説明

複層フィルム

【課題】外観、強度、耐久性、耐光性に優れ、接着剤を用いずに良好な接着強度で基材に複層できる複層フィルム、および該複層フィルムに金属を積層した複層フィルムの提供。
【解決手段】特定のメタクリル系樹脂からなる連続相(A)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物の重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)が分散相として存在するメタクリル系樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂フィルム(I)からなる第1層と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位からなるTg50℃以上の重合体ブロック(c)を2以上、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位からなるTg20℃以下の重合体ブロック(d)を1以上有するアクリル系ブロック共重合体(C)を含有する組成物からなるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)からなる第2層とを積層してなる複層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層フィルムに関する。詳細には、本発明は、メタクリル系樹脂フィルムおよびアクリル系ブロック共重合体フィルムを積層してなる複層フィルムに関する。本発明で得られる複層フィルムは、例えば、強度向上フィルム・加飾フィルムとして有用である。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂フィルムは外観および耐光性に優れ、さらに表面硬度、透明性、表面平滑性を改善したメタクリル系樹脂フィルムとして、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位からなる重合体ブロックと共役ジエン化合物に由来する構成単位からなる重合体ブロックを有するブロック共重合体を、特定の質量比でメタクリル系樹脂に分散させた樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂フィルムが知られている。かかるメタクリル系樹脂フィルムは、建築資材や車両資材などの外観、強度、耐久性などの要求が高い用途に有用である(特許文献1参照)。
かかる用途において、金属と積層した複層フィルムが求められている。しかしながら、メタクリル系樹脂フィルムを金属と加熱溶融接着した場合、接着強度が十分でなく、例えば、温度変化に伴う膨張係数の違いからメタクリル系樹脂フィルムと金属との剥離が起こる場合がある。また、接着剤などでメタクリル系樹脂フィルムと金属とを貼り合わせた場合、接着強度に加え、透明性、外観、耐光性などへの影響も懸念され、さらに接着剤の塗布工程が必要となるため、作業性の低下、不良品の増加などが問題となる。
また、メタクリル系樹脂フィルムの片面に金属蒸着層を形成(例えば、乾式、湿式製膜(蒸着、スパッタ等)で形成)する場合、メタクリル系樹脂フィルムは金属蒸着層との密着性が悪く、かかる密着性を高めるために、ポリウレタン、メラミン、エポキシなどの熱硬化性樹脂からなるアンカー層を予め形成させるのが一般的である。しかしながら、メタクリル系樹脂フィルムとアンカー層の材料特性の違いからメタクリル系樹脂フィルムとアンカー層との剥離が起こる場合がある。またこのような金属蒸着フィルムの製造工程は複雑であり、かつ高コストとなることから、アンカー層を必要とせず、低コストで金属蒸着性に優れるメタクリル系樹脂フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−228000
【特許文献2】特開平11−335432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかして、本発明の目的は、外観、強度、耐久性、耐光性に優れ、接着剤を用いずに良好な接着強度で基材に複層できる複層フィルムを提供することにある。また、本発明の別の目的は、外観、強度、耐久性、耐光性に優れる複層フィルムに金属をさらに積層させた複層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、上記目的は、
[1]
メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂100質量部からなる連続相(A)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が23℃以下である重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する構成単位からなるガラス転移温度が0℃以下である重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)1〜80質量部が分散相として存在するメタクリル系樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂フィルム(I)からなる第1層と、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が50℃以上の重合体ブロック(c)を2以上、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が20℃以下の重合体ブロック(d)を1以上有するアクリル系ブロック共重合体(C)を含有する組成物からなるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)からなる第2層とを積層してなる複層フィルム;
[2]
前記ブロック共重合体(B)が星型ブロック共重合体であり、該星型ブロック共重合体が腕重合体ブロックで構成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量が、式(i):
[星型ブロック共重合体の数平均分子量]>2×[腕重合体ブロックの数平均分子量] (i)
を満たす[1]の複層フィルム。
[3]
前記星型ブロック共重合体が、式(ii):
(重合体ブロック(b)−重合体ブロック(a)−)nX (ii)
(式中、Xはカップリング残基、nは2を超える数を表す。)
で表される上記[2]の複層フィルム;
[4]
前記アクリル系ブロック共重合体(C)中の重合体ブロック(c)と重合体ブロック(d)の質量比が20/80〜80/20である上記[1]〜[3]のいずれかの複層フィルム;
[5]
アクリル系ブロック共重合体(C)が、式(iii):
重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c) (iii)
で表される上記[1]〜[4]のいずれかの複層フィルム;
[6]
前記第2層に、金属からなる第3層をさらに積層してなる上記[1]〜[5]のいずれかの複層フィルム;および
[7]前記金属からなる第3層が金属蒸着層である[6]の複層フィルム;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、外観、強度、耐久性および耐光性を保持しながら透明性に優れ、また、接着剤を用いずに基材と積層可能な複層フィルムを提供できる。また、かかる複層フィルムに金属を積層した、界面強度が高い複層フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】金属層の厚みが100オングストロームの場合の密着性試験後の写真である(実施例1)
【図2】金属層の厚みが100オングストロームの場合の密着性試験後の写真である(比較例1)
【図3】金属層の厚みが800オングストロームの場合の密着性試験後の光学顕微鏡写真(一部拡大)(実施例5)
【図4】金属層の厚みが800オングストロームの場合の密着性試験後の光学顕微鏡写真(一部拡大)(比較例2)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の複層フィルムは、メタクリル系樹脂フィルム(I)からなる第1層(以下、単に「第1層」と称する場合がある)と、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)からなる第2層(以下、単に「第2層」と称する場合がある)を積層してなる。
【0009】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂(A)100質量部からなる連続相に、ブロック共重合体(B)1〜80質量部が分散相として存在するメタクリル系樹脂組成物からなる。
【0010】
(連続相)
連続相を構成するメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有する樹脂である。
メタクリル酸メチルに由来する構成単位以外のビニル系単量体に由来する構成単位としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸メチルを除くメタクリル酸アルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレンなどの一分子中にアルケニル基を一個だけ有する非架橋性単量体に由来する構成単位が挙げられる。
メタクリル酸メチルに由来する構成単位と、他のビニル系単量体に由来する構成単位との質量比は、50/50〜100/0であり、好ましくは80/20〜99/1であり、より好ましくは90/10〜98/2である。
【0011】
メタクリル系樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは7万〜20万、より好ましくは8万〜15万、特に好ましくは9万〜12万である。Mwが7万未満では、メタクリル系樹脂フィルムの靭性および取り扱い性が低下する傾向となる。一方、Mwが20万を超えると、メタクリル系樹脂組成物の流動性が低下して製膜が困難になり、製膜できたとしてもメタクリル系樹脂フィルム(I)の表面平滑性が低下する傾向となる。
【0012】
また、本発明に用いるメタクリル系樹脂(A)は、GPCで求めた重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値(Mw/Mn:分子量分布)が、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.3以下である。分子量分布が3.0を超えるとメタクリル系樹脂フィルム(I)の靭性および製膜性が低下する傾向となる。メタクリル系樹脂(A)の分子量や分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量等を調整することによって制御できる。
【0013】
(分散相)
分散相に含有されるブロック共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度(Tg)が23℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下である重合体ブロック(a)と、共役ジエン化合物に由来する構成単位からなるガラス転移温度(Tg)が好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下である重合体ブロック(b)を有する。ガラス転移温度が低いものほど寒冷地での使用に適する。
【0014】
重合体ブロック(a)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの付加重合によって得られる。なお、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルまたはアクリルを意味する。
メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられ、アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは1種単独で重合されていてもよいし、2種以上を組合せて共重合されていてもよい。これらの中から、Tgが23℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せを選択すればよく、Tgが0℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せが好ましく、Tgが−10℃以下の重合体ブロック(a)を与える単量体または単量体の組合せがより好ましい。かかる単量体としては、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルのいずれか又は両方が好ましく、アクリル酸n−ブチルがより好ましい。
【0015】
共役ジエン化合物に由来する構成単位からなる重合体ブロック(b)は、共役ジエン化合物の付加重合によって得られる。
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン等が挙げられる。これらは1種単独で重合されていてもよいし、2種以上を組合せて共重合されていてもよい。これらの中から、Tgが0℃以下の重合体ブロック(b)を与える単量体または単量体の組合せを選択すればよく、Tgが−10℃以下の重合体ブロック(b)を与える単量体または単量体の組合せが好ましい。また、汎用性、経済性、取り扱い性の点からブタジエン及びイソプレンのいずれか又は両方が好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0016】
共役ジエン化合物に由来する構成単位には、1,4−結合単位と、1,2−結合単位および3,4−結合単位の3種類がある。1,4−結合単位は、分子主鎖中に炭素−炭素二重結合を有する。一方、1,2−結合単位および3,4−結合単位では、分子主鎖に結合するビニル基(側鎖ビニル結合)が存在する。この分子主鎖中の炭素−炭素二重結合や側鎖ビニル結合は、グラフト反応や架橋反応の起点となる。1,2−結合単位および3,4−結合単位の割合は、重合反応系にエーテル類などの極性化合物を加えることで増加させることができる。
