説明

触媒の製造方法

【解決課題】 貴金属と典型元素又は希土類金属元素とからなる触媒粒子が担持され、触媒粒子が最適な粒径で、かつ、均一組成である触媒を提供する。
【解決手段】 本発明は、金属酸化物又はカーボンからなる多孔質担体上に、1種又は2種以上の貴金属と、1種又は2種以上の典型元素又は希土類金属元素若しくはこれらの酸化物とからなる触媒粒子が担持された触媒の製造方法であって、(1)貴金属のイオン及び典型元素又は希土類金属元素のイオンに、水溶性の高分子化合物を作用させることにより、貴金属及び典型元素又は希土類金属元素と高分子化合物とが配位結合、イオン結合、又は、共有結合により結合してなり、これらの元素を1分子内に総原子数10〜50000で含む複合錯体を形成する工程、(2)複合錯体を多孔質担体に担持させる工程、(3)複合錯体が担持された多孔質担体を焼成及び/又は還元する工程からなる触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法に関する。特に、担体上に複数種の元素が好適な原子数・粒径で複合化された触媒粒子を担持させることができる触媒製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は多くの分野で使用されており、化合物合成反応、燃料電池反応等の反応促進の他、各種ガスの浄化等の各種の分野で使用されている。これまで使用されている触媒は、多くはアルミナ、シリカ等の金属酸化物やカーボンからなる多孔質体を担体とし、これに活性金属、特に、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を担持したものが広く用いられている。そして、最近では、活性の向上を目的として複数の貴金属からなる触媒粒子を担持させ合金化させた多元系触媒が一般的になりつつある。触媒粒子の合金化により構成元素間の相互作用による活性の向上という、単一金属が担持された触媒では見られない特性を示すことが多い。また、触媒粒子として複数の貴金属を複合的に使用することで、担体との相互作用の向上による失活の抑制効果も認められている。
【0003】
従来の触媒の製造方法としては、多孔質担体にジニトロジアンミン白金や塩化白金酸、硝酸ロジウムといった金属塩溶液を含浸させて、原子状の金属を担体に担持させ、その後、還元雰囲気中で焼成することで製造されている。また、多元系触媒についても、担持する複数の金属の金属塩溶液を作成し、これと担体とを混合して複数の金属イオンを担体上に吸着させた後、乾燥・焼成している。この製法では、貴金属塩担持後の担体上は原子状の金属が担持され、これを焼成することで、原子状金属を移動・凝集させ、触媒粒子として機能しうる粒子径となるようにするためである。
【特許文献1】特開昭60−50491号公報
【特許文献2】特開昭63−116741号公報
【0004】
ここで、触媒の活性は、同じ金属種、担持量であれば、触媒粒子の状態により大きく影響を受ける。つまり、原子状の金属が分散担持された触媒よりも、金属原子が集合して原子数10〜50000程度(粒径にして1〜10nm)のクラスター状態で均一に担持されている触媒の方が高い触媒活性を示す。また、複数種の金属を担持させた触媒粒子においては、更に、個々の触媒粒子を構成する組成が均一であることが求められる。
【0005】
しかし、上記した金属塩溶液を前駆体としてこれを担持する製造方法においては、これらの要求に完全に応えることができなかった。従来の製法では、担体上に原子状金属がランダムに担持されるため、熱処理により完璧に触媒粒子径を制御することは困難であり、触媒粒子の粒径が不均一となる場合があるからである。
【0006】
また、従来の製法は、触媒金属の合金化が不十分となることが多い。合金化は、構成元素同士が原子レベルで近接していることが必要であるが、従来の製法では、複数の原子状金属を担持させた際、ゼータ電位の相違(吸着力の相違)等から、担体上で不均一に分布し易い。そして、このときに熱処理を行なうと、吸着力の強い金属は、担体の表面に吸着する傾向にあるが、吸着力の弱い金属は、担体表面に吸着することが困難となり担体の細孔内部へと拡散するようになる。そして、このような状態の担体を焼成しても、均一に合金化された触媒粒子を形成させることができない。
【0007】
そこで、金属塩溶液(原子状金属)を触媒粒子の前駆体とする従来の触媒製造法に対し、金属コロイド溶液を前駆体として適用する動きが近年知られている(例えば、特許文献3参照)。金属コロイドとは、水等の溶媒中に1〜10nmの1種又は複数の金属からなる金属粒子(コロイド粒子)が分散したものをいう。金属コロイドを触媒の製造方法に適用するメリットとしては、金属コロイドを用いることで、担持直後に好ましい状態の触媒粒子を形成することができ、その後の粒径調整あるいは金属の合金化のための熱処理は必ずしも必要がないことである。これは、金属コロイドは、前駆体の段階で既に1〜数10nmの適正な粒径の金属粒子が形成されていること、また、複数の金属がナノレベルで混合された状態にすることも可能であり、このとき個々のコロイド粒子で均一な組成を有していることによるものである。
