説明

角度測定装置

【課題】物体の角度を測定する際の基準位置を容易に設定する。
【解決手段】十字線が示されるレチクル26を保持し、ドーナツ型のスケール円板25が上面の端部に固定されている回転筒24が、レンズ23の光軸A回りに回転可能となるようにケース21の内部に設置されている。基準ピン29は、回転筒24の基準穴24Aに適合し、回転筒24を基準位置に設定したときに、基準穴24Aに挿入することが可能である。エンコーダセンサヘッド27は、スケール円板25の回転量および回転角を検出し、カウンタ表示部34は、検出された回転量および回転方向に基づいて、表示値がリセットされたときのスケール円板25の回転方向の位置を基準にして、スケール円板25の回転角を表示する。本発明は、例えば、顕微鏡用のデジタルプロトラクタに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度測定装置において、特に、インクリメンタル方式のエンコーダを用いて物体の角度を測定し、表示する角度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡の接眼部に装着され、十字線などの角度測定用の基準線が示されているレチクルの回転量を検出し、デジタルカウンタによりレチクルの回転角をデジタル表示するデジタル角度接眼レンズが市販されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】「測定顕微鏡MFシリーズ/MF-Uシリーズカタログ Catalog No.4273(14)」,株式会社ミツトヨ,2008年,p.15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非特許文献1に記載されているようなデジタル角度接眼レンズに、インクリメンタル方式のエンコーダを用いた場合、電源投入時のエンコーダの回転方向の位置が0度となる。そのため、デジタル角度接眼レンズを用いて、所定の基準位置に対する角度を測定したい場合、電源投入時に、レチクルの基準線のうちの一つを基準位置に合わせた後、デジタルカウンタの表示値をリセットする、いわゆるゼロ位置設定を行う必要がある。
【0005】
一方、アブソリュート方式のエンコーダを用いた場合、ゼロ位置設定は不要になるが、装置が高価になってしまう。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、物体の角度を測定する際の基準位置を容易に設定することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面の角度測定装置は、少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、被測定物の像を結像する対物光学系の結像位置に配置されるように前記レチクルを保持し、前記対物光学系の光軸回りに回転可能な回転体と、前記回転体の回転方向の位置を所定の位置に設定する位置決め機構と、前記回転体の回転量および回転方向を検出する検出手段と、前記回転体の回転角を表示し、かつ、前記回転体の回転角の基準位置のリセットが可能であって、検出された前記回転体の回転量および回転方向に基づいて、リセットされたときの前記回転体の基準位置を基準にして、前記回転体の回転角を表示する表示手段とを備える。
【0008】
本発明の一側面においては、回転体の回転量および回転方向が検出され、検出された前記回転体の回転量および回転方向に基づいて、リセットされたときの前記回転体の基準位置を基準にして、前記回転体の回転角が表示される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物体の角度を測定する際の基準位置を容易に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について説明する。
【0011】
図1および図2は、本発明を適用したデジタルプロトラクタの一実施の形態を示す図である。図1は、本発明を適用したデジタルプロトラクタ11の全体の構成、および、デジタルプロトラクタ11の接眼部の断面図を示している。図2は、デジタルプロトラクタ11の平面図である。
【0012】
デジタルプロトラクタ11においては、レンズ23を保持するレンズ保持筒22が、ケース21の上部に取り付けられ、ケース21とレンズ保持筒22により、デジタルプロトラクタ11の筐体が構成されている。また、回転筒24が、その回転軸がレンズ23の光軸Aと一致し、回転軸回りに回転可能となるように、ケース21の内部に設置されている。
【0013】
回転筒24の上面の端部には、ドーナツ型のスケール円板25が、その中心とレンズ23の光軸Aとが一致するように固定されており、回転筒24とスケール円板25により、光軸A回りに回転可能な1つの回転体が構成される。
【0014】
また、回転筒24の中央上面には、表面に示される十字線26A(図2)の中心がレンズ23の光軸Aと一致するように、十字線レチクル26が固定されている。従って、回転筒24の光軸A回りの回転に伴い、十字線レチクル26および十字線26Aも光軸A回りに回転する。
【0015】
さらに、回転筒24のフランジ部には、垂直方向の基準穴24Aが形成されている。
【0016】
