説明

複合構造建物

【課題】免震不要部を含めて建物全体を免震することなく、無駄な免震施工コストを省き、免震施工が必要とされる1階のフロアのみを対象として免震することができる新規の建物の免震構造を提供する。
【解決手段】1階床躯体7の全体が、耐震性のある、または、制震された建物躯体から絶縁された建物の免震構造において、1階床躯体7を除く建物躯体本体は、杭に接合された基礎3に接合されている一方、1階床躯体7の全体は、基礎とは独立した床基礎11に支持された免震装置12に支承されている。建物の1階空間は、空間全体の上方を覆う天井13と、柱の周囲及び外壁内周を覆い下方にレタン空気取入口14を有する空調用レタンシャフト15とにより仕切られ、クリアランスCは空調用レタンシャフト15にて遮蔽されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複合構造建物に関し、特に1階の床躯体のみを全体的に免震した複合構造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基礎部と上部構造物との間に介在された免震装置において、基礎部に対して上部構造物を水平方向に滑動可能に支承する滑り支承と、上部構造物と基礎部とに上下端部がそれぞれ固定されて水平方向に弾性変形可能な弾性体とを備え、滑り支承及び弾性体の両方で上部構造物の鉛直荷重を受け止めるようにした免震装置が提案されている。
【特許文献1】特開平08−158697号公報
【0003】
また、上部フレームと下部フレームとの間に、弾性体と流体ダンパよりなる上下振動の減衰吸収機能を有する免震ユニットを介装し、下部フレームとコンクリート床との間には、水平震動の吸収機能を有する弾性体よりなる水平ばねと下部フレームを支承するベアリングボールとを介装し、上部フレームにフリーアクセス床を形成し、下部フレームの一部を立ち上げてこの下部フレームの上部とコンクリート床上に設置したアクセス床との間に、水平震動を吸収するクッション材を介装し、上部フレーム側面と下部フレーム側面との間に複数のベアリングボールを介装した免震床構造が提案されている。
【特許文献2】特許第2760822号公報
【0004】
以上のように、特許文献1に記載された発明は、建物全体を免震するものであり、一方、特許文献2に記載された発明は、特定のフロアの一部区画において電算機を収容するため、フリーアクセス床を構成する特定の一区画を免震の対象とするものである。
【0005】
これに対し本発明は、例えば半導体製造装置を製造するための工場の建物のように、微小な振動が製品に甚大な悪影響を及ぼす製造ラインは1階のみにレイアウトし、左程振動に関し神経質になる必要のないその余の機能を2階以上にレイアウトする建物において、1階の床躯体のみを、少なくとも前記製造ラインを支持する領域において免震しようとするものである。
しかしながら、前記特許文献1、2に記載された発明には、このような設計思想は全く存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、建物全体を免震するもののように、免震不要部を含めて免震対策を施すことに伴う無駄なコストを省き、免震対策が必要とされる1階のフロア全体あるいは前記製造ラインを支持する領域を対象として免震することができる新規の複合構造建物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、1階床躯体を支える複数の免震支承を備えた免震構造と、免震支承を備えない免震構造以外の構造からなる本体躯体とで構成された複合構造建物であって、1階床躯体は本体躯体から絶縁されているとともに、免震支承は本体躯体を支える本体基礎から独立した床基礎の上に設置されているものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、床基礎が、複数のフーチングと、該フーチング同士を繋ぐ梁とて構成されていることを特徴とし、請求項3に係る発明は、床基礎が、所定の厚さの盤状基礎とされていることを特徴としている。
【0009】
請求項4に係る発明は、絶縁された1階床躯体は、床スラブと該スラブ下面を支承する床梁とからなり、該床梁が前記免震支承に支承されていることを特徴としている。
【0010】
