説明

複合養殖用ビルディング

【課題】複合養殖用ビルディングを提案する。
【解決手段】複層階により構成される複合養殖用ビルディングであって、該ビルディングの各階層に所定の配設により、魚介類の養殖システムおよび脱窒作用を有する海藻培養システムを配設し、少なくとも魚介類の養殖システムの養殖水の排水側を海藻培養システムの養殖水の入水側に連通し該養殖水を循環させる設備を配設し、下層階には少なくとも1つの大容量のタンク状水槽から成る魚介類養殖システムまたは/および海藻培養システムを、また中層階および上層階には少なくとも1つの中容量または小容量の、タンク状水槽または/および複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を、高層階には複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を配設した複合養殖用ビルディング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚介類の養殖、および海藻類または水耕栽培植物類の養殖または栽培(以下、養殖と云う)用システムを多層階において行う複合養殖用ビルディングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、魚介類の養殖に関しては、世界的にその普及度が急増し、その水揚高は国連食糧農業機関(FAO)の報告によれば、2,500万tにも及ぶと予想されている。しかも、最近の高級化志向に沿って、各種の高級な魚介類養殖への要求が極めて強くなってきている。
また、従来の一般的な養殖法は、設置水槽や水域を区画した海上養殖場などによる開放型の養殖が主流である。このことは養殖に供する場所に大きな制限が課せられ、養殖の自由度が場所的に大きく制限されている。また、作業者の過疎化、高齢化による制限が問題となってきている。
【0003】
特に、回遊性の魚類などの場合には、その水槽の大きさもかなり大型のものとなり、その重量的な理由で地上に直接設置する場合が殆どであり、高層階の建物内においてこの水槽養殖を実施している例は未だ見受けられない。この水槽内の給餌、汚れ処理等の管理も水槽全体に対する付帯設備が必要となり、この点は色々な工夫もされている。(例えば、特許文献1参照)
また、魚介類であっても、貝類はその行動範囲が規制されるために、その給餌方法や育成方法が工夫されれば、必ずしも地上設置の水槽形である必要性はない。しかし、水槽内の給餌、汚れ処理等の問題は存在している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−92954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のごとく、養殖用システムのスペース、重量の問題は、スペースそのものを確保すること自体が、自然環境の適用性、漁業権問題、多額の設備費用等の点でかなり難しい。
また、育成環境条件整備の問題では、給餌を効率良く与えること、糞等の汚濁物質の処理方法、養殖に適した養殖水の流れ発生等を容易に、且つ効率的に与えることが要求される。これらの条件は区画海水域やプール型の養殖場では可成りの経験とノウハウを必要とし、また多大の労力を伴うものであった。
養殖用システムの基本的な条件としてのスペース、重量の問題、育成環境条件整備の問題(特に給餌、浄化、等)等、必ずしも水槽形の養殖用システムは、高層階の建物を利用するものとしては適当でない。もし、高層階のビルディングに養殖用システムの設置が、経済的に有利な条件で行えるならば、その立地条件や建設投資額的で我が国にとっては極めて有益なことと成り得る。
【0006】
従って、高層階のビルディングに設置可能な養殖用システムの開発が極めて強く要求されてきている。
本発明は、上述の要求に鑑み、基本的に養殖システムを魚介類養殖と海藻類または水耕栽培植物類の養殖との複合養殖とし、タンク方式および/またはパイプ方式による養殖システムを備えることにより、養殖スペースの問題、育成環境条件整備の問題を総合的に解決した、設置の自由度の大きな、且つ高育成密度、高育成歩留りを図れる複合養殖用ビルディングを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合養殖用ビルディングは、
1)複層階により構成される複合養殖システム用ビルディングであって、該ビルディングの各階層に所定の配設により、魚介類の養殖システムおよび脱窒作用を有する海藻培養システムを配設し、少なくとも魚介類の養殖システムの養殖水の排水側を海藻培養システムの養殖水の入水側に連通し該養殖水を循環させる設備を配設したものである。
