説明

触媒及びその製造方法、並びにそれを用いたパラキシレンの製造方法

【課題】分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた新規触媒と、異性化工程及び/又は吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライトの外表面をシリケートで修飾してなる触媒であって、前記シリケートの厚みが0.5〜20nmであることを特徴とする触媒、並びに、該触媒とベンゼン及び/又はトルエンを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うことを特徴とするパラキシレンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリケート被覆合成ゼオライト触媒とその製造方法、並びに該触媒を用いた高純度パラキシレンの製造方法に関し、特には、効率よく高純度のパラキシレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の中でも、キシレン類は、ポリエステルの原料となるテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などを製造する出発原料として、極めて重要な化合物である。これらのキシレン類は、例えば、トルエンのトランスアルキル化、不均化反応などによって製造されるが、生成物中には構造異性体であるp−キシレン、o−キシレン、m−キシレンが存在する。p−キシレンを酸化することによって得られるテレフタル酸は、ポリエチレンテレフタレートの主要原料として、o−キシレンから得られる無水フタル酸は、可塑剤などの原料として、また、m−キシレンから得られるイソフタル酸は、不飽和ポリエステルなどの主要原料としてそれぞれ使用されるので、生成物の中からこれらの構造異性体を効率的に分離する方法が求められている。
【0003】
しかしながら、p−キシレン(沸点138℃)、o−キシレン(沸点144℃)、m−キシレン(沸点139℃)の沸点には、ほとんど差がなく、通常の蒸留方法によって、これらの異性体を分離することは困難である。これに対し、これらの異性体を分離する方法としては、p−、o−及びm−異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、融点の高いp−キシレンを冷却結晶化させて分離する晶析分離方法や、分子篩作用を有するゼオライト系吸着剤を用いて、p−キシレンを吸着分離する方法等がある。
【0004】
晶析分離によって、p−キシレンを選択的に分離する方法では、構造異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、冷却結晶化しなければならず、工程が多段階になり複雑になることや、精密蒸留や冷却結晶工程が製造コストを高める原因となる等の問題がある。そのため、この方法に代わって、吸着分離方法が現在もっとも広く実施されている。該方法は、原料のキシレン混合物が吸着剤の充填されている吸着塔を移動していく間に、他の異性体より吸着力の強いp−キシレンが吸着され、他の異性体と分離される方式である。ついで、脱着剤によりp−キシレンは系外に抜き出され、脱着後、蒸留により、脱着液と分離される。実際のプロセスとしては、UOPのPAREX法、東レのAROMAX法が挙げられる。この吸着分離法は、p−キシレンの回収率、純度が他の分離法と比較して高いが、その反面十〜二十数段に及ぶ疑似移動床からなる吸着塔により吸着と脱着を順次繰返し、吸着剤からp−キシレンを除去するための脱着剤を別途分離除去する必要があり、p−キシレンを高純度化する際には決して運転効率の良いものではなかった。
【0005】
これに対し、パラキシレンの吸着分離法の効率を向上させる試みがいくつかなされており、触媒に分離機能を持たせて反応させながら分離も行う方法も開示されている。例えば、下記特許文献1には、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶と分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶とからなるゼオライト結合ゼオライト触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示のゼオライト結合ゼオライト触媒は、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスまたはブリッジを形成するので、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶のゼオライト結合ゼオライト触媒中に占める割合が小さくなり、触媒活性低下の原因となるだけでなく、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスを形成する場合には、選択される分子の透過抵抗が大きくなりすぎて、分子篩作用が低下する傾向がある。さらに、形状保持のためのバインダー(担体)を使用せずに、第二ゼオライト結晶がバインダー(担体)としての役割を担うので、第一ゼオライト結晶が第二ゼオライト結晶によって凝集された又は塊状のゼオライト結合ゼオライト触媒が一旦得られる。凝集状または塊状の前記触媒は、使用に際して成形あるいは整粒する必要があると考えられるが、その場合にせん断・破砕によって第二ゼオライト結晶が剥離して、第一ゼオライト結晶が露出する部分が生じ、分子篩作用が低下する原因になる。
