説明

視覚障害者誘導装置

【課題】 視覚障害者が確実に誘導装置を認識することができるようにする。
【解決手段】 歩道に沿って間隔をおいて一列に複数の支柱2が配置されている。これら支柱にそれぞれLED4が設けられ、歩道側に発光している。各支柱2に歩道側に放音するスピーカ6を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱視者や視野狭窄者のような視覚障害者が歩行する際に、視覚障害者を誘導する誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記のような誘導装置には、例えば特許文献1に開示されているようなものがある。特許文献1の誘導装置では、路面に筐体を埋め込んである。この筐体の上面に光透過部が設けられている。筐体内に光透過部を面発光させる第1の発光素子が設けられている。更に、光透過部から斜め上方に向けて指向性のある光を投射する第2の発光素子が筐体内に設けられている。
【0003】
この誘導装置では、光透過部が面発光することにより視覚障害者でも或る程度誘導装置に近づくと、この誘導装置の存在を認識することができ、しかも面発光している光透過部から指向性のある光が斜め上方に投射されているので、この指向性のある光をその強度を大きくしなくても視覚障害者が認識することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−144343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
面発光している光透過部を視覚障害者が認識するためには、或る程度誘導装置に近づかなければならない。例えば道路の点字ブロックに沿って、この誘導装置を設置した場合には、点字ブロックに沿って視覚障害者が歩行することによって、この誘導装置を認識することができる。しかし、点字ブロックが設けられていない場所に、この誘導装置を設置したとしても、視覚障害者が、この誘導装置に気付くことは殆ど無い。近年、高齢化社会の進展に伴い、視覚障害者の数は増加している。例えば最近に視覚障害者となった者は、点字ブロックに沿っての歩行に習熟しておらず、誘導装置を発見しにくい。
【0006】
また、音声によって視覚障害者を誘導することも考えられる。しかし、例えば車両の通行量の多い場所では、騒音が多かったり、車両の通行により音像の位置が撹乱されたりして、音の発生場所を良好に認識することができない。
【0007】
本発明は、視覚障害者が確実に認識することができる誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の視覚障害者誘導装置は、壁面または支柱に設けられた発光手段を有している。この発光手段は、概略人の丈範囲の高さ位置に設けられ、少なくとも水平方向に発光する。発光手段の近傍に放音手段が設けられている。放音手段は、前記発光方向と重なる所定の水平方向に放音する。
【0009】
視覚障害者が、放音手段からの音の聞こえる方向に顔を向けることによって、発光手段からの光を認識することができる。視覚障害者である弱視の人は、ある程度の視野はあるが、視野全体がぼやけて見えている。また視覚障害者である視野狭窄の人は、ごく限られた狭い範囲しか見えない。その結果、視覚障害者から離れた位置にある発光手段からの光を認識できないことが多い。この状態において、放音手段からの音が聞こえると、視覚障害者は、音が聞こえる方向を見る。その音の指向角方向と発光手段の発光方向とは共に水平方向で重なっているので、発光手段からの光を視覚障害者は容易に認識することができる。これによって離れた位置からも誘導装置を確実に認識することができる。
【0010】
本発明の他の態様の視覚障害者誘導装置では、壁面または支柱の、概略人の丈の範囲内の高さ位置に、放音手段が所定の水平指向角方向に放音するように設けられている。この放音手段の近傍に発光手段が設けられ、水平指向角方向と重なる発光方向に発光している。
【0011】
視覚障害者が放音手段からの音を聞いても、その音を聞いただけでは、その音がどこから放音されているかを確実に認識することは困難である。ところが、光と音とが同じ方向から重なっているものと認識することができれば、その音の発生位置を、光との相乗効果によって確実に認識できる。従って、音による誘導効果を向上させることができる。また、昼間のように明るい状態において発光を認識しにくい状態においても、音によって誘導装置を認識することが可能となる。
