説明

触媒の再生方法

【課題】コーク付着により失活したゼオライトを活性成分に有する触媒を、酸素を含むガスによりコークを除去する再生方法と比べ、再生後のプロピレン選択率が高い状態に再生することができる触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成する反応を経てエチレン転化率が低下した触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させて再生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法に関し、さらに詳しくは、ゼオライトを活性成分として含み、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成する反応を経てエチレン転化率が低下した、触媒に、酸素を含まず、水素を含むガスを接触させて再生させることを特徴とする触媒の再生方法、該方法により再生された触媒を用いるプロピレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンを製造する方法としては、ナフサのスチームクラッキング法や減圧軽油の流動接触分解法が一般的に実施されている。スチームクラッキング法ではプロピレンの他にエチレンも大量に生成し、プロピレンとエチレンの製造割合を大きく変えることは難しいため、プロピレンとエチレンの需給バランスの変化に対応するのは困難であった。そこで、エチレンだけを原料として高収率でプロピレンを製造する技術が望まれていた。
【0003】
かかる技術として、特許文献1には、エチレンを原料としたプロピレンの製造方法で、0.5nm未満の細孔径を有するアルミノシリケート触媒を用いるプロピレンの製造方法が開示されている。この方法により、エチレンからプロピレンを効率よく製造することができる。
【0004】
ここで、炭化水素転化反応では、一般的に炭素質(コーク)付着による触媒の失活が起きる。これはエチレンからプロピレンを生成する反応でも同様であり、このためコークを除去して触媒の再生を行う必要がある。付着したコークは、通常、酸素を含むガスを用いて燃焼除去することができる。
特許文献2では、芳香族アルキル化反応において、失活したゼオライトβ触媒を、酸素を含むガスで付着コークを酸化させ、触媒を再生している。
また、特許文献3では、固定床気相反応で使用された触媒を再生するために、酸素含有気体を流通させて、コークを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291076号公報
【特許文献2】特表2007−537028号公報
【特許文献3】特開2001−96173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを接触させてプロピレンを製造する方法において、未使用の触媒を用いた場合には、反応初期はエチレン転化率が非常に高いものの、プロピレンはほとんど生成せず、プロパン等のパラフィン類が主に生成する。
そして反応時間の経過と共に、触媒上にコークが析出してくると、エチレン転化率は徐々に低下するが、主生成物はプロピレンになる。これにより高いエチレン転化率にも関わらず高いプロピレン選択性を発現し、工業的に実施する上で最も良好な反応成績が得られる。
しかし、さらに反応時間が経過し、コーク析出量がさらに増加すると、高いプロピレン選択性は維持されるものの、エチレン転化率が著しく低下することがわかっている。
このことはコークの付着した触媒を用いて反応することにより、高いプロピレン選択性が発現すること、および触媒に付着するコークには、エチレンを触媒に接触させてプロピ
レンを製造する際に適した状態があることが推定される。
【0007】
そのため、ゼオライトを活性成分に有する触媒に、エチレンを接触させてプロピレンを製造する方法を工業的に実施する際、高いエチレン転化率で反応を行うためには、コーク除去を実施するための触媒再生が必要である。
しかしながら、触媒上のコーク除去方法として一般的に行われる酸素を含むガスを用いた触媒再生を行うと、エチレン転化率は未使用の触媒程度まで回復するものの、プロピレン選択率についても未使用の触媒程度まで低くなるという問題があった。
これは酸素を含むガスで再生をした場合、コークが完全に除去されるためと推定される。そこで、触媒再生後にも高いプロピレン選択性を維持できるような触媒の再生方法の確立が望まれていた。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが酸素を含むガスを用いた触媒再生の時間を変えてコークを部分的に除去する方法について検討したところ、エチレン転化率は部分的に再生するものの、プロピレン選択率は、未使用の触媒を用いてコークが析出した場合と比べて低い値となった。
これは、反応の経過と共に析出するコークと、触媒再生後のコークの性質が異なり、酸素を含むガスによる触媒再生操作によって高プロピレン選択性に必要なコークが除去されてしまったためと推定される。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが酸素を含むガスを用いた触媒再生の時間を変えてコークを部分的に除去する方法について検討したところ、エチレン転化率は部分的に再生するものの、プロピレン選択率は、未使用の触媒を用いてコークが析出した場合と比べて低い値となった。
尚、本明細書中で「コーク」とは、触媒表面および触媒内部の少なくともいずれかに存在する炭化水素または炭素の総称を示している。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の欠点が解決された、エチレン転化率が高く、かつプロピレン選択率を維持した触媒の製造方法、該方法により製造された触媒を用いるプロピレンの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、エチレンを原料として気相でプロピレンを合成する反応において、エチレン転化率が低下した触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させることにより、従来の酸素を含むガスによりコークを除去する再生方法と比べ、再生後のプロピレン選択率が高く維持された状態に再生できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(9)に存する。
(1)ゼオライトを活性成分として含み、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成する反応を経てエチレン転化率が低下した触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させて再生させることを特徴とする触媒の製造方法。
(2)触媒を再生させる温度が300℃以上750℃以下であることを特徴とする前記(1)に記載の触媒の製造方法。
(3)前記プロピレンを生成する反応と同じ温度、圧力および空間速度において、再生後の触媒にエチレンを気相で接触させてプロピレンを生成した際のエチレン転化率が50〜90%、かつプロピレン選択率が40%以上となるまで、触媒を再生させることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の触媒の製造方法。
(4)前記触媒がゼオライトに金属を担持させたものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒の製造方法
(5)前記ゼオライトが0.6nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒の製造方法。
(6)前記ゼオライトがCHA構造のゼオライトであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の触媒の製造方法。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法で再生された触媒を用い、エチレンからプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
(8)エチレンからプロピレンを生成させる反応を行う反応器に、触媒を再生するための装置を付設し、該反応器から抜き出した触媒を該装置に送り、再生後の触媒を該反応器に戻して該反応を行うことを特徴とする前記(7)に記載のプロピレンの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により再生、製造された触媒は、未使用の同触媒にエチレンを接触させることによって増加したプロピレン選択率と同等のプロピレン選択率を維持しており、かつエチレン転化率も高いので、反応−再生の繰り返しにおいて一定のプロピレン選択率を維持することができ、安定したプロピレン収量を得る工業的に優れたプロピレン製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】未再生触媒、実施例1、2の再生触媒、比較例1、2の再生触媒における、エチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した図である。
【図2】実施例3において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図3】実施例3において12回再生後の再生触媒のエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した図である。