【特許文献3】特開平11−151436公報
【0008】
ここで、金属コロイド溶液の製造においては、目的とする1種又は複数種の金属の金属塩を溶媒に溶解し、溶媒中の金属イオンを適宜の還元剤により還元して金属粒子とする。また、金属コロイド溶液には、還元された金属粒子の粒子状態を保護すると共に、金属粒子同士の凝集を防止するため、通常、保護剤と称される化合物を含む(保護剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の有機化合物がある。)。保護剤は、金属塩を溶媒に溶解するのと同時に添加されるのが一般的であり、溶媒中の金属イオンが還元され金属粒子となる際、金属粒子との相互作用により金属粒子を取り囲むような状態で吸着しこれを保護する。そして、保護剤の作用により担体への担持まで金属粒子の粒径を維持し、触媒粒子を形成させる。
【0009】
ところで、金属コロイドを用いて多元系触媒を製造する場合においては、これまで貴金属同士の組み合わせ(例えば、白金とパラジウム、白金とロジウムとの組み合わせ)が中心であった。これは、溶媒中の挙動が類似する金属の複合化、合金化が比較的容易であること、また、触媒活性の観点から貴金属を適用するものの需要が多かったことによる。
【0010】
しかし、近年になって、貴金属とそれ以外の元素とが担持された新たな触媒の検討もわずかながらなされている。この新たな触媒では、触媒活性を発揮する主要な触媒成分として貴金属を使用しつつ、耐久性等の付加的機能を発揮する補助的な触媒成分として他の元素を複合的に担持するものである。例えば、自動車排ガス触媒である白金及びセリアが多孔質担体上に担持された触媒(以下、白金/セリア担持触媒と称する。)では、セリアの酸素吸蔵放出能という付加的機能により、排ガス中の雰囲気を制御し、各有害成分の除去効率の向上に寄与することのできる触媒として知られている。白金/セリア担持触媒では、白金とセリアとを合金化させるものではないが、両者を近接して担持させることが必要であり、これによりセリアの効果を発揮されることが知られている。この白金/セリア担持触媒の例のように、今後は触媒の分野において、貴金属にセリウム等の希土類元素や鉛、ガリウム等の典型元素を添加したものが求められる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者によれば、かかる貴金属と典型元素又は希土類元素が担持された多元系触媒の製造に対しては、金属コロイドを適用することは困難である。これは、上記した金属コロイドの製造方法に従う場合、溶媒中で貴金属と典型元素又は希土類元素とを同時に還元処理し、両者が均一に混合したコロイド粒子を形成できることが前提となるが、典型元素又は希土類元素は、還元処理を行っても還元されずにイオン状態のまま溶媒中に分散し、コロイド粒子を形成できないものが多いためである。
【0012】
そこで、本発明は、貴金属に助触媒成分として典型元素又は希土類元素を合金化又は近接担持させてなる触媒粒子が担持された多元系触媒を製造する方法であって、貴金属と助触媒成分との組成を均一にすると共に、好適な粒径を有する触媒粒子を形成することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、触媒粒子の前駆体として、従来の金属塩溶液及び金属コロイドとは異なり、貴金属と典型元素又は希土類元素を含む金属複合錯体を適用することを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、1種又は2種以上の金属酸化物又はカーボンからなる多孔質担体上に、1種又は2種以上の貴金属と、1種又は2種以上の典型元素又は希土類金属元素若しくはこれらの酸化物とからなり、総原子数10〜50000の触媒粒子が担持された触媒の製造方法であって、下記工程からなる方法である。
【0015】
(1)前記貴金属のイオン及び前記典型元素又は希土類金属元素のイオンに、水溶性の高分子化合物を作用させることにより、貴金属及び典型元素又は希土類金属元素と前記高分子化合物とが配位結合、イオン結合、又は、共有結合により結合してなり、これらの原子を1分子内に総原子数で10〜50000含む複合錯体を形成する工程
(2)前記複合錯体を前記多孔質担体に担持させる工程
(3)前記複合錯体が担持された多孔質担体を焼成及び/又は還元する工程
【0016】
