説明

複数の基地局から受信する電力制御コマンドを結合する方法

【課題】複数の基地局から受信する電力制御コマンドを結合する方法を提供する。
【解決手段】セルラーCDMAシステムにおいて、ソフト・ハンドオフ中であって複数の基地局と通信する移動局は、基地局からの電力制御コマンドの評価に従来の「オア・オブ・ザ・ダウンズ(or of the downs)」ルールを適用する代わりに、基地局からの個々のリンク品質を評価し、そのリンク品質に関連する各受信電力制御コマンドに重み付けをする。任意の基地局が所定のしきい値を超えるリンク品質を示し、またその基地局が電力の減少を要求している場合は、電力は所定の量デルタだけ減少され、それ以外の場合は、電力は、各基地局からのリンクの信号品質から決定される重みと各基地局からの受信電力制御信号とに従って、デルタより小さいかまたは等しい量だけ上下方向に調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にDS/CDMA無線システムに関し、特にDS/CDMA無線システムにおいて、移動局がソフト・ハンドオフ状態にあり2つ以上の基地局から電力制御コマンドを受信しているときに、移動局の出力電力を制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
IS-95A規格によって定められるようなセルラーCDMAシステムにおいては、サービス・モバイル・ユーザには複数の基地局が割り当てられる。基地局のカバーするエリアはセルとして知られている。セルは、典型的に重なり合う。通話中のモバイル・ユーザは、セルの端の方へ移動することがあり、従って2つ以上のセルが重なり合う領域に入ることがある。
【0003】
基地局は、移動局から受信される信号の電力レベルを監視して、各移動局にその電力を増加するかまたは減少するように指示して、通信の維持に十分でありかつ他の移動局からの送信との干渉を排除するのに十分低いレベルの電力を供給することができる。
【0004】
「ハンドオフ」プロシージャは、1つの基地局から別の基地局へとモバイル・ユーザを受け渡すための技術として当分野において周知である。移動局が現在の基地局との伝送を切断し、「ゼロから」新しい基地局との伝送を再開するとき、移動局は「ハード・ハンドオフ」を経ると言う。移動局がそのハンドオフに含まれる2つ以上の基地局と同時に通信することができる場合は、「ソフト・ハンドオフ」という。この場合、基地局の各々が移動局に電力制御コマンドを送信する。
【0005】
移動局がこれら複数の電力制御コマンドに応答するための従来の方法は、基地局の何れかが電力の減少を要求する場合は電力を減少させ、全ての基地局が電力の増加を要求する場合にのみ電力を増加させるというものである。これは一般に「オア・オブ・ザ・ダウンズ(or of the downs)」ルールとして知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無線伝送においては、基地局と移動局の間に信頼性の高い通信リンクを維持する際に、様々な困難に遭遇する。しばしば遭遇する困難のうちの1つは、無線伝送環境の性質と移動局の移動性のために起こる、時間変化する受信信号強度変動であり、これはフェージングとして知られている。フェージングチャネルにおいては、下りリンク(基地局から移動局へ)または上りリンク(移動局から基地局へ)のいずれかの無線リンク接続の一部が強くなることもあるし、他の一部が弱くなることもある。さらに、下りリンクおよび上りリンクにおけるマルチパス・フェージングは、リンクの時間変化する性質によって異なることもある。
【0007】
上りリンクにおける電力を制御するために、電力制御コマンドは下りリンクに符号化されない状態で送信されて、符号化された情報の復号化に伴う遅延を回避する。従って、これらのコマンドの誤り率は情報ビットの誤り率より相対的に高い。従来のDS/CDMAセルラー・システムにおいては、良好な接続とみなされる接続として典型的な電力制御ビットの誤り率がおよそ5%となるように下りリンクが設計される。下りリンクにおける受信信号強度が公称操作信号強度より弱い場合、このレートはさらに高い値になりうる。電力制御ビットが特別な電力で送信される場合、この誤り率はさらに低い値になりうる。従って、(i)従来の「オア・オブ・ザ・ダウンズ」結合方法と、(ii)この5%誤り率を用いては、たとえ全ての基地局が電力の増加を要求したとしても、ただ1つの電力制御コマンドビットの伝送におけるエラーのために、移動局は誤ってその送信電力を減少させてしまう可能性がある。
