複合歯車ブランクおよび複合歯車ブランクの製造方法
複合歯車ブランクの製造方法は、非回転式金型(10,12,28)に硬質のセンターピース(2)を入れるステップと、金型を不活性化するステップと、センターピースの周囲の金型を満たすまで液体反応混合物(M)を加えるステップと、満たされた金型に静圧をかけるステップと、センターピースを取り囲むプラスチック製外側部を形成するために反応混合物を重合させるステップとを備える。こうして作られた複合歯車ブランクは、室温および120℃までの高温のいずれにおいても垂直および剪断接着強度の値を改善しており、特に、自動車用電動ステアリングシステムのウォーム歯車部を製造するのに適している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質のセンターピースとプラスチック材料で作られた外側部とを備える複合歯車ブランクに関する。更に、本発明は、このような複合歯車ブランクの使用方法および複合歯車ブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング(EPS)システムでは、従来の油圧装置のパワーステアリングポンプ、ホース、油圧油、ならびにエンジンの駆動ベルトおよびプーリが不要になる。EPSは、エンジンから取り出されるエネルギー量を著しく減少させて、燃料の経済性、加速、および信頼性を改善する。EPSは、モーターによって駆動されるプーリおよびベルトから解け外れる油圧ポンプに起因する出力の損失なしで従来の油圧駆動装置の感触および操作性を提供する。
【0003】
典型的なEPSシステムは、電動機、センサ、およびウォーム歯車アセンブリを有する。その要件は以下の通りである。
・ステアリング操作中の最大入力トルクと結果として得られるウォーム歯車の軸力との両方に対する抵抗、
・振動および雑音の低減、
・全歯車歯面の低い摩擦および精度公差、
・鋼製シャフトに圧入可能であること、
・耐久性および車両の寿命に対する疲労抵抗性。
【0004】
雑音の低減、低摩擦係数、および摩耗減少のために、歯車の歯付き周辺部は合成熱可塑性材料で作られることが好ましい。一方、中心ハブ部分は、金属シャフトの安定した接続を可能にするために金属で作られることが好ましい。結果として、このためには、金属製内側部にしっかり取り付けられたプラスチック製外側部を有する複合部品の製造を必要とする。
【0005】
上記の課題を実現するために、先行技術において様々なアプローチが記載されており、例えば、特許文献1およびそこで引用されている文献を参照されたい。
特許文献2にはポリマー/金属ディスクを製造する工程が開示されており、結合剤が金属ハブに塗布され、その後に、金属ハブにポリマーリングを押圧してリング/ハブアセンブリを形成する。こうして形成されたアセンブリは、この後、加熱されてポリマーリングと金属ハブとの間に結合をもたらす。同様の工程が特許文献3に記載されている。
【0006】
特許文献4は電動ステアリング装置と電動ステアリング装置に使用される樹脂歯車に関する。この文献に記載された方法によると、プラスチックリングが独立した成型ステップによって作られる。続いて、リングは加熱されてわずかに大きい金属コアに圧入される。
【0007】
特許文献5には射出成形によって不活性部材を樹脂コーティングする方法が記載されている。
特許文献6には、シャフト、ディスク周囲の環状プラスチック要素、および歯付き冠部の中心開口部を有する金属ディスクからなる、特に、ウォーム歯車機構用の歯車が開示されている。一実施形態では、大きな金属ハブの周りに成型(独語では、「formschluessiges Angiessen」)によって環状プラスチック要素を形成することが検討されている。別の実施形態では、射出成形(独語では、「Spritzgiessen」)によってプラスチック要素を形成することが検討されている。しかしながら、特許文献6は、成型または射出成形法の実施方法に関する詳細情報を提供しておらず、2つの方法によって得られる結果の比較も示していない。
【0008】
特許文献7には、オプションとして補強用の金属ハブを有しうるローププーリ、ロープシーブ、走行輪などの回転対称物の製造工程が記載されている。製造工程は遠心成型法を含み、これに従って第1のε−カプロラクタム融液が回転式金型に流入する。反応融液は、重合し始めると、金型回転によって周辺の金型表面に対して半径方向外側に押しやられ、第2のε−カプロラクタム融液が金型に流入されてハブ領域を形成する。この第2の融液は、第1の融液と比較して増強された強度特性を有するように選択される。オプションとして、回転対称物のハブを形成するために金型中心に金属部品を設置することが検討されている。
【0009】
しかしながら、様々な先行技術の方法に従って製造された複合歯車ブランクのプラスチックと金属との接続部の強度は、大型エンジン付きの車におけるEPSシステム、および/または「ボンネットの下」にある、すなわち、使用温度が典型的におよそ120℃であるエンジンの近くのEPSシステムの厳しい要件のいくつかを満たさないことが判明している。
【0010】
したがって、高温においてもプラスチック製外側部と硬質のセンターピースとの間に実質的に改良された接着強度を備える複合歯車ブランクを有することがきわめて望ましい。
更に、このような改良された複合歯車ブランクを効率よく確実に生産できる製造方法を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/104692号
【特許文献2】米国特許第6638390号明細書
【特許文献3】特開2003−118006号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1609694号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1690664号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10127224号明細書
【特許文献7】米国特許第6432343号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の主な目的は、現在公知の複合歯車ブランクの限界および不都合を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的および更なる目的は、請求項1に記載の複合歯車ブランクと、請求項8に記載されたその使用方法と、請求項9および10に記載された製造方法とによって実現される。
【0014】
意外にも、製造ステップを注意深く選択することによって、プラスチック製外側部と硬質のセンターピースとの間にきわめて強力な接続部が実現されうることが判明した。
したがって、本発明の第1の態様に従って、硬質のセンターピースとプラスチック材料で作られた外側部とを備える複合歯車ブランクが提供され、上記センターピースは互いにほぼ平行な2つの円板面を有するほぼ円盤形であり、上記外側部は上記センターピースの周囲面の周りに成型されており、かつ上記複合歯車ブランクは下記の特性、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであること
を特徴とする。
【0015】
上記の垂直接着強度SNは5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、上記の剪断接着強度SSは、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度ST、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度SA
のうちの低い方の値を選択することによって決定される。
【0016】
本発明の別の態様によると、このような複合歯車ブランクは、特に、自動車用、あるいは、例えば、いわゆる「クアッド(quad)」などの2つの前輪を有する他の車両用の電動パワーステアリングシステムのウォーム歯車部を製造するために使用される。
【0017】
本発明の更に別の態様によると、このような複合歯車ブランクの製造方法は、
a)上記のプラスチック材料によって取り囲まれる構造化された周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)上記周囲面で粗面処理を実行するステップと、
c)センターピースに表面調整を施すステップと、
d)センターピースを金型に入れるステップと、
e)金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
f)センターピースの周囲の金型を満たすまで金型に液体反応混合物を加えるステップと、
g)満たされた金型に静圧をかけるステップと、
h)上記外側部を形成するために上記反応混合物を重合させるステップと
を備え、
表面調整を施すステップは、周囲面に有機官能性シラン化合物を刷毛塗りするステップを備え、ステップh)の後、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料を局所的に融解させるためにセンターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するためにセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。有利には、有機官能性シラン化合物はアルコキシシランである。
【0018】
本発明の更なる態様によると、このような複合歯車ブランクの製造方法は、
a)上記のプラスチック材料によって取り囲まれる周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)センターピースの表面を脱脂するステップと、
c)センターピースを金型に入れるステップと、
d)金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
e)センターピースの周囲の金型を満たすまで金型に液体反応混合物を加えるステップと、
f)満たされた金型に静圧をかけるステップと、
g)上記結合した外側部を形成するために上記反応混合物を重合させるステップと、
を備え、
センターピースは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びている複数のアンダカットまたは凹部を有し、上記アンダカットまたは凹部はステップe)またはf)において上記プラスチック材料で満たされ、それによって、上記外側部と上記センターピースとの間に、上記センターピースの半径方向、軸方向、および接線方向の機械的ロックを提供する。オプションとして、センターピースに隣接する領域でプラスチック材料を局所的に融解させるためにセンターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するためにセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。有利には、その方法は更に、ステップa)とb)との間に上記周囲面で粗面処理を実行するステップを備える。
【0019】
プラスチック製外側部はセンターピースを取り囲む密閉容積に導入される液体前駆体、すなわち、液体反応混合物から開始して形成されるので、上記方法のいずれも、一般に「直接成型法」と称される場合があることは理解されよう。本発明の重要な態様は、反応性前駆体の重合が静圧下で、すなわち、一般に非回転式金型内で実行されるという事実にある。金型を液体前駆体で満たした後金型に静圧をかけることによって、液体前駆体は重合工程中にセンターピースに対して半径方向内側に駆動される。このように、センターピースのいかなる凹部、空洞などの凹形構造も適切に満たされるようになり、それゆえ、プラスチック製外側部とセンターピースとの間に最適な界面が得られる。好ましくは、静圧は約0.5MPa〜約2MPa(約5bar〜約20bar)の範囲にある。
【0020】
様々な有利な実施形態が従属請求項において規定される。
複合歯車ブランクの対象とする用途に応じて、センターピースは、約60mm〜約90mm、好ましくは約65mm〜約85mmの外径を有する。四輪バイクなどの特定の用途の場合、約64mm〜約66mmの外径が好ましい。しかしながら、自動車の場合、センターピースは、一般に、約70mm〜80mm、好ましくは、約74mm〜76mm、特に約75mmの外径を有する。
【0021】
原則として、外側部を形成するために様々なプラスチック材料が想定されてよい。直接成型によって製造される適切な材料としては、ポリアミド6、ポリアミド6,12、およびポリアミド12などのポリアミド類があるが、ポリウレタンやポリスチレンでもよい。しかしながら、外側部は成型ポリアミド6で作られることが好ましい。これらの材料を直接成型によって製造するために、適切な液体反応前駆体(例えばポリアミド6の場合にはε−カプロラクタムなど)から開始されることが理解されよう。また、反応前駆体は、一般に、当技術分野で周知のように、触媒、熱安定剤、着色剤、架橋剤、内部潤滑剤など、多数の添加剤を含みうることが理解されよう。
