角形状缶
【課題】コーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させた構造となる角形状缶を提供することである。
【解決手段】略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部10の解放する両端それぞれに端板20a、20bを接合し、当該胴部10の各コーナー部18に縦方向に延びる補強ビード15a、15bが形成された角形状缶100であって、前記胴部10を形成する前記鋼板の調質度がT−5である構成となる。各コーナー部18に形成された補強ビード15a、15bと鋼板の硬さ(T−5)とが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部10のコーナー部18での強度の改善が有効に図られる。
【解決手段】略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部10の解放する両端それぞれに端板20a、20bを接合し、当該胴部10の各コーナー部18に縦方向に延びる補強ビード15a、15bが形成された角形状缶100であって、前記胴部10を形成する前記鋼板の調質度がT−5である構成となる。各コーナー部18に形成された補強ビード15a、15bと鋼板の硬さ(T−5)とが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部10のコーナー部18での強度の改善が有効に図られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂18リットル缶等の角形状缶に係り、詳しくは、コーナー部に縦方向に延びる補強ビードの形成された角形状缶に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂18リットル缶等の角形状缶において、その材料となる鋼板をより薄くすることがコスト削減の観点及び軽量化の観点から望まれている。しかし、材料の鋼板を薄くすると、強度の低下を招くことから、従来、その強度の低下をできるだけ抑えるために、筒状の胴部のコーナー部分において、縦方向に延びる補強凸ビードを形成した角形状缶が提案されている(例えば、特許文献1)。このように胴部のコーナー部分に補強凸ビードを形成することにより、当該胴部を比較的薄い鋼板にて形成しても、そのコーナー部分での強度の低下を抑えることができ、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対して所望の耐久性を得ることができるものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−058536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、材料の鋼板をできるだけ薄くした状態を維持しつつ更なる耐久性向上の要望に対して、胴部に対する更なる補強ビードの形成や改良では限界があり、更なる工夫が必要となった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させた構造となる角形状缶を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る角形状缶は、略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、当該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、前記胴部を形成する前記鋼板の調質度がT−5(JIS G 3303)である構成となる。
【0007】
このような構成により、各コーナー部分は、縦方向に延びる補強ビードによって補強されるとともに、胴部を形成する鋼板はその調質度がT−5の硬さとなるので、この鋼板の硬さと補強ビードとが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部のコーナー部での強度の改善が有効に図られる。
【0008】
本発明に係る角形状缶において、前記鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.0010〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有することを特徴とする。
より好ましくは、前記鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.10%、Si(シリコン):0.01〜0.03%、Mn(マンガン):0.45〜0.60%、P(リン):≦0.02%、S(硫黄):≦0.025%、Al(アルミニウム):0.030〜0.080%、N(窒素):0.0010〜0.0035%とすることができる。
また、前記の成分に加え、Nb(ニオブ):0.001〜0.1%、Ti(チタン):0.001〜0.1%、及びB(ホウ素):0.0005〜0.01%のいずれか1種または、2種以上を含むことができる。
【0009】
このような構成により、調質度がT−5(JIS G 3303)の硬さを実現することができるようになる。
【0010】
また、本発明に係る角形状缶において、前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された構成とすることができる。
【0011】
このような構成により、鋼板の製缶(胴部形成)時の特性(巻き幅の特性等)を改善することができ、更に、製造のし易い角形状缶を実現することができるようになる。
【0012】
本発明に係る角形状缶は、略四角形状の胴部となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された構成となる。
【0013】
このような構成により、鋼板の製缶(胴部形成)時の特性(巻き幅の特性等)を改善することができ、製造のし易い角形状缶を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る角形状缶によれば、調質度がT−5となる鋼板の硬さと補強ビードとが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部のコーナー部での強度の改善が有効に図られるので、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の実施の形態に係る角形状缶の上から見た平面図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る角形状缶の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る角形状缶の斜視図である。
【図3A】図1BにおけるA−A部分断面図である。
【図3B】図1BにおけるB−B部分断面図である。
【図4】図1A〜図3Bに示す構造の角形状缶(実施例)の全体荷重強度及び偏荷重強度のテスト結果を比較例とともに示す図である。
【図5A】角形状缶の胴部を形成する鋼板の圧延方向を示す図である。
【図5B】鋼板の圧延方向が横方向となるように形成されたCグレーンの胴部を示す図である。
