説明

角速度センサ

【課題】本発明は、センス電極の周りの回路パターンが断線した場合に、角速度に対応しない出力信号を出力し続けてしまうということはなく、信頼性の向上した角速度センサを提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明の角速度センサは、第1のセンス電極34と第1の積分回路56との間に、電荷を注入する第1の電圧源77を第1の断線検知スイッチ78を介して設けるとともに、第2のセンス電極35と第2の積分回路67との間に、電荷を注入する第2の電圧源79を第2の断線検知スイッチ80を介して設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、航空機、車両などの移動体の姿勢制御やナビゲーションシステム等に用いられるデジタル回路を用いた角速度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の角速度センサは、図4および図5に示すように構成されていた。
【0003】
図4は従来の角速度センサの回路ブロック図、図5は同角速度センサにおける駆動回路およびその故障検出回路のブロック図である。
【0004】
図4、図5において、1はH型の圧電体からなる水晶製の振動子で、この振動子1は一対の駆動部2と、この一対の駆動部2の反対側に配設された一対の検知部3とにより構成されており、前記検知部3にセンス電極(図示せず)を設けている。
【0005】
また、前記振動子1は駆動部2の一方に駆動用電極4を設けるとともに、駆動部2の他方に駆動検出用電極5を設けている。6は駆動回路で、この駆動回路6は前記振動子1における駆動用電極4および駆動検出用電極5に電気的に接続されており、前記振動子1を一定の振幅になるように制御している。7は故障診断回路で、この故障診断回路7は、ウインドウコンパレータ8と、このウインドウコンパレータ8の出力信号をモニタするBIT論理回路9とにより構成されている。10は検出回路で、この検出回路10は振動子1における検知部3から出力される電荷を増幅して、電圧に変換し、出力信号として入出力端子11から外部に出力している。
【0006】
以上のように構成された従来の角速度センサについて、次にその動作を説明する。
【0007】
振動子1の駆動用電極4に交流電圧を加えると振動子1が共振し、振動子1の駆動検出用電極5に、振動子1の振動振幅に応じた電荷が発生する。そして、この電荷を駆動回路6により増幅、調整した後、駆動用電極4に入力することにより、振動子1が一定の振幅で振動するように制御している。また、前記振動子1に角速度ωが加わると、一対の検知部3に設けたセンス電極(図示せず)に電荷が発生する。そしてこのセンス電極(図示せず)に発生する電荷を検出回路10により出力電圧に変換して、前記入出力端子11より角速度の信号として相手側のコンピュータ(図示せず)等に入力し、角速度を検出するものである。
【0008】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−174521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した従来の構成においては、長時間の使用により、センス電極(図示せず)の周りの回路パターン(図示せず)が断線した場合には、検出しようとしている角速度に対応しない出力信号を出力し続けてしまうという課題を有していた。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、センス電極の周りの回路パターンが断線した場合に、角速度に対応しない出力信号を出力し続けてしまうということはなく、信頼性の向上した角速度センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明は、駆動電極と第1のセンス電極と第2のセンス電極とモニタ電極とを設けた振動子と、この振動子を所定の駆動周波数で駆動振動させるドライブ回路と、少なくとも2つのレベルの電荷量を出力する第1のDA変換手段および第2のDA変換手段と、前記第1のセンス電極と第1のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第1の積分回路と、前記第2のセンス電極と第2のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