説明

複数の微小液滴を形成するための成型体およびその成型方法

【課題】複雑な装置構成を取ることなく、細胞の生存条件を維持しながら、異種細胞からなる細胞アレイを同一平面上に作製することができる成型体およびその作製方法を提供すること。
【解決手段】互いに平行となる第一、第二および第三の面を有し、第一と第三の面間を貫く、独立した複数の毛細管を有し、第一と第二の面間において第一と第二の面に垂直でかつ全ての毛細管が平行並立する領域を有し、かつ第二の面と第三の面の間において任意に選んだ毛細管と残る全ての毛細管の平行面内における距離が第三の面に近づくほど遠ざかる特徴を有した成型体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小液滴を格子状に並べるための樹脂成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年異なる細胞間にどのような相互作用が働くのか、といった細胞間相互作用の機構の解析に関心が注がれている。こうした細胞間の相互作用を調べるためには、まず異種の細胞を、同じ容器内に高密度に並べることが必要となる。
【0003】
しかしながら特許文献1に開示されているように、従来細胞をならべるには多数の微小容器を並べる方法が行われるが、異種の細胞を同じ容器内に高密度並べる場合には、この方法は用いることが出来ない。
【0004】
また特許文献2に見られるように、半導体プロセスを応用して、多数のオリゴヌクレオチドを同一容器内に高密度に並べるための技術はすでに確立されているが、この技術を用いて多数の細胞を同一容器内に高密度に並べる方法は知られていない。
【0005】
また特許文献3に見られるように、核酸あるいは蛋白を含む複数の試料を注入して移動させることができるキャピラリアレイを用いて電気泳動のバンドを検出する技術は知られているが、キャピラリアレイのような複数の毛細管を用いて異種細胞のアレイを作製する方法は知られていない。
【特許文献1】特開2005-059524号公報
【特許文献2】特許第3495702号公報
【特許文献3】特開2002-131282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
毛細管を用いて高密度の異種細胞アレイを平面上に形成させるためには、毛細管ごとに異なる液体を導入する必要があるため、異種細胞アレイを形成させるために多種の液体試料を扱うためには装置の構成は簡便であることが望ましい。また、細胞の生理条件や温度等の環境条件を維持することも必要となる。
【0007】
よって本発明の目的は、複雑な装置構成を取ることなく、細胞の生存条件を維持しながら、異種細胞からなる細胞アレイを同一平面上に作製することができる成型体を提供することにある。
【0008】
さらに本発明の他の目的は、異種細胞のアレイを作製するための成型体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る成型体は、同一平面上に複数の微小液滴を高密度に押印、形成させるための成型体であって、押印面となる第一の面と、液体導入面となる第三の面と、該第一と第三の面の間に存在する断面である第二の面とを互いに平行となるように有し、
前記第一と第三の面の間を貫く、独立した複数の毛細管を有し、
前記第一と第二の面間において、前記第一と第二の面に垂直でかつ全ての毛細管が平行並立する領域を有し、
かつ前記第二の面と第三の面の間において、任意に選んだ毛細管と残る全ての毛細管の平行面内における距離が、第三の面に近づくほど遠ざかる特徴を有した成型体である。
【0010】
本発明に係る毛細管アレイの作製方法は、集束構造をもつ毛細管アレイの成型方法において、
集束部をもつ線状の集合体を形成する工程と、
前記線状の集合体の一端と前記集束部との間において、前記集束構造を有さない領域を成型する工程と、
前記成型後に前記集束部を前記線状の集合体の他端の側に移動させ、前記集束構造を有する線状の集合体を形成する工程と、
移動後の前記集束部までの集束構造を有する領域を成型する工程と、