2)上述の1)において、前記下層階には少なくとも1つの大容量のタンク状水槽から成る魚介類養殖システムまたは/および海藻培養システムを、また中層階および上層階には少なくとも1つの中容量または小容量の、タンク状水槽または/および複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を、高層階には複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を配設したものであり、
3)上述の1)または2)において、前記魚介類がアワビであり、且つ前記海藻が胞子および発芽体の集塊化により培養養殖される海藻であることを特徴とするものであり、
4)上述の1)〜3)において、前記複層階のn階におけるシステムのトータル水量Qnが、Qn≦An .Q1 (但し、A:減少比、n:階層数(整数;1,2,3,4・・))であり、A=0.7〜0.9であることを特徴とするものであり、
5)上述の1)において、前記魚介類の養殖システムがパイプ方式養殖システムまたはタンク方式養殖システムを利用する設備であり、且つ海藻培養システムが海藻の光合成を促進するタンク方式養殖システムを利用した設備であることを特徴とするものであり、
6)上述の1)において、前記魚介類の養殖システムおよび海藻培養システムが、連通された各パイプ方式養殖システムであり、且つ該各パイプ方式養殖システムは、各々の養殖システムに適した流速を与えるパイプ構成を有することを特徴とするものであり、
7)上述の1)〜6)において、前記パイプ方式養殖システムは、併行に配列され、各層階毎にパイプ諸元およびパイプ本数を特定された複数のパイプをクローズドサイクル方式に連通配設されたものであり、また、養殖水循環装置、給餌装置、フィルティング装置および投光装置を併設したものであり、
8)複層階により構成される複合養殖システム用ビルディングであって、該ビルディングの各階層に所定の配設により、魚介類の養殖システムおよび少なくとも該魚介類の養殖システムより排出される排出液を肥料として用いた植物栽培システムを配設したものであり、
9)上述の1)〜8)において、 各層階の少なくとも壁際に、前記養殖システム監視または見学のための回廊を設けたものであり、
10)上述の1)〜9)において、前記上層階に配設されるパイプ方式養殖システムのパイプ装置が、設置されるビルディングの耐震装置として兼用されることを特徴とするものである。
なお、本発明において「養殖システム」とは、当該養殖対象を養殖するための装置を意味し、また、付帯的設備として、循環ポンプ設備、フィルティング設備、投光設備等を含むものを意味するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、
(1)魚介類の養殖システムおよび脱窒作用を有する海藻培養システムを配設し、少なくとも魚介類の養殖システムの養殖水の排水側を海藻培養システムの養殖水の入水側に連通し該養殖水を循環させる設備を配設したことにより、また、前記複層階のn階におけるシステムのトータル水量Qnを、Qn≦An .Q1 (但し、A:減少比、n:階層数(整数;1,2,3,4・・))とし、A=0.7〜0.9としたことにより、各層階の建物にバランスのとれた複合養殖用システムを配設することができ、各層階の床面積当たりの耐重量を自由度高く軽減することができ、建物単価および基礎工事の経費を軽減することができる。
(2)前記魚介類がアワビとし、且つ前記海藻が胞子および発芽体の集塊化により培養養殖される海藻とする複合養殖システムとすることにより、アワビよりの排出物の脱窒作用を海藻により行わしめ、また、培養養殖される海藻の一部をアワビの餌料とすることにより、通常の排出物処理のための設備、費用を削減することができる。
また、魚介類の該養殖用システムから排出される排出液を肥料として用いた別途の植物栽培・展示システムとを組み合わせ配設することにより、アクアポニックス(後述)を実施することもできる。
(3)また、魚介類の養殖システムに、該魚介類の養殖システムより排出される排出液を肥料として用いた植物栽培システムを併設することにより、排出液を肥料として転用し、また植物類による水質浄化効果を期待する生理循環サイクル(アクアポニックス)を実現することができる。
(4)さらに、養殖用システムを囲む養殖ビルディングの壁面に回廊を設けることにより、養殖のための管理のためばかりでなく、見学者に養殖用システム、アクアポニックスの実地見学通路としての提供を図ることができる。