第2の積分回路と、前記第1の積分回路と第2の積分回路からの出力信号を比較する比較回路と、この比較回路からの出力信号を基に前記第1のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第1のDA切替手段と、前記比較回路からの出力信号を基に前記第2のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第2のDA切替手段とを備え、前記第1のセンス電極と第1の積分回路との間に、電荷を注入する第1の電圧源を第1の断線検知スイッチを介して設けるとともに、前記第2のセンス電極と第2の積分回路との間に、電荷を注入する第2の電圧源を第2の断線検知スイッチを介して設けたもので、この構成によれば、第1のセンス電極と第1の積分回路との間に、電荷を注入する第1の電圧源を第1の断線検知スイッチを介して設けるとともに、第2のセンス電極と第2の積分回路との間に、電荷を注入する第2の電圧源を第2の断線検知スイッチを介して設けているため、第1のセンス電極と第2のセンス電極のいずれか一方または両方の周りの回路パターンが断線した場合、この断線検知時に第1のセンス電極または第2のセンス電極に蓄えられる電荷が減少することになり、これにより、比較回路から出力される出力信号の値が小さくなるため、第1のセンス電極および第2のセンス電極の周りの回路パターンの断線を検出することができるという作用効果を有するものである。
【0014】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、第1の電圧源および第2の電圧源から注入する電荷を、互いに逆極性で、絶対値が略同一となるように構成したもので、この構成によれば、第1の電圧源および第2の電圧源から注入する電荷を、互いに逆極性で、絶対値が略同一となるように構成しているため、第1のセンス電極と第2のセンス電極のいずれか一方の周りの回路パターンが断線した場合、比較回路から出力される出力信号は約半分になるもので、これにより、断線であることを確実に特定することができるという作用効果を有するものである。
【0015】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、コリオリ力により第1のセンス電極から発生する電荷と第1の電圧源から発生する電荷との和の絶対値が、第1のDA変換手段から注入される電荷の絶対値より小さくなるようにするとともに、コリオリ力により第2のセンス電極から発生する電荷と第2の電圧源から発生する電荷との和の絶対値が、第2のDA変換手段から注入される電荷の絶対値より小さくなるように構成したもので、この構成によれば、第1のセンス電極、第2のセンス電極、第1の電圧源および第2の電圧源から出力される電荷の総和により、第1のDA変換手段および第2のDA変換手段より出力される電荷を飽和させることがなくなるため、ΣΔ変調器を確実に動作させ続けることができるという作用効果を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明の角速度センサは、駆動電極と第1のセンス電極と第2のセンス電極とモニタ電極とを設けた振動子と、この振動子を所定の駆動周波数で駆動振動させるドライブ回路と、少なくとも2つのレベルの電荷量を出力する第1のDA変換手段および第2のDA変換手段と、前記第1のセンス電極と第1のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第1の積分回路と、前記第2のセンス電極と第2のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第2の積分回路と、前記第1の積分回路と第2の積分回路からの出力信号を比較する比較回路と、この比較回路からの出力信号を基に前記第1のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第1のDA切替手段と、前記比較回路からの出力信号を基に前記第2のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第2のDA切替手段とを備え、前記第1のセンス電極と第1の積分回路との間に、電荷を注入する第1の電圧源を第1の断線検知スイッチを介して設けるとともに、前記第2のセンス電極と第2の積分回路との間に、電荷を注入する第2の電圧源を第2の断線検知スイッチを介して設けたもので、この構成によれば、第1のセンス電極と第1の積分回路との間に、電荷を注入する第1の電圧源を第1の断線検知スイッチを介して設けるとともに、前記第2のセンス電極と第2の積分回路との間に、電荷を注入する第2の電圧源を第2の断線検知スイッチを介して設けているため、第1のセンス電極と第2のセンス電極のいずれか一方または両方の周りの回路パターンが断線した場合、この断線検知時に第1のセンス電極または第2のセンス電極に蓄えられる電荷が減少することになり、これにより、比較回路から出力される出力信号の値が小さくなるため、第1のセンス電極および第2のセンス電極の周りの回路パターンの断線を検出することができ、その結果、センス電極の周りの回路パターンが断線した場合に、角速度に対応しない出力信号を出力し続けてしまうということはなく、信頼性の向上した角速度センサを提供することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態におけるΣΔ型AD変換器を用いた角速度センサの回路図
【図2】(a)〜(f)同角速度センサの動作状態を示す図
【図3】(a)〜(c)同角速度センサの第1のセンス電極および第2のセンス電極の周辺の断線を検知する動作状態を示す図
【図4】従来の角速度センサの回路ブロック図
【図5】同角速度センサにおける駆動回路およびその故障検出回路を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態における角速度センサについて、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施の形態における角速度センサの回路図である。
【0019】
図1において、30は振動子で、この振動子30は振動体31と、この振動体31を振動させるための圧電体を有する駆動電極32と、振動状態に応じて電荷を発生する圧電体を有するモニタ電極33と、前記振動子30に角速度が印加されると電荷を発生する圧電体を有する第1のセンス電極34と第2のセンス電極35とを設けている。そして、前記第1のセンス電極34と第2のセンス電極35とは互いに逆極性になるように構成されている。36は電荷増幅器で、この電荷増幅器36には前記振動子30におけるモニタ電極33が出力する電荷が入力され、そしてこの入力された電荷を所定の倍率で電圧に変換するものである。37はバンドパスフィルタで、このバンドパスフィルタ37には前記電荷増幅器36の出力が入力され、そしてこの入力された信号のノイズ成分を除去してモニタ信号を出力するものである。38はAGC回路で、このAGC回路38は半波整流平滑回路(図示せず)を有しているもので、前記バンドパスフィルタ37の出力信号を半波整流して平滑したDC信号を生成し、このDC信号をもとに前記バンドパスフィルタ37の出力するモニタ信号を増幅あるいは減衰させて出力するものである。39は駆動回路で、この駆動回路39には前記AGC回路38の出力が入力され、前記振動子30の駆動電極32に駆動信号を出力するものである。そして、前記電荷増幅器36、バンドパスフィルタ37、AGC回路38および駆動回路39によりドライブ回路40を構成している。
【0020】
41はPLL回路で、このPLL回路41は前記ドライブ回路40におけるバンドパスフィルタ37が出力するモニタ信号を逓倍し、位相ノイズを時間的に積分し低減して出力するものである。42はタイミング生成回路で、このタイミング生成回路42は前記PLL回路41から出力されるモニタ信号を逓倍した信号をもとに、タイミング信号を生成して出力するものである。そして、前記PLL回路41とタイミング生成回路42とでタイミング制御回路43を構成している。47は第1のDA切替手段で、この第1のDA切替手段47は、第1の基準電圧49および第2の基準電圧50を有し、そしてこの第1の基準電圧49と第2の基準電圧50を所定の信号により切り替えるものである。51はDA出力手段で、このDA出力手段51は前記第1のDA切替手段47の出力信号が入力されるコンデンサ52と、このコンデンサ52の両端に接続され、第2のタイミングΦ2で動作してコンデンサ52の電荷を放電するスイッチ53,54とにより構成されている。そして、前記第1のDA切替手段47と第1のDA出力手段51とで第1のDA変換手段48を構成し、かつこの第1のDA変換手段48は第1のタイミングΦ1で前記コンデンサ52の電荷を放電するとともに、第1のDA切替手段47が出力する基準電圧に応じた電荷を入出力するものである。55は第1のスイッチで、この第1のスイッチ55は前記第1のタイミングΦ1で第1のセンス電極34から、電流からなる出力信号を出力するものである。56は第1の積分回路で、この第1の積分回路56には前記第1のスイッチ55の出力が入力されるもので、演算増幅器57と、この演算増幅器57の帰還に並列に接続されるコンデンサ58とにより構成されている。
