説明

触媒層ペースト組成物、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法

【課題】 クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物、これを用いた、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明による触媒層ペースト組成物は、触媒粉、バインダー、溶剤、及び水を含有した、水素発生用電気分解セルに用いる触媒層ペースト組成物であって、バインダーは、アニオン伝導性高分子電解質で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層ペースト組成物、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法に関し、特に、アンモニア又は窒素化合物を含む水溶液から水素を発生させる触媒層ペースト組成物、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油精製、化学産業などをはじめとしてあらゆる産業分野において広く用いられている。特に近年、将来のエネルギーとして水素エネルギーが注目されてきており、燃料電池を中心に研究が進められている。しかし、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化に必要なエネルギーも大きいため、そのまま貯蔵したり、輸送することは難しいことが知られている。
従って、燃料電池自動車のような移動体および分散電源として燃料電池を用いる場合など、燃料電池を使用する場に水素を供給する必要がある場合において効率的な水素供給方法の開発が求められていた。
【0003】
以下、水素の供給方法の現状について述べる。
まず、水素を高圧ガスとして運搬し使用する方法を挙げることができる。しかし、この方法は危険な高圧ガスを取り扱うこと、かなり高圧にしても体積が過大になり小型化が困難なことなどに問題がある。一方、水素を液体水素として貯蔵・運搬し使用する方法も開示されているが、20K(−253℃)という極低温であるため取り扱いにくいという問題がある。
【0004】
次に、水素を使用する場で水素を製造する方法を挙げることができる。このような方法として、改質法が知られている。改質法は、メタンや軽質パラフィンの水蒸気改質法、自己熱改質法、部分酸化法など公知の技術により広く行われているが、一般に700℃以上の高温を必要とする。メタノールやジメチルエーテルの改質も広く認知された方法であるが、通常200℃以上の反応温度で行われる。このように改質法は高温を必要とするため、小型化、起動性向上などが困難である。
【0005】
また、シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,テトラリン,デカリンなどシクロヘキサン環を有する炭化水素を脱水素し水素を得る方法も提案されているが、この方法も200℃の比較的高温が必要とされる。
【0006】
水素吸蔵合金に吸蔵された水素を用いるのも有力である。しかし、水素吸蔵量は水素吸蔵合金全体の3%程度であり、移動体などに用いるためには重量が重くなりすぎ不十分である。
【0007】
一方、水の電気分解により水素を発生させる方法が、従来より知られている。水の電気分解に用いられている方法として、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を電気分解するアルカリ電解液型電解法、フッ素系イオン交換膜を用いた固体高分子型電解法等がある(例えば、特許文献1,2参照。)。これらの方法によれば、電気分解される水溶液に電圧を印加することにより常温・常圧で水素を発生させることができる。
【特許文献1】特開平8−314372号公報
【特許文献2】特開平8−269761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の固体高分子型電解法による電気分解セルでは、触媒層にクラックやピンホール等が実質的に生じないことが求められ、触媒層ペーストには触媒粉の分散性が求められる。
しかしながら、触媒と高分子電解質からなるペーストを用いた特許文献2に記載の触媒層形成方法では、分散性の良好な触媒層が形成できず、触媒層のひび割れのおそれがあるといった課題が残されている。
【0009】
本発明の目的は、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物、これを用いた、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、触媒粉、バインダー、溶剤、及び水を含有した、水素発生用電気分解セルに用いる触媒層ペースト組成物であって、前記バインダーは、アニオン伝導性高分子電解質で構成されていることを特徴とする触媒層ペースト組成物である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記バインダーは、非アニオン伝導性高分子を含有したことを特徴とする請求項1に記載の触媒層ペースト組成物である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物を転写基材上に形成して構成したことを特徴とする転写基材付き触媒層である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の転写基材付き触媒層の前記触媒層ペースト組成物上に金属多孔質体を形成して構成したことを特徴とする転写基材付き電極である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項4に記載の転写基材付き電極である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の転写基材付き電極の前記転写基材を剥離して構成したことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極である。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物を金属多孔質体上に形成して構成したことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極である。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項7に記載の水素発生用電気分解セルの電極である。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成して構成したことを特徴とする膜触媒層接合体である。
【0019】
また、請求項10に記載の発明は、請求項6〜8のいずれか1項に記載の電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に配置したことを特徴とする水素発生用電気分解セルである。
【0020】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を配置したことを特徴とする水素発生用電気分解セルである。
