説明

複数のサイドストリームを抜き出す蒸留によりワックス状原料から基油ブレンドを製造するための方法

初留点が約340℃以下、終点が約560℃以上のワックス状原料から製造され、100℃での動粘度が約1.8〜30cStの範囲内にある少なくとも3種類の基油グレードを包含する製品スレートを製造する以下の工程を包含するプロセス:
(a)同ワックス状原料の少なくとも一部を異性化処理して、それのイソパラフィン類の濃度を上昇させる工程、
(b)異性化処理されたワックス状原料の第一の部分を軽質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、
(c)異性化処理されたワックス状原料の第二の部分を中質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、および
(d)軽質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分と中質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分をブレンドして、少なくとも1種類の予め選択された性状の目標値を満足させる潤滑剤基油ブレンドを製造する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、軽質分と中質分を交互にブロック運転モードで蒸留を行う少なくとも3種類のサイドストリームを抜き出す減圧蒸留塔によりワックス状原料から基油ブレンドを製造するためのプロセススキームに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
自動車、ディーゼルエンジン、車軸、変速機およびその他の工業的な適用に使用される潤滑剤最終製品は、2種類の一般的な成分により構成される。ひとつは基油であり他は1種あるいは複数種の添加剤である。基油はこれらの潤滑剤最終製品の主要成分であり、同最終製品の性状に相当大きな影響を及ぼす。一般的には、いくつかの種類の基油を用いて、個々の基油および個々の添加剤を組み合わせることにより広範囲にわたる潤滑剤最終製品を製造する。
【0003】
潤滑剤基油はこれまで通常の石油系原料から製造されてきているが、最近の研究によれば、高品質の潤滑剤基油は非通常型のワックス状原料から製造され得る。これらの非通常型のワックス状原料の例として、スラックワックス、脱油スラックワックス、精製フットオイル、ワックス状の潤滑剤ラフィネート、ノルマルパラフィンワックス、NAOワックス、化学工場プロセスにより製造されたワックス、脱油された石油系ワックス、微結晶ワックス、フィッシャートロプッシュ法により製造されたワックス、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの非通常型のワックス状原料は主としてノルマルパラフィン(n−パラフィン)類により構成されているので、処理されていない状態でのそれらの低温関連性状(例えば、流動点や曇り点)は低い。このようなワックス状原料の低温関連性状を改善するために、その炭化水素分子に選択的に側鎖を導入する必要がある(例えば異性化により)。例えば、米国特許USP5,135,638、5,543,035および6,051,129を参照されたい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
基油は通常は主要部分が約340℃(約650°F)を越える温度で沸騰する炭化水素原料から製造される。典型的には、潤滑剤基油のための原料は常圧蒸留装置塔底から残油の一部として回収される。同高沸点残油分は、減圧蒸留装置により更に分留されて予め選択された沸点範囲を有する留分に分離されてよい。大半の潤滑剤基油はこのような1種あるいは複数種の留分から製造される。このような留分の主要部分は約370℃(約700°F)を越え、約565℃(約1050°F)未満の温度で沸騰する。本発明では、減圧蒸留塔から、最重質留分である残油と塔頂留分と共に少なくとも3種類のサイドストリームが回収される。更に、同減圧蒸留塔は異なる原料を交互にブロック運転モードで蒸留し、サイドストリーム製品を適切な割合でブレンドすることにより予め選択された性状を有する基油製品を製造する。本発明のプロセスは、市場の需要に合わせるようにフレキシブルに調整された広範囲にわたる基油製品を製造する。また、本発明を構成するプロセススキームは、処理工場での必要とされる貯蔵タンクの数を減少させることにより投資コストを低下する。
【0005】
本明細書で使用される、「包含する(comprise)」との言葉は制限のない過渡的な意味であり、記載された成分を包含するが、記載されていない成分を必ずしも除外するわけではない。「実質的に構成される(consisit essentially of)」との言葉は同組成には本質的な意味を有するどのような記載されていない成分も入っていないことを意味する。「構成される(consisit of)」との言葉は記載されていないどのような成分も同組成に入っていないとの過渡的な意味である(ただし、微量の不純物は除く)。
【0006】
(発明の要約)
本発明は、製品スレートを製造するためのプロセスに関する。このようなスレートの例として、初留点が約340℃(約650°F)以下、終点が約560℃(約1040°F)以上のワックス状原料から製造され、100℃での動粘度が約1.8〜30cStの範囲内にあるすくなくとも3種類の基油グレードが挙げられ、同プロセスは以下の工程を包含する:(a)同ワックス状原料の少なくとも一部を異性化処理して、それのイソパラフィン類の濃度を上昇させる工程、(b)異性化処理されたワックス状原料の第一の部分を軽質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、(c)異性化処理されたワックス状原料の第二の部分を中質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、および(d)軽質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分と中質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分をブレンドして、少なくとも1種類の予め選択された性状の目標値を満足させる潤滑剤基油ブレンドを製造する工程。N−パラフィン類を少なくとも40質量%含有するフィッシャートロプシュ法により製造されたワックス状原料は、本発明の基油ブレンドの製造用に特に適していることが分かっている。好ましくは、軽質分のブロック運転モードにより製造された基油留分と中質分のブロック運転モードにより製造された基油留分をブレンドして少なくとも3種類の基油ブレンドを製造する。本発明は、基油ブレンドの製造の他に、ディーゼル燃料の沸点範囲を有する製品の製造のためにも使用できる。製品スレートの一部として製造されたディーゼル燃料は、約65℃(約150°F)〜約400℃(約750°F)、典型的には約205℃(約400°F)〜約315℃(約600°F)の沸点範囲を有する。
【0007】
