視覚再生補助装置
【課題】 離れた位置のユニット間を繋ぐ導線が浸潤されても、生体への影響を抑制できる装置を提供する。
【解決手段】 視覚神経系を構成する細胞等を刺激する電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、信号を受信する受信手段を有し,受信信号に基づき電極から電気刺激パルス信号を出力させて、前記細胞等を刺激する体内装置を備える視覚再生補助装置で、体内装置は受信信号から電気刺激パルス用データと電力を抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、導線によって第1制御ユニットと接続,第1制御ユニットから送られる交流信号から電気刺激パルス用データと電力を得て,電気刺激パルス用データに基づき電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットを有することを特徴とする
【解決手段】 視覚神経系を構成する細胞等を刺激する電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、信号を受信する受信手段を有し,受信信号に基づき電極から電気刺激パルス信号を出力させて、前記細胞等を刺激する体内装置を備える視覚再生補助装置で、体内装置は受信信号から電気刺激パルス用データと電力を抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、導線によって第1制御ユニットと接続,第1制御ユニットから送られる交流信号から電気刺激パルス用データと電力を得て,電気刺激パルス用データに基づき電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットを有することを特徴とする
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療技術の一つとして、複数の電極が形成された基板を有する体内装置を体内に埋植し、網膜を構成する細胞を電気刺激して視覚の再生を試みる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、例えば、体外装置を用いて撮像された映像を所定の信号に変換して体内に設置された体内装置に送信し、電極から刺激パルス信号を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みる装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−280412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような装置では、体外装置から送られてくる電気刺激パルス信号用のデータを用いて多数の電極から電気刺激パルス信号を各々出力させて網膜を構成する細胞を電気刺激するため、体外装置からの情報(信号)を受信し処理を行うとともに、各電極に電気刺激パルス信号を分配する機能が必要となる。このため、特許文献1のような装置においては、患者眼に直接設置する部分をできるだけ小型化させるために、複数の制御部に各々機能を分担させるようにし、電極に直接繋がる制御部と他の制御部とを絶縁性を有する樹脂にて被覆された導線(ワイヤー)にて接続するようにしている。
しかしながら、このような装置は長期間体内に設置されるものであり、上述したような導線が生体の体液等により浸潤されてしまう場合もある。
上記従来技術の問題点に鑑み、体内の離れた位置に置かれた各ユニット同士を電気的に接続する導線が浸潤されても、生体への影響を抑制することのできる視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、該送信手段から送信される前記信号を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記信号に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力させて患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を刺激する体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、前記体内装置は、前記受信手段にて受信された信号から前記電気刺激パルス用データと電力とを抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜された導線によって前記第1制御ユニットと電気的に接続される第2制御ユニットであって,前記第1制御ユニットから送られる前記交流信号から前記電気刺激パルス用データを抽出すると共に,前記交流信号から電力を得て,前記電気刺激パルス用データに基づいて前記複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、を有することを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、マルチプレクサ機能を有し,前記電気刺激パルス用データに基づいて,前記複数の電極に前記電気刺激パルス信号を分配することを特徴とする。
(3) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、ハーメチックシールされることを特徴とする。
(4) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、モノリシック構造にて一体的に形成されることを特徴とする。
(5) (1)の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線の暴露箇所で体液等の電気分解が起こらない程度の単位面積当りの電荷量となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする。
(6) (1)の視覚再生補助装置において、前記導線は、白金又は白金の合金で作製され、該導線を通る前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線から放出される単位面積辺りの電荷量が400μC/cm2以下となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする。
(7) (4)の視覚再生補助装置において、前記交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製された前記整流手段が、前記電力を直流化可能な程度の周波数であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、体内の離れた位置に置かれた各ユニット同士を電気的に接続する導線が浸潤されても、生体への影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。
【0007】
1は視覚再生補助装置であり、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
【0008】
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するデータ変調手段13a、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。データ変調手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに得られた画像処理後のデータを、視覚を再生するための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、データ変調手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ、及び後述する体内装置20を駆動させるための電力を所定の信号、本実施形態では、電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。この電磁波には、電気刺激パルス用データと電力が重畳されている。この電磁波は、16MHz程度の周波数域とされ、周波数変調にて体外、体内の送受信が行われる。また、送信手段14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段31との位置固定に使用される。
【0009】
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。
【0010】
次に、体内装置20の構成を説明する。図2(a)は、体内装置20の外観を示し、図2(b)は刺激部40の断面を示した図である。体内装置20は、大別して体外装置10から送信される電気刺激パルス信号用データや電力を電磁波にて受け取る受信部30と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部40により構成される。受信部30には、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなる受信手段31や、制御部32が設けられている。制御部32は、受信手段31にて受信された電気刺激パルス用データと電力とを分けるとともに、電気刺激パルス用データを基に、視覚を得るための電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号と対応する電極を指定する電極指定信号等を含む、他ユニット(ブロック)用の制御信号とに変換し、刺激部40へ送信するための役割を有している(詳細は後述する)。
