説明

角形鋼管を使用した床版橋の製造方法

【課題】角形鋼管を使用した床版橋において、従来の桁高を高くすることなく限界長を長くすることで、該床版橋の適用分野を拡大する。
【解決手段】PCストランド30を位置保持ユニットに通して所定の位置に固定して曲線状として角形鋼管1の一端から該角形鋼管内部に挿入するとともに該角形鋼管1を平行に並べて横締め用のPC鋼材3を緊張定着して該角形鋼管1を一体化して床版橋とし、該角形鋼管1内に曲線状に配設してある該PCストランド30を緊張定着して該床版橋10に所定のプレストレスを導入すると共に上向きのキャンバーを形成し、PC鋼材31を角形鋼管1に断面中立軸より下側に偏心させて直線的に配設し、平行に並べて該横締め用のPC鋼材3で該角形鋼管を横締めして一体化し、該角形鋼管1内に直線に配設してあるPC鋼材31を緊張定着して該床版橋10に所定のプレストレスを導入し、床版橋に上向きのキャンバーを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形鋼管を並列させて横方向に鋼材によって締め付けるなどして一体化し、長軸方向にプレストレス付与した角形鋼管を使用した床版橋の製造方法及び床版橋に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、支間15m以下の小規模な橋梁工事において、角形鋼管を並設し、角形鋼管の側部に開口を設けて鉄筋などの棒状鋼材を挿通して引張力を与えて両端部で定着することによって角形鋼管を一体化して床版橋とする工法が開発された。引張力が与えられた棒状鋼材の両端部を角形鋼管の両側端に定着することによって角形鋼管を横方向に締め付け、隣接する角形鋼管が側面全面で接触するようにして荷重を水平方向に分散させて角形鋼管を強固に一体化し、床版に作用する荷重によって角形鋼管がずれるのを防止したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3752892号公報
【特許文献2】特許第3814287号公報
【特許文献3】特開2006−299706号公報
【特許文献4】特開2007−297836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の角形鋼管を用いた床版橋は、角形鋼管を単管の状態で現場まで運搬し、並列させて横方向に棒鋼材を貫通させて定着して一体化することができ、運搬及び組立て設置が容易であり、大型クレーンを必要とせずに設置可能であり、小径間の橋梁に適しており、短期間で施工できるという長所がある。
従来の角形鋼管を用いた床版橋に使用されている床版は、並設した角形鋼管を締め付けて一体化するために横方向のみに引張力を与えて一体化するものであり、角形鋼管同士のずれを防止し、角形鋼管が一体化された床版として挙動させることができるものである。一方、角形鋼管は既製品であり、その断面が製品として規格化されているため、径間距離をあまり長くすることはできず、15m程度が限界とされ、小径間の橋梁に適用が限定されていた。
本発明は、長軸方向にプレストレスを付与することによって従来の角形鋼管を使用した床版橋の限界長を桁高を高くすることなく延長できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
側面に横締め用のPC鋼材を挿入する開口を形成した角形鋼管の内部に、PC鋼材を挿入し、この角形鋼管を平行に並べて側面同士を接触させ、側面の開口から横締め用のPC鋼材を挿入し、緊張力を与えて角形鋼管を横締めして一体化し、角形鋼管内に挿入したPC鋼材を角形鋼管の断面の中立軸より下側に偏心させた位置に直線配設して緊張し、所定のプレストレスを付与すると共に角形鋼管からなる床版に上向きキャンバーを形成する角形鋼管を使用した床版橋の製造方法である。
更に、角形鋼管内部に挿入したPCストランドを、角形鋼管の断面の中立軸から下側に偏心させた位置において、位置保持ユニットによって予め定めた曲線状に配設してPCストランドを緊張して所定のプレストレスを付与すると共に角形鋼管からなる床版に上向きキャンバーを形成する角形鋼管を使用した床版橋の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の角形鋼管を使用した床版橋によれば、溶接やボルトなどの連結手段を使用することなく組立てることができ、また、角形鋼管の長手方向にはプレストレスを付与してあるので、桁高が低いままで比較的長スパンの床版橋とすることができ、中型の橋梁にまで角形鋼管を使用した床版橋にまで適用を拡大することができ、工場製品である角形鋼管を使用するので短期間の工期ですみ、コストの低減を図ることができる。
