説明

触媒および触媒の製造方法

【課題】CuOおよびCuAlを含むアルミナ担持Cu触媒の触媒活性および熱安定性を向上させる。
【解決手段】Alと、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを担体として含み、第1焼成温度で焼成して第1中間体を製造し、その後第2焼成温度で焼成して、前記担体にCuOおよびCuAlが担持されている触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CuOおよびCuAlを含む触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅亜鉛酸化物触媒(Cu/Zn系酸化物触媒)は、水性ガスシフト反応(CO+HO→CO+H)において高い活性と優れた選択性を示し、貴金属を活性種とする触媒と比較して安価であるため、水性ガスシフト反応用の触媒として広く利用されている。しかしながら、Cu/Zn系酸化物触媒は、耐酸化性、耐シンタリング性が低く、劣化し易い点に課題があり、貴金属レスの高耐久性水性ガスシフト反応用の触媒の開発が進められている。
【0003】
Cu/Zn系酸化物触媒と同様に銅酸化物等を活性種とする触媒として、例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に記載されているように、アルミナ担持Cu触媒が開発されている。アルミナ担持Cu触媒は、アルミナを担体とし、CuO(酸化銅(II))と、スピネル結晶構造を有するCuAl(アルミン酸銅)が担持されている触媒である。アルミナ担持Cu触媒は、例えば、非特許文献1に記載されているように、γ−アルミナにCuの硝酸塩等を含浸させて、700℃程度以上の高い温度で焼成することによって製造される。
【0004】
しかしながら、従来のアルミナ担持Cu触媒の触媒活性は、従来のCu/Zn系酸化物触媒(例えば、ズードケミー社製のMDC7)と比較して十分に高いとはいえず、触媒活性を向上させる取り組みが行われている。例えば、特許文献1には、触媒活性を向上させるために、触媒に、Ce,Ba,Mn,Co,Zn,Ni,アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩または酸化物をさらに加えることが記載されており、特許文献2には、触媒にTi,Znをさらに加えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−507155号公報
【特許文献2】特開2007−69105号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Catalysis Communications 7, 228-231 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アルミナ担持Cu触媒の製造工程において、担体として用いられるアルミナにAl以外の金属の酸化物を共存させることによって、CuOと、CuAlとを含むアルミナ担持Cu触媒の触媒活性および熱安定性が向上することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Alと、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを担体として含み、前記担体にCuOおよびCuAlが担持されている触媒を提供する。
【0009】
前記金属成分は、Zrであってもよい。また、前記CuAlはスピネル結晶構造を有していることが好ましい。また、上記の触媒は、Cu−Kα線によるX線回折パターンにおいて、CuOおよびCuAlに帰属する回折ピークを有し、且つα−アルミナに帰属する回折ピークを有さないことが好ましい。
【0010】
本発明が提供する触媒製造方法は、アルミニウム化合物と、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分を含む化合物との混合物を第1焼成温度で焼成して、第1中間体を製造する第1工程と、第1工程で得られた前記第1中間体と銅化合物との混合物を第2焼成温度で焼成して、CuOおよびCuAlを含む触媒を製造する第2工程とを有しており、第1焼成温度は、第2焼成温度よりも低い。
【0011】
上記の触媒製造方法において、第2焼成温度は、700℃以上かつ1200℃以下であることが好ましい。また、第1焼成温度は、100℃以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒活性および熱安定性が高い、アルミナ担持Cu触媒およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例および比較例に係るX線回折の測定結果を示す図である。