【0017】
重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量は、共役ジエン化合物に由来する構成単位のうち、1,2−結合単位または3,4−結合単位の割合[モル%]で表される。側鎖ビニル結合量は、連続相となるメタクリル系樹脂とのグラフト反応性および分散相の架橋反応性や、メタクリル系樹脂フィルム(I)の靭性を考慮して選択される。重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量は、10モル%〜60モル%であることが好ましく、10モル%〜50モル%であることがより好ましく、10モル%〜35モル%であることがさらに好ましい。側鎖ビニル結合量が上記した範囲にあると透明性、表面平滑性、靭性、撓み性等が良好になる。側鎖ビニル結合量は、ブタジエンに由来する構成単位からなる重合体ブロック(b)である場合、1H−NMR分析で示されるスペクトルの化学シフト4.7〜5.2ppm(以後、シグナルC0という。)の1,2−ビニルによるプロトン(=CH2)と、化学シフト5.2〜5.8ppm(以後、シグナルD0という。)のビニルプロトン(=CH−)の積分強度を求め、各々のシグナルの積分強度をそれぞれCおよびDで表すと、次式(iv)によって、側鎖ビニル結合量V0[モル%]を計算して求めることができる。
0=〔(C0/2)/{C0/2+(D0−C0/2)/2}〕×100 (iv)
【0018】
重合体ブロック(b)は、前述の分子主鎖中の炭素−炭素二重結合及び/又は側鎖ビニル結合を部分的に水素添加したものであってもよい。本発明の効果を維持する観点から、重合体ブロック(b)の水素添加率は70モル%未満であることが好ましく、50モル%未満であることがより好ましい。水素添加の方法は特に限定されず、例えば特公平5−20442号公報に開示された方法、すなわちチタンを金属成分とする有機金属化合物単独またはリチウム、マグネシウム、アルミニウム等の有機金属化合物を組み合せた触媒を水素添加触媒として用い、水素分圧は10kg/cm2以下、また反応温度0〜100℃において、好適な溶媒中で水素添加反応を行うことができる。
【0019】
本発明に用いるブロック共重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、メタクリル系樹脂フィルム(I)の靭性および取り扱い性の観点から、好ましくは5,000〜1,000,000、より好ましくは10,000〜800,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算の値である。
【0020】
重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との質量比は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との合計を100質量%としたとき、重合体ブロック(a)は30〜65質量%であるのが好ましく、40〜60質量%であるのがより好ましい。重合体ブロック(b)は35〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。
【0021】
ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(a)および重合体ブロック(b)をそれぞれ1つずつ有するものであってもよいし、重合体ブロック(a)および/または重合体ブロック(b)を2つ以上有するものであってもよい。
該ブロック共重合体の結合様式としては、a−b型ジブロック共重合体、a−b−a型トリブロック共重合体、b−a−b型トリブロック共重合体、a−b−a−b型テトラブロック共重合体やb−a−b−a型テトラブロック共重合体に代表される線状マルチブロック共重合体、(b−a−)nX、(a−b−)nX(式中、Xはカップリング剤残基を、nは2を超える数を表す)などで表される星型(ラジアルスター型)ブロック共重合体、a−g−bで表されるグラフト共重合体などが挙げられる。なお、gはグラフト結合を表す結合記号である。ブロック共重合体(B)は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)との間に傾斜連結部を有するものであってもよい。傾斜連結部は、重合体ブロック(a)の構成単位の組成から重合体ブロック(b)の構成単位の組成に漸次変化していく構成単位組成を有する部分である。これらブロック共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
ブロック共重合体(B)は、その屈折率が、好ましくは1.480〜1.500、より好ましくは1.485〜1.495である。屈折率がこの範囲にあることでメタクリル系樹脂組成物の透明性が維持される。
ブロック共重合体(B)の屈折率は、重合体の構成単位の種類、組成比や重合体ブロック(b)中の側鎖ビニル結合量等を選択することによって調整できる。例えば、アクリル酸n−ブチルに由来する構成単位からなる重合体ブロック(a)とブタジエンに由来する構成単位からなる未水添の重合体ブロック(b)からなるジブロック共重合体では、ジブロック共重合体全体の質量に対してアクリル酸n−ブチルの含量を30〜65質量%、ブタジエンの含量を35〜70質量%にすると、ポリメタクリル酸メチルの屈折率とほぼ一致し、透明なメタクリル系樹脂フィルム(I)を得ることができる。
なお、本発明においてブロック共重合体(B)の屈折率は、以下の方法で求められる。ブロック共重合体(B)を30質量%となるようトルエン溶媒に均一に溶解させた溶液を調製する。室温にて当該溶液およびトルエンの、密度およびアッベ屈折計による屈折率を測定し、下記式(v)〜(vii)の式を用いてブロック共重合体(B)の屈折率が求められる。さらに、屈折率既知のポリメタクリル酸メチル(n=1.492)を同じ方法で測定し、この方法による屈折率測定の較正係数を求めて、ブロック共重合体(B)の屈折率の較正が可能である。
[(n−1)/(n+2)]×V=r=一定 (v)
=w+w (vi)
=(1/ρ)−(1/W)×[(1/ρ)−(1/ρ)] (vii)
[nd:屈折率、V:比容、r:分子屈折、w:質量分率、ρ:密度、
下付き1:トルエン、下付き2:ブロック共重合体(B)、下付き3:溶液、
実測:V、nd3、V、nd
式(v)、式(vi)出典:高分子実験学第12巻「熱力学的・電気的および光学的性質」
昭和59年発行 共立出版
式(vii)出典:高分子実験学第11巻「高分子溶液」昭和57年発行 共立出版
【0023】
ブロック共重合体(B)としては、アクリル酸n−ブチルに由来する構成単位からなる重合体ブロックとブタジエンに由来する構成単位からなる重合体ブロックよりなるジブロック共重合体または星型ブロック共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシルに由来する構成単位からなる重合体ブロックとブタジエンに由来する構成単位からなる重合体ブロックよりなるジブロック共重合体または星型ブロック共重合体、メタクリル酸メチルに由来する構成単位からなる重合体ブロックとアクリル酸n−ブチル単量体に由来する構成単位からなる重合体ブロックとブタジエンに由来する構成単位からなる重合体ブロックよりなるトリブロック共重合体または星型ブロック共重合体が例示される。
【0024】
ブロック共重合体(B)として、星型ブロック共重合体が、分散相の機械的強度の観点から、特に好ましい。
星型ブロック共重合体は、複数の腕重合体ブロックが多官能性単量体や多官能性カップリング剤等に由来する基(カップリング剤残基)によって連結した共重合体を含むものである。
【0025】
星型ブロック共重合体を構成する腕重合体ブロックは、重合体ブロック(a)及び重合体ブロック(b)を有するものであれば、その結合態様によって制限されない。腕重合体ブロックとしては、a−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体、a−b−a−b型のテトラブロック共重合体、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)とが四つ以上結合したマルチブロック共重合体などが挙げられる。星型ブロック共重合体を構成する複数の腕重合体ブロックは、同じ種類のブロック共重合体であってもよいし、異なる種類のブロック共重合体であってもよい。
【0026】
本発明では、式(ii):
(重合体ブロック(b)−重合体ブロック(a)−)nX (ii)
(式中、Xはカップリング剤残基、nは2を超える数を表す。)で表される星型ブロック共重合体が特に好ましい。
【0027】
星型ブロック共重合体は、GPCにより算出したポリスチレン換算の数平均分子量において、 式:〔星型ブロック共重合体の数平均分子量〕>2×〔腕重合体ブロックの数平均分子量〕 (i)
を満たすことが好ましい。
なお、〔星型ブロック共重合体の数平均分子量〕/〔腕重合体ブロックの数平均分子量〕の比は腕数と呼ばれることがある。
【0028】
星型ブロック共重合体の数平均分子量を、腕重合体ブロックの数平均分子量の2倍を超える範囲にすることで、連続相中に分散した星型ブロック共重合体の分散相のせん断に対する機械的強度が高くなり、所望の靭性を得ることができる。なお、ブロック共重合体(B)としての星型ブロック共重合体の数平均分子量が、腕重合体ブロックの数平均分子量の100倍より大きいものは合成が難しいので、工業的に好ましい星型ブロック共重合体の数平均分子量は、腕重合体ブロックの数平均分子量の2倍より大きく且つ100倍以下であり、より好ましくは2.5〜50倍であり、さらに好ましくは3〜10倍である。
【0029】
なお、本発明に好適に用いられるブロック共重合体(B)は、星型ブロック共重合体を主成分とするものであるが、それ以外にカップリング剤残基によって連結していない腕重合体ブロックが含まれていてもよい。星型ブロック共重合体/カップリング剤残基によって連結していない腕重合体ブロックの質量比は、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(B)の製造方法によって特に限定されず、公知の手法に準じた方法を適用できる。一般に、分子量分布の狭いブロック共重合体を得る方法としては、構成単位となる単量体をリビング重合する方法が採用される。
リビング重合の手法としては、例えば、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用いてリビング重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の鉱酸塩等の存在下でリビングアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、有機アルミニウム化合物の存在下でリビングアニオン重合する方法、原子移動ラジカル重合(ATRP)法等が挙げられる。
【0031】
上記の製造方法のうち、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、有機アルミニウム化合物の存在下でリビングアニオン重合する方法は、比較的温和な温度条件下で、より分子量分布の狭く且つ残存単量体が少ないブロック共重合体を製造でき、工業的生産における環境負荷(主に重合温度を制御するために必要な冷凍機の消費電力)が少ないという点で好ましい。
【0032】
上記のリビングアニオン重合に用いる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好適である。有機リチウム化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、テトラメチレンジリチウム等のアルキルリチウムおよびアルキルジリチウム;フェニルリチウム、キシリルリチウム等のアリールリチウムおよびアリールジリチウム;ベンジルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムの反応により生成するジリチウム等のアラルキルリチウムおよびアラルキルジリチウム;リチウムジイソプロピルアミド等のリチウムアミド;メトキシリチウム等のリチウムアルコキシドが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記のリビングアニオン重合において用いる有機アルミニウム化合物としては、例えば、下記の一般式: AlR123 (viii)
(式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表すか、またはR1が前記したいずれかの基を表し、R2およびR3は一緒になって置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基を表す。)
で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
かかる有機アルミニウム化合物として、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウムは、取り扱いが容易であり、また、比較的温和な温度条件下で失活することなくリビングアニオン重合反応を進行させることができる点で特に好ましい。
【0034】
上記のリビングアニオン重合においては、必要に応じて反応系内にジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4−エーテル等のエーテル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ピリジン、2,2’−ジピリジル等の含窒素化合物をさらに共存させてもよい。
【0035】
星型ブロック共重合体は、上記のリビングアニオン重合等によって得られたブロック共重合体の反応混合液に多官能性単量体を添加して共重合させることによって、またはブロック共重合体の反応混合液に多官能性カップリング剤を添加してカップリング反応させることによって得られる。
