説明

複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を含む電気回路基板

【課題】 高い誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一で所望の絶縁性を有する誘電体薄膜の工業的製造に好適に用いることができる複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板を提供する。
【解決手段】 無機誘電体、フッ素化芳香族系重合体及び溶媒成分を含んでなる複合誘電体用組成物であって、該溶媒成分は、吸水率が20質量%以下の溶媒を含むものである複合誘電体用組成物。前記溶媒成分は、沸点が100℃以上である複合誘電体用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板に関する。より詳しくは、電子情報材料に好適に用いることができる複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
複合誘電体とは、有機ポリマーと無機誘電体とを複合化した有機−無機複合誘電体であり、優れた誘電体として注目されるものである。複合誘電体が注目される背景には、情報化社会の進行とともに、情報伝達の高速度化、これに伴う情報信号の高周波化のニーズがますます高まりつつあることがある。これに対応するため、エレクトロニクス製品に使用される回路基板の高機能化・高密度実装が求められていた。この課題を解決するため、抵抗・キャパシター・インダクターといった電子素子を回路基板の中に作りこむ技術であるEPD(Embedded Passive Device Techinology)が注目を集めている。
【0003】
一般に実装に使用されるキャパシターにはセラミック誘電体が用いられているが、EPDに使用した場合に回路基板の孔あけや切断等の後加工性や、接着性が悪いことが問題であった。そこで、後加工性及び接着性に優れる誘電体として複合誘電体が望まれていた。
【0004】
従来の複合誘電体に関する技術としては、例えば、無機誘電体とフッ素化芳香族系重合体を含有する複合誘電体用組成物が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、フッ素含有ポリマーによって無機誘電体を分散させたものである。しかしながら、この技術は、誘電体の膜厚を充分に薄く保ったまま高い誘電率を有するものとし、かつ、膜表面の荒れが小さいものとしたり、高周波域において誘電率を更に高いものとする等の工夫の余地があった。
【0005】
上記課題を解決する従来の方法としては、例えば、膜に穴や欠点が生じてショートしないように誘電体の膜厚を厚くして製造することが考えられるが、その場合、単位体積あたりの複合誘電体の表面積が減少することになり、キャパシター等に用いると充分な容量を確保することができなくなる。また、複合誘電体の膜表面の粗さを小さく、かつ、膜欠損を有しないものとするために、組成物中における無機誘電体の含有割合を少なくすることが考えられるが、この場合、複合誘電体の誘電率が低下することになるため、複合誘電体の誘電率を低下させることなく、膜表面の粗さを小さく、かつ、膜欠損を有しないようにする工夫の余地があった。
【特許文献1】国際公開第05/033209号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一で所望の絶縁性を有する誘電体薄膜の工業的製造に好適に用いることができる複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複合誘電体用組成物及び複合誘電体について種々検討したところ、従来の複合誘電体用組成物において、誘電体に微細な穴や欠点が生じ、均一な誘電体薄膜が得られにくいことの原因が下記のようなものであることを発見した。すなわち、従来の複合誘電体用組成物では、塗工後から溶媒除去(乾燥)を行うまでの間に、組成物中に含まれる溶媒が空気中の水分を吸収することによって、有機重合体及び無機誘電体の分散が均一ではなくなり、局所的に析出してしまうといった現象が生じ、その結果、膜表面の粗さが大きいものとなったり、微細な穴や欠点が生じたりすることにより、膜が絶縁を保つことができなくなり、ショートする等の問題が生じることを発見した。溶媒の吸湿に起因する欠陥は、薄膜化するほど発生しやすく、薄膜化にあたっての重大な課題となることを見出した。そして本発明者らは、組成物を構成する樹脂として、撥水性の高いフッ素化芳香族系重合体を用い、更に、溶媒成分を吸水率が特定値以下の溶媒を含むものとすると、膜欠陥の発生を効果的に抑制することができることを見出した。これにより、複合誘電体用組成物を薄膜化することが可能となり、高い誘電率を保持したまま大幅な容量増加を達成することができ、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。
【0008】
すなわち、本発明は、無機誘電体、フッ素化芳香族系重合体及び溶媒成分を含んでなる複合誘電体用組成物であって、上記溶媒成分は、吸水率が20質量%以下の溶媒を含むものである複合誘電体用組成物である。
本発明はまた、上記複合誘電体用組成物を用いて形成されたものである複合誘電体でもある。
本発明は更に、上記複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の複合誘電体用組成物に含まれる溶媒成分は、吸水率が20質量%以下の溶媒を含むものである。吸水率が20質量%以下の溶媒とは、溶媒に対する水の溶解度が20質量%以下である溶媒である。