【図2】実施例および比較例に係るX線回折の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、XW(Cu)=20wt%である場合の結果を示している。
【図4】実施例2に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図である。
【図5】比較例に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図である。
【図6】実施例および比較例に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、第2焼成温度が800℃の条件でXW(Cu)=20wt%である場合の結果を比較して図示している。
【図7】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、XW(Cu)=5wt%である場合の結果を示している。
【図8】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、XW(Cu)=10wt%である場合の結果を示している。
【図9】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、XW(Cu)=15wt%である場合の結果を示している。
【図10】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、XW(Cu)=20wt%である場合の結果を示している。
【図11】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、第2焼成温度が750℃の条件でXW(Cu)=5〜20wt%である場合の結果を比較して図示している。
【図12】実施例1に係る触媒の水性ガスシフト反応の結果を示す図であり、第2焼成温度が800℃の条件でXW(Cu)=5〜20wt%である場合の結果を比較して図示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(アルミナ担持Cu触媒)
本明細書が開示する触媒は、Alと、Zr(ジルコニウム),Ti(チタン),Hf(ハフニウム),Rf(ラザホージウム)から選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを担体として含み、前記担体にCuOおよびCuAlが担持されているアルミナ担持Cu触媒である。より具体的には、前記金属成分は、ZrO,TiO,HfO,RfOのうちの1つまたは2以上の金属酸化物、またはZr,Ti,Hf,Rfのうちの1つまたは2以上とAlとの複合酸化物として、触媒中に含有されることが好ましい。Zr,Ti,Hf,Rfはいずれも周期律表の4族に属する金属元素であるという点で共通するが、コスト等の観点から、Zr,Tiを好適に用いることができ、触媒中にZrO,TiOとして含有されていることが好ましい。また、上記触媒中のCuAlはスピネル結晶構造を有していることが好ましく、Alは、主としてγ−アルミナとして上記触媒中に含まれていることが好ましい。上記触媒は、Cu−Kα線によるX線回折パターンにおいて、CuOおよびCuAlに帰属する回折ピークを有し、且つα−アルミナに帰属する回折ピークを有さないことが好ましい。
【0015】
上記のアルミナ担持Cu触媒は、Alに加えて、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分をさらに担体としてさらに含むことにより、その担体に担持されるCuOおよびCuAlによって得られる触媒活性を向上させるとともに、触媒の熱安定性を向上させることが可能となるものである。
【0016】
CuOおよびCuAlを含むアルミナ担持Cu触媒は、CuOとCuAlが共存することによって、高い触媒活性を得ることができる。より具体的には、CuAlが生成されることによってCuOが微粒子化し、これによって触媒活性が向上するとの報告がなされている(非特許文献1)。CuAlは、触媒前駆体を高温下で焼成する等の処理を行い、CuOの一部をAlと反応させることによって生成させることができる。一方で、触媒活性を得るためには、CuOが触媒中に残存している必要があるため、CuAlを生成する反応をある程度抑制する必要がある。また、高温下で焼成を行うと、担体であるAlがγ―アルミナからα―アルミナに相転移し、これによっても触媒活性が低下する。
【0017】
