説明

複合画像を形成可能な被転写体、複合画像が形成された転写体およびその製造方法

【課題】基材上に、光回折パターン層、および染料画像を受容し得る受容層が順に積層されたものが、昇華転写シートを用いて転写する際に、高温にさらされて、基材と光回折パターン層との間の接着性低下による影響を回避することを課題とする。
【解決手段】基材2上に、硬化性接着剤層3、光回折パターン層4、および染料画像を受容可能な受容層9が順に積層された構造とすることにより、昇華転写により染料画像11を形成しても、その際の高温により、基材2と光回折パターン層4との間の接着性低下による影響を回避することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム等の光回折パターン上に昇華転写による画像が重なったことによる複合画像を形成可能な基材、そのような複合画像が形成された基材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
しかしながら、同じ発行元のクレジットカードを例に取れば、同じ光回折パターンを多数製造し、各カードに貼るのが普通であるから、光回折パターンをあるクレジットカード上から剥がして、他のクレジットカード上に貼り替えたとすると、その際の不正な意図にもかかわらず、光回折パターン自体は偽造品ではないから、貼り替えた事実を判別できない限り、不正な貼り替えがあったことを見破りにくい。
そこで、光回折パターンに、異なる記録方式による情報、それも、好ましくはカード毎に異なる個別情報を、記録することにより、偽造もしくは変造に対する安全性を向上させると共に、意匠的な外観を複雑化させる試みが行なわれ、例えば、シート状基材上に、ホログラム等の透明光回折パターン層を積層し、その上に画像を受容し得る透明な画像受容層が積層されたことによる画像受容が可能なシートや、その画像受容層に画像が形成された画像を有するシートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−301869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載の発明によれば、光回折パターンに加えて、画像受容層に昇華転写シートを用いて転写することにより形成された画像が重なることにより、複雑な外観を得ることができる上、個別の画像等を形成できるために、偽造もしくは変造に対する安全性を高めることが可能とされている。
【0005】
シート状基材上等へのホログラム等の光回折パターン層の積層は、感熱接着剤を利用したホットスタンピング方式によるのが、処理速度が速い点で有利であるが、ホットスタンピングを行なう際に高温を要するため、適用対象である基材の素材の制約がある上、積層した後に高温にさらされると、感熱接着剤の接着性が低下しやすい問題がある。従って、光回折パターン層上に積層した画像受容層に、昇華転写シートを用いて転写する際には、高温にさらされるため、基材と透明光回折パターン層との間の接着性低下による影響を受けやすい。
【0006】
従って、本発明においては、基材上に、ホログラム等の光回折パターン層、および染料画像を受容し得る受容層が順に積層された積層基材が、その受容層に対して、昇華転写シートを用いて転写する際に、高温にさらされて、基材と光回折パターン層との間の接着性低下による影響を回避することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者によれば、基材上への光回折パターン層の積層を、従来のように感熱接着剤によらず、50度以下の環境下で硬化性接着剤を用いて行った後、光回折パターン層上に画像を受容する受容層を積層することにより、受容層に昇華転写シートを用いて転写する際に高温を加えても、基材と透明光回折パターン層との間の接着性低下による影響が生じることなく、染料画像の形成が可能であることが判明し、本発明に到達することができた。
【0008】
課題を解決する第1の発明は、昇華転写方式で染料画像が転写される被転写体であって、
転写シート基材上に、光回折パターンを有する光回折パターン層及び硬化性接着剤層が、この順序で設けられた転写シートによって、基材上に転写し、50度以下の環境下で当該硬化性接着剤層を硬化した後、当該転写シート基材を剥離して設けられ、当該光回折パターン層上に前記染料画像を受容可能な染料染着性素材からなる受容層が設けられたことにより、
前記受容層に前記昇華転写シートを用いて昇華転写を行なっても、しわや膨れのない染料画像が形成できることを特徴とする、光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像を形成可能な被転写体に関するものである。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、上記被転写体の基材がカード用基材である複合画像を形成可能な被転写体に関するものである。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、上記被転写体の基材が記録部を伴ない、該記録部が感熱記録層、感熱発消色層、署名のための筆記性層、またはICモジュールもしくはLSIモジュールのいずれか、並びに磁気記録層である複合画像を形成可能な被転写体に関するものである。