上記溶媒成分に吸水率が20質量%以下の溶媒が含まれると、成膜時に雰囲気中から吸収される水分量を充分に低減することができ、それによって、有機重合体及び無機誘電体を均一に分散させることができることから、誘電体の膜厚を薄く保ったまま高い誘電率を有するものとし、かつ、膜表面の荒れが小さいものとするという本発明の有利な効果が発揮されることになる。その結果、キャパシターやノイズフィルターに好適に用いることができ、特に高機能化、高密度実装に対応した素子内蔵基板(EPD)に用いられる誘電体材料として好適に用いることができるため、工業的製造に好適に利用することができるものである。すなわち、上記複合誘電体用組成物は、成膜時に雰囲気中の水分量を管理する必要がなく、塗工環境が限定されない。また、成膜時に雰囲気を管理する必要がないことから、経済的にも有利である。更に、雰囲気中の水分に影響されず、塗膜を安定的に形成することができ、工業的製造に適している。
なお、本明細書において複数の溶媒を用いる場合、それらをすべて含めたものの総称を溶媒成分と表す。また、本明細書において溶媒という場合、溶媒成分を構成する個々の溶媒を表す。
【0010】
上記溶媒成分は、吸水率が20質量%以下の溶媒を主成分とすることが好ましい。吸水率が20質量%以下の溶媒を主成分とすることとは、上記複合誘電体用組成物において、溶媒成分の全質量を100質量%としたとき、吸水率が20質量%以下の溶媒が50質量%以上であることを意味する。
上記溶媒成分における吸水率が20質量%以下の溶媒の含有量としてより好ましくは、溶媒成分100質量%中、80質量%以上である。更に好ましくは85質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは95質量%以上である。これによって溶媒成分の大部分が吸水率が20質量%以下の溶媒で構成されることになり、成膜時の吸水量を更に低減することができる。なお、溶媒成分の全質量とは、複合誘電体用組成物の全質量から無機誘電体、フッ素化芳香族系重合体、及び、その他の化合物や副資材の質量を差し引いて得られる質量である。上記吸水率が20質量%以下の溶媒として1種又は2種以上の溶媒を含んでいてもよい。
【0011】
上記吸水率が20質量%以下の溶媒としては、吸水率が18質量%以下のものが好ましい。より好ましくは吸水率が15質量%以下のものであり、更に好ましくは、吸水率が10質量%以下のものである。これによって上記の効果が更に顕著に発揮されることになる。
【0012】
上記吸水率が20質量%以下の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロホルム、酢酸エチル、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が挙げられる。
上記溶媒の中でも、シクロヘキサノン、PGMEA、キシレン、トルエンが好ましい。より好ましくはシクロヘキサノン、PGMEAである。
【0013】
上記溶媒成分は、吸水率が20質量%より大きい溶媒を含んでいてもよい。上記吸水率が20質量%より大きい溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロルドン(NMP)が挙げられる。
また、上記複合誘電体用組成物においては、安定性を高める、乾燥性を調整する、又は、成形物・成形膜の物性を高めるという目的を達成するために、複数の溶媒を併用した混合溶媒を用いてもよい。なお、上記溶媒の吸水率を下記表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
上記溶媒成分は、沸点が100℃以上であることが好ましい。
溶媒成分の沸点が100℃以上であると、組成物を均一に塗布しやすくなり、表面の荒れが小さくなる効果が更に顕著に発揮されることになる。
上記溶媒成分の沸点の下限としてより好ましくは110℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。特に好ましくは130℃以上であり、最も好ましくは140℃以上である。
また、上記溶媒成分の沸点は、250℃以下であることが好ましい。より好ましくは220℃であり、更に好ましくは200℃である。
上記溶媒成分の沸点は、溶媒成分として複数種の溶媒が含まれている場合は、それらの溶媒のうち最も高い沸点を有する溶媒の沸点である。また、溶媒成分が共沸組成である場合には、共沸温度である。
【0016】
上記複合誘電体用組成物は、粘度が1〜100000mPa・sであることが好ましい。
これによって、組成物をより均一に塗布することできる。上記粘度としてより好ましくは1〜10000mPa・sである。なお、このような粘度を有する複合誘電体用組成物は、溶媒成分を後述する配合量とすることによって得ることが好ましい。
【0017】
上記溶媒成分の配合量は、複合誘電体用組成物100質量%に対して20〜95質量%であることが好ましい。
これによって、組成物の粘度を好適なものすることができる。溶媒成分の配合量が複合誘電体用組成物100質量%に対して20質量%未満であると、組成物の粘度を低減する効果が充分に発揮されず、成形性が低下するおそれがある。また、95質量%を超えると、組成物の安定性が低下するおそれがある。溶媒成分の配合量としてより好ましくは、30〜90質量%であり、更に好ましくは40〜90質量%である。特に好ましくは50〜90質量%であり、最も好ましくは60〜90質量%である。
【0018】
上記複合誘電体用組成物は、複合誘電体用組成物100質量%に対して0.5〜15質量%のフッ素化芳香族系重合体を含有するものであることが好ましい。これによって、組成物の粘度を好適なものすることができる。フッ素化芳香族系重合体が複合誘電体用組成物100質量%に対して0.5質量%未満であると、組成物の安定性が低下するおそれがある。また、15質量%を超えると、組成物の粘度が高くなりすぎて、成形性が低下するおそれがある。上記フッ素化芳香族系重合体の量としてより好ましくは、複合誘電体用組成物100質量%に対して1〜13質量%であり、更に好ましくは2〜12質量%である。特に好ましくは3〜11質量%であり、最も好ましくは4〜10質量%である。
