説明

複素環配位子を含む金属錯体、及びそれを含む重合触媒組成物

【課題】新規なメタロセン錯体及びそれを含む重合触媒組成物を提供する。
【解決手段】式(A)で表される錯体及び非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含む重合触媒組成物。


[式(A)でXは鉛原子Pb以外の第14族原子、第15族原子の何れかを(少なくとも一つのXは炭素原子以外)、R1は水素原子、置換又は無置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は置換メタロイド基を示し、又は相互に隣接するR1が一緒になって連結基となっていてもよく、aは0又は1、Mは第3族金属原子又はランタノイド金属原子の何れかを、Q1及びQ2はモノアニオン性配位子を、Lは中性ルイス塩基を、wは0〜3の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複素環配位子を含む金属錯体、特に複素環配位子を含むメタロセン錯体、及びそれを含む重合触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン重合体は、一般グレードポリスチレン(GPPS)や耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等と称されるアタクチックなスチレン重合体の他に、メタロセン錯体を用いる重合反応により得られるシンジオタクチックなスチレン重合体(sPS)が工業的に生産されている。sPSの合成は、1986年に出光興産から発表されており、チタニウムメタロセン錯体を含む触媒系を用いて合成されている(例えば、非特許文献1参照)。該触媒系としては、主にCpTiZ3/MAOや、CpTiR3/B(C653(Cpは置換又は無置換のシクロペンタジエニル又はインデニル:Zはハライド又はアルコキシ:Rはアルキル:MAOはメチルアルミノキサン)等が用いられている。
このようにして合成されるsPSは、高いシンジオタクチシティーを有するものの、分子量分布がややブロードであるという特徴があり(例えば、特許文献1及び2参照)、より狭い分子量分布を有するsPSは興味が持たれる化合物であった。
【0003】
sPSは、高融点(約270℃)を有し、結晶性がよく、耐熱性、耐薬品性及び寸法安定性等に優れる等の利点を有し、広く工業的に利用されているポリマーである。しかしながら一方では、成形加工のしにくさ等も指摘されている。
【0004】
一方、エチレン−スチレン共重合体の合成については、いくつかの報告がされている(非特許文献2参照)。これらによって報告されているエチレン−スチレン共重合体は、レジオ選択性がないか、又はスチレン構造単位の連鎖に関する立体規則性がない共重合体であった。従って、レジオ選択性を有するエチレン−スチレン共重合体であって、スチレン構造単位に関する立体規則性(特にシンジオタクチシティー)が高い共重合体は興味が持たれる化合物であった。
【0005】
さらに、CpTiCl3/MAO(Cpはシクロペンタジエニル)の触媒系を用いて、スチレンユニットのシンジオタクチシティーが高いイソプレン−スチレン共重合体を合成する方法が報告されている(非特許文献3参照)。この重合反応における触媒活性は十分ではなく、さらなる改善が求められる。さらに、合成されるイソプレン−スチレン共重合体の物性についても不明な点が多い。
【0006】
先に本発明者らは、以下の錯体、すなわちハーフメタロセン錯体(第3族金属又はランタノイド金属原子を中心金属とする)を含有する重合触媒を開発している(特許文献3参照)。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、
Mは、第3族金属原子又はランタノイド金属原子のいずれかを示し;
Cp*は、置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル誘導体を含む配位子を示し;
1及びQ2は、モノアニオン配位子を示し;
Lは、中性ルイス塩基を示し;
wは、0〜3の整数を表す。)
【0009】
該重合触媒によれば、従来のsPSの特性を有しつつ、さらに品質が高く、高機能なsPSとして利用され得る、分子量分布の狭いシンジオタクチックスチレン重合体、更には、sPSの特性を有しつつ、さらに加工性が高くなっているため、sPS以上に広範な用途が期待されるスチレン構造単位からなる連鎖が高シンジオタクティックであるエチレン−スチレン共重合体が製造される。また、該重合触媒によれば、ジエン−スチレン共重合体が製造される。
しかしながら、メタロセン錯体の重合触媒成分としての有用性は、いまだ十分に解明されたとは言えず、さらなる研究が望まれていた。
【0010】
また、環状オレフィンの一つであるノルボルネン類と、α−オレフィンであるエチレンとの共重合体が知られており、該共重合体は透明性や耐熱性に優れることから、光学材料への展開が期待されている(非特許文献4参照)。しかしながら、環状オレフィン化合物はその分子の嵩高さのために、一般的に重合活性が低く、有効な重合触媒系は限られている。このような共重合体は、特許文献3に記載された上記重合触媒を用いて製造することができる。該重合触媒によって、α−オレフィンとノルボルネン等の環状オレフィンとの共重合体が製造される。しかしながら、さらに活性の高い共重合体の製造方法の開発が望まれてきた。
【0011】
また、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を製造する重合触媒として、[メチレン(ビス(2,5−)ジメチルシクロペンタジエニル)]ジルコニウムジクロライドからなる錯体及びメチルアミノキサン(MAO)との組み合わせからなる触媒が報告されており、α−オレフィンとノルボルネンとの共重合体が報告されている(非特許文献5参照)。
【0012】
しかしながら、上記方法では反応温度を高く設定する必要がある(例えば70℃)といった問題がある。また、より高いα−オレフィン含有率の共重合体の製造が望まれてきた。
【0013】
一方、ノルボルネン類の一つであるジシクロペンタジエンは、ノルボルネン構造に由来するC=C二重結合と、シクロペンテンに由来するC=C二重結合とを有する。ノルボルネンと同様、エチレンとの共重合体は興味が持たれる化合物であるが、最近、特定のZr 錯体を重合触媒として用いて合成されうることが報告された(非特許文献6参照)。しかしながら、報告された方法により合成されるジシクロペンタジエンとエチレンの共重合体は、分子量、及びジシクロペンタジエンの含有量が限られている。
【0014】
特許文献3に記載された上記重合触媒によって、α−オレフィンとジシクロペンタジエンとの共重合体が製造され、改善された分子量、及びジシクロペンタジエンの含有量を有する共重合体が得られる。しかしながら、さらなるα−オレフィン・ジシクロペンタジエン共重合体の製造方法の開発が望まれてきた。
【0015】
また、ノルボルネンと、イソプレン等の共役ジエンとの共重合体が知られており、該共重合体は高いガラス転移点、高い透明性、低い複屈折性、低い水分吸収性及び高効率発光ダイオードとしての性質から、光学材料への展開が期待されている。このような共重合体
を製造する重合触媒として、ビス[1−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)エチル]ピリジン−ニッケルブロミド等のN−又はO−供与型リガンドを有するニッケル化合物からなる錯体及びモディファイドメチルアルミノキサン(MMAO)と組み合わせからなる触媒が報告されている(非特許文献7参照)。
【0016】
しかしながら、さらなるジエン・ノルボルネン共重合体の製造が望まれてきた。また、より高いジエン含有率の共重合体の製造方法の開発が望まれてきた。
【0017】
また、ジシクロペンタジエンは、ノルボルネンに比べて原料のコストが安いことから、工業上有利である。したがって、ジシクロペンタジエンとジエン化合物との共重合体の製造方法の開発が望まれてきた。
【0018】
メタロセン錯体に含まれるシクロペンタジエニル又はその誘導体のバリエーションとして、次のものがある。
1.シクロペンタジエニル5員環に一つのP又はAs原子を含有するメタロセン錯体(例えば、(2,5-Ph2 C4H2P)2M(THF)2, M=Yb又はSm)が報告されている(非特許文献8参照)。
2.シクロペンタジエニル5員環に一つのN原子を含有するメタロセン錯体(例えば、(2,5-tBu2 C4H2N)2YbCl2(THF)2)が報告されている(非特許文献9参照)
しかしながら、これらの錯体の重合触媒としての反応性については報告されておらず、不明である。
【非特許文献1】N, Ishihara et al., Macromolecules, 19, 2464 (1986)
【非特許文献2】Mc Knight, A. L.; Chem Rev. 98, 2587, (1998)
【非特許文献3】Pellecchia, C.; Proto, A.; Zambelli, A., Macromolecules, 25, 4450 (1992).
【非特許文献4】K. Nomura et al., Macromolecules, 36, 3797 (2003)
【非特許文献5】Hye Young Jung et al., Polyhedron 24 (2005) 1269-1273
【非特許文献6】Adriane G. Simanke et al., Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 40, 471- 485 (2002)
【非特許文献7】Hirotaka Suzuki et al., Reactive&Functional Polymers 59 (2004) 253-266
【非特許文献8】Nief, F.; Ricard, L.; Mathey, F. Polyhedron 1993, 12, 19-26.
【非特許文献9】Schumann, H.; Rosenthal, E. C. E.; Winterfeld, J.; Kociok-Kohn, G. J. Organomet. Chem. 1995, 495, C12-C14.
【特許文献1】特開昭62−104818号公報
【特許文献2】特開昭62−187708号公報
【特許文献3】国際公開第WO 06/004068号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、メタロセン錯体を含む新規な触媒組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は、前記触媒組成物を用いて種々の高分子化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、国際公開第WO 06/004068号パンフレットに記載の上記メタロセン錯体のシクロペンタジエニル配位子において、ヘテロ原子を有する錯体を開発した。さらに、このような錯体を、シンジオタクチックスチレン(共)重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、及びα−オレフィンと環状ジエンとの共重合体等の重合触媒として用いることができることを見出した。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0021】
すなわち本発明は以下の通りである。
第1に、本発明は、以下に示す錯体を含有する重合触媒組成物の発明である。
(1)一般式(A)で表される錯体及び非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含むことを特徴とする、重合触媒組成物。
【0022】
【化2】