【0021】
59は第2のDA切替手段で、この第2のDA切替手段59は、第1の基準電圧60および第2の基準電圧61を有し、そしてこの第1の基準電圧60と第2の基準電圧61を所定の信号により切り替えるものである。62は第2のDA出力手段で、この第2のDA出力手段62は前記第2のDA切替手段59の出力信号が入力されるコンデンサ63と、このコンデンサ63の両端に接続され、第2のタイミングΦ2で動作してコンデンサ63の電荷を放電するスイッチ64a,64bとにより構成されている。そして、前記第2のDA切替手段59と第2のDA出力手段62とで第2のDA変換手段66を構成し、かつこの第2のDA変換手段66は第2のタイミングΦ2で前記コンデンサ63の電荷を放電するとともに、第2のDA切替手段59が出力する基準電圧に応じた電荷を入出力するものである。65は第2のスイッチで、この第2のスイッチ65は前記第1のタイミングΦ1で、第2のセンス電極35から出力信号を出力するものである。67は第2の積分回路で、この第2の積分回路67には前記第2のスイッチ65の出力が入力されるもので、演算増幅器68と、この演算増幅器68の帰還に並列に接続されるコンデンサ69とにより構成されている。70は比較回路で、この比較回路70には前記第1の積分回路56が出力する積分信号と第2の積分回路67が出力する積分信号とを比較する比較器71と、D型フリップフロップ72とにより構成されており、前記D型フリップフロップ72に、比較器71が出力する1ビットからなるデジタル信号を入力している。また、前記D型フリップフロップ72は前記第1のタイミングΦ1の開始時に前記1ビットデジタル信号をラッチしてラッチ信号を出力するものであり、このラッチ信号は、前記第1のDA変換手段48の第1のDA切替手段47に入力されて第1の基準電圧49または第2の基準電圧50を切り替えるとともに、前記第2のDA変換手段66の第2のDA切替手段59に入力されて第1の基準電圧60または第2の基準電圧61を切り替えるものである。そして、前記第1のDA変換手段48、第2のDA変換手段66、第1の積分回路56、第2の積分回路67および比較回路70によりΣΔ変調器73を構成している。そして、このΣΔ変調器73は上記構成により、前記振動子30における第1のセンス電極34および第2のセンス電極35より出力される電荷をΣΔ変調し、1ビットデジタル信号に変換して出力するものである。
【0022】
74は補正演算手段で、この補正演算手段74にはフリップフロップ72が出力する1ビット信号が入力され、この1ビット差分信号と所定の補正情報との補正演算を置換処理により実現するものである。つまり、上記したように補正演算手段74に入力される1ビット差分信号が“0”“1”“−1”であり、例えば、補正情報が“5”である場合にはそれぞれ“0”“5”“−5”と置き換えて出力する構成となっている。75はデジタルフィルタで、このデジタルフィルタ75には前記補正演算手段74より出力されるデジタル信号が入力され、ノイズ成分を除去するフィルタリング処理を行うものである。そして、補正演算手段74およびデジタルフィルタ75により演算手段76を構成している。また、この演算手段76は、第1のタイミングΦ1で1ビットデジタル信号をラッチして、補正演算、フィルタリング処理を行い、マルチビット信号を出力している。そしてまた、前記タイミング制御回路43とΣΔ変調器73および演算手段76によりセンス回路を構成している。77は第1の電圧源で、この第1の電圧源77は、第1のセンス電極34と第1の積分回路56との間に、第1の断線検知スイッチ78を介して2値に相当する電荷を注入している。79は第2の電圧源で、この第2の電圧源79は、第2のセンス電極35と第2の積分回路67との間に、第2の断線検知スイッチ80を介して−2値に相当する電荷を注入している。すなわち、第1の電圧源77および第2の電圧源79から注入する電荷を、互いに逆極性で、絶対値が略同一となるように構成している。
【0023】
