説明

角速度検出装置

【課題】振動子に対し共振角周波数に等しい角周波数を持つ駆動信号を出力できないデジタル回路構成であっても、検出精度を低下させることなく角速度を検出する。
【解決手段】駆動回路3は、振動子1の共振角周波数を中心として、検出しようとする角速度の最大値よりも高い周波数で変化する角周波数を持つ駆動信号により振動子1を励振する。この変化周波数に対するPLL回路7の開ループ伝達関数の利得を1、位相を−180°に設定することにより駆動角周波数を持続的に変化させる。検出回路4は、センス信号を同期検波して得られる検波信号を、検出しようとする角速度の最大値よりも高く且つ駆動信号の角周波数の変化周波数よりも低い遮断角周波数を持つローパスフィルタ18に通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動信号により振動子を励振したときに得られるセンス信号に基づいて角速度を検出する角速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーナビゲーションシステム、車両安定化制御(VSC)システム、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯電話機などの電子機器には、GPS自律航法、挙動安定化制御、手振れ補正制御などで必要となる角速度を検出する角速度検出装置(ジャイロセンサ)が組み込まれている。駆動用センサエレメントに振動子を使った振動型ジャイロセンサは、駆動回路により振動子を共振角周波数で一定振幅に振動させて用いられる(例えば特許文献1参照)。振動子が振動している状態でジャイロセンサに角速度が加わると、コリオリ力によって検出用センサエレメントが振動する。この検出用センサエレメントの振動に応じたセンス信号を同期検波することにより、角速度を検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−65768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の多くのジャイロセンサは、特許文献1にも記載されているように、アナログ回路から構成される駆動回路を備えている。このため、半導体プロセスの微細化が進んでも、駆動回路の実装面積を小さくしにくいという事情がある。これに対し、振動子駆動回路をデジタル化できれば、半導体プロセスの微細化に伴う実装面積の縮小が期待できる。しかし、駆動回路をデジタル回路で構成しようとすると、駆動信号の角周波数分解能が有限になるため、振動子を共振角周波数で駆動することができない場合が生じる。
【0005】
駆動信号の角周波数が振動子の共振角周波数からずれると、振動子の励振振幅が減少してジャイロセンサの感度が低下する。また、駆動信号とセンス信号の位相差が90°であることを前提に同期検波を行う場合には、上記駆動角周波数のずれによって同期検波が不完全になるので、ノイズ成分が出力されて角速度の検出精度が低下する。こうした不都合は、振動子駆動回路の全体をデジタル化した場合に限らず、駆動信号の角周波数が離散値とならざるを得ない構成において生じ得る。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、振動子に対し共振角周波数に等しい角周波数を持つ駆動信号を出力できない構成であっても、検出精度を低下させることなく角速度を検出することができる角速度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した角速度検出装置は、駆動手段とセンス手段とを備えている。駆動手段は、振動子の共振角周波数を中心として角速度の検出範囲の上限値よりも高い周波数で変化する角周波数を持つ駆動信号により振動子を第1方向に励振し、その励振状態に応じて得られるモニタ信号に基づいて振動子を持続的に振動させる。これにより、例えばデジタル回路構成を採用することにより駆動手段が出力する駆動信号の角周波数が離散値となる場合でも、振動子を共振角周波数で励振することが可能となる。その結果、駆動信号の角周波数が振動子の共振角周波数からずれることにより生じる感度の低下および検出精度の低下を防止できる。
【0008】