【0022】
また、様々な剛体材料、特に、金属または繊維強化プラスチックがセンターピースに使用されうる。しかしながら、好ましくは、硬質のセンターピースは鋼製である。特に、硬質のセンターピースは、S25C(1.1158鋼、DIN17200、CK25としても示される)などの非合金炭素鋼で作られる。
【0023】
好ましい実施形態では、センターピースの周囲面は、テクスチャ加工されたりローレット加工されたりする。更に、外側部とセンターピースとの間に、センターピースの半径方向、軸方向、および接線方向の機械的ロックを提供するように、センターピースは、上記プラスチック材料で満たされる凹部、リム、またはアンダカットが備えられてもよい。
【0024】
更に好ましい実施形態では、プラスチック製外側部は円板面の少なくとも1つとほぼ重なるように成型される。このような構成は、軸方向における、すなわち、プラスチック製外側部とセンターピースの軸方向変位量に対する強度を増大させる。
【0025】
更に別の実施形態では、複合歯車ブランクは、更に、外側部の周りに同心円状に配置された追加的なプラスチック材料で作られた周辺領域を備える。特に、追加的なプラスチック材料は高性能ポリマー、特にPEEKである。このハイブリッド配置によって、歯車の重要な周辺領域における高性能のポリマーの機械的優位性の利益を享受し、一方でプラスチックリングの内側部に成型ポリアミド6などの低価格ポリマーを使用することによってコストを削減することができる。このようなハイブリッド部を製造するために、高性能ポリマーの予め形成されたリングが成型工程の前に金型に入れられる。
【0026】
外側と内側のプラスチックリングの間で十分な接着強度を確保するために、予め形成された外側リングは内側プラスチックリングと機械的にロックする構造で作られうる。
複合歯車ブランクの具体的な用途に応じて、プラスチック製外側部は予め形成された歯とともに形成されてもよい。
【0027】
製造工程の有利な実施形態では、粗面処理は鋼粗粒を噴射するステップを備えており、これは完成品に優れた接着強度を与えることが判明した。更に、センターピースを金型に入れるステップの前に金型を予熱すると有利であることが判明している。
【0028】
更なる実施形態では、ステップa)は、長尺状のホルダ要素に整列された複数の硬質のセンターピースのアセンブリを提供するステップを備え、隣接するセンターピースの各対はスペーサ要素によって分離される。このように形成された複数の複合歯車ブランクは、その後分解される。一般に、こうすることによって、所与の1成型サイクルで複数の複合歯車ブランクを製造することができ、それゆえ、生産コストを下げることに寄与しうる。
【0029】
添付図面とともに取り上げる本発明の様々な実施形態に関する以下の説明を参照することによって、本発明の上記およびその他の特徴および目的とこれらを実現する方法がより明らかになり、本発明自体がよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】複合歯車ブランクの第1の実施形態を平面図で示す。
【図2】図1の歯車ブランクを断面図で示す。
【図3】ローレット加工された周囲面の拡大部分を含む、図1の歯車ブランクセンターピースを斜視図で示す。
【図4】複合歯車ブランクを製造する成型装置を垂直断面図で示す。
【図5】構造化された外側部と複合歯車ブランクのセンターピースとの間の接触領域の写真による平面図を示す。
【図6】複合歯車ブランクの第2の実施形態を平面図で示す。
【図7a】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図7b】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態を図7aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図7c】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図7d】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図8a】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図8b】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態を図8aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図8c】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図8d】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図9a】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図9b】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態を図9aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図9c】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図9d】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図10】複数の複合歯車ブランクの製造ステップを示す。
【図11】接着強度を測定するための典型的な力対伸びのダイアグラムの略図を示す。
【図12】複合歯車ブランクの軸方向接着強度を測定するための配置を垂直断面図で示す。
【図13】複合歯車ブランクの接線方向接着力を試験するための配置を平面図で示す。
【図14】複合歯車ブランクの法線方向接着強度を測定するための配置を平面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1〜図3に示す複合歯車ブランクは、シャフトに取り付けるための中心開口部4および周辺面6を有する円盤形の硬質のセンターピース2を備える。センターピースは外径D1および厚さHを有し、一方、中心開口部は内径D2を有する。プラスチック材料で作られ外径D3を有する環状の外側部8が、周辺面6の周りに隣接して配置される。センターピースと外側部の間に良好な機械的接続を提供するように、周囲面6はローレット加工された構造Kを備える。以下で更に詳しく説明するように、プラスチック製外側部8は直接成型法によってセンターピースの周りに形成される。
【0032】
複合歯車ブランクは、図4に概略的に示すように、成型装置で製造される。装置は、ほぼ垂直に配置された長軸ALを有するカップ状の円筒形チャンバ10を備える。チャンバは、D3、すなわち形成される外側部の外径よりもやや大きい内径を有する。チャンバは、下面14および上面16を備える一体的なベースプレート12を有し、ベースプレートから平坦な上部20を備える中心円筒形突出部18が上方に突き出る。突出部18の外径はD2、すなわち、センターピース2の中心開口部の内径に対応し、これはセンターピース2の厚さHにほぼ等しい高さを有する。円筒形突出部は第1の上面部22から突き出ており、第1の上面部22はベースプレートの周囲まで延在する第2の上面部24によって取り囲まれている。また、図4から分かるように、第2の上面部24は、第1の上面部22に対して下方にずらされており、2つの部分の間の領域には傾いた遷移面26がある。
【0033】
成型装置は、更に、円筒形チャンバ10全体に重なるように寸法決めされた蓋部30を備えるカバープレート部材28を備える。更に、カバープレート部材は、その下側に、平坦な下面部34を備える円錐部分として成形された中心突出部32を備える。カバープレート部材28と円筒形チャンバ10との間に媒体の密封を形成するために、対応するOリング用の溝36がチャンバ10の上面領域に形成される。
【0034】
更に図4に示されるのは、円筒形突出部18の周りに配置された環状のセンターピース2である。特に、センターピースの外径(D1)は、第1の上面部22および下面部34の直径よりもやや大きいことが分かる。図4から分かるように、カバープレート部材28が円筒形チャンバ10の上に載っており、溝36内のOリングを圧縮するとき、チャンバはカバープレート部材28の平坦な底面部34が円筒形突出部18の平坦な上部20に当接するように寸法決めされる。
【0035】
反応液体混合物Mは、ベースプレートとカバープレート部材との間に形成された空洞に流入されている。図4からはっきりと分かるように、反応液体混合物の上位レベルはセンターピース2の上面の上方にあるが、下位レベルまたは反応液体混合物はセンターピース2の下面の下方にある。つまり、反応混合物の重合は、センターピースの上方および下方のセンターピースの周囲にC字状に重なるプラスチック塊を生成する。成型工程は、カバープレート部材の開口部38から供給される不活性ガスの過圧を用いて実行される。
【0036】
上記の装置は、更に、カバープレート部材を昇降させるフレームおよび適切な手段、金型を加圧するためにカバープレート部材を円筒形チャンバに固定する手段、温度および圧力を検知する手段、ならびに金型を予熱する手段などの構成部品を備えることは理解されよう。有利には、成型装置の内面は、完成した歯車ブランクを金型から取り外し易くするためにクロムめっきされる。
【0037】
ここで、成型ポリアミド6で作られる外側部を有する、図1〜図3に示すタイプの複合歯車ブランクに関する成型工程を更に詳しく説明する。
工程は、硬質のセンターピース2から開始する。センターピース2は、好ましくは非合金炭素鋼で作られており、その周囲面に約1mmのピラミッド形の突起部を有するローレット加工などの適切な構造化を提供する。続いて、周囲面は、まず鋼粗粒を噴射して粗面化され、この後、表面調整ステップに供される。表面調整は、一般に、例えば、アセトンまたは別の脱脂溶剤を用いてすすぐか、あるいは洗浄液中での超音波処理によってセンターピースを脱脂する洗浄ステップを備える。最も重要なことであるが、表面調整を施すステップは、周囲面に好ましくはアルコキシシランである有機官能性シラン化合物を刷毛塗りすることによって終了する。適切なアルコキシシランは、例えば、「Z−6020シラン」(主にアミノエチルアミノプロプリトリメトキシシランおよびメトキシシランを含む)または「Z−6032シラン」(主にアミノエチルアミノプロプリトリメトキシシラン、アミノシラン塩酸塩、およびメタノールを含む)としてDow Corning社から入手可能である。
【0038】
次のステップでは、既に前節で説明したようにセンターピースが金型に入れられる。金型チャンバは、140℃〜170℃の温度に予熱される。更に、金型は、窒素やアルゴンなどのガスでフラッシングすることによって不活性化される。
【0039】
その後、既に概説したように金型を満たしてセンターピースを取り囲むまで液体反応混合物が金型に導入される。ポリアミド6を成型する方法は公知である。この場合、2ストリーマ手順が採用され、その手順では第1の供給タンクがモノマーおよび開始剤、熱安定剤、および任意の着色剤を提供し、第2の供給タンクがモノマーおよび触媒を提供する。こうして形成された液体反応混合物は、金型に満たされているとき120℃〜150℃の温度を有する。
【0040】
その後、金型が約0.5MPa〜約2MPa(約5bar〜約20bar)の範囲の窒素またはアルゴンなどの不活性ガスで加圧され、それにより、液体反応混合物がローレット加工されたセンターピースの表面凹部に流入する。その後、反応混合物は、プラスチック製外側部の原形を成すように重合される。この後、圧力が解放され、こうして形成された複合部品は成型装置から取り出される。
【0041】
更なるステップでは、複合歯車ブランクは誘導加熱装置に移され、そこでセンターピースが所定の手順に従って加熱される。その結果、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料は、局所的に融解するよう十分に加熱される。適切な加熱手順は、一般に、歯車ブランクの大きさに応じて異なり、予備試験において決定されるべきである。95mmの外径を備えるポリアミド6リングによって取り囲まれた75mmの外径および13mmの厚さを有する環状の鋼製センターピースを備える歯車ブランクの場合、約6kWの電力による約12秒の単一加熱ステップであれば、プラスチック材料を制御しながら局所的に融解させるのに適切であろう。加熱ステップの後に、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために、例えば、1対の適切に冷却された金属板の間にセンターピースを固定することによってセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。局所的融解とそれに続く冷却との上記の組合せによって、プラスチック材料とセンターピースとの間の接着強度が著しく改善される。
