説明

親水性表面を有するポリマー膜及びポリマー物品とその作製方法

【課題】改質された表面を有するポリマー物品の提供。
【解決手段】所望の化学的官能基を有する表面を備えた、膜をはじめとするポリマー物品は、相溶性マトリックスベース成分にブレンドされた枝分かれ成分の表面偏析により作り出され、枝分かれ成分はこの所望の化学的官能基を有する。特に、ポリマーマトリックス中にブレンドされた枝分かれ親水性コポリマーの表面偏析により、親水性表面が作り出される。枝分かれ分子構造を使用することで、親水性化学種の表面への偏析のための熱力学的機構とこの親水性部分の高い表面被覆率を実現するための手段とが得られる。枝分かれ親水性コポリマーは、二種類以上のメタクリレートまたはアクリレートモノマーを含むランダムコポリマーにより定義でき、このモノマーの少なくとも一種類は短い親水性側鎖を特徴とする。枝分かれ親水性コポリマーはアクリレートポリマーマトリックスと相溶性であり、かつ、良く絡み合う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された表面を有するポリマー物品に、例えば、混和性の親水性成分が物品の表面にエントロピーによって強化された移動をすることから生じる親水性表面を有する本質的に疎水性のポリマー物品に関する。
【0002】
さらに、疎水性コアと親水性表面成分とを有する膜を提供する。
【背景技術】
【0003】
ポリマー物品及び組成物の界面化学の制御は、例えば医療装置産業、個人用製品、コーティング、膜等の様々な商業上重要な分野に技術的関連を有する。こうした分野で有用な多くのポリマー物品と組成物とは、経済的理由と機械的要件との理由から、特定のタイプの材料により規定される。例えば、物品上に様々なタイプの表面、例えば親水性表面を設けるのが望ましいと思われるところに、構造上の理由で、本質的に疎水性の材料を使用するかもしれない。他の例は、表面に化学的官能基を与えることを含み、これは例えば、特定の化学種を溶液から選択的に除去できるか、またはさもなければ所望の化学的特性を露出できるキレート化官能基または他の官能基である。ポリマー類の表面特性を改質するための多くの技術が存在するが、多くは、多段処理を要する及び/または表面改質成分を熱力学的にまたは物理的に安定に取り込むという結果を生じない。
【0004】
しばしば、高分子化学の目標は、物品全体を基準として高い表面張力(表面エネルギー)を持つ表面を有するポリマー物品を作り出すことであり、というのはより高い表面張力は典型的には、より良好な湿潤性に相当するからである。しかしながら、より高い表面エネルギーを持つ成分とより低い表面エネルギーを持つ成分とを含むポリマーブレンドにおいては、より低い表面エネルギーを持つ成分(より湿潤性の低い成分)は、表面に不釣り合いに存在する傾向があり、というのは表面エネルギーは、分子間引力により特徴付けられるからである。すなわち、熱力学的理由により、より高い分子間引力を持つ成分は表面の下に存在し、そこではより大きい数の類似の分子に囲まれることができるが、一方、より低い表面エネルギーを持つ成分は表面に存在し、そこでは分子はより類似しない分子に本来囲まれる結果になる。より高い表面張力を持つ成分を表面に有するポリマー材料を作り出す技術が存在するが、従来の方法が典型的に直面する問題は、鎖の再配向により時間が経つにつれて表面が再構成される傾向であり、この場合、低い表面張力を持つ成分がポリマーの表面に移動する。(例えば、非特許文献1:Wu,上記;非特許文献2:Garbassi, et al., 上記)。そのような再構成には従って、所望の表面特性の取消できない損失を伴う。
【0005】
アクリレートポリマー類の表面特性の制御は、医用装置、ラテックスペイント及び他のコーティング、繊維、及び記録媒体をはじめとする分野に技術的関連を有する。しかしながら、アクリレートポリマーの界面化学を改質するための従来の技術は、典型的には動力学支配の方法により実現され、ここでは、最終表面組成物と構造とに対して制御がほとんどできない。プラズマ及び火炎処理は、表面を酸素化して湿潤性及び/または付着を改良するために通例用いられ、結合開裂、フラグメント化、及び架橋の反応カスケードを引き起こし、生じる表面組成物は十分に定義されたものではない。酸処理による化学的酸化は典型的に、ピッチング(pitting)と可溶化とを引き起こし、これは表面形態を制御できない方法で改質してしまう(例えば、非特許文献1:Wu, Polymer Interface and Adhesion (Marcel Dekker, Inc., New York, 1982);非特許文献2:Garbassi, et al., Polymer Surface: From Physics to Technology (John Wiley & Sons, West Sussex, 1994))。ヘパリンまたはポリ(エチレングリコール)のような親水性化学種を表面に結合して生体親和性を改良するためにグラフト法が使用されるが、典型的には低い表面被覆率を生じる(例えば、非特許文献3:Pekna, et al., Biomaterials, 14, 189 (1993);非特許文献4:Harris, J. M., ed., Poly (ethylene glycol) Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications (Plenum Press, New York, 1992))。
【0006】
疎水性ポリマー物品上に親水性表面を作製する代わりの方法は、ポリマーに親水性化学種を付加することによるかもしれず、これは処理時に表面に選択的に偏析し、所望の表面親水性を提供する。このアプローチは、もしも、物品のバルク特性、例えば機械的挙動または光学的透明性に不利な影響を及ぼさないように、親水性添加剤がポリマーと混和するならば、特に有用だろう。一つのそのような候補添加剤は、ポリ(エチレンオキシド)、PEO、かもしれず、なぜなら親水性の程度が高く、周知のタンパク質吸着耐性があるからである。PEOは非常な高濃度までポリ(メタクリル酸メチル)中に混和することは周知である。しかしながらまた、PEOの表面張力はPMMAのものよりも幾分高いことも周知である。このことから、PMMA/PEOブレンドから作製された物品の表面は、表面エネルギーを低減するために、PEOをが枯渇させる(deplete)必要があると推測できよう。どちらの成分もそのようなブレンドの表面では増大していないことが、報告されている(非特許文献5:Sakellariu, Polymer, 34, 3408, (1993))。しかしながら、この研究では、試料はわずか3時間、170℃でアニーリングされたのみだった。
【0007】
膜技術は、表面官能化に関して特に興味深い課題を提出している。水処理へのポリマー膜の使用は、海水及び汽水の脱塩、水の軟化、超純水の製造、及び工業廃水の浄化のような用途において、過去30年でますます普及している。加えて膜処理は、エレクトロニクス及び製薬産業のための超純水源を生成するために、及び、繊維及び洗濯、電気めっき及び金属仕上げ、石油及び石油化学、食品及び飲料、及びパルプ及び紙のような多種多様な産業から生じる廃水を処理するために使用されてきた。
【0008】
膜処理は、従来の水処理技術にまさる大幅な利点を提供する。これは、相変化を必要とせず、従って、脱塩に使用される蒸留法よりも本来エネルギーを消費しない。これは所定の孔径を超える汚染物のための絶対フィルタ(absolute filter)となり、従って、不適切に実行されると処理水に残留物を残し得るフロキュレーション法よりも信頼性が高い。加えて、膜ろ過ユニットはモジュール式でかつコンパクトに設計されているため、稼働規模に大きな柔軟性を提供する。そして膜は、汚染物を化学的変更せずに分離できるので、貴重な成分の廃水からのより費用効果性の高い回収に対応している。
【0009】
しかしながら膜技術は、水処理用途におけるその効率と寿命、従って費用効果性を限定する重大な材料関連の欠点に苦しんでいる。特に膜汚れは、流束減少による効率低減、高い清掃及び維持費用、及び低い膜寿命を生じる重要な問題である。限外ろ過処理のための清掃と交換の費用は、総処理費用の各々24%と23%を占めると推定される。システムの注意深い運転とフローパターン設計とにより、浮遊微粒子または沈降性塩類による汚れを低減できるが、膜表面の上へタンパク質の吸着はもっと油断がならず、膜性能と寿命とを実質的に低下させる、よりゆっくりした堆積過程への足掛りとなる、単相膜を生じる。逆浸透処理において使用される膜は、さらに材料関連の限定を有する。酢酸セルロースを主原料とする膜は、この用途では最も一般的に見られ、高い流束と良好な脱塩率を示すが、こうしたポリマー類は時間が経つにつれて加水分解し、その有効寿命を低減する物理的な穴を膜に生じる。明らかに、改良された汚れ耐性とより長い運用寿命とを備えた新しい膜が要望されている。その上、改良された選択性を備えた膜が、廃水成分のより費用効果性の高い回収を行うために捜し求められている。
【0010】
疎水性膜表面に親水性を与える諸方法は、主に、膜の上へ直接、親水性化学種をグラフトまたはコーティングすることに集中してきた。一般に、このアプローチは、幾つかの欠点に苦しんでいる。すなわち、1)実現可能なグラフト密度は、動力学的な限定が原因で典型的には低い、2)グラフト反応は、追加の処理段階を必要とし、規模の拡大が難しい、3)擦れた単相は、膜清掃手順の最中に摩耗するかまたは除去されやすい。こうした問題を回避できるかもしれない魅力的な代わりのアプローチは、親水性巨大分子成分を膜材料に加えることであり、これは処理最中に選択的に偏析する。このアプローチにより作製された膜材料は、市販の膜材料並びにコートした及びグラフト改質した膜にまさる、重要な性能上と処理上の利点を提供できる。典型的なコートした膜と異なり、こうした膜の表面には、マトリックスと密接に絡み合った添加剤が見られる。その上、熱力学的駆動力により偏析が成し遂げられる場合、「自己回復」膜が可能であり、それによって、任意で定期的アニーリング作業の最中に、膜表面から除去された表面活性添加剤材料は、枝分かれ成分のさらなる偏析により置き換えることができる。最後に、枝分かれ成分の表面局在化は、標準的な処理段階最中に生じることができ、従って追加の製造段階の必要が無い。
【0011】
様々な表面改質技術が、特許文献に説明されている。例えば、Varady, et al.,は米国特許第5,030,352号(特許文献1)で、疎水性クロマトグラフィー固相を、疎水性ドメインと親水性ドメインとを含むブロックコポリマーを使って改質することを説明している。疎水性ドメインは、疎水性-疎水性相互作用によって固相と会合し、親水性ドメインは表面から外に向かって延在する。この技術は、ブロックコポリマーを適所に架橋することで、固相の疎水性領域を隠す親水性表面コーティングを作る段階を含む。
【0012】
Stedronskyは米国特許第5,098,569号(特許文献2)で、膜の表面の上へ吸着し及びその上に均一に架橋した改質ポリマーを含む、表面改質された膜を説明している。
Nohr, et al.,は米国特許第4,923,914号(特許文献3)、同第5,120,888号(特許文献4)、同第5,344,862号(特許文献5)、同第5,494,855号(特許文献6)、及び同第5,057,262号(特許文献7)で、特定の所望の表面特性を露出するように設計された熱可塑性組成物を説明している。典型的にはNohr, et al.,は、周囲条件下でバルクポリマー成分と非混和性(非相溶性)であり、そして従ってその非相溶性によって(エンタルピーによって)凝固時にブレンドの表面に駆動される親水性添加剤を用いている。特許第5,494,855号では、Nohr, et al.,は、良好な引っ張り特性(tensile properties)または表面湿潤性を有する添加剤を含むブレンドを説明している。良好な表面湿潤性を有するブレンドの配合物は、分子量が約350〜約1,200ほどにも低い添加剤を含む。低分子量添加剤は典型的には、ブレンド及び物品中でより容易に移動し、従ってこの特許では、より高い分子量の添加剤からから生じる有利な機械的性質と、より低分子量の添加剤の移動からから生じる有利な表面特性とは、互いに相容れないという教示があると推測するのは非合理ではないと思われる。Nohr, et al.,は、偏析を助けるために、ヒュームドシリカを使用している。
【0013】
米国特許第4,698,388号(Ohmura, et al.,)(特許文献8)は、ポリマー材料の表面を改質するためのブロックコポリマー添加剤を説明している。このブロックコポリマーは、マトリックス相溶性部分と、マトリックスと非相溶性で、望ましくは表面に存在する特性を有する部分とを含む。このブロックコポリマーの表面改質部分の非相溶性によって、この部分は表面に偏析するが、相溶性部分はポリマーマトリックスと相互作用し、添加剤をマトリックス中に保持する。米国特許第4,578,414号(Sawyer, et al.,)(特許文献9)は、オレフィンポリマー類から作製された細いデニールの湿潤可能な繊維及び/またはフィラメントであって、親水性ドメインと疎水性ドメインとを含む比較的短いポリマー湿潤剤を含む繊維及び/またはフィラメントを説明している。親水性ドメインが表面を改質するように、添加剤が偏析する。
【0014】
Allegrezza, et al.,は米国特許第5,079,272号(特許文献10)、同第5,158,721号(特許文献11)で、疎水性ポリマーの相互貫入ポリマー網目構造とインサイチュー(in-situ)架橋相互貫入親水性ポリマーとで定義される多孔質膜を説明している。説明されている技術は、網目構造をアニーリングし、それにより疎水性成分が結晶化し、親水性成分を表面に「追い出す(excluding)」段階を含む。
【0015】
米国特許第5,190,989号(Himori)(特許文献12)は、親水性基と樹脂に親和性を有する基とを有するAB型ブロックコポリマーを説明している。このブロックコポリマーは、樹脂の表面または界面に向かって親水性成分が配向する。
【0016】
Meirowitz, et al.,は米国特許第5,258,221号(特許文献13)で、二段処理を説明しており、ここでは疎水性ポリオレフィン物品の表面を改質するために、ポリオレフィンのガラス転移温度を超える温度で表面をコポリマー材料と接触させ、コポリマー材料をポリオレフィンと融合させる。コポリマー材料は、ポリオレフィンと相溶性の疎水性部分とポリオレフィンと非相溶性の改質部分(すなわち親水性)とを含む。
【0017】
