説明

複合織編物

【課題】セルロースアセテートフィラメント糸の独特な光沢感と軽やかなドレープ性、清涼感と、ポリエステルフィラメント糸の膨らみ感、加工安定性を兼備し、かつ染色仕上げ後の織編物の面に毛羽のない複合織編物を提供する。
【解決手段】セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)からなり、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合比率が70/30〜95/5、セルロースアセテートフィラメント糸(A)のフィラメント数がポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数より大で、かつポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数が2〜10である複合糸にて、織編物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテートフィラメント糸とポリエステルフィラメント糸との複合糸からなる複合織編物に係わり、セルロースアセテートフィラメント糸の独特な光沢感と軽やかなドレープ性を有し、清涼感に優れ、かつ取り扱いの容易な衣料用織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアセテートフィラメント糸は、その独特な光沢感、軽やかなドレープ性、清涼感を有することから衣料用素材として多用されているが、糸強度が低く、染色加工でシワ等が発生し易いことから、ポリエステルフィラメント糸等の合成繊維フィラメント糸と混繊等により複合して使用することが多い。因みにセルロースアセテートフィラメント糸のみの使用の織編物の製造は、加工難易度が高く、熟練した加工技術及び加工設備を必要とされる。
【0003】
一方、ポリエステルフィラメント糸は、膨らみ感、反発感、適度なストレッチ性、熱賦型性、加工安定性を有し、衣料用途として汎用性に優れ、広く使用されているが、セルロースアセテートフィラメント糸と複合化するにあたり、ポリエステルフィラメント糸の複合比率が大きくなるにしたがい、当然ながらセルロースアセテートフィラメント糸の特徴が軽減されて高級感がなく、また優美さに欠け商品価値が低下するという問題がある。
【0004】
セルロースアセテートフィラメント糸の複合化に関連しては、特許文献1にてセルロース系繊維フィラメント糸と合成繊維フィラメント糸との混繊糸を用いた織物が提案されているが、合成繊維フィラメント糸の比率やフィラメント数が多く、織物の厚みを十分に満足する程度に薄くすることが困難である。また、特許文献2〜3にて提案されているセルロース系スパン糸と合成繊維スパン糸との複合糸では、その素材自身による毛羽或いは加工による起毛等によりウォーム感、嵩高感を有し、フィラメント糸での複合糸とは衣料用途における商品アイテムを異にする。
【0005】
【特許文献1】特開平11−61595号公報
【特許文献2】特開2002−180352号公報
【特許文献3】特開2003−3345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セルロースアセテートフィラメント糸の独特な光沢感、軽やかなドレープ性、清涼感を有し、ポリエステルフィラメント糸による膨らみ感、ストレッチ性、加工安定性等の多用な特徴を兼備し、かつ染色仕上げ後の織編物の面に毛羽のない複合織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合糸であって、下記の要件(1)、(2)を満たす複合糸からなる複合織編物にある。
(1)セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合比率が質量比で70/30〜95/5の範囲である
(2)セルロースアセテートフィラメント糸(A)のフィラメント数がポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数より大で、かつポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数が2〜10である
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合糸における、セルロースアセテートフィラメント糸(A)の比率及びフィラメント数を規定したことにより、セルロースアセテートフィラメント糸の特徴である光沢感、軽やかなドレープ性、清涼感を有する織編物であって、染色仕上げ等を施した後でも織編物の面に毛羽のない織編物を提供し得るものであり、かかる織編物は、衣料用素材として有用なるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、複合糸を構成するセルロースアセテートフィラメント糸(A)としては、酢化度53〜57%のセルロースジアセテートマルチフィラメント、酢化度60〜62%のセルローストリアセテートマルチフィラメントが挙げられる。セルロースアセテートフィラメント糸のフィラメント断面形状は、特に限定されるものではないが、複合糸よりなる織編物の風合いや光沢等を考慮して、円形、菊形等が好ましく選択される。また、セルロースアセテートフィラメント糸には、酸化チタン等の添加剤が含まれていてもよい。
【0010】
また、本発明において、複合糸を構成するポリエステルフィラメント糸(B)としては、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント等が挙げられる。
【0011】
