説明

覆工コンクリートの湿潤養生装置

【課題】湿潤養生中にトンネル内の視界が悪くなることを抑制すること。
【解決手段】トンネル表面をコンクリートで被覆するトンネル覆工工事で使用する型枠とトンネル内壁面との間にコンクリートを打設し、当該打設後、コンクリートが硬化するまでの所定時間、当該コンクリートを前記型枠内部で保護するとともに、硬化後、コンクリート表面に乾燥によるひび割れが生じないようにコンクリート表面を湿潤状態にして乾燥収縮によるひび割れを防止する覆工コンクリートの湿潤養生装置1である。湿潤養生装置1は、型枠の後方に設置される。そして、当該装置1は、硬化したコンクリートから前記型枠を外す脱枠がされた後のトンネル内壁面11との間で密閉状の空間部Sを形成するシート部3と、シート部3の骨組みとなる組立て枠4と、空間部Sに噴霧する噴霧装置5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル覆工の湿潤養生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地山を掘削して出来た素堀トンネルの掘削面(内壁面)をコンクリートで被覆するトンネル覆工工事では、まず素堀トンネルの掘削面にコンクリートを吹き付ける一次覆工を行う場合が多い。そして、その場合、一次覆工後のトンネル掘削面をさらにコンクリートで被覆する二次覆工を行うのが普通である。
【0003】
上記の二次覆工は、いわゆるセントルと称される型枠を用いてコンクリートを打設する。ここでいう打設とは、未だ固まっていないコンクリートを型枠と一次覆工後のトンネルの内壁面との間へ充填することをいう。
【0004】
打設されたコンクリートは、硬化するまでの所定時間、外力が加わらないように型枠内部で保護され、硬化後、型枠は外される。
【0005】
そして、型枠が外された(以下、「脱枠」という)後、コンクリートの養生を行う。ここでいう養生とは、硬化したコンクリートが乾燥収縮により表面にひび割れを生じないように適度な湿潤状態に保つためのものであり、コンクリートの湿潤養生を意味する。
【0006】
その方法として、セントル台車の坑口側足場に噴霧発生装置を複数設置して水噴霧を行ったり、シートによりコンクリート表面をカバーしたりすることが周知である。
【0007】
ところで、噴霧発生装置を使用する場合、噴霧された霧状の液(以下、ミスト)の大きさや噴霧量によって坑内全体にミストが充満し、視界が悪くなったり、路盤が泥濘化したりする。したがって、視界が開けるまで施工を中断しなければならず、また、路盤泥濘化の対策を施さなければならない。
【0008】
一方、シートによりコンクリート表面をカバーして、ミストの拡散を防止するのは、トンネル内面が円弧であるため、一律にシートを張る作業に手間が掛かる。
【0009】
さらに、シートを用いる場合は、噴霧発生装置やシートを支えるための専用の鋼製台車を製作し、覆工の進行とともに鋼製台車を移動させる必要があるが、移動用のレールをトンネル内に敷設しなければならない。このため設備が大掛かりになり、効率良い養生手段とはいえなかった。
【特許文献1】特開平7−173997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてされたものであり、その解決しようとする課題は、少なくとも湿潤養生中にトンネル内の視界が悪くなったり、路盤が泥濘化したりすることを抑制することができる覆工コンクリートの湿潤養生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の覆工コンクリートの湿潤養生装置は、トンネル内壁面をコンクリートで被覆するトンネル覆工工事で使用する型枠とトンネル内壁面との間にコンクリートを打設し、当該打設後、コンクリートが硬化するまでの所定時間、当該コンクリートを前記型枠内部で
保護するとともに、硬化後、コンクリート表面にひび割れが生じないようにコンクリート表面を湿潤状態にして乾燥収縮によるひび割れを防止する覆工コンクリートの湿潤養生装置であって、前記型枠の後方に設置される。
【0012】
そして、本発明に係る湿潤養生装置は、前記型枠の後方に設置され、前記コンクリートの硬化後に前記型枠を外す脱枠がされた覆工後のトンネル内壁面との間に空間部を形成するシート部と、このシート部の骨組みとなる組立て枠と、前記空間部に噴霧液を噴霧する噴霧装置と、を有することを特徴とする。
【0013】
したがって、コンクリート表面とシート部とによって形成された空間部は、組立て枠によってその形体が保持され、当該保持された空間内に噴霧装置によって噴霧されてできたミストは、やがて空間内に充満される。充満されたミストによって、コンクリート表面は湿潤する。