米国特許第5,328,951号(Gardiner)(特許文献14)は、有機ポリマー物品、特にポリオレフィン物品の表面エネルギーを増大するための技術を説明しており、これは、ベースポリマーと、分子量約150〜約500ダルトンを有する両親媒性物質とを含むブレンドを形成することで行う。この両親媒性物質が有するのは、ベースポリマー中に両親媒性物質を固定する(anchor)と考えられ、かつ、ベースポリマー材料と相溶性である親油性成分と、ポリマーベースとより相溶性がなく物品の表面に存在する親水性成分とである。
【0018】
PVDFと5%〜34%のポリ(メタクリル酸メチル)との混和性ブレンドから得られる膜が、Nunes, et al., "Ultrafiltration Membranes From PVDF/PMMA Blends", J. Mebm. Sci., 73, 25-35, 1992(非特許文献6)で報告されている。Ito, et al., "pH-Sensitive Gating by Conformational Change of a Polypeptide Brush Grated onto a Porous Polymer Membrane", J. Am. Chem. Soc., 119, 1619-1623 (1997) (非特許文献7)は、ベンジルグルタメートNCAの多孔質PTFE膜の上へグラフト重合と、pHとイオン強度が透過速度に及ぼす影響の研究とを説明している。膜を通る水の透過の速度は、高pH条件下では遅く、低pH条件下では速いことがと見い出され、この理由は、高pH条件下では、ランダムコイルしたグラフト鎖は延在して細孔をふさぐからである。Kojima, et al.,"Selective Permeation of Metal Ions Through Cation Exchange Membrane Carrying N-(8-quinolyl)-sulfonamide as a Chelating Ligand", Journal of Membrane Science, 102, 49-54(1995) (非特許文献8)は、Fe3+に優先してCu2+を選択するキレート化試薬をポリマーの側鎖に化学的に結合して、陽イオン交換膜を作り出すことを説明している。このポリマーを溶媒中に希釈させ、多孔質TeflonTMPTFE膜中に含浸させ、溶媒を蒸発させた。Mika, et al.,"A New Class of Polyelectrolyte-Filled Microfiltration Membranes with Environmentally Controlled Porosity", Journal of Membrane Science, 108, 37-56(1995) (非特許文献9)は、4-ビニルピリジンをポリエチレン及びポリプロピレン精密ろ過膜の上へグラフトすることを説明している。グラフトはUV誘起され、pHバルブ効果(pH valve effect)と逆浸透の存在下で小さな無機イオン類を阻止する能力とを示す膜を生じる。
【0019】
Iwata, et al.,("Preparation and Properties of Novel Environmental-Sensitive Membranes Prepared by Graft Polymerization Onto a Porous Membrane", J. Mem. Sci., 38, 185-199, 1988)(非特許文献10)は、ポリアクリルアミドとポリアクリル酸鎖とをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜の上へグラフトするためのグロー放電技術を報告している。そのように処理された膜の透過速度と分離特性とは、流入液(feed solution)のpHとイオン強度とにより大幅に変化すると見い出され、pHとイオン強度の両方共にグラフトした鎖の立体配置に影響を及ぼす。流入液のpHとイオン強度との変化は、グラフトした高分子イオン(polyionic)鎖に沿った電荷間の静電力が遮蔽される程度を変化させる。低pHでは、グラフトした鎖に沿った負電荷は正の対イオンにより厚く遮蔽され、鎖はランダムコイル様の立体配置を取る。高pHでは、グラフトした鎖は解離し、それに沿って間隔をおいて配置された負電荷間の静電反発力によって、伸長した立体配置(extended configuration)を取り、細孔を有効にふさぐ。メタノール(PAAmとPAAの貧溶媒)を加えることは、グラフトした鎖をつぶす(collapsing)別の方法であることが示された。重要だが、透過速度の変化は、Ito, et al.,の系で証明されたものと同じようには決定されなかった。これは多分、その系の中で起きるヘリックスコイル転移により強調されたと思われる。Hautojarvi, et al.,( J. Mem. Sci., 108, 37, 1995)(非特許文献11)は、ポリ(アクリル酸)でグラフト改質したPVDF膜についての同様の研究を発表している。
【0020】
表面を改質するための多くの先行技術において、物品の改質された表面の耐久性及び/または物理的または光学的特性は損なわれることがある。特に、表面改質成分が水溶性である場合、もし物品が水性環境中で使用され、かつ、表面改質成分が物品としっかりと会合していないと、この成分は時間が経つにつれてポリマー表面から解離する。表面改質成分の非相溶性を利用するポリマーブレンドは、ポリマー内部にミセルまたは他の偏析集合体を形成する危険があり、これはポリマーを不透明にし得る(多くの状況で不利である)。非相溶性は多くの技術において偏析に必要な特性なので、こうした技術は本来このような潜在的な欠点を持つ。
【0021】
学術文献は、構造に基づいたポリマーブレンドの諸成分の表面移動を含む研究を説明している。例えば、Steiner, et al., Science, 258, 1126 (1992) (非特許文献12)及びSikka, et al., Phys. Rev. Lett., 70, 307 (1993) (非特許文献13)は、ポリオレフィンブレンドに関する実験を説明しており、これは、ブレンドの諸成分のエネルギーが類似の場合、より高度に枝分かれした成分は物品の表面に偏析する傾向があることを証明している。しかしながら、Steiner, et al.,(上記)(非特許文献12)は、より高度に枝分かれしたポリオレフィンの表面移動はその構造によって起きることは明白ではないと報告しており、文献中には若干の議論がある。実際は、こうした系では、より枝分かれした成分は、より低い表面張力を持つ成分なので、より枝分かれした成分は報告された技術によれば表面に存在すると予想されると思われる。
【非特許文献1】Wu, Polymer Interface and Adhesion(Marcel Dekker, Inc., New York, 1982)
【非特許文献2】Garbassi, et al., Polymer Surface:From Physics to Technology(John Wiley & Sons, West Sussex, 1994)
【非特許文献3】Pekna, et al., Biomaterials, 14, 189(1993)
【非特許文献4】Harris, J. M., ed., Poly (ethylene glycol) Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications (Plenum Press, New York, 1992)
【非特許文献5】Sakellariu, Polymer, 34, 3408, (1993)
【非特許文献6】Nunes, et al., "Ultrafiltration Membranes From PVDF/PMMA Blends", J. Mebm. Sci., 73, 25-35, 1992
【非特許文献7】Ito, et al., "pH-Sensitive Gating by Conformational Change of a Polypeptide Brush Grated onto a Porous Polymer Membrane", J. Am. Chem. Soc., 119, 1619-1623(1997)
【非特許文献8】Kojima, et al.,"Selective Permeation of Metal Ions Through Cation Exchange Membrane Carrying N-(8-quinolyl)-sulfonamide as a Chelating Ligand", Journal of Membrane Science, 102, 49-54(1995)
【非特許文献9】Mika, et al.,"A New Class of Polyelectrolyte-Filled Microfiltration Membranes with Environmentally Controlled Porosity", Journal of Membrane Science, 108, 37-56(1995)
【非特許文献10】Iwata, et al., ("Preparation and Properties of Novel Environmental-Sensitive Membranes Prepared by Graft Polymerization Onto a Porous Membrane", J. Mem. Sci., 38, 185-199, 1988)
【非特許文献11】Hautojarvi, et al., (J. Mem. Sci., 108, 37, 1995)
【非特許文献12】Steiner, et al., Science, 258, 1126(1992)
【非特許文献13】Sikka, et al., Phys. Rev. Lett., 70, 307(1993)
【特許文献1】米国特許第5,030,352号
【特許文献2】米国特許第5,098,569号
【特許文献3】米国特許第4,923,914号
【特許文献4】米国特許第5,120,888号
【特許文献5】米国特許第5,344,862号
【特許文献6】米国特許第5,494,855号
【特許文献7】米国特許第5,057,262号
【特許文献8】米国特許第4,698,388号
【特許文献9】米国特許第4,578,414号
【特許文献10】米国特許第5,079,272号
【特許文献11】米国特許第5,158,721号
【特許文献12】米国特許第5,190,989号
【特許文献13】米国特許第5,258,221号
【特許文献14】米国特許第5,328,951号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明の目的は、所望の表面特性を有し、熱力学的に安定なポリマー物品を生成するための、簡単で、安価な技術を提供することにある。特に本発明の目的は、様々な目的のために、ポリマー物品上に、熱力学的に安定で比較的高表面エネルギーを持つ表面を生成するための技術を提供することにある。本発明の他の目的は、ラテックスペイントにおける乳化を改良し、コンパクトディスク及び繊維に静電荷蓄積耐性を与え、眼内レンズ及び歯科用コンポジットの汚れ止め特性を改良し、及びアクリレート類のインク、接着剤、及びペイントに対する湿潤性を増大するために様々なアクリレートポリマー類に安定な親水性表面を提供することにある。本発明の他の目的は、所望の表面特性を有する様々なポリマー類の膜と、所望の露出された官能基を有する丈夫な膜とを作り出すための直接的な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、ポリマー物品の表面に、物品全体と異なる所望の化学的官能基を与えるための技術を提供する。この技術は、様々なポリマー成分の相溶性ブレンドにおいては、より高度に枝分かれした成分の移動はエントロピーにより強化できる、という発見を利用している。最大の数の鎖末端を有する分子が、配位エントロピーの犠牲を最小にして表面に存在できる。
【0024】
また提供するのは、ポリマー物品の表面に所望の化学的官能基を与えるための技術であり、これは、少なくとも第1と第2のポリマー成分のブレンドに転相を施し、第2の成分をブレンドの表面に不釣り合いに移動させることを含む。転相技術は、エンタルピーまたはエントロピーまたは組合せにより完全に駆動できる。すなわち、より高度に枝分かれした成分のブレンドの表面への移動を可能にすることを含む上記の技術は、転相技術と組合せることができる。
【0025】
一実施例においては、本発明は、表面を有する物品であって、第1の比較的により低い凝集エネルギーを持つポリマー成分と、第2の比較的により高い凝集エネルギーを持つポリマー成分との、絡み合ったブレンドを含む物品を提供する。第1と第2のポリマー成分は室温で互いに相溶性であり、すなわち混和性である。第2のポリマー成分は物品の表面に存在し、第1のポリマーに対するその比は、物品中における第2のポリマー成分対第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい。
【0026】
別の実施例においては、本発明は、表面を有する物品であって、第1の本質的に疎水性のポリマー成分と、第1のポリマー成分と絡み合ったランダムコポリマーである第2のポリマー成分との、絡み合ったブレンドを含む物品を提供する。第2のポリマー成分は、第1のポリマー成分よりも親水性である。第2のポリマー成分は、分子量少なくとも約15,000を有し、かつ、物品の表面に存在し、第1のポリマー成分に対するその比は、物品中における第2のポリマー成分対第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい。第2のポリマー成分はランダムコポリマーとすることができる。
【0027】
また提供するのは、表面を有する物品であって、水に親和性を有する第1のポリマーと水に親和性を有する第2のポリマーとの絡み合ったブレンドを含む物品である。第1と第2のポリマーは室温で相溶性である。物品の表面は、物品中の第1と第2のポリマーの全体の平均水親和性よりも大きな水親和性を有する。
【0028】
本発明の物品の全ては、所望の界面化学的官能基を有する多孔質膜とすることができる。
別の態様においては、本発明は一連の方法を提供する。一実施例においては、方法は、各々非水溶性の少なくとも第1と第2のポリマー成分の混和性ブレンドを提供するステップを含む。第1の成分は本質的に疎水性であり、第2の成分は第1の成分よりも親水性である。こうした成分を相偏析(phase segregate)させて、コアとコアよりも親水性の大きい表面とを有する多孔質膜を形成する。
【0029】