を含む集束構造をもつ毛細管アレイの成型方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成型体は、平面上に微細な異種細胞アレイを簡易に配置することができる。また、複雑な機構を有さず、かつ毛細管ごとに異なる液体を導入することが出来る構造を有するため、複雑な操作やメインテナンスを必要とせずに、多種の細胞からなる細胞アレイを作製することができる。さらに、熱などのエネルギーを与えずに微小液滴アレイを形成することができるため、細胞を生存させた状態で細胞アレイを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、単純な樹脂成型体によって、複雑な装置構成を取ることなく、複数の微小液滴を同一平面上に高密度に配置することができる成型体に係わる。同一平面上に配置するとは、容器や壁などの仕切りにより隔離されることなく、同じ平面上に複数の微小液滴が配置されることを意味する。成型体は、細胞を含む微小液滴を形成することができる構造を有するため、異種細胞のアレイの作製に好適に用いることができる。
【0013】
図1は本発明であるところの成型体1の一例を表す。複数の毛細管3が上部から下部へと貫通する毛細管アレイ構造を有し、複数の微小液滴2を高密度に押印、形成することが出来る。
【0014】
図2に基づいて、成型体を詳しく説明する。成型体は互いに平行な第一の面4、第二の面5、および第三の面6を有する。第一の面は、微小液滴を排出して平面に押印する面(微小液滴押印面)であり、第三の面は、微小液滴を形成する液体を成型体内部に導入する面(液体導入面)であり、第二の面は、第一の面および第三の面に平行に存在する成型体の断面である。第一と第三の面6を貫く、独立した複数の毛細管3は第一と第二の面5間の領域(以下、第一の領域とも記す)において、前記第一と第二の面5に垂直でかつ全ての毛細管3が平行並立する構造を有している。また毛細管3は第二の面5と第三の面6間の領域(以下、第二の領域とも記す)において、任意に選んだ毛細管3と残る全ての毛細管の平行面内における距離が、第三の面6に近づくほど遠ざかる構造を有する。
【0015】
前記第一の領域における毛細管間の間隔は、マイクロプレート底面に形成される微小液滴間の距離に相当する。そのため、高密度の微小液滴アレイを形成する程度に当該間隔は狭くなっている必要があり、ゆえに第一の領域では複数の毛細管が集束した構造(毛細管アレイ)を形成する。第一の領域の長手方向の寸法は、微小液滴アレイ形成の対象となるマイクロプレートの深さに対応できるように設計することが好ましい。
【0016】
前記第二の領域における毛細管は第三の面に近づくほど互いに遠ざかる構造を有していれば特に限定されることはないが、第三の面に露出する毛細管の孔どうしの間隔は、手操作分注によって個別に液体を供給できる程度に広いことが好ましい。手操作分注により、それぞれの孔に異なる液体を導入することができる結果、押印面から押印される微小液滴パターンには異なる液体を含むことができる。よって、異種細胞を夫々含む微小液滴からなる微小液体パターンの形成に好適に用いることができる。
【0017】
成型体の有する毛細管アレイ構造の成型は、線状物質を鋳型として樹脂などにより成型することにより形成することができる。毛細管の鋳型となる線状物質として細く剛性を有さない材料を用いことにより、2段階の成型ステップを用いて上記第一の領域および第二の領域からなる毛細管アレイ構造を簡便に成型することができる。具体的に、図3と図4に基づいて、成型体の作製方法の一例を説明する。図3(A)は集束部8をもつ線状の集合体を形成する工程を表す。集束部8の部材は高密度に複数の貫通孔をもつ枚葉の部材7bであり、線状物質9が束ねられている。また線状の集合体を形成する線状物質の一端は、手分注操作可能な程度に低密度な貫通孔をもつ枚葉の部材7aに通される。図のとおり、枚葉の部材7aと枚葉の部材7bとの間に線状の集合体を形成することができる。この線状の集合体は集束構造を有していない領域である。次に図3(B)は集束構造を有さない領域において線状の集合体を成型する工程を表す。図4の半割できる鋳型13aと13bに樹脂を流し込み、線状の集合体を成型する。この工程で成型体10が形成される。続いて図3(C)は、成型体10の成型後、集束部8を線状の集合体の他端の側(枚葉の部材7aに通された側の反対側)に移動させ、集束構造を有する線状の集合体を形成する工程を表す。集束構造は、移動前の集束部8の位置と移動後の集束部8との間において形成される。続いて図3(D)は、移動後の前記集束部まで樹脂を流し込み、集束構造を有する領域を成型する工程を表す。成型体11が形成される。全ての樹脂が硬化後、鋳型となる部材(線状物質9含む)を除去する。樹脂としては、実施例で示すPDMSのように、硬化後に適度に弾性を有する材料を用いることが、押印時の液漏れを防止することができるため好ましい。また、PDMSのようにガス透過性を有する材料を用いることは、培養環境に適したものとなるため好ましい。また、成型体10または成型体11のいずれかを成型する工程において、微細加工を施したSiウエハを鋳型の一部分に用いることができる。
