説明

角膜浮腫を治療するための疎水性疑似内皮インプラント

眼科用インプラント(10)は、疎水性疑似内皮インプラント(10)およびそこに適用される結合剤(14)を含み、結合剤(14)は、インプラント(10)が角膜(12)の脱水を可能にする水障壁の役割を果たすように、角膜(12)の後部にインプラント(10)を結合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、過水和の、浮腫状角膜を治療するための内皮インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
目の感覚機能の質は、その他の要因と同様に、角膜およびレンズを通る光伝達の質、さらにこれらの器官の光学的性能ならびに角膜および眼水晶体の透明度に、大きく依存する。
【0003】
眼科分野の専門家は、角膜透明度が主に脱水状態のままでいるための角膜の能力に依存することを知っている。角膜脱水状態はいくつかの相互依存的要因の影響を受けるが、その中で最も重要なのは、角膜の最も深い細胞層、すなわち内皮に存在する、活性ポンプである。手術、外傷、感染、または先天性素因の結果として特定のレベルを超える内皮機能のいかなる破壊も、角膜の全ての層への水の流入を生じ、そのためその透明度を歪める。この状況の病的状態は、視力の著しい低下のみならず、より進行した状態では、激しい疼痛および瘢痕を生じる、水疱性角膜症という状態になる可能性がある。
【0004】
角膜を脱水させる別の重要な生理機構は、覚醒時に目が開いている間の、涙膜からの水分の蒸発である。脱水は涙膜からの水分蒸発によって機能するが、これは眼球表面により高濃度の溶液を残し、涙膜をますます高張にさせる。高張涙膜は、角膜自体からの浸透作用によってより多くの水分を引き出す;夜間はこの逆である。この機構を増大するために、いくつかの高張液点眼剤が市販されているが、しかし残念ながら、眼瞼のまばたきのため、それらの作用は一時的である。
【0005】
現在、不健康な浮腫状態の保存療法は存在しない。この問題を解決するために、いくつかの外科的手法が開発された:古典的な全層角膜移植から、深層角膜内皮移植(DLEK)およびデスメ剥離角膜内皮移植(DSEK)と呼ばれる、より新しく開発された外科的手法まである。後者において、間質組織の薄い後部またはレンチクル(デスメ膜および付着した内皮細胞とともに)が、罹患した眼の角膜から切除される。ドナー組織を採取するために、ドナー眼に類似の処置が施される。ドナー組織がレシピエントの眼の中に配置されるとき、宿主側の角膜に移植片を保持するために、縫合は必要とされない。これらの処置の全ては、ドナー依存であるという不都合を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以下により詳細に記載されるように、浮腫状眼の治療のための、人工疎水性疑似内皮インプラントの角膜後面への移植に関する。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、疎水性疑似内皮インプラントおよびそこに適用される結合剤を含む眼科用インプラントが提供され、結合剤は、インプラントが角膜の脱水を可能にする水障壁の役割を果たすように、角膜の後部にインプラントを結合することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、インプラントが角膜の脱水を可能にする水障壁の役割を果たすように、結合剤を用いて角膜の後部に疎水性疑似内皮インプラントを結合するステップを含む、角膜浮腫を治療する方法が提供される。
【0009】
インプラントは、透明な、透過性の、生体適合性材料から構成され、剛性、半剛性、または折り畳み可能であってもよい。
【0010】
結合剤は、インプラントと角膜後面との間でインプラント角膜接触面の周縁にのみ、または接触表面全体に、またはその他のいずれかの組合せにおいて、配置されることが可能である。
【0011】
たとえばデスメ膜およびそこに付着した内皮細胞とともに間質組織の薄い後部、またはデスメ膜およびそこに付着した内皮細胞の薄い後部のみなど、角膜の後部へのインプラントの結合に先立って、角膜の後部が切除されてもよい(必ずしも切除される必要はないが)。
【0012】
患者の屈折状態がインプラントの設計において考慮されてもよく、このため乱視矯正を含む屈折補正を可能にするとともに、浮腫状態を緩和する。
【0013】
インプラントは、半径1〜2mmから最大で後部角膜の表面全体を覆う6mm以上まで、またはその間のいずれかのサイズなど、いくつかのサイズで設計されることが可能である。
【0014】
インプラントの厚みは、数ミクロンから最大で100ミクロン超までであってもよい。厚みは、インプラント全体の直径を通じて等しくてもよく、あるいは、たとえば中心から周縁に向かって薄くなるかまたはその逆など、屈折力を有するために、その異なる部分において異なってもよい。
【0015】
特に剛性インプラントの場合により良い接着を提供するために、角膜後面の曲率が考慮されてもよい。
【0016】
本発明は、以下の図面とともに読まれる以下の詳細な説明から、より完全に理解および認識されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態によって構成され有効な、疎水性疑似内皮インプラントの簡略化された前面図である。
【図2】本発明の一実施形態によって構成され有効な、疎水性疑似内皮インプラントの簡略化された側面図である。