【図5C】鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成されたHグレーンの胴部を示す図である。
【図6】胴部を形成するための円筒状の鋼板の巻き幅についてのテスト結果をCグレーンとHグレーンとで比較して示す図である。
【図7】胴部を形成するための円筒状の鋼板のオーバーラップについてのテスト結果をCグレーンとHグレーンとで比較して示す図である。
【図8A】胴部を形成するための円筒状の鋼板の巻き幅Gを示す図である。
【図8B】胴部を形成するための円筒状の鋼板のオーバーラップOLを示す図である。
【図9】Cグレーンの胴部を有する角形状缶と、Hグレーンの胴部を有する角形状缶との全荷重強度のテスト結果を示す図である。
【図10】Cグレーンの胴部を有する角形状缶と、Hグレーンの胴部を有する角形状缶との偏荷重強度のテスト結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0017】
本発明の実施の形態に係る角形状缶は、図1A乃至図3Bに示すように構成される。なお、図1Aは本発明の実施の形態に係る角形状缶を上方から見た平面図であり、図1Bは本発明の実施の形態に係る角形状缶の正面図であり、図2はその角形状缶の斜視図であり、図3Aは図1BにおけるA−A部分断面図であり、図3Bは図1BにおけるB−B部分断面図である。
【0018】
図1A、図1B及び図2において、この角形状缶100(所謂18リットル缶)は、所定厚さの鋼板で形成され、略四角形状の筒体となる胴部10の上端に天板20a(端板)が巻締めにより接合固定され、当該胴部10の下端に底板20b(端板)が巻締めにより接合固定された構造となっている。胴部10の各側壁面には、2つの縦補強ビード12、2つの横補強ビード14及び矩形補強部16(通称、額縁)がプレス加工により形成されている。矩形補強部16は、胴部10の各側壁面の略中央部分に位置し、2つの横補強ビード14は矩形補強部16の上側及び下側に位置している。各縦補強ビード12は、胴部10の各コーナー部分であるコーナー部18の両側それぞれに続く側壁面の当該コーナー部18との境界部分に、天板20aとの接合部位から底板20bとの接合部位まで延びるように形成されている。また、図3Aに示すように、各縦補強ビード12は、胴部10の外側から内側に凹んだ凹形状となり、矩形補強部16は、縁部がその内側より相対的に盛り上がった形状となっている。図示されてはいないが、各横補強ビード14は、胴部10の内側から外側に突出する凸形状となっている。
【0019】
更に、各コーナー部18の縦方向に延びる頂部18a(図2参照)上には、天板20a側の端部から伸びるように縦補強ビード15aが形成されると共に、それと対になって底板20b側の端部から延びるように縦補強ビード15bが形成されている。これら対になる縦補強ビード15a、15bは、図3Bに示すように、胴部10の内側から外側に突出する凸形状となっている。なお、これら対になる縦補強ビード15a、15bを前述した縦補強ビード12と区別するため、以下、縦補強凸ビード15a、15bと呼ぶ。
【0020】
(強度テスト結果)
図4に、前述した本発明の実施の形態に係る角形状缶(実施例)の全体荷重強度及び偏荷重強度のテスト結果を比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び参考例とともに示す。
【0021】
実施例は、各コーナー部18が縦補強凸ビード15a、15bで補強された構造(図1A〜図3B参照:以下、「コーナー補強構造」という)の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。調質度はJIS(JIS G 3303)に規定されており、調質度T−5(JIS G 3303)は、ロックウェル硬さHR30T:65±3に対応する。
比較例1は、各コーナー部に縦補強凸ビード15a、15bが形成されていない構造(縦補強凸ビード15a、15bを除いて図1A〜図3Bに示す構造と同じ:以下、通常構造という)の角形状缶であって、厚さが0.32mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さ(ロックウェル硬さHR30T:61±3に対応)の鋼板にて胴部10が形成されている。
参考例は、コーナー補強構造の角形状缶であって、厚さが0.32mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例2は、通常構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−4の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例3は、コーナー補強構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例4は、通常構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
【0022】
(角形状缶用原板の鋼成分)
上記目的を達成するため本発明に係る角形状缶用原板の鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.0010〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有する。
C(炭素)は高強度冷延鋼板に高い調質度のため、0.03重量%以上であることが望ましい。しかし、C(炭素)が0.35重量%を超えると、炭化物析出量が増大し鋼板の加工性の低下をもたらすと同時に、冷間圧延の負荷の増大、形状の劣化、連続焼鈍工程での通板性阻害等、生産性低下の原因となる。そのため本発明においてはC(炭素)成分の上限値を0.35重量%とする。さらに、C(炭素)は、0.03〜0.1重量%の範囲がより望ましい。
【0023】
Si(シリコン)は、鋼中では大きな固溶強化機能を持ち、ばね性を得るのに有効な元素である。従って、0.01重量%以上は必要である。また、Si(シリコン)は、材質強化面では、多いほど良いが、冷間圧延の負荷の増大、形状の劣化を招くため上限値を3.0重量%とする。さらに、Si(シリコン)は、0.01〜0.03重量%の範囲がより望ましい。
【0024】
Mn(マンガン)は不純物であるS(硫黄)による熱延中の赤熱脆性を防止するために必要な成分であると同時に、前記のC(炭素)と同様に原板に高い調質度を与えるため、Mn(マンガン)成分は0.4重量%以上とする。しかし、ここでもC(炭素)同様に、多過ぎると冷間圧延の負荷の増大、スラブ圧延中の割れ発生、形状の劣化、連続焼鈍工程での通板性阻害等、生産性低下の原因となるため、Mn(マンガン)成分は上限値を3.0重量%とする。さらに、Mn(マンガン)は、0.45〜0.60重量%の範囲がより望ましい。
【0025】
P(リン)は結晶粒微細化成分であり、また原板の強度を高めることから一定の割合で添加されるが、一方で耐食性を阻害する。本発明の用途としては、Pが0.10重量%を超えると耐食性、特に耐孔明性が著しく低下するためP(リン)成分の上限値を0.10重量%とする。さらに、0.02重量%以下の範囲がより望ましい。
【0026】