【0019】
上記複合誘電体用組成物は、フッ素化芳香族系重合体100質量%に対して、100〜2000質量%の無機誘電体を含有するものであることが好ましい。
無機誘電体の含有量が100質量%未満であると、複合誘電体の誘電率が低くなるおそれがある。一方、無機誘電体の含有量が2000質量%を超えると組成物の粘度が高くなりすぎるか、又は、成形体及び成形膜の強度が低下して取り扱い性が困難になるおそれがある。
上記無機誘電体の含有量の下限としてより好ましくは、フッ素化芳香族系重合体100質量%に対して150質量%以上である。更に好ましくは250質量%以上であり、特に好ましくは350質量%以上であり、最も好ましくは、400質量%以上である。
また、無機誘電体の含有量の上限としてより好ましくは、フッ素化芳香族系重合体100質量%に対して1500質量%以下である。更に好ましくは1000質量%以下である。
複合誘電体用組成物は、フッ素化芳香族系重合体及び無機誘電体をそれぞれ1種又は2種以上含有することができる。
【0020】
上記複合誘電体用組成物は、必要に応じて、その他の化合物や副資材を含んでもよい。その他の化合物や副資材としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、黒鉛等の無機充填材、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0021】
上記複合誘電体用組成物における、その他の化合物や副資材の配合量は、発明の効果を損なわない範囲であればよく、複合誘電体用組成物100質量%に対して、0.001〜500質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.001〜100質量%であり、更に好ましくは0.001〜50質量%であり、特に好ましくは0.001〜10質量%である。
【0022】
以下、本発明の複合誘電体用組成物に含まれる無機誘電体及びフッ素化芳香族系重合体、フッ素化芳香族系重合体の製造方法、並びに、本発明の複合誘電体用組成物を用いて形成される複合誘電体について記載する。
<無機誘電体>
本発明の複合誘電体用組成物に含まれる無機誘電体は、組成物中における平均粒子系Dm(以下、たんに無機誘電体の平均粒子系Dm、又は、平均粒子系Dmと表記することがある。)が700nm以下であることが好ましい。
組成物中における無機誘電体の平均粒子系Dmとは、すなわち、無機誘電体が複合誘電体用組成物中に溶解又は分散している状態での平均粒子径を表す。
平均粒子系Dmを上記の値とする方法としては、例えば、後述する複合誘電体用組成物の製造方法を行う方法が挙げられる。
無機誘電体粒子は、組成物中では通常一次凝集、二次凝集等の状態を取り、粉体として取り出しているときと比べ、粒子径が増大していることが多い。この組成物中での平均粒子径を上記の値とすることにより、得られる複合誘電体の欠陥をなくし絶縁性を保ったまま(ショートさせることなく)薄膜化する効果が更に優れることになる。すなわち、複合誘電体の膜厚を充分に薄く保ったまま高い誘電率を有するものとし、かつ、膜表面の荒れが小さいものとする効果がより顕著に発揮されることになる。
上記組成物中における無機誘電体の平均粒子系Dmは、パーティクルサイズアナライザー(例えば、堀場製作所製、商品名:LA−700、商品名:LA−910)の測定により得られる。
【0023】
上記平均粒子径Dmとしてより好ましくは、650nm以下である。更に好ましくは500nm以下であり、特に好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。
上記平均粒子径Dmが700nmを超えると、組成物中で無機誘電体が均一に分散されておらず、凝集した粒子が多数存在するため、複合誘電体を成形した際に微細な穴や欠点が生じやすく、絶縁性が不充分な複合誘電体となるおそれがある。
また、上記平均粒子径Dmの下限は、後述する無機誘電体Dの平均粒子径より大きいことが好適である。上記平均粒子径Dmの下限は、例えば、10nm以上であることが好ましい。より好ましくは50nm以上である。
【0024】
上記無機誘電体は、粉体における平均粒子径D(以下、粉体における平均粒子径D、又は、平均粒子径Dと表記することがある。)が50〜300nmの範囲であることが好ましい。
粉体における平均粒子径Dとは、粉体の一次粒子径を示すものである。粉体の一次粒子径は、無機誘電体の比表面積から算出される値である。また、平均粒子径Dは、電子顕微鏡により測定することができ、10個以上の粒子における平均値である。すなわち、一次粒子径とは、電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する10個以上の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒子径として平均粒子径を求めた値である。
上記平均粒子径Dは、60〜290nmであることが好ましい。より好ましくは、70〜280nmであり、更に好ましくは80〜270nmである。
【0025】
上記無機誘電体は、組成物中における無機誘電体の平均粒子径Dmと粉体における無機誘電体の平均粒子径Dとの比(Dm/D)が4未満のものであることが好ましい。
上記比(Dm/D)が4未満であると、組成物中における無機誘電体の分散性が更に良好になり、複合誘電体として更に有効に機能することになる。上記比を4未満とすることは、例えば、後述する複合誘電体用組成物の製造方法により行うことができる。
上記比(Dm/D)としてより好ましくは3.5以下であり、更に好ましくは、3.0以下であり、特に好ましくは2.5以下である。
