説明

複合酸化物触媒の製造方法

【課題】高収率な性能を持つ複合酸化物触媒の簡易な製造方法を提供すること。
【解決手段】
(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、
(c)前記乾燥品を焼成する工程、及び
(d)前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程、
を含む、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いる複合酸化物触媒の製造方法であって、
下記工程(i)及び/又は(ii)
(i)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程、
(ii)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(c)において焼成する乾燥品を選別する工程、
を含む、複合酸化物触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に供して、対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法が着目されており、これらの製造に好適な種々の複合酸化物触媒が提案されている。
複合酸化物触媒の性能は、触媒成分の元素の酸化還元度が関係していることは従来から知られている。このような複合酸化物触媒の製造方法としては、水性混合液を調製する工程及び焼成工程における触媒成分の酸化還元度を制御する方法が従来から研究されている。
特許文献1には、焼成工程中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を決定する工程を含む方法が開示されている。
また、特許文献2には、水性混合液中のアンチモン、バナジウムの酸化還元度に関する記載がある。
さらに、特許文献3には、特定条件下で水性混合液を調製して系の酸化還元度を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2004/108278号公報
【特許文献2】特開平2−2877号公報
【特許文献3】特開2001−58827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法の場合は、400℃に達した焼成工程中の触媒を装置ごと室温まで冷却した触媒を用いて還元率を測定するため、長時間を要し、大量の触媒を廃棄せざるを得ない場合がある。そのため、工業的に複合酸化物触媒を製造する工程における継続的な触媒性能のモニタリング方法として用いるには好ましくない。
特許文献2には、水性混合液中のアンチモン、バナジウムの酸化還元度に関する記載はあるが、触媒の還元率を制御する技術的思想はない。
また、特許文献3に開示された製造方法により得られた複合酸化物触媒をプロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いたところ、目的物の収率は未だ不十分であった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、高収率な性能を持つ複合酸化物触媒の簡易な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献3に開示された複合酸化物触媒を用いた際の生成物の収率が不十分であった原因が、水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程及び乾燥品の焼成工程における酸化還元度に関係すると推定した。特許文献3に開示された方法の場合は、水性混合液の調製工程のみの酸化還元度の制御を目的としており、乾燥工程及び焼成工程で生じる可能性がある触媒成分の酸化還元状態の変化が考慮されていないため、性能向上に繋がっていないと考えた。そして、焼成工程前の乾燥品の酸化還元度を制御することが、最終的に得られる複合酸化物触媒の性能を向上させる上で重要であることに着目した。
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、
(c)前記乾燥品を焼成する工程、及び
(d)前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程、
を含む、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いる複合酸化物触媒の製造方法であって、
下記工程(i)及び/又は(ii)
(i)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程、
(ii)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(c)において焼成する乾燥品を選別する工程、
を含む方法によって、生成物を高収率に得ることができる複合酸化物触媒を簡易に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、
(c)前記乾燥品を焼成する工程、及び
(d)前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程、
を含む、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いる複合酸化物触媒の製造方法であって、
下記工程(i)及び/又は(ii)
(i)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程、
(ii)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(c)において焼成する乾燥品を選別する工程、
を含む、複合酸化物触媒の製造方法。
[2]
異なる条件で得た乾燥品の特定波長に対する吸光度と、前記乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関を調べる工程を更に含む、上記[1]記載の複合酸化物触媒の製造方法。
[3]
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法であって、
上記[1]又は[2]記載の製造方法により複合酸化物触媒を得る工程、及び
前記複合酸化物触媒を用いて、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させる工程、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いるための、高収率な性能を持つ複合酸化物触媒を簡易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】参考例1〜3における乾燥品の紫外可視反射スペクトルを示す。
【図2】参考例1〜3における乾燥品の吸光度とアクリロニトリル収率との相関図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施の形態の複合酸化物触媒の製造方法は、
(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、
(c)前記乾燥品を焼成する工程、及び
(d)前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程、
を含む、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いる複合酸化物触媒の製造方法であって、
