説明

複層軸受材料およびその製造方法

【課題】 鋼裏金層上に軸受合金層を接合してなる複層軸受材料において、軸受合金層と鋼裏金層との良好なる接合強度を維持しながら、軸受合金層の結晶を細粒化する。
【解決手段】 本発明の複層軸受材料は、軸受合金層の組成が0.5〜12質量%のSn、0.5〜5質量%のFe、残部Cuからなり、前記軸受合金層中にはSn−Feの化合物が析出し、且つ当該軸受合金層の結晶粒の大きさが平均で50μm以下であることを特徴とする。この複層軸受材料は、鋼裏金層上に焼結用金属粉末を散布して焼結し、且つその焼結層の緻密化を行って中間複合材とし、この中間複合材を5%以上の圧下率で圧延した後、700〜890℃に加熱する熱処理を行うことによって製造する。圧延により結晶に歪ができ、次の熱処理時に結晶歪を核としてSn−Fe化合物が析出する。このSn−Fe化合物は、結晶の成長を抑制し、マトリクスを細粒化する機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼裏金層上に銅合金からなる軸受合金層を接合してなる複層軸受材料に係り、特に軸受合金層の結晶の細粒化を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械、農業機械などの内燃機関に用いられている複層軸受材料では、軸受合金層を青銅やリン青銅などの銅合金から構成したものがある。
この軸受合金層は、通常、焼結によって形成される。特許文献1によると、鋼裏金上に散布した焼結用の銅合金粉末を、700〜900℃の還元雰囲気の電気炉内で10〜30分間加熱して焼結(一次焼結)し、その後、一次圧延、二次焼結、二次圧延を行って複層軸受材料が製造されるとしている。
【0003】
特許文献2では、焼結銅合金からなる軸受合金層の結晶粒を小さくするために、焼結時に高周波誘導加熱によって急速加熱を行うとしている。このときの加熱温度は、例えば750〜1000℃で2分以下とされ、軸受合金層の結晶粒の平均円相等径が5〜50μmになるとしている。
また本発明とは直接の関係はないが、特許文献3には、軸受合金層の耐焼付性を良好にするために、Ag、Sn、Sb、In、Mn、Fe、Bi、Zn、NiおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種の元素をCuマトリクス中に固溶させることが開示されている。
【特許文献1】特許第2769421号公報
【特許文献2】特開2002−220631号公報
【特許文献3】特開平9−249924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、内燃機関などにあっては、軸受装置の小型化・軽量化が要求されてきており、内燃機関の高出力化と相俟って、軸受面圧が益々高くなってきている。高い軸受面圧に耐えるためには、複層軸受材料の強度を高くする必要がある。そのためには、軸受合金層の結晶粒を細かくして軸受合金層の強度を高くすること、および鋼裏金層と軸受合金層との接合強度を高めることが必要である。
【0005】
従来の複層軸受材料では、一般に、電気炉にて銅合金粉末を加熱焼結するようにしており、このときの焼結温度が高い場合には、軸受合金層の鋼裏金層への接合強度が高くなるが、軸受合金層の結晶粒は粗くなる。逆に、焼結温度が低いと、軸受合金層の結晶粒は細かくなるけれども、軸受合金層の鋼裏金層への接合強度は高くならない。このように従来の電気炉で焼結を行うものでは、結晶粒を細かくすることと鋼裏金層への接合強度を高くすることとの両方を満足させることが困難である。ちなみに、電気炉で加熱焼結するものでは、特許文献1に見られるように、焼結温度を700〜900℃と高くして鋼裏金との接合強度の向上を優先させることが一般に行われている。
【0006】