(5)さらにまた、前記パイプ方式養殖用システムを、養殖パイプを粘性液体によるパイプ軸方向の耐震ダンパーとして利用し、地震に対する建物の防震装置として兼用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態は、複合養殖用ビルディングであって、その養殖用ビルディングの設置場所が、従来の開放型の養殖法の場合と異なり、海水域に限られず陸上、強いては内陸部や山の上でも容易に設置可能なものであることを最大の利点とするものである。
しかも、複合養殖用ビルディングは、下層階(地上階)には建物規制重量と無関係な大型水槽のタンク方式養殖用システムを配設し、中層階、および高層階には、養殖対象物や各層階の床耐重量を考慮することにより、そのスペースの広さ、重量にあわせて、タンク方式養殖用システムの容量と個数、および養殖用パイプの諸元(直径、長さ、本数)を変えたパイプ方式養殖装置を配設することを特徴としている。
【0010】
前記パイプ方式養殖装置は、本願出願人と同一出願人等の出願になる特願2003−287757号「発明の名称:閉鎖循環式陸上養殖方法およびその装置」における閉鎖循環式陸上養殖装置のパイプ系装置の内容に準じている。
即ち、複数のパイプをクローズドタイプに配設し、また、海水または水循環装置、給餌装置及びフィルティング装置を併設し複数の所定寸法長さの養殖用パイプをパイプ接続要素により連結構成したものである。
前記閉鎖循環式養殖経路内における養殖用パイプ内の状態観察用窓より随時魚介類の生育状態、糞等の汚濁物質量、残餌状態を観察して、前記養殖用パイプ内に適正水量の循環水および適当量の人工餌料を調整供給し、且つ、前記閉鎖循環経路に併設され必要により連結される浄化経路により前記汚濁物質、残餌を濾過排出させる閉鎖循環式陸上養殖装置であり、これにより、設置場所の自由度のある、高育成密度で歩留りの良い効率的且つ経済的な魚介類、特には海藻養殖システムとの組み合わせにおいてはアワビの養殖に適しているものである。
【0011】
また、前記パイプ方式養殖装置のパイプ接続要素は、少なくとも閉鎖循環養殖経路内における養殖用パイプ内の状態観察用および/または養殖用パイプ内への投餌のための開閉自在である窓を有するTジョイント、180゜リターンジョイントを備えたものである。また、複数の養殖用パイプとパイプ接続要素により連結構成された閉鎖循環養殖経路装置を1連として水平に配置し、さらに、該1連の閉鎖循環養殖経路装置を複数段、縦方向(地上垂直方向)に併設することができる。
これにより、各層階に適した養殖用システムを配設することができる。
【0012】
さらに、前記養殖用パイプを透明乃至内部が観察可能な程度の半透明とすることにより、前記の養殖用パイプ内の魚介類、特にはあわびの成長度合い、糞等の汚濁物質や残餌の堆積状態の調査を容易且つ正確にすることができ、養殖ビルディング壁面に設けた回廊より容易に管理することを可能とし、また、パイプ内部の養殖状況を見学者に実地見学させることもできる。
【0013】
また、タンク状の水槽は、近年北海道地震の折りの石油コンビナートにおけるタンク破損において明らかなように、地震に対して必ずしも安定した設備ではない。従って大容量のタンク状水槽を高層階に設置することは耐地震の点でも好ましくなく、階層に合った中容量、小容量のタンク状水槽を使用する。ここでは大容量のタンク状水槽とは、タンク直径で6m以上のものであり、また、中容量、小容量のタンク状水槽とは5m以下、3m以下程度のものである。
これに対して、本発明のパイプ方式養殖装置の主たる部分である併列された養殖用パイプは、粘性流動型のダンパーとしての作用を絞り構造等を付与することにより与え、地震の場合の建物に加わる加速度をダンパーリングする作用により、建物の防震効果を期待することができる。この場合、ダンパー効果は、地震の振幅方向とパイプの長手方向が一致していることがより効果的であり、そのため、相隣る階層で該養殖用システムの併列養殖パイプ配列方向を、直交させておくことにより好ましい防震効果をも期待することができる。
【0014】
基本的に、海藻養殖システムとの組み合わせにおける、魚介類の養殖システムにおける養殖水(海水または擬似海水)の流速は、自然に生息する魚介類の海域における流速が与えられる。これは魚介類の施餌に適当なることと相俟って魚介類の糞等の汚濁物質や残餌の堆積を防止する効果を期待するものである。また、本発明では、前記海藻養殖システムにおける、海藻の培養養殖が胞子および発芽体の集塊化によることを特徴とするために、養殖水(海水または擬似海水)の流速は、十分なる光合成を行なわすために低速であることが望ましい。
