説明

褐変防止剤

【課題】 安全性及び加工適性に優れ、添加する食品の本来の味や風味及び色に影響を与えず、食品加工分野に於いて広く使用可能な褐変防止剤を提供する。
【解決手段】 キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を含有することを特徴とする褐変防止剤であり、前記酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜20.0であるのが好ましく、前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果物及び魚介類等の食品の褐変防止に有効な褐変防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜及び果物等の青果物及びタイ類、エビ類、カニ類及びオキアミ等の魚介類等の食品の鮮度を保持することは、食品の品質管理上、非常に重要な問題であり、鮮度の維持管理については、これまでにも各種の方法が検討されている。
【0003】
例えば、レタスやキャベツ等はその切断面が早期に褐変してしまい、青果物の商品価値を著しく低下させてしまう。また、ごぼう、ナス、マッシュルーム及びレンコン等の野菜又はリンゴ及びナシ等の果物は、調理時に短時間でも放置すると切断面、皮を剥いた表面及び搾汁等が変色し、見た目が著しく悪くなる。エビやカニ等の殻も冷蔵保存中に褐変することが知られており、これらの食品の品質も低下する。この様な褐変は、野菜、果物及び魚介類からそれらの加工品まで多方面にわたって品質劣化の大きな要因となっており、外食産業や食品加工業者にとって深刻な問題になっている。この様な背景から安全で効果的な褐変防止剤が望まれている。
【0004】
野菜、果物及び魚介類の褐変防止又は改善対策としては、(1)亜硫酸塩等の褐変抑制物質、(2)次亜塩素酸ナトリウム等の漂白剤、(3)微生物の殺菌又は増殖抑制のための酢酸等の酸、(4)還元型アスコルビン酸等の酸化防止剤等を単独又は組み合わせて用いることにより行われている。
【0005】
亜硫酸塩、例えば、亜硫酸ナトリウムは、褐変防止剤として広く使用されている。しかし、亜硫酸塩は、食品衛生法においても厳しい残存規制が実施されていることから、人体に対しては、決して好ましくはなく、また、食品の風味にも大きな影響を与えてしまう。
【0006】
次亜塩素酸ナトリウムは、漂白剤として使用されている。例えば、野菜、果物及び魚介類等を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させたり、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を野菜等に直接噴霧したりして褐変防止対策を採っている。しかしながら、これらの処理を施すと、次亜塩素酸ナトリウムの塩素臭が野菜等に付着したり、塩素により野菜等の細胞組織が変化したりする等、外観、風味及び鮮度の維持の点で問題がある。
【0007】
酢酸、例えば、希釈した食酢で野菜等を洗浄すると、褐変の原因の一つである微生物(細菌、酵母、カビ)を殺菌又は増殖抑制することができ、この結果、褐変を防止することができる。この他にも、微生物の増殖を抑制するため、さまざまな抗菌剤による処理や低温保存による褐変防止策(特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、十分な褐変防止成果を得るには到っていない。
【0008】
酸化防止による褐変防止法としては、グルタチオン、還元型アスコルビン酸、システイン、グアヤック脂、トコフェロール、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エリソルビン酸、没食子酸塩、リンゴ酸、クエン酸及び酢酸などの有機酸、重合リン酸塩、みょうばん又は麹酸等を1種または2種以上を組み合わせて用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、還元型アスコルビン酸は空気酸化及び水分共存下での自己酸化のため褐変防止効果が失われるという問題がある。また、それ以外の上記物質も褐変防止効果が弱かったり、効果があっても風味に影響し、必ずしも好ましいものとは言えない。
【0009】
その他にも、食品中に内在する褐変に関与する酵素に着目し、酵素失活または活性抑制することにより褐変を防止する方法がある。具体的には、食品中のオキシダーゼ、パーオキシダーゼ等を食品ごと加熱処理して失活させる方法(特許文献3参照)が提案されている。しかし、この方法は食品を加熱するために、処理対象物が加工食品に限られること、及び加熱処理によって本来の食品が持つ風味が損なわれるという問題がある。また、酵素活性を抑制する為に食品を低温保存したり、有機酸を添加してpH調整するなど、さまざまな取り組みがなされているが、褐変を抑制することは困難であった。
【0010】
特に、食品に使用する褐変防止剤には安全性だけでなく、食品本来の味、風味及び色に影響を与えないように、それ自体が味や臭いを有さず、また着色していないことが望まれる。このため、食材や天然物に由来する物質の中で、褐変防止効果を有する物質が存在するか否かについて、種々検討されている。