以上のように構成された本発明の一実施の形態における角速度センサについて、次にその動作を説明する。
【0024】
前記振動子30の駆動電極32に交流電圧を加えると、前記振動体31が共振し、モニタ電極33に電荷が発生する。このモニタ電極33に発生した電荷をドライブ回路40における電荷増幅器36に入力し、正弦波形の出力電圧に変換する。そしてこの電荷増幅器36の出力電圧をバンドパスフィルタ37に入力し、前記振動体31の共振周波数のみを抽出し、ノイズ成分を除去した図2(a)に示すような正弦波形を出力する。そしてまた、前記ドライブ回路40におけるバンドパスフィルタ37の出力信号をAGC回路38が有する半波整流平滑回路(図示せず)に入力することにより、DC信号に変換する。そしてAGC回路38はこのDC信号が大の場合には前記ドライブ回路40におけるバンドパスフィルタ37の出力信号を減衰させるような信号を、一方、前記DC信号が小の場合には前記ドライブ回路40におけるバンドパスフィルタ37の出力信号を増幅させるような信号を駆動回路39に入力し、そして前記振動体31の振動が一定振幅となるように調整するものである。さらに、タイミング制御回路43に、図2(a)に示される正弦波信号が入力され、そしてこの正弦波信号を前記PLL回路41で逓倍した信号をもとにタイミング生成回路42により図2(b)で示される第1のタイミングΦ1および第2のタイミングΦ2を形成する。そして、このタイミング信号が前記ΣΔ変調器73および補正演算手段74に、スイッチの切替およびラッチ回路のラッチタイミングとして入力される。
【0025】
また、前記振動子30が図1に図示している駆動方向に速度値に相当する電荷で屈曲振動している状態において、前記振動体31の長手方向の中心軸周りに角速度ωで回転すると、この振動子30にF=2mV×ωのコリオリ力が発生する。このコリオリ力により前記振動子30が有する第1のセンス電極34および第2のセンス電極35に、図2(c)および図2(d)に示すように電荷が発生する。そしてこの第1のセンス電極34および第2のセンス電極35に発生する電荷はコリオリ力により発生するため、前記モニタ電極33に発生する信号より位相が90度進んでいる。前記第1のセンス電極34および第2のセンス電極35に発生した出力信号は図2(c)および図2(d)に示す通り、正極性信号と負極性信号の関係にある。
【0026】
この場合におけるΣΔ変調器73の動作を以下に説明する。このΣΔ変調器73は第1のタイミングΦ1および第2のタイミングΦ2を繰り返すことによって動作するもので、第1のタイミングΦ1および第2のタイミングΦ2では振動子30における第1のセンス電極34および第2のセンス電極35から出力される正極性信号または負極性信号がΣΔ変調されて1ビットデジタル信号に変換される。
【0027】
上記した第1のタイミングΦ1および第2のタイミングΦ2での動作をひとつずつ説明する。
【0028】
ここでは、振動子30の中心軸を中心に所定の角速度が振動子30に付与されて、振動子30が回転し、第1のセンス電極34および第2のセンス電極35に8値に相当する電荷の出力電圧が発生する場合を考える。
【0029】
まず、第1のタイミングΦ1では、振動子30における第1のセンス電極34から発生する8値に相当する電荷からなる出力信号が第1の積分回路56におけるコンデンサ58に保持されるとともに、このコンデンサ58に保持されている出力信号が比較回路70における比較器71の反転端子71aに入力される。これと同様に、振動子30における第2のセンス電極35から発生する出力信号が第2の積分回路67におけるコンデンサ69に保持されるとともに、このコンデンサ69に保持されている−8値に相当する電荷からなる出力信号が比較回路70における比較器71の非反転端子71bに入力される。そうすると、比較器71から比較結果として、1ビットデジタル信号“1”がフリップフロップ72に入力され、第2のタイミングΦ2時に、フリップフロップ72にラッチされる。そして、第2のタイミングΦ2で、第1のDA出力手段51におけるスイッチ53およびスイッチ54がONになり、コンデンサ52に保持されている電荷が放電されるとともに、第2のDA出力手段62におけるスイッチ64aおよびスイッチ64bがONになり、コンデンサ63に保持されている電荷が放電される。そして、フリップフロップ72からのラッチ信号“1”が、次の、第1のタイミングΦ1時に第1のDA変換手段48における第1のDA切替手段47に入力され、−10値に相当する電荷を発生する第2の基準電圧50に切り替えられる。