特許文献2では、軸受合金層と鋼裏金層との接合強度については触れられていないが、焼結温度が高いため、接合強度も高いと思われる。しかしながら、このものでは、一般に使用される電気炉による加熱方式ではなく、高周波誘導加熱による急速加熱方式を採用せねばならないので、新規製造設備が必要になる。また、電気炉による加熱方式とは異なり、鋼裏金層自身が発熱源となるので、焼結温度の制御は雰囲気温度ではなく、発熱源である鋼裏金層そのものの温度を検出して行わねばならない。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、高周波誘導加熱などによる急速加熱を行わずとも、軸受合金層と鋼裏金層との良好なる接合強度を維持しながら、軸受合金層の結晶を細粒化できる複層軸受材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意実験を重ねた結果、Cu−Sn系の軸受合金にFeを添加し、熱処理によってSn−Fe化合物を析出させると、Sn−Fe化合物が結晶粒の成長を抑え、結晶の細粒化に効果があることを見出した。同時に、このSn−Fe化合物の析出は、熱処理の前に、結晶に歪を与えておくことによって起き、結晶に適度な歪が与えられていないときには、Sn−Fe化合物の析出が見られないか、析出はあっても不十分で細粒化が十分に行われなくなることを併せて究明した。
【0009】
本発明は上記のような実験結果に基づいてなされたものであり、その複層軸受材料は、軸受合金層の組成がCuを主成分として0.5〜12質量%のSn、0.5〜5質量%のFeを含み、前記軸受合金層中にはSn−Feの化合物が析出し、且つ当該軸受合金層の結晶粒の大きさが平均で50μm以下であることを特徴とする(請求項1)。
この発明の複層軸受材料では、軸受合金層中にSn−Fe化合物が析出しており、この化合物の結晶粒の成長抑制作用によって軸受合金層の結晶が細粒化して平均で50μm以下となっている。そして、この結晶の細粒化によって軸受合金層の強度が高まるので、高強度の複層軸受材料とすることができる。
【0010】
本発明の複層銅系軸受材料においては、軸受合金層に、更に、Pを0.2質量%以下、NiおよびAgのうち少なくとも一方を総量で5質量%以下、PbおよびBiのうち少なくとも一方を総量で25質量%以下含ませることができる(請求項2)。
これによれば、更に、軸受合金層の強度を高めることができると共に、耐食性および潤滑性を高めることができる。
【0011】
ここで、上記各成分についての限定理由を説明する。
(1)Sn:0.5〜12質量%
Snは、軸受合金層を強化すると共に、Sn−Fe化合物の生成の核となる。0.5質量%未満では、軸受合金層の強度が不足し、また、Sn−Fe化合物の析出が少なく、結晶細粒化効果が得られない。また、12質量%を超えると、軸受合金層を脆くする。従って、軸受合金層の強度および結晶細粒化を良好に行わせるには、Snの含有量は、0.5〜12質量%とする。
(2)Fe:0.5〜5質量%
Feは、Sn−Fe化合物の生成の核となる。0.5質量%未満では、Sn−Fe化合物の析出が少なく、5質量%を超えると、軸受合金層の耐食性を低下させる。従って、耐食性を損なうことなく、軸受合金層の結晶の細粒化を良好に行わせるには、Feの含有量は、0.5〜5質量%とする。
(3)Sn−Fe化合物の析出
軸受合金層にSn−Fe化合物が析出することにより、Cuマトリクスの結晶粒の成長が抑制され、細粒化される。Sn−Fe化合物の生成がない場合、結晶細粒化が起きない。
ちなみに、前記特許文献3では、Feを選択元素として添加しても良いことが記載されているが、FeはCuマトリクスに固溶させることとしているので、Sn−Fe化合物の析出はなく、Sn−Fe化合物の析出によるCuマトリクスの結晶の細粒化は果たされていない。
【0012】
(4)P:0.2質量%以下
Pは軸受合金層を強化するものであるが、0.2質量%を超えると、軸受合金層が脆くなる傾向がある。従って、軸受合金層の強化のために、Pは0.2質量%以下が好ましい。
(5)NiおよびAg:総量で5質量%以下
NiおよびAgは、軸受合金層の耐食性を向上させる。これらの元素は、総量で5質量%を超えると、軸受合金層としては脆くなる傾向がある。また、高価な元素であるため、コスト高となる。従って、NiおよびAgは、総量で5質量%以下が好ましい。
