説明

複合滑り軸受

【課題】焼結金属を基材として合成樹脂の軸受層を有して精密な安定した回転トルクを得ることが可能な滑り軸受とすることであり、例えばルームエアコン用コンプレッサやカーエアコン用コンプレッサの回転軸、自動車や建設機械などのトランスミッションなどのように比較的大きなラジアル荷重やアキシャル荷重を受ける滑り軸受として使用可能な高精度の滑り軸受とすることである。
【解決手段】円筒状の滑り軸受の焼結金属製の基材1の内径面側に重ねて樹脂層2を一体に設け、この樹脂層2は芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に繊維状充填材を配合した樹脂組成物からなり、繊維状充填剤3は、繊維の長さ方向を軸受の回転方向に対して45〜90度に交差するように配向させて樹脂層に分散させ、この樹脂層2は層厚0.1〜0.7mmに設けた複合滑り軸受とする。繊維の両端のエッジによる相手材の摩耗損傷が軽減され、摩擦係数が安定する。これにより、焼結金属を基材1として合成樹脂の軸受層2を有して精密な安定した回転トルクを得ることが可能な複合滑り軸受となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑性を安定させて回転精度の高い滑り軸受に用いられ、特に焼結金属を基材として芳香族ポリエーテルケトン系樹脂(PEK樹脂)からなる樹脂層を形成した複合滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転精度の高い滑り軸受として、多孔質の焼結金属に油を含浸させた滑り軸受が知られている。この滑り軸受は、焼結金属系の多孔質材料に油を含浸させて使用すれば、油を継続的に摺動界面に供給することが可能であるため、摩擦力を安定的に低くすることが可能である。
【0003】
このような滑り軸受が接する相手材は、通常、このような滑り軸受と同じ金属材料であることが多く、線膨張の相違によるいわゆる「ダキツキ、抜け」等の心配はなく、加工精度を高めて、回転精度が要求される用途に適している。
【0004】
また、上記以外の自己潤滑性を有する滑り軸受としては、樹脂に四フッ化エチレン樹脂(PTFE)や黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を配合したり、潤滑油やワックスを配合したりしたものが知られている。
【0005】
しかし、多孔質の焼結金属に油を含浸させて用いる滑り軸受は、軸または固定される相手材が軟質材料である場合、相手材を摩耗させるおそれがあり、また潤滑油の供給が途切れた場合などに金属接触が生じたりする恐れがある。
【0006】
特に、滑り軸受の材料をより摺動特性のよい樹脂材料を用いた場合には、相手材が軟質材であれば、これを攻撃しなくても樹脂の収縮膨張などによって軸へのダキツキが発生し、また、軸受の隙間を大きく設定する必要が生じ、これでは回転精度が悪くなるという問題点がある。
【0007】
このため、軸受外周部として金属を用い、この軸受外周部の摺動部に樹脂材料をインサート成形して樹脂層を形成するとともに、この軸受外周部の表面のうち、少なくとも上記樹脂層と接触する軸受外周部の表面部分に細かい凹部を設け、上記樹脂層における(樹脂材料の線膨張係数)×(樹脂層の肉厚)を0.15以下とし、上記凹部が占める見かけ面積の合計を、上記樹脂層と接触する軸受外周部の表面部分の面積の25〜95%とした高精度滑り軸受が知られている(特許文献1)。
【0008】
また、このような高精度滑り軸受は、射出成形時のゲート痕が軸受性能に悪影響を及ぼす場合があり、またゲート痕の処理をすることにより生産工程が増え、生産性に劣る場合がある。
【0009】
そのような問題に対処するため、焼結金属に樹脂層を成形する際に、トンネルゲートを経てインサート成形することを採用した高精度滑り軸受が知られている(特許文献2)。
【0010】
このような高精度滑り軸受は、複写機やプリンターの感光ドラム、現像部、定着部の支持軸受、またはキャリッジ軸受に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−239976号公報
【特許文献2】特開2005−337381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記した従来の高精度滑り軸受は、樹脂層の耐摩耗性について充分な特性は得られておらず、そのために高荷重、高回転の部位には使用困難であるという問題点がある。
【0013】
例えば、上記した従来の高精度滑り軸受を、ルームエアコン用やカーエアコン用などのコンプレッサの回転軸支持用や、自動車や建設機械などのトランスミッションの回転軸を支持するなどのために、精密な回転精度を要求され、かつ大きなラジアル荷重やアキシャル荷重を受けるための滑り軸受としては使用困難であるという問題点がある。
【0014】
この発明は上記したような問題を解決し、焼結金属を基材として合成樹脂の軸受層を有して精密な安定した回転トルクをえることが可能な滑り軸受とすることであり、例えばルームエアコン用コンプレッサやカーエアコン用コンプレッサの回転軸、自動車や建設機械などのトランスミッションなどのように比較的大きなラジアル荷重やアキシャル荷重を受ける滑り軸受として使用可能な高精度な滑り軸受とすることである。
