説明

複合繊維構造体及びその製造方法

【課題】充分なフィルター性能を有し、且つ積層工程の作業性に優れ、しかも濾過性能のバラツキのない、有害化学物質を除去するフィルターやシートなどに好適に使用することができる複合繊維構造体を提供すること。
【解決手段】単繊維の直径が1〜3000nmの極細繊維を、繊維構造体に積層させて複合繊維構造体を製造するに際し、該繊維構造体に電気伝導性の液体を浸漬させつつ極細繊維を積層させ、JIS B 9908に準拠して測定した捕集効率を70%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合繊維構造体及びその製造方法に関するものであり、更に詳しく述べるならば、本発明は室内の空気や排水中に含まれる有害化学物質を除去するフィルターやシートなどに好適に使用することができる複合繊維構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気清浄用フィルターや液体フィルターなどに使用される、高い濾過性能を有するシート状積層体はよく知られており、例えば、特開2003−251121号公報には、極細繊維からなる不織布と、混合繊維シートとを積層してなるフィルターが開示されている。
【0003】
そして、これらのシート状積層体においては、濾過性能を高めるために、表層近傍に不織布層を配することが一般的であるが、特に濾過性能に優れたフィルターを得るため、該不織布層を極細繊維により構成させようとした場合には、極細繊維の積層工程において発生する静電気の影響により、積層工程の作業性が不安定になったり、不織布層の厚みに斑が生じ、濾過性能にバラツキが生じるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−251121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、充分なフィルター性能を有し、且つ積層工程の作業性に優れ、しかも濾過性能のバラツキのない複合繊維構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、極細繊維から構成される不織布を積層させる際、繊維構造体に電気伝導性の液体を浸漬させるとき、所望の複合繊維構造体が得られることを究明し、本発明に到達した。
【0006】
かくして本発明によれば、単繊維の直径が1〜3000nmの極細繊維から構成される不織布と、繊維構造体とが積層されてなる複合繊維構造体であって、該不織布と該繊維構造体とは、その断面方向における空隙率を互いに5%以上異にしており、且つ該複合繊維構造体のJIS B 9908に準拠して測定した捕集効率が70%以上であることを特徴とする複合繊維構造体が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、単繊維の直径が1〜3000nmの極細繊維を、繊維構造体に積層させて複合繊維構造体を製造するに際し、該繊維構造体に電気伝導性の液体を浸漬させつつ極細繊維を積層させることを特徴とする複合繊維構造体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、充分なフィルター性能を有し、且つ積層工程の作業性に優れ、しかも濾過性能のバラツキのない複合繊維構造体が提供されるので、有害化学物質を除去するフィルターやシートなどの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
先ず、本発明において使用する不織布は、単繊維の直径が1〜3000nm、好ましくは1〜2000nm、さらに好ましくは1〜1000nmの極細繊維から構成されていることが肝要である。該単繊維の直径が1nm未満の場合は、不織布の強力が低下し、一方、該単繊維の直径が3000nmを越える場合は、フィルター性能や消臭、抗菌、防汚などの機能が充分に発揮されない。
【0010】
上記極細繊維は、1種或いは2種以上のポリマーから、例えば、エレクトロスピニング法により形成されるものであり、具体的には、ポリアクリロニトリルポリマーをジメチルホルムアミドに0.1〜20wt%の重量比で溶解させ、印加電圧0.1〜30kVの範囲のうち最適な条件を選択して紡糸することにより得られる極細繊維などが例示される。
【0011】
尚、上記極細繊維から不織布を製造する方法には特に限定はなく、従来公知の方法が任意に採用できる。また不織布の形状や物性などにも特に限定はない。
【0012】
次に、本発明において使用する繊維構造体とは、木綿、麻などの天然繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維などの無機繊維、及びポリアミド繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維から構成される織編物、不織布、紙状物などを言う。
【0013】
中でも、物性のバランスが良好なポリエステル繊維、水酸化ラジカルやオゾン等に対して劣化の少ないポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリロニトリル繊維を使用することが好ましい。
【0014】
また、繊維の形状としては、短繊維糸条、長繊維糸条、スプリットヤーン、テープヤーンなどのいずれの形状であってもよい。
【0015】
上記繊維構造体には樹脂加工を施しても良く、その際に被覆する樹脂種には特に限定はないが、耐候性の優れた樹脂が好ましい。ここでいう耐候性に優れた樹脂とは、耐黄変性、保色性、光沢保持性、および耐薬品性等に優れた樹脂をいい、水溶性、溶剤可溶性のいずれも用いることができる。
【0016】
具体的には、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく使用される。また、被覆後の樹脂層の表面に金属蒸着膜や金属箔を貼りあわせても構わない。
【0017】
また、これらの樹脂に添加する化合物としては顔料、難燃剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、安定剤、充填剤、潤滑剤、硬化剤、消泡剤、防カビ剤などが挙げられ、これらを単独、あるいは複合して樹脂に混合することができる。
【0018】
これらの樹脂を被覆する方法としては、公知のコーティング法、トッピング法、ディッピング法、ラミネート法、グラビア法などが挙げられ、該樹脂層の厚みは用途によって調整することができる。
【0019】
本発明においては、上記不織布と上記繊維構造体とは、その断面方向における空隙率を互いに5%以上異にしていることが肝要である。
【0020】
ここで、断面方向における空隙率とは、不織布又は繊維構造体のみかけ表面積に対する、構成繊維が占める表面積の割合を言い、具体的には、下記の計算式により算出される値である。
【0021】
【数1】