【0011】
例えば、クロレラ目等の藻類の抽出物、魚類白子の抽出物、エノキタケの抽出物、パパイヤ等由来のプロテアーゼ、菌体等由来のサイトカイニン、ヒノキチオール、ベタイン、タマネギの抽出物(特許文献4乃至6参照)などが提案されている。しかし、十分な褐変防止作用を持つ素材は未だ見いだされていない。このような背景から、安全かつ食品本来の味、風味及び色に影響を与えない褐変防止剤が望まれていた。
【0012】
そこで、本発明者は、既に多くの生理作用が確認されているが(特許文献7及び8参照)、褐変防止剤としては効果が確認されていない酸性キシロオリゴ糖について検討した。
【0013】
【特許文献1】特公昭55−40223号公報
【特許文献2】特開平2−186936号公報
【特許文献3】特開昭52−12946号公報
【特許文献4】特開2000−139434号公報
【特許文献5】特開平3−228641号公報
【特許文献6】特開平11−243853号公報
【特許文献7】特開2004−210664号公報
【特許文献8】特開2005−263755号公報
【非特許文献1】石原光朗、セルラーゼ研究会報、セルラーゼ研究会、2001年6月14日、第16巻、p.17−26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の解決課題は、安全性及び加工適性に優れ、添加する食品の本来の味や風味及び色に影響を与えず、食品加工分野に於いて広く使用可能な褐変防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖が、安全性及び加工適正に優れた物質であり、食品本来の味、風味及び色に影響を与えなることなく、優れた褐変防止作用を持つことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
(1)キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を含有することを特徴とする褐変防止剤であり、
(2)前記酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜20.0である前記(1)に記載の褐変防止剤であり、
(3)前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」である前記(1)又は(2)に記載の褐変防止剤であり、
(4)ウロン酸が、グルクロン酸、4−O−メチル−グルクロン酸、ヘキセンウロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸又はヒアルロン酸である前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の褐変防止剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、安全性及び加工適性に優れ、添加する食品の本来の味、風味及び色に影響を与えず、食品加工分野に於いて広く使用可能な褐変防止剤が提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つのウロン酸残基を有するものを言う。本発明におけるキシロオリゴ糖は、例えば、キシロビオースのみからなる単一物であってもよいが、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であってもよい。一般的には、天然物から製造するために、このような組成物として得られることが多く、以下、主として酸性キシロオリゴ糖組成物について概説する。
【0019】
該組成物の平均重合度で示す数値は正規分布をとる酸性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均値で、2.0〜20.0が好ましく、2.0〜15.0がより好ましい。キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。ウロン酸は、天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸、4−O−メチル−グルクロン酸、ヘキセンウロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸又はヒアルロン酸であることが好ましい。
【0020】
上記のような酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されないが、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(非特許文献1参照)と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。特に、(2)の方法が5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で好ましく、以下にその概要を示す。
【0021】