本発明は、高分子化合物にイオン状態の貴金属及び典型元素、希土類元素が結合した複合錯体を溶液中に分散させ、これを触媒粒子の前駆体として用いる点に特徴を有する。これは、上記金属塩溶液の担持では、原子状金属が単独で(錯体を形成することなく)分散しているものが前駆体である点、及び、上記金属コロイドでは還元された金属状態の粒子が分散しているものが前駆体である点と相違する。
【0017】
以下、本発明に係る触媒の製造方法について詳細に説明する。本発明においては、まず複合錯体の形成を行う。複合錯体を形成するためには、上記のように、貴金属のイオン及び前記典型元素又は希土類金属元素のイオンに、水溶性の高分子化合物を作用させることが必要となる。
【0018】
複合錯体を構成するための重要な要素である高分子化合物は、配位結合、イオン結合、共有結合により、貴金属等に結合が可能な水溶性の高分子化合物である。この高分子化合物としては、窒素、カルボキシル基、カルボニル基、アルコール基の少なくともいずれか一つを分子内に有するものが好ましい。これらの元素、置換基が貴金属イオン及び典型元素イオン、希土類元素イオンと結合するための相互作用を及ぼすからである。その結合様式は、窒素の場合には、配位結合及びイオン結合が、カルボキシル基の時は、イオン結合、共有結合が可能であり、結合する元素及び高分子と担体との親和性を考慮し適切な錯体を構成するようになっている。
【0019】
高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンイミン(以下、PEIと称するときがある。)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリ(N−カルボキシメチル)エチレンイミン、ポリ(N,N−ジカルボキシメチル)アリルアミン、又はこれらの共重合体が好ましく、また、ポリアミノ酸、多糖類も好適である。
【0020】
ところで、複合錯体中の貴金属原子、及び、典型元素原子又は希土類元素原子の数は、その後の触媒粒子の原子数(粒径)を決定する。本発明では、複合錯体中の原子の数を10〜50000とすることを前提としている。そして、複合錯体中の原子数は、高分子化合物の分子量により調整できる。ここで、複合錯体中の原子数の調整について、例としてPEIを高分子化合物として用いた場合について説明すると以下のようになる。
【0021】
PEIを用いて複合錯体を形成する場合、貴金属イオン等はPEI中の窒素原子と配位結合し、1の原子に対して2つのエチレンイミンモノマーと配位結合することとなる。ここで、エチレンイミンモノマーの分子量は43.07であることから、分子量50000のPEIを例とすると、この高分子化合物は約1160(50000÷43.07)の重合度を有する(約1160個のエチレンイミンよりなる。)。従って、分子量50000のPEIと原子とを過不足なく反応させる場合、PEI1分子当り580個の原子と反応し錯体を形成することができる。
【0022】
従って、分子量50000のPEIを用いる場合、1つのPEI全体で580個の原子と配位して錯体を形成することができると考えられるが、本発明者によれば、かかる単純な配分では複合錯体を触媒形成のための前駆体として使用することができないとする。これは、PEI中の窒素原子が高分子化合物の水溶性を保つための部位であることによるものであるが、全ての窒素部位に原子を配位させると(つまり、原子をPEIに過不足なく反応させると)、錯体は水溶性を失い沈殿を生じさせてしまうため、溶液状態で使用ができなくなるのである。
【0023】
つまり、本発明においては、複合錯体に必要量の原子を配位させつつ、水溶性を確保して溶液状態にするためには、高分子化合物が過剰となる状態での反応が好ましい。ここで注意すべきは、高分子化合物が過剰となる状態とは、高分子化合物の分子量を単に過大とするのではなく、分子量を考慮しつつ、その分子数(モル数)を調整することで高分子化合物過剰の状態を作ることが好ましい点にある。つまり、上記PEIの例についていえば、PEIの分子量を50000とする場合には、錯体の水溶性確保のため1の原子に対して窒素4原子以上の比率でPEIと原子とを混合することが好ましい。この比率で混合した場合、PEI1分子に290個の原子が配位する複合錯体が形成される(余った窒素は水溶性確保のために利用される)。そして、これにより原子数290個のクラスター状触媒粒子が形成される。また、この説明に従い高分子化合物としてPEIを用いる場合、本発明においては、複合錯体中の原子数を10〜50000とすることを要求するが、そのためには高分子化合物の分子量を1000〜500000としつつ、その混合量(分子数)を総原子数(貴金属、典型元素、希土類元素の合計原子数)に対して3〜4倍モルとするのが好ましい。
