説明

触媒材料の製造方法およびそれによって製造される触媒材料

【課題】触媒成分のシンタリングを防止し、耐熱性を向上させることができる触媒材料の製造方法およびそれによって製造される触媒材料を提供する。
【解決手段】触媒粒子1および金属酸化物粒子2間をそれぞれ斥力状態にして、触媒粒子1および金属酸化物粒子2を溶液中に均一に分散させる第1の工程と、第1の工程の後、触媒粒子1および金属酸化物粒子2間をそれぞれ引力状態にして、触媒粒子1および金属酸化物粒子2をヘテロ結合させる第2の工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害ガス浄化用、燃料電池用、環境浄化用等に使用される触媒材料の製造方法およびそれによって製造される触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排ガス等に含まれるHC、CO、NOx等の有害成分を浄化するための触媒成分としては、一般にPt、Pd、Rh等の貴金属が使用されている。そして、このような触媒成分においては、ハニカム担体を用いることにより、当該触媒成分をこのハニカム担体の表面に高分散に担持することが行われている。しかし、ハニカム担体の表面積では、上記触媒成分を高分散に担持させるためには十分でなく、必要な担持量を確保することができない。
【0003】
そこで、従来、γ−アルミナ(Al23)を代表とする、高い比表面積を有する粒子状の酸化物粒子を担体として、上記触媒成分の担持を行う前に、この酸化物粒子をハニカム担体の表面上に約数10μmという厚さでコーティングし、その後、コーティングされた酸化物粒子のコート層に対して触媒成分をさらに担持していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハニカム担体の上にγ−アルミナからなる酸化物粒子のコート層を形成し、さらにこの酸化物粒子のコート層に触媒成分を担持させる従来の構成では、次に述べるような問題点がある。
【0005】
まず、γ−アルミナは、高い比表面積を有するが、それ自体は耐熱性が低いため、長時間の使用によってγ−アルミナが形状変化を起こし、そのため、触媒成分がγ−アルミナの内部に埋没し、触媒機能を失活することになっていた。
【0006】
このため、必要な排ガスの浄化性能すなわち十分な触媒機能を達成するためには、初期の段階より、過剰な触媒成分を担持させる必要があり、触媒成分の使用量が多く、利用効率が低くなってしまうという問題があった。
【0007】
また、従来の触媒体を内燃機関の排気ガス浄化用の触媒体に用いた場合、約1000℃付近の高温下で使用されるため、この高温での使用に伴って、上述した触媒成分のγ−アルミナの内部への埋没という問題に加えて、熱によるシンタリングが発生するという問題が生じる。
【0008】
すると、このシンタリングによって、触媒成分が移動、あるいは、触媒成分同士が結合してしまい、反応活性な比表面積が低下してしまい、浄化性能が劣化してしまう。このことからも、初期に必要とされる触媒量より多く触媒成分を担持する必要があり、環境負荷とコスト高という問題があった。
【0009】
これに対し、担体粒子と触媒成分とを混合し、触媒成分同士を担体粒子で分離、ブロックした状態でハニカム担体に担持することで、触媒性能を向上させる手法が考えられている。例えば、液相中で分散した触媒成分と単体粒子とを混合し、乾燥・焼成すると、触媒成分は担体粒子間の隙間に固定・担持されるが、このときに担体粒子間の隙間に触媒成分を均一に配置することができれば、担体粒子がブロック剤の役割を果たし、シンタリング等による触媒成分の移動や触媒成分同士の結合を阻害することができると考えられる。
【0010】
しかしながら、上記手法の実現のためには、触媒成分と単体粒子とを精密に分離して配置する必要がある。したがって、二種以上の粒子を溶液中で分散した後、減圧や熱風による濃縮乾燥もしくは焼成する従来の方法では、二種以上の粒子を均一に配置させることができていないという問題がある。
【0011】
本発明は、上記点に鑑み、触媒成分のシンタリングを防止し、耐熱性を向上させることができる触媒材料の製造方法およびそれによって製造される触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明者は、二種以上の粒子を互いに反発するような条件にした後、前記二種以上の粒子を互いに引き合うような条件にすることによって、二種以上の粒子を溶液中に均一に分散させた後、各粒子をヘテロ結合させればよいと考え、実験検討を行った。その結果、後述する実施例に示すように、二種以上の粒子を同種の粒子同士が接触しないように配置できることがわかった。