【0012】
本発明の別の態様に視覚障害者誘導装置では、通路に沿って間隔をおいて一列に複数の支柱、または通路に沿った壁面の概略人の丈の範囲内の高さ位置にほぼ水平方向に連なって複数の発光手段が配置されている。これら発光手段は通路側に発光する。通路としては、道路や屋内の廊下や階段がある。発光手段は、同じ高さ位置に設けることが望ましい。これら発光手段のうち少なくとも1つの近傍に放音手段が設けられ、この放音手段は、前記通路側に放音する。放音手段は、全ての発光手段に対応させて設けることもできるし、何個かおきの発光手段に対応させて設けることもできる。さらに、放音手段は、通路側と反対側に放音することもできる。放音される音は、特定の意味を表すメッセージのような有意のものであってもよいし、特定の意味を持たない無意の音とすることもできる。
【0013】
このように構成された視覚障害者誘導装置では、視覚障害者が各発光手段から離れた位置に存在し、発光手段からの光を全く認識できていない状態においても、音が聞こえると、その方向を向くので、放音手段が設けられている支柱にある発光手段からの光を認識することができる。その後、順に視野を移動させることによって各発光手段からの光をそれぞれ認識することができ、各発光手段からの光が一列に配列されていることを認識でき、その配列に沿って移動すればよいことが判明する。これによって、視覚障害者を安全に誘導することができる。
【0014】
放音手段は、前記複数の発光手段の近傍にそれぞれ設けることが望ましい。この場合、各放音手段からの放音は、前記各発光手段の連なりの一端側から他端側に向かって異なったものとする。例えば、音量を順に変化させたり、音の周波数を順に変化させたりすることができる。また、1つの放音手段が放音すると、その放音が停止され、隣接する放音手段が放音するというように、放音する放音手段を順に変化させることもできる。放音される音は、上述したように、有意のものとすることもできるし、無意のものとすることもできる。
【0015】
このように構成すると、視覚障害者が各発光手段の配置を認識した状態で、発光手段の連なりに沿って放音を順に一方の端から他方の端に向かって変化させることによって、視覚障害者に進行方向を知らせることができ、誘導がより速やかに行える。
【0016】
或いは、各発光手段の近傍にそれぞれ放音手段を設けた上で、各発光手段が、その連なりの一端側から他端側に向かって発光状態を変化させることもできる。例えば、発光する発光手段を順に1つずつ移動させることができる。この発光状態の変化に同期して、各放音手段も放音を変化させる。
【0017】
このように構成すると、視覚障害者が各発光手段の配置を認識した状態で、発光手段と放音手段とが同期して一方の端から他方の端に向かって変化することによって、視覚障害者に進行方向をより確実に知らせることができ、誘導がより速やかに行える。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、音と光との相乗効果によって、視覚障害者が確実に誘導装置を認識することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の1実施形態の視覚障害者誘導装置では、図1に示すように、通路、例えば道路、具体的には歩道の脇に沿って、複数の支柱2が、所定の間隔をおいて一列に配置されている。これら支柱2は、人の平均的身長よりも幾分高い同じ高さのものである。
【0020】
これら支柱2の歩道に面する側には、それぞれ発光手段、例えばLED4が設置されている。これらLED4は、全て平均的な身長の人の目の高さ位置に配置されている。これらLED4は、図1及び図2(a)に破線で示すように、平均的な身長の人の目の高さ位置からほぼ水平方向に発光すると共に、平均的な身長の人の目の高さ位置から歩道上の領域までを照明するように発光する。各LED4の発光範囲5は、図1に示すように歩道側で重なり合っている。従って、人の平均的な目の高さ位置から歩道までの範囲が、支柱2の配列に沿って全体的に照明されている。
【0021】