【0023】
[一般式(A)において、
Xはそれぞれ独立して、鉛原子Pb以外の第14族原子、又は第15族原子の何れかを示し(ただし、少なくとも何れか一つのXは炭素原子以外である)、
1はそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は置換メタロイド基を示し、又は相互に隣接するR1が一緒になって連結基となっていてもよく、aは0又は1であり、
Mは、第3族金属原子又はランタノイド金属原子の何れかを示し、
1及びQ2はそれぞれ独立して、モノアニオン性配位子を示し、
Lは中性ルイス塩基を示し、wは0〜3の整数である。]
(2)一般式(A)で表される錯体が、一般式(B)で表される化合物であることを特徴とする、(1)に記載の重合触媒組成物。
【0024】
【化3】

【0025】
(一般式(B)において、X、R1、M、Q1、Q2、L、a及びwは前記と同義である。)
(3)一般式(A)で表される錯体が、一般式(C)で表される化合物であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の重合触媒組成物。
【0026】
【化4】

【0027】
(一般式(C)において、X、R1、M、Q1、Q2、L、a及びwは前記と同義である。)
(4)一般式(A)における何れか二つのR1が、t−ブチル基であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れかに記載の重合触媒組成物。
(5)一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、置換又は無置換のヒドロカルビル基であることを特徴とする、(1)〜(4)の何れかに記載の重合触媒組成物。
(6)一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、1)CH2SiR23(式中、R2はそれぞれ独立して、アルキル基を示す。)、2)η3−C335(式中、R3はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。)、又は3)CH264ER5c−o(式中、R4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Eは窒素原子N、リン原子P、ヒ素原子As、酸素原子O、又は硫黄原子Sを示し、R5はそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基を示し、cは1又は2である。)であることを特徴とする、(1)〜(5)の何れかに記載の重合触媒組成物。
(7)一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、CH2Si(CH33、CH264N(CH32−o、η3−CH2CHCH2又はη3−CH2C(CH3)CH2であることを特徴とする、(1)〜(6)の何れかに記載の重合触媒組成物。
(8)前記非配位性アニオンが4価のホウ素アニオンであることを特徴とする、(1)〜(7)の何れかに記載の重合触媒組成物。
【0028】
第2に、本発明は、以下に示す重合触媒組成物を用いた高分子化合物の製造方法の発明である。
(9)オレフィンモノマーを、(1)〜(8)の何れかに記載の重合触媒組成物を用いて重合させることを特徴とする、オレフィン(共)重合体の製造方法。
【0029】
第3に、本発明は、以下に示す錯体の発明である。
(10)一般式(A)で表される錯体。
【0030】
【化5】

【0031】
[一般式(A)において、
Xはそれぞれ独立して、鉛原子Pb以外の第14族原子、又は第15族原子の何れかを示し(ただし、少なくとも何れか一つのXは炭素原子以外である)、
1はそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は置換メタロイド基を示し、又は相互に隣接するR1が一緒になって連結基となっていてもよくaは0又は1であり、
Mは、第3族金属原子又はランタノイド金属原子の何れかを示し、
1及びQ2はそれぞれ独立して、モノアニオン性配位子を示し、
Lは中性ルイス塩基を示し、wは0〜3の整数である。]
【発明の効果】
【0032】
本発明により、複素環配位子を含む新規メタロセン錯体、及びそれを含む重合触媒組成物が提供される。該重合触媒組成物を用いることにより、新しい重合反応が提供され、高分子化合物の新たな製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
<本発明の触媒組成物>
本発明の触媒組成物は、メタロセン錯体とイオン性化合物を含むことを特徴とする。また、その他の任意の成分を含んでいてもよい。
【0034】
1.本発明の触媒組成物に含まれるメタロセン錯体
本発明の触媒組成物に含まれるメタロセン錯体(以下、「本発明のメタロセン錯体」とも称する)は、以下の一般式(A)で表される錯体である。該錯体は、好ましくはハーフメタロセン錯体である。
【0035】
【化6】

【0036】
一般式(A)において、Mはメタロセン錯体における中心金属である。中心金属Mは第3族金属又はランタノイド金属であり、特に限定されない。本発明のメタロセン錯体は、重合触媒組成物の一構成成分として用いることができるので、中心金属Mは、重合させよ
うとするモノマーの種類等によって適宜選択される。
例えば、ポリスチレン、1−ヘキセン・ノルボルネン共重合体、又は1−ヘキセン・ジシクロペンタジエン共重合体を重合する場合は、いずれの第3族金属又はランタノイド金属を用いてもよいが、例えば、スカンジウム(Sc)を選択することができる。
【0037】
一般式(A)において下記一般式(A’)部分
【0038】
【化7】

