説明

褥瘡洗浄装置

【課題】洗浄・除菌効果の高い洗浄水を簡便に生成できる褥瘡洗浄装置を提供する。
【解決手段】褥瘡洗浄装置(10)には、褥瘡部へ供給する洗浄水を貯留するタンク(20)と、一端がタンク(20)に接続される給水路(31)、タンク(20)内の洗浄水を給水路(31)へ搬送する搬送部(32)、及び給水路(31)の流出端に接続されて洗浄水を褥瘡部へ放出する放出部(33,90,95)を含む給水機構(30)と、タンク(20)内の水中でストリーマ放電を生起するための電極対(51,52)と、電極対(51,52)に電圧を印加する電源部(65)とを有し、ストリーマ放電によって水中で過酸化水素を生成するように構成された放電発生機(50)とが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡部を洗浄する褥瘡洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、褥瘡(じょくそう)部を洗浄するための褥瘡洗浄装置が知られている。褥瘡とは、皮膚に加わる圧迫や摩擦等の外力によって組織が壊死を起こした状態である。この褥瘡は、床ずれとも呼ばれ、例えば自力での寝返りが困難な患者において、寝具や衣類などによって圧迫を受ける部位に生じやすい。褥瘡洗浄装置として、例えば特許文献1には、洗浄水が貯留される洗浄水タンクと、該洗浄タンク内の洗浄水を噴射ノズルに送るための送液装置とを備えた褥瘡洗浄装置が開示されている。このような構成の褥瘡洗浄装置において、噴射ノズルを患者の褥瘡部に向けた状態で送液装置を駆動すると、洗浄水が噴射ノズルを通じて褥瘡部に噴射され、褥瘡部が洗浄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−089276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、褥瘡部で細菌等が繁殖するのを防止するために、洗浄・除菌効果を有する過酸化水素を含む洗浄水を用いることが考えられる。しかしながら、過酸化水素は不安定なため、褥瘡洗浄効果のある洗浄水を用いる場合、タンク内に所定濃度の過酸化水素を含む洗浄水を用時調製して適宜補充する必要がある。また、例えばタンク内の水中で電気分解を行うことで、過酸化水素を発生させることも考えられる。しかしながら、電気分解によって過酸化水素を生成する方式では、過酸化水素生成能が充分でないことから、所定濃度の過酸化水素を含む洗浄水を得ることは極めて困難である。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、洗浄・除菌効果の高い洗浄水を簡便に生成できる褥瘡洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、褥瘡洗浄装置を対象とし、褥瘡部へ供給する洗浄水を貯留するタンク(20)と、一端が上記タンク(20)に接続される給水路(31)と、該タンク(20)内の洗浄水を上記給水路(31)へ搬送する搬送部(32)と、上記給水路(31)の流出端に接続されて上記洗浄水を褥瘡部へ放出する放出部(33,90,95)とを含む給水機構(30)と、上記タンク(20)内の水中でストリーマ放電を生起するための電極対(51,52)と、該電極対(51,52)に電圧を印加する電源部(65)とを有し、上記ストリーマ放電によって水中で過酸化水素を生成するように構成された放電発生機(50)とを備えていることを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、放電発生機(50)の電源部(65)から電極対(51,52)へ電圧が印加されることにより、水中でストリーマ放電が行われる。ストリーマ放電が行われると、水中では水酸ラジカル等の活性種が生成される。この活性種は、水分子と反応することにより、多量の過酸化水素が生成される。その結果、タンク(20)内では、過酸化水素を含む洗浄水が簡便に得られる。タンク(20)内の洗浄水は、搬送部(32)によってタンク(20)から給水路(31)へ搬送される。給水路(31)を流れた洗浄水は、放出部(33,90,95)から褥瘡部へ供給される。その結果、褥瘡部の洗浄・除菌がなされる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、上記電源部(65)は、上記電極対(51,52)に直流電圧を印加する直流電源(65)で構成され、上記放電発生機(50)は、上記電極対(51,52)の間の電流密度を集中させる電流密度集中部材(55)を備えていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明では、直流電源(65)から電極対(51,52)に直流電圧が印加されることで、電極対(51,52)の間でストリーマ放電が行われる。