【図4】実施例4において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図5】実施例4において12回再生後の再生触媒のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図6】実施例5において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図7】実施例6において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図8】実施例7において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図9】実施例8において再生を繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を示した図である。
【図10】実施例9における触媒のエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
【0016】
本発明のゼオライト触媒の製造方法は、ゼオライトを活性成分に有する触媒(以下これを、「ゼオライト触媒」ということがある。)に、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成する反応において、コーク付着によりエチレン転化率が低下した触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させて再生させることを特徴とするものである。
また、本発明のプロピレンの製造方法は、上記方法で再生されたゼオライト触媒を用い、エチレンからプロピレンを生成させることに特徴を有するものである。
【0017】
本発明の触媒を用いるプロピレンの製造方法では、ゼオライト触媒に、エチレンを気相で接触させると、炭素−炭素結合生成反応と炭素−炭素結合切断反応の両者の反応が起こり、プロピレンが生成する。
【0018】
この反応において、未使用のゼオライト触媒を用いた場合、反応初期は、エチレン転化率は高いが、プロピレン選択率は低く、反応の進行(触媒のコーク付着による活性低下)につれて、プロピレン選択率が向上し、ほぼ最高値で維持される。しかし、活性(エチレン転化率)は、コーク付着により徐々に落ち、触媒の失活が起こる。
【0019】
本明細書において、「エチレン転化率」、「プロピレン選択率」は、後述する実施例に記載する方法により算出される値である。以下にその詳細を説明する。
【0020】
(1)触媒の製造方法
本発明の触媒の製造方法は、エチレンからプロピレンを生成する反応を触媒するゼオライトを活性成分として含む触媒(以下、「ゼオライト触媒」ともいう)を用いて該反応を行ったことによりエチレン転化率が低下した触媒を、後述する方法でプロピレン選択率を維持したままエチレン転化率を回復させることによるものである。
【0021】
本発明において触媒の再生とは、前記反応を経てエチレン転化率が低下した触媒を、プロピレン選択率を維持したままエチレン転化率を回復させることをいう。
本発明で用いられる触媒(ゼオライト触媒)とは、ゼオライトを活性成分として含み、適当な温度条件において、エチレンからプロピレンを生成させる能力を有するものを意味する。
活性成分であるゼオライトは、そのまま触媒として反応に用いても良いし、反応に不活性な物質やバインダーを用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して反応に用いても良い。
前記反応に不活性な物質やバインダーとしては、例えばアルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゾル、石英、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
本発明で用いられるゼオライトは、次に述べる物性等を持つものである。
【0022】
ゼオライトとは、四面体構造をもつTO4単位(Tは中心原子)がO原子を共有して三次元的に連結し、開かれた規則的なミクロ細孔を形成している結晶性物質を指す。具体的には国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下これを「IZA」
ということがある。)の構造委員会データ集に記載のあるケイ酸塩、リン酸塩、ゲルマニウム塩、ヒ酸塩等が含まれる。
【0023】
ここで、ケイ酸塩には、例えばアルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が含まれる。
リン酸塩には、例えばアルミノリン酸塩、ガロリン酸塩、ベリロリン酸塩等が含まれる。
ゲルマニウム塩には、例えばアルミノゲルマニウム塩等が、ヒ酸塩には、例えばアルミノヒ酸塩等が含まれる。
さらに、アルミノリン酸塩には、例えばT原子をSiで一部置換したシリコアルミノリン酸塩や、Ga、Mg、Mn、Fe、Co、Znなど2価や3価のカチオンを含むものが含まれる。
【0024】
ゼオライトの平均細孔径は特に限定されず、通常0.6nm未満、好ましくは0.5nm
以下である。
ここで、平均細孔径とは、IZAが定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic
free diameter of the channels)を示す。平均細孔径が0.6nm未満とは、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その平均直径が0.6nm未満であることをさすが、細孔の形状が楕円形の場合は、短径が0.6nm未満であることを意味する。
【0025】
本発明の触媒の活性成分として、平均細孔径が0.6nm未満のゼオライトを用いるこ
とにより、エチレンから高収率でプロピレンを製造することができる。この作用機構の詳細は明らかではないが、強い酸点の存在によりエチレンを活性化することができ、また、小さい細孔径によりプロピレンを選択的に生成させることができることによると考えられる。
即ち、平均細孔径が0.6nm未満の細孔であると、反応生成物(目的物)であるプロピレンはこの細孔から出てくることができるが、副生成物であるブテンやペンテン等は、分子が大きいために細孔内にとどまったままになっており、分解されてプロピレン等の小さなオレフィンになった後に細孔から出てくると推定される。このようなメカニズムでプロピレンの選択率が改善されると考えられる。
【0026】
なお、ゼオライトの平均細孔径の下限も特に限定されず、通常0.2nm以上、好ましくは0.3nm以上である。平均細孔径が小さすぎるとエチレンもプロピレンも通り抜けられなくなり、エチレンと活性点との作用が起こりにくくなり反応速度が低下すると考えられる。
【0027】
ゼオライトの細孔を構成する酸素数としては、特に限定されず、通常、酸素8員環または9員環を含む構造を有するものが好ましく、酸素8員環のみで構成されているものがより好ましい。
ここで、酸素8員環または9員環を含む構造とは、ゼオライトのもつ細孔がTO4単位
(但し、TはSi、P、Ge、Al、Ga等を示す。)8個または9個からなる環構造を意味する。
【0028】
酸素8員環のみで構成されているゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、AFX、CAS、CHA、DDR、ERI、ESV、GIS、GOO、ITE、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH等が挙げられる。
また、酸素9員環を含みかつ酸素9員環以下の細孔だけを有するゼオライトとしては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、NAT、RSN、STT等が挙げられる。
【0029】
ゼオライトのフレームワーク密度(単位:T/nm3)は特に限定されず、好ましくは
18.0以下、より好ましくは17.0以下であり、下限は、通常13.0以上、好ましくは14.0以上である。
ここで、フレームワーク密度(単位:T/nm3)とは、ゼオライトの単位体積(1n
3)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原
子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。
【0030】
上記の構造に関する観点から、本発明の触媒の活性成分として用いられるゼオライトの好ましい骨格構造はAFX、CHA、ERI、LEV、RHO、RTHであり、より好ましい骨格構造はCHAである。
【0031】
CHA構造のゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。上記のとおり、ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなる
アルミノリン酸塩(ALPO−34)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO−34)等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0032】
ゼオライトは、通常プロトン交換型が用いられるが、その一部がNa、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に交換されていてもよい。
【0033】
これらイオン交換サイト以外に、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;Cr、Cu、Ni、Fe、Mo、W、Pt、Re等の遷移金属に金属担持されていてもよい。ここで、金属担持は、通常、平衡吸着法、蒸発乾固法、ポアフィリング法等の含浸法で行うことができる。
【0034】
ゼオライトがケイ酸塩の場合、SiO2/M23(但し、Mはアルミニウム、ガリウム
、鉄、チタン、ホウ素など3価の金属を示す。)モル比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、上限は、通常1000以下である。この値が低すぎると触媒の耐久性が低下する傾向があり、また高すぎても触媒活性が低下する傾向がある。
【0035】
ゼオライトがリン酸塩の場合、シリコアルミノリン酸塩の(Al+P)/Siモル比あ
るいは2価の金属をもつメタロアルミノリン酸塩の(Al+P)/M(但し、Mは2価の