【0039】
は、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体の配位子であり、中心金属Mにπ結合している。該配位子は、好ましくは非架橋型配位子である。ここで非架橋型配位子とは、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体が中心金属にπ結合して、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体以外の配位原子又は配位基を有さない配位子を意味する。
【0040】
前記一般式(A)及び(A’)におけるXの少なくとも何れか一つは炭素原子以外である。Xが示す炭素原子以外の原子、すなわち、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体に含まれるヘテロ原子としては、炭素原子C及び鉛原子Pb以外の第14族原子、又は第15族原子である。ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体に含まれるヘテロ原子は、少なくとも一つが炭素原子以外のヘテロ原子である以外、その種類、数及び位置は特に限定されない。
【0041】
前記一般式(A)及び(A’)におけるXは、好ましくは1)Xのうち四つが炭素原子Cであり、一つが炭素原子以外の原子であるか、2)Xのうち三つが炭素原子Cであり、二つが炭素原子以外の原子であるか、3)Xのうち二つが炭素原子Cであり、三つが炭素原子以外の原子であるか、又は4)Xのうち一つが炭素原子Cであり、四つが炭素原子以外の原子である。より好ましくは1)Xのうち四つが炭素原子Cであり、一つが炭素原子以外の原子であるか、又は2)Xのうち三つが炭素原子Cであり、二つが炭素原子以外の原子である。最も好ましくは1)Xのうち四つが炭素原子Cであり、一つが炭素原子以外の原子である。
【0042】
ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体とは、シクロペンタジエニル環のほか、互いに隣接する置換基R1が一緒になって連結基を形成していているものであってもよい。すなわち、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体が、シクロペンタジエニルを含む置換又は無置換の縮合環(インデニル環、テトラヒドロインデニル環、フルオレニル環、オクタヒドロフルオレニル環を含むがこれらに限定されない)等となっていてもよい。最も好ましいヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体は、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル環である。
【0043】
上記一般式(A)及び(A’)において、aは0又は1の整数を表す。aはXの価数に応じて選択される。すなわち、Xが14族原子の場合aは1であり、Xが15族原子の場合aは0である。R1はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロカルビル基(アルキル基(好ましくは炭素数1〜20)、アリール基(好ましくは炭素数6〜14)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜15)等)、置換ヒドロカルビル基、又はヒドロカルビル基が置換した、置換メタロイド基である。
【0044】
前記ヒドロカルビル基は、好ましくは炭素数1〜20のヒドロカルビル基であるが、より好ましくはC1〜20(好ましくはC1〜10、さらに好ましくはC1〜6)のアルキル基、フェニル基、ベンジル基等であり、最も好ましくはt−ブチル基である。
【0045】
前記置換ヒドロカルビル基におけるヒドロカルビル基は、前記したヒドロカルビル基と同様である。置換ヒドロカルビル基とは、ヒドロカルビル基の少なくとも1つの水素原子が、ハロゲン原子、アミド基、ホスフィド基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜10)、又はアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜14)等で置換されたヒドロカルビル基である。
【0046】
前記ヒドロカルビル基が置換した、置換メタロイド基におけるメタロイドは、ゲルミル(Ge)、スタニル(Sn)、シリル(Si)等が挙げられる。また、メタロイド基を置換したヒドロカルビル基は前記したヒドロカルビル基と同様であり、その置換数は、メタロイドの種類によって決定される(例えばシリル基の場合は、ヒドロカルビル基の置換数は3である)。
【0047】
好ましくは、ヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル環のR1の少なくとも一つが、アルキル基(好ましくは、メチル基、プロピル基、t−ブチル基)であり、より好ましくはt−ブチル基である。
【0048】
好ましいヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル環としては、以下の構造式で表されるものが具体的に例示されるが、これらに限定されることはない。
【0049】
【化8】