下記工程(i)及び/又は(ii)
(i)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程、
(ii)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(c)において焼成する乾燥品を選別する工程、
を含む。
【0013】
[工程(a)]
工程(a)は、触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程である。 本工程においては、水性媒体に、触媒構成元素の原料を溶解、混合又は分散させる。
【0014】
水性媒体としては、例えば、水、硝酸水溶液、アンモニア水溶液、及び/又はアルコールを混合した水が用いられる。
【0015】
触媒構成元素としては、特に限定されないが、Mo、V、Nb及び後述するX成分を含むことが好ましい。
【0016】
本実施の形態における好ましい複合酸化物触媒としては下記の一般組成式で示されるものを例示することができる。
Mo1aNbbcden
(式中、a、b、c、d、e、nはMo1原子当たりの原子比を表し、aは0.01≦a≦1、bは0.01≦b≦1、cは0.01≦c≦1、dは0<d<1、eは0≦e<1、nは構成金属の原子価によって決まる数を示す。)
【0017】
Mo1原子当たりのVの原子比aは0.1以上0.4未満、Nbの原子比bは0.01以上0.2未満がそれぞれ好ましい。また、Mo1原子当たりのX成分の原子比cは、0.01以上0.6未満が好ましく、0.1以上0.4未満がより好ましい。
【0018】
X成分としては、例えば、Sb、Te、Sr、Ba、Sc、Y(イットリウム)、La、Ce、Pr、Yb、W、Cr,Ta、Ti、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、P、Bi、希土類及びアルカリ土類元素からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの元素を含む化合物としては、通常、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド等を使用することができ、好ましくは硝酸塩、カルボン酸塩等の水性原料が使用される。
【0019】
X成分の元素としては、Te、Sbがより好適に用いられる。一般的に、不飽和ニトリルの工業的製造方法においては、400℃以上での長期使用に耐えうる特性が必要であり、X成分の元素としてはSbを用いることが特に好ましい。一方、不飽和酸の工業的製造方法においては、400℃以下での反応も可能なため、長期運転時のTeの逃散の影響が小さく、Teも好適に使用可能である。
【0020】
Y成分のMo1原子当たりの原子比であるdは、0.001以上1未満が好ましく、0.001以上0.1未満がより好ましく、0.002以上0.01未満がさらに好ましい。
【0021】
Y成分の元素としては、Sr、Ba、Sc、Y(イットリウム)、La、Ce、Pr、Ybが好ましく、Ceが特に好ましい。アンモ酸化反応における目的物の収率向上の観点で、Y成分を含有するのが好ましく、触媒粒子内で均一に分散されていることが一層好ましい。ただし、Y成分は、特開平11−244702号公報に教示されているように、スラリー中で好ましくない反応を生じるおそれがあるため、含有量は微量であることが好ましい。
【0022】
Z成分のMo1原子当たりの原子比であるeは、0以上1未満が好ましく、0.0001以上0.5未満がより好ましい。Z成分の元素としては、Ti、Zr、Hf、Ta、Cr、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Au、Zn、B、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、P、Biから選ばれる少なくとも1種以上の元素が好ましく、Ti、W、Mnが特に好ましい。
【0023】
原料となるMo化合物としては、例えば、酸化モリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸が挙げられ、中でも、ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]を好適に用いることができる。
【0024】
原料となるV化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジウム酸アンモニウム、硫酸バナジルが挙げられ、中でも、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]を好適に用いることができる。
【0025】
原料となるNb化合物としては、例えば、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩及びニオブの有機酸塩が挙げられ、中でも、ニオブ酸を好適に用いることができる。
【0026】
X成分の金属元素としてTeを添加する場合は、Teの原料としてテルル酸[H6TeO6]を好適に用いることができ、Sbを添加する場合は、Sbの原料としてアンチモン酸化物、特に三酸化アンチモン[Sb23]を好適に用いることができる。
【0027】
本工程において触媒構成元素の原料の溶解手順、混合手順又は分散手順は特に限定されない。原料を同じ水性媒体中で溶解、混合又は分散させてもよく、或いは原料を個別に水性媒体中に溶解、混合又は分散させた後に水性媒体を混合させてもよい。また、必要に応じて加熱及び/又は攪拌してもよい。
【0028】
また、複合酸化物触媒がシリカに担持されている場合には、シリカの原料としてシリカゾル、粉体シリカ等を添加することができる。粉体シリカは、高熱法で製造されたものが好ましく、あらかじめ水に分散させて使用することでスラリー中への添加・混合が容易となる。分散方法としては特に制限はなく、一般的なホモジナイザー、ホモミキサー、超音波振動器等を単独又は組み合わせて分散させることができる。
【0029】
[工程(b)]
工程(b)は、上述した工程(a)により得られた水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程である。
【0030】
乾燥の手段としては噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。流動床反応に好適な擬似球形粒子を製造するという観点からは、噴霧乾燥を採用し、微小球状の触媒前駆体を得ることが好ましい。
【0031】
噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式、高圧ノズル方式等によって行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることができる。
【0032】
ここで、複合酸化物触媒は、通常、乾燥中の加熱によって酸化還元度が変化し、得られる複合酸化物触媒の性能は影響を受ける。工業的に水性原料から噴霧乾燥を行って乾燥品を得る際に、装置内の壁面及び/又は底に一部の乾燥品が付着及び堆積して装置内に長時間留まることによって、乾燥品に意図しない熱が加わり酸化還元度が変化して、触媒性能が悪化する場合がある。上記理由により、噴霧乾燥装置内における乾燥品の堆積を防ぐことを目的として、手段は限定しないが、噴霧乾燥装置に振動を与える振動機や衝撃を与えるエアノッカーを装着することが好ましい。
【0033】
[工程(c)]
工程(c)は、上述した工程(b)により得られた乾燥品を焼成する工程である。本工程においては、工程(b)で得られた乾燥品を焼成することによって複合酸化物触媒を得る。