金属を示す。)モル比は、通常は5以上、好ましくは10以上であり、通常500以下である。前記下限以上とすることにより触媒の耐久性の低下を防ぐことができ、また前記上限以下以上とすることにより、触媒活性が低下を防ぐことができる。
【0036】
ゼオライトの外表面の酸量(以下これを「外表面酸量」ということがある。)は、ゼオライト全体の酸量(以下これを「全体酸量」ということがある。)に対して、通常5%以下、好ましくは4.5%以下、より好ましくは3.5%以下である。外表面の酸量は少なければ少ないほど良く、下限は特にない。
【0037】
全体酸量に対して、外表面酸量が前記上限超過では、ゼオライトの外表面で起こる副反応により、プロピレンの選択性が下がる傾向がある。これは、触媒の細孔で生成したプロピレンが、外表面酸点と再び作用し副反応を起こすことによると考えられる。
また、全体酸量に対して、外表面酸量が前記上限超過では、ゼオライトの外表面で起こる副反応により、プロピレンの選択性が下がる傾向がある。これは、外表面での反応は形状選択的な制約を受けず、C4以上の生成物が生成するためと考えられる。また、触媒の細孔で生成したプロピレンが、外表面酸点と再び作用し、副反応を起こすことによると考えられる。
【0038】
ここで、ゼオライトの外表面酸量とは、ゼオライトの外表面に存在する酸点の総量を示す。外表面酸量とは、具体的には、前処理として真空下500℃で1時間乾燥させた後、150℃でピリジン蒸気と接触吸着させ、150℃で作動排気及びHeフローで余剰ピリジンを除いて得られたゼオライトの、昇温速度10℃/分の昇温脱離法による150〜800℃におけるゼオライト単位重量当たりのピリジンの脱離量をいう。
【0039】
また、ゼオライトの全体酸量とは、前処理としてHeフロー下500℃で1時間乾燥させた後、100℃で5体積%アンモニア/ヘリウムと接触吸着させ、100℃で水蒸気に接触させ、余剰アンモニアを除いて得られたゼオライトの、昇温速度10℃/分の昇温脱離法による100〜800℃におけるゼオライト単位重量当たりのアンモニアの脱離量をいう。
【0040】
本発明の触媒の活性成分として用いるゼオライトの全体酸量は、通常4.8mmol/g以下、好ましくは2.8mmol/g以下である。また、通常0.15mmol/g以上、好ましくは0.30mmol/g以上である。酸量が前記上限以下とすることで、コーク付着による失活が速くなるのを防ぎ、アルミニウムが骨格から抜けやすくなることを防ぐ、酸点当たりの酸強度の低下を抑制する効果がある。前記下限以上では、酸量が少ないことによる、エチレンの転化率の低下を防ぐことができる。
【0041】
全体酸量に対する外表面酸量の割合の低下は、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば、ゼオライトの外表面をシリル化する方法、ゼオライトに水蒸気処理(スチーミング)を行う方法、ジカルボン酸で処理する方法等により行うことができる。これらの処理方法は、後述する金属元素の担持処理とともに行ってよく、後述する金属担持処理の前に行ってもよいし、後に行ってもよい。
【0042】
ゼオライト外表面のシリル化は、適当なシリル化剤を用いた、液相シリル化法や気相シリル化法等のそれ自体既知のシリル化法により行えばよい。これにより、ゼオライトの外表面酸量を低下させることができる。
【0043】
シリル化剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の4級のアルコキシシラン;トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン等の3級のアルコキシシラン;ジメトキジメチルシシラン、ジエトキシジメチルシラン等の2級アルコキシシラン;メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン等の1級のアルコキシシラン;テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のクロロシラン等が挙げられる。
【0044】
これらの中で、液相シリル化においてはアルコキシシランが好ましく、アルコキシシランとしてはテトラエトキシシランが好ましい。また、気相シリル化においてはクロロシランが好ましく、クロロシランとしてはテトラクロロシランが好ましい。
【0045】
液相シリル化法で使用する溶媒は特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機溶媒や水等が挙げられる。
【0046】
液相シリル化法において、処理溶液中のシリル化剤/ゼオライトの量比(mol/mo
l)は、通常5以下、好ましくは3以下であり、下限は、通常0.005以上、好ましくは0.1以上である。この値が高すぎると、過剰なシリル化によって、細孔が閉塞する傾向あり、低すぎるとシリル化が不十分で外表面酸量の低下ができない場合もある。
【0047】
シリル化の温度は、シリル化剤や溶媒の種類によるが、通常140℃以下、好ましくは120℃以下であり、下限は、通常20℃以上、好ましくは40℃以上である。処理温度が高すぎると、液の蒸発によって、シリル化が効率的に起こらない場合があり、温度が低すぎるとシリル化の反応速度が遅くなる傾向がある。
【0048】
シリル化の処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは2時間以上であり、処理時間の上限は特にない。処理時間が短すぎると十分なシリル化が起こらず、外表面酸量の低下が不十分となる場合もある。
【0049】
気相シリル化法においては、蒸着したシリカの重量が、ゼオライトに対して、通常20重量%以下、好ましくは18重量%以下となるように行う。蒸着量の下限は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上である。この値が高すぎると、過剰なシリル化によって、細孔が閉塞する傾向があり、低すぎるとシリル化が不十分で、外表面酸量の低下ができない場合もある。
【0050】
気相シリル化の温度は、通常20℃以上、好ましくは100℃以上であり、上限は、通常500℃以下、好ましくは400℃以下である。温度が高すぎると、シリル化剤の分解やゼオライトの骨格の崩壊が起こりやすくなる傾向があり、処理温度が低すぎるとシリル化反応が進行し難い場合がある。
【0051】
ゼオライトに対する水蒸気処理(以下これを「スチーミング」ということがある。)の温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上であり、上限は、好ましくは700℃以下、より好ましくは650℃以下である。温度が低すぎるとスチーミングの効果が小さく、高すぎるとゼオライトの構造崩壊が起こる場合もある。
【0052】
水蒸気は、ヘリウム、窒素等の不活性ガスで希釈して使用することもできる。この場合、水蒸気濃度は、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、上限はなく100%水蒸気で処理が可能である。
【0053】
ゼオライトをスチーミングする前に、アルカリ土類金属を含む化合物と物理混合することも可能である。アルカリ土類金属を含む化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、中でも炭酸カルシウムが好ましい。
【0054】
アルカリ土類金属を含む化合物の量は、ゼオライトに対して、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、上限は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
アルカリ土類金属を含む化合物を混合することで、酸量が必要以上に低下するのを防ぐことができる。
【0055】
また、スチーミングは、外表面を選択的に脱アルミニウムして酸量を低下させる目的で、細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。有機物としては、例えば、ゼオライト合成時に使用する構造規定剤、反応によって生成するコーク等が挙げられる。これらの有機物うち、構造規定剤は合成された状態でゼオライトの細孔内に存在しており、コークは、炭化水素200℃以上の温度で触媒に流通させるといった方法で細孔内部に存在させることができる。
【0056】
ジカルボン酸による処理は、ゼオライト骨格中の金属骨格からアルミニウム等の脱離を促進することで、酸量を低減させると考えられる。しかし、ジカルボン酸は、分子の大きさがゼオライト細孔に比較して大きいため、細孔に入り込むことが出来ない。このため、ゼオライトをジカルボン酸で処理することにより、外表面の酸量を選択的に低減させることができる。
【0057】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、フマル酸、酒石酸などが挙げられ、これらを混合して使用してもよい。これらの中で、シュウ酸が好ましい。
【0058】
ジカルボン酸は、溶液にしてゼオライトと混合する。ジカルボン酸の溶液中濃度は、通常0.01M以上、好ましくは1M以上であり、上限は、通常4M以下、好ましくは3M以下である。混合時の温度は、通常15℃以上、好ましくは50℃以上であり、上限は、通常95℃以下、好ましくは85℃以下である。
ゼオライトとの混合は、ゼオライト表面の脱アルミニウムを促進するために2回以上繰り返してもよい。
【0059】
また、ジカルボン酸による処理は、外表面をより選択的に脱アルミニウムする目的で、
細孔内部に有機物が存在している状態で行ってもよい。有機物としては、例えば、ゼオライト合成時に使用する構造規定剤、反応によって生成するコーク等が挙げられる。これらの有機物のうち、構造規定剤は、合成された状態でゼオライトの細孔内に存在しており、コークは、炭化水素200℃以上の温度で触媒に流通させるといった方法で、細孔内部に存在させることができる。
【0060】