【0024】
上記説明は、他の高分子化合物についても適用される。例えば、ポリアリルアミン(モノマー分子量:57.09)は、PEIに類似する構造を有し、その窒素部位による配位結合で複合錯体を形成する。従って、上記PEIの場合のように、ポリアリルアミン1分子に290個の原子が配位する複合錯体を形成するためには、分子量66000のポリアリルアミンを総原子数に対して4倍モル(モノマー)で混合することが好ましい。そして、高分子化合物としてポリアリルアミンを用い、複合錯体中の原子数を10〜50000とする場合、その分子量は1200〜650000とし、その混合量は総原子数に対して3〜4倍モルとするのが好ましい。
【0025】
また、高分子化合物としてポリアクリル酸(モノマー分子量:72.06)を適用する場合。この場合に原子に対して作用するのはカルボキシル基であり、1の原子に対して1〜3個のカルボキシル基が原子結合により作用して錯体を形成する。そして、ポリアクリル酸の場合には、水溶性を維持するためには総原子数に対し8倍モル程度混合する事が必要である事から、この場合に上記と同様の原子数290の錯体を形成するためには、分子量160000のポリアクリル酸を総原子数に対して8倍モル(モノマー)混合することが好ましい。そして、高分子化合物としてポリアクリル酸を用いる場合、その分子量は2000〜500000とし、その混合量は総原子数に対して6〜8倍モルとするのが好ましい。
【0026】
以上の説明のように、本発明では、高分子化合物の分子量及び分子数を調整することで、複合錯体中の原子の数を調整すると共に、複合錯体の水溶性の確保を行なっている。
【0027】
本発明において好ましい貴金属は、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、ルテニウム、オスミウムである。複合錯体にはこれらの2種以上の貴金属原子を含んでいても良い。2種以上の貴金属を含む錯体の形成は、高分子化合物に目的とする複数種の貴金属イオンを作用させることで可能となる。
【0028】
高分子化合物と結合させる貴金属イオンは、貴金属の塩又はその溶液に由来するものが好ましく、具体的には、白金を含む錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化白金、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、ジニトロジアンミン白金、塩化及び水酸化テトラアンミン白金、塩化及び水酸化ヘキサアンミン白金、ヘキサヒドロキシ白金酸、ジクロロジアンミン白金、2−アミノエタノール配位白金化合物、2−アミノ酢酸配位白金化合物を適用できる。
【0029】
パラジウムを含む複合錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジクロロジアンミンパラジウム、塩化及び水酸化テトラアンミンパラジウム、2−アミノエタノール配位パラジウム化合物、2−アミノ酢酸配位パラジウム化合物を適用できる。
【0030】
ルテニウムを含む複合錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、テトラニトロシルジアクアルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム硝酸塩、ペンタアンミンアクアルテニウム硝酸塩を適用できる。
【0031】
ロジウムを含む複合錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム、ペンタアンミンアクアロジウム硝酸塩、亜硝酸ロジウム酸アンモニウム、ペンタアンミンニトロロジウム、トリアクアロジウム硝酸塩、ヘキサアンミンアクアロジウム硝酸塩を適用できる。
【0032】
金を含む複合錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化金酸、シシアン化金カリウム、テトラアンミン金硝酸塩、テトラニトラト金アンモニウム塩を適用できる。銀を含む錯体を製造する場合の金属塩としては、硝酸銀、酢酸銀、シアン化銀カリウム、乳酸銀を適用できる。
【0033】
イリジウムを含む複合錯体を製造する場合の金属塩としては、塩化イリジウム酸、三塩化イリジウム、ヘキサニトロイリジウム酸、ペンタアンミンアクアイリジウム硝酸塩、ニトロペンタアンミンイリジウム亜硝酸塩、ヘキサアンミンイリジウム硝酸塩を適用できる。
【0034】