本明細書に開示するアルミナ担持Cu触媒では、Alに加えて、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分を担体としてさらに含むため、触媒前駆体を高温下で焼成を行った場合にも、CuAlを生成する反応が抑制されてCuOおよびCuAlが共存する状態が維持されるとともに、担体として含まれるAlとがγ―アルミナからα―アルミナに相転移することが抑制される。これによって、触媒活性を向上させるとともに、触媒の熱安定性を向上させることが可能となる。
【0018】
本明細書が開示する上記のアルミナ担持Cu触媒は、従来のアルミナ担持Cu触媒によって得られるCuに由来する触媒活性および熱安定性を向上させるものであるから、従来のアルミナ担持Cu触媒が触媒活性を示す反応系(例えば、水性ガスシフト反応、メタノール合成反応(主反応式:CO+2H→CHOHおよびCO+3H→CHOH+HO)、メタノールからの水素生成反応、NOx除去反応)に好適に用いることができる。
【0019】
本明細書が開示する触媒製造方法は、アルミニウム化合物と、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分を含む化合物との混合物を第1焼成温度で焼成して、第1中間体を製造する第1工程と、第1工程で得られた前記第1中間体と銅化合物との混合物を第2焼成温度で焼成して、CuOおよびCuAlを含む触媒を製造する第2工程とを有しており、第1焼成温度は、第2焼成温度よりも低い。
【0020】
この触媒製造方法によれば、Alと、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを担体として含み、前記担体にCuOおよびCuAlが担持されているアルミナ担持Cu触媒を製造することができる。
【0021】
第1工程では、Alと、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを含む第1中間体が製造される。第1工程で用いられるアルミニウム化合物としては、アルミニウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アルミン酸塩等を好適に利用することができ、硝酸塩がより好ましい。前記金属成分を含む化合物は、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分の硝酸塩、硫酸塩、塩化物等を好適に利用することができ、硝酸塩または塩化物がより好ましい。
【0022】
第1工程では、アルミニウム化合物および前記金属成分を含む化合物を混合する方法としては、例えば乾式、湿式のいずれで混合してもよい。使用するアルミニウム化合物および前記金属成分を含む化合物によって、混合方法を適宜選択することができる。湿式でアルミニウム化合物と前記金属成分を含む化合物とを混合することが好ましく、より均質な第1中間体を製造するという観点からは、共沈法を用いることがより好ましい。
【0023】
前記金属成分を含む化合物の混合比XA(M)を、前記金属成分原子の個数A(M)とアルミニウム原子の個数A(Al)を用いて、下記式(1)によって表した場合に、混合比XA(M)は、0<XA(M)≦10%であることが好ましく、1%≦XA(M)≦5%であることがより好ましい。
【0024】
XA(M)[%]=A(M)×100/(A(M)+A(Al)) …(1)
【0025】
第1工程で行われる焼成は、酸化雰囲気下(例えば、空気雰囲気下)で行われることが好ましく、これによって、Alの酸化物、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分の酸化物、またはこれらの複合酸化物等を含む第1中間体を製造することができる。
【0026】
第2工程では、第1工程で得られた前記第1中間体と銅化合物との混合物を第2焼成温度で焼成して、CuOおよびCuAlを含む触媒を製造する。
【0027】
銅の混合率XW(Cu)を、第2工程後に得られた触媒の重量をW(Cat)と、この触媒に含まれる銅の重量をW(Cu)を用いて、下記式(2)によって表した場合に、混合率XW(Cu)は、1wt%≦XW(Cu)≦30wt%であることが好ましく、5wt%≦XW(Cu)≦20wt%であることがより好ましい。
【0028】
XW(Cu)[wt%]=W(Cu)×100/W(Cat)…(2)
【0029】
第2工程においても、第1工程と同様に、焼成は、酸化雰囲気下で行われることが好ましく、これによって、CuOおよびCuAl、担体であるAlの酸化物、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分の酸化物、またはこれらの複合酸化物等を含むアルミナ担持Cu触媒を製造することができる。