クローズド方式においてはシステム内の流量Qが特定維持されるためには、必要な流速を維持するため魚介類の養殖システムがパイプ方式であれば、その通路面積すなわちパイプの口径および内層物(特にアワビの場合はハイドの形状、個数)の諸元が、海藻養殖システムからの出口流量にバランスするように設定されなければならない。
【0015】
また、クローズド方式の場合、前記魚介類の糞等の汚濁物質や残餌の堆積を防止するために、若干のシステム内特に魚介類の養殖システムの出口側にフィルティングおよび外部への一部排出が行なわれ、これによる不足量は、主として連通される海藻養殖システム側においてチャージされる。
【0016】
また、ビルディングにおける各階層に魚介類の養殖システムまたは/および海藻培養養殖システムを配置する場合は、比較的に利用自由度の高いパイプ方式養殖システムをより高い階層に、また、比較的に利用自由度の悪い、また地震発生時の安定性から、より低い階層に配置されることが好ましい。
海藻培養養殖システムはその必要流速から、タンク方式培養養殖システムを用いることが好ましい。従って、階層にまたがってシステムを配設する場合には、下層側に海藻培養養殖システムを配備することが好ましい。
【0017】
上記のごとく、外部への排出量を除いたシステム内のトータル水量Qは、直下階層のトータル水量に対し、10〜30%減と設定されることが好ましく、これは建築設計上からも妥当性があることがわかった。
すなわち、本発明の複合養殖用ビルディングにおいては、複層階のn階におけるシステム内のトータル水量Qnを、Qn≦An .Q1 (但し、A:減少比、n:階層数(整数;1,2,3,4・・))とし、A=0.7〜0.9とすることにより、複合養殖システムとして、また建築設計上においてバランスのとれた複合養殖用ビルディングを提供し得ることの知見を得た。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態を説明するための概念図である。
本図1では、5階立てビルディングの例を示しているが、階層の数は任意に選択することができる。また、パイプ方式養殖システムの詳細部分は、前記特願2003−92954号の内容に準じおりこれを省略されている。
図2は、本発明の実施の形態に使用される、パイプ方式養殖装置の1例を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図3は、本発明の他の実施の形態に使用される、パイプ型養殖装置の他の例を示す説明図である。
図4は本実施の形態1における養殖システムの作用流れを説明する図である。
図において、1は複合養殖用ビルディング、100はビルディング壁、110は1階養殖室、120は2階養殖室、130は3階養殖室、140は4階養殖室、150は5階養殖室、20は階段、210は1階回廊、220は2階回廊、230は3階回廊、240は4階回廊、250は5階回廊、310は1階配設のタンク方式養殖システム、320は2配設のタンク方式養殖システム、330は3階配設のタンク方式養殖システム、340は4階配設のタンク方式養殖システム、350は5階配設のタンク方式養殖システムである。
【0019】
また、331は3階配設のパイプ方式養殖システム、341は4階配設のパイプ方式養殖システム、351は5階配設のパイプ方式養殖システム、12は閉鎖循環養殖経路装置、2は養殖パイプ、3はリターンジョイント、4は90°ターンジョイント、5はTジョイント、31、41、51は状態観察用窓(投餌窓)、6はフレーム、7は養殖水供給パイプ、8は養殖水リターンパイプ、9はスラッジ排出パイプである。
【0020】
図2に示す複数本のパイプを併列したパイプ列を1連とした養殖システムは、比較的に高層階に適用することが好ましく、前述に基づき高層階に行くのに従いシステム内水量および重量的にパイプ諸元、本数を小さくすることが好ましい。
また、図3の場合に示されるように、複数本のパイプを併列したパイプ列を1連として、これを2層以上の複数段重ねた養殖システムは、比較的に2、3階など中層階に適用することが好ましい。
【0021】
図1は本実施の形態の複合養殖システム用ビルディングにおける、パイプ方式養殖システムとタンク方式養殖システムとを併用する場合を示している。
複数のタンク方式養殖システムを連通する場合、基本的に魚介類の養殖システムと海藻培養養殖システムとを別個のタンクにて養殖する。この場合、魚介類の養殖システムおよび脱窒作用を有する海藻培養養殖システムの配置は、少なくとも魚介類の養殖システムの養殖水の排水側を海藻培養システムの養殖水の入水側に連通する。