【0014】
また、ミストが充満する範囲は、コンクリート表面とシート部とによって形成された空間部であって、当該空間部以上には拡がらないので、坑内全体にミストが充満しない。換言すればトンネルにおいて湿潤養生をしている本装置の空間部だけにミストが充満しているが、この空間部の外は、シートで仕切られてミストの無い状態の別の空間となる。
【0015】
前記空間部は、トンネル横断面の少なくとも上半部の形状に沿ってかつトンネルの長手方向における所定の範囲に亘って形成され、トンネル内における本装置の占有領域の下方には十分な作業領域が確保されていることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、トンネル内における本装置の設置箇所よりも下方は、視界が良好な作業領域が確保できる。よってトンネル内において湿潤養生をしている間でもトンネル内における別の作業を実施できる。
【0017】
また、湿潤状態にあるのは、前記空間部の中だけであるから、トンネル内における空間部の外はミストによって路盤泥濘化する虞がない。
【0018】
本発明に係る湿潤養生装置は、さらに前記トンネルの天井面に設置され、ローラを有しかつトンネルの長手方向に所定の間隔で配置される複数のローラ装置と、前記組立て枠に設けられ、前記複数のローラ装置のローラに支持された状態でローラが回転することによりローラ装置間を移動可能なレール体とを有するようにしてもよい。
【0019】
トンネル内にレールを敷設するよりもローラ装置を所定の間隔で多数設置する方が工事は簡単である。よって工期短縮でコスト削減が可能である。
【0020】
加えて本発明の湿潤養生装置において、前記組立て枠のうち少なくとも前記空間部の先端部に位置する箇所にある組立て枠に前記噴霧装置及び前記送風機を設けるようにしてもよい。このようにすることで、湿潤養生装置の空間内の端から端までミストが行き渡る。
【0021】
前記送風機はトンネルの長手方向に所定間隔ごとに設けると、空間内に十分ミストが行き渡るようになるため好適である。
【0022】
前記空間部を形成するシート部の側部には、前記トンネルの内壁面にトンネルの長手方向において当接するように延びる密閉部材を設けると、空間部からミストが漏れにくくなる。したがって、十分な湿潤養生ができる。
【0023】
前記密閉部材は、柱状に形成された発砲スチロール材、又は/及びシート部が前記トン
ネルの内壁面に対して当接するように前記空間部形成用のシート部の側縁部を利用したものであることが望ましい。
【0024】
また前記密閉部材にシート部材の側縁部を利用する場合の一例として、シート部材の側縁部を、トンネル横断面における軸線のうち水平面に含まれる軸線がトンネル内壁面と接する接点位置よりも下方の位置で垂下するようにしたものを挙げられる。
【0025】
発砲スチロール材は軽量であり、またシート部材の側縁部は既存のものであるから、設置が簡単でかつ装置の重量が大幅に嵩むことがない。
【0026】
密閉部材に前記発砲スチロール材及び前記シート部の側縁部を適用した場合において、前記発砲スチロール材を前記シート部の側縁部よりも内側に配置することで、ミストの漏れが二重に防止されるようになるため、空間部は一層密閉された状態になる。
【0027】
前記組立て枠は、湿潤養生の実行中に前記空間部を維持するに必要最低限な強度を有する材料から作ることが好ましい。空間部を維持できるのであれば、組立て枠は竹材その他の軽量材から作ることも可能である。このようにすることで、装置の重量が嵩むことがない。
【発明の効果】
【0028】
本発明の覆工コンクリートの湿潤養生装置によれば、覆工コンクリートの養生中にトンネル内の視界が悪くなったり、路盤が泥濘化したりすることを抑制することができる。
【0029】
また、レールの敷設に比べローラ装置を所定の間隔で設置する方が工事は簡単であるから工期短縮に寄与する。
【0030】
さらに、湿潤養生装置の空間内の端から端までミストが行き渡るため、覆工コンクリート、延いてはトンネルの品質が向上する。
【0031】
そして、密閉部材によりミストが空間の外へ漏れることを抑制できるので、ミストに起因したトンネル内の視界の悪化を誘発したり路盤が泥濘化したりすることを一層抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の覆工コンクリートの湿潤養生装置の実施の形体(以下、実施形体)を添付した図面を参照して説明する。
【0033】