同様に、第2のDA変換手段66における第2のDA切替手段59に入力され、10値に相当する電荷を発生する第1の基準電圧60に切り替えられる。そうすると、第1のDA出力手段51におけるコンデンサ52に、第2の基準電圧50の−10値に相当する電荷に対応する電荷が蓄えられ、第1の積分回路56に入力されるとともに、第2のDA出力手段62におけるコンデンサ63に第1の基準電圧60の10値に相当する電荷に対応する電荷が蓄えられ、第2の積分回路67に入力される。それとともに、第1のスイッチ55がONになり、前記振動子30の第1のセンス電極34より発生する8値に相当する電荷に対応する電荷が第1の積分回路56に出力される。さらに、第2のスイッチ65がONになり、第2のセンス電極35から8値に相当する電荷に対応する電荷が第2の積分回路67に入力される。
【0030】
これにより第2のタイミングΦ2では、第1の積分回路56におけるコンデンサ58に、図2(c)の斜線部で示される電荷量と第1のDA変換手段48より出力される電荷量の総和が積分されて6値に相当する電荷からなる出力信号が第1の積分回路56に保持されることになる。これと同様に、第2の積分回路67におけるコンデンサ69に、図2(d)の斜線部で示される電荷量と第2のDA変換手段66より出力される電荷量の総和が積分されて−6値に相当する電荷からなる出力信号が第2の積分回路67に保持されることになる。そして、比較器71により比較して、フリップフロップ72に1ビットデジタル信号として出力されることになる。そして、このような前述したサイクルを繰り返すことにより、第1の積分回路56に保持される電圧は順次2値に相当する電荷ずつ低下し、一方、第2の積分回路67に保持される電圧は順次、2値に相当する電荷ずつ増加する。その結果、第1の積分回路56および第2の積分回路67に保持される電圧が0値に相当する電荷になるまでは、“1”の出力信号が出力される。その後、第1の積分回路56に保持される電圧が−2値に相当する電荷になるとともに、第2の積分回路67に保持される電圧が2値に相当する電荷になると、比較器71からは、“−1”出力信号が出力される。そうすると、フリップフロップ72からは、“−1”の出力信号が第1のDA切替手段47および第2のDA切替手段59に入力され、第1のDA変換手段48における第1の基準電圧49から、10値に相当する電荷の電圧が出力され、対応した電荷がコンデンサ52に保持されるとともに、第2のDA変換手段66における第2の基準電圧61からは、−10値に相当する電荷の電圧が出力され、対応する電荷がコンデンサ63に保持される。そうすると、第1の積分回路56に16値に相当する電荷の電圧が保持されるとともに、第2の積分回路67に−16値に相当する電荷の電圧が保持される。以後、第1の積分回路56および第2の積分回路67の出力電圧が順次2値に相当する電荷づつ変化して、“1”の出力信号が9回出力された後、“−1”の出力信号が1回出力され、マルチビット化すると、“0.8”の出力信号が出力されて、角速度の信号として検出されるものである。
【0031】
ここで、モニタ信号と同相の不要信号が発生する場合を考えると、不要信号は、図2(e)に示すように、第1のセンス電極34から発生する出力信号よりも、位相が90度遅れており、同様に、図2(f)に示すように、第2のセンス電極35から発生する出力信号よりも、位相が90度遅れている。それゆえに、第1の積分回路56および第2の積分回路67により積分すると、零値となり、不要信号がキャンセルされるものである。
【0032】
以上のように構成された本発明の一実施の形態における角速度センサについて、次に、第1のセンス電極および第2のセンス電極の周辺の断線を検知する場合について説明する。
【0033】
図3(b)に示すように、第1の断線検知スイッチ78が第2のタイミングΦ2でONになると、第1の電圧源77から2値に相当する電荷が第1のセンス電極34に入力される。そして、これと同様に、図3(c)に示すように、第2の断線検知スイッチ80が第2のタイミングΦ2でONになると、第2の電圧源79から−2値に相当する電荷が第2のセンス電極35に入力される。そうすると、次の第1のタイミングΦ1で、第1の積分回路56におけるコンデンサ58に2値に相当する電荷が保持されるとともに、第2の積分回路67におけるコンデンサ69に−2値に相当する電荷が保持される。そして、比較器71から比較結果として、4値に相当する1ビットデジタル信号がフリップフロップ72にラッチされるものである。