【図3】本発明の一実施形態による、図1および2のインプラントを角膜の後部に結合する方法の簡略化されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書においてDohlman−Brown−Martolaと称される、Dohlman C.H., Brown S.I., Martola E.L., “Replacement Of The Endothelium With Alloplastic Material: A New Technique In Corneal Surgery”, Trans Am Acad Ophthalmol Otolaryngol, 1967 71(5), 851−864が、水疱性角膜症(角膜浮腫)を患う患者の眼に施される流体障壁術を記載していることが、知られている。Dohlman−Brown−Martolaでは、患者の角膜の後面までまたは角膜移植片まで、透明シリコーン膜が縫合された。患者によっては、シリコーン膜を取り付ける前に、デスメ膜および内皮が切除された。Dohlman C.H., Freeman H.M., “Recent Advances In The Use Of Alloplastic Materials In Ocular Surgery”, Journal Documenta Ophthalmologica, 1968, 25(1), 1−20もまた、角膜インプラントとして、眼における人工材料、特にPMMA(ポリメチルメタクリレート)およびシリコーンの使用を論じている。この記事は、角膜後面に直接縫合される透明シリコーンゴムでできた人工内皮に言及しており、これはDohlman−Brown−Martolaと同じである。
【0019】
いずれの論理にも捕らわれずに、縫合の使用は疎水性インプラントの成功に悪影響を及ぼすと信じられている。このため、先行技術とは対照的に、本発明は縫合を使用しない;むしろ、ここで説明されるように、角膜の後部にインプラントを結合するために、異なる接着材料が使用される。
【0020】
ここで、本発明の一実施形態によって構成され有効な、疎水性疑似内皮インプラント10を示す、図1および2を参照する。疎水性疑似内皮インプラント10は、DSEK手術におけるドナーからの移植の代わりに使用され得る。インプラント10は、角膜の脱水を可能にする水障壁の役割を果たす。
【0021】
インプラント10は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコーン、シリコーンゴム、コラーゲン、ヒアルロン酸(ナトリウム、カリウム、およびそれらのその他の塩を含む)、ヒドロキシエチルメタクリレートまたはメタクリル酸コポリマー/部分加水分解されたポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(PolyHEMAとして知られる)などのアクリル酸またはメタクリル酸ヒドロゲルのようなヒドロゲル、ポリスルホン、熱不安定材料およびその他の比較的硬質または比較的軟質および可撓性の生体不活性光学材料、またはポリマーに封入されたゲルなど、そのような材料のいずれかの組合せなど、ただしこれらに限定されない、透明な、透過性の、生体適合性材料から構成されてもよい。インプラント10はこのように、たとえば、剛性、半剛性、または折り畳み可能であってもよい。
【0022】
インプラント10を角膜の後部に結合する前に、PLKまたはDSEKのように、間質組織の薄い後部またはレンチクル(デスメ膜および付着した内皮細胞とともに)が、患者の眼の角膜から切除される。あるいは、デスメ剥離角膜内皮移植のように、デスメ膜および内皮細胞のみが切除される。あるいは、インプラントは、後面剥離を全く伴わずに、角膜の内皮に取り付けられてもよい。
【0023】
インプラント10は、結合剤14を用いて角膜12の後部に結合される(図1は角膜12の後部側を示す)。結合剤14は、インプラント10と角膜後面12との間でインプラント角膜接触面の周縁にのみ、または接触表面全体に、またはその他のいずれかの組合せにおいて、配置されることが可能である(図3)。本発明による使用に適した結合剤は、たとえばポリ−L−リジンおよびポリ−D−リジンを含むが、これらに限定されない。簡潔にするため、ポリ−L−リジンおよびポリ−D−リジンの各々は、以後区別せずに「ポリリジン」と称される。その他の適切な結合剤は、フィブロネクチン、ラミニン、I、II、III、およびIV型コラーゲン、トロンボスポンジン、ポリスチレン、ビトロネクチン、ポリアルギニン、および血小板第4因子を含むが、これらに限定されない。結合剤は、上記の内の1つまたはそれらのいずれかの組合せを含んでもよい。本発明の一実施形態によれば、1つ以上の結合剤は、インプラント上の新しい組織の成長によって生じる可能性のある不透明性を防止するために、インプラントの内面またはその外面の中心またはその両方に適用され得る、または全く適用され得ない、1つ以上の細胞毒性物質に抱合されてもよい。適切な細胞毒性物質は、サポリンおよびリシンなどの、ただしこれらに限定されないリボソーム阻害タンパク質を含むが、これに限定されない。本発明とともに使用されるときに有効であると信じられるその他の細胞毒性物質は、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、ダウノマイシン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、ビンカアルカロイド、ビンブラスチン、コルヒチンなどの細胞分裂阻害剤、ならびにサイトカシン、およびモネンシンおよびウアバインなどのイオン抱合体を含むが、これらに限定されない。
【0024】
ブドウ糖などの栄養物質の完全な遮断による角膜の萎縮を防止するために、インプラント10には、角膜に出入りする小さな流れを制御するための1つ以上の貫通孔16が形成されてもよく、これは栄養補給には十分であるが、角膜浮腫を発生させることはない。
【0025】
本発明の別の実施形態において、インプラント10の外面(角膜に対向する)は、角膜との接着をより強化するために親水特性を有してもよく、こうして疎水性−親水性インプラントを形成する。患者の屈折状態がインプラントの設計において考慮されてもよく、このため屈折補正を可能にするとともに浮腫状態を緩和する。