【0011】
第4の発明は、請求項1〜3のいずれか記載の複合画像を形成可能な被転写体の前記受容層に、染料画像が形成されていることを特徴とする、光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像が形成された転写体に関するものである。

第5の発明は、請求項4に記載の転写体の製造方法であって、前記転写シート基材上に、前記光回折パターンを有する光回折パターン層及び前記硬化性接着剤層が、この順序で設けられた転写シートを用いて、前記基材上に転写し、50度以下の環境下で前記硬化性接着剤層を硬化した後、前記転写シート基材を剥離して設け、前記光回折パターン層上に前記染料画像を受容可能な染料染着性素材からなる受容層を設け、当該受容層に、前記昇華転写シートを用いて昇華転写を行って、
前記基材に光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像を形成することを特徴とする転写体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、基材上に、光回折パターン層への影響なく硬化を促進した硬化性接着剤層、光回折パターン層、および受容層が順に積層された積層構造を有するので、昇華転写シートを用いた受容層への転写を行なう際に高温にさらされても、シート状基材と透明光回折パターン層との間の接着性低下による支障が生じることがなく、元来有する光回折パターンに加えて、受容層に染料画像を形成することが可能な、複合画像を形成可能な基材を提供することができる。
【0013】
第2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、基材をカード用基材としたので、汎用性の高いカードを製造可能な複合画像を形成可能な基材を提供することができる。
【0014】
第3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、汎用性の高い磁気
記録層と、そのほかの記録部が有する機能を併せ持った複合画像を形成可能な基材を提供
することができる。
【0015】
第4の発明によれば、請求項1〜請求項3いずれかの発明の複合画像を形成可能な基材が有する効果を発揮することができ、しかも、その受容層に染料画像が形成されることにより、光回折パターンと染料画像との複合画像が形成された基材を提供することができる。
第5の発明によれば、請求項4に記載の転写体の製造方法であって、前記転写シート基材上に、前記光回折パターンを有する光回折パターン層及び前記硬化性接着剤層が、この順序で設けられた転写シートを用いて、前記基材上に転写し、50度以下の環境下で前記硬化性接着剤層を硬化した後、前記転写シート基材を剥離して設け、前記光回折パターン層上に前記染料画像を受容可能な染料染着性素材からなる受容層を設け、当該受容層に、前記昇華転写シートを用いて昇華転写を行って、
前記基材に光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像を形成することを特徴とする転写体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の複合画像を形成可能な基材を示す図である。
【図2】本発明の複合画像が形成された基材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の複合画像を形成可能な基材の、基本的、かつ好ましい実施例を示し、図2は、図1のものを用いて得られた、複合画像が形成された基材の基本的、かつ好ましい実施例を示す図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の複合画像を形成可能な基材1は、シート状もしくは板状の適宜な素材からなる基材2上に、硬化性接着剤層3、ホログラム層4、および受容層9が積層されたものである。この状態では、受容層9には画像が形成されてなく、ホログラムのみが視認されるものである。各層のうち、基材2は、磁気記録層等の記録部10が積層されたものであり得るし、種々の印刷が施されていたり、装飾が施されたものであり得る。硬化性接着剤層3は、素材として使用するものが硬化性接着剤であることから、そのように呼ぶこととするが、実際には、硬化性接着剤の硬化物からなる層である。また、ホログラム層4は、図示の例では、硬化性接着剤層3側から、反射性層5、ホログラム形成層6、OP層7、および剥離層8が順に積層されて構成された多層の積層構造からなる。最上層の受容層9は、染料染着性素材からなり、昇華転写シートを用いて転写を行なう際に、昇華転写シートの転写層から移行する昇華性染料が染着して画像を形成し得る、言い換えれば、染料画像を受容し得る層である。
【0019】
図2に示すように、本発明の複合画像が形成された基材1’は、上記の複合画像を形成可能な基材1を用いて得られ、その受容層9に染料画像11が形成されたものである。この段階では、ホログラムに加えて、受容層9の染料画像11が形成されているので、ホログラムと染料画像とが重なって複合されて形成された複合画像が視認されるものである。
【0020】