【0042】
最後に、寸法安定性に関する問題を回避するために、完成品は、例えば、140℃〜170℃の温度で24時間の焼き戻し処理に供される。
成型工程で形成された余分なプラスチック材料がすべて切削されることは理解されよう。
【0043】
図5から分かるように、上記の工程では、外側部のプラスチック材料がセンターピースのローレット加工された構造の周りに密接して形成される複合歯車ブランクを製造することが可能になり、このことは2つの部品間の良好な接着強度にとって必須条件である。
【0044】
理論にとらわれるまでもなく、上記の方法によって得られる外側部とセンターピースの間の高水準の垂直および剪断接着強度は、(i)表面調整によって提供される力結合(force connection)と、(ii)センターピース表面の粗面処理によって提供されるある機械的ロック作用との組合せによってもたらされると考えられる。液体反応混合物を含む金型に静圧を加えることは良好な接着強度を得るために不可欠であることが判明した。
【0045】
図6に示す更なる実施形態では、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られる環状領域40は、ポリアミド6部分8の周りに同心円状に配置される。このような部分を製造するために、成型工程は、液体反応混合物Mを加える前に適切に寸法決めされたPEEKリングを硬質のセンターピース2とともに金型に入れるステップを含む。PEEKリングをセンターピースと同じ高さにするために、第1の上面部22とほぼ同一平面にある第3の周囲上面部を有するベースプレートを備える成型チャンバを使用してもよい。あるいは、形成されるポリアミド6部分よりも厚いPEEKリングから開始してもよく、歯車ブランクの形成後、PEEKリングの不要な厚さはすべて切削されうる。PEEKリングには、予め形成された歯が備えられていてもよい。例えば、このような構成は、約75mmの外径を有する鋼製センターピースと、約85mmの外径を有する隣接するポリアミド6リングと、約95mmの外径を有する外側PEEKリングとを備えていてもよい。
【0046】
図7〜図9は、複合歯車ブランクの更なる実施形態を示し、外側部とセンターピースとの間にセンターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供するために、センターピースには外側部のプラスチック材料で満たされる凹部、リム、またはアンダカットが備えられる。参照し易いように、以下の説明では、水平に配置されている、すなわち、垂直に配置された回転軸Aを有するセンターピースに言及する。
【0047】
図7に示すセンターピース102は、赤道面に対して対称である。センターピース102は、ほぼ水平である上面106と下面108とを備え、かくして、センターピースの最大厚さHを規定する中心部104を有する。中心部104に隣接して、最外部の周囲面120に収束する均一に傾斜した上面116および下面118で形成された比較的薄い周辺部114まで階段状に遷移する上リム110および下リム112があり、最外部の周囲面120はセンターピースの最小厚さH1を規定する。更に、周辺部114は、センターピースの周囲に沿って均一に分布される8個の円筒形かつ軸方向の孔122を備える。図7dから分かるように、プラスチック製外側部124は周辺部114にC字状に重なり、それゆえ、軸方向の機械的ロックを提供する。外側部124のプラスチック材料は軸方向の貫通孔122を満たし、更に周辺部114を囲むという事実に基づいて、更に半径方向および接線方向の機械的ロックが提供される。75mmの外径を備えるセンターピース102の場合、軸方向孔122は、例えば、約6mmの直径を有しうる。
【0048】
図8に示すセンターピース202は、均一な厚さHを有する円盤形であり、センターピースの周囲に沿って均一に分布される8個の円筒形かつ軸方向の貫通孔204を備える。これらの軸方向貫通孔204のそれぞれは、軸方向貫通孔からセンターピース202の周囲面208までの通路を形成する対応する半径方向孔206を備える。外側部210のプラスチック材料が半径方向孔206および軸方向孔204を満たすという事実に基づいて、これはセンターピース202内に、軸方向、半径方向、および接線方向の機械的ロックを提供する複数のT字形プラスチック突出部212を形成する。この例では、センターピース202は、75mmの外径および13mmの厚さを有し、軸方向貫通孔204および対応する半径方向孔206は、例えば、約8mmの直径を有する。図9に示すセンターピース302は、均一な厚さHを有する円盤形である。センターピース302は、センターピースの周囲に沿って均一に分布される4つの上側凹部304および4つの下側凹部306を備える。図9から分かるように、これらの凹部のそれぞれは、周囲面308から始まり丸い縁を有する「燕尾形」アンダカットとして形成される。ここに示す例では、複数の4つの上側凹部304は複数の4つの下側凹部306から方位角方向に45°の角度だけ変位され、それゆえ、上側凹部は下側凹部の真上に配置されないことになる。上側凹部および下側凹部のそれぞれは、外側部310のプラスチック材料で満たされ、それゆえ、センターピース302内に軸方向、半径方向、および接線方向の機械的ロックを提供する複数のT字形プラスチック突出部312を形成する。この例では、センターピース302は、75nmの外径および13mmの厚さを有し、上側凹部304および下側凹部306は半径方向に、例えば、約7.5mmの深さと、円周方向に約10mmの開口部と、約15mmの最大円周方向サイズとを有する。
【0049】
図7、図8、および図9に関連して記載した実施形態の凹部またはアンダカットは、一般に、軸方向、半径方向、および接線方向に機械的ロックを形成する金属およびプラスチック構造物の十分な機械的安定性を確保するように寸法決めされる。特に、凹部またはアンダカットは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びうるが、実質的に1.5mm、2mmに近くてもよく、あるいは更に大きくてもよい。このような複合歯車ブランクは、ここでは、「マクロロックされた」(すなわち、軸方向、半径方向、および接線方向に機械的ロックされた)とも称される。これらの部分の製造は、脱脂ステップ以外にいかなる具体的な表面調整処理も必要としないが、オプションの製造ステップとして、鋼粗粒噴射などの粗面処理を含めることが有用な場合がある。更に、マクロロックされた複合歯車ブランクの製造では、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料を局所的に融解するためのセンターピースを加熱するステップを必ずしも必要としないが、このようなステップがオプションとして含まれてもよい。誘導装置を用いてセンターピースを加熱することのみによってプラスチック材料の制御された局所的な融解を実現することは、例えば、1.35mm以上の大きい凹部を有する部品にとって基本的に不可能であることが判明しているので、これは重要な発見である。液体反応混合物を含む金型に静圧を加えることはマクロロックされた複合歯車ブランクにおいて良好な接着強度を得るために不可欠であることが判明した。
【0050】
機械的ロック作用に基づいて、マクロロックされた部品の垂直および剪断接着強度は、界面における接着力によって制限されず、それよりはむしろ、接着強度はプラスチック部品およびセンターピースの材料強度によって制限されるのみである。つまり、ロックを提供する様々な幾何学的構造は相応に寸法決めされる必要がある。
【0051】
図7、図8、および図9に記載したマクロロックされた実施形態は、簡単な直接成型、すなわち、センターピースを金型に入れて凹部またはアンダカットを満たすために液体反応混合物を満たすことによって製造されうる。満たされてはならない空洞に液体反応混合物が入るのを防ぐために障壁を挿入する必要はない。
【0052】
図7、図8、および図9に関連して記載したマクロロッキング実施形態は図6に関連して記載した実施形態と組み合わせてもよく、すなわち、複合歯車ブランクはPEEKなどの更なるプラスチック材料で作られた外側環状領域を備えていてもよいことが理解されよう。
【0053】
図10は製造工程の更なる実施形態の重要なステップを示しており、これは前述の歯車ブランク実施形態のいずれかを製造するために採用されうる。図10に示すように、厚さHを有する複数の3つの硬質のセンターピース402がロッド状のホルダ要素404上に配列される。ロッド404の外径は、過度な半径方向の変位を防止すると同時にセンターピースがロッドに沿って摺動しうるように、センターピースの内径よりもわずかに小さいだけである。隣接するセンターピースの各対の間に、センターピースの中心開口部に対応する中心開口部を有する円盤形スペーサ要素406が配置される。典型的に、スペーサ要素406の厚さhは、センターピースの厚さHよりもやや小さい。スペーサ要素406は、金型の作動環境下では腐食、融解、あるいは甚だしい変形を生じない材料で形成されており、それゆえ、成型工程の完了後に容易に取り外される。
【0054】
図10に概略的に示すアセンブリは、図3に関連して記載したものに類似しているが、中心の円筒形突出部の代わりにベースプレート部材に中心凹部を有する金型に入れられてもよいことが理解されよう。このような凹部は、成型チャンバに対して図10に示すアセンブリを整列させて位置決めするようにロッド404を受け入れるために使用される。直接成型法の過程では、プラスチック製外側部を形成する反応液体混合物は、円筒形ロッドに積み重ねられたすべてのセンターピースを取り囲むように金型の中に満たされる。反応混合物の重合および必要な熱処理または焼き戻しの後、円筒型ロッドは取り外され、アセンブリは複数の複合歯車ブランクに分離される。これは、例えば、アセンブリを適切なツールの中に入れて円盤形スペーサ要素を切断または切削することによって実施されてもよい。
接着強度の測定
垂直接着強度SNおよび剪断接着強度SSを測定するために、以下の手順が採用された。プラスチック/金属界面の表面要素に対する方向xのプラスチック/金属結合部の接着強度Sxは、プラスチック/金属結合を断たずに加えられうる表面積A当りの方向xの最大力Fxとして本明細書では理解されるものとする。
【0055】
実際に、測定は、一定の引張り速度または押込み速度vxでゼロから開始してx方向に荷重をかけることによって実行される。荷重は、かくして、相応に増大し、まず弾性変形をもたらし、その後に塑性変形をもたらし、そしてついにはある点で複合部品を破壊する(これはプラスチック製外側部がセンターピースから引き離されているか、あるいはプラスチック部品が力がかかった場所で引きちぎられた状態である)。これは図11に概略的に示される。最大力Fxmaxは、図においてピーク値として得られる。
【0056】
こうして測定された最大力Fxmaxは、Sx=Fxmax/Axに従って対応する接着強度を計算するために使用され、Axは関連するプラスチック/金属界面の面積を示す。
【0057】
これに関連して、垂直接着強度SNは、プラスチック/金属界面に垂直な方向、すなわち、半径方向の最大力FNmaxを測定することによって得られる。剪断接着はプラスチック/金属界面に平行な任意の方向、すなわち、界面の表面要素の平面内の任意の方向の相対変位を指すので、剪断接着強度SSは、様々な平面内方向で破壊することなく適用可能な最大力FSmaxを測定し、その後最小結果を選択することによって計算される。実際には、これは、接線方向の最大力FTmaxと軸方向の最大力FAmaxを測定し、この2つのうちの小さい方を選択することによって行われる。
【0058】
図12に示すように、複合歯車ブランクのプラスチック製外側部502と硬質のセンターピース504との間の軸方向剪断接着強度SAを測定するために、センターピース504は円盤形の台506および中心の円筒形突出部508を備えるベースツールに設置される。台506はセンターピースの外径よりもわずかに小さい外径を有するが、突出部508はセンターピース504の内径よりもわずかに小さい外径を有する。その後、上下逆さまのカップの形状を有する不撓性の圧縮手段510をプラスチック製外側部に向けて下方に押すことによって、増加していく軸方向力FAを発生させるように軸方向に一定速度で荷重をかける。