【0011】
これら受信手段31や制御部32は、基板43上に形成されている。なお、受信部30には送信手段14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。34は、電極41のそれぞれの対向電極である。
【0012】
また、刺激部40には、電気刺激パルス信号を出力する複数の電極41、刺激制御部42が設けられている。各電極41は刺激制御部42に接続されている。この接続形態は後で説明する。刺激制御部42は、制御部32から送られてきた制御信号(電極指定信号を含む)に基づいて、対応する電気刺激パルス信号を電極41の各々へ振り分ける役目を果たす(詳細は後述する)。電極41には生体適合性が高い貴金属、例えば金や白金、窒化チタン、酸化イリジウム等が用いられる。電極41は基板43上に複数個形成され、刺激制御部42は後述する蓋部材45と設置台46によりハーメチックシール(密封)され、設置台46を介して基板43に実装されている。本実施形態で用いられる基板43は、眼内、特に、層状の眼組織内に設置されるため、眼球の形状に沿うことが好ましく、層間(層内)に長期埋植されても患者の負担が少ないことが好ましい。このため、基板43は、ポリプロピレンやポリイミド等、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて湾曲可能な材料を長板状に加工したものをベース部としている。基板43の厚みは強度を有しつつ薄い、例えば、50μm程度とする。この基板43上にリード線43aが配置され、電極41と刺激制御部42が電気的に接続されている。
【0013】
電極41から出力される電気刺激パルス信号は、一つの刺激が、プラス方向及びマイナス方向の矩形波を組み合せた二相性(双極性)のパルスであり、交流信号である。これらのパルスの強度や持続時間等を変更して、各電極41から出力されることで、網膜を構成する細胞へ様々な刺激が与えられる。
【0014】
刺激制御部42は、半導体基板上に集積回路を機能させるパターン配線が形成された面を設置台46側にして設置台46に接合されている。設置台46は、セラミックス等の絶縁性や、ガスや水分に対する気密性を有すると共に、生体適合性を有する素材にて平板状に形成されている。また、設置台46には、刺激制御部42が持つパターン配線の端子部分と電気的に接続するための配線が、設置台46を貫通するように形成されている。
【0015】
蓋部材45は、生体適合性、気密性の高い素材、例えば、セラミックスや金属(例えば、チタン、白金、金)を薄肉で、その断面形状が刺激制御部42が収まる内部空間を有したハット状に製作されている。このような蓋部材45と設置台46の接合は、設置台46の接合箇所に、メタライズ処理により金属層を形成して、蓋部材45、設置台46の金属同士を接合する。このようにして、刺激制御部42は密封される。
【0016】
また、体内において離れた位置に置かれる受信部30と刺激部40とは複数のワイヤー(導線)50によって電気的に接続されている。ワイヤー50は生体適合性の良い貴金属、例えば、白金、白金イリジウム、ステンレス、チタン等を用いている。また、複数のワイヤー50は、取り扱いが容易となるように、生体適合性がよい絶縁性の樹脂、例えば、シリコーン、パリレン等で形成されたチューブによって一つに束ねられケーブル51となる。なお、各ワイヤー50自体もまた上述したパリレン等の生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜が施されている。このワイヤー50を伝わる信号(電力を含む)は、すべて交流となっており、例えば、ワイヤー50が生体の体液等に浸潤されても、浸潤箇所での体液等の電気分解で生体に悪影響が出ないようにされている。この交流信号の詳細は後述する。
【0017】
なお、図示は略すが、受信部30は、ケーブル51、対向電極34を外に出して、気密性の高い容器に収められ、その容器の蓋を密閉される。さらに、容器の上から生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂等でコーティングされる。これにより、受信部30はハーメチックシールされる。
【0018】
次に、体内装置20の受信部30及び刺激部40の構成及び各構成要素の連携を示し、ワイヤー50上の信号を交流とする手法を説明する。図3は、受信部30の内部構成を模式的に示したブロック図であり、図4は、刺激部40の内部構成を模式的に示したブロック図である。図中に示されるブロックは、それぞれが半導体集積回路にて作製された機能ユニットとし、各半導体素子(例えば、MOSFET等のトランジスタ,ダイオード、抵抗、コンデンサ)の組合せにより機能を果たす。各ブロックの詳細な回路構成等は、説明の簡便のため略す。
【0019】
図3に示すように、送信手段14と受信手段31がコイルリンクの形態をとり、電気刺激パルス用データや電力を含む電磁波が受信手段31に受信される。受信された電磁波は、受信手段31と接続される受信ブロック61に交流信号として送られ、受信ブロック61にて電気刺激パルス用データの信号と、電力用の信号に分離される。このとき、受信ブロック61は、電磁波から分離した電力の一部を整流し、受信ブロック61自身の駆動電力として利用する。
【0020】
分離された電力は、受信ブロック61に接続される電源ブロック62へと送られる。電源ブロック62は、交流信号として送られてきた電力を整流器(整流手段)62aで直流化し、接続される各ブロック(デコーダ63、エンコーダ64、給電ブロック65、刺激回路ブロック66)に直流電圧の電力を供給する。また、分離された電気刺激パルス信号用データは、受信ブロック61に接続されるデコーダ63へと送られ、電気刺激パルス信号用データから刺激制御部42用の制御信号や、各電極41から出力される電気刺激パルス信号の強度、持続時間を指定する電気刺激パルス用パラメータ信号等が抽出される。このとき、それぞれの信号は、一相性(単相性)の矩形状の信号(信号列)として抽出(デコード)される。
【0021】
デコーダ63で抽出された刺激制御部42用の制御信号はデコーダ63と接続されるエンコーダ64へと送られ、電気刺激パルス用パラメータ信号はデコータ63と接続される刺激回路ブロック66へと送られる。刺激制御部42用の制御信号は、エンコーダ64で交流搬送波信号(交流信号)に、周波数変調によって重畳される。本実施形態では、ワイヤー50が生体の体液等に浸潤されても浸潤箇所での体液の電気分解等が起こらないよう、浸潤箇所の単位面積当りの電荷量(電荷密度)が生体への影響が少ないとされる電荷量となるように、交流信号(交流搬送波信号)の半波あたりの上限の電荷量を定め、これに基づいて交流信号の周波数を決定している。このような交流信号の周波数は、波形や振幅、ワイヤー50の材料にもよるが、振幅は電極41から出力される電気刺激パルス信号が数V〜十数Vであることを考えると、交流信号が正弦波状の場合、好ましくは、20kHz程度以上、さらに好ましくは200kHz程度以上とする。交流信号が矩形波の場合、好ましくは、40kHz程度以上、さらに好ましくは、300kHz程度以上である。交流信号の周波数の上限は、体内装置20から発生するノイズが許容範囲内となる程度とし、2MHz程度を上限の周波数とする。の周波数とする。なお、本実施形態では、周波数変調で形成した交流信号の周波数を1MHzとし、変調幅を100kHzとしている。
【0022】
刺激回路ブロック66は、デコーダ63から受け取った電気刺激パルス用パラメータ信号に基づき、電源ブロック62から得ている直流電圧(又は電流)を各電極41から出力させる所定の強度(電流)、所定の持続時間を持つ二相性の電気刺激パルス信号に変換する。詳細は後述するが、これらの電気刺激パルス信号は、先の刺激制御部42用の制御信号に含まれる電極指定信号の指定を受けた電極41から出力される。このような電気刺激パルス信号は、電極41で出力される二相性パルスの半波における電極41の単位面積当りの電荷量が、電極41において体液の電気分解が起こらない程度の値になるよう形成されている。この値(閾値)は、好ましくは、400μC/cm2、さらに好ましくは、50μC/cm2とされ、この値を下回るように単位面積当りの電荷量が設定される。
【0023】
エンコーダ64により交流搬送波信号(交流信号)に重畳された刺激制御部42用の制御信号は、エンコーダ64と接続される給電ブロック65へと送られる。給電ブロック64は、電源ブロック62から供給される直流電圧を電源として、刺激制御部42用の制御信号が重畳された交流搬送波信号を増幅し、刺激部40へと送る交流電源信号を生成する。このように、デコーダ63、エンコーダ64、給電ブロック65、刺激回路ブロック66により、交流信号化手段が実現される。
【0024】