【0006】
また、下記特許文献2には、固体酸触媒粒子に分子篩作用を有するゼオライト結晶をコーティングする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、触媒粒子が平均粒径として0.3〜3.0mmと大きい上に、コーティング層が1〜100μmと厚いため、原料や生成物などの被処理体がシリケート膜を通過する際の抵抗が大きく、結果、反応効率が不十分になり、トルエンの転化率が低く、パラキシレンの収率も著しく低いものと思料される。一方、コーティング膜厚を薄くすると、物理的損傷等による被覆の損傷が懸念される。
【0007】
さらに、下記特許文献3には、結晶性硼珪酸塩を内核とし、それと同じ結晶構造をもつ酸化珪素(結晶性シリケート)を外殻とする触媒が開示されている。しかしながら、この触媒は外殻の結晶性シリケートについて外殻/内核の重量比を規定してはいるが、反応成績を決定するシリケートの厚みや均一性、欠陥等については何ら言及されていない。そして、内核の結晶性硼珪酸塩についても、粒子径あるいは結晶子径が規定されていない。このような触媒では、シリケート被覆膜厚の形成が不完全となり、著しく反応活性が低下するか、或いは、内核ゼオライトの外表面が一部露出することにより、高純度のパラキシレンを得るような高度に選択性を制御した反応を実現することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−504084号公報
【特許文献2】特開2003−62466号公報
【特許文献3】特公平01−006816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来の技術では、異性化工程及び/又は吸着分離工程のような複雑な工程を経ずに高純度のパラキシレンを効率よく製造するのに有用な触媒は提供されていなかった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた新規触媒及びその製造方法と、該触媒を用いることにより、異性化工程及び/又は吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、上記の目的に対して最適な触媒を調製することで、分離が容易となる画期的なパラキシレンの製造方法に想到した。本発明においては、触媒粒子内部で生成した生成物の特定構造の異性体のみが分子篩作用を有するシリケート膜を選択的に通過するので、特定構造の異性体の選択率を高めることができ、また逆に、特定構造の異性体のみが選択的に触媒活性な触媒粒子内部へ浸入して、触媒粒子内部で選択的(特異的)な反応を起こすことができる。その結果、本発明によれば、効率よく高純度のパラキシレンを製造することができる。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライトの外表面をシリケートで修飾してなる触媒であって、前記シリケートの厚みが0.5〜20nmである触媒である。
【0013】
なお、本発明の触媒においては、前記シリケートがMFI構造を有し、核となる前記MFI型ゼオライトに対してエピタキシーであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、
(2)原料として、結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライト、シリカ源及び構造規定剤を用いて水熱合成して、前記MFI型ゼオライトの外表面に該MFI型ゼオライトと同じ結晶構造の結晶性シリケート層を成長させる触媒の製造方法である。
【0015】
ここで、構造規定剤とは、R.F.Lobo et.al,Phenomena and Molecular Recognition in Chem., 21, 47 (1995)に例示されているように、水熱合成時にゼオライト構造(例えばMFI等)を決定付ける試薬のことであり、テンプレートあるいは鋳型分子とも言われ、通常は4級アンモニウム型の有機化合物である。
【0016】
更に、本発明は、
(3)上記(1)に記載の触媒とベンゼン及び/又はトルエンとを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うパラキシレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒は、MFI型ゼオライトの外表面をシリケート膜で修飾し、コーティングされているので、MFI型ゼオライトの分子篩作用を利用して特定構造の異性体を選択的に製造するのに好適に用いることができる。特に、MFI構造のZSM−5に対して同様の構造を有するシリカライトでコーティングすることにより、触媒外表面での反応を抑制できることから、パラキシレンの形状選択性を触媒に付与することができ、工業的に有用なパラキシレンを選択的に製造するための優れた触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の触媒の一例のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[触媒]