【0018】
図4に示すとおり、半割の鋳型13a、13bはネジ12で合体される。集束部8は、鋳型側に保持部14a、14bを設けてよい。保持部14a、14bは枚葉の部材7a、枚葉の部材7bを保持できる形状とすることができる。線状物質9は糸または極細管を用いることが出来る。例えばナイロン糸、ガラスファイバー糸、極細ビニールチューブ、極細ガラス管など挙げることが出来る。集束部8を形成する枚葉の部材としては、例えば貫通エッチングを施したステンレス板、Siウエハ、ガラス板、一定のポアザイズでメッシュ状に織り込んだナイロン、テフロンなどの布を用いることが出来る。
【0019】
ただし、液体混合防止を図るために第一の面4の毛細管の孔に凸部を持たせる場合は、
Siウエハを集束部を形成する枚葉の部材として用いて、DEEP-RIEなどの微細加工方法によって、貫通エッチングして加工することが望ましい。図5の(B)から(E)に凸部形状の一例を示す。また(A)にSiウエハ断面15を示す。樹脂が流し込まれ、凸部が形成される。
【0020】
尚本発明で都合よく作製できる成型体は、数十ミクロンから数百ミクロンまでの径を有する毛細管が望ましい。また都合に応じて毛細管内部を親水性、疎水性に処理、コーティングしても良い。
【0021】
使いこなし(管内に液体をピペッティングする際)の面から、管内を親水性にコーティングすれば液体を入れやすくすることができる。一般的には、半径r の毛細管を考えると、管の一端から圧力P をかけて、管内の流体(密度ρ、液柱h)を移動させるためには、P > 2 T cos θ/r −ρghであるとよい。ここでT は表面張力、θは液体と管の接触角、g は重力加速度である。したがってθが90 °よりも小さければ、管内の液体を移動させるに要する圧力は、r が小さくなればなるほど、大きな値が必要となる。
【0022】
また本発明の成型体は、マイクロウエルプレート等の底面に押印、形成させるための用途に用いられる。例えば96ウエルプレートに押印する場合、第一の面4の大きさは、9.3mm未満でなくてはならない。48ウエルプレートであれば、11.0mm未満でなくてはならない。かつ本発明の成型体は、分注操作が容易であることが望ましい。したがって第一の面4の大きさに加え、かつ第三の面6を貫く毛細管のピッチが分注操作容易な距離とすることが出来る。この距離は、例えば1536ウエルプレートの規格である2.25mmピッチを用いることで自動化に対応することが出来る。
【実施例】
【0023】
(Siウエハの加工)
成型体の第一の面を形成する枚葉の部材7aとしてSiウエハを用い、DEEP-RIE法によって加工し、凸部形状を形成するためにSiウエハ上に凹部を作製する。まず凸部形状となるマスクパターンを描き、マスクを作製する。マスクは、Siウエハの表面からエッチングするパターンと裏面からエッチングするパターンの2種類を作製する。
【0024】
厚膜レジストAZ4903(AZ エレクトロニックマテリアルズ株式会社)をSiウエハ表面にスピンコート、露光、現像する。ICPエッチング装置(MUC-21:STS社製)にウエハを入れ、350μmほどほぼ垂直にエッチングする。エッチング:パッシベーション時間の比率は7:2にする。エッチング終了後、アセトンでレジスト除去、洗浄する。次にウエハ裏面について、先ほどのレジストAZ4903をスピンコートし、両面アライナーにて表面のエッチングパターンとアライメント後、露光、現像する。表面側にリーク防止用テーピング処理を施した後、先ほどのICPエッチング装置にウエハを入れ、貫通するまでエッチングをする。ウエハを所望の大きさにダイシングする。
【0025】
尚厚膜レジストの場合は、パターンが60μm程度の場合に使用し、それ以上の微細なマスクパターンの場合にはリフトオフプロセスによってメタルマスクに置き換える。メタルはクロム2000Å程度蒸着する。
【0026】
集束部を形成する枚葉の部材7bとして用いるSiウエハについても、貫通孔を形成し、所望の大きさにダイシングする。