【0026】
本発明が、上記において具体的に示され記載されたことによって限定されないことは、当業者によって理解されるだろう。むしろ、本発明の範囲は、上記に記載された特徴の組合せおよび小結合の両方、ならびに先の記載を読んだときに当業者が想起するであろう、そして先行技術に含まれない、それらの変更および変形例を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜浮腫を治療する方法において、
インプラント(10)が角膜(12)の脱水を可能にする水障壁の役割を果たすように、結合剤(14)を用いて疎水性疑似内皮インプラント(10)を角膜(12)の後部に結合するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記インプラント(10)が、透明な、透過性の、生体適合性材料から構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インプラント(10)が剛性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インプラント(10)が折り畳み可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記材料が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコーン、シリコーンゴム、コラーゲン、ヒアルロン酸、アクリル酸ヒドロゲル、メタクリル酸ヒドロゲル、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸コポリマー/部分加水分解ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリスルホン、および不安定材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記インプラント(10)を角膜(12)の後部に結合する前に、角膜(12)の後部の一部が切除される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記インプラント(10)を角膜(12)の後部に結合する前に、デスメ膜およびそこに付着した内皮細胞とともに間質組織の薄い後部が角膜(12)から切除される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記インプラント(10)を角膜(12)の後部に結合する前に、デスメ膜およびそこに付着した内皮細胞の薄い後部が角膜(12)から切除される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記結合剤(14)が、ポリリジン、フィブロネクチン、ラミニン、I、II、III、およびIV型コラーゲン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、ポリアルギニン、および血小板第4因子のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記結合剤(14)が少なくとも1つの細胞毒性物質に抱合される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
眼科用インプラント(10)において、
疎水性疑似内皮インプラント(10)およびそこに適用される結合剤(14)を含み、前記結合剤(14)は、前記インプラント(10)が角膜(12)の脱水を可能にする水障壁の役割を果たすように、角膜(12)の後部に前記インプラント(10)を結合することができる、インプラント(10)。
【請求項12】
前記インプラント(10)が、透明な、透過性の、生体適合性材料から構成される、請求項11に記載のインプラント(10)。
【請求項13】
前記インプラント(10)が剛性である、請求項11に記載のインプラント(10)。
【請求項14】
前記インプラント(10)が折り畳み可能である、請求項11に記載のインプラント(10)。
【請求項15】
前記材料が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シリコーン、シリコーンゴム、コラーゲン、ヒアルロン酸、アクリル酸ヒドロゲル、メタクリル酸ヒドロゲル、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸コポリマー/部分加水分解ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリスルホン、および不安定材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載のインプラント(10)。
【請求項16】
前記インプラント(10)に少なくとも1つの貫通孔(16)が形成されている、請求項11に記載のインプラント(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−515054(P2012−515054A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546304(P2011−546304)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/020828
【国際公開番号】WO2010/083173
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510161303)モー リサーチ アプリケーションズ エルティーディー (2)
【Fターム(参考)】