なお、魚介類の養殖システムと海藻培養養殖システムとを同一のタンク内にて養殖することもできる。この場合は流速に対する配慮が必要となる。
【0022】
図1に示すごとく、下層階(図では1、2階層))には少なくとも1つ(図1では2槽)の大容量のタンク状水槽から成る魚介類養殖システムまたは/および海藻培養システムを配置し、また中層階(図では3、4階層)には少なくとも1つの中容量または小容量の、タンク状水槽または/および複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を、高層階(図では5階層)には複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を配設している。
【0023】
海藻培養養殖システムに対して、ビルディング内にて光合成を促進させるためには適当な投光を与える。投光は通常の太陽光に近似の投光を与える光源で適当なる照度で投光する必要がある。100リットルの養殖用タンクに対して白色蛍光灯にて2000〜5000luxの照射を行う。照射による明期/暗期サイクルは(10〜12)時間/(10〜12)時間、程度が好ましい。
また、上層階における養殖システムのトータル水量Qについては、床面積当たり荷重で150kgf/m2 以下であることが好ましい。
【0024】
[実施の形態2]
図5は本発明の実施の形態2を説明するための概念図である。
図6は魚介類養殖システムと水耕栽培システムとの複合養殖(栽培)における生理循環サイクル(アクアポニックス)を示す説明図である。
図5において、450は5階配設の植物栽培・展示システム、460は屋上配設の植物栽培・展示システムである。
【0025】
なお、前図と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
本発明の実施の形態2は、図5において明らかなように、前述の魚介類養殖(アクアカルチャー)システムと水耕栽培(ハイドロポニックス)システムとを組み合わせることにより、魚介類の閉鎖型循環養殖(陸上養殖)システの生産過程で生じるP、N、K等を多量に含む排水液を、野菜や花の水耕栽培の肥料として用いると共に、この植物群による水質浄化効果を期待する生理循環サイクル(アクアポニクッス)を備えた複合養殖用ビルディングである。
【0026】
図5に示すように、本発明の他の実施の形態においては、重量の比較的軽い水耕栽培システムを、少なくとも屋上や上層階に配設する。該水耕栽培システムは、魚介類養殖用システムと循環結合することにより、少なくとも魚介類養殖システより排出されるリン、カリ、窒素等を水耕栽培植物の肥料として利用乃至その浄化に寄与させるものである。
同一階に水耕栽培システムと魚介類養殖用システムを併置して設けることも可能であり、また下層階に魚介類養殖用システムを、屋上乃至上層階に水耕栽培システムを配設してその間を循環経路により結合することも可能である。また、水耕栽培システムは、植物の栽培ばかりでなく、鑑賞用の花、草木の展示システムとして利用することもできる。
なお、基本的に本実施の形態2における魚介類は実質的に水(海水または擬似海水でない)にて養殖するものを対象とするものであり、これにより水耕栽培システムを複合することを可能とする。
【実施例1】
【0027】
本実施の形態における養殖用ビルディングの4階に設置した閉鎖循環育成経路装置12の実施例1は、下記のとおりである。
あわび養殖用パイプ:L×D=2m×100mm ポリプロピレン製 4本(4列、1層)
パイプ接続要素:
Tジョイント(100mmΦ状態観察用(投餌用)窓付き、
口径100mm8個)
180゜リターンジョイント (100mmΦ状態観察用
(投餌用)窓付き、口径100mm3個)
90゜ターンジョイント(100mmΦ状態観察用(投餌用)
窓付き、口径100mm 3個)
海藻養殖用タンク:d×h= 1 m ×200mm 1槽

浄化経路装置: #800メッシュフィルタ、泡沫分離濾過装置、
オゾン殺菌装置併用
循環装置: 軸流ポンプ(水量 9m3 /min.揚程 6m)
循環水: 海水(約17℃)
あわび稚貝: 約20mmサイズ、500個/パイプ
海藻(胞子および発芽体の集塊化により培養養殖された海藻)
あわび人工餌給餌率: 約20%
育成期間: 4ヶ月
【0028】