請求項5に係る発明は、1階床躯体は、連続する1枚の床構造体とされ、複合構造建物の柱及び外壁との間において隙間が形成され、地震による振動に対するクリアランスが設けられていることを特徴としており、請求項7に係る発明は、1階床躯体が所定長さを越えるものであるとき、複数枚の床構造体に分割され、その分割部位にてエキスパンションジョイント部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、複合構造建物を、1階床躯体を支える複数の免震支承を備えた免震構造と、免震支承を備えない免震構造以外の構造からなる本体躯体とで構成し、1階床躯体は本体躯体から絶縁されているとともに、免震支承は本体躯体を支える本体基礎から独立した床基礎の上に設置することとしたから、免震支承の品質と数量を削減して、免震不要部を含めて免震対策を施すことに伴う無駄なコストを省くことができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、床基礎が、複数の独立フーチングのみ、あるいは、ロングスパン時等必要に応じて、該フーチングとそれを繋ぐ梁とで構成されているから、少ないコンクリート数量で構成することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、床基礎が、所定の厚さの盤状基礎とされていることから、工事内容を簡素化することができる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、絶縁された1階床躯体は、床スラブと該スラブ下面を支承する床梁とからなり、該床梁が免震支承に支承されているから、重量物が積載される1階床躯体の強度を維持するための配筋量・セメント量を削減し、鉄筋コンクリートの材料費を削減するとともに床躯体の工事内容を簡素化することにより、大幅なコストダウンを図ることができる。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、1階床躯体は連続する1枚の床構造体とされ、建物の柱及び外壁との間において隙間が形成され、地震による振動に対するクリアランスが設けられているから、地震時における1階床躯体と建物との衝突を避けることができ、床躯体の円滑な免震を保証することができる。
【0016】
請求項6に係る発明によれば、1階床躯体が所定長さを越えるものであるとき、複数枚の床構造体に分割され、その分割部位にてエキスパンジョンジョイント部が形成されているから、床スラブの熱膨張や熱収縮によるクリアランスの偏在を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において「免震支承を備えない免震構造以外の構造」とは、耐震構造または制震構造を意味する。
建物を耐震構造とするためには、基礎は杭に剛接合するか、あるいは半剛接して、柱と梁でラーメン架構を築く。さらに剛性を高める必要がある場合、構面内にブレース、耐震壁を導入する。
一方、建物を制震構造とするためには、同じく柱と梁でラーメン架構を築いた上で、例えばダンパー等の減衰手段を組み込んだブレースや間柱を構面内に固定する。
また、免震装置としては、滑り支承、積層ゴム支承等の公知の免震装置を用いることができる。
【実施例】
【0018】
本発明は比較的低層の建物に適用されるが、図1は、本発明に係る2階建て建物の免震装置の実施例を示す、図2のA−A線矢視図である。図2は、本発明に係る2階建て建物の1階平面図であり、一部において床基礎を透視している。
そして図3は、図1の部分拡大図である
本発明の実施例について図1乃至図3を参照して詳しく説明する。
【0019】
建物1の躯体を構成する柱5は、適宜間隔で打設された杭2に剛接合または半剛接されたフーチング3に剛接合され、梁6は柱5に剛接合されて柱5と梁6にてラーメン架構を構成し、この構成により建物1の躯体は耐震構造とされている。
【0020】
1階床躯体7は、床スラブ8と該床スラブ下面を支承するH形鋼材製の床梁9とから構成されており、建物1の躯体とは力学的に絶縁されている。
そしてこの1階床躯体7の床梁9が、前記基礎3とは独立した別体の床基礎11に、免震装置12を介して支承されている。
本実施例においては基礎梁4を構築している。このため、免震装置12は、上記した独立床基礎11に据え付けるだけでなく、付加的に基礎梁4上端面に据え付けることも可能である。
このような構成にすれば、基礎梁4上端面を含めて免震装置12の安定した設置箇所とすることができることから、免震装置の設置数を均等に増やすことにより単一の免震装置に求めるべき品質を引き下げることができる。
基礎梁4と床基礎11の上端面を一致させれば、同一規格の免震装置を使用することが可能で、全体として大幅のコストダウンを図ることができる。
【0021】
床基礎11は、本実施例においては複数の独立フーチングのみにて構成しているが、ロングスパン時等必要に応じて、該フーチングとそれを繋ぐ梁とで構成することができる。
さらには、所定の厚さの盤状基礎とすることもできる。
【0022】
免震装置12は、積層ゴム支承あるいは滑り支承が好ましいが、建物周辺寄り部位を積層ゴム支承にて支承し、建物中央寄り部位を滑り支承にて支承するハイブリッド方式としてもよい。
【0023】