【0013】
すなわち、本発明では、二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ斥力状態にして、二種以上の粒子(1、2)を溶液中に均一に分散させる第1の工程と、第1の工程の後、二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ引力状態にして、二種以上の粒子(1、2)をヘテロ結合させる第2の工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
これによれば、二種以上の粒子(1、2)を、同種の粒子同士が接触しないように均一に配置することができる。ここで、二種以上の粒子(1、2)に触媒成分および担体粒子が含まれている場合、触媒成分は担体粒子間の隙間に均一に配置されるので、担体粒子がブロック剤の役割を果たし、シンタリング等による触媒成分の移動や触媒成分同士の結合を阻害することができる。したがって、触媒成分のシンタリングを防止し、耐熱性を向上させることができる。
【0015】
また、上記特徴の触媒材料の製造方法において、二種以上の粒子は、粒子径の異なる少なくとも二種の粒子(1、2)を含んでいてもよい。これによれば、平均粒子径の小さい粒子(1)を、平均粒子径の大きい粒子(2)間の隙間に均一に配置することができるので、平均粒子径の大きい粒子(2)がブロック剤としての役割をより確実に果たし、平均粒子径の小さい粒子(1)の移動をより確実に阻害することができる。
【0016】
また、上記特徴の触媒材料の製造方法において、二種以上の粒子(1、2)のうち平均粒子径が最も小さい一種の粒子(1)が、他の粒子(2)より多くなっていてもよい。これによれば、平均粒子径が最も小さい粒子(1)を、他の粒子(2)間の隙間により均一に配置することができる。
【0017】
また、二種以上の粒子間に働く斥力・引力を変化させる手法としては、二種以上の粒子間に働く静電引力・静電斥力を変化させることにより行うことができる。静電斥力・静電引力は、測定可能なζ電位で説明することができる。異なる粒子のζ電位が共に正または共に負の場合は、その粒子間には斥力が作用する。一方、異なる粒子のζ電位が正と負の場合には、その粒子間には引力が作用する。
【0018】
すなわち、二種以上の粒子(1、2)のζ電位を全て正または全て負にすることで、二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ斥力状態にし、二種以上の粒子(1、2)のうち、少なくとも二種の粒子(1、2)のζ電位を正電位と負電位とにすることで、二種以上の粒子(1、2)間を引力状態にすることができる。
【0019】
ところで、一般的に、粒子のζ電位はpHによって変化する。このため、溶液のpHを調整することにより、二種以上の粒子(1、2)間を斥力状態から引力状態に変化させることができる。
【0020】
このとき、二種以上の粒子が分散した溶液を、そのままpHを変化させると、1つの粒子がその近傍に存在する多数の他種類の粒子とヘテロ結合してしまうため、粒子が凝集し、粗大化してしまうという問題がある。
【0021】
これを防止するために、上記pHの調整は、二種以上の粒子(1、2)を各粒子間がそれぞれ斥力状態となるpHで混合することにより作製したスラリーを、各粒子間がそれぞれ引力状態となるpHに調整した溶液に滴下することにより行うことができる。これによれば、同種の粒子同士が接触しないように二種以上の粒子(1、2)が均一に配置された複合粒子(以下、触媒複合粒子という)の平均粒子径を制御することができる。
【0022】
ところで、スラリーの液滴粒子の平均粒径が大きすぎると(例えば30μm以上)、触媒複合粒子が大きくなりすぎてしまい、二種以上の粒子が同種の粒子同士が接触しないように均一に配置される確率が低下してしまう。また、触媒複合粒子が大きくなりすぎると、例えばハニカム状の担体に担持した際に、担体の細孔が目詰まりする虞がある。
【0023】
一方、スラリーの液滴粒子の平均粒径が小さすぎると(例えば0.5μm以下)、触媒複合粒子が小さくなりすぎてしまい、複合触媒粒子としての効果が発揮できなくなってしまう。
【0024】
したがって、スラリーの液滴粒子の平均粒径を、0.5μm〜30μmの範囲とすることが好ましい。
【0025】
また、各粒子間がそれぞれ引力状態となるpHに調整した溶液を撹拌する工程と、スラリーが滴下された溶液を撹拌する工程とを備えていてもよい。これによれば、複合触媒粒子が大きくなりすぎることを防止できる。
