触媒支援型化学加工方法
【課題】 基準面が変化せず、化学的な反応が可能な触媒作用を利用し、加工効率が高能率且つ数10μm以上の空間波長領域の加工に適した触媒支援型化学加工方法を提案する。
【解決手段】 被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲン化水素酸からなる処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒1を被加工物の加工面2に接触若しくは極接近させて配し、触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離して生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工する。
【解決手段】 被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲン化水素酸からなる処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒1を被加工物の加工面2に接触若しくは極接近させて配し、触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離して生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒支援型化学加工方法に係わり、更に詳しくは処理液中の分子を触媒で分解して生成した活性種を用いて被加工物を加工する触媒支援型化学加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に機械的な加工は、古くから様々な場面で使用されている。たとえば、機械研磨では工具を加工したい表面に押しつけることで、機械的作用により材料欠陥を導入し表面の原子をはぎとり加工する。このような機械研磨法では、結晶格子にダメージを与えてしまう上に、高精度な面を得ることが非常に困難となる。ゆえに、高精度でものを作成するためには、格子欠陥を発生させることなく加工できる化学的な加工を用いる必要がある。
【0003】
既に、超微粉体を分散した懸濁液を被加工物の加工面に沿って流動させて、該超微粉体を加工面上に略無荷重の状態で接触させ、その際の超微粉体と加工面界面での相互作用(一種の化学結合)により、加工面原子を原子単位に近いオーダで除去して加工する、いわゆるEEM(Elastic Emission Machining)による加工は既に知られている(特許文献1〜4)。また、高電圧を印加した加工電極により発生させた反応ガスに基づく中性ラジカルを被加工物の加工面に供給し、この中性ラジカルと加工面の原子又は分子とのラジカル反応によって生成した揮発性物質を気化させて除去し、加工電極を加工面に対して相対的に変化させて加工するものであって、反応ガスの種類と被加工物の材質に応じて決定される、加工時間と加工量との間の相関データと、前加工面と目的加工面の座標データとに基づきその座標差に応じて加工時間を数値制御して加工するプラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)も提案されている(特許文献5)。更に、回転電極を高速に回転させることで、該回転電極表面でガスを巻き込むことによって加工ギャップを横切るガス流を形成して加工する回転電極を用いた高密度ラジカル反応による高能率加工方法も提案されている(特許文献6)。
【0004】
前述のEEMやプラズマCVMは、化学的な加工として非常に優れている。EEMは、原子スケールで平滑な面を得ることが可能であり、プラズマCVMでは機械的な加工に匹敵する高能率な加工が高精度で可能である。
【0005】
EEMは、その加工原理から考えて高周波の空間波長に対して非常に平滑な面を得ることが可能である。EEMは、超純水により微粒子を表面に供給し、微粒子の表面の原子と加工物表面の原子が化学的に結合することで加工が進む。このとき、微粒子の表面が非常に平坦な面であり、それが基準面となって、表面に転写されていると考えられる。ゆえに、原子配列を乱すことなく、原子サイズのオーダで平坦な表面を作ることが可能となる。しかしEEMは、その加工原理のゆえ数十μm以上の空間波長域を平坦化しにくい。
【0006】
また、プラズマCVMは、活性なラジカルを利用しているので、非常に高効率な加工法である。プラズマCVMの加工は、プラズマ中の中性ラジカルと加工物表面の化学反応を利用している。1気圧という高圧力雰囲気下において高密度のプラズマを発生させ、プラズマ中で生成した中性ラジカルを加工物表面の原子に作用させ、揮発性の物質に変えることで加工している。ゆえに、加工面の原子配列を乱すことなく、従来の機械加工に匹敵する加工能率を持っている。しかし、基準面を持たない加工法であるため、指数面による影響を受けやすい。
【特許文献1】特公平2−25745号公報
【特許文献2】特公平7−16870号公報
【特許文献3】特公平6−44989号公報
【特許文献4】特開2000−167770号公報
【特許文献5】特許第2962583号公報
【特許文献6】特許第3069271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、加工効率が高能率且つ数10μm以上の空間波長領域の加工に適した新しい加工法を提案することを目的とする。その加工法は、結晶学的に考えて化学的な加工法でなければならない。なぜなら、機械的な加工法であれば、表面に格子欠陥が導入され高精度な加工が困難となるからである。ゆえに、化学的な反応によって基準面を転写するとういう広く知られている原理を利用する。更に、その基準面が変化しないことも重要である。なぜなら、基準面が変化すると、加工が進むに従って加工表面が変化してしまうからである。そこで、基準面が変化せず、化学的な反応が可能な触媒作用を利用した触媒支援型化学加工方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工する触媒支援型化学加工方法を提供する(請求項1)。
【0009】