複合糸におけるセルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合比率は、質量比で70/30〜95/5の範囲であることが必要であり、好ましくは80/20〜95/5の範囲である。セルロースアセテートフィラメント糸(A)の比率が70〜95%の範囲であれば、セルロースアセテートフィラメント糸が持つ独特な光沢感と軽やかなドレープ性、清涼感の特徴が織編物上で発揮され、相対的にポリエステルフィラメント糸(B)の風合い要素が低くなり、風合い硬化、ふかつき等を生じることがなく、また、糸強度が保持され、染色加工でシワ等が発生しし難くなる。
【0012】
また、複合糸におけるセルロースアセテートフィラメント糸(A)のフィラメント数は、ポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数より大で、かつポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数は、2〜10であることが必要であり、好ましくは4〜8である。セルロースアセテートフィラメント糸(A)のフィラメント数がポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数より大で、かつポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数が2〜10であることにより、織編物に適度のハリ感を与え、仕立て映えが良好となり、また肌触りが柔らかとなり清涼感を与える。
【0013】
複合糸におけるポリエステルフィラメント糸(B)の糸繊度は、好ましくは10〜35dtex、より好ましくは10〜25dtexであり、糸繊度が10dtex未満では複合の製糸工程或いは製織・製編工程等での糸切れが生じやすくなる。
【0014】
また、複合糸としての糸繊度は、好ましくは60〜130dtex、より好ましくは60〜125dtexであり、複合糸の糸繊度が60dtex未満では、織編物における引き裂き強度、破裂強度を低下させ、また130dtexを超えると織編物が重量物になりドレープ素材として不適なものとなる。
【0015】
本発明における複合糸は、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合化手段としては、混繊、合撚又は複合仮撚加工等が挙げられ、特に混繊、合撚が複合手段として好ましい。混繊は、2種のフィラメント糸をエアー圧0.1〜0.3MPaでインターレースノズル等にてエアー交絡処理し、好ましくは交絡数で10〜60ケ/m、より好ましくは30〜50ケ/mのエアー交絡を付与する。交絡数が10ケ/m未満では、糸の収束性に欠けるようになり後加工工程の通過性に問題が生じやすくなる。合撚は、2種のフィラメント糸を、好ましくは撚係数600〜20000、より好ましくは撚係数1000〜18000に撚糸する。撚係数が600未満では、糸の収束性に欠けるようになり後加工工程の通過性に問題が生じやすくなる。
【0016】
本発明の複合織編物は、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)とからなる前記の複合糸にて構成される。本発明の複合織編物における織物は、フライシャトル織機、レピア織機、ウオータージェット織機、エアージェット織機等の織機で製織され、また、編物は、横編機、丸編機、経編機等の編機で製編され、製織、製編の手段或いは組織には特に制限はない。
【0017】
本発明の複合織編物は、セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)とからなる前記の複合糸のみにて構成してもよいが、ストレッチ素材としてより好ましい素材として用いるうえで、さらにポリウレタン系繊維糸を用い、本発明の複合織編物にポリウレタン系繊維糸が交織又は交編されて含むことが好ましい。
【0018】
製織、製編後の織編物には、公知の染色加工、仕上げ加工等が施されるが、織編物の仕上げ目付は、好ましくは250g/m以下、より好ましくは200g/m以下とする。仕上げ目付が、250g/mを超えると、織編物が重くなり、軽やかなドレープ性を発揮するという複合糸の特徴が活かされず、ドレープ素材としては適さないものとなる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における織編物の風合いはハンドリングにより評価し、また織編物の毛羽は、経、横10cmの面積で毛羽の発生数を目視判定した。
【0020】
(実施例1)
セルロースアセテートフィラメント糸(A)としてセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、84dtex/58フィラメント(f))を用い、ポリエステルフィラメント糸(B)としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、11dtex/4f)を用い、村田機械社製STP混繊機によりエアー圧0.18MPa、糸速300m/分でエアー交絡処理を施して混繊糸とし、引き続き、村田機械社製ダブルツイスターによりスピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gで300T/mに撚糸し、80℃で40分撚止めセットを施し、複合糸を得た。得られた複合糸は、セルローストリアセテートフィラメント糸とポリエチレンテレフタレートフィラメント糸との複合比率が質量比で88/12、複合糸としての糸繊度が95dtexであった。
【0021】
得られた複合糸を用い、フクハラ社製丸編機(28ゲージ、釜径33インチ)によりスムース組織に製編して編物とした。この編物を分散染料を用い120℃で20分の高圧染色し、仕上げ目付150g/mの編物とした。得られた編物は、セルローストリアセテートフィラメント糸独特の光沢感と軽やかなドレープ性、清涼感を有し、かつ適度な膨らみ感、加工安定性を備え、表面には毛羽のない編物であった。