【0034】
ここで、第1のセンス電極34の周辺の回路パターンが断線する場合を考えると、図3(b)に示す電荷が、第1の電圧源77から第1のセンス電極34に入力されなくなる。したがって、比較器71からは、第2の積分回路67におけるコンデンサ69に蓄えられた電荷を比較結果として、2値に相当する1ビットデジタル信号がフリップフロップ72にラッチされるものである。また、上記と同様に、第2のセンス電極35の周辺の回路パターンが断線する場合には、図3(c)に示す電荷が、第2の電圧源79から第2のセンス電極34に入力されなくなる。したがって、比較器71からは、第1の積分回路56におけるコンデンサ58に蓄えられた電荷を比較結果として、2値に相当する1ビットデジタル信号がフリップフロップ72にラッチされるものである。すなわち、第1の断線検知スイッチ78および第2の断線検知スイッチ80をONにした状態で、フリップフロップ72から出力させるデジタル信号からなる出力値を監視することにより、第1のセンス電極34および第2のセンス電極35の周りの回路パターンの断線を検知することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る角速度センサは、センス電極の周りの回路パターンが断線した場合に、角速度に対応しない出力信号を出力し続けてしまうということはなく、信頼性の向上した角速度センサを提供することができるという効果を有するものであり、特に、航空機、車両などの移動体の姿勢制御やナビゲーションシステム等に用いられるデジタル回路を用いた角速度センサとして有用なものである。
【符号の説明】
【0036】
30 振動子
32 駆動電極
33 モニタ電極
34 第1のセンス電極
35 第2のセンス電極
40 ドライブ回路
43 タイミング制御回路
47 第1のDA切替手段
48 第1のDA変換手段
56 第1の積分回路
59 第2のDA切替手段
66 第2のDA変換手段
67 第2の積分回路
70 比較回路
77 第1の電圧源
78 第1の断線検知スイッチ
79 第2の電圧源
80 第2の断線検知スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電極と第1のセンス電極と第2のセンス電極とモニタ電極とを設けた振動子と、この振動子を所定の駆動周波数で駆動振動させるドライブ回路と、少なくとも2つのレベルの電荷量を出力する第1のDA変換手段および第2のDA変換手段と、前記第1のセンス電極と第1のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第1の積分回路と、前記第2のセンス電極と第2のDA変換手段とから出力される電荷を積分しその積分値を保持する第2の積分回路と、前記第1の積分回路と第2の積分回路からの出力信号を比較する比較回路と、この比較回路からの出力信号を基に前記第1のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第1のDA切替手段と、前記比較回路からの出力信号を基に前記第2のDA変換手段からの出力信号のレベルを切り替える第2のDA切替手段とを備え、前記第1のセンス電極と第1の積分回路との間に、電荷を注入する第1の電圧源を第1の断線検知スイッチを介して設けるとともに、前記第2のセンス電極と第2の積分回路との間に、電荷を注入する第2の電圧源を第2の断線検知スイッチを介して設けた角速度センサ。
【請求項2】
第1の電圧源および第2の電圧源から注入する電荷を、互いに逆極性で、絶対値が略同一となるように構成した請求項1記載の角速度センサ。
【請求項3】
コリオリ力により第1のセンス電極から発生する電荷と第1の電圧源から発生する電荷との和の絶対値が、第1のDA変換手段から注入される電荷の絶対値より小さくなるようにするとともに、コリオリ力により第2のセンス電極から発生する電荷と第2の電圧源から発生する電荷との和の絶対値が、第2のDA変換手段から注入される電荷の絶対値より小さくなるように構成した請求項1記載の角速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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