図1〜5は、二次覆工が行われコンクリートの硬化後、脱枠されたトンネル1及び当該トンネル1内に設置された本発明に係る覆工コンクリートの湿潤養生装置(以下、湿潤養生装置)2を示す。
トンネル1は、図1から判るように、例えば、断面円弧形のいわゆる「かまぼこ形」である。
【0034】
図1の左側が、地山を掘削して出来る素堀トンネルの形成側であり、当該方向に図示しない型枠であるセントルや掘削装置が設置されている。
【0035】
湿潤養生装置2は、セントルの後方に設置される。そして、トンネル1の横断面の少なくとも上半部の形状に沿った如き形状でかつトンネル1の長手方向における所定の範囲に亘って形成されている。喩えていえば、湿潤養生装置1は、横断面がほぼ半円形をしたかまぼこの湾曲している部分を所定の厚みを持って、その長手方向に切り取った如き外形状
をした中空体である。
【0036】
その大きさは、曲率半径が外径でトンネル1とほぼ同じ最大で6.86メートルであり、内径で最大5.885メートルである。また、長さ寸法は、大凡30メートルに相当する。そして、トンネル1内における本装置1の占有領域の下方には、十分な作業領域Aが確保されている。
【0037】
湿潤養生装置2は中空体であり、その内部空間(空間部)は、湿潤養生装置2の外形状とほぼ同一形状をしている。当該内部空間を符号Sで示す。内部空間Sは、トンネル1の内壁面11との間で密閉状に空間部を画成するシート部3と、シート部3の骨組みとなる多数の組立て枠4とによって少なくとも画成される。
【0038】
湿潤養生装置2の他の構成部材として、湿潤養生装置2をトンネル1の天井面11aに設置したローラ装置6との係合によって移動するH形鋼からなるレール体7と(図1〜8参照)、前記ミストを内部空間Sの隅々にまで行き渡らせる送風機8と(図9,10参照)、内部空間S内に噴霧してミストを発生させる噴霧装置5と(図11参照)とを有する。
【0039】
なお、図1〜5に示される符号9は送風管であり、トンネル1内に外気を導入して換気するための管である。送風管9は、湿潤養生装置2をその長手方向に貫通している。
【0040】
このような構成からなる湿潤養生装置2は、既述のように、横断面がほぼ半円形をしたかまぼこの湾曲部分を所定の厚みを持ってその長手方向に切り取った如き外形状をした中空体である。それゆえ湿潤養生装置1は、掘削側の端面である先端面21と、それと対向する後端面22と、底面23と、それ以外の部分である外周面24とを有する。なお、外周面24以外は、シート31で覆われてなるシート部3を形成する。これら各面21,22,23,24を説明する前に、シート部3と組立て枠4について説明する。
【0041】
シート部3は、ポリエチレンフィルムやビニールフィルム製のシート31が被覆された部位であり、組立て枠4にナット&ボルト,紐その他の適宜の図示しない取着手段によって取着される。
【0042】
組立て枠4は、複数のパイプから形成され、トンネル1の長手方向に16基、等間隔で設置されている。組立て枠4のうち妻側に位置する一対の組立て枠4とそれらの間に位置する組立て枠4とでは形状が異なる。
【0043】
妻側の組立て枠4を便宜上符号4Aで示し、中途の組立て枠4を符号4Bで示す。なお、符号4を用いる場合は、組立て枠の総称として使用する。
【0044】
妻側に位置する組立て枠4Aは、図2に示すように、三日月形状をしており、弦側を下にして伏せた如き形体をしている。そして、当該組立て枠4Aは、トンネル1の内壁面とほぼ同じ曲率を有する外側枠41と、外側枠41から下方におよそ1メートル離れ、外側枠41の曲率よりも大きな曲率を有する中枠42と、中枠42から数十センチ下方に離れ、中枠42とほぼ平行な内側枠43と、これらを強固にするために外側枠41と中枠42とを連結する、上下方向に延びる複数の支持枠44とからなる。
【0045】
外側枠41及び中枠42は、それらの両端で連結され、中枠42の両端部近傍箇所で内側枠43の両端がそれぞれ連結されている。これら各枠を骨組みにして、組立て枠4Aの全面にシート31が張られる(図4,5参照)。
【0046】
また、組立て枠4Aには、レール体7を下方から支持するレール支持材71が、鉛直方向に延びる中心線C1の両側にそれぞれ設けられている(図2参照)。さらに、図2の左側に位置するレール支持材71の右隣りには、送風管9の通される送風管通し領域a1が形成されている。
【0047】
外側枠41には、その長手方向に沿ってかつ外側枠41と同じ曲率の噴霧管51が設置されている(図11参照)。噴霧管51にはノズル511が点在し(図2参照)、ノズル511からトンネル内壁面11に向けて水が噴霧される。