別の実施例においては、方法は、第1の比較的により低い凝集エネルギーを持つポリマー成分と、第2の比較的により高い凝集エネルギーを持つポリマー成分との流体ブレンドを提供するステップを含み、第2のポリマー成分は室温で第1のポリマー成分と相溶性である。ブレンドを硬化させて、表面を有するポリマー物品を形成する。第2のポリマー成分は物品の表面に存在し、第1のポリマー成分に対するその比は、物品中における第2のポリマー成分対第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい。
【0030】
別の実施例においては、ポリマー膜が特定の界面化学的官能基を有するように製造される方法を提供する。ポリマー流体が提供され、これは、第1のポリマー成分と、特定の界面化学的官能基を含み、室温で第1のポリマー成分と相溶性である第2のポリマー成分とのブレンドを含む。このポリマー流体に転相を施し、第1と第2のポリマーのブレンドを含物品が回収される。第2のポリマーは物品の表面に存在し、第1のポリマーに対するその比は、物品中における第2のポリマー対第1のポリマーの全体の比よりも大きい。
【0031】
別の実施例においては、第1のポリマー成分と、室温で第1のポリマー成分と相溶性である第2のポリマー成分とのブレンドを含むポリマー流体を提供するステップを含む、ポリマー膜を作る方法を提供する。エマルションを形成するために、第1と第2の成分に非相溶性の流体にポリマー流体を露出させ、非相溶性流体にポリマー流体中でエマルションを形成させる。多孔質物品が混合物から回収され、これは第1と第2のポリマーのブレンドを含み、第2のポリマーは物品の表面に存在し、第1のポリマーに対するその比は、物品中における第2のポリマー対第1のポリマーの全体の比よりも大きい。
【0032】
幾つかの実施例においては、第2のポリマー成分は第1のポリマー成分よりも枝分かれしている。全ての場合に、第2と第1のポリマー成分は、異なる官能基を有することができ、第2のポリマー成分が表面で強化されているため、所望の界面化学的官能基を有する膜等のポリマー物品の形成が可能になる。第1と第2の成分は、融解物として相溶性であることに加えて、室温及び使用温度で熱力学的に相溶性とすることができ、従って熱力学的に安定な、表面偏析した物品が生じる。一実施例においては、各成分は分子量少なくとも約5,000を有し、第1と第2の成分の非常に良く絡み合った組合せにより物品を生じる。
【0033】
本明細書において説明する任意の物品は、アクリル性とすることができ、例えば上記に説明したポリマー類は、アクリル性ポリマー類とすることができる。一組の方法は、第1の本質的に疎水性のアクリル性ポリマーと第2のより親水性のアクリル性ポリマーとをブレンドし、それから、より親水性のポリマーを物品の表面に駆動するステップを含む。別の方法においては、本質的に疎水性のアクリル性ポリマーとより親水性のアクリル性ポリマーとの流体ブレンドを提供し、この二つのポリマーは相溶性である。ブレンドを硬化して物品を形成し、この物品ではより親水性のアクリル性ポリマーが表面に不釣り合いに存在する。同じ方法を、第1と第2のアクリル性ポリマーが必ずしも疎水性とより親水性ではなく、別のタイプの化学的官能基において相違がある場合に、実行できる。
【0034】
本発明の他の利益、新規な特徴、及び目的は、以下の本発明の詳細な説明を添付図面と共に検討することにより、明瞭になろう。図面は概略であり、正確な比例で描かれたものではない。図では、様々な図に示されている各々同一のまたはほぼ同一の成分は単一の数字で表わされる。明瞭にするために、全ての成分に全ての図で標識が付けてあるわけではない。
【発明の実施の形態】
【0035】
1996年8月26日にMayes, et al.,により提出された米国仮出願第60/024,570号と1997年3月17日にMayes, et al.,により提出された米国出願第08/819,610号を、両方とも本明細書において参考のために引用する。
【0036】
本発明は、ポリマーブレンドの成分をブレンドの表面に選択的に偏析させて、所望の化学的官能基を表面に提供することを含む、ポリマー物品のための表面改質技術を提供する。本発明の一態様は、エントロピー的な偏析を利用して、所望の表面特性を作り出す。別の態様は、少なくとも部分的にエントロピーにより駆動される偏析を含む。本発明の一実施例は、表面官能化膜を含む。
【0037】
特に本発明は、複数の混和性成分のポリマーブレンドから、表面で望まれる化学的官能基を含み比較的により高い凝集エネルギーを持つ成分を表面偏析するための技術を含む。実施例の一つの組においては、ポリマーの界面化学の制御を実現するために、枝分かれ分子構造を持つため物品の表面にエントロピーによって駆動される表面改質ポリマー成分を設計し、この表面改質成分に表面で望まれる化学的官能基を与え、及び成分がポリマーマトリックスのベース成分と相溶性であるように成分を設計する。本明細書において使用する「エントロピーによって駆動される」は、少なくとも部分的にエントロピーにより強化される力により駆動されることを定義することを意味する。すなわち、表面改質ポリマー成分は、ほとんどエントロピー的な力のみにより、または少なくともその一部はエントロピー的である力の組合せにより、表面に駆動される。表面で望ましい化学的官能基を有する成分において、特に枝分かれ分子構造を使用することで、成分の表面への偏析のための熱力学的機構と、成分の高い表面被覆率を達成するための手段とが得られる。
【0038】
実施例の別の組においては、転相技術を使用して、複数の成分の混和性ブレンドのうちの所望の成分の表面への移動を強化する。この実施例の組においては、選択された成分の表面への移動は、エンタルピー、エントロピー、または組合せにより駆動できる。
【0039】
様々な物品の製造または表面改質が、本発明の技術により強化できる。例えば、本質的に疎水性のコアを有する物品を改質して、親水性表面を持たせることができ、これは低静電荷蓄積、または接着剤、ペイント、インク、またはその他同様なものに対する改良された湿潤性を必要とする用途に有用である。本発明の物品の表面を、タンパク質吸着に耐性を持つように改質でき、これは、医用用途のための新しい候補を提供する。眼内レンズ及びその他同様なもの等の光学的装置、並びに浄水及び他の分離用の膜も強化できる。
【0040】
枝分かれ成分がブレンドから表面にエントロピーによって駆動される場合、この添加剤は、より高い表面張力にもかかわらず、表面で熱力学的に有利であり、従って表面は時間が経つにつれて再構成する傾向がなく、これは、より伝統的な経路によりポリマー上に作製された高エネルギー表面とは異なる。
【0041】
本発明の技術は、実施例の一つの組によると本質的に親水性の表面を生じ、この表面は物品のバルクよりも親水性である。本明細書において使用する「本質的に親水性な」とは、表面に水を使って形成される接触角が、約70°未満、好ましくは約65°未満、さらにより好ましくは59°〜62°であることを意味する。別の実施例においては、物品が水に露出された時に、表面の最初の50Å以内で含水量少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも30%を生じる際には、物品は本質的に親水性である。表面での水パーセントの値はまた、表面から少なくとも100Å以内に延ばせる。
【0042】
一実施例においては、本発明は、高度に枝分かれせず、好ましくは線状である本質的に疎水性の第1のアクリレートポリマーにより規定されるポリマーマトリックスベース成分を提供する。非線状構造で、好ましくは枝分かれ構造を有する第2のより親水性のアクリレートポリマーを加える。この非線状成分は好ましくは、二種類以上のアクリレートまたはメタクリレート化学種を含むランダムコポリマーであり、化学種の少なくとも一種類は、コポリマーに親水性を与える親水性側鎖を特徴とする。側鎖は、本質的に任意の親水性部分とすることができ、好ましくはポリエチレングリコール等のポリアルキレンオキシド類である。側鎖は、結晶化度を抑制するのに十分な程短くするべきである(Sakellariou, Polymer, 34, 3408 (1993)を参照されたい)。第2のポリマーはまた非水溶性であるべきで、マトリックスベース成分と相溶性であるべきである。第2のポリマーまたは、マトリックスベース成分と絡み合ったままであるのに十分な程大きな分子量を有するべきである。本明細書において使用する「絡み合った(entangled)」という用語は、別個の非結晶性成分のポリマー鎖の諸部分が互いに巻きつき、運動に対する物理的障壁を作り出すことを意味する。この用語は、当業者には周知である。一般にこのことが意味するのは、第2のポリマーは分子量少なくとも約5,000、好ましくは少なくとも約10,000、より好ましくは少なくとも約15,000、さらにより好ましくは少なくとも約20,000を有するべきだということである。本発明の添加剤の分子量がより大きいことは、鎖長がより長いため、より大きい絡み合いを容易にする。
【0043】
第2のポリマーはまた、言及したように、マトリックスベース成分と相溶性であるべきである。本明細書において使用する「相溶性」は、本添加剤がマトリックスベース成分から相分離しないことを意味する。例えば、成分間のエネルギーの相違例えば疎水性-疎水性反発力が原因となる成分間反発力によっては、本添加剤は相分離しないが、この反発力は表面偏析ポリマー類を提供するために従来技術で利用されてきた。幾つかの従来技術の配列は、融点でマトリックスベース成分と混和性のある添加剤を含むが、この添加剤とマトリックスベース成分とは、典型的には室温では相溶性ではなく、そして、この特性を使用して、融解したブレンドの冷却と硬化時に添加剤を表面に移動させる。これに反して本発明においては、マトリックスベース成分と添加剤は、混和性であり融解物として均質溶液を形成するのみならず、冷却と硬化時に、添加剤とマトリックスベース成分は相溶性でありかつ良く絡み合ったままであり、別個の相に分離しない。相分離した物品ではなく良く絡み合った物品の一つの利点は、相分離は、層間剥離及び他の機械的故障の原因となり得るということである。
【0044】
幾つかの実施例においては、材料が非晶質のままである場合、この室温での固相相溶性の一つの有利な特性は、本発明のブレンドは典型的には、凝固した時に透明なままであり、相分離によってまたは相非相溶性から生じるミセルの形成によって、凝固した時に不透明になる危険がないという点である。こうした実施例は、光学的に透明なままでなければならない装置及び物品、例えば眼内レンズに使用するのに特に好都合である。すなわち、本発明の成分は、特定の実施例においては、結晶化しないように選択され、そしてこの結晶化の無いことは、本発明の物品に不透明性ではなく透明性を与える。当業者であれば、標準的なポリマーの便覧及び教科書、例えばYoung, et al.,"Introduction to Polymers"(第2版), Chapman & Hall, London (1991)及びStevens, "Polymer Chemistry-An Introduction"を参照して、マトリックスベース成分と添加剤のうち、そのどちらも結晶化しないものを選択できよう。本発明の添加剤における結晶化の無いことは、上記の実施例によると、例えばアニオンまたはフリーラジカル重合によって合成したランダムコポリマー形態で添加剤を得ることにより、促進できる。加えて、一般にアクリレート類は結晶化しない。
【0045】
従って、本発明の非結晶性の実施例に従って使用するための、適切なマトリックスベース成分/添加剤の組合せを決定するための一つの簡単な選別試験は、マトリックスベース成分を添加剤とブレンドし、ブレンドを硬化させ、及び得られた物品の光学的性質を観察することを含む。得られた物品が透明であり不透明ではない場合、マトリックスベース成分と添加剤は、この実施例において使用するための良好な候補である。候補諸成分のブレンドの光学的透明性を決定するための選別試験の前に、当業者であれば、基寄与法(group contribution methods)により計算できる凝集エネルギー密度を検討することで、混和性に関して良好な候補である成分を選択できよう。凝集エネルギー密度が大きく異なる二つの成分は、混和性でないかもしれない。
【0046】
図1は、疎水性表面を有するように設計された、本質的に親水性の従来技術の一ポリマー物品の断面の略図である。図1はある種の周知の従来技術の系の代表であるが、本出願人らは、従来技術によりこの方法で作製された膜を知らない。この物品は、例示するように、長鎖の線状疎水性ポリマーであるポリマーマトリックスベース成分10と、物品の表面に親水性を与えるように設計された添加剤12とを含む。この図では、点線は物品の表面を表わしている。もちろん表面は、物品を構成するポリマー分子の境界により規定される。
【0047】
添加剤12は比較的低分子量の成分であり、典型的には分子量約500〜約5000の範囲にあり、親水性部分14を第1の末端に、そして疎水性部分16を第2の末端に含む。これは、セグメントAが親水性でありセグメントBが疎水性であるABブロックコポリマーを合成することで実現できる。
【0048】
そのような物品を製造するためには典型的には、成分10を添加剤12と融解物(この条件では成分10と添加剤12とは混和してよい)中でブレンドしてから、ブレンドを冷却して硬化させる。添加剤12は典型的には、室温ではベース成分10とは非相溶性であり、ブレンドを冷却して硬化する際に表面に偏析する。添加剤12の物品表面への偏析は、エンタルピーにより駆動されており、添加剤12の分子量がより低いことにより促進される。添加剤12は、物品内にある程度固定され、というのはその疎水性部分16は疎水性ポリマーマトリックスベース成分10と相溶性だからある。
【0049】
親水性部分14は、物品の表面である程度の親水性を作り出すが、添加剤12とポリマーマトリックスベース成分10との全体の非相溶性は、配列全体を熱力学的に不安定にし得る。加えて図1の物品においては、添加剤12は、水溶性、低分子量、ベース成分10との絡み合いの無いこと、及びベース成分10との非相溶性という特性の一つ以上を有することができるので、成分12はポリマー物品から除かれ、物品が接触している水中に溶解する。これは図1において、成分12の一つが水分子18により除去されることにより、その概略が示される。
【0050】
図1の従来技術の物品の成分10と12との非相溶性における別の不利益は、複数の添加剤12がその疎水性部分を外側に向けて形成するミセル20が生じ得ることである。そのようなミセルは材料を不透明にすることがあり、機械的性質を損ない得る。
【0051】