上記したゼオライトは、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば水熱合成法、すなわち、シリカ原料、ヘテロ元素源、およびアルカリ(土類)金属元素源を含む結晶前駆体の水性ゲルを調製し、これを加熱する方法等で合成することができる。また、水熱合成後に、上記のとおり、必要に応じて、酸量の低下処理、含浸や担持等の修飾により組成を変えることも可能である。
本発明の触媒の活性成分として用いるゼオライトは、上記物性や組成を有しているものであれば良く、いずれの方法で調製されたものであってもよい。
【0061】
本発明の触媒の活性成分として用いるゼオライトは、金属元素を担持していてもよい。金属元素は水素中での触媒再生を促進する能力を有するものであれば特に限定されない。
【0062】
前記金属元素としては、具体的には、例えば、Cu、Fe、Co、CrおよびPtのうち少なくとも1つの金属元素を含有するゼオライトを活性成分として含むことが好ましい。
【0063】
金属元素を担持するゼオライトを活性成分として含む触媒を用いることにより、水素中での触媒再生を促進し、水素共存下においてエチレン転化率の低下を抑制することが可能となる。これは、水素化に活性を示す金属によって、触媒上に析出したコークの除去が促進されるためと考えられる。
【0064】
本発明で用いるゼオライトが含有する前記金属の中で、Cuが最も好ましい。金属の含有量は、特に限定はされないが、ゼオライトに対し、0.01質量%以上が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また、0.05質量%以上が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0065】
ゼオライトへ金属元素を導入する方法は特に限定されないが、これら金属の前駆体を用いて、イオン交換法または含浸法によって行うことが好ましい。また、前記水熱合成によってゼオライトを合成する際に添加しておいても良い。これらの金属は、1種用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0066】
金属元素の導入量(含有量)は、ゼオライトの質量に対して、通常0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、10質量%以下が好ましく5質量%以下がより好ましい。
【0067】
ゼオライトへの金属元素の導入量を0.01質量%以上とすることにより、ゼオライト中の金属元素が存在するケージの割合が十分となり、金属元素導入の効果が表れ易い。また、金属元素の導入量を10質量%以下とすることにより、金属元素によって細孔が閉塞するのを防ぎ、細孔を有効に用いることができる。
【0068】
金属の前駆体としては、導入に用いる溶媒に溶解するものであればよく、例えば、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩化物、アンミン錯体塩およびクロロ錯体塩などが挙げられる。これらの中で、硝酸塩、酢酸塩およびアンミン錯体塩が好ましい。
【0069】
イオン交換法および含浸法に用いる溶媒は、金属の前駆体を溶解し、ゼオライトの細孔
内に浸入することが可能なものであればよく、例えば、水、メタノールおよびエタノールなどが挙げられる。
【0070】
イオン交換法による金属の導入は、それ自体既知の方法により行うことができる。イオン交換法に用いるゼオライトのカチオンは特に限定されず、通常、ナトリウム型、アンモニウムイオン型およびプロトン型を用いることが好ましい。
【0071】
イオン交換法は、カチオン交換能を持つ担体に金属を導入する際に用いられる方法であり、担体上のカチオンと溶液中の金属カチオンを交換することにより、金属の導入を行う方法である。
【0072】
用い得る金属の前駆体や溶媒は、前記の通り、金属の前駆体が溶媒に溶解するものであればよい。金属の前駆体溶液の濃度は特に限定されず、前駆体溶液の濃度を低くするほど導入量は減少するが、金属が均一に導入される傾向がある。
【0073】
イオン交換は、金属の前駆体溶液に上記ゼオライトを懸濁させ、攪拌することで行う。攪拌を行う温度は、室温から溶媒の沸点程度である。攪拌時間は、イオン交換が十分平衡に達する時間であればよく、通常1〜6時間程度が好ましい。
【0074】
金属の導入量を増加させるため、イオン交換を複数回繰り返すことも可能である。所定の時間攪拌を行った懸濁液からのゼオライトの分離は、通常の固液分離操作、例えば濾過や遠心分離によって行う。
【0075】
イオン交換を行った担体を乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、例えば、空気中、不活性ガス中および真空中などで行われる。乾燥温度は、通常、室温から溶媒の沸点程度である。
【0076】
乾燥した担体の焼成を行う雰囲気は、目的とする導入状態によって適切に選択する必要がある。例えば、空気中で焼成すれば金属酸化物の状態で導入され、水素中で焼成すれば金属状態で導入される。また、不活性ガス中で焼成を行う場合は、用いた金属の前駆体によって焼成後の状態は異なる。
【0077】
乾燥した担体の焼成温度は金属の前駆体の分解温度よりも高温であればよく、通常200℃〜600℃が好ましく、300℃〜500℃がより好ましい。焼成温度を当該下限以上とすることにより金属の前駆体成分の残留を抑制することができる。また、焼成温度を当該上限以下とすることにより、金属のシンタリングおよび金属と担体との間での固相反応を抑制することができる。
【0078】
含浸法による金属の導入は、それ自体既知の方法、例えば、ポアフィリング法、蒸発乾固法、平衡吸着法およびインシピアントウェットネス法などにより行うことができる。
【0079】
ポアフィリング法は、ゼオライト等の多孔性の担体の細孔内に金属を導入する際に用いられる方法である。ポアフィリング法は、細孔容積分の金属の前駆体溶液を担体に少しずつ加え、その後、乾燥および熱処理を行うことで金属の導入を行う方法である。
【0080】
担体の細孔容積は、それ自体既知の方法、例えば、液体窒素温度において、担体に窒素を吸着させ、窒素の吸着量を測定することにより求めることができる。
【0081】
用い得る金属の前駆体および溶媒は、前記の通り、金属の前駆体が溶媒に溶解し、溶媒がゼオライトの細孔に浸入可能なものであればよい。金属の前駆体溶液の濃度は特に限定
されず、金属の導入量によって任意に決めることができる。
【0082】
含浸は、ゼオライト粉末に金属の前駆体溶液を数滴滴下し、混合することを繰り返すことで行う。このとき前駆体溶液の滴下が遅く、混合が十分であるほど、金属は均一に導入される傾向がある。
【0083】
金属を含浸したゼオライトを乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、例えば、空気中、不活性ガス中および真空中などで行う。
【0084】
乾燥温度は、通常、室温から溶媒の沸点程度であることが好ましい。乾燥温度が低いほど金属の前駆体溶液の移動が起こりにくいため、均一な導入が可能であるが、溶媒の一部が残留しやすく、乾燥に時間がかかる。そのため、低温で十分に乾燥した後に高温で短時間の乾燥を行う、もしくは減圧下において低温で乾燥を行うのが好ましい。
【0085】
乾燥したゼオライトの焼成を行う雰囲気は、目的とする導入状態によって適切に選択することが好ましい。例えば、空気中で焼成すれば金属酸化物の状態で導入することが好ましく、水素中で焼成すれば金属状態で導入することが好ましい。また、不活性ガス中で焼成を行う場合は、用いた金属の前駆体によって焼成後の状態は異なる。
【0086】
焼成温度は、金属の前駆体の分解温度よりも高温であればよく、通常200℃〜600℃が好ましく、300℃〜500℃がより好ましい。焼成温度を当該下限以上とすることにより金属の前駆体成分が残留するのを抑制することができる。また、焼成温度を当該上限以下とすることにより金属のシンタリングおよび金属とゼオライトとの間の固相反応を抑制することができる。
【0087】
(2)触媒の再生方法
本発明の触媒の製造方法におけるエチレン転化率が低下した触媒の再生方法は以下の通りである。
エチレン転化率が低下した触媒とは、本触媒を用いたエチレンからプロピレンを生成させる反応において、エチレン転化率を上昇させることにより工業的にプロピレン製造が効率的となる程度までエチレン転化率が低下した触媒を意味する。
具体的には、エチレン転化率が低下した触媒のエチレン転化率は、未使用の同触媒を使った反応初期と比べて、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。
【0088】
再生方法は、上記触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させるものである。本方法による再生では、エチレン転化率が反応初期と同等に回復するとともに、再生工程前の同触媒のプロピレン選択率を維持させることができる。
【0089】
再生を行うための装置は、水素を含むガスと触媒とが以下の条件のもとに接触し得るものであれば特に制限はないが、固定床の場合はエチレンからプロピレンを生成する反応を行う反応器から触媒を抜き出さずに水素を含むガスを流す方法が好ましく用いられる。また、触媒を、上記反応器から抜きだして、反応器とは別の再生器に充填してから再生ガスに接触させて再生してもよい。
【0090】
移動床、流動床の場合は、前記反応器に対して触媒を再生するための装置を付設し、該反応器から抜き出した触媒を連続的に該装置に送り、該装置において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。また、触媒を系内に補充あるいは系内から一部をパージしながら反応、再生を行ってもよい。
【0091】
再生に用いる水素を含むガスとは、水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上であり、0.02MPa以上が好ましく、さらに0.05MPa以上が好ましい。水素分圧を0.01MPa以上とすることにより、コーク除去速度の低下を防ぐことができる。