【0034】
焼成装置としては回転炉(ロータリーキルン)、流動焼成炉等を用いることができる。乾燥紛は静置したまま焼成されると、均一に焼成されず性能が悪化するとともに、割れ、ひび等が生じる原因となる。従って、連続式焼成を行う場合は、回転炉(ロータリーキルン)を使用するのが好ましい。
【0035】
焼成器の形状としては、特に限定されないが、連続的な焼成を実施する観点から管状であることが好ましい。更に、焼成管の形状は特に限定されないが、円筒であるのが好ましい。
【0036】
加熱方式は外熱式が好ましく、電気炉を好適に使用できる。焼成管の大きさ、材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができるが、内径が、好ましくは70〜2000mm、より好ましくは100〜1200mm、長さが、好ましくは200〜10000mm、より好ましくは800〜8000のものを用いる。
【0037】
焼成管に衝撃を与える場合、焼成管の肉厚は、衝撃により破損しない程度の十分な厚みを有するという観点から、2mm以上が好ましく、より好ましくは4mm以上であり、また衝撃が焼成管内部まで十分に伝わるという観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。焼成管の材質としては、耐熱性を有し衝撃により破損しない強度を持つものであれば特に限定されず、SUSを好適に使用できる。
【0038】
また、焼成管の内部に、乾燥品が通過するための穴を中心部に有する堰版を、焼成管の中に乾燥品の流れと垂直に設けて焼成管内を2つ以上の区域に仕切ることもできる。堰版を設置することにより、焼成管内滞留時間を確保しやすくなる。堰版の数は1つでも複数でもよい。堰版の材質は金属が好ましく、焼成管と同じ材質のものを好適に使用できる。堰版の高さは確保すべき滞留時間に合わせて調節することができる。例えば、内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉で250g/hrで乾燥品を供給する場合、堰版の高さは、好ましくは5〜50mm、より好ましくは10〜40mm、さらに好ましくは13〜35mmである。堰版の厚みは特に限定されず、焼成管の大きさに合わせて調節することが好ましい。例えば、内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉の場合、堰版の厚みは、好ましくは0.3mm以上30mm以下、より好ましくは0.5mm以上15mm以下である。
【0039】
焼成工程においては、乾燥品の割れ、ひび等を防ぐと共に、均一に焼成するために、焼成器を回転させるのが好ましい。焼成器の回転速度は、好ましくは0.1〜30rpm、より好ましくは0.5〜20rpm、さらに好ましくは1〜10rpmである。
【0040】
乾燥品の焼成における加熱温度は、400℃より低い温度から昇温をはじめて、550から800℃の範囲内の温度まで、連続的に又は断続的に昇温するのが好ましい。
【0041】
焼成は、空気雰囲気下又は空気流通下で実施することもできるが、焼成の少なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。
【0042】
不活性ガスの供給量は、乾燥品1kg当たり、好ましくは50〜5000Nリットル、より好ましくは50〜3000Nリットルである(Nリットルは、標準温度、圧力条件、即ち50℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。この時、不活性ガスと乾燥品は向流でも並流でも問題ないが、乾燥品から発生するガス成分や、乾燥品と共に微量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
【0043】
焼成工程は、一段でも実施可能であるが、本焼成を行う前に前段焼成を行うことが好ましい。温度範囲としては、前段焼成を250〜400℃で行い、本焼成を550〜800℃で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成は連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してから、あらためて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていてもよい。
【0044】
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250〜400℃、好ましくは300〜400℃の範囲で行う。250〜400℃の温度の範囲で一定温度で保持することが好ましく、250〜400℃範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温しても構わない。加熱温度の保持時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは3〜12時間である。
【0045】
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは、直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。前段焼成温度に達するまでの平均昇温速度としては、特に限定されないが、好ましくは0.1〜15℃/min、より好ましくは1〜2℃/minである。
【0046】
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度を、好ましくは550〜800℃、より好ましくは580〜750℃、さらに好ましくは600〜720℃、特に好ましくは620〜700℃の範囲で行う。加熱温度は620〜700℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、620〜700℃の温度範囲内で温度を変動させたり、緩やかに昇温、降温しても構わない。
【0047】
本焼成の時間は、好ましくは0.5〜20時間、より好ましくは1〜15時間である。堰版で区切る場合、乾燥品は少なくとも2つ、好ましくは2〜20、さらに好ましくは4〜15の区域を連続して通過する。温度の制御は1つ以上の制御器を用いて行うことができるが、前記所望の昇温パターンを得るために、堰で区切られた区域ごとにヒーターと制御版を設置し、制御することが好ましい。例えば、堰板が焼成管の加熱炉内に入る部分の長さを8等分するように7枚設置されており、8つの区域に仕切られた焼成管を用いる場合、乾燥品の温度が前記所望の焼成温度パターンとなるように8つの区域の各々に設置されたヒーターと制御器によって設定温度を制御することが好ましい。なお、不活性ガス流通下の焼成雰囲気には、所望により、酸化性成分(例えば酸素)又は還元性成分(例えばアンモニア)を添加してもよい。
【0048】
本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度としては、特に限定されないが、好ましくは0.1〜15℃/min、より好ましくは1〜8℃/minである。
【0049】
また、本焼成終了後の平均降温速度は、好ましくは0.01〜1000℃/min、より好ましくは0.05〜100℃/min、さらに好ましくは0.1〜50℃/min、特に好ましくは0.5〜10℃/minである。また、本焼成温度よりも低い温度で一旦保持することも好ましい。保持する温度は、本焼成温度よりも好ましくは10℃、より好ましくは50℃、特に好ましくは100℃低い温度である。保持する時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、特に好ましくは10時間以上である。