換言すれば上記の使用を可能とするため、従来の高精度滑り軸受に不足していた耐荷重性、耐熱性、低摩擦特性、耐摩耗特性を向上した高精度な滑り軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この発明においては、滑り軸受の焼結金属製基材に重ねて樹脂層を一体に設け、この樹脂層は芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に繊維状充填材を配合した樹脂組成物(PEK樹脂組成物)からなり、前記繊維状充填剤は、繊維の長さ方向を軸受の回転方向に対して45〜90度に交差するように配向させ、前記樹脂層を層厚0.1〜0.7mmに設けた複合滑り軸受としたのである。
【0016】
上記したように構成されるこの発明の複合滑り軸受は、樹脂層を形成する芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に、繊維状充填剤を、繊維の長さ方向が軸受の回転方向に対して交差角度が45〜90度になるように配向させて分散させた状態に配合されたことにより、繊維の両端がエッジとなって相手材の摩耗損傷する機会が軽減され、軸受の回転時の摩擦係数が小さくなり軸受のトルク変動は低く安定する。これにより、焼結金属を基材として合成樹脂の軸受層を有して精密な安定した軸受トルクの複合滑り軸受となる。
【0017】
また、上記のように確実に配向した繊維状充填剤を樹脂層中に分散させるためには、上記樹脂層が、基材に重ねて射出成形されることにより一体化された樹脂層であることが好ましい。
【0018】
さらに、そのような繊維状充填剤を安定して配向させた状態に分散させるためには、樹脂層が、基材の軸径方向の厚さの1/8〜1/2の厚さの樹脂層であることが好ましく、また射出成形などにより交差角度が45〜90度になるように配向させて分散させるためには、繊維状充填剤が、平均繊維長0.02〜0.2mmの繊維状充填剤であることが好ましい。
また、このような樹脂層との密着性を図り、かつ基材に所要の熱伝導性を確保するためには基材が、理論密度比0.7〜0.9の基材であることが好ましい。
このような焼結金属基材を用いるため、樹脂層から軸受基材、軸受基材から外部に放熱し易い。また、表面が凹凸形状であるので表面積が大きく、樹脂層とのアンカー効果が高く、密着強さを高くすることができる。
【0019】
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物からなる樹脂層を、基材に重ねて射出成形すること、特にインサート成形にて形成することで、射出成形時に樹脂層が焼結金属表面の凹凸に深く食い込んで、真の接合面積が増大するため、樹脂層と軸受基材の密着強さが向上する。さらに、樹脂層と軸受基材の真の接合面積が増え、樹脂層と焼結金属に隙間がないため、樹脂層の熱が軸受基材へ伝わり易くなる。
【0020】
また、高寸法精度である焼結合金の表面に樹脂層を薄肉でインサート成形しているので、寸法精度の高い軸受とすることができる。
【0021】
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物における炭素繊維の平均繊維長を0.02〜0.2mmとすることで、0.1〜0.7mmの薄肉インサート成形においても、安定した溶融流動性を確保できる。
【0022】
また、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物の樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度を、50〜200Pa・sにすることで、焼結金属基材の表面に0.1〜0.7mmの薄肉インサート成形することが円滑に行なえる。
成形する際には、基材である焼結金属に油含浸をしていないので、樹脂層と軸受基材の密着強さを阻害することがない。
【0023】
軸受基材の材質を鉄が主成分の焼結合金、さらには銅の含有量が10%以下の鉄系焼結合金とすることにより、樹脂層と軸受基材の密着性を高めることができる。
【0024】
そして、軸受基材と樹脂層のせん断密着強さを2MPa以上にすることで、高PV条件で滑り軸受として使用しても、樹脂層が軸受基材から剥離することはない。
【0025】
この発明の複合滑り軸受において、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物を樹脂層に採用しているため、摩擦摩耗特性、耐焼付き性、各種耐化学薬品、耐油性に優れている。
【0026】
鉄系焼結金属基材にスチーム処理を施すことで、焼結成形工程(成形、再圧)時の付着物(油など)を除去することができるので、樹脂層と軸受基材の密着強さが安定する。
【0027】
上記樹脂組成物は、炭素繊維5〜30体積%、四フッ化エチレン樹脂1〜30体積%を必須成分とし、残部が芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物であることが、好ましく、上記炭素繊維は、PAN系炭素繊維であることが好ましい。
【0028】
また、上記複合滑り軸受が、円筒状またはフランジ付き円筒状の軸受基材の内径側、外径側および端面側から選ばれる1以上の側面に前記樹脂層を設けたものであることが好ましい。