【0092】
水素分圧の上限は特に制限はないが、絶対圧で通常4MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、0.7MPa以下が特に好ましい。水素分圧は高いほうが好ましいが、4MPa以下とすることにより、高圧水素を製造するためのエネルギーが大きくなるのを防ぎ、高圧装置の設置が必要となるのを防ぐことができる。
【0093】
また、上記ガスは酸素を含まない。ここで、「酸素を含まない」とは、酸素濃度が0.1%未満であること意味する。これ以上酸素を含むガスを用いると、触媒のプロピレン選択率が低下する。
【0094】
また水素の爆発安全性の観点では酸素が5%を超えると爆発限界となるため、酸素はより少ないほうがよく、酸素濃度は低ければ低いほど、酸素分圧が低くなり、水素によるコーク除去が支配的に起こることから好ましい。
【0095】
下限は酸素をまったく含まない0%である。酸素分圧とすると、通常0.005MPa以下が好ましく、0.001MPa以下がより好ましく、0.0001MPa以下がさらに好ましく、0MPaが最も好ましい。
【0096】
本発明の水素を含むガスに含まれる水素ガスの製造方法は特に限定されず、例えば、メタンおよびメタノールの水蒸気改質による得られるもの、炭化水素の部分酸化で得られるもの、炭化水素を二酸化炭素で改質することにより得られるもの、石炭のガス化によって得られるもの、IS(Iodine−Sulfur)プロセスに代表される水の熱分解によって得られるもの、光電気化学反応より得られるもの並びに水の電気分解で得られるもの等、各種の製造方法により得られるものを任意に用いることができる。
【0097】
このとき、酸素以外の元素および化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いてもよいし、精製した水素を用いてもよい。
【0098】
また、再生に用いた後のガスには水素の他に炭化水素が含まれるが、それをそのままリサイクルして再生に用いても良いし、炭化水素の一部を除去したものをリサイクルして再生に用いてもよい。
【0099】
水素以外に含まれるガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、パラフィン類、メタン等の炭化水素類等を使用することができる。これらのうち、触媒との反応性が低い点で、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、およびパラフィン類が好ましい。
【0100】
上記再生方法において、水素を含むガスの空間速度は上記触媒の再生が行える範囲であれば特に制限はされないが、具体的には、0.01Hr−1〜500Hr−1が好ましく、0.1Hr−1〜200Hr−1がより好ましく、10Hr−1〜100Hr−1がさらに好ましい。
【0101】
空間速度を前記下限以上とすることにより、再生する触媒層入口から出口にかけて水素濃度が下がるのを防ぐとともに、触媒から除去された炭化水素濃度が上がるのを防ぎコーク除去速度の低下を抑制することができる。また、触媒層入口と出口の水素濃度の差が大きくなるのを防ぎ、均一な再生を起こり易くすることができる。
【0102】
空間速度を前記上限以下とすることにより、再生ガスの必要量を抑え、コストの面で有利となる。
【0103】
空間速度とは、触媒(触媒活性成分)の重量当たりの水素の流量である。また、触媒の重量とは、触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない活性成分(ゼオライト)の重量である。
【0104】
再生を行う装置に供給する全供給成分中の水素の濃度は高い方が好ましく、通常20体積%以上が好ましく、60体積%以上が好ましく、70体積%以上がさらに好ましい。当該水素濃度を20体積%以上とすることにより、水素分圧の低下に伴うコーク除去速度の低下を防ぐことができる。
【0105】
再生を行う装置中の温度(以下、「再生温度」と称することがある)は、通常300℃以上が好ましく、400℃以上が好ましく、450度以上がさらに好ましい。また、通常750℃以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、550℃以下がさらに好ましい。
【0106】
再生温度を400℃以上とすることにより、十分な再生速度が得られ、再生に長時間要するのを防ぐ。一方、再生温度を750℃以下とすることにより、ゼオライトの骨格の崩壊を防ぐことができる。
【0107】
再生温度は、再生を行う装置内の温度を調整する方法でも、供給するガスの温度を調整する方法によっても調整することができる。
【0108】
再生を行う時間は、再生温度等の条件によって最適な範囲が変わるため、特に限定されるものではないが、通常30秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。また、通常180分以下が好ましく、120分以下がより好ましい。
【0109】
再生を行う時間を30秒以上とすることにより、コーク除去が不十分となるのを防ぎ、反応した際のエチレン転化率の低下を防ぐことができる。また、180分以下とすることによりコーク除去が過度に進行することによるプロピレン選択率の低下を防ぐことができる。
【0110】
尚、流動床による再生器を用いた場合には上記再生時間は、再生器内の触媒滞留時間のことを示す。
【0111】
かくして再生された触媒は、該触媒が有するプロピレン選択率の上限値の70%以上であることが好ましく、エチレンの転化率が再生前の2〜4倍であることが好ましい。
【0112】
具体的には、例えば、触媒としてSi/Al触媒を用いた場合には、再生後の触媒によるエチレン転化率が、通常50〜90%であることが好ましく、60〜90%であることがより好ましい。また、プロピレン選択率が、通常40%以上であることが好ましく、50%以上であることが好ましく、通常95%以下であることが好ましい。
【0113】
ここで、前記エチレン転化率および前記プロピレン選択率は、後述するプロピレンの製造方法と同じ温度、圧力および空間速度において、再生後の触媒にエチレンを気相で接触させてプロピレンを生成した際のエチレン転化率及びプロピレン選択率をいう。
【0114】
前記温度は200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。また、通常700
℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましい。
【0115】
前記圧力は2MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、0.7MPa以下
がさらに好ましい。また、1kPa以上が好ましく、50kPa以上がより好ましい。
【0116】
前記空間速度は0.01Hr−1〜500Hr−1であることが好ましく、0.1Hr−1〜100Hr−1がより好ましい。
【0117】
つまり、本発明の方法によれば、プロピレンの選択率が反応初期の低い値まで戻らない程度まで、触媒のエチレン転化率を回復させることができる。
【0118】
上記触媒の再生は、本発明の目的を達成する範囲において適宜おこなうことができ、触媒や反応条件によって再生を開始する時期は適宜選択することができるので特に限定はされないが、エチレン転化率が、未使用の同触媒を使った反応初期と比べて好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下となった時点で行うことが好ましい。
【0119】
上記触媒再生を行う装置の出口ガスには、水素の他に、触媒のコークが水素化分解されて生成した炭化水素が含まれる。含まれる炭化水素としては、例えば、エチレン、プロピレン、メタン、エタンおよびプロパン等が挙げられる。
【0120】
再生器出口ガスはそのまま燃料として利用しても良いが、上記炭化水素を回収することが好ましい。回収する方法としては、例えば、再生器出口ガスを反応器入口にエチレン原料と共に供給する方法、再生器出口ガスを反応器出口のガスと混合して分離する方法および再生器出口ガスと反応器出口ガスを別々に分離精製する方法が挙げられる。
【0121】
水素と炭化水素の分離方法は既知の方法が用いられ、例えば、蒸留分離、膜分離、PSAおよび吸収分離等が用いられる。
【0122】
(3)プロピレンの製造方法
本発明のプロピレンの製造方法は、上記方法で製造された触媒を用い、エチレンからプロピレンを生成させることに特徴を有するものである。
本発明のプロピレンの製造方法において、プロピレンは、それ自体既知の通常用いられる方法、すなわち、原料エチレンを、適当な反応条件下、適当な反応器中で、上記再生触媒と接触させる方法により生成させることができる。
以下、プロピレンの製造条件について説明する。
【0123】
原料となるエチレンは特に限定されず、例えば、石油供給源から接触分解法または蒸気分解法等により製造されるもの、石炭のガス化により得られる水素/CO混合ガスを原料としてフィッシャートロプシュ合成を行うことにより得られるもの、エタンの脱水素または酸化脱水素で得られるもの、プロピレンのメタセシス反応およびホモロゲーション反応により得られるもの、MTO(Methanol to Olefin)反応によって得られるもの、エタノールの脱水反応から得られるもの、メタンの酸化カップリングで得られるもの等の公知の各種方法により得られるものを任意に用いることができる。このとき各種製造方法に起因するエチレン以外の元素や化合物が任意に混合されている状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したエチレンを用いてもよいが、経済的な観点から未精製のエチレンを用いるのが好ましい。
【0124】
また、反応器出口ガスに含まれるオレフィンをリサイクルしてもよい。リサイクルするオレフィンは、通常、未反応エチレンだが、その他のオレフィンを同時にリサイクルしても差し支えない。その他のオレフィンとしては、低級オレフィンが好ましく、分岐鎖オレ