酸性キシロオリゴ糖組成物は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いた濾過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0022】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0023】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0024】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均重合度の高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0025】
本発明者らの研究によれば、酸性キシロオリゴ糖組成物は褐変防止効果を有している。従って、本発明の褐変防止剤は、酸性キシロオリゴ糖を含有している限り、酸性キシロオリゴ糖組成物のみで構成されていてもよく、酸性キシロオリゴ糖組成物と水、糖類又は澱粉等の賦形剤とから構成されていてもよい。酸性キシロオリゴ糖と賦形剤との混合比としては、褐変防止剤が効果を発揮できる限りにおいて、特に制限はない。
【0026】
賦形剤としては、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、コーンスターチ、タピオカスターチ、ゼラチン、寒天、甘藷澱粉又は馬鈴薯澱粉等の固形状物又は水、グリセリン、脂肪油又はソルビトール等の液状物の賦形剤を挙げることができる。
【0027】
本発明の褐変防止剤は、酸性キシロオリゴ糖を含有していれば、いずれの形態であってもよく、例えば、固体又は液体であってもよい。
固体の褐変防止剤としては、(1)上記の方法で得られた酸性キシロオリゴ糖の白色粉末、又は(2)上記の方法で得られた酸性キシロオリゴ糖溶液若しくは白色粉末を賦形剤と混合し、得られた混合物を乾燥、打錠して得られる錠剤等を挙げることができる。錠剤以外にも、ボールミル等の公知の粉砕機を用いて、粉末又は顆粒等の形態にすることもできる。
【0028】
また、液体の褐変防止剤としては、(1)上記の方法で得られた酸性キシロオリゴ糖溶液、又は(2)上記の方法で得られた酸性キシロオリゴ糖溶液若しくは白色粉末を液状物の賦形剤と混合又は溶解して得られる溶液を挙げることができる。
【0029】
本発明の褐変防止剤は、変色しやすい食品の褐変防止を目的として、食品への配合や表面処理に使用する事ができる。
【0030】
本発明の褐変防止剤の適用対象となる食品としては、野菜類、果実類若しくは魚介類等の生鮮食品、缶詰若しくはレトルト食品等の加工食品又は飲料等を挙げることができる。
【0031】
野菜類としては、トマト、ナス、きゅうり、メロン、冬瓜及びカボチャ等の果菜類、キャベツ、ハクサイ、レタス、ねぎ、ほうれん草、セロリ、タマネギ及びタケノコ等の葉茎菜類、ジャガイモ、サツマイモ、里芋、ダイコン、ニンジン、ごぼう及びレンコン等の根菜類又はマッシュルーム、エノキタケ、マイタケ、シイタケ、エリンギ、ナメコ及びホンシメジ等の菌茸類を挙げることができる。
【0032】
果実類としては、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ及び柚子等のかんきつ類、柿、梨及び林檎等の仁果類、桃、梅及びスモモ等の核果類、キウイフルーツ、ブドウ及びブルーベリー等の漿果類又はパイナップル、バナナ、マンゴー及びパパイヤ等の熱帯果樹等を挙げることができる。
【0033】
魚介類としては、あじ、いわし、さんま及びマグロ等の魚、カニ及びエビ等の甲殻類又はアサリ、ハマグリ及びホタテ等の貝等を挙げることができる。
【0034】
飲料としては、ミネラルウォーター等の水、緑茶、ウーロン茶、麦茶及びそば茶等の茶、コーヒー、炭酸飲料、果汁飲料及びスポーツ飲料等の清涼飲料水及び乳飲料等を挙げることができる。
【0035】
本発明の褐変防止剤は、例えば、以下のようにして生鮮食品に付着させることができる。
すなわち、褐変防止剤が固体である場合、水等の溶媒に所定濃度になるように褐変防止剤を溶解させて得られる溶液に、生鮮食品を浸漬させることにより付着させることができる。また、褐変防止剤が液体である場合、褐変防止剤に生鮮食品を浸漬させることにより付着させることができるが、褐変防止剤を水等の溶媒で所望の濃度に希釈して用いてもよい。また、浸漬以外にも、噴霧器等を用いて直接噴霧することにより、又は刷毛等を用いて塗布することにより生鮮食品に付着させることができる。加工食品又は飲料に対しては、製造過程で褐変防止剤を添加することができる。
【0036】
本発明において、水等の溶媒に溶解又は希釈して得られる溶液中の酸性キシロオリゴ糖の含有量としては、0.001〜20質量%とすることが好ましく、特に、0.1〜5.0質量%がより好ましい。含有量が0.001質量%未満であると、褐変防止効果が不十分で、食品が褐変して好ましくない。また、含有量を20.0質量%以上にしても、それ以上の褐変防止効果が得られず、かえって不経済になるので好ましくない。
【0037】