本発明において、基材2の素材としては、プラスチック、金属箔、紙、もしくは合成紙等を用いることができる。適度な剛性を有し、紙粉等の発生が無く、加熱して賦型するのに適している等の点ではプラスチックが好ましい。プラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート(略称;PET)等のポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリスチレン系、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、もしくはポリオレフィンビニルアルコールなどのプラスチックを素材とするものを例示することができ、さらに、耐熱性が要求される場合、非晶質ポリエステルや、非晶質ポリエステルとポリカーボネートのブレンド樹脂等であってもよい。素材としてプラスチックを用いて基材3を構成する場合、透明、もしくは不透明のいずれでもよいが、隠蔽性を確保する際には、特に白色等の不透明で隠蔽性のあるものを用いることが好ましい。
【0021】
図1を引用して説明した実施例で、ホログラム層4と呼んだ部分は、いわゆるホログラムを有するもののほか、回折格子を有するものであってもよく、これらを総称して光回折パターンと呼ぶこととする。説明上は、ホログラムを有するものを例にする。
【0022】
ホログラム層4(積層体である。)のホログラム(光回折パターン)形成層6は、透明な合成樹脂の片面、通常は汚染や損傷をさける意味で、図の下面側にホログラム(光回折パターン)の微細な凹凸を有しているか、体積ホログラムの場合であれば、内部にホログラム(光回折パターン)の回折格子を有しているものであり、基本的には透明である。微細な凹凸を有する前者の方が、熱プレス等の方式で量産に適している。光回折パターンとしては、平面ホログラム、体積ホログラムのいずれも使用でき、レリーフホログラム、リップマンホログラム、フレネルホログラム、フラウンホウファーホログラム、レンズレスフーリエ変換ホログラム、レーザー再生ホログラム(イメージホログラム等)、白色光再生ホログラム(レインボーホログラム)、カラーホログラム、コンピュータホログラム、ホログラムディスプレイ、マルチプレックスホログラム、ホログラフィックステレオグラクム、ホログラフィック回折格子、電子線直接描画等の機械的に形成された回折格子が挙げられる。ホログラム形成層6の意味を拡張し、これらのホログラムおよび回折格子を含む意味では、光回折パターン形成層6と呼ぶ。
【0023】
光回折パターン形成層6を構成する素材としては、光回折パターンの凹凸を注型や型押しで再現できる熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、あるいは、光回折パターン情報に応じて硬化部と未硬化部とを成形することができる感光性樹脂組成物が利用できる。具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル、アクリル(ポリメチルメタクリレート)、ポリスチレン、またはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、またはトリアジン系アクリレート等の熱硬化性樹脂であり、それぞれの単独、熱可塑性樹脂どうし、または熱硬化性樹脂同志の混合、もしくは熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の混合等であってもよい。ラジカル重合性不飽和基を有し、熱成形性を有するものや、ラジカル重合性不飽和モノマーを添加した電離放射線硬化性樹脂組成物も利用できる。光回折パターン形成層の厚みは1〜2μm程度であることが好ましく、電離放射線硬化性樹脂組成物等の塗料組成物を使用するときは、透明な合成樹脂のフィルムを被塗布体として使用するとよい。
【0024】
光回折パターン形成層6単独では、光回折パターンの視認性が得られないか、得られたとしてもごく低いため、アルミニウム等の金属からなる反射性の金属薄膜を設けるか、光回折パターン形成層6とは、光の屈折率が異なる物質からなる透明な薄膜を設ける。金属薄膜は、通常の厚み、例えば500Å程度であれば、不透明であるので、下層を隠蔽する。これらの金属薄膜および透明な薄膜は反射性層5として機能し、いずれも、蒸着等の気相法で形成することができる。透明な薄膜の例としては、光回折パターン層6よりも屈折率の高いZnS、TiO2、Al2O3、Sb2S3、もしくはSiO 等、または光回折パターン形成層6よりも屈折率の低いLiF、MgF2、もしくはAlF3がある。アルミニウム等の一般的な光反射性の金属薄膜も、厚みが200Å以下になると、透明性が出てくるため、上記のような光回折パターン形成層6とは光の屈折率が異なる物質の透明な薄膜と同じ効果を発揮できる。さらには、光回折パターン形成層6とは光の屈折率の異なる透明な合成樹脂を使用してもよい。反射性層5を透明もしくは不透明のいずれとするかは、下層の基材2上に設けられた画像等の視認性を確保すべきかどうかによって決める。
【0025】