センス手段は、振動子の第1方向と直交する第2方向の振動状態に応じて得られるセンス信号を、駆動信号に基づいて生成される基準信号により同期検波する。駆動信号の角周波数が変化するとその位相も変化するので、センス信号の同期検波はその分だけ理想のタイミングからずれて行われる。その結果、検波後の信号(検波信号)は、駆動信号の角周波数の変化周波数を持つ歪み成分を持つことになる。そこで、角速度の検出範囲の上限値よりも高く且つ駆動信号の角周波数の変化周波数よりも低い遮断角周波数を持つ第1ローパスフィルタに検波信号を通過させる。これにより、角速度の検出範囲の上限値を超えるノイズ成分および上記歪成分を除去することができ、駆動信号の角周波数を変化させることによる検出精度の低下を防止できる。
【0009】
請求項2に記載した手段によれば、駆動手段は、駆動信号の角周波数の平均値が振動子の共振角周波数に等しくなるように駆動信号を生成する。これにより、振動子をより高精度に共振角周波数で励振することができる。
【0010】
請求項3に記載した手段によれば、駆動手段は、駆動信号の角周波数の変化周波数および変化幅が一定となるように駆動信号を生成する。これにより、振動子を共振角周波数で安定して励振することができる。
【0011】
請求項4に記載した手段によれば、駆動手段は、角周波数が離散値を持つ駆動信号により振動子を励振する。この場合、駆動信号の角周波数は必ずしも振動子の共振角周波数に一致しないが、上述したように振動子を共振角周波数で励振することができる。その結果、駆動手段をデジタル回路により構成でき、半導体プロセスの微細化に伴う実装面積の縮小が期待できる。
【0012】
請求項5に記載した手段によれば、駆動手段は、駆動信号がモニタ信号に対し90°の進み位相となるように位相調整を行うPLL回路を備えている。そして、駆動信号の角周波数の変化周波数においてPLL回路の開ループ伝達関数の位相が−180°、利得が1となるように構成したので、発振周波数を積極的に変化させる他の信号を用いることなく、駆動信号の角周波数が自ら持続的に上記変化周波数で振れるようになる。
【0013】
請求項6に記載した手段によれば、PLL回路は、帰還経路に設けられて駆動信号の位相をほぼ90°遅らせる位相調整回路と、モニタ信号と位相調整回路を通過した駆動信号との位相差を出力する位相比較回路と、駆動信号の角周波数の変化周波数よりも高い遮断角周波数を有し上記位相差を入力とする第2ローパスフィルタと、第2ローパスフィルタの出力信号に応じた角周波数を持つ駆動信号を出力する発振回路とを備えている。
【0014】
駆動信号の角周波数が変化すると、駆動信号の位相は角周波数の変化に対し90°遅れて変化する。振動子の時定数は、角周波数の変化周波数の逆数である変化時定数に対して大きいので、共振時におけるモニタ信号の位相は、駆動信号の角周波数の変化によっては殆ど変化しない。これにより、位相比較回路は、駆動信号の位相に対し180°の位相差を持つ位相差検出信号を出力する。位相調整回路の90°の位相遅れは、振動子の駆動信号に対するモニタ信号の90°の位相遅れと相殺される。上記位相差検出信号は、第2ローパスフィルタを通過することにより位相が90°遅れ、この第2ローパスフィルタの出力信号に従って駆動信号の角周波数が変化する。
【0015】
この場合、駆動信号の角周波数の変化周波数におけるPLL回路の開ループ伝達関数の位相は、第2ローパスフィルタと位相調整回路とで合わせて−180°となり、開ループ伝達関数の利得は、第2ローパスフィルタと発振回路とで合わせて1となる。
【0016】
請求項7に記載した手段によれば、PLL回路はデジタル回路により構成されているので、半導体プロセスの微細化に伴う実装面積の縮小が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態を示すセンサ回路のブロック構成図
【図2】駆動回路の信号波形図
【図3】検出回路の信号波形図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、カーナビゲーションシステム、車両安定化制御(VSC)システムなどに適用されて角速度を検出するセンサ回路のブロック構成を示している。センサチップとして形成された静電駆動・容量検出型のマイクロジャイロセンサは、単結晶シリコン等で形成された基板上に、基板面に平行な第1方向に駆動振動し、第1方向と直交する第2方向に検出振動するように配置された振動子1を備えている。図示しないが、振動子1の周囲には振動子1に対向して、振動子1を第1方向に駆動振動させるための駆動電極、振動子1の駆動振動の状態をモニタするためのモニタ電極、振動子1の第2方向の振動を検出するための一対の検出電極が形成されている。