S(硫黄)は熱延中において赤熱脆性を生じる不純物成分であり、極力少ないことが望ましいが、鉄鋼石等からの混入を完全に防止することができず、工程中の脱硫も困難なことからある程度の残留もやむをえない。少量の残留Sによる赤熱脆性はMn(マンガン)により軽減できるため、S(硫黄)成分の上限値は0.06重量%とする。さらに、0.025重量%以下の範囲がより望ましい。
【0027】
Al(アルミニウム)は製鋼に際し脱酸剤として鋼浴中に添加されるが、0.10重量%以上になると連続鋳造時に酸化抑制剤、および、連続鋳造での鋳型への焼き付き防止剤として使用する鋳型パウダー中の酸素と過剰Al(アルミニウム)が反応し、本来のパウダー効果を阻害する。したがって、Al(アルミニウム)量は0.10重量%以下とする。さらに、Al(アルミニウム)は、0.030〜0.080重量%の範囲がより望ましい。
【0028】
N(窒素)はC(炭素),Mn(マンガン)と同様に原板に高い調質度を与える。耐力強化のために必要な成分であるが、0.001重量%より少なくすることは製鋼上の困難を生じ、また一方0.0160重量%を超える添加は製鋼時に添加するフェロ窒化物の歩留の低下が著しく、安定性に欠けると同時に、プレス成形時の異方性を著しく劣化させる。さらに連続鋳造片の表面に割れが生じ、鋳造欠陥となるため本発明ではN(窒素)成分範囲を0.001〜0.0160重量%とする。さらに、N(窒素)は、0.001〜0.0035重量%の範囲がより望ましい。
【0029】
Ti(チタン)、Nb(ニオブ)は炭窒化化合物を形成しやすく、結晶粒を微細化する効果ある。Nb(ニオブ)は下限を0.01重量%、Ti(チタン)は0.01重量%とする。また、いずれの元素も多すぎると再結晶温度を上昇させ、連続焼鈍温度を上げなければならず、コスト増である。そこで、Ti(チタン)の上限は0.1重量%、Nb(ニオブ)の上限を0.1重量%とする。
【0030】
B(ホウ素)は本発明の重要な組織であるマルテンサイトを得るために必要な元素であることと粒界に偏析しやすく、結晶粒粗大化を低減し結晶粒を微細化する効果があるため、必要に応じて0.0005重量%以上を添加する。また、多過ぎてもその効果が飽和するため、コストなどの理由から、B(ホウ素)成分の上限を0.01重量%とする。
【0031】
(熱間圧延)
熱間圧延工程における鋼片加熱温度は本発明において特定するものではないが、N(窒素)の積極的分解固溶および熱間仕上圧延温度の安定的確保の見地から1100℃以上とするのが望ましい。熱間圧延仕上温度をAr3点以下にすると、熱間鋼帯の結晶組織が混粒化するとともに粗大化し、目的の強度が得られないので熱間圧延仕上温度はAr3点以上とするのが望ましい。
熱延仕上圧延における圧延率、冷却条件は特定するものではないが、高強度を得るためには、平均結晶粒径が5μm以下となるようにできるだけ高圧下、急冷することが望ましい。また、平均粒径が5μm以下のフエライト中にマルテンサイトが分散してなる組織であることが望ましい。
巻き取り温度は本発明において特定するものではないが、結晶粒粗大化を抑制するために巻取温度は700℃以下とするのが望ましい。
【0032】
(冷間圧延)
前記の成分系で熱延された鋼板を冷間圧延するが、この冷間圧延率は、成分とともに本発明の重要な強度因子であり、目的の強度を得るために、30〜90%で行う。
【0033】
(焼鈍)
前記のように圧延率30〜90%の冷間圧延を施した材料は、クリーニング工程で脱脂を施した後、連続焼鈍では700℃以上または、バッチ焼鈍では550℃以上の温度で焼鈍する。上限温度は、連続焼鈍では830℃、箱型焼鈍では700℃とする。
【0034】
(調質圧延)
焼鈍後、調質圧延により表面粗度を付与する。
つぎに、このようにして作成した鋼板としては、シ−ト状およびコイル状の鋼板に公知の表面処理を施し、塗装または有機樹脂フィルムでラミネートしたものを用いることができる。特に、表面処理した鋼鈑としては、下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物の2層構造をもつ電解クロム酸処理鋼板、ぶりきあるいは極薄錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板及びびこれらのめっき鋼板にクロム水和酸化物あるいは上層がクロム水和酸化物、下層が金属クロム層からなる2層構造をもつ表面処理をほどこしたものが耐食性の点で優れている。有機樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムなどを用いることができる。
【0035】
(実施例または比較例4の鋼板成分)
調質度T−5(JIS G 3303)の鋼板は、重量%にて
炭素(C):0.03〜0.10%
マンガン(Mn):0.45〜0.60%
シリコン(Si):0.01〜0.03%
リン(P):≦0.02%
硫黄(S):≦0.025%
アルミニウム(Al):0.030〜0.080%、N:0.001〜0.0035%、
を含有する。
(比較例1〜3の鋼板成分)
調質度T−4(JIS G 3303)の鋼板は、重量%にて
炭素(C):0.03〜0.06%
マンガン(Mn):0.25〜0.45%
シリコン(Si):≦0.03%
リン(P):≦0.02%
硫黄(S):≦0.025%
アルミニウム(Al):0.030〜0.080%、N:0.001〜0.0035%
を含有する。
特に炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量を増やすことによって鋼板の硬さを増大させている(T−4→T−5)。
【0036】
実施例、比較例1〜4及び参考例それぞれの角形状缶の5個ずつのサンプルに対して縦方向に荷重(単位:N(ニュートン))をかけて、変形が開始するまでの最大荷重を荷重強度として測定した。全体荷重強度は、角形状缶の全体に対して荷重をかけた場合の強度であり、偏荷重強度は、1つのコーナー部分に荷重をかけた場合の強度である。図4は、各角形状缶について、5つのサンプルの測定値(全体荷重強度、偏荷重強度)の最大値、最小値及び平均値を示す。
【0037】
図4に示すテスト結果をみると、(厚さ:0.32mm、調質度T−4)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例1)をコーナー補強構造(参考例)にすることにより全体荷重強度及び偏荷重強度の双方とも改善された。(厚さ:0.27mm、調質度T−4)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例2)をコーナー補強構造(比較例3)にすることにより全体荷重強度及び偏荷重強度の双方とも改善された。(厚さ:0.27mm、調質度T−5)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例4)をコーナー補強構造(実施例)にすることにより偏荷重強度が改善された。
【0038】
通常構造において鋼板を薄くすると(比較例1→比較例2)、全体荷重強度が約78%(平均値比:11613N/14878N)に低減するが、コーナー補強構造(比較例3)にすることによって全体荷重強度が約79.7%(平均値比:11862N/14878N)に改善された。更に、鋼板の硬さを調質度T−4(JIS G 3303)から調質度T−5(JIS G 3303)に上げることにより(実施例)、全体荷重強度が約82.5%(平均値比:12272N/14878N)に改善された。