上記養殖用パイプ2の各2本をTジョイント5により連結し、連結されたもの4本を水平、平行に4列に配置し、1−2列、2−3列および3−4列間は180゜リターンジョイント3にて連結し、また1、4列端には90゜ターンジョイント4を取り付け外部パイプ連結部42により、前記浄化経路装置13を経て、循環装置14に連結した。この閉鎖循環式陸上養殖装置1により、約20mmサイズのあわび稚貝を各養殖用パイプ当たり500個宛挿入した。
【0029】
海藻(胞子および発芽体の集塊化により培養養殖された海藻)を前記タンク内にて10日培養した後、あわび養殖用パイプに連結し、その1部を循環させた。
【0030】
あわびへの餌料は海藻を主とし、人工餌料としては給餌率を約20%として投餌した。投餌に際しては、状態観察窓より随時残餌量を観察しながら投入した。
また、循環海水の流量および浄化経路装置のフィルタの清掃間隔は、状態観察用窓により随時観察しながら糞等の浮揚不純物が堆積しないように調整、設定した。
育成期間4ヶ月経過後、その育成状態および歩留まりを測定した。
【0031】
4ヶ月間における死亡率は、パイプ列により多少差があるが、いずれも1%以下であった。従って、この間の歩留まりは95%以上と優れたものであった。
また、製品サイズは、約40mmに達し、重量比では約1.7倍となった。
また、海藻は湿重量約5kgの収穫となった。
本実施の形態による結果は、従来のあわび養殖では予想も出来ない高効率の養殖結果であった。
【実施例2】
【0032】
実施例2の閉鎖循環育成経路装置12は、下記のとおりである。
本発明の実施例2に係る縦型(地上垂直方向に併設した)の閉鎖循環式陸上養殖装置は、基本的に実施例1における閉鎖循環育成経路装置12を地上垂直方向に2段併設したもので、図1のパイプ型養殖装置331である。本装置は、比較的に中層階以下の階層に適用される。
各段の前記1、4列端における90゜ターンジョイント4の外部パイプ連結部42は、前記浄化経路装置13を経て、循環装置14に連結される循環水供給パイプ7および循環水リターンパイプ8により共通に系列連結されている。
【0033】
本実施例2の養殖用ビルディングの1階に設置されるタンク型水槽は、直径6m×深さ1mの回遊式水槽であり、これに鯉稚魚50匹を放流した。 目下3ヶ月の育成過程にあるが、死亡率0%で育成状態は順調であることが確認されている。
【0034】
なお 実施例1と併行して、魚介類養殖システムよし排出されたP、N、K等を多量に含む排水液を利用して、ちんげん菜の水耕栽培を行った。同一量の液肥料のみを与えたものに比べ、7週間後では1株60g以上と約6倍の成育差が認められた。また、脱窒素効果は、アンモニウム濃度で比較して予想上の効果が認められた。
本発明の魚介類養殖システムと水耕菜倍システムとの組み合わせは、生理循環サイクル(アクアポニクッス)の極めて良好な効果を期待し得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、5階立て建築の養殖用ビルディングの場合について説明されているが、階層の数は任意に選択することができ、また、実施例ではパイプ型養殖装置の対象としてあわび養殖の場合について述べているが、パイプ型養殖装置およびタンク型養殖システムにより適宜、牡蠣、さざえ、はまぐり等の他の貝類、およびひらめ等の海水魚または鯉、金魚等の淡水魚の養殖に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に使用される、パイプ型養殖用システムの1例を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に使用される、パイプ型養殖用システムの他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1を説明するための概念図である。
【図5】本発明の実施の形態2の魚介類養殖用システムと植物栽培・展示システムとの生理サイクルを示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0037】
1 魚介類養殖用ビルディング
2 養殖用パイプ
3 180゜リターンジョイント
4 90゜ターンジョイント
5 Tジョイント
6 支持フレーム
7 循環水供給パイプ
8 循環水リターンパイプ
9 スラッジ排出パイプ
12 閉鎖循環育成経路装置
31、41、51 状態観察用窓(投餌窓)
20 階段
100 浄化経路装置
110 1階養殖室
120 2階養殖室
130 3階養殖室
140 4階養殖室
150 5階養殖室
210 1階回廊
220 2階回廊
230 3階回廊
240 4階回廊
250 5階回廊