図示していないが、従来技術のポリマー物品では、ベースポリマー成分の結晶化は、表面改質添加剤の物品表面への偏析の背後にある主な駆動力である。例えば図1を参照すると、マトリックスベース成分10が結晶化度の領域を形成するポリマーであり、添加剤12がマトリックスベース成分10の個々の単位と化学的に相溶性でしかし結晶化度とは非相溶なように選択されたとしたら、ブレンドが形成され、アニーリングされて、添加剤12を表面に駆動する結晶化度の領域を形成するだろう。しかしながらこのタイプの配列は典型的に、低分子量で高度に移動性の、従ってベース成分と良く絡み合わない添加剤に依存し、表面偏析は、添加剤とベース成分との相非相溶性に依存している。
【0052】
図2を参照すると、本発明のポリマー物品の概略が示される。図1の物品と同様に、図2の物品はマトリックスベース成分22を含み、この成分は実施例の一つの組においては本質的に疎水性の第1の長鎖ポリマーである。本発明の物品は添加剤24を含み、この添加剤は、分枝点26と、分枝点26から発し、親水特性等の表面改質特性を有する比較的短い側鎖28とを含む、第2の枝分かれポリマーである。検討したように、表面改質側基(side group)例えば親水性側基は、表面改質側鎖を含む単位と親水性側鎖を含まない単位とのランダム共重合により得ることができる。
【0053】
第2のポリマー成分24は比較的高分子量であり、かつ、第1のベース成分22と相溶性であり、従って、絡み合い位置30で概略を示すように、成分22と成分24とは絡み合う。この絡み合いは、相溶性、非結晶化度、及びしきい分子量のうちの一つ以上が原因となることができ、成分24を物品中に固着させ、物品の表面に接触している水分子18は、添加剤が親水性の場合でも、添加剤を追い出さない(添加剤が異なる化学的官能基を有する場合、物品をその官能基に引き付けられる溶媒に露出しても、添加剤が追い出されない)。第2のポリマー成分24は、バックボーンポリマーの不溶性が原因で典型的には非水溶性であり、成分を物品の表面によりしっかりと固定する。
【0054】
第2の成分24の表面への移動は、第2の成分が親水性の場合には驚くべきことであり、というのは、より高い表面張力(より高い凝集エネルギー)を持つ成分なので、当業者であれば、エンタルピー的な理由により、第2の成分は、ポリマーのバルク中に表面から離れたままでいるのが有利だろうし、一方、第1のより低い凝集エネルギーを持つマトリックスベース成分22は、表面で優勢に見い出されるだろうと予想しよう(下記の実施例1を参照されたい)。
【0055】
図2は、高度に枝分かれした第2のポリマー成分24と完全に線状の第1のマトリックスベース成分22とを示すが、これは明瞭にするためのみのものであり、本発明の好適な実施例を示している。枝分かれした第2の成分と第1の線状マトリックスベース成分とは本発明の選択基準を満たし、その場合、第2の成分が、こうした諸成分から作られた物品の表面でエントロピー的に有利になるように、第2の成分とマトリックスベース成分とは互いに関連して選択される。これは、第1のマトリックスベース成分22よりも多くの鎖末端(chain end)を有する第2の成分24を選択することを含み、というのは、物品の表面は、ポリマー鎖の空間分布を特徴付けるランダムウォークに反射境界条件を導入し、これは鎖が利用できる全立体配置の数を、従って系のエントロピーを下げるからである。材料境界に必要な反射の数を最小化するために、強い相互作用の無い場合は鎖末端は優先的にポリマー融解物の表面に偏析する。
【0056】
従って第2の成分24は、マトリックスベース成分22が含むよりも多くの鎖末端を含む。各々の鎖末端の数は広く変化し得、特に第2の成分の場合は、第2の成分に表面偏析させるための鎖末端の数は様々である限りはそうである。本発明の成分の構造は図3を参照して検討し、この図は枝分かれした化学種を示し、丸がマー単位または原子(例えば炭素原子)等の単位を表わす、。スキーム1の化学種は、各々の長さl=6の5つの枝と各々の長さd=4の2つの枝連結部とを含む。明瞭にするために、枝セグメントと枝連結部セグメントは各々白丸と黒丸で描かれている。鎖末端は黒点の入った白丸として示し、分枝点は白点の入った黒丸として示す。
【0057】
枝は、ポリマーバックボーン上に本来存在するものの他のポリマー鎖上の側基を意味する。例えば、マトリックスベース成分と第2の成分とが両方共にメタクリル酸メチルである場合、各マーの-COOMe側基は枝とはみなされない。
【0058】
本発明のマトリックスベース成分22は線状であるべきで、または枝分かれしている場合、枝につき約4単位以下でありかつ添加剤よりも枝分かれしていないようにするべきである。例えば、マトリックスベース成分はポリブチルメタクリレートとすることができる。
【0059】
第2の成分24は、結晶化度が望まれていない実施例において結晶化し得る材料から選択する場合は、使用温度で結晶化度の領域を形成するのに十分に長くない枝を含むべきである。一般に枝は、約l=25セグメント以下であるべきで、好ましくは約l=20セグメント以下、より好ましくは約l=15セグメント以下である。第2の成分がランダムコポリマーである場合は、もちろん、枝と枝との間の間隔dは変化する。従って第2の成分は、バックボーン中に少なくとも約4%の枝分かれセグメントを有し(図3に示すように、バックボーンに沿って鎖単位の5%は分枝点である)、好ましくは少なくとも約7%、より好ましくは少なくとも約12%、より好ましくは少なくとも約15%、さらにより好ましくは少なくとも約18%を有するものとして、最も良く説明できる。枝が親水性である場合、枝分かれセグメントのパーセントは、好ましくは添加剤を水溶性にする量未満である。枝が、周囲環境(例えば疎水性溶媒の存在下で使用される際の疎水性官能基)に引き付けられる化学的官能基であるような異なる実施例においては、枝は、好ましくは第2の成分を疎水性溶媒に可溶にする量未満である。
【0060】
一実施例においては、本発明は、第1のアクリレートマトリックスベース成分22と第2のアクリレート成分24とを含む。すなわち、マトリックスベース成分24と第2の成分は各々、CH2=C(R1)(COOR2)の式を有する一種類以上のモノマーの重合生成物であり、式中、R1とR2とは各々水素、炭化水素基、及びアルコール基からなる群から選択され、R1とR2とは、同じでも異なってもよい。炭化水素基は、例えば、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、及びその他同様なものを選択をしてよい。本明細書において使用する用語である「炭化水素」、「アルキル」、「シクロアルキル」及び類似の炭化水素術語は、アルコール類及び水素を含むことを意図し、ただし水素及び/またはアルコール類を含むことを本明細書においてしばしば具体的に言及している。そのような基の例は、メチル、プロペニル、エチニル、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル、ヒドロキシエチル及びその他同様なものである。R1は好ましくは、水素と、メチル、エチル、またはその他同様なもの等の低級アルキル化合物類の全般的なクラスとを含む群から選択される。
【0061】
R2は、好ましくは1〜24個の炭素原子を有し、最も好ましくは1〜18個の炭素原子を有するアルキル基;好ましくは2〜4個の炭素原子を有するアルケニル基;好ましくは1〜8個の炭素原子を有し、場合により窒素原子上に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する1個又は好ましくは2個のアルキル基で置換したアミノアルキル基;好ましくは1〜4個の炭素原子を有し、置換基として五または六員の複素環を有するアルキル基;好ましくは12個までの炭素原子を有するアリルオキシアルキル基;好ましくは合計2〜12個の炭素原子を有するアルコキシアルキル基;好ましくは7〜12個の炭素原子を有するアリールオキシアルキル基;好ましくは10個までの炭素原子を有するアラルキル基;またはエステルの重合を妨げない置換基を有する類似のアルキルまたはアラルキル基とすることができる。すなわち、マトリックスベース成分と添加剤とは、説明された他の基準に従って各々が選択される限りは、アクリル酸の(C1〜C24)アルキルエステル類であり好ましくは(C1〜C4)アルキルアクリレート、アクリル酸のジ(C1〜C4)アルキルアミノ(C2〜C4)アルキルエステル類、アクリル酸の(C1〜C8)アルコキシアルキルエステル類、アクリル酸の(C6〜C10)アリールオキシアルキルエステル類、アクリル酸の(C7〜C10)アラルコキシアルキルエステル類、及びアクリル酸の(C7〜C10)アラルキルエステル類からなる群から選択されるエステル類を含むことができる。コポリマー類は、1種類を超えるモノマーが所定の基から選択されるポリマー類を含むことができ、これは例えば、ポリマーが少なくとも2種類の(C1〜C24)アルキルアクリレート類のコポリマーである事例である。本発明の他のコポリマー類は、アクリレート類でもアクリレート類でなくてもよいモノマー類を含み、これは例えば、少なくとも1種類の(C1〜C24)アルキルアクリレートと少なくとも1種類の他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとのコポリマー類である。この共重合可能なモノマーは、好ましくはアルキルアクリレートが(C1〜C4)アルキルアクリレートである際に、アクリロニトリルまたはジメチルアミノエチルアクリレートでよい。
【0062】
適切なモノマー類であり、式CH2=C(R1)(COOR2)に含まれるエステル類の中には、未置換アルキルアクリレート類があり、その中でアルキル基は枝分かれまたは直鎖、環式または非環式の空間立体配置を有することができ、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、プロピル、イソプロピル及びシクロプロピルアクリレート、イソブチル、t-ブチル、n-ブチル及びシクロブチルアクリレート、ペンチル及びシクロペンチルアクリレート、ヘキシル及びシクロヘキシルアクリレート、ヘプチル及びシクロヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートを含むオクチルアクリレート類、ノニルアクリレート類、デシルアクリレート類、ウンデシルアクリレート類、ラウリルアクリレート類、ミリスチルアクリレート類、セチルアクリレート類、ステアリルアクリレート類、及びその他同様なもの;アラルキルアクリレート類、例えば、フェニルエチルアクリレート類、フェニルプロピルアクリレート類、及びその他同様なもの;アラルキルアクリレート類では、アリール基はアルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、または重合反応を妨げない類似の置換基で置換されている;アルケニルアクリレート類、例えば、アリルアクリレート類、及びその他同様なもの;アミノアルキルアクリレート類、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート、フェニルアミノエチルアクリレート類、t-ブチルアミノエチルアクリレート類、ジメチルアミノブチルアクリレート類、ジエチルアミノエチルアクリレート、及びその他同様なもの;アルキル基に置換基として複素環基を有するアルキルアクリレート類、例えば、モルホリノアルキルアクリレート類、オキサゾリジニルアルキルアクリレート類、ピペリジノアルキルアクリレート類、ジオキソラニルアルキルアクリレート類、すなわち、グルセリルアクリレートのケタール類及びアセタール類、及びその他同様なもの;イミノアルキルアクリレート類、例えば、ケチミノアルキルアクリレート類及びアルジミノアルキルアクリレート類;アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル及びアラルコキシアルキルアクリレート類、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート類、ヘキシルオキシプロピルアクリレート類、エトキシプロピルアクリレート類、プロポキシブチルアクリレート類、ヘキシルオキシヘキシルアクリレート類、フェノキシエチルアクリレート類、ベンジルオキシエチルアクリレート類、及びその他同様なもの;及びアリルオキシアルキルアクリレート類、例えば、アリルオキシエチルアクリレート、アリルオキシエトキシエチルアクリレート、アリルオキシプロピルアクリレート、及びその他同様なものがある。ジオール類のビスアクリレートエステル類、例えば、1,4-ブタンジオールとアクリル酸とのジエステルも使用できる。エステル類の重合を妨げると思われる置換基を含まない、アクリル酸の他のエステル類も適切である。上記アクリレート類のメタクリレート類も適切である。
【0063】
マトリックスベース成分は、CH2=C(R1)(COOR2)の式を有するモノマーの重合生成物とすることができ、式中、R1はHまたはCH3、R2はHまたはC1〜C8アルキルである。マトリックスベース成分は、例えばこの化学種と、上記で検討したように、R2はより大きいが、好ましくはR2中の追加の単位は約4個以下である化学種とのランダムコポリマーとすることができる。
【0064】
上記の検討において、マトリックスベース成分をアクリレート類として例示したが、これは説明のためのみであり、第1のベースポリマー成分と第2のポリマー成分とが本明細書において述べる基準を満たす限りは、任意の広く様々なベース成分を使用できる。例えば、マトリックスベース成分は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素化ポリマー類または転相技術に関して下記に説明するもののような他のポリマー成分とすることができる。上記の説明に関して、最も重要な考慮すべき事柄は、特定のポリマー諸成分の構造である。
【0065】
本発明の第2の成分は、好適な実施例においては、マトリックス成分に関して上記に説明した通りであり、加えて共重合におけるモノマーの取り込みによって親水性枝を含み、この場合、R2は親水性であり、例えばポリアルキレンオキシドである。上述のように、第2の成分は、マトリックスベース成分に良く絡み合うのに十分な分子量を持つべきであり、付加した側鎖は、第2の成分にベース成分とは異なる化学的官能基を、特に、表面で望まれる化学的官能基を与えるように選択するべきである。一つの好適な実施例においては、第2の成分は、マトリックスベース成分のモノマーを構成するモノマーとR2がポリエチレングリコールであるモノマーとを含む共重合反応により作られる。本発明のこの実施例に従ってコポリマー成分を形成するための重合に適切なモノマー類の具体的な例は、以下のものを含むが、これらに限定されるものではない。すなわち、アクリロニトリル、2-エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸メチル、ドデシルメタクリレート、酢酸ビニル、シクロヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びアクリルアミドである。
