説明

触媒層を製造するためのインク

本発明は電気化学的装置のための触媒層を製造するためのインクに関する。前記インクは触媒材料、イオノマー材料、水および少なくとも1種の有機溶剤からなる。有機溶剤は第三級アルコールの種類および/または脂肪族ジケトンの種類に属し、インク中で酸化分解に安定な官能基を有する。これによりインク中の分解生成物の形成を阻止する。本発明のインクは高い貯蔵安定性を示し、電気化学的装置、特に燃料電池(PEMFCs、DMFCs)のための触媒被覆支持体を製造するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学的装置のための触媒層を製造するためのインクに関する。酸化分解に安定な官能基または置換基を有する少なくとも1種の有機溶剤を含有する触媒インクは開示されている。前記インクは電気化学的装置、特に燃料電池、膜燃料電池(PEMFCs、DMFCs)、電解装置またはセンサーのための触媒層および電極の製造に使用される。
【0002】
燃料電池は燃料および酸化剤を別々の位置で2つの電極に接触して電力、熱および水に変換する。燃料として、水素、水素富化ガスまたはメタノールを使用することができ、一方酸化剤として酸素または空気を使用する。燃料電池でのエネルギー変換法は特に高い効率を有する。この理由から燃料電池(PEMFCs、SOFCs等)は移動する、固定したおよび携帯可能な用途に重要性が増加している。膜燃料電池(PEMFCs、DMFCs)はコンパクトな構造、出力密度および高い効率のために前記用途に使用するために特に適している。
【0003】
PEM燃料電池の鍵成分は膜電極アセンブリ(MEA)である。膜電極アセンブリはサンドイッチ状構造を有し、一般に5個の層を有する。
【0004】
図1に五層膜電極アセンブリの図面による構造が示される。ここでアノードガス拡散層(1)がアノード触媒層(2)と一緒にアノード側にガス拡散電極(GDE)を形成し、カソードガス拡散層(5)がカソード触媒層(4)と一緒にカソード側にガス拡散電極(GDE)を形成する。2つの電極GDEの間にイオノマー膜(3)が配置される。
【0005】
図2に三層触媒被覆膜(CCM)の構造が示される。ここで触媒層(2)および(4)が直接膜(5)に適用される。
【0006】
五層MEAの製造において、一般に2つの触媒被覆ガス拡散層またはガス拡散電極、GDEsをイオノマー膜(3)の前面および背面に適用し、これらを一緒に圧縮してMEAを製造する。しかし触媒被覆イオノマー膜(CCMs)を使用してMEAsを製造する方法は知られている。この場合にCCMsを一般に触媒層が被覆されていないガス拡散層(1)および(5)と組み合わせる。
【0007】
本発明は種々の支持体、例えばイオノマー膜、ガス拡散層、炭素繊維不織布、ポリマーフィルム、リリースフィルム等に使用できる新しい触媒を含有するインクおよびペーストを記載する。これらの被覆された支持体は例えば燃料電池のための電極または膜電極アセンブリの製造に使用される。
【0008】
触媒インクに関する種々の構成が特許文献から知られている。
【0009】
例えば欧州特許(EP−B1)第797265号は燃料電池のための膜電極アセンブリを製造するためのインクを記載する。
【0010】
米国特許第5869416号は触媒インクの溶剤としてのアルキレンカーボネート、例えばプロピレンカーボネートを記載する。
【0011】
欧州特許(EP−B1)第622861号は有機溶剤としてアルコキシプロパノールまたはアリールオキシプロパノールを含有する電極インクを記載する。
【0012】
欧州特許(EP−A2)第945910号は2つの混合不可能な有機溶剤AおよびBを含有するインクを記載する。溶剤Aとして一価または多価アルコール、グリコール、グリコールエーテルアルコール、グリコールエーテル、およびこれらの混合物を使用する。溶剤Bは非極性炭化水素またはわずかな極性の溶剤である。第三級アルコールは記載されていない。
【0013】
欧州特許(EP−A1)第309337号はアルコールおよび水を含有する電極インクを記載する。イオノマーを水およびエタノールまたはイソプロパノールの混合物に溶解する。
【0014】
欧州特許(EP−A2)第785588号は昇華可能な気孔形成剤を含有する電極インクを記載する。アルコール溶剤としてシクロヘキサノールを使用する。
【0015】
欧州特許(EP−A1)第731520号は溶剤として水を使用する、触媒、イオノマーおよび溶剤からなるインクを記載する。このインクはイオノマーのほかに有機成分を含有しない。
【0016】
更に欧州特許(EP−A2)第945910号は直鎖状ジアルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールおよび水を含有する触媒インクを記載する。
【0017】
WO2004/054021号は極性非プロトン性有機溶剤を含有するインクを記載する。