本発明は、初留点が約340℃以下、終点が約560℃以上のワックス状原料から基油を製造するための基油製造プラント運転のためのプロセススキームにも関する。ここで、同プロセスは以下の工程を包含する:(a)初留点が約340℃以下、終点が約560℃以上の同ワックス状原料を異性化処理して、それのイソパラフィン類の濃度を上昇させる工程、(b)異性化処理されたワックス状原料を軽質分のブロック運転モードと中質分のブロック運転モードを交互に実施する減圧蒸留塔で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油留分に分離して、軽質分のブロック運転モードによる蒸留で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油グレードを製造し、また中質分のブロック運転モードによる蒸留で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油グレードを製造する工程および(c)軽質分のブロック運転モードにより製造された各基油グレードと中質分のブロック運転モードにより製造された対応する各基油グレードをブレンドして、各々が少なくとも1種類の予め選択された性状の目標値を満足させる少なくとも3種類の潤滑剤基油ブレンドを製造する工程。同プロセススキームは、基油製造プラントによる予め選択された量の1種あるいは複数種の基油グレードを製造できるので特に有利である。このような同基油製造の運転上のフレキシビリティにより、同プラントは貯蔵タンクのための多額の投資コストを必要とすることなく、現行の市場状況を満足させる基油グレードを製造するために制御できる。
【0008】
本発明は、ワックス状原料から100℃での動粘度が約1.8〜30cStの範囲内にある3種類以上の基油グレードを包含する基油スレートにも関する。ここで各々の基油グレードは以下を包含する基油ブレンドである:(a)軽質分のブロック運転モードにより製造される留出油留分(約0.1〜99.9質量%)、および(b)中質分のブロック運転モードにより製造される留出油留分(約0.1〜99.9質量%)。同基油スレートは、通常は、100℃での動粘度が約1.8〜3.5cStの範囲内にある基油ブレンド、100℃での動粘度が約3.0〜6.0cStの範囲内にある基油ブレンドおよび100℃での動粘度が約5.5〜15cStの範囲内にある基油ブレンドを包含する。更に同基油スレートは、100℃での動粘度が約1.5〜3.0cStの範囲内にある基油ブレンドおよび100℃での動粘度が約10cStを越える基油ブレンドを包含してよい。本明細書で使用される「基油スレート」という用語は、単一の蒸留塔(通常は減圧蒸留塔)から回収される異なる種類の基油グレードの混合物を意味する。
【0009】
最後に、本発明はワックス状原料から製造される下記の基油スレートにも関する。同製品スレートは3種類以上の基油グレードを包含し、ここで各々の基油グレードの100℃での動粘度が約1.8〜30cStであり、また粘度指数(VI)が式VI=Ln(Vis100)+95で与えられる値を越える(ここで、Ln(Vis100は)VIは100℃での動粘度の自然対数である)。
【0010】
(図面の簡単な説明)
図1は軽質分と中質分の減圧蒸留塔のブロック運転により回収され得る基油の各種グレードと、製造され得る異なる種類の基油ブレンドを模式的に示す図である。
【0011】
図2は中質分の減圧蒸留塔のブロック運転を説明する本発明での使用のために設計された減圧蒸留塔を模式的に示す図である。
【0012】
図3は軽質分の減圧蒸留塔のブロック運転を説明する本発明での使用のために設計された減圧蒸留塔を模式的に示す図である。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本明細書で使用される「ワックス状原料」という用語はノルマルパラフィン(n−パラフィン)を高濃度で含有する原料を意味する。本発明のプロセススキームの実施のために有用なワックス状原料は、一般的には少なくとも40質量%、好ましくは50質量%を越え、より好ましくは75質量%を越える濃度のn−パラフィンを含有する。好ましくは、本発明に使用される同ワックス状原料は窒素および硫黄も非常に低濃度で含有する。一般的には、窒素および硫黄の合計濃度は25ppm未満、好ましくは20ppm未満である。本発明に使用可能なワックス状原料の例としてスラックワックス、脱油スラックワックス、精製フットオイル、ワックス状の潤滑剤ラフィネート、n−パラフィンワックス、NAOワックス、化学工場プロセスにより製造されたワックス、脱油された石油系ワックス、微結晶ワックス、フィッシャートロプッシュ法により製造されたワックス、およびこれらの混合物が挙げられる。本発明の実施に使用されるワックス状原料の流動点は、一般的には約50℃を越え、また通常は60℃を越える。本発明のプロセススキームのために原料として使用されるワックス状原料の沸点範囲は広い。本発明での使用に適したワックス状原料の初留点は340℃以下、終点は530℃以上でなければならない。好ましくは、それの終点は約620℃(約1150°F)を越える。ワックス状原料の約10質量%未満の部分は、好ましくは約260℃(約500°F)未満の温度で沸騰する。同ワックス状原料の沸点範囲は広いので、10質量%留出点と90質量%留出点の差は約275℃(約500°F)を越えることになろう。
【0014】
窒素分はASTM試験法D−4629−96に従ってワックスを酸化燃焼する前の段階で溶融して化学発光分析によって測定する。硫黄分はASTM試験法D−5453−00に従ってワックスを溶融した後に紫外線蛍光発光分析によって測定する。窒素分および硫黄分の分析は米国特許6,503,956により詳しく記載されている。
【0015】
ワックス含有試料中のノルマルパラフィン類(n−パラフィン類)の濃度は、個々のC〜C110のn−パラフィン濃度を0.1質量%の測定限界で測定可能な方法により分析しなければならない。本明細書に記載されたデータの測定に用いられた推奨される方法を以下に述べる。
【0016】
ワックス中のノルマルパラフィン類の定量分析はガスクロマトグラフィ(GC)により実施される。同GC(Agilent 6890あるいは5890、スプリット/スプリットレス注入口およびフレームイオン化検出器を有するキャピラリGC)はフレームイオン化検出器を装備しており、同検出器は炭化水素に対して鋭敏である。同方法はメチルシリコーンのキャピラリカラムを用いて、これにより炭化水素混合物を沸点により日常的に分離する。同カラムは溶融シリカ(100%メチルシリコーン)製、30m長さ、0.25mm内径、0.1ミクロン膜厚であり、Agilent社により市販されている。ヘリウムを2mL/分の流速でキャリアーガスとして流し、また水素を空気で燃焼してフレームを発生する。
【0017】
ワックス状原料を溶融して0.1gの均一な試料を調製する。同試料を直ちに二硫化炭素に溶解して2質量%の溶液を調製する。必要であれば、同溶液を目視上クリアであり固体が存在しなくなるまで加熱してGC内に注入する。メチルシリコーンのカラムを以下の温度プログラムに従って加熱する。
・初期温度:150℃(もしC〜C15の炭化水素が存在する場合には、初期温度を50℃に設定する)。
・温度勾配(ランプ):6℃/分
・最終温度:400℃
・最終温度維持時間:5分あるいはピークが溶出しなくなるまで
【0018】
その後、カラムはノルマルパラフィン類を非ノルマルパラフィン類から炭素数の順序に従って効果的に分離する。既知の標準試料を同様な手順により分析して、特定のノルマルパラフィン類ピークの溶出時間を決定する。同標準試料はASTM試験法D−2887により規定されるn−パラフィン試料であり、ベンダー(AgilentあるいはSupelco)から提供される。同試料には5質量%のPolywax500ポリエチレン(オクラホマ州のPetrolite Corporationから購入)が注入されている。同標準試料は、溶解してから注入する。標準試料の分析による経時データにより、キャピラリカラムの分離効率も保証される。