【0066】
アクリレート類は、経済的に合成できるという点で有利である。例えば、所望の化学的官能基を備えた側鎖を有するアクリレートマクロモノマーを含むアクリレート類からのランダムコポリマー添加剤のフリーラジカル重合またはアニオン重合により、ランダムな枝分かれコポリマーを生じ、このコポリマーが有する側鎖の化学的官能基の特性は、その特性の程度が側鎖を含むアクリレートモノマーの相対的な量に関連する。
【0067】
ランダムコポリマーは有利なことがあり、というのは、親水性ブロックと疎水性ブロックとを含むブロックコポリマーは水溶性になり得るからで、その理由はこれはミセル様の構造を形成でき、その中で親水性ポリマー単位のブロックはミセルの外側に偏析するからであるが、一方、類似のランダムコポリマーはミセルを形成せず、従って水溶性ではないかもしれない。
【0068】
混和性ポリマーブレンドの特定の成分を表面に偏析させることを含む本発明の技術は、射出成形ポリマー処理に適用できる。例えば、眼内レンズ、他の光学的装置、及び本質的に任意のポリマー物品は、複数の成分の混和性ブレンドを使用して、一つの成分が表面に優先的にエントロピーによって駆動される温度で、射出成形できる。射出成形または他の技術においては、ポリマーブレンドを製造し、硬化させることができる条件下では、エントロピーによって駆動された偏析は起きないかまたは限られた程度にのみ起き、物品は、さらに偏析を起こさせるのに十分な期間と温度でさらに加熱できる。
【0069】
本発明の別の態様においては、物品の表面を、所望の化学的官能基を露出するように改質し、このためには、物品が少なくとも部分的に可溶な溶媒中において、物品の分子と絡み合うことができる表面官能化枝分かれポリマーを表面に供給する。溶媒は表面で分子の薄層を溶解させ、改質枝分かれポリマーの供給後に、絡み合いが起き、続いて溶媒が蒸発する。本発明に従って作り出すことができる物品の一つの組は、表面官能化眼内レンズである。眼内レンズは外科的に患者の目に挿入し、曇ったかまたは別の損傷のあるレンズと置き換える。こうしたレンズは典型的には合成ポリマー材料で作り、そして望ましくは、生理学的に適合性のある表面コーティングを有すると思われる。レンズはPMMAから作ることができ、これはPMMAロッドから旋盤加工(lathe)できる。本発明の一態様に従って、PMMA眼内レンズの表面を、レンズと高度に相溶性のある溶媒中のPMMA/P(MMA-r-MnG)ブレンドでコートでき、溶媒は例えばテトラヒドロフラン(THF)であり、溶媒は蒸発して親水性コーティングを残す。この技術は、相溶化コーティングを生じる。別の技術では、PMMAレンズは、THF中のP(MMA-r-MnG)単独でコートできる。どちらの場合にも、溶媒はポリマーの薄膜を物品の表面で可溶化し、レンズそれ自体の中のPMMAと、添加剤中のP(MMA-r-MnG)と絡み合ったPMMAとの絡み合い及び/または添加剤がもっぱらP(MMA-r-MnG)である場合P(MMA-r-MnG)との絡み合いを生じる。従って一実施例によると本発明は、上記コーティング方法で説明されたようにして表面官能化した眼内レンズ等の光学的装置を含む。
【0070】
疎水性バルクポリマーブレンドを親水性にすることを上記で主に検討したが、本発明は、広く様々な方法で、ポリマー物品の表面特性を適応させることを可能にする。例えば、ブレンドから形成された物品の表面に存在する第2の枝分かれ成分は、物品の表面に局在化する静電反発力により剛直にされた高分子イオン(polyionic)鎖を含むことができる。物品が膜である場合、これは、水のpHレベルの変化によって膜の孔径を調整するための技術を作り出す。例えば、ベンジルグルタメートNCAは、本発明に従って作り出された膜中の枝分かれ成分の露出された官能基を規定でき、調整可能な細孔を備えた膜を作り出す。Ito, et al., J. Am. Chem. Soc., 119, 1619-1623 (1997)は、本明細書において参考のために引用するが、膜を形成した後にそのような化学種を膜の上へグラフト重合することを説明している。Mika, et al., Journal of Membrane Science, 108, 37-56 (1995)も、膜におけるイオン選択性の開示に関して、本明細書において参考のために引用する。Mika, et al.,はグラフト重合を使用している。本発明に関して、この官能基は、第1のバルク材料と第2の成分とのブレンドから偏析する枝分かれした第2の成分に与えられる。イオン交換膜も作り出すことができ、そのためには、本明細書において参考のために引用するKojima, et al., Journal of Membrane Science, 49-54 (1995)に説明されているように、キレート化官能基を含む枝分かれ成分を第2の成分として供給する。例えば、二座配位子、三座配位子、及び四座配位子(quadradentate)キレート化剤を使用できる。
【0071】
本発明に従ってポリマー物品の表面に優先的に存在する枝分かれ有枝成分の官能化は、いったん物品が作られて、枝分かれ成分が改質可能な官能基を含む時に、改質できる。例えば、下記の実施例2を参照すると、MnGはPEGメタクリレートで置換できるかもしれず、これはMMAとのフリーラジカル共重合に使用でき、官能化可能な末端基、例えば枝の末端の-OHを有する枝分かれ成分を生じる。これは様々な方法で容易に偏析後(post-segregation)官能化を可能にする。本発明のこの態様は、本発明の任意の他の態様と組合せて使用できる。すなわち例えば本発明の物品は、第1のポリマーと、第1のポリマーと相溶性でかつ第1のポリマーよりも高度に枝分かれし、容易に官能化可能な基の例えば枝の末端の-OH基を含み、物品の表面に不釣り合いに移動させられる第2のポリマーとを含むことができる。
【0072】
本発明の成分を形成するために使用する特定のタイプの重合は、厳密に重要でなわけではない。一実施例においては、アニオン重合を使用し、別の組の実施例においては、フリーラジカル重合を使用する。さらに別の組の実施例においては、カチオン重合を使用する。
【0073】
上記に述べたように、本発明はまた、膜が所望の表面特性を含むような、膜製造のための技術を提供する。比較的短い鎖の緻密層が物品の表面に得られ、これは、親水性の枝分かれによって得られる表面特性、例えば汚れ耐性を高度に適応させることが可能である。膜においては、細孔構造の制御は、環境のpHによって真直ぐになるかまたはコイルになる枝を与えることにより得られる。表面に多くの枝が存在する場合、上記に説明したように鎖末端を官能化でき、そこでは鎖は-OH等の結合官能基で終わる。キレート化剤を、金属または他の化学種を選択的に吸収するために膜表面に与えることができる。他の表面特性を選択できる。
【0074】
本発明の別の態様は、上記に説明した、第1のポリマー成分と第2のポリマー成分とのブレンドに転相を施すことを含む技術である。一実施例においては、ブレンドは最初にポリマー流体として得られ、これは典型的には、ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒に溶解させたブレンドを含み、次にポリマー流体を第2の非相溶性流体(非溶媒;例えば水)に露出させ、エマルションを形成する。第2の非相溶性流体はポリマー流体中で多孔質構造を形成し、そしてエマルションから多孔質物品が回収される。膜をはじめとする任意の様々な物品をこの方法で製造できる。物品においては、第2のポリマーは、第2のポリマー対第1のポリマーの全体の比よりも大きい比で表面に存在する。本発明に従って、膜は非常に小さい細孔を有するように形成でき、従って、逆浸透膜、限外ろ過膜、及びその他同様なものを作ることができる。本発明は、本発明の方法に従って形成でき、直径10ミクロン未満、より一般には直径1ミクロン未満、より一般には直径0.5ミクロン未満の細孔を有する膜を含み、平均孔径が直径ほぼ0.1ミクロンの細孔を有する膜を含むことができる。さらに小さいサイズの細孔を有する膜を形成でき、例えば10Åの小ささである。こうした値は、本発明の膜の最大孔径、本発明の膜の平均孔径、または組合せを定義できる。すなわち一実施例においては本発明は、平均孔径0.1ミクロン未満及び最大孔径0.2ミクロン未満等を有する膜を含む。様々な組合せが可能である。
【0075】
転相技術を使用して、様々なポリマーブレンドから様々な物品を製造できる。必要なのは、少なくとも二種類の混和性ポリマー成分を混合し、転相偏析を施すことだけである。偏析は、エントロピーによって駆動、エンタルピーによって駆動、または組合せによって駆動できる。例えば、PVDFとP(MMA-r-MnG)とのブレンド、PVDFとポリエチレンイミン枝分かれ(高分子イオン(polyionic))成分とのブレンド、PVDFとポリ(アクリル酸)側鎖を有する枝分かれ成分とのブレンド(下記の実施例13を参照されたい)、またはポリスルホンベースと枝分かれ添加剤等の第2の混和性成分とのブレンドを使用できる。
【0076】
簡単な、最初の選別試験を実行して、混和性ブレンドが本発明に従って転相に適切かどうか決定できる。一つの試験では、最初にブレンドが混和性であることを決定し、次にブレンドを最小量の溶媒中の粘性流体として得る。非溶媒(例えば水のような、沈殿させる非相溶性流体)を使用して、流体ブレンドの転相可能性を試験する。多数の穴のある研究室用プレートに、一連のポリマーブレンドを穴の底部に供給し、非溶媒を各ブレンドの上に静かに加える。代わりに、各穴の底部に非溶媒を入れてから、粘性のあるポリマーブレンドを非溶媒の頂上に静かに供給できる。非溶媒とブレンドが供給されている溶媒キャリアとの蒸発後、ポリマーブレンドのフィルムが生じる。非溶媒が置かれていたフィルムの表面の接触角の測定は、偏析が起きたかどうかを示すことができる。すなわち、非溶媒に接触している表面での接触角を測定して、スピン塗布により作製できる類似の均質ブレンドの接触角と比較する。接触角が異なる場合、表面偏析は起きたと思われ、この特定のブレンドは、転相による表面改質のための良好な候補となる。代わりにXPSを使用して、フィルムの表面を特徴付けることができる。
【0077】
上述したように、本発明に従って作り出すことができる一組の物品は、転相により形成される膜である。水処理用ポリマー膜は転相により形成でき、得られた膜をその孔径に従って分類する。水の脱塩に使用される逆浸透膜は典型的には、直径約5〜20Åの細孔を含む。コロイドと巨大分子とは、典型的に孔径約10〜1,000Åを有する限外ろ過膜を使用して水から分離される。逆浸透と限外ろ過膜は、ほとんど転相法によってのみ作製される(例えば、Loeb, et al., Advan. Chem. Ser., 38, 117, 1962; Kesting et al., Synthetic Polymeric Membranes, New York: McGraw-Hill Book Company, 1971, pages 116-157;Strathmann, et al., "A Rationale for the Preparation of Loeb-Sourirajan-Type Cellulose Acetate Membranes", J. Appl. Poly. Chem., 15, 811-28, 1971;Strathmann, et al., "The Formation Mechanism of Phase Inversion Membranes", Desalination, 21, 241-55, 1977;Strathmann, et al., "The Formation Mechanism of Asymmetric Membranes", Desalination, 16, 179-203, 1975を参照されたい)。この方法を使用して製造された膜は一般的に、高度に多孔質の100〜200ミクロンの下層の上の、緻密な0.1〜1ミクロンの表面層からなる非対称多孔質構造を有する(Strathmann, in Synthetic Membranes: Science Engineering and Applications, Bungay, P. M., et al., eds. Dordrecht, The Netherlands: Kluwer Academic Publishers, 1983, page 1)。膜の分離特性は、表面すなわち「活性」層における孔径分布により決定される。多孔質の下層は機械的支持体となる。
【0078】
転相によるポリマー膜の連続製造用の装置は周知である。一般にこの段階は、ポリマーを溶媒に溶解させて、約10〜約30重量%のポリマーを含む溶液を形成する段階を含む。少量の非溶媒と有機または無機塩類を時々、しかし常にとは限らないが、溶液に加える。次に溶液をドクターブレード下で、移動不織ポリエステルまたはMylarTMベルトの上へキャストする。しばしば、このベルトは完成した膜の永久的な支持体となる。キャストフィルムの厚さは、典型的には100と500ミクロンとの間である。溶媒の部分蒸発は、させてもさなくてもよい。次にフィルムを非溶媒に浸漬し、非溶媒とはすなわち、ポリマーに非相溶性の流体(通常水)であり、ポリマーのゲル化を生じて非対称多孔質構造を形成する。非溶媒の温度は典型的には約-10と約20℃との間である。膜を第2の水浴中で熱処理して、孔収縮を促進できる。熱処理温度は通常、約50と約90℃との間である。次に膜を濯いでから、ロールに巻取る。
【0079】
ポリマー膜形成についての幾つかの機械論的理論が、文献中に存在する。特に包括的な理論は、Strathmann, et al.,により提出されている(Desalination, 21, 241-55; Desalination, 16, 179-203、両方とも上記で参照)。この理論によると、膜製造過程における凝析段階最中の最初の膜形態の形成は、基本的に相分離過程である。最初は均質なキャスティング溶液は、非溶媒をゲル化浴から吸収するにつれて不安定になる。非溶媒の局所濃度が臨界値を超えると、均質なキャスティング溶液はポリマーの豊富な相とポリマーの乏しい相とに分離し、ポリマーの乏しい相は最後には膜のうちの流体の充填した細孔になる。
【実施例】
【0080】
本発明の以上の及び他の実施例の機能と利点とは、下記の実施例からより十分に理解されよう。以下の実施例は、本発明の恩典を示すものであり、本発明の完全な範囲を例示するものではない。
【0081】
実施例1(比較):PEO/PMMAポリマー物品の合成と特徴付け