【0048】
また、外側枠41の両端には、アイナット411aが取り付けられている。アイナット411aは、トンネル1の長手方向に向けて取り付けられ、当該アイナット411aには、緊張用金具であるターンバックル412が取り付けられている(図12〜14参照)。
【0049】
内側枠43は、その長手方向における下縁にもシート31が張られるようになっている(図2〜4参照)。当該下縁に張られるシート31は、妻側に位置する組立て枠4Aだけでなく、中途に位置する組立て枠4Bの下縁にも張られる。総ての組立て枠4の下縁にシート31が張られることで、湿潤養生装置1の底面23は、全面にシート31が張られた状態になる(図4,5参照)。
【0050】
底面23に張設されるシート31は、その両側縁にトンネルの内壁面にトンネルの長手方向において当接する密閉部材が設けられるようになっている。
【0051】
密閉部材を設けるようにするために、底面23のシート31の両側縁は上下に二股状に分岐され、上位に位置する一方の筋には、柱状に形成された発砲スチロール材300が取り付けられる。この発砲スチロール材300が密閉部材として機能する。
【0052】
発砲スチロール材300は、図15,16に示すように、ワイヤ414に通されてトンネル内壁面11に当接し、かつトンネル1の長手方向に延在する。このワイヤ414は、前記ターンバックル412を経由して、妻側に位置する組立て枠4Aの両端に設けられているアイナット411aに連繋されている。
【0053】
そして、ターンバックル412によりワイヤ414を緊張させ、当該緊張状態にあるワイヤ414に多数の係止具415が等間隔で設置される。係止具415は、シート31の両側縁部3a,3aに形成されている二股の上位に位置する一方の筋と連結されている。係止具415をこのようにワイヤ414とシート31の側縁部3aとの間に設けることにより、発砲スチロール材300の位置が固定的になる。
【0054】
また、シート31の前記二股のうち下位に位置する他方の筋は、トンネル内壁面11に対してシート31自体が当接するようにシート部3の側縁部3aを利用したものである。すなわち、図2において、シート部3の側縁部3aを、トンネル横断面における軸線のうち水平面に含まれる軸線Chがトンネル内壁面11と接する接点位置Cnよりも下方の位置で垂下させ、当該垂下した状態で、シート部3の側縁部3aをトンネル内壁面11と密接させることで、ミストの漏れを防止する密閉部材として機能させている。
【0055】
支持枠44は、図2に示すように、外側枠41と内側枠43(又は中枠42)との円弧の曲率の違いから、外側枠41と内側枠43(又は中枠42)との間の長さが異なるため、その関係で設置箇所によって長さ寸法が相違する。
【0056】
また、外側枠41と内側枠43(又は中枠42)とが組み付けられたときに組立て枠4Aの剛性を高めるため、支持枠44には、ターンバックル441の両ボルト441u,4
441dを外側枠41と内側枠43とにそれぞれ組み付けてなる支持枠44Aを組み合わせてある。
【0057】
支持枠44Aは、外側枠41に形成されている組付片413及び中枠42の組付片423を介して、外側枠41と中枠42とにターンバックル441の調整により所定のテンションが掛けられた状態で取り付けられる。このようにターンバックル441を締め付けることで、組立て枠4Aの剛性が高まる。またターンバックル441を締め付け具合によって、組立て枠4Aの全面に張られたシート31の張り具合を調整できる。
【0058】
次にレール7を支持するレール支持材71について述べる。
レール支持材71は、長さ調整可能な支持脚として機能するターンバックル712の上部ボルト712uの先端にレール体7が固着されるものである。そのためにターンバックル712の上部ボルト712u及び下部ボルト712dには、それぞれ上部ナックル継ぎ手711u及び下部ナックル継ぎ手711dが設けられ、上部ナックル継ぎ手711uにレール体7が溶接や締着手段によって固着される。また、上部ナックル継ぎ手711uと下部ナックル継ぎ手711dとは、それらの各回転軸が平行である(図7,8参照)。
【0059】
一方、妻側に位置する組立て枠4Aに対し、湿潤養生装置1の長手方向における中途に位置する組立て枠4Bは、図3に示すように、組立て枠4Aの外側枠41の代わりに、中枠42と平行でトンネル1の天井面11aから大凡1メートルほど離された平行外側枠41Aを有する以外は組立て枠4Aと同じである。
【0060】