【0018】
溶剤として第一級および/または第二級アルコール、例えばアルカンジオール、グリコールまたはグリセロールを含有するインクは基本的な欠点を有する。特に安定性が不十分である。第一級または第二級OH基が触媒の存在でインク中で徐々に反応し、微量で十分である大氣中の酸素の存在で酸化の攻撃または分解を受ける。これらはこうして更に酸化されて例えばアルデヒド、ケトンおよびカルボン酸になることがある。この酸化工程はインク中で種々の分解生成物を生じることがある。
【0019】
アルカンジオールの酸化分解は文献から公知である。この場合に第二級または第一級アルコール基がまず酸化される。引き続く工程でこれらの中間生成物が更に酸化されて、例えば蓚酸(C)、乳酸(C)、ピルビンアルデヒド(C)またはピルビン酸(C)になり、最後に自己縮合を行って二酸化炭素、一酸化炭素および酢酸を形成する。
【0020】
この分解工程で形成される有機酸はその塩と同様に、触媒層または触媒の表面に残留することがある。これらは触媒層または膜電極アセンブリの性能の劣化を生じることがあり、試験的洗浄工程により触媒層から除去しなければならない。
【0021】
更に前記酸化工程は触媒インクの貯蔵安定性に影響を及ぼし、貯蔵中のインクの粘度を変化させる。
【0022】
従って本発明の課題は、分解反応に関して高い安定性を有し、良好な貯蔵安定性を有する触媒インクを提供することである。前記インク中の分解または変性生成物の形成を回避するべきである。この方法により製造される触媒層は高い性能を有するべきである。前記インクは電極の製造方法を著しく簡略にし、電極の後処理および洗浄工程を不要にするべきである。選択される被覆法に依存してインク溶剤は水および/またはイオノマー溶液と混合できるべきであり、適当な沸点および適当な蒸発値(EN)を有するべきである。
【0023】
前記課題は本発明により請求項1から13までのいずれか1項に記載される触媒インクの提供により解決される。請求項14〜17には前記インクの使用が記載される。
【0024】
本発明のインクはイオノマー材料と一緒に、触媒材料、水およびインク中の酸化による劣化に安定な官能基を有す少なくとも1種の有機溶剤からなる。
【0025】
第1実施態様において、触媒インクの有機溶剤は一般式:
(R)C(OH)R
を有する第三級アルコールの種類から選択され、
上記式中、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、
CH(CH)C(OH)−、CH(CH)C(OH)−CH−、CH(CH)C(OH)−CH−CH−、
CH−O−,C−O−,C−O−、フェニル−O−、ベンジル−O−、
CH−O−CH−,C−O−CH−、C−O−CH−,CH−CH(CH)−O−CH−、
フェニル−O−CH−、ベンジル−O−CH−、
CH(C=O)−CH−、CH(C=O)−CH−CH−、CH−CH(C=O)−CH−、
CH−O−(C=O)−CH−、CHCH−O(C=O)−CH−、
HSO−、HSO−CH−、HSO−CH−CH−であり、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、−CH−O−CHであり、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、
CH(CH)C(OH)−、CH(CH)C(OH)−CH−、CH(CH)C(OH)−CH−CH−、
CH−O−、C−O−、C−O−、フェニル−O−、ベンジル−O−、
CH−O−CH−、C−O−CH−、C−O−CH−、CH−CH(CH)−O−CH−、
フェニル−O−CH−、ベンジル−O−CH−、
CH(C=O)−CH−、CH(C=O)−CH−CH−、CH−CH(C=O)−CH−、
CHO(C=O)−CH−、CHCH−O(C=O)−CH−、
HSO−、HSO−CH−、HSO−CH−CH−である。
【0026】
これらの溶剤の混合物を使用することもできる。
【0027】
第三級アルコールの種類からの有利な溶剤は例えばt−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、2,3−ジメチル2,3−ブタンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ヘキサンジオール、
2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジオール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、および4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)およびこれらの混合物である。
【0028】
意想外にも、第三級アルコールの種類からの溶剤がインク中の触媒の存在での酸化分解に安定であることが判明した。
【0029】