【0019】
センサチップとして形成されたセンサ回路2は、モニタ信号に基づいて振動子1を励振する駆動回路3(駆動手段)と、センス信号に基づいて角速度を検出する検出回路4(センス手段)とを備えた角速度検出装置である。センサ回路2の主要部(後述するPLL回路7、同期検波回路17など)はデジタル回路により構成されている。このため、駆動回路3が出力する駆動信号の角周波数は離散値となり、駆動信号の角周波数を振動子1の共振角周波数に一致させることができない場合が生じる。
【0020】
そこで、駆動回路3は、振動子1の共振角周波数を中心として角速度の検出範囲の上限値(すなわち検出可能な最大角速度)よりも高い周波数で変化する角周波数(以下、駆動角周波数という)を持つ駆動信号を駆動電極に与えることにより、振動子1と駆動電極との間に静電力を作用させて振動子1を第1方向に駆動振動させる。そして、励振状態に応じてモニタ電極から得られるモニタ信号に基づいて、振動子1を持続的に振動させるように駆動信号の大きさと位相を調整する。
【0021】
振動子1が駆動振動している状態でマイクロジャイロセンサに基板面に垂直な軸を中心とする角速度が加わると、振動子1はコリオリ力によって第2方向に検出振動する。検出回路4は、この検出振動による振動子1と検出電極との間の静電容量の変化に基づいて得られるセンス信号を、駆動信号に基づいて生成される基準信号により同期検波して角速度を検出する。以下、具体的な構成を説明する。
【0022】
駆動回路3は、増幅回路5、波形整形回路6、PLL回路7、A/D変換器8およびAGC回路9から構成されている。増幅回路5は、モニタ電極から出力されるモニタ信号を増幅する。波形整形回路6は、PLL回路7でのデジタル処理を可能にするため、比較回路によりモニタ信号のゼロクロス点を検出してモニタ信号を方形波信号に変換する。
【0023】
全デジタル構成のPLL回路7は、駆動信号がモニタ信号に対し90°の進み位相となるように位相調整を行うもので、ロジック回路からなる位相比較回路10、ローパスフィルタ11、DCO(Digital Controlled Oscillator)12、分周回路13および位相調整回路14から構成されている。本発明でいう発振回路は、DCO12のみならず分周回路13も含んでいる。
【0024】
PLL回路7の帰還経路に設けられた位相調整回路14は、駆動信号とモニタ信号の位相差が90°のときに位相比較回路10に入力される2つの信号の位相が一致するように、分周回路13から出力される信号の位相を調整して位相比較回路10に入力する。この位相調整量は、駆動信号とモニタ信号の位相差を基本調整量として、増幅回路5、波形整形回路6およびAGC回路9の位相遅れなども考慮してほぼ90°の遅れに設定されている。位相調整回路14は、クロックに同期して動作する所定数のフリップフロップが縦続接続されてなるシフトレジスタから構成されている。
【0025】
位相比較回路10は、その非反転側端子に入力される波形整形回路6の出力信号と、反転側端子に入力される位相調整回路14の出力信号との間の位相差を検出し、その位相差検出信号をNビット(N>1)のデジタル値として出力する。ループフィルタであるローパスフィルタ11(第2ローパスフィルタ)は、積分回路11aと増幅回路11bとから構成されており、駆動角周波数の変化周波数よりも高い遮断角周波数を有している。DCO12は、例えばリングオシレータから構成されており、ローパスフィルタ11の出力信号に応じた角周波数を持つ矩形波信号を出力する。この矩形波信号は駆動信号に対し逓倍された信号であるため、分周回路13を用いて分周する。
【0026】
A/D変換器8は、増幅回路5で増幅されたモニタ信号のp−p(peak-to-peak)値をデジタル値に変換する。AGC(Automatic Gain Control)回路9は、マイクロジャイロセンサの感度を一定に保持するため、増幅回路5で増幅されたモニタ信号の振幅が一定となるように利得を自動調整して駆動信号を出力する。その結果、振動子1は、第1方向に振動を継続する。
【0027】