【0030】
上記の触媒製造方法において、第2焼成温度は、700℃以上かつ1200℃以下であることが好ましく、700℃以上かつ900℃以下であることが特に好ましい。第1焼成温度は、第2焼成温度よりも低い温度に設定すればよく、100℃以上の範囲で設定することが好ましい。例えば、第2焼成温度が700℃である場合には、100℃以上700℃未満の範囲で設定することが好ましい。
【実施例】
【0031】
実施例においては、担体として含まれる金属成分Mがジルコニウム(Zr)である場合を例示して説明する。
(原料)
第1工程、第2工程では、下記の試薬を原料として用いた。また、溶媒として、Milli−Q水製造装置(日本ミリポア株式会社製)によって精製した超純水を使用した。
Al(NO・9HO :特級、関東化学株式会社製
ZrO(NO・2HO:特級、関東化学株式会社製
Cu(NO・3HO :特級、関東化学株式会社製
アンモニア水 :特級、関東化学株式会社製
【実施例1】
【0032】
(Cu/AZr1触媒の製造)
(第1工程)
実施例1では、XA(M)=1%であるアルミナ担持Cu触媒(以下、本明細書等ではCu/AZr1触媒という)について説明する。実施例1では、XA(M)=1%の条件で第1中間体を8.0g製造する方法を例示して説明する。
【0033】
アルミニウム化合物としてAl(NO・9HOを58.614g秤量し、金属成分を含む化合物としてZrO(NO・2HOを0.418g秤量して、500mlのビーカーに入れ、溶媒として超純水を加え、水溶液の全重量が300gとなるように調整した。この水溶液を攪拌子によって強く攪拌しながらアンモニア水を滴下し、pH=8.5となるように調整した。なお、アンモニア水を滴下するに際しては、pH=8程度になるまでは上記のアンモニア水を試薬のまま滴下し、それ以降は、微調整のために、上記のアンモニア水を5倍に希釈したものを滴下した。得られたゲルを2時間静置した後、上澄み液のpHが7以下になるまで、遠心分離と水洗を繰り返した。水を除去した後、150℃で一晩(約12時間)乾燥させて、得られた固形物(AlOOHとZr(OH)の混合物)をアルミナ製の乳鉢で約10分間粉砕した。粉砕した固形物を焼成炉に入れて、昇温速度5℃/minで第1焼成温度まで昇温し、第1焼成温度で3時間焼成した。第1焼成温度は、500℃とした。これによって、第1中間体(γ−AlとZrOとの混合物)を得た。焼成炉としてはボックス炉を用い、空気雰囲気下で焼成した。
【0034】
(第2工程)
銅化合物としてCu(NO・3HOを用いて、XW(Cu)=5,10,15,20wt%となるように、それぞれ0.40g,0.84g,1.34g,1.90g秤量して100mlビーカーに入れ、超純水を加えて60mlとし、4種類のCu含有水溶液を調整した。第1中間体は、150℃で1時間乾燥させた後に2.0gずつ秤量し、それぞれのCu含有水溶液に加えた。攪拌子を用いてCu含有水溶液を室温で30分間攪拌した後、加熱して蒸発乾固させ、固形物を得た。得られた固形物をさらに150℃で一晩乾燥させた後、メノウ乳鉢を用いて10分程度粉砕し、混合した。粉砕・混合した固形物を焼成炉に入れて、昇温速度5℃/minで第2焼成温度まで昇温し、第2焼成温度で8時間焼成した。焼成炉としてはボックス炉を用い、空気雰囲気下で焼成した。第2焼成温度は、700,750,800,850,900℃に設定した。これによって、Cu/AZr1触媒である触媒1〜触媒14を製造した。
【実施例2】
【0035】
(第1工程)
実施例2では、XA(M)=5%であるアルミナ担持Cu触媒(以下、本明細書等ではCu/AZr5触媒という)について説明する。実施例2では、実施例1を参考に、上記式(1)に基づいてXA(M)=5%の場合のAl(NO・9HOおよびZrO(NO・2HOの重量を計算し、Al(NO・9HOを53.271g、ZrO(NO・2HOを1.977g、それぞれ秤量して、500mlビーカーに入れた。その後の工程については、実施例1と同様に行った。これによって、第1中間体を製造した。
【0036】
(第2工程)
XW(Cu)=20wt%の条件でCu含有水溶液を調製し、実施例1と同様に第2工程を行った。第2焼成温度は、700,800,900℃でそれぞれ実施した。これによって、Cu/AZr5触媒である触媒15〜触媒17を製造した。
【0037】
(比較例)