多官能性単量体は、エチレン性不飽和基を2以上有する化合物であり、具体的には、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼン、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが挙げられる。
多官能性カップリング剤は、反応性基を3以上有する化合物であり、具体的には、トリクロロメチルシラン、テトラクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)エタン、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、テトラクロロゲルマニウムなどが挙げられる。
【0036】
本発明で用いるブロック共重合体(B)の製造は、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテルなどの重合反応に不活性な溶媒中で、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いてリビングアニオン重合する方法が好ましい。
【0037】
ブロック共重合体(B)をリビングアニオン重合により製造する方法をさらに具体的に例示する。例えば、有機アルカリ金属化合物からなる重合開始剤により重合体ブロック(b)を形成する単量体を重合し、所望の分子量の重合体ブロック(b)が得られたことを確認した後、反応混合物を所望の温度まで冷却し、有機アルミニウム化合物を添加する。次いで、重合体ブロック(a)を形成する単量体を添加し重合を行い、所望の重合体ブロック(b)−重合体ブロック(a)(リビングポリマー末端は重合体ブロック(a))を得る。星型ブロック共重合体を製造する場合には、さらに1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどの多官能性単量体または多官能性カップリング剤を反応系内に添加して反応させたのちに、活性末端をアルコールなどと反応させることで、重合体ブロック(b)−重合体ブロック(a)を腕重合体ブロックとする星型ブロック共重合体を製造できる。
【0038】
本発明に用いるメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)100質量部に対して、ブロック共重合体(B)を1〜80質量部、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部で含有している。ブロック共重合体(B)の含有量が1質量部よりも少ないとメタクリル系樹脂フィルム(I)の靭性向上の効果が小さい。ブロック共重合体(B)が多いと、ブロック共重合体(B)が分散相を形成し難くなる。また、メタクリル系樹脂フィルム(I)の表面硬度、剛性が低下する。さらにブツが生じやすくなり外観を損ねることもある。
【0039】
ブロック共重合体(B)を含んでなる分散相の平均径は、通常、0.05〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.08〜0.4μmである。分散相の平均径が小さいと取り扱い性が低下する傾向となり、分散相の平均径が大きいと透明性及び表面平滑性が低下する傾向となる。
【0040】
ブロック共重合体(B)を含んでなる分散相としてはブロック共重合体(B)からなる海相とメタクリル系樹脂(A)からなる島相の海島構造を成したものが含まれていることが好ましい。該分散相の海島構造は、メタクリル系樹脂組成物の成形板をダイヤモンドナイフを用いて切り出して超薄切片を得、かかる切片を四酸化オスミウムで染色し、透過型電子顕微鏡を用いて観察することによって確認できる。
【0041】
四酸化オスミウムによる染色では、ブロック共重合体(B)中の重合体ブロック(b)が染色される。海島構造の分散相は染色された部分(ブロック共重合体(B))からなる海相と染色されていない部分(メタクリル系樹脂(A))からなる島相とで構成されている。
該島相の平均径は、通常、0.01〜0.2μm、好ましくは0.05〜0.1μmである。
成形板切片において観察される島相/海相の面積比は、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70〜70/30である。
また、海島構造を成した分散相の割合が、全分散相の20質量%以上であることが好ましく、30〜100質量%であることがより好ましい。
【0042】
本発明に用いるメタクリル系樹脂組成物は、その製造方法によって特に制限されない。例えば、連続相を構成するメタクリル系樹脂(A)に、分散相を構成するブロック共重合体(B)を添加し、単軸または2軸の溶融押出機等で溶融混練することによって得ることができるが、本発明においては、ブロック共重合体(B)を、メタクリル酸メチルを50質量%以上含む単量体混合物(Am)に溶解させ、せん断下で単量体混合物(Am)の重合を行い、重合途中において単量体混合物(Am)の重合体の溶液相とブロック共重合体(B)の溶液相を相反転させる方法で得ることが好ましい。
【0043】
該メタクリル系樹脂組成物の好ましい製造方法を詳細に説明する。まず、ブロック共重合体(B)を、メタクリル酸メチル50〜100質量%およびメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体0〜50質量%からなる単量体混合物(Am)および必要に応じて溶剤(E)に溶解して、原料液を調製する。
【0044】
単量体混合物(Am)に用いられるメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体は前記したものと同じものである。
本発明に使用する溶剤(E)は、単量体混合物(Am)、単量体混合物(Am)の重合体(すなわち、メタクリル系樹脂(A))、およびブロック共重合体(B)に対して溶解能を有するものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、必要に応じて、2種類以上の溶剤を混合して用いても良い。混合溶剤を用いる場合には、単量体混合物(Am)、メタクリル系樹脂(A)およびブロック共重合体(B)を溶解できる混合溶剤であれば、単量体混合物(Am)、メタクリル系樹脂(A)およびブロック共重合体(B)を溶解できない溶剤が該混合溶剤に含まれていてもよい。例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ヘキサン等の炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が混合溶剤に含まれていてもよい。
【0045】
原料液中のブロック共重合体(B)の量は、単量体混合物(Am)100質量部に対して1〜80質量部であり、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは4〜20質量部である。ブロック共重合体(B)の量が1質量部未満では、メタクリル系樹脂フィルム(I)の靭性向上の効果が小さい。ブロック共重合体(B)の量が80質量部よりも多くなると、ブロック共重合体(B)が分散相を形成し難くなる。また、メタクリル系樹脂フィルム(I)の弾性率が低下し、メタクリル系樹脂が有する優れた剛性を失うことになる。
【0046】
ブロック共重合体(B)の溶解は攪拌によって促進され、30〜60℃程度に加熱することによりさらに促進される。また、原料液を調製する際、必要に応じて上記溶剤(E)を使用することができる。
【0047】
原料液中の溶剤(E)の量は、単量体混合物(Am)100質量部に対して、通常、0〜100質量部、好ましくは0〜90質量部である。溶剤(E)の量が多いほど原料液の粘度が下がり取り扱い性が良好となるが、反面、連鎖移動反応などの副反応を引き起こし、グラフト反応および架橋反応を阻害することがあり、生産性が低下する傾向となる。
【0048】
次に、原料液を重合する。原料液の重合によって、単量体混合物(Am)の重合反応が進行するのと同時に、ブロック共重合体(B)と単量体混合物(Am)との間でグラフト反応および/または架橋反応が進行する。原料液の重合には、ラジカル重合開始剤が通常用いられる。また必要に応じて連鎖移動剤が用いられる。
【0049】
ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキシルカルボニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、ラジカル重合開始剤の添加時期や添加方法等は、所定の重合反応が進行するものであれば特に限定されないが、重合開始時に仕込んだラジカル重合開始剤で前段重合を行い、反応の途中でラジカル重合開始剤を追加添加して後段重合を行うことが好ましい。
【0050】
連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート等のアルキルメルカプタン;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレン等を挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
原料液の重合では、重合初期から相反転が生じるまでは、原料液にせん断力を与えることが重要である。重合初期では、単量体混合物(Am)の重合が主に進行してメタクリル系樹脂(A)が生成する。重合転化率の増加とともに、単量体混合物(Am)の重合で生成したメタクリル系樹脂(A)の溶液相の割合が多くなり、メタクリル系樹脂(A)の溶液相とブロック共重合体(B)の溶液相とが相分離してくる。
【0052】
重合反応の進行に伴って、相全体を安定化させる為の作用が働き、撹拌によるせん断力によって、メタクリル系樹脂(A)の溶液相とブロック共重合体(B)の溶液相とが相反転し、メタクリル系樹脂(A)の溶液相が連続相になりブロック共重合体(B)の溶液相が分散相になる。相反転が起きると粘度が低下する。この相反転が起きる際の単量体混合物(Am)の重合転化率は、メタクリル系樹脂(A)の溶液相とブロック共重合体(B)の溶液相の体積比、ブロック共重合体(B)の分子量、相反転前までのブロック共重合体(B)へのグラフト率、溶剤を用いた場合には溶剤量や溶剤種によって変化する。
【0053】
原料液にせん断力を与えながら重合を行うための装置としては、攪拌機付きの槽型反応器、攪拌機付きの筒型反応器、静的攪拌能力を有する筒型反応器等が挙げられる。これらの装置は1基以上であっても良く、また、異なる反応器2基以上の組合せでもよい。また、重合反応器は回分式または連続式のいずれでも良い。なお、原料液の重合は、重合初期から相反転が生じるまでは、塊状重合法または溶液重合法で行うことが好ましい。
【0054】
分散相の径は、攪拌機付反応器であれば攪拌回転数などの因子によって;塔型反応器に代表される静的攪拌反応器であれば反応液の線速度、重合系の粘度、相反転前までのブロック共重合体(B)へのグラフト率など種々の因子によって制御可能である。
【0055】
相反転が生じた後の重合には、塊状重合法または溶液重合法が適用できるが、これら以外に懸濁重合法、注型重合法も適用できる。
【0056】
本発明においては、単量体混合物(Am)の重合転化率を70質量%以上にすることが好ましく、80質量%以上にすることがより好ましい。重合転化率がこれよりも低いと、相反転により形成したブロック共重合体(B)を含んでなる分散相内の架橋反応およびグラフト反応が十分に進行しにくい。架橋反応およびグラフト反応が十分に進行していない場合、メタクリル系樹脂組成物中の分散相は、押出機や混練機などの機械的なせん断により容易に破壊され、衝撃強度が十分でなくなると同時に、成形加工法によって機械的強度が変化する恐れがある。架橋反応及びグラフト反応をより進め、衝撃強度を高めるためには、重合開始剤を反応途中において追加添加することが好ましい。一方、重合転化率は95質量%以下であることが好ましい。95質量%を超えるとメタクリル系樹脂(A)からなる連続相の分子量分布が広くなり、靭性が低下する傾向となる。
【0057】
尚、重合途中におけるブロック共重合体(B)を含んでなる分散相生成の有無及び分散相の径は、重合途中の反応混合液の一部を抜き取り、それを懸濁重合し、得られたメタクリル系樹脂組成物のモルフォロジーを走査型電子顕微鏡で観察する方法、あるいは重合途中の反応混合液の一部を抜き取り、それを乾燥、脱揮することで未反応単量体および溶剤を除去し、その組成物のモルフォロジーを走査型電子顕微鏡で観察する方法により確認できる。
【0058】
単量体混合物(Am)の重合転化率が70質量%〜95質量%になった後、脱揮処理して、未反応単量体及び溶剤を除去する。脱揮法としては、平衡フラッシュ方式や断熱フラッシュ方式が挙げられる。特に断熱フラッシュ方式では、好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜270℃の温度で脱揮を行う。200℃未満では脱揮に時間を要し、脱揮不十分なときにはメタクリル系樹脂フィルム(I)にシルバー等の外観不良を起こすことがある。逆に300℃を超えると酸化、やけなどによってメタクリル系樹脂フィルム(I)に色が着くことがある。脱揮に用いられる装置としては、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機などが挙げられる。残存揮発分は0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。残存揮発分が0.5質量%を超えると、メタクリル系樹脂フィルム(I)にシルバー等の外観不良が起き易くなる。
【0059】
メタクリル系樹脂組成物には、必要に応じて公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、柔軟性改質剤、蛍光体などを添加することができる。また、メタクリル系樹脂組成物は、工業的に入手可能なメタクリル樹脂(F)で希釈して使用することもできる。また、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、スチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等他の樹脂と混合して使用することもできる。