角形鋼管内にPC鋼材を角形鋼管の断面の中立軸より下側に偏心させた位置に直線状または曲線状に配設して緊張することによって角形鋼管からなる床版に上向きキャンバーを形成することができるので、鉄筋コンクリート橋に比較して変形量が大きな角形鋼管を使用した床版橋にキャンバーを形成することが容易である。
また、床版橋としてだけでなく、空間を仕切る部材としても使用可能であるので建築物の床版等の建築用途としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】角形鋼管を横締めした床版橋の横断面図。
【図2】角形鋼管を溶接した床版橋の横断面図。
【図3】本発明の床版橋の縦断面図。
【図4】本発明の床版橋の他の実施例の縦断面図。
【図5】プレストレス用PC鋼材の定着装置の実施例。
【図6】プレストレス用PC鋼材の定着装置の他の実施例。
【符号の説明】
【0008】
1 角形鋼管
10 床版橋
2 開口部
3、31 PC鋼材
30 PCストランド
4 定着装置
5 位置保持ユニット
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図に基づいて説明する。
角形鋼管を使用した床版橋10は、図1に示すように、複数本の角形鋼管1を平行に側面同士を接触させて並べてあり、角形鋼管1の端部から10cm〜50cm程度の箇所から長さ方向に3〜8mの間隔をおいて形成した直径約40mmの開口2に防請処理をしたPC鋼材3を挿通してある。このPC鋼材3を緊張し、並設した角形鋼管の両側端部に設けた定着装置4に定着し、角形鋼管1を横方向に締め付けて一体化したものである。
【0010】
使用する角形鋼管1の本数を増減することによって床版橋10の必要な幅員(横幅)が得られるので自由に変更することができる。
角形鋼管を横締めするPC鋼材3は、鋼棒またはストランドを使用するが、防請処理したものが好ましい。この防請処理したPC鋼材3としては、素線の全周をエポキシ樹脂で塗装したPCストランドであるSCストランド(登録商標)を使用するのが防請効果において優れており、また、繰り返し荷重によって生じる素線の接触部に発生する損傷(フレッチング)の発生を防止でき、構造物の寿命を長くすることができるので好ましい。
なお、図2に示すように、角形鋼管1をPC鋼材によって横締めすることなく、隣接する角形鋼管1にまたがる鋼板11を間隔をおいて設置し、鋼板11を角形鋼管1に溶接して角形鋼管1相互を接合して一体化して床版橋10としてもよい。
【0011】
複数の角形鋼管1の側面に形成した開口部2にPC鋼材3を挿通し、緊張して両端部において定着することによって複数の角形鋼管1を横締めして一体化してあり、床版橋10に荷重が作用してもPC鋼材3が角形鋼管1を締め付けているので角形鋼管1がずれることがなく、また、床版橋10の表面には段差が生じることがなく、角形鋼管1が一体化された床版橋10として機能する。
【0012】
床版橋10の横方向への緊張力の導入は、複数のPC鋼材3に同時に付与するか、または、角形鋼管1の長手方向の中央部のPC鋼材を第一に緊張し、中央部から順次長手方向の両端部に向かって中央部に対して対称に緊張力を導入し、緊張力がバランスよく導入されるようにして角形鋼管1がずれたりしないようにする。
【0013】
必要に応じて角形鋼管1内部のPC鋼材3の両側に隔壁を設けると共に角形鋼管1上面に開口(図示しない)を設けて開口からグラウトを注入し、開口に蓋をしてグラウトを固化させ、PC鋼材3と角形鋼管1を一体化させてもよい。
【0014】
角形鋼管1の内部の長手方向には、床版橋10にプレストレスを導入するためのPC鋼材31が配設してあり、図4に示すように、角形鋼管10の断面の中立軸の下側にeだけ偏心させた位置にPC鋼材31が直線配置されている。角形鋼管1の断面の中立軸より下側にPC鋼材を位置させることによって、緊張力によって床版橋10には上向きのキャンバーが形成されることになる。
図3に示すように、PCストランド30は、角形鋼管10の断面に作用する設計曲げモーメントの大きさに合わせて曲線状に配置することによって角形鋼管1に荷重が作用したときに生じる応力がキャンセルされるようにしてある。PCストランド30を曲線状に配置するため、角形鋼管1の内部には位置保持ユニット5が設けてあり、位置保持ユニット5によってPCストランドが所定の位置に維持され、予め定めた曲線状に配設される。
このPCストランド30は、前述のストランドの素線の全周が防請塗装されているものを使用するのが好ましい。