一方、本発明で製造される触媒の助触媒成分となる典型元素及び希土類元素として好ましいのは、典型元素では、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムである。また、希土類元素では、ランタン、セリウム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが好ましい。そして、これらの元素のイオンは、希土類元素は硝酸塩、酢酸塩又はその溶液に由来するものが好ましい。また、典型元素については、硝酸塩、酢酸塩、オキソ酸(オキソ酸塩)又はその溶液が好ましい。
【0035】
典型元素又は希土類元素の添加量には特に制限はなく、助触媒成分の効果を発揮するために必要な量の典型元素又は希土類元素を添加することができる。一般的に、貴金属の反応活性を中心とする触媒を形成する場合には、貴金属1原子に対して0.1〜10原子程度が、また白金/セリア担持触媒のように、貴金属が助触媒成分の働きを促進する役割を果している触媒については、貴金属1原子に対し10〜100原子程度が望ましい。
【0036】
そして、高分子化合物を上記貴金属イオン及び典型元素又は希土類金属元素のイオンを作用させる具体的な手法としては、高分子化合物を含む溶液に貴金属塩又はその溶液を混合した後、典型元素又は希土類金属元素の塩又はその溶液を混合するのが好ましい。尚、この工程で溶液を用いる場合の溶媒としては、水、アルコール等の有機溶媒が適用できるが、好ましいのは水である。
【0037】
複合錯体を形成するための上記具体的手法においては、高分子化合物溶液に、貴金属塩又はその溶液を混合することで、貴金属塩と高分子化合物との間で配位子交換反応が生じ、貴金属と高分子化合物との錯体が形成される。そして、この錯体を含む溶液に、典型元素又は希土類金属元素の塩又はその溶液を混合することで、典型元素又は希土類金属元素のイオンが前記錯体に捕集されて複合錯体が形成される。ここで、典型元素又は希土類金属元素の添加は、その塩の溶液の滴下によるものが好ましい。塩(固体)をそのまま添加した場合、水に難溶な塩であれば、高分子と接触・反応しながらゆっくりと反応するため均一な錯体が形成されるが、水に容易に溶解する塩の場合、高分子との間で急速に反応が進行するため複合錯体の形成反応が不均一となり、複合錯体を形成する原子数にバラつきが生じる場合があるからである。また、塩の溶液を滴下する場合でも、複合錯体の生成反応を均一にするため、その滴下速度をスケール及び溶液に濃度に応じてゆっくりと滴下するのが好ましい。
【0038】
以上の工程により複合錯体が形成された後には、複合錯体を担体となる金属酸化物又はカーボンからなる多孔質担体に担持させる。本発明においては、金属酸化物の種類については、特に限定はない。アルミナ、シリカ、ジルコニアの他、セリアを含む担体、例えば、セリア−ジルコニア混合酸化物、セリア−ジルコニア−イットリア混合酸化物といった希土類金属酸化物の混合体も適用可能である。また、担体は、アルミニウム、ジルコニウム、ケイ素、チタン、ランタン、セリウム、ネオジウム、イットリウムの少なくとも一つを含んでも良い。どのような担体を用いても本発明によれば、好ましい状態の触媒粒子を担持させることができる。また、担体の形態も、粉末の他、ペレットでもハニカムでも良い。
【0039】
この複合錯体の担体への担持の方法としては、複合錯体の溶液に担体粉体を添加しても良いが、担体粉末が分散する分散液(スラリー)に複合錯体の溶液を滴下する形態を採っても良く、特に限定されるものではない。この際、アンモニアや硝酸を添加し、複合錯体溶液のpHを調整しつつ担持しても良い。尚、この担体の混合量も、触媒として必要量を添加することができ、特段の制限はない。
【0040】
そして、複合錯体担持後の担体について、焼成処理及び/又は還元処理を行なう。本発明では、複合錯体の担持直後から、触媒粒子を構成する原子が好ましい原子数で凝集した状態で担持されており、その焼成処理による触媒粒子の移動により容易にクラスター状の触媒粒子が形成させることができる。この焼成処理の条件としては、高分子化合物の燃焼除去が可能な300〜500℃とするのが好ましい。
【0041】
また、担持後の複合錯体が担持された担体を還元処理し、担体上の金属イオンを還元することによっても、クラスター状の合金触媒粒子が形成される。これにより、より高い活性を期待できる触媒の製造が可能となる。
【0042】
還元処理の方法としては、還元剤の添加によるものが好ましい。還元剤としては、水素、ギ酸、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボランが適用できる。
【0043】
還元剤の添加は、担体を含む錯体溶液を濾過して、担体を回収して還元剤と接触させても良い。この場合、還元剤として水素や一酸化炭素のような気体を適用することができる。この乾式還元の利点としては、還元時に加熱を行なう際、湿式還元の場合は水をも加熱する必要があるが、乾式の場合は粉体のみの加熱で良いため、エネルギー的に極めて有利である点が挙げられ、また還元のための反応容器も極めて小さくて良いという利点もある。さらに100℃以上に加熱して還元する事も可能であり、貴金属存在下、鉛やスズの還元が容易になる。