これらLED4の下方に、LED4と接近して放音手段、例えばスピーカ6が設置されている。これらスピーカ6は、どれも同じ高さ位置に設けられており、歩道側を向いて放音する。これらスピーカ6の放音が行われる放音範囲7は、図2(a)、(b)に示すように、対応するLED4の発光範囲5と、水平方向及び垂直方向いずれでも重なるように設定されている。放音範囲7のうち矢印7aで示すように水平方向に最も音量が大きくなるように、水平方向に大きな指向性を有しているスピーカ6が使用されている。また、隣接する2つの支柱2に設置されている2つのスピーカ6の放音範囲7は、一部で重なるように設定されている。但し、図1では、図が錯綜するので、その状態は記載せず、両端の支柱2のスピーカ6の放音範囲7のみを実線で示してある。発光範囲5及び放音範囲7が設定されているので、対応するLED4とスピーカ6との発光及び放音は共に道路側に向かって水平に行われ、平面視した状態で重なり合っている。
【0022】
これらスピーカ6には、図3に示すように、これらスピーカ6に対応するように設けた増幅器10からその出力信号が供給されている。各増幅器10には、音源12からの音声信号を、各増幅器10に対応して設けた音量調節器14によってレベル調整された音声信号が供給されている。音源12からの音声信号としては、有意のメッセージとすることもできるし、無意の単純音とすることもできる。
【0023】
これら音量調節器14の制御は、制御手段、例えば制御部16によって行われる。この制御部16は、LED4の点灯も制御する。この制御に使用するために、光センサ18からの光検出信号も供給されている。光センサ18は、各支柱2が設置されている歩道付近の光量を検出し、その光量を表す光検出信号を制御部16に供給する。
【0024】
例えば、図1に示す視覚障害者誘導装置において、スピーカ6が設置されていない場合、各LED4が発光していたとしても、例えば視野狭窄者が、支柱2からかなり離れた位置に立っていて前方を見ているとすると、図4(a)に符号Aで示すような、ごく狭い範囲しか見えず、視野狭窄者でも気がつきやすいように、各LED4が人の目の高さ位置付近で発光しているにも拘わらず、発光に気付かず、誘導装置が全く機能しない。
【0025】
同じ条件で、図1に示す視覚障害者誘導装置では、支柱2から、かなり離れた位置に視覚障害者が立って、矢印20で示すように前方を見ていると、図4(a)に符号Aで示したのと同様に、狭い範囲しか見えず、各LED4が発光していることには当初には気付かない。しかし、各スピーカ6から水平方向に大きな音量で音が聞こえるので、図1に矢印22で示すように音が聞こえる方向に首を向ける。このとき、スピーカ6の放音もLED4の発光も水平方向に行われているので、図4(b)に符号Bで示すように各LED4のいずれかの発光範囲5を見ることができる。これによって誘導装置の存在に気付く。LED4は、平均的な身長の人の目の高さ付近の位置にあり、それに近接してスピーカ6を設置しているので、音がよく聞こえる方向を見ることによって、必然的にLED4の発光範囲5に気付く。以後、誘導装置の存在に気付いたことにより、注意深く首を回すことによって、他のLED4の発光場所が判るので、そのLED4の光っている方向に沿って移動することによって視覚障害者は誘導される。
【0026】
これに加えて、視覚障害者を音によって率先して誘導する場合には、例えば図1の一方の端の支柱2から他方の端の支柱4の方向に誘導する場合には、画音量調整器14を制御部16によって個別に調整し、例えば一方の端の支柱2にあるスピーカ6から他方の端の支柱2にあるスピーカ6まで放音音量を順に増加させる。このように音量が大きくなる方向があると、自然に視覚障害者がその方向に沿って視野を移動させる可能性が非常に高い。従って、一列に並べられたLED4が発光していることに気付き、その光の列に沿って移動していけばよいことが判る。
【0027】
或いは、一方の端の支柱2のスピーカ6が一定時間放音した後に隣の支柱2のスピーカ6が一定時間放音し、更に次の支柱2のスピーカ6が一定時間放音するようにして、最終的に他方の端の支柱2のスピーカが一定時間放音する動作を、繰り返すように、制御部16によって各音量調整器14を制御することによっても、同様に視覚障害者を誘導することができる。
【0028】
また、上述した音量の変化または放音するスピーカの変化と同期して、発光するLED4を順に変化させるように、制御部16によってLED4及び音量調整器14を制御することで、上述したのと同様に視覚障害者を誘導することができる。この場合、発光状態が変化することによって、移動方向の誘導がより確実に行われる。
