説明

角結膜障害治療剤

【課題】 エプロサルタンまたはその塩の新たな用途を見い出すこと。
【解決手段】 エプロサルタンまたはその塩は、角膜障害モデルにおいて優れた改善効果を発揮し、ドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角膜炎などの角結膜障害の治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプロサルタン((E)−α−[[2−n−ブチル−1−[(4−カルボキシフェニル)メチル]−1H−イミダゾール−5−イル]メチレン]−2−チオフェンプロピオン酸)またはその塩を有効成分として含有するドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角膜炎などの角結膜障害の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、直径約1cm、厚さ約1mmの透明な無血管の組織であり、また、結膜は、角膜縁より後方の眼球表面と眼瞼の裏面をおおっている粘膜であるが、角膜や結膜は、視機能に重要な影響を及ぼすことが知られている。角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、ドライアイ等の種々の疾患により引き起こされる角結膜障害は、何らかの理由で修復が遅延したり、あるいは修復が行われずに遷延化すれば、角膜と結膜は連なった組織であるため、角膜上皮の正常な再構築に悪影響を与え、結果として、角膜実質及び角膜内皮の構造や機能まで害されることがある。近年、細胞生物学の発展に伴い、細胞の分裂・移動・接着・伸展・分化等に関与する因子が解明されており、これらの因子が角結膜障害の修復に重要な役割を担っていることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
一方、特許文献1には、エプロサルタンはアンジオテンシンII作用を抑制し、高血圧や心不全などの治療剤として有用であることが開示されている。
【0004】
しかし、エプロサルタンについて、角結膜障害に対する薬理作用を検討する報告はない。
【特許文献1】特公平7−68223号公報
【非特許文献1】臨眼,46, 738-743 (1992)
【非特許文献2】眼科手術,5, 719-727 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、エプロサルタンまたはその塩の新たな医薬用途を探索することは非常に興味ある課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、エプロサルタンの新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究したところ、角膜障害モデルを用いた治癒効力試験において、エプロサルタン メシレートは角膜障害に対して優れた改善効果を発揮することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、エプロサルタン(以下「本化合物」とする)またはその塩を有効成分として含有するドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角膜炎などの角結膜障害の治療剤である。
【0008】
本化合物の塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩をはじめ、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸との塩などが挙げられ、第四級アンモニウム塩も本発明における塩に包含される。より好ましい塩は、メタンスルホン酸塩、ナトリウム塩およびカリウム塩である。また、本化合物及びその「塩」が結晶として存在する場合、その結晶の多形も本発明の範囲に含まれる。本化合物に幾何異性体が存在する場合は、それも本発明の範囲に含まれる。また、本化合物は水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0009】
本発明において、角結膜障害とは、種々の要因により角膜や結膜が損傷を受けた状態にあるものをいい、例えばドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角膜炎などが挙げられる。
【0010】
本発明の角結膜障害治療剤は、経口でも、非経口でも投与することができる。
【0011】
投与剤型としては、点眼剤、眼軟膏剤、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、特に点眼剤が好ましい。これらは汎用されている技術を用いて調製することができる。例えば、点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリン等の等張化剤、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の緩衝化剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレ−ト、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤、塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等を必要に応じて用いて、調製することができる。pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、4〜8の範囲が好ましい。
【0012】
眼軟膏剤は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用いて、調製することができる。また、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤は、乳糖、結晶セルロ−ス、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロ−ス、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロ−ス カルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロ−ス、マクロゴ−ル、シリコン樹脂等のコ−ティング剤、ゼラチン皮膜等の皮膜剤などを必要に応じて加えて、調製することができる。
【0013】
本化合物の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、点眼剤では0.00001〜10%(w/v)、好ましくは0.001〜3%(w/v)のものを1日1〜数回点眼すればよい。また、経口剤では通常1日当り0.1〜5000mg、好ましくは1〜1000mgを1回または数回に分けて投与すればよい。
【発明の効果】
【0014】
後述するように、角膜障害の治癒効力試験を実施したところ、エプロサルタン メシレート((E)−α−[[2−n−ブチル−1−[(4−カルボキシフェニル)メチル]−1H−イミダゾール−5−イル]メチレン]−2−チオフェンプロピオン酸 モノメタンスルホネート)は、角膜障害モデルにおいて優れた改善効果を発揮するので、エプロサルタンまたはその塩はドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角膜炎などの角結膜障害の治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、薬理試験の結果および製剤例を示すが、これらは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
[薬理試験]
角膜障害の治癒効力試験
雄性SDラットを用い、Fujiharaらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci 42(1):96−100 (2001))に準じ、角膜障害モデルを作製した。角膜障害モデル作製後、村上らの方法(あたらしい眼科 21(1):87-90(2004))に準じて角膜障害をスコア判定し、エプロサルタン メシレート(以下「化合物A」とする)点眼後の角膜障害の改善率を求めた。
【0017】
(実験方法)
実験動物として雄性SDラットを用い、ネンブタ−ルを投与して全身麻酔を施した後、眼窩外涙腺を摘出し、2ヶ月かけて角膜障害を誘発させた。
【0018】
つぎに、化合物Aを以下のように投与した。
【0019】
化合物A点眼群:
化合物A(0.1%)の生理的リン酸緩衝液(PBS溶液)を両眼に1日6回、14日間点眼(点眼量:5μL/回)した(一群4匹8眼)。
【0020】
コントロール群では、PBS溶液を両眼に1日6回、14日間点眼(点眼量:5μL/回)した(一群4匹8眼)。
【0021】
点眼開始14日後、角膜の障害部分をフルオレセインにて染色した。角膜の上部、中間部および下部のそれぞれについて、フルオレセインによる染色の程度を下記の基準に従ってスコア判定し、上記各部におけるスコアの合計の平均値から角膜障害の改善率を算出した。
【0022】
正常眼についても上記各部におけるスコアの合計の平均値を求めた。
【0023】
(判定基準)
0:染色されていない
1:染色が疎であり、各点状の染色部分は離れている
2:染色が中程度であり、点状の染色部分の一部が隣接している
3:染色が密であり、各点状の染色部分は隣接している
(結果)
コントロ−ル群(PBS溶液)のスコア合計の平均値を基準(改善率:0%)にして下記計算式により化合物A点眼群の各改善率を算出した。これを表1に示す。なお、スコアの平均値は各8例の平均である。
【0024】
改善率(%)={(コントロ−ル)−(化合物A)}/ 障害度×100
障害度=(コントロ−ル)−(正常眼)
【表1】

【0025】
(考察)
上記のラットを用いた薬理試験の結果(表1)から明らかなように、化合物Aは角膜障害を顕著に改善する。
【0026】
[製剤例]
以下に化合物Aを用いた代表的な製剤例を示す。
【0027】
処方例1
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
滅菌精製水 適量
化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.001%(w/v)、0.03%(w/v)、0.1%(w/v)、0.3%(w/v)、1.0%(w/v)、3.0%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0028】
処方例2
100g中
化合物A 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が1%(w/w)、3%(w/w)の眼軟膏剤を調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エプロサルタンまたはその塩を有効成分として含有する角結膜障害治療剤。
【請求項2】
角結膜障害が、ドライアイ、角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎または糸状角膜炎である請求項1記載の角結膜障害治療剤。
【請求項3】
剤型が、点眼剤または眼軟膏剤である請求項1または請求項2記載の角結膜障害治療剤。

【公開番号】特開2007−182435(P2007−182435A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329011(P2006−329011)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】