【0060】
必要に応じてメタクリル系樹脂組成物の希釈に用いるメタクリル樹脂(F)は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位80質量%以上およびメタクリル酸メチルと共重合可能なビニル系単量体に由来する構成単位20質量%以下から構成される。ここで共重合可能なビニル系単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。これらのビニル系単量体は、1種または2種以上を併用することができる。
【0061】
メタクリル樹脂(F)の極限粘度は、0.3〜1.0dl/gであるのが好ましい。メタクリル樹脂(F)の極限粘度が0.3未満の場合、得られるメタクリル系樹脂組成物を溶融成形する際の粘性が低下する傾向となる。一方、極限粘度が1.0dl/g以上の場合、溶融成形する際の流動性が低下する傾向となる。メタクリル樹脂(F)を配合する場合、その配合量は、メタクリル系樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは1〜100質量部であり、より好ましくは5〜70質量部である。メタクリル樹脂(F)の配合量が100質量部を超えると、得られるメタクリル系樹脂フィルム(I)の取り扱い性が低下する傾向となる。
【0062】
希釈に用いられるメタクリル樹脂(F)は、上記条件を満たせば、一般にメタクリル樹脂として市販されているもの、およびISO 8257−1:1997(E)「プラスチック ― ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)成形用および押し出し用材料」("Plastics - Poly(Methyl Methacrylate) (PMMA) molding and extrusion material -")に規定されている材料を包含する。
【0063】
メタクリル樹脂(F)の製造方法については特に制限がなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の公知の重合方法を採用することができる。
【0064】
本発明に用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)は、前記メタクリル系樹脂組成物をフィルム成形することによって得られる。フィルム成形法としては、溶融流延法、Tダイによる押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などの公知の成形方法を採用できるが、経済性の点からTダイによる押出成形法が好ましい。
押出成形法によれば、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れ、延伸した時、折り曲げた時、衝撃を受けた時および/または長時間湿熱条件下に置かれた時に白化しにくいメタクリル系樹脂フィルム(I)を得ることができる。
【0065】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)を得るための方法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのメタクリル系樹脂フィルム(I)が得られるという観点からは、溶融されたメタクリル系樹脂組成物をTダイから溶融状態で押出し、その押出成形体の両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましい。この際に用いるロールまたはベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。このように押出成形体の両面を鏡面に接触させて成形する場合には、押出成形体両面から鏡面ロールあるいは鏡面ベルトで加圧し挟むことが好ましい。鏡面ロールあるいは鏡面ベルトによる挟み込み圧力は高いほうが好ましく、線圧として10N/mm以上であることが好ましく、30N/mm以上であることがより好ましい。
【0066】
また、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのメタクリル系樹脂フィルムが得られるという観点からは、鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの少なくとも一方の表面温度を60℃以上で且つ鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの両方の表面温度を130℃以下とすることが好ましい。鏡面ロールあるいは鏡面ベルトの両方の表面温度が60℃未満であると得られるメタクリル系樹脂フィルム(I)の表面平滑性が不足しヘイズが高めになる傾向となる。少なくとも一方の表面温度が130℃を超えると該メタクリル系樹脂フィルム(I)と鏡面ロールあるいは鏡面ベルトが密着しすぎるため、鏡面ロールあるいは鏡面ベルトからメタクリル系樹脂フィルム(I)を引き剥がす際に表面が荒れやすくなり、得られるメタクリル系樹脂フィルム(I)の表面平滑性が低くなるか、またはヘイズが高くなる傾向となる。
【0067】
押出成形法における樹脂温度は、好ましくは160〜260℃、より好ましくは220〜250℃である。溶融成形後は、メタクリル系樹脂フィルム(I)を自然放冷に比べて急速に冷却することが好ましい。例えば、成形された直後のメタクリル系樹脂フィルム(I)を冷却ロールに接触させて急速冷却することが好ましい。このような急速な冷却を行うことによって、メタクリル系樹脂(A)からなる連続相にブロック共重合体(B)が分散相として含有するメタクリル系樹脂フィルムを得ることができる。
【0068】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)のヘイズは、厚さ100μmにおいて、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。これにより、切断時や打抜時等での取扱い性に優れるとともに、表面光沢や透明性に優れる。また、液晶保護フィルムや導光フィルムなどの光学用途においては、光源の利用効率が高まり好ましい。さらに、表面賦形を行う際の賦形精度に優れるため好ましい。
【0069】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)の厚さは、通常300μm以下であり、好ましくは30〜300μmであり、より好ましくは50〜200μmである。30μmより厚いと良好な二次加工性が得られる。また、300μmより薄いと、剛性が小さくなるためラミネート性、二次加工性が良好となる。
【0070】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)は、少なくとも一方の面に、印刷が施されていてもよい。印刷によって絵柄、文字、図形などの模様、色彩等が付与される。模様は有彩色のものであっても、無彩色のものであってもよい。印刷は、印刷層の退色を防ぐために、後述する基材と接する側に施すのが好ましい。
【0071】
本発明で用いるメタクリル系樹脂フィルム(I)は、その表面がJIS鉛筆硬度(厚さ100μm)で好ましくはHBまたはそれよりも硬く、より好ましくはFまたはそれよりも硬く、さらに好ましくはHまたはそれよりも硬い。表面が硬いメタクリル系樹脂フィルムを用いることにより、本発明の積層フィルムの表面硬度も高まるため好ましい。
【0072】
メタクリル系樹脂フィルム(I)は着色されていてもよい。着色法としては、メタクリル系樹脂組成物に、顔料又は染料を含有させて成形前の樹脂組成物自体を着色する方法;メタクリル系樹脂フィルム(I)を、染料が分散した液中に浸漬して着色させる染色法などが挙げられるが、特に限定されない。
【0073】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)は、アクリル系ブロック共重合体(C)を含有する樹脂組成物からなる。
【0074】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を構成するアクリル系ブロック共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が50℃以上の重合体ブロック(c)を2以上、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が20℃以下の重合体ブロック(d)を1以上有する。このようなアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物は溶融加工性に優れ、該組成物から形成されるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)は、柔軟性、耐光性、透明性に優れる。
【0075】
上記重合体ブロック(c)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの付加重合によって得られるものである。
例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0076】
これらの中でも、得られるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸メチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。重合体ブロック(c)は、これらメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの1種から合成されていても、2種以上から合成されていてもよい。また、上記アクリル系ブロック共重合体(C)には、重合体ブロック(c)が2つ以上含まれるが、それら重合体ブロック(c)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
上記重合体ブロック(d)の合成に用いられる単量体としては、例えば、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチルなどのメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチルなどが挙げられる。
【0078】
これらの中でも、得られるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の柔軟性およびメタクリル系樹脂フィルム(I)への追従性を向上させる観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチルなどのアクリル酸エステルが好ましい。
重合体ブロック(d)は、これらのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの1種から合成されていても、2種以上から合成されていてもよい。また、上記アクリル系ブロック共重合体(C)に、重合体ブロック(d)が2つ以上含まれる場合には、それら重合体ブロック(d)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0079】
本発明に用いるアクリル系ブロック共重合体(C)の特性を損なわない範囲で、上記重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)の合成に用いる単量体として、さらに、反応基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。反応基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。これらは通常少量で使用されるが、各重合体ブロックの合成に使用する単量体の全質量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下の量で使用される。
【0080】
また、本発明に用いるアクリル系ブロック共重合体(C)の特性を損なわない範囲で、上記重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)の合成に用いる単量体として、必要に応じて他の単量体を併用してもよい。
【0081】
かかる他の単量体としては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、オクテン、酢酸ビニル、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。これらの単量体を用いる場合は、通常少量で使用するが、各重合体ブロックの合成に使用する単量体の全質量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下の量で使用する。
【0082】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(C)は、上記重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)の他に、必要に応じ、他の重合体ブロックを有していてもよい。
他の重合体ブロックとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、オクテン、酢酸ビニル、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの単量体から合成される重合体ブロック又は共重合体ブロック;ポリエチレンテレフタレート、ポチブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサンからなる重合体ブロックなどが挙げられる。また、上記重合体ブロックには、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンを含む単量体から合成された重合体ブロックの水素添加物も含まれる。