【0008】
電力制御コマンドが移動局で誤って解釈され、移動局が望ましい方向とは逆方向に動作するとき、他の移動局からの信号との干渉を増大させるおそれがあるので、システム容量に対するその影響は重大なものとなりうる。1つの基地局が受け持つ移動局(またはモバイル・ユーザ)の有効数が減少したり、またはサービスの品質が劣化したりする可能性がある。さらに、必要とされるより高い品質の信号を維持しようとして、移動局がその限られたバッテリの電力を不必要に消費する可能性がある。
【0009】
大きなトラフィックを有するセルラーCDMAシステムは、干渉が限定的であることが知られている。干渉の低減はシステム容量の増加に結び付く。干渉を低減するための方法の1つは、電力制御によるものである。電力制御は、下りリンク(基地局から移動局へ)及び上りリンク(移動局から基地局へ)の双方において使用される。上りリンク電力制御は2つの部分からなる。すなわち開ループと閉ループである。開ループは、通常両方のリンク(下りリンクおよび上りリンク)において相反する距離の差とシャドウイングの影響を補償するために使用される。マルチパス・フェージング条件は下りリンク及び上りリンクから独立しているので、基地局はフェージング補償(閉ループ)のためにその電力を調節する方法を移動局に伝える必要がある。
【0010】
移動局から受信したビット・エネルギー/ノイズスペクトル密度(Eb/No(広く使われている信号対雑音比))が目標Eb/Noより高い場合は、基地局はその送信電力を減少させるように移動局に要求する電力制御コマンドを送信し、また逆に移動局から受信したEb/Noが目標Eb/Noより低い場合は、基地局はその送信電力を増加させるように移動局に要求する。一般に1ビットのコマンドがこの目的のために使用され、例えば1は電力の減少を要求し、一方0は固定ステップΔだけ電力を増加させることを要求する。
【0011】
時間の大部分は、移動局はソフト・ハンドオフの状態にあるが、これは典型的に移動局は2つ以上のセル間で重なり合う領域内にあるからである。ソフト・ハンドオフの間、移動信号は複数の異なる基地局で受信され、フレーム単位でその移動局の信号を表す信号を複数の信号から取り出すために選択的な結合が実行される。この場合、移動局は複数の異なる基地局から電力制御コマンドを受信していることになる。干渉を低減するために、移動局は「オア・オブ・ザ・ダウンズ」ルール( その応用例を図1に示す)を適用する。
【0012】
受信電力制御コマンドにエラーがなければ、「オア・オブ・ザ・ダウンズ」ルールは干渉を最小化するので適切な方式である。しかし現実には、電力制御コマンドはエラーを持って受信される可能性がある。
【0013】
従って、電力制御コマンドの伝送が伝送におけるエラーに影響されるとき、基地局からの電力制御コマンドにより正確に応答するCDMA移動局の電力制御に対する必要性がある。
【0014】
本発明の目的は、移動局のサービス品質(QoS)を改善することである。
【0015】
本発明の別の目的は、電力制御コマンドが送信におけるエラーに影響されるとき、基地局からの正確な電力制御コマンドに応答しかつ不正確な電力制御コマンドを区別するCDMA移動局を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、ソフト・ハンドオフ中の干渉を最小にすることである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、移動局のソフト・ハンドオフ中の移動局における電力消費を削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は先行技術の欠点を克服して、ソフト・ハンドオフ中の干渉の最小化、システム容量の改善、及び移動局のバッテリの電力消費の削減を含む目的を達成するものである。
【0019】
本発明の一実施形態において、ソフト・ハンドオフ中に複数の関係する基地局からの複数の電力制御コマンドに応答するために移動局において「オア・オブ・ザ・ダウンズ」ルールを適用する代わりに、移動局は、受信した信号電力対雑音プラス干渉電力比(SINR)に関して個々のリンクの品質を測定し、そのリンク品質に関連する各受信電力制御コマンドに重み付けをする。電力制御の判定は、重み付けされたコマンドからなされる。
