説明

褥瘡予防マットレス

【課題】被術者の褥瘡予防に優れており、被術者を速やかに加温又は冷却し、温度調節も可能で、安全性に優れており、屈曲自在なので被術者に密着できる褥瘡予防マットレスを提供する。
【解決手段】マットレス本体1は、無数の連通空隙と弾力性を有する素材からなる粗状流動層と、高反撥性、柔軟性及び非通気性のある素材からなる下側クッション層11と、低反撥性、柔軟性及び通気性を有する素材からなる上側クッション層13を非通気性と柔軟性を有する素材からなるマットカバー15で構成してある。マットレス本体1の吹込みホース接続口6に空気吹込みホース18を、吸出しホース接続管10に空気吸出しホース19を接続して循環送風手段16よりマットレス本体1に温風を循環流動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡予防マットレスに関し、特に手術時における被術者の体温の上昇或いは降下をコントロールできる機能を有する褥瘡予防マットレスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の手術は医療技術の高度化に伴って長時間にわたる例が多くなり、この間被術者はベッドの上で一定の姿勢を維持することが強いられている。また、全身麻酔を施された被術者は、姿勢を変えることは不可能である。このため、被術者は血行不良による褥瘡が出来てしまうという問題があるが、これには手術用ベッドが手術中の身体の安定性を維持する必要から硬く作られていることが大きな要因になっている。そこで、様々な褥瘡予防ベッドが提案されているが、未だ褥瘡の発生を十分に予防できるベッドは知られていない。
【0003】
他方、手術の際の麻酔によって被術者の体温が低下する場合があり、速やかに最適の体温になるように加温する必要がある。また逆に、被術者の体温を降下させて低体温に維持する必要がある場合もある。このような場合に被術者を加温又は冷却する手段として、キルト製のカバーに温風を送るタイプ、ブランケット内に温水又は冷水を供給するタイプ、ブランケット内に電熱体を配設したタイプ、更にはマット内に温水或いは冷水を循環させるタイプなどが知られている。
【0004】
また、未発泡ポリウレタン板状成形物Gよりなるゲルマット本体とそれに保温機能を付与してなり、該保温機能が前記ポリウレタン板状成形物Gに直接導電性付与剤を含有せしめるか、または導電性付与剤含有シートを前記ポリウレタン板状成形物G中に配置するか、のいずれかにより付与される手術台用マットが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−52180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術のうち、キルト製のカバーに温風を送るタイプや、ブランケット或いはマット内に温水又は冷水を供給するタイプは、被術者に温度が伝わるまでに時間が掛かるため、速やかに被術者の体温調整が出来ないという欠点、温度調節が速やかに出来ないという欠点、被術者の体重を支えるための強度性も必要であるためにどうしても硬くせざるを得ず、褥瘡の発症を予防できないという問題もある。また、ブランケット内に電熱体を配設したタイプは、身体に密着させるために自在に折り曲げると断線の可能性があるし、電気回線に支障が発生した場合にはブラケット内の電熱器に大電流が流れる事態も起きるという危険がある。また、ポリウレタン板状成形物Gよりなるゲルマット本体に導電性付与剤を組み合わせる手術台用マットも通電するための配線を有しているため、上述したのと同じ欠点がある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点及び欠点に鑑みなされたもので、被術者の褥瘡予防に優れており、しかも被術者を速やかに加温又は冷却することができるし、温度調節も可能であると共に、加熱や吸熱、送水などが必要な水循環方式に比べて消費電力も少なく、また水漏れの問題もないし、熱源はホースを介してマットレス本体から離れているので安全性に優れており、屈曲自在なので被術者に密着させることができ、更に循環式なので手術室内で風が舞うことのない褥瘡予防マットレスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために構成した本発明の手段は、マットレス本体は、無数の連通空隙と弾力性を有する素材により形成した粗状流動層と、高反撥性、柔軟性及び非通気性のある素材により形成し、該粗状流動層の下面に重ねる下側クッション層と、低反撥性、柔軟性及び通気性を有する素材により形成し、前記粗状流動層の上側に重ねる上側クッション層と、非通気性と柔軟性を有する素材により形成し、該上側クッション層から下側クッション層にかけて一体に覆うマットカバーとから構成し、前記マットレス本体に空気吹込み口と空気吸出し口を夫々設け、該空気吹込み口及び空気吸出し口の各々にホースを接続して循環送風手段により前記粗状流動層に温風又は冷風を循環流動させるようにしたものからなる。
【0008】
そして、前記マットレス本体には、前記粗状流動層の一側に位置して送風を粗状流動層に均一に流動させるための放散ノズルを前記空気吹込み口に連通して設けるとよい。
【0009】
また、前記マットレス本体には、前記粗状流動層の他側に位置して空気を回収する送風集約体を前記空気吸出し口に連通して設けるとよい。
【0010】
更に、前記下側クッション層は、複数の屈曲用切込を形成したものにするとよい。
【0011】
また、前記上側クッション層には、前記粗状流動層に連通し、上面に開口する複数の放出孔を形成したものにするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)空気の流動性と弾力性に優れた粗状流動層と、高反撥性、柔軟性及び非通気性に優れた下側クッション層と、低反撥性、柔軟性及び通気性に優れた上側クッション層の3層構造に構成し、柔らかい上側クッション層が被術者の体に沿って変形することにより広い接触面積を確保し、弾性力のある粗状流動層が被術者の荷重を受け止めて下方に分散させ、高反撥性の下側クッション層が荷重を受承することにより、被術者の体重を広い範囲で受承するようにしたから、被術者の褥瘡を確実に予防することができる。
(2)粗状流動層は空気の流動性に優れた無数の連通空隙を有する素材で形成することにより、マットレス本体を速やかに加温し或いは冷却することができるようにしたから、被術者の体温調整に好適である。
(3)上側クッション層は低反撥性と柔軟性を有する素材で形成することにより、被術者の身体に密着するようにしたから、被術者に速やかに温度を伝達することができる。
(4)マットレス本体は、熱源を有する循環送風手段とはホースを介して接続することにより離間させてあるから、安全性に優れている。
(5)マットレス本体には送風流動層に均一に送風するための放散ノズルを設けたから、被術者を均一に加温又は冷却することができる。
(6)下側クッション層には複数の屈曲用切込を形成したから、被術者の身体への密着性をより高めることができる。
(7)上側クッション層に形成した複数の放出孔から温風或いは冷風がカバーに直接当ることにより、マットレス本体は内部と上部側に温度差が生じないので、マットレス本体の加温或いは冷却が早く、被術者を速やかに加温或いは冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しつつ詳述する。なお、以下の説明では温風を循環流動させる例を挙げたが、原理及び作用には冷風を流動させる場合を含むものである。図において、1は褥瘡予防マットレスを構成するマットレス本体を示す。2は該マットレス本体1を構成する粗状流動層を示し、該粗状流動層2は無数の連通空隙を有することにより空気流動性に優れており、また被術者の体重を弾性的に支えることのできる弾力性と強靭性を備えた素材のものが望ましい。この素材として、例えばクッション用網状体(特開平7−238456号公報に記載のもの)を用いることができる。粗状流動層2は上記の性質を有する素材を平面略長方形で、約50〜60mmの厚さに成形してあり、長手方向一側面2Aには略凵状の凹部2Bが形成してある。
【0014】
3はマットレス本体1を構成し、前記粗状流動層2内に温風を均一に分散流動させるために、粗状流動層2の一側面2Aに当接させて設けた放散ノズルを示す。4は該放散ノズル3を構成するノズル本体で、該ノズル本体4は粗状流動層2と同じクッション用網状体で平面略凸状に形成した通気性基部4Aと、非通気性と柔軟性を有する素材、例えばナイロンからなり、該通気性基部4Aを全面的に覆うノズルカバー4Bとから構成してある。