【0026】
また、スラリーが滴下された溶液から粒子固形分を抽出し、焼成する工程を備えていてもよい。
【0027】
ところで、粒子固形分を焼成して得た触媒複合粒子の平均細孔径はなるべく小さくしたい(例えば50nm未満)という要望がある。一方、触媒複合粒子の平均細孔径を小さくしすぎると(例えば1nm以下)、この触媒材料を例えば内燃機関の排気浄化用に用いた際に、排気ガス流れを阻害し、通風抵抗が増加するという問題がある。
【0028】
したがって、粒子固形分を焼成して得た触媒複合粒子の平均細孔径を、1nm〜50nmの範囲とすることが好ましい。
【0029】
ところで、溶液中の粒子のζ電位は、その粒子の物性だけではなく、溶液内に分散している粒子の表面に、電荷を有する新たな分子を付着させることで変化させることができる。
【0030】
したがって、本発明者は、二種以上の粒子の分散性の向上を図るためには、静電斥力が作用している、すなわちζ電位が全て正または全て負になっている二種以上の粒子に、これらの粒子と同じ電荷を有する分子を少なくとも1種の粒子に付着させることによって、二種以上の粒子間の静電斥力を増加させればよいと考え、実験検討を行った。その結果、後述する実施例のように、二種以上の粒子の分散性を向上できることがわかった。
【0031】
また、本発明者は、分散した二種以上の粒子のへテロ結合性を向上させるためには、ζ電位が正電位である粒子に正電荷を有する分子を付着させる手法、およびζ電位が負電位である粒子に負電荷を有する分子を付着させる手法のうち、少なくとも一方を行うことによって、二種以上の粒子間の静電引力を増加させればよいと考え、実験検討を行った。その結果、後述する実施例のように、二種以上の粒子のへテロ結合性を向上できることがわかった。
【0032】
また、上記特徴の触媒材料の製造方法において、二種以上の粒子は、触媒機能を有する貴金属(3)および貴金属(3)の合金または酸化物、複合酸化物を付着させた触媒粒子(1)と、金属酸化物粒子(2)とを、少なくとも一種ずつ含んでいてもよい。
【0033】
これによれば、触媒粒子(1)は金属酸化物粒子(2)間の隙間に均一に配置されるので、金属酸化物粒子(2)がブロック剤の役割を果たし、シンタリング等による触媒粒子(1)の移動や触媒粒子(1)同士の結合を阻害することができる。したがって、触媒粒子(1)のシンタリングを防止し、耐熱性を向上させることができる。
【0034】
また、上記特徴の触媒材料の製造方法において、触媒粒子(1)は、酸素吸蔵放出機能を有する助触媒成分(4)を少なくとも一種含んでいてもよい。
【0035】
また、上記特徴の触媒材料の製造方法において、金属酸化物粒子(2)は、CeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO、Y23、La23およびこれらの誘導体から選ばれる一種または二種以上の化合物のいずれかを少なくとも一種含んでいてもよい。
【0036】
また、触媒材料を、請求項1ないし14のいずれか1つの方法で製造することができる。
【0037】
また、この触媒材料が、ハニカム状の担体の表層面もしくは細孔内にコーティングされていてもよい。
【0038】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1に基づいて説明する。図1は本第1実施形態に係る触媒材料の模式的な構成を示す図であり、(a)は分散時、(b)は配列時、(c)は乾燥・焼成後を示している。
【0040】
本実施形態では、本発明の二種以上の粒子として、触媒機能を有する粒子1(以下、触媒粒子1ともいう)と金属酸化物粒子2とを採用している。
【0041】
ここで、触媒粒子1としては、貴金属3および貴金属3の合金または酸化物、複合酸化物を付着させた助触媒粒子(助触媒成分)4を採用することができる。より具体的にいうならば、貴金属3としては、Pt、Rh、Pd、Ru、Ir、Os等を採用することができる。また、助触媒粒子4としては、CeO、ZrO、Al、TiO、SiO、MgO、Y、La23およびこれらの誘導体から選ばれる一種または二種以上の化合物のうちのいずれかから構成されるものを採用することができる。
【0042】
また、金属酸化物粒子2としては、CeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO、Y23、La23およびこれらの誘導体から選ばれる一種または二種以上の化合物のうちのいずれかから構成されるものを採用することができる。
【0043】
次に、本実施形態の触媒材料の製造方法について述べる。