検出回路4は、増幅回路15、A/D変換器16、同期検波回路17、ローパスフィルタ18および位相調整回路19から構成されている。このうち同期検波回路17、ローパスフィルタ18および位相調整回路19は、デジタル回路により構成されている。増幅回路15は、検出電極から出力される互いに逆相のセンス信号を差動増幅し、A/D変換器16はその増幅信号を一定時間間隔でサンプリングしデジタル値に変換する。
【0028】
位相調整回路19は、AGC回路9の位相遅れの影響を含め、振動子1の共振角周波数に対し、振動子1の駆動信号とセンス信号の位相が一致するように分周回路13の出力信号の位相を調整した基準信号を出力する。その構成は、位相調整回路14と同様である。同期検波回路17は、A/D変換されたセンス信号を上記基準信号を用いて同期検波する。ローパスフィルタ18(第1ローパスフィルタ)は、角速度の検出範囲の上限値よりも高く且つ駆動角周波数の変化周波数よりも低い遮断角周波数を有している。同期検波回路17から出力される検波信号をローパスフィルタ18に通すことにより、駆動角周波数の変化周波数を含む高周波のノイズ成分が除去された角速度信号を得ることができる。
【0029】
次に、図2および図3も参照しながら本実施形態の作用を説明する。
はじめに、励振系である駆動回路3の作用について説明する。図2は、駆動回路3の信号波形図である。上から順に(a)駆動信号の角周波数Ω(駆動角周波数)、(b)駆動信号の位相Φ、(c)位相差検出信号、(d)積分回路11aの出力信号を示している。
【0030】
駆動回路3は、安定振動時において、振動子1の共振角周波数Ω0を中心として角速度の検出範囲の上限値(検出可能な最大角速度)よりも高い一定の周波数ωで一定の幅Aだけ変化する角周波数Ω(駆動角周波数Ω)を持つ駆動信号を出力する。変化周波数ωは、当然に駆動角周波数Ω以下である。一例として、共振角周波数Ω0は数十kHz、角速度の検出範囲の上限値は数十Hz、駆動角周波数Ωの変化周波数ωは数百Hz、変化幅Aは±数Hzである。これを式で表すと(1)式のようになる。この場合、駆動角周波数Ωの平均値は共振角周波数Ω0に等しくなる。
【0031】
Ω=A・sin(ω・t+α)+Ω0 …(1)
ここで、
A:駆動角周波数の変化幅(振幅)[rad/s]
ω:駆動角周波数の変化周波数[rad/s]
α:駆動角周波数の変化位相[rad]
Ω0:共振角周波数[rad/s]
【0032】
一般に、周期信号の角周波数Ω[rad/s]と位相Φ[rad]との間には(2)式で示す関係が成立する。
dΦ/dt=Ω …(2)
【0033】
(2)式に(1)式を適用して駆動角周波数Ωを積分すれば、駆動信号の位相Φは(3)式のようになる。Cは定数である。
Φ=(A/ω)・sin(ω・t−π/2+α)+Ω0・t+C …(3)
【0034】
この(3)式によれば、駆動信号の位相Φは、図2(b)に示すように駆動信号の角周波数Ωに対し位相が90°遅れ、振幅が1/ωになる。なお、(3)式に含まれるΩ0・tの項は、位相比較回路10における位相比較処理により消滅するので図2(b)には示していない。
【0035】
振動子1の時定数は、変化周波数ωの逆数である変化時定数に対して大きいので、振動子1の駆動電極に上記駆動信号を与えると、振動子1は駆動角周波数Ωの中心角周波数である共振角周波数Ω0で振動する。従って、共振時におけるモニタ信号の位相は、駆動信号に対して90°遅れるが、駆動角周波数Ωの周波数ωによる変化によっては殆ど変化しない。その結果、モニタ信号の90°の位相遅れは位相調整回路14の90°の位相遅れと相殺され、位相比較回路10は、図2(c)に示すように駆動信号の位相Φに対し180°の位相差を持つ位相差検出信号を出力する。
【0036】
位相差検出信号は、ローパスフィルタ11の積分回路11aを通過することにより、図2(d)に示すように位相が90°遅れ、振幅が1/ωになる。その後、増幅回路11bによりK倍の利得が与えられる。DCO12は、ローパスフィルタ11の出力信号に応じた角周波数を持つ矩形波信号を出力し、分周回路13とAGC回路9を経て駆動信号が形成される。
【0037】
この場合、変化周波数ωに対するPLL回路7の開ループ伝達関数の位相は、ローパスフィルタ11と位相調整回路14とで合わせて−180°となる。一方、開ループ伝達関数の利得は、ローパスフィルタ11でK/ω、DCO12で1/ωとなり、全体としてK/ω2となる。従って、増幅回路11bのゲインKを適当に与えて、所望の変化周波数ωにおける開ループ利得K/ω2を1とすることにより、他の信号を用いることなく、駆動信号の角周波数Ωを周波数ωで持続的に変化させることができる。