【0022】
(比較例1)
セルロースアセテートフィラメント糸(A)としてセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、84dtex/20f)を用い、ポリエステルフィラメント糸(B)としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、33dtex/12f)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合糸を得た。得られた複合糸は、セルローストリアセテートフィラメント糸とポリエチレンテレフタレートフィラメント糸との複合比率が質量比で72/28、複合糸としての糸繊度が117dtexであった。得られた複合糸を用い、実施例1と同様にして、スムース組織に製編し、高圧染色し、仕上げ目付189g/mの編物とした。得られた編物は、適度な膨らみ感、加工安定性を備え、表面には毛羽のないものであるが、本発明品に比べて光沢感と軽やかなドレープ性、清涼感に劣るものであった。
【0023】
(比較例2)
セルロースアセテートフィラメント糸(A)としてセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、50dtex/34f)を用い、ポリエステルフィラメント糸(B)としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、56dtex/24f)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合糸を得た。得られた複合糸は、セルローストリアセテートフィラメント糸とポリエチレンテレフタレートフィラメント糸との複合比率が質量比で47/53、複合糸としての糸繊度が106dtexであった。得られた複合糸を用い、実施例1と同様にして、スムース組織に製編し、高圧染色し、仕上げ目付170g/mの編物とした。得られた編物は、加工安定性を備えるものであったが、膨らみ感が強く、表面に毛羽が出やすいものであり、また光沢感、軽やかなドレープ性、清涼感に劣るものであった。
【0024】
(実施例2)
セルロースアセテートフィラメント糸(A)としてセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、110dtex/26f)を用い、ポリエステルフィラメント糸(B)としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、11dtex/4f)を用い、村田機械社製STP混繊機によりエアー圧0.18MPa、糸速300m/分でエアー交絡処理を施して混繊糸とし、引き続き、村田機械社製ダブルツイスターによりスピンドル回転数10000rpm、撚糸張力20gで各S撚り1000T/mとZ撚り1000T/mとに撚糸し、80℃で40分撚止めセットを施し、複合糸を得た。得られた複合糸は、セルローストリアセテートフィラメント糸とポリエチレンテレフタレートフィラメント糸との複合比率が質量比で91/9であった。得られた複合糸をS撚り、Z撚り1対1に配列し、フクハラ社製丸編機(28ゲージ、釜径34インチ)にて、ポリウレタン繊維(オペロンテックス社製ライクラ33dtex/1f)を2.5倍に延伸しながら、プレーティング天竺組織に交編して編物とした。この編物を実施例1におけると同様に分散染料を用いて高圧染色し、仕上げ目付213g/mの編物とした。得られた編物は、セルローストリアセテートフィラメント糸独特の光沢感と軽やかなドレープ性、清涼感を有し、かつストレッチ性、加工安定性を備え、表面には毛羽のない編物であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の織編物は、セルロースアセテートフィラメント糸の独特な光沢感と軽やかなドレープ性を有し、清涼感に優れ、かつ加工安定性があり取り扱いの容易なるものであり、ドレープ素材、さらにはストレッチ素材として、衣料用織編物に好適で、かつ衣料用用途に有用なるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合糸であって、下記の要件(1)、(2)を満たす複合糸からなる複合織編物。
(1)セルロースアセテートフィラメント糸(A)とポリエステルフィラメント糸(B)との複合比率が質量比で70/30〜95/5の範囲である
(2)セルロースアセテートフィラメント糸(A)のフィラメント数がポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数より大で、かつポリエステルフィラメント糸(B)のフィラメント数が2〜10である
【請求項2】
複合糸におけるポリエステルフィラメント糸(B)の糸繊度が10〜35dtexである請求項1に記載の複合織編物。
【請求項3】
複合糸の糸繊度が60〜130dtexである請求項1又は請求項2に記載の複合織編物。
【請求項4】
複合糸が、混繊、合撚又は複合仮撚加工によって得た複合糸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合織編物。
【請求項5】
複合織編物に、ポリウレタン系繊維糸が交織又は交編されてなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合織編物。

【公開番号】特開2008−280646(P2008−280646A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126500(P2007−126500)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】