【0029】
この発明の複合滑り軸受は、焼結金属基材にPEK樹脂組成物からなる厚み0.1〜0.7mm樹脂層を形成した複合滑り軸受であるため、ラジアル荷重を支持する円筒状軸受、ラジアル荷重とアキシャル荷重を支持する軸受、アキシャル荷重を支持するスラストワッシャとした場合でも、放熱性が高く、変形・摩耗が小さく、低摩擦係数の軸受となる。
【0030】
また、この複合滑り軸受は、作動油、冷凍機油、潤滑油、トランスミッションオイル、エンジンオイル、ブレーキオイルなどの油、またはグリースが介在する軸受として使用することができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明の複合滑り軸受は、焼結金属基材に、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に繊維状充填材を所定方向に配向させた樹脂組成物からなる樹脂層を所定の厚さで設けているため、耐荷重性、耐熱性、低摩擦特性、耐摩耗特性に優れたものになり、配向繊維で相手材の摩耗損傷を軽減、摩擦係数を安定化することができるため、焼結金属を基材として合成樹脂の軸受層を有して精密な安定した回転トルクを得ることが可能な滑り軸受となる利点がある。
【0032】
また、樹脂層の層厚が、前記焼結金属基材の厚さの1/8〜1/2であること、または0.1〜0.7mmの薄肉であることにより、摩擦発熱による熱が摩擦面から軸受基材側に逃げ易く、蓄熱し難く、耐荷重性が高く、高面圧下でも変化量が小さくなる。これにより、摩擦面における真実接触面積も小さくなり、摩擦力、摩擦発熱が低減され、摩耗の軽減、摩擦面温度の上昇を抑えるという利点がある。
【0033】
また、樹脂層に連続使用温度が250℃と高耐熱性の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂からなる樹脂組成物を使用することで、摩擦摩耗特性、耐クリープ特性に優れた複合滑り軸受になる。
【0034】
焼結金属の密度を、材質の理論密度比0.7〜0.9とすることで、密着性を得るための表面の凹凸を確保すると同時に、所要の緻密性を有しているので、基材の熱伝導性を確保できる。
【0035】
さらに、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物が、炭素繊維5〜30体積%、PTFE樹脂1〜30体積%を必須成分とし、残部が芳香族ポリエーテルケトン系樹脂としているため、高PV条件においても、樹脂層の変形および摩耗、相手材の損傷が小さく、油などに対する耐性も高い。
【0036】
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物の樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度を、50〜200Pa・sにすることで、焼結金属基材の表面に0.1〜0.7mmの薄肉インサート成形することが円滑に行なえる。
【0037】
炭素繊維をPAN系炭素繊維とすることで、樹脂層の弾性率が高くなり、樹脂層の変形、摩耗が小さくなる。さらには、摩擦面の真実接触面積が小さくなり、摩擦発熱も軽減する。
【0038】
この複合滑り軸受は、所定の面に樹脂層を設ける事により、ラジアル荷重とアキシャル荷重の1以上に耐える汎用性があり、また、油またはグリースで潤滑される液体潤滑用滑り軸受として高い荷重に耐えると共に高精度の回転安定性を確保できるものとなる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態の複合転がり軸受の一部を切り欠いて示す斜視図
【図2】第1実施形態の複合転がり軸受の断面図
【図3】第2実施形態の複合転がり軸受の断面図
【図4】第3実施形態の複合転がり軸受の断面図
【図5】第4実施形態の複合転がり軸受の断面図
【発明を実施するための形態】
【0040】
この発明の実施形態を以下に、添付図面を参照しながら説明する。
図1、2に示すように、第1実施形態は、円筒状の滑り軸受の焼結金属製の基材1の内径面側に重ねて樹脂層2を一体に設け、この樹脂層2は芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に繊維状充填材を配合した樹脂組成物からなり、繊維状充填剤3は、繊維の長さ方向を軸受の回転方向に対して平均交差角度が90度、すなわち直交状態になるように配向して樹脂層に分散させ、この樹脂層2は層厚0.1〜0.7mmに設けた複合滑り軸受である。
【0041】
また、図3に示す第2実施形態は、軸受の焼結金属製の基材4の外径側に樹脂層5を形成し、ラジアル荷重を支持する円筒状軸受として使用できるものである。
【0042】
また、図4に示す第3実施形態は、軸受のフランジ付き円筒状の焼結金属製の基材6の内径側に樹脂層7を設けたものであり、ラジアル荷重とアキシャル荷重を同時に支持することができるものである。
【0043】
また、図5に示す第4実施形態は、アキシャル荷重を支持するスラストワッシャ型の焼結金属製の基材8の片面に樹脂層9を設けた複合滑り軸受である。
これらの軸受の焼結金属製の基材1、4、6、8の所定の面に樹脂層2、5、7、9を重ねて成形する際、樹脂の溶融流動方向が滑り軸受の運動方向と直角とするには、図1〜4の軸受端面から他の端面に向けて溶融樹脂が一方向に流動するようにピンゲート、ディスクゲート、フィルムゲートなどを設けて樹脂を成形する方法がある。