【0029】
なお、昼間では、歩道の脇に車道があり、自動車等が走行しており、雑音が多く、視覚障害者にスピーカ6の音が聞き取れない可能性がある。逆に、夜間には、スピーカ6からの音が周囲の民家に対して騒音となる可能性がある。そこで、光センサ18からの光検出信号の値から、昼間であるか夜間であるかを制御部16が判断し、昼間には各スピーカ6からの音量を全体的に増加し、夜間には全体的に減少させる制御を行う。
【0030】
上記の実施形態では、各支柱2にスピーカ6を設置したが、少なくとも1つの支柱2のみにスピーカ6を設置することもできる。また、上記の実施形態では、各スピーカ6からの音量を異ならせたり、放音するスピーカを順に切り換えたりしたが、音量調整器14に代えてイコライザを設け、各増幅器10に供給される音声信号の周波数特性を異なったものとしたり、イコライザと音量調整器の双方をそれぞれ設け、放音するスピーカを順に一方の端から他方の端まで変化させる際に、放音される音の周波数特性を変化させることもできる。また、上記の実施形態では、歩道に設置する場合について説明したが、例えば家屋内の廊下や階段の通路に沿った床、側壁、天井に設置することもできる。上記の実施形態では、スピーカ6は、LED4に接近して設けたが、支柱2の下部等の他の場所に設置することもできる。更に、支柱を用いずに、地下街の壁面若しくは路上に面したビルの外壁や家屋の廊下や階段の通路に沿った床、側壁、天井に、LED4、スピーカ6を接近させて配置して、視覚障害者を誘導するようにしてもよい。また、スピーカ6及びLED4の配置位置としては、路面から2m以下の高さ(人丈の範囲内)が望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の1実施形態の視覚障害者誘導装置の概略構成図である。
【図2】図1の視覚障害者誘導装置で使用する支柱の側面図及び平面図である。
【図3】図1の視覚障害者誘導装置のブロック図である。
【図4】図1の視覚障害者誘導装置においてスピーカを設置していない場合の視覚障害者の視野の位置を示す図と、図1の視覚障害者誘導装置において誘導された視覚障害者の視野の位置を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
2 支柱
4 LED(発光手段)
6 スピーカ(放音手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面または支柱の、概略人丈範囲内の高さ位置に設けられ、少なくとも所定の水平発光方向に発光する発光手段と、
この発光手段の近傍に設けられ、前記発光方向と重なる所定の水平指向角方向に放音する放音手段とを、
具備する視覚障害者誘導装置。
【請求項2】
壁面または支柱の、概略人丈範囲内の高さ位置に設けられ、少なくとも所定の水平指向角方向に放音する放音手段と、
前記放音手段の近傍に設けられ、前記水平指向角方向と重なる所定発光方向に発光する発光手段とを、
具備する視覚障害者誘導装置。
【請求項3】
通路に沿って間隔をおいて一列に配置された複数の支柱、または通路に沿った壁面の概略人丈範囲内の高さ位置にほぼ水平方向に連なって設けられ、前記通路側に発光する複数の発光手段と、
前記複数の発光手段のうち少なくとも1つの近傍に設けられ、前記通路側に放音する放音手段とを、
具備する視覚障害者誘導装置。
【請求項4】
請求項3記載の視覚障害者誘導装置において、前記放音手段は、前記複数の発光手段の近傍にそれぞれ設けられ、前記各放音手段からの放音は、前記発光手段の連なりの一端側から他端側に向かって異なったものである視覚障害者誘導装置。
【請求項5】
請求項3記載の視覚障害者誘導装置において、前記放音手段は、前記複数の発光手段それぞれの近傍に設けられ、前記各発光手段は、前記発光手段の連なりの一端側から他端側に向かって発光状態を変化させ、この発光状態の変化に同期して、前記各放音手段も放音を変化させる視覚障害者誘導装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−303631(P2008−303631A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152478(P2007−152478)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】