本発明の触媒は、結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライトの外表面をシリケートで修飾したゼオライト触媒であって、前記シリケートの厚みが0.5〜20nmであることを特徴とする。
【0020】
上記触媒の核として使用するMFI構造を有するゼオライトは、芳香族炭化水素同士または芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応により、パラキシレンを構造選択的に製造するのに優れた触媒性能を発揮する。該MFI型ゼオライトとしては、ZSM−5、TS−1、TSZ、SSI−10、USC−4、NU−4等各種のシリケート材料が、好適に用いられる。これらゼオライトは、細孔の大きさがパラキシレン分子の短径と同じ0.55nm程度であるため、パラキシレンと、パラキシレンよりわずかに分子サイズが大きいオルトキシレンやメタキシレンとを区別することができ、目的のパラキシレンを製造する場合には有効である。
【0021】
上記触媒の核となるMFI型ゼオライトは、結晶子径が20nm以上であり、かつ300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、特に好ましくは70nm以下である。使用するMFI型ゼオライトの粒径は、小さいほど細孔内拡散の影響を軽減できるため望ましいが、20nmに満たない粒子の場合には、粒子同士の凝集等により、外表面をシリケートで均一に被覆することが困難となる。一方、MFI型ゼオライトの粒径が300nmよりも大きい場合、粒子内での原料の拡散が律速となり、結果的に反応に寄与するのは外表面近傍のみになるため、反応の転化率が著しく低くなり、工業的に使用できない。
【0022】
また、上記MFI型ゼオライトのシリカ/アルミナ比は、30以上10000以下が好ましく、30以上1000以下がより好ましい。シリカ/アルミナ比が30より低い場合はMFI構造を安定的に保持することが難しく、一方、10000より高い場合は反応活性点である酸量が少なくなり、反応活性が低下してしまうため好ましくない。
【0023】
本発明の触媒は、前述のMFI型ゼオライトをシリケートで修飾してなるものであって、該シリケートは分子篩作用を有する。該分子篩作用を有するシリケート膜は、核となるMFI型ゼオライトと同類の構造を有し、かつMFI型ゼオライトの細孔と連続していることが好ましい。なお、細孔の連続性を確認する方法としては、分子サイズの異なる炭化水素の拡散速度もしくは浸透の可否を測定する方法等が挙げられる。
【0024】
さらに、前記シリケートがMFI構造を有し、核となる前記MFI型ゼオライトに対してエピタキシーであることが好ましい。エピタキシーとは、化学大辞典編集検収委員会編、化学大辞典1縮刷版、第36刷、共立出版株式会社、1997年9月20日、p.961−962に示されているように、ある結晶の特定の面上に他種の結晶の特定の面が見かけ上くっついて重なり合って成長する現象であり、同形の結晶の場合には結晶軸を同じくする方向に成長する。すなわち、本願におけるエピタキシーとは、核となるMFI型ゼオライトと同一の構造を有しており、しかも、核となる結晶相と連続した結晶相を形成するため、細孔が連続している状態を意味する。後述する水熱合成により、核となるMFI型ゼオライトの表面にシリケート層を成長させることにより行うことができる。
【0025】
また、上記シリケートは、不均化反応及びアルキル化反応に不活性であることが望ましく、アルミナ成分を含まない純シリカゼオライト(シリカライト−1)であることが特に好ましい。シリカライト−1は、酸点がほとんど無いため、外表面を不活性化するために特に好適である。なお、シリケート膜の珪素は、部分的にガリウム、ゲルマニウム、リン、又はホウ素等の他の元素で置換されていても良いが、その場合においても目的とする反応の副反応に対して、表面の不活性状態が維持されることが重要である。
【0026】
本発明の触媒において、上記シリケートの厚みは、0.5〜20nm、好ましくは0.5〜10nm、特には1〜5nmである。シリケートの膜厚が0.5nm未満では、核となるMFI型ゼオライトの外表面の修飾に欠陥を生じる可能性が高くなり、シリケート膜の分子篩作用を十分に発揮させることができなくなる。一方、シリケートの膜厚が20nmを超えると、シリケートの膜厚が厚すぎて、原料や生成物などがシリケート膜を通過する際の抵抗が大きくなりすぎ、反応の転化率を低下させるため好ましくない。
【0027】
ここで、上記シリケートの膜厚は、以下の方法で測定することができる。