【0019】
ノルマルパラフィン類が試料中に存在する場合には、それらのピークは試料中に存在する他の炭化水素種からよく分離され、容易に同定される。ノルマルパラフィン類の保持時間の外側で溶出するピークを有する化合物は非ノルマルパラフィン類と呼ばれる。測定の最初から最後までの間のベースラインを保持することにより、全試料を積算する。N−パラフィン類を全ピーク面積から分離して、谷と谷の間の面積を積算する。検出された全ピークを100%に正規化する。ピークの同定と結果の計算のためにEZChromを使用する。
【0020】
本発明に使用されるワックス状原料は広い沸点範囲を有する異なる分子量化合物の混合物であるので、本明細書においては時折各々の沸点範囲を示すのに10%留出点および90%留出点との用語を使用する。10%留出点とは、同留分内に存在する炭化水素化合物の10質量%が常圧下でその温度で蒸発する。同様にして、90%留出点とは、同留分内に存在する炭化水素化合物の90質量%が常圧下でその温度で蒸発する。約538℃(約1000°F)を越える沸点範囲を有する試料の場合、本明細書で使用される沸点範囲分布はASTM試験法D−6352(あるいはそれと同等の試験法)に規定される標準的な分析法によって測定された。また約538℃未満の沸点範囲を有する試料の場合、本明細書で使用される沸点範囲分布はASTM試験法D−2887(あるいはそれと同等の試験法)に規定される標準的な分析法によって測定された。同ワックス状原料の沸点範囲は広いので、10%留出点と90%留出点の差は通常は約275℃(約500°F)を越える。
【0021】
フィッシャートロプッシュ法により製造されたシンクルード(合成原油)は各種の固体、液体および気体の炭化水素の混合物を包含する。フィッシャートロプッシュ法により製造された潤滑剤基油の沸点範囲内にある生成物は、ワックスを多量に含有しており、これにより潤滑剤基油を与える理想的な原料となる。従って、フィッシャートロプッシュ法により製造されたワックスは、本発明のプロセスによる高品質基油ブレンドの製造のための優れた原料となる。フィッシャートロプッシュ法により製造されたワックスは通常は常温で固体であり、従ってその低温関連性状(例えば、流動点や曇り点)は低い。しかしながら、同ワックスを水素化異性化により処理するならば、優れた低温関連性状を有する基油の製造が可能である。本明細書で使用される「フィッシャートロプッシュ法により製造された」との用語は、その後の処理工程にかかわらず、フィッシャートロプッシュ法により製造された生成物に由来する炭化水素ストリームを相当な割合(ただし、処理中に添加された水素を除く)で含有する。従って、「フィッシャートロプッシュ法により製造されたワックス原料は、もともとフィッシャートロプッシュ法により製造されたn−パラフィン類を少なくとも40質量%含有する炭化水素を指す。
【0022】
スラックワックスは、本発明で使用可能な原料の他の例であり、これは潤滑油留分の水素化分解あるいは溶剤精製により製造された通常の石油系原料から得られる。典型的には、スラックワックスは上記プロセスのいずれかにより得られる溶剤脱ロウ用原料から回収される。水素化分解は窒素分を低濃度まで減らすので通常は好ましいプロセスである。溶剤精製油からのスラックワックスの場合、窒素分を減らすために脱油プロセスを採用してよい。窒素分を減らすためにスラックワックスを随意的に水素化処理してよい。スラックワックスは、油分濃度およびそれの製造のための原料次第では、非常に高い粘度指数を有している(通常は約140〜200の範囲内)。従って、スラックワックスは、非常に高い粘度指数を有する潤滑剤基油の製造のための特に適した原料となる。
【0023】
本発明のプロセスの実施のために使用される水素化異性化は、理想的には、ワックスを高転化率で非ワックス状のイソパラフィン類に転化し、同時に分解による転化を最小限に抑える。本発明に使用される水素化異性化の処理条件は、好ましくは、ワックス原料中の沸点が約370℃(約700°F)を越える化合物の沸点が約370℃未満の化合物への転化が約10〜50質量%、好ましくは約15〜45質量%の範囲内になるように制御される。
【0024】
本発明によれば、水素化異性化は形状選択性で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブを使用して実施される。本発明に有用な水素化異性化触媒の例として形状選択性で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブおよび随意的に耐熱性酸化物担体に支持される水素化触媒活性を有する金属が挙げられる。本明細書で使用される「中程度の細孔径」との用語は、多孔性無機酸化物が焼成された場合には、約3.9〜7.1Åの有効細孔径のことである。本発明の実施に使用される形状選択性で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブは通常は1−Dで10、11あるいは12環のモレキュラーシーブである。本発明のための好ましいモレキュラーシーブは1−Dで10環のモレキュラーシーブ種であり、ここで10(あるいは11あるいは12)環のモレキュラーシーブは10(あるいは11あるいは12)個の四面体配位の原子(T−原子)に酸素原子が挿入された構造をしている。1−Dモレキュラーシーブでは、10環(あるいはそれ以上)の細孔は互いに平行に配置されており、互いに交差しない。しかしながら、ここで留意すべき点は、中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブの広い意味での定義を満足させるが8員環の内部交差する細孔を有する1−D、10環のモレキュラーシーブも本発明のモレキュラーシーブの定義内にあるという点である。ゼオライト内部のチャンネルの分類は、R.M.Barrer(Zeolites、Science and Technology、F.R.Rodrigues、L.D.RollmanおよびC.Naccache編集、NATO Asi Series、1984年)に記載されている。この分類は、全面的に本明細書内に引用されている(特に、上記文献の75ページを参照されたい)。
【0025】
水素化異性化に使用される好ましい形状選択性で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブはリン酸アルミニウム系のものであり、その例としてSAPO−11、SAPO−31およびSAPO−41が挙げられる。SAPO−11およびSAPO31がより好ましく、SAPO−11が最も好ましい。SM−3は特に好ましい形状選択性で中程度の細孔径を有するSAPOである。それは、SAPO−11モレキュラーシーブの範疇に入る結晶構造を有している。SM−3の製法とそれの特異的な特徴は米国特許4,943,424および5,158,665に記載されている。水素化異性化に使用される他の好ましい形状選択性で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブはゼオライトである。この例として、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、SSZ−32、オフレタイトおよびフェリエライトが挙げられる。SSZ−32およびZSM−23がより好ましい。
【0026】