【0050】
前段焼成を一旦終了してからあらためて本焼成を実施する場合は、本焼成で低温処理をすることが好ましい。低温処理に要する時間、すなわち乾燥紛の温度を一旦低下させた後、昇温して焼成温度に上昇するまでに要する時間は、焼成器の大きさ、肉厚、材質、複合酸化物生産量、連続的に乾燥品を焼成する一定の期間、固着速度、固着量等により適宜調節することが可能である。例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、連続的に複合酸化物を焼成する一連の期間中に、好ましくは30日以下、より好ましくは15日以内、さらに好ましくは3日以内、特に好ましくは2日以内である。
【0051】
[工程(d)]
工程(d)は、前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程である。本工程においては、上述した工程(b)により得られた乾燥品の一部を回収してその吸収又は反射スペクトルを測定する。工程(b)で得られた乾燥紛の吸収又は反射スペクトルを継続的に計測することで、吸収又は反射スペクトルから最終的に得られる複合酸化物触媒の性能を予測することができる。
【0052】
従来、複合酸化物触媒は、上述した工程(a)、(b)及び(c)を経て、はじめてその収率等の触媒性能が評価されていた。複合酸化物触媒は、製造工程中の熱の加わり方がその性能に影響を及ぼす。ラボスケールと比較すると、工業スケールでは、乾燥品を得る工程において、噴霧乾燥装置内での乾燥品の滞留時間が長いため、意図しない加熱による性能の悪化が起こりやすい。従って、工業スケールで複合酸化物触媒を製造する場合、経験則をもとに条件を設定して調製したとしても、完成品になってはじめて性能を評価する場合には性能の悪い触媒を大量に製造してしまうおそれがある。本発明者らは、触媒の製造工程途中に、触媒性能を簡易にモニタリングし、モニタリング結果に基づいて各工程における条件を決定することによって、より性能の良い複合酸化物触媒を簡易に得ることが可能になることを見出した。
【0053】
上述した理由により、触媒性能のモニタリングは、意図しない加熱が起こりやすい工程(b)の直後に行う。本実施の形態の製造方法において、モニタリングは、計測のしやすさの観点から、乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定することにより行う。
【0054】
複合酸化物触媒は、乾燥工程中の加熱によって酸化還元度が変化して、得られる複合酸化物触媒の性能は影響を受ける。上述した工程(b)において水性原料を噴霧乾燥して乾燥品を得る際に、装置内の壁面及び/又は底に一部の乾燥品が付着及び堆積して装置内に長時間留まることによって、乾燥品に意図しない熱が加わり酸化還元度が変化する。後述する焼成工程が空気雰囲気中で行われる触媒の場合、焼成工程において酸化が進むことが前提であるので、乾燥品の酸化還元度は完成する触媒の性能に影響し難い一方、焼成工程を不活性ガス雰囲気中で行う場合、乾燥品の酸化還元度が複合酸化物触媒の性能に影響し易い。特に複合酸化物触媒の酸化還元度を考慮に入れて調製法が最適化されている場合、乾燥品の酸化還元度がそれから外れていると、当然のことながら性能が悪化する傾向がある。詳細なメカニズムは不明であるが、乾燥品は酸化還元度が変化することに伴ってその色が変化する。Mo−V系触媒を例に取ると、特に乾燥品が黒く変色するほどその複合酸化物触媒の性能が悪化する傾向にある。この理由として、例えば、乾燥品に含まれる有機成分や無機成分が意図しない加熱で熱分解し、それにより周囲の金属元素が還元される、或いは金属元素同士の酸化還元反応が生じることが考えられる。従って、乾燥品の吸収又は反射スペクトルをモニタリングして変色度合いを調べ、その複合酸化物触媒の性能を予測することができる。
【0055】
吸収又は反射スペクトルの測定方法としては、特に限定されないが、例えば、可視・紫外分光光度計を用いて測定される乾燥品の吸光度により求められる。本発明者らが鋭意検討した結果、黒く変色した性能の悪い乾燥品は、波長500nm以上の吸光度が、黒く変色していない乾燥品の吸光度よりも大きいことが分かった。従って、波長500nm以上、好ましくは500nm以上800nm以下の範囲における任意の波長における吸光度を選択し、モニタリングの指標とすることができる。
【0056】
乾燥品の吸収又は反射スペクトルは、継続的に測定することが好ましい。ここで、「継続的に測定する」とは、3ヶ月に1度以上の頻度で測定することを言う。より好ましくは1ヶ月に1度、さらに好ましくは1週間に1度、特に好ましくは1日1度以上の頻度で測定することが好ましい。頻繁に測定するほど、酸化還元度が適切でない乾燥品が多量に生成するリスクを低減することができるが、製造条件によっては乾燥品の吸収又は反射スペクトルが変化し難く、頻繁な測定は不要の場合もあるので、適宜設定すればよい。
【0057】
工程(b)で得られた乾燥品の吸収又は反射スペクトルを本工程においてモニタリングし、モニタリングした乾燥品の吸収又は反射スペクトルに基づいて触媒性能を予測することができる。
【0058】
[工程(i)]
工程(i)は、上述した工程(d)において測定した吸収又は反射スペクトルに応じて、上記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程である。
【0059】
本工程においては、工程(d)で測定した吸収又は反射スペクトルから最終的に得られる複合酸化物触媒の性能を予測して、予測した複合酸化物触媒の性能に基づいて各工程における操作条件を制御することにより、より性能に優れた触媒を効率的に得ることが可能となる。
【0060】
工程(d)で測定した吸収又は反射スペクトルを用いて最終的に得られる複合酸化物触媒の性能を予測するには、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルと、その噴霧乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関図を用いることができる。異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルとしては、紫外可視分光光度計を用いて得られる特定波長に対する吸光度を用いることが好ましい。
【0061】
異なる乾燥条件下で得た乾燥品とは、工程(b)における水性原料の単位時間当たりのフィード量、単位時間当たりの供給空気量、供給空気温度及び/又は乾燥装置に取り付けた乾燥品堆積防止装置等の操作条件等を変化させて得ることができる乾燥品である。噴霧化が遠心方式の場合は、ディスクの回転数やディスク径を変更することでも得ることが可能である。また、工程(b)で得られた乾燥品に、意図的に時間及び/又は温度を変えて加熱を行って変色させて得られる乾燥品を用いてもよい。
【0062】
異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルは、上述した工程(d)と同様に測定することができる。更に、それぞれを同条件下で焼成して得られる複合酸化物触媒を用いて、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応等を行った場合の触媒性能を調べる。調べる触媒性能としては収率、活性、転化率、副生成物の収率等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0063】