即ち、シリケートは、核となるMFI型ゼオライトと同一の構造を有しており、しかも、核となる結晶相と連続した結晶相を形成しているため、被覆処理前後の触媒の結晶子径の差から、その厚みを算出する事ができる。尚、触媒の結晶子径は、X線回折により測定することができ、より具体的には、図1に示すようなX線回折図において、面指数(101)のピークの半値幅を用いてScherrer式から求めることができる。また、シリケートの厚みと結晶子径増加分は下記の式を用いて求めることができる。
シリケート厚み(nm)=(被覆処理後の触媒の結晶子径−被覆処理前の触媒の結晶子径)÷2
結晶子径増加分(%)=(被覆処理後の触媒の結晶子径/被覆処理前の触媒の結晶子径−1)×100
【0028】
本発明において、MFI型ゼオライトの表面をシリケート膜で修飾する方法としては、水熱合成法を使用することが好ましい。例えば、まず、目的とするシリケート膜の組成に応じて、無定形シリカ、アモルファスシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などのシリカ源、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドなどの構造規定剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物などの鉱化剤などを水やエタノールなどに溶かしてシリケート膜形成用ゾルを調製する。ここで、適切な比率のシリカ原料と構造規定剤を用いることでシリケート膜を形成することができる。なお、シリカ源としては、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトライソプロピル等のテトラアルコキシシランが好ましく、また、構造規定剤としては、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩が好ましい。
【0029】
使用するシリカ原料としては、エアロジル、ヒュームドシリカ、カボジル等のケイ酸化物がいずれも好適に用いられる。該シリカ原料は、被覆用水溶液へのシリカ溶出速度を適切に制御することを目的として、平均粒径が好ましくは10nm以上1.0μm未満、より好ましくは20nm以上0.5μm未満である。シリカ原料の平均粒径が10nmより小さい場合は、シリカ源同士での結晶化もしくは析出が起こり、シリカ原料が被覆に利用されないため好ましくない。一方、1.0μm以上の場合は溶解速度が小さく、膜形成が非常に遅く困難となるため好ましくない。
【0030】
上記シリケート膜形成用ゾル溶液のpHは5以上12未満が望ましい。水溶液のpHが前記範囲以外ではシリケート膜の膜形成反応が充分に進行しないため好ましくない。
【0031】
次に、前記シリケート膜形成用ゾルに粒状のMFI型ゼオライトを浸漬し、又は、前記シリケート膜形成用ゾルを粒状のMFI型ゼオライトの個々に塗布することにより、MFI型ゼオライトの粒子個々の表面をシリケート膜形成用ゾルで処理する。次いで、水熱処理を行うことにより、MFI型ゼオライトの粒子個々の表面全体にシリケート膜を形成させる。
【0032】
前記水熱処理は、シリケート膜形成用ゾルで処理した粒状MFI型ゼオライトを熱水中に浸漬することにより、または加熱水蒸気中に放置することにより行うことができる。具体的には、粒状MFI型ゼオライトをシリケート膜形成用ゾルに浸漬したままオートクレーブ内にて加熱を行ってもよく、粒状MFI型ゼオライトとシリケート膜形成用ゾルを入れた耐熱密閉容器をオーブンに直接入れて加熱してもよい。
【0033】
前記水熱処理は、好ましくは100℃以上250℃以下、より好ましくは120℃以上200℃以下で、また、好ましくは0.5時間以上72時間以下、より好ましくは1時間以上48時間以下行う。当該水熱合成することで、MFI型ゼオライト結晶上に活性点のないシリケート結晶をエピタキシャルに成長させることができる。
【0034】
前記水熱処理の後、粒状MFI型ゼオライトを取り出して乾燥し、さらに熱処理を行うことによって、シリケート膜を焼成する。該焼成は、必要に応じて0.1〜10℃/分の昇温速度で昇温し、その後500〜700℃の温度で0.1〜10時間熱処理することにより行えばよい。
【0035】
通常、この種の触媒は成形して用いられる。成形の手法は各種考えられるが、本触媒は表面被覆を損傷することなく成形する必要があるため、具体的には転動造粒、プレス成形、押出し成形等が好適である。成形においては、必要に応じて各種の有機もしくは無機のバインダーならびに成形助剤を用いてもよい。
【0036】
[芳香族炭化水素の不均化・アルキル化]
本発明のパラキシレンの製造方法は、上述の触媒の存在下で、芳香族炭化水素同士の反応(不均化)あるいは芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応(アルキル化)により、パラキシレンを選択的に製造することを特徴とする。
【0037】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。なお、原料の芳香族炭化水素は、ベンゼン及びトルエン以外の炭化水素化合物を含んでいてもよい。ただし、パラキシレンが目的生成物であることから、原料にメタキシレン、オルトキシレンならびにエチルベンゼンを含むものは好ましくない。
【0038】