【0050】
一般式(A’)に含まれるヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体は、インデニル環[例えばXのうち四つが炭素原子Cであり、一つが炭素原子以外の原子X’の場合、組成式:C86-d1dX’(X’が3価の原子)又はC87-d1dX’(X’が4価の原子)]などでもよい。ここでR1は前記したヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル環のR1と同様であり、dは0〜6または0〜7の整数である。
【0051】
一般式(A’)に含まれるヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル誘導体は、フルオレニル環[例えばXのうち四つが炭素原子Cであり、一つが炭素原子以外の原子X’の場合、組成式:C128-d1dX’(X’が3価の原子)又はC129-d1dX’(X’が4価の原子)]などでもよい。ここでR1は前記したヘテロ原子を含むシクロペンタジエニル環のR1と同様であり、dは0〜8または0〜9の整数である。
【0052】
本発明の一般式(A)で表される錯体において、Q1及びQ2は、同一又は異なるモノアニオン配位子である。モノアニオン配位子としては、好ましくは、置換もしくは無置換の、炭素数1〜20のヒドロカルビル基であり、より好ましくは、
1)CH2SiR23(式中、R2はそれぞれ独立して、アルキル基を示す。)で示される基、
2)η3−C335(式中、R3はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。)で示される基、又は、
3)CH264ER5c−o(式中、R4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Eは窒素原子N、リン原子P、ヒ素原子As、酸素原子O、又は硫黄原子Sを示し、R5はそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基を示し、cは1又は2である。)で示される基である。
【0053】
前記CH2SiR23におけるR2が示すアルキル基は、好ましくはC1〜C12(好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4)のアルキル基等であり、最も好ましくはメチル基である。
前記η3−C335におけるR3が示すアルキル基は、好ましくはC1〜C12(好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4)のアルキル基等であり、最も好ましくはメチル基である。
前記CH264ER5c−oにおけるR4が示すアルキル基は、好ましくはC1〜C10(好ましくはC1〜8、さらに好ましくはC1〜C4)のアルキル基等であり、最も好ましくはメチル基である。R5が示すアルキル基は、R4が示すアルキル基と同様である。R5が示すアリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等である。
前記CH264ER5c−oにおけるEはN、P、As、O、又はSを示し、好ましくはNである。
【0054】
2.本発明のメタロセン錯体の製造方法
本発明のメタロセン錯体は、シクロペンタジエニル誘導体の代わりに一般式(A’)で表される化合物を用いる以外は特許文献3に記載された錯体の製造方法により合成することができる。
以下、(2,5-t-Bu2 C4H2N)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2を例に挙げて、本発明のメタロセン錯体の製造方法を説明するがこれに限定されない。
【0055】
本発明のメタロセン錯体の製造原料であるトリスベンジル錯体Sc(CH2C6H4NMe2-o)3は、既知の方法、例えば国際公開第WO 06/004068号パンフレットに記載された方法に従って合成することができる。
トリスベンジル錯体Sc(CH2C6H4NMe2-o)3と2,5−ジ−t−ブチルピロール2,5-t-Bu2 C4H2Nを、通常1:1(モル比)で混合し、溶媒(好ましくはTHF)中で室温〜70℃で1〜24時間反応させることにより、メタロセン錯体(2,5-t-Bu2 C4H2N)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2が得られる。この後、必要に応じて、溶媒の留去、精製等を行うことができる。
後述の実施例にも、本発明の錯体の製造方法の具体例が記載されているので、これらを参考にすることもできる。
なお、上記製造方法については、当業者は上記記載及び実施例の具体的方法を参照し、反応試薬、反応条件等を適宜選択し、必要に応じてこれらの方法に適宜の修飾ないし改変を加えることも可能である。
【0056】
3.本発明の触媒組成物に含まれるイオン性化合物
前記したように、本発明の触媒組成物はイオン性化合物を含む。ここでイオン性化合物とは、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含む。該イオン性化合物は、前記したメタロセン錯体と組み合わされることにより、前記メタロセン錯体に重合触媒としての活性を発揮させる。そのメカニズムとして、イオン性化合物が、メタロセン錯体と反応し、カチオン性の錯体(活性種)を生成させると考えることができる。
【0057】
イオン性化合物の構成成分である非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが好ましく、テトラ(フェニル)ボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テ
トラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられる。
【0058】
これらの非配位性アニオンのうち、好ましくはテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0059】
イオン性化合物の構成成分であるカチオンの例には、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が含まれる。
カルボニウムカチオンの具体例には、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ置換フェニルカルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオンが含まれる。トリ置換フェニルカルボニウムカチオンの具体例には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオンが含まれる。
アンモニウムカチオンの具体例には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン、N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン、ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオンが含まれる。
ホスホニウムカチオンの具体例には、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオンが含まれる。
【0060】
これらのカチオンのうち、好ましくはアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンであり、さらに好ましくはN,N-ジメチルアニリニウムカチオン又はトリフェニルカルボニウムカチオンが挙げられる。
【0061】
すなわち、本発明の触媒組成物に含まれるイオン性化合物は、前記した非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選ばれるものを組み合わせたものであり得る。
好ましくは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1'-ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が例示される。イオン性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
これらのイオン性化合物のうち、特に好ましいものは、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0063】
また、遷移金属化合物と反応してカチオン性遷移金属化合物を生成させることができるルイス酸である、B(C6F5)3、Al(C6F5)3等をイオン性化合物として用いてもよく、これらを前記のイオン性化合物と組み合わせて用いてもよい。
さらに、アルキルアルミ化合物(アルミノオキサン、好ましくはMAO又はMMAO)、又はアルキルアルミ化合物とボレート化合物の組み合わせも、イオン性化合物として用いることができ、また他のイオン性化合物と組み合わせて用いてもよい。
【0064】
4.本発明の触媒組成物に含まれるその他の任意成分
本発明の触媒組成物は、メタロセン錯体及びイオン性化合物以外にも、任意の成分を含
むことができる。任意の成分とは、アルキルアルミ化合物、シラン化合物、水素等が挙げられる。
アルキルアルミ化合物とは、通常、トリアルキルアルミやジアルキルアルミヒドリド等の他に、メタロセン重合触媒で用いられるアルミノオキサン(アルモキサン)と称される有機アルミニウム化合物を含む。例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、トリイソブチルアルミ等が挙げられる。
シラン化合物とは、フェニルシラン等が挙げられる。
【0065】
5.本発明の触媒組成物
前記の通り、本発明の触媒組成物は前記メタロセン錯体とイオン性化合物を含むことを特徴とする。本発明の触媒組成物において、イオン性化合物のメタロセン錯体に対するモル比率は、錯体とイオン性化合物の種類によって異なる。
前記モル比率は、例えば、イオン性化合物がカルボニウムカチオンやアニリニウムカチオンとホウ素アニオンからなるもの(例えば[PhMe2NH][B(C6F5)4]、[Ph3C][B(C6F5)4])である場合は0.5〜1であることが好ましく、MAO等である場合は10〜4000程度であることが好ましい。
イオン性化合物は、メタロセン錯体をイオン化、即ちカチオン化させて、触媒活性種とすると考えられるため、上記した比率以下であると、十分にメタロセン錯体を活性化することができないと考えられる。
一方、カルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるイオン性化合物が過剰に存在すると、重合反応させるべきモノマーとそれらが反応してしまう恐れがある場合もある。
【0066】
本発明の触媒組成物は、重合触媒組成物(特に付加重合触媒組成物)として用いることができる。
例えば、1)各構成成分(メタロセン錯体及びイオン性化合物等)を含む組成物を重合反応系中に提供する、あるいは2)各構成成分を別個に重合反応系中に提供し、反応系中において組成物を構成させることにより、重合触媒組成物として用いることができる。
上記1)において、「組成物として提供する」とは、イオン性化合物との反応により活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することを含む。
【0067】
前記の通り、本発明の触媒組成物を、種々のモノマーの重合反応における重合触媒組成物として用いることができる。本発明の触媒組成物が触媒として作用しうる重合反応は、付加重合性を有することが知られている任意のモノマー化合物の重合反応が挙げられるが、例えばオレフィン系モノマー、エポキシ系モノマー、イソシアネート系モノマー、ラクトン系モノマー、ラクチド系モノマー、環状カーボネート系モノマー、アルキン系モノマー等の重合反応が挙げられる。好ましくは、オレフィン系モノマーの重合反応、特に好ましくはα−オレフィン(スチレン、エチレン、1−ヘキセン等)、ジエン、環状オレフィン(2−ノルボルネンやジシクロペンタジエン等のノルボルネン類やシクロヘキサジエンを含む)等の重合反応が挙げられる。
ここでオレフィン系モノマーであるジエンの例には、1,3−ブタジエン、2-メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンや、シクロヘキサジエン等の環状ジエン等が含まれる。
【0068】
また、本発明の重合触媒組成物は、ホモ重合反応及び共重合反応における重合触媒組成物として用いることができる。共重合されるモノマーは付加重合性があればよく、好ましくは2以上のオレフィン系モノマーであり、特に好ましくはα−オレフィン、環状オレフィン、並びにジエンにから選ばれる2以上のモノマーである。
【0069】
<本発明の重合触媒組成物により製造される高分子化合物>
本発明の重合触媒組成物により製造される高分子化合物の一態様は、無置換もしくは置換スチレンの高シンジオタクティック重合体、又は無置換スチレン及び置換スチレンから選ばれる2種以上のスチレンの高シンジオタクティック共重合体であって、分子量分布が狭いことを特徴とする(以下、それぞれを「本発明におけるスチレン重合体」又は「本発明におけるスチレン共重合体」と称することがあり、両者を「本発明におけるスチレン(共)重合体」と総称することがある)。
【0070】
本発明の重合触媒組成物により製造される高分子化合物の一態様は、α−オレフィン化合物と環状オレフィン化合物との共重合体である(以下、「本発明におけるα−オレフィン−環状オレフィン共重合体」と称することがある)。
本発明の重合触媒組成物により製造される高分子化合物の一態様は、α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体である。
【0071】
1.本発明におけるスチレン重合体又はスチレン共重合体
本発明におけるスチレン重合体又はスチレン共重合体(スチレン(共)重合体)は、下記式(I)に示される、フェニル環上に置換基(R)nを有するもしくは有さないスチレン繰り返し単位を含む重合体である。式(I)で表される繰り返し単位は、通常は頭−尾(head − to tail)結合して繰り返されている。本発明におけるスチレン(共)重合体に含まれる式(I)で表される繰り返し単位は、一種類(ホモ重合体)でもよいが、2種以上(共重合体)でもよい。
【0072】
【化9】