組立て枠4Aの外側枠41と同様、平行外側枠41Aにも送風管9が通される送風管通し領域が形成されている。当該送風管通し領域は符号a11で示す。また、レール支持材71も取着されている。中途に位置する組立て枠4Bの平行外側枠41Aのレール支持材71と、妻側に位置する組立て枠4Aの外側枠41のレール支持材71とは、トンネル1の長手方向に直列されている(図1参照)。
【0061】
また、組立て枠4Bにも、アイナット411bが、図3,17〜19に示すように湿潤養生装置2の巾方向における外側に向けて取り付けられている。図3は図1の拡大横断面図であり、図3の領域XVIIに関する図面が図17〜19である。
【0062】
湿潤養生装置1の両側縁には、前記ターンバックル412を介して、組立て枠4Bのアイナット411b及び組立て枠4Aのアイナット411aにワイヤ414が張られている(図面では一側縁に張られたワイヤ414のみ示す。)。当該ワイヤ414には、ミストの漏れ防止用の密閉部材の一つである発砲スチロール材300が通される。
【0063】
次に湿潤養生装置1の先端面21について述べる。
湿潤養生装置1の先端面21は、組立て枠4のうち、最先端に位置する組立て枠4Aにシート31を被覆した部位である。
【0064】
湿潤養生装置1の後端面22は、先端面21と基本的に同様の構成であるが、噴霧装置5と送風機8を有しない。
【0065】
湿潤養生装置1の底面23は、既述のように多数の組立て枠4の下縁にシート31を貼り付けた部位である。
【0066】
湿潤養生装置1の外周面24は、シート31が張られておらず、トンネル内壁面11と直接向き合っている部位である。
【0067】
次にローラ装置6について述べる。
ローラ装置6は、トンネル1の天井面11aに垂下され、トンネル1の長手方向に所定の間隔で多数直列されている。また、ローラ装置6は、図6に示すように、4つ一組のローラ61を有している。そして、既述したようにH形鋼を利用したレール体7のフランジ部分7aを前記複数のローラ装置6のローラ61に載置し、その状態でレール体7を移動すると、ローラ61が回転するため、レール体7はローラ装置6が直列されているトンネル1の長手方向に移動する。レール体7は、16基全ての組立て枠4を介して、湿潤養生装置1に固定されているため、湿潤養生装置1が移動すると、レール体7がローラ61の回転によって滑走し、滑らかに湿潤養生装置1を動かすようになる(図1及び、図6の白抜き矢印参照)。
【0068】
次に送風機8について記述する。
送風機8は、図9,10に示すように送風機本体81と、送風機本体81を前記H形鋼に垂下する取付腕82とからなり、ミストを湿潤養生装置1の内部空間Sの隅々にまで行き渡らせるためのものである。そして送風機8は、湿潤養生装置1内のレール体7に等間隔を空けて設置されている。なお、送風機8は、湿潤養生装置1の外部に設置してもよい。
【0069】
噴霧装置5は、図11に示すように、前記噴霧管51と、噴霧管51に水を高圧で送り込むダストセーバ52とを有する。
【0070】
このような構成の湿潤養生装置1の作用効果について次に述べる。
湿潤養生装置1によれば、トンネル1の内壁面11とシート部3とによって形成された内部空間Sは、多数の組立て枠4によってその形体が保持される。当該保持された内部空間S内に噴霧装置5によって噴霧されてできたミストは、やがて内部空間S内に充満される。充満されたミストによって、トンネル1のコンクリート表面は湿潤する。
【0071】
また、ミストが充満する範囲は、トンネル内壁面11とシート部3とによって形成された空間部であって、ミストは内部空間S以上には拡がらない。したがって、トンネル内全体にミストが充満しない。換言すればトンネル1において湿潤養生をしている本装置2の内部空間Sだけがミストによって充満されているが、内部空間Sの外は、シート31で仕切られたミストの無い状態の別の空間部としての前記作業領域Aとなる。
【0072】
換言すると、前記内部空間Sは、トンネル横断面の少なくとも上半部の形状に沿ってかつトンネル1の長手方向における所定の範囲に亘って形成され、トンネル1内における本装置2の占有領域の下方には十分な作業領域Aが形成されることになる。
【0073】
したがって、トンネル1内における本装置2の設置箇所よりも下方は、視界が良好な作業領域が確保できる。よってトンネル1内において湿潤養生をしている間でもトンネル1内における別の作業を実施できる。
【0074】
また、湿潤状態にあるのは、内部空間Sの中だけであるから、トンネル1内における内部空間Sの外である作業領域Aは、内部空間Sの内に比して湿気が少ない。よって作業領域Aが路盤泥濘化する虞はない。
【0075】