本発明に用いるアルキル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテル、炭酸ジメチル、酢酸メチルなどが挙げられる。これらは、市販品を利用することもできるが、例えば、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスから製造したメタノールやジメチルエーテル、あるいはメタノールの脱水反応で製造したジメチルエーテルを出発原料としてもよい。なお、ベンゼン、トルエン及びメタノール、ジメチルエーテル中に存在する可能性がある不純物としては、水、オレフィン、硫黄化合物及び窒素化合物が挙げられるが、これらは少ない方が好ましい。
【0039】
前記アルキル化反応におけるアルキル化剤と芳香族炭化水素の比率については、メチル基と芳香族炭化水素のモル比として5/1〜1/20が好ましく、2/1〜1/10がより好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に多い場合は、望ましくないアルキル化剤同士の反応が進行してしまい、同時に触媒劣化の原因となるコーキングを引き起こす可能性があるため好ましくない。また、芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に少ない場合には、芳香族炭化水素へのアルキル化反応の転化率が著しく低下する。また、芳香族炭化水素としてトルエンを使用した場合はトルエン同士の不均化反応が進行することになる。
【0040】
上記不均化反応またはアルキル化反応は、原料の芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h-1以上、より好ましくは0.1h-1以上であり、10h-1以下、より好ましくは5h-1以下で供給して、上述の触媒と接触させることにより行うことが望ましい。不均化反応またはアルキル化反応の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下であり、また、圧力が好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、特に好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは20MPaG以下、より好ましくは10MPaG以下、さらに好ましくは5MPaG以下である。
【0041】
不均化反応またはアルキル化反応の際には、窒素やヘリウムのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素を流通、または加圧してもよい。なお、反応温度が低すぎると、芳香族炭化水素やアルキル化剤の活性化が不充分であることなどから、原料芳香族炭化水素の転化率が低く、一方、反応温度が高すぎると、エネルギーを多く消費してしまうことに加え、触媒寿命が短くなる傾向がある。
【0042】
上記触媒の存在下で、トルエンのメチル化反応または不均化反応が進行すると、目的生成物のパラキシレンの他、構造異性体であるオルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼン、未反応のトルエン、メチル化が進行した炭素数9以上のアルキルベンゼン類及び軽質ガスの生成が想定される。この中で、炭素数8の芳香族炭化水素のうちパラキシレンの構成比率は高いほど好ましく、当反応一段工程で95mol%以上が好ましく、97.5mol%以上がより好ましく、99.5mol%以上がより一層好ましく、99.7mol%以上が特に好ましく、99.9mol%以上が最も好ましい。
【0043】
反応生成物は、既存の方法で分離・濃縮してもよいが、本発明では純度の極めて高いパラキシレンが選択的に得られるため、特にトルエンの不均化反応については簡便な蒸留方法のみで単離することが可能である。また、パラキシレンよりも高沸点留分の生成量が極めて少ない場合は、軽質分の留去のみで高純度パラキシレンを単離することができる。なお、未反応のトルエンは原料として再反応してもよい。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<触媒の被覆処理>
(実施例1)
シリカ対アルミナのモル比が30、結晶子径が52nmである市販品のZSM−5を15.0g秤量し、そこにイオン交換水を86.1g、エタノールを25.8g、10%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液を7.1g、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を30.6g加え、オートクレーブにて180℃、24時間かけて水熱合成を実施した。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、600℃にて5時間焼成し、触媒A−1を得た。被覆処理に使用した試薬量とシリケートの厚みを求めた結果を表1に示す。また、X線回折装置(XRD)で確認したところ、生成したシリケートはMFI構造を有し、核となるZSM−5上にエピタキシャルに成長していることを確認した。
【0046】
結晶子径の測定条件を以下に示す。