(6)PbおよびBi:総量で25質量%以下
PbおよびBiは、軸受合金層の潤滑性を高める。これらの元素は、総量で25質量%を超えると、軸受合金層としては脆くなる傾向がある。従って、PbおよびBiは、総量で25質量%以下が好ましい。
【0013】
次に、上述の複層軸受材料の製造方法として、本発明は、軸受合金層を形成するための焼結用金属粉末を鋼裏金層上に散布して焼結して焼結層を設け、且つその焼結層の緻密化を行って、中間複合材とし、この中間複合材を5%以上の圧下率で圧延した後、700〜890℃に加熱する処理を行うという手段を採用した(請求項3)。
つまり、この発明の複層軸受材料では、中間複合材の作製にあたり鋼裏金層上に軸受合金層を焼結によって形成する際、鋼裏金層への軸受合金層の接合強度を高くすることを目的に、高い温度で焼結することができる。また、軸受合金層中にSn−Fe化合物を均一に析出させることができ、この化合物の結晶粒の成長抑制作用によって軸受合金層の結晶が細粒化して平均で50μm以下とすることができる。そして、この結晶の細粒化によって軸受合金層の強度が高まるので、焼結を高温度で行うことによって接合強度が高まることと相俟って、高強度の複層軸受材料とすることができる。
前記鋼裏金層上に散布する焼結用金属粉末は、予め前記軸受合金層と同じ組成の合金から形成したプレアロイ粉末とすることができる(請求項4)。
なお本発明では、軸受合金層は、複層軸受材料の製造途中においては、焼結層と主に表記する。
【0014】
以下に本発明の製造方法を解説する。
本発明の製造方法では、まず、鋼裏金層上に焼結用金属粉末を散布し、これを焼結する。以下では、この焼結を一次焼結と称する。
この一次焼結は急速加熱の必要がないから、従来より一般的に用いられている電気炉による加熱焼結を採用することができる。焼結温度としては、軸受合金層の接合強度を高めることを目的に、高い焼結温度に設定することができる。接合強度を高めるに適する焼結温度は、軸受合金層の組成によって異なるが、概ね融点より20〜50℃低い温度である。
【0015】
焼結に用いる金属粉末が純Cu粉末、純Sn粉末、純Fe粉末等の純金属元素の粉末を混合したものであった場合、それらの金属元素は焼結によって拡散し、Cu−Sn合金を形成する。しかし、実用的な焼結温度・焼結時間では、Fe元素がCuマトリクス中に殆ど拡散せず、Sn−Fe化合物が生成され難い場合がある。
この問題を解消するには、焼結用金属粉末として、プレアロイ粉末を用いると良い。プレアロイ粉末は、軸受合金層と同組成の成分元素を溶融して混合し、そしてガスや水を吹き付けて粉末としたものである。このプレアロイ粉末では、それ自身が既に銅合金化され、FeもCuマトリクス中に固溶しているため、上述のような問題は生じない。
【0016】
一次焼結した直後、図2に示すように、その焼結層Aは、多孔質となっている。なお、図2中、符号Bは空孔、符号Cは鋼裏金層を示す。この多孔質状態のままで圧延を行うと、焼結層に不均一な歪が発生してしまい、その結果、Sn−Fe化合物の析出が不均一になる。これを避けるために、焼結層の空孔を実質なくして焼結層の緻密化を行う。本発明において、この緻密化のための処理は、焼結層の空孔を潰して空孔率を大幅に減少させるための圧延と、その後の金属粉末どうしの密着性を増すための焼結とを含む。なお、中間複合材の空孔率は5%以下が好ましい。より好ましくは1%以下である。以下、この緻密化のための圧延と焼結を、それぞれ一次圧延、二次焼結と称する。ここで、二次焼結直後の焼結層の結晶粒の状態を図1(a)に示す。
【0017】
次に、焼結層の緻密化により形成された中間複合材、つまり鋼裏金層上に焼結層を接合してなる中間複合材を5%以上の圧下率で圧延する。圧延は、ロール圧延によることが量産性の点で好ましい。ここで、圧下率とは、圧延前の中間複合材の厚さと圧延後の中間複合材の厚さとの差を、圧延前の中間複合材の厚さで除した値の百分率である。この圧延によって焼結層に結晶歪を与える。この結晶歪を与えるための圧延を、以下では二次圧延と称することとする。