トンネル1内にレールを敷設するよりも、レールに比べ遙かに小型計量のローラ装置6を多数所定の間隔でトンネル1の天井面11aに設置する方が、工事は簡単である。したがって、工期短縮でコスト削減が可能である。
【0076】
組立て枠4のうち少なくとも妻側に位置する組立て枠4Aに噴霧装置5及び送風機8が
設けられているので、湿潤養生装置1の内部空間S内の端から端までミストが行き渡る。送風機8はレール7の長手方向に所定間隔ごとに設けてもよい。その場合、内部空間S内に十分ミストが行き渡るようになる。
【0077】
また、内部空間Sを形成するシート部3の側部3aには、トンネル内壁面11にトンネル1の長手方向において当接するように延びる密閉部材を有するので、内部空間Sからミストが漏れにくくなる。したがって、トンネル1の十分な湿潤養生ができる。この結果、覆工コンクリート、延いてはトンネルの品質が向上する。
【0078】
密閉部材としての発砲スチロール材300以外に、密閉部材としてシート部3がトンネル内壁面11に対して当接するようにシート部3の側縁部を利用してある。
【0079】
シート部3の側縁部3aは、トンネル横断面における軸線のうち水平面に含まれる軸線Chがトンネル内壁面11と接する接点位置Cnよりも下方の位置でこれを垂下しただけのものであるから、密閉部材の設置が簡単にできる。また発砲スチロール材300は軽量であり、さらにシート部3は既存のものであるから、本装置1の重量が大幅に嵩むことはない。
【0080】
さらに、発砲スチロール材300をシート部3の側縁部よりも内側に配置することで、内部空間Sは一層密閉された状態になり、密閉効果を高めることができる。
【0081】
これら密閉部材によりミストが内部空間Sの外へ漏れることを一層抑制できるので、ミストに起因したトンネル1内の視界の悪化を誘発したり、路盤が泥濘化したりすることを抑制できる。
【0082】
なお、本発明は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種種変更を加え得ることは勿論である。例えば組立て枠は、湿潤養生の実行中に前記空間部を維持するに必要最低限な強度を有する材料でできていれば足り、空間部を維持できるのであれば、竹材その他の軽量材から作ることも可能である。したがて、装置の重量が嵩むことがない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る覆工コンクリートの湿潤養生装置の全体斜視図であって、シートを省略して示す図である。
【図2】図1の拡大端面図である。
【図3】図1の拡大横断面図である。
【図4】図1の矢印IV方向から見た図である。
【図5】図4から下面シートを取り外した状態を示す図である。
【図6】図2の領域VI部分の拡大斜視図である。
【図7】図6の矢印VII方向から見た図である。
【図8】図6の矢印VIII方向から見た図である。
【図9】送風機の正面図である。
【図10】図9の矢印X方向から見た図である。
【図11】ノズル部分の拡大斜視図である。
【図12】図2の領域XII部分の要部拡大図である。
【図13】図12の拡大平面図である。
【図14】図12の拡大右側面図であって、トンネル壁面を省略して示す図である。
【図15】図1における領域XV部分の拡大斜視図であって領域XV部分を後方から見た図である。
【図16】図15の拡大横断面図である。
【図17】図3における流域XVII部分の拡大図である。
【図18】図17の平面図である。
【図19】図18の右側面図であって、トンネル壁面を省略して示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 トンネル
11 トンネル内壁面
11a 天井面
2 湿潤養生装置
21 湿潤養生装置の先端面
22 湿潤養生装置の後端面
23 湿潤養生装置の底面
24 湿潤養生装置の外周面
3 シート部
3a シート部の側縁部(密閉部材)
31 シート
4 組立て枠
4A 妻側に位置する組立て枠
4B 中途に位置する組立て枠
41 外側枠
411a アイナット
411b アイナット
412 ターンバックル
413 組付片
414 ワイヤ
415 係止具
41A 平行外側枠
42 中枠
423 組付片
43 内側枠
44 支持枠
44A 支持枠
441 ターンバックル
5 噴霧装置
51 噴霧管
52 ダストセーバ
511 ノズル
6 ローラ装置
61 ローラ
7 レール体
7a レール体のフランジ部分
71 レール支持材
711u 上部ナックル継ぎ手
711d 下部ナックル継ぎ手
712 ターンバックル
712u 上部ボルト
712d 下部ボルト