ここで、ハロゲンを含む分子がハロゲン化水素であり、前記触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離してハロゲンラジカルを生成してなることが好ましい(請求項2)。更に、前記ハロゲン化水素が、フッ化水素又は塩化水素であることがより好ましい(請求項3)。
そして、前記触媒によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写してなること(請求項4)、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具を用いて加工すること(請求項5)、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具を用いて加工すること(請求項6)、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具を用いて加工すること(請求項7)も好ましい。あるいは前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給してなること(請求項8)が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上にしてなる本発明の触媒支援型化学加工方法は、加工基準面に白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を用い、該触媒表面でハロゲンを含む分子が溶けた処理液が分子解離してハロゲンラジカルを生成し、触媒に接触若しくは極接近した被加工物の表面原子とハロゲンラジカルとの化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工するのである。従って、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲン化水素酸からなる処理液を使用するのである。ここで、触媒表面で生成されたハロゲンラジカルは、触媒表面から離れると急激に不活性化するので、ハロゲンラジカルは基準面となる触媒表面上は若しくは表面の極近傍のみにしか存在せず、それにより空間的に制御された状態で加工できるのである。
【0011】
ここで、前記ハロゲン化水素として、化学反応性の強いフッ素又は塩素を含むフッ化水素又は塩化水素を用いれば、高能率の加工を行うことができる。尚、加工面精度は、基準面となる触媒表面の精度に依存するので、この触媒表面を高精度に作成すれば、被加工物表面を高精度に加工することができる。また、高精度に作成した凹凸パターンの少なくとも凸面を触媒表面とすることにより、該パターンを被加工物表面に凹部として転写することが可能である。
また、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具等を用いて加工することも可能であり、この場合には従来の研磨加工、ラッピング加工と同様な加工形態を実現することができる。
更に、触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給することにより、EEMと同様な加工面精度を実現することが可能である。
【0012】
本発明の触媒支援型化学加工方法は、加工基準面を有する化学的な加工であるので、EEMやプラズマCVMでは困難であった数十μm以上の空間波長領域の加工に適している。また、Siの加工は勿論であるが、これまで加工が難しかったSiCやセラミックス、更にはサファイヤやルビーの高精度な加工ができるようになり、半導体製造工程においても使用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明の加工原理は、被加工物と触媒を処理液中に配置し、被加工物と触媒を接触させ、そのときに触媒上に吸着している処理液中の分子から生成された活性種によって被加工物を加工するものである。
【0014】
具体的には、本発明に係る触媒支援型化学加工方法は、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工するものである。ここで、ハロゲンを含む分子としては、ハロゲン化水素が好ましいが、C−F、S−F、N−F、C−Cl、S−Cl、N−Cl等の結合を有する分子も用いることが可能である。
【0015】
ここで、ハロゲン化水素の分子が溶けた水溶液をハロゲン化水素酸という。ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられるが、化学的な反応性は原子番号が大きくなるにしたがって小さくなるので、処理液として実際の加工に好ましく使用できるのはフッ化水素酸(HF溶液)や塩化水素酸(HCl溶液)である。
【0016】
フッ素は、非金属元素の中ではもっとも化学反応性が強く、ほとんどの元素と直接反応する。また、塩素は、化学的に非常に活発で、水、有機化合物、多数の金属と反応する。前述の処理液としてHF溶液又はHCl溶液を用いる場合には、被加工物の材質としてHF溶液又はHCl溶液に常態では溶解しないか、溶解はするが事実上加工時間内には殆ど溶解しないものに限る。
【0017】
そして、前記触媒には水素を酸化し、水素イオンと原子を取り出す反応を促進する白金、金又はセラミックス系固体触媒を使用する。
【0018】
加工の概念図を図1に示す。図中符号1は触媒、2は被加工物の加工表面を示している。また、本実施形態では、処理液には活性なFラジカルを有するHF溶液を使用した。HF溶液中のHF分子が、白金の触媒1の近傍でHとFに分子解離され、活性なFラジカルが生成される(図1(a)、(b)参照)。そのFラジカルと加工表面2が化学反応することにより加工が進行する(図1(c)参照)。また、触媒1から離れた所では、Fラジカルが水素イオンと反応することで不活性なHF分子となる。このため、触媒支援型化学加工法は、触媒1からなる基準面直下でのみ加工が進行する化学的な加工法となり得るのである。
【0019】
このように、本発明に係る触媒支援型化学加工法には次の三つの特徴がある。(1)基準面上でのみ反応種が作られ。(2)基準面から離れると、反応種は不活性化する。(3)基準面の物性は長時間変化しない。
【0020】