一方、このように電極対(51,52)に直流電圧を印加すると、例えばパルス電圧を印加する場合と比較して、電極対(51,52)の間の漏れ電流が大きくなり、放電を行うことが困難となる。そこで、第2の発明の放電発生機(50)には、電極対(51,52)の電流密度を上昇させる電流密度集中部材(55)を設けている。この電流密度集中部材(55)により、電極対(51,52)の間の電流密度が上昇するため、電源部(65)として直流電源を用いても放電を行うことができる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記放出部(33)は、上記洗浄水が放出される流出口(36)が形成される本体部(34)と、上記流出口(36)を覆うように上記本体部(34)に取り付けられるスポンジ部(35)とを含んでいることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、洗浄水が流出口(36)から流出し、スポンジ部(35)に吸収される。このように洗浄水を吸収したスポンジ部(35)によって、患者の褥瘡部が洗われる。
【0012】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、上記放出部(90)は、上記洗浄水を噴霧する噴霧部(91)を含んでいることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、噴霧部(91)からミスト状の洗浄水が褥瘡部へ供給される。こうすると、細かい液滴状の洗浄水が褥瘡部に付着する。
【0014】
第5の発明では、2乃至4のいずれか1つの発明において、上記電流密度集中部材(55)は、少なくとも1つの開口(58)が向けられた絶縁性の容器状に形成され、上記電極対(51,52)のうちの一方の電極(51)だけを囲むように配置されていることを特徴とする。
【0015】
第5の発明では、絶縁性の容器状の電流密度集中部材(55)の内部に電極(51)が収容される。電流密度集中部材(55)には、少なくとも1つの開口(58)が形成されるため、電極対(51,52)の間では、この開口(58)を通じて放電経路が形成される。この開口(58)によって電極対(51,52)間の電流経路が絞られるため、開口(58)の近傍での電流密度が集中する。その結果、電極対(51,52)の間では、開口(58)を通じて安定したストリーマ放電が行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タンク(20)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を生成している。このため、タンク(20)内に過酸化水素水を適宜補充する必要がなく、簡便に過酸化水素を含む洗浄水を得ることができる。また、本願発明のストリーマ放電では、例えば電気分解の方式と比較すると、過酸化水素の生成速度が極めて高い。従って、短時間で多量の過酸化水素を発生でき、褥瘡の洗浄・除菌効果を向上できる。
【0017】
第2の発明では、放電発生機(50)の電源部として直流電源(65)を用いている。このため、公知のパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(65)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0018】
更に第2の発明では、放電発生機(50)に電流密度集中部材(55)を設けているため、直流電源(65)であっても、水中内で安定したストリーマ放電を行うことができる。従って、タンク(20)内で過酸化水素を安定的に生成できる。
【0019】
第3の発明では、洗浄水を吸収したスポンジ部(35)によって患者の褥瘡部が洗われる。これにより、洗浄水で褥瘡部を湿潤させつつ、褥瘡部を極度に圧迫せずに褥瘡部における細菌等を除去できる。
【0020】
第4の発明では、ミスト状の洗浄水が褥瘡部に噴霧されるため、褥瘡部へ急激に洗浄水が噴出されることによる患者の痛みを抑制でき、しかも、褥瘡部全体へ均一に洗浄液を供給することができる。
【0021】
第5の発明では、電極対(51,52)のうちの一方だけを絶縁性の容器状の電流密度集中部材(55)で覆い、開口(58)によって電流経路を絞っている。このため、開口(58)の近傍での電流密度を上昇させることができ、ストリーマ放電を更に安定させて過酸化水素を確実に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施形態1に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略の斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略構成図である。