【0044】
また、図5のスラストワッシャにおいては、内径側にディスクゲートを設ければよい。
【0045】
上記した軸受を作動油、冷凍機油、潤滑油、トランスミッションオイル、エンジンオイル、ブレーキオイルなどの油、またはグリースが介在するすべり部の軸受として使用する場合、樹脂層の摩擦面に潤滑溝を形成することで、より安定した低摩擦、低摩耗特性を得ることができる。
【0046】
すなわち、これらの実施形態の複合滑り軸受は、焼結金属基材に、成形する際の樹脂の溶融流動方向が滑り軸受の運動方向に対して45〜90度である樹脂層を形成し、摩擦面とし、軸受基材を焼結合金とすることで、樹脂層との高い密着性とともに、摩擦発熱の放熱効果を得ている。
【0047】
樹脂層にPEK樹脂組成物を使用することで、連続使用温度が250℃と耐熱性、耐油・耐薬品性、耐クリープ特性、摩擦摩耗特性に優れた複合滑り軸受になる。また、PEK樹脂は、靭性、高温時の機械物性が高く、耐疲労特性、耐衝撃性にも優れているため、使用時の摩擦力、衝撃、振動等による焼結金属基材から剥離の心配がない。
【0048】
PEK樹脂に、繊維状充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカなど)、固体潤滑剤(PTFE、黒鉛、二硫化モリブデンなど)、無機充填剤(炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルクなど)を配合することで、耐クリープ特性、無潤滑、油潤滑での摩擦摩耗特性を向上することができる。
【0049】
繊維状充填剤、無機系の固体潤滑剤(黒鉛、二硫化モリブデンなど)、無機充填剤は、PEK樹脂組成物の成形収縮率を小さくする効果がある。そのため、軸受基材とのインサート成形時に、樹脂層の内部応力を抑える効果もある。
【0050】
また、固体潤滑剤(PTFE、黒鉛、二硫化モリブデンなど)は、無潤滑、潤滑油が希薄な条件であっても低摩擦となり、焼き付き性を向上させる。
【0051】
樹脂層を形成するにあたって、樹脂を成形する際の樹脂の溶融流動方向が滑り軸受の運動方向に対して45〜90度であるので、針状または繊維状充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカなど)を配合した場合に、これら充填剤は滑り軸受の運動方向に対して45〜90度に配向する。針状または繊維状充填剤は端部のエッジが90°以下の尖った形状であり、そのため充填剤のエッジが、滑り軸受の運動方向に向かっている場合、摺接する相手材を物理的に摩耗損傷させ易く、摩擦係数も安定し難い。しかし、この発明では、これら充填剤が滑り軸受の運動方向に対して45〜90度となっているので、摺接する相手材を摩耗損傷させ難く、摩擦係数も安定する。なお、繊維状充填剤の配向は、90度により近い方が充填剤のエッジによる摩耗損傷が少なく、摩擦係数も安定するので望ましい。80〜90度であれば特に好ましい。
【0052】
複合滑り軸受の樹脂層の厚み、すなわち荷重を受ける方向に沿う径方向または軸方向の厚みは、0.1〜0.7mmである。または、樹脂層の層厚が、前記焼結金属基材の厚さの1/8〜1/2である。
樹脂層の厚みが0.7mmを超えるかまたは焼結金属基材の厚さの1/2を超えると、摩擦による熱が摩擦面から軸受基材側に逃げ難く、摩擦面温度が高くなる。また、荷重による変形量が大きくなるとともに、摩擦面における真実接触面積も大きくなり、摩擦力、摩擦発熱が高くなり、焼付き性も低下する。また樹脂厚みが0.1mm未満または樹脂層の層厚が、前記焼結金属基材の厚さの1/8未満では、長期使用時の耐久性、すなわち寿命が短くなる。
【0053】
焼結金属基材に樹脂層を形成するには、PEK樹脂成形物を射出成形、押出し成形などで成形した素材を焼結金属基材に熱融着、接着、圧入などで固定する方法、金型内に焼結金属基材をインサートし、PEK樹脂組成物を射出成形する方法がある。さらに、これを機械加工にて所要の樹脂厚みに仕上げることもできる。
【0054】
インサート成形により樹脂層を形成する方法が、最も安価で、比較的高寸法精度となるため好ましい。インサート成形とする場合、射出成形などによる成形性を考慮すると、樹脂厚みは0.1〜0.7mmが好ましい。樹脂厚みが0.1mm未満では、インサート成形が困難であり、0.7mmを超えると、ヒケが発生し寸法精度が低下する。また、摩擦発熱の軸受基材への放熱を考慮すると、樹脂厚みは0.2〜0.5mmが好ましい。
高寸法精度が必要な場合は、インサート成形後に機械加工にて所要の樹脂厚みに仕上げても、比較的安価な軸受を得ることができる。
【0055】
この発明に使用する焼結金属基材の材質としては、鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系などがある。金型内に焼結金属基材をインサートし、PEK樹脂組成物を射出成形する場合、金型温度は160〜200℃、樹脂温度は360〜410℃となる。
【0056】
焼結金属に油などの付着、含油がある場合、射出成形時に分解、ガス化する、油残分が界面に介在するため、樹脂層と焼結金属の密着性が低下してしまう。