【0059】
接線方向の接着強度STを測定するために、複合歯車ブランクのプラスチック製外側部604を通して軸方向に複数の周囲の孔602が開けられ、各孔の中心は、図13に示すように、プラスチック部の縁から半径方向に離されている。その後、増加していく接線方向力を発生させるように接線方向に一定速度で荷重をかける。所要の接線方向力を加えるために、例えば、対応するブロッカーピンを挿入可能な複数の固定孔608をセンターピース606に設けることによってセンターピース606が回転するのを阻止する必要がある。実際に、トルクが接線方向に加えられる力に関係することを示すために、本明細書では下付き文字Tが含まれるトルクTTを用いて公知のレバーアームによって得られた結果を表す場合がある。
【0060】
垂直接着強度SNを測定するために、図13に示すような構成から開始するが、図14に示すような周囲の孔が設けられた領域の周りの小さい試験部610を除いてプラスチック部のほとんどを排除している。あるいは、センターピースのプラスチック部の残りをそのままにし、試験部610とプラスチック部の残りを完全分離するように放射状に切断するだけでよい。プラスチック部とセンターピースとの間で半径方向に所要の一定速度の荷重をかけるために、プラスチック部の周囲の孔602とセンターピースの中心孔612との各々に1本のピンを挿入してもよく、これらのピンは、その後、一定速度で引き離される。
【0061】
確立された試験手順に従って、以下の例で報告されたすべての接着強度の測定は、以下のように指定された一定速度の荷重で実行された。
・軸方向荷重測定:速度vA=1mm/分
・半径方向荷重測定:速度vN=5mm/分
・接線方向荷重測定:半径方向速度=3rad/分
しかしながら、剪断接着強度および垂直接着強度を決定する他の手順が採用されうることは強調されるべきである。このような手順からは、本明細書で使用される手順とはやや異なるSSおよびSNの数値が得られることが予想される。しかし、上記の方法に従って製造される様々なタイプの複合歯車ブランクの相対的性能は、SSおよびSNを測定するために採用される特定の手順に影響を受けないであろう。
【実施例】
【0062】
以下の実施例では、各々が以下の寸法を有するS25C炭素鋼(1.1158鋼、DIN17200、CK25とも称される)で作られた環状センターピースを備える複合歯車ブランクを参照する。
【0063】
・センターピースの外径:D1=75mm
・中心開口部の内径:D2=25.50mm
・センターピースの厚さ:H=13mm
いくつかのセンターピースの周囲面(比較例A1、A2、B1、B2、B3、C1、C2、ならびに実施例X1およびX2)には、ローレット加工、すなわち、約1mmのピラミッド形の突起部が機械加工された。対照的に、実施例YおよびZのデータは、それぞれ、図8および図9に関連して前述した2つの実施形態に従ってマクロロッキング構造により得られた。
【0064】
各歯車ブランクのプラスチック製外側部は、前述のように直接成型ポリアミド6によって作られ、外径D3=95mmを有する。
上記の実施例X1、X2、Y、およびZについて測定された剪断接着強度SSは、16.3MPaの測定上限値よりも高かった。マクロロッキング構造YおよびZを備えた2つの複合歯車ブランクについて測定された垂直接着強度SNは、破壊に対するポリアミドリング材料の強度によって実質的に決定された。
【0065】
【表1】
所感
前述の実施例X1、X2、Y、およびZについて測定された剪断接着強度SSは、16.3MPaの測定上限値よりも高かった。マクロロッキング構造YおよびZを備えた2つの複合歯車ブランクについて測定された垂直接着強度SNは、破壊に対するポリアミドリング材料の強度によって実質的に決定された。
【0066】
更なる比較例として、小さい一連の複合歯車ブランクが特許文献6の開示に従って製造された。この目的で、ローレット加工されたセンターピースが、特定の表面調整なしで、すなわち脱脂だけで、ガラスビーズも鋼粗粒処理もなく、シラン処理もなく、融解ステップもなしで採用された。この結果、23℃で1MPa未満の垂直接着強度SNが得られた。
結び
本発明の直接成型法を採用すると、室温および120℃までの高温のいずれにおいても、既知の方法で作られた同じ材料の同一サイズの歯車ブランクと比べて、改善された剪断接着強度SSおよび垂直接着強度SNを有する複合歯車ブランクを製造することが可能である。この発見を、SSおよびSNを決定する具体的手順を用いて上記の実施例によって報告した。しかしながら、本明細書において比較した様々な方法に従って製造された様々なタイプの複合歯車ブランクの相対的性能は、SSおよびSNを決定するために使用した個々の手順に依存しないであろう。換言すると、先に定義した本発明の2つの態様による直接成型法によって得られる優位性は、SSおよびSNを決定するために他の手順を採用する場合でも明らかであろう。したがって、製造方法を更に最適化するために、あるいは品質管理を目的として、多数のわずかに異なる種々の歯車ブランクを試験するためのより簡単でより適した手順の採用を検討してもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質のセンターピースとプラスチック材料で作られた外側部とを備える複合歯車ブランクに関する。更に、本発明は、このような複合歯車ブランクの使用方法および複合歯車ブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング(EPS)システムでは、従来の油圧装置のパワーステアリングポンプ、ホース、油圧油、ならびにエンジンの駆動ベルトおよびプーリが不要になる。EPSは、エンジンから取り出されるエネルギー量を著しく減少させて、燃料の経済性、加速、および信頼性を改善する。EPSは、モーターによって駆動されるプーリおよびベルトから解け外れる油圧ポンプに起因する出力の損失なしで従来の油圧駆動装置の感触および操作性を提供する。
【0003】
典型的なEPSシステムは、電動機、センサ、およびウォーム歯車アセンブリを有する。その要件は以下の通りである。
・ステアリング操作中の最大入力トルクと結果として得られるウォーム歯車の軸力との両方に対する抵抗、
・振動および雑音の低減、
・全歯車歯面の低い摩擦および精度公差、
・鋼製シャフトに圧入可能であること、
・耐久性および車両の寿命に対する疲労抵抗性。
【0004】
雑音の低減、低摩擦係数、および摩耗減少のために、歯車の歯付き周辺部は合成熱可塑性材料で作られることが好ましい。一方、中心ハブ部分は、金属シャフトの安定した接続を可能にするために金属で作られることが好ましい。結果として、このためには、金属製内側部にしっかり取り付けられたプラスチック製外側部を有する複合部品の製造を必要とする。
【0005】
上記の課題を実現するために、先行技術において様々なアプローチが記載されており、例えば、特許文献1およびそこで引用されている文献を参照されたい。
特許文献2にはポリマー/金属ディスクを製造する工程が開示されており、結合剤が金属ハブに塗布され、その後に、金属ハブにポリマーリングを押圧してリング/ハブアセンブリを形成する。こうして形成されたアセンブリは、この後、加熱されてポリマーリングと金属ハブとの間に結合をもたらす。同様の工程が特許文献3に記載されている。
【0006】
特許文献4は電動ステアリング装置と電動ステアリング装置に使用される樹脂歯車に関する。この文献に記載された方法によると、プラスチックリングが独立した成型ステップによって作られる。続いて、リングは加熱されてわずかに大きい金属コアに圧入される。
【0007】
特許文献5には射出成形によって不活性部材を樹脂コーティングする方法が記載されている。
特許文献6には、シャフト、ディスク周囲の環状プラスチック要素、および歯付き冠部の中心開口部を有する金属ディスクからなる、特に、ウォーム歯車機構用の歯車が開示されている。一実施形態では、大きな金属ハブの周りに成型(独語では、「formschluessiges Angiessen」)によって環状プラスチック要素を形成することが検討されている。別の実施形態では、射出成形(独語では、「Spritzgiessen」)によってプラスチック要素を形成することが検討されている。しかしながら、特許文献6は、成型または射出成形法の実施方法に関する詳細情報を提供しておらず、2つの方法によって得られる結果の比較も示していない。
【0008】
特許文献7には、オプションとして補強用の金属ハブを有しうるローププーリ、ロープシーブ、走行輪などの回転対称物の製造工程が記載されている。製造工程は遠心成型法を含み、これに従って第1のε−カプロラクタム融液が回転式金型に流入する。反応融液は、重合し始めると、金型回転によって周辺の金型表面に対して半径方向外側に押しやられ、第2のε−カプロラクタム融液が金型に流入されてハブ領域を形成する。この第2の融液は、第1の融液と比較して増強された強度特性を有するように選択される。オプションとして、回転対称物のハブを形成するために金型中心に金属部品を設置することが検討されている。
【0009】
しかしながら、様々な先行技術の方法に従って製造された複合歯車ブランクのプラスチックと金属との接続部の強度は、大型エンジン付きの車におけるEPSシステム、および/または「ボンネットの下」にある、すなわち、使用温度が典型的におよそ120℃であるエンジンの近くのEPSシステムの厳しい要件のいくつかを満たさないことが判明している。
【0010】
したがって、高温においてもプラスチック製外側部と硬質のセンターピースとの間に実質的に改良された接着強度を備える複合歯車ブランクを有することがきわめて望ましい。
更に、このような改良された複合歯車ブランクを効率よく確実に生産できる製造方法を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/104692号
【特許文献2】米国特許第6638390号明細書
【特許文献3】特開2003−118006号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1609694号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1690664号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10127224号明細書
【特許文献7】米国特許第6432343号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の主な目的は、現在公知の複合歯車ブランクの限界および不都合を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的および更なる目的は、請求項1に記載の複合歯車ブランクと、請求項8に記載されたその使用方法と、請求項9および10に記載された製造方法とによって実現される。
【0014】
意外にも、製造ステップを注意深く選択することによって、プラスチック製外側部と硬質のセンターピースとの間にきわめて強力な接続部が実現されうることが判明した。
したがって、本発明の第1の態様に従って、硬質のセンターピースとプラスチック材料で作られた外側部とを備える複合歯車ブランクが提供され、上記センターピースは互いにほぼ平行な2つの円板面を有するほぼ円盤形であり、上記外側部は上記センターピースの周囲面の周りに成型されており、かつ上記複合歯車ブランクは下記の特性、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであること
を特徴とする。
【0015】
上記の垂直接着強度SNは5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、上記の剪断接着強度SSは、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度ST、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度SA
のうちの低い方の値を選択することによって決定される。
【0016】
本発明の別の態様によると、このような複合歯車ブランクは、特に、自動車用、あるいは、例えば、いわゆる「クアッド(quad)」などの2つの前輪を有する他の車両用の電動パワーステアリングシステムのウォーム歯車部を製造するために使用される。
【0017】
本発明の更に別の態様によると、このような複合歯車ブランクの製造方法は、
a)上記のプラスチック材料によって取り囲まれる構造化された周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)上記周囲面で粗面処理を実行するステップと、