また、図1におけるケース21の内部の左端に、横向きの凹溝27Aが形成されているエンコーダセンサヘッド27が設けられている。スケール円板25の外端の一部は、凹溝27Aの間に所定の間隔を空けて挟まれており、回転筒24が光軸A回りに回転することにより、凹溝27Aに挟まれるスケール円板25の外端の位置が変化する。
【0017】
そして、このエンコーダセンサヘッド27とスケール円板25により、インクリメンタル方式のエンコーダが構成される。すなわち、エンコーダセンサヘッド27は、凹溝27Aの間をスケール円板25が通過した量と方向、すなわち、スケール円板25の回転量および回転方向を検出し、検出結果を示す信号を、ケーブル33を介してカウンタ表示部34に供給する。このエンコーダセンサヘッド27から出力される信号は、例えば、スケール円板25の回転量をパルスの数により表し、回転方向をパルスの位相により表す。
【0018】
筒状の保持部材28は、レンズ保持筒22のフランジ22Aに形成されている取付穴22Bをフランジ22Aの上面から貫通するように、レンズ保持筒22に取り付けられている。換言すれば、保持部材28は、ケース21とレンズ保持筒22により構成されるデジタルプロトラクタ11の筐体の外側に、回転筒24とスケール円板25により構成される回転体の面に対して垂直に設けられている。従って、保持部材28は、回転筒24が回転しても一緒に回転しない固定部材の一つである筐体に固定されている。
【0019】
基準ピン29は、保持部材28の筒の中に挿入され、筒の中をスライド自在に保持部材28により保持されている。すなわち、基準ピン29は、回転筒24とスケール円板25により構成される回転体の面に対して垂直な方向に移動することが可能である。なお、保持部材28の内径と基準ピン29の外径は、はめ合いの公差となっている。
【0020】
基準ピン29の側面には、レバー30が垂直方向に突出するように設けられている。レバー30は、保持部材28の側面に設けられている長穴28Aを貫通しており、レバー30と長穴28Aにより、基準ピン29の上下方向の移動範囲が規制される。また、ユーザは、レバー30を操作することにより、基準ピン29を、保持部材28の筒の中を上下にスライドさせることができる。
【0021】
また、基準ピン29は、回転筒24の基準穴24Aに適合し、回転筒24の回転方向の位置を、基準穴24Aが保持部材28の下方に来るように設定したとき、基準穴24Aに挿入することが可能である。すなわち、基準穴24Aと基準ピン29により、回転筒24の回転方向の位置を所定の位置に設定する位置決め機構が構成される。
【0022】
なお、この位置決め機構は、バネなどを用いた位置決め機構と比較して、がたつきが少なく、例えば、基準穴24Aの所定の一端に基準ピン29を当接させて位置決めするようにすることにより、位置決めの誤差を小さくすることができる。
【0023】
なお、以下、基準ピン29を基準穴24Aに挿入することが可能な回転筒24の回転方向の位置を基準位置と称する。
【0024】
また、基準ピン29の側面の一部には、周方向の溝が形成されており、溝の周りにゴム製のOリング31が装着されている。Oリング31は、保持部材28の中で圧縮変形し、保持部材28の筒の内面に密着し、基準ピン29の位置が保持される。また、Oリング31により、レンズ23、回転筒24、レチクル26、および、エンコーダセンサヘッド27を収納するデジタルプロトラクタ11の筐体の内部に、保持部材28の筒を通してオイルミストや塵などが侵入することが防止され、安価に筐体の機密性を高めることができる。
【0025】
なお、Oリング31の材質は、ゴム以外の弾性体とすることも可能である。
【0026】
回転環32は、図1におけるケース21の右下部を貫通するように設けられ、回転環32の上端の外周に設けられている平歯車32Aが、回転筒24の外周に設けられている平歯車24Bと係合している。これにより、回転環32を軸回りに回転させることにより、回転筒24、スケール円板25および十字線レチクル26が光軸A回りに回転する。
【0027】
カウンタ表示部34は、ケーブル33を介してエンコーダセンサヘッド27から供給される信号に基づいて、スケール円板25の回転角をデジタル表示する。具体的には、カウンタ表示部34の回転角の表示値は、電源の投入時またはリセットボタン35が押下されたときにリセットされ、0度となる。そして、カウンタ表示部34内にある制御部は、例えば、スケール円板25が上から見て時計回りに回転した場合、エンコーダセンサヘッド27からの信号に基づき、現在保持している値にカウント値を加算する。そして、カウンタ表示部34は、加算されたカウント値を基に、スケール円板25の回転した角度を表示する。また、スケール円板25が上から見て反時計回りに回転した場合も同様にカウント値を減算して、スケール円板25の回転した角度を表示する。すなわち、カウンタ表示部34は、表示値がリセットされたときのスケール円板25の回転方向の位置を基準(0度)にして、スケール円板25の回転角を表示する。
【0028】
次に、さらに図3を参照しながら、デジタルプロトラクタ11を顕微鏡に装着して使用する場合の例について説明する。
【0029】
図3は、デジタルプロトラクタ11を顕微鏡101に装着したときの、顕微鏡101の光学系の構成の一部を模式的に示す図である。
【0030】