【0039】
また、通常構造において鋼板を薄くすると(比較例1→比較例2)、偏荷重強度が約81.9%(平均値比:3180N/3882N)に低減するが、コーナー補強構造(比較例3)にすることによって偏荷重強度が約99.6%に改善された。更に、鋼板の硬さを調質度T−4(JIS G 3303)から調質度T−5(JIS G 3303)に上げると(実施例)、偏荷重強度が約104.8%(平均値比:4070N/3882N)に著しく改善された。
【0040】
鋼板を薄くすること(0.32mm→0.27mm)に対して、コーナー補強構造にして鋼板の硬さを上げる(調質度:T−4→T−5)ことは、全体荷重強度及び偏荷重強度の双方の観点から有効である。特に、偏荷重強度については、コーナー補強構造と鋼板の硬さ(調質度:T−5)とが相俟って、著しく改善されるものとなった。従って、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にてコーナー補強構造の角形状缶を形成することにより、比較的薄い鋼板にて形成される胴部10のコーナー部18での強度の改善を有効に図ることができる。その結果、コーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させた角形状缶を実現することができる。
【0041】
なお、鋼板は硬ければ硬いほどよいわけではない。鋼板の硬さを上げていくと、筒状に丸めた鋼板を略四角形状の筒体(胴部)に成形する際に、その成形が次第にし難くなって、正常な胴部を成形することが難しくなる。このため、鋼板の硬さが高いと、成形機を設計変更しなければならなくなる可能性がある。しかし、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板であれば、従来の成形とほぼ同様の条件にて正常な胴部を成形することができる。
【0042】
ところで、図5Aに示すように鋼板Sにはその圧延方向と平行に細いスジがついている。このスジは、冷間圧延工程あるいは調質圧延工程での圧延ローラにて付けられるものでグレーン(grain)と呼ばれている。鋼板Sの圧延方向(グレーンの延びる方向)が図5Bに示すように横方向(高さ方向に直行する方向)となるように胴部10が形成された場合、Cグレーン(Cross grain)と呼ばれ、鋼板Sの圧延方向が図5cに示すように縦方向(高さ方向)となるように胴部10が形成された場合、Hグレーン(Height grain)と呼ばれる。
【0043】
Cグレーン及びHグレーンのそれぞれの場合で、巻き幅とオーバーラップとについての特性を測定した結果、図6及び図7に示すような結果が得られた。なお、厚さ0.32mmで、調質度T−4の硬さの鋼板Sの3つのサンプルについて測定した。
【0044】
巻き幅は、図8Aに示すように、胴部10を成形するために鋼板Sを円筒状に丸めた際に形成される端辺間の隙間Gであって、鋼板Sの筒状体の一方端(胴部10の上端に対応)Le、その中央部Ce及び筒状体の他方端(胴部10の下端に対応)Trの3カ所で測定した。オーバーラップは、図8Aに示すように丸めた鋼板Sの両端辺を図8Bに示すように溶接した際の重なり量OLであって、筒体の両端Le、Trの2カ所で測定した。
【0045】
巻き幅については、図6に示すように、Cグレーンでは、3つの測定位置(Le、Ce、Tr)での3つのサンプルの測定値の最大値(100mm)と最小値(−15mm)の範囲、即ちバラつきが「115mm」であったのに対して、Hグレーンでは、3つの測定位置(Le、Ce、Tr)での3つのサンプルの測定値の最大値(115mm)と最小値(95mm)の範囲、即ちバラつきが「20mm」であった。また、オーバーラップについては、図7に示すように、Cグレーンでは、両端の測定位置(Le、Tr)での3つのサンプリングの測定値の最大値(0.489mm)と最小値(0.468mm)との範囲、即ちバラつきが「0.021mm」であったのに対して、Hグレーンでは、両端の測定位置(Le、Tr)での3つのサンプリングの測定値の最大値(0.464mm)と最小値(0.448mm)との範囲、即ちバラつきが「0.016mm」であった。
【0046】
前記のように巻き幅及びオーバーラップともバラつきが少ないHグレーンの鋼板Sは、Cグレーンの鋼板Sに比べて安定的に巻くことができ、成形機及び溶接機にて胴部10を容易に製造することができるようになる。
【0047】
なお、全荷重強度及び偏荷重強度については、図9(全荷重強度)及び図10(偏荷重強度)に示すように、Hグレーンの角形状缶(Hグレーン缶)と、Cグレーンの角形状缶(Cグレーン缶)とで、実質的な差はなかった。
【0048】
なお、前述した実施の形態では、各コーナー部18に、縦補強凸ビード15a、15bが図1B、図2及び図3Bに示すように形成されるものであったが、各コーナー部18に形成される補強ビードは、これに限られることなく、他の形状のものであっても、複数形成されるものであってもよい。また、胴部10を形成する鋼板は、有機樹脂フィルムをラミネートしたラミネート鋼板であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、説明したように、本発明に係る角形状缶は、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させることができるという効果を有し、所謂18リットル缶等の角形状缶として有用である。
【符号の説明】
【0050】
10 胴部
12 縦補強ビード
14 横補強ビード
15a、15b 縦補強凸ビード
16 矩形補強部
18 コーナー部
18a 頂部
20a 天板(端板)
20b 底板(端板)
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂18リットル缶等の角形状缶に係り、詳しくは、コーナー部に縦方向に延びる補強ビードの形成された角形状缶に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂18リットル缶等の角形状缶において、その材料となる鋼板をより薄くすることがコスト削減の観点及び軽量化の観点から望まれている。しかし、材料の鋼板を薄くすると、強度の低下を招くことから、従来、その強度の低下をできるだけ抑えるために、筒状の胴部のコーナー部分において、縦方向に延びる補強凸ビードを形成した角形状缶が提案されている(例えば、特許文献1)。このように胴部のコーナー部分に補強凸ビードを形成することにより、当該胴部を比較的薄い鋼板にて形成しても、そのコーナー部分での強度の低下を抑えることができ、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対して所望の耐久性を得ることができるものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−058536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、材料の鋼板をできるだけ薄くした状態を維持しつつ更なる耐久性向上の要望に対して、胴部に対する更なる補強ビードの形成や改良では限界があり、更なる工夫が必要となった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させた構造となる角形状缶を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る角形状缶は、略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、当該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、前記胴部を形成する前記鋼板の調質度がT−5(JIS G 3303)である構成となる。