好ましい中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブは、特定の結晶学的なチャンネル自由径、特定の結晶子サイズ(特定のチャンネル長さに対応する)および特定の酸性度を有する。モレキュラーシーブのチャンネルの結晶学的な自由径は約3.9〜7.1Åであり、同径の最大値は約7.1Å以下、最小値は約3.9Å以上である。好ましくは、同径の最大値は約7.1Å以下、最小値は約4.0Å以上である。最も好ましくは、同径の最大値は約6.5Å以下、最小値は約4.0Å以上である。モレキュラーシーブのチャンネルの結晶学的な自由径は、Ch.Baerlocher、M.W.MeierおよびD.H.Olson、Elsevier、Atlas of Zeolite Framework Types、第五改訂版、2001年)に記載されており、その内容は本明細書内に引用されている。
【0027】
本発明のプロセスに有用である好ましい中程度の細孔径のモレキュラーシーブは米国特許5,135,638および5,282,958に記載されており、その内容は全面的に本明細書内に引用されている。米国特許5,282,958は、結晶子サイズが約0.5ミクロン以下、最小径が少なくとも約4.8Å、最大径が約7.1Åの細孔を有する中程度の細孔径のモレキュラーシーブを開示している。
【0028】
同触媒は、それの0.5gが管状反応容器に充填された場合、370℃の温度、1200psigの圧力下、水素流量160mL/分、原料流量1mL/時の条件下でヘキサデカンを少なくとも50%転化するに十分な酸性度を有していなければならない。更に、同触媒は、ノルマルヘキサデカン(n−C16)を96%の転化率で他種に転化する条件下で使用された場合、少なくとも40%の異性化選択率を示さなければならない。ここで、同選択率は次式で定義される:100×「生成物中の側鎖を有するC16の濃度(質量%)/生成物中の側鎖を有するC16+生成物中のC13の濃度(質量%)」。
【0029】
このような特に好ましいモレキュラーシーブは、更に約4.0〜7.1Å、好ましくは約4.0〜6.5Åの結晶学的自由径を有する細孔あるいはチャンネルによって特徴付けられるかもしれない。モレキュラーシーブのチャンネルの結晶学的自由径は、Ch.Baerlocher、M.W.MeierおよびD.H.Olson、Elsevier、Atlas of Zeolite Framework Types、第五改訂版、ページ10〜15、2001年)に記載されており、その内容は本明細書内に引用されている。
【0030】
モレキュラーシーブのチャンネルの結晶学的自由径が未知の場合、標準的な吸着技術と既知の最小動的直径を有する炭化水素化合物を用いることにより、それの有効細孔サイズを求めることができる。Breck、Zeolite Molecular Sieves、1974年(特に第8章);Anderson他、J.of Catalysis、58、114(1979年);および米国特許4,440,871を参照されたい。これらの文献の関連する部分は本明細書内に引用されている。細孔サイズを決定するための吸着測定の実施の際には、標準的な技術が用いられる。約10分以内にモレキュラーシーブでのそれの平衡吸着値の少なくとも95%に達しない(25℃でのp/p0=0.5)特定の分子を除くことが便利である。中程度の細孔径のモレキュラーシーブは典型的には5.3〜6.5Åの動的直径を有する分子を殆ど支障なく通過させる。
【0031】
本発明に有用な水素化異性化触媒は、典型的には水素化触媒活性を有する金属を含有している。水素化触媒活性を有する金属の存在により、生成物の品質(特に粘度指数(VI)および安定性)が向上する。典型的な水素化触媒活性を有する金属の例として、クロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金およびパラジウムが挙げられる。白金およびパラジウムは特に好ましい金属であり、白金は最も特に好ましい。白金および/あるいはパラジウムが使用される場合、水素化触媒活性を有するこれら金属の合計濃度は典型的には全触媒に対して0.1〜5質量%であり、通常は0.1〜2質量%である。
【0032】
耐熱性酸化物担体は、触媒のために従来使用されているものから選んでよい。このような酸化物の例として、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、マグネシア、チタニアおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
水素化異性化の反応条件は、シクロパラフィン官能性を有しまたモノシクロパラフィン官能性を有する分子の質量%/マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の質量%の比が15を越える分子を5質量%を越えて含有する基油留分を得るように調整される。
【0034】
水素化異性化の反応条件は、使用原料の性状、使用触媒、同触媒が硫化処理を受けたか否か、望ましい収率および潤滑剤基油の望ましい性状によって異なる。本発明の水素化異性化プロセスが実施される条件は、温度が約550〜775°F(約288〜413℃)、好ましくは約600〜750°F(約315〜399℃)、より好ましくは約600〜700°F(約315〜371℃);また圧力が約15〜3000psig、好ましくは約100〜2500psigである。この観点からは、水素化異性化による脱ロウ圧力は、水素化異性化反応器内での水素分圧を指す。ただし、水素分圧は実質的に全圧に等しい(あるいはほぼ全圧に等しい)。反応物が触媒と接触する期間中の液の時間当たりの空間速度は、約0.1〜20hr−1、好ましくは約0.1〜5hr−1である。水素化異性化プロセスでは反応ゾーンに存在する水素は、典型的には原料に対する水素比として約0.5〜30MSCF/bbl(バレル当り標準状態で1000立法フィート)、好ましくは約1〜10MSCF/bblである。水素は反応生成物から分離されて反応領域に再循環されてよい。水素化異性化を実施する際の適切な反応条件は米国特許5,282,958および5,135,638に記載されている。その内容は全面的に本明細書内に引用されている。
【0035】
本発明のプロセススキームに使用される減圧蒸留塔はブロック運転モードにより軽質分と中質分を交互に蒸留する。本明細書内に記載されている減圧蒸留塔での軽質分を処理するブロック運転モードとは以下の運転モードを指す。すなわち、それにより沸点範囲が約260℃(約500°F)〜約621℃(約1050°F)以上の少なくとも3種類の生成物が得られ、動粘度が5.0〜15cStの生成物の収率が、減圧蒸留塔の全生成物に対して17質量%未満、好ましくは16.5質量%未満である。軽質分のブロック運転モードでは、100℃での動粘度が約3.0〜6.0cStである生成物の収率は100℃での動粘度が約5.0〜15cStの生成物の収率よりは高い。好ましい実施態様では、動粘度が約3.0〜6.0cStである生成物の収率と動粘度が約5.0〜15cStの生成物の収率との差は13質量%を越え、好ましくは14質量%を越える。本明細書内に記載されている減圧蒸留塔での中質分を処理するブロック運転モードとは以下の運転モードを指す。すなわち、それにより沸点範囲が約260℃(約500°F)〜約621℃(約1050°F)以上の少なくとも3種類の生成物が得られ、動粘度が5.0〜15cStの生成物の収率が、減圧蒸留塔の全生成物に対して17質量%越え、好ましくは17.5質量%を越える。中質分のブロック運転では、100℃での動粘度が約5.0〜15cStである生成物の収率は、軽質分のブロック運転により得られる同生成物の収率よりは常に高い。好ましい実施態様では、動粘度が約3.0〜6.0cStである生成物の収率は動粘度が約5.0〜15cStの生成物の収率との差は13質量%未満であり、好ましくは12質量%未満である。