光回折パターン形成層6を構成する合成樹脂としては、硬く、耐摩耗性や耐汚染性の優れたものを選択して使用することが望ましいが、これらの合成樹脂は、ホログラム等の形成性を第一に選択されるため、さらに一層の強化を図る意味で、必要に応じて、別の層として透明な保護層であるOP層7を積層することが好ましい。OP層7を形成する樹脂としては、熱可塑性のものも使用し得るが、熱硬化性樹脂を使用する熱硬化性樹脂組成物、あるいは紫外線又は電子線照射により硬化する電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性の化合物を用い、塗布後に加熱したり、電離放射線を照射して架橋硬化させることにより、さらに物理的、化学的な諸性能を向上させることができる。OP層7の厚みは保護機能の強化と、一方で厚みを減らしたい要望とから、2μm程度とすることが好ましい。電離放射線硬化性樹脂組成物としては、分子中に重合性不飽和結合または、エポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー、及び/又はモノマーを適宜に混合したものである。電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち分子を重合又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを指し、通常は、紫外線又は電子線を用いる。
【0026】
電離放射線硬化性樹脂組成物中のプレポリマー、オリゴマーの例としては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物が挙げられる。これらのプレポリマー、オリゴマーに、多官能モノマー、又は単官能モノマーを必要に応じて1種若しくは2種以上を混合して用いるが、電離放射線硬化性樹脂組成物に通常の塗布適性を与えるために、前記のプレポリマー又はオリゴマーを5重量%以上、前記モノマー及び/又はポリチオール化合物を95重量%以下とするのが好ましい。
【0027】
電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させたときのフレキシビリティーが要求されるときは、モノマー量を減らすか、官能基の数が1又は2のアクリレートモノマーを使用するとよい。電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させたときの耐摩耗性、耐熱性、耐溶剤性が要求されるときは、官能基の数が3つ以上のアクリレートモノマーを使う等、電離放射線硬化性樹脂組成物の設計が可能である。ここで、官能基が1のものとして、2−ヒドロキシアクリレート、2−ヘキシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートが挙げられる。官能基が2のものとして、エチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートが挙げられる。官能基が3以上のものとして、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクレリート等が挙げられる。
【0028】
電離放射線硬化性樹脂組成物の塗布後の硬化が紫外線照射により行われるときは、光重合開始剤や光重合促進剤を添加する。光重合開始剤としては、ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等を単独又は混合して用いる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタセロン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等を単独又は混合物として用いる。光重合開始剤の添加量は、電離放射線硬化性樹脂組成物100重量部に対し、0.1〜10重量部である。
【0029】
反射性層5、ホログラム形成層(光回折パターン形成層)6、および必要に応じて設けるOP層7とは、これらを転写層として含む、光回折パターン転写シート(もしくはホログラム転写シート)を作成して使用することにより、基材2上への適用を一度に行なうことができる。
【0030】
例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムのような引張り強度、および耐熱性を備えたフィルムを、転写シートの基材として用い、この上に剥離層(透明なものを用いる。)8、OP層7、ホログラム形成層(光回折パターン形成層)6、および反射性層5を順次設けてホログラム(光回折パターン)転写シートを作成する。各層は、反射性層5を気相法で設ける以外は、塗布によって積層でき、ただし、ホログラム形成層(光回折パターン形成層)6に関しては、塗布等の後、好ましくは光回折パターンの微細な凹凸を型面に有する複製用型を用いて、光回折パターンの微細な凹凸を賦型し、賦型後、硬化性樹脂の場合であれば硬化の手段を講じて硬化させ、感光性樹脂組成物を用いた場合には、適宜な現像液により現像して、微細な凹凸を現出させる。剥離層8は、剥離を円滑にすると共に、剥離するまでは、他の層を転写シートの基材に接着させておく役割も果たすものである。剥離層は、インク用に用いられる種々のバインダ樹脂の中から基材との接着性を考慮して選択され、必要に応じ、シリコーンもしくはワックス等の剥離剤を配合してインキもしくは塗料を調製したものを用いて塗布することにより形成できるが、場合によって、省略されることがある。
【0031】