給電ブロック65及び刺激回路ブロック66からは、それぞれ2本のワイヤー50が出ており、給電ブロック65から出るワイヤー50をワイヤー50a、bとし、刺激回路ブロック66から出るワイヤー50をワイヤー50c、dとする。これら、ワイヤー50は、2本で対となり、交流信号の伝送において、正負の信号を伝送するものとなる。各ワイヤー50の途中には、それぞれカップリングコンデンサ52が接続される。カップリングコンデンサ52は、ワイヤー50を伝送する直流信号をカットし、交流信号のみを通過させるフィルタの役割を持っている。なお、以上の説明では、簡便のため、各ブロックから出るワイヤー50を2本ずつとしているが、2本ずつのワイヤー50が複数対あってもよい。
【0025】
次に、刺激部40の構成を説明をする。図3のワイヤー50のうち、ワイヤー50a、b、cは、刺激制御部42へと接続され、ワイヤー50dは、対向電極34へと接続される。ワイヤー50a、bは、刺激制御部42の電源ブロック81及びデコーダ82に並列に接続される。電源ブロック81は、給電ブロック65から送られる交流信号を受け取り、交流信号を整流器(整流手段)81aにて直流化した後、デコーダ82やマルチプレクサ83の駆動電力となる直流電圧を抽出する。デコーダ82は、受け取った交流信号からマルチプレクサ82の制御信号(電極指定信号等)を抽出し、マルチプレクサ83へと送る。
【0026】
マルチプレクサ83は、デコーダ82と接続されると共に、刺激回路ブロック66とワイヤー50cを介して接続され、さらに、リード線43aを介して各電極41とそれぞれ接続される。マルチプレクサ83は、デコーダ82からの電極指定信号を含む制御信号に基づき、刺激回路ブロック66からの電気刺激パルス信号を各電極41へと分配するマルチプレクサ機能を有している。
【0027】
以上のように、体内装置20において、ハーメチックシールされた部分(受信部30、制御部40及び刺激制御部42)以外のワイヤー50を伝送される電力及び刺激制御部42の制御信号は、1MHz程度の交流信号とされる。
【0028】
次に、本実施形態で、ケーブル51(ワイヤー50)が体液に浸潤されても、浸潤箇所で電気分解が発生しない、又は、電気分解が生体に悪影響を及ぼさないとされる交流信号の半波における電荷量(又は、単位面積辺りの電荷量)の閾値の算出方法について説明する。図5は、Pt電極の特性と交流信号の周波数の閾値を示す表である。
【0029】
ここでは、先に述べた制御信号や電力等を含むワイヤー50上を伝送される交流信号の半波当りにおいて、ワイヤー50が体液に接触している箇所から生体へ注入される電荷量を算出する。ワイヤー50が体液に接触している箇所の面積をSとする。ワイヤー50の体液との接触箇所(暴露箇所)で、電気分解が起こらない条件は、交流信号の半波(正又は負の極性にある信号、交流信号1周期の半分)当りの電荷量が、生体に影響を及ぼすとされる単位面積辺りの電荷量(電荷密度)以下であることになる。この条件は、計算及び実験により求められる。
【0030】
実験として、ある表面積をもつワイヤー50と同じ材料の電極を、体液を模擬した生理食塩水に浸し、その表面積よりも十分大きな表面積を持つ同じ液中に浸した対向電極との間のインピーダンスを測定する。実験条件は以下にようにした。ワイヤー50として仮定する電極は、直径200μmの白金とし、このPt電極を生理食塩水に浸した。そして、このPt電極のインピーダンスZをRC直列回路でモデリングし、インピーダンスZの抵抗成分をR,容量成分をCとした。
【0031】
次に、Pt電極が体液に浸された場合の交流信号の半波当りの体液への注入電荷量は、以下のように計算される。給電ブロック65の出力電圧vは、その周波数をf、ピーク電圧をE、周期をT(1/f)とすると、時間をtとして、波形が正弦波の場合、v=E・sin(2πft)となる。波形が矩形波の場合、v=Eとなる。
【0032】
従って、半波(t=0〜T/2)当りの注入電荷量Qは、電流をiとすると、正弦波の場合は、式1のようになり、矩形波の場合は式2のようになる。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
以上の式1、式2から、ピーク電圧Eを固定値とした場合、周波数fが増加するに応じて、電荷量Qが減少する傾向にあることがわかる。
【0035】
一般的に電極が体液に接触した際に体液が電気分解されないとされる単位面積当りの電荷量の閾値は電極材料によって決まり、白金電極の場合では400μC/cm2とされている。さらに好ましくは、50μC/cm2とされている。このような単位面積辺りの電荷量に先ほどの実験で用いた電極の面積を掛けて電荷量に変換し、式1、式2に代入して、閾値となる周波数fを求めることができる。
【0036】
以上の計算より、例えばワイヤー材料として白金を用いた場合の周波数を計算してみると以下のようになる。
【0037】
実験により、200μmφの電極の表面積は、0.0314mm2(314×10-6(cm2))となる。この白金電極のインピーダンスを求めると、例えば、R=1.5kΩ、C=22nFであった。ワイヤーに印加されるピーク電圧E=15Vとすると、体液が電気分解されないとされる単位面積当りの電荷量が50μC/cm2となる周波数fは、印加電圧が正弦波の場合、式1よりf=200kHz、印加電圧が矩形波の場合、式2よりf=307kHzとなる。
【0038】
それぞれのPt電極の抵抗成分R,容量成分Cを、式1及び式2に代入して計算した結果が、図5に示される。12個のPt電極において、求めた周波数の最大値が、単位面積辺りの電荷量の閾値を50μC/cm2としとき、正弦波の場合が200kHz,矩形波の場合は307kHzとなった。このとき、周波数の平均値は、正弦波の場合は125kHz,矩形波の場合は192kHzとなった。同様に、単位面積当りの電荷量の閾値を400μC/cm2としとき、正弦波の場合が25kHz,矩形波の場合は38kHzとなった。このとき、平均値は、正弦波の場合は、16kHz,矩形波の場合は24kHzとなった。
【0039】
従って、上記閾値以上の周波数を先に挙げた交流信号の最低周波数(周波数変調した場合の最低周波数)とすれば、ワイヤー50が体液に接触しても、接触箇所での電気分解が発生しないと考えられる。このような周波数の閾値は、実験系、測定値によって、適宜定める。例えば、平均値を考慮し、周波数の閾値を定めてもよい。
【0040】
本実施形態では、求めた閾値に充分な安全率(例えば、2や3)を掛けた周波数、1MHz程度を交流信号の基準となる周波数とする。なお、本実施形態では、交流信号の周波数変調の変調幅を100kHzとしているため、少なくとも、900kHz以上の周波数にて交流信号が伝送される。
【0041】
ここで、生体に安全とされる単位面積当りの電荷量は、電荷が放出される電極と体液の部分で、体液等の電気分解が起こらないとされる値をいう。電極からの電荷が放出されることによる反応は2種類あり、細胞等の電気刺激となる可逆反応と、電気分解等の化学的な反応が伴う不可逆反応とがある。本実施形態で規定した単位面積当りの電荷量とは、電極表面で不可逆反応が起こらない場合の閾値となる。この閾値は一定でなく、電極として用いる素材毎に電極表面(体液と電極の界面)での反応性が異なるために、素材固有の閾値がある。本実施形態では、導線の素材に白金を用いた場合を想定し、白金での電荷量の閾値を基に、先に挙げた周波数の閾値を算出したが、導線の素材が変われば、電荷量の閾値が変わり、周波数の閾値も変わる。このような場合は、電荷量の閾値を素材に応じて設定し、周波数の閾値を算出すればよい。また、本実施形態では、導線を白金とした場合の電荷量の閾値を400μC/cm2としたが、導線が白金の合金、例えば、白金イリジウムであっても同様な傾向、類似性があると考えられる。
【0042】
また、上記検証ではワイヤーに印加されるピーク電圧(ピーク電圧)を固定値としているが、これに限るものではない。電気刺激パルス信号は、網膜を構成する細胞を刺激するために、数V〜十数Vの交流信号から形成されるため、交流信号がこの電圧を得られる範囲であれば、振幅及び周波数を変化させ、生体に接触しても安全だとされる交流信号の半波あたりの電荷量を定めることもできる。
【0043】
なお、以上説明した、制御部32及び刺激制御部42は、それぞれモノリシック構造で作製されることが好ましい。モノリシック構造で作製されることにより、体内に埋植される体内装置20が小さくできる。また、先に説明した交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製した刺激制御部42の動作に適した周波数であるため、1MHz程度としている。交流信号の周波数が低い場合、刺激制御部42で安定した電力を得るために、整流回路(整流器81a)に大きな容量のコンデンサが必要となり、刺激制御部42が大きくなってしまう。また、周波数が高い場合(例えば、2MHzを超える場合)は、ケーブル50がノイズ源になってしまう。これらの理由から、交流信号の周波数は、閾値として求めた周波数の2〜3倍程度が好ましい。
【0044】