PEO/PMMAブレンドを作り、具体的に、222,000 g/モルのPMMA-d8中の50,100 g/モルPEOと2、5、10、及び20重量%のPEOとのブレンドだった。試料を190℃で2週間アニーリングした。この処理に続いて、中性子反射率(NR)データによって、各試料の表面では、各表面から約50Å以内でPEOが実質的に枯渇することが示された。これはSakellariou, et al.,(上記で参照)の試料が十分にアニーリングされなかったことと、また、より低いエネルギーを持つポリマー成分はエンタルピー的なエネルギーにより駆動されると表面に偏析することを示す。
【0082】
実施例2:枝分かれした親水性アクリレート添加剤の合成
メタクリル酸メチル(MMA)モノマー、CH2C(CH3)(CO2CH3)、をAldrich Chemicalから購入し、メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート(MnG)マクロモノマー、CH2C(CH3)[CO2(CH2CH2O)nCH3]、マー毎に約n=9のエチレンオキシド単位を有する(数平均分子量、Mn〜400 g/モル)、をPolysciences, Inc.から購入した。枝分かれした親水性添加剤を、アニオン重合技術を使用して、MMAとMnGとのランダム共重合により作製した。得られたコポリマーであるP(MMA-r-MnG)は、200単位長さのメタクリレートバックボーンに沿って統計分布した約40のポリ(エチレンオキシド)(PEO)側鎖を有し、分子量Mn=40,700と多分散性(polydispersity)Mw/Mn=1.26(式中、wは重量平均を意味する)であり、これはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と光散乱とを組合せて測定して得られた。MMAのバックボーンへの取り込み(MMA画分は、核磁気共鳴(NMR)分光法から、質量で(by mass)f〜0.5である)は、コポリマーがポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)マトリックスに固定されるのを助け、かつ、コポリマーを非水溶性にする。
【0083】
水とジヨードメタンとの初期接触角から、このランダムコポリマーの表面張力は、46.0±0.9 mJ/m2であり、本研究で使用したPMMA(43.6±1.1 mJ/m2、Polysciences, Inc.から購入し、Mn=330,000 g/モル及びMw/Mn=1.11)と、PMMA-d8(43.9±0.9 mJ/m2、Polymer Laboratoriesから購入し、Mn=314,000 g/モル及びMw/Mn=1.06;重水素化を、中性子散乱実験での対比のために使用した)より高いが、純PEOより低いことが分かった。このコポリマーはより高いエネルギーを持つ成分なので、PMMAとブレンドした際のこの化学種の表面での濃厚化は、エントロピーに由来し、エンタルピーに由来するものではないと予想される。
【0084】
実施例3:相溶性高エネルギー添加剤と低エネルギーマトリックスベース成分との絡み合ったブレンドを含むポリマー物品の作製
相溶性高エネルギー添加剤P(MMA-r-MnG)と低エネルギーマトリックスベース成分(PMMA-d8;重水素化を、中性子散乱実験での対比のために使用した)との絡み合ったブレンドを含むポリマー物品の試料を作製するために、様々なブレンド組成物をトルエンから直径10 cmのポリッシュしたシリコンウェーハの上へスピン塗布し、約1000Å厚さのフィルムを作り出した。フィルムを次に、真空中、190℃で7日間アニーリングして、平衡に達しさせた。小角中性子散乱(SANS)測定を、314,000 g/モルPMMA-d8と40,700 g/モルP(MMA-r-MnG)との50%ブレンドに実行し、その混和性を直接測定した。得られた相互作用パラメータは、PEOとPMMA-d8との間の相互作用パラメータよりも高いが、PMMAとPMMA-d8との間のものよりも低く、ブレンドが混和性であることを裏付けた。
【0085】
実施例4:実施例3のポリマー物品の特徴付け
中性子反射率(NR)を使用して、実施例3の混和性ブレンドにおける表面偏析の程度を特徴付けた(曇点測定とSANSにより示す)。図4は、2、5、10、及び20 wt%の枝分かれしたP(MMA-r-MnG)添加剤を含む試料フィルムに関するNRデータ(波長λ=2.35Åの単色中性子を用いて中性子反射率計で測定した)を示す。NRデータは、試料表面に垂直な波動ベクトルkzの関数として丸で示す。データは、典型的な散乱長密度(b/V)のグラフ(20%試料について挿入図で示す)に適合し(沿って)、試料中の任意の距離zに存在する材料のタイプと量とによって決まる。挿入図は、鎖末端が材料境界に局在化する枝分かれ添加剤の、界面での予想される立体配置を描く。
【0086】
このデータに適合させて、図5に示す容積分率グラフを生じる。図5は、試料厚さL約1000Åで正規化した容積分率のグラフであり、これはNRデータへ適合させて直接に引き出され、フィルムの露出された表面の添加剤による被覆率を左軸に、基板の添加剤による被覆率を右軸に示す。20%の添加剤を含むフィルムは、約60%の表面被覆率と100%の基板被覆率を示す。
【0087】
図5のデータは、枝分かれコポリマー添加剤が表面と基板との両方に偏析する傾向を証明する。全ての場合に、P(MMA-r-MnG)の界面への完全な偏析が起きる。
エントロピーにより駆動される高エネルギー枝分かれ成分の偏析はまた、P(MMA-r-MnG)添加剤はMMA-d8よりも高い表面張力を有するが、PMnGのものよりもわずかに低いという事実によっても示される。表2は、様々な液体(各々、W=水、DIM=ジヨードメタン、TP=リン酸トリクレシル)の、330、000 g/モルPMMA、314,000 g/モルPMMA-d8、19、900 g/モルPMnG、及び40、700 g/モルP(MMA-r-MnG)に対する接触角を示す。
【0088】
【表1】

【0089】
二つの液体の各組合せに関して、表1の接触角情報から計算した表面張力を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例5:実施例3の試料の親水性と耐久性との証明
親水性に関して試験するために、前進接触角(advancing contact angle)を、水中に指定の時間浸漬した後に測定した(表1)。PMMAの場合接触角は、水への露出時間の関数として一定のままである。
【0092】
【表3】

【0093】
純P(MMA-r-MnG)の接触角は、最初はPMMAのものに似ているが、表面が水を吸収するにつれて、最初に鋭く低下し、次に初期値よりも約10°低い状態で安定化する。こうした値は約80分で安定化し、4日間の浸漬の後にも変化しないままだった。十分に水和すると、枝分かれ材料による60%表面被覆率のフィルムはまた、純PMMAよりおおよそ10°低い接触角を示す。
【0094】
乾燥後、全ての試料の接触角はその初期値に戻り、測定は繰り返し可能であり、表面の物理的安定性を証明している。
実施例6:厚いポリマー物品の合成と特徴付け
上記実施例で説明したようにしてポリマー物品をブレンドから合成したが、最終厚さが約2,000Åになるようにスピン塗布した。図6は、PMMA-d8中の2、5、10及び20%P(MMA-r-MnG)の厚いブレンドの実験的及び理論的反射率を示し、図7は、こうしたブレンド中のP(MMA-r-MnG)の容積分率を示し、これらは、全てのブレンド組成物において、より親水性の高い枝分かれ成分により試料の両方の界面が完全に被覆され、しかもこの成分が物品のバルクから大幅に枯渇しないことを示す。
【0095】
こうしたフィルムでは、枝分かれした高エネルギーランダムコポリマー添加剤の完全な表面被覆が観察され、また、物品中の添加剤の量に関係なく表面偏析は添加剤の単相に限定されていた。このことは、添加剤はベースPMMA成分と非常に相溶性があることを証明しており、単相を作り出すのに必要なレベルを超える添加剤充填レベルでは、過剰の添加剤は必然的にバルク中に存在するので、従ってこれはバルク相溶性である。
【0096】
実施例7:エントロピーにより駆動されて表面偏析したポリマー物品の水和
P(MMA-r-MnG)/PMMA-d8とP(MMA-r-MnG)/PMMAブレンドを各々、H2OとD2Oで水和した。フィルムを上記に説明したようにして形成し、厚さ約800Åにした。特に、314,000 g/モルPMMA-d8中の40,700 g/モルP(MMA-r-MnG)の20%ブレンドを、並びに330,000 g/モルPMMAを使用して同様のブレンドを形成した。反射率と散乱長密度のグラフを、水和の前後並びに再乾燥後に得た。図8の容積分率のグラフは両方の系を示している。27%の平衡含水率が表面で見られ、これはエチレンオキシド単位につきおおよそ3個の水分子に相当する。このことは、P(MMA-r-MnG)コポリマー類は親水性添加剤であり、表面はPMMAとのブレンド中のこうした添加剤で濃厚化されていることを示す。バルク特性は本質的に元のままであり、すなわち、ガラス状で透明なポリマー材料である。
【0097】
こうした結果はポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)に匹敵し、PHEMAはソフトコンタクトレンズの主要な成分であり、純PMMAより10°低い接触角を有し、平衡含水率は約40%である(Garbassi, et al., Polymer Surfaces: From Physics to Technology, John Wiley & Sons, West Sussex, 1994)。
【0098】
実施例8:実施例3のポリマー物品のタンパク質吸着の研究
実施例3におけるようにして直径1 cmの両面ポリッシュしたシリコンウェーハ上に作製した、 800Å厚さの試料を用いて、タンパク質吸着研究を実行した。こうしたフィルムを、緩衝水溶液(0.01 Mリン酸塩と0.15 MNaClでpH=7.0)中の未標識と14C標識ウシ血清アルブミン(BSA)(各々、Sigma Chemical Co.とAmerican Radiolabeled Chemical Inc.から得た)との混合物に露出させ、6時間振とうして平衡させた。処理した試料の放射能の程度を溶液のものと比較して、表面に不可逆的に吸着したBSAの量を決定した(図9)。枝分かれランダムコポリマー添加剤とPMMAとを含む本発明のブレンドの表面は、純PMMAと比較して、タンパク質吸着が低減されていることを証明している(比較のため、全てのタンパク質吸着を有効に抑制する純コポリマー添加剤のタンパク質吸着の実証例を示す)。20%P(MMA-r-MnG)を用いたフィルムのBSA吸着の程度は、NRにより示されるこの材料の60%表面被覆率と矛盾がない。
【0099】
実施例9:厚いポリマー物品のタンパク質吸着の研究
上記に説明したようにして、しかし厚さを約2000Åとして、物品のタンパク質吸着研究を実行した。具体的には吸着研究を、両面ポリッシュしたシリコンウェーハ(Semiconductor Processing Co.)上で、HSA(68,000 g/モル)とウマシトクロムc(ECC、12,000 g/モル)(両方ともSigmaから得た)を使用して実行した。タンパク質吸着耐性を、異なる分子量を持つ二つのタンパク質を使用して調べ、この結果を、グラフトしたPEO表面の場合、より低い分子量のタンパク質は、有効なタンパク質吸着耐性を持つためには、より高いグラフト密度が必要であると報告している最近の研究([133])と比較した。試料を0.01 Mリン酸緩衝液(PBS;pH=7.4)中の125I標識と未標識タンパク質との混合物に露出させた。3.5時間後に、試料を塩類溶液で濯いで、各試料の放射能の程度を測定した。図10と11は、各々HSAとECCに関する結果を示す。両方の場合に、分子量に関係なく、純P(MMA-r-MnG)とP(MMA-r-MnG)濃厚化PMMA表面とは、純PMMA試料と比較してほとんど完全にタンパク質吸着を抑制し、P(MMA-r-MnG)/PMMAブレンドの表面は、中性子反射率に示すように、確かに純P(MMA-r-MnG)に似ていることを示している。
【0100】
実施例10:細胞接着の研究
フィルムを上記に説明したようにして作製し、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO LA)に露出させた。細胞を10%CO2環境中、37℃でインキュベートし、トリプシン処理して、遠心分離により集めた。4時間さらにインキュベートした後、PMMA上で細胞は強く吸着され、広がった(図12)が、純P(MMA-r-MnG)(図13)及びP(MMA-r-MnG)/PMMAブレンド(図14)上でのCHO LA吸着は、限定されたもので、広がりは無視できた。
【0101】
こうした細胞研究とタンパク質吸着実験とは、NRと接触角測定と一致し、ブレンドの表面は枝分かれ添加剤で完全に被覆されていることを示す。
実施例11:枝分かれした親水性添加剤の表面への選択的偏析により親水性表面を有する膜の作製
上記に説明したようにして、枝分かれした親水性添加剤であるP(MMA-r-MnG)を合成し、これは200単位長さのメタクリレートバックボーンに沿って統計分布した約40のPEG側鎖を有した。ポリマー膜を、この材料とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とから転相キャスティングにより作製した。P(MMA-r-MnG)とPVDFとを、N,N-ジメチルホルムアミド中に質量で10:90の比で共溶解させた。この溶液をガラスプレート上へキャストし、水中で室温で凝析させ、質量で10%のP(MMA-r-MnG)、3.8モル%P(MMA-r-MnG)に相当する、を含む膜を生じた。膜を次に凍結乾燥により脱水した。凍結乾燥した膜は、走査型電子顕微鏡検査により高度に多孔質であることが示された。X線光電子分光法測定を凍結乾燥した膜に行って、16モル%P(MMA-r-MnG)の表面に良く似た(near-surface)組成物を示した。この表面に良く似た組成物は、約25体積%の親水性PEGセグメントに相当する。
【0102】
実施例12:(予言)ポリマーブレンド用のキレート化官能基の合成
図15と16とは、水銀(II)をキレート化できる第2の枝分かれ成分の合成のための化学的経路を示すスキーマである。この合成は、スチレン芳香環が求電子置換を受けやすいことを利用する。枝分かれ成分III(図16)は、PVDFとの相溶性のためにメタクリル酸メチルバックボーンを有する。各側鎖は、約10のスチレン繰り返し単位を有し、これに、水銀(II)に対し高度に選択性のあるチアゾリン基が結合している。
