説明

触媒活性コーティング、および基板上に堆積させる方法

触媒活性コーティングを基板に堆積する方法であって、所定の触媒燃焼環境に関して目標着火温度を選択し、熱バリアコーティング組成物を選定し、触媒材料を選定し、該熱バリアコーティング組成物と触媒材料とを一緒に該基板上に、該燃焼環境にさらされた場合に該目標着火温度をもたらすように選択された比で堆積する方法。本方法は、熱バリアコーティング組成物が触媒材料と相互作用して、該熱バリアコーティングおよび触媒材料それぞれの着火温度と異なる着火温度を有する相を形成するように、同時堆積ステップを制御することができる。触媒エレメントは基板を有し、かつ、熱バリアコーティング組成物と触媒材料とを有する第1の層を有することができる。該熱バリアコーティングおよび触媒材料は、該第1の層の深さにわたり、該基板の第1の部分にわたって配置される。触媒エレメントの別の部分は、燃焼環境による燃焼のステージに依存して、触媒材料から成る第2の層と、熱バリアコーティング組成物から成る第3の層とを有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、触媒燃焼器を有するガスタービンの分野に関し、より特定すると、触媒活性コーティングと、基板上に堆積する方法とに関する。
【0002】
本発明の背景技術
従来のガスタービンの作動では、大気からの吸気がコンプレッサによって圧縮、加熱され、燃焼器へ流される。この燃焼器において、燃料と圧縮された空気とが混合され、混合気は点火および燃焼される。このようにして放出される熱エネルギーは、燃焼ガスを流れてタービンに到達し、そこで機械的な回転エネルギーに変換されて、たとえば電気力を生成するための装置または工業プロセスを行うための装置等の装置を駆動するのに使用される。リーン状態の前混合された燃料の完全な燃焼を促進し、ひいては不所望の排ガスを低減するために、燃焼ゾーンにおいて燃焼触媒を使用することが公知である。炭化水素燃料‐酸素の反応を行うための典型的な燃焼触媒にはたとえば、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、テルビウム‐セリウム‐トリウム、ルテニウム、オスミウム、クロムの酸化物、鉄の酸化物、コバルトの酸化物、ランタンの酸化物、ニッケルの酸化物、マグネシウムの酸化物および銅の酸化物が含まれる。
【0003】
白金またはパラジウム等の貴金属元素が、ガスタービンの触媒燃焼器で通常使用される触媒燃焼面である。
【0004】
しかしこのような貴金属元素は、特定の温度を上回ると十分な耐久性を有さなくなり、上昇された温度による侵食、たとえば腐食または酸化等から金属表面を保護するのに十分な断絶特性を提供しなくなる。さらに、触媒材料のウォッシュコートが時間の経過とともに、該ウォッシュコートの下方にある熱バリアコーティングまたは基板を侵食または破砕するか、または除去してしまい、触媒材料が失活してしまうことがある。このような現象により、燃焼が非効率的になり、典型的には新たなコーティングまたはメンテナンスが必要となる。
【0005】
米国特許出願公報US2003/0056520A1に、基板と、該基板上に配置された熱バリアコーティングと、該熱バリアコーティング上に配置された燃焼触媒とを含む触媒エレメントが開示されている。この公報の開示内容は、参照によって明示的に、本願の開示内容に含まれるものとする。セラミックのウォッシュコートを、熱バリアコーティングと触媒との間に配置することができる。燃料空気混合気のより強い所望の乱流を実現するためには、熱バリアコーティング表面が少なくとも1つの次のような特性を有する。すなわち流れを阻止するのに適した特性であって、かつ、このような流れを該特性が存在しない場合より強い乱流にするのに適した特性を有する。
【0006】
図面の簡単な説明
本発明のこれらの利点および別の利点を、以下の詳細な説明において図面に基づいて詳述する。
図1 従来技術の燃焼器の断面の一例である。
図2 基板およびコーティング例の断面の一部である。
図3 触媒燃焼中の温度プロフィールを示すグラフである。
図4 図2の基板の平面図である。
図5 図4の基板の一部である。
【0007】
本発明の詳細な説明
図1に、ガスタービン燃焼器10の一例が示されている。ここでは、燃焼の少なくとも一部は触媒反応器12で行われるように構成されている。
【0008】
このような燃焼器10は、発電機にエネルギー供給するために使用される装置または製造プロセス用の装置等の、燃焼タービン装置の一部とすることができる。
【0009】
コンプレッサ(図示されていない)からの圧縮された空気14は、燃料インジェクタ等の燃料空気混合装置18によって触媒反応器12より上流の位置で、可燃性の燃料16と混合することができる。触媒反応器12の表面に存在する触媒活性材料は、燃料空気混合気を通常の点火温度より低い温度で反応することができる。特定の燃料、燃料混合気およびエンジン構成におけるコンプレッサ放出供給温度、たとえば天然ガスリーン燃焼等におけるコンプレッサ放出供給温度では、活性化されない触媒材料もある。したがって予熱バーナ20を設けて、主燃料インジェクタ18の上流において予熱燃料の供給物22を燃焼することにより燃焼用空気14を予熱するのに使用することができる。燃料の一部は触媒表面において、下流で完全燃焼領域24において発生する残りの燃焼によって反応することができる。