【0018】
二次圧延によって与えられた結晶歪は、Sn−Fe化合物の析出の核となる。5%未満の圧下率では、結晶歪が不均一となり、その結果、Sn−Fe化合物の析出の分布も不均一となるから、その後の熱処理時の細粒化も不均一なものとなる。
二次圧延で焼結層に結晶歪をより均一に与えるためには、圧下率を10%以上とすることが好ましい。結晶歪を均一に与えるための圧下率に上限はないが、30%以下とすることが好ましい。1回のロール圧延で与えることができる圧下率は30%が限度であり、従って30%を超える圧下率は、1回の圧延では済まず、複数回の圧延を実施することとなって製造コストの上昇をもたらすからである。
【0019】
この二次圧延によって焼結層に均一な結晶歪を与えることができる。そして、この二次圧延後、中間複合材を熱処理する。この熱処理は、中間複合材を700〜890℃に加熱することによって行う。この熱処理によって、銅合金である焼結層にSn−Fe化合物が析出し、図1(c)に示すように、結晶の細粒化が行われる。Sn−Fe化合物は、650℃でも析出し始めるが、その分布が不均一であり、その結果、細粒化も不均一なものとなる(図1(b)参照)。
【0020】
ここで、図1(b)および(c)において、黒点は析出したSn−Fe化合物を示す。なお、図1(b)および(c)に示した程度の倍率では、現実には析出したSn−Fe化合物を見ることはできないが、理解し易くするために黒点で強調して示したものである。図1(b)によれば、Sn−Fe化合物が焼結層中に不均一ではあるが析出しており、その不均一ながらも同化合物が析出した部分で、結晶の細粒化が行われているが、元々Sn−Fe化合物の析出が不均一であるため、細粒化も不均一であることが理解される。
【0021】
熱処理温度が900℃以上では、析出したSn−Fe化合物が消失し、焼結層の結晶粒は急激に成長する。このようなことから、Sn−Fe化合物を均一に析出させて均一に結晶を細粒化するための熱処理温度としては、700〜890℃に定める。この熱処理時間としては、2分以上の保持が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施例を説明する。
[二次圧延、熱処理の効果]
(1)厚さ1.5mmの鋼板(JIS:SPCC)上に、次の表1に示す組成のプレアロイ粉末を散布し、これを還元性雰囲気の電気炉で、表1に示す焼結温度にて10〜30分間の一次焼結を行い、次いで冷却して、一次圧延を行った後、一次焼結と同一条件にて二次焼結を行い、緻密化された中間複合材(空孔率0.5%)を得た。その後、この中間複合材を表1に示す圧下率にて二次圧延を行い、続いて表1に示す温度にて熱処理を3分間行って実施例品1〜3を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)また、厚さ1.5mmの鋼板(JIS:SPCC)上に、表1に示す組成のプレアロイ粉末を散布し、これを還元性雰囲気の電気炉で、表1に示す焼結温度にて10〜30分間の一次焼結を行い、次いで冷却して、一次圧延を行った後、一次焼結と同一条件にて二次焼結を行い、空孔率0.5%の比較例品1〜3を得た。
【0025】
(3)次に、上述のようにして得た実施例品1〜3、比較例品1〜3について、軸受合金層の平均結晶粒径をJIS0501の伸銅品結晶粒度試験法にて計測すると共に、軸受合金層の硬さを計測し、その結果を表1に示した。実施例品1と比較例品1、実施例品2と比較例品2、実施例品3と比較例品3とは、それぞれ軸受合金層の組成、一次焼結、一次圧延および二次焼結の条件が同じで、相違点は、二次圧延と、その後の熱処理が実施されているか否かにある。
【0026】
表1に示されている通り、二次圧延および熱処理を行った実施例品1〜3は、それを行っていない比較例品1〜3に比較して、軸受合金層の結晶粒が非常に細かく、マトリクスの平均結晶粒径がいずれも50μm以下になっている。そして、この結晶の細粒化によって、実施例品1は比較例品1より、実施例品2は比較例品2より、実施例品3は比較例品3より、軸受合金層の硬度が高くなっている。