【0103】
メタクリル酸メチル停止(terminated)ポリスチレンマクロモノマー(I)(図15)を作製するために、Schulz, et al., "Graph Polymers With Macromonomers, I, Synthesis From Methacrylate - Terminating Polystyrene", J. Appl. Poly. Sci. 27. 4773-86, (1982)のアニオン手順を使用する。スチレンモノマーを、過剰の水素化カルシウム上で蒸留により精製する。重合開始剤は、1,1-ジフェニルエチレンと連結したsec-ブチルリチウムである。反応はベンゼン中で実行し、これから、淡黄褐色-オレンジ色が維持されるまで、sec-ブチルリチウムを注射によってゆっくり加えて、不純物を滴定する。精製したスチレンモノマーとsec-ブチルリチウムとを次に、以下の関係に従って反応器に供給する。
【0104】
重合度=[モルモノマー]/[モル重合開始剤]
重合反応は、30分間、40℃、窒素下で実行する。反応器温度を次に20℃に下げ、生きている(living)スチリルアニオンを、過剰の液体エチレンオキシドを反応器に導入することでキャップする。エチレンオキシドアニオンの形成は、スチリルアニオンのオレンジ色が消えることで示される。次に反応器温度を40℃に上げ、鎖を停止するために、過剰のメタクロイルクロリドを加える。メタクリル酸メチル停止ポリスチレンマクロモノマーIを回収するために、このベンゼン溶液をメタノールに滴下する。
【0105】
生きているスチリルアニオンをメタクロイルクロリドで直接停止させることは可能だが、Schulz, et al.,によると、これは、極めて塩基性の高いスチリルアニオンがメタクロイルクロリドのカルボニルまたはアルファ水素を攻撃することにより、副反応を生じることが分かっている。こうした反応を避けるために、最初にスチリルアニオンを、より塩基性の低いアルコキシアニオンを提供するエチレンオキシドで末端キャップ(end cap)する。
【0106】
櫛形ポリマーII(図15)を、標準的なアニオンまたはフリーラジカル方法を使用して、ポリスチレンマクロモノマーとメタクリル酸メチルとのランダム共重合により得る。できる限り多くのポリスチレン枝を有し、同時にPVDFとの相溶性を保持することが望ましい。第1の櫛形ポリマーを、約20モル%のポリスチレンマクロモノマーを用いて作る。PVDFとの相溶性を調べるために、IIとPVDFとのブレンドの薄膜をスピン塗布する。相分離は薄膜の曇りを生じる。薄膜はまた、光学顕微鏡で相分離を調べることができる。
【0107】
水銀選択性のチアゾリン基を用いたIIの官能化(図16)を実現するために、Sugii, et al.,("Preparation and Properties of Macroreticular Resins - Containing Thiazole and Thiazoline Group" Talanta, 27, 627-31, 1980)、彼等はこの基で官能化した架橋済みポリスチレンビーズを作製した、に従って二段階手順を使用する。櫛形ポリマーIIをまず適切な溶媒中に30〜40℃で溶解し、それに微粉砕した無水塩化アルミニウムを加える。クロロアセチルクロリドを次に加え、反応器を30〜40℃で6時間撹拌する。クロロアセチルクロリドの求電子芳香族置換は、周知のフリーデル-クラフツアシル化により起きる。生成物を単離するために、反応混合物を氷水中に注ぎ、置換したアシル基により形成された複合体から、ポリマーを沈殿させ、AlCl3触媒を遊離させる。反応の完了を、臭化カリウム錠剤で赤外(IR)分光法により検証する。櫛形ポリマーIIは、特性吸収帯を1670 cm-1(νc=o)と650 cm-1(λC-C1)に有する[105]。
【0108】
官能化手順の第2段階では、ポリマーをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に再溶解させる。過剰のN,N-ジメチルチオ尿素を次に加え、混合物を80℃で6時間撹拌する。官能化された櫛形ポリマーIIIが、次に反応混合物をメタノールに滴下することで沈殿する。反応の完了は、特性IR吸収帯を2760 cm-1(νN-CH3)と1620 cm-1(νC=N)で観察することで確認できる。
【0109】
ポリマーIIIを水銀選択性の膜添加剤として使用できる。Sugii, et al.,(上記)は、架橋済みポリスチレンをチアゾリン基で官能化し、カラム吸着剤として使用して、高塩類溶液から水銀を単離するのに非常に有効であることを見い出した。吸着剤は水銀に対して高度に選択性があった。他の金属イオン類、例えば、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、バリウム、鉛、及びウラン(IV)の存在は、水銀のキレート化を妨げなかった。同様に、中性塩類、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウムは、水銀の吸着に影響がなかった。水銀は全てのpHで有効にキレート化されたが、流入液中の塩酸の存在は、迅速な吸着が必要な際には望ましいことが分かった。水銀は、0.01 M塩酸または5%チオ尿素を含む過塩素酸の溶液で洗浄することで吸着剤から有効に回収された。吸着剤は、1〜5 Mの塩酸、過塩素酸、硝酸、及び水酸化ナトリウムの溶液中で安定であることが分かり、そしてその水銀吸着容量は、これらの溶液による処理に影響されなかった。
【0110】
その上、チアゾリン官能化ポリスチレン類は、未官能化ポリスチレン類と比較して親水性であることが分かった。ポリスチレン吸着剤材料を水中に浸漬し、減圧下にしばらく保ち、次に大気圧下で24時間放置した。次に材料を遠心分離して重量測定し、100℃で乾燥し、再び重量測定した。水回復は、重量の差を計算して、チアゾリン官能化ポリマーで1.14 g/gであり、一方、未官能化ポリマーでは重量測定装置の検出可能限界未満だった。
【0111】
従って、枝分かれポリマー成分IIIは、その側鎖の親水性によるエンタルピー的な駆動力と、その枝分かれした性質とチアゾリン基の剛性とによるエントロピー的な駆動力との両方の結果として、ポリマー膜中で表面偏析できる。こうした駆動力が、大幅な表面偏析を促進するのに十分でない場合、ポリ(エチレングリコール)側鎖が、IIの重合の最中にメトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートマクロモノマーを加えることにより、メタクリレートバックボーンに取り込まれる。
【0112】
実施例13:(予言)ポリマーブレンド用のゲーティング官能基の合成
図17と18は、環境感受性細孔ゲーティング用の枝分かれポリ酸である第2の成分の合成スキーマである。成分VIは、PVDFとの相溶性と非水溶性とのために、メタクリル酸メチルバックボーンを有する。弱く帯電したポリ(アクリル酸)(PAA)側鎖は膜表面に局在化し、文献で報告されたグラフト化PAA鎖とほぼ同じ細孔ゲーティングのための手段となる。この成分の表面偏析は、PAAの水中への溶解度によるエンタルピー的な駆動力と、成分の枝分かれ構造によるエントロピー的な駆動力との両方の結果として生じることができる。
【0113】
枝分かれ成分VIの合成方針は、側枝(side branch)はマクロモノマーとしてイオン的に作製され、マクロモノマーはメタクリル酸メチルと反応して櫛形構造を得るという点で、水銀キレート化成分IIIのものとほぼ同じである。しかしながら、そのイオン的性質により、アクリル酸の直接アニオン合成によりPAAを与えるのは可能なではない。従って、側枝を最初にポリ(tert-ブチルアクリレート)(PtBA)として合成する。いったん櫛形ポリマーが得られたら、側鎖上のtert-ブチルエステルを加水分解して、親水性PAA類似物を与える。
【0114】
メタクリル酸メチル停止PtBAマクロモノマーIVを作製するために、Kubo et al., ("Solubilization of Peptides in Water and Hexane: Synthesis of Peptide - Terminated Poly (tert-butyl acrylate) and Poly (acrylic acid) via Living Anionic Polymerization, Macromolecules, 28, 838-43, 1995)に従った手順を使用する。重合開始剤は、バックバイティング(back-bitng)と停止反応とを防ぐために1,1-ジフェニルエチレンと連結したsec-ブチルリチウムである。sec-ブチルリチウムを注射器によって、0.7%LiClを含む蒸留したTHFに加える。次に1,1-ジフェニルエチレンを加え、深紅色を生じる。次に反応混合物を-78℃に冷却して、tert-ブチルアクリレートを注射器を使用して滴下する。モノマーの添加は、淡黄色への色の変化により示される。30分後、反応を停止するために、過剰のメタクロイルクロリドを加える。反応混合物を室温に暖めてから、PtBAマクロモノマーIVを回収するために、このTHF溶液をメタノールと水(体積で1:1)の混合物に滴下する。
【0115】
櫛形ポリマーVを、標準的なアニオンまたはフリーラジカル方法を使用して、DMF中のPtBAマクロモノマーIVとメタクリル酸メチルとのランダム共重合により得る。ギ酸中60℃でtert-ブチル基を加水分解することによりPAAを与えるために、PtBA側鎖を次に保護解除する。PtBAのポリ酸への転化は、1H NMRを使用して、1.4 ppmのtert-ブチルピークが消えるのを観察することにより確認できる。PtBAのtert-ブチル基の加水分解は、PMMAのメチル基の加水分解よりも容易に起きると予想されるが、バックボーンの多少の加水分解が起きることがある。これを1H NMRを使用して調べ、もし必要なら、異なる加水分解条件を使用してバックボーンのPAAへの転化を防ぐ。
【0116】
側鎖長の最初の選択は、次の通り成し遂げることができる。細孔ゲーティングは、PAA側鎖が高pHでコイルを解いて、ほぼ完全に伸長した立体配置になり、その結果それが膜細孔をふさぐことにより成し遂げられる(Iwata, et al., "Preparation Properties of Novel Environmental - Sensitive Membranes Prepared by Graft Polymerization Onto a Porous Membranes", J. Memb. Sci, 38, 185-99, 1988)。逆浸透における膜細孔は典型的には、10と100Åとの間に分布する。完全に伸長した鎖長約25Åで、かなり細孔の制限を生じることができる。完全に伸長した全トランスPAA鎖の理論的長さは、繰り返し単位につき2.5Åである。従って最初の重合度として、おおよそ10アクリル酸繰り返し単位を使用する。この最初の選択は、他の膜の孔径分布が特徴付けされるにつれて洗練される。側鎖長と頻度とは、櫛形成分VIが非水溶性のままでいるような要件により限定される。
【0117】
実施例14:転相による親水性表面を備えた膜の作製
膜を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中の10%ポリマーの溶液から作製した。溶液を室温で撹拌して混合した。次にこれをピペットで、縁部の周囲に隆起したリップを有するガラスプレートの上へキャストし、その後ガラスプレートを直ちに脱イオン水(dW)の浴に室温で浸漬した。膜を、ガラスプレートからの分離を観察した後に、凝析浴中に約10分置いた。次にこれを取り出して、dWの第2の浴中で濯いだ。幾つかの膜を、この目的のために組立てた装置中でdW中に浸漬している間に、熱処理した。装置は、室温から沸騰までの範囲で一定温度(±1℃)を維持できる。電子顕微鏡、XPS、またはガス吸着測定用に膜を凍結乾燥した。
【0118】
作製された膜の走査型電子顕微鏡検査(SEM)研究の写真複写物を、図19と20に示す。図19は、100%PVDFから作製された膜のSEM顕微鏡写真の写真複写物であり、図20は、80%PVDFと20%(重量)P(MMA-r-MnG)とのブレンドから作製された膜のSEM顕微鏡写真の写真複写物である。本発明のブレンドを含む図20の膜ははるかに多孔質であり、従って同じ孔径でより高い流量を容易にすることが分かる。
【0119】
実施例15:(予言)親水性表面を有する膜の作製
合成技術を実施例14に説明したようにして実行するが、ただし以下のように修正する。
キャスティング溶液に、より高いポリマー濃度(約20%)を使用する。DMF中のPVDFの溶解度は、〜3%LiClを加えることにより改良される(Munari, et al., "Casting and Performance of Polyvinylidene Fluoride Based Membranes", J. Memb. Sci., 16, 181-93, 1983)。代わりに、キャスティング溶液中に揮発性の共同溶媒を使用して、膜特性を最適化する。キャストフィルムを凝析剤に浸漬する前にこの共同溶媒を蒸発させることで、表面層の緻密化が得られる。加えて、膜をドクターブレードを使用してキャストすることで、フィルム厚さと均一性とをより良好に制御する。
【0120】
実施例16:膜の特徴付け
X線光電子分光法(XPS)測定を実行して、上記に説明したようにして製造した膜の「水側」と「ガラス側」を調べた。すなわち、水側での第2の成分の表面偏析を、ガラス側と比較して調べた。
【0121】
XPSの結果は、熱処理がなくてさえ、枝分かれ成分P(MMA-r-MnG)の大幅な表面偏析が膜の「水側」上で起きることを明らかにしている。膜の沈殿とゲル化との最中に膜の活性層中に存在する、水の急峻な濃度勾配の影響を考慮すれば、この結果は合理的に説明できるかもしれない。この濃度勾配は、ゲル化の直前にキャスティング溶液に指向するポリマーの巨視的流束を生じさせる。拡散に関するオンサーガーの関係によると、この流束はポリマーの化学ポテンシャルの勾配に比例し、同様に水の濃度勾配に比例する。実際この流束こそが、緻密表面層を形成する原因となる。
【0122】
しかしながらポリマーブレンドの場合は二つの異なるポリマー成分があり、その各々は化学ポテンシャルについて異なる勾配を経験し、従ってキャスティング溶液へ向かう異なる流束を経験する。考慮中のブレンドの場合は、P(MMA-r-MnG)はPVDFよりも急峻でない化学ポテンシャル勾配を経験すると予想され、これはPEG側鎖の水への溶解度とPVDFの極度の疎水性とが原因である。従って、ゲル化の前にキャスティング溶液に向かうP(MMA-r-MnG)の巨視的流束は比較的遅く、凝析したフィルムの緻密表面層中でP(MMA-r-MnG)が濃厚化されると予想される。