【0010】
ガスタービンの作動環境は、たとえばニッケルおよびコバルトをベースとする超合金から形成された基板等の、金属性の基板に対して非常に不利である。このような合金だけでは、タービンおよび燃焼器等のガスタービンの特定の高温セクションに配置される部品を作製するのに適していない場合が多い。
【0011】
通常の解決手段は、有用温度を低減するためにこのような部品を熱絶縁することである。こうするためには、熱バリアコーティング(TBC)をこのような部品の外表面に堆積させることができる。TBC組成物の例に、酸化イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)がある。酸化イットリウム安定化ジルコニアは、電子ビーム物理蒸着法(EB‐PVD)によって堆積させることができる。EB‐PVD法は、YSZ材料の隣接する柱間にサブミクロンサイズの空隙を有する柱状微細構造を有するYSZコーティングを実現することができる。
【0012】
択一的に、YSZを空気プラズマ噴霧(APS)によって適用することができる。これは典型的には、柱状微細構造を形成しないが、層間のひび割れおよび孔によって分離された縦長の板の列を形成する。当業者であれば、TBC組成物の択一的な化学的特徴および堆積方法を想到することができ、本発明の側面に基づいて使用することができる。
【0013】
TBC組成物の独立した層は高温の触媒燃焼に適していることも認められるが、典型的には、ここで使用されているようなTBC組成物をその熱バリア特性のために選択し、触媒活性材料と一緒に堆積させることにより、独自に調整された着火温度が実現される。堆積した材料の着火温度は、該材料において触媒燃焼が燃焼環境において開始される最小の温度であるか、または発熱活動が測定可能である最小の温度である。
【0014】
ガスタービン燃焼器、たとえば燃焼器10は、燃料が燃料インジェクタ18から完全燃焼領域24へ進行するのにしたがい、1つより多い燃焼ゾーンまたは燃焼ステージを有することができる。たとえば例の燃焼器10では、燃料は異なる温度の範囲またはステージで触媒燃焼することができる。
【0015】
第1のステージの温度範囲を、ほぼ室温〜500℃の間とし、第2のステージの温度範囲を500℃〜800℃の間とし、第3のステージの温度範囲を800℃以上とすることができる。本発明の側面によれば、触媒活性材料を、たとえば燃焼器10の表面または別の同じような触媒エレメントの表面等、基板の表面の異なる部分に堆積させることにより、1つまたは複数の燃焼ステージごとにそれぞれ、独自に調整された着火温度が実現できる。ここでは燃焼ステージを、それぞれコーティングが堆積した燃焼器10の長手方向のセグメントにわたって定義するか、または該燃焼器10の長さにわたって定義することができる。燃料は燃焼器10の長さにわたって動くので、燃料は該燃焼器10に堆積した異なる触媒材料と反応し、これによって触媒燃焼プロセスの効率が最大になる。ここに記載された燃焼ステージは、説明を簡便化するためのものであることに留意されたい。本発明の側面によれば、燃焼プロセスは次のことに関係なく、燃料を触媒燃焼することができる。すなわち、燃焼器の固有のジオメトリに関係なく、または材料が堆積した表面に関係なく、または、燃焼ステージが離散的であるかまたは相互に混和されているかに関係なく、たとえば燃焼ステージが離散的であるかまたは1つのステージの一部が別のステージの一部と重なるかまたは交差するかに関係なく、燃料を触媒燃焼する。
【0016】
図2は、基板30上に堆積したコーティングシステム29の一例の断面を示している。この基板30は、超合金金属またはセラミックから製造することができる。コーティングシステム29および基板30は、ガスタービンに含まれる部品の一部を形成することができる。このような部品はたとえば、燃焼器10の触媒反応器12で使用される部品である。接着コート層32を基板30上に、通常の熱蒸着法または噴霧法を使用して堆積させることができる。択一的な実施形態では、接着コート層32を省略するか、または基板30と統合することができる。すなわち、基板自体の一部として形成することができる。燃焼タービンの用途では、接着コート層32は典型的にはMCrAlY層である。これは種々の通常の技術によって堆積することができ、たとえばEB‐PVD、化学蒸着法、プラズマ蒸着法、スパッタリング、低圧プラズマ噴霧法または熱噴霧法によって堆積する。熱噴霧法の例に、真空プラズマ堆積法、高速度フレーム溶射法(HVOF)、またはAPSがある。熱噴霧技術とCVD技術との組み合わせを使用することもできる。当分野で公知であるように、この化学式における「M」は、鉄、ニッケル、コバルト、またはこれらの混合物を表す。択一的に接着コート層32を、白金またはアルミニウム化白金とするか、または当業者によって想到される別の化学的物質とすることができる。TBC層34は、接着コート層32上に堆積することができる。TBC組成物と触媒活性材料とを含む層36は、層34上に一緒に堆積するか、または接着コート層32上に直接、一緒に堆積することができる。