【0036】
通常は、異性化されたワックス状原料は、生成物のUV安定性と色関連性状の改善のために更にハイドロフィニッシング処理を受ける。このような改善は、炭化水素分子中に存在する二重結合の飽和、これによる芳香族分およびオレフィン分の両方の低レベルにまでの減少によってもたらされると考えられている。本発明においては、水素化異性化された留出油基油は、好ましくはハイドロフィニッシング処理を受けてからブレンディング工程に回される。本プロセスでは、ハイドロフィニッシング工程は、減圧蒸留の前か後に実施してよい。米国特許3,852,207および4,673,487はハイドロフィニッシングのプロセスを概説している。本明細書で使用されているUV安定性とは潤滑剤基油あるいはその他の生成物が紫外線と酸素にさらされた場合の安定性を指す。不安定性は、基油が紫外線と酸素にさらされた場合に目に見える沈殿物が生じるかあるいは色相が暗くなり、その結果、基油中に曇りあるいはフロックが生じることによって指し示される。
【0037】
ハイドロフィニッシング領域での全圧は典型的には500psigを越え、好ましくは1000psigを越え、最も好ましくは1500psigを越える。全圧の最高値は同プロセスにとって非常に重要というわけではないが、装置上の制約により3000psig以下、通常は2500psig以下である。ハイドロフィニッシング反応器内の温度は通常は約150℃(約300°F)〜約370℃(約700°F)の範囲内にあり、約205℃(約400°F)〜約260℃(約500°F)の範囲内の方が好ましい。LHSVは通常は約0.2〜2.0の範囲内にあり、好ましくは約0.2〜1.5、最も好ましくは0.7〜1.0の範囲内にある。水素は、通常はハイドロフィニッシング反応器に対して原料バレル当たり約1000〜10000SCFの流量で供給される。典型的には、水素は原料バレル当たり約3000SCFの流量で供給される。
【0038】
ハイドロフィニッシング用の適切な触媒は、典型的には周期律表VIII族の貴金属が酸化物担体と一緒に用いられる。ハイドロフィニッシング用触媒として有用であると考えられている金属(およびその化合物)の例として、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金およびオスミウムが挙げられる。好ましい金属は、白金、パラジウムおよびこれらの混合物である。耐熱性酸化物担体は通常はシリカ/アルミナ、シリカ/アルミナ/ジルコニアなどで構成される。典型的なハイドロフィニッシング用触媒は米国特許3,852,207;4,157,294;および4,673,487に開示されている。
【0039】
減圧蒸留塔から回収される基油は一定の範囲内の基油グレードを包含する。減圧蒸留塔から回収される典型的な基油グレードとして、XXLN、XLN、LN、MNおよびHNが挙げられるが、必ずしもこれらに限られない。本明細書で挙げられるXXLNの基油グレードは、100℃での動粘度約1.5〜3.0cSt、好ましくは約1.8〜2.3cStを有する。XLNグレードの基油は、100℃での動粘度約1.8〜3.5cSt、好ましくは約2.3〜3.5cStを有する。LNグレードの基油は、100℃での動粘度約3.0〜6.0cSt、好ましくは約3.5〜5.5cStを有する。MNグレードの基油は、100℃での動粘度約5.0〜15.0cSt、好ましくは約5.5〜10.0cStを有する。HNグレードの基油の100℃での動粘度は10.0を越える。一般的には、HNグレードの基油は100℃での動粘度約10.0〜30.0cSt、好ましくは約15.0〜30.0cStを有する。各種の基油グレードの他に、ディーゼル燃料生成物も減圧蒸留塔から回収され得る。
【0040】
基油ブレンドを製造する際、一つあるいは複数の目標性状が予め設定され、その目標性状を満たすように軽質分の減圧蒸留塔のブロック運転モードで得られた基油留分と中質分の減圧蒸留塔のブロック運転モードで得られた基油留分をブレンドする。通常の場合、これら目標性状の一つとして動粘度が選択される。基油ブレンドを製造する際に選択してもよい他の性状の例として、流動点、曇り点、Noack蒸留性状、粘度指数(VI)および低温でのクランキング・シミュレータによる粘度(CCS Vis)が挙げられるが、必ずしもこれらに限られない。
【0041】
動粘度(単に粘度と呼ばれることがある)はASTM試験法D−445(あるいはそれと同等の試験法)によって測定される。流動点とは、基油試料が注意深く制御された条件下で流動を開始する温度である。本明細書では、流動点は別段の記載がない限りASTM試験法D−5950(あるいはそれと同等の試験法)による標準試験法で測定される。曇り点は流動点とは相互補完的な性状であり、基油試料が注意深く制御された条件下でヘイズの発生が開始する温度である。曇り点はASTM試験法D−5773−95(あるいはそれと同等の試験法)によって測定される。Noack蒸留性状は、油試料をルツボに入れて、それに一定流量の空気を吹き込みながら250℃で減圧下の20mmHg(2.67kPa;26.7mbar)で60分間加熱した場合に蒸発する量を質量%で表した値である。Noack蒸留性状を計算するより便利な方法でASTM試験法D−5800測定値とよく相関できる値を与える方法は、ASTM試験法D−6357による熱重量分析(TG)を用いる方法である。粘度指数(VI)はASTM試験法D−2270−93(1998)(あるいはそれと同等の試験法)により測定される。低温でのクランキング・シミュレータによる粘度(CCS Vis)はASTM試験法D−5293−02(あるいはそれと同等の試験法)により測定される。本明細書では、標準試験法と同等の試験法とは、標準試験法と実質的に同じ結果を与える全ての分析法を指す。
【0042】
図1に戻って本発明を更に詳細に説明する。常圧蒸留塔(図示されていない)の塔底からの残油として回収されるワックス状原料は、ライン2により水素化異性化反応器4に送られ、そこで原料中のイソパラフィン類の量を増加して同原料の低温流動性状を改善する。約550°F以上の沸点を有する異性化処理を受けたワックス状原料はライン6により水素化異性化反応器あるいはハイドロフィニッシング反応器から回収され、減圧蒸留塔8に送られる。同図は説明のために2基の減圧蒸留塔を示しているが、実際には必要とされる減圧蒸留塔は1基のみである。ここでは、軽減圧蒸留塔は軽質分と中質分のいずれかをブロック運転モードで処理することを示している。本実施態様での減圧蒸留塔からは4種類の留分がサイドストリームとして抜き出され、また塔底から残油留分、塔頂からはオーバーヘッド留分が抜き出される。すなわち、図では以下の6種類の留分が減圧蒸留塔から抜き出される:ディーゼル燃料、XXLN、XLN、LN、MNおよびHN留分。
【0043】
