説明

触媒の再生方法

本発明は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の群からの混合酸化物を有する触媒を再生する方法に関し、前記方法は、再生が次の特徴を含む:i)触媒をその場で処理し、ii)触媒を水と接触させ、iii)触媒を100〜400℃の温度範囲内で処理し、iv)触媒を0.1〜2MPaの圧力範囲内で処理し、v)触媒を0.1〜24hの期間にわたって処理し、vi)触媒を0.1〜100h-1の比触媒負荷で処理することにより特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、t−アルキルエーテルからのイソオレフィンの製造に使用される触媒の"その場での(in situ)"再生方法に関する。
【0002】
イソオレフィン、例えばイソブテンは、多数の有機化合物の製造のための重要な中間生成物である。イソブテンは、例えば、ブチルゴム、ポリイソブチレン、イソブテンオリゴマー、分枝鎖状C5−アルデヒド、C5−カルボン酸、C5−アルコール及びC5−オレフィンの製造のための出発物質である。さらに、アルキル化剤として、特にt−ブチル芳香族化合物の合成に、かつ過酸化物の生成のための中間生成物として、使用される。さらにまた、イソブテンは、メタクリル酸及びそれらのエステルのための前駆物質として使用されることができる。
【0003】
工業用流中では、イソオレフィンはたいてい、同じ炭素原子数を有する他のオレフィン及び飽和炭化水素と一緒に存在する。これらの混合物からは、イソオレフィンは、物理的な分離方法を用いるだけでは経済的に分離可能ではない。
【0004】
例えば、イソブテンは、通常の工業用流中に、飽和及び不飽和のC4−炭化水素と一緒に存在する。これらの混合物から、イソブテンは、イソブテンと1−ブテンとの間の僅かな沸点差もしくは僅かな分離係数のために、蒸留によっては経済的に分離されることができない。故に、イソブテンは工業用炭化水素からは、イソブテンがその他の炭化水素混合物から容易に分離されうる誘導体に変換され、かつ単離された誘導体が、イソブテン及び誘導体化剤へと分解し戻されることによってしばしば取得される。
【0005】
通常、イソブテンは、C4カットから、例えばスチームクラッカーのC4留分から、次のように分離される:抽出(抽出蒸留)又は線状ブテンへの選択的水素化による、ポリ不飽和炭化水素、主に1,3−ブタジエンの大部分の除去後に、残っている混合物(ラフィネートI又は選択的水素化されたクラッキング−C4)はアルコール又は水と反応される。メタノールの使用の際に、イソブテンから、メチル−t−ブチルエーテル(MTBE)が、及び水の使用の際にt−ブタノール(TBA)が、生じる。それらの分離後に、これらの誘導体は、それらの形成とは逆に、イソブテンへと分解されることができる。
【0006】
例えばイソブテン及びメタノールへのメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)の分解は、酸性触媒又は塩基性触媒の存在で、液相もしくは気液混合相中又は純気相中で実施されることができる。気相中でのMTBE分解は、これが通例、より高い温度で進行するという利点を有する。イソブテン及びメタノールに対するMTBEの吸熱反応の平衡は、それによってより著しく生成物の側にあるので、より高い転化率が達成されることができる。
【0007】
高い転化率及び高い温度では、しかしながら、副生物形成が増大される。例えば、MTBEの分解の際に生じるイソブテンは、酸触媒作用を受ける二量化又はオリゴマー化により、望ましくないC8−及びC12+−成分を形成する。望ましくないC8−成分は、主に2,4,4−トリメチル−1−ペンテン及び2,4,4−トリメチル−2−ペンテンである。さらにまた、分解の際に生じるメタノールの一部は、水脱離下にジメチルエーテルへと変換される。
【0008】
t−アルキルエーテルの分解法の場合に、故に、極めて高い選択率でイソオレフィン並びにアルコールへの第三級アルキルエーテルの分解を触媒するが、しかしながら副反応、例えばC−C分解又は脱水素並びにC−Cカップリング反応又は生じるアルコールのエーテル形成を促進しない触媒が必要である。さらに、これらの触媒は、高い空時収量(RZA)を可能にし、かつ長い実用寿命を有するべきである。
【0009】