【図3】図3は、放電ユニットの拡大した概略構成図である。
【図4】図4は、絶縁ケースの上面図である。
【図5】図5は、実施形態2に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略の斜視図である。
【図6】図6は、実施形態2に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す構成図である。
【図7】図7は、変形例1に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略の斜視図である。
【図8】図8は、変形例2に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略の斜視図である。
【図9】図9は、変形例3に係る褥瘡洗浄装置の全体構成を示す概略の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0024】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1に係る褥瘡洗浄装置(10)は、患者の褥瘡部を洗浄することにより、褥瘡部の洗浄・除菌を行うものである。本実施形態の褥瘡洗浄装置(10)は、褥瘡部へ供給される洗浄水として、過酸化水素(H)を含む洗浄水が用いられる。
【0025】
<褥瘡洗浄装置の全体構成>
褥瘡洗浄装置(10)の全体構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。褥瘡洗浄装置(10)は、ケーシング(11)と、該ケーシング(11)に収容される洗浄水タンク(20)とを備えている。マイクロコンピュータなどのCPUとCPUにより実行される装置全体の制御プログラムや各種データを記憶するROMとワークエリアとして測定データや各種データを一時的に記憶するRAMなどを備える制御部(図示省略)によって褥瘡洗浄装置(10)全体が制御される。
【0026】
ケーシング(11)は、中空の箱形容器で構成されている。ケーシング(11)の前面(12)には、褥瘡洗浄装置(10)を操作するための操作パネル(13)が設けられている。
【0027】
洗浄水タンク(20)には、褥瘡部へ供給される洗浄水が貯留される。洗浄水タンク(20)は、縦長の中空円筒状に形成されている。洗浄水タンク(20)の頂部(21)には、水道水を洗浄水タンク(20)へ補給するための給水口(22)が形成されている。
【0028】
褥瘡洗浄装置(10)は、褥瘡部へ洗浄水を供給するための給水機構(30)を備えている。給水機構(30)は、給水チューブ(31)、給水ポンプ(32)、及びスポンジユニット(33)を有している。
【0029】
給水チューブ(31)は、洗浄水タンク(20)内の洗浄水が流れる給水路を構成している。給水チューブ(31)は、可撓性を有するチューブであり、例えばフッ素樹脂系、あるいはシリコン系の材料で構成されている。給水チューブ(31)の一端部(流入端部)は、洗浄水タンク(20)の外周壁(23)のうち底部(24)寄りの部位に接続している。給水チューブ(31)は、洗浄水タンク(20)の外周壁(23)を貫通して洗浄水タンク(20)の内部と連通している。
【0030】
給水ポンプ(32)(図1においては図示省略)は、給水チューブ(31)の途中に設けられている。給水ポンプ(32)は、洗浄水タンク(20)内の洗浄水を給水チューブ(31)を経由してスポンジユニット(33)へ搬送するための搬送部を構成している。給水チューブ(31)の適所に加温部(39)(図1、図5、図7、図8においては図示省略)を設けて洗浄水(水/過酸化水素含有)を37℃近辺にすることもできる。尚、加温部(39)は温度制御可能(15〜40℃)とする。
【0031】
スポンジユニット(33)は、給水チューブ(31)の流出端に接続されている。スポンジユニット(33)は、褥瘡部へ洗浄水を放出する放出部を構成している。スポンジユニット(33)は、本体部(34)と、本体部(34)の表面を覆うスポンジ部(35)とを有している。本体部(34)には、給水チューブ(31)と連通する複数の流出口(36)が形成されている。この流出口(36)を通じて、褥瘡部へ洗浄水が供給される。スポンジ部(35)は、多孔質の合成樹脂や多孔質の海綿等で構成された比較的柔らかな部材である。
【0032】
<放電ユニットの構成>
図3及び図4に示すように、褥瘡洗浄装置(10)は、洗浄水タンク(20)の水中内でストリーマ放電を行うための放電発生機(50)を備えている。放電発生機(50)は、放電ユニット(50a)と直流電源(65)とを有している。放電ユニット(50a)は、洗浄水タンク(20)内の底部寄りに設けられている。放電ユニット(50a)は、電極対(51,52)と、絶縁ケース(55)、及びアースカバー(60)を有している。