【0021】
また、請求項12に記載の発明は、前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項11に記載の水素発生用電気分解セルである。
【0022】
また、請求項13に記載の発明は、触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、前記転写基材付き触媒層を金属多孔質体の表面に形成して圧着により接合させた後、前記転写基材を剥離する工程とを備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極の製造方法である。
【0023】
また、請求項14に記載の発明は、触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、前記触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に塗布・乾燥させて膜触媒層接合体を形成する工程と、前記膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を形成して圧着により接合させる工程とを備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法である。
【0024】
また、請求項15に記載の発明は、触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、前記触媒層ペースト組成物を金属多孔質体に塗布・乾燥させて電極を形成する工程と、前記電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させる工程とを備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法である。
【0025】
また、請求項16に記載の発明は、触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、前記転写基材付き触媒層をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させた後、前記転写基材を剥離して膜触媒層接合体を形成する工程と前記膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を形成して圧着により接合させる工程とを備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法である。
【0026】
また、請求項17に記載の発明は、触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、前記転写基材付き触媒層を金属多孔質体の表面に形成して圧着により接合させて電極を形成する工程と、前記電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させる工程とを備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた、すなわち触媒の分散性が良好な触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物、これを用いた、転写基材付き触媒層、水素発生用電気分解セルの電極及びその製造方法、並びに膜触媒層接合体、水素発生用電気分解セルとその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の第1乃至第6の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることに留意すべきである。
【0029】
また、以下に示す第1乃至第6の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0030】
[第1の実施の形態]
(触媒層ペースト組成物)
本発明の第1の実施の形態に係る触媒層ペースト組成物は、触媒粉、バインダー、溶剤、及び水を含有した、水素発生用電気分解セルに用いる触媒層ペースト組成物であって、バインダーは、アニオン伝導性高分子電解質で構成される。
【0031】
(触媒粉)
本実施の形態に係る触媒粉は、触媒金属微粒子からなり、公知又は市販のものを使用することができる。
触媒金属微粒子としては、例えば、Co,Ni,Pt,Ru,B,C,Mn,Fe,Pd,Rh,Li,Na,Mg,K,Ir,Nd,La,Ca,V,Ti,Cr,Cu,Zn,Al,Si,Mo,W,Ta,Zr,Hf,Agから選ばれた1種または2種以上の金属が挙げられ、また、その化合物もしくはその合金でもよい。
【0032】
触媒金属微粒子が2種以上からなる合金である場合は、白金(Pt),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ロジウム(Rh),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir)のうち少なくとも2種以上含有する合金微粒子が好ましい。例えば、白金−鉄合金,白金−コバルト合金,鉄−コバルト合金,コバルト−ニッケル合金,鉄−ニッケル合金等のほか、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。これらの金属の各比率は限定的でなく、幅広い範囲から適宜選択できる。
【0033】
触媒金属微粒子の平均粒径は限定的でないが、例えば、約1〜20nm程度のコロイド状粒子や、約20〜500μm程度の粉末状のものが使用できる。
【0034】
市販の触媒金属微粒子の具体例としては、例えば、新光化学工業所社製のニッケルコロイド粒子、高純度化学研究所社製のニッケル−コバルト合金粒子(「NIA07PB」)等が挙げられる。
【0035】
上記触媒金属微粒子は、担体に担持されていてもよい。上記触媒金属微粒子が担持される担体は限定的でなく、公知又は市販のものが使用できる。例えば、アルミナ粒子,シリカ粒子,炭素粒子等が好適に挙げられる。耐食性及び導電性が良好な点から、炭素粒子、特に導電性炭素粒子が好ましい。
【0036】
このような導電性炭素粒子としては、例えば、アセチレンブラック,ファーネスブラック,チャンネルブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラックのほか、黒鉛,活性炭等が挙げられる。これらは1種又は2種以上使用してもよい。導電性炭素粒子の比表面積は限定されないが、例えば、通常約10〜1500m/g程度、好ましくは、約10〜500m/g程度である。平均粒径は、一般的には平均一次粒子径として、例えば、約0.01〜1μm程度、好ましくは、約0.01〜0.2μm程度のものを使用すればよい。
【0037】
また、本実施の形態では、担体として、上記粒子状物質のほか、繊維状物質、特に、気相法炭素繊維(VGCF),カーボンナノチューブ,カーボンナノワイヤー等の炭素繊維であってもよい。
【0038】
触媒金属微粒子の担持量は、触媒金属微粒子及び担体の種類等によって適宜決定されるが、例えば、担体100質量部に対して、通常約1〜80質量部程度、好ましくは、約3〜50質量部程度である。