測定装置:理学電機株式会社製RAD−1C
X線源:Cukα1(λ=0.15nm)
管電圧:30kV
管電流:20mA
測定条件 スキャン速度:4°/min
ステップ幅:0.02°
スリット:DS=1.0°、RS=0.3mm、SS=1.0°
【0047】
(比較例1)
実施例1に用いた市販品のZSM−5を、600℃にて5時間焼成し、触媒A−2を得た。触媒の結晶子径を測定した結果を表1に示す。
【0048】
(実施例2)
シリカ対アルミナのモル比が300、結晶子径が63nmである市販品のZSM−5を30.0g秤量し、そこにイオン交換水を86.1g、エタノールを25.8g、10%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液を7.1g、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を30.6g加え、オートクレーブにて180℃、24時間かけて水熱合成を実施した。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、600℃にて5時間焼成し、触媒B−1を得た。被覆処理に使用した試薬量とシリケートの厚みを求めた結果を表1に示す。また、XRDで確認したところ、生成したシリケートはMFI構造を有し、核となるZSM−5上にエピタキシャルに成長していることを確認した。
【0049】
(実施例3)
実施例2に用いた市販品のZSM−5の量を10.0gにした以外、実施例2と同様の方法により触媒B−2を得た。被覆処理に使用した試薬量とシリケートの厚みを求めた結果を表1に示す。XRDで確認したところ、生成したシリケートはMFI構造を有し、核となるZSM−5上にエピタキシャルに成長していることを確認した。
【0050】
(実施例4)
実施例2に用いた市販品のZSM−5の量を7.5gにした以外、実施例2と同様の方法により触媒B−3を得た。被覆処理に使用した試薬量とシリケートの厚みを求めた結果を表1に示す。XRDで確認したところ、生成したシリケートはMFI構造を有し、核となるZSM−5上にエピタキシャルに成長していることを確認した。
【0051】
(実施例5)
実施例2に用いた市販品のZSM−5の量を15.0gにした以外、実施例2と同様の方法により触媒B−4を得た。この触媒B−4に、さらに前述の被覆処理を施すことで触媒B−5を得た。被覆処理に使用した試薬量と、触媒の結晶子径及びシリケートの厚みを推算した結果を表1に示す。XRDで確認したところ、生成したシリケートはMFI構造を有し、核となるZSM−5上にエピタキシャルに成長していることを確認した。
【0052】
(比較例2)
実施例2に用いた市販品のZSM−5を、600℃にて5時間焼成し、触媒B−6を得た。触媒の結晶子径を測定した結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1中、SiO2 from TEOS/ZSM−5は、TEOS中のSiO2/ZSM−5(g/g)を指す。また、結晶子径、シリケートの厚み、結晶子径増加分は、X線回折により前述の方法で測定した。
【0055】
<トルエンの不均化>
(実施例6)
実施例1の触媒A−1にバインダーとしてシリカ(東ソー・シリカ株式会社製、ニップジェルAZ−200)を加えて成形し(触媒A−1/バインダーの質量比=80/20)、16−24meshで整粒した後、内径10mmφの固定層反応容器に1.25g充填した。そして、水素/トルエンを60mol/molとして、WHSVを0.48h-1、大気圧下400℃でトルエンの不均化反応を行った。反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、各異性体の生成割合を求めた。結果を表2に、ガスクロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0056】
測定装置:島津製作所製GC−2014
カラム:キャピラリーカラムXylene Master、内径0.32mm、50m
温度条件:カラム温度50℃、昇温速度2℃/分、検出器(FID)温度250℃
キャリアーガス:ヘリウム
【0057】
トルエン転化率(mol%)=100−(トルエン残存モル/原料中トルエンモル)×100
8中パラキシレン選択率(mol%)=(パラキシレン生成モル/C8芳香族炭化水素生成モル)×100
【0058】
(比較例3)
触媒として、比較例1で調製した触媒A−2を使用した以外は、実施例6と同様の条件でトルエンの不均化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件も、実施例6と同様の条件である。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例6に記載のとおり、触媒としてシリケート被覆ゼオライト触媒(触媒A−1)を用いることにより、p−キシレンの選択率は99.7%と熱力学的平衡組成(約25%)と比較して極めて高くなり、p−キシレンが選択的に製造されていることが明らかとなった。また、生成油は原料のトルエン(沸点110℃)の他、実質的にはベンゼン(沸点80℃)、パラキシレン(沸点138℃)及び炭素数9以上の芳香族炭化水素(沸点165〜176℃)のみとなるため、蒸留により高濃度パラキシレンを容易に得ることができる。