【0007】
このような構成により、各コーナー部分は、縦方向に延びる補強ビードによって補強されるとともに、胴部を形成する鋼板はその調質度がT−5の硬さとなるので、この鋼板の硬さと補強ビードとが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部のコーナー部での強度の改善が有効に図られる。
【0008】
本発明に係る角形状缶において、前記鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.0010〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有することを特徴とする。
より好ましくは、前記鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.10%、Si(シリコン):0.01〜0.03%、Mn(マンガン):0.45〜0.60%、P(リン):≦0.02%、S(硫黄):≦0.025%、Al(アルミニウム):0.030〜0.080%、N(窒素):0.0010〜0.0035%とすることができる。
また、前記の成分に加え、Nb(ニオブ):0.001〜0.1%、Ti(チタン):0.001〜0.1%、及びB(ホウ素):0.0005〜0.01%のいずれか1種または、2種以上を含むことができる。
【0009】
このような構成により、調質度がT−5(JIS G 3303)の硬さを実現することができるようになる。
【0010】
また、本発明に係る角形状缶において、前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された構成とすることができる。
【0011】
このような構成により、鋼板の製缶(胴部形成)時の特性(巻き幅の特性等)を改善することができ、更に、製造のし易い角形状缶を実現することができるようになる。
【0012】
本発明に係る角形状缶は、略四角形状の胴部となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された構成となる。
【0013】
このような構成により、鋼板の製缶(胴部形成)時の特性(巻き幅の特性等)を改善することができ、製造のし易い角形状缶を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る角形状缶によれば、調質度がT−5となる鋼板の硬さと補強ビードとが相俟って、比較的薄い鋼板にて形成される胴部のコーナー部での強度の改善が有効に図られるので、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の実施の形態に係る角形状缶の上から見た平面図である。
【図1B】本発明の実施の形態に係る角形状缶の正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る角形状缶の斜視図である。
【図3A】図1BにおけるA−A部分断面図である。
【図3B】図1BにおけるB−B部分断面図である。
【図4】図1A〜図3Bに示す構造の角形状缶(実施例)の全体荷重強度及び偏荷重強度のテスト結果を比較例とともに示す図である。
【図5A】角形状缶の胴部を形成する鋼板の圧延方向を示す図である。
【図5B】鋼板の圧延方向が横方向となるように形成されたCグレーンの胴部を示す図である。
【図5C】鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成されたHグレーンの胴部を示す図である。
【図6】胴部を形成するための円筒状の鋼板の巻き幅についてのテスト結果をCグレーンとHグレーンとで比較して示す図である。
【図7】胴部を形成するための円筒状の鋼板のオーバーラップについてのテスト結果をCグレーンとHグレーンとで比較して示す図である。
【図8A】胴部を形成するための円筒状の鋼板の巻き幅Gを示す図である。
【図8B】胴部を形成するための円筒状の鋼板のオーバーラップOLを示す図である。
【図9】Cグレーンの胴部を有する角形状缶と、Hグレーンの胴部を有する角形状缶との全荷重強度のテスト結果を示す図である。
【図10】Cグレーンの胴部を有する角形状缶と、Hグレーンの胴部を有する角形状缶との偏荷重強度のテスト結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0017】
本発明の実施の形態に係る角形状缶は、図1A乃至図3Bに示すように構成される。なお、図1Aは本発明の実施の形態に係る角形状缶を上方から見た平面図であり、図1Bは本発明の実施の形態に係る角形状缶の正面図であり、図2はその角形状缶の斜視図であり、図3Aは図1BにおけるA−A部分断面図であり、図3Bは図1BにおけるB−B部分断面図である。
【0018】
図1A、図1B及び図2において、この角形状缶100(所謂18リットル缶)は、所定厚さの鋼板で形成され、略四角形状の筒体となる胴部10の上端に天板20a(端板)が巻締めにより接合固定され、当該胴部10の下端に底板20b(端板)が巻締めにより接合固定された構造となっている。胴部10の各側壁面には、2つの縦補強ビード12、2つの横補強ビード14及び矩形補強部16(通称、額縁)がプレス加工により形成されている。矩形補強部16は、胴部10の各側壁面の略中央部分に位置し、2つの横補強ビード14は矩形補強部16の上側及び下側に位置している。各縦補強ビード12は、胴部10の各コーナー部分であるコーナー部18の両側それぞれに続く側壁面の当該コーナー部18との境界部分に、天板20aとの接合部位から底板20bとの接合部位まで延びるように形成されている。また、図3Aに示すように、各縦補強ビード12は、胴部10の外側から内側に凹んだ凹形状となり、矩形補強部16は、縁部がその内側より相対的に盛り上がった形状となっている。図示されてはいないが、各横補強ビード14は、胴部10の内側から外側に突出する凸形状となっている。
【0019】
更に、各コーナー部18の縦方向に延びる頂部18a(図2参照)上には、天板20a側の端部から伸びるように縦補強ビード15aが形成されると共に、それと対になって底板20b側の端部から延びるように縦補強ビード15bが形成されている。これら対になる縦補強ビード15a、15bは、図3Bに示すように、胴部10の内側から外側に突出する凸形状となっている。なお、これら対になる縦補強ビード15a、15bを前述した縦補強ビード12と区別するため、以下、縦補強凸ビード15a、15bと呼ぶ。
【0020】
(強度テスト結果)
図4に、前述した本発明の実施の形態に係る角形状缶(実施例)の全体荷重強度及び偏荷重強度のテスト結果を比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び参考例とともに示す。