【0015】
5A、5B、・・・5L(場合によりノズル孔5と総称する。)は11個(符号5Iは不使用)のノズル孔を示し、該ノズル孔5は前記ノズルカバー4Bの内側面に互いに離間して、かつ前方に向け或いは横方向に向けて形成してある。ここで、11個のノズル孔5のうち、後述する吹込みホース接続口6に対向するノズル孔5A、5Bは他のノズル孔5C、・・・5Kに対して約2分の1の小径に設定してある。これは、吹込みホース接続口6から吹き込んだ温風が粗状流動層2の一部に集中することなく、全体に分散するようにするためである。このような構成からなる放散ノズル3は、突部3Aを前記凹部2Bに嵌合した状態で粗状流動層2の一側面2Aに当接してある。
【0016】
6はノズル本体4に連通して設けた吹込みホース接続口を示し、該吹込みホース接続口6は合成樹脂製の筒体からなり、放散ノズル3の長手方向片側の位置でノズル本体4から突出する状態で設けてある。
【0017】
7は粗状流動層2の他側2Cに当接して設けた長方形の送風集約体を示す。該送風集約体7はクッション用網状体を横長の立方体に裁断した通気性ブロック8と、該通気性ブロック8の6面のうち粗状流動層2に接する内面7Aを除く5面を覆う非通気性と柔軟性を有する素材、例えばナイロン製の閉塞カバー9とから構成してある。10は前記送風集約体7に連通して設けた吸出しホース接続口で、該吸出しホース接続口10は合成樹脂製の筒体からなり、送風集約体7の横側面7Bから突出する状態で設けてある。
【0018】
11は粗状流動層2の下面2Dを全面的に覆うように積層した下側クッション層を示す。該下側クッション層11は高反撥性、柔軟性及び非通気性のある素材、例えば高反撥ウレタンなどを略50〜60mmの厚さに形成したものからなる。そして、下側クッション層11の下面11Aには、多数の屈曲用切込12、12、・・・を全面的に形成することにより折曲げ自在にしてあり、被術者の身体に密着し易くして損失なく熱伝達するようにすると共に、身体の姿勢になじみ易くしてある。
【0019】
13は粗状流動層2の上面2Eを全面的に覆う上側クッション層を示す。該上側クッション層13は低反撥性、柔軟性及び通気性を有する素材、例えば低反発ウレタンなどを約25〜30mmの厚さで平板状に形成したものからなる。そして、上側クッション層13には下面13Aから上面13Bに貫通し、粗状流動層2に連通する小径の放出孔14、14、・・・が適切な間隔で複数形成してある。
【0020】
更に、15は前記上側クッション層13から下側クッション層11にかけて一体に覆うマットカバーを示し、該マットカバー15には非通気性と柔軟性を有する素材、例えばナイロンを用いている。そして、マットカバー15の幅方向一側にはスライド・ファスナーによって開閉可能な開口部(但し、図示せず。)が設けてあり、粗状流動層2、下側クッション層11及び上側クッション層13を出し入れ可能になっている。
【0021】
他方、16はマットレス本体1に温風を循環供給するための循環送風手段を示す。17は該循環送風手段16を構成する温風供給装置を示し、該温風供給装置17はケーシング17A内にヒータ、送風ファンからなる温風発生機を収納し、ケーシング17Aに該温風発生機を操作するための電源用スイッチ17B、温度設定ダイアル17Cを設けたものからなる。
【0022】
また、循環送風手段17を構成し、マットレス本体1内の温度を感知するサーミスタ17Dは、上側クッション層13とカバー15との間に適宜の間隔で配置してあり、図示しない配線を介して温風発生機と接続してある。これにより、被術者を加温するのに最適の温度の温風を、マットレス本体1に供給することができる。
【0023】
18は温風供給装置17のケーシング17Aと吹込みホース接続口6に着脱可能に接続した空気吹込みホースを示し、19はケーシング17Aと吸出しホース接続口10に着脱可能に接続した空気吸出しホースを示す。
【0024】
本実施の形態に係る褥瘡予防マットレスは上述の構成からなり、柔らかい上側クッション層13が被術者の体に沿って変形することにより広い接触面積を確保し、弾性力のある粗状流動層2が被術者の荷重を受け止めて下方に分散させ、高反撥性の下側クッション層11が荷重を受承することにより、被術者の体重を広い範囲で受承するので、被術者の褥瘡を確実に予防することができる。