【0073】
式(I)におけるフェニル環上のRは任意の置換基又は原子であるが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、アルキルシリル基、カルボキシアルキル基等が挙げられる。
本発明におけるスチレン(共)重合体のスチレン構造単位のフェニル環は、n個のRを有する。好ましくはn=0〜3であり、更に好ましくはn=0又は1である。最も好ましくは、n=0であるか、n=1であって、ポリマー主鎖に結合しているフェニル環炭素に対してパラ位のフェニル環炭素にRが結合している。
【0074】
置換基又は原子(R)nとしては、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されることない。
1)p−メチル、m−メチル、o−メチル、2,4−ジメチル、2,5−ジメチル、3,4−ジメチル、3,5−ジメチル、p−ターシャリーブチル等のアルキル
2)p−クロロ、m−クロロ、o−クロロ、p−ブロモ、m−ブロモ、o−ブロモ、p−フルオロ、m−フルオロ、o−フルオロ、o−メチル−p−フルオロ等のハロゲン
3)p−クロロメチル、m−クロロメチル、o−クロロメチル等のハロゲン置換アルキル4)p−メトキシ、m−メトキシ、o−メトキシ、p−エトキシ、m−エトキシ、o−エトキシ等のアルコキシ
5)p−カルボキシメチル、m−カルボキシメチル、o−カルボキシメチル等のカルボキシアルキル
6)p−トリメチルシリル等のアルキルシリル
【0075】
本発明におけるスチレン(共)重合体は、立体規則性のあるポリマーであり、高シンジオタクチックポリマーである。ここで高シンジオタクティックとは、隣り合う式(I)で表される繰り返し単位におけるフェニル環が、高分子主鎖がつくる平面に対して交互に配置している割合(この割合を「シンジオタクチシティー」と称する)が高いことを意味する。
本発明におけるスチレン(共)重合体のシンジオタクチシティーは、ペンタッド表示で80rrrr%(好ましくは85rrrr%、さらに好ましくは90rrrr%、特に好ましくは95rrrr%、最も好ましくは99rrrr%)以上である。これらのシンジオタクチシティーは、本発明におけるスチレン(共)重合体のNMR(特に13C−NMR)を測定して得られるデータから算出することができる。具体的には、芳香族C1炭素に帰属されるピーク、あるいはポリスチレン主鎖炭素に帰属されるピークの積分比により求めることができる。
【0076】
本発明におけるスチレン(共)重合体は、分子量分布が狭いことを特徴とする。ここで分子量分布は、GPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2−ジクロロベンゼンを溶出液として、145℃で測定)により測定される値(Mw/Mn)を意味し、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8121 GPC/HT)を用いて測定することができる。
ここで分子量分布が狭いとは、通常は、Mw/Mn=4以下、好ましくは3以下、さらに好まくは2.5以下、最も好ましくは2以下であることを意味する。
【0077】
本発明におけるスチレン(共)重合体の数平均分子量は任意であるが、無置換のスチレン重合体については、好ましくは0.4×104以上、より好ましくは8.5×104以上、さらに好ましくは20.0×104以上、最も好ましくは、25.0×104以上である。
【0078】
本発明におけるポリスチレンの融点は通常260℃以上である。融点は示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。
【0079】
本発明におけるスチレン(共)重合体は、従来知られているシンジオタクチックスチレン(共)重合体(sPS)と同様の特性を有し、即ち、高融点を有し、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等の特性を有するので、種々のエンジニアプラスチックとして用いられうる。さらに、分子量分布がシャープであるという物性から、さらに高品質なエンジニアプラスチックとしての用途が期待される。
【0080】
2.本発明の重合触媒組成物により製造されるα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体
本発明の製造方法で製造されるα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体について、α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体(以下、「本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体」)を例に説明する。
本発明におけるα−オレフィンとノルボルネン類の共重合体は、α−オレフィン構造単位とノルボルネン類構造単位を含む(好ましくは両者からなる)重合体である。ここで、本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体におけるα−オレフィン構造単位の含有率は任意に選択することができるが、通常は0〜100mol%であり、好ましくは10mol%以上、より好ましくは20mol%、さらに好ましくは30mol%以上である。
【0081】
本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体におけるα−オレフィン構造単位の含有率は、13C−NMRスペクトルを分析することにより測定することができる。具体的には、α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の13C−NMRスペクトルの各ピ
ークは、共重合体の各炭素に帰属されるので、そのピーク面積に基づいて比率を求めればよい。
具体的には、1−ヘキセン−ノルボルネン共重合体であれば、例えば14ppm付近のピーク(メチル炭素)のピーク面積Pmeを基準として30−60ppm付近のピーク(ポリマー炭素)のピーク面積Ptotalからノルボルネンと1−ヘキセンの比を求めることができる。すなわち、以下の式にしたがって求めることができる。
1−ヘキセン含有率 = Pme/[(Ptotal-4Pme)/7+Pme]
該含有率は、後述するように、原料として用いられるモノマーにおけるノルボルネン類の量を調整することでほぼ0〜100%の間で制御され得る。
【0082】
前述の通り、本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体はα−オレフィン構造単位と、ノルボルネン類構造単位を含むが、両構造単位は任意の順序に配列していればよい。すなわち、両者がランダムに配列していてもよいし、何らかの規則性をもって配列(例えば、両構造単位が交互に配列している、それぞれがある程度連続して配列している、その他決まった順序で配列している)していてもよい。したがって、本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、その他の定序性共重合体であってもよいが、好ましくはランダム共重合体又はブロック共重合体であって、より好ましくはランダム共重合体である。
【0083】
前述のとおり、本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体はノルボルネン類構造単位を含むが、ここでノルボルネン類とは、以下の式で示される2−ノルボルネン骨格を有する化合物を意味する。
【0084】
【化10】

【0085】
上記式においてR'及びR''は任意であって特に限定されないが、例示すると、それぞれ独立して水素原子もしくは炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜10)のアルキル基を示すか、又はR'とR''が一緒になってアルキレン鎖もしくはアルケニレン鎖を形成していてもよい。ノルボルネン類として、より具体的には2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデカン(TCD)、1,4−メタノテトラヒドロフルオレン(MTF)等が例示される。
該ノルボルネン類は、より好ましくはR'及びR''が水素原子である2−ノルボルネン又はジシクロペンタジエンである。
【0086】
【化11】

【0087】
本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体におけるノルボルネン類構造単位は、付加重合単位の選択率が高いことが好ましい。すなわち、ポリノルボルネン類の構造単位は以下に示される付加重合単位と開環重合単位の2つが考えられるが、本発明に
おけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体におけるノルボルネン類の全構造単位に対する付加重合単位の比率が高いことを特徴とする。具体的には、本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体におけるノルボルネン類の全構造単位における付加重合単位の比率は、通常95%以上であり、好ましくはほぼ100%である。付加重合単位と開環重合単位の比率は、1H−NMRスペクトルから求めることができる。
【0088】
【化12】