CN 1 853 772には、メチル−t−ブチルエーテルの分解のためのアルミノケイ酸塩触媒を製造する際の水蒸気処理の選択率増加作用が記載されている。しかしながら、こうして前処理された触媒も反応条件下に失活する。触媒を再生するための水蒸気処理は、CN 1 853 772に記載されていない。
【0010】
欧州特許出願公開(EP-A1)第1 894 621号明細書には、触媒としてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属のドープされたアルミノケイ酸塩を用いるイソオレフィンの気相製造方法が記載されており、その触媒の製造は同特許出願公開明細書に記載されている。欧州特許(EP)第1 894 621号明細書に記載された触媒を用いて、85%の転化率で>99%の高いイソブテン選択率及び約97%の同様に高いメタノール選択率が達成される。試験期間が増加するにつれて、しかしながら転化率は、他の点では変わらない試験条件(温度、圧力、滞留時間、触媒量、フィード組成)で、低下する。例えば、2500h後の転化率はその他の点では同じ条件下で、僅かに72%に過ぎない。
【0011】
この触媒系で、連続的に温度を上げることによって、例えば85%の高い転化率が保証されることができることが目下見出された。それにより、しかしながら副成分の質量は増加し、かつ主成分に対する選択率は低下する。特に、ジメチルエーテルの形成は、その際に著しく上昇する。
【0012】
窒素雰囲気下に高められた温度で触媒を再生するための試みは、400℃を上回る温度での触媒の新たなか焼により、当初の活性が回復されうることが示された。しかし大工業的には、400℃を上回る温度での触媒の処理はしかしながらたいていエーテル分解用の工業用反応器中では不可能である、それというのも、これらは、400℃を上回る温度のためには、この範囲未満である反応温度に基づいて強度が適合して設計されておらず、かつより高い温度のための設計は経済的ではないだろうからである。故に、触媒の再生のためには、反応器からの取り外しが必要である。このことはそしてまたより長期の停止、ひいては生産休止をまねく。そのうえ、不均一系触媒を有する反応器の新たな充てんは、比較的費用のかかる方法である。
【0013】
触媒の取り外しなしで済ます"その場での"再生は、あまり長期の停止にはならないだろうし、かつ反応器の費用のかかる新たな充てんを不必要にすることになるだろう。
【0014】
故に、反応器からの取り外しなしで、すなわち"その場で"、実施されることができ、かつイソブテン形成及びメタノール形成に関して必要な選択率の回復が保証される、t−アルキルエーテルの分解のためのアルミノケイ酸塩をベースとする触媒を再生する方法を開発するという課題が存在した。
【0015】
この課題は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の群からの混合酸化物を有する触媒を再生する方法により解決され、前記方法は、再生が次の特徴を含む:
i)触媒をその場で処理し、
ii)触媒を水と接触させ、
iii)触媒を100〜400℃の温度範囲内で処理し、
iv)触媒を0.1〜2MPaの圧力範囲内で処理し、
v)触媒を0.1〜24hの期間にわたって処理し、
vi)触媒を0.1〜100h-1の比触媒負荷で処理する
ことにより特徴付けられる。
【0016】
150〜380℃、特に好ましくは200〜350℃の温度範囲内で水蒸気での、主成分が形式的に酸化アルミニウム及び酸化ケイ素である、t−アルキルエーテルの分解用の触媒の処理が有利であることが判明した。反応器からの触媒の取り外しは、その際に不要である。
【0017】
水蒸気処理の期間は、好ましくは1〜10h、特に好ましくは2〜6hである。圧力範囲は、好ましくは2〜10バールである。比触媒負荷(WHSV;触媒1グラム当たり1時間当たりの室温での水のグラム数)は、好ましくは0.5〜30h-1の範囲内である。
【0018】
例:イソブテン並びにメタノールへのMTBEの気相分解及び引き続き触媒の再生
分解を、熱媒体油(Sasol Olefins & Surfactants GmbH製Marlotherm SH)が流れる加熱マントルを備えた固定床反応器中で実施した。触媒として、欧州特許(EP)第1 894 621号明細書に記載された触媒を使用した。出発物質として、99.7質量%の純度を有する工業品質のMTBE(Evonik Oxeno GmbH社製DRIVERON(登録商標))を使用した。
【0019】