【0027】
以上のことから、Cu−Sn系の軸受合金にFeを添加し、一次焼結→一次圧延→二次焼結→二次圧延→熱処理を行うと、軸受合金層の結晶が細粒化されることが理解される。更に、二次圧延、熱処理を行う場合、FeとSnの含有量が多いほど、結晶の細粒化がより良く行われることも理解される。つまり、二次圧延、熱処理を施すと、軸受合金層にSnおよびFeの含有量に応じた量のSn−Fe化合物が均一に析出し、この化合物の結晶成長抑制機能によって同化合物の析出量に応じた結晶の細粒化が行われるのである。
【0028】
[添加元素の影響と二次圧延の圧下率および熱処理温度の影響]
(1)上述したと同様の鋼板上に、次の表2に示す組成のプレアロイ粉末を散布し、これを還元性雰囲気の電気炉で、表2に示す焼結温度にて10〜30分間の一次焼結を行い、次いで冷却して、一次圧延を行った後、一次焼結と同一条件にて二次焼結を行い、空孔率0.5%の中間複合材を得た。次いで、この中間複合材に対し、表2に示す圧下率にて二次圧延を行った後、同じく表2に示す温度にて熱処理を行い、実施例品4〜10および比較例品4〜9を得た。
【0029】
【表2】

【0030】
(2)次に、上述のようにして得た実施例品4〜10、比較例品4〜9について、軸受合金層の平均結晶粒径を計測すると共に、軸受合金層の硬さを計測し、その結果を表2に示した。
表2から明らかなように、軸受合金層にFeまたはSnを含んでいない比較例品4および5では、二次圧延の圧下率および熱処理温度が本発明の範囲内にあっても、結晶粒は大きく、細粒化はなされていない。これは、FeまたはSnを欠くことから、熱処理時にSn−Fe化合物の析出がなく、そのために結晶の細粒化が行われないものと考えられる。
また、軸受合金層にFeおよびSnを含んでいても、二次圧延の圧下率が5%に満たない比較例品6、熱処理温度が本発明の上下限から外れている比較例品7〜9も、結晶粒は大きい。
【0031】
ただ、比較例品6,7の平均結晶粒径は、他の比較例品に比べて小さくなっている。これは比較例品6の二次圧延の圧下率が実施例品4〜7の5%より若干低い3%であり、また、比較例品7の熱処理温度が実施例品4〜7の700℃よりも若干低い650℃であるので、比較例品6,7では、熱処理時にSn−Fe化合物が不均一ながらも若干析出し、そのために平均結晶粒径は他の比較例品に比べて小さくなっていると思われる。
【0032】
比較例品8,9は、熱処理温度が900℃、925℃で、本発明の熱処理温度の上限を超えているため、Sn−Fe化合物が消失し、これによって結晶粒が成長したものと思われる。これに対し、実施例品9は、熱処理を、890℃で実施している。この温度では、結晶の細粒化は損なわれていない。しかし、上述のように、熱処理温度を900℃とした比較例品8では、結晶は粗大化してしまっている。
【0033】
なお、以上の比較例品7〜9についての考察に基づき、Sn−Fe化合物の析出を均一化して結晶の細粒化を均一に行わせるための条件として、二次圧延の圧下率は5%以上、熱処理温度は700〜890℃に定めたのである。
一方、実施例品4〜10では、平均結晶粒径は小さく、50μm以下になっている。このことは、5%以上の圧下率で二次圧延を行うことにより、焼結層の全体に均一な結晶歪が生じ、700〜890℃にて熱処理を行うことにより、Sn−Fe化合物が均一に析出して結晶の細粒化が均一に行われることを裏付けている。
【0034】
また、軸受合金層にP、Ni、Ag、Pb、Biが添加された実施例品4〜7は、他の実施例品8,9、表1の実施例品1〜3などと平均結晶粒径は同等である。このことから、それら添加元素は、結晶の細粒化に何等の悪影響を与えないといえる。従って、P、Ni、Ag、Pb、Biの添加により、結晶の細粒化を妨げることなく、軸受合金層の耐食性や潤滑性を向上させることができる。