そのため、これら焼結金属基材には、油を含浸しない焼結を使用しなければならない。また、焼結金属の成形または再圧(サイジング)の工程内にて油を使用する場合は、溶剤洗浄などで油を除去した非含油焼結軸受にしなければならない。
【0057】
この発明に使用する焼結金属基材は、焼結金属の密度が、材質の理論密度比0.7〜0.9である。材質の理論密度比とは、材質の理論密度(気孔率0%の場合の密度)を1としたときの焼結金属基材の密度の比である。理論密度比0.7未満では焼結金属の強度が低くなり、インサート成形時の射出成形圧力により焼結金属が割れてしまう。理論密度比0.9を超えると、凹凸が小さくなるため、表面積、アンカー効果が低下し、PEK樹脂層との密着性が低くなる。さらに好ましくは、材質の理論密度比0.72〜0.84である。
【0058】
この発明に使用する焼結金属基材は、鉄を主成分とする焼結金属であるため、PEK樹脂層との密着性が高くなる。銅は鉄よりも樹脂との密着性(接着性)に劣るため、銅の含有量は10%以下が好ましい。さらに好ましくは、銅の含有量は5%以下である。
【0059】
鉄を主成分とする焼結金属は、スチーム処理を施すことで、成形または再圧(サイジング)工程時に意図せず焼結表面に付着、または内部に浸透した油分、付着物などを除去する効果があるため、PEK樹脂層との密着性のばらつきが小さく、安定する。また、焼結金属基材に防錆も付与することができる。スチーム処理の条件は特に限定するものではないが、500℃程度に加熱したスチームを吹きかける方法が一般的である。
【0060】
この発明において、複合滑り軸受の焼結金属基材とPEK樹脂層のせん断密着強さは2MPa以上(面圧10MPa、摩擦係数0.1における安全率が2倍以上)である。使用中の摩擦力に対して、充分な密着強さを得るためには、せん断密着強さ2MPa以上が好ましい。更に安全率を高めるためには、3MPa以上が好ましい。
【0061】
また、焼結金属基材とPEK樹脂層のせん断密着強さを更に高めるために、樹脂層を形成する焼結金属面に、凹凸、溝などの物理的な抜け止め、周り止めを施しても良い。
【0062】
この発明に使用するPEK樹脂組成物は、炭素繊維5〜30体積%、PTFE樹脂1〜30体積%を必須成分とし、残部がPEK樹脂であることが好ましい。
【0063】
PEK樹脂としては、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、PEK(ポリエーテルケトン樹脂)、PEKEKK(ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂)などがある。PEEKとしては、ビクトレックス社製PEEK(90P、150P、380P、450Pなど)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製キータスパイア(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセルデグザ社製VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)等が挙げられる。
PEKとしてはビクトレックス社製PEEK−HTなど、PEKEKKとしてはビクトレックス社製PEEK−HTなどが挙げられる。
【0064】
PEK樹脂組成物の樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度を50〜200Pa・sにするためには、上記条件における溶融粘度が150Pa・s以下のPEK樹脂を採用することが好ましく、ビクトレックス社製PEEK 150P、90P、150G、90G、ソルベイアドバンストポリマーズ社製キータスパイアKT−880Pなどが例示できる。
【0065】
また、インサート成形にて、樹脂厚み0.2〜0.5mmを得るためには、PEK樹脂組成物の樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度を50〜200Pa・sにすることが、精密な成形と繊維状充填剤の所定角度での配向をさせるために好ましい。そのためには、上記条件における溶融粘度が130Pa・s以下のPEK樹脂を採用することが好ましく、ビクトレックス社製PEEK 90P、90Gなどが例示できる。
溶融粘度が、上記所定範囲未満の高粘度または上記所定範囲を超える低粘度であっても精密な成形性および繊維状充填剤の配向性について所期した効果を確実に得ることが容易でなくなる。
【0066】
この発明に用いる繊維状充填材の代表例としての炭素繊維は、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれのものであってもよいが、高弾性率を有するPAN系炭素繊維の方が好ましい。その焼成温度は特に限定するものではないが、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛(グラファイト)化されたものよりも、1000〜1500℃程度で焼成された炭化品のものが、高PV下でも摺動相手金属を摩耗損傷しにくいので好ましい。
【0067】
炭素繊維の平均繊維径は20μm以下、好ましくは5〜15μmである。前記した範囲を超える太い炭素繊維では、極圧が発生するため、耐荷重性の向上効果が乏しく、摺接相手材がアルミニウム合金、焼入れなしの鋼材の場合、相手材の摩耗損傷が大きくなるため好ましくない。