【0025】
そして、手術用ベッドに載せたマットレス本体1に空気吹込みホース18と空気吸出しホース19を接続し、電源用スイッチ17Bを操作して温風供給装置17を始動することにより、温風は空気吹込みホース18から吹込みホース接続口6を介して放散ノズル3に吹込まれる。放散ノズル3は、ノズル孔5A、5Bを小径に形成してあるのに対し、他のノズル孔5C〜5Lを大径に形成し、またノズル孔5C〜5E及び5G〜5Jは横向きに形成することにより、放散ノズル3に流入した温風は粗状流動層2の全体に略均一に吹き込むことができるから、マットレス本体1の全体を速やかに加温することができる。
【0026】
温風供給装置17はマットレス本体1に温風を吹き込むと共に、空気吸出しホース19を介して温風を吸引することにより、粗状流動層2を流動した温風は送風集約体7から吸出しホース接続口6、そして空気吸出しホース19を介して温風供給装置17に吸引する。このようにして、温風は温風供給装置17、空気吹込みホース18、マットレス本体1、空気吸出しホース19の循環路を強制的に流動するようにしたから、マットレス本体1は熱が広がり易いし、偏りなく平均的に速やかに加温することができる。
【0027】
しかも、温風は外部に放出するのではなく循環させる構成にしたから、熱損失が少なく、消費電力を大幅に節減することができるし、施術室に風が舞うこともないので快適な環境を維持できる。また、被術者に温風を直接吹き付けないから、吹出し部分のみが加温されるといった不快感がなく、被術者を平均に加温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る褥瘡予防マットレスの外観斜視図である。
【図2】マットレス本体の分解斜視図である。
【図3】マットレス本体の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 マットレス本体
2 粗状流動層
3 放散ノズル
6 吹込みホース接続口
10 吸出しホース接続口
11 下側クッション層
12 屈曲用切込
13 上側クッション層
14 放出孔
15 マットカバー
16 循環送風手段
18 空気吹込みホース
19 空気吸出しホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マットレス本体は、無数の連通空隙と弾力性を有する素材により形成した粗状流動層と、高反撥性、柔軟性及び非通気性のある素材により形成し、該粗状流動層の下面に重ねる下側クッション層と、低反撥性、柔軟性及び通気性を有する素材により形成し、前記粗状流動層の上側に重ねる上側クッション層と、非通気性と柔軟性を有する素材により形成し、該上側クッション層から下側クッション層にかけて一体に覆うマットカバーとから構成し、前記マットレス本体に空気吹込み口と空気吸出し口を夫々設け、該空気吹き込み口及び空気吸出し口の各々にホースを接続して循環送風手段により前記粗状流動層に温風又は冷風を循環流動させるようにしてなる褥瘡予防マットレス。
【請求項2】
前記マットレス本体には、前記粗状流動層の一側に位置して送風を粗状流動層に均一に流動させるための放散ノズルを前記空気吹込み口に連通して設けてあることを特徴とする請求項1記載の褥瘡予防マットレス。
【請求項3】
前記マットレス本体には、前記粗状流動層の他側に位置して空気を回収する送風集約体を前記空気吸出し口に連通して設けてあることを特徴とする請求項1記載の褥瘡予防マットレス。
【請求項4】
前記下側クッション層は、複数の屈曲用切込が形成してあることを特徴とする請求項1記載の褥瘡予防マットレス。
【請求項5】
前記上側クッション層には、前記粗状流動層に連通し、上面に開口する複数の放出孔を形成してあることを特徴とする請求項1記載の褥瘡予防マットレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−278992(P2008−278992A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124269(P2007−124269)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(598093691)株式会社オムニ商会 (1)
【Fターム(参考)】