図6は刺激部40を眼内に埋植した状態を示す概略図である。対向電極34は図示するように眼内中央の前眼部寄りの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極41と対向電極34(対向電極)との間に位置することとなる。よって、電極41からの電気刺激パルス信号電流が効率的に網膜を貫通することとなる。
【0045】
一方、受信手段31は、体外装置10に設けられた送信手段14からの信号(電気刺激パルス用データ及び電力)を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者の側頭部の皮膚の下に受信部30(図では受信手段31のみ示している)を埋め込むとともに、皮膚を介して受信部30と対向する位置に送信手段14を設置しておく。受信部30には、送信手段14と同様に磁石が取り付けられているため、埋植された受信部30上に送信手段14を位置させることにより、磁力によって送信手段14と受信部30とが引き合い、送信手段14が側頭部に保持されることとなる。
【0046】
なお、ワイヤー50を束ねたケーブル51は、側頭部に埋め込まれた受信部30から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたケーブル51は、図6に示すように強膜E3の外側を通り、基板43に設置された刺激制御部42に接続される。
【0047】
なお、本実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜E3側(脈絡膜側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。電極を配置する基板がフレキシブルであることが好ましい部位で患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、層間に電極及び基板を設置すればよい。体内装置を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置させるような構成とすることもできる。
【0048】
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、その動作を図7に示す制御系のブロック図を基に説明する。図1に示す撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、データ変調手段13aに送られる。データ変調手段13aは、撮影した被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換し、さらに電磁波として伝送するのに適した変調信号に変調し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。
【0049】
また同時に、データ変調手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した変調信号(電気刺激パルス用データ)の帯域と異なる帯域の電磁波として前記変調信号と合わせて体内装置20側に送信する。
【0050】
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる変調信号と電力とを受信手段31にて受け取り、制御部32に送る。制御部32では受けとった信号から、変調信号が使用する帯域の信号を抽出するとともに、この変調信号に基づいて電気刺激パルス用パラメータ信号と制御信号とを形成し、電極指定信号である制御信号を刺激制御部42に送信する。このとき、制御部32では図3の説明で示した各構成ブロックにより、交流信号が生成されており、ワイヤー50を介して刺激制御部42に送られる信号はすべて交流信号とされる(電気刺激パルス信号も含む)。
【0051】
刺激制御部42では受け取った交流信号に基づき前述した方法により、電力及び制御信号を抽出する。刺激制御部42は、制御信号に基づき、制御部32から供給される電気刺激パルス信号を各電極41に分配し、出力させる。各電極41から出力される電気刺激パルス信号によって網膜E1を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(擬似光覚)を得る。なお、制御部32は、受信手段31により体内装置20を駆動させるための電力を得る。
【0052】
なお、以上説明した本実施形態では、患者眼の強膜E3に基板43を設置し、強膜E3を介して網膜E1を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。体内装置の電力供給や制御信号の生成、刺激の制御等を担う複数の機能ユニットが導線を介して接続される形態で、患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気的に刺激する構成であればよい。例えば、電気刺激パルス信号を出力する電極を有する制御ユニットを眼内の視神経乳頭部や眼外の視神経部分に配置し、制御ユニットへの電力供給や指令信号を送る別の制御ユニットを患者の皮下等の離れた場所に配置し、これら2つのユニットを導線で接続して、視神経を電気刺激する構成としてもよい。また、電極を有する制御ユニットを視交叉や外側膝状体、大脳皮質等の視覚神経系の高次視覚処理を行う組織に配置し、それぞれの組織を構成する細胞を刺激する構成としてもよい。例えば、大脳皮質の後頭葉であれば、錐体細胞等を刺激する又は視覚野V1、V2等を刺激する等である。
【0053】
なお、以上説明した本実施形態では、電磁波をはじめとした交流信号の変調を周波数変調にて行ったが、これに限るものではない。振幅変調や位相シフト変調であってもよい。周波数変調の場合は、交流信号の振幅が一定であるため、体内装置20での整流の際に、ほぼ一定の電力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】視覚再生補助装置の外観を示した概略図である。
【図2】本実施形態における視覚再生補助装置の体内装置を示した概略図である。
【図3】受信部30の内部構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】刺激部40の内部構成を模式的に示したブロック図である。
【図5】Pt電極の特性と交流信号の周波数の閾値を示す表である。
【図6】体内装置を体内に設置した状態を示した図である。
【図7】本実施形態における視覚再生補助装置の制御系を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0055】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
30 受信部
31 受信手段
32 制御部
34 対向電極
40 刺激部
41 電極
42 刺激制御部
43 基板
50 ワイヤー
51 ケーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療技術の一つとして、複数の電極が形成された基板を有する体内装置を体内に埋植し、網膜を構成する細胞を電気刺激して視覚の再生を試みる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、例えば、体外装置を用いて撮像された映像を所定の信号に変換して体内に設置された体内装置に送信し、電極から刺激パルス信号を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みる装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−280412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような装置では、体外装置から送られてくる電気刺激パルス信号用のデータを用いて多数の電極から電気刺激パルス信号を各々出力させて網膜を構成する細胞を電気刺激するため、体外装置からの情報(信号)を受信し処理を行うとともに、各電極に電気刺激パルス信号を分配する機能が必要となる。このため、特許文献1のような装置においては、患者眼に直接設置する部分をできるだけ小型化させるために、複数の制御部に各々機能を分担させるようにし、電極に直接繋がる制御部と他の制御部とを絶縁性を有する樹脂にて被覆された導線(ワイヤー)にて接続するようにしている。
しかしながら、このような装置は長期間体内に設置されるものであり、上述したような導線が生体の体液等により浸潤されてしまう場合もある。