炭素繊維は、チョップドファイバー、ミルドファイバーのいずれであってもよいが、安定した薄肉成形性を得るためには、繊維長が1mm未満のミルドファイバーの方が好ましい。
【0068】
炭素繊維の平均繊維長は0.02〜0.2mmが好ましい。0.02mm未満では充分な補強効果が得られないため、耐クリープ性、耐摩耗性に劣る。0.2mmを超える場合は樹脂層の層厚に対する繊維長の比率が大きくなるため、薄肉成形性に劣る。特に、樹脂厚み0.2〜0.7mmにてインサート成形する場合は、繊維長が0.2mmを超えると薄肉成形性を阻害する。より薄肉成形の安定性を高めるには、平均繊維長0.02〜0.1mmが好ましい。
【0069】
炭素繊維は、樹脂層を成形する際に樹脂の溶融流動方向への配向性が強いために好ましいものである。
繊維状充填材は、滑り軸受の運動方向と45度以上のできるだけ直角に近い交差角度で配向させることで、繊維の両端のエッジは運動方向と直角に向く。これによって、繊維の両端のエッジによる相手材の摩耗損傷の軽減、摩擦係数の安定化を図れる。
この場合、樹脂層の任意断面において繊維状充填剤の単位面積当たりの繊維の交差角度の50%以上、または平均の交差角度が前記所定の交差角度の範囲内であることが好ましい。
【0070】
特に、直径が細く、比較的短い炭素繊維を選択し、その場合に、炭素繊維の両端のエッジが滑り軸受の運動方向に沿っており、例えば交差角度が45度未満であると、相手材を著しく損傷する。そのため、細く、短い炭素繊維を採用した場合には、樹脂を溶融成形する際に、溶融樹脂の流動方向を滑り軸受の運動方向と直角または直角に近い角度とし、繊維の長さ方向を軸受の回転方向に対する45〜90度に交差するように配向させることが耐久性および軸受トルクを低く安定させるために極めて有利である。
【0071】
この発明に使用可能な市販の炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維として、クレハ社製:クレカ M−101S、M−107S、M−101F、M−201S、M−207S、M−2007S、C−103S、C−106S、C−203Sなどがある。また、同様のPAN系炭素繊維として、東邦テナックス社製:ベスファイト HTA−CMF0160−0H、同HTA−CMF0040−0H、同HTA−C6、同HTA−C6−Sまたは東レ社製:トレカ MLD−30、同MLD−300、同T008、同T010などがある。
【0072】
この発明に用いるPTFEは、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよいが、PEK組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。再生PTFEとは、熱処理(熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。
【0073】
さらには、凝集せず、PEK樹脂の溶融温度おいて、全く繊維化せず、内部潤滑効果があり、PEK樹脂組成物の流動性を安定し向上させることが可能なPTFEとして、γ線または電子線などを照射したPTFEを採用することがより好ましい。
【0074】
PTFEの市販品としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−450、KTL−350、KTL−8N、KTL−400H、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン7−J、TLP−10、旭硝子社製:フルオンG163、L150J、L169J、L170J、L172J、L173J、ダイキン工業社製:ポリフロンM−15、ルブロンL−5、ヘキスト社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFEであってもよい。
【0075】
上記の中でγ線または電子線などを照射したPTFEとしては、喜多村社製:KTL−610、KTL−450、KTL−350、KTL−8N、KTL−8F、旭硝子社製:フルオンL169J、L170J、L172J、L173Jなどが挙げられる。
前記したように、配合割合を、炭素繊維5〜30体積%、PTFE1〜30体積%を必須成分とし、残部がPEK樹脂とする理由は以下の通りである。
【0076】
炭素繊維の配合割合が30体積%を超えると、溶融流動性が著しく低下し、薄肉成形が困難になるとともに、摺接相手材がアルミニウム合金、焼入れなしの鋼材の場合、摩耗損傷するためである。また、炭素繊維の配合割合が5体積%未満では組成物を補強する効果が乏しく、充分な耐クリープ性、耐摩耗性が得られない。
【0077】
PTFEの配合割合が30体積%を超えると、耐摩耗性、耐クリープ性が所要の程度より低下する。また、PTFEの配合割合が1体積部未満では組成物に所要の潤滑性の付与効果に乏しく、充分な摺動特性が得られない。
【0078】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、潤滑性樹脂組成物に対して以下に列挙するような周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。