【0083】
本発明のアクリル系ブロック共重合体(C)に含まれる重合体ブロックの結合形態は特に限定されないが、少なくとも1つの重合体ブロック(d)の両端に重合体ブロック(c)が結合した形態を有することが、本発明のアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の耐熱性、力学強度、表面膠着などの観点から好ましい。上記共重合体としては、例えば、重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c)のトリブロック共重合体、重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)のテトラブロック共重合体が挙げられる。中でも、製造が容易である点、表面膠着が少ない点から、重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c)のトリブロック共重合体がより好ましい。
【0084】
本発明における重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)のガラス転移温度は、アクリル系ブロック共重合体(C)を示差走査熱量計(DSC)により分析して得られる曲線において認められる重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)の転移領域の外挿開始温度(Tgi)である。具体的な測定方法としては、以下の実施例の項目において詳述した方法が採用される。上記DSC測定で得られる曲線に基づけば、本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(C)では、重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)に由来する複数のガラス転移温度が求められる。重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)に由来するガラス転移温度は、それぞれの重合体ブロックと同様の化学構造(モノマー組成、立体規則性等)を有する重合体のガラス転移温度と同一の、あるいは近い温度であるので、これら複数のガラス転移温度がどの重合体ブロックに由来するものか、容易に判定できる。なお、重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)と同様の化学構造を有する重合体は、アクリル系ブロック共重合体(C)を1H−NMR、13C−NMRなどで分析して、重合体ブロック(c)及び重合体ブロック(d)のモノマー組成、立体規則性などの化学構造を求め、その化学構造が再現されるように適宜、重合を行うことにより製造できる。
【0085】
上記アクリル系ブロック共重合体(C)の分子量は特に限定されないが、本発明のアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の成形性の観点から、GPC測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000〜500,000であることが好ましく、20,000〜300,000であることがより好ましい。
【0086】
本発明のアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の成形方法としては、溶融押出成形法、溶融射出成形法、溶液キャスト法などが挙げられるが、いずれの成形方法においても、成形時の流動性から上記の範囲の重量平均分子量が好ましい。
【0087】
上記アクリル系ブロック共重合体(C)の分子量分布は、本発明のアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の表面の膠着性及び透明性の観点から、重量平均分子量/数平均分子量の値が1.01〜2.20であることが好ましく、1.05〜1.60であることがより好ましい。分子量分布が上記範囲より大きい場合は、高分子量体が多くなり透明性が損なわれたり、低分子量成分が多くなり表面膠着が酷くなる欠点が発生する場合がある。また、分子量分布が上記範囲より小さい場合は、成形性に好影響する低分子量成分や力学特性に好適に寄与する高分子量成分の組成比が小さくなり、結果として、成形性が損なわれたり、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)として必要な力学特性が損なわれる場合がある。
【0088】
上記アクリル系ブロック共重合体(C)は、必要に応じて、分子鎖中又は分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、トリメトキシシリル基などの官能基を有していてもよい。
【0089】
本発明のアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)は、用途によっては特に優れた光透過性を必要とするため、上記アクリル系ブロック共重合体(C)は、透明性に優れている必要がある。具体的には、該アクリル系ブロック共重合体(C)から得られる厚み3mmのシートの全光線透過率が、88%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましい。
【0090】
上記アクリル系ブロック共重合体(C)は、上述した光学特性を有することが好適である。そのような光学特性を有するためには、アクリル系ブロック共重合体(C)には、分子量分布が狭いことが好ましく、このような高純度のアクリル系ブロック共重合体(C)を製造する方法としては、分子構造を高度に制御できるリビング重合方法が好ましい。
【0091】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(C)の製造方法としては、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い、有機アルミニウム化合物の存在下でリビングアニオン重合する方法が好ましい(特許文献2参照)。
【0092】
上記のリビングアニオン重合に用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好適である。
有機リチウム化合物の具体例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、テトラメチレンジリチウム等のアルキルリチウムおよびアルキルジリチウム;フェニルリチウム、キシリルリチウム等のアリールリチウムおよびアリールジリチウム;ベンジルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムの反応により生成するジリチウム等のアラルキルリチウムおよびアラルキルジリチウム;リチウムジイソプロピルアミド等のリチウムアミド;メトキシリチウム等のリチウムアルコキシドが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0093】
上記のリビングアニオン重合において用いられる有機アルミニウム化合物としては、例えば、下記の一般式:
AlR123 (viii)
(式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表すか、またはR1が前記したいずれかの基を表し、R2およびR3は一緒になって置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基を表す。)
で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
かかる有機アルミニウム化合物として、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウムは、取り扱いが容易であり、また、比較的温和な温度条件下で失活することなくアニオン重合反応を進行させることができる点で特に好ましい。
【0094】
上記のリビングアニオン重合においては、必要に応じて、反応系内にジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、12−クラウン−4−エーテル等のエーテル;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ピリジン、2,2’−ジピリジル等の含窒素化合物をさらに共存させることができる。
【0095】
また、上記リビングアニオン重合は、通常、重合反応に不活性な溶媒の存在下で行われる。かかる溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテルなどが挙げられる。上記アニオン重合の重合温度、重合時間については重合反応の失活を抑える観点から、−30〜20℃かつ10秒〜20時間が好ましく、冷却効率と得られるブロック共重合体の物性の観点から−20〜10℃かつ1分〜10時間程度がより好ましい。
【0096】
アクリル系ブロック共重合体(C)を有機アルミニウム化合物の存在下でリビングアニオン重合により製造する方法を、さらに具体的に例示する。例えば、有機アルミニウム化合物の存在下、有機アルカリ金属化合物からなる重合開始剤により、重合体ブロック(c)を形成する単量体を重合する第1工程、重合体ブロック(d)を形成する単量体を重合する第2工程、及び、重合体ブロック(c)を形成する単量体を重合する第3工程を含む3段階以上の重合工程を経て、アクリル系ブロック共重合体を製造できる。
【0097】
上記製造方法では、各工程で生成されたリビングポリマー末端に、次工程で、所望の重合体ブロックが形成されることになる。したがって、例えば、連続して上記3段階の重合工程を経て、さらに得られた重合体の活性末端をアルコールなどと反応させ、重合反応を停止させることにより、重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c)からなる3元ブロック共重合体を製造できる。ここで、4元以上のブロック共重合体は、上記三段階の工程の後に、さらに単量体を重合して所望の重合体ブロック(重合体ブロック(c)、重合体ブロック(d)など)を形成する工程を所望の回数追加し、さらに得られた重合体の活性末端をアルコールなどと反応させ、重合反応を停止させることにより製造できる。
【0098】
アクリル系ブロック共重合体の重合体ブロック(c)と重合体ブロック(d)との組成比(重合体ブロック(c)/重合体ブロック(d))は、質量比として20/80〜80/20であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。重合体ブロック(c)/重合体ブロック(d)の組成比が上記範囲より小さい場合には、粘着が酷くなり傷ツキや埃の付着により表面性が損なわれる場合があり、また、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の形状保持性が悪くなり取扱い性が低下する場合がある。重合体ブロック(c)/重合体ブロック(d)の組成比が上記範囲より大きい場合には、アクリル系ブロック共重合体の有する柔軟性が十分に発現しない傾向にある。
また、後述する金属化合物の層との接着力を向上させる観点からは、80/20〜20/80の範囲内にあることが好ましい。
【0099】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)に用いる組成物には、上記アクリル系ブロック共重合体(C)が必須成分として含まれる。また、該組成物には、上記アクリル系ブロック共重合体(C)が1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0100】
上記組成物中の該アクリル系ブロック共重合体(C)の含有量は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はないが、上記組成物の全質量に対して、30質量%〜100質量%であることが好ましく、50質量%〜100質量%であることがより好ましい。
【0101】
上記組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体や、軟化剤、滑剤、可塑剤、粘着剤、粘着付与剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、着色剤、染色剤、フィラーなどの添加剤が含まれていてもよい。これら他の重合体及び添加剤は、組成物中に、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0102】
かかる他の重合体としては、例えばポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂(G);ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーンゴム変性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、上記組成物に含まれるアクリル系ブロック共重合体との相溶性の観点から、アクリル樹脂(G)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、AS樹脂、ポリ乳酸、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。これらの他の重合体が含まれる場合には、1種のみでも2種以上含まれてもよい。