床躯体7は、本実施例のような平板状の床スラブ8下面をH形鋼材製の床梁9にて支承するものに代えて、床と梁が一体のフラットスラブ、あるいは免震装置12の支承部位を下方に厚くしたドロップパネルとすることもできる。
また、1階床躯体7は、連続する1枚の床スラブ8とすることもできるが、所定長さを越えるものであるときは、複数枚の床スラブ8に分割することが望ましい。
そして、その分割部位にてエキスパンションジョイント部を形成して、床スラブ8の伸縮を吸収するようにする。
いずれの形態をとるとしても、1階床躯体7は、建物1の柱5及び外壁との間において隙間が形成され、地震による振動に対するクリアランス(隙間)Cが設けられている。
【0024】
建物1の1階空間は、空間全体の上方を覆う天井13と、柱5の周囲及び建物外壁内周を覆い下方にレタン空気取入口14を有する空調用レタンシャフト15とにより仕切られ、クリアランスCの全部または一部は空調用レタンシャフト15にて遮蔽され、柱5及び外壁と床躯体7の隙間Cを効果的に覆うことができることから、空調用レタンシャフト15内における上昇気流と相俟って、隙間Cから埃等が落下することを防ぐことができる。また、床部を美麗に仕上げることができるものである。
【0025】
なお、以上の説明においては、1階の床全体を床躯体として免震構造とするとしているが、微小な振動を嫌う製品を置いたり通過させることがあり得ない領域については、床躯体を構築することなく土間打ちとすることも可能である。
【0026】
以上のとおり、本発明によれば、1階床躯体を含む建物躯体を特定の部位において力学的に縁を切って、1階床躯体とそれを除く建物躯体本体に2分し、1階床躯体は免震装置を介して、また建物躯体本体は直接、各々系を異にする基礎に支承されるという極めて単純な構造により、例えば半導体製造装置を製造するための工場の建物のように、微小な振動が製品に甚大な悪影響を及ぼす製造ラインが据え付けられた1階の床躯体のみを全体的に免震することが可能となった。
この構造により、建物全体を免震する、すなわち、免震不要部を含めて免震対策を施すことに伴う無駄なコストを省き、工事期間を短縮することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る2階建て建物の免震装置の実施例を示す、図2のA−A線矢視図である。
【図2】本発明に係る2階建て建物の1階平面図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 建物
2 杭
3 基礎
4 基礎梁
5 柱
6 梁
7 床躯体
8 床スラブ
9 床梁
11 床基礎
12 免震装置
13 天井
14 レタン空気取入口
15 空調用レタンシャフト
C クリアランス(隙間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1階床躯体を支える複数の免震支承を備えた免震構造と、免震支承を備えない免震構造以外の構造からなる本体躯体とで構成された複合構造建物であって、
前記1階床躯体は前記本体躯体から絶縁されているとともに、前記免震支承は前記本体躯体を支える本体基礎から独立した床基礎の上に設置されている複合構造建物。
【請求項2】
前記床基礎は、複数の独立フーチング、あるいは該フーチングとそれを繋ぐ梁とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載された複合構造建物。
【請求項3】
前記床基礎は、所定の厚さの盤状基礎であることを特徴とする請求項1に記載された複合構造建物。
【請求項4】
前記絶縁された1階床躯体は、床スラブと該スラブ下面を支承する床梁とからなり、該床梁が前記免震支承に支承されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された複合構造建物。
【請求項5】
前記1階床躯体は、連続する1枚の床構造体とされ、前記複合構造建物の柱及び外壁との間において隙間が形成され、地震による振動に対するクリアランスが設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された複合構造建物。
【請求項6】
前記1階床躯体が所定長さを越えるものであるとき、複数枚の床構造体に分割され、その分割部位にてエキスパンションジョイント部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載された複合構造建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228349(P2009−228349A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77016(P2008−77016)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】