上記従来技術の問題点に鑑み、体内の離れた位置に置かれた各ユニット同士を電気的に接続する導線が浸潤されても、生体への影響を抑制することのできる視覚再生補助装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、該送信手段から送信される前記信号を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記信号に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力させて患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を刺激する体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、前記体内装置は、前記受信手段にて受信された信号から前記電気刺激パルス用データと電力とを抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜された導線によって前記第1制御ユニットと電気的に接続される第2制御ユニットであって,前記第1制御ユニットから送られる前記交流信号から前記電気刺激パルス用データを抽出すると共に,前記交流信号から電力を得て,前記電気刺激パルス用データに基づいて前記複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、を有することを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、マルチプレクサ機能を有し,前記電気刺激パルス用データに基づいて,前記複数の電極に前記電気刺激パルス信号を分配することを特徴とする。
(3) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、ハーメチックシールされることを特徴とする。
(4) (1)の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、モノリシック構造にて一体的に形成されることを特徴とする。
(5) (1)の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線の暴露箇所で体液等の電気分解が起こらない程度の単位面積当りの電荷量となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする。
(6) (1)の視覚再生補助装置において、前記導線は、白金又は白金の合金で作製され、該導線を通る前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線から放出される単位面積辺りの電荷量が400μC/cm2以下となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする。
(7) (4)の視覚再生補助装置において、前記交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製された前記整流手段が、前記電力を直流化可能な程度の周波数であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、体内の離れた位置に置かれた各ユニット同士を電気的に接続する導線が浸潤されても、生体への影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は視覚再生補助装置における体内装置を示す図である。
【0007】
1は視覚再生補助装置であり、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
【0008】
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するデータ変調手段13a、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。データ変調手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに得られた画像処理後のデータを、視覚を再生するための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、データ変調手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ、及び後述する体内装置20を駆動させるための電力を所定の信号、本実施形態では、電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。この電磁波には、電気刺激パルス用データと電力が重畳されている。この電磁波は、16MHz程度の周波数域とされ、周波数変調にて体外、体内の送受信が行われる。また、送信手段14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段31との位置固定に使用される。
【0009】
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。
【0010】
次に、体内装置20の構成を説明する。図2(a)は、体内装置20の外観を示し、図2(b)は刺激部40の断面を示した図である。体内装置20は、大別して体外装置10から送信される電気刺激パルス信号用データや電力を電磁波にて受け取る受信部30と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部40により構成される。受信部30には、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなる受信手段31や、制御部32が設けられている。制御部32は、受信手段31にて受信された電気刺激パルス用データと電力とを分けるとともに、電気刺激パルス用データを基に、視覚を得るための電気刺激パルス信号と、電気刺激パルス信号と対応する電極を指定する電極指定信号等を含む、他ユニット(ブロック)用の制御信号とに変換し、刺激部40へ送信するための役割を有している(詳細は後述する)。
【0011】
これら受信手段31や制御部32は、基板43上に形成されている。なお、受信部30には送信手段14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。34は、電極41のそれぞれの対向電極である。
【0012】
また、刺激部40には、電気刺激パルス信号を出力する複数の電極41、刺激制御部42が設けられている。各電極41は刺激制御部42に接続されている。この接続形態は後で説明する。刺激制御部42は、制御部32から送られてきた制御信号(電極指定信号を含む)に基づいて、対応する電気刺激パルス信号を電極41の各々へ振り分ける役目を果たす(詳細は後述する)。電極41には生体適合性が高い貴金属、例えば金や白金、窒化チタン、酸化イリジウム等が用いられる。電極41は基板43上に複数個形成され、刺激制御部42は後述する蓋部材45と設置台46によりハーメチックシール(密封)され、設置台46を介して基板43に実装されている。本実施形態で用いられる基板43は、眼内、特に、層状の眼組織内に設置されるため、眼球の形状に沿うことが好ましく、層間(層内)に長期埋植されても患者の負担が少ないことが好ましい。このため、基板43は、ポリプロピレンやポリイミド等、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて湾曲可能な材料を長板状に加工したものをベース部としている。基板43の厚みは強度を有しつつ薄い、例えば、50μm程度とする。この基板43上にリード線43aが配置され、電極41と刺激制御部42が電気的に接続されている。
【0013】
電極41から出力される電気刺激パルス信号は、一つの刺激が、プラス方向及びマイナス方向の矩形波を組み合せた二相性(双極性)のパルスであり、交流信号である。これらのパルスの強度や持続時間等を変更して、各電極41から出力されることで、網膜を構成する細胞へ様々な刺激が与えられる。
【0014】
刺激制御部42は、半導体基板上に集積回路を機能させるパターン配線が形成された面を設置台46側にして設置台46に接合されている。設置台46は、セラミックス等の絶縁性や、ガスや水分に対する気密性を有すると共に、生体適合性を有する素材にて平板状に形成されている。また、設置台46には、刺激制御部42が持つパターン配線の端子部分と電気的に接続するための配線が、設置台46を貫通するように形成されている。
【0015】
蓋部材45は、生体適合性、気密性の高い素材、例えば、セラミックスや金属(例えば、チタン、白金、金)を薄肉で、その断面形状が刺激制御部42が収まる内部空間を有したハット状に製作されている。このような蓋部材45と設置台46の接合は、設置台46の接合箇所に、メタライズ処理により金属層を形成して、蓋部材45、設置台46の金属同士を接合する。このようにして、刺激制御部42は密封される。
【0016】
また、体内において離れた位置に置かれる受信部30と刺激部40とは複数のワイヤー(導線)50によって電気的に接続されている。ワイヤー50は生体適合性の良い貴金属、例えば、白金、白金イリジウム、ステンレス、チタン等を用いている。また、複数のワイヤー50は、取り扱いが容易となるように、生体適合性がよい絶縁性の樹脂、例えば、シリコーン、パリレン等で形成されたチューブによって一つに束ねられケーブル51となる。なお、各ワイヤー50自体もまた上述したパリレン等の生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜が施されている。このワイヤー50を伝わる信号(電力を含む)は、すべて交流となっており、例えば、ワイヤー50が生体の体液等に浸潤されても、浸潤箇所での体液等の電気分解で生体に悪影響が出ないようにされている。この交流信号の詳細は後述する。
【0017】