【0103】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の透明性、成形加工性等を向上させる観点から、上記他の重合体の中でも、アクリル樹脂(G)を含有することが好ましい。アクリル樹脂(G)は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位80質量%以上およびメタクリル酸メチルと共重合可能なビニル系単量体に由来する構成単位20質量%以下からなる。共重合可能なビニル系単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。これらのビニル系単量体は、1種または2種以上を併用することができる。これらの中でも、アクリル系ブロック共重合体(C)との相溶性の観点、およびアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の透明性、成形加工性の観点から、共重合可能なビニル単量体は、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステルであることが好ましく、これらのメタクリル酸エステルの1種または2種以上を用いることができる。
【0104】
アクリル樹脂(G)が共重合体である場合、共重合の形態には特に制限はなく、ランダム共重合、ブロック共重合、交互共重合などが一般的に用いられる。
アクリル樹脂(G)の極限粘度に特に制限はないが、0.3〜1.0dl/gであることが好ましい。また、アクリル樹脂(G)は、1種単独で用いることができるが、極限粘度が異なる2種以上のアクリル樹脂(G)の混合物を用いることもできる。
【0105】
本発明で用いるアクリル樹脂(G)は上記条件を満たせば、一般にアクリル樹脂として市販されているもの、およびISO 8257−1:1997(E)「プラスチック −ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)成形用および押し出し用材料」(”Plastics-Poly(Methyl Methacrylate)(PMMA) molding and extrusion material-“)に規定されている材料を包含する。かかる市販されているアクリル樹脂としては、例えば「パラペットH1000B」、「パラペットGF」、「パラペットEH」、「パラペットHR―L」および「パラペットG」[いずれも商品名、株式会社クラレ製]などが挙げられる。
【0106】
アクリル樹脂(G)の製造方法には特に制限がなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の公知の重合方法を採用することができる。
【0107】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の表面平滑性の向上および柔軟性を保持する観点から、アクリル系ブロック共重合体(C)とアクリル樹脂(G)との質量比〔(C)/アクリル樹脂(G)〕は100/0〜20/80であることが好ましく、100/0〜40/60であることがより好ましい。
【0108】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物は、着色性・染色性に優れ、得られる複層フィルムに所望の色を付与することができ、美感に優れる複層フィルムを得ることができる。
着色成分としては、メタクリル樹脂中に均一に分散してこれを着色する従来公知の染料や顔料が挙げられる。染料としては、例えばアントラキノン系化合物、フタロシアニン系化合物、ペリノン系化合物、ジオキサジン系化合物、ベンゾフラン系化合物、チオフェンモノアゾ系化合物、シアニン系化合物、ジインモニウム系化合物等が挙げられる。アントラキノン系化合物の具体例としては、三菱化学社製の「ダイアレジン(登録商標)ブラックB」、「ダイアレジン(登録商標)ブルーN」、「ダイアレジン(登録商標)レッドK」、住化ケムテックス社製の「スミプラスト(登録商標)ブラックH3B」、「スミプラスト(登録商標)レッドHFG」、「スミプラスト(登録商標)バイオレットRR」、有本化学工業社製の「プラストレッド8320」、ランクセス社製の「マクロレックス(登録商標)レッド5BFG」、「マクロレックス(登録商標)バイオレット3RFG」、「マクロレックス(登録商標)グリーン5BFG」等が挙げられ、フタロシアニン系化合物の具体例としては、大日本インキ化学工業社製の「ファンストゲンブルーRRFG」、BASFジャパン社製の「ヘリオゲングリーンK−8730」等が挙げられ、ペリノン系化合物の具体例としては、三菱化学社製の「ダイアレジン(登録商標)オレンジHS」「ダイアレジン(登録商標)レッドHS」、「ダイアレジン(登録商標)レッドA」、ランクセス社製の「マクロレックス(登録商標)オレンジ3G Gran」、「マクロレックス(登録商標)レッドEG Gran」、住化ケムテックス社製の「スミプラスト(登録商標)レッドH3G」等が挙げられる。
【0109】
また、顔料としては、群青、雲母、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、チタンイエロー、架橋ポリスチレン粒子、シリコン粒子等が挙げられる。その具体例としては、第一化成社製の「群青♯1500」、メルクジャパン社製の「イリオジン(登録商標)7219 ウルトラライラック」、「イリオジン(登録商標)153 フラッシュパール」、三菱化学社製の「カーボンブラックMCF88」、山陽色素社製の「ファインコール カーボンブラックN−29」、「ファインコール ブラウンTG834」、ランクセス社製の「バイフェロックス(登録商標)110M」、日本化学工業社製の「AD硫酸バリウム」、根本特殊化学社製の「ルミパールDSN−30」等が挙げられる。
【0110】
なお、これら他の重合体及び添加剤は、上記組成物を成形してアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を製造する際に、添加されてもよい。
【0111】
上記組成物はアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)として用いられるため、用途によっては特に優れた光透過性を必要とする。具体的には、組成物から得られる厚み3mmのシートの全光線透過率は、88%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0112】
アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)に用いる上記アクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物は、フィルムとして使用する際に、その形態を保持可能な弾性率と柔軟性とが必要となる。そのため、該アクリル系ブロック共重合体(C)は、25℃での引張弾性率が100MPa〜2500MPaであることが好ましく、200MPa〜2000MPaであることがより好ましい。
【0113】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の厚さは、通常300μm以下であり、好ましくは10〜300μmであり、より好ましくは25〜200μmである。300μmより薄いと、柔軟性に優れ、ラミネート性、二次加工性が良好となる。
【0114】
本発明に用いるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の製造方法は、上記メタクリル系樹脂フィルム(I)と同様の方法にて成形することができる。
【0115】
(複層フィルム)
本発明の複層フィルムは、上記した製造方法により得られたメタクリル系樹脂フィルム(I)からなる第1層と、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)からなる第2層を積層することにより得られる。
本発明の複層フィルムは、後述する種々の物品の表面に通常、第1層を最外層となるように配置して用いる。
本発明の複層フィルムの厚さは、40〜600μmであることが好ましく、75〜400μmであることがより好ましい。メタクリル系樹脂フィルム(I)とアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の厚さの比[(I)/(II)]は、30/1〜1/10であることが好ましく、8/1〜1/2であることがより好ましい。上記範囲内であると、加工性に優れた複層フィルムを得られやすく、温度変化に伴う膨張係数の違いから発生するフィルムと種々の基材との剥離を抑制しやすい。
【0116】
本発明の複層フィルムは、前記メタクリル系樹脂フィルム(I)とアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)とを別々に用意しておき、加熱ロール間で連続的にラミネートする方法、プレスで熱圧着する方法、圧空又は真空成形すると同時に積層する方法;メタクリル系樹脂フィルム(I)に、溶融された、アクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物を流延する方法;メタクリル系樹脂組成物およびアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物とを共押出成形する方法;などで得ることができる。
【0117】
メタクリル系樹脂フィルム(I)とアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)との熱圧着は、熱プレス機、熱ロール機などの公知の手段を用いて行うことができる。熱圧着時の温度は通常100〜200℃である。
また、メタクリル系樹脂フィルム(I)を金型内等に設置し、溶融されたアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物を前記メタクリル系樹脂フィルム(I)上に流し込んで、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の成形と同時に複層フィルムを得ることもできる。
【0118】
共押出法による製造では、溶融されたメタクリル系樹脂組成物と、溶融された、アクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物とを、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式などの共押出用のダイに流し入れ、それぞれを、同時に押出す。溶融されたメタクリル系樹脂組成物、および溶融された、アクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物のそれぞれの温度は、メタクリル系樹脂組成物とアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物との界面の乱れが少なくなるように適宜調整される。共押出されたアクリル系ブロック共重合体(C)を含む組成物は、メタクリル系樹脂フィルム(I)の製造に関する説明において述べたのと同様に、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましい。鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面の温度や線圧などは、適宜選択できるが、メタクリル系樹脂フィルム(I)の製造に関する説明において述べた条件範囲にすることが、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズの複層フィルムを得られる点で好ましい。
【0119】
本発明の複層フィルムは、第2層に種々の基材からなる第3層(以下、単に「第3層」と称する場合がある)を積層したものを含む。すなわち、かかる複層フィルムは第1層、第2層、第3層が、この順に積層されている。かかる第3層としては、例えば、樹脂成形品;金属;木板;織布、不織布等の繊維製多孔質体;ガラス等のセラミックス等が挙げられる。積層する際には、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)と、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)は、優れた熱接着性を有し、種々の基材との親和性にも優れるため、接着剤を用いることなく、加熱溶融接着による積層が可能である。
第2層に第3層を積層する方法としては、加熱ロールで連続的にラミネートする方法、プレスで熱圧着する方法、圧空又は真空成形すると同時に積層する方法、等が挙げられる。
【0120】
第2層に種々の基材を積層した本発明の複層フィルムは、優れた外観、強度、耐久性を有する。本発明の複層フィルムは、かかる第2層を基材と加熱溶融接着することで、接着剤を用いることなく基材に接着できるので、接着剤による複層フィルムの外観悪化、耐光性低下がなく、さらに接着剤の塗布工程が不要となるため、生産性がよい。また第2層の柔軟性によって、温度変化に伴う膨張係数の違いに基づく積層フィルムと基材との剥離の発生を抑制できる。
【0121】
かかる第3層を形成する基材のうち、、金属は第2層との接着強度が高く好ましい。かかる複層フィルムは、後述する種々の物品の表面に金属光沢感を与えることができるため、美感に優れ、且つ、強度を向上させることができる。またかかる複層フィルムは、金属層の種類によっては導電性能、可視光反射性能、赤外線反射性能、ガスバリア性能を付与することができる。第2層に金属からなる第3層を積層する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法など金属を蒸着する方法;イオンプレーティング法;鍍金法;金属製フィルムに積層フィルムの第2層側を重ねて熱接着する方法;等が挙げられる。
第2層に金属からなる第3層を積層する場合に、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)は、各種金属との密着性に優れるため、接着剤を用いたり、ポリウレタン、メラミン、エポキシ、などの熱硬化性樹脂からなるアンカー層を形成することなく界面強度の高い複層フィルムが得られる。接着剤やアンカー層を用いないことで、作業工程が簡略化するとともに、接着剤やアンカー層による汚染などに起因する不良品の発生を抑えられる。
【0122】
上記、金属としては、所望の金属光沢色に応じて、アルミニウム、クロム、ニッケル、金、銀、銅、ゲルマニウム、酸化亜鉛、酸化硅素、フッ化マグネシウム、酸化錫、ITOなどの金属、これらの合金又は金属を含有する化合物が使用できる。
【0123】