c)センターピースに表面調整を施すステップと、
d)センターピースを金型に入れるステップと、
e)金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
f)センターピースの周囲の金型を満たすまで金型に液体反応混合物を加えるステップと、
g)満たされた金型に静圧をかけるステップと、
h)上記外側部を形成するために上記反応混合物を重合させるステップと
を備え、
表面調整を施すステップは、周囲面に有機官能性シラン化合物を刷毛塗りするステップを備え、ステップh)の後、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料を局所的に融解させるためにセンターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するためにセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。有利には、有機官能性シラン化合物はアルコキシシランである。
【0018】
本発明の更なる態様によると、このような複合歯車ブランクの製造方法は、
a)上記のプラスチック材料によって取り囲まれる周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)センターピースの表面を脱脂するステップと、
c)センターピースを金型に入れるステップと、
d)金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
e)センターピースの周囲の金型を満たすまで金型に液体反応混合物を加えるステップと、
f)満たされた金型に静圧をかけるステップと、
g)上記結合した外側部を形成するために上記反応混合物を重合させるステップと、
を備え、
センターピースは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びている複数のアンダカットまたは凹部を有し、上記アンダカットまたは凹部はステップe)またはf)において上記プラスチック材料で満たされ、それによって、上記外側部と上記センターピースとの間に、上記センターピースの半径方向、軸方向、および接線方向の機械的ロックを提供する。オプションとして、センターピースに隣接する領域でプラスチック材料を局所的に融解させるためにセンターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するためにセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。有利には、その方法は更に、ステップa)とb)との間に上記周囲面で粗面処理を実行するステップを備える。
【0019】
プラスチック製外側部はセンターピースを取り囲む密閉容積に導入される液体前駆体、すなわち、液体反応混合物から開始して形成されるので、上記方法のいずれも、一般に「直接成型法」と称される場合があることは理解されよう。本発明の重要な態様は、反応性前駆体の重合が静圧下で、すなわち、一般に非回転式金型内で実行されるという事実にある。金型を液体前駆体で満たした後金型に静圧をかけることによって、液体前駆体は重合工程中にセンターピースに対して半径方向内側に駆動される。このように、センターピースのいかなる凹部、空洞などの凹形構造も適切に満たされるようになり、それゆえ、プラスチック製外側部とセンターピースとの間に最適な界面が得られる。好ましくは、静圧は約0.5MPa〜約2MPa(約5bar〜約20bar)の範囲にある。
【0020】
様々な有利な実施形態が従属請求項において規定される。
複合歯車ブランクの対象とする用途に応じて、センターピースは、約60mm〜約90mm、好ましくは約65mm〜約85mmの外径を有する。四輪バイクなどの特定の用途の場合、約64mm〜約66mmの外径が好ましい。しかしながら、自動車の場合、センターピースは、一般に、約70mm〜80mm、好ましくは、約74mm〜76mm、特に約75mmの外径を有する。
【0021】
原則として、外側部を形成するために様々なプラスチック材料が想定されてよい。直接成型によって製造される適切な材料としては、ポリアミド6、ポリアミド6,12、およびポリアミド12などのポリアミド類があるが、ポリウレタンやポリスチレンでもよい。しかしながら、外側部は成型ポリアミド6で作られることが好ましい。これらの材料を直接成型によって製造するために、適切な液体反応前駆体(例えばポリアミド6の場合にはε−カプロラクタムなど)から開始されることが理解されよう。また、反応前駆体は、一般に、当技術分野で周知のように、触媒、熱安定剤、着色剤、架橋剤、内部潤滑剤など、多数の添加剤を含みうることが理解されよう。
【0022】
また、様々な剛体材料、特に、金属または繊維強化プラスチックがセンターピースに使用されうる。しかしながら、好ましくは、硬質のセンターピースは鋼製である。特に、硬質のセンターピースは、S25C(1.1158鋼、DIN17200、CK25としても示される)などの非合金炭素鋼で作られる。
【0023】
好ましい実施形態では、センターピースの周囲面は、テクスチャ加工されたりローレット加工されたりする。更に、外側部とセンターピースとの間に、センターピースの半径方向、軸方向、および接線方向の機械的ロックを提供するように、センターピースは、上記プラスチック材料で満たされる凹部、リム、またはアンダカットが備えられてもよい。
【0024】
更に好ましい実施形態では、プラスチック製外側部は円板面の少なくとも1つとほぼ重なるように成型される。このような構成は、軸方向における、すなわち、プラスチック製外側部とセンターピースの軸方向変位量に対する強度を増大させる。
【0025】
更に別の実施形態では、複合歯車ブランクは、更に、外側部の周りに同心円状に配置された追加的なプラスチック材料で作られた周辺領域を備える。特に、追加的なプラスチック材料は高性能ポリマー、特にPEEKである。このハイブリッド配置によって、歯車の重要な周辺領域における高性能のポリマーの機械的優位性の利益を享受し、一方でプラスチックリングの内側部に成型ポリアミド6などの低価格ポリマーを使用することによってコストを削減することができる。このようなハイブリッド部を製造するために、高性能ポリマーの予め形成されたリングが成型工程の前に金型に入れられる。
【0026】
外側と内側のプラスチックリングの間で十分な接着強度を確保するために、予め形成された外側リングは内側プラスチックリングと機械的にロックする構造で作られうる。
複合歯車ブランクの具体的な用途に応じて、プラスチック製外側部は予め形成された歯とともに形成されてもよい。
【0027】
製造工程の有利な実施形態では、粗面処理は鋼粗粒を噴射するステップを備えており、これは完成品に優れた接着強度を与えることが判明した。更に、センターピースを金型に入れるステップの前に金型を予熱すると有利であることが判明している。
【0028】
更なる実施形態では、ステップa)は、長尺状のホルダ要素に整列された複数の硬質のセンターピースのアセンブリを提供するステップを備え、隣接するセンターピースの各対はスペーサ要素によって分離される。このように形成された複数の複合歯車ブランクは、その後分解される。一般に、こうすることによって、所与の1成型サイクルで複数の複合歯車ブランクを製造することができ、それゆえ、生産コストを下げることに寄与しうる。
【0029】
添付図面とともに取り上げる本発明の様々な実施形態に関する以下の説明を参照することによって、本発明の上記およびその他の特徴および目的とこれらを実現する方法がより明らかになり、本発明自体がよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】複合歯車ブランクの第1の実施形態を平面図で示す。
【図2】図1の歯車ブランクを断面図で示す。
【図3】ローレット加工された周囲面の拡大部分を含む、図1の歯車ブランクセンターピースを斜視図で示す。
【図4】複合歯車ブランクを製造する成型装置を垂直断面図で示す。
【図5】構造化された外側部と複合歯車ブランクのセンターピースとの間の接触領域の写真による平面図を示す。
【図6】複合歯車ブランクの第2の実施形態を平面図で示す。
【図7a】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図7b】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態を図7aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図7c】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図7d】複合歯車ブランク(「UFOのような」)の第3の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図8a】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図8b】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態を図8aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図8c】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図8d】複合歯車ブランク(「T字孔」)の第4の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図9a】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態をセンターピースの平面図で示す。
【図9b】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態を図9aの断面B−Bに従ってセンターピースの断面図で示す。
【図9c】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態をセンターピースの斜視図で示す。
【図9d】複合歯車ブランク(「燕尾形」)の第5の実施形態を切り取られた扇形を有する複合歯車ブランクの斜視図で示す。
【図10】複数の複合歯車ブランクの製造ステップを示す。
【図11】接着強度を測定するための典型的な力対伸びのダイアグラムの略図を示す。
【図12】複合歯車ブランクの軸方向接着強度を測定するための配置を垂直断面図で示す。
【図13】複合歯車ブランクの接線方向接着力を試験するための配置を平面図で示す。
【図14】複合歯車ブランクの法線方向接着強度を測定するための配置を平面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1〜図3に示す複合歯車ブランクは、シャフトに取り付けるための中心開口部4および周辺面6を有する円盤形の硬質のセンターピース2を備える。センターピースは外径D1および厚さHを有し、一方、中心開口部は内径D2を有する。プラスチック材料で作られ外径D3を有する環状の外側部8が、周辺面6の周りに隣接して配置される。センターピースと外側部の間に良好な機械的接続を提供するように、周囲面6はローレット加工された構造Kを備える。以下で更に詳しく説明するように、プラスチック製外側部8は直接成型法によってセンターピースの周りに形成される。
【0032】
複合歯車ブランクは、図4に概略的に示すように、成型装置で製造される。装置は、ほぼ垂直に配置された長軸ALを有するカップ状の円筒形チャンバ10を備える。チャンバは、D3、すなわち形成される外側部の外径よりもやや大きい内径を有する。チャンバは、下面14および上面16を備える一体的なベースプレート12を有し、ベースプレートから平坦な上部20を備える中心円筒形突出部18が上方に突き出る。突出部18の外径はD2、すなわち、センターピース2の中心開口部の内径に対応し、これはセンターピース2の厚さHにほぼ等しい高さを有する。円筒形突出部は第1の上面部22から突き出ており、第1の上面部22はベースプレートの周囲まで延在する第2の上面部24によって取り囲まれている。また、図4から分かるように、第2の上面部24は、第1の上面部22に対して下方にずらされており、2つの部分の間の領域には傾いた遷移面26がある。
【0033】
成型装置は、更に、円筒形チャンバ10全体に重なるように寸法決めされた蓋部30を備えるカバープレート部材28を備える。更に、カバープレート部材は、その下側に、平坦な下面部34を備える円錐部分として成形された中心突出部32を備える。カバープレート部材28と円筒形チャンバ10との間に媒体の密封を形成するために、対応するOリング用の溝36がチャンバ10の上面領域に形成される。