【0044】
また、担体を含む錯体溶液に直接還元剤を添加しても良い。このようにすることで、1つの溶液系で、錯体形成→錯体担持→還元処理と処理を行なうことができ触媒の製造効率が極めて高くなる。この場合、水素化ホウ素ナトリウムやギ酸のような比較的還元力の強い還元剤にて還元する事が好ましい。還元力の強い還元剤を用いることで、還元温度を低くすると共に、還元時間の短縮を図ることができるからである。尚、本発明では、凝集した各種原子を担体上に固定した後に還元するものであり、強い還元剤を用いても生成するクラスター粒子は安定であり、異常凝集を生じさせて粗大な触媒粒子を形成させることはない。
【0045】
以上の焼成処理、還元処理は、いずれかのみを行なっても良いし、両方を行なっても良い。また、焼成及び還元を行なう場合、どちらを先に行なっても良い。これらの後処理の要否については、製造する触媒により異なり、白金/セリア担持触媒のように白金とセリアとを近接させることを目的としている触媒では焼成のみで良い。また、貴金属と助触媒成分との合金化を図る触媒については、担持後に還元処理を行い、両者を金属状態の合金にする。
【発明の効果】
【0046】
以上述べたように、本発明に係る方法によれば、貴金属と典型元素又は希土類元素とが複合化された多元系触媒を容易に製造することが可能となる。この際、担体上の触媒粒子は、構成原子を均一に含み、適度な粒径(原子数)の粒子となる。そして、本発明によれば、貴金属と典型元素又は希土類元素とが合金化された触媒粒子、又は、貴金属からなる触媒粒子と典型元素又は希土類元素からなる触媒粒子と近接担持された触媒を効率的に製造することができる。本発明の効果は、触媒粒子の前駆体として上述した複合錯体を用いたことによる。複合錯体中の原子数は、高分子化合物の分子量及び反応量により調整可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。
【0048】
第1実施形態:ポリエチレンイミン50%水溶液(平均分子量50000)を4.32g(50.12mmol)秤量し、これに水50mLを加え攪拌した。そして、このPEI溶液にジニトロジアンミンパラジウム結晶(Pd含有量45.7重量%)2.188g(9.40mmol)を加え、室温下1時間攪拌した。これによりジニトロジアンミンパラジウムとPEIとの間に配位子交換反応が起こり、PEI−パラジウム錯体を形成する。次に、このPEI−パラジウム錯体の溶液に、硝酸鉛1.04g(3.13mmol)を50mLの水に溶解した溶液を1ml/minの速度で滴下した。これにより、PEI−パラジウム/鉛複合錯体が形成された。この錯体は水溶性を保持しており、沈澱の発生は観察されなかった。
【0049】
一方、担体であるシリカ98.35gを200mLの水に分散させ、この担体スラリーに、複合錯体の溶液を滴下して1時間攪拌した。これにより複合錯体は、シリカに吸着担持された。そして、溶液をろ過後、空気中110℃で一晩乾燥した。
【0050】
乾燥後、複合錯体が担持された担体を450℃で2時間焼成し、更に、3%水素(バランスガス:窒素)中250℃で還元した。以上の工程により1wt%Pd−0.65wt%Pb/SiO触媒を得た。
【0051】
比較例1:ここでは、金属塩溶液(原子状金属)を直接担体に担持し、これを焼成処理して第1実施形態と同様のPd−Pb/SiO触媒の製造を試みた。まず、ジニトロジアンミンパラジウム硝酸溶液(Pd含有量4.40重量%)22.73g、及び、硝酸鉛1.04gを水に溶解し100mLとした。次に、シリカ98.35gを200mLの水に分散させた後、この担体スラリーに、金属塩溶液を滴下し1時間攪拌し、その後水浴上にて蒸発乾固した。
【0052】
そして、得られた粉末を空気中110℃にて一晩乾燥し、450℃にて2時間焼成した。更に、3%水素中、250℃にて還元した。以上の工程により1wt%Pd−0.65wt%Pb/SiO触媒を得た。
【0053】
比較例2:比較例1において、焼成後の還元処理を600℃で還元した以外は比較例1と同様の工程で1wt%Pd−0.65wt%Pb/SiO触媒を得た。
【0054】
以上の第1実施形態、比較例1、2で製造した触媒について、TEM観察を行い、観察された金属粒子100個の直径を計測し、平均粒子径を算出した。その結果、第1実施形態の触媒では、2.5nmであり、比較例2では12.8nmであった。一方、比較例1の触媒は粒子径が細かすぎ、その平均値を算出することができなかった。そこで、金属粒子が観察できた第1実施形態、比較例2に係る触媒に関し、複数の金属粒子の組成を分析したところ、表1の結果を得た。