【0021】
実施例は、各コーナー部18が縦補強凸ビード15a、15bで補強された構造(図1A〜図3B参照:以下、「コーナー補強構造」という)の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。調質度はJIS(JIS G 3303)に規定されており、調質度T−5(JIS G 3303)は、ロックウェル硬さHR30T:65±3に対応する。
比較例1は、各コーナー部に縦補強凸ビード15a、15bが形成されていない構造(縦補強凸ビード15a、15bを除いて図1A〜図3Bに示す構造と同じ:以下、通常構造という)の角形状缶であって、厚さが0.32mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さ(ロックウェル硬さHR30T:61±3に対応)の鋼板にて胴部10が形成されている。
参考例は、コーナー補強構造の角形状缶であって、厚さが0.32mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例2は、通常構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−4の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例3は、コーナー補強構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−4(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
比較例4は、通常構造の角形状缶であって、厚さが0.27mmで、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にて胴部10が形成されている。
【0022】
(角形状缶用原板の鋼成分)
上記目的を達成するため本発明に係る角形状缶用原板の鋼板成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.0010〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有する。
C(炭素)は高強度冷延鋼板に高い調質度のため、0.03重量%以上であることが望ましい。しかし、C(炭素)が0.35重量%を超えると、炭化物析出量が増大し鋼板の加工性の低下をもたらすと同時に、冷間圧延の負荷の増大、形状の劣化、連続焼鈍工程での通板性阻害等、生産性低下の原因となる。そのため本発明においてはC(炭素)成分の上限値を0.35重量%とする。さらに、C(炭素)は、0.03〜0.1重量%の範囲がより望ましい。
【0023】
Si(シリコン)は、鋼中では大きな固溶強化機能を持ち、ばね性を得るのに有効な元素である。従って、0.01重量%以上は必要である。また、Si(シリコン)は、材質強化面では、多いほど良いが、冷間圧延の負荷の増大、形状の劣化を招くため上限値を3.0重量%とする。さらに、Si(シリコン)は、0.01〜0.03重量%の範囲がより望ましい。
【0024】
Mn(マンガン)は不純物であるS(硫黄)による熱延中の赤熱脆性を防止するために必要な成分であると同時に、前記のC(炭素)と同様に原板に高い調質度を与えるため、Mn(マンガン)成分は0.4重量%以上とする。しかし、ここでもC(炭素)同様に、多過ぎると冷間圧延の負荷の増大、スラブ圧延中の割れ発生、形状の劣化、連続焼鈍工程での通板性阻害等、生産性低下の原因となるため、Mn(マンガン)成分は上限値を3.0重量%とする。さらに、Mn(マンガン)は、0.45〜0.60重量%の範囲がより望ましい。
【0025】
P(リン)は結晶粒微細化成分であり、また原板の強度を高めることから一定の割合で添加されるが、一方で耐食性を阻害する。本発明の用途としては、Pが0.10重量%を超えると耐食性、特に耐孔明性が著しく低下するためP(リン)成分の上限値を0.10重量%とする。さらに、0.02重量%以下の範囲がより望ましい。
【0026】
S(硫黄)は熱延中において赤熱脆性を生じる不純物成分であり、極力少ないことが望ましいが、鉄鋼石等からの混入を完全に防止することができず、工程中の脱硫も困難なことからある程度の残留もやむをえない。少量の残留Sによる赤熱脆性はMn(マンガン)により軽減できるため、S(硫黄)成分の上限値は0.06重量%とする。さらに、0.025重量%以下の範囲がより望ましい。
【0027】
Al(アルミニウム)は製鋼に際し脱酸剤として鋼浴中に添加されるが、0.10重量%以上になると連続鋳造時に酸化抑制剤、および、連続鋳造での鋳型への焼き付き防止剤として使用する鋳型パウダー中の酸素と過剰Al(アルミニウム)が反応し、本来のパウダー効果を阻害する。したがって、Al(アルミニウム)量は0.10重量%以下とする。さらに、Al(アルミニウム)は、0.030〜0.080重量%の範囲がより望ましい。
【0028】
N(窒素)はC(炭素),Mn(マンガン)と同様に原板に高い調質度を与える。耐力強化のために必要な成分であるが、0.001重量%より少なくすることは製鋼上の困難を生じ、また一方0.0160重量%を超える添加は製鋼時に添加するフェロ窒化物の歩留の低下が著しく、安定性に欠けると同時に、プレス成形時の異方性を著しく劣化させる。さらに連続鋳造片の表面に割れが生じ、鋳造欠陥となるため本発明ではN(窒素)成分範囲を0.001〜0.0160重量%とする。さらに、N(窒素)は、0.001〜0.0035重量%の範囲がより望ましい。
【0029】
Ti(チタン)、Nb(ニオブ)は炭窒化化合物を形成しやすく、結晶粒を微細化する効果ある。Nb(ニオブ)は下限を0.01重量%、Ti(チタン)は0.01重量%とする。また、いずれの元素も多すぎると再結晶温度を上昇させ、連続焼鈍温度を上げなければならず、コスト増である。そこで、Ti(チタン)の上限は0.1重量%、Nb(ニオブ)の上限を0.1重量%とする。
【0030】
B(ホウ素)は本発明の重要な組織であるマルテンサイトを得るために必要な元素であることと粒界に偏析しやすく、結晶粒粗大化を低減し結晶粒を微細化する効果があるため、必要に応じて0.0005重量%以上を添加する。また、多過ぎてもその効果が飽和するため、コストなどの理由から、B(ホウ素)成分の上限を0.01重量%とする。
【0031】
(熱間圧延)
熱間圧延工程における鋼片加熱温度は本発明において特定するものではないが、N(窒素)の積極的分解固溶および熱間仕上圧延温度の安定的確保の見地から1100℃以上とするのが望ましい。熱間圧延仕上温度をAr3点以下にすると、熱間鋼帯の結晶組織が混粒化するとともに粗大化し、目的の強度が得られないので熱間圧延仕上温度はAr3点以上とするのが望ましい。
熱延仕上圧延における圧延率、冷却条件は特定するものではないが、高強度を得るためには、平均結晶粒径が5μm以下となるようにできるだけ高圧下、急冷することが望ましい。また、平均粒径が5μm以下のフエライト中にマルテンサイトが分散してなる組織であることが望ましい。
巻き取り温度は本発明において特定するものではないが、結晶粒粗大化を抑制するために巻取温度は700℃以下とするのが望ましい。
