸を主成分とする重合体がポリL/D−乳酸である場合に比べ、さらに柔軟で強靭なものとなる。
【0023】
このような立体網目構造が相互に入り組んだ構造は、重合体(A)と、共重合体(B)と溶液化したのち乾燥させて固形物となすことにより得られるもので、重合体(A)と、共重合体(B)とが溶融状態で混ざりあい次いで冷却されて固化した場合には、その固化物中において、重合体(A)と、共重合体(B)とのいずれか一方が立体網目構造をなすことはあっても、また他方は島構造をなすことはありえても、上述の溶液由来の固形物のような両者それぞれの立体網目構造が相互に入り組んだ構造の実現は困難である。また、重合体(A)と共重合体(B)とが乳酸という共通の成分を有しており、両者が適度な親和性を持ち、かつ溶媒に対してそれぞれに異なる親和性を有することから、溶液が乾燥されてゆく過程で溶液中で重合体(A)が共重合体(B)に囲まれて粒子状に会合しつつ隣接の粒子状物中の重合体(A)同士が会合し、同時に隣接の粒子状物中の共重合体(B)同士も会合することで、この相互に入り組んだ立体網目構造が得られるものと推定される。
【0024】
前記固形物中の前記共重合体(B)の含有率が10重量%未満であると、このような相互に入り組んだ網目構造は明確には得られない。前記固形物中の前記共重合体(B)の含有率が50重量%以上であってもこのような相互に入り組んだ網目構造は明確には得られない。従って、本発明においては、前記固形物中の前記共重合体(B)の含有率は10重量%以上、50重量%未満であることが好ましい。
【0025】
この相互に入り組んだ網目構造の形成は、共重合体(B)中のポリアルキレンエーテルの重量分率にも影響さる。即ち、重合体(A)と共重合体(B)との親和性(相溶性)にも影響される。共重合体(B)中のポリアルキレンエーテルの重量分率が50%以下であると重合体(A)と共重合体(B)との親和性が大きくなりすぎてこのような相互に入り組んだ網目構造は明確には得られない。共重合体(B)中のポリアルキレンエーテルの重量分率が95%をこえると重合体(A)と共重合体(B)との親和性が小さくなりすぎてこのような相互に入り組んだ網目構造は明確には得られない。従って、本発明においては、共重合体(B)中のポリアルキレンエーテルの重量分率は50%を超え95%以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明の複合構造体は、生体適合性を有し、フィルムに成形された場合は柔軟性を備え使用後に廃棄されても自然環境下で大半が分解するので環境保護の見地からも優れた素材であり、包装用として好適に用いられる。また、繊維、編物、織物、不織布、紙、フェルト、網、ロープ、シ−ト、板、棒、容器、チューブ、各種部品、その他の成型品として好適に用いられる。
【実施例1】
【0027】
分子量6000で両末端が水酸基のポリエチレングリコール75重量部、光学純度99%以上のL−ラクチド25重量部、オクチル酸錫0.1重量部を混合し、窒素雰囲気中140℃で4時間反応させてポリエチレングリコールとポリ乳酸の共重合体を得た。この共重合体20重量部と数平均分子量100000のL−体乳酸重合体80重量部とをクロロホルム500重量部に溶解して溶液を得た。この溶液をスピンコーターの常温の基板上に滴下し、500rpmで3秒間回転させ、すばやく成膜した後、常温で溶媒を除去したあと60℃に加熱し溶媒を完全に蒸発させ乾燥させた。基板より剥離したフィルムはほとんど透明で、厚さ20μmであった。
【0028】
このフィルムは柔軟で靭性を有していた。ミクロトームによりこのフィルムから薄切片を作り、位相差顕微鏡により観察したところ図1に示すものと類似の相互に入り組んだ立体網目構造特有のくびれた模様が観察された。
【実施例2】
【0029】
実施例1で得られた共重合体30重量部と、数平均分子量100000のL−体乳酸重合体70重量部とをクロロホルム500重量部に溶解して溶液を得た。この溶液をスピンコーターの常温の基板上に滴下し、500rpmで3秒間回転させ、すばやく成膜した後、常温で溶媒を除去したあと60℃に加熱し溶媒を完全に蒸発させ乾燥させた。基板より剥離したフィルムは白濁しており、厚さ20μmであった。このフィルムは柔軟で靭性を有していた。ミクロトームによりこのフィルムから薄切片を作り、位相差顕微鏡により観察したところ図1に示すものと類似の相互に入り組んだ立体網目構造特有のくびれた模様が観察された。
【0030】
比較例
実施例1と同様にして得たポリエチレングリコールとポリ乳酸の共重合体20重量部と数平均分子量100000のDL−体乳酸重合体80重量部とを200℃の2軸スクリュー押出機で溶融し、ゲージ0.1mm、温度195℃のダイリップより押し出し、8m/minの速度で引き取って厚さ30μmのフィルムを得た。
【0031】
このフィルムの柔軟性と靭性を手で試料を変形させて調べたところ実施例1、2で得られたフィルムより劣っていた。このフィルムにおいては乳酸重合体が島状に分散し島同士が共重合体を介して接しており、このフィルムの薄切片には図1に示すような相互に入り組んだ立体網目構造特有の島模様は観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の複合構造体の構造を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0033】
2:一の立体網目構造体が断面に露出した模様(乳酸重合体の部分)
4:他の立体網目構造体が断面に露出した模様(共重合体の部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とが混合されてなる固形物であって、該固形物中で、前記重合体が一の立体網目構造体をなし、前記共重合体が他の立体網目構造体をなし、該一の立体網目構造体と、該他の立体網目構造体とが相互に入り組んでなる複合構造体。
【請求項2】
前記ポリアルキレンエーテルがポリエチレングリコールである、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
乳酸を主成分とする重合体と、ポリアルキレンエーテルと乳酸との共重合体とを溶媒に溶解させて溶液を得る工程、
該溶液を乾燥して固形物を得る工程
を含む複合構造体の製造方法。
【請求項4】
前記共重合体中のポリアルキレンエーテルの重量分率が50%を超え95%以下であり、前記固形物中の前記共重合体の含有率が10重量%以上、50重量%未満である請求項3に記載の複合構造体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265439(P2006−265439A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87990(P2005−87990)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】