こうして得られたホログラム(光回折パターン)転写シートは、その反射性層5側を基材2と向き合わせ、硬化性接着剤層3を利用して貼り合わせを行ない、貼り合わせた後に、転写シートの基材を剥離することにより、基材3上に、基材側より、硬化性接着剤層3を介して、反射性層5、ホログラム形成層(光回折パターン形成層)6、OP層7、および剥離層8の積層構造を形成することができる。
【0032】
このときの転写の際に用いる接着剤として、この種の転写シートで使用することが多い感熱接着剤を用いると、転写後、基材2と転写された上記の積層構造との間の接着性が、高温にさらされる環境では低下するので、ホログラム層4上にさらに形成する受容層9に昇華転写シートを用いて転写する際に、高温が加えられると、基材2と光回折パターン層4との間の接着性低下が生じ、しわ、膨れ、もしくはしわ等を引き起こす恐れがあるので、好ましくない。
【0033】
そこで、上記の転写において使用し得る接着剤としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンツイミダゾール樹脂、もしくはポリベンゾチアゾール樹脂等の熱硬化性の接着剤を挙げることができる。なお、硬化性接着剤としては、紫外線や電子線等の電離放射線の照射により架橋する電離放射線硬化性接着剤を用いることも可能である。
【0034】
中でも、熱硬化性のポリウレタン樹脂系接着剤、とりわけ、二液硬化型のポリウレタン樹脂系接着剤を用いることが好ましい。これら、ポリウレタン樹脂系接着剤は、剥離強度が単に高いだけでなく、耐熱性および耐寒性が優れており、しかも種々の素材からなるシートに対する「濡れ」がよいことから、種々のプラスチック、金属箔、もしくは紙等を対象とする広範な素材のラミネートに使用するのに適しているからである。また、二液硬化型のポリウレタン樹脂系接着剤は、通常、反応性が適度になるよう設計されているので、主剤と硬化剤の二液を配合した後の使用可能な時間が長いから、ラミネートの作業に長時間を費やしても、接着剤の性能の変化が少ないことも実作業上、有利である。
【0035】
ポリウレタン樹脂系接着剤は、(1)ポリエステルポリオール、もしくはポリエーテルポリオールが、(2)イシシアネート基を有するイソシアネート化合物により架橋されたものであるが、勿論、使用するまでは、これらの(1)および(2)は分離されて保管されており、使用時に所定の配合比で混合し、無溶剤型として、必要に応じて加温して適用するか、または、溶剤で希釈して塗付に適した粘度になるよう調整し溶剤型として、常温で適用するものである。
【0036】
上記において、イソシアネート化合物としては、トルイレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、もしくはトリフェニルメタントリイソシアネート等を挙げることができる。
【0037】
熱硬化性のポリウレタン樹脂系接着剤、とりわけ、二液硬化型のポリウレタン樹脂系接着剤を用いて行なう貼り合わせは、いわゆる、ドライラミネート方法に準じて行なう。即ち、接着剤の主剤と硬化剤とを、酢酸エチル等を用いて塗布に適した粘度になるよう適宜に希釈し、基材2の表面または/およびホログラム(光回折パターン)転写シートの光反射性層5の露出面に塗布し、好ましくは一旦乾燥させ、手指で触れた状態で、一応の乾燥が得られた指触乾燥状態で両者を向かい合わせ、加熱ローラもしくは熱プレスを用いて、加熱および加圧して行ない、加熱および加圧した直後では、剥離強度も十分得られないので、従来のドライラミネート方法において行なわれている、50°付近の環境下で1日〜数日置く、いわゆる養生を行なって、架橋を進行させ、剥離強度の向上を図るとよい。その間、ホログラム(光回折パターン)転写シートの基材の剥離を行なわず、その剥離を養生後に行なうことが好ましい。なお、前にも触れたように、本発明における硬化性接着剤層3とは、実際には、上記のような硬化性接着剤を用いて形成され、硬化した後の、即ち、硬化性接着剤の硬化物からなる層を指す。
【0038】
受容層9は、基材2上に硬化性接着剤層3を介して積層されたホログラム層4、即ち、硬化性接着剤層3側から、反射性層5、ホログラム形成層6、OP層7、および剥離層8等が順に積層されて構成された多層の積層構造からなるものの、剥離層8上に形成され、染料染着性素材から構成されており、昇華転写シートを用いて転写を行なう際に、昇華転写シートの転写層から移行する昇華性染料が染着して画像を形成し得る、言い換えれば、染料画像を受容し得る層である。
【0039】
受容層9を構成する具体的な樹脂としては、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニルまたはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニルまたはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、およびその共重合体、ポリエチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体、ポリウレタン、ポリカーボネート、アイオノマー、セルロース誘導体等の単独、又は混合物を用いることができ、中でも、ポリエステル系樹脂、もしくはビニル系樹脂が好ましい。受容層9には、副次的な目的を果たすために、次段落に示すような離型剤、もしくはその他の添加剤を配合し得るが、本質的には、上記した樹脂を主体とした透明性を有するものである。受容層9に関して言う透明とは、着色透明も含み得るが、染料画像の形成の自由度を確保する意味で、無色透明であることがより好ましい。