上記比が4以上であると、組成物中の無機誘電体の分散が不充分となり、複合誘電体がショートしてしまうおそれがある。
上記比の下限としては、0.8以上が好ましい。上記比が0.8未満の場合には、無機誘電体の1次粒子が破砕され、結晶性が低下するおそれがある。
【0026】
上記無機誘電体は、単位体積当たりの比表面積が2〜50m/gであることが好ましい。より好ましくは、3〜30m/gであり、更に好ましくは、3.5〜20m/gである。これによって、複合誘電体がより優れた誘電率を有することになる。上記比表面積を有する無機誘電体としては、例えば、市販品を用いることができる。
【0027】
上記無機誘電体は、ペルブスカイト結晶構造を有する誘電体を含むものであることが好ましい。ペルブスカイト結晶構造とは、ABO型構造である。
上記無機誘電体は、ABO型構造の誘電体の2元系又は3元系の複合ペルブスカイト系誘電体であってもよい。
上記2元系又は3元系の複合ペルブスカイト系誘電体としては、例えば、(BaSr(1−x))(SnTi(1−y))O、Ba(TiSn(1−x))O、BaSr(1−x)TiO、BaTiO−CaZrO、BaTiO−BiTi12、(BaCa(1−x))(ZrTiO(1−y))Oが挙げられる。
上記無機誘電体としてより好ましくは、チタン酸バリウムである。これによって、特に高い誘電率を発揮することができる。
なお、上記無機誘電体は、その他の成分を含んでいてもよく、例えば、酸化チタン等を用いることができる。
【0028】
上記ABO型の誘電体としては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO)、タングステン酸鉛(PbWO)、亜鉛酸鉛(PbZnO)、鉄酸鉛(PbFeO)、マグネシウム酸鉛(PbMgO)、ニオブ酸鉛(PbZbO)、ニッケル酸鉛(PbNiO、ジルコン酸鉛(PbZrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸亜鉛(ZnTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、ジルコン酸マグネシウム(MgZrO)、ジルコン酸亜鉛(ZnZrO)等が挙げられる。
【0029】
上記無機誘電体の形状としては、粒子状、繊維状、燐片状、円錐状、微粉状、破砕片状等が挙げられる。
無機誘電体は、一次粒子化可能な形状であることが好ましい。これによって、複合誘電体組成物の分散性を向上することができる。なお、一次粒子化可能な形状とは、複合誘電体組成物中の平均粒子径(上記Dm)がより小さくなる形状である。より好ましくは、結晶性の形状である。これによって、複合誘電体組成物の誘電率が更に向上することになる。
【0030】
<フッ素化芳香族系重合体>
本発明の複合誘電体用組成物は、フッ素化芳香族系重合体を含むものである。フッ素化芳香族系重合体とは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環を有する重合体である。フッ素化芳香族系重合体は、無機誘電体を分散させる効果が優れており、無機誘電体の配合率の高い組成物であっても流動性等の作業性の面で優れていることから、誘電体の膜厚を薄く保ったまま高い誘電率を有するものとし、かつ、膜表面の荒れが小さいものとすることができる。
【0031】
上記フッ素化芳香族系重合体は、ガラス転移点温度が150℃以上であることが好ましい。これによって、複合誘電体組成物の耐熱性が更に優れることになる。上記ガラス転移点温度としてより好ましくは、160℃〜400℃であり、更に好ましくは165℃〜350℃であり、特に好ましくは170℃〜300℃である。
ガラス転移温度は、例えば、DSC(セイコー電子工業社製、商品名「DSC6200」)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度の条件で測定することができる。
【0032】
上記フッ素化芳香族系重合体の体積抵抗値は、1.0×1013Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗値が1.0×1013Ω・cm未満では、組成物を用いて形成される複合誘電体の絶縁性が低下するおそれがある。
フッ素化芳香族系重合体の体積抵抗値としてより好ましくは1.0×1014Ω・cm以上であり、更に好ましくは1.0×1015Ω・cm以上である。体積抵抗値は、例えば、抵抗値測定装置(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A」)を用いて、測定電圧500Vの条件で測定することができる。
【0033】
上記フッ素化芳香族系重合体は、数平均分子量(Mn)が5000〜500000であることが好ましい。
上記数平均分子量が5000以上であることによって、複合誘電体組成物の耐熱性又は強度が更に優れることになる。また、数平均分子量が500000以下であることによって、粘度が高くなりすぎず、より作業性に優れることになる。
上記数平均分子量としてより好ましくは、10000〜200000であり、更に好ましくは10000〜100000である。数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(東ソー社製、商品名「HLC−8120GPC」)を用いて、カラムとしてG−5000HXL+G−5000HXL、展開溶媒としてTHF、標準として標準ポリスチレンを用い、流量1mL/分の条件で測定することができる。
【0034】
上記フッ素化芳香族系重合体は、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合からなる群より選択される少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましい。