他の官能基により置換された第三級アルコールは有用であることが見出された。第三級アルコールの骨格は目的とされる方法で同様に酸化の攻撃に安定である他の適当な官能基の導入により変性することができる。適当な極性官能基はエーテルまたはアルコキシ基(−O−R)、ケト基(R−(C=O)−R)、エステル基(R−COOR)またはスルホン酸基(R−SOH)である。
【0030】
これらの付加的な官能基の導入は第三級アルコールのパラメーター極性、溶解性、水との混合性、蒸気圧および蒸発値(EN)の調節を可能にする。同時に溶剤分子の親水性OH基が維持され、その結果としてインク中の水およびイオノマーとの良好な相溶性が達成される。
【0031】
更に溶剤分子中の他の第三級アルコール基も、これらは同様に酸化に安定であるので、可能である。分子中に2個または3個の第三級アルコール基を有するこれらのジオールまたはトリオールも同様に良好な結果を生じる。
【0032】
第2実施態様において、本発明の触媒インクは分子中に2個のケト基(R−(C=O)−R)を有する少なくとも1種の有機溶剤(ジケトン)を有する。これらの溶剤のケト基が同様にインク中の酸化分解に安定であることが判明した。水およびイオノマーとの混和性および相溶性の程度を有する脂肪族ジケトンが特に有用である。
【0033】
脂肪族ジケトンの種類からの適当な溶剤の例は2,3−ブタンジオン(ジアセチル)、2,3−ペンタンジオン(エチルメチルグリオキサール)、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,3−ヘキサンジオン、2,4−ヘキサンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,5−ヘキサンジオン、2,6−ヘプタンジオン、3−メチル−2,5−ヘキサンジオン、および3−エチル−2,5−ヘキサンジオンおよびこれらの混合物である。
【0034】
脂肪族ジケトンは前記第三級アルコールとの混合物の形で使用できる。
【0035】
一般に本発明のインク溶剤、第三級アルコール、脂肪族ジケトン、またはその混合物は水と混和性であるべきであり、有利に水と完全に混和性であるべきである。更に前記インク溶剤は使用される液体イオノマー組成物の溶剤と混和可能であるべきである。
【0036】
本発明による溶剤、第三級アルコールまたは脂肪族ジケトンまたはその混合物を含有する触媒インクは良好な長時間安定性を有する。比較的長い時間、すなわち数週間または数ヶ月にわたる貯蔵中にインクの粘度が維持され、触媒の触媒活性がインク中の変性生成物により損なわれない。電極または触媒被覆膜の汚染物除去のための引き続く工程を省くことができる。
【0037】
更に触媒インクは噴霧塗装およびスクリーン印刷においてきわめて良好な処理特性を示す。触媒インクは転写または転写印刷工程に使用できる。
【0038】
本発明の触媒インクを使用して製造される触媒層、電極およびMEAsはPEM燃料電池中で良好な電気的性能を示す。
【0039】
本発明により使用される有機溶剤は触媒インク中で、インクの全質量に対して1〜90質量%、有利に5〜80質量%、特に10〜50質量%の量で存在する。インクの他の成分は触媒、イオノマー材料、および水、有利に脱イオン水である。インク中の水の割合はインクの全質量に対して1〜50質量%、有利に5〜25質量%の範囲である。
【0040】
本発明のインクはこれらの成分のほかに、付加的に添加剤、例えば結合剤、同時溶剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、沈殿防止剤、保存剤、細孔形成剤、レべリング剤、安定剤、pH調節剤、およびほかの物質を含有することができる。更にイオノマーの酸基の緩衝のために、塩基性物質、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)を添加できる。
【0041】
本発明のインクを製造するために、成分、貴金属含有触媒、例えばPt/C50質量%、Ptブラック、PtRuブラック等、液体イオノマー組成物、例えばNafion(登録商標)溶液、DuPont、脱イオン水、および有機溶剤、第三級アルコール、脂肪族ジケトン、またはその混合物を適当な容器に計量して入れ、分散または均一化する。分散装置として、高いせん断力を生じる装置、高速攪拌機、ロールミル、ビーズミル等を使用する。
【0042】
本発明のインクは直接イオノマー膜に塗装できる。しかし市販されたガス拡散層、例えば炭素繊維紙、炭素繊維不織布、GDLs、裏地層、または他の支持体材料、例えばポリマーフィルムに塗装することもできる。この目的のために、種々の被覆法、例えばドクターブレード被覆、噴霧、ロール塗装、刷毛塗り、スクリーン印刷、ステンシル印刷、またはオフセット印刷を使用することができる。適当な被覆法は、例えば米国特許第5861222号に記載される。
【0043】