【0032】
(冷間圧延)
前記の成分系で熱延された鋼板を冷間圧延するが、この冷間圧延率は、成分とともに本発明の重要な強度因子であり、目的の強度を得るために、30〜90%で行う。
【0033】
(焼鈍)
前記のように圧延率30〜90%の冷間圧延を施した材料は、クリーニング工程で脱脂を施した後、連続焼鈍では700℃以上または、バッチ焼鈍では550℃以上の温度で焼鈍する。上限温度は、連続焼鈍では830℃、箱型焼鈍では700℃とする。
【0034】
(調質圧延)
焼鈍後、調質圧延により表面粗度を付与する。
つぎに、このようにして作成した鋼板としては、シ−ト状およびコイル状の鋼板に公知の表面処理を施し、塗装または有機樹脂フィルムでラミネートしたものを用いることができる。特に、表面処理した鋼鈑としては、下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物の2層構造をもつ電解クロム酸処理鋼板、ぶりきあるいは極薄錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板及びびこれらのめっき鋼板にクロム水和酸化物あるいは上層がクロム水和酸化物、下層が金属クロム層からなる2層構造をもつ表面処理をほどこしたものが耐食性の点で優れている。有機樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムなどを用いることができる。
【0035】
(実施例または比較例4の鋼板成分)
調質度T−5(JIS G 3303)の鋼板は、重量%にて
炭素(C):0.03〜0.10%
マンガン(Mn):0.45〜0.60%
シリコン(Si):0.01〜0.03%
リン(P):≦0.02%
硫黄(S):≦0.025%
アルミニウム(Al):0.030〜0.080%、N:0.001〜0.0035%、
を含有する。
(比較例1〜3の鋼板成分)
調質度T−4(JIS G 3303)の鋼板は、重量%にて
炭素(C):0.03〜0.06%
マンガン(Mn):0.25〜0.45%
シリコン(Si):≦0.03%
リン(P):≦0.02%
硫黄(S):≦0.025%
アルミニウム(Al):0.030〜0.080%、N:0.001〜0.0035%
を含有する。
特に炭素(C)及びマンガン(Mn)の含有量を増やすことによって鋼板の硬さを増大させている(T−4→T−5)。
【0036】
実施例、比較例1〜4及び参考例それぞれの角形状缶の5個ずつのサンプルに対して縦方向に荷重(単位:N(ニュートン))をかけて、変形が開始するまでの最大荷重を荷重強度として測定した。全体荷重強度は、角形状缶の全体に対して荷重をかけた場合の強度であり、偏荷重強度は、1つのコーナー部分に荷重をかけた場合の強度である。図4は、各角形状缶について、5つのサンプルの測定値(全体荷重強度、偏荷重強度)の最大値、最小値及び平均値を示す。
【0037】
図4に示すテスト結果をみると、(厚さ:0.32mm、調質度T−4)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例1)をコーナー補強構造(参考例)にすることにより全体荷重強度及び偏荷重強度の双方とも改善された。(厚さ:0.27mm、調質度T−4)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例2)をコーナー補強構造(比較例3)にすることにより全体荷重強度及び偏荷重強度の双方とも改善された。(厚さ:0.27mm、調質度T−5)の鋼板を用いた角形状缶では、通常構造(比較例4)をコーナー補強構造(実施例)にすることにより偏荷重強度が改善された。
【0038】
通常構造において鋼板を薄くすると(比較例1→比較例2)、全体荷重強度が約78%(平均値比:11613N/14878N)に低減するが、コーナー補強構造(比較例3)にすることによって全体荷重強度が約79.7%(平均値比:11862N/14878N)に改善された。更に、鋼板の硬さを調質度T−4(JIS G 3303)から調質度T−5(JIS G 3303)に上げることにより(実施例)、全体荷重強度が約82.5%(平均値比:12272N/14878N)に改善された。
【0039】
また、通常構造において鋼板を薄くすると(比較例1→比較例2)、偏荷重強度が約81.9%(平均値比:3180N/3882N)に低減するが、コーナー補強構造(比較例3)にすることによって偏荷重強度が約99.6%に改善された。更に、鋼板の硬さを調質度T−4(JIS G 3303)から調質度T−5(JIS G 3303)に上げると(実施例)、偏荷重強度が約104.8%(平均値比:4070N/3882N)に著しく改善された。
【0040】
鋼板を薄くすること(0.32mm→0.27mm)に対して、コーナー補強構造にして鋼板の硬さを上げる(調質度:T−4→T−5)ことは、全体荷重強度及び偏荷重強度の双方の観点から有効である。特に、偏荷重強度については、コーナー補強構造と鋼板の硬さ(調質度:T−5)とが相俟って、著しく改善されるものとなった。従って、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板にてコーナー補強構造の角形状缶を形成することにより、比較的薄い鋼板にて形成される胴部10のコーナー部18での強度の改善を有効に図ることができる。その結果、コーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させた角形状缶を実現することができる。
【0041】
なお、鋼板は硬ければ硬いほどよいわけではない。鋼板の硬さを上げていくと、筒状に丸めた鋼板を略四角形状の筒体(胴部)に成形する際に、その成形が次第にし難くなって、正常な胴部を成形することが難しくなる。このため、鋼板の硬さが高いと、成形機を設計変更しなければならなくなる可能性がある。しかし、調質度T−5(JIS G 3303)の硬さの鋼板であれば、従来の成形とほぼ同様の条件にて正常な胴部を成形することができる。
【0042】
ところで、図5Aに示すように鋼板Sにはその圧延方向と平行に細いスジがついている。このスジは、冷間圧延工程あるいは調質圧延工程での圧延ローラにて付けられるものでグレーン(grain)と呼ばれている。鋼板Sの圧延方向(グレーンの延びる方向)が図5Bに示すように横方向(高さ方向に直行する方向)となるように胴部10が形成された場合、Cグレーン(Cross grain)と呼ばれ、鋼板Sの圧延方向が図5cに示すように縦方向(高さ方向)となるように胴部10が形成された場合、Hグレーン(Height grain)と呼ばれる。
【0043】
Cグレーン及びHグレーンのそれぞれの場合で、巻き幅とオーバーラップとについての特性を測定した結果、図6及び図7に示すような結果が得られた。なお、厚さ0.32mmで、調質度T−4の硬さの鋼板Sの3つのサンプルについて測定した。
【0044】
巻き幅は、図8Aに示すように、胴部10を成形するために鋼板Sを円筒状に丸めた際に形成される端辺間の隙間Gであって、鋼板Sの筒状体の一方端(胴部10の上端に対応)Le、その中央部Ce及び筒状体の他方端(胴部10の下端に対応)Trの3カ所で測定した。オーバーラップは、図8Aに示すように丸めた鋼板Sの両端辺を図8Bに示すように溶接した際の重なり量OLであって、筒体の両端Le、Trの2カ所で測定した。
