説明

角速度センサ素子

【課題】本発明は、各種電子機器に用いられる角速度センサ及びこれに用いられる角速度センサ素子に関し、検出レベルの向上を目的とするものである。
【解決手段】この目的を達成するために、本発明は、一端が固定部9に接続され他端が錘部10に接続された駆動アーム11からなる角速度センサにおいて、駆動アーム11の形状を固定部9と錘部10を結ぶ方向と直交する方向に延びるアーム辺11a,11bの折り返し構造としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器に用いられる角速度センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の角速度センサ素子は、図10に示されるように、固定部1を中心として十字方向に設けられたアーム2a,2bと、この4つのアーム2a、2bのうち対称配置された一対のアーム2aを検出アーム2aとし、残る一対のアーム2bを支持アーム2bとして、この支持アーム2bの先端に駆動アーム3を設け、駆動アーム3を矢印で示すように振動させることで、角速度が加わることで駆動アーム3にコリオリ力が働き、このコリオリ力に伴う応力が支持アーム2bを介して検出アーム2aに伝達され、検出アーム2aを矢印で示す方向に振動させることになり、この振動による検出アーム2aの撓みを電気信号に変換し出力する構造が知られている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−337025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような角速度センサ素子は、駆動アーム3の中央部分を支持アーム2bに固定した片持ち梁構造であるため、駆動アーム3の振動基点となる支持アーム2bの先端部分と駆動アーム3の先端部分とで大きく振動速度が異なり、この振動速度に比例してコリオリ力が発生するため、駆動アーム3の振動基点近傍におけるコリオリ力を得ることが難しく、検出アーム2aに伝達する応力が小さなものとなってしまうことから、部品形状の制約がある中で角速度センサ素子における検出レベルを上げることが課題となっていた。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決し、角速度センサ素子の検出レベルを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明は角速度センサ素子の構造を、固定部と錘部の間を駆動アームで接続するとともに、錘部を固定部と錘部を結ぶ方向に振動させる駆動電極と、駆動アームに加わる角速度を検出する検出電極とを駆動アームに設け、駆動アームの形状を錘部の振動方向と直交する方向に延びるアーム辺の折り返し構造としたものである。
【発明の効果】
【0008】
この構成により本発明は、角速度センサ素子の検出レベルを向上できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の角速度センサを示す分解斜視図
【図2】同角速度センサを構成する角速度センサ素子を示す上面図
【図3】同角速度センサ素子の駆動振動状態を示す模式図
【図4】同角速度センサ素子の検出振動状態を示す模式図
【図5】同角速度センサ素子に設けられた電極の伸縮原理を示す模式図
【図6】同角速度センサ素子の駆動原理を示す模式図
【図7】同角速度センサ素子の検出原理を示す模式図
【図8】同角速度センサ素子の駆動振動時の検出電極のノイズ低減原理を示す模式図
【図9】同角速度センサ素子の形状寸法図
【図10】従来の角速度センサ素子の模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図を用いて説明する。
【0011】
図1は角速度センサを示したものであり、その基本構造はパッケージ4内に角速度センサ素子5と、この角速度センサ素子5に駆動信号を印加する駆動制御回路および角速度センサ素子5から出力された検出信号を処理する検出回路を包含するASIC6を配置し、パッケージ4の開口をリッド7で封口した構造となっている。なお、ASIC6および角速度センサ素子5は防振対策用のTABテープ8を介してパッケージ4に取り付けられている。
【0012】
また、角速度センサ素子5は図2に示されるように、固定部9と、この固定部9を挟む両側に錘部10を対称配置し、それぞれの錘部10を一対の駆動アーム11で接続した形状となっており、駆動アーム11上には後述する駆動電極12、検出電極13及びモニタ電極14が適宜配置され、固定部9に設けられたパッド電極15と接続配線16を介して接続されている。なお、それぞれの駆動アーム11は固定部9と錘部10を結ぶ方向(X軸方向)と直交する向き(Y軸方向)に延びるアーム辺11a,11bの折り返し構造としている。
【0013】
そして、ASIC6で形成された駆動信号をパッド電極15、接続配線16を介して駆動電極12に駆動信号を印加することで、図3に示すよう錘部10をX軸方向に伸縮するように振動させ、この駆動振動状態において角速度センサ素子5の基板面(XY平面)に垂直な方向(Z軸方向)に回転軸を有する角速度を受けることでコリオリ力が生じ、このコリオリ力により駆動アーム11が図4に示すようにY軸方向に振動するようになり、この検出振動による駆動アーム11の変形を図2に示す検出電極13で検知し電気信号に変換し、この検出信号を接続配線16、パッド電極15を介してASIC6に出力する構造となっている。また、モニタ電極14は駆動アーム11の振幅や駆動周期を検出してその情報をASIC6にフィードバックさせ検出精度を制御するために設けている。