【0123】
膜の「ガラス側」では状況は異なり、というのは、ポリマーの沈殿時には、水の巨視的濃度勾配が事実上無いからである。従って、水の濃度における微視的勾配の結果として、凝析の前にポリマーの微視的流束のみが予想される。XPSの結果は、「ガラス側」上では親水性添加剤成分の適度の表面濃厚化のみを示しており、これはまさに、沈殿時に化学ポテンシャルの巨視的な勾配が無いことに基づいて予想されるかもしれないものである。
【0124】
90℃の水中で膜の熱処理を行うと、XPSに示すように、枝分かれ成分の表面偏析の程度が増大する結果になる。
当業者であれば、本明細書において列挙した全てのパラメータは模範例とすることを意図したものであることと、実際のパラメータは、本発明の方法と装置とを使用する具体的な用途によって決まることとは容易に了解できよう。従って、上述の実施例を例としてのみ提出することと、添付の請求の範囲とその同等物の範囲内で、本発明は具体的に説明したものとは別の方法で実施できることとは理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1は、物品中に固定された疎水性部分と物品の表面に面する親水性部分とを有する低分子量成分により改質された、本質的に疎水性の従来技術のポリマー物品の表面の断面の略図である。
【図2】図2は、物品の表面に存在し、物品のポリマー鎖に絡み合い、相溶性でより疎水性でない枝分かれ成分を有する、本質的に疎水性の本発明のポリマー物品の略図である。
【図3】図3は、本発明の枝分かれ成分の概略を示す。
【図4】図4は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と、メタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(P(MMA-r-MnG))とのランダム共重合により作製された枝分かれ親水性添加剤とのブレンドの中性子反射率(NR)データを示す。
【図5】図5は、図4で示したデータから引き出した容積分率のグラフを示す。
【図6】図6は、PMMA-d8中の2、5、10及び20%P(MMA-r-MnG)の厚いブレンドの実験的及び理論的反射率を示す。
【図7】図7は、PMMA-d8との2、5、10及び20%の濃厚ブレンド中のP(MMA-r-MnG)の容積分率を示す。
【図8】図8は、H2OまたはD2Oで水和したP(MMA-r-MnG)/PMMA-d8またはP(MMA-r-MnG)/PMMAブレンドの容積分率のグラフを示す。
【図9】図9は、各々、PMMA、P(MMA-r-MnG)及びこの二つのブレンドのタンパク質吸着を示す。
【図10】図10は、P(MMA-r-MnG)、P(MMA-r-MnG)/PMMAブレンド、及びPMMAの厚いポリマーフィルムの表面の上に不可逆的に吸着したHSAの量を示す。
【図11】図11は、P(MMA-r-MnG)、P(MMA-r-MnG)/PMMAブレンド、及びPMMAの厚いポリマーフィルムの表面の上に不可逆的に吸着したECCの量を示す。
【図12】図12は、PMMA上のCHO LA細胞の顕微鏡写真の写真複写物である。
【図13】図13は、P(MMA-r-MnG)上のCHO LA細胞の顕微鏡写真の写真複写物である。
【図14】図14は、PMMA中のP(MMA-r-MnG)の20%ブレンド上のCHO LA細胞の顕微鏡写真の写真複写物である。
【図15】図15は、金属イオンをキレート化できる枝分かれポリマー成分の合成の化学的経路の第1の部分を示すスキームである。
【図16】図16は、金属イオンをキレート化できる枝分かれ成分の合成の化学的経路の第2の部分を示すスキームである。
【図17】図17は、環境感受性細孔ゲーティング(pore gating)のための枝分かれポリ酸成分の化学的合成の第1の部分のスキームである。
【図18】図18は、環境感受性細孔ゲーティングのための枝分かれポリ酸成分の化学的合成の第2の部分のスキームである。
【図19】図19は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から転相により作製された膜(比較)の走査型電子顕微鏡写真(SEM)像の写真複写物である。
【図20】図20は、80%PVDFと20%(重量で)P(MMA-r-MnG)との絡み合ったブレンドから転相により作製された膜のSEM像の写真複写物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリマー成分と、室温で該第1のポリマー成分と相溶性であるメタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとのコポリマーを含む第2のポリマー成分との、絡み合ったブレンドを含む、表面およびバルクを有する物品であって、前記第2のポリマー成分は、第1のポリマー成分よりも親水性であり、かつ、前記第1のポリマー成分に対して前記物品のバルク中における前記第2のポリマー成分対前記第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい比で前記物品の前記表面に存在する、前記物品。
【請求項2】
前記物品は多孔質膜を定義する、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記第1のポリマー成分は相対的により低い凝集エネルギーを持つポリマー成分であり、前記第2のポリマー成分は相対的により高い凝集エネルギーを持つポリマー成分である、請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
前記第1のポリマー成分は本質的に疎水性であり、前記第2のポリマー成分は前記第1のポリマー成分よりも親水性である、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記第1のポリマー成分と前記第2のポリマー成分の各々は水に親和性を有し、前記物品の前記表面は、前記物品のバルク中の前記第1と前記第2のポリマーの全体の平均水親和性よりも大きな水親和性を有する、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記第2のポリマー成分は、前記第1のポリマー成分に対して前記物品中における前記第1のポリマー成分対前記第2のポリマー成分の全体の比よりも大きい比で前記物品の前記表面に存在する、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
少なくとも前記第2のポリマー成分はアクリル性ポリマーである、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記第1と前記第2のポリマー成分の各々はアクリル性ポリマーである、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
前記第1と前記第2のポリマー成分の各々は非水溶性である、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品。
【請求項10】
各々非水溶性の少なくとも第1と第2のポリマー成分の混和性ブレンドを提供するステップと、前記成分を相偏析させて、コアと該コアよりも親水性の大きい表面とを有する多孔質膜を形成するステップと、を含む方法であって、ここで前記第1の成分は本質的に疎水性であり、メタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとのコポリマーを含む前記第2の成分は前記第1の成分よりも親水性である、前記方法。
【請求項11】
第1の相対的により低い凝集エネルギーを持つポリマー成分と、相対的により高い凝集エネルギーを持ち、室温で前記第1のポリマー成分と相溶性である、メタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとのコポリマーを含む第2のポリマー成分との流体ブレンドを提供するステップと;
該ブレンドを硬化させて、表面を有するポリマー物品を形成するステップと;
を含む方法であって、ここで前記第2のポリマー成分は、前記第1のポリマー成分に対して前記物品中における前記第2のポリマー成分対前記第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい比で前記物品の前記表面に存在する、前記方法。
【請求項12】
界面化学的官能基を有するポリマー膜を作る方法であって:
第1のポリマー成分と、化学的官能基を含み、室温で前記第1のポリマー成分と相溶性である、メタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとのコポリマーを含む第2のポリマー成分とのブレンドを含むポリマー流体を提供するステップと;
前記ポリマー流体に転相を施し、そして前記第1と前記第2のポリマーのブレンドであって、前記第2のポリマーは前記第1のポリマーに対して前記物品中における前記第2のポリマー対前記第1のポリマーの全体の比よりも大きい比で前記物品の表面に存在する、前記ブレンド、を含む物品を回収するステップと;
を含む方法。
【請求項13】
界面化学的官能基を有するポリマー膜を作る方法であって:
第1のポリマー成分と、室温で前記第1のポリマー成分と相溶性である、メタクリル酸メチルとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとのコポリマーを含む第2のポリマー成分とのブレンドを含むポリマー流体を提供するステップと;
前記第1と前記第2の成分に非相溶性の流体に前記ポリマー流体を曝露させることによりエマルションを形成させ、そして前記非相溶性流体に前記ポリマー流体中でエマルションを形成させるステップと;
前記第1と前記第2のポリマーのブレンドであって、前記第2のポリマーが前記第1のポリマーに対して前記物品中における前記第2のポリマー対前記第1のポリマーの全体の比よりも大きい比で前記物品の表面に存在する前記ブレンド、を含む多孔質物品を、混合物から回収するステップと;
を含む方法。
【請求項14】
前記第1と前記第2のポリマーのブレンドであって、前記第2のポリマーは前記物品が前記第1のポリマーに対して前記物品中における前記第1のポリマー対前記第2のポリマーの全体の比よりも大きい比で前記表面に存在する前記ブレンド、を含む多孔質物品を回収するステップを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記物品が多孔質膜である、請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のポリマー成分をエントロピーによって前記表面に駆動させるステップを含む、請求項10〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のポリマー成分は相対的により低い凝集エネルギーを持つポリマー成分であり、前記第2のポリマー成分は相対的により高い凝集エネルギーを持つポリマー成分である、請求項10〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のポリマー成分は本質的に疎水性であり、前記第2のポリマー成分は前記第1のポリマー成分よりも親水性である、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のポリマー成分と前記第2のポリマー成分の各々は水に親和性を有し、前記物品の前記表面は、前記物品のバルク中の前記第1と前記第2のポリマーの全体の平均水親和性よりも大きな水親和性を有する、請求項10〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2のポリマー成分は、前記第1のポリマー成分に対して前記物品中における前記第2のポリマー成分対前記第1のポリマー成分の全体の比よりも大きい比で前記物品の前記表面に存在する、請求項10〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも前記第2のポリマー成分はアクリル性ポリマーである、請求項10〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1と前記第2のポリマー成分の各々はアクリル性ポリマーである、請求項10〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第1と前記第2のポリマー成分の各々は非水溶性である、請求項10〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のポリマー成分は高分子イオン性(polyionic)官能基を有する、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。
【請求項25】
前記第2のポリマー成分はキレート化官能基を有する、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。
【請求項26】
前記第2のポリマー成分は前記第1のポリマー成分よりも高度に枝分かれした、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。
【請求項27】
前記第1のポリマー成分はPVDFである、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。
【請求項28】
前記第1のポリマー成分はPMMAである、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。
【請求項29】
前記第2のポリマー成分はP(MMA-r-MnG)である、前出の請求項のいずれか一項に記載の物品または方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2007−182571(P2007−182571A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351682(P2006−351682)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【分割の表示】特願平10−512020の分割
【原出願日】平成9年8月26日(1997.8.26)
【出願人】(591013573)マサチューセッツ・インスティチュート・オブ・テクノロジー (26)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【Fターム(参考)】