8 送風機
81 送風機本体
82 取付腕
9 送風管
300 発砲スチロール材(密閉部材)
A 作業領域,ミストの無い状態の別の空間部
C1 中心線
Ch 軸線
Cn 接点位置
S 密閉状の空間部
a1 領域
a11 送風管通し領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内壁面をコンクリートで被覆するトンネル覆工工事で使用する型枠とトンネル内壁面との間にコンクリートを打設し、当該打設後、コンクリートが硬化するまでの所定時間、当該コンクリートを前記型枠内部で保護するとともに、硬化後、コンクリート表面にひび割れが生じないようにコンクリート表面を湿潤状態にして乾燥収縮によるひび割れを防止する覆工コンクリートの湿潤養生装置であって、
前記型枠の後方に設置され、前記コンクリートの硬化後に前記型枠を外す脱枠がされた覆工後のトンネル内壁面との間に空間部を形成するシート部と、
このシート部の骨組みとなる組立て枠と、
前記空間部に噴霧液を噴霧する噴霧装置と、
を有することを特徴とする覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項2】
前記空間部は、トンネル横断面の少なくとも上半部の形状に沿った如き形状でかつトンネルの長手方向における所定の範囲に亘って形成され、トンネル内における本装置の占有領域の下方には十分な作業領域が確保されていることを特徴とする請求項1に記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項3】
前記トンネルの天井面に設置され、ローラを有しかつトンネルの長手方向に所定の間隔で配置される複数のローラ装置と、
前記組立て枠に設けられ、前記複数のローラ装置のローラに支持された状態でローラが回転することによりローラ装置間を移動可能なレール体と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項4】
前記組立て枠のうち少なくとも前記空間部の先端部に位置する箇所にある組立て枠に又はその近傍に前記噴霧装置及び前記送風機が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項5】
前記送風機はトンネルの長手方向に所定間隔ごとに設けられていることを特徴とする請求項4に記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項6】
前記空間部を形成するシート部の側部には、前記トンネルの内壁面にトンネルの長手方向において当接するように延びる密閉部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項7】
前記密閉部材は、柱状に形成された発砲スチロール材、又は/及びシート部が前記トンネルの内壁面に対して当接するように前記空間部形成用のシート部の側縁部を利用したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項8】
前記密閉部材にシート部材の側縁部を利用する場合において、シート部材の側縁部を、トンネル横断面における軸線のうち水平面に含まれる軸線がトンネル内壁面と接する接点位置よりも下方の位置で垂下するようにしたことを特徴とする請求項7に記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項9】
前記密閉部材に前記発砲スチロール材及び前記シート部の側縁部を適用した場合において、前記発砲スチロール材を前記シート部の側縁部よりも内側に配置することを特徴とする請求項8に記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。
【請求項10】
前記組立て枠は、湿潤養生の実行中に前記空間部を維持するに必要最低限な強度を有す
る材料からなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の覆工コンクリートの湿潤養生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−202274(P2008−202274A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37874(P2007−37874)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(503240677)株式会社九州設備工業 (1)
【Fターム(参考)】