【0055】
【表1】

【0056】
以上の結果について検討するに、比較例1、2の触媒で金属粒子の粒径に相違が生じるのは熱処理温度(還元温度)の相違によるものである。この点、比較例のような原子状金属を担持させる触媒においては、熱処理温度を高くし金属粒子をシンタリングさせることで、合金組成を目的の組成に近づけることができる。しかし、表1の結果からわかるように、熱処理温度を高くした比較例2では、平均粒子径12.8nm程度に金属粒子を粗大化させても組成の揃った金属粒子とすることはできない。即ち、比較例の原子状金属を担持させる触媒の製造方法では、熱処理が不足するとほぼ原子状の金属が担持され、粒径及び合金化が不十分な触媒となる。また、熱処理温度を高くするとシンタリングが進行し、合金化が促進されるが、合金化が生じるといっても均一組成の金属粒子を得ることができない。また、熱処理温度を更に高くすると、シンタリングが進行しすぎて粒子の粗大化が生じ、有効表面積が減少し活性低下が生じるおそれがある。
【0057】
これに対し、本実施形態に係る触媒は、粒径2nm前後の適切な粒径の金属粒子が担持されており、その組成も均一である。従って、本実施形態に係る方法は、金属粒子の微小化及び均一組成化を同時に可能となる点において優れた手法であると言える。
【0058】
第2実施形態:ポリエチレンイミン30%水溶液(平均分子量70000)を69.68g(485.32mmol)に硝酸を加えpH6.0とした後、水で希釈して200mLの水溶液とした。次に、この溶液(室温下・攪拌)にジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt含有量4.55重量%)を21.98g (5.13mmol)、室温下で攪拌しつつ1mL/minの速度にて滴下した。これによりジニトロジアンミン白金とPEIとの間に配位子交換反応が起こり、PEI−白金錯体が形成する。次に、硝酸セリウム6水和物50.45g(116.2mmol)を200mLの水に溶解した溶液を、PEI−白金錯体溶液に1mL/minの速度で滴下し、攪拌した。これによりPEI−白金/セリウム複合錯体が形成した。
【0059】
一方、担体であるアルミナ79.0g水に分散し、250mLの均一なスラリーとした後、これを加熱した。そして、このスラリーに、上記PEI−白金/セリウム複合錯体を滴下した。この滴下は、スラリーを加熱した際に生じた水の蒸発を補うように滴下量を調整し、スラリーの量を250mLに保持するようにして行なった。複合錯体溶液を滴下した後スラリーを蒸発乾固し、複合錯体をアルミナ上に担持した。
【0060】
そして、蒸発乾固したものを、空気中110℃にて一晩乾燥した後、450℃にて2時間焼成した。以上の工程により、1wt%Pt−20wt%CeO/Al触媒を得た。
【0061】
比較例3:硝酸セリウム6水和物50.45gを200mLの水に溶解した。また、アルミナ79.0gを水200mLの水に分散し、これに硝酸セリウム水溶液を加えた。これを水浴上で蒸発乾固し、ついで空気中110℃にて1晩乾燥した後、空気中450℃にて2時間焼成した。これにより、アルミナに酸化セリウムが担持された触媒が形成された。
【0062】
上記触媒を再度200mLの水に分散させた後、これにジニトロジアンミン白金硝酸溶液21.98gを滴下し、一時間攪拌して白金を吸着担持させた。そして、これをろ過した後、空気中110℃にて1晩乾燥した後、空気中450℃にて2時間焼成し、1wt%Pt−20wt%CeO/Al3触媒を得た。
【0063】
以上の第2実施形態、比較例3に係る触媒に関し、触媒上の任意の測定点についてTEM−EDXで計測した結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
上記結果について検討するに、比較例3では白金は、触媒上の至る箇所からその存在が確認され、アルミナ上、セリア上の双方に担持されていることがわかる。一方、第2実施形態では、白金はセリアの近傍にのみ存在しており、アルミナ上で白金が単独で担持されている箇所は見られなかった。ここで、この白金−セリア触媒においては、セリアの有する機能は白金を通じて発揮されるものであり、白金はセリアの近傍でのみ存在することが好ましい。この観点からすると、比較例3の触媒では、白金が単独で担持された箇所が散見されており、効率的な担持がなされていないといえる。一方、本実施形態に係る方法は、セリアの近傍に効率的に白金が担持されている。従って、本発明は、複数の元素を近接して担持させることが要求される触媒の製造にも好適であることが確認された。
【0066】