【0089】
なお、ジシクロペンタジエンはノルボルネン構造に由来するC=C二重結合と、シクロペンテン構造に由来するC=C二重結合を有する。本発明におけるα−オレフィン−ジシクロペンタジエン共重合体におけるジシクロペンタジエンの全構造単位に対する、ノルボルネン構造に由来するC=C二重結合に基づくジシクロペンタジエン構造単位の比率は、通常は80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0090】
本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の分子量分布は特に限定されないが、その指標であるMw/Mnが通常3以下であり、好ましくは2以下である。分子量分布はGPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2−ジクロロベンゼンを溶出液として、145℃で測定)により測定される値(Mw/Mn)を意味し、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8121 GPC/HT)を用いて測定することができる。
【0091】
本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の分子量は特に限定されないが、その数平均分子量が通常4×103以下であり、好ましくは2×103以下である。下限は特に限定されないが、1000以上であればよい。分子量はα−オレフィン由来の構造単位の含有率と関連はほとんどない。分子量は、分子量分布と同様のGPC法で求めることができる。また、α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の製造における重合反応の温度を上げることで、該分子量を大きくすることができる。
【0092】
本発明におけるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体は通常、ガラス転移点を有する。α−オレフィン由来の構造単位の構造、α−オレフィン由来の構造単位とノルボルネン類由来の構造単位の比率、その他によって変化する。通常、α−オレフィン含有率が上がると、ガラス転移温度が低下する。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)法により測定される。
【0093】
<本発明の高分子化合物の製造方法>
本発明の高分子化合物の製造方法は、任意の重合性モノマーを、前記した本発明の重合触媒組成物を用いて重合(付加重合)させることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、重合触媒として本発明の触媒組成物を用いること以外は、従来の、配位イオン重合触媒を用いる付加重合反応による高分子化合物の製造方法と同様にすることができる。
【0094】
具体的には、例えば以下の手順により行うことができる。
1) 本発明の触媒組成物を含む系(好ましくは液相)中に、重合性モノマーを供給して重合させる。ここでモノマーが液体であれば滴下することで供給することができ、気体で
あればガス管を通して供給(液相反応系であればバブリング等)すればよい。
2) 重合性モノマーを含む系(好ましくは液相)中に、本発明の触媒組成物を添加する、又は触媒組成物の構成成分を別個に添加することで重合させる。添加される触媒組成物は、予め調製され(好ましくは液相中で調製され)、活性化されていてもよい(この場合は外気に触れないように、添加することが好ましい)。
【0095】
ここで、重合性モノマーとは、付加重合性を有するモノマー、例えばオレフィン系モノマー、エポキシ系モノマー、イソシアネート系モノマー、ラクトン系モノマー、ラクチド系ポリマー、環状カーボネート系モノマー、アルキン系モノマー等であり、またこれらの組み合わせでもよい。
これらのうち、好ましくは、1種又は2種以上のオレフィン系モノマーであり、さらに好ましくは置換及び無置換α−オレフィン(1−ヘキセンを含む)、ジエン、環状オレフィン(ノルボルネン類やシクロヘキサジエン含む)から選ばれる1又は2種以上のモノマーである。ここでオレフィン系モノマーであるジエンとしては、1,3−ブタジエン、2-メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンや、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等の環状ジエン等を例示することができる。
【0096】
また、該製造方法は、気相重合法、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、固相重合法等の任意の方法であり得る。溶液重合法による場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であり、モノマー及び触媒を溶解させ得る溶媒であれば特に限定されない。例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;クロルベンゼン、ブロムベンゼン、クロルトルエン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
また、生体に対する毒性を有さない溶媒が好ましい。具体的には、芳香族炭化水素、特にトルエンが好ましい。溶媒は1種を単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせた混合溶媒を用いてもよい。
また、用いられる溶媒の量は任意であるが、重合触媒に含まれる錯体の濃度を0.1〜0.0001mol/lとする量であることが好ましい。
【0097】
本発明の重合を溶液重合で行う場合の重合温度は、任意の温度、例えば−90〜100℃の範囲で行いうる。重合させるモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよいが、通常は、室温近辺、すなわち約25℃で行うことができる。
重合時間は数秒〜数十時間程度であり、重合させるモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。例えば、スチレン(共)重合の場合には、通常は1時間以下、場合によっては1分以下でよい。α−オレフィンと環状オレフィンの共重合の場合には、通常は24時間以下、場合によっては12時間以下でよい。
もっとも、これらの反応条件は、重合反応温度、モノマーの種類やモル量、触媒組成物の種類や量等に応じて、適宜選択することが可能であり、上記に例示した範囲に限定されることはない。
【0098】
また、共重合体の製造については、
1) ランダム共重合体又は交互共重合体であれば、2種類以上のモノマーの混合物を触媒組成物存在下で重合反応させることにより製造することができ、
2) ブロック共重合体であれば、各モノマーを、触媒組成物を含む反応系中に順番に供給することにより製造することができる。
【0099】
本発明の製造方法により製造される高分子化合物として、具体的には、例えば以下のものが挙げられるが、これらに限定されることはない。
1)置換もしくは無置換スチレン重合体、又は置換もしくは無置換スチレンと置換スチレンの共重合体。
2)α−オレフィンと環状オレフィンの共重合体。
なお、上記共重合体の製造方法について、いくつかの共重合体を例として、以下でさらに詳細に説明する。なお、当業者であれば、以下の具体的説明、実施例及び通常の有機化学的手法に基づき、各種(共)重合体の製造を行うことができる。
【0100】
1.スチレン重合体又は共重合体の製造方法
スチレン重合体又は共重合体は、置換もしくは無置換スチレン、又はその混合物(以下、単に「スチレン化合物」とも称する)を本発明の触媒組成物を用いて重合させることにより製造することができる。
触媒組成物中の錯体としては、好ましくは中心金属がスカンジウムSc、イットリウムY、ガドリニウムGd、ルテチウムLu、より好ましくはスカンジウムScである錯体を用いる。一方、触媒組成物中のイオン性化合物としては、[Ph3C][B(C6F5)4] 等の4価のホウ素アニオンとカルボニウムカチオンからなる化合物が好ましい。錯体とイオン性化合物は、モル比で1:1程度とすることが好ましい。
【0101】
具体的な手順としては、例えば、溶媒(好ましくはトルエン)中で、本発明の触媒組成物を構成させて活性種を生成させ、これを撹拌しながら、さらにスチレン化合物を供給する。反応温度は25℃程度に調整させることが好ましい。
重合反応において使用される溶媒の量は1gのスチレンモノマーに対して、5ml程度とすることが好ましいが、特にこれに限定されるわけではない。
提供されるスチレン化合物の量は、錯体に対して、モル比で100〜3000倍であることが好ましく、Sc錯体を用いる場合には500〜2500倍であることが好ましい。当該比率が上げると、分子量の大きいポリスチレン(共)重合体を製造することができるが、当該比率が3000倍を大きく超えると、シンジオタクチシティーが若干低下することがある。
重合反応は、数秒〜1時間程度で終了することが多い。特に、Sc錯体を用いる場合には1分以内で終了することが多い。反応が終了すると、反応系の粘度があがり、撹拌不能になることがある。
【0102】
反応終了後、反応混合物をメタノール等にあけることで、生成した重合体を沈殿させることができる。沈殿した重合体を濾取し、乾燥させることによりスチレン(共)重合体を得ることができる。得られるスチレン(共)重合体の収率は、用いる錯体の種類によって異なるが、ほぼ100%付近にすることが可能である。特に、Sc錯体を用いた場合に高収率になることが多い。
このようにして製造されるスチレン(共)重合体は、高いシンジオタクチシティーを有し得る。特に好ましい態様においては、上述した本発明のスチレン(共)重合体が製造され得る。
【0103】
2.α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の製造方法
α−オレフィン−ノルボルネン類共重合体は、α−オレフィン及びノルボルネン類を本発明の触媒組成物を用いて重合させることにより製造することができる。
触媒組成物中の錯体としては、好ましくは中心金属がスカンジウムSc、イットリウムY、ガドリニウムGd、ルテチウムLu、より好ましくはスカンジウムScである錯体を用いる。一方、触媒組成物中のイオン性化合物としては、[Ph3C][B(C6F5)4] 等の4価のホウ素アニオンとカルボニウムカチオンからなる化合物が好ましい。錯体(中心金属換算)とイオン性化合物は、モル比で1:1程度とすることが好ましい。
【0104】
具体的な手順としては、例えば、溶媒(好ましくはトルエン)中に本発明の錯体を溶解させ、これにα−オレフィン及びノルボルネン類を溶解させた溶媒を添加し、これを撹拌しながら、さらにイオン性化合物を供給し触媒組成物を構成させて活性種を生成させ、反応を行う。反応温度は25℃程度に調整されることが好ましい。
なお、従来の触媒組成物では反応は高温で可能であったが、本発明の製造方法によれば、常温で反応が可能である。
モノマーの仕込み比を変更することにより、α−オレフィン含有率をほぼ0%〜100%に調節することができる。α−オレフィンの比率と、得られる共重合体の分子量の間には顕著な傾向はみられない。