一般に50〜150℃の範囲の温度で乾燥後、触媒層をすべての一般的な支持体材料、特にイオノマー膜に良好に付着する。
【0044】
イオノマー膜は一般にプロトン伝導性ポリマー材料を有する。酸官能基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレンフルオロビニルエーテルコポリマーの使用が有利である。これらの材料は例えばNafion(登録商標)DuPontまたはFlemion(登録商標)旭硝子として販売されている。しかし他の、特にフッ素不含のイオノマー材料、例えばスルホン化ポリエーテルケトンまたはアリールケトンまたはポリベンゾイミダゾールを使用することもできる。更にセラミック膜および他の高温膜を使用することもできる。
【0045】
一般にインク中のイオノマー材料は液体組成物の形で、すなわち適当な溶剤に溶解または分散して使用すべきである。多くのフッ素含有イオノマー材料が水溶液の形で種々の濃度で得られる。溶液のイオノマー含量は溶液の全質量に対して一般に5〜30質量%の範囲である。更に水性分散液の形で供給されるイオノマー材料も使用できる。これらの分散液は例えばDuPont社からNafion(登録商標)PFSAポリマー分散液として販売され、一般に分散液の全質量に対して5〜30質量%の範囲のイオノマー含量を有する。
【0046】
更に種々の製造者により種々の当量(EWs)を有するイオノマーが提供される。
【0047】
触媒材料として、燃料電池の分野で知られたすべての電気触媒を使用することができる。担持触媒の場合は担体として、微細分散、電気的伝導性炭素が使用され、カーボンブラックまたは黒鉛を使用することが有利である。使用される触媒活性成分は元素周期表の白金族の元素、Pt、Pd、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Irまたはその合金である。触媒活性金属は他の合金化付加物、例えばコバルト、クロム、タングステン、またはモリブデンを含有することができる。一般に触媒活性白金族金属が微細分散された形で導電性炭素担体の表面に塗装された担持触媒、例えばPt/C50質量%を使用する。しかし高い表面積を有するプラチナブラックまたは白金粉末のような非担持触媒も電極層の製造に使用できる。適当な電気触媒は欧州特許(EP−B1)第743−02号およびドイツ特許第4443701号に記載される。
【0048】
触媒層の厚さに依存して反応層に貴金属0.05〜5mg/cmの単位面積当たりの濃度が可能である。乾燥後の触媒層の厚さは約5〜100ミクロン、有利に5〜50ミクロンである。
【0049】
燃料電池での電気的性能を決定するために、本発明の触媒インクを使用して製造された膜電極アセンブリをPEM燃料電池試験で試験する。ここでPEM燃料電池を水素および空気(圧力3バール)を使用して運転し、特性曲線(電圧/電流密度曲線)を決定する。この特性曲線から500/cmの電流密度でのセル電圧を電池の電気触媒性能として決定する。
【0050】
以下の実施例により本発明を説明する。
【0051】
例1
以下の成分を計量し、分散装置を使用して均一にした。
担持Pt触媒(50%Pt/C、Umicore、Hanau)0.75g
Nafion溶液(水中11.3%、DuPont、米国) 3.25g
水(脱イオン水) 9.00g
4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン
(Merck−Schuchardt、
Hohenbrunn/Munich) 12.00g
合計 25.00g
【0052】
このインクでの触媒/Nafionの質量比は約2:1である。インクをNafion(登録商標)NR111イオノマー膜(DuPont、米国)のアノード側およびカソード側に7.07cm(活性セル面積50cm2の縁部長さを有する正方形に形で噴霧により塗装し、引き続き89℃で乾燥した。イオノマー膜への触媒層の付着はきわめて良好であると判明した。分解生成物を除去するための触媒被覆膜(CCM)の後処理を行わなくてよかった。乾燥後、CCMを2つのガス拡散層(TGPH−060、Toray、日本)の間に配置し、PEM燃料電池中で水素/空気運転で測定した。400mA/cmの電流密度で、762mVのセル電圧が測定された(出力密度0.38W/cm2)。全Pt充填量(アノードおよびカソード)は0.44mgPt/cmであった。
【0053】
例2
以下の成分を計量し、分散装置を使用して均一にした。
担持Pt触媒(50%Pt/C、Umicore、Hanau) 3.00g
Nafion溶液(水中11.3%、DuPont、米国) 13.275g
水(脱イオン水) 6.70g
t−ブタノール(Merck、Darmstadt) 17.25g
合計 40.225g
【0054】