【0020】
本発明は、ある典型的な実施形態と関連して以下に説明される。しかし、本発明の範囲から逸脱することなく種々の修正、追加及び削減が可能であることは当業者には明らかであろう。
【0021】
本発明は、以下に詳細に述べる典型的な実施形態を添付の図面と共に参照することによってより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】「オア・オブ・ザ・ダウンズ」ルールの応用例を示す図である。
【図2】本発明の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ソフト・ハンドオフの間、移動局はソフト・ハンドオフに関連する全ての基地局から電力制御信号を受信しそれらを結合する。これらの信号のうち一つ以上は弱い可能性があり、これは高い誤り確率につながる。従って、弱い電力制御コマンドを誤って解釈することによって、たとえ全ての基地局が電力の増加を要求しているとしても、移動局はその電力を減少しつづける可能性がある。信号の強度は、基地局と移動局との間のパス損失と、信号に割り当てられる(当分野において周知のRakeレシーバにおける)Rakeフィンガーの数に左右される。移動局は、異なる信号に割り当てるための限られた数のフィンガーを有している。
【0024】
本発明は、ソフト・ハンドオフの間に移動局において受信される電力制御(PC)コマンドを結合するための新しい方式を提供する。移動局は、ソフト・ハンドオフ・プロセスに関連する基地局mから受信したSINRを測定し、この測定に基づいて対応する電力制御コマンドに重み(W)を割り当てる。移動局は、重みと関連する信頼性の測定に従って、全ての電力制御コマンドを結合する。干渉を低減するために、信頼の高い接続をしている任意の基地局が電力の減少を要求すると、移動局は、所定のステップサイズΔだけその電力を減少させる(λを所定のしきい値とするとき、W>λならば接続cは信頼性が高いとみなされる)。
【0025】
電力の減少を要求する信頼性の高い信号が受信されないときは、移動局はγだけその電力を調節する(但し、−Δ≦γ≦Δである)。実際の実施形態では、γは所定の値のセットから選択することもできる。
【0026】
本発明の方式が図2においてフローチャートの形態で示される。これは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの結合において実施されることができる。
【0027】
n個の基地局と通信している移動局は、1からnの基地局から信号を受信する。この信号には電力制御(PC)ビットPCからPCが含まれ、値0を有するそれぞれのビットは対応する基地局が移動局の送信電力の増加を要求していることを示し、値1を有するそれぞれのビットは送信電力の減少を要求していることを示す。しかし、上述したように、これらのビットは正しく受信されなかった可能性がある(当業者は、別の実施形態において反対のビット値を採用したり、または1ビットより多いフィールドを採用したりすることもできることを認めるであろう)。
【0028】
信号対雑音比推定器2‐1から2−nは、基地局1からnについて伝送品質Eb/NoからEb/Noを評価する。品質の評価は、その基地局と移動局との間のチャネル状態を移動局が正確に測定することが可能な基地局からの任意の伝送信号に基づいて行うことができる。重み計算器3は、各基地局からのEb/Noに従って、各基地局からの伝送品質について重みWからWを決定する。
【0029】
判定ブロック4は、すべての基地局に対して、重みが所定のしきい値λを超えているか否か、及び受信した電力制御ビットが1であるかを判定する。肯定(高い信頼性で受信されている基地局が電力の減少を要求したことを示す)であれば、電力はブロック5において 所定の量Δだけ減少される。
【0030】
判定ブロック4が電力の減少を要求する信頼性の高い伝送を検出しない場合は、ブロック6は次式によってγ(-Δ≦γ≦Δ)を計算する。
(数1)
γ=f(W,W,…W,PC,PC,…PC,Δ)
【0031】
そして、γだけ送信電力を変更する。γを計算するために使用される実行可能な関数の1つは、次の通りである。