【0040】
受容層9には、これら樹脂の他に、画像形成時の熱により、受容層9が転写シートの転写層と熱融着するのを防止するために、各種の離型剤を配合するとよい。離型剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フッ素系化合物、シリコーンオイルを用いることができ、中でも、ジメチルシリコーンをはじめとする各種変性シリコーンからなるシリコーンオイルが好ましく、具体的には、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、ウレタン変性シリコーンが用いられ、単独又は混合して、あるいは重合させて用いる。離型剤は、受容層9を構成する樹脂10部(質量基準である。以降も同様。)に対し、0.5〜30重量部程度添加して用いるか、または、受容層9上に、別層の離型剤の層を、厚み0.05〜2.0μm程度に形成するやり方で用いてもよい。上記の樹脂および離型剤は、必要に応じて、溶剤、希釈剤、およびその他の添加剤等と共に溶解ないし分散して塗料化し、ロールコーティング、グラビアコーティング、あるいはエクストルージョンコーティング等により塗布し、乾燥させて受容層9を形成することができ、あるいは、離型剤を塗料化したものを、離型剤を含まないで形成した受容層9の表面に適用し、本発明の複合画像を形成可能な基材1を得ることができる

【0041】
こうして得られた本発明の複合画像を形成可能な基材1の受容層9に、昇華転写シートを用いて転写を行ない、染料画像11を形成する。
【0042】
ここで昇華転写シートとしては、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムのような引張り強度や耐熱性の優れたフィルムを基材とし、バインダー樹脂中に昇華性染料が溶解もしくは分散したもので構成された転写層が積層されたものを使用し、この転写シートの転写層側が、受容層9上に接するようにして重ね、転写シートの背面から、入力情報に応じて、サーマルヘッドやレーザー光等により、点状に加熱することにより、もたらされた熱量に応じたボリュームの染料が受容層に転移して染着し、加熱する場所を変えて加熱を行なうことにより、受容層9に染料画像(濃淡画像である。)を生じさせることができる。また、昇華転写シートとして、赤色用、青色用、黄色用、および必要に応じ、黒色用に、染料の異なる区域を塗り分けて形成したカラー画像形成用の昇華転写シートを使用し、それぞれの色に相当する分色画像の情報に基づいて、受容層9の同一区域に転写を重ねて行なうことによりフルカラー画像を形成することができる。
【0043】
受容層9に染料画像11が形成されると、下層の光回折パターン層4も、光回折パターン、具体的には、ホログラム画像、もしくは回折格子を有する部分と有しない部分とで構成された回折格子パターン等を有しているので、染料画像11と光回折パターンとが重なった複合画像を見ることができる。
【0044】
複合画像を構成する染料画像11と光回折パターンとは、全く別個のパターンどうしであってもよいが、両方で一つのパターンを形成するような相互補完的な関係のものどうしであってもよいし、あるいは、光回折パターンが有するパターンの一部もしくは全部の彩色を、染料画像11が受け持つような関係であってもよい。また、光回折パターンがホログラム画像であるときは、ホログラム画像は、光回折パターン層4よりも奥側もしくは手前側に存在するか、または奥側に見える部分と手前側に見える部分とが混在して見え、他方、受容層9に形成された染料画像は、受容層9の位置に存在するものとして見えるから、染料画像11と光回折パターンとからなる複合画像を、光回折パターン単独では得られない、より奥行き感の向上したパターンを有するものとすることもできる。
【0045】
本発明の複合画像を形成可能な基材1、および複合画像が形成された基材1’は、基本的には以上の構成を有するものであるが、これらを、種々の用途で使用できるよう、本発明の複合画像を形成可能な基材1および複合画像が形成された基材1’の両者に共通して、通常、この分野で用いられる、以下に示すような要素を付加することができる。
【0046】
上記のように付加され得る要素の主なものは、磁気記録層、光学記録層(ホログラムをも含む。)、感熱記録層、感熱発消色層、昇華方式の記録用の受像層、署名のための筆記性層、またはICモジュール、もしくはLSIモジュール、等の情報の記録の可能な記録部であり、これら記録部のうち、一種もしくは二種以上を付加してもよい。特に、磁気記録層は、記録や消去を繰り返し行なえ、汎用性があるため、上記の他のものと併用することがより好ましい。
【0047】