次に、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルと、調べた触媒性能の相関図を作成する。この相関図を用いて、測定した乾燥品の吸収又は反射スペクトルから最終的に得られる複合酸化物触媒の性能を予測することができる。
【0064】
本実施の形態における製造方法においては、最終的に得られる複合酸化物触媒の性能の予想値に応じて各工程のおける操作条件を変更することにより、より性能に優れた複合酸化物触媒を簡易に得ることが可能になる。工業的には、乾燥品の吸収又は反射スペクトルを継続的にモニタリングして、上述した吸収又は反射スペクトルに応じて操作条件を変更することにより、性能に優れた複合酸化物触媒を効率的に得ることができる。
【0065】
本工程においては、モニタリングした吸収又は反射スペクトルに応じて、上述した(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、(b)水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、及び/又は(c)乾燥品を焼成する工程における操作条件を決定する。制御のしやすさの観点からは、吸収又は反射スペクトルに応じて、(b)水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程における操作条件を決定することが好ましい。
【0066】
[工程(i−1)]
工程(i−1)は、上述した工程(d)において測定した吸収又は反射スペクトルに応じて、(a)工程のおける調製条件を決定する工程である。本工程においては、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルと、その噴霧乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関図を用いて、最終的に得られる複合酸化物触媒の性能が良好となるように調製条件を決定する。
【0067】
本工程において「調製条件を決定する」手段としては、特に限定されないが、水性媒体に触媒構成元素の原料を溶解又は分散させる際に、溶解手順又は混合手順によって触媒成分の酸化還元度を制御する方法、酸化剤又は還元剤を添加する方法等が挙げられる。
【0068】
[工程(i−2)]
工程(i−2)は、上述した工程(d)において測定した吸収又は反射スペクトルに応じて、(b)工程における乾燥条件を決定する工程である。本工程においては、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルとその噴霧乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関図を用いて、最終的に得られる複合酸化物触媒の性能が良好となるように乾燥条件を決定する。
【0069】
本工程において「乾燥条件を決定する」手段として、特に限定されないが、噴霧乾燥装置を用いる場合は、水性原料の単位時間当たりのフィード量、供給空気量、単位時間当たりの供給空気温度、乾燥装置に取り付けた乾燥品堆積防止装置等の操作条件を変更する方法等が挙げられる。得られる触媒の性能や物理的な形状・強度等を維持するという観点からは、乾燥品堆積防止装置の操作条件を変更する方法がより好ましい。噴霧化が遠心方式の場合は、ディスクの回転数やディスク径を変更してもよい。また、これらを組み合わせてもよい。
【0070】
ここで、工業的に水性原料から噴霧乾燥を行って乾燥品を得る際に、装置内の壁面及び/又は底に一部の乾燥品が付着及び堆積して装置内に長時間留まることによって乾燥品に意図しない熱が加わって酸化還元度が変化し、性能が悪化する場合がある。この意図しない加熱による性能悪化の影響が大きいため、性能のよい触媒を得るためには、乾燥紛の装置内での滞留時間を制御することが好ましい。
【0071】
乾燥品の一部又は多くは、乾燥装置内の側面及び/又は底面の壁面に堆積する。乾燥品は、噴霧乾燥された後に壁面又は底面に到達して、乾燥装置底面中心に備えられている乾燥装置出口に落下して回収される。工程(b)で得られた乾燥品が工程(c)へと連続的に搬送される場合、乾燥装置出口から落下した乾燥品は、配管内を通って、空気や窒素等の搬送ガスにより工程(c)の焼成装置や、フィーダー、サイクロン、ホッパー等の焼成付帯設備へと搬送される。この場合、乾燥品は焼成炉入口までの任意の場所で回収される。乾燥装置出口以降の配管内は、通常、乾燥装置内部よりも低温のため、意図しない加熱の影響は小さいが、配管内部のデッド部や閉塞により乾燥品が長時間滞留して、意図しない加熱を受ける可能性もある。
【0072】
また、乾燥品の滞留時間が全て一定の場合と一定でない場合がある。ここで「滞留時間」とは、水性原料が噴霧乾燥装置内にフィードされて装置外に回収されるまでの時間を示す。乾燥装置内で生成した乾燥品が乾燥装置壁面に接触することなく回収された場合、又は乾燥装置壁面とは接触するものの全て一定の速度で落下して回収された場合は、乾燥品の滞留時間はほぼ一定である。一方、壁面に到達した乾燥品が壁面に付着して、付着した乾燥品の上に乾燥品の層が形成された場合は、落下速度が一定にならない。この結果、滞留時間は一定とはならない。特に工業的に噴霧乾燥を行う場合には、乾燥品の堆積が起こりやすく、通常、装置内での乾燥品の滞留時間は一定とはならない。
【0073】
乾燥品への熱の加わり方としては、乾燥を目的として行う加熱と乾燥品として壁面に到達した後に壁面上を落下して回収されるまでの間に壁面及び/又は雰囲気ガスから受ける意図しない加熱がある。乾燥品が壁面で滞留することなく落下して回収される場合は、意図しない加熱が触媒性能に及ぼす影響は小さい。しかし、乾燥品が壁面に到達した後に付着及び/又は滞留をした場合は、意図しない熱が乾燥品に多く加わり、触媒性能に影響を及ぼす。更に、工程(b)で得られた乾燥品が工程(c)へと連続的に搬送される場合、配管内で搬送ガスから乾燥品が受ける加熱もある。配管内部のデッド部や閉塞により乾燥品が長時間滞留することで、意図しない加熱を受けて、触媒性能に影響を及ぼす可能性もある。
【0074】
乾燥装置内での滞留時間が一定でない乾燥品に、意図しない熱が乾燥装置内で加えられると、乾燥品が回収されるまでに受ける熱も不均一となり、最終的に得られる触媒性能も不均一になる。
【0075】
従って、意図しない熱が乾燥品に加わらないようにするためには、乾燥品の乾燥装置内及び/又は配管内での滞留時間を短くすることが重要である。乾燥品の乾燥装置内での滞留時間を短くする方法として、1)水性原料の単位時間当たりのフィード量を減らすこと、遠心方式であれば、2)ディスク回転数を上げること、3)径の小さいディスクに変更すること等が挙げられる。1)〜3)は壁面への乾燥紛の付着量を減らすことが目的である。一方、付着した乾燥品を機械的に剥離させることで乾燥品の乾燥装置内での滞留時間を短くする方法もある。例えば、公知の方法として、4)エアノッカーや超音波振動器等を用いて振動を与えて装置内壁及び/又は床に付着した乾燥品を流動させて壁面から剥離させる方法や、5)乾燥装置内面の気流を変化させる方法が挙げられ、外部からの取り付けが容易である点から、エアノッカーを用いる方法が好ましい。また、配管内での滞留時間を短くする手法としては、6)搬送ガス流量を増やすこと、7)乾燥不足による表面べたつきを解消させるために搬送ガス温度を上げること、8)エアノッカーや超音波振動器を用いて配管に振動を与えることが有用である。
【0076】