水蒸気での"その場での"再生後に、運転条件(MTBE転化率約85%で)下で4000h運転された触媒は、その他の点では変わらない運転パラメーター(温度、圧力、滞留時間、触媒量、フィード組成)下で、高められた転化率及び同時に高められた、主生成物であるイソオレフィン及びアルコールもしくは水に対する選択率を示す。
【0020】
反応器への入口の前で、MTBEを、蒸発器中で、240〜270℃で完全に蒸発させた。240〜270℃の温度(反応器マントルの給送中のMarlothermの温度)及び0.7MPa絶対の圧力で、毎時MTBE 1500gを、触媒300gに、5h-1のWHSV値に相当、導通した。ガス状生成物混合物を、ガスクロマトグラフィーにより分析した。続いている触媒失活を補償するために、温度が連続的に高められたので、常に85%の転化率が達成された。
分解を、前記の条件下で約6000時間の期間にわたって実施した。
【0021】
4500h後に、本発明による水蒸気での再生を、まず最初にMTBEフィード流を調節し、引き続き270℃及び0.7MPaで3h、1h-1のWHSVで水蒸気をフィードとして使用することによって、実施した。
【0022】
出発物質混合物及び生成物混合物の組成から、イソブテン転化率、イソブテン形成の選択率(反応されたMTBEのモル数に対する形成されたイソブテンのモル数)及びメタノール形成の選択率(反応されたMTBEのモル数に対する形成されたメタノールのモル数)を、多様な反応時間で計算した。これらの値は以下の第1表にまとめられている。
【0023】
第1表:例によるMTBEの分解の転化率、選択率及び温度
【表1】

【0024】
第1表からわかるように、触媒は、運転時間が増えるにつれて失活する。続いている触媒失活を補償するための連続的な温度増加は、同時にメタノール選択率が最初に約97%から4000hで94%の値に低下する原因である。約4500hでの水蒸気での再生後に、触媒は、同じ温度で本質的により高い活性を示し、転化率は約99%に上昇するのに対し、メタノール選択率は、それどころか同様に容易に95%に高められる。再び85%の転化率に調節されるように温度を調整した後に、水蒸気再生前の状態に比べて、本質的に高められたメタノール選択率が観察されることができる。触媒は水蒸気処理後にも失活するが、6000hでの測定値が示すように、しかしさらに安定な選択率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素の群からの混合酸化物を含有する触媒を再生する方法であって、
再生が次の特徴を含む:
i)触媒をその場で処理し、
ii)触媒を水と接触させ、
iii)触媒を100〜400℃の温度範囲内で処理し、
iv)触媒を0.1〜2MPaの圧力範囲内で処理し、
v)触媒を0.1〜24hの期間にわたって処理し、
vi)触媒を0.1〜100h-1の比触媒負荷で処理する
ことを特徴とする、触媒を再生する方法。
【請求項2】
温度範囲が150〜380℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
温度範囲が200〜350℃である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
圧力範囲が0.2〜1MPaである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
触媒の処理を、1〜10hの期間にわたって行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
触媒の処理を、2〜6hの期間にわたって行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
触媒の処理を0.5〜30h-1の比触媒負荷で行う、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2012−531308(P2012−531308A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518861(P2012−518861)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058423
【国際公開番号】WO2011/000695
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】