【0038】
続いて、同期検波を実行する検出回路4の作用について説明する。図3は、検出回路4の信号波形図である。理解を容易にするため角速度信号とノイズ信号を分けており、上から順に(a)センス信号(角速度信号)、(b)センス信号(ノイズ信号)、(c)基準信号、(d)検波信号(角速度信号)、(e)検波信号(ノイズ信号)、(f)ローパスフィルタ18の出力信号(角速度信号)、(g)ローパスフィルタ18の出力信号(ノイズ信号)を示している。
【0039】
センス信号には、マイクロジャイロセンサに加わった角速度に対応した(a)角速度信号と(b)ノイズ信号が含まれる。共振状態では、角速度信号の位相は駆動信号の位相と一致し、ノイズ信号の位相は駆動信号の位相に対し90°ずれる。このため、同期検波回路17において、駆動信号に基づいて生成される(c)基準信号を用いてセンス信号を同期検波することにより角速度信号だけを抽出することができる。
【0040】
ところで、上述したように駆動信号の角周波数Ωは、一定の周波数ωで一定の幅Aだけ変化する。そこで、この駆動角周波数Ωの変化が角速度の検出精度に悪影響を与えないことを以下で説明する。
【0041】
駆動信号の角周波数Ωが変化すると位相Φも変化するため、センス信号の同期検波はその分だけ理想のタイミングからずれて行われる。その結果、(d)角速度信号の検波信号および(e)ノイズ信号の検波信号は歪んだものになる。そこで、ローパスフィルタ18の遮断角周波数を、検出する角速度の上限値よりも高く、ノイズ信号の角周波数および駆動角周波数Ωの変化周波数ωよりも低い角周波数に設定する。これにより、ノイズ信号および上記歪成分を同時に除去することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の駆動回路3は、振動子1の共振角周波数を中心として、検出しようとする角速度の最大値よりも高い周波数で変化する角周波数を持つ駆動信号により振動子1を励振する。これにより、デジタル構成のPLL回路7を採用して駆動回路3が出力する駆動信号の角周波数が離散値となる場合でも、振動子1を共振角周波数で励振することができる。その結果、駆動信号の角周波数が振動子1の共振角周波数からずれることにより生じる感度の低下および検出精度の低下を防止できる。
【0043】
一方、検出回路4は、センス信号を同期検波して得られる検波信号を、検出しようとする角速度の最大値よりも高く且つ駆動信号の角周波数の変化周波数よりも低い遮断角周波数を持つローパスフィルタ18に通過させる。これにより、駆動信号の角周波数を変化させることにより生じる検波信号の歪を除去することができ、検出精度の低下を防止することができる。
【0044】
本実施形態で用いる駆動角周波数の平均値は振動子1の共振角周波数に等しいので、振動子1をより高精度に共振角周波数で励振することができる。また、駆動角周波数の変化周波数および変化幅を一定としたので、振動子1を共振角周波数で安定して励振することができる。
【0045】
駆動角周波数の変化周波数に対して、PLL回路7の開ループ伝達関数の利得を1、位相を−180°に設定したので、DCO12の発振周波数を積極的に変化させる補助信号等を用いることなく、駆動角周波数を当該変化周波数で持続的に振らせることができる。
【0046】
センサ回路2は、上記駆動回路3を採用することにより、感度および検出精度を低下させることなく、PLL回路7、同期検波回路17などの主要部をデジタル回路で構成できる。このため、アナログ回路で構成した従来のセンサ回路に比べ、センサチップにおけるセンサ回路2の実装面積を縮小できる。また、今後の半導体プロセスの微細化に伴い、センサ回路2の実装面積を一層縮小することが期待できる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形、拡張を行うことができる。
本発明は、デジタル回路を採用するなどして駆動信号の角周波数が離散値とならざるを得ない構成において特に有効であるが、駆動信号の角周波数が連続値となる場合であっても適用可能である。
【0048】
(1)式に示すように駆動角周波数を正弦波に従って変化させたが、矩形波など他の波形に従って変化させてもよい。この場合には、変化波形の基本周波数を角速度の検出範囲の上限値よりも高い周波数とし、第1ローパスフィルタの遮断角周波数を角速度の検出範囲の上限値よりも高く且つ変化波形の基本周波数よりも低く設定すればよい。