上記金属膜の厚さは、使用される金属に期待される性能によるが、好ましくは1000オングストローム以下であり、より好ましくは10〜800オングストローム以下の範囲である。厚さが1000オングストロームを超えると膜厚が厚くなり、密着性が低下する傾向がある。
【0124】
本発明の複層フィルムは着色剤を含有していてもよい。この場合、着色剤は第2層に含有させることが複層フィルムの外観を向上させる上で好ましい。複層フィルムが第3層を備える場合、第3層を構成する基材の着色が困難であっても、所望の色で着色されたような外観を実現できる。例えば第3層が金属からなる場合、金属種や配合を変えたり、特殊な加工をしたりすることなく、所望の色と光沢感を両立できる。第2層に着色剤を含有させる方法としては、予め着色剤を含有させたアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を積層して第2層とすることが好ましい。
【0125】
本発明の複層フィルムは、メタクリル系樹脂フィルム(I)の優れた透明性、表面平滑性、表面硬度、耐温水白化性および良好な外観(低ブツ)を持つという特長、並びにアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の優れた透明性、柔軟性および各種基材との親和性を活かして、波板、カーポート、アーケード、バルコニーなどの屋根材、壁材、高速道路のフェンス、窓用遮熱フィルム等の建材・住宅設備用途;遮音壁、銘板、液晶表示カバー、タッチパネル、表示用ダミー缶、車両窓、パチンコ台、絶縁体等の工業・産業用途;液晶テレビの導光板や拡散板、プロジェクションTV等のフレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、LCD(携帯電話、ノートパソコン、モニター、TVなど)、PDP、プロジェクションテレビ用前面板、タッチパネル等に用いられる透明導電フィルム、レンズシートなどの光学用途、化粧板、ミラーなどのディスプレイ用途等の広範囲の物品に使用できる。
【0126】
本発明の複層フィルムは、優れた透明性および表面平滑性、高い表面硬度および耐温水白化性、良好な外観(低ブツ)および着色性を活かして、強度向上および加飾フィルムとして好適に使用することができ、種々の基材に強度および金属光沢感を付与することができる。例えば、車両内装、家具、ドア材、巾木等の建材用途に好適であり、建材用途の中でも耐水性が要求される外装、準外装用途に特に好適である。具体的に窓枠、玄関扉、雨戸、外壁に好適に用いることができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0128】
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)およびブロック共重合体(B)の生成率の測定
装置:東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8020)
カラム:東ソー社製TSKgel G2000HHR(1本)およびGMHHR−M(2本)を直列に連結
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)計
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0129】
(2)ガスクロマトグラフィー(GC)による仕込み単量体の重合転化率の測定
装置:島津製作所製ガスクロマトグラフ GC−14A
カラム:GL Sciences Inc.製 INERT CAP 1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)
分析条件:injection温度180℃、detector温度180℃、60℃(5分間保持)→昇温速度10℃/分→200℃(10分間保持)
【0130】
(3)側鎖ビニル結合量
ブロック共重合体(B)を重クロロホルムに溶解し試験液を得、1H−NMR(日本電子社製核磁気共鳴装置(JNM−LA400)を用いて該試験液を分析し、化学シフト4.7〜5.2ppm(以後、シグナルC0という。)の1,2−ビニルによるプロトン(=CH2)と、化学シフト5.2〜5.8ppm(以後、シグナルD0という。)のビニルプロトン(=CH−)の積分強度を求め、次式によって、側鎖ビニル結合量V0[モル%]を計算して求めた。
0=〔(C0/2)/{C0/2+(D0−C0/2)/2}〕×100 (iv)
【0131】
(4)ブロック共重合体(B)の構造、アクリル系ブロック共重合体(C)中の各重合体ブロックの構成割合
ブロック共重合体(B)の構造およびアクリル系重合体ブロックにおける各重合体ブロックの構成割合はH−NMR(H−核磁気共鳴)測定によって求めた。
・装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM−LA400」
・重溶媒:重水素化クロロホルム
【0132】
(5)屈折率(n
ブロック共重合体(B)が30質量%となるようトルエンに均一に溶解した。室温にて当該溶液およびトルエンの、密度およびアッベ屈折計による屈折率を測定し、下記式(v)〜(vii)の式を用いブロック共重合体(B)の屈折率を求めた。さらに、屈折率既知のポリメタクリル酸メチル(n=1.492)を同じ方法で測定し、この方法による屈折率測定の較正係数を求めて、ブロック共重合体(B)の屈折率を較正した。
[(n−1)/(n+2)]×V=r=一定 (v)
=w+w (vi)
=(1/ρ)−(1/W)×[(1/ρ)−(1/ρ)] (vii)
[nd:屈折率、V:比容、r:分子屈折、w:質量分率、ρ:密度、
下付き1:トルエン、下付き2:ブロック共重合体(B)、下付き3:溶液、
実測:V、nd3、V、nd
式(v)、式(vi)出典:高分子実験学第12巻「熱力学的・電気的および光学的性質」
昭和59年発行 共立出版
式(vii)出典:高分子実験学第11巻「高分子溶液」昭和57年発行 共立出版
【0133】
(5)ガラス転移温度(Tg)
重合体ブロック(a)として用いたポリアクリル酸n−ブチルのガラス転移温度(Tg)は、「POLYMER HANDBOOK FOURTH Edition, VI/199頁, Wiley Interscience, New York,1998」に記載の値(−49℃)を用いた。
また、重合体ブロック(b)として用いたポリブタジエンのガラス転移温度(Tg)は、「ANIONIC POLYMERIZATION, 434頁, MARCEL DEKKER,Inc. 1996」に記載の1,2−ビニル結合量とTgの関係より導かれる値を用いた。
また、重合体ブロック(c)として用いたポリメタクリル酸メチルおよび重合体ブロック(d)として用いたポリアクリル酸n−ブチルは、メトラー社製のDSC測定装置(DSC−822)を使用して、昇温速度10℃/分の条件でDSC測定して得られた曲線において、外挿開始温度(Tgi)をガラス転移温度(Tg)とした。
【0134】
(6)複層フィルムの透明性の評価
ISO14782に準拠して、厚さ1mmの積層フィルムのヘイズを測定した。
【0135】
(7)積層成形性
実施例又は比較例で得られた複層フィルムを目視で観察して、フローマークおよび第1層と第2層との界面における白化の有無を調べ、フローマークおよび層界面の白化のいずれも生じていない場合を良好(○)、フローマークおよび/または層界面の白化が生じていた場合を不良(×)として評価した。
【0136】
(8)密着性
メタクリル系樹脂フィルム(I)、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)、およびそれらを積層した複層フィルムを真空蒸着装置(SRC-10D、日本シンク技術(株)社製)にセットし、5×10−5torrの真空下で蒸着膜の厚みが100オングストロームになるようにアルミニウム蒸着を施し、金属層を有する複層フィルムを得た。JIS K5400に準拠した碁盤目状カットテープ剥離試験に供した。すなわち、カッターナイフで蒸着膜に1mm間隔で碁盤目状の切り疵を付け、100個の碁盤目を作り、その上に粘着テープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン製)を貼り付け、引き剥した後の結果を表2に示した。100個の升目の残りの数をカウントして、全く剥離のないものは、100/100とし、全ての升目が粘着テープと共に剥離した場合を0/100とした。また、一部試料については金属層を800オングストロームとした場合の密着性試験後の付着状態を光学顕微鏡により観察した。
【0137】
以下に示す合成例においては、化合物は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用した。また、化合物の移送及び供給は窒素雰囲気下で行った。
【0138】
《合成例1》 ブロック共重合体(B−1)の製造
(1)攪拌機付1.5リットルのオートクレーブに、トルエン801mlおよび1,2−ジメトキシエタン0.007mlを投入し、20分間窒素パージを行った。そこにsec−ブチルリチウムを1.3モル/l含有するシクロヘキサン溶液1.9mlを加え、次いでブタジエン97mlを加えて、30℃で3時間反応させてポリブタジエン重合体を含む反応混合物を得た。得られた反応混合物の一部をサンプリング分析した結果、該反応混合物中のブタジエン重合体は、数平均分子量(Mn)が48,700、分子量分布(Mw/Mn)が1.06、側鎖ビニル結合量が30モル%であり、ポリブタジエン(重合体ブロック(b))のガラス転移温度は−77℃であった。
(2)上記(1)で得られた反応混合物を−30℃に冷却し、0.45モル/lのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを含有するトルエン溶液18.1mlおよび1,2−ジメトキシエタン8.1mlを添加し、10分間撹拌した。
(3)次いで、上記(2)で得られた溶液を激しく撹拌しながら、アクリル酸n−ブチル71mlを添加し、−15℃で3時間重合させた。得られた反応混合物の一部をサンプリングし、GPC(ポリスチレン換算)により分子量を分析した結果、反応混合物中のポリブタジエン−ポリアクリル酸n−ブチルジブロック共重合体(腕重合体ブロック)は数平均分子量が80,000であり、その重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.02であることが判明した。また、ポリアクリル酸n−ブチル重合体ブロック(a)のガラス転移温度は−49℃であった。
(4)上記(3)で得られた反応混合物を−15℃で保持し、激しく攪拌したまま、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート2.1mlを加え30分間重合した。次いでメタノール約1mlを添加して重合を停止させた。(5)上記(4)で得られた反応混合物をメタノール8000mlに入れて析出させることにより、ブロック共重合体(B−1)が得られた。得られたブロック共重合体(B−1)の収率はほぼ100%であった。
【0139】
得られたブロック共重合体(B−1)は、星型ブロック共重合体と腕重合体ブロックとの混合物であった。ブロック共重合体(B−1)は、GPCの面積比より算出した星型ブロック共重合体の割合が92質量%であった。
星型ブロック共重合体は、その数平均分子量(Mn)が310,000(腕数=3.88)、そのMw/Mnが1.16であった。またブロック共重合体(B−1)は、ブタジエンに由来する構成単位からなる重合体ブロック(b)49質量%およびアクリル酸n−ブチルに由来する構成単位からなる重合体ブロック(a)51質量%からなるジブロック共重合体を腕重合体ブロックとして含むものであった。ブロック共重合体(B−1)の屈折率は1.492であった。
【0140】
《合成例2》ブロック共重合体(B−2)の製造
1,2−ジメトキシエタンを使用せず、ブタジエンの量を105mlに変え、アクリル酸n−ブチルの量を65mlに変えた以外は、合成例1と同様にしてブロック共重合体(B−2)を得た。得られたブロック共重合体(B−2)は、ブタジエンに由来する構成単位44質量%とアクリル酸n−ブチルに由来する構成単位56質量%とからなる星型ブロック共重合体を主成分として含むものであり、ブタジエンからなる重合体ブロック(b)は、ビニル結合量が10モル%、ガラス転移温度が−95℃であり、アクリル酸n−ブチルからなる重合体ブロック(a)は、ガラス転移温度が−49℃であった。ポリブタジエン−ポリアクリル酸n−ブチルジブロック共重合体(腕重合体ブロック)は数平均分子量が79,000であり、その重量平均分子量/数平均分子量の比(Mw/Mn)が1.02であった。また、星型ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は308,000(腕数=3.88)、そのMw/Mnは1.16であり、GPCの面積比より算出した星型ブロック共重合体の割合は93質量%であった。ブロック共重合体(B−2)の屈折率は、1.492であった。
【0141】
《合成例3》アクリル系ブロック共重合体(C−1)の合成