【0034】
更に図4に示されるのは、円筒形突出部18の周りに配置された環状のセンターピース2である。特に、センターピースの外径(D1)は、第1の上面部22および下面部34の直径よりもやや大きいことが分かる。図4から分かるように、カバープレート部材28が円筒形チャンバ10の上に載っており、溝36内のOリングを圧縮するとき、チャンバはカバープレート部材28の平坦な底面部34が円筒形突出部18の平坦な上部20に当接するように寸法決めされる。
【0035】
反応液体混合物Mは、ベースプレートとカバープレート部材との間に形成された空洞に流入されている。図4からはっきりと分かるように、反応液体混合物の上位レベルはセンターピース2の上面の上方にあるが、下位レベルまたは反応液体混合物はセンターピース2の下面の下方にある。つまり、反応混合物の重合は、センターピースの上方および下方のセンターピースの周囲にC字状に重なるプラスチック塊を生成する。成型工程は、カバープレート部材の開口部38から供給される不活性ガスの過圧を用いて実行される。
【0036】
上記の装置は、更に、カバープレート部材を昇降させるフレームおよび適切な手段、金型を加圧するためにカバープレート部材を円筒形チャンバに固定する手段、温度および圧力を検知する手段、ならびに金型を予熱する手段などの構成部品を備えることは理解されよう。有利には、成型装置の内面は、完成した歯車ブランクを金型から取り外し易くするためにクロムめっきされる。
【0037】
ここで、成型ポリアミド6で作られる外側部を有する、図1〜図3に示すタイプの複合歯車ブランクに関する成型工程を更に詳しく説明する。
工程は、硬質のセンターピース2から開始する。センターピース2は、好ましくは非合金炭素鋼で作られており、その周囲面に約1mmのピラミッド形の突起部を有するローレット加工などの適切な構造化を提供する。続いて、周囲面は、まず鋼粗粒を噴射して粗面化され、この後、表面調整ステップに供される。表面調整は、一般に、例えば、アセトンまたは別の脱脂溶剤を用いてすすぐか、あるいは洗浄液中での超音波処理によってセンターピースを脱脂する洗浄ステップを備える。最も重要なことであるが、表面調整を施すステップは、周囲面に好ましくはアルコキシシランである有機官能性シラン化合物を刷毛塗りすることによって終了する。適切なアルコキシシランは、例えば、「Z−6020シラン」(主にアミノエチルアミノプロプリトリメトキシシランおよびメトキシシランを含む)または「Z−6032シラン」(主にアミノエチルアミノプロプリトリメトキシシラン、アミノシラン塩酸塩、およびメタノールを含む)としてDow Corning社から入手可能である。
【0038】
次のステップでは、既に前節で説明したようにセンターピースが金型に入れられる。金型チャンバは、140℃〜170℃の温度に予熱される。更に、金型は、窒素やアルゴンなどのガスでフラッシングすることによって不活性化される。
【0039】
その後、既に概説したように金型を満たしてセンターピースを取り囲むまで液体反応混合物が金型に導入される。ポリアミド6を成型する方法は公知である。この場合、2ストリーマ手順が採用され、その手順では第1の供給タンクがモノマーおよび開始剤、熱安定剤、および任意の着色剤を提供し、第2の供給タンクがモノマーおよび触媒を提供する。こうして形成された液体反応混合物は、金型に満たされているとき120℃〜150℃の温度を有する。
【0040】
その後、金型が約0.5MPa〜約2MPa(約5bar〜約20bar)の範囲の窒素またはアルゴンなどの不活性ガスで加圧され、それにより、液体反応混合物がローレット加工されたセンターピースの表面凹部に流入する。その後、反応混合物は、プラスチック製外側部の原形を成すように重合される。この後、圧力が解放され、こうして形成された複合部品は成型装置から取り出される。
【0041】
更なるステップでは、複合歯車ブランクは誘導加熱装置に移され、そこでセンターピースが所定の手順に従って加熱される。その結果、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料は、局所的に融解するよう十分に加熱される。適切な加熱手順は、一般に、歯車ブランクの大きさに応じて異なり、予備試験において決定されるべきである。95mmの外径を備えるポリアミド6リングによって取り囲まれた75mmの外径および13mmの厚さを有する環状の鋼製センターピースを備える歯車ブランクの場合、約6kWの電力による約12秒の単一加熱ステップであれば、プラスチック材料を制御しながら局所的に融解させるのに適切であろう。加熱ステップの後に、プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために、例えば、1対の適切に冷却された金属板の間にセンターピースを固定することによってセンターピースを制御された強制冷却ステップに供する。局所的融解とそれに続く冷却との上記の組合せによって、プラスチック材料とセンターピースとの間の接着強度が著しく改善される。
【0042】
最後に、寸法安定性に関する問題を回避するために、完成品は、例えば、140℃〜170℃の温度で24時間の焼き戻し処理に供される。
成型工程で形成された余分なプラスチック材料がすべて切削されることは理解されよう。
【0043】
図5から分かるように、上記の工程では、外側部のプラスチック材料がセンターピースのローレット加工された構造の周りに密接して形成される複合歯車ブランクを製造することが可能になり、このことは2つの部品間の良好な接着強度にとって必須条件である。
【0044】
理論にとらわれるまでもなく、上記の方法によって得られる外側部とセンターピースの間の高水準の垂直および剪断接着強度は、(i)表面調整によって提供される力結合(force connection)と、(ii)センターピース表面の粗面処理によって提供されるある機械的ロック作用との組合せによってもたらされると考えられる。液体反応混合物を含む金型に静圧を加えることは良好な接着強度を得るために不可欠であることが判明した。
【0045】
図6に示す更なる実施形態では、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られる環状領域40は、ポリアミド6部分8の周りに同心円状に配置される。このような部分を製造するために、成型工程は、液体反応混合物Mを加える前に適切に寸法決めされたPEEKリングを硬質のセンターピース2とともに金型に入れるステップを含む。PEEKリングをセンターピースと同じ高さにするために、第1の上面部22とほぼ同一平面にある第3の周囲上面部を有するベースプレートを備える成型チャンバを使用してもよい。あるいは、形成されるポリアミド6部分よりも厚いPEEKリングから開始してもよく、歯車ブランクの形成後、PEEKリングの不要な厚さはすべて切削されうる。PEEKリングには、予め形成された歯が備えられていてもよい。例えば、このような構成は、約75mmの外径を有する鋼製センターピースと、約85mmの外径を有する隣接するポリアミド6リングと、約95mmの外径を有する外側PEEKリングとを備えていてもよい。
【0046】
図7〜図9は、複合歯車ブランクの更なる実施形態を示し、外側部とセンターピースとの間にセンターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供するために、センターピースには外側部のプラスチック材料で満たされる凹部、リム、またはアンダカットが備えられる。参照し易いように、以下の説明では、水平に配置されている、すなわち、垂直に配置された回転軸Aを有するセンターピースに言及する。
【0047】
図7に示すセンターピース102は、赤道面に対して対称である。センターピース102は、ほぼ水平である上面106と下面108とを備え、かくして、センターピースの最大厚さHを規定する中心部104を有する。中心部104に隣接して、最外部の周囲面120に収束する均一に傾斜した上面116および下面118で形成された比較的薄い周辺部114まで階段状に遷移する上リム110および下リム112があり、最外部の周囲面120はセンターピースの最小厚さH1を規定する。更に、周辺部114は、センターピースの周囲に沿って均一に分布される8個の円筒形かつ軸方向の孔122を備える。図7dから分かるように、プラスチック製外側部124は周辺部114にC字状に重なり、それゆえ、軸方向の機械的ロックを提供する。外側部124のプラスチック材料は軸方向の貫通孔122を満たし、更に周辺部114を囲むという事実に基づいて、更に半径方向および接線方向の機械的ロックが提供される。75mmの外径を備えるセンターピース102の場合、軸方向孔122は、例えば、約6mmの直径を有しうる。
【0048】
図8に示すセンターピース202は、均一な厚さHを有する円盤形であり、センターピースの周囲に沿って均一に分布される8個の円筒形かつ軸方向の貫通孔204を備える。これらの軸方向貫通孔204のそれぞれは、軸方向貫通孔からセンターピース202の周囲面208までの通路を形成する対応する半径方向孔206を備える。外側部210のプラスチック材料が半径方向孔206および軸方向孔204を満たすという事実に基づいて、これはセンターピース202内に、軸方向、半径方向、および接線方向の機械的ロックを提供する複数のT字形プラスチック突出部212を形成する。この例では、センターピース202は、75mmの外径および13mmの厚さを有し、軸方向貫通孔204および対応する半径方向孔206は、例えば、約8mmの直径を有する。図9に示すセンターピース302は、均一な厚さHを有する円盤形である。センターピース302は、センターピースの周囲に沿って均一に分布される4つの上側凹部304および4つの下側凹部306を備える。図9から分かるように、これらの凹部のそれぞれは、周囲面308から始まり丸い縁を有する「燕尾形」アンダカットとして形成される。ここに示す例では、複数の4つの上側凹部304は複数の4つの下側凹部306から方位角方向に45°の角度だけ変位され、それゆえ、上側凹部は下側凹部の真上に配置されないことになる。上側凹部および下側凹部のそれぞれは、外側部310のプラスチック材料で満たされ、それゆえ、センターピース302内に軸方向、半径方向、および接線方向の機械的ロックを提供する複数のT字形プラスチック突出部312を形成する。この例では、センターピース302は、75nmの外径および13mmの厚さを有し、上側凹部304および下側凹部306は半径方向に、例えば、約7.5mmの深さと、円周方向に約10mmの開口部と、約15mmの最大円周方向サイズとを有する。
【0049】
図7、図8、および図9に関連して記載した実施形態の凹部またはアンダカットは、一般に、軸方向、半径方向、および接線方向に機械的ロックを形成する金属およびプラスチック構造物の十分な機械的安定性を確保するように寸法決めされる。特に、凹部またはアンダカットは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びうるが、実質的に1.5mm、2mmに近くてもよく、あるいは更に大きくてもよい。このような複合歯車ブランクは、ここでは、「マクロロックされた」(すなわち、軸方向、半径方向、および接線方向に機械的ロックされた)とも称される。これらの部分の製造は、脱脂ステップ以外にいかなる具体的な表面調整処理も必要としないが、オプションの製造ステップとして、鋼粗粒噴射などの粗面処理を含めることが有用な場合がある。更に、マクロロックされた複合歯車ブランクの製造では、センターピースに隣接する領域のプラスチック材料を局所的に融解するためのセンターピースを加熱するステップを必ずしも必要としないが、このようなステップがオプションとして含まれてもよい。誘導装置を用いてセンターピースを加熱することのみによってプラスチック材料の制御された局所的な融解を実現することは、例えば、1.35mm以上の大きい凹部を有する部品にとって基本的に不可能であることが判明しているので、これは重要な発見である。液体反応混合物を含む金型に静圧を加えることはマクロロックされた複合歯車ブランクにおいて良好な接着強度を得るために不可欠であることが判明した。
【0050】
機械的ロック作用に基づいて、マクロロックされた部品の垂直および剪断接着強度は、界面における接着力によって制限されず、それよりはむしろ、接着強度はプラスチック部品およびセンターピースの材料強度によって制限されるのみである。つまり、ロックを提供する様々な幾何学的構造は相応に寸法決めされる必要がある。
【0051】