貫通孔間の間隔は、枚葉の部材7aが1536ウエルプレートの規格である2.25mmで、枚葉の部材7bが250μmとしている。
【0027】
(集束部をもつ線状の集合体の形成)
図6に集束部をもつ線状の集合体とそれを格納する鋳型の写真を示す。線状物質はナイロン糸100μmを用いる。貫通エッチング、ダイシングの終了した、上下2種類のSi加工済みウエハに、拡大鏡を用いてナイロン糸を通す(写真上部)。
【0028】
(線状の集合体を成型)
PDMS(ポリジメチルシロキサン)樹脂(SYLGARD184:ダウコーニング(株))を添付の重合開始剤と10:1に混合し、遠心脱泡する。上記形成した線状の集合体を鋳型に収め、PDMS樹脂を流し込む。冷暗所で一晩、成型させる。
【0029】
(集束部の移動および成型)
鋳型から硬化したPDMS樹脂をはずし、集束部を後方に移動させる。再度鋳型に収め、できた空間に先ほどのPDMS樹脂を流し込み、成型させる。
【0030】
図7(A)に成型の終了した成型体を示す。また図7(B)に凸部形状の先端部を示す。また図7(C)に凸部形状の鋳型となるSiウエハ加工面の写真を示す。写真の凹部に樹脂を流し込むことで、凸部形状が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は異種の細胞間に働く相互作用を解析する上で重要なツールとなる。本発明の成型体内で、ハンギングドロップ培養他、通常の培養を行っても良い。また単に異なる液体のスポットアレイを作る場合にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の成型体の一例を表す。
【図2】本発明の成型体説明図を表す。
【図3】本発明の成型体作製方法の説明図を表す。
【図4】本発明の成型体鋳型の一例を表す。
【図5】凸部形状の一例を表す。
【図6】集束部をもつ線状の集合体および格納する鋳型の写真。
【図7】(A)成型体の写真。(B)凸部形状の先端部写真。(C)凸部形状の鋳型となるSiウエハ加工面写真。
【符号の説明】
【0033】
1 成型体
2 微小液滴
3 毛細管
4 第一の面
5 第二の面
6 第三の面
7a、7b 枚葉の部材
8 集束部
9 線状物質
10 成型体(工程B)
11 成型体(工程D)
12 ネジ
13a、13b 半割の鋳型
14a、14b 保持部
15 Siウエハ断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に複数の微小液滴を高密度に押印、形成させるための成型体であって、
押印面となる第一の面と、液体導入面となる第三の面と、該第一と第三の面の間に存在する断面である第二の面とを互いに平行となるように有し、
前記第一と第三の面の間を貫く、独立した複数の毛細管を有し、
前記第一と第二の面の間において、前記第一と第二の面に垂直でかつ全ての毛細管が平行並立する領域を有し、
かつ前記第二の面と第三の面の間において、任意に選んだ毛細管と残る全ての毛細管の平行面内における距離が、第三の面に近づくほど遠ざかる特徴を有した成型体。
【請求項2】
請求項1において、前記第一の面が有する毛細管の孔に、液体混合防止のための凸部を形成していることを特徴とする成型体。
【請求項3】
請求項1において、成型体の材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いることを特徴とする成型体。
【請求項4】
集束構造をもつ毛細管アレイの成型方法において、
集束部をもつ線状の集合体を形成する工程と、
前記線状の集合体の一端と前記集束部との間において、前記集束構造を有さない領域を成型する工程と、
前記成型後に前記集束部を前記線状の集合体の他端の側に移動させ、前記集束構造を有する線状の集合体を形成する工程と、
移動後の前記集束部までの集束構造を有する領域を成型する工程と、
を含む集束構造をもつ毛細管アレイの成型方法。
【請求項5】
請求項2の成型する工程において、微細加工を施したSiウエハを鋳型の一部分に用いることを特徴とした毛細管アレイの樹脂成型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−183227(P2009−183227A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27693(P2008−27693)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】