2リットルの三口フラスコ内部を脱気し、窒素置換した後、室温にてトルエン1040g、1,2−ジメトキシエタン100gを加え、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム32mmolを含有するトルエン溶液48gを加え、さらに、sec−ブチルリチウム8.1mmolを加えた。この混合液にメタクリル酸メチル72gを加えて、室温で1時間反応させた後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料1)。引き続き、重合液の内部温度を−25℃に冷却し、アクリル酸n−ブチル307gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液0.1gを採取した(サンプリング試料2)。続いて、メタクリル酸メチル72gを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌した。反応液にメタノールを4g添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノールに注ぎ、析出した沈殿物を得た(サンプリング試料3)。サンプリング試料1〜3を用いてH−NMR測定、GPC測定を行ない、その結果に基づいて、Mw(重量平均分子量)、Mw/Mn(分子量分布)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブロックとポリアクリル酸n−ブチル(PnBA)ブロックの質量比を求めたところ、最終的に得られた上記沈殿物は、PMMA−PnBA−PMMAのトリブロック共重合体(PMMA−PnBA−PMMA)であって、そのPMMAブロック部のMwは9,900、Mw/Mnは1.08であり、また、トリブロック共重合体全体のMwは62,000、Mw/Mnは1.19であり、各重合体ブロックの割合はPMMA(16質量%)−PnBA(68質量%)−PMMA(16質量%)であった。また、DSC測定によると、PMMAブロックのTgは110℃、PnBAブロックのTgは−47℃であった。
【0142】
《合成例4》アクリル系ブロック共重合体(C−2)の合成
上記の合成例3と同様の操作を行ない、分子量、共重合組成比の異なるトリブロック共重合体(A2)を合成した。得られたトリブロック共重合体全体のMwは62,000、Mw/Mnは1.11であり、トリブロック共重合体中のPMMAブロックの割合は50質量%であった。また、PMMAブロックのTgは112℃、PnBAブロックのTgは−47℃であった。
【0143】
《参考例1》メタクリル系樹脂組成物(1)の製造
(1)窒素で反応系内の酸素を除去した攪拌機及び採取管付オートクレーブに、精製されたメタクリル酸メチル57.8質量部、アクリル酸メチル3.0質量部およびトルエン35質量部を仕込み、次いでブロック共重合体(B−1)4.2質量部を添加して30℃で8時間攪拌し、ブロック共重合体(B−1)を均一に溶解させた。次いで、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(「パーヘキサC」 日本油脂社製、水素引抜能:35%、1時間半減期温度:111.1℃)0.0375質量部およびn−オクチルメルカプタン0.1質量部を加え均一に溶解させで原料液を得た。
原料液を、オートクレーブから一定量で排出し、温度125℃に制御された3Lの槽型反応器A(理論上の完全混合型反応器)に一定量で供給した。槽型反応器Aでの平均滞留時間45分間で重合を実施した。反応器Aの採取管より反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は44質量%であった。
(2)ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部において、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(「パーヘキサC」 日本油脂社製)を原料液全体に対して0.003質量部となるように反応器Aから一定流量で排出された液に添加し、該液を135℃に制御された5Lの槽型反応器B(理論上の完全混合型反応器)に一定流量で供給した。反応器Bでの平均滞留時間90分間で重合を実施した。反応器Bの採取管より反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は70質量%であった。
(3)ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部において、t−ブチルパーオキシベンゾエート(「パーブチルZ」 日本油脂社製)を原料液全体に対して0.02質量部となるように反応器Bから一定流量で排出された液に添加し、該液を内壁温度135℃に制御されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した管型反応器C(理論上のプラグフロー型反応器)に一定流量で供給した。管型反応器Cでの平均滞留時間10分間で重合を実施した。管型反応器Cの内圧は0.7MPaとした。管型反応器Cの排出口から反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は80質量%であった。
(4)管型反応器Cから一定流量で排出された液を、内壁温度140℃に制御されたノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した管型反応器Dに一定流量で供給された。管型反応器D(理論上のプラグフロー型反応器)での平均滞留時間50分間で重合を実施した。管型反応器Dの内圧は0.7MPaとした。管型反応器Dの排出口から反応液を分取した。ガスクロマトグラフィーによって測定された重合転化率は90質量%であった。
(5)管型反応器Dから一定流量で排出された液は230℃に加温され、260℃に制御された二軸押出機に一定流量で供給された。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分が分離除去されて、反応物がストランド状に押し出された。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル系樹脂組成物が得られた。残存揮発分は0.1質量%であった。
【0144】
《参考例2》メタクリル系樹脂組成物(2)の製造
参考例1において用いたブロック共重合体(B−1)をブロック共重合体(B−2)に変えた以外は、参考例1と同じ方法によって、ペレット状メタクリル系樹脂組成物を得た。
【0145】
《参考例3》メタクリル系樹脂フィルム(I−1)〜(I−2)の製造
前記ペレット状メタクリル系樹脂組成物(I−1)を、リップ横幅300mmおよび上下空隙0.3mmのTダイ押出成形機を通して溶融押出し、縦方向に延伸しながら引き取って厚さ200μmのフィルムを連続的に製造した。
【0146】
《参考例4》メタアクリル系樹脂フィルム(I−2)を、リップ横幅300mmおよび上下空隙0.2mmのTダイ押出成形機を通して溶融押出し、縦方向に延伸しながら引き取って厚さ100μmのフィルムを連続的に製造した。
【0147】
《参考例4》アクリル系ブロック共重合体フィルム(II−1)〜(II−2)の製造
前記アクリル系ブロック共重合体(C−1)、(C−2)と、後述するアクリル系樹脂を、下記の表1に示す配合割合で、二軸押出機により230℃で溶融混練した後、押出し、切断することによって、アクリル系ブロック共重合体(C−1)、(C−2)を含む組成物のペレットを製造した。このペレットを、リップ横幅300mmおよび上下空隙0.3mmのTダイ押出成形機を通して溶融押出し、縦方向に延伸しながら引き取って厚さ125μmのフィルムを連続的に製造した。得られたフィルムの厚さ等を表1に示す。
【0148】
【表1】

【0149】
《参考例5》
使用したアクリル樹脂、金属を下記に示す。
アクリル樹脂(G):パラペットGF、(株)クラレ製
金属:アルミニウム
【0150】
[実施例1〜4および比較例1]
上記参考例で得られたメタクリル系樹脂フィルム(I−1)〜(I−2)と、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II−1)〜(II−2)を、ロール幅700mmの熱ラミネート装置(VAII−700型、大成ラミネーター社製)を用いて155℃、回転速度0.2m/分、ロール圧力0.6MPaの条件下にて積層した。得られた複層フィルムの透明性、積層成形性の結果を表2に示す。
さらに、得られた複層フィルムのアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)側に、金属層(アルミニウム層)を、真空蒸着装置を用いる上記(8)に記載した方法で形成し、複層フィルムを得た。比較例1においては、メタクリル系樹脂フィルム(I)に直接金属層を複層した。得られた金属複層フィルムの金属層の密着性の結果を表2に示す。また、実施例1および比較例1の複層フィルムにおいて金属層を100オングストロームとした場合の密着性評価後の付着状態の写真を図1および図2に示す。
【0151】
[実施例5および比較例2]
実施例5および比較例2として、それぞれ実施例1および比較例1と同じフィルムを使用し、金属層を800オングストロームとした以外は同様の方法で、金属層を有する複層フィルムを作製した。密着性評価後の付着状態を光学顕微鏡により観察した結果を図3(実施例5)および図4(比較例2)に示す。
【0152】
【表2】

【0153】
表2の結果から、実施例1〜4の積層フィルムは、優れた透明性、積層成形性を有し、さらに、種々の金属層との密着性に優れる。一方、アクリル系ブロック共重合体フィルム(II)の層を有さない比較例1においては、金属層との密着性に劣ることが分かる。また、図1および図3から、実施例1および実施例5のようにアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を有するものは、金属層が100オングストロームの場合も800オングストロームの場合でもいずれも全く剥がれはなく、密着性が良好であった。一方、図2から、比較例1のようにアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を有さないものは、金属層が100オングストロームの場合、粘着テープを貼り付けた部分ほぼ全面の金属層が剥離した。また、図4から、比較例2のようにアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)を有さないものは、金属層が800オングストロームの場合においても、一部金属層の剥離が起こった。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の複層フィルムは、波板、カーポート、アーケード、バルコニーなどの屋根材、壁材、高速道路のフェンス、窓用遮熱フィルム等の建材・住宅設備用途;遮音壁、銘板、液晶表示カバー、タッチパネル、表示用ダミー缶、車両窓、パチンコ台、絶縁体等の工業・産業用途;液晶テレビの導光板や拡散板、プロジェクションTV等のフレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、LCD(携帯電話、ノートパソコン、モニター、TVなど)、PDP、プロジェクションテレビ用前面板、タッチパネル等に用いられる透明導電フィルム、レンズシートなどの光学用途;化粧板、ミラーなどのディスプレイ用途等の広範囲の物品に使用できる。
また、本発明の金属層を積層した複層フィルムは、強度向上および加飾フィルムとして好適に使用することができ、種々の基材に強度および金属光沢感を付与することができる。例えば、車両内装、家具、ドア材、巾木等の建材用途に好適であり、建材用途の中でも耐水性が要求される外装、準外装用途に特に好適である。具体的に窓枠、玄関扉、雨戸、外壁に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂100質量部からなる連続相(A)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が23℃以下である重合体ブロック(a)と共役ジエン化合物に由来する構成単位からなるガラス転移温度が0℃以下である重合体ブロック(b)とを有するブロック共重合体(B)1〜80質量部が分散相として存在するメタクリル系樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂フィルム(I)からなる第1層と、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が50℃以上の重合体ブロック(c)を2以上、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位からなるガラス転移温度が20℃以下の重合体ブロック(d)を1以上有するアクリル系ブロック共重合体(C)を含有する組成物からなるアクリル系ブロック共重合体フィルム(II)とからなる第2層とを積層してなる複層フィルム。
【請求項2】
前記ブロック共重合体(B)が星型ブロック共重合体であり、該星型ブロック共重合体が腕重合体ブロックで構成され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出したポリスチレン換算の数平均分子量が、式(i):
[星型ブロック共重合体の数平均分子量]>2×[腕重合体ブロックの数平均分子量] (i)
を満たす請求項1に記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記星型ブロック共重合体が、式(ii):
(重合体ブロック(b)−重合体ブロック(a)−)nX (ii)
(式中、Xはカップリング残基、nは2を超える数を表す。)
で表される請求項2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系ブロック共重合体(C)中の重合体ブロック(c)と重合体ブロック(d)の質量比が20/80〜80/20である請求項1〜3のいずれかに記載の複層フィルム。
【請求項5】
前記アクリル系ブロック共重合体(C)が、式(iii):
重合体ブロック(c)−重合体ブロック(d)−重合体ブロック(c) (iii)
で表される請求項1〜4のいずれかに記載の複層フィルム。
【請求項6】
前記第2層に金属からなる第3層をさらに積層してなる請求項1〜5のいずれかに記載の複層フィルム。
【請求項7】
前記金属からなる第3層が金属蒸着層である請求項6記載の複層フィルム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213911(P2012−213911A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80585(P2011−80585)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】