フィンはその分子の大きさからゼオライト細孔内への進入が困難であるので、直鎖ブテンがより好ましい。
【0125】
なお、ゼオライト内に存在する酸点により、エタノールは容易に脱水されてエチレンに変換される。そのため、反応器に原料としてエタノールを直接導入してもよい。
【0126】
反応器の形態は特に制限されず、通常、連続式の固定床反応器や移動床反応器、流動床反応器が用いられる。これらの中で、流動床反応器が好ましい。
なお、流動床反応器に、前述の触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填しても良い。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、前記粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
【0127】
反応器から抜き出した触媒を取り出して上記再生を行う場合には、触媒を再生する装置(以下、再生装置)を付設し、反応器から抜き出した触媒を該装置に送り、該装置において再生された触媒を反応器に戻して反応を行うことが好ましい。
【0128】
この場合、反応器内および再生器内の触媒の滞留時間を制御することによって、再生後の触媒を、前記したとおりの所望のエチレン転化率となる状態まで再生させることができる。
【0129】
また、反応器から抜き出した触媒を再生装置に送る前に、触媒内部に存在するプロピレン等の低級炭化水素を回収しても良い。これにより、炭化水素のロスを削減することが可能であると共に、再生時に生成する炭化水素量を低下させることができるために、再生で用いる水素量を減らすことが可能となる。
【0130】
固定床反応器を選択する場合、反応器を少なくとも二つ以上設置し、それぞれ交互に反応と触媒再生とを切り替えながら運転することが望ましい。
【0131】
反応器内には、エチレンの他に、反応に不活性な気体、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、それらの混合物等を存在させることができる。これらの中で、パラフィン類が好ましい。水素が存在すると、コーク析出と同時にコーク除去も起こることにより、活性低下を制御することができる。
【0132】
反応器に供給する全供給成分中のエチレンの濃度、すなわち基質濃度は特に制限されず、全供給成分中のエチレン濃度は、通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下であり、下限は、好ましくは5モル%以上である。基質濃度が高すぎると芳香族化合物やパラフィン類の生成が顕著になり、プロピレンの収率が低下する傾向がある。基質濃度が低すぎると、反応速度が遅くなるため、多量の触媒が必要となり、反応器が大きくなりすぎる傾向がある。従って、このような基質濃度となるように、必要に応じて上記希釈剤でエチレンを希釈することが好ましい。
【0133】
空間速度は特に制限されず、0.01Hr-1から500Hr-1の間が好ましく、0.1Hr-1から100Hr-1の間がより好ましい。空間速度が高すぎると反応器出口ガス中のエチレンが多くなり、プロピレン収率が低くなる傾向がある。また、空間速度が低すぎると、パラフィン類等の好ましくない副生成物が生成し、プロピレン収率が低下する傾向がある。
【0134】
ここで、空間速度とは、触媒(触媒活性成分)の重量当たりの反応原料であるエチレンの流量(重量/時間)であり、触媒の重量とは触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない触媒活性成分(ゼオライト)の重量である。
【0135】
反応温度は、エチレンが触媒と接触してプロピレンが生成可能な温度であれば特に制限されず、通常200℃以上、好ましくは300℃以上であり、上限は、通常700℃以下、好ましくは600℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、さらにプロピレンの収率も低下する。一方、反応温度が高すぎるとプロピレンの収率が著しく低下する。
【0136】
反応圧力は、絶対圧で、通常2MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.7MPa以下であり、下限は、通常1kPa以上、好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類等の好ましくない副生成物の生成量が増え、プロピレンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物であるプロピレン、未反応エチレン、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中のプロピレン濃度は、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上であり、上限は、通常95重量%以下、好ましくは80重量%以下である。
【0137】
出口ガス中のエチレンは、その少なくとも一部を、上記のとおり、反応器にリサイクルして反応原料として再利用することが好ましい。なお、副生成物としては炭素数が4以上のオレフィン類やパラフィン類が挙げられる。
【0138】
出口ガスは、それ自体既知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行うことにより、目的物であるプロピレンを得ることができる。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、各炭化水素の転化率や選択率は、測定値から、次の式により算出した値である。なお、下記の各式において、各炭化水素の「由来カーボンモル流量(mol/Hr)」とは、各炭化水素を構成する炭素原子のモル数を意味する。
【0140】
エチレン転化率(%)=〔[反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)−反応器出口エチレン流量(mol/Hr)]/反応器入り口エチレン流量(mol/Hr)〕×100
プロピレン選択率(%)=〔反応器出口プロピレン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
エタン選択率(%)=〔反応器出口エタン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
プロパン選択率(%)=〔反応器出口プロパン由来カーボンモル流量(mol/Hr)/反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
C4選択率(%)=〔反応器出口の炭素数4生成物由来カーボンモル流量(mol/Hr)/反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモ
ル流量(mol/Hr)]〕×100
C5+選択率(%)=〔反応器出口の炭素数5以上の生成物由来のカーボンモル流量(mol/Hr)/反応器出口総カーボンモル流量(mol/Hr)−反応器出口エチレンカーボンモル流量(mol/Hr)]〕×100
【0141】
<触媒調製例1>
25wt%のN,N,N−トリメチル−1−アダマントアンモニウムハイドロオキサイド(N,N,N-trimethyl-1-adamantammonium hydroxide)水溶液を30gと1Mの水酸化ナ
トリウム水溶液を73gと水を185gとを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)を4.5g、攪拌した後に、シリカ源としてフュームドシリカを21g加えて十分攪拌した。
さらにフュームドシリカの重量に対して2重量%のCHA型ゼオライトを種結晶として加えて、攪拌した。得られたゲルをオートクレーブに仕込み、撹拌条件下160℃、24時間間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で乾燥させた。
乾燥後に、空気雰囲気下、580℃で焼成し、その後、1Mの硝酸アンモニウム水溶液で80℃、1時間のイオン交換を2回行なった。100℃で乾燥した後、空気雰囲気下、500℃での焼成し、プロトン型のCHA型ゼオライトを得た。このゼオライトを触媒Aとした。
【0142】
上記で得られたゼオライトは、CHA構造を有するプロトン型のアルミノシリケートであり、SiO2/Al23比は16(モル比)、細孔径は0.38nmである。
<触媒調製例2>
調製例1で得られた触媒Aに対してテトラエトキシシランでシリル化を行った。触媒Aを1gに対して、溶媒のヘキサメチルジシロキサン10ml、シリル化剤のテトラエトキ
シシラン5mlを加えて100℃で撹拌条件下、6時間のリフラックス処理を行った。処理後、濾過によって固液を分離し、得られたゼオライトを100℃で2時間乾燥した。このゼオライトを触媒Bとした。
【0143】
<触媒調製例3>
調製例1で得られた触媒Aに対して、ポアフィリング法によって銅の担持を行った。銅の担持量はゼオライトに対して1重量%とした。銅の原料として硝酸銅(II)三水和物を用い、全量が0.982mlとなるように蒸留水を加え、硝酸銅水溶液を調製した。硝酸銅水溶液をゼオライト1gに数滴滴下し、ゼオライトを混合することを繰り返し、全量を含浸した。含浸後、室温で乾燥した後に、100℃で1時間乾燥した。乾燥後、窒素雰囲気下、450℃で焼成を行い、銅担持ゼオライトを得た。
【0144】
上記で得られた銅担持ゼオライトをテトラエトキシシランでシリル化を行った。ゼオライト1gに対して、溶媒のヘキサメチルジシロキサン10ml、シリル化剤のテトラエト
キシシラン2.5mlを加えて100℃で撹拌条件下、6時間のリフラックス処理を行った。処理後、濾過によって固液を分離し、得られたシリル化ゼオライトを100℃で2時間乾燥した。このゼオライトを触媒Cとした。
【0145】
<触媒調製例4>