このような特徴をもつために得られる利点を次に述べる。それは、「基準面上でのみ反応種が作られる」ために、化学エッチングとは異なり表面の面指数に影響されずに加工することが可能となる。「基準面から離れると、反応種が不活性化する」ために、基準面も転写する加工法となり、EEMで見られたような原子スケールでの平坦化が期待できる。「基準面の物性が長時間変化しない」ために、基準面が転写され加工が進行しても、加工面の表面が変化しない。つまり、以上のようなことから触媒支援型化学加工法は効率的な超精密加工法となりうる可能性があると考えられる。
【実施例1】
【0021】
本発明の触媒支援型化学加工法の加工原理を確認するために、加工装置を作製した。その基礎実験用加工装置の概念図を図2に示す。加工容器3の底部に垂直な回転軸を備えた試料台4を配し、該試料台4の上面に試料としてSiCウエハ5を固定し、該SiCウエハ5の上面の偏心位置に支持棒6の下端に取付けられたJ字状に屈曲した白金線7を接触するようにその屈曲部を点接触させた。そして、前記加工容器3内には、HF溶液を満たした。HF溶液を使用するので、溶液に接触する部分にはすべてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した。前記試料台4を、モーターを使って回転させて、加工部に常にHF溶液を供給するようにした。
【0022】
加工条件を次の表1に示している。
【表1】
【0023】
そして、加工結果は、図3に示している。ここで、図3の(a)はリング状の加工痕の部分を示したマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡による表面の凹凸分布を示し、(b)は加工痕の直径部を横切る線分布を示している。尚、線分布において大きなサインカーブは表面のうねりであり、加工痕に相当する部分にステップ状の溝が形成されている。ここで、加工痕の直径は9mmであり、加工深さは。40〜100nmであり、1回転当りの加工量は0.08〜0.21nm/回転であった。尚、HF溶液を注入する前に、同様に試料台4を回転させても加工されないことを確認している。
【0024】
一般的に化学エッチングが困難とされているSiCを容易に加工することができた。また、基準面である触媒の直下のみ加工されたので、基準面が転写されたと考えられる。即ち、新しく提案した触媒支援型化学加工法の有用性を示すことができた。
【0025】
次に、SiCの表面について、加工前と加工後でマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡及びAFM(原子間力顕微鏡)による加工表面の評価の結果を図4〜図6に示す。
【0026】
図4は、SiCの加工前の表面の観察結果を示し、(a)は64μm×48μmの範囲をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は500nm×500nmの範囲をAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【0027】
図5は、加工痕の観察位置を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は(a)の四角で囲まれ領域を拡大した結果、(d)は(c)の中央部の線分布を示している。
【0028】
そして、図6は、図5(c)の四角で囲まれ領域を図4と同様に観察した結果を示している。つまり、図6は、SiCの加工後の加工部分表面の観察結果を示し、(a)は64μm×48μmの範囲をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は500nm×500nmの範囲をAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【0029】
マイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、加工後の表面は、凹凸の激しい面となったが、これは白金線を線引きした際にもともと存在していた表面の凹凸が転写されたものと思われる。この事実は、本発明の基準面を被加工物に転写できることを実証するものであり、現時点では平坦化は考えていないので問題ではない。
【0030】
AFMを用いて加工前と加工後の表面について500nm×500nmの領域での評価を行った。また、そのときのPSD解析を図7に示す。このPSD解析の結果から、空間波長が10nmから100nmの領域では加工後の表面が平坦化されたことがわかる。今後、中間波長の領域や低周波の領域においても平坦化されることが期待できる。
【0031】
続いて、SiC以外にも、どのような材料が加工できるのかを確認するために、Si、サファイヤなどに加工を試みた結果を図8に示す。前述の加工装置は、基礎実験装置であるため、得られる加工痕の円の直径にばらつきが見られたり、触媒を被加工物表面に接触させる具合にばらつきが見られるなど加工量を定量的に比較することは難しい。しかし、定性的に評価することは可能である。そこで、触媒にPtを用いてSiCを加工したときの回転当たりの加工量を1として、Si、及びサファイヤの加工量を比較した。また、触媒に関して、PtをAuに変えることで実験を行い、その加工量も比較した。
【0032】
この結果から、SiはSiCよりも簡単に加工されることがわかった。また、サファイヤも加工された。サファイヤが加工されたことにより、酸化により加工されていないことがわかった。
【実施例2】
【0033】
図9は、ポリッシング装置の簡略斜視図を示している。このポリッシング装置10は、容器11内に表面がPt等の触媒作用のある材料で構成された定盤12を回転可能に設け、該定盤12の回転軸芯と平行且つ偏心した位置に設けた回転軸13の先端にホルダー14を設け、前記容器11にHFからなる処理液を満たし、該処理液を供給パイプ15から供給しながら回収パイプ16で回収し、図示しない処理液精製器で処理した後、再度供給パイプ15から供給する処理液循環系を有している。そして、前記ホルダー14に被加工物を固定し、該被加工物の加工面を前記定盤12に軽く接触又は微小間隙を設けて配置し、定盤12とホルダー14を回転させながら平滑化加工するのである。尚、前記定盤12の表面には、適宜編目状又はスパイラル状の溝構造を設けることにより、該定盤12の回転に伴い加工領域に新鮮な処理液を供給することが可能となる。