【0044】
まず、図1(a)に示すように、触媒粒子1および金属酸化物粒子2同士が反発するような条件にすることで、触媒粒子1と金属酸化物粒子2とを溶液中に均一に分散させる。
【0045】
ここで、触媒粒子1と金属酸化物粒子2とを溶液中に均一に分散させる方法としては、触媒粒子1および金属酸化物粒子2間に静電斥力が働く状態、すなわち触媒粒子1および金属酸化物粒子2のζ電位が共に正、または共に負になるような状態に、溶液の状態を調整する方法を採用することができる。より具体的にいうならば、一般的に粒子のζ電位はpHによって変化するため、触媒粒子1および金属酸化物粒子2のζ電位が共に正、または共に負になるように溶液のpHを調整する方法を採用することができる。
【0046】
続いて、図1(b)に示すように、触媒粒子1および金属酸化物粒子2同士が引き合うような条件にすることで、触媒粒子1と金属酸化物粒子2とをヘテロ結合させて、触媒粒子1同士が接触しないように各粒子1、2を配列する。これにより、触媒粒子1および金属酸化物粒子2から構成された触媒複合粒子が生成される。
【0047】
ここで、触媒粒子1同士が接触しないように各粒子1、2を配列する方法としては、触媒粒子1および金属酸化物粒子2間に静電引力が働く状態、すなわち触媒粒子1および金属酸化物粒子2のζ電位の一方が正で他方が負になるような状態に、溶液の状態を変化させる方法を採用することができる。より具体的にいうならば、触媒粒子1および金属酸化物粒子2のζ電位の一方が正、他方が負になるように溶液のpHを調整する方法を採用することができる。
【0048】
ところで、触媒粒子1および金属酸化物粒子2が分散した溶液を、そのままpHを変化させると、触媒粒子1がその近傍に存在する多数の金属酸化物粒子2とヘテロ結合してしまうため、粒子が凝集し、粗大化してしまう。これを防止するために、触媒粒子1および金属酸化物粒子2が分散した溶液を、触媒粒子1および金属酸化物粒子2間に静電引力が働くようなpHに調整した調整液に滴下する方法を採用することができる。これにより、触媒複合粒子の粒子径を制御することができる。
【0049】
続いて、図1(c)に示すように、上述のようにして得た触媒複合粒子を乾燥・焼成することによって、粉末状の触媒複合粒子、すなわち触媒材料を得ることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態では、溶液内に分散している粒子の表面に、電荷を有する新たな分子(以下、分散剤ともいう)を付着させることで、その粒子のζ電位を変化させ、これにより二種以上の粒子の分散性およびヘテロ結合性の向上を図ることを試みた。上記第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。
【0051】
まず、二種以上の粒子の分散性の向上を図るために、静電斥力が作用している二種以上の粒子に、さらに、これらの粒子と同じ電荷を有する分子を少なくとも1種の粒子に付着させる。
【0052】
また、分散した二種以上の粒子のへテロ結合性の向上を図るために、ζ電位が正電位である粒子に正電荷を有する分子を付着させる手法、および、ζ電位が負電位である粒子に負電荷を有する分子を付着させる手法のうち、少なくとも一方を行う。なお、粒子の付着は、吸着によるものと推測している。
【0053】
ここで、正の電荷を有する分子としては、アミンや、4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩を含む材料等を採用することができる。より具体的にいうならば、ポリエチレンイミンを含む材料、第4級アンモニウムヒドロオキシドを含む材料、アルカノールアミン等を採用することができる。
【0054】
また、負の電荷を有する分子としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等を含む材料を採用することができ、具体的には、ポリカルボン酸アンモニウム塩を含む材料、ポリカルボン酸ナトリウムを含む材料、ポリカルボン酸アンモニウムを含む材料、ポリアクリル酸ナトリウムを含む材料、ポリアクリル酸マレイン酸共重合体を含む材料等を採用することができる。
【0055】
また、pHにより電位が変化するノニオン系の分子を採用することができる。
【0056】
このとき、分散剤を、分散およびヘテロ結合させたい粒子に選択的に付着させる必要がある。これに対し、本発明者は、付着させたい粒子の大きさと分散剤の分子量とを制御することで、所望の粒子に分散剤を選択的に付着させることが可能と考えた。そこで、粒子の大きさと分散剤の分子量との関係について実験を行った。