25重量%のN,N,N−トリメチル−1−アダマントアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を59gと1Mの水酸化ナトリウム水溶液を146gと水を371gとを混合し、これに水酸化アルミニウム(酸化アルミニウム換算で50〜57%含有)を4.5g加え、攪拌した後に、シリカ源としてフュームドシリカを42g加えて十分攪拌した。
【0146】
さらにフュームドシリカの質量に対して2重量%のCHA型ゼオライトを種結晶として加えて、攪拌した。得られたゲルをオートクレーブに仕込み、撹拌条件下160℃、48
時間加熱した。生成物は調製例1と同様の処理をし、プロトン型のCHA型ゼオライトを得た。
【0147】
その後調製例2と同様にシリル化処理を行った。こうして得られてゼオライトを触媒Dとした。
【0148】
上記で得られた触媒Dは、CHA構造を有するプロトン型のアルミノシリケートで
あり、元素分析で確認したSiO/Al比は27(モル比)、細孔径は0.38nmであった。
【0149】
<実施例1>
触媒Aを用いて、エチレンを原料とするプロピレンの生成反応を次のとおり行った。
反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、上記ゼオライト(触媒A)400mgを充填した。
エチレンおよび窒素を、エチレンの空間速度が13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、窒素70体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。反応開始後5時間50分後に反応を終了した。未使用触媒を用いた場合、反応終了時のエチレン転化率は19〜20%程度であった。
この反応を終了した触媒(以下これを「劣化触媒A」という)を用いて、触媒の再生とプロピレンの生成反応を行った。
なお、未使用触媒を用いた場合のエチレン転化率とプロピレン選択率の関係は、図1の実線で示すとおりである。
【0150】
劣化触媒A(エチレン転化率:19%)に、100%水素のガスを、水素の空間速度が104mmol/g−cat・hで供給し、475℃、0.1MPaで60分間再生を行った。再生ガス中の酸素含有量は、0体積%(酸素分圧0.00MPa)であった。
再生が終了した後に、再び上記の条件で反応を行い、反応開始から20分の時点での反応成績を確認した。表1に反応結果、図1にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した。
【0151】
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は19%であったが、水素再生後のエチレン転化率は64%、プロピレン選択率は57%となった。水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率とほぼ同程度となり、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されることがわかった。
【0152】
<実施例2>
エチレン転化率20%の劣化触媒Aを用い、再生温度を500℃、再生時間を30分にした以外は、反応、再生とも実施例1と同様の条件で実験を行った。表1に反応結果、図1にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した。
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は20%であったが、再生後のエチレン転化率は72%、プロピレン選択率は55%となった。この結果から水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率とほぼ同程度となり、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されることがわかった。
【0153】
<比較例1>
劣化触媒Aの再生を次のとおり行った以外は、実施例1と同様の条件で、実験を行った。
劣化触媒(エチレン転化率:20%)に空気(酸素濃度20.9体積%、水素濃度0.5体積ppm)を空間速度が199mmol/g−cat・hとなるように反応間に供給し、500℃、0.1MPaで5分間再生を行った。
【0154】
再生が終了した後に、再び上記の条件で反応を行い、反応開始から20分の時点での反応成績を確認した。表1に反応結果、図1にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した。
【0155】
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は20%であり、再生後のエチレン転化率は73%、プロピレン選択率は35%であった。空気再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率に比べて大きく低下することがわかった。
【0156】
<比較例2>
再生時間を6分20秒にした以外は、反応、再生とも比較例1と同様の条件で実験を行った。表1に反応結果、図1にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示した。
【0157】
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は20%であり、再生後のエチレン転化率は83%、プロピレン選択率は29%であった。この結果から、空気再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率に比べて大きく低下することがわかった。
【0158】
【表1】

【0159】
<実施例3>
触媒Bを用いて、エチレンを原料とするプロピレンの生成反応と水素による触媒再生の繰返し評価を次のとおりに行った。
【0160】
(1)初期反応
反応には、常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、上記ゼオライト(触媒B)400mgを充填した。エチレンおよび窒素を、エチレンの空間速度が13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、窒素70体積%となるように反応器に供給し、400℃、0.1MPaで反応を行った。反応開始から190分後に、下述する触媒再生を行った。
【0161】
(2)触媒再生
反応器に供給するガスを100体積%水素に切り替えた。その際の水素の空間速度は100mmol/g−cat・hとし、圧力は絶対圧で0.10MPa(水素分圧は0.10MPa)とした。水素に切り替えたと同時に、反応器の温度を10分間で500℃まで昇温し、触媒再生を行うために5分間500℃で保持した。その後、15分間かけて400℃まで降温し、下述する反応を行った。
【0162】
(3)反応
反応器に供給するガスを、エチレンおよび窒素に切り替えた。その際の供給するガスの濃度、空間速度、圧力は上記(1)に記載の条件と同じとした。エチレンおよび窒素に切り替えて30分後に上記(2)の触媒再生を行い、その後、上記(1)と(2)の工程を繰り返した。(1)〜(3)に記載の工程を12回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図2に示す。また、工程3の12回目の反応結果を表2に、エチレン転化率とプロピレン選択率の関係を図3に示す。
【0163】
表2のとおり、再生前のエチレン転化率は35%であったが、水素再生後のエチレン転化率は64%、プロピレン選択率は82%となった。水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率とほぼ同程度となり、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されていることが分かった。
【0164】
また、図2に示すように、上記(1)の反応極初期におけるエチレン転化率は非常に高いものの、プロピレン選択率は非常に低いことが分かった。このときの主な生成物はプロパン等のパラフィンである。このことから、未使用触媒や、再生によりコークを完全に除去してしまった触媒はプロピレン製造に不適であることが分かった。
【0165】
<実施例4>
触媒Bの代わりに、銅を担持した触媒Cを使用した以外は実施例3と同様の実験を行った。(1)〜(3)に記載の工程を12回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図4に示す。
【0166】
また、(3)の工程の12回目の反応結果を表2に、エチレン転化率とプロピレン選択率の関係を図5に示す。
【0167】
表2のとおり、再生前のエチレン転化率は51%であったが、水素再生後のエチレン転化率は81%、プロピレン選択率は80%となった。この結果から、水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、再生前のプロピレン選択率とほぼ同程度となり、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されていることが分かった。
【0168】
また、実施例3と比較することにより、再生前および再生後の触媒によるエチレン転化率が15%以上高いことが分かった。これは担持した銅が触媒に付着したコークの水素化分解を促進することにより、再生速度が向上しているためと推察される。
【0169】
【表2】

【0170】
<実施例5>
実施例3の実験後に、上記(2)および(3)に記載の条件を以下のように変更して引き続き実験を行った。
【0171】
2):触媒再生
反応器に供給するガスを100体積%水素に切り替えた。その際の水素の空間速度は100mmol/g−cat・hとし、圧力は絶対圧で0.10MPa(水素分圧は0.10MPa)とした。水素に切り替えたと同時に、反応器の温度を10分間で480℃まで昇温し、触媒再生を行うために5分間480℃で保持した。その後、15分間かけて350℃まで降温し、工程3の反応を行った。
【0172】
3):反応