なお、図示は略すが、受信部30は、ケーブル51、対向電極34を外に出して、気密性の高い容器に収められ、その容器の蓋を密閉される。さらに、容器の上から生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂等でコーティングされる。これにより、受信部30はハーメチックシールされる。
【0018】
次に、体内装置20の受信部30及び刺激部40の構成及び各構成要素の連携を示し、ワイヤー50上の信号を交流とする手法を説明する。図3は、受信部30の内部構成を模式的に示したブロック図であり、図4は、刺激部40の内部構成を模式的に示したブロック図である。図中に示されるブロックは、それぞれが半導体集積回路にて作製された機能ユニットとし、各半導体素子(例えば、MOSFET等のトランジスタ,ダイオード、抵抗、コンデンサ)の組合せにより機能を果たす。各ブロックの詳細な回路構成等は、説明の簡便のため略す。
【0019】
図3に示すように、送信手段14と受信手段31がコイルリンクの形態をとり、電気刺激パルス用データや電力を含む電磁波が受信手段31に受信される。受信された電磁波は、受信手段31と接続される受信ブロック61に交流信号として送られ、受信ブロック61にて電気刺激パルス用データの信号と、電力用の信号に分離される。このとき、受信ブロック61は、電磁波から分離した電力の一部を整流し、受信ブロック61自身の駆動電力として利用する。
【0020】
分離された電力は、受信ブロック61に接続される電源ブロック62へと送られる。電源ブロック62は、交流信号として送られてきた電力を整流器(整流手段)62aで直流化し、接続される各ブロック(デコーダ63、エンコーダ64、給電ブロック65、刺激回路ブロック66)に直流電圧の電力を供給する。また、分離された電気刺激パルス信号用データは、受信ブロック61に接続されるデコーダ63へと送られ、電気刺激パルス信号用データから刺激制御部42用の制御信号や、各電極41から出力される電気刺激パルス信号の強度、持続時間を指定する電気刺激パルス用パラメータ信号等が抽出される。このとき、それぞれの信号は、一相性(単相性)の矩形状の信号(信号列)として抽出(デコード)される。
【0021】
デコーダ63で抽出された刺激制御部42用の制御信号はデコーダ63と接続されるエンコーダ64へと送られ、電気刺激パルス用パラメータ信号はデコータ63と接続される刺激回路ブロック66へと送られる。刺激制御部42用の制御信号は、エンコーダ64で交流搬送波信号(交流信号)に、周波数変調によって重畳される。本実施形態では、ワイヤー50が生体の体液等に浸潤されても浸潤箇所での体液の電気分解等が起こらないよう、浸潤箇所の単位面積当りの電荷量(電荷密度)が生体への影響が少ないとされる電荷量となるように、交流信号(交流搬送波信号)の半波あたりの上限の電荷量を定め、これに基づいて交流信号の周波数を決定している。このような交流信号の周波数は、波形や振幅、ワイヤー50の材料にもよるが、振幅は電極41から出力される電気刺激パルス信号が数V〜十数Vであることを考えると、交流信号が正弦波状の場合、好ましくは、20kHz程度以上、さらに好ましくは200kHz程度以上とする。交流信号が矩形波の場合、好ましくは、40kHz程度以上、さらに好ましくは、300kHz程度以上である。交流信号の周波数の上限は、体内装置20から発生するノイズが許容範囲内となる程度とし、2MHz程度を上限の周波数とする。の周波数とする。なお、本実施形態では、周波数変調で形成した交流信号の周波数を1MHzとし、変調幅を100kHzとしている。
【0022】
刺激回路ブロック66は、デコーダ63から受け取った電気刺激パルス用パラメータ信号に基づき、電源ブロック62から得ている直流電圧(又は電流)を各電極41から出力させる所定の強度(電流)、所定の持続時間を持つ二相性の電気刺激パルス信号に変換する。詳細は後述するが、これらの電気刺激パルス信号は、先の刺激制御部42用の制御信号に含まれる電極指定信号の指定を受けた電極41から出力される。このような電気刺激パルス信号は、電極41で出力される二相性パルスの半波における電極41の単位面積当りの電荷量が、電極41において体液の電気分解が起こらない程度の値になるよう形成されている。この値(閾値)は、好ましくは、400μC/cm2、さらに好ましくは、50μC/cm2とされ、この値を下回るように単位面積当りの電荷量が設定される。
【0023】
エンコーダ64により交流搬送波信号(交流信号)に重畳された刺激制御部42用の制御信号は、エンコーダ64と接続される給電ブロック65へと送られる。給電ブロック64は、電源ブロック62から供給される直流電圧を電源として、刺激制御部42用の制御信号が重畳された交流搬送波信号を増幅し、刺激部40へと送る交流電源信号を生成する。このように、デコーダ63、エンコーダ64、給電ブロック65、刺激回路ブロック66により、交流信号化手段が実現される。
【0024】
給電ブロック65及び刺激回路ブロック66からは、それぞれ2本のワイヤー50が出ており、給電ブロック65から出るワイヤー50をワイヤー50a、bとし、刺激回路ブロック66から出るワイヤー50をワイヤー50c、dとする。これら、ワイヤー50は、2本で対となり、交流信号の伝送において、正負の信号を伝送するものとなる。各ワイヤー50の途中には、それぞれカップリングコンデンサ52が接続される。カップリングコンデンサ52は、ワイヤー50を伝送する直流信号をカットし、交流信号のみを通過させるフィルタの役割を持っている。なお、以上の説明では、簡便のため、各ブロックから出るワイヤー50を2本ずつとしているが、2本ずつのワイヤー50が複数対あってもよい。
【0025】
次に、刺激部40の構成を説明をする。図3のワイヤー50のうち、ワイヤー50a、b、cは、刺激制御部42へと接続され、ワイヤー50dは、対向電極34へと接続される。ワイヤー50a、bは、刺激制御部42の電源ブロック81及びデコーダ82に並列に接続される。電源ブロック81は、給電ブロック65から送られる交流信号を受け取り、交流信号を整流器(整流手段)81aにて直流化した後、デコーダ82やマルチプレクサ83の駆動電力となる直流電圧を抽出する。デコーダ82は、受け取った交流信号からマルチプレクサ82の制御信号(電極指定信号等)を抽出し、マルチプレクサ83へと送る。
【0026】
マルチプレクサ83は、デコーダ82と接続されると共に、刺激回路ブロック66とワイヤー50cを介して接続され、さらに、リード線43aを介して各電極41とそれぞれ接続される。マルチプレクサ83は、デコーダ82からの電極指定信号を含む制御信号に基づき、刺激回路ブロック66からの電気刺激パルス信号を各電極41へと分配するマルチプレクサ機能を有している。
【0027】
以上のように、体内装置20において、ハーメチックシールされた部分(受信部30、制御部40及び刺激制御部42)以外のワイヤー50を伝送される電力及び刺激制御部42の制御信号は、1MHz程度の交流信号とされる。
【0028】
次に、本実施形態で、ケーブル51(ワイヤー50)が体液に浸潤されても、浸潤箇所で電気分解が発生しない、又は、電気分解が生体に悪影響を及ぼさないとされる交流信号の半波における電荷量(又は、単位面積辺りの電荷量)の閾値の算出方法について説明する。図5は、Pt電極の特性と交流信号の周波数の閾値を示す表である。
【0029】
ここでは、先に述べた制御信号や電力等を含むワイヤー50上を伝送される交流信号の半波当りにおいて、ワイヤー50が体液に接触している箇所から生体へ注入される電荷量を算出する。ワイヤー50が体液に接触している箇所の面積をSとする。ワイヤー50の体液との接触箇所(暴露箇所)で、電気分解が起こらない条件は、交流信号の半波(正又は負の極性にある信号、交流信号1周期の半分)当りの電荷量が、生体に影響を及ぼすとされる単位面積辺りの電荷量(電荷密度)以下であることになる。この条件は、計算及び実験により求められる。
【0030】
実験として、ある表面積をもつワイヤー50と同じ材料の電極を、体液を模擬した生理食塩水に浸し、その表面積よりも十分大きな表面積を持つ同じ液中に浸した対向電極との間のインピーダンスを測定する。実験条件は以下にようにした。ワイヤー50として仮定する電極は、直径200μmの白金とし、このPt電極を生理食塩水に浸した。そして、このPt電極のインピーダンスZをRC直列回路でモデリングし、インピーダンスZの抵抗成分をR,容量成分をCとした。
【0031】
次に、Pt電極が体液に浸された場合の交流信号の半波当りの体液への注入電荷量は、以下のように計算される。給電ブロック65の出力電圧vは、その周波数をf、ピーク電圧をE、周期をT(1/f)とすると、時間をtとして、波形が正弦波の場合、v=E・sin(2πft)となる。波形が矩形波の場合、v=Eとなる。
【0032】
従って、半波(t=0〜T/2)当りの注入電荷量Qは、電流をiとすると、正弦波の場合は、式1のようになり、矩形波の場合は式2のようになる。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
以上の式1、式2から、ピーク電圧Eを固定値とした場合、周波数fが増加するに応じて、電荷量Qが減少する傾向にあることがわかる。
【0035】