【0034】
そして、定盤12表面材料をPt、処理液をHF(10%)水溶液、加工サンプルを4H−SiC(0001)とした場合の平滑化加工結果を以下に示す。図10は加工前の表面状態、図11は加工後の表面状態を示している。加工時間30分で、図11に示すように平坦化を実現でき、つまりスクラッチの除去に加え、粗さの低減を実現できた。
【実施例3】
【0035】
また、図12に示すように、前記触媒1によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面2に転写することが可能である。図示したものは、被加工物の加工面2に長方形の触媒1の形状に応じた溝を形成する例を示している。また、加工基準面は、少なくとも加工したい部分の表面に触媒の層が形成されていれば良いので、メッキや蒸着等の薄膜形成技術を適用することができる。また、触媒の凸面を所定のパターンに形成しておけば、被加工物の加工面にそのパターンの凹部が形成されので、半導体製造工程において利用することも考えられる。
【実施例4】
【0036】
また、図示しないが、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具等を用い、披加工物の加工面に対して前記加工治具を移動させることによって、披加工物の表面を研磨加工、ラッピング加工する。
【実施例5】
【0037】
更に、前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給することにより、EEMと同様な加工をすることが可能である。ここで、微粉末を分散させた処理液を被加工物の加工面に供給する方法として、従来からEEMで行われていた回転球による供給、高圧ノズルの噴射による供給が使用できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の触媒支援型化学加工方法の加工概念図を示し、(a)は触媒を被加工物の加工表面に接触又は極接近させた状態、(b)HF溶液中のHF分子が触媒の近傍でHとFに分子解離され、活性なFラジカルが生成された状態、(c)Fラジカルと加工表面が化学反応することにより加工が進行する状態をそれぞれ示している。
【図2】基礎実験用加工装置の概念図を示し、(a)は全体斜視図、(b)は要部の拡大斜視図である。
【図3】リング状の加工痕の部分をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果を示し、(a)は表面の凹凸分布を示し、(b)は加工痕の直径部を横切る線分布を示している。
【図4】SiCの加工前の表面の観察結果を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)はAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【図5】加工痕の観察位置を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は(a)の四角で囲まれ領域を拡大した結果、(d)は(c)の中央部の線分布を示している。
【図6】SiCの加工後の表面の観察結果を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)はAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【図7】PSD解析を示すグラフである。
【図8】SiC、Si、サファイヤの加工量の比較を示すグラフである。
【図9】ポリッシング装置の簡略斜視図である。
【図10】4H−SiC(0001)の加工前の状態を示し、(a)はXスローププロファイル、(b)は断面プロファイルである。
【図11】4H−SiC(0001)の平滑化加工後の状態を示し、(a)はXスローププロファイル、(b)は断面プロファイルである。
【図12】基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写する加工の概念斜視図であり、(a)は加工前の状態、(b)は加工後の状態を示している。
【符号の説明】
【0039】
1 触媒
2 被加工物の加工表面
3 加工容器
4 試料台
5 SiCウエハ
6 支持棒
7 白金線
10 ポリッシング装置
11 容器
12 定盤
13 回転軸
14 ホルダー
15 供給パイプ
16 回収パイプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒支援型化学加工方法に係わり、更に詳しくは処理液中の分子を触媒で分解して生成した活性種を用いて被加工物を加工する触媒支援型化学加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に機械的な加工は、古くから様々な場面で使用されている。たとえば、機械研磨では工具を加工したい表面に押しつけることで、機械的作用により材料欠陥を導入し表面の原子をはぎとり加工する。このような機械研磨法では、結晶格子にダメージを与えてしまう上に、高精度な面を得ることが非常に困難となる。ゆえに、高精度でものを作成するためには、格子欠陥を発生させることなく加工できる化学的な加工を用いる必要がある。
【0003】
既に、超微粉体を分散した懸濁液を被加工物の加工面に沿って流動させて、該超微粉体を加工面上に略無荷重の状態で接触させ、その際の超微粉体と加工面界面での相互作用(一種の化学結合)により、加工面原子を原子単位に近いオーダで除去して加工する、いわゆるEEM(Elastic Emission Machining)による加工は既に知られている(特許文献1〜4)。また、高電圧を印加した加工電極により発生させた反応ガスに基づく中性ラジカルを被加工物の加工面に供給し、この中性ラジカルと加工面の原子又は分子とのラジカル反応によって生成した揮発性物質を気化させて除去し、加工電極を加工面に対して相対的に変化させて加工するものであって、反応ガスの種類と被加工物の材質に応じて決定される、加工時間と加工量との間の相関データと、前加工面と目的加工面の座標データとに基づきその座標差に応じて加工時間を数値制御して加工するプラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)も提案されている(特許文献5)。更に、回転電極を高速に回転させることで、該回転電極表面でガスを巻き込むことによって加工ギャップを横切るガス流を形成して加工する回転電極を用いた高密度ラジカル反応による高能率加工方法も提案されている(特許文献6)。