【0057】
その結果、分散剤としてポリエチレンイミンを用いた場合、粒子の大きさが数十nm程度であれば、分散剤の分子量が10000前後でも付着し、分散性向上の効果は得られた。一方、粒子の大きさが数nm程度では、分散剤の分子量を2000以下にしないと付着せず、分散性の向上効果は見られなかった。
【0058】
したがって、粒子径の異なる粒子を分散させた後、それらの粒子をヘテロ結合させる場合、粒子径の大きな粒子に分散剤を付着させることで、分散剤の電荷の作用を利用することができる。
【0059】
次に、限定するものではないが、上記各実施形態の触媒材料の製造方法について、以下の各実施例および比較例を参照して、より具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
本実施例1は、上記第1実施形態に対応している。
【0061】
本実施例1では、貴金属としてPtとRhを用い、助触媒粒子(助触媒成分)として酸素吸蔵放出機能を有するCeO/ZrO固溶体を用い、金属酸化物粒子として粒子径が20nm前後のアルミナ(Al)を用いた。
【0062】
CeO/ZrO固溶体は、液相法でオキシ塩化ジルコニウム八水和物と硝酸二アンモニウムセリウム(IV)を混合した溶液を、高圧下で加熱して合成した。この粒子を溶液中で分散させ、塩化白金、塩化ロジウムを溶液中に加え、さらにアルカノールアミン等の塩基で還元して、CeO/ZrO固溶体にPtおよびRhを担持させることで、粒子径5nm前後の触媒粒子を形成した。
【0063】
ここで、触媒粒子(PtおよびRhが担持されたCeO/ZrO固溶体)およびアルミナのζ電位を測定した。この測定結果を図2に示す。なお、図2中の実線aが触媒粒子の測定結果を示しており、破線bがアルミナの測定結果を示している。
【0064】
図2に示すように、pH7.4以下の範囲では、触媒粒子、アルミナ共に20mV以上の正電位であった。一方、pH8.4〜9.1の範囲では、触媒粒子が負電位で、アルミナが正電位であった。
【0065】
これにより、pH8.4〜9.1の範囲では触媒粒子およびアルミナ間に静電引力が働き、一方pH8.4〜9.1以外の範囲、特にpH7.4以下の範囲ではでは触媒粒子およびアルミナ間に静電斥力が働くことがわかった。したがって、pH7.4以下の範囲で触媒粒子およびアルミナを分散させた後、pHを8.4〜9.1の範囲に変化させることで、触媒粒子およびアルミナがヘテロ結合し、触媒粒子同士(より詳細には貴金属同士および助触媒粒子同士)およびアルミナ同士が接触しないように配列された複合触媒粒子を得ることができると考えられる。
【0066】
そこで本実施例1では、まず、触媒粒子を溶液中に分散させてpHを調整することで、触媒粒子を含むスラリーを作製した。さらに、この触媒粒子を含むスラリーとアルミナとを、各々の粒子数の比率が3:1となるように混合し、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、pHが3〜4の範囲になるように硝酸で調整するとともに、固形分濃度が20wt%となるように調整した。
【0067】
また、pHが9となるようにアンモニアで調整した溶液(以下、調整液という)を用意し、この調整液を攪拌した状態で、混合スラリーを二流体ノズルを用いて滴下した。二流体ノズルとは、気体と液体とを同時に噴出させることで微粒な液滴を得るもので、これにより得られる液滴径は10μm前後であった。また、滴下量としては、100gの調整液に、混合スラリーを5g滴下した。
【0068】
そして、混合スラリーを滴下した調整液を30分攪拌した後、ロータリーエバポレータにより濃縮し、乾燥させた。さらに、耐熱性を高めるために、この乾燥物を800℃で焼成して、触媒複合粒子(触媒材料)を得た。この触媒複合粒子のタップ密度は1.05g/ccで、細孔容積は0.39cc/gであった。
【0069】
(実施例2)
本実施例2は、上記第2実施形態に対応している。
【0070】
実施例1と同様の触媒粒子(PtおよびRhが担持されたCeO/ZrO固溶体)を溶液中に分散させたスラリー(粒子径5nm前後)と、アルミナ粒子のスラリー(粒子径20nm前後)とを用意した。
【0071】
ここで、これら二種類の粒子の電位は図2に示される特性を有しているため、アルミナのζ電位だけを選択的に増加することができれば、pHが低い領域での静電斥力の増加(すなわち分散性の向上)と、pHが高い領域での静電引力の増加(すなわちヘテロ結合性の向上)を図ることができると考えられる。さらに、触媒粒子とアルミナ粒子との電位差を大きくすることができるので、二種の粒子間に静電引力が働くpHの範囲(以下、配置制御範囲ΔpHともいう)を大きくすることができると考えられる。