乾燥装置に設置するエアノッカーの操作条件は、装置の大きさ、壁の肉厚、或いは付着物の剥離具合により任意に調整することができる。操作条件として、エアノッカーの打撃強度、打撃頻度、エアノッカーの設置個数の増減、設置位置の変更が挙げられる。エアノッカーの打撃強度は、長期運転においても壁面及び/又は他の乾燥装置部位が変形、破損しない程度に強いことが好ましい。打撃頻度は、1分に1回以上が好ましく、10秒に1回以上がより好ましい。エアノッカーの設置個数や設置位置については、長期運転後の内部観察で付着の激しい部位に対して個数を増やしたり、付着のほとんどない部位のノッカーを付着の激しい部位に移設すること等が好ましい。
【0077】
[工程(i−3)]
工程(i−3)は、上述した工程(d)において測定した吸収又は反射スペクトルに応じて、工程(c)における焼成条件を決定する工程である。本工程においては、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルと、その噴霧乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関図を用いて、最終的に得られる複合酸化物触媒の性能が良好となるように焼成条件を決定する。
【0078】
本工程において「焼成条件を決定する」手段としては、特に限定されないが、前段焼成温度を変更する方法、焼成時の雰囲気中に酸素等の酸化性成分を添加する方法、又は焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加する方法等が挙げられる。また、これらを組み合わせてもよい。
【0079】
「前段焼成温度を変更する方法」とは、前段焼成温度を変更することで、触媒の酸化還元度を調節する方法である。通常、前段焼成温度を下げると還元度は下がり、前段焼成温度を上げると還元度が上がる傾向を示すので、前段焼成温度を変化させることにより酸化還元度を制御することができる。
【0080】
「焼成時の雰囲気中に酸化性成分を添加する方法」とは、焼成時の雰囲気中に酸化性成分を添加することによって触媒の還元度を下げる方法である。当該方法を用いることによって、工程(b)で得られた乾燥品の酸化還元度が還元傾向にある場合に、還元度を下げるために用いることができる。
【0081】
焼成時とは、前段焼成段階、本焼成段階、又はその両段階を示す。焼成時の雰囲気中に添加する酸化性成分とは、焼成装置に供給する不活性ガス中の酸化性成分をいう。酸化性成分の添加量は焼成装置に入る不活性ガス中の濃度で管理する。酸化性成分が酸素の場合、空気(又は空気を含む不活性ガス)を焼成装置に供給し、空気中の酸素を酸化性成分として利用できる。
【0082】
「焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加する方法」とは、焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加することによって触媒の還元度を上げる方法である。当該方法を用いることによって、工程(b)で得られた乾燥品の酸化還元度が酸化傾向にある場合に、還元度を上げるために用いることができる。
【0083】
焼成時の雰囲気中に添加する還元性成分とは、焼成装置に供給する不活性ガス中の還元性成分をいう。還元性成分の添加量は焼成装置に入る不活性ガス中の濃度で管理する。還元性成分には、例えば、アンモニアや尿素を用いることができる。
【0084】
[工程(ii)]
工程(ii)は、上述した工程(d)により得られた吸収又は反射スペクトルに応じて、(c)焼成工程において焼成する乾燥品を選別する工程である。
【0085】
本工程においては、異なる乾燥条件下で得た乾燥品の吸収又は反射スペクトルと、その乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関図を用いて、モニタリングした乾燥品の吸収又は反射スペクトルから性能が良いものと悪いものを選別する。選別した結果、性能が良いものは焼成を行い、性能が悪いものは焼成を行わずに処分してもよいし、焼成実施後の複合酸化物触媒を別回収する等してもよい。ここで、触媒性能の評価基準としては、目的物の収率や選択率を採用することができる。
【0086】
性能が悪い乾燥品が得られた場合、乾燥装置内や配管内には滞留時間の長い乾燥品が多く存在することが予想される。その場合、上記工程(a)及び(b)を一旦停止し、乾燥装置内や配管内に滞留する乾燥品を強制的に排出することが好ましい。排出した乾燥品は、一定量ごとに分別し、各々の吸収又は反射スペクトルを測定し、性能が良いものは焼成し、悪いものは処分することもできる。
【0087】
焼成する乾燥品を選別するための吸収又は反射スペクトル(波長)は測定方法により任意に選択することができる。例えば、紫外可視分光光度計を用いる場合は、500〜800nmの任意の波長の吸光度を用いることができる。
【0088】
このようにして製造された複合酸化物触媒の存在下、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを製造することができる。
【0089】
プロパン又はイソブタンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。
【0090】
供給酸素源として空気、酸素を富化した空気又は純酸素を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素等を供給してもよい。
【0091】
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化は以下の条件で行うことができる。
反応に供給する酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。
反応温度は300〜500℃、好ましくは350〜450℃である。
反応圧力は5×104〜5×105Pa、好ましくは1×105〜3×105Paである。
接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。本実施の形態において、接触時間は次式で決定される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)
ここで、W、F及びTは次のように定義される。
W=充填触媒量(g)
F=標準状態(0℃、1.013×105Paでの原料混合ガス流量(Ncc/sec))
T=反応温度(℃)
【0092】
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化は以下の条件で行うことができる。
反応に供給する酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.5〜4である。
反応に供給するアンモニアのプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.3〜1.5、好ましくは0.7〜1.2である。
反応温度は350〜500℃、好ましくは380〜470℃である。
反応圧力は5×104〜5×105Pa、好ましくは1×105〜3×105Paである。
接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。
【0093】
反応方式は、固定床、流動床、移動床等、従来の方式を採用できるが、反応熱の除去が容易であるという観点から、流動床反応器が好ましい。
【0094】
また、気相接触アンモ酸化反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