(1)摩擦特性向上剤:黒鉛、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなど
(2)着色剤:炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなど
(3)熱伝導性向上剤:黒鉛、金属酸化物粉末
【0079】
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用しても良い。そして、成形方法としては、押出し成形、射出成形、加熱圧縮成形などを採用することができるが、製造効率などの点で射出成形が特に好ましい。また、成形品に対して物性改善のためにアニール処理等の処理を採用してもよい。
【0080】
この発明の複合滑り軸受は、肉厚が0.1〜0.7mmの樹脂組成物と焼結金属基材からなる。また、樹脂層をPEK樹脂組成物からなる。PEK樹脂組成物を摩擦面としているため、摩擦摩耗特性、耐クリープ性に優れ、焼結金属を軸受基材としているため、摩擦発熱の放熱、耐荷重性に優れる。そのため、例えばルームエアコン用・カーエアコン用コンプレッサ、自動車や建設機械などのトランスミッション等の滑り軸受として使用できる。
【0081】
この発明の複合滑り軸受は、特に形状を制限するものではなく、ラジアル荷重、アキシャル荷重のいずれか一方、または両方の荷重を支持することができる。また、軸受基材に形成する樹脂層の位置も特に限定するものではない。
【実施例1】
【0082】
[実施例1〜22、比較例1〜13]
実施例および比較例に用いた軸受基材を表1にまとめて示し、実施例および比較例に用いる樹脂層の原材料を一括して以下に示した。
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の溶融粘度は、東洋精機社製キャピラグラフ、φ1×10mm細管、樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における測定値である。
【0083】
(1) 芳香族ポリエーテルケトン系樹脂〔PEK−1〕
ビクトレックス社製:PEEK 90P(溶融粘度 105Pa・s)
(2) 芳香族ポリエーテルケトン系樹脂〔PEK−2〕
ビクトレックス社製:PEEK 150P(溶融粘度 145Pa・s)
(3) 芳香族ポリエーテルケトン系樹脂〔PEK−3〕
ビクトレックス社製:PEEK 450P(溶融粘度 420Pa・s)
(4) PAN系炭素繊維〔CF−1〕
東レ社製:トレカ MLD−30(平均繊維長0.03mm、平均繊維径7μm)
(5) PAN系炭素繊維〔CF−2〕
東邦テナックス社製:ベスファイト HTA−CMF0160−0H
(繊維長0.16mm、繊維径7μm)
(6) ピッチ系炭素繊維〔CF−3〕
クレハ社製:クレカ M−101S
(平均繊維長0.1/2mm、平均繊維径14.5μm)
(7) ピッチ系炭素繊維〔CF−4〕
クレハ社製:クレカ M−107S
(平均繊維長0.7mm、平均繊維径14.5μm)
(8) 炭酸カルシウム粉末〔CaCO
日窒工業社製:NA600 (平均粒径3μm)
(9) 黒鉛〔GRP〕
ティムカルジャパン社製:TIMREX KS6(平均粒径6μm)
(10)四フッ化エチレン樹脂〔PTFE〕
喜多村社製:KTL−610(再生PTFE)
(11)青銅粉〔BRO〕
福田金属箔粉工業社製:AT−350(銅錫合金粉末)
【0084】
【表1】

【0085】
原材料を表2および表3に示す配合割合(体積%)でヘンシェル乾式混合機を用いてドライブレンドし、二軸押出し機を用いて溶融混練しペレットを作製した。
【0086】
このペレットにて、樹脂温度380℃〜400℃、金型温度180℃の条件で、円筒状軸受基材(φ31×φ35×20(mm))の内径に厚さ0.2〜1mmの樹脂層をインサート成形にて形成し、図1のようなラジアル荷重を支持する円筒状の複合滑り軸受(φ30×φ35×20(mm))を作製した。複合滑り軸受を成形する際には、軸受端面に9点のピンゲートを設け射出成形し、樹脂層の溶融流動方向が滑り軸受の運動方向と直角となるようにした。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
(1)せん断密着強さ試験
表1の軸受基材内径に、樹脂層−実施例aを厚さ0.5mmにてインサート成形した円筒状の複合滑り軸受を使用し、せん断密着強さ試験を行った。軸受基材を固定し、内径樹脂層に軸方向のせん断力を加え、軸受基材から樹脂層が剥離する荷重を測定した。この荷重を、樹脂層と軸受基材の見かけの接合面積を割った値を、せん断密着強さとし、表4に示した。
【0090】
また、複合滑り軸受を30個インサート成形にて作製時の軸受基材割れの有無を表4に併記した。
【0091】
【表4】

【0092】
(2)耐焼付き性試験
軸受基材−実施例Eの内径に、表2または表3の樹脂層を形成した複合滑り軸受(φ30×φ35×20(mm))について、油中ラジアル型試験機を用い、耐焼付き性試験を実施した。表5の油供給条件で30分慣らし運転後、油供給を停止・油排出し焼付くまでの時間を測定した。焼付きは、軸受外径部温度が20℃上昇またはトルクが2倍に上昇するまでの時間とした。
【0093】