【0015】
角形鋼管を使用した床版橋の組立て手順の一例を以下に説明する。
構築する床版橋10の長さに合致する角形鋼管1を床版橋10の幅員に必要な本数を準備する。角形鋼管1の端部から10cm〜50cm程度の箇所から長さ方向に3〜8mの間隔をおいて直径約40mmの開口2を形成する。この開口2は、角形鋼管1を横方向に締め付けるためのPC鋼材3を挿通するためのものである。
【0016】
角形鋼管1の長手方向にプレストレスを導入するためのPCストランド30を角形鋼管1の内部に配設するため、図3の下側に示すように、角形鋼管1に挿入する前にPCストランド30を位置保持ユニット5に挿入して角形鋼管内部における曲線状の配置とする。
次に、角形鋼管1の一端から位置保持ユニット5に仮止めした状態のPCストランド30を角形鋼管内部に挿入して位置保持ユニット5の位置を調整して角形鋼管1の所定の位置に固定し、PCストランド30を所定の曲線状に配置する。
【0017】
次いで、角形鋼管1を平行に並べて側面同士を接触させて位置合わせを行い、横締め用のPC鋼材3を平行に並べた角形鋼管1の最外側の側面の開口2から挿入して反対側の側面の開口2から引き出し、順次ジャッキで緊張力を導入して定着して角形鋼管1を一体化する。
角形鋼管1の端部に定着装置4をセットして角形鋼管1の内部に配設してあるプレストレス導入用のPCストランド30を緊張して定着し、床版橋10に所定のプレストレスを導入し、角形鋼管1からなるプレストレスト床版橋が完成する。
PCストランド30は、角形鋼管1の断面の中立軸より下側に偏心して配置されているため、PCストランド30を緊張して床版橋10にプレストレスを導入するのに伴い、床版橋10には上向きのキャンバーが形成される。
【0018】
図4に示す例は、PC鋼材31を角形鋼管1の断面の中立軸に対してeだけ偏心させて直線的に配設したものであり、位置保持ユニット5を使用することなく角形鋼管1にプレストレスを導入し、床版橋10に上向きのキャンバーを形成するようにしたものであり、PC鋼材31の角形鋼管内への挿入が容易であり、コストの低減及び施工時間の短縮が可能である。
更に、PC鋼材3による角形鋼管1の横締めをすることなく、図2に示すように、角形鋼管1同士を接続用の鋼板11を溶接して一体化する工法を採用してもよく、コスト軽減を図ることができる。
【0019】
定着装置4は、図5に示すように、定着部補強ブロック41、支圧板42、及びアンカーヘッド43から構成され、PCストランド31の先端部には保護キャップ45が装着され、防請のためにグリースが保護キャップ45内に充填される。
また、図6に示すように、定着装置4は、支圧板42に補強板44を十字状、若しくは格子状等に配置固定したものでもよい。この定着装置4は、角形鋼管1端部に挿入してセットした後、緊張定着することによって固定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に横締め用のPC鋼材を挿入する開口を形成した角形鋼管の内部に、PC鋼材を挿入し、この角形鋼管を平行に並べて側面同士を接触させ、側面の開口から横締め用のPC鋼材を挿入し、緊張力を与えて角形鋼管を横締めして一体化し、角形鋼管の長軸方向の内部に挿入したPC鋼材を角形鋼管の断面の中立軸より下側に偏心させた位置に配設して緊張し、所定のプレストレスを付与すると共に角形鋼管からなる床版に上向きキャンバーを形成する角形鋼管を使用した床版橋の製造方法。
【請求項2】
側面に横締め用のPC鋼材を挿入する開口を形成した角形鋼管の内部に、角形鋼管の断面の中立軸から下側に偏心させた位置において、位置保持ユニットによって予め定めた曲線状にしたPCストランドを挿入し、この角形鋼管を平行に並べて側面同士を接触させ、側面の開口から横締め用のPC鋼材を挿入し、緊張力を与えて角形鋼管を横締めして一体化し、角形鋼管内に挿入したPCストランドを緊張して所定のプレストレスを付与すると共に床版橋に上向きキャンバーを形成する角形鋼管を使用した床版橋の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法によって得られる角形鋼管からなる床版橋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58181(P2011−58181A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206149(P2009−206149)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】