重合反応において使用される溶媒の量は総モノマー20mmolに対して、5ml程度とすることが好ましいが、特にこれに限定されるわけではない。
提供されるモノマーの量は、錯体(中心金属換算)に対して、モル比で100〜1000倍であることが好ましい。
重合反応は、数分〜数十時間程度で終了することが多い。反応が終了すると、反応系の粘度があがり、撹拌不能になることがある。
【0105】
反応終了後、反応混合物をメタノール等にあけることで、生成した重合体を沈殿させることができる。沈殿した重合体を濾取し、乾燥させることによりα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体を得ることができる。得られるα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体の収率は、用いる錯体の種類によって異なる。例えば、1―ヘキセン−ノルボルネン共重合体において、モノマーそれぞれの変換率として、1―ヘキセンの場合100%付近、ノルボルネンの場合80%付近にすることが可能である。
このような製造方法によれば、高いα−オレフィン含有率を有するα−オレフィン−ノルボルネン類共重合体を製造し得る。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を、実施例を参照してさらに詳細に説明するが、これらにより本願発明の範囲が限定されることはない。なお、13C−NMRは周波数75.5MHzにおいて測定した。
【0107】
[メタロセン錯体の合成]
以下に示す文献 (1) 及び (2) に記載された方法に準じて合成した。
(1) Tardif, O.; Nishiura, M.; Hou, Z. M. Organometallics 22, 1171, (2003).
(2) Hultzsch, K. C.; Spaniol, T. P.; Okuda, J. Angew. Chem. Int. Ed, 38, 227,
(1999).
【0108】
<実施例1>錯体の製造 (2,5-t-Bu2 C4H2N) Sc(CH2C6H4NMe2-o)2(1)
窒素雰囲気下、シュレンク管にTHF8 mL、Sc(CH2C6H4NMe2-o)3 (0.448 g, 1.0 mmol)及び2,5-t-Bu2 C4H2NH(0.179 g, 1.0 mmol)を加え70 ℃で反応させた。16時間後、溶媒を減圧留去した。得られた黄色油状物質に少量のヘキサンを加えると黄色粉末が析出した。析出物をヘキサンで洗浄し、乾燥して(1) (0.338 g, 0.69 mmol, 収率69%)を黄色粉末として単離した。
1H NMR (C6D6, 24 ℃):δ 1.37 (s, 18H, t-Bu), 1.60 (s, 4H, CH2), 2.43 (s, 12H,
NMe2), 5.77 (s, 2H, t-Bu2 C4H2N), 6.72 (d, JH-H = 7.8 Hz, 2H, C6H4), 6.81 (t, JH-H = 6.2 Hz, 2H, C6H4), 6.93-7.01(m, 4H, C6H4)
13C NMR (C6D6, 24 ℃):δ 31.0 (tBu), 35.5 (tBu ipso), 47.9 (NMe2), 48.1 (CH2), 109.9, 117.1, 121.5, 126.7, 130.4, 144.4, 147.7
元素分析 :計算値 H 9.02, C 73.29, N 8.55, 分析値H 8.88, C 73.32, N 8.41
X-線データ (図1):a = 11.214(2) A, b = 21.339(3) A, c = 11.516(2) A, V = 2753
.4(6) A3, Crystal system = monoclinic, Space group = P2(1)/n
【0109】
<実施例2>錯体の製造 (2,5-t-Bu2 C4H2N) Y(CH2C6H4NMe2-o)2(2)
Y(CH2C6H4NMe2-o)3 (0.492 g, 1.0 mmol)から出発して、反応温度を50 ℃とし、(1)の合成と同様の方法により化合物を調製し、(2)(0.385 g, 0.72 mmol, 収率72%)を白色粉末として単離した。
1H NMR (C6D6, 22 ℃):δ 1.42 (br s, 18H, t-Bu), 1.63 (br s, 4H, CH2), 2.30 (br s, 12H, NMe2), 5.77 (br s, 2H, t-Bu2 C4H2N), 6.64-6.75 (m, 4H, C6H4), 6.86-7.00 (m, 4H, C6H4)
13C NMR (C6D6, 24 ℃):δ 31.2 (tBu), 34.8 (tBu ipso), 43.7 (CH2), 44.2 (CH2),
46.2 (NMe2), 108.5, 109.8, 118.3, 120.2, 127.3, 130.4, 142.4, 143.5
元素分析 :計算値 H 8.28, C 67.27, N 7.85, 分析値H 8.33, C 67.59, N 7.86
【0110】
<実施例3>錯体の製造 (2,5-t-Bu2 C4H2N) La(CH2C6H4NMe2-o)2(3)
La(CH2C6H4NMe2-o)3 (0.492 g, 1.0 mmol)から出発して、反応条件を室温、1時間とし、(1)の合成と同様の方法により化合物を調製し、(3)(0.418 g, 0.71 mmol, 収率71%)を褐色粉末として単離した。
1H NMR (C6D6, 23 ℃):δ 1.45 (s, 18H, t-Bu), 1.72 (s, 4H, CH2), 2.16 (s, 12H,
NMe2), 5.79 (s, 2H, t-Bu2 C4H2N), 6.66 (t, JH-H = 6.8 Hz, 2H, C6H4), 6.77 (d, JH-H = 8.4 Hz, 2H, C6H4), 6.87 (d, JH-H = 7.8 Hz, 2H, C6H4), 6.96(d, JH-H = 6.8 Hz, 2H, C6H4)
13C NMR (C6D6, 24 ℃):δ 31.3 (tBu), 34.2 (tBu ipso), 43.5 (CH2), 57.4 (NMe2), 111.3, 118.2, 121.0, 129.4, 135.4, 141.9, 157.7
元素分析 :計算値 H 7.57, C 61.53, N 7.18, 分析値H 7.70, C 61.47, N 7.10
【0111】
<実施例4>錯体の製造 (2,5-t-Bu2 C4Me2P) Sm(CH2C6H4NMe2-o)2(4)
窒素雰囲気下、フラスコにTHF 10 mL、SmI3(thf)3.5 (0.400 g, 0.51 mmol)及び2,5-t-Bu2 C4Me2PH(0.134 g, 0.51 mmol)を加え24時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、析出物をジエチルエーテルで抽出した。抽出物をTHFに溶かし、KCH2C6H4NMe2- o(0.175 g, 1.02 mmol)のTHF溶液をゆっくり滴下し、2時間攪拌した。再び溶媒を減圧留去し、析出物をジエチルエーテルで抽出し、乾燥して(4) (0.210 g, 0.32 mmol, 収率64 %)を赤色粉末として単離した。
1H NMR (C6D5CD3, 80 ℃):δ 0.59 (br s, 6H, CCH3), 2.03 (s, 18H, t-Bu), 2.29 (br s, 12H, NMe2), 4.68 (s, 2H, C6H4), 7.56-7.70 (m, 4H, C6H4), 9.79 (s, 2H, C6H4), 14.44 (br s, 2H, CH2),
【0112】
[(共)重合体の製造]
<実施例5> シンジオタクティックポリスチレンの製造
グロ−ブボックス中で、100 mlのフラスコ中、(2,5-t-Bu2 C4H2N) Sc(CH2C6H4NMe2-o)2(12 mg, 25 μmol)のトルエン溶液(4 ml)に[Ph3C][B(C6F5)4](23 mg, 25 μmol)のトルエン溶液(3 ml)を激しく攪拌しながら加えた。その混合物にスチレン(1.30 g, 12.5 mmol)を添加し攪拌すると、1分以内にポリマーが析出した。その後、フラスコをグロ−ブボックスの外に取り出し、メタノールを加え重合を停止した。白色固体を濾過により回収し、減圧下、60℃にて一定の重さが得られるまで乾燥させた(1.30 g, >3100 kgコポリマー/mol-Sc・h)。得られたポリマーは、135 ℃でジクロロベンゼンに可溶性であり、数平均分子量177000及び分子量分布2.03のシンジオタクティック100%のポリスチレンであった。
【0113】
<実施例6> 1−ヘキセン・ノルボルネンランダム共重合体の製造
グロ−ブボックス中で、20 mlのフラスコ中、25℃の(2,5-t-Bu2 C4H2N) Sc(CH2C6H4NMe
2-o)2(20 mg, 40 μmol)のトルエン溶液(2 ml)に[Ph3C][B(C6F5)4](37 mg, 40 μmol)のトルエン溶液(3 ml)を激しく攪拌しながら加えた。その混合物にノルボルネン(0.94 g, 10 mmol)及び1−ヘキセン(0.84 g, 10 mmol)を添加し、12時間攪拌した。その後、フラスコをグロ−ブボックスの外に取り出し、メタノールを加え重合を停止した。得られた混合物をメタノール(200 ml)にあけ、ポリマーを沈殿させた。白いポリマー粉末を濾過により回収し、減圧下、60℃にて一定の重さが得られるまで乾燥させた(0.772 g, 1.5 kgコポリマー/mol-Sc・h)。得られたポリマーは、室温でTHFに可溶性であり、数平均分子量1450、分子量分布2.03、及び1-ヘキセン含量が約24 mol%のランダム共重合体であった。
【0114】
<実施例7> 1−ヘキセン・ジシクロペンタジエンランダム共重合体の製造
モノマーを1−ヘキセン・ジシクロペンタジエンに変える以外は、実施例6と同様にして重合を行い、1−ヘキセン・ジシクロペンタジエンランダム共重合体(0.899 g, 1.9 kgコポリマー/mol-Sc・h)が得られた。得られたポリマーは、室温でTHFに可溶性であり、数平均分子量2100、分子量分布2.15、及び1-ヘキセン含量が約18 mol%のランダム共重合体であった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の重合触媒組成物を用いることにより、種々の高分子化合物の新たな製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1は、実施例1で合成した錯体(2,5-t-Bu2 C4H2N) Sc(CH2C6H4NMe2-o)2のX線解析データに基づき作成されたORTEP図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A)で表される錯体及び非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含むことを特徴とする、重合触媒組成物。
【化1】