上記のうち、磁気記録層から筆記性層までのものは、それらの層を形成するための塗料組成物を塗布し、乾燥等により固化させることにより基材2上に積層するか、または、別の基体上にこれらの記録部を積層したものを基材2上に貼り合わせるか、もしくは転写して基体を除去することにより、積層するとよい。ホログラムの場合には、必要に応じてホログラム情報を付与するための干渉露光もしくは賦型を行なう。ICモジュール、もしくはLSIモジュールの場合には、基材2中に、予め穴を設ける等して埋め込む等により積層する。ほかの磁性金属の蒸着もしくはスパッタリングによる薄膜、または磁性金属粉末が分散した樹脂層であり、これらはフィルム状基材を伴なうものであってもよい。なお、積層する面は、図1もしくは図2においては基材2の下面を想定しているが、上面であってもよい。
【0048】
記録部のうち、筆記性層のように、その機能上、最表面に露出していることが好ましいものもあるが、磁気記録層等のように、外観が暗色であるため、意匠的に好ましくないか、あるいは、さらに意匠を施す際の支障がある等の場合には、隠蔽層で被覆してもよい。隠蔽層は、バインダー樹脂中に隠蔽性の高い顔料、好ましくは金属色を呈する金属もしくは合金の粒子が主成分として分散された組成物からなる。隠蔽性の向上の目的で、二酸化チタン等の隠蔽性の高い顔料を含んでいてもよい。金属もしくは合金の粒子の素材としては、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Ge、Al、Mg、Sb、Pb、Cd、Bi、Sn、Se、In、Ga、もしくはRb等の金属、またはこれらの金属を主成分とする合金を使用することができる。
【0049】
本発明の複合画像を形成可能な基材1および複合画像が形成された基材1’には、適宜な絵柄や文字等を、印刷やエンボス等の手段により設けることができ、外観の意匠性を高めたり、必要な表示を行なうことができる。絵柄や文字等は、文字、図形、記号、キャラクタ、写真、絵画、バーコード、もしくはOCR文字等によって表現されたものであり得る。絵柄や文字等を形成する位置は、基材2の表裏のほか、基材2に種々の層が積層される場合には、積層後の表裏や、層間であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1……複合画像を形成可能な基材(1’;複合画像が形成された基材)
2……基材
3……(硬化性)接着剤層
4……ホログラム層(光回折パターン層)
5……反射性層
6……ホログラム形成層
7……OP層
8……剥離層
9……受容層
10……記録部(磁気記録層)
11……染料画像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華転写方式で染料画像が転写される被転写体であって、
転写シート基材上に、光回折パターンを有する光回折パターン層及び硬化性接着剤層が、この順序で設けられた転写シートによって、基材上に転写し、50度以下の環境下で当該硬化性接着剤層を硬化した後、当該転写シート基材を剥離して設けられ、当該光回折パターン層上に前記染料画像を受容可能な染料染着性素材からなる受容層が設けられたことにより、
前記受容層に前記昇華転写シートを用いて昇華転写を行なっても、しわや膨れのない染料画像が形成できることを特徴とする、光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像を形成可能な被転写体。
【請求項2】
上記被転写体の基材がカード用基材であることを特徴とする請求項1記載の複合画像を形成可能な被転写体。
【請求項3】
上記被転写体の基材が記録部を伴ない、該記録部が感熱記録層、感熱発消色層、署名のための筆記性層、またはICモジュールもしくはLSIモジュールのいずれか、並びに磁気記録層であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の複合画像を形成可能な被転写体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の複合画像を形成可能な被転写体の前記受容層に、染料画像が形成されていることを特徴とする、光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像が形成された転写体。
【請求項5】
請求項4に記載の転写体の製造方法であって、
前記転写シート基材上に、前記光回折パターンを有する光回折パターン層及び前記硬化性接着剤層が、この順序で設けられた転写シートを用いて、前記基材上に転写し、
50度以下の環境下で前記硬化性接着剤層を硬化した後、前記転写シート基材を剥離して設け、前記光回折パターン層上に前記染料画像を受容可能な染料染着性素材からなる受容層を設け、当該受容層に、前記昇華転写シートを用いて昇華転写を行って、
前記基材に光回折パターンおよび染料画像からなる複合画像を形成することを特徴とする
転写体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−214554(P2009−214554A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154650(P2009−154650)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【分割の表示】特願2003−347733(P2003−347733)の分割
【原出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】