軽質分のブロック運転モードの際には、6種類の留分がラインL10、L12、L14、L16、L18およびL20により抜き出されて、各々貯蔵タンク10、12、14、16、18および20に送られる。中質分のブロック運転モードの際には、6種類の留分がラインM10、M12、M14、M16、M18およびM20により抜き出されて、各々同じ貯蔵タンク12、14、16、18および20に送られる。市場の状況に応じて、軽質分と中質分のブロック運転により得られる基油留分は1種あるいは複数種のブレンド目標性状を満たすように各種の割合でブレンドされる。このようにして、留出油基油留分を受け取る各貯蔵タンクは軽質分のブロック運転により得られる留分を約0.1〜99.9質量%、中質分のブロック運転により得られる留分を約0.1〜99.9質量%含有するブレンドを貯蔵する。更に、同図には破線で示されるライン22,24および26が装備されており、これらにより中質分のブロック運転モードにより得られる軽質分は、市場状態次第では粘度グレードが1段高い留分と交互にブレンドできる。
【0044】
ここで、同図に示されるように、減圧蒸留塔からの全ての生成留分を回収するために必要とされる貯蔵タンク数はわずかに6基であること、および同プロセスは調整された性状を有するほぼ際限のない生成物アレーを得るために使用できることに留意されたい。本プロセススキームでは、減圧蒸留塔から抜き出される留分数と同数の貯蔵タンクしか必要とはされない。追加的な貯蔵タンク数を必要とする通常型プロセススキームのための大投資額をフレキシブルに節減できる。
【0045】
同蒸留プロセスに対して追加的なフレキシビリティを与えるために、減圧蒸留塔はライトニュートラル(LN)およびメディアムニュートラル(MN)留分を抜き出すためのラインの中間に追加的なサイドストリーム抜き出し専用のラインを装備するように設計されてよい。このような追加的なサイドストリーム抜き出し中間ラインの装備により、ライトニュートラル(LN)およびメディアムニュートラル(MN)のいずれかとのオンラインブレンディングが可能となる。これにより、同プラントが軽質分のブロック運転モードと中質分のブロック運転モードを切り替える際の減圧蒸留塔内の蒸気/液体流の首尾一貫性を高めることができる。このことは、図2および3により明確に示されている。これらの図は、同一減圧蒸留塔で実施される軽質分と中質分のブロック運転モードを示している。
【0046】
図2は中質分のブロック運転モードを実施する減圧蒸留塔を示している。ここで、同蒸留塔には5個のサイドストリーム抜き出しラインならびにディーゼル燃料回収用の塔頂ラインおよび残油であるヘビーニュートラル(HN)回収用の塔底ラインが装備されていることに留意されたい。サイドストリーム抜き出しラインの内の3個は各々XXLN、XLNおよびLN回収用であり、残りの2個は両方ともメディアムニュートラル基油(MN)回収用である。このような設計により、特定の目標粘度を満足させるためにブレンドされるメディアムニュートラル留分を製造する際の追加的なフレキシビリティが確保される。従って、同減圧蒸留塔の運転は100℃で約5〜15cStの範囲内のいずれかの粘度を有するメディアムニュートラル基油を製造するように制御できる。
【0047】
同様にして、図3は図2に示すのと同一の減圧蒸留塔により軽質分のブロック運転モードを実施する様子を示している。この場合、3個の抜き出しラインは各々XXLN、XLNおよびMN回収用であり、残りの2個は両方ともライトニュートラル基油(LN)回収用である。このような設計により、特定の目標粘度を満足させるためにブレンドされるライトニュートラルのグレードを製造する際の追加的なフレキシビリティが確保される。従って、同減圧蒸留塔の運転は100℃で約3〜6cStの範囲内のいずれかの粘度を有するライトニュートラル基油を製造するように制御できる。
【0048】
本発明の一態様では、少なくとも3種類の基油グレードを包含する製品スレートを製造するプロセスは、複数の場所で実施可能である。すなわち、異性化工程(随意的にハイドロフィニッシング工程を包含する)を第二の場所から遠く離れた第一の場所で実施可能である。同態様では、蒸留およびブレンディング工程は第二の場所で実施可能である。第二の場所で、より複雑な減圧蒸留およびタンク貯蔵を実施することは、第一の場所での機器設置用の土地が限られている場合、あるいは非常に高い建設コストが必要とされる場合に有利となる可能性がある。蒸留および貯蔵タンク専用の場所は、通常は他の製油所あるいは市場により近い場所が選ばれる。更に、第二の場所は建設コストあるいは市場への製品出荷コストが低い可能性がある。本実施態様において、初留点が約340℃以下で終点が約560℃以上の広い沸点範囲を有する中間製品を遠くはなれた第一の場所から第二の場所に移送する追加的な工程を採用する場合には同プロセスに対して中間的な工程を追加する必要があるかもしれない。1種類の広い沸点範囲を有する基油中間製品を出荷する場合には、第一の場所での投資額の節減、土地の相当な削減、機器の削減が可能である。本実施態様は、フィッシャートロプッシュ法により製造された製品を取り扱う際には特に有用である。なぜならば、天然ガスは通常は製油所や市場から遥かに離れた場所に孤立しているからである。ここで離れた場所とは、第二の場所から少なくとも100マイル離れた場所を指す。
【0049】
以下に記載される実施例は本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲に制限を加えることを意図したものではない。
[実施例]
【0050】
実施例1
フィッシャートロプッシュ法によりコバルト系触媒の存在下で製造されたワックスを水素化処理した。沸点範囲分布の分析結果を表1に示している。
【表1】

【0051】
上述のフィッシャートロプッシュ法により製造されたワックスをPt/SAPO−11触媒の存在下で水素化異性化処理し、次いでシリカ/アルミナに担持されたPt/Pdハイドロフィニッシング触媒の存在下でハイドロフィニッシング処理することにより広い沸点範囲を有する基油を生成した。550°F以上の沸点を有する広い沸点範囲の同基油は、次いで減圧蒸留塔により軽質分と中質分のブロック運転モードで分離された。この広い沸点範囲の同基油は、ハイドロフィニッシング反応器からの全生成物中に78.42質量%を占めた。各々の蒸留運転モードにより5種類の留分が得られた。各々のブロック運転により得られた最も高沸点留分は塔底から抜き出された残油分であった。
【0052】
2種類の蒸留運転モードでの各生成物の沸点範囲、蒸留塔生成物に占めるそれの収率(蒸留収率)および性状を以下にまとめている。表2は軽質分のブロック運転による蒸留モードでのデータ、表3は中質分のブロック運転による蒸留モードでのデータを示している。
【表2】


【表3】

【0053】
軽質分の蒸留ブロック運転モードにより、100℃での動粘度が約4.0〜4.5cStを有する基油が比較的大量に生成された。このような基油は0Wグレードのエンジンオイルを製造するための理想的なブレンド材である。中質分の蒸留ブロック運転モードにより、100℃での動粘度が約7.5〜8.0cStを有する基油が比較的大量に生成される。このような基油は5Wグレードのエンジンオイルを製造するための理想的なブレンド材である。
【0054】
実施例2
実施例1で実施された2種類の蒸留運転モードで得られた各対応する留分を50/50の割合で混合した。各ブレンドの沸点範囲、蒸留塔生成物に占める各留分収率(蒸留収率)および性状を以下の表4にまとめている。
【表4】

【0055】
本実施例で得られた3種類のブレンドされた基油グレードは非常に高い粘度指数を有していたことに留意されたい。すなわち、XLN、LNおよびMN基油のグレードは全て式28×Ln(Vis 100)+95で与えられる値よりも高いVIを有していた。
【0056】
移送され貯蔵タンク内で共にブレンドされることにより、完全な基油スレートが製造された。L1とM1のブレンドは高品質の重質ディーゼル燃料であった。他のグレードは全て市場で高価値をつけられる基油製品として有用であった。XLNは自動車変速機流体の製造に特に適しており、またLNは0Wグレードのエンジンオイルのブレンド用に特に適している。