【0014】
なお、角速度センサ素子5はSiからなる基板上に駆動電極12、検出電極13、モニタ電極14などが設けられた構造であり、各電極構造は図5に示すように基板17上に設けられたPtからなる下部電極18と、この下部電極18上に設けられたPZTからなる圧電体層19と、この圧電体層19上に設けられたAuからなる上部電極20とからなる積層電極であり、下部電極18をグランド接続した状態で上部電極20に正電圧を印加すると電極の積層方向に対して圧縮力が働き、下部電極18が基板17に固定された状態でこの圧縮力を受けることで電極が基板17の面内方向で伸びが生じ、上部電極20に負電圧を印加すると電極の積層方向に対して引張力が働き、下部電極18が基板17に固定された状態でこの引張力を受けることで電極が基板17の面内方向で縮みが生じるのである。また、この逆の現象として、駆動アーム11を撓ませ、電極を縮ませれば負電圧が生じ、電極を伸ばせば正電圧が生じるのである。なお、上部電極20と圧電体層19の間や下部電極18と圧電体層19との間には特に図示していないが層間の密着力を高めるためTiからなる密着層が介在している。
【0015】
そして、この角速度センサ素子5を駆動させるにあたっては、図6に示されるよう錘部10側に接続されたアーム辺11bを破線21a,21bで示すよう縦横の中心軸(縦の中心軸はアーム辺11bの延伸方向の中心軸21aとし、横の中心軸はアーム辺11bの撓みの変曲点を含む延伸方向と直交する中心軸21bとする)で4分割し、駆動電極12を錘部10に近接する側とその対角位置に配置し、これらを同じ電位の駆動信号を印加するように制御することで、共に正電圧を印加すれば共に圧縮力が発生し伸びが生じ、アーム辺11bがS字状に撓もうとし、負電圧を印加すれば共に引張応力が発生し縮みが生じ、アーム辺11bが逆に撓もうとするので、この動作を繰り返すことで錘部10を駆動振動させることが出来るのである。
【0016】
なお、駆動アーム11を錘部10の振動方向と直交するアーム辺11a,11bの折り返し構造とし、このアーム辺11a,11bの撓みにより駆動アーム11の振幅を確保したことで、図10に示す従来の片持ち梁構造の駆動アーム3の振幅より多くの振幅が得られるとともに、アーム辺11a,11bが振動方向と直交する方向に延出していることから、個々のアーム辺11a,11bの全体で撓み振動するので駆動アーム11内での振動速度の差が小さい構造であり、従来の先端部分と固定端部分とで振動速度の差が大きい構造に比べコリオリ力を受けやすい構造であり、結果として角速度センサ素子5の検出レベルを向上させている。
【0017】
また、上述したように固定部9に対して錘部10を駆動振動させることで、振動面(XY平面)に垂直な軸(Z軸)を中心とする角速度により駆動アーム11にコリオリ力が働き検出振動を起こすため、このときに生じるアーム辺11aの撓みを検出電極13にて電気信号に変換してASIC6の検出回路に出力する構造であり、この角速度センサ素子5をパッケージ4に収納した場合パッケージ4の実装面と角速度センサ素子5の基板面が一致し、角速度センサ素子5における角速度の検出軸が実装面に対して直交する方向となるため、従来の角速度センサと同様に角速度センサを実装面に対して低背化した構造となっている。
【0018】
また、この角速度センサ素子5において図4に示す検出振動から検出信号を形成するにあたっては、図7に示すように検出電極13をアーム辺11aの延伸方向の中心軸22aに対して偏芯させた位置に配置することで、コリオリ力によるアーム辺11aの撓み成分を効率よく電気信号に変換できるのである。
【0019】
すなわち、駆動アーム11を構成するアーム辺11aは、図4で示したように、角速度が印加された状態で弓なりに撓むので、この弓なりの撓みに対して検出信号を形成しなければならず、図7に示すように検出電極13がアーム辺11aの中心軸22aより右側に偏芯させて設ければ、アーム辺11aが図中左側に撓む場合、アーム辺11aの右半分には検出電極13を伸ばす力が加わるので正電圧が起電され、アーム辺11aが図中右側に撓む場合、アーム辺11aの右半分には検出電極13を縮ませる力が加わるので負電圧が起電されるというように検出信号が形成できる。
【0020】
なお、アーム辺11aが弓なりに撓む際、アーム辺11aの中心軸22aを境に一方側が電極を伸ばす力が働けば他方側は電極を縮ませる力が働くため、検出電極13はアーム辺11aの延出方向における中心軸22aに対して左右均等の幅でパターンニングすれば、左半分の圧縮応力により形成された負電圧と右半分で形成された正電圧とが検出電極13内でキャンセルしてしまい検出信号が出力されなくなる。
【0021】
また、検出電極13内でのキャンセル作用をより小さくして更に大きな検出信号を得るには、検出電極13が中心軸22aを跨ぐことなく片側に偏芯させて配置することが望ましい。
【0022】
また、検出電極13は、角速度が印加されていない基本状態つまり駆動振動している状態において検出電極13から信号を出力することはノイズ信号を出力することとなるので、基本状態におけるアーム辺のS字撓みに対して検出電極13内で形成された信号をキャンセルするため、図8に示すように検出電極13をアーム辺11aの撓み変曲点22bを中心として延出方向に対称形状としている。
【0023】