【0072】
そこで、上記二種の材料それぞれに分散剤としてポリエチレンイミン(分子量約10000)を2wt%添加し、ζ電位を測定した。この測定結果を図3に示す。なお、図3中の実線a’がポリエチレンイミンを添加した触媒粒子の測定結果を示しており、破線b’がポリエチレンイミンを添加したアルミナの測定結果を示している。
【0073】
図3に示すように、アルミナのζ電位はpH10以下で3〜7mV増加した。一方、触媒粒子のζ電位は変化がなかった。また、配置制御範囲ΔpHは、約0.7から約1.2に拡大した。
【0074】
これより、二種の粒子間に静電斥力が働く分散領域では、アルミナのζ電位のみが上昇するため、二種の粒子間の電位差が増大して静電斥力が増大し、分散性を向上させることができたと考えられる。また、二種の粒子間に静電引力が働く(ヘテロ結合させる)配置領域では、触媒粒子のζ電位は負で一定であるが、分散剤による正の電荷によりアルミナのζ電位は上昇しているため、二種の粒子間の電位差が増大して静電引力が増大し、へテロ結合力を強くすることができたと考えられる。
【0075】
そこで、本実施例2では、アルミナのスラリーに分散剤としてポリエチレンイミン(分子量約10000)を加えて攪拌したものを、触媒粒子を含むスラリーに加えたこと以外は、上記実施例1と同様の手法を用いて、触媒複合粒子(触媒材料)を得た。この触媒複合粒子のタップ密度は1.08g/ccで、細孔容積は0.37cc/gであった。
【0076】
(比較例)
上記実施例1と同様の混合スラリーを、pHが3から4になるように硝酸で調整し、2時間攪拌して、触媒粒子とアルミナとを分散させる。この溶液を、ロータリーエバポレータにより濃縮し、乾燥させた。さらに、上記各実施例と同様にこの乾燥物を焼成して、触媒複合粒子(触媒材料)を得た。この触媒複合粒子のタップ密度は0.9g/ccで、細孔容積は0.47cc/gであった。
【0077】
(浄化性能評価)
上記各実施例および比較例で得られた触媒複合粒子を、それぞれハニカム担体にコートして触媒体を作製し、モデルガスによって各触媒複合粒子の浄化性能を評価した。
【0078】
具体的には、φ30mm×長さ50mmのコージェライトからなるハニカム担体を用い、各触媒複合粒子をハニカム担体上に64g/Lの担持量で担持させた。そして、各触媒複合粒子が担持されたハニカム担体を、実使用に近い熱履歴を加えるために、950℃で5時間熱処理した後、それぞれにモデルガスを流し評価した。
【0079】
ここで、モデルガスとしては、O、N、C、Cの各成分を含むものを用いた。このモデルガスをハニカム担体の前方部から流し、ハニカム担体流入前後のガスの成分を分析した。そして、ハニカム担体流入前のHC成分トータルのガス量の分析値と、流入後のHC成分トータルのガス量の分析値との割合から浄化率を算出した。この浄化率は、ハニカム担体の温度が高いほど向上し、より低温で高い浄化率を示す程、触媒性能が高いことがわかっている。
【0080】
そして、評価は、流入ガスおよびハニカム担体を加熱し、流入ガスおよびハニカム担体の温度と浄化率との関係を測定することにより行った。
【0081】
その結果、実施例1で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体では、浄化率が50%になる温度は316℃であった。また、実施例2で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体では、浄化率が50%になる温度は310℃であった。一方、比較例で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体では、浄化率が50%になる温度は333℃であった。
【0082】
これにより、各実施例で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体は、比較例で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体に比較して、浄化率が50%以下になる温度が低下しており、触媒性能が向上できているといえる。すなわち、触媒粒子が金属酸化物粒子間の隙間に均一に配置されており、金属酸化物粒子がブロック剤の役割を果たして、熱履歴時のシンタリング等による触媒粒子の移動や触媒粒子同士の結合が阻害されていると考えられる。
【0083】