ここで、ρは、見かけの比重でρ=目付量/厚みから算出され、dは、繊維構造体を構成する繊維の比重である。
【0022】
本発明の複合繊維構造体は、上記不織布と上記繊維構造体を従来公知の方法により積層すれば良いが、その際、該不織布を構成する繊維の単繊維繊度が小さいために静電気が発生し、積層工程の作業性が不安定になったり、不織布層の厚みに斑が生じ、濾過性能にバラツキが生じたりし易い。
【0023】
特に、不織布を構成する極細繊維を、例えば、スパンボンド法などにより、繊維構造体上に積層させ、不織布層を形成させる場合などは、積層工程そのものが静電気の発生源になるので、上記の問題が顕著に発生する傾向にある。
【0024】
従って、本発明においては、極細繊維不織布を、繊維構造体に積層させて複合繊維構造体を製造するに際し、該繊維構造体に電気伝導性の液体を浸漬させつつ極細繊維を積層させることが肝要である。
【0025】
ここで、電気伝導性の液体としては、水、硫酸や塩酸等の酸性溶液、水酸化ナトリウムや酢酸等のアルカリ溶液、エタノールやメタノール等のアルコール、さらにアセトン等の有機溶媒溶液などが例示され、中でも水を使用することが好ましい。
【0026】
電気伝導性の液体を繊維構造体に浸漬する方法には特に限定はないが、例えば、繊維構造体に、スプレーで水を噴霧しつつ、極細繊維を積層させる方法や、繊維構造体を水中に浸漬後、余剰水分をマングル等の装置で絞って除去した繊維構造体に極細繊維を積層させる方法などが例示される。
【0027】
かくして得られた複合繊維構造体は、後述するJIS B 9908に準拠して測定した捕集効率が70%以上という充分なフィルター性能を有し、且つ積層工程の作業性に優れ、しかも濾過性能のバラツキがないので、室内空気清浄用フィルター、排水浄化用フィルターなど、高度の濾過性能を必要とする用途に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および効果をさらに詳細に説明する。尚、実施例における各物性は以下の方法により求めたものである。作製した不織布または繊維構造体の諸物性を表1に、算出結果および測定結果を表2に示す。
【0029】
(1)空隙率
空隙率は、作製した不織布または繊維構造体の目付量および厚みを計測後、下記の計算式により算出した。
【数2】

ここで、ρは、見かけの比重でρ=目付量/厚みから算出され、dは、繊維構造体を構成する繊維(ポリアクリロニトリルの比重=1.15)の比重である。
【0030】
(2)通気度
通気度は、作製した不織布または繊維構造体を面積38cm2以上の大きさに切断し、通気度試験機にて値を測定した。
【0031】
(3)濾過性能(捕集効率)
捕集効率は、作製した複合繊維構造体あるいは繊維構造体を、JIS B9908に準拠し、56m3/minの空気を通過させたときの0.3μmのDOP粒子に対する捕集効率を求めた。
【0032】
[実施例1]
ポリアクリロニトリル繊維不織布(繊維径15μm、目付50g/m)にポリアクリロニトリル極細繊維不織布(繊維径200nm、目付0.3g/m2)を水に浸漬させながら積層し、複合繊維構造体を作製した。
【0033】
[実施例2]
ポリアクリロニトリル繊維不織布(繊維径15μm、目付50g/m)にポリアクリロニトリル極細繊維不織布(繊維径200nm、目付0.2g/m2)を実施例1と同様に積層し、複合繊維構造体を作製した。
【0034】
[実施例3]
ポリアクリロニトリル繊維不織布(繊維径15μm、目付50g/m)にポリアクリロニトリル極細繊維不織布(繊維径200nm、目付0.1g/m2)を実施例1と同様に積層し、複合繊維構造体を作製した。
【0035】
[比較例1]
ポリアクリロニトリル繊維不織布(繊維径15μm、目付50g/m)にポリアクリロニトリル極細繊維不織布(繊維径200nm、目付0.3g/m2)を、水を浸漬させずに積層し、複合繊維構造体を作製した。
【0036】
[比較例2]
ポリアクリロニトリル繊維不織布(繊維径15μm、目付50g/m)にポリアクリロニトリル不織布(繊維径15μm、目付15g/m2)を積層し、複合繊維構造体を作製した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、充分なフィルター性能を有し、且つ積層工程の作業性に優れ、しかも濾過性能のバラツキのない複合繊維構造体が提供されるので、有害化学物質を除去するフィルターやシートなどの用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の直径が1〜3000nmの極細繊維から構成される不織布と、繊維構造体とが積層されてなる複合繊維構造体であって、該不織布と該繊維構造体とは、その断面方向における空隙率を互いに5%以上異にしており、且つ該複合繊維構造体のJIS B 9908に準拠して測定した捕集効率が70%以上であることを特徴とする複合繊維構造体。
【請求項2】
不織布が、繊維構造体上に極細繊維を積層させることにより形成された不織布である請求項1記載の複合繊維構造体。
【請求項3】
単繊維の直径が1〜3000nmの極細繊維を、繊維構造体に積層させて複合繊維構造体を製造するに際し、該繊維構造体に電気伝導性の液体を浸漬させつつ極細繊維を積層させることを特徴とする複合繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
電気伝導性の液体が水である請求項3記載の複合繊維構造体の製造方法。

【公開番号】特開2006−35627(P2006−35627A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218462(P2004−218462)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】