デジタルプロトラクタ11を顕微鏡101に装着した状態において、顕微鏡101の対物光学系を構成する対物レンズ112の光軸と、デジタルプロトラクタ11のレンズ23の光軸Aとが一致し、対物光学系の結像位置にレチクル26が配置される。そして、ステージ111上に設置されている被測定物102の像は、対物レンズ112により、レチクル26の位置において結像する。そして、ユーザは、レチクル26に示される十字線26Aが重畳された被測定物102の像を、レンズ23により拡大して観察する。
【0031】
ここで、デジタルプロトラクタ11を用いて、所定の基準位置に対する被測定物102の相対角度を測定する場合の測定方法の一例について説明する。
【0032】
例えば、まず、デジタルプロトラクタ11を顕微鏡101に装着するときに、基準ピン29を基準穴24Aに挿入した状態で、レチクル26の十字線26Aのうちの一つの線(以下、基準線と称する)が基準位置に対して平行になるように調整しておく。そして、カウンタ表示部34の電源を投入したとき、回転筒24を基準位置に設定し、基準ピン29を回転筒24の基準穴24Aに挿入した後、リセットボタン35を押下し、カウンタ表示部34の表示値をリセットし、その回転位置を基準位置とする。その後、基準穴24Aから基準ピン29を抜き、レンズ23を覗きながら回転環32を操作して、被測定物102の所望の辺に、レチクル26の基準線を合わせる。すると、被測定物102の所望の辺の基準位置に対する相対角度が、カウンタ表示部34に表示される。
【0033】
このように、デジタルプロトラクタ11を用いると、物体の角度を測定する際の基準位置を容易に設定することができ、基準位置に対する相対角度を容易に測定することができる。
【0034】
なお、レチクル26に示される測定用の線は、必ずしも十字線である必要はなく、少なくとも一方向に延びる直線が示されていればよい。
【0035】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を適用したデジタルプロトラクタの一実施の形態の全体の構成、および、接眼部の断面図を示す図である。
【図2】デジタルプロトラクタの平面図である。
【図3】デジタルプロトラクタを顕微鏡に装着したときの、顕微鏡の光学系の構成の一部を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0037】
11 デジタルプロトラクタ, 21 ケース, 22 レンズ保持筒, 22A フランジ, 22B 取付穴, 23 レンズ, 24 回転筒, 24A 基準穴, 24B 平歯車, 25 スケール円板, 26 レチクル, 26A 十字線, 27 エンコーダセンサヘッド, 27A 凹溝, 28 保持部材, 28A 長穴, 29 基準ピン, 30 レバー, 31 Oリング, 32 回転環, 32A 平歯車, 33 ケーブル, 34 カウンタ表示部, 35 リセットボタン, 101 顕微鏡, 102 被測定物, 112 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に延びる直線が示されているレチクルと、
被測定物の像を結像する対物光学系の結像位置に配置されるように前記レチクルを保持し、前記対物光学系の光軸回りに回転可能な回転体と、
前記回転体の回転方向の位置を所定の位置に設定する位置決め機構と、
前記回転体の回転量および回転方向を検出する検出手段と、
前記回転体の回転角を表示し、かつ、前記回転体の回転角の基準位置のリセットが可能であって、検出された前記回転体の回転量および回転方向に基づいて、リセットされたときの前記回転体の基準位置を基準にして、前記回転体の回転角を表示する表示手段と
を備えることを特徴とする角度測定装置。
【請求項2】
前記位置決め機構は、
前記回転体の面に形成されている穴と、
前記穴に適合する形状を持ち、前記回転体の回転によらず静止する固定部材に保持された部材であって、前記回転体の面に対して垂直な方向に移動可能で、かつ、前記回転体の回転方向の位置が前記所定の位置に設定されている場合に前記穴に挿入可能な位置に設けられる部材である移動部材と
により構成されることを特徴とする請求項1に記載の角度測定装置。
【請求項3】
前記移動部材は、円柱状で、かつ、円柱の側面の一部に周方向の溝が形成されており、
前記被測定物の像および前記レチクルの前記直線を拡大する接眼レンズと、
前記接眼レンズ、前記レチクル、前記回転体、および、前記検出手段を収納する筐体と、
前記筐体の外側に、前記回転体の面に対して垂直に設けられる筒状の部材であって、前記移動部材を筒の中を移動可能に保持する部材である保持部材と、
弾性体からなるリング状の部材であって、前記移動部材の前記溝の周りに装着され、前記保持部材の前記筒の内面に密着する部材であるリング部材と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の角度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133713(P2010−133713A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306987(P2008−306987)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】