【0004】
前述のEEMやプラズマCVMは、化学的な加工として非常に優れている。EEMは、原子スケールで平滑な面を得ることが可能であり、プラズマCVMでは機械的な加工に匹敵する高能率な加工が高精度で可能である。
【0005】
EEMは、その加工原理から考えて高周波の空間波長に対して非常に平滑な面を得ることが可能である。EEMは、超純水により微粒子を表面に供給し、微粒子の表面の原子と加工物表面の原子が化学的に結合することで加工が進む。このとき、微粒子の表面が非常に平坦な面であり、それが基準面となって、表面に転写されていると考えられる。ゆえに、原子配列を乱すことなく、原子サイズのオーダで平坦な表面を作ることが可能となる。しかしEEMは、その加工原理のゆえ数十μm以上の空間波長域を平坦化しにくい。
【0006】
また、プラズマCVMは、活性なラジカルを利用しているので、非常に高効率な加工法である。プラズマCVMの加工は、プラズマ中の中性ラジカルと加工物表面の化学反応を利用している。1気圧という高圧力雰囲気下において高密度のプラズマを発生させ、プラズマ中で生成した中性ラジカルを加工物表面の原子に作用させ、揮発性の物質に変えることで加工している。ゆえに、加工面の原子配列を乱すことなく、従来の機械加工に匹敵する加工能率を持っている。しかし、基準面を持たない加工法であるため、指数面による影響を受けやすい。
【特許文献1】特公平2−25745号公報
【特許文献2】特公平7−16870号公報
【特許文献3】特公平6−44989号公報
【特許文献4】特開2000−167770号公報
【特許文献5】特許第2962583号公報
【特許文献6】特許第3069271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、加工効率が高能率且つ数10μm以上の空間波長領域の加工に適した新しい加工法を提案することを目的とする。その加工法は、結晶学的に考えて化学的な加工法でなければならない。なぜなら、機械的な加工法であれば、表面に格子欠陥が導入され高精度な加工が困難となるからである。ゆえに、化学的な反応によって基準面を転写するとういう広く知られている原理を利用する。更に、その基準面が変化しないことも重要である。なぜなら、基準面が変化すると、加工が進むに従って加工表面が変化してしまうからである。そこで、基準面が変化せず、化学的な反応が可能な触媒作用を利用した触媒支援型化学加工方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工する触媒支援型化学加工方法を提供する(請求項1)。
【0009】
ここで、ハロゲンを含む分子がハロゲン化水素であり、前記触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離してハロゲンラジカルを生成してなることが好ましい(請求項2)。更に、前記ハロゲン化水素が、フッ化水素又は塩化水素であることがより好ましい(請求項3)。
そして、前記触媒によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写してなること(請求項4)、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具を用いて加工すること(請求項5)、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具を用いて加工すること(請求項6)、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具を用いて加工すること(請求項7)も好ましい。あるいは前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給してなること(請求項8)が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上にしてなる本発明の触媒支援型化学加工方法は、加工基準面に白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を用い、該触媒表面でハロゲンを含む分子が溶けた処理液が分子解離してハロゲンラジカルを生成し、触媒に接触若しくは極接近した被加工物の表面原子とハロゲンラジカルとの化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工するのである。従って、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲン化水素酸からなる処理液を使用するのである。ここで、触媒表面で生成されたハロゲンラジカルは、触媒表面から離れると急激に不活性化するので、ハロゲンラジカルは基準面となる触媒表面上は若しくは表面の極近傍のみにしか存在せず、それにより空間的に制御された状態で加工できるのである。
【0011】
ここで、前記ハロゲン化水素として、化学反応性の強いフッ素又は塩素を含むフッ化水素又は塩化水素を用いれば、高能率の加工を行うことができる。尚、加工面精度は、基準面となる触媒表面の精度に依存するので、この触媒表面を高精度に作成すれば、被加工物表面を高精度に加工することができる。また、高精度に作成した凹凸パターンの少なくとも凸面を触媒表面とすることにより、該パターンを被加工物表面に凹部として転写することが可能である。
また、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具等を用いて加工することも可能であり、この場合には従来の研磨加工、ラッピング加工と同様な加工形態を実現することができる。
更に、触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給することにより、EEMと同様な加工面精度を実現することが可能である。