【0049】
上記実施形態では、所定の位相条件および利得条件を満たすようにPLL回路7を設定することにより、駆動角周波数を当該条件を満たす周波数で自励的に変化させることができる。しかしながら、他の信号を用いてDCO12の発振周波数を他励的に変化させてもよい。
【0050】
位相調整回路14に、シフトレジスタの各段の出力信号を選択するセレクタを設け、位相調整量を変更可能に構成してもよい。
本発明は、振動方式にかかわらず振動型ジャイロセンサ一般に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
図面中、1は振動子、2はセンサ回路(角速度検出装置)、3は駆動回路(駆動手段)、4は検出回路(センス手段)、7はPLL回路、10は位相比較回路、11はローパスフィルタ(第2ローパスフィルタ)、12はDCO(発振回路)、14は位相調整回路、18はローパスフィルタ(第1ローパスフィルタ)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子の共振角周波数を中心として角速度の検出範囲の上限値よりも高い周波数で変化する角周波数を持つ駆動信号により前記振動子を第1方向に励振し、その励振状態に応じて得られるモニタ信号に基づいて前記振動子を持続的に振動させる駆動手段と、
前記振動子の第1方向と直交する第2方向の振動状態に応じて得られるセンス信号を前記駆動信号に基づいて生成される基準信号により同期検波し、その検波信号を前記角速度の検出範囲の上限値よりも高く且つ前記駆動信号の角周波数の変化周波数よりも低い遮断角周波数を持つ第1ローパスフィルタを通して角速度を検出するセンス手段とを備えていることを特徴とする角速度検出装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記駆動信号の角周波数の平均値が前記振動子の共振角周波数に等しくなるように前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1記載の角速度検出装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記駆動信号の角周波数の変化周波数および変化幅が一定となるように前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1または2記載の角速度検出装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、角周波数が離散値を持つ駆動信号により前記振動子を励振することを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の角速度検出装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、前記駆動信号が前記モニタ信号に対し90°の進み位相となるように位相調整を行うPLL回路を備えており、前記駆動信号の角周波数の変化周波数における前記PLL回路の開ループ伝達関数の位相が−180°、利得が1であることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の角速度検出装置。
【請求項6】
前記PLL回路は、
帰還経路に設けられて前記駆動信号の位相をほぼ90°遅らせる位相調整回路と、
前記モニタ信号と前記位相調整回路を通過した駆動信号との位相差を出力する位相比較回路と、
前記駆動信号の角周波数の変化周波数よりも高い遮断角周波数を有し前記位相差を入力とする第2ローパスフィルタと、
前記第2ローパスフィルタの出力信号に応じた角周波数を持つ前記駆動信号を出力する発振回路とを備えていることを特徴とする請求項5記載の角速度検出装置。
【請求項7】
前記PLL回路は、デジタル回路により構成されていることを特徴とする請求項5または6記載の角速度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113717(P2013−113717A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260211(P2011−260211)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】