一般的に電極が体液に接触した際に体液が電気分解されないとされる単位面積当りの電荷量の閾値は電極材料によって決まり、白金電極の場合では400μC/cm2とされている。さらに好ましくは、50μC/cm2とされている。このような単位面積辺りの電荷量に先ほどの実験で用いた電極の面積を掛けて電荷量に変換し、式1、式2に代入して、閾値となる周波数fを求めることができる。
【0036】
以上の計算より、例えばワイヤー材料として白金を用いた場合の周波数を計算してみると以下のようになる。
【0037】
実験により、200μmφの電極の表面積は、0.0314mm2(314×10-6(cm2))となる。この白金電極のインピーダンスを求めると、例えば、R=1.5kΩ、C=22nFであった。ワイヤーに印加されるピーク電圧E=15Vとすると、体液が電気分解されないとされる単位面積当りの電荷量が50μC/cm2となる周波数fは、印加電圧が正弦波の場合、式1よりf=200kHz、印加電圧が矩形波の場合、式2よりf=307kHzとなる。
【0038】
それぞれのPt電極の抵抗成分R,容量成分Cを、式1及び式2に代入して計算した結果が、図5に示される。12個のPt電極において、求めた周波数の最大値が、単位面積辺りの電荷量の閾値を50μC/cm2としとき、正弦波の場合が200kHz,矩形波の場合は307kHzとなった。このとき、周波数の平均値は、正弦波の場合は125kHz,矩形波の場合は192kHzとなった。同様に、単位面積当りの電荷量の閾値を400μC/cm2としとき、正弦波の場合が25kHz,矩形波の場合は38kHzとなった。このとき、平均値は、正弦波の場合は、16kHz,矩形波の場合は24kHzとなった。
【0039】
従って、上記閾値以上の周波数を先に挙げた交流信号の最低周波数(周波数変調した場合の最低周波数)とすれば、ワイヤー50が体液に接触しても、接触箇所での電気分解が発生しないと考えられる。このような周波数の閾値は、実験系、測定値によって、適宜定める。例えば、平均値を考慮し、周波数の閾値を定めてもよい。
【0040】
本実施形態では、求めた閾値に充分な安全率(例えば、2や3)を掛けた周波数、1MHz程度を交流信号の基準となる周波数とする。なお、本実施形態では、交流信号の周波数変調の変調幅を100kHzとしているため、少なくとも、900kHz以上の周波数にて交流信号が伝送される。
【0041】
ここで、生体に安全とされる単位面積当りの電荷量は、電荷が放出される電極と体液の部分で、体液等の電気分解が起こらないとされる値をいう。電極からの電荷が放出されることによる反応は2種類あり、細胞等の電気刺激となる可逆反応と、電気分解等の化学的な反応が伴う不可逆反応とがある。本実施形態で規定した単位面積当りの電荷量とは、電極表面で不可逆反応が起こらない場合の閾値となる。この閾値は一定でなく、電極として用いる素材毎に電極表面(体液と電極の界面)での反応性が異なるために、素材固有の閾値がある。本実施形態では、導線の素材に白金を用いた場合を想定し、白金での電荷量の閾値を基に、先に挙げた周波数の閾値を算出したが、導線の素材が変われば、電荷量の閾値が変わり、周波数の閾値も変わる。このような場合は、電荷量の閾値を素材に応じて設定し、周波数の閾値を算出すればよい。また、本実施形態では、導線を白金とした場合の電荷量の閾値を400μC/cm2としたが、導線が白金の合金、例えば、白金イリジウムであっても同様な傾向、類似性があると考えられる。
【0042】
また、上記検証ではワイヤーに印加されるピーク電圧(ピーク電圧)を固定値としているが、これに限るものではない。電気刺激パルス信号は、網膜を構成する細胞を刺激するために、数V〜十数Vの交流信号から形成されるため、交流信号がこの電圧を得られる範囲であれば、振幅及び周波数を変化させ、生体に接触しても安全だとされる交流信号の半波あたりの電荷量を定めることもできる。
【0043】
なお、以上説明した、制御部32及び刺激制御部42は、それぞれモノリシック構造で作製されることが好ましい。モノリシック構造で作製されることにより、体内に埋植される体内装置20が小さくできる。また、先に説明した交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製した刺激制御部42の動作に適した周波数であるため、1MHz程度としている。交流信号の周波数が低い場合、刺激制御部42で安定した電力を得るために、整流回路(整流器81a)に大きな容量のコンデンサが必要となり、刺激制御部42が大きくなってしまう。また、周波数が高い場合(例えば、2MHzを超える場合)は、ケーブル50がノイズ源になってしまう。これらの理由から、交流信号の周波数は、閾値として求めた周波数の2〜3倍程度が好ましい。
【0044】
図6は刺激部40を眼内に埋植した状態を示す概略図である。対向電極34は図示するように眼内中央の前眼部寄りの位置に置かれる。これによって、網膜E1は電極41と対向電極34(対向電極)との間に位置することとなる。よって、電極41からの電気刺激パルス信号電流が効率的に網膜を貫通することとなる。
【0045】
一方、受信手段31は、体外装置10に設けられた送信手段14からの信号(電気刺激パルス用データ及び電力)を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者の側頭部の皮膚の下に受信部30(図では受信手段31のみ示している)を埋め込むとともに、皮膚を介して受信部30と対向する位置に送信手段14を設置しておく。受信部30には、送信手段14と同様に磁石が取り付けられているため、埋植された受信部30上に送信手段14を位置させることにより、磁力によって送信手段14と受信部30とが引き合い、送信手段14が側頭部に保持されることとなる。
【0046】
なお、ワイヤー50を束ねたケーブル51は、側頭部に埋め込まれた受信部30から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたケーブル51は、図6に示すように強膜E3の外側を通り、基板43に設置された刺激制御部42に接続される。
【0047】
なお、本実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜E3側(脈絡膜側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。電極を配置する基板がフレキシブルであることが好ましい部位で患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、層間に電極及び基板を設置すればよい。体内装置を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置させるような構成とすることもできる。
【0048】
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、その動作を図7に示す制御系のブロック図を基に説明する。図1に示す撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、データ変調手段13aに送られる。データ変調手段13aは、撮影した被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換し、さらに電磁波として伝送するのに適した変調信号に変調し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。
【0049】
また同時に、データ変調手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した変調信号(電気刺激パルス用データ)の帯域と異なる帯域の電磁波として前記変調信号と合わせて体内装置20側に送信する。
【0050】
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる変調信号と電力とを受信手段31にて受け取り、制御部32に送る。制御部32では受けとった信号から、変調信号が使用する帯域の信号を抽出するとともに、この変調信号に基づいて電気刺激パルス用パラメータ信号と制御信号とを形成し、電極指定信号である制御信号を刺激制御部42に送信する。このとき、制御部32では図3の説明で示した各構成ブロックにより、交流信号が生成されており、ワイヤー50を介して刺激制御部42に送られる信号はすべて交流信号とされる(電気刺激パルス信号も含む)。
【0051】
刺激制御部42では受け取った交流信号に基づき前述した方法により、電力及び制御信号を抽出する。刺激制御部42は、制御信号に基づき、制御部32から供給される電気刺激パルス信号を各電極41に分配し、出力させる。各電極41から出力される電気刺激パルス信号によって網膜E1を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(擬似光覚)を得る。なお、制御部32は、受信手段31により体内装置20を駆動させるための電力を得る。
【0052】