【0039】
市販の触媒を担持したものの具体例としては、例えば、田中貴金属(株)製の触媒担持カーボン(TEC10E50E,TEC35E51等)、ACTA社製のHyperMec(商標登録)が挙げられる。
【0040】
(バインダー)
本実施の形態に係るバインダーは、アニオン伝導性高分子電解質からなる。アニオン伝導性高分子電解質は、アニオンとして水酸化物イオン(OHイオン)を伝導できる電解質である限り特に制限されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、炭化水素系及びフッ素樹脂系のいずれの高分子電解質でも用いることができる。
【0041】
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られる電解質等が挙げられる。
【0042】
フッ素樹脂系高分子電解質としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマーの末端をジアミンで処理し4級化したポリマー、或いはポリクロロメチルスルチレンの4級化物等のポリマー等が挙げられる。これらの中でも、特に、溶媒可溶性のものが好ましい。
【0043】
上記電解質は、例えば、特開2003−86193号公報、特開2000−331693号公報で開示されたものを使用してもよい。
より具体的に説明すると、クロロメチル化は、芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体にクロロメチル化剤を反応させて行う。クロロメチル化剤としては、例えば、クロロメトキシメタン,1,4−ビス(クロロメトキシ)ブタン,1−クロロメトキシ−4−クロロブタン,ホルムアルデヒド−塩化水素,パラホルムアルデヒド−塩化水素等が使用できる。
【0044】
このようにして得られたクロロメチル化物を、アミン化合物と反応させてアニオン交換基を導入する。アミン化合物としては、例えば、モノアミン,1分子中に2個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物等が使用できる。具体的にはアンモニアの他、メチルアミン,エチルアミン,プロピルアミン,ブチルアミン等のモノアルキルアミン、ジメチルアミン,ジエチルアミン等のジアルキルアミン、アニリン,N−メチルアニリン等の芳香族アミン、ピロリジン,ピペラジン,モルホリン等の複素環アミン等のモノアミン、m−フェニレンジアミン,ピリダジン,ピリミジン等のポリアミン化合物が使用できる。
【0045】
本実施の形態に係るバインダーは、非アニオン伝導性高分子を含有することが好ましい。非アニオン伝導性高分子は、触媒層形成においてバインダーとして機能するものであればよい。
【0046】
非アニオン伝導性高分子としては、例えば、非アニオン伝導性フッ素系樹脂が挙げられる。このフッ素系樹脂を含有することにより、触媒層成分の結着性が向上し、より強固な触媒層が形成されると共に、撥水性を付与することができる。
【0047】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体,フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、より結着性及び撥水性が良好な点から、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0048】
また、本実施の形態のバインダーには、上記非アニオン伝導性高分子の他に導電性材料を加えても良い。この導電性材料は、非アニオン伝導性高分子と同様、触媒層形成においてバインダーとして機能し、導電性を有するものであればよい。
【0049】
導電性材料としては、上述した導電性炭素粒子が挙げられる。また、上述の粒子状物質の他、繊維状物質、特に、気相法炭素繊維(VGCF),カーボンナノチューブ,カーボンナノワイヤー等の炭素繊維であってもよい。この導電性材料を含有することにより、触媒層成分の結着性が向上し、より強固な触媒層を形成することができる。
【0050】
このように、本実施の形態に係るバインダーは、アニオン伝導性高分子電解質に、さらに非アニオン伝導性高分子及び/又は導電性材料を適宜使用することができる。
【0051】
(溶剤)
本実施の形態に係る溶剤は、特に限定されるものではなく、幅広い範囲内で適宜選択される。例えば、各種アルコール,各種エーテル,各種ジアルキルスルホキシド,水又はこれらの混合物等が挙げられる。これら溶剤の中でも、アルコールが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール,tert−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール及びプロピレングリコール,ジエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
【0052】
本実施の形態における溶剤を用いることにより、触媒層ペースト組成物における触媒粉の分散性をより良好なものとすることができる。
【0053】
本実施の形態の触媒層ペースト組成物において、上述した触媒粉及びバインダーの含有量(質量比)は使用するバインダーに応じて、適宜設定することができる。例えば、バインダーがアニオン伝導性高分子電解質のみの場合、触媒粉1質量部に対して、アニオン伝導性高分子電解質(固形分)は、例えば、約0.02〜2質量部程度である。バインダーが非アニオン伝導性高分子(固形分)をさらに含有する場合、非アニオン伝導性高分子の含有量は、触媒粉1質量部に対して、例えば、通常約0.01〜0.3質量部程度、好ましくは、約0.05〜0.15質量部程度である。
【0054】
また、触媒粉及び溶剤の含有量(質量比)は、例えば、触媒粉1質量部に対して、溶剤約1〜100質量部程度、好ましくは、約3〜80質量部程度である。
そして、触媒粉及び水の含有量(質量比)は、例えば、触媒粉1質量部に対して、水約0.5〜20質量部程度、好ましくは、約1〜10質量部程度である。
【0055】
本実施の形態の触媒層ペースト組成物は、上述した、触媒粉、バインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散することにより製造することができる。上述した触媒層ペースト組成物の混合順序は特に限定されない。混合・分散には、公知の手段を広く利用できる。例えば、超音波分散,スターラー攪拌,ボールミル等が挙げられる。
【0056】
本実施の形態の触媒層ペースト組成物によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた、すなわち触媒の分散性が良好な触媒層を形成することができる。
また、本実施の形態に係る触媒層ペースト組成物を用いて得られる触媒層を使用すれば、電気分解中での触媒層の欠落・剥離を抑えることができる。
また、本実施の形態によれば、触媒層の膜厚調整が容易となり、均一な触媒層を容易に形成させることができる。これにより、耐久性において水素発生に優れた水素発生用電気分解セルを提供することができる。
【0057】
[第2の実施の形態]
(転写基材付き触媒層)