これによって、無機誘電体を分散させる効果がより優れることになる。
このような重合体としては、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステル等が挙げられる。
【0035】
上記フッ素化芳香族系重合体としてより好ましくは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体である。
これによって、無機誘電体を分散させる効果が更に優れることになる。
このような重合体としては、例えば、フッ素原子を有するポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリエーテルニトリル等が挙げられる。
【0036】
上記フッ素化芳香族系重合体として更に好ましくは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を必須部位として有する重合体である。このような重合体としては、例えば、ポリアリールエーテルが好適である。
【0037】
【化1】

【0038】
(式中、Rは、同一又は異なって、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。Zは、2価の鎖又は直接結合を表す。m及びm’は、0以上の整数であり、m+m’=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、5〜600である。)
【0039】
上記フッ素化芳香族系重合体が上記一般式(1)で表される繰り返し単位を必須部位として有する重合体であると、無機誘電体との相互作用が適度に抑制されると考えられ、複合誘電体用組成物作製に支障をきたす現象、例えば大幅な増粘、ゲル化、流動性の損失、凝集、分散後の再凝集等が低減される。よって、より多くの無機誘電体を配合した複合誘電体用組成物を作製することができ、複合誘電体としてより高い誘電率を示すものとすることができるだけでなく、粘度を低下させることができるため、複合誘電体を薄膜状に成形することが容易となる。なお、上記一般式(1)で表される繰り返し単位は、同一又は異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0040】
上記一般式(1)において、m+m’は、2〜8であることが好ましい。より好ましくは4〜8である。
上記一般式(1)において、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香環に結合している位置については、Zに対してパラ位に結合していることが好ましい。
上記一般式(1)において、nは、重合度を表す。nは、5〜600であることが好ましい。より好ましくは12〜250である。
【0041】
上記一般式(1)において、Rは、2価の有機鎖である。Rは、下記構造式群(2)で表される構造のいずれかであることが好ましい。なお、Rは、下記構造式群(2)の一つ、又は、2つ以上の組み合わせであってもよい。
【0042】
【化2】

【0043】
(式中、Y〜Yは、同一又は異なって、水素基又は置換基を表し、上記置換基は、アルキル基、アルコキシル基を表す。)
【0044】
上記Rとしてより好ましくは、下記構造式群(3−1)〜(3−12)で表される有機鎖である。
【0045】
【化3】

【0046】
上記一般式(1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。上記2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4−1)〜(4−13)で表される鎖であることが好ましい。
【0047】
【化4】

【0048】
(式中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖である。)
【0049】
上記Xとしては、例えば、上記構造式群(3−1)〜(3−12)で表される有機鎖が挙げられる。上記Xは、ジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖のいずれかであることが好ましい。
【0050】
上記フッ素化芳香族系重合体の合成方法としては、一般的な重合反応を用いればよく、例えば、縮合重合、付加重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
本発明のフッ素化芳香族系重合体の合成方法としては、脱塩重縮合による重合反応が好ましい。脱塩重縮合反応とは、1つの単量体官能基と別の単量体官能基との間の反応において、塩として脱離し官能基間に新たな結合が形成される反応が連続しておこることにより、重合体が形成される反応のことである。脱塩重縮合反応として、例えば2つ以上のハロゲン元素を置換基として有する化合物と、2つ以上の水酸基やチオール基を有する化合物からハロゲン化水素が脱離してエーテル重合体やチオエーテル重合体を生成する反応等が挙げられる。脱塩重縮合反応に用いられる単量体は、1種であっても2種以上であってもよい。
上記脱塩重縮合においては、触媒を用いてもよい。上記触媒は、生成する酸を捕集することにより反応を促進する塩基性化合物が好適である。上記塩基性化合物として、アルカリ(土類)金属塩触媒を用いることが好ましい。より好ましくは、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウムを用いることである。
【0051】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位を必須部位として有するポリアリールエーテルの合成方法を挙げると、例えば、Zが上記構造式群(4)のうちの(4−6)であり、さらに、Xがジフェニルエーテル鎖であるフッ素原子を有するポリアリールエーテルを得る場合、有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下、「BPDE」という)と2価のフェノール化合物を加熱する方法等が挙げられる。