なお、以上説明した本実施形態では、患者眼の強膜E3に基板43を設置し、強膜E3を介して網膜E1を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。体内装置の電力供給や制御信号の生成、刺激の制御等を担う複数の機能ユニットが導線を介して接続される形態で、患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気的に刺激する構成であればよい。例えば、電気刺激パルス信号を出力する電極を有する制御ユニットを眼内の視神経乳頭部や眼外の視神経部分に配置し、制御ユニットへの電力供給や指令信号を送る別の制御ユニットを患者の皮下等の離れた場所に配置し、これら2つのユニットを導線で接続して、視神経を電気刺激する構成としてもよい。また、電極を有する制御ユニットを視交叉や外側膝状体、大脳皮質等の視覚神経系の高次視覚処理を行う組織に配置し、それぞれの組織を構成する細胞を刺激する構成としてもよい。例えば、大脳皮質の後頭葉であれば、錐体細胞等を刺激する又は視覚野V1、V2等を刺激する等である。
【0053】
なお、以上説明した本実施形態では、電磁波をはじめとした交流信号の変調を周波数変調にて行ったが、これに限るものではない。振幅変調や位相シフト変調であってもよい。周波数変調の場合は、交流信号の振幅が一定であるため、体内装置20での整流の際に、ほぼ一定の電力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】視覚再生補助装置の外観を示した概略図である。
【図2】本実施形態における視覚再生補助装置の体内装置を示した概略図である。
【図3】受信部30の内部構成を模式的に示したブロック図である。
【図4】刺激部40の内部構成を模式的に示したブロック図である。
【図5】Pt電極の特性と交流信号の周波数の閾値を示す表である。
【図6】体内装置を体内に設置した状態を示した図である。
【図7】本実施形態における視覚再生補助装置の制御系を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0055】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
30 受信部
31 受信手段
32 制御部
34 対向電極
40 刺激部
41 電極
42 刺激制御部
43 基板
50 ワイヤー
51 ケーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、該送信手段から送信される前記信号を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記信号に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力させて患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を刺激する体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、
前記体内装置は、前記受信手段にて受信された信号から前記電気刺激パルス用データと電力とを抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜された導線によって前記第1制御ユニットと電気的に接続される第2制御ユニットであって,前記第1制御ユニットから送られる前記交流信号から前記電気刺激パルス用データを抽出すると共に,前記交流信号から電力を得て,前記電気刺激パルス用データに基づいて前記複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、を有することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、マルチプレクサ機能を有し,前記電気刺激パルス用データに基づいて,前記複数の電極に前記電気刺激パルス信号を分配することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、ハーメチックシールされることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項4】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、モノリシック構造にて一体的に形成されることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項5】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線の暴露箇所で体液等の電気分解が起こらない程度の単位面積当りの電荷量となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項6】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記導線は、白金又は白金の合金で作製され、該導線を通る前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線から放出される単位面積辺りの電荷量が400μC/cm2以下となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項7】
請求項4の視覚再生補助装置において、前記交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製された前記整流手段が、前記電力を直流化可能な程度の周波数であることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項1】
患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を電気刺激するための電気刺激パルス用データと電力とを所定の信号に変換して送信する送信手段を持つ体外装置と、該送信手段から送信される前記信号を受信する受信手段を有し,該受信手段によって受信された前記信号に基づいて複数の電極から電気刺激パルス信号を出力させて患者の視覚を形成する視覚神経系を構成する細胞又は組織を刺激する体内装置と、を備える視覚再生補助装置において、
前記体内装置は、前記受信手段にて受信された信号から前記電気刺激パルス用データと電力とを抽出して所定の交流信号に変換する第1制御ユニットと、該第1制御ユニットと離れた位置に置かれ、生体適合性がよく絶縁性を有する樹脂にて被膜された導線によって前記第1制御ユニットと電気的に接続される第2制御ユニットであって,前記第1制御ユニットから送られる前記交流信号から前記電気刺激パルス用データを抽出すると共に,前記交流信号から電力を得て,前記電気刺激パルス用データに基づいて前記複数の電極から電気刺激パルス信号を出力する第2制御ユニットと、を有することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、マルチプレクサ機能を有し,前記電気刺激パルス用データに基づいて,前記複数の電極に前記電気刺激パルス信号を分配することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、ハーメチックシールされることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項4】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第2制御ユニットは、モノリシック構造にて一体的に形成されることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項5】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線の暴露箇所で体液等の電気分解が起こらない程度の単位面積当りの電荷量となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項6】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記導線は、白金又は白金の合金で作製され、該導線を通る前記第1制御ユニットから送信される前記交流信号は、前記導線が生体に暴露された際に、前記導線から放出される単位面積辺りの電荷量が400μC/cm2以下となるように前記交流信号の半波あたりの電荷量が定められていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項7】
請求項4の視覚再生補助装置において、前記交流信号の周波数は、モノリシック構造で作製された前記整流手段が、前記電力を直流化可能な程度の周波数であることを特徴とする視覚再生補助装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2008−183248(P2008−183248A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20117(P2007−20117)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】
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