このインクをスクリーン印刷により2つのガス拡散層に縁部長さ7.07cmを有する正方形の形で塗装し(活性セル面積50cm)、引き続き乾燥した。残留物を除去するための電極の洗浄を省いた。イオノマー膜(厚さ50ミクロン)を2つの電極の間に配置し、結合体を引き続き圧縮して、五層膜電極アセンブリ(MEA)を形成した。全Pt充填量は0.54mgPt/cmであった。こうして製造したMEAをPEM充填セル試験で測定した。500mA/cmの電流密度で、700mVのセル電圧が得られた(出力密度0.35W/cm)。
【0055】
例3
以下の成分を計量し、均一にした。
担持Pt触媒(50%Pt/C、Umicore、Hanau) 0.50g
Nafion溶液(水中11.3%、DuPont、米国) 2.20g
水(脱イオン水) 2.20g
2,5−ヘキサンジオン(Merck−Schuchardt、
Hohenbrunn/Munich) 19.60g
合計 24.50g
【0056】
このインクをNafion(登録商標)NR111イオノマー膜(DuPont、米国)のアノード側およびカソード側に、縁部長さ7.07cmを有する正方形の形で(活性セル面積50cm)噴霧により塗装し、引き続き90℃で乾燥した。イオノマー膜への触媒層の付着はきわめて良好であることが判明した。分解生成物を除去するための触媒被覆膜(CCM)の後処理を行わなくてよかった。乾燥後CCMを2つのガス拡散層(TGPH−060、Toray、日本)の間に配置し、PEM充填電池中で水素/空気運転で測定した。きわめて良好な結果が達成された。全Pt充填量は0.44mgPt/cmであった。
【0057】
例4
以下の成分を計量し、均一にした。
担持Pt触媒(50%Pt/C、Umicore、Hanau) 5.00g
NafionPFSAポリマー分散液DE1020
(水中11.3%、DuPont、米国) 22.12g
t−ブタノール(Merck、Darmstadt) 100.00g
水(脱イオン水) 42.88g
合計 170.00g
【0058】
貯蔵安定性を試験するために、例4により製造したインクを密閉容器中で64日、すなわち2ヶ月以上、室温で貯蔵した。GC分析(定量的ガスクロマトグラフィー法)を貯蔵時間の開始時および終了時に試験し、インクのt−ブタノール含量を検出した。
開始時(0日):t−ブタノール58.8質量%(インクの全質量に対する)
64日後: t−ブタノール57.1質量%
酸化生成物 検出せず。
【0059】
この結果はインク溶剤の分解または変性が起こらなかったことを示す。t−ブタノール含量はほとんど一定に維持され、本発明のインク溶剤の高い貯蔵安定性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】五層膜電極アセンブリの構造を示す図である。
【図2】三層触媒被覆膜(CCM)の構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的装置のための触媒層を製造するためのインクであり、触媒材料、イオノマー材料、水および酸化分解に安定である官能基を有する少なくとも1種の有機溶剤からなる触媒層を製造するためのインク。
【請求項2】
有機溶剤が一般式:
(R)C(OH)R
を有する第三級アルコールの種類から選択され、
上記式中、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、
CH(CH)C(OH)−、CH(CH)C(OH)−CH−、CH(CH)C(OH)−CH−CH−、
CH−O−,C−O−,C−O−、フェニル−O−、ベンジル−O−、
CH−O−CH−,C−O−CH−、C−O−CH−,CH−CH(CH)−O−CH−、
フェニル−O−CH−、ベンジル−O−CH−、
CH(C=O)−CH−、CH(C=O)−CH−CH−、CH−CH(C=O)−CH−、
CH−O−(C=O)−CH−、CHCH−O(C=O)−CH−、
HSO−、HSO−CH−、HSO−CH−CH−であり、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、−CH−O−CHであり、
はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、
CH(CH)C(OH)−、CH(CH)C(OH)−CH−、CH(CH)C(OH)−CH−CH−、
CH−O−、C−O−、C−O−、フェニル−O−、ベンジル−O−、
CH−O−CH−、C−O−CH2−、C−O−CH−、CH−CH(CH)−O−CH−、
フェニル−O−CH−、ベンジル−O−CH−、
CH(C=O)−CH−、CH(C=O)−CH−CH−、CH−CH(C=O)−CH−、
CHO(C=O)−CH−、CHCH−O(C=O)−CH−、
HSO−、HSO−CH−、HSO−CH−CH−であるかまたはこれらの混合物を含有する請求項1記載のインク。
【請求項3】