【実施例】
【0095】
以下に本実施の形態を、実施例と比較例によって更に詳細に説明するが、本実施の形態の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル収率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル(AN)収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
【0096】
(ニオブ混合液の調製)
以下の方法でニオブ混合液を調製した。
水10kgにNb25として79.8質量%を含有するニオブ酸1.53kgとシュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕5.27kgを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.0、仕込みのニオブ濃度は0.50(mol−Nb/kg−液)であった。この液を95℃で2時間加熱撹拌することによって、ニオブが溶解した混合液を得た。この混合液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ混合液を得た。このニオブ混合液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.68であった。
るつぼにこのニオブ混合液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb250.790gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.594(mol−Nb/kg−液)であった。
300mLのガラスビーカーにこのニオブ混合液3gを精秤し、約80℃の熱水200mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。得られた混合液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnO4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.59(mol−シュウ酸/kg)であった。
2KMnO4+3H2SO4+5H224→K2SO4+2MnSO4+10CO2+8H2
得られたニオブ混合液は、下記の触媒調製におけるニオブ混合液(B0)として用いた。
【0097】
[参考例1]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
水10.34kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を2.217kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を323.2g、三酸化二アンチモン〔Sb23〕を439.2g及び硝酸セリウム6水和物〔Ce(NO33・6H2O〕を加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性原料液(I)を得た。
ニオブ混合液(B0)1.691kgに、H22として30質量%を含有する過酸化水素水を227.8g添加し、室温で10分間攪拌混合して、水性原料液(II)を調製した。
得られた水性原料液(I)を70℃に冷却した後、SiO2として34.0質量%を含有するシリカゾル3.924kgを添加し、更に、H22として30質量%含有する過酸化水素水512.6gを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。次に、水性原料液(II)、粉体シリカ966.0gを水13.52kgに分散させた分散液を順次添加してスラリー状の水性混合液(III)を得た。
【0098】
(水性混合液(III)の乾燥)
得られたスラリー状の水性混合液(III)を、5L/minの速度で遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。また、乾燥装置底面に設置されたエアノッカーにより10分当たり1回の頻度で打撃を加えた。
【0099】
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体0.5gを、日本分光社製JASCO UV/VISスペクトロメーターV−650を用いて、200−800nmの範囲を拡散反射法で測定した。ベースライン用標準物質としてLabspere社製スペクトラロンを使用した。得られたスペクトルを図1に示す。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.764であった。
【0100】
(乾燥品の焼成)
得られた乾燥粉体120gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら680℃で2時間焼成して触媒を得た。
【0101】
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は89.5%、AN収率は50.3%であった。
【0102】
[参考例2]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
乾燥装置底面に設置されたエアノッカーの打撃頻度を1分当たり1回に変更した以外は参考例1と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の反射スペクトル測定は参考例1と同様に行った。得られたスペクトルを図1に示す。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.404であった。
(乾燥品の焼成)
得られた乾燥粉体120gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は89.9%、AN収率は52.6%であった。
【0103】
[参考例3]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
乾燥装置底面に設置されたエアノッカーの打撃頻度を10秒当たり1回に変更した以外は参考例1と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の反射スペクトル測定は参考例1と同様に行った。得られたスペクトルを図1に示す。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.337であった。
(乾燥品の焼成)
得られた乾燥粉体120gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は90.5%、AN収率は53.3%であった。
【0104】
参考例1、2及び3の結果から、600nmにおける吸光度とAN収率との相関図を作成した(図2)。この結果から、600nmにおける吸光度が0.5未満の乾燥粉体を焼成すればAN収率が52.0%以上になることが予測できる。
【0105】
[実施例1]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
参考例2と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の反射スペクトル測定は参考例1と同様に行った。得られたスペクトルを図1に示す。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.404であった。