焼付き時間を表6および表7に示した。なお、以下の滑り軸受を比較例に加えた。
樹脂単体の滑り軸受は、表2の組成aのみを射出成形した樹脂単体の滑り軸受(φ30×φ35×20mm)を用いた。
また、3層型の複合滑り軸受は、裏金付多孔質焼結層にPTFE樹脂組成物(炭素繊維10体積%入り)を含浸した3層型の複合滑り軸受(φ30×φ35×20mm、樹脂組成物層が0.05mm)とした。なお、インサート成形で表6に記載の所定の樹脂層厚みを形成不可能な場合は、厚肉品を射出成形し、機械加工にて所定厚みに仕上げた。
【0094】
(3)摩耗試験
耐焼付き性試験と同じ複合滑り軸受(φ30×φ35×20(mm))について、油中ラジアル型試験機を用い、表5の油供給条件で30時間運転した後の摩耗量を測定した。
【0095】
【表5】

【0096】
(4)溶融粘度
東洋精機社製キャピラグラフ、φ1×10(mm)細管、樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度を測定し、表6および表7中に示した。
【0097】
表4に示すように、実施例1〜9はインサート成形時に軸受基材の割れはなく、1.5MPa以上のせん断密着強さであった。特に焼結金属の密度が、材質の理論密度比0.7〜0.9である実施例1〜7は、せん断密着強さが2MPa以上となった。
【0098】
一方、焼結金属の密度が、材質の理論密度比0.67である比較例1では、インサート成形時に軸受基材の割れが発生した。鋼材の機械加工品では、せん断密着強さが非常に低い値であった(比較例2)。
【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
なお、表7に記載の所定の樹脂層厚みを、インサート成形で形成不可能なものは、厚肉品を射出成形し、機械加工にて所定厚みに仕上げた。比較例10、12は30分以内で異常摩耗したため、耐焼付き性試験は実施できなかった。
【0102】
表6に示したように、実施例10〜22は焼付き時間が30分以上、摩耗量が10μm以下で、耐焼付き性、耐摩耗性に優れていた。樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度が200Pa・s以下の実施例10〜14、16〜20、22は、インサート成形で所定の樹脂層を形成することができた。
【0103】
また、表7に示したように、比較例12、比較例13の従来軸受(樹脂単体軸受、3層型の複合滑り軸受)は、焼付き時間が1分未満ですぐに焼付き、摩耗量も大きかった。
複合滑り軸受ではあるが、樹脂層の組成が請求の範囲外である比較例3〜10は、焼付き時間が26分未満と短く、摩耗量も20μm以上と大きかった。
また、樹脂層の組成が請求範囲内であるが、厚みが0.7mmを超える複合滑り軸受では、焼付き時間が1分未満で、摩耗量も非常に大きかった。
【符号の説明】
【0104】
1、4、6、8 焼結金属製の基材
2、5、7、9 樹脂層
3 繊維状充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り軸受の焼結金属製基材に重ねて樹脂層を一体に設け、この樹脂層は芳香族ポリエーテルケトン系樹脂に繊維状充填材を分散状態に配合した樹脂組成物からなり、前記繊維状充填剤は、繊維の長さ方向を軸受の回転方向に対して45〜90度に交差するように配向させ、前記樹脂層を層厚0.1〜0.7mmに設けたことを特徴とする複合滑り軸受。
【請求項2】
上記樹脂層が、基材に重ねて射出成形された樹脂層である請求項1に記載の複合滑り軸受。
【請求項3】
上記樹脂層が、基材の軸径方向の厚さの1/8〜1/2の厚さの樹脂層である請求項1または2に記載の複合滑り軸受。
【請求項4】
上記繊維状充填剤が、平均繊維長0.02〜0.2mmの繊維状充填剤である請求項1に記載の複合滑り軸受。
【請求項5】
上記基材が、理論密度比0.7〜0.9の基材である請求項1に記載の複合滑り軸受。
【請求項6】
上記樹脂組成物が、樹脂温度380℃、せん断速度1000s−1における溶融粘度50〜200Pa・sの樹脂組成物である請求項1に記載の複合滑り軸受。
【請求項7】
上記樹脂組成物が、炭素繊維5〜30体積%、四フッ化エチレン樹脂1〜30体積%を必須成分とし、残部が芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の樹脂組成物である請求項1または6に記載の複合滑り軸受。
【請求項8】
上記炭素繊維が、PAN系炭素繊維である請求項7に記載の複合滑り軸受。
【請求項9】
上記複合滑り軸受が、円筒状またはフランジ付き円筒状の軸受基材の内径側、外径側および端面側から選ばれる1以上の側面に前記樹脂層を設けた請求項1〜8のいずれかに記載の複合滑り軸受。
【請求項10】
上記複合滑り軸受が、油またはグリースで潤滑される液体潤滑用滑り軸受である請求項9に記載の複合滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−77764(P2012−77764A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220632(P2010−220632)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】