最後に、第1、第2実施形態の方法に従い、表3に示すような、貴金属と各種典型元素及び希土類元素を担持した触媒を製造した。表3において、「合金化を目的とする触媒」とあるのは、第1実施形態と同様の工程にて製造した触媒であり、複合錯体を担体に担持した後、還元及び焼成を行っている。また、「近接担持を目的とする触媒」とあるのは、第2実施形態と同様の工程にて製造した触媒であり、還元処理は行っていない。
【0067】
【表3】

【0068】
表3からわかるように、第1、第2実施形態と同様の方法にて製造した触媒は、合金化を目的とするものに関しては、適切な粒径の触媒粒子が担持されている。また、その組成も第1実施形態と同様、均一であることが確認された。そして、近接担持を目的とする触媒に関しても第2実施形態の結果と同様、貴金属(白金、パラジウム)が典型元素又は希土類元素が担持されている箇所の近傍にのみ担持されており、目的とする状態を得ることができたことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の金属酸化物又はカーボンからなる多孔質担体上に、1種又は2種以上の貴金属と、1種又は2種以上の典型元素又は希土類金属元素若しくはこれらの酸化物とからなり、総原子数10〜50000の触媒粒子が担持された触媒の製造方法であって、下記工程からなる方法。
(1)前記貴金属のイオン及び前記典型元素又は希土類金属元素のイオンに、水溶性の高分子化合物を作用させることにより、貴金属及び典型元素又は希土類金属元素と前記高分子化合物とが配位結合、イオン結合、又は、共有結合により結合してなり、これらの原子を1分子内に総原子数で10〜50000含む複合錯体を形成する工程
(2)前記複合錯体を前記多孔質担体に担持させる工程
(3)前記複合錯体が担持された多孔質担体を焼成及び/又は還元する工程
【請求項2】
複合錯体を形成する工程は、高分子化合物を含む溶液に貴金属の塩又はその溶液を混合した後、典型元素又は希土類金属元素の塩又はその溶液を混合させるものである請求項1記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
複合錯体を多孔質担体に担持させる工程は、複合錯体を含む溶液と、多孔質担体を含む溶液とを混合するものである請求項1又は請求項2記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
複合錯体が担持された多孔質担体を焼成した後に還元する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
複合錯体が担持された多孔質担体を還元した後に焼成する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
高分子化合物は、窒素、カルボキシル基、カルボニル基、アルコール基の少なくともいずれか一つを分子内に有する請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
高分子化合物は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリ(N−カルボキシメチル)エチレンイミン、ポリ(N,N−ジカルボキシメチル)アリルアミン、又は、これらを少なくとも1種以上含む共重合体である請求項6記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
高分子化合物は、ポリアミノ酸、多糖類である請求項6記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
貴金属は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、金、イリジウムの少なくともいずれかである請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
典型元素は、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウムである請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
希土類元素は、ランタン、セリウム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムである請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。

【公開番号】特開2007−90136(P2007−90136A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279390(P2005−279390)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】