上記の合成方法における反応温度は、20℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。より好ましくは30℃〜140℃の範囲内であり、更に好ましくは40℃〜130℃の範囲内であり、特に好ましくは50℃〜120℃の範囲内である。
【0052】
上記の合成方法で使用される有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
上記有機溶媒として、吸水率が20質量%以下のものを用いることが好適である。これによって、有機溶媒が組成物に残存しても成膜時の吸水量が増加しにくい。有機溶媒の吸水率は、15質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは、7質量%以下である。特に好ましくは5質量%以下である。上記有機溶媒として、1種又は2種以上の有機溶媒を混合して用いることができる。
【0053】
上記の合成方法において、2価のフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。2価のフェノール化合物としては、6FBA、BA、HFが好ましい。特に好ましくはHFである。
【0054】
上記2価のフェノール化合物の使用量は、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル1モルに対して、0.8〜1.2モルの範囲内が好ましい。より好ましくは0.9〜1.1モルの範囲内である。
【0055】
上記の合成方法においては、反応終了後に、反応溶液より溶媒除去を行ない、必要により留去物を洗浄することにより、フッ素化芳香族系重合体が得られる。また、反応溶液にフッ素化芳香族系重合体の溶解度の低い溶媒中に加えることにより、該ポリマーを沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することにより得ることもできる。
【0056】
<複合誘電体用組成物の製造方法>
本発明の複合誘電体用組成物は、複数の粒状分散媒体を用いて混合する分散処理工程を含む製造方法によって得られるものであることが好適である。また、上記分散処理工程において、無機誘電体に剪断応力をかけて攪拌することが好適である。これらによって、無機誘電体を組成物中に均一に分散させることができ、より均一な複合誘電体用組成物が得られることになる。
【0057】
上記分散処理工程は、反応容器内部において回転する攪拌子、反応容器内部に収容された複数の粒状分散媒体を用いて攪拌する工程であることが好ましい。これによって、適当な剪断応力を加えながら分散処理することができる。
上記粒状分散媒体としては、処理される無機誘電体粒子、フッ素化芳香族系重合体の種類、粘度、組成、反応容器ないし攪拌子の形態等に応じて、適宜変更可能であるが、アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化珪素、炭化珪素、タングステンカーバイドなどの各種セラミックス、各種ガラス、鋼、クロム鋼、ハステロイ等のニッケル系合金などの各種金属から構成される球状、円筒状、回転楕円体状等の形状のものが用いられ得る。このうち、特にアルミナ、ジルコニア、鋼およびクロム鋼などの材質から構成されることが好ましい。粒状分散媒体の形状としては、球状のビーズであることが好ましい。
【0058】
上記粒状分散媒体は、直径が0.05〜20mmのものであることが好ましい。これによって、無機誘電体を組成物中に均一に分散させる効果が更に優れることになる。粒状分散媒体としてより好ましくは0.075〜15mmのものであり、更に好ましくは0.1〜10mmのものであり、特に好ましくは0.2〜5mmのものである。最も好ましくは0.3〜3mmのものであり、更に最も好ましくは0.5〜1.5mmのものである。
【0059】
上記粒状分散媒体の充填割合は、例えば、反応容器の有効容積の20〜90%であることが好ましい。より好ましくは30〜80%である。なお、粒状分散媒体の充填割合は、反応容器ないし攪拌子の形態等に応じて適宜設定することが好適である。
粒状分散媒体の充填割合が極端に少ないと、二次凝集状態にある無機誘電体粒子の十分な解砕、及び、組成物中への分散等が不充分なものとはなり、一方充填割合が極端に多いと分散媒体の磨耗によるコンタミネーションの増大を引き起こすおそれがある。
上記分散処理工程における加熱温度は、使用されるフッ素化芳香族系重合体の種類等によっても左右されるため、一概には規定できないが、10〜250℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜60℃程度が適当である。
【0060】
上記分散処理工程における攪拌時間は、1〜8時間であることが好ましい。攪拌時間が8時間より長くなると、作業性の面で問題となるおそれがある。また、攪拌時間が1時間より短いと、組成物への分散が不充分となり、所望の性能の無機誘電体が得られなくなるおそれがある。
本発明の複合誘電体用組成物を用いてなる複合誘電体の成形方法は、求められる複合誘電体の形状により適宜選択される。
【0061】
<複合誘電体>
本発明はまた、上記複合誘電体用組成物を用いて形成された複合誘電体でもある。
上記複合誘電体は、誘電体の膜厚を薄く保ったまま高い誘電率を有するものであり、かつ、膜表面の荒れが小さいものである。また、高周波域においても充分な誘電率を有するものである。