反応器に供給するガスを、エチレンおよび窒素に切り替えた。その際のエチレンの空間速度は13mmol/g−cat・hで、エチレン30体積%、窒素70体積%となるように反応器に供給し、350℃、0.10MPaで反応を行った。エチレンおよび窒素に切り替えて20分後に工程2の触媒再生を行い、その後、上記2)および3)に記載の工程を繰り返した。
【0173】
上記工程を18回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図6に示した。また、工程3の18回目の反応結果を表3に示す。
【0174】
表3のとおり、再生前のエチレン転化率は36%であったが、水素再生後のエチレン転化率は63%、プロピレン選択率は85%となった。この結果から、水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は非常に高いことが分かった。
【0175】
<実施例6>
実施例5の実験後に、上記2)に記載の温度を480℃から490℃に変更した以外は実施例5と同様の条件で引き続き実験を行った。上記2)及び3)に記載した工程を17回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図7に示した。また、工程3の17回目の反応結果を表3に示す。
【0176】
表3のとおり、再生前のエチレン転化率は46%であったが、水素再生後のエチレン転化率は70%、プロピレン選択率は82%となった。この結果から、水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は非常に高いことが分かった。
【0177】
<実施例7>
実施例6の実験後に、実施例5の2)に記載の温度を490℃から500℃に変更した以外は実施例6と同様の条件で引き続き実験を行った。
【0178】
実施例5の2)と3)に記載の工程を19回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図8に示す。また、実施例5の3)に記載の反応を19回目に行った結果を表3に示す。
【0179】
表3のとおり、再生前のエチレン転化率は53%であったが、水素再生後のエチレン転化率は76%、プロピレン選択率は72%となった。この結果から、水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は非常に高いことが分かった。
【0180】
実施例5から7を比較することにより、再生温度を上げることにより、触媒のエチレン転化率を高いレベルに維持できることが分かった。これは再生速度が向上しているためと推察される。
【0181】
一方で、再生後の触媒のエチレン転化率が高すぎると、プロピレン選択率が低下する傾向にあることも分かった。このことから、実際のプロセスでは、再生後の触媒のエチレン転化率が50〜90%程度となるように運転することが好ましいことが分かった。
【0182】
<実施例8>
実施例7の実験後に、実施例5の2)に記載の水素の空間速度を100から44mmol/g−cat・hに変更した以外は実施例7と同様の条件で引き続き実験を行った。上記2)及び3)に記載の工程を17回繰り返した際のエチレン転化率とプロピレン選択率の経時変化を図9に示す。
【0183】
また、実施例5の3)に記載の反応を17回目に行った結果を表3に示す。表3のとおり、再生前のエチレン転化率は38%であったが、水素再生後のエチレン転化率は65%、プロピレン選択率は83%となった。水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は非常に高いことが分かった。
【0184】
また、実施例7と比較すると、水素の空間速度が高いほどエチレン転化率を高いレベルに維持できることが分かった。これは空間速度が高いほど、再生に伴い生成する炭化水素濃度が低くなり、触媒層への再析出が抑制されるためと推察される。
【0185】
一方で、水素の空間速度が高すぎると、水素の使用量が多くなるため、経済的な観点から不利になる場合がある。
【0186】
【表3】

【0187】
<実施例9>
(1)反応
触媒Dを用いて、反応時間を3時間10分とし、触媒量を200mgとした以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。未使用触媒を用いた場合、反応終了時のエチレン転化率は26%程度であった。この反応を終了した触媒(以下これを「劣化触媒D1」という)を用いて、触媒の再生とプロピレンの生成反応を行った。なお、未使用触媒を用いた場合のエチレン転化率とプロピレン選択率の関係は、図10の実線で示すとおりである。
【0188】
(2)触媒の再生とプロピレンの生成
劣化触媒D1(エチレン転化率:26%)に、100体積%水素のガスを、水素の空間速度が104mmol/g−cat・hで供給し、500℃、絶対圧0.10MPa(水素分圧は0.10MPa)で5分間再生を行った。再生ガス中の酸素含有量は、0体積%(酸素分圧は0.00MPa)であった。
【0189】
再生が終了した後に、再び上記の条件で反応を行い、反応開始直後の反応成績を確認した。表1に反応結果、及び図10にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示す。
【0190】
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は26%であったが、水素再生後のエチレン転化率は80%、プロピレン選択率は80%となった。また水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、未使用の触媒が経時的に劣化して得られるプロピレン選択率と同転化率で比較してほぼ同程度となった。この結果から、アルミ含有量の異なる触媒でも触媒が賦活され、プロピレンの選択率も高く、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されることが分かった。
【0191】
<実施例10>
(1)反応
触媒Dを用いて、反応時間を2時間30分とし触媒量を200mgとした以外は実施例1と同様の条件で反応を行った。未使用触媒を用いた場合、反応終了時のエチレン転化率は36%程度であった。この反応を終了した触媒(以下これを「劣化触媒D2」という)を用いて、触媒の再生とプロピレンの生成反応を行った。なお、未使用触媒を用いた場合のエチレン転化率とプロピレン選択率の関係は、図10の実線で示したとおりである。
【0192】
(2)触媒の再生とプロピレンの生成
劣化触媒D2(エチレン転化率:36%)に、水素20体積%、窒素80体積%の再生ガスを水素の空間速度が21mmol/g−cat・hで供給し、500℃、絶対圧0.10MPa(水素分圧は0.02MPa)で5分間再生を行った。再生ガス中の酸素含有量は、0体積%(酸素分圧は0.00MPa)であった。
【0193】
再生が終了した後に、再び上記の条件で反応を行い、反応開始直後の反応成績を確認した。表1に反応結果、図10にエチレン転化率とプロピレン選択率の関係を示す。
【0194】
表1のとおり、再生前のエチレン転化率は36%であったが、水素再生後のエチレン転化率は67%、プロピレン選択率は82%となった。また水素再生した触媒にて得られたプロピレン選択率は、未使用の触媒が経時的に劣化して得られるプロピレン選択率と同転化率で比較してほぼ同程度となった。この結果から、水素分圧を低下させて実施した水素再生でも触媒が賦活され、再生前の触媒の性能を保った状態で再生されることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを活性成分として含み、エチレンを気相で接触させてプロピレンを生成
する反応を経てエチレン転化率が低下した触媒を、酸素を含まず、かつ水素分圧が絶対圧で0.01MPa以上の水素を含むガスに接触させて再生させることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
触媒を再生させる温度が300℃以上750℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記プロピレンを生成する反応と同じ温度、圧力および空間速度において、再生後の触媒にエチレンを気相で接触させてプロピレンを生成した際のエチレン転化率が50〜90%、かつプロピレン選択率が40%以上となるまで触媒を再生させることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記触媒がゼオライトに金属を担持させたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法
【請求項5】
前記ゼオライトが0.6nm未満の細孔径を有するゼオライトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライトがCHA構造のゼオライトであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造した触媒を用い、エチレンからプロピレンを生成させることを特徴とするプロピレンの製造方法。
【請求項8】
エチレンからプロピレンを生成させる反応を行う反応器に、触媒を再生させるための装置を付設し、該反応器から抜き出した触媒を該装置に送り、再生後の触媒を該反応器に戻して反応を行うことを特徴とする請求項7に記載のプロピレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−78962(P2011−78962A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180205(P2010−180205)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「革新的環境・エネルギー触媒の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】