[一般式(A)において、
Xはそれぞれ独立して、鉛原子Pb以外の第14族原子、又は第15族原子の何れかを示し(ただし、少なくとも何れか一つのXは炭素原子以外である)、
1はそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は置換メタロイド基を示し、又は相互に隣接するR1が一緒になって連結基となっていてもよく、aは0又は1であり、
Mは、第3族金属原子又はランタノイド金属原子の何れかを示し、
1及びQ2はそれぞれ独立して、モノアニオン性配位子を示し、
Lは中性ルイス塩基を示し、wは0〜3の整数である。]
【請求項2】
一般式(A)で表される錯体が、一般式(B)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の重合触媒組成物。
【化2】

(一般式(B)において、X、R1、M、Q1、Q2、L、a及びwは前記と同義である。)
【請求項3】
一般式(A)で表される錯体が、一般式(C)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の重合触媒組成物。
【化3】

(一般式(C)において、X、R1、M、Q1、Q2、L、a及びwは前記と同義である。

【請求項4】
一般式(A)における何れか二つのR1が、t−ブチル基であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項5】
一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、置換又は無置換のヒドロカルビル基であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項6】
一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、1)CH2SiR23(式中、R2はそれぞれ独立して、アルキル基を示す。)、2)η3−C335(式中、R3はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示す。)、又は3)CH264ER5c−o(式中、R4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示し、Eは窒素原子N、リン原子P、ヒ素原子As、酸素原子O、又は硫黄原子Sを示し、R5はそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基を示し、cは1又は2である。)であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項7】
一般式(A)におけるQ1及びQ2がそれぞれ独立して、CH2Si(CH33、CH264N(CH32−o、η3−CH2CHCH2又はη3−CH2C(CH3)CH2であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項8】
前記非配位性アニオンが4価のホウ素アニオンであることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の重合触媒組成物。
【請求項9】
オレフィンモノマーを、請求項1〜8の何れか一項に記載の重合触媒組成物を用いて重合させることを特徴とする、オレフィン(共)重合体の製造方法。
【請求項10】
一般式(A)で表される錯体。
【化4】

[一般式(A)において、
Xはそれぞれ独立して、鉛原子Pb以外の第14族原子、又は第15族原子の何れかを示し(ただし、少なくとも何れか一つのXは炭素原子以外である)、
1はそれぞれ独立して、水素原子、置換又は無置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、又は置換メタロイド基を示し、又は相互に隣接するR1が一緒になって連結基となっていてもよく、aは0又は1であり、
Mは、第3族金属原子又はランタノイド金属原子の何れかを示し、
1及びQ2はそれぞれ独立して、モノアニオン性配位子を示し、
Lは中性ルイス塩基を示し、wは0〜3の整数である。]

【図1】
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【公開番号】特開2008−222780(P2008−222780A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60121(P2007−60121)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】