また、実施例2で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体は、実施例1で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体に比較して、浄化率が50%以下になる温度が低下しており、触媒性能がより向上できている。さらに、実施例2で得られた触媒複合粒子は、実施例1で得られた触媒複合粒子をコートした触媒体に比較して、タップ密度が増大し、細孔容積が減少している。これにより、分散剤によって、二種の粒子の分散性およびヘテロ結合性の向上を図ることができたと考えられる。
【0084】
以上説明したように、二種の粒子(触媒粒子および金属酸化物粒子)間をそれぞれ斥力状態にして、これらの粒子を溶液中に均一に分散させた後、二種の粒子間をそれぞれ引力状態にして、これらの粒子をヘテロ結合させることで、二種以上の粒子を、同種の粒子同士が接触しないように均一に配置することができる。
【0085】
上記各実施形態では、二種以上の粒子として触媒粒子(触媒成分)および金属酸化物粒子(担体粒子)を採用したので、触媒粒子を金属酸化物粒子間の隙間に均一に配置することができる。このため、金属酸化物粒子がブロック剤の役割を果たし、シンタリング等による触媒粒子の移動や触媒粒子同士の結合を阻害することができる。したがって、触媒粒子のシンタリングを防止し、耐熱性を向上させることが可能となる。
【0086】
また、上記各実施例のように、触媒粒子と金属酸化物粒子とに粒子径の異なる粒子を採用(触媒粒子としてPtおよびRhが担持されたCeO/ZrO固溶体を、金属酸化物粒子としてアルミナを採用)することで、平均粒子径の小さい触媒粒子を、平均粒子径の大きい金属酸化物粒子間の隙間に均一に配置することができる。これにより、平均粒子径の大きい金属酸化物粒子がブロック剤の役割をより確実に果たし、平均粒子径の小さい触媒粒子の移動をより確実に阻害することができる。
【0087】
また、上記各実施例のように、触媒粒子と金属酸化物の各々の粒子数の比率を3:1とし、触媒粒子の粒子数が金属酸化物粒子の粒子数より多くすることで、平均粒子径の小さい触媒粒子を、金属酸化物粒子間の隙間により均一に配置することができる。
【0088】
また、上記各実施例のように、スラリーの液滴粒子の平均粒径を0.5μm〜30μmの範囲内にすると、触媒複合粒子が大きくなりすぎることを防止できるので、二種以上の粒子が同種の粒子同士が接触しないように均一に配置される確率が低下することを抑制でき、さらにハニカム状担体に担持した際に担体の細孔が目詰まりすることを抑制できる。また、触媒複合粒子が小さくなりすぎることも防止できるので、複合触媒粒子としての効果を確実に発揮させることができる。
【0089】
また、上記実施例のように、各粒子間がそれぞれ引力状態となるpHに調整した溶液を撹拌するとともに、スラリーが滴下された溶液を撹拌することで、複合触媒粒子が大きくなりすぎることを防止できる。
【0090】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、触媒複合粒子をコージェライトからなるハニカム担体に担持させた例について説明したが、これに限らず、SICやアルミナ等のセラミックスや、アルミ等の金属からなるハニカム担体に担持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】第1実施形態に係る触媒材料の模式的な構成を示す図であり、(a)は分散時、(b)は配列時、(c)は乾燥・焼成後を示している。
【図2】実施例1における溶液のpHと粒子のζ電位との関係を示す特性図である。
【図3】実施例2における溶液のpHと粒子のζ電位との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0092】
1…触媒粒子、2…金属酸化物粒子、3…貴金属、4…助触媒粒子(助触媒成分)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ斥力状態にして、前記二種以上の粒子(1、2)を溶液中に分散させる第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ引力状態にして、前記二種以上の粒子(1、2)をヘテロ結合させる第2の工程とを備えることを特徴とする触媒材料の製造方法。
【請求項2】
前記二種以上の粒子は、平均粒子径の異なる少なくとも二種の粒子(1、2)を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項3】