【0033】
電極対(51,52)は、放電電極(51)と対向電極(52)とで構成されている。放電電極(51)は、板状の電極であり、対向電極(52)は、複数の孔(53)が形成されたメッシュ状の電極である。なお、対向電極(52)を放電電極(51)と同様に板状に形成しても良い。放電電極(51)と対向電極(52)とは、各々が水平な姿勢で保持されながら、互いに平行となるように対向している。放電電極(51)は、直流電源(65)の正極に接続し、対向電極(52)は、直流電源(65)の負極に接続している。直流電源(65)から電極対(51,52)に電圧が印加されると、両電極(51,52)の間でストリーマ放電が行われる。これにより、水中では、水酸ラジカル等の活性種が生成され、ひいては過酸化水素が生成される。なお、対向電極(52)には、複数の孔(53)が形成されているため、生成された過酸化水素の拡散が促される。
【0034】
絶縁ケース(55)は、洗浄水タンク(20)の底部(24)に設置されている。絶縁ケース(55)は、セラミック等の絶縁材料からなる絶縁部材である。絶縁ケース(55)は、絶縁性の容器状に形成され、上記電極対(51,52)のうちの一方の電極(51)だけを囲むように配置されている。具体的に、絶縁ケース(55)は、容器部材(56)と蓋部材(57)とを有している。容器部材(56)は、一側面(上面)が開放された箱状に形成されている。容器部材(56)の底面には、放電電極(51)が水平な状態で敷設される。蓋部材(57)は、容器部材(56)の上方の開放面を閉塞している。
【0035】
蓋部材(57)には、該蓋部材(57)を上下に貫通する複数の開口(58)が形成されている。即ち、絶縁ケース(55)では、上側(対向電極(52)が設けられる側)に複数の開口(58)が形成されている。本実施形態では、5つの開口(58)が等間隔を置いて配列されている。なお、この開口(58)の数量は単なる例示であり、少なくとも1つの開口(58)が形成されるのであれば、如何なる数量であっても良い。各開口(58)は、円形状に形成されている。なお、各開口(58)の開口幅(口径)Wは、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0036】
放電電極(51)は、絶縁ケース(55)に囲まれる一方、複数の開口(58)を通じて対向電極(52)側への放電が許容される。これにより、絶縁ケース(55)は、電極対(51,52)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部材として機能する。即ち、放電電極(51)は、絶縁ケース(55)で覆われる一方、ストリーマ放電時の電流経路が上記複数の開口(58)によって絞られる。このため、各開口(58)の近傍では、電流密度が増大する。これにより、ストリーマ放電時における活性種の生成量、ひいては過酸化水素の生成量が多くなる。
【0037】
また、絶縁ケース(55)の内部では、放電電極(51)と蓋部材(57)との間に所定の間隔が確保されている。これにより、蓋部材(57)の耐久性が向上する。即ち、放電電極(51)と蓋部材(57)とを密着させる構造とすると、放電に伴うジュール熱によって蓋部材(57)が溶融、あるいは劣化し易くなる。これに対し、放電電極(51)と蓋部材(57)との間に所定の間隔を確保すると、蓋部材(57)の急激な温度上昇を抑制できる。その結果、放電に伴う蓋部材(57)の溶融や劣化が抑制される。
【0038】
アースカバー(60)は、放電電極(51)と対向電極(52)と絶縁ケース(55)とを収容している。アースカバー(60)は、接地された金属製の網状のカバーである。これにより、放電電流が、アースカバー(60)の外部を流れることが防止されている。また、アースカバー(60)は、網状であるため、アースカバー(60)の内部で生成された過酸化水素は、アースカバー(60)の外側まで拡散する。
【0039】
直流電源(65)は、電極対(51,52)に高圧の直流電圧を印加する電源部を構成している。直流電源(65)の電源電圧は、数キロボルト以下(例えば7kV以下)に設定されている。このように、電源部を直流電源(65)とすることで、例えばパルス状の電圧を印加するパルス電源と比較して、電源部の簡素化、小型化、低コスト化を図ることができる。また、パルス電源であれば、放電に伴って水中内で衝撃波や騒音が生じやすいのに対し、電源部を直流電源(65)とすれば、このような衝撃波は騒音の生成も抑制できる。
【0040】