310 1階配設のタンク型養殖用システム
320 2階配設のタンク型養殖用システム
330 3階配設のタンク型養殖用システム
340 4階配設のタンク型養殖用システム
350 5階配設のタンク型養殖用システム
331 3階配設のパイプ型養殖装置
341 4階配設のパイプ型養殖装置
351 5階配設のパイプ型養殖装置
450 5階配設の植物栽培・展示システム
460 屋上配設の植物栽培・展示システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層階により構成される複合養殖システム用ビルディングであって、該ビルディングの各階層に所定の配設により、魚介類の養殖システムおよび脱窒作用を有する海藻培養システムを配設し、少なくとも魚介類の養殖システムの養殖水の排水側を海藻培養システムの養殖水の入水側に連通し該養殖水を循環させる設備を配設したことを特徴とする複合養殖用ビルディング。
【請求項2】
下層階には少なくとも1つの大容量のタンク状水槽から成る魚介類養殖システムまたは/および海藻培養システムを、また中層階および上層階には少なくとも1つの中容量または小容量の、タンク状水槽または/および複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を、高層階には複数のパイプ連結によるパイプ方式養殖装置を配設したことを特徴とする請求項1に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項3】
前記魚介類がアワビであり、且つ前記海藻が胞子および発芽体の集塊化により養殖される海藻であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項4】
前記複層階のn階におけるシステムのトータル水量Qnが、Qn≦An .Q1 (但し、A:減少比、n:階層数(整数;1,2,3,4・・))であり、A=0.7〜0.9であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項5】
前記魚介類の養殖システムがパイプ方式養殖システムまたはタンク方式養殖システムを利用する設備であり、海藻培養システムが海藻の光合成を促進するタンク方式養殖システムを利用した設備であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項6】
前記魚介類の養殖システムおよび海藻培養システムが、連通された各パイプ方式養殖システムであり、且つ該各パイプ方式養殖システムは、各々の養殖システムに適した流速を与えるパイプ構成を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項7】
前記パイプ方式養殖システムは、併行に配列され、各層階毎にパイプ諸元およびパイプ本数を特定された複数のパイプをクローズドサイクル方式に連通配設されたものであり、また、養殖水循環装置、給餌装置、フィルティング装置および投光装置を併設したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項8】
複層階により構成される複合養殖用ビルディングであって、該ビルディングの各階層に所定の配設により、魚介類の養殖システムおよび少なくとも該魚介類の養殖システムより排出される排出液を肥料として用いた植物栽培システムを配設したことを特徴とする複合養殖用ビルディング。
【請求項9】
各層階の少なくとも壁際に、前記養殖システム監視または見学のための回廊を設けたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。
【請求項10】
前記上層階に配設されるパイプ方式養殖システムのパイプ装置が、設置されるビルディングの耐震装置として兼用されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の複合養殖用ビルディング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−136164(P2009−136164A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313112(P2007−313112)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(595070143)株式会社ジファスコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】