本発明の第2の実施の形態に係る転写基材付き触媒層7は、図1に示すように、転写基材6上に上述した触媒層ペースト組成物からなる触媒層2,3を配置したものである。
【0058】
転写基材6としては、シート状或いはフィルム状のものであれば、特に限定されないが、例えば、高分子フィルム等が挙げられる。高分子フィルムの他、アート紙,コート紙,軽量コート紙等の塗工紙,ノート用紙,コピー用紙等の非塗工紙等であってもよい。
【0059】
転写基材6の材質としては、高分子フィルムの場合、ポリイミド,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリパルバン酸アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテル・エーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリアリレート,ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0060】
また、ポリエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0061】
本実施の形態に係る転写基材付き触媒層7は、触媒層ペースト組成物を転写基材6上の一方の面に形成し、乾燥することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。
【0062】
触媒層2,3の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよいが、通常約100〜3000μm程度、好ましくは、約300〜2000μm程度であるのがよい。
【0063】
触媒層ペースト組成物の転写基材6上への形成方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター,バーコーター,スプレー,ディップコーター,スピンコーター,ロールコーター,ダイコーター,カーテンコーター,スクリーン印刷,圧延法等の一般的な方法を適用することができる。 厚塗りの場合は、圧延法を用いるのが好ましい。
【0064】
ペースト組成物の乾燥において、乾燥温度は、通常約40〜100℃程度、好ましくは、約60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常約5分〜2時間程度、好ましくは、約30分〜1時間程度である。
【0065】
本実施の形態によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を有する転写基材付き触媒層7を提供することができる。
【0066】
[第3の実施の形態]
(転写基材付き電極)
本発明の第3の実施の形態に係る転写基材付き電極7Aは、図2に示すように、転写基材付き触媒層7の触媒層2,3上に、金属多孔質体4,5を配置したものである。その他の構成は、第2の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【0067】
金属多孔質体4,5としては、後述する第4の実施の形態における金属多孔質体4,5を用いればよい。
【0068】
本実施の形態に係る転写基材付き電極7Aの製造方法は、金属多孔質体4,5を転写基材付き触媒層7の触媒層2,3上に積層して形成する方法が第2の実施の形態における製造方法と異なる点であり、他は第2の実施の形態と同様であるので、重複した説明は省略する。
【0069】
本実施の形態に係る転写基材付き電極7Aの製造方法において、転写基材付き触媒層7の触媒層2,3が金属多孔質体4,5に対面するように、転写基材付き触媒層7を金属多孔質体4,5表面上に配置して加圧・接合することにより転写基材付き電極7Aを製造することができる。
【0070】
本実施の形態によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を有する転写基材付き電極7Aを提供することができる。
【0071】
[第4の実施の形態]
(水素発生用電気分解セルの電極)
本発明の第4の実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの電極8は、図3に示すように、金属多孔質体4,5上に上述した触媒層ペースト組成物からなる触媒層2,3を配置したものである。
【0072】
本実施の形態に係る金属多孔質体4,5は、その厚みは限定的でないが、通常約200〜2000μm程度、好ましくは、約300〜600μm程度であるのがよい。
【0073】
金属多孔質体4,5の呼び口径(多孔質体の平均孔径)は限定的でないが、通常約30〜700μm程度、好ましくは、約50〜300μm程度である。また、金属多孔質体4,5の気孔率は限定的でなく、例えば、約75〜98%程度、好ましくは、約80〜95%程度である。
【0074】
金属多孔質体4,5の材質としては、金属からなる多孔質体である限り、特に限定的でなく、公知又は市販のものを用いることができる。具体的に、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀等が好適に挙げられる。なお、これらには、クロム,ジルコニア,モリブデン,タングステン等の他の成分を含有していてもよく、例えば、本実施の形態における発泡ニッケルには、クロム含有発泡ニッケル等も含まれる。
【0075】
本実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの電極8の製造方法は、第2の実施の形態と同様の方法を用いることができる。すなわち、第2の実施の形態と同様の方法で、触媒層ペースト組成物を金属多孔質体4,5上に形成し、乾燥することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。ただし、金属多孔質体4,5に触媒層ペースト組成物を塗布する方法としては、金属多孔質体4,5の表面に凹凸があり均一な塗布が難しいため、浸漬法、刷毛塗り、圧延法等によるものが好ましい。より好ましくは、圧延法を用いるのがよい。
【0076】
また、本実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの電極8は、第3の実施の形態における転写基材付き電極7Aの転写基材6を剥離することにより製造することもできる。
【0077】
本実施の形態によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を有する水素発生用電気分解セルの電極8を提供することができる。
【0078】
[第5の実施の形態]
(膜触媒層接合体)
本発明の第5の実施の形態に係る膜触媒層接合体9は、図4に示すように、アニオン伝導性高分子電解質膜(以下、「電解質膜」ともいう。)1の両面に、上述した触媒層ペースト組成物からなる触媒層2,3を配置したものである。
【0079】
(アニオン伝導性高分子電解質膜)
アニオン伝導性高分子電解質膜1は、上記のアニオン伝導性高分子電解質を含有している限り特に制限されず、公知又は市販のものを使用できる。
【0080】
アニオン伝導性高分子電解質膜1の厚みは、触媒層2,3の厚み等に応じて適宜決定すればよいが、通常、約10〜300μm程度、好ましくは、約20〜200μm程度である。
【0081】
アニオン伝導性高分子電解質膜1としては、例えば、炭化水素系及びフッ素樹脂系のいずれの電解質から構成されていてもよい。これら炭化水素系及びフッ素樹脂系の電解質は上述したものと同様のものが挙げられる。必要に応じて、電解質膜1にアルカリ水溶液等の溶媒を含浸してもよい。
【0082】
低濃度のアルカリ水溶液を使用する場合、或いはアルカリ性水溶液を使用しない場合には、低コストの観点から、炭化水素系電解質膜が好ましい。
【0083】
電解質膜1に高濃度のアルカリ水溶液を含浸させる場合は、耐アルカリ性の観点から、フッ素樹脂系電解質膜を使用することが好ましい。なお、フッ素樹脂系電解質膜を用いることにより、アニオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0084】
アルカリ水溶液は、通常pHが、例えば、約9〜14程度であればよい。具体的には、例えば、KOH水溶液、NaOH水溶液等を使用すればよい。アルカリ水溶液には、例えば、メタノール,エタノール,プロパノール等の1価アルコール;エチレングリコール,プロピレングリコール等の多価アルコール等のアルコールを混合させることができる。
【0085】
高濃度とは、使用するアルカリ水溶液の種類等によって適宜変更するが、本実施の形態においては、約2モル/リットル程度以上をいい、低濃度とは、約2モル/リットル程度未満をいう。
【0086】
本実施の形態に係るアニオン伝導性高分子電解質膜1は、アニオン伝導性高分子電解質を溶媒に含有させてなる触媒層ペースト組成物を塗布及び乾燥することにより形成されるものであってもよく、また、市販のアニオン伝導性高分子電解質膜をそのまま使用してもよい。
【0087】
市販のフッ素樹脂系電解質膜の具体例としては、例えば、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等が挙げられる。炭化水素系電解質膜の具体例としては、例えば、旭化成(株)製のアシプレックス(登録商標)A−201,211,221;トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1、AHA等が挙げられる。
【0088】
本実施の形態に係る膜触媒層接合体9の製造方法は、第2の実施の形態と同様の方法を用いることができる。すなわち、第2の実施の形態と同様の方法で、触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜1の両面に形成し、乾燥することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。
【0089】
本実施の形態によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を有する膜触媒層接合体9を提供することができる。
【0090】
[第6の実施の形態]
(水素発生用電気分解セル)
本発明の第6の実施の形態に係る水素発生用電気分解セル10は、図5に示すように、アニオン伝導性高分子電解質膜1とこの電解質膜1の両面に配置した第4の実施の形態に記載の水素発生用電気分解セルの電極8、すなわちアノード側及びカソード側電極12,13とから構成される。アノード側電極12はアノード側触媒層2とアノード側金属多孔質体4からなり、カソード側電極13はカソード側触媒層3とカソード側金属多孔質体5からなる。
【0091】
水素発生用電気分解セル10の形状は、限定的ではなく、平板型であっても筒型であってもよい。平板型の形状としては、例えば、平板型や、平板型のものを波形に折曲した平板波形一体型等が挙げられる。筒型の形状としては、例えば、平板型のものを円筒状に形成した、円筒型や円錐台型、或いは円周方向に波形の形状をした円筒波形一体型等が挙げられる。また、筒型形状の内側がハニカム構造をしたハニカム型等も挙げることができる。
【0092】
(燃料)
本実施の形態に係る水素発生用電気分解セル10は、後述するように、液体の燃料等を供給することにより水素を発生させる。
【0093】
液体の燃料としては、カソード側電極13側には、例えば、水やイオン性水溶液等が挙げられ、好ましくは、水を用いるのが良い。アノード側電極12側には、例えば、アンモニア又は窒素含有化合物を含む水溶液が挙げられる。窒素含有化合物として、具体的には、例えば、ジメチルアミン,トリメチルアミン,エチルアミン,イソプロピルアミン,ブチルアミン,フェニルアミン,アミルアミン等のアミン、若しくはトリメチルアミン,エチルアミン,イソプロピルアミン,ブチルアミン,フェニルアミン,アミルアミン等のアミン、さらにヒドラジン,インドール,ピリジン,ニコチン酸,カフェイン酸,スルファニル酸,スルファニルアミド等が挙げられ、これらを混合する水溶液等も挙げることができる。好ましくは、アンモニア水溶液を用いるのがよい。
【0094】
液体の燃料は、必要に応じて、アルカリ水溶液を添加することができる。アルカリ水溶液を添加する場合は、添加後のpHが通常約9〜14程度となるように添加すればよい。このようなアルカリ水溶液としては、具体的には、KOH溶液、NaOH溶液等を使用すればよい。
【0095】
本実施の形態に係る水素発生用電気分解セル10の使用に際し、燃料として、液体燃料を使用するので、必要に応じて、燃料吸い上げ材をさらに配置してもよい。燃料吸い上げ材は、金属多孔質体4,5の液体燃料と接する表面側に配置する。これにより、燃料を効率的に金属多孔質体4,5に供給することができる。燃料吸い上げ材の材質としては、例えば、発泡ウレタン,発泡ポリプロピレン等が挙げられる。
【0096】
(中間層)
本実施の形態においては、アノード側触媒層2とアノード側金属多孔質体4との間及び/又はカソード側触媒層3とカソード側金属多孔質体5との間に中間層を形成(積層)していてもよい。また、アノード側触媒層2と電解質膜1との間及び/又はカソード側触媒層3と電解質膜1との間に中間層を形成することもできる。中間層は、上記の配置を組み合わせて形成してもよく、また、その数は限定的でなく1層のみであってもよく、複数の層であってもよい。
【0097】
中間層は、導電性材料を含有する多孔質体であるのが好ましい。多孔質体の気孔率として、例えば、約10〜80%程度、好ましくは、約30〜70%程度である。中間層の膜厚は限定的でなく、例えば、約0.5〜50μm程度、好ましくは、約1〜20μm程度、より好ましくは、約1〜10μm程度である。
【0098】
中間層の材質としては、特に制限されないが、導電性の観点から、例えば、鉄,コバルト,ニッケル,パラジウム,銀,ルテニウム,イリジウム,モリブデン,マンガン等の金属又はこれらの合金のほか、導電性炭素材料が好適に挙げられる。また、中間層は触媒層2,3と同一の材料であってもよい。
【0099】
中間層が金属である場合は、触媒活性作用に優れる点から、上記の中でも、特にニッケル、銀等が好ましい。中間層が導電性炭素材料である場合は、ガス拡散性及び導電性に優れる観点から、アセチレンブラック,ファーネスブラック,チャンネルブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラックのほか、黒鉛,活性炭,カーボン繊維,カーボンナノチューブ,カーボンナノワイヤーなどが好適に挙げられる。
【0100】
中間層には、水素発生用電気分解セルの使用方法により、必要に応じて、親水性又は撥水性を付与してもよい。親水性又は撥水性を備えた材料は、公知又は市販の材料から幅広く選択することができる。
【0101】
中間層を配置することにより、電気分解セル10内に導入する燃料液体を触媒層2,3や電解質膜1等に、より一層浸透させやすくなり、また、触媒層2,3と金属多孔質体4,5等との接触抵抗を低減できるため、電気分解性能をより向上させることができる。
【0102】
(水素発生方法)
本実施の形態に係る水素発生用電気分解セル10は、図6に示すように、アノード側電極12とカソード側電極13を接続した外部回路11を介して外部電圧(例えば、約500mV程度)を印加することにより、アンモニアと水の電気分解を行い、これにより水素を発生させる。以下、これらを詳細に説明する。
【0103】
まず、アノード側金属多孔質体4を介して、アノード側触媒層2に燃料として、例えば、アンモニア水溶液を供給し、また、カソード側金属多孔質体5を介して、カソード側触媒層3に水(HO)を供給する。アノード側電極12においては、アニオン伝導性高分子電解質膜1を通過した水酸化物イオン(OH)とアンモニア水溶液中のアンモニア(NH)が反応して窒素(N)、水及び電子(e)が生成され、式(1)の酸化反応が進行する。
アノード側:2NH+6OH→N+6HO+6e・・・(1)
【0104】
カソード側電極13においては、供給した水と外部回路11を介して到達した電子とが反応して、水素(H)と水酸化物イオンが生成され、式(2)の還元反応が進行する。
カソード側:6HO+6e→3H+6OH ・・・(2)
【0105】
そして、生成した水酸化物イオンは、アニオン伝導性高分子電解質膜1を介してカソード側電極13側からアノード側電極12側へ供給される。全体として、アンモニアが酸化されて窒素と水素が生成される式(3)の電気分解反応が進行し、水素が発生する。
電気分解反応:2NH→N+3H ・・・(3)
【0106】
アノード側電極12側で発生した窒素と水は、残余のアンモニア水溶液とともに外部に排出される。そして、カソード側電極13側に発生した水素は、残余の水とともに外部に排出され、捕集される。
【0107】
(水素発生用電気分解セルの製造方法)
まず、触媒層ペースト組成物を第1の実施の形態と同様の方法で作製する。次いで、アニオン伝導性高分子電解質膜1の表面に触媒層ペースト組成物からなる触媒層2,3、及び金属多孔質体4,5を形成する。これらの形成方法として、例えば、次のような方法が挙げられる。
(i)図7(a)に示すように、第5の実施の形態で示した方法により、触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜1の両面に直接塗布し、乾燥して触媒層2,3を形成して膜触媒層接合体9を作製した後、膜触媒層接合体9の両面に金属多孔質体4,5を積層する方法、
(ii)図7(b)に示すように、第4の実施の形態で示した方法により、触媒層ペースト組成物からなる触媒層2,3が形成された金属多孔質体4,5である電極8を作製した後、この電極8をアニオン伝導性高分子電解質膜1の両面に直接積層する方法、
(iii)図7(c)に示すように、第2の実施の形態で示した方法により、触媒層ペースト組成物を転写基材6に塗布し、乾燥させて触媒層2,3を形成した転写基材付き触媒層7を得た後、得られた転写基材付き触媒層7の触媒層2,3が電解質膜1に対面するように、転写基材付き触媒層7を電解質膜1表面上に配置して加圧・接合し、転写基材6を剥離して膜触媒層接合体9を作製した後、膜触媒層接合体9の触媒層2,3上に金属多孔質体4,5をそれぞれ積層する方法。
(vi)図7(d)に示すように、第2及び第3の実施の形態で示した方法により、触媒層ペースト組成物を転写基材6に塗布し、乾燥させて触媒層2,3を形成した転写基材付き触媒層7を得た後、得られた転写基材付き触媒層7の触媒層2,3が金属多孔質体4,5の片側面に対面するように、転写基材付き触媒層7を金属多孔質体4,5表面上に配置して加圧・接合し転写基材付き電極7Aを作製する。次いで、転写基材付き電極7Aの転写基材6を剥離して電極8を作製した後、電極8をアニオン伝導性高分子電解質膜1の両面に触媒層2,3側が接するように積層する方法。
なお、図7(a)〜(d)では、便宜上、アニオン伝導性高分子電解質膜1の片側面への各層の形成方法を示してある。
【0108】
上述した方法により、アニオン伝導性高分子電解質膜1の両面に、触媒層2,3及び金属多孔質体4,5からなる電極8(12,13)を形成した後、図8に示すように、各触媒層2,3と電解質膜1が接するように両電極8(12,13)の上面を加圧する。加圧は、通常約0.1〜15MPa程度、好ましくは、約0.5〜10MPa程度で行えばよい。また、加圧の際には、加圧面を加熱することが好ましい。加熱面の温度は、電解質膜1の破損、変性等を避けるために、通常は約20〜100℃程度、好ましくは、約30〜85℃程度とすればよい。このように、アニオン伝導性高分子電解質膜1と電極12,13を圧着により接合して、図5に示す水素発生用電気分解セル10を製造することができる。
【0109】
本実施の形態によれば、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を有するので、優れた水素発生性能を発揮できる水素発生用電気分解セル10を提供することができる。
【実施例】
【0110】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0111】
[実施例1](電極)
芳香族ポリエーテルスルホン酸と芳香族ポリチオエーテルスルホン酸との共重合体をクロロメチル化及びアミノ化を順次行うことにより、アニオン(OHイオン)伝導性高分子電解質を得た。これを溶媒(テトラヒドロフラン)に添加し、5質量%アニオン伝導性高分子電解質溶液100gを得た。
【0112】
ニッケル−コバルト合金粒子(高純度化学研究所、「NIA07PB」)と上記で得られた5質量%アニオン伝導性高分子電解質溶液(固形分)とが質量比で1:0.1となるようにニッケル−コバルト合金粒子を10g、5質量%アニオン伝導性高分子電解質溶液を20g混合し、これを水30g及びエタノール50g、イソプロピルアルコール50g、に添加することにより、触媒層形成用ペースト組成物を調製した。
【0113】
電極基材として金属多孔質体シート状の発泡ニッケル(三菱マテリアル社製、厚み500μm、呼び口径150μm、気孔率85%)を用い、これに圧延法により上記触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後のニッケル−コバルト質量が約4mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることによりアノード側電極12及びカソード側電極13の計2枚の電極を作製した。
【0114】
[実施例2](電極)
ニッケル−コバルト合金粒子(高純度化学研究所、「NIA07PB」)とアニオン伝導性高分子電解質溶液(固形分)、非アニオン伝導性高分子(固形分)とが質量比で2:0.2:0.3となるようにニッケル−コバルト合金粒子を10g、上記で得られた5質量%アニオン伝導性高分子電解質溶液を20g混合し、これを水30g及びエタノール50g、イソプロピルアルコール50g、60質量%ポリテトラフルオロエチレン溶液(PTFEディスパージョン:アルドリッチ社製)2.5gに添加することにより、触媒層形成用ペースト組成物を調製した。
【0115】
実施例1と同様に、電極基材として金属多孔質体シート状の発泡ニッケル(三菱マテリアル社製、厚み500μm、呼び口径150μm、気孔率85%)を用い、これに圧延法により上記触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後のニッケル−コバルト質量が約4mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることによりアノード側電極12及びカソード側電極13の計2枚の電極を作製した。
【0116】
[実施例3](転写基材付き触媒層)
転写基材としてPETフィルム(E3120、東洋紡績社製、厚さ12μm)を用いて、その片面に、実施例1で調製した触媒層ペースト組成物を、ドクターブレードにより形成する。触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後のニッケル−コバルト質量が約4mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることで転写基材付き触媒層7(カソード触媒層用及びアノード触媒層用の計2枚)を作製した。
【0117】
[実施例4](転写基材付き触媒層)
転写基材としてPETフィルム(E3120、東洋紡績社製、厚さ12μm)を用いて、その片面に、実施例2で調製した触媒層ペースト組成物を、ドクターブレードにより形成する。触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後のニッケル−コバルト質量が約4mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることで転写基材付き触媒層7(カソード触媒層用及びアノード触媒層用の計2枚)を作製した。
【0118】
[実施例5](電極)
白金粉末(高純度化学研究所、「PTE02PB」)を触媒粉として用いた以外、実施例1と同様の方法で触媒層形成用ペースト組成物を調製した。
実施例1と同様に、電極基材として金属多孔質体シート状の発泡ニッケル(三菱マテリアル社製、厚み500μm、呼び口径150μm、気孔率85%)を用い、これにスプレー法により上記触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後の白金重量が約1mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることによりアノード側電極12及びカソード側電極13の計2枚の電極を作製した。
【0119】
[比較例1](電極)
ニッケル−コバルト合金粒子(高純度化学研究所、「NIA07PB」)を10gと水30g及びエタノール50g、イソプロピルアルコール50gを混合することにより、触媒層形成用ペースト組成物を調製した。
【0120】
実施例1と同様に、電極基材として金属多孔質体シート状の発泡ニッケル(三菱マテリアル社製、厚み500μm、呼び口径150μm、気孔率85%)を用い、これに圧延法により上記触媒層形成用ペースト組成物を乾燥後のニッケル−コバルト質量が4mg/cmとなるように塗工した後、約85℃で約15分間乾燥させることによりアノード側電極12及びカソード側電極13の計2枚の電極を作製した。
【0121】
(評価試験1)
実施例1〜5、比較例1で作製した電極及び転写基材付き触媒層の性能を次の方法で調べた。すなわち、各電極及び転写基材付き触媒層を10cm×10cmの大きさに切り出し、その表面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VH-8000)を用いて、50倍、300倍で観察し、ピンホールの有無を目視により確認した。
【0122】
その結果、実施例1〜5の表面では、ピンホールが全く生じておらず、触媒層の欠落が認められなかった。一方、比較例1の表面では、数多くのピンホールとひび割れが生じており、この時点で触媒層の欠落が認められた。
【0123】
(評価試験2)
実施例1〜5、比較例1で得られた電極及び転写基材付き触媒層の触媒層を熱プレス機を用いて、温度約80℃、プレス圧約3MPa、約3分間の熱圧着により、アニオン伝導性高分子電解質膜1(旭化成社製、アシプレックスA−221、厚さ150μm)に接合・転写を行い、水素発生用電気分解セル10を作製した。
【0124】
熱プレス後の実施例1,2及び5、比較例1の層構成は、金属多孔質体/触媒層/電解質膜/触媒層/金属多孔質体となり、実施例3及び4の層構成は、転写基材/触媒層/電解質膜/触媒層/転写基材となる。実施例3及び4では転写基材を剥離後、各触媒層上に金属多孔質体を配置し、再び圧力約1MPa、温度約80℃で約3分間熱圧着した。
【0125】
上記で製造した水素発生用電気分解セル10について、液体の燃料として、カソード側には水、アノード側には1Mのアンモニア水溶液+5MのKOHを供給することにより、水素発生試験を行なった。
【0126】
その結果、実施例1〜5で得られた電極を用いた水素発生用電気分解セル10は、連続して水素を発生させる水素発生耐久性試験において、1時間後、10時間後もガスクロマトグラフィー(島津製作所社製)を用いた測定により水素発生を確認することができた。さらに目視においても、電極の触媒層の欠落は認められなかった。
【0127】
一方、比較例1の電極を用いた水素発生用電気分解セル10は、水素発生耐久性試験において、1時間後では水素発生が確認できず、目視において、電極の触媒層がアニオン伝導性高分子電解質膜から欠落していることが確認できた。
【0128】
以上のことから、本発明による触媒層ペースト組成物を用いた水素発生用電気分解セル10は、水素発生能力等に優れ、クラックやピンホール等が実質的に生じず、安定性に優れた触媒層を形成していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係る転写基材付き触媒層の模式的断面図。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係る転写基材付き電極の模式的断面図。
【図3】本発明の第4の実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの電極の模式的断面図。
【図4】本発明の第5の実施の形態に係る膜触媒層接合体の模式的断面図。
【図5】本発明の第6の実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの模式的断面図。
【図6】本発明の第6の実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの動作を説明する図。
【図7】アニオン伝導性固体高分子電解質膜に電極を形成する方法の説明図であって、(a)触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜に直接塗布及び乾燥した後、金属多孔質体を積層する方法、(b)水素発生用電気分解セルの電極をアニオン伝導性高分子電解質膜上に直接積層する方法、(c)転写基材付き触媒層をアニオン伝導性高分子電解質膜に形成する方法、(d)転写基材付き電極の転写基材を剥離して電極とし、この電極をアニオン伝導性高分子電解質膜に形成する方法、を示す図。
【図8】本発明の第6の実施の形態に係る水素発生用電気分解セルの製造方法の説明図であって、水素発生用電気分解セルの電極をアニオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に圧着して形成する工程図。
【符号の説明】
【0130】
1・・・アニオン伝導性高分子電解質膜
2・・・触媒層(アノード側)
3・・・触媒層(カソード側)
4・・・金属多孔質体(アノード側)
5・・・金属多孔質体(カソード側)
6・・・転写基材
7・・・転写基材付き触媒層
7A・・転写基材付き電極
8・・・水素発生用電気分解セルの電極(12:アノード側、13:カソード側)
9・・・膜触媒層接合体
10・・水素発生用電気分解セル
11・・外部回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粉、バインダー、溶剤、及び水を含有した、水素発生用電気分解セルに用いる触媒層ペースト組成物であって、
前記バインダーは、アニオン伝導性高分子電解質で構成されていることを特徴とする触媒層ペースト組成物。
【請求項2】
前記バインダーは、非アニオン伝導性高分子を含有したことを特徴とする請求項1に記載の触媒層ペースト組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物を転写基材上に形成して構成したことを特徴とする転写基材付き触媒層。
【請求項4】
請求項3に記載の転写基材付き触媒層の前記触媒層ペースト組成物上に金属多孔質体を形成して構成したことを特徴とする転写基材付き電極。
【請求項5】
前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項4に記載の転写基材付き電極。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の転写基材付き電極の前記転写基材を剥離して構成したことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物を金属多孔質体上に形成して構成したことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極。
【請求項8】
前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項7に記載の水素発生用電気分解セルの電極。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成して構成したことを特徴とする膜触媒層接合体。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に配置したことを特徴とする水素発生用電気分解セル。
【請求項11】
請求項9に記載の膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を配置したことを特徴とする水素発生用電気分解セル。
【請求項12】
前記金属多孔質体が、発泡ニッケル、発泡チタン、発泡銀から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする請求項11に記載の水素発生用電気分解セル。
【請求項13】
触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、
前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、
前記転写基材付き触媒層を金属多孔質体の表面に形成して圧着により接合させた後、前記転写基材を剥離する工程と
を備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの電極の製造方法。
【請求項14】
触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、
前記触媒層ペースト組成物をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に塗布・乾燥させて膜触媒層接合体を形成する工程と、
前記膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を形成して圧着により接合させる工程と
を備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法。
【請求項15】
触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、
前記触媒層ペースト組成物を金属多孔質体に塗布・乾燥させて電極を形成する工程と、
前記電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させる工程と
を備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法。
【請求項16】
触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、
前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、
前記転写基材付き触媒層をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させた後、前記転写基材を剥離して膜触媒層接合体を形成する工程と
前記膜触媒層接合体の両面に金属多孔質体を形成して圧着により接合させる工程と
を備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法。
【請求項17】
触媒粉、少なくともアニオン伝導性高分子電解質で構成されたバインダー、溶剤、及び水をそれぞれ所定の分量で混合・分散して触媒層ペースト組成物を形成する工程と、
前記触媒層ペースト組成物を転写基材上に塗布・乾燥させて転写基材付き触媒層を形成する工程と、
前記転写基材付き触媒層を金属多孔質体の表面に形成して圧着により接合させて電極を形成する工程と、
前記電極をアニオン伝導性高分子電解質膜の両面に前記触媒層ペースト組成物側が接するように形成して圧着により接合させる工程と
を備えたことを特徴とする水素発生用電気分解セルの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−65283(P2010−65283A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232968(P2008−232968)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】