上記複合誘電体とは、無機誘電体を分散させた組成物を所定の形状に成形したものをいい、有機ポリマー中に無機誘電体が高分散された成形体および成形膜等を表す。すなわち、上記複合誘電体は、複合誘電体用組成物を成形して得られる成形体又は成形膜であることが好適である。
【0062】
上記複合誘電体は、表面粗さRaが100nm以下であることが好ましい。上記表面粗さRaとしてより好ましくは80nm以下であり、更に好ましくは60nm以下である。特に好ましくは40nm以下であり、最も好ましくは20nm以下である。
誘電体の膜厚を薄く保ったまま高い誘電率を有するものとし、かつ、膜表面の荒れが小さいものとするという本発明の有利な効果が更に顕著に発揮されることになる。また、表面粗さRaが100nmより大きくなると、薄層(薄膜)に欠陥が生じショート等の不具合を生じるおそれがある。上記表面粗さRaは、例えば、表面粗さ計(日本真空技術製、DIKTAK IIA)を用いて測定することができる。
【0063】
上記複合誘電体は、膜厚が30μm以下であることが好ましい。これによって、キャパシターの容量の更なる向上を達成することができる。本発明の複合誘電体は、膜厚が薄いものであっても、充分に高い誘電率を有するものである。複合誘電体の膜厚としてより好ましくは0.2〜25μmであり、更に好ましくは0.3〜20μmであり、特に好ましくは0.4〜15μmである。最も好ましくは0.5〜12μmであり、より最も好ましくは0.5〜2μmであり、更に最も好ましくは0.5〜1.5μmである。
【0064】
上記複合誘電体を薄層(薄膜)として用いる場合には、例えば、フイルムや基板、金属箔上に組成物をキャスティング、ディッピングコート、スピンコート、ロールコート、スプレイコート、バーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の方法により塗布して塗膜を形成した後、溶媒を乾燥して、薄層を形成する。これらの方法の中でも、上記複合誘電体は、スピンコートの方法により形成されるものであることが好ましい。
【0065】
上記複合誘電体は、比誘電率が10〜150の範囲内であることが好ましい。
比誘電率が10未満では、誘電体のキャパシターとしての性能が低くなるおそれがある。複合誘電体の比誘電率としてより好ましくは、20〜120の範囲内であり、更に好ましくは30〜100の範囲内である。
【0066】
本発明の複合誘電体の容量は、3pF/mm〜10nF/mmであることが好ましい。容量が3pF/mm未満であると、誘電体のキャパシターとしての性能が低くなるおそれがある。複合誘電体の容量としてより好ましくは、100pF/mm〜7nF/mmであり、更に好ましくは200pF/mm〜5nF/mmである。特に好ましくは300pF/mm〜5nF/mmであり、最も好ましくは400pF/mm〜5nF/mmである。
上記比誘電率及び容量は、誘電正接と共に、例えば、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「HP4294A」)を用いて測定することができる。
【0067】
上記複合誘電体は、TG−DTA分析における300℃までの熱減量率が5.0質量%以下であることが好ましい。これによって、高温乾燥・焼成・高温の成形・加工・熱圧着、その他プロセス(半田リフロー、電極作製等)に耐えることができることになる。なお、TG−DTA分析は、例えば、サーマルアナライザ(TG−DTA)(島津製作所社製、商品名「島津示差熱熱重量同時測定装置」)を用いて窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で室温から300℃までの重量減少を測定することにより行うことができる。
また、上記複合誘電体は、プレッシャークッカー試験(PCT試験、135℃、3気圧、2時間)での吸湿率が1.0質量%以下であることが好ましい。これによって、耐湿熱性の効果に優れることになる。
PCT試験は、例えば、乾燥したサンプルをプレッシャークッカー(ヒラヤマ(HIRAYAMA)社製、商品名:PC−242HSプレッシャークッカー)を用い、135℃、3気圧、2時間の条件にさらした後、吸湿率を測定することにより行うことができる。
なお、上記複合誘電体は、一般的な基板素子として必要な特性を備えることが必要である。
【0068】
本発明の複合誘電体の用途・機能としては、例えば、バイパスコンデンサー、充電素子、微分素子、終端負荷素子、フィルター、アンテナ、ノイズカット等が挙げられる。
本発明の複合誘電体は、充電素子、微分素子、終端負荷素子等に用いることができるものであることから、電気回路基板を構成する部品として好適に用いることができる。すなわち、本発明の複合誘電体は、高機能化、高密度実装に対応した素子内蔵基板(EPD)に用いられる誘電体材料に用いると、特に優れた効果を発揮することになる。
【0069】
本発明はまた、上記複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板でもある。
上記複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板は、複合誘電体から形成される基板素子を基板の外部に設置したビルドアップ基板であってもよく、基板の内部に作り込んだ埋め込み受動素子基板(EPD基板)であってもよい。また、フィルム状基板(フレキシブル基板)上に本発明の複合誘電体から形成される基板素子や、その他の各種素子を薄膜で形成し、これらを積層、電気接続して3次元的に回路を形成した薄型多層フレキシブルシートデバイスであってもよい。本発明の電気回路基板には、各種電子素子の他、配線、端子、孔等のその他の要素が含まれていてもよく、基板に含まれる各種電子素子やその他の要素の種類、及び、基板中における各種電子素子や電極の位置、形状、配線や孔の位置等は、電気回路基板の用途や機能等に応じて適宜選択されることになる。本発明の電気回路基板は、例えば、国際公開第05/033209号パンフレットに開示されている方法で製造することが好ましい。