本発明の褐変防止剤に含まれる酸性キシロオリゴ糖は植物のキシラン由来であり、安全性及び加工適性に優れ、添加する食品の本来の味、風味及び色に影響を与えないことから、食品に幅広く用いることが出来る。中でも、生鮮食品に対して有効である。特に、カット野菜や魚の切り身等は、切断面が急速に褐変し、視覚的にも好ましくないので、これらに対して褐変防止剤を使用するのがよい。例えば、皮をむいたリンゴやジャガイモは、急速に褐変するので、褐変防止剤を使用すれば、リンゴやジャガイモの味、風味及び色を保つことができる。
【0038】
本発明の褐変防止剤は、酸性キシロオリゴ糖を含有する限りにおいて、他の任意の褐変防止剤又は抗菌・保存剤等と併用することができる。
【0039】
他の任意の褐変防止剤としては、ポリリン酸若しくはその塩類、メタリン酸若しくはその塩類、ピロリン酸若しくはその塩類、クエン酸若しくはその塩類、硫酸アルミニウムカリウム、エリソルビン酸若しくはその塩類、フィチン酸、コウジ酸又は油溶性カンゾウエキス等が挙げられる。
【0040】
抗菌・保存剤の例としては、安息香酸若しくはその塩類、オルトフェニルフェノール若しくはその塩類、ジフェニル、ソルビン酸若しくはその塩類、チアベンダゾール、デヒドロ酢酸若しくはその塩類、パラオキシ安息香酸アルキルエステル類、プロピオン酸若しくはその塩類、さらし粉、次亜塩素酸若しくはその塩類、フマル酸、ε−ポリリジン、グリシン、リゾチーム、アニスエキス、しらこタン白(プロタミン)、ヒノキエキス(ヒノキチオール)、クローブエキス、セージエキス、プロポリスエキス、ペッパーエキス、イチジク葉エキス、オレガノエキス、カルダモンエキス、キャラウェイエキス、柑橘種子エキス、クミンエキス、クワエキス、ケイヒエキス、ササエキス、サフランエキス、サンショウエキス、シソエキス、シナモンエキス、ショウガエキス、(ヤナギ)タデエキス、タイムエキス、ターメリックエキス、ダイズエキス(レシチン)、トウガラシエキス、ナツメグエキス、ニンニクエキス、バジルエキス、ハッカエキス、バニラエキス、パプリカエキス、ブドウ果皮エキス、ベニコウジ分解物、ペパーミントエキス、ホップエキス、マジョラムエキス、メースエキス、モウソウチクエキス、モミガラエキス、ユーカリエキス、ユッカエキス又はワサビエキス等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0042】
<酸性キシロオリゴ糖の調製>
以下の方法により、本発明で有効成分として含有させた酸性キシロオリゴ糖を調製した。
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹70%、ユーカリ30%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
バチルスsp.S−2113株(独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター、寄託菌株FERM BP−5264)の生産するキシラナーゼを1単位/パルプgとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1050Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニン等の高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから75mM塩化ナトリウム水溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性キシロオリゴ糖の粉末(全糖量353g、回収率13.1%)を得た(以下、この酸性キシロオリゴ糖を「UX10」ともいう。)。
下記の測定方法により、UX10は平均重合度10.3であり、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。
【0043】
<測定方法>
(1) 全糖量の定量:
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量:
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量:
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法:
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) 酸性キシロオリゴ糖の分析方法:
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、キシロース鎖長の上限と下限との差を求めた。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法:
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義:
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0044】
<安定性試験>
以下のようにして、酸性キシロオリゴ糖の経時変化を確認するため、<安定性試験>を実施した。