図7、図8、および図9に記載したマクロロックされた実施形態は、簡単な直接成型、すなわち、センターピースを金型に入れて凹部またはアンダカットを満たすために液体反応混合物を満たすことによって製造されうる。満たされてはならない空洞に液体反応混合物が入るのを防ぐために障壁を挿入する必要はない。
【0052】
図7、図8、および図9に関連して記載したマクロロッキング実施形態は図6に関連して記載した実施形態と組み合わせてもよく、すなわち、複合歯車ブランクはPEEKなどの更なるプラスチック材料で作られた外側環状領域を備えていてもよいことが理解されよう。
【0053】
図10は製造工程の更なる実施形態の重要なステップを示しており、これは前述の歯車ブランク実施形態のいずれかを製造するために採用されうる。図10に示すように、厚さHを有する複数の3つの硬質のセンターピース402がロッド状のホルダ要素404上に配列される。ロッド404の外径は、過度な半径方向の変位を防止すると同時にセンターピースがロッドに沿って摺動しうるように、センターピースの内径よりもわずかに小さいだけである。隣接するセンターピースの各対の間に、センターピースの中心開口部に対応する中心開口部を有する円盤形スペーサ要素406が配置される。典型的に、スペーサ要素406の厚さhは、センターピースの厚さHよりもやや小さい。スペーサ要素406は、金型の作動環境下では腐食、融解、あるいは甚だしい変形を生じない材料で形成されており、それゆえ、成型工程の完了後に容易に取り外される。
【0054】
図10に概略的に示すアセンブリは、図3に関連して記載したものに類似しているが、中心の円筒形突出部の代わりにベースプレート部材に中心凹部を有する金型に入れられてもよいことが理解されよう。このような凹部は、成型チャンバに対して図10に示すアセンブリを整列させて位置決めするようにロッド404を受け入れるために使用される。直接成型法の過程では、プラスチック製外側部を形成する反応液体混合物は、円筒形ロッドに積み重ねられたすべてのセンターピースを取り囲むように金型の中に満たされる。反応混合物の重合および必要な熱処理または焼き戻しの後、円筒型ロッドは取り外され、アセンブリは複数の複合歯車ブランクに分離される。これは、例えば、アセンブリを適切なツールの中に入れて円盤形スペーサ要素を切断または切削することによって実施されてもよい。
接着強度の測定
垂直接着強度SNおよび剪断接着強度SSを測定するために、以下の手順が採用された。プラスチック/金属界面の表面要素に対する方向xのプラスチック/金属結合部の接着強度Sxは、プラスチック/金属結合を断たずに加えられうる表面積A当りの方向xの最大力Fxとして本明細書では理解されるものとする。
【0055】
実際に、測定は、一定の引張り速度または押込み速度vxでゼロから開始してx方向に荷重をかけることによって実行される。荷重は、かくして、相応に増大し、まず弾性変形をもたらし、その後に塑性変形をもたらし、そしてついにはある点で複合部品を破壊する(これはプラスチック製外側部がセンターピースから引き離されているか、あるいはプラスチック部品が力がかかった場所で引きちぎられた状態である)。これは図11に概略的に示される。最大力Fxmaxは、図においてピーク値として得られる。
【0056】
こうして測定された最大力Fxmaxは、Sx=Fxmax/Axに従って対応する接着強度を計算するために使用され、Axは関連するプラスチック/金属界面の面積を示す。
【0057】
これに関連して、垂直接着強度SNは、プラスチック/金属界面に垂直な方向、すなわち、半径方向の最大力FNmaxを測定することによって得られる。剪断接着はプラスチック/金属界面に平行な任意の方向、すなわち、界面の表面要素の平面内の任意の方向の相対変位を指すので、剪断接着強度SSは、様々な平面内方向で破壊することなく適用可能な最大力FSmaxを測定し、その後最小結果を選択することによって計算される。実際には、これは、接線方向の最大力FTmaxと軸方向の最大力FAmaxを測定し、この2つのうちの小さい方を選択することによって行われる。
【0058】
図12に示すように、複合歯車ブランクのプラスチック製外側部502と硬質のセンターピース504との間の軸方向剪断接着強度SAを測定するために、センターピース504は円盤形の台506および中心の円筒形突出部508を備えるベースツールに設置される。台506はセンターピースの外径よりもわずかに小さい外径を有するが、突出部508はセンターピース504の内径よりもわずかに小さい外径を有する。その後、上下逆さまのカップの形状を有する不撓性の圧縮手段510をプラスチック製外側部に向けて下方に押すことによって、増加していく軸方向力FAを発生させるように軸方向に一定速度で荷重をかける。
【0059】
接線方向の接着強度STを測定するために、複合歯車ブランクのプラスチック製外側部604を通して軸方向に複数の周囲の孔602が開けられ、各孔の中心は、図13に示すように、プラスチック部の縁から半径方向に離されている。その後、増加していく接線方向力を発生させるように接線方向に一定速度で荷重をかける。所要の接線方向力を加えるために、例えば、対応するブロッカーピンを挿入可能な複数の固定孔608をセンターピース606に設けることによってセンターピース606が回転するのを阻止する必要がある。実際に、トルクが接線方向に加えられる力に関係することを示すために、本明細書では下付き文字Tが含まれるトルクTTを用いて公知のレバーアームによって得られた結果を表す場合がある。
【0060】
垂直接着強度SNを測定するために、図13に示すような構成から開始するが、図14に示すような周囲の孔が設けられた領域の周りの小さい試験部610を除いてプラスチック部のほとんどを排除している。あるいは、センターピースのプラスチック部の残りをそのままにし、試験部610とプラスチック部の残りを完全分離するように放射状に切断するだけでよい。プラスチック部とセンターピースとの間で半径方向に所要の一定速度の荷重をかけるために、プラスチック部の周囲の孔602とセンターピースの中心孔612との各々に1本のピンを挿入してもよく、これらのピンは、その後、一定速度で引き離される。
【0061】
確立された試験手順に従って、以下の例で報告されたすべての接着強度の測定は、以下のように指定された一定速度の荷重で実行された。
・軸方向荷重測定:速度vA=1mm/分
・半径方向荷重測定:速度vN=5mm/分
・接線方向荷重測定:半径方向速度=3rad/分
しかしながら、剪断接着強度および垂直接着強度を決定する他の手順が採用されうることは強調されるべきである。このような手順からは、本明細書で使用される手順とはやや異なるSSおよびSNの数値が得られることが予想される。しかし、上記の方法に従って製造される様々なタイプの複合歯車ブランクの相対的性能は、SSおよびSNを測定するために採用される特定の手順に影響を受けないであろう。
【実施例】
【0062】
以下の実施例では、各々が以下の寸法を有するS25C炭素鋼(1.1158鋼、DIN17200、CK25とも称される)で作られた環状センターピースを備える複合歯車ブランクを参照する。
【0063】
・センターピースの外径:D1=75mm
・中心開口部の内径:D2=25.50mm
・センターピースの厚さ:H=13mm
いくつかのセンターピースの周囲面(比較例A1、A2、B1、B2、B3、C1、C2、ならびに実施例X1およびX2)には、ローレット加工、すなわち、約1mmのピラミッド形の突起部が機械加工された。対照的に、実施例YおよびZのデータは、それぞれ、図8および図9に関連して前述した2つの実施形態に従ってマクロロッキング構造により得られた。
【0064】
各歯車ブランクのプラスチック製外側部は、前述のように直接成型ポリアミド6によって作られ、外径D3=95mmを有する。
上記の実施例X1、X2、Y、およびZについて測定された剪断接着強度SSは、16.3MPaの測定上限値よりも高かった。マクロロッキング構造YおよびZを備えた2つの複合歯車ブランクについて測定された垂直接着強度SNは、破壊に対するポリアミドリング材料の強度によって実質的に決定された。
【0065】
【表1】
所感
前述の実施例X1、X2、Y、およびZについて測定された剪断接着強度SSは、16.3MPaの測定上限値よりも高かった。マクロロッキング構造YおよびZを備えた2つの複合歯車ブランクについて測定された垂直接着強度SNは、破壊に対するポリアミドリング材料の強度によって実質的に決定された。
【0066】
更なる比較例として、小さい一連の複合歯車ブランクが特許文献6の開示に従って製造された。この目的で、ローレット加工されたセンターピースが、特定の表面調整なしで、すなわち脱脂だけで、ガラスビーズも鋼粗粒処理もなく、シラン処理もなく、融解ステップもなしで採用された。この結果、23℃で1MPa未満の垂直接着強度SNが得られた。
結び
本発明の直接成型法を採用すると、室温および120℃までの高温のいずれにおいても、既知の方法で作られた同じ材料の同一サイズの歯車ブランクと比べて、改善された剪断接着強度SSおよび垂直接着強度SNを有する複合歯車ブランクを製造することが可能である。この発見を、SSおよびSNを決定する具体的手順を用いて上記の実施例によって報告した。しかしながら、本明細書において比較した様々な方法に従って製造された様々なタイプの複合歯車ブランクの相対的性能は、SSおよびSNを決定するために使用した個々の手順に依存しないであろう。換言すると、先に定義した本発明の2つの態様による直接成型法によって得られる優位性は、SSおよびSNを決定するために他の手順を採用する場合でも明らかであろう。したがって、製造方法を更に最適化するために、あるいは品質管理を目的として、多数のわずかに異なる種々の歯車ブランクを試験するためのより簡単でより適した手順の採用を検討してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合歯車ブランクであって、
硬質のセンターピース(2)とプラスチック材料で作られた外側部(8)とを備え、前記センターピースは互いにほぼ平行な2つの円板面を有するほぼ円盤形であり、前記外側部は前記センターピースの周囲面(6)の周りに成型されており、
前記複合歯車ブランクは下記の特性を有すること、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであること
を特徴とし、
前記垂直接着強度SNは5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、前記剪断接着強度SSは、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度ST、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度SA
のうちの低い方の値を選択することによって決定される、複合歯車ブランク。
【請求項2】
前記センターピースは約60mm〜約90mm、好ましくは約65mm〜約85mm、特に約74mm〜76mm、最も特定的には約75mmの外径を有する、請求項1に記載の複合歯車ブランク。
【請求項3】
前記外側部のプラスチック材料はポリアミドであり、前記センターピースは鋼製である、請求項1または2に記載の複合歯車ブランク。
【請求項4】
前記センターピースの構造化された周囲面(6)はローレット加工(K)されるか、あるいはテクスチャ加工される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項5】
前記センターピースは、前記外側部と前記センターピースとの間に前記センターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供するために前記プラスチック材料で満たされた凹部、リム、またはアンダカットを備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項6】
前記外側部は前記円板面の少なくとも1つとほぼ重なる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項7】
前記外側部の周りに同心円状に配置された周辺領域を更に備え、前記周辺領域は追加的なプラスチック材料で作られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項8】
電動ステアリングシステムのウォーム歯車部を製造するための請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの使用方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの製造方法であって、
a)プラスチック材料によって取り囲まれる構造化された周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)前記周囲面で粗面処理を実行するステップと、