一方、直流電源(65)は、パルス電源のように瞬時的に大電圧を印加するものではないため、電極対(51,52)の間での漏れ電流が大きくなり易い。しかしながら、放電電極(51)を絶縁部材(55)で覆うことで、この漏れ電流が抑制され、開口(58)の電流経路の電流密度が上昇される。また、この開口(58)内では、電流密度の上昇に起因してジュール熱が発生するため、開口(58)内の水が気化されて気泡が発生する。この気泡は、電極対(51,52)の間の漏れ電流を抑制する抵抗として機能する。以上により、本実施形態の放電発生機(50)では、電極対(51,52)の間の漏れ電流が最小限に抑えられる。その結果、電極対(51,52)の間では、所望とする電位差が確保されてストリーマ放電が行われる。なお、このストリーマ放電は、開口(58)の近傍に形成された気泡内で行われる。
【0041】
また、放電発生機(50)には、ストリーマ放電時の放電電力を一定に制御する定電力制御部(図示省略)が設けられている。このような定電力制御を行うと、運転条件等の影響により洗浄水の導電率が変化しても、一定の放電電力でストリーマ放電を行うことができる。従って、導電率が比較的高い条件下において、放電電力が大きくなり過ぎて消費電力が大きくなってしまうことを回避できる。また、導電率が比較的低い条件下において、放電電力が小さくなり過ぎて、過酸化水素の生成量が小さくなり過ぎることを回避できる。
【0042】
−運転動作−
褥瘡洗浄装置(10)の運転動作について説明する。褥瘡洗浄装置(10)の運転が開始されると、直流電源(65)から電極対(51,52)に電圧が印加される。これにより、放電電極(51)から対向電極(52)に向かってストリーマ放電が進展する。この際、電極対(51,52)の間では、絶縁ケース(55)の開口(58)によって放電経路が絞られるため、開口(58)の近傍の電流密度が集中する。これにより、洗浄水タンク(20)内の水中では、高濃度の活性種を生成することができる。
【0043】
洗浄水タンク(20)において、水酸ラジカル等の活性種が生成すると、この活性種が水分子と反応して過酸化水素が生成される。その結果、洗浄水タンク(20)内では、所望とする過酸化水素濃度の洗浄水が得られる。なお、洗浄水タンク(20)内の洗浄水の過酸化水素濃度の調整は、例えば洗浄水の過酸化水素水濃度をセンサで検出し、検出された過酸化水素濃度が所定の目標値に近づくように直流電源(65)をON/OFFさせたり、直流電源(65)から電極対(52,53)への出力電力を制御したりすることで行われる。
【0044】
このような状態で、給水ポンプ(32)が起動して給水動作が開始されると、洗浄水タンク(20)内の洗浄水は、給水チューブ(31)を経由してスポンジユニット(33)へ供給される。具体的には、給水チューブ(31)を通過した洗浄水は、本体部(34)の流出口(36)から外部へ放出され、スポンジ部(35)に吸収される。このように洗浄水を含んだスポンジユニット(33)によって褥瘡部が洗われることにより、褥瘡部の洗浄・除菌がなされる。
【0045】
−実施形態1の効果−
実施形態1では、洗浄水タンク(20)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を生成するようにしている。このため、洗浄水タンク(20)内に過酸化水素水を適宜補充する必要がなく、自動的に過酸化水素を含む洗浄水を得ることができる。また、ストリーマ放電では、例えば電気分解の方式と比較すると、過酸化水素の生成速度が極めて高い。具体的には、実施形態1のストリーマ放電では、電気分解の方式と比較して、約10倍程度の過酸化水素の生成速度が得られる。従って、実施形態1では、短時間で多量の過酸化水素を発生でき、褥瘡の洗浄・除菌効果を向上できる。
【0046】
実施形態1では、放電発生機(50)の電源部として直流電源(65)を用いている。このため、パルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(65)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0047】
実施形態1では、放電電極(51)の一部が開口(58)を通じて外部に露出するように絶縁ケース(55)を配設している。このため、放電電極(51)と対向電極(52)との放電経路は、蓋部材(57)の開口(58)によって絞られる。その結果、開口(58)の近傍では、電流密度が集中されるため、ストリーマ放電の安定化が図られる。これにより、洗浄水タンク(20)では、安定的に過酸化水素を生成することができる。
【0048】
実施形態1では、スポンジユニット(33)のスポンジ部(35)に洗浄水が供給されて吸収される。このスポンジ部(35)で褥瘡部を洗うことによって、洗浄水で褥瘡部を湿潤させつつ、褥瘡部を極度に圧迫せずに褥瘡部における細菌等を除去できる。