(数2)
PC=1(減少の要求)ならば、C=−1
PC=0(増加の要求)ならば、C=1
=W+W+…W (式1)
x=W/W*C+W/W*C2…+W/W*C(式2)
γ=x*Δ (式3)
【0032】
本発明の別の実施形態では、受信されたPCビットが電力を増加するべきことを示すときには、Cビットに+1の値を与え、電力を減少するべきことを示すときには−1の値を与える。品質標識W,W,…Wは各PCビットに対して計算される。品質標識の大きさが所与のしきい値より大きい場合は、対応するCビットは変更されない。しきい値より大きくない場合は、Cビットはゼロにセットされる。このゼロは、電力を変更しないでおくべきことを示すために使用される。もし−1が得られた場合は、電力はΔだけ減少される。−1はないが少なくとも1つ+1がある場合は、γは上述の式1、式2、及び式3によって決定され、電力はγだけ増加される 全てのCビットが0にセットされる場合は、電力は変更されない。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、受信信号はmビット(mは1より大きい値)からなる電力制御フィールドを含む。特定の基地局からの電力制御フィールドに含まれる値が所定の第1のしきい値を上回るとき、対応するCビットは+1にセットされる。電力制御フィールドに含まれる値が第1のしきい値より低い第2のしきい値より小さいときは、Cビットは−1にセットされる。電力制御フィールドに含まれる値が2つのしきい値の間にあるときは、Cビットは0にセットされる。−1が得られる場合は、電力はΔだけ減少される。−1はないが少なくとも1つの+1がある場合は、γが上述したように計算されて、電力はγだけ増加される。全てのC値が0と等しいならば、電力は変更されない。
【0034】
本発明により上述の目的が効果的に達成されることは、以上の説明から明らかであろう。本発明は、ソフト・ハンドオフ中の干渉を最小化し、移動局における電力消費を最小化する、改善されたCDMA無線伝送を提供する。当業者は、電力制御コマンドが伝送におけるエラーの可能性に影響されるとき、CDMA移動局が基地局からの電力制御コマンドを評価し応答する方法が図2に示す構成によって改善されることを認めるであろう。
【0035】
上記構造において、また本発明の範囲から逸脱しない上述の動作のシーケンスにおいて、種々の変更をすることができることを理解されたい。従って、上述の説明に含まれ、また添付の図面に示される全ての事項は、限定された意味ではなく例示として解釈されるように意図されている。
【0036】
請求項は、本明細書において記述した本発明の一般的な及び特定の特徴の全てを包含するように意図されており、また本発明の範囲の全ての記載は、言語の問題として、それらの特徴の間にあるということもできることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局から受信する電力制御コマンドを結合する方法であって、
前記基地局の1つから電力制御コマンドを受信し、
前記電力制御コマンドに重みを付与し、
前記基地局の別の1つから別の電力制御コマンドを受信し、
前記別の電力制御コマンドに別の重みを付与し、
前記付与された重み及び前記付与された別の重みの関数として結合された電力制御コマンドを導出することを含み、
前記結合された電力制御コマンドは、前記電力制御コマンドおよび前記別の電力制御コマンドの関数としても導出され、
前記重みがしきい値の重みより大きいか否かを判定し、
前記重みがしきい値の重みより大きいと判定され、前記電力制御コマンドが0であるならば、前記関数はー1となる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−23748(P2012−23748A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190256(P2011−190256)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【分割の表示】特願2010−188376(P2010−188376)の分割
【原出願日】平成11年12月6日(1999.12.6)
【出願人】(390023157)ノーテル・ネットワークス・リミテッド (153)
【Fターム(参考)】