前記二種以上の粒子(1、2)のうち、平均粒子径が最も小さい一種の粒子(1)が、他の粒子(2)より多くなっていることを特徴とする請求項2に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項4】
前記二種以上の粒子(1、2)のζ電位を全て正または全て負にすることで、前記二種以上の粒子(1、2)間をそれぞれ斥力状態とし、
前記二種以上の粒子(1、2)のうち、少なくとも二種の粒子(1、2)のζ電位を正電位と負電位とにすることで、前記二種以上の粒子(1、2)間を引力状態とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の触媒材料の製造方法。
【請求項5】
前記溶液のpHを調整することにより、前記二種以上の粒子(1、2)間を斥力状態から引力状態に変化させることを特徴とする請求項4に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項6】
前記二種以上の粒子(1、2)のζ電位が全て正または全て負であり、前記二種以上の粒子(1、2)間が互いに斥力状態となっているときに、前記二種以上の粒子(1、2)と同じ正または負の電荷を有する分子を、前記二種以上の粒子(1、2)のうち少なくとも一種の粒子(2)に付着させることを特徴とする請求項4または5に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項7】
前記二種以上の粒子は、触媒機能を有する貴金属(3)および前記貴金属(3)の合金または酸化物、複合酸化物を付着させた触媒粒子(1)と、金属酸化物粒子(2)とを、少なくとも一種づつ含んでいることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の触媒材料の製造方法。
【請求項8】
前記触媒粒子(1)は、酸素吸蔵放出機能を有する助触媒成分(4)を少なくとも一種含んでいることを特徴とする請求項7に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子(2)は、CeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO、Y23、La23およびこれらの誘導体から選ばれる一種または二種以上の化合物のいずれかを少なくとも一種含んでいることを特徴とする請求項7または8に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項10】
前記pHの調整は、前記二種以上の粒子(1、2)を前記各粒子間がそれぞれ斥力状態となるpHで混合することにより作製したスラリーを、前記各粒子間がそれぞれ引力状態となるpHに調整した溶液に滴下することによって行われることを特徴とする請求項5に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーの液滴粒子の平均粒径は、0.5μm〜30μmの範囲であることを特徴とする請求項10に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項12】
前記各粒子間がそれぞれ引力状態となるpHに調整した溶液を撹拌する工程と、
前記スラリーが滴下された溶液を撹拌する工程とを備えることを特徴とする請求項10または11に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項13】
前記スラリーが滴下された溶液から粒子固形分を抽出し、焼成する工程を備えることを特徴とする請求項10ないし12のいずれか1つに記載の触媒材料の製造方法。
【請求項14】
前記粒子固形分を焼成して得た触媒複合粒子の平均細孔径は、3nm〜50nmの範囲であることを特徴とする請求項13に記載の触媒材料の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1つの方法で製造されることを特徴とする触媒材料。
【請求項16】
請求項15に記載の触媒材料が、ハニカム状の担体の表層面もしくは細孔内にコーティングされていることを特徴とする触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−200603(P2008−200603A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39187(P2007−39187)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】