比較例として、担体にZr等の4族元素を含まない、従来のアルミナ担持Cu触媒(以下、本明細書等ではCu/Al2O3触媒という)を製造した。比較例では、第1工程の出発物質としてAl(NO・9HOのみを60.045g秤量し、500mlビーカーに入れた。その後の工程については、実施例1と同様に行った。これによって、γ−アルミナの担体を製造した。第1工程で製造したγ−アルミナを担体として用い、実施例1における第2工程と同様の方法で、γ−アルミナをCu(NO・3HO水溶液に浸漬して銅化合物を含浸担持させ、その後、焼成等の処理を行った。Cu含有水溶液はXW(Cu)=20wt%の条件で調製し、第2焼成温度は、700,800,900℃でそれぞれ実施した。これによって、Cu/Al2O3触媒である触媒18〜触媒20を製造した。
【0038】
(参考例)
参考例として、ズードケミー社製のCu/Zn系酸化物触媒であるMDC7(組成比:CuO=43wt%、ZnO=47wt%、アルミナ=10wt%)を触媒21として用いた。MDC7は、市販の触媒であり、水性ガスシフト反応の触媒活性を比較するに際して広く利用されているものである。
【0039】
(XRD分析)
実施例1,2および比較例において得られたアルミナ担持Cu触媒のうち、XW(Cu)=20wt%、第2焼成温度=800,900℃の条件で製造した触媒(触媒13,14,16,17,19,20)について、Cu−Kα線によるXRD(X線回折)によって分析した。その結果を図1および図2に示す。図1は第2焼成温度が800℃である触媒13,16,19をそれぞれ図示しており、図2は第2焼成温度が900℃である触媒14,17,20をそれぞれ図示している。下記の表1に、各結晶のピーク位置2θおよびピーク強度比Iを示す。
【0040】
【表1】

【0041】
図1および図2に示すように、実施例1,2(触媒13,14,16,17)および比較例(触媒19,20)のいずれの触媒のX線回折パターンにおいても、CuOおよびスピネル結晶構造のCuAlに帰属する回折ピークが観測された。実施例1,2(触媒13,14,16,17)では、比較例(触媒19,20)よりもCuAlのピークが小さくなっていた。これは、担体にZrを含むことによって、CuAlが生成する反応が抑制されたためであると考えられる。また、900℃の高温下で焼成を行うと、比較例(触媒20)においては、α―アルミナのピーク(顕著には、2θ=25.57,35.14,43.34のピーク)が観測されたが、実施例1,2(触媒14,17)では、α―アルミナのピークが観測されなかった。これは、担体にZrを含むことによって、担体であるAlがγ―アルミナからα―アルミナに相転移することが抑制されたためであると考えられる。なお、第2焼成温度が800℃の場合には、いずれの触媒(触媒13,16,19)においても、α−アルミナのピークは観測されなかった。
【0042】
(水性ガスシフト反応)
固定床流通式の反応管を用いて、水性ガスシフト反応を行い、実施例1,2、比較例、参考例係る触媒1〜触媒21の触媒活性を評価した。触媒量は0.10g、触媒層温度は150〜400℃とし、下記の組成のバランスガスを水のバブリング槽に通過させた後に、反応管の触媒層に供給した。水のバブリング槽はリボンヒータによって46℃に加熱されており、下記のバランスガスを100ml/minでバブリング槽に供給すると、下記の組成の反応ガスが得られた。この反応ガスを、流量111ml/minで触媒層に供給した。
【0043】
<バランスガス組成>
CO : 1mol%
:99mol%
<反応ガス組成>
CO : 1mol%
O :10mol%
:89mol%
【0044】
生成ガスは、シリカゲル層を通過させることによって乾燥させた後、Agilent社製micro-GC 3000Aによって分析を行った。カラムは、MS5AおよびPorapak−Qを用い、TCDで検出した。反応ガスも同様にガスクロマトグラフィーによって分析し、得られたCO濃度とH濃度から、水素生成率を算出した。水素生成率(H収率)は、下記式(3)によって算出した。なお、ガスクロマトグラフィーによって、生成ガス中にCHが含有されていないことも確認した。
【0045】
収率[%]=(生成ガス中のH濃度)×100/(反応ガス中のCO濃度)…(3)
【0046】
水性ガスシフト反応の結果を表2〜表5および図3〜図12に示す。なお、図3〜図12中では、縦軸の「H Yield」はH収率(%)を表しており、横軸は水性ガスシフト反応の触媒層温度を示している。
【0047】