【0017】
図3は、燃焼器10における触媒燃焼の3つのステージの温度プロフィール例を示す。各ステージは、燃焼器内で発生する比較的乱流の反応と、燃焼流に含まれる火炎前線の揺らぎとに起因して、ほぼtとtとの間の表面温度範囲を含むことができる。図3に示されたステージは、図4に示されたコーティングシステム29のそれぞれの表面領域に関連づけされている。ここではコーティングシステム29は、図3の温度プロフィールを有する燃焼器内に配置される。図3および4は、本発明において触媒燃焼ステージと各表面領域それぞれに適用できる各コーティングとの間に存在する関連性を示している。
【0018】
燃焼環境の一例では、ステージ1における温度は0〜約500℃の範囲内にある比較的低い温度とされる。
【0019】
白金またはパラジウムの酸化物等の触媒活性材料を、基板30のステージ1に関連する相応の表面領域40に堆積させることができる。白金およびパラジウムの酸化物はステージ1の比較的低い着火温度に適しており、ウォッシュコートである表面領域40の少なくとも一部に堆積できる。触媒燃焼のステージ2は約500℃〜800℃の間とすることができ、1つまたは複数の中間的な着火温度を有することができる。TBC組成物と触媒活性材料の種々の組み合わせを、基板30のステージ2に関連する相応の表面領域42上に一緒に堆積させることができる。触媒燃焼のステージ3は約800℃以上とすることができ、ここでは比較的リーン状態の燃料混合気を使用するのが典型的であり、この燃料混合気は比較的高い着火温度を有するべきと期待される。ステージ3に関連する基板30の相応の表面領域44の少なくとも一部は、比較的高い着火温度に適した触媒活性材料、たとえば独立したTBC層34によってコーティングすることができる。1つの側面では、基板30上に堆積すべき1つまたは複数のコーティングの着火温度は、図3に示された温度プロフィールの各部分に直接比例する。
【0020】
本発明の実施例では、基板30の表面領域を、TBCおよび触媒活性材料の種々の組み合わせと一緒に堆積させることにより、着火温度がカスタマイズまたは調整された活性コーティング表面を実現する。こうすることにより、tおよびtが基板30の長さにわたって上昇するので、効率的な触媒燃焼が実現される。たとえば、表面領域42の第1の部分50に、ステージ1からステージ2への温度プロフィールの移行のように効率的な触媒燃焼を実現するように調整されたTBCと触媒材料との組み合わせが一緒に堆積されている。第1の部分50は、比較的低い着火温度を有する触媒活性材料を比較的大きい容量の割合で有し、比較的高い着火温度を有するTBC組成物を比較的小さい容量の割合で有することができる。触媒とTBC組成物との相対的な容量の割合は、たとえばこれらの材料が粉末の形状で混合されて一緒に基板30上に堆積する場合、それぞれの質量の割合によって制御することができる。これらの相対的な質量の割合は、堆積する材料のそれぞれの表面積の割合に相応するように割り当てることができる。たとえば、98%の低い着火温度の触媒材料と2%のTBC組成物との質量の割合で混合された粉末を第1の部分50に堆積させる。このようにして、該第1の部分の表面積のうち約98%が触媒材料によって活性化され、約2%がTBC組成物によって活性化される。このような構成により、触媒材料に固有の第1の着火温度とTBC組成物に固有の第2の着火温度とを有する第1の部分50が得られる。このような容量の相対的割合は、それぞれの材料ごとに別個の堆積ソースを使用して制御することもできる。このような堆積ソースは、たとえば多重スプレーガン、またはCVDソースとスプレーガンとの組み合わせである。
【0021】
本発明の1つの側面では、触媒とTBC組成物との表面積の相対的なパーセンテージは、基板30のそれぞれの表面領域40,42,44にわたり変化する。たとえば、触媒とTBC組成物との表面積の相対的なパーセンテージは、表面領域42の第1の部分50にわたる温度プロフィールの温度の上昇に依存して、制御された比率で変化する。この変化率は、温度プロフィールの変化率に直接比例することができる。低い着火温度の触媒材料の表面積のパーセンテージは、温度プロフィールの上昇率に対して比例する比率で減少することができる。図5は、ステージ2の燃焼に関連するコーティングシステム29の一部分を示している。本発明の1つの実施形態では、第1の部分50および/または第2の部分52を、一緒に堆積した触媒とTBC組成物との表面積の相対的なパーセンテージが異なるセグメント60に帯域分けすることができる。このように帯域分けすることにより、第1の部分50および/または第2の部分52にわたって触媒とTBC組成物との表面積の相対的割合の離散的な勾配が得られる。
【0022】
あるセグメント60から次のセグメントまでで、低い着火温度の材料の相応の表面積のパーセンテージは、比較的高い材料のパーセンテージに対して相対的に減少する。というのも、第1の部分50にわたる温度プロフィールが上昇するからである