【0049】
《発明の実施形態2》
実施形態2に係る褥瘡洗浄装置(10)は、上記実施形態1の褥瘡洗浄装置(10)において、中継タンク(80)を付加したものである。より具体的に、図5及び図6に示す実施形態2の給水機構(30)では、洗浄水タンク(20)側からスポンジユニット(33)側へ向かって順に、中継流路(37)、中継タンク(80)、給水チューブ(31)が接続されている。
【0050】
中継流路(37)の一端部(流入端部)は、洗浄水タンク(20)の外周壁(23)を貫通して、洗浄水タンク(20)の内部と連通している。中継流路(37)の他端部(流出端部)は、中継タンク(80)の頂部(81)を貫通して洗浄水タンク(20)の内部と連通している。中継タンク(80)の外周壁(82)には、上記実施形態1と同様の給水チューブ(31)が接続している。中継流路(37)には、中継ポンプ(38)が接続され、給水チューブ(31)には、給水ポンプ(32)が接続される。
【0051】
実施形態2の褥瘡洗浄装置(10)では、中継ポンプ(38)が適宜運転されることで、洗浄水タンク(20)の洗浄水が中継ポンプ(38)を流れ、中継タンク(80)内へ適宜供給される。それ以外の動作は、上記実施形態1と同様である。即ち、給水動作では、中継タンク(80)内の洗浄水が、給水チューブ(31)を経由してスポンジユニット(33)へ搬送され、このスポンジユニット(33)によって褥瘡部が洗われる。
【0052】
−実施形態2の効果−
実施形態2においても、実施形態1と同様、洗浄水タンク(20)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を生成するようにしている。このため、洗浄水タンク(20)内に過酸化水素水を適宜補充する必要がなく、自動的に過酸化水素を含む洗浄水を得ることができる。また、ストリーマ放電によって、極めて速い生成速度で過酸化水素を得ることができる。
【0053】
実施形態2では、洗浄水タンク(20)とスポンジユニット(33)の間に中継タンク(80)を設けている。このため、褥瘡部へ供給される洗浄水の量を充分に確保でき、スポンジユニット(33)へ安定的に洗浄水を供給できる。
【0054】
《その他の実施形態》
上述した実施形態1や2においては、以下のような他の構成とすることもできる。
【0055】
〈放出部の構成〉
上述した各実施形態では、褥瘡部へ洗浄水を放出する放出部として、スポンジ部(35)を有するスポンジユニット(33)を用いているが、放出部として他の構成を採用しても良い。
【0056】
例えば、図7に示す例(変形例1)のように、褥瘡部へ洗浄水を放出する放出部として用いられるノズル(90)に、噴霧部(91)を設けてもよい。噴霧部(91)からは、図7に示すように、ミスト状の洗浄水が褥瘡部へ噴霧される。このように、ミスト状の洗浄水を褥瘡部へ噴霧することにより、褥瘡部へ急激に洗浄水が噴出されることによる患者の痛みを和らげることができるとともに、褥瘡部へ均一に洗浄水を供給することができる。
【0057】
また、図8に示す例(変形例2)のように、褥瘡部へ洗浄水を放出する放出部として用いられるノズル(95)に、噴出部(96)を設けてもよい。噴出部(96)からは、図8に示すように、繋がった状態の洗浄水が褥瘡部へ噴出される。
【0058】
また、放出部は、該放出部から放出される洗浄水が、ミスト状に噴霧される状態と、繋がった状態で噴出される状態とに切替可能に構成されていてもよい。
【0059】
なお、実施形態1におけるスポンジユニット(33)において、スポンジ部(35)が本体部(34)に対して着脱可能に取り付けられているのが好ましい。これにより、褥瘡部に直接触れるスポンジ部(35)を適宜交換することができるので、褥瘡部の衛生を保てる。
【0060】
〈洗浄水の種類〉
上述した各実施形態では、洗浄水タンク(20)に水を補給し、洗浄水タンク(20)内の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を生成している。しかしながら、洗浄水タンク(20)の水中に食塩水を添加するようにしても良い。食塩水を含む洗浄水中でストリーマ放電を行うと、食塩を含む水(被電解水)が電気分解されて、次亜塩素酸(HClO)が生成される。この次亜塩素酸は、過酸化水素と比較として殺菌力が高いため、洗浄水による褥瘡の洗浄・除菌効果を更に向上できる。
【0061】
また、それ以外にも、洗浄水中に刺激性の低い消毒剤を添加したり、抗菌作用を有する薬剤や褥瘡治療効果のあるヨウ素を含む薬剤等を添加したりしてもよい。
【0062】
〈過酸化水素水の生成〉