60質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を調製後、室温で保存した。調製直後及び1ヶ月保存後の酸性キシロオリゴ糖水溶液をイオンクロマトグラムで分析した。1ケ月保存後のサンプルのクロマトグラムのパターンは、調製直後のサンプルと比較して変化はなかった。又、クロマトグラムの各ピークの面積の差は、1ケ月保存後のサンプルと調製直後のサンプルの間で、5%未満であった。
【0045】
<褐変防止効果確認試験>
[実施例1]
マッシュルーム10個(1個当り10g)を3mmの厚さにスライスし、これに1質量%に調製したUX10水溶液を10ml噴霧した。乾燥防止のためシートで覆いをして、10℃の冷蔵庫で7日間保存して褐変防止効果を確認した。
尚、褐変の評価には以下に示すような4段階の褐変スコアを用いた。
0:全く褐変が認められない
1:僅かに褐変が認められる
2:褐変が認められる
3:著しく褐変が認められる
【0046】
[実施例2]
1質量%のUX10水溶液中に、殻付きのエビ(ブラックタイガー)10匹(1匹当り20g)を1分間浸漬した。浸漬処理後、殻付きの状態で乾燥防止のためシートで覆いをして5℃の冷蔵庫に入れ、7日間保存して褐変防止効果を確認した。尚、褐変の評価基準は実施例1と同様に行った。
【0047】
[実施例3]
リンゴ(ふじ)1個(200g)を4等分し、皮を剥いたものを1質量%のUX10水溶液に1分間浸漬した。浸漬処理後、乾燥防止のためシートで覆いをして10℃の冷蔵庫で24時間保存して褐変防止効果を確認した。尚、褐変の評価基準は実施例1と同様に行った。
【0048】
[比較例1]
1質量%のUX10水溶液の代わりに水を用いた他は、実施例1と同様にして褐変防止効果確認試験を実施した。
【0049】
[比較例2]
1質量%のUX10水溶液の代わりに水を用いた他は、実施例2と同様にして浸漬処理を行い、褐変防止効化確認試験を実施した。
【0050】
[比較例3]
1質量%のUX10水溶液の代わりに0.2%食塩水を用いた他は、実施例3と同様にして浸漬処理を行い、褐変防止効化確認試験を実施した。
【0051】
実施例1〜3および比較例1〜3の結果を以下に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
<皮膚刺激性試験及び急性経口毒性試験>
以下のようにして、酸性キシロオリゴ糖の安全性を確認するため、<皮膚刺激性試験>及び<急性経口毒性試験>を実施した。
<皮膚刺激性試験>
2質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液100μlを、各々、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連続塗布した(1回/日、各群10匹)。塗布期間及び塗布終了後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異常は特に観察されなかった。また、ブランク(水塗布群)と比較し、体重推移においても有意差(P<0.05)が認められなかった。
<急性経口毒性試験>
60質量%の酸性キシロオリゴ糖(UX10)水溶液を、各々、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、経口投与した(投与量:5g/マウス体重1kg、各群10匹)。投与してから2週間後まで、死亡例はなかった。又、体重推移においてもブランク(水投与群)と比較し、有意差(P<0.05)が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の褐変防止剤は、野菜、果物及び魚介類の生産又は加工現場のみならず、外食産業や家庭においても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を含有することを特徴とする褐変防止剤。
【請求項2】
前記酸性キシロオリゴ糖が、キシロースの重合度が異なるオリゴ糖の混合組成物であり、平均重合度が2.0〜20.0である前記請求項1に記載の褐変防止剤。
【請求項3】
前記酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するキシロオリゴ糖を分離して得たもの」である前記請求項1又は2に記載の褐変防止剤。
【請求項4】
ウロン酸が、グルクロン酸、4−O−メチル−グルクロン酸、ヘキセンウロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸又はヒアルロン酸である前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の褐変防止剤。

【公開番号】特開2008−5724(P2008−5724A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177434(P2006−177434)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】