図3〜図5は、第2焼成温度=700,800,900℃の条件で製造したCu/AZr1触媒(触媒11,13,14)、Cu/AZr5触媒(触媒15〜17)、Cu/Al2O3触媒(触媒18〜20)の水性ガスシフト反応の結果を、参考例である触媒21の結果とともに示す図である。図6は、第2焼成温度が800℃の条件でXW(Cu)=20wt%である場合の結果を比較して図示している。図3〜図6に示すように、水性ガスシフト反応のいずれの反応温度においても、触媒11,13,14および触媒15〜17は、触媒18〜20よりも触媒活性が高く、特に最も高い活性を示す、第2焼成温度が800℃での触媒活性を比較した図6に示すとおり、触媒活性は、Cu/AZr1触媒である触媒13において特に向上していた。また、第2焼成温度が900℃である場合には、触媒11,13,14および触媒15〜17は、触媒18〜20に比べて著しく高い触媒活性を示した。
【0048】
図7〜図12は、Cu/AZr1触媒の水性ガスシフト反応の結果を、参考例である触媒21の結果とともに示す図である。図7〜図10は、それぞれXW(Cu)=5〜20wt%である場合の結果を示しており、図11、図12は、第2焼成温度がそれぞれ750,800℃の条件でXW(Cu)=5〜20wt%である場合の結果を比較して図示している。
【0049】
図7〜図12に示すように、水性ガスシフト反応のいずれの反応温度においても、実施例1に係る触媒5は、触媒21(MDC7)と同等またはそれ以上の触媒活性を示した。反応温度が300℃以上の範囲では、Cu担持量XW(Cu)が10wt%以上であり、第2焼成温度が750℃〜800℃または850℃である触媒(触媒5,6,8〜10,12,13)が触媒21と同程度の触媒活性を示した。Cu担持量XW(Cu)が15wt%の場合には、第2焼成温度が750℃〜850℃であるいずれの触媒(触媒8〜10)においても触媒21と同等またはそれ以上の高い触媒活性を示した。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
上記のとおり、本発明の実施例によれば、アルミナ担持Cu触媒の触媒活性および熱安定性を向上させることができ、Cu/Zn系酸化物触媒であるMDC7と同等またはそれ以上の触媒活性を有するアルミナ担持Cu触媒を提供することも可能であることが明らかになった。また、参考例として用いたMDC7は、CuOを43wt%含んでおり、Cuの重量比に換算すると、約34wt%となるが、本実施例に係るZrを担体としてさらに含むアルミナ担持Cu触媒(Cu/AZr1触媒)のCuの担持量は、5〜20wt%である。本実施例によれば、MDC7と比較して少ないCuの担持量で、MDC7と同等またはそれ以上の高い触媒活性を得ることができる。本実施例によれば、水性ガスシフト反応、メタノール合成反応、メタノールからの水素生成反応、NOx除去反応等に好適に利用できる、高活性かつ高耐久性の銅系触媒を提供することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0056】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alと、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分とを担体として含み、前記担体にCuOおよびCuAlが担持されている触媒。
【請求項2】
前記金属成分は、Zrである、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記CuAlはスピネル結晶構造を有する、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
Cu−Kα線によるX線回折パターンにおいて、CuOおよびCuAlに帰属する回折ピークを有し、且つα−アルミナに帰属する回折ピークを有さない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
アルミニウム化合物と、Zr,Ti,Hf,Rfから選択される少なくともいずれか一種の金属成分を含む化合物との混合物を第1焼成温度で焼成して、第1中間体を製造する第1工程と、
第1工程で得られた前記第1中間体と銅化合物との混合物を第2焼成温度で焼成して、CuOおよびCuAlを含む触媒を製造する第2工程とを有しており、
第1焼成温度は、第2焼成温度よりも低い、触媒製造方法。
【請求項6】
第2焼成温度は、700℃以上かつ1200℃以下である、請求項5に記載の触媒製造方法。
【請求項7】
第1焼成温度は、100℃以上である、請求項5または6に記載の触媒製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−115769(P2012−115769A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268002(P2010−268002)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】