上述した各実施形態では、過酸化水素センサの検出値が目標値に近づくように、ストリーマ放電の制御を行い、所望とする過酸化水素濃度の洗浄水を得るようにしている。しかしながら、過酸化水素センサを省略し、ストリーマ放電を所定の設定時間だけ行うようにしても良い。なお、この設定時間は、所望とする過酸化水素濃度の洗浄水を得るよう経験的に求められた時間であり、例えば水道水の補給量に応じて変化する値であっても良い。
【0063】
〈放電ユニットの構成>
上述した各実施形態では、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、洗浄水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0064】
また、上述した各実施形態では、直流電源(65)の正極に放電電極(51)を接続し、直流電源(65)の負極に対向電極(52)を接続している。しかしながら、直流電源(65)の負極に放電電極(51)を接続し、直流電源(65)の正極に対向電極(52)を接続することで、両電極(51,52)の間でいわゆるマイナス放電を行うようにしても良い。
【0065】
また、上述した各実施形態において、図9の例(変形例3)に示すように、絶縁性の蓋部材(57)と放電電極(51)とを接触させるように配置しても良い。この構成においても、蓋部材(57)の各開口(58)の近傍において、電流密度を集中させることができる。従って、ストリーマ放電が安定して行われ、過酸化水素の生成速度を促進できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明は、褥瘡部を洗浄する褥瘡洗浄装置について有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 褥瘡洗浄装置
20 洗浄水タンク(タンク)
30 給水機構
31 給水チューブ(給水路)
32 給水ポンプ(搬送部)
33 スポンジユニット(放出部)
34 本体部
35 スポンジ部
36 流出口
50 放電発生機
50a 放電ユニット
51 放電電極(電極対)
52 対向電極(電極対)
55 絶縁ケース(絶縁部材、電流密度集中部材)
56 容器部材
57 蓋部材
58 開口
65 直流電源(電源部)
90 ノズル(放出部)
91 噴霧部
95 ノズル(放出部)
96 噴出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
褥瘡部へ供給する洗浄水を貯留するタンク(20)と、
一端が上記タンク(20)に接続される給水路(31)と、該タンク(20)内の洗浄水を上記給水路(31)へ搬送する搬送部(32)と、上記給水路(31)の流出端に接続されて上記洗浄水を褥瘡部へ放出する放出部(33,90,95)とを含む給水機構(30)と、
上記タンク(20)内の水中でストリーマ放電を生起するための電極対(51,52)と、該電極対(51,52)に電圧を印加する電源部(65)とを有し、上記ストリーマ放電によって水中で過酸化水素を生成するように構成された放電発生機(50)とを備えていることを特徴とする褥瘡洗浄装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記電源部(65)は、上記電極対(51,52)に直流電圧を印加する直流電源(65)で構成され、
上記放電発生機(50)は、上記電極対(51,52)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部材(55)を備えていることを特徴とする褥瘡洗浄装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記放出部(33)は、上記洗浄水が放出される流出口(36)が形成される本体部(34)と、上記流出口(36)を覆うように上記本体部(34)に取り付けられるスポンジ部(35)とを含んでいることを特徴とする褥瘡洗浄装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
上記放出部(90)は、上記洗浄水を噴霧する噴霧部(91)を含んでいることを特徴とする褥瘡洗浄装置。
【請求項5】
請求項2乃至4において、
上記電流密度集中部材(55)は、少なくとも1つの開口(58)が向けられた絶縁性の容器状に形成され、上記電極対(51,52)のうちの一方の電極(51)だけを囲むように配置されていることを特徴とする褥瘡洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−61165(P2012−61165A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208307(P2010−208307)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】