【0012】
本発明の触媒支援型化学加工方法は、加工基準面を有する化学的な加工であるので、EEMやプラズマCVMでは困難であった数十μm以上の空間波長領域の加工に適している。また、Siの加工は勿論であるが、これまで加工が難しかったSiCやセラミックス、更にはサファイヤやルビーの高精度な加工ができるようになり、半導体製造工程においても使用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明の加工原理は、被加工物と触媒を処理液中に配置し、被加工物と触媒を接触させ、そのときに触媒上に吸着している処理液中の分子から生成された活性種によって被加工物を加工するものである。
【0014】
具体的には、本発明に係る触媒支援型化学加工方法は、被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工するものである。ここで、ハロゲンを含む分子としては、ハロゲン化水素が好ましいが、C−F、S−F、N−F、C−Cl、S−Cl、N−Cl等の結合を有する分子も用いることが可能である。
【0015】
ここで、ハロゲン化水素の分子が溶けた水溶液をハロゲン化水素酸という。ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられるが、化学的な反応性は原子番号が大きくなるにしたがって小さくなるので、処理液として実際の加工に好ましく使用できるのはフッ化水素酸(HF溶液)や塩化水素酸(HCl溶液)である。
【0016】
フッ素は、非金属元素の中ではもっとも化学反応性が強く、ほとんどの元素と直接反応する。また、塩素は、化学的に非常に活発で、水、有機化合物、多数の金属と反応する。前述の処理液としてHF溶液又はHCl溶液を用いる場合には、被加工物の材質としてHF溶液又はHCl溶液に常態では溶解しないか、溶解はするが事実上加工時間内には殆ど溶解しないものに限る。
【0017】
そして、前記触媒には水素を酸化し、水素イオンと原子を取り出す反応を促進する白金、金又はセラミックス系固体触媒を使用する。
【0018】
加工の概念図を図1に示す。図中符号1は触媒、2は被加工物の加工表面を示している。また、本実施形態では、処理液には活性なFラジカルを有するHF溶液を使用した。HF溶液中のHF分子が、白金の触媒1の近傍でHとFに分子解離され、活性なFラジカルが生成される(図1(a)、(b)参照)。そのFラジカルと加工表面2が化学反応することにより加工が進行する(図1(c)参照)。また、触媒1から離れた所では、Fラジカルが水素イオンと反応することで不活性なHF分子となる。このため、触媒支援型化学加工法は、触媒1からなる基準面直下でのみ加工が進行する化学的な加工法となり得るのである。
【0019】
このように、本発明に係る触媒支援型化学加工法には次の三つの特徴がある。(1)基準面上でのみ反応種が作られ。(2)基準面から離れると、反応種は不活性化する。(3)基準面の物性は長時間変化しない。
【0020】
このような特徴をもつために得られる利点を次に述べる。それは、「基準面上でのみ反応種が作られる」ために、化学エッチングとは異なり表面の面指数に影響されずに加工することが可能となる。「基準面から離れると、反応種が不活性化する」ために、基準面も転写する加工法となり、EEMで見られたような原子スケールでの平坦化が期待できる。「基準面の物性が長時間変化しない」ために、基準面が転写され加工が進行しても、加工面の表面が変化しない。つまり、以上のようなことから触媒支援型化学加工法は効率的な超精密加工法となりうる可能性があると考えられる。
【実施例1】
【0021】
本発明の触媒支援型化学加工法の加工原理を確認するために、加工装置を作製した。その基礎実験用加工装置の概念図を図2に示す。加工容器3の底部に垂直な回転軸を備えた試料台4を配し、該試料台4の上面に試料としてSiCウエハ5を固定し、該SiCウエハ5の上面の偏心位置に支持棒6の下端に取付けられたJ字状に屈曲した白金線7を接触するようにその屈曲部を点接触させた。そして、前記加工容器3内には、HF溶液を満たした。HF溶液を使用するので、溶液に接触する部分にはすべてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した。前記試料台4を、モーターを使って回転させて、加工部に常にHF溶液を供給するようにした。
【0022】
加工条件を次の表1に示している。
【表1】
【0023】
そして、加工結果は、図3に示している。ここで、図3の(a)はリング状の加工痕の部分を示したマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡による表面の凹凸分布を示し、(b)は加工痕の直径部を横切る線分布を示している。尚、線分布において大きなサインカーブは表面のうねりであり、加工痕に相当する部分にステップ状の溝が形成されている。ここで、加工痕の直径は9mmであり、加工深さは。40〜100nmであり、1回転当りの加工量は0.08〜0.21nm/回転であった。尚、HF溶液を注入する前に、同様に試料台4を回転させても加工されないことを確認している。
【0024】
一般的に化学エッチングが困難とされているSiCを容易に加工することができた。また、基準面である触媒の直下のみ加工されたので、基準面が転写されたと考えられる。即ち、新しく提案した触媒支援型化学加工法の有用性を示すことができた。
【0025】
次に、SiCの表面について、加工前と加工後でマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡及びAFM(原子間力顕微鏡)による加工表面の評価の結果を図4〜図6に示す。
【0026】
図4は、SiCの加工前の表面の観察結果を示し、(a)は64μm×48μmの範囲をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は500nm×500nmの範囲をAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【0027】