c)前記センターピースに表面調整を施すステップと、
d)前記センターピースを金型に入れるステップと、
e)前記金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
f)前記センターピースの周囲の前記金型を満たすまで前記金型に液体反応混合物を加えるステップと、
g)満たされた前記金型に静圧をかけるステップと、
h)前記外側部を形成するために前記反応混合物を重合させるステップと
を備えるとともに、
前記表面調整を施すステップは、前記周囲面に有機官能性シラン化合物を刷毛塗りするステップを備え、かつステップh)の後、前記センターピースに隣接する領域の前記プラスチック材料を局所的に融解させるために前記センターピースを制御された加熱ステップに供し、その後に前記プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために前記センターピースを制御された強制冷却ステップに供する方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの製造方法であって、
a)プラスチック材料によって取り囲まれる周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)前記センターピースの表面を脱脂するステップと、
c)前記センターピースを金型に入れるステップと、
d)前記金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
e)前記センターピースの周囲の前記金型を満たすまで前記金型に液体反応混合物を加えるステップと、
f)前記満たされた金型に静圧をかけるステップと、
g)前記結合した外側部を形成するために前記反応混合物を重合させるステップと
を備えるとともに、
前記センターピースは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びている複数のアンダカットまたは凹部を有し、前記アンダカットまたは凹部はステップe)またはf)において前記プラスチック材料で満たされることにより、前記外側部と前記センターピースとの間に前記センターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供する方法。
【請求項11】
ステップg)の後、前記センターピースに隣接する領域で前記プラスチック材料を局所的に融解するために前記センターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、前記プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために前記センターピースを制御された強制冷却ステップに供する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)とb)との間に前記周囲面で粗面処理を実行するステップを更に備える、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記粗面処理するステップは鋼粗粒を噴射するステップを備える、請求項9または12に記載の方法。
【請求項14】
前記金型に前記センターピースを入れるステップの前に前記金型が予熱される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法であって、ステップa)は長尺状のホルダ要素上に配列された複数の硬質のセンターピースのアセンブリを提供するステップを備え、隣接するセンターピースの各対はスペーサ要素によって分離されており、前記方法は前記反応混合物の重合時に形成された複数の複合歯車ブランクを分解するステップを更に備える方法。
【請求項16】
液体反応混合物を前記金型に加える前に、前記更なるプラスチック材料で作られた前記周辺領域に対応する環状部が前記金型に入れられる、請求項7に記載の複合歯車ブランクを製造するための請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
複合歯車ブランクであって、
硬質のセンターピース(2)とプラスチック材料で作られた外側部(8)とを備え、前記センターピースは互いにほぼ平行な2つの円板面を有するほぼ円盤形であり、前記外側部は前記センターピースの周囲面(6)の周りに成型されており、
前記複合歯車ブランクは下記の特性を有すること、すなわち
a)25℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも17MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであり、
かつ、
b)120℃までの温度下で測定されるとき、
・外側部とセンターピースとの間の垂直接着強度SNが少なくとも11MPaであり、
・外側部とセンターピースとの間の剪断接着強度SSが少なくとも16MPaであること
を特徴とし、
前記垂直接着強度SNは5mm/分の一定速度で半径方向外向きの荷重をかけることによって決定され、前記剪断接着強度SSは、
i)3rad/分の一定速度で接線方向荷重をかけることによって得られる接線方向接着強度ST、および、
ii)1mm/分の一定速度で軸方向荷重をかけることによって得られる軸方向接着強度SA
のうちの低い方の値を選択することによって決定される、複合歯車ブランク。
【請求項2】
前記センターピースは約60mm〜約90mm、好ましくは約65mm〜約85mm、特に約74mm〜76mm、最も特定的には約75mmの外径を有する、請求項1に記載の複合歯車ブランク。
【請求項3】
前記外側部のプラスチック材料はポリアミドであり、前記センターピースは鋼製である、請求項1または2に記載の複合歯車ブランク。
【請求項4】
前記センターピースの構造化された周囲面(6)はローレット加工(K)されるか、あるいはテクスチャ加工される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項5】
前記センターピースは、前記外側部と前記センターピースとの間に前記センターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供するために前記プラスチック材料で満たされた凹部、リム、またはアンダカットを備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項6】
前記外側部は前記円板面の少なくとも1つとほぼ重なる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項7】
前記外側部の周りに同心円状に配置された周辺領域を更に備え、前記周辺領域は追加的なプラスチック材料で作られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合歯車ブランク。
【請求項8】
電動ステアリングシステムのウォーム歯車部を製造するための請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの使用方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの製造方法であって、
a)プラスチック材料によって取り囲まれる構造化された周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)前記周囲面で粗面処理を実行するステップと、
c)前記センターピースに表面調整を施すステップと、
d)前記センターピースを金型に入れるステップと、
e)前記金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
f)前記センターピースの周囲の前記金型を満たすまで前記金型に液体反応混合物を加えるステップと、
g)満たされた前記金型に静圧をかけるステップと、
h)前記外側部を形成するために前記反応混合物を重合させるステップと
を備えるとともに、
前記表面調整を施すステップは、前記周囲面に有機官能性シラン化合物を刷毛塗りするステップを備え、かつステップh)の後、前記センターピースに隣接する領域の前記プラスチック材料を局所的に融解させるために前記センターピースを制御された加熱ステップに供し、その後に前記プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために前記センターピースを制御された強制冷却ステップに供する方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合歯車ブランクの製造方法であって、
a)プラスチック材料によって取り囲まれる周囲面を有する少なくとも1つの硬質のセンターピースを提供するステップと、
b)前記センターピースの表面を脱脂するステップと、
c)前記センターピースを金型に入れるステップと、
d)前記金型を不活性ガスでフラッシングすることによって不活性化するステップと、
e)前記センターピースの周囲の前記金型を満たすまで前記金型に液体反応混合物を加えるステップと、
f)前記満たされた金型に静圧をかけるステップと、
g)前記結合した外側部を形成するために前記反応混合物を重合させるステップと
を備えるとともに、
前記センターピースは、半径方向に少なくとも1.35mm伸びている複数のアンダカットまたは凹部を有し、前記アンダカットまたは凹部はステップe)またはf)において前記プラスチック材料で満たされることにより、前記外側部と前記センターピースとの間に前記センターピースの半径(R)方向、軸(A)方向、および接線(T)方向の機械的ロックを提供する方法。
【請求項11】
ステップg)の後、前記センターピースに隣接する領域で前記プラスチック材料を局所的に融解するために前記センターピースを制御された加熱ステップに供し、その後、前記プラスチック材料の過熱および劣化を回避するために前記センターピースを制御された強制冷却ステップに供する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)とb)との間に前記周囲面で粗面処理を実行するステップを更に備える、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記粗面処理するステップは鋼粗粒を噴射するステップを備える、請求項9または12に記載の方法。
【請求項14】
前記金型に前記センターピースを入れるステップの前に前記金型が予熱される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法であって、ステップa)は長尺状のホルダ要素上に配列された複数の硬質のセンターピースのアセンブリを提供するステップを備え、隣接するセンターピースの各対はスペーサ要素によって分離されており、前記方法は前記反応混合物の重合時に形成された複数の複合歯車ブランクを分解するステップを更に備える方法。
【請求項16】
液体反応混合物を前記金型に加える前に、前記更なるプラスチック材料で作られた前記周辺領域に対応する環状部が前記金型に入れられる、請求項7に記載の複合歯車ブランクを製造するための請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−520979(P2012−520979A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500247(P2012−500247)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053492
【国際公開番号】WO2010/106120
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(506344871)クワドラント エーペーペー アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】QUADRANT EPP AG
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053492
【国際公開番号】WO2010/106120
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(506344871)クワドラント エーペーペー アクチェンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】QUADRANT EPP AG
【Fターム(参考)】
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