【0070】
また、本発明は、上記複合誘電体を構成部位として含むキャパシターでもある。
更に、本発明は、上記複合誘電体を構成部位として含むノイズフィルターでもある。
本発明の複合誘電体は、膜厚を充分に薄く保ったまま高い誘電率を有し、かつ、膜表面の荒れが小さい複合誘電体を構成部位として含むことにより、非常に高い容量を有し、かつ、高周波域において優れた誘電率を発揮するものであり、特にキャパシター及びノイズフィルターに用いると特に優れた効果を発揮することになる。
【発明の効果】
【0071】
本発明の複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板は、上述の構成よりなり、高い誘電率を保ちつつ、高容量であり、均一で所望の絶縁性を有する誘電体薄膜の工業的製造に好適に用いることができる複合誘電体用組成物、複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0073】
<実施例1>
フッ素化芳香族系重合体及び湿潤剤を溶媒成分に分散させた後、無機誘電体を混合し、攪拌翼とビーズとを用いて表1に記載の分散条件下分散を行い、複合誘電体用組成物を得た。なお、溶媒成分、フッ素化芳香族系重合体、及び、無機誘電体の種類及び量等は、下記表2に示されるようにして行った。
複合誘電体用組成物をガラス板もしくは銅箔上に塗工し、100℃1時間、150℃1時間、200℃1時間焼成することにより複合誘電体を得た。複合誘電体用組成物の分散結果(複合誘電体用組成物の平均粒子径:Dm)、複合誘電体の膜厚、及び、面粗さの測定結果を下記表2に示した。
複合誘電体の表面、又は、表面裏面に金蒸着を行い、評価用電極を作製した。インピーダンスアナライザにて誘電率、容量を測定し、下記表2に示した。
<実施例2−8>
下記表2に示されるように複合誘電体用組成物の混合比率を変更した以外は、実施例1と同様にして行った。これらの結果を下記表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
なお、上記表2及び下記表3における略語は、下記のものを表す。
BYK W9010:商品名、ビックケミージャパン社製
BT−01:平均粒子100nm、比表面積11.6m/g
SG−BT50:平均粒子径50nm、比表面積29.6m/g
BT−HP100:平均粒子径100nm、比表面積16.1m/g
【0076】
<比較例1−4>
下記表3に示されるように複合誘電体用組成物の混合比率を変更した以外は、実施例1と同様にして行った。これらの結果を下記表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例1−8は、溶媒成分として吸水率が20質量%以下の溶媒を含む複合誘電体用組成物を用いて複合誘電体を形成したものである。実施例1−8で形成された複合誘電体は、いずれも面粗さが100nm以下の平滑な塗膜となり、1.0μm前後まで薄膜化してもショートすることがなく、均一で高い絶縁性を有するものであることがわかった。また、高い誘電率を保ちつつ薄膜化可能となったことで、大幅な高容量化を達成することができた。
【0079】
これに対して、比較例1−4は、溶媒成分として吸水率が20質量%以下の溶媒を含まない従来の複合誘電体用組成物を用いて複合誘電体を形成したものである。比較例2及び3で形成された複合誘電体は、実施例1−8よりも膜厚が厚いにもかかわらずショートしてしまい、誘電率及び容量の測定ができなかった。また、比較例4は、実施例1−8と同等の膜厚を有するものであったが、ショートした。これは、溶媒成分が雰囲気中から吸水することによって無機誘電体及びフッ素化芳香族系重合体の分散が均一ではなくなり、塗膜に欠陥が発生したためであると考えられる。比較例2―4から、従来の複合誘電体用組成物では薄膜化することができないことが明らかである。また、特に比較例4により、吸水率が20質量%以下の溶媒を用いることによる臨界的意義が明らかである。更に、比較例1の複合誘電体は、薄膜化及び誘電率が充分ではなく、容量が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体、フッ素化芳香族系重合体及び溶媒成分を含んでなる複合誘電体用組成物であって、該溶媒成分は、吸水率が20質量%以下の溶媒を含むものである
ことを特徴とする複合誘電体用組成物。
【請求項2】
前記溶媒成分は、沸点が100℃以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の複合誘電体用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合誘電体用組成物を用いて形成されたものであることを特徴とする複合誘電体。
【請求項4】
前記複合誘電体は、膜厚が30μm以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の複合誘電体。
【請求項5】
前記複合誘電体は、表面粗さRaが100nm以下である
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の複合誘電体。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の複合誘電体を構成部位として含むことを特徴とする電気回路基板。


【公開番号】特開2009−96934(P2009−96934A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271792(P2007−271792)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】