この構成によれば、駆動振動によりアーム辺11aがS字状に撓んだ際、この撓み変曲点22bを境に検出電極13に生じる応力が圧縮応力と伸張応力に分かれ、これらの電極形状が対称形状であることから撓みにより生じる正電圧と負電圧も等しくなるので、結果として駆動振動により生じるS字撓みによる信号の発生が抑制でき、角速度センサ素子の検出精度を高めることが出来る。
【0024】
なお、駆動電極12の配置については、検出電極13の近傍に用いると駆動電極12に印加される駆動信号が検出電極13と不要結合しノイズ信号を形成してしまうことから、駆動電極12は検出電極13が設けられたアーム辺11aと異なるアーム辺11bに設けることが望ましい。
【0025】
また、駆動アーム11をアーム辺11a,11bの折り返し構造としたことで、1つの錘部10に1つの駆動アーム11とした構造では振動方向が安定し難くなることから、1つの錘部10に対して駆動アーム11を並設し、一方の駆動アーム11の形状を他方の駆動アーム11の対称形状とすることで、駆動振動の方向性を高めることが出来る。なお、各駆動アーム11に設けられる駆動電極12についても同様に対称配置することで、より駆動振動の方向性を高めることができる。
【0026】
さらに、図2に示すように、1つの錘部10に対して一対の駆動アーム11を並設することで、駆動電極12に接続された接続配線16の引き回し経路と、検出電極13に接続された接続配線16の引き回し経路とを異なる駆動アーム11上で配線出来るため、駆動電極12を含む駆動信号経路と検出電極13を含む検出信号経路の不要結合を低減でき角速度センサ素子の検出精度を高めることができる。
【0027】
また、検出電極13を固定部9側のアーム辺11aに設けることで、検出信号の出力経路を短くできるため出力経路におけるノイズ発生をより抑制できるとともに、駆動電極12を他方の駆動アーム11における錘部10側のアーム辺11bに設けることで、より検出電極13と駆動電極12との間隔を大きくできるため、これらの電極間の不要結合をさらに低減できる。
【0028】
また、この角速度センサ素子5は各錘部10に接続された一対の駆動アーム11が支持される固定部9を駆動アーム11ごとに分離した構造としており、このように一対の駆動アーム11の支持部分を分割することで、一つの錘部10に接続された一対の駆動アーム11が巨視的に両持ち梁構造となり、さらに、駆動アーム11と固定部9の接続部分の柔軟性を高められるので、検出振動時の振幅を大きくすることができ、結果として角速度センサ素子5の検出レベルをさらに高められるのである。
【0029】
なお、上述した角速度センサ素子5は図9に示すように、Si基板17は厚みtが0.1mmで、最外形の幅aが1.004mm、幅bが2.2mmであり、固定部9は中央で分割されたT字形状であり、中央部分の分割幅cが0.055mm、幅dが0.134mm、幅eが0.125mmであり、各駆動アーム11は折り返し構造を形成するアーム辺11a,11bの幅fが1.84mm、幅gが0.6mm、ギャップ幅hが0.055mmであり、錘部10は幅iが0.15mm、幅jが1.58mmである。また、アーム辺11bと錘部10の接続部分は幅kが0.055mm、幅lが0.24mmであり、アーム辺11aと固定部9の接続は分割部分をはさんで幅mが0.24mmとなっている。なお、アーム辺11a,11bの折り返し部分等の角部においては振動による応力集中による破損を防止するためフィレット形状としており、各内側フィレット半径nを0.02mm、外側フィレット半径oを0.04mmとしている。
【0030】
なお、上述した角速度センサにおいては、角速度センサ素子5としてSiからなる基板17上にPZTを用いた積層電極を配置した構造を挙げて説明したが、基板17を水晶などの圧電体で構成し基板17の対向面に対向電極を形成した構造としても、角速度センサ素子5における駆動振動の振幅を大きくでき、検出レベルが高められる構成に変わりはなく同様の効果を奏することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、角速度センサの検出レベルを高めるという効果を有し、特にナビゲーションシステムなどの小型で高感度な特性を要求する電子機器に用いる角速度センサにおいて有用となるものである。
【符号の説明】
【0032】
5 角速度センサ素子
9 固定部
10 錘部
11 駆動アーム
11a,11b アーム辺
12 駆動電極
13 検出電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、この固定部に一端が支持された駆動アームと、この駆動アームの他端に支持された錘部と、前記駆動アームに設けられて前記固定部と前記錘部を結ぶ方向に前記錘部を振動させる駆動電極と、前記駆動アームに設けられてこの駆動アームに加わる角速度を検出する検出電極とを備え、前記駆動アームの形状を前記錘部の振動方向と直交する方向に延びるアーム辺の折り返し構造とするとともに、一つの錘部に対して一対の駆動アームを並設し、さらに、一方の駆動アームの形状を他方の駆動アームの対称形状としたことを特徴とする角速度センサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−57694(P2013−57694A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287088(P2012−287088)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−260525(P2008−260525)の分割
【原出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】