使用される有機溶剤がt−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、2,3−ジメチル2,3−ブタンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ヘキサンジオール、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジオール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、または4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)またはこれらの混合物である請求項1または2記載のインク。
【請求項4】
有機溶剤が脂肪族ジケトンの種類から選択される請求項1記載のインク。
【請求項5】
使用される有機溶剤が2,3−ブタンジオン(ジアセチル)、2,3−ペンタンジオン(エチルメチルグリオキサール)、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、2,3−ヘキサンジオン、2,4−ヘキサンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,5−ヘキサンジオン、2,6−ヘプタンジオン、3−メチル−2,5−ヘキサンジオン、3−エチル−2,5−ヘキサンジオンまたはこれらの混合物である請求項4記載のインク。
【請求項6】
使用される有機溶剤が第三級アルコールの種類からの溶剤と脂肪族ジケトンの種類からの溶剤の混合物である請求項1記載のインク。
【請求項7】
有機溶剤がインクの全質量に対して1〜90質量%、有利に5〜80質量%および特に10〜50質量%の量でインク中に存在する請求項1から6までのいずれか1項記載のインク。
【請求項8】
更に水をインクの全質量に対して1〜50質量%、有利に5〜25質量%の量で含有する請求項1から7までのいずれか1項記載のインク。
【請求項9】
イオノマー材料が酸基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン−フルオロビニルエーテルコポリマーを有する請求項1記載のインク。
【請求項10】
イオノマー材料が水溶液の全質量に対して5〜30質量%のイオノマー含量を有する水溶液の形で使用される請求項1記載のインク。
【請求項11】
イオノマー材料が水性分散液の全質量に対して5〜30質量%のイオノマー含量を有する水性分散液の形で使用される請求項1記載のインク。
【請求項12】
有機溶剤が水と混合可能であり、有利に水と完全に混合可能である請求項1記載のインク。
【請求項13】
担持触媒が触媒活性成分として微細分散電気的伝導性カーボンブラックを有し、元素周期表の白金族の元素、すなわちPt、Pd、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Irまたはその混合物または合金を触媒材料として使用する請求項1記載のインク。
【請求項14】
微細分散ブラックまたは元素周期表の白金族の元素、すなわちPt、Pd、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Irまたはその混合物または合金を触媒材料として使用する請求項1記載のインク。
【請求項15】
更に添加剤、例えば湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、沈殿防止剤、保存剤、細孔形成剤、レべリング剤、安定剤、pH調節剤、水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)を含有する請求項1記載のインク。
【請求項16】
燃料電池のための触媒被覆イオノマー膜(CCMs)を製造するための請求項1から15までのいずれか1項記載のインクの使用。
【請求項17】
燃料電池のためのガス拡散電極(GDEs)を製造するための請求項1から15までのいずれか1項記載のインクの使用。
【請求項18】
電気化学的装置のためのガス拡散層を被覆するための請求項1から15までのいずれか1項記載のインクの使用。
【請求項19】
触媒被覆支持体材料を製造するための請求項1から15までのいずれか1項記載のインクの使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534719(P2008−534719A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503414(P2008−503414)
【出願日】平成18年3月25日(2006.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002751
【国際公開番号】WO2006/103035
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】