【0061】
一方、比較例3に示すような非コーティング触媒を用いた場合では、パラキシレン選択率が実施例6に比べて大幅に低下することが分かる。
【0062】
<トルエンのアルキル化>
(実施例7)
実施例2の触媒B−1に、実施例6と同様にシリカをバインダーとして加えて成形し(触媒B−1/バインダーの質量比=80/20)、16−24meshで整粒した後、内径4mmφの固定層反応容器に0.06g充填した。そして、ヘリウムガスを流通しながら、LHSVを0.3h-1、ジメチルエーテル/トルエンを0.5mol/molとして、大気圧下350℃でトルエンのアルキル化反応を行った。反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、各異性体の生成割合を求めた。なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件は、実施例6と同様の条件である。結果を表3に示す。
【0063】
(実施例8)
実施例3の触媒B−2について、実施例7と同様の条件でトルエンのアルキル化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、実施例6と同様の条件である。結果を表3に示す。
【0064】
(実施例9)
実施例4の触媒B−3について、実施例7と同様の条件でトルエンのアルキル化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、実施例6と同様の条件である。結果を表3に示す。
【0065】
(実施例10)
実施例5の触媒B−5について、実施例7と同様の条件でトルエンのアルキル化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、実施例6と同様の条件である。結果を表3に示す。
【0066】
(比較例4)
比較例2の触媒B−6について、実施例7と同様の条件でトルエンのアルキル化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、実施例6と同様の条件である。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例に記載のとおり、触媒としてシリケート被覆ゼオライト触媒(触媒B−1〜B−3、B−5)を用いることにより、p−キシレンの選択率は99.6%以上と熱力学的平衡組成(約25%)と比較して極めて高くなり、p−キシレンが選択的に製造されていることが明らかとなった。しかしながら、実施例7〜9と実施例10を比較すると、実施例10のトルエン転化率は実施例7〜9に比べて低かった。これは、実施例10の触媒のシリケート被覆膜厚が厚かったことで、原料や生成物などがシリケート膜を通過する際の抵抗が大きくなり、反応の転化率が低下したことを示している。つまり、シリケートの厚みには最適値が存在し、表3の結果から、実施例10の触媒よりもさらにシリケート膜を厚くしていくと、いずれ反応が起こらなくなってしまうことが予測できる。
【0069】
比較例4に示すような非コーティング触媒(触媒B−6)を用いた場合、通常、熱力学的平衡組成(約25%)を与えるが、結晶性が高く、比較的結晶子径の大きなZSM−5を用いると、比較例4のように比較的高いパラキシレン選択率を与えることがある。しかしながら、かかる比較例4であっても、実施例に比べるとパラキシレン選択率は大幅に低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライトの外表面をシリケートで修飾してなる触媒であって、前記シリケートの厚みが0.5〜20nmであることを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記シリケートがMFI構造を有し、核となる前記MFI型ゼオライトに対してエピタキシーであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
原料として、結晶子径が20〜300nmであるMFI型ゼオライト、シリカ源及び構造規定剤を用いて水熱合成して、前記MFI型ゼオライトの外表面に該MFI型ゼオライトと同じ結晶構造の結晶性シリケート層を成長させることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の触媒とベンゼン及び/又はトルエンとを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うことを特徴とするパラキシレンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−221095(P2010−221095A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68909(P2009−68909)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】