【0057】
LNあるいはMNグレードの基油の相対的な需要によって、軽質分のブロック運転モードによる最適軽質留分と中質分のブロック運転モードによる最適中質留分のブレンド比率は変化し得る。このような比率は、蒸留塔は一方のモードを他方のモードよりも長時間運転することによって達成できる。本プロセスの利点の一つは、各々の運転モードにより得られた留分のブレンドはブレンドと同数の貯蔵タンクでブレンドされ貯蔵されるので、それ以上のタンク数を必要とはしない点である。
【0058】
本実施例による生成物(重質ディーゼル燃料および基油)は5基の貯蔵タンクに移送し、そこで共にブレンドし、貯蔵することが可能であった。重質ディーゼル油は他のプロセスによって得られたディーゼル燃料とブレンドする、あるいは別々に貯蔵することが可能であった。4種類の基油は各々完全な基油スレートであり、各々が基油グレード用の4基の貯蔵タンクに貯蔵できる。
【0059】
実施例3
実施例1で用いたのと同じ沸点範囲を有する基油を軽質分と中質分のブロック運転モードが実施された減圧蒸留塔により分離した。各々の運転モードにより、5留分の代わりに6留分を生成した。上述の実施例2と同様に、各々のブロック運転により得られた最も高沸点留分は塔底から抜き出された残油分であった。
【0060】
2種類の蒸留運転モードでの生成物各留分の沸点範囲、収率(蒸留収率)および2種類の蒸留運転モードでの生成物性状を以下にまとめている。表5は軽質分のブロック運転による蒸留モードでのデータ、表6は中質分のブロック運転による蒸留モードでのデータを示している。
【表5】


【表6】

【0061】
5留分を生成した実施例1と同様に、本実施例での6留分を生成した軽質分の蒸留ブロック運転モードにより、100℃での動粘度が約4.0〜4.5cStを有する基油が比較的大量に生成された。このような基油は0Wグレードのエンジンオイルを製造するための理想的なブレンド材である。中質分の蒸留ブロック運転モードにより、100℃での動粘度が約7.5〜8.0cStを有する基油が比較的大量に生成された。このような基油は5Wグレードのエンジンオイルを製造するための理想的なブレンド材である。
【0062】
実施例4
実施例3で実施された2種類の蒸留運転モードで得られた各対応する留分を50/50の割合で混合した。各ブレンドの沸点範囲、蒸留塔生成物に占める各留分収率(蒸留収率)および性状を以下の表7にまとめている。
【表7】

【0063】
6留分のブレンドにより追加的な基油グレードであるXXLNが得られた。本実施例により生成したフィッシャートロプッシュ法により製造されたワックスからのXXLNは非常に高い粘度指数と低いNoack蒸留性状を有しているので、高品質のエンジンオイル、パワーステアリング用流体、ショックアブゾーバー用流体および自動変速機用流体の製造に適している。更に同XXLN基油は良好なプロセス用あるいは希釈用の油としても使用できる。
【0064】
本実施例による生成物(重質ディーゼル燃料および基油)は貯蔵タンクに移送し、そこで共にブレンドし、貯蔵することが可能であった。重質ディーゼル油は他のプロセスによって得られたディーゼル燃料とブレンドする、あるいは別々に貯蔵することが可能であった。5種類の基油は各々完全な基油スレートであり、各々が5基の基油グレード用の貯蔵タンクに貯蔵できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】軽質分と中質分の減圧蒸留塔のブロック運転により回収され得る基油の各種グレードと、製造され得る異なる種類の基油ブレンドを模式的に示す図である。
【図2】中質分の減圧蒸留塔のブロック運転を説明する本発明での使用のために設計された減圧蒸留塔を模式的に示す図である。
【図3】軽質分の減圧蒸留塔のブロック運転を説明する本発明での使用のために設計された減圧蒸留塔を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初留点が約340℃以下、終点が約560℃以上のワックス状原料から製造され、100℃での動粘度が約1.8〜30cStの範囲内にある少なくとも3種類の基油グレードを包含する製品スレートを製造する以下の工程を包含するプロセス:
(a)同ワックス状原料の少なくとも一部を異性化処理して、それのイソパラフィン類の濃度を上昇させる工程、
(b)異性化処理されたワックス状原料の第一の部分を軽質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、
(c)異性化処理されたワックス状原料の第二の部分を中質分のブロック運転モードによる蒸留で異なる沸点範囲を有する少なくとも3種類の基油留分を製造する工程、および
(d)軽質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分と中質分のブロック運転モードにより製造された少なくとも1種類の基油留分をブレンドして、少なくとも1種類の予め選択された性状の目標値を満足させる潤滑剤基油ブレンドを製造する工程。
【請求項2】
該ワックス状原料の終点が約620℃以上であり、それの約10質量%以下が260℃未満の温度で沸騰することを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項3】
該ワックス状原料がn−パラフィン類を少なくとも50質量%含有することを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項4】
該ワックス状原料がn−パラフィン類を少なくとも75質量%含有することを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項5】
該ワックス状原料の流動点が50℃を越えることを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項6】
該ワックス状原料の流動点が60℃を越えることを特徴とする請求項5のプロセス。
【請求項7】
該ワックス状原料の少なくとも一部がフィッシャートロプッシュ法により合成された生成物であることを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項8】
軽質分のブロック運転モードにより製造された基油留分と中質分のブロック運転モードにより製造された基油留分をブレンドすることにより少なくとも3種類の基油ブレンドを製造することを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項9】
該製品スレートが100℃での動粘度が約1.5〜3.0cStの範囲内にある少なくとも1種類の潤滑剤基油ブレンドを含有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項10】
該製品スレートが100℃での動粘度が約1.8〜3.5cStの範囲内にある少なくとも1種類の潤滑剤基油ブレンドを含有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項11】
該製品スレートが100℃での動粘度が約3.0〜6.0cStの範囲内にある少なくとも1種類の潤滑剤基油ブレンドを含有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項12】