また、二次圧延の圧下率が30%である実施例品10では、結晶の細粒化程度は高い。このことから、圧下率は、結晶の細粒化(Sn−Fe化合物の析出)に大きな影響を与え、圧下率が高いほど細粒化(Sn−Fe化合物の析出)が促進されるといえる。
【0035】
[軸受合金層の接合強度]
(1)厚さ1.5mmの鋼板(JIS:SPCC)上に、次の表3に示す組成のプレアロイ粉末を散布し、これを還元性雰囲気の電気炉で、表3に示す焼結温度にて10〜30分間の一次焼結を行い、次いで冷却して、一次圧延を行った後、一次焼結と同一条件にて二次焼結を行い、空孔率0.5%の比較例品10および11を得た。
【0036】
【表3】

【0037】
(2)そして、表1の実施例品1、上記比較例品10および11に対し、鋼板(鋼裏金層)への軸受合金層の接合性をみるために、剪断試験を行った。この剪断試験のために、実施例品1、上記比較例品10および11を加工して図3に示す試験片1を製作した。この試験片1には、円形の開口部2が2つ設けられ、この2つの開口部2を引張試験機に引っ掛けて引っ張ることによって鋼板3と軸受合金層4との剪断強さ(接合力)を測定した。この試験の結果を表3に示す。
【0038】
この表3から明らかなように、焼結温度を950℃とした比較例品10では、鋼板と軸受合金層との接合強度は高い。しかし、軸受合金層の結晶粒が大きく成長している。一方、焼結温度を850℃とした比較例品11では、鋼板と軸受合金層との接合強度は低くなっているが、軸受合金層の結晶粒は細かくなっている。このように、焼結温度は、接合強度と結晶粒径に大きな影響を与え、高いと、接合強度は上がるが、結晶粒径は大きくなり、逆に低いと、接合強度は低下するが、結晶粒径は小さくなる。
【0039】
これに対し、実施例品1では、鋼板と軸受合金層との接合強度は高く、軸受合金層の結晶粒も細かい。これは、実施例品1では、焼結温度を950℃と高く設定したことから、鋼板と軸受合金層との接合強度が高くなり、そして、この高焼結温度とすることにより結晶が成長しても、その後の二次圧延および熱処理によって結晶を細粒化できたからである。
【0040】
[伸び、耐疲労性]
(1)厚さ1.5mmの鋼板(JIS:SPCC)上に、次の表4に示す組成のプレアロイ粉末を散布し、これを還元性雰囲気の電気炉で、表4に示す焼結温度にて10〜30分間の一次焼結を行い、次いで冷却して、一次圧延を行った後、一次焼結と同一条件にて二次焼結を行い、空孔率0.5%の中間複合材を得た。この中間複合材に対し、表4に示すように圧下率5.7%で二次圧延を行って比較例品12を得た。
【0041】
【表4】

【0042】
(2)そして、表1の実施例品1、表3の比較例品10、11および上記比較例品12に対し、疲労試験を行った。疲労試験は、実施例品1、比較例品10〜12をそれぞれ半割軸受に形成し、これを試験機に取り付けて実施した。試験機は、回転荷重による衝撃荷重と軸の撓みによる片当たりによって耐疲労性を評価する軸受動荷重試験機を使用した。なお、疲労試験条件は次の表5の通りである。
【0043】
【表5】

【0044】
また、比較例品12については、前述した剪断試験も併せて行い、同時に軸受合金層の伸びも測定した。なお、表4の実施例品1、比較例品10、11に対して剪断試験を行った際にも、同様に軸受合金層の伸びを測定しておいた。
【0045】
上記の疲労試験の結果、剪断試験結果および伸びの測定結果を表4に示した。
軸受合金に限らず、一般に、金属の特性として、衝撃的な負荷に対しては伸びなどの延性の影響が大きく、延性が高いほど耐衝撃性は高くなる。このことから、軸受動荷重試験機による疲労試験では、延性(伸び)に優れたものほど、耐疲労性に優れたものとなる。
実施例品1は、軸受合金層の結晶が細粒化されているので、硬度が高く、高強度であり、また、伸びについても、硬度の低い比較例品10と同程度で、延性にも優れている。このため、実施例品1では、焼結温度が950℃で軸受合金層の接合強度が高いことと相俟って、優れた耐疲労性を示している。
【0046】