【0045】
巻き幅については、図6に示すように、Cグレーンでは、3つの測定位置(Le、Ce、Tr)での3つのサンプルの測定値の最大値(100mm)と最小値(−15mm)の範囲、即ちバラつきが「115mm」であったのに対して、Hグレーンでは、3つの測定位置(Le、Ce、Tr)での3つのサンプルの測定値の最大値(115mm)と最小値(95mm)の範囲、即ちバラつきが「20mm」であった。また、オーバーラップについては、図7に示すように、Cグレーンでは、両端の測定位置(Le、Tr)での3つのサンプリングの測定値の最大値(0.489mm)と最小値(0.468mm)との範囲、即ちバラつきが「0.021mm」であったのに対して、Hグレーンでは、両端の測定位置(Le、Tr)での3つのサンプリングの測定値の最大値(0.464mm)と最小値(0.448mm)との範囲、即ちバラつきが「0.016mm」であった。
【0046】
前記のように巻き幅及びオーバーラップともバラつきが少ないHグレーンの鋼板Sは、Cグレーンの鋼板Sに比べて安定的に巻くことができ、成形機及び溶接機にて胴部10を容易に製造することができるようになる。
【0047】
なお、全荷重強度及び偏荷重強度については、図9(全荷重強度)及び図10(偏荷重強度)に示すように、Hグレーンの角形状缶(Hグレーン缶)と、Cグレーンの角形状缶(Cグレーン缶)とで、実質的な差はなかった。
【0048】
なお、前述した実施の形態では、各コーナー部18に、縦補強凸ビード15a、15bが図1B、図2及び図3Bに示すように形成されるものであったが、各コーナー部18に形成される補強ビードは、これに限られることなく、他の形状のものであっても、複数形成されるものであってもよい。また、胴部10を形成する鋼板は、有機樹脂フィルムをラミネートしたラミネート鋼板であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上、説明したように、本発明に係る角形状缶は、特にコーナー部分での荷重(偏荷重)に対する耐久性を更に向上させることができるという効果を有し、所謂18リットル缶等の角形状缶として有用である。
【符号の説明】
【0050】
10 胴部
12 縦補強ビード
14 横補強ビード
15a、15b 縦補強凸ビード
16 矩形補強部
18 コーナー部
18a 頂部
20a 天板(端板)
20b 底板(端板)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、当該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、
前記胴部を形成する前記鋼板の調質度がT−5(JIS G 3303)である角形状缶。
【請求項2】
前記鋼板の成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.001〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有することを特徴とする請求項1記載の角形状缶。
【請求項3】
前記鋼板の成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.10%、Si(シリコン):0.01〜0.03%、Mn(マンガン):0.45〜0.60%、P(リン):≦0.02%、S(硫黄):≦0.025%、Al(アルミニウム):0.030〜0.080%、N(窒素):0.001〜0.0035%含有することを特徴とする請求項2記載の角形状缶。
【請求項4】
前記鋼板は、前記成分に加え、重量%で、Nb(ニオブ):0.001〜0.1%、Ti(チタン):0.001〜0.1%、及びB(ホウ素):0.0005〜0.01%のいずれか1種または、2種以上を含むことを特徴とする請求項2または3記載の角形状缶。
【請求項5】
前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された請求項1乃至4のいずれかに記載の角形状缶。
【請求項6】
略四角形状の胴部となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、
前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された角形状缶。
【請求項1】
略四角形状の筒体となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、当該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、
前記胴部を形成する前記鋼板の調質度がT−5(JIS G 3303)である角形状缶。
【請求項2】
前記鋼板の成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.35%、Si(シリコン):0.01〜3.0%、Mn(マンガン):0.4〜3.0%、P(リン):≦0.1%、S(硫黄)≦0.06%、Al(アルミニウム):≦0.1%、N(窒素):0.001〜0.0150%、残部Fe(鉄)を含有することを特徴とする請求項1記載の角形状缶。
【請求項3】
前記鋼板の成分は、重量%で、C(炭素):0.03〜0.10%、Si(シリコン):0.01〜0.03%、Mn(マンガン):0.45〜0.60%、P(リン):≦0.02%、S(硫黄):≦0.025%、Al(アルミニウム):0.030〜0.080%、N(窒素):0.001〜0.0035%含有することを特徴とする請求項2記載の角形状缶。
【請求項4】
前記鋼板は、前記成分に加え、重量%で、Nb(ニオブ):0.001〜0.1%、Ti(チタン):0.001〜0.1%、及びB(ホウ素):0.0005〜0.01%のいずれか1種または、2種以上を含むことを特徴とする請求項2または3記載の角形状缶。
【請求項5】
前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された請求項1乃至4のいずれかに記載の角形状缶。
【請求項6】
略四角形状の胴部となる鋼板にて形成された胴部の解放する両端それぞれに端板を接合し、該胴部の各コーナー部に縦方向に延びる補強ビードが形成された角形状缶であって、
前記胴部は、前記鋼板の圧延方向が縦方向となるように形成された角形状缶。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−93613(P2011−93613A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180151(P2010−180151)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(390031369)本州製罐株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(390031369)本州製罐株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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