図5は、加工痕の観察位置を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は(a)の四角で囲まれ領域を拡大した結果、(d)は(c)の中央部の線分布を示している。
【0028】
そして、図6は、図5(c)の四角で囲まれ領域を図4と同様に観察した結果を示している。つまり、図6は、SiCの加工後の加工部分表面の観察結果を示し、(a)は64μm×48μmの範囲をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は500nm×500nmの範囲をAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【0029】
マイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、加工後の表面は、凹凸の激しい面となったが、これは白金線を線引きした際にもともと存在していた表面の凹凸が転写されたものと思われる。この事実は、本発明の基準面を被加工物に転写できることを実証するものであり、現時点では平坦化は考えていないので問題ではない。
【0030】
AFMを用いて加工前と加工後の表面について500nm×500nmの領域での評価を行った。また、そのときのPSD解析を図7に示す。このPSD解析の結果から、空間波長が10nmから100nmの領域では加工後の表面が平坦化されたことがわかる。今後、中間波長の領域や低周波の領域においても平坦化されることが期待できる。
【0031】
続いて、SiC以外にも、どのような材料が加工できるのかを確認するために、Si、サファイヤなどに加工を試みた結果を図8に示す。前述の加工装置は、基礎実験装置であるため、得られる加工痕の円の直径にばらつきが見られたり、触媒を被加工物表面に接触させる具合にばらつきが見られるなど加工量を定量的に比較することは難しい。しかし、定性的に評価することは可能である。そこで、触媒にPtを用いてSiCを加工したときの回転当たりの加工量を1として、Si、及びサファイヤの加工量を比較した。また、触媒に関して、PtをAuに変えることで実験を行い、その加工量も比較した。
【0032】
この結果から、SiはSiCよりも簡単に加工されることがわかった。また、サファイヤも加工された。サファイヤが加工されたことにより、酸化により加工されていないことがわかった。
【実施例2】
【0033】
図9は、ポリッシング装置の簡略斜視図を示している。このポリッシング装置10は、容器11内に表面がPt等の触媒作用のある材料で構成された定盤12を回転可能に設け、該定盤12の回転軸芯と平行且つ偏心した位置に設けた回転軸13の先端にホルダー14を設け、前記容器11にHFからなる処理液を満たし、該処理液を供給パイプ15から供給しながら回収パイプ16で回収し、図示しない処理液精製器で処理した後、再度供給パイプ15から供給する処理液循環系を有している。そして、前記ホルダー14に被加工物を固定し、該被加工物の加工面を前記定盤12に軽く接触又は微小間隙を設けて配置し、定盤12とホルダー14を回転させながら平滑化加工するのである。尚、前記定盤12の表面には、適宜編目状又はスパイラル状の溝構造を設けることにより、該定盤12の回転に伴い加工領域に新鮮な処理液を供給することが可能となる。
【0034】
そして、定盤12表面材料をPt、処理液をHF(10%)水溶液、加工サンプルを4H−SiC(0001)とした場合の平滑化加工結果を以下に示す。図10は加工前の表面状態、図11は加工後の表面状態を示している。加工時間30分で、図11に示すように平坦化を実現でき、つまりスクラッチの除去に加え、粗さの低減を実現できた。
【実施例3】
【0035】
また、図12に示すように、前記触媒1によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面2に転写することが可能である。図示したものは、被加工物の加工面2に長方形の触媒1の形状に応じた溝を形成する例を示している。また、加工基準面は、少なくとも加工したい部分の表面に触媒の層が形成されていれば良いので、メッキや蒸着等の薄膜形成技術を適用することができる。また、触媒の凸面を所定のパターンに形成しておけば、被加工物の加工面にそのパターンの凹部が形成されので、半導体製造工程において利用することも考えられる。
【実施例4】
【0036】
また、図示しないが、合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具、合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具、不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具等を用い、披加工物の加工面に対して前記加工治具を移動させることによって、披加工物の表面を研磨加工、ラッピング加工する。
【実施例5】
【0037】
更に、前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給することにより、EEMと同様な加工をすることが可能である。ここで、微粉末を分散させた処理液を被加工物の加工面に供給する方法として、従来からEEMで行われていた回転球による供給、高圧ノズルの噴射による供給が使用できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の触媒支援型化学加工方法の加工概念図を示し、(a)は触媒を被加工物の加工表面に接触又は極接近させた状態、(b)HF溶液中のHF分子が触媒の近傍でHとFに分子解離され、活性なFラジカルが生成された状態、(c)Fラジカルと加工表面が化学反応することにより加工が進行する状態をそれぞれ示している。
【図2】基礎実験用加工装置の概念図を示し、(a)は全体斜視図、(b)は要部の拡大斜視図である。
【図3】リング状の加工痕の部分をマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果を示し、(a)は表面の凹凸分布を示し、(b)は加工痕の直径部を横切る線分布を示している。