これに対し、比較例品10は、焼結温度が実施例品1と同じ950℃で、鋼板と軸受合金層との接合強度は高いが、しかし結晶粒径が大きい(軸受合金層の強度が低い。)ので、耐疲労性に劣る。比較例品11は、焼結温度が850℃と低いので、軸受合金層の結晶粒径は小さくなっているが、鋼板と軸受合金層との接合強度が低いので、耐疲労性は比較例品10よりも更に低くなっている。
【0047】
また、比較例品12は、冷間での二次圧延を施したままで、その後の熱処理を行っていない。このため、冷間での二次圧延による加工硬化がそのまま軸受合金層に残り、その硬度は実施例品1と同程度になっていると共に、剪断強さも実施例品1(焼結温度が同じ)と同等となっている。しかし、比較例品12は、熱処理を行っていないため、軸受合金層の結晶の細粒化が生じておらず(軸受合金層の強度が低い。)、また延性が低いので耐疲労性は低い。
【0048】
なお、本発明は上記し且つ実施例に示すものに限定されることはなく、以下のような変更および拡張が可能である。
一次焼結→一次圧延→二次焼結→二次圧延→熱処理により、結晶の細粒化を行った後、更に冷間での三次圧延を施して軸受合金層を加工硬化させても良い。この場合、細粒化された結晶を持つ軸受合金層は、圧延に対する変形抵抗が大きく、圧延率が同じならば、細粒化のための熱処理を施していないものに比べて、加工硬化の程度が高くなる。逆に言えば、同じ硬度を得ようとするなら、本発明の軸受合金層の結晶を細粒化したものに対しては、小さい圧下率で良く、従って軸受合金層の延性低下が少なく、耐衝撃性の低下が少なくて済む。
鋼裏金層の表面には、軸受合金層の接合強度を高めるためのCuメッキ層などの接着層を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)は二次焼結後、(b)は650℃の熱処理後、(c)は700〜890℃の熱処理後、の軸受合金層(焼結層)の結晶粒の状態を示す模式図
【図2】二次焼結直後の軸受合金層(焼結層)の模式図
【図3】剪断試験を行う試験片を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図
【符号の説明】
【0050】
図面中、3は鋼板(鋼裏金層)、4は軸受合金層である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金層上に銅合金からなる軸受合金層を接合して構成する複層軸受材料において、
前記軸受合金層の組成がCuを主成分として0.5〜12質量%のSn、0.5〜5質量%のFeを含み、
前記軸受合金層中にはSn−Feの化合物が析出し、且つ当該軸受合金層の結晶粒の大きさが平均で50μm以下であることを特徴とする複層軸受材料。
【請求項2】
前記軸受合金層には、更に、Pを0.2質量%以下、NiおよびAgのうち少なくとも一方を総量で5質量%以下、PbおよびBiのうち少なくとも一方を総量で25質量%以下添加することを特徴とする請求項1記載の複層軸受材料。
【請求項3】
前記請求項1または2記載の複層軸受材料を製造する方法において、
軸受合金層を形成するための焼結用金属粉末を鋼裏金層上に散布して焼結して焼結層を設け、且つその焼結層の緻密化を行って、中間複合材を形成し、この中間複合材を5%以上の圧下率で圧延した後、700〜890℃に加熱する熱処理を行うことを特徴とする複層軸受材料の製造方法。
【請求項4】
前記鋼裏金層上に散布する焼結用金属粉末は、予め前記軸受合金層と同じ組成の合金から形成したプレアロイ粉末であることを特徴とする請求項3記載の複層軸受材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−22896(P2006−22896A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201957(P2004−201957)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】