(条件の変更)
図2の相関図より、前記乾燥品を参考例1と同様に焼成した場合、AN収率が52.0%以上となると予測した。従って、全工程における条件は変更せずに、引き続き触媒を調製した。
(乾燥品の焼成)
参考例1と同様に行った。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は89.9%、AN収率は52.6%であった。
【0106】
[実施例2]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
参考例3と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の反射スペクトル測定は参考例1と同様に行った。得られたスペクトルを図1に示す。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.337であった。
(条件の変更)
図2の相関図より、前記乾燥品を参考例1と同様に焼成した場合、AN収率が52.0%以上になると予測した。従って、全工程における条件を変更せずに、引き続き触媒を調製した。
(乾燥品の焼成)
参考例1と同様に行った。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は90.5%、AN収率は53.3%であった。
【0107】
[実施例3]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
参考例1と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の反射スペクトル測定は参考例1と同様に行った。吸光度最大値は1.02であった。600nmにおける吸光度は0.764であった。
(条件の変更)
図2の相関図より、前記乾燥品を参考例1と同様に焼成した場合、AN収率が52.0%以下になると予測した。AN収率が上がる条件に変更するため、乾燥工程における乾燥条件を下記のとおりに変更して噴霧乾燥を行った。
乾燥5L/minの速度で遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。乾燥装置底面に設置されたエアノッカーにより10秒当たり1回の頻度で打撃を加えるように変更した。
【0108】
(乾燥品の焼成)
乾燥条件を変更した後に得られた乾燥粉体120gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は90.5%、AN収率は53.3%であった。
【0109】
[比較例1]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(水性混合液の調製)
参考例1と同様に行った。
(水性混合液の乾燥)
参考例1と同様に行った。
(紫外可視反射スペクトルの測定)
得られた乾燥粉体の600nmにおける吸光度は0.764であった。乾燥条件を変更せずに引き続き噴霧乾燥を行った。図2の相関図より、前記乾燥品を参考例1と同様に焼成した場合、AN収率が52.0%以下になると予測した。
(乾燥品の焼成)
乾燥条件を変更せずに得られた乾燥粉体120gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は89.5%、AN収率は50.3%であった。
【0110】
[実施例4]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(乾燥品の焼成)
吸光度が0.5以上である参考例1の乾燥粉体は使用せず、参考例2と3で得られた乾燥粉体60gずつをよく混合して、合計120gの混合粉体を直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は90.3%、AN収率は53.1%であった。吸光度が0.5未満の乾燥粉体を選別し、混合して焼成すれば触媒性能が良好であることを確認した。
【0111】
[比較例2]
仕込み組成式がMo10.22Nb0.08Sb0.240.02Ce0.005n/46質量%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
(乾燥品の焼成)
参考例1の乾燥粉体は吸光度が0.5以上であったが、選別せずに、参考例1、2及び3で得られた乾燥粉体40gずつをよく混合して、合計120gの混合粉体を直径3インチのSUS製焼成管に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、680℃で2時間焼成して触媒を得た。
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に調製して得られた触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。プロパン転化率は90.0%、AN収率は51.8%であった。上記結果から、吸光度が0.5以上の乾燥粉体を混合して焼成すると、触媒性能が低下することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の複合酸化物触媒の製造方法は、プロパン又はイソブタンを競う接触反応又は気相接触アンモ酸化反応に供して、対応する不飽和酸又は不飽和ニトリルを工業的に製造する際に用いられる触媒の製造方法としての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)触媒成分を含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記水性混合液を乾燥して乾燥品を得る工程、
(c)前記乾燥品を焼成する工程、及び
(d)前記乾燥品の吸収又は反射スペクトルを測定する工程、
を含む、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いる複合酸化物触媒の製造方法であって、
下記工程(i)及び/又は(ii)
(i)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(a)〜(c)における各条件を決定する工程、
(ii)前記吸収又は反射スペクトルに応じて、前記工程(c)において焼成する乾燥品を選別する工程、
を含む、複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
異なる条件で得た乾燥品の特定波長に対する吸光度と、前記乾燥品から得た複合酸化物触媒の性能の相関を調べる工程を更に含む、請求項1記載の複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項3】
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法であって、
請求項1又は2記載の製造方法により複合酸化物触媒を得る工程、及び
前記複合酸化物触媒を用いて、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させる工程、
を含む、製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−5364(P2011−5364A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148749(P2009−148749)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】