該製品スレートが100℃での動粘度が約5.0〜15cStの範囲内にある少なくとも1種類の潤滑剤基油ブレンドを含有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項13】
該製品スレートが100℃での動粘度が約10cStを越える少なくとも1種類の潤滑剤基油ブレンドを含有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項14】
該基油の少なくとも3種類が120以上のVIを有することを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項15】
該製品スレートがディーゼル燃料も包含することを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項16】
該性状目標値が動粘度であることを特徴とする請求項1のプロセス。
【請求項17】
該工程(a)が第一の場所で実施され、工程(b)および(c)が第二の場所で実施されるプロセスであって、同第一の場所が第二の場所から遠く離れていることを特徴とする請求項8のプロセス。
【請求項18】
ワックス状原料から基油を製造するための基油製造プラントを運転するための以下の工程を包含するプロセススキーム:
(a)初留点が約340℃以下、終点が約560℃以上のワックス状原料を異性化処理して、それのイソパラフィン類の濃度を上昇させる工程、
b)異性化処理されたワックス状原料を軽質分のブロック運転モードと中質分のブロック運転モードを交互に実施する減圧蒸留塔で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油留分に分離して、軽質分のブロック運転モードによる蒸留で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油グレードを製造し、また中質分のブロック運転モードによる蒸留で少なくとも3種類の異なる沸点範囲を有する基油グレードを製造する工程および
(c)軽質分のブロック運転モードにより製造された各基油グレードと中質分のブロック運転モードにより製造された対応する各基油グレードをブレンドして、各々が少なくとも1種類の予め選択された性状の目標値を満足させる少なくとも3種類の潤滑剤基油ブレンドを製造する工程。
【請求項19】
該ワックス状原料がフィッシャートロプッシュ法により合成された生成物であることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項20】
該減圧蒸留塔の軽質分のブロック運転モードを実施する期間と中質分のブロック運転モードを実施する期間を、予め選択された量の少なくとも1種類の基油グレードを製造するために制御することを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項21】
該軽質分のブロック運転モードにより少なくとも4種類の基油留分を製造し、また該中質分のブロック運転モードにより少なくとも4種類の基油留分を製造し、そしてこれらの基油留分から少なくとも4種類の潤滑剤基油ブレンドを製造することを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項22】
該軽質分のブロック運転モードにより少なくとも5種類の基油留分を製造し、また該中質分のブロック運転モードにより少なくとも5種類の基油留分を製造し、そしてこれらの基油留分から少なくとも5種類の潤滑剤基油ブレンドを製造することを特徴とする請求項21のプロセススキーム。
【請求項23】
該減圧蒸留塔からディーゼル燃料も回収されることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項24】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類が100℃での動粘度が約1.5〜3.0cStの範囲内にあることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項25】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類が100℃での動粘度が約1.8〜3.5cStの範囲内にあることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項26】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類が100℃での動粘度が約3.0〜6.0cStの範囲内にあることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項27】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類が100℃での動粘度が約5.5〜15cStの範囲内にあることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項28】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類の100℃での動粘度が約15cStを越えることを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項29】
該潤滑剤基油ブレンドの少なくとも1種類が120以上のVIを有することを特徴とする請求項18のプロセススキーム。
【請求項30】
ワックス状原料から製造され、各々が
(a)軽質分のブロック運転モードにより製造される留出油留分(約0.1〜99.9質量%)および
(b)中質分のブロック運転モードにより製造される留出油留分(約0.1〜99.9質量%)
を包含する基油ブレンドである100℃での動粘度が約1.8〜30cStの範囲内の3種類以上の基油グレードを包含する基油スレート。
【請求項31】
該基油グレードが以下を包含すること特徴とする請求項30の基油スレート。
(a)100℃での動粘度が約1.8〜3.5cStの範囲内にある基油ブレンド、
(b)100℃での動粘度が約3.0〜6.0cStの範囲内にある基油ブレンドおよび
(c)100℃での動粘度が約5.5〜15cStの範囲内にある基油ブレンド。
【請求項32】
100℃での動粘度が約1.5〜3.0cStの範囲内にある基油ブレンドを更に包含すること特徴とする請求項31の基油スレート。
【請求項33】
100℃での動粘度が約10cStを越える基油ブレンドを更に包含すること特徴とする請求項31の基油スレート。
【請求項34】
ワックス状原料から製造され、各々が100℃での動粘度が約1.8〜30cStであり、また粘度指数(VI)が式VI=Ln(Vis100)+95で与えられる値を越える(ここで、Ln(Vis100は)VIは100℃での動粘度の自然対数である)3種類以上の基油グレードを包含する基油スレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−539279(P2008−539279A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500721(P2008−500721)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/005409
【国際公開番号】WO2006/098838
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】