【図4】SiCの加工前の表面の観察結果を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)はAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【図5】加工痕の観察位置を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)は(a)の四角で囲まれ領域を拡大した結果、(d)は(c)の中央部の線分布を示している。
【図6】SiCの加工後の表面の観察結果を示し、(a)はマイケルソン型位相シフト干渉顕微鏡で観察した結果、(b)は(a)の中央部の線分布、(c)はAFMによる観察結果、(d)は(c)のRawプロファイルである。
【図7】PSD解析を示すグラフである。
【図8】SiC、Si、サファイヤの加工量の比較を示すグラフである。
【図9】ポリッシング装置の簡略斜視図である。
【図10】4H−SiC(0001)の加工前の状態を示し、(a)はXスローププロファイル、(b)は断面プロファイルである。
【図11】4H−SiC(0001)の平滑化加工後の状態を示し、(a)はXスローププロファイル、(b)は断面プロファイルである。
【図12】基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写する加工の概念斜視図であり、(a)は加工前の状態、(b)は加工後の状態を示している。
【符号の説明】
【0039】
1 触媒
2 被加工物の加工表面
3 加工容器
4 試料台
5 SiCウエハ
6 支持棒
7 白金線
10 ポリッシング装置
11 容器
12 定盤
13 回転軸
14 ホルダー
15 供給パイプ
16 回収パイプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工することを特徴とする触媒支援型化学加工方法。
【請求項2】
ハロゲンを含む分子がハロゲン化水素であり、前記触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離してハロゲンラジカルを生成してなる請求項1記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化水素が、フッ化水素又は塩化水素である請求項2記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項4】
前記触媒によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写してなる請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項5】
合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項6】
合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項7】
不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項8】
前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給して加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項1】
被加工物に対して常態では溶解性を示さないハロゲンを含む分子が溶けた処理液中に該被加工物を配し、白金、金又はセラミックス系固体触媒からなる触媒を被加工物の加工面に接触若しくは極接近させて配し、前記触媒の表面で生成したハロゲンラジカルと被加工物の表面原子との化学反応で生成したハロゲン化合物を、溶出させることによって被加工物を加工することを特徴とする触媒支援型化学加工方法。
【請求項2】
ハロゲンを含む分子がハロゲン化水素であり、前記触媒の表面でハロゲン化水素を分子解離してハロゲンラジカルを生成してなる請求項1記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化水素が、フッ化水素又は塩化水素である請求項2記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項4】
前記触媒によって加工基準面の表面を形成し、該基準面の形状又はパターンを被加工物の加工面に転写してなる請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項5】
合成樹脂基材の表面にめっき若しくはコーティングによって前記触媒の薄膜を形成した加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項6】
合成樹脂基材に前記触媒の粉末を混合し、該触媒粉末の一部が表面に露出した加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項7】
不織布の隙間に前記触媒の粉末を担持した加工治具又は前記触媒を表面にめっき若しくはコーティングした繊維で形成した不織布からなる加工治具を用いて加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【請求項8】
前記触媒を微粉末として前記処理液中に分散させ、該微粉末を処理液の流動に伴って被加工物の加工面に供給して加工する請求項1〜3何れかに記載の触媒支援型化学加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−114632(P2006−114632A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299263(P2004−299263)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(504382431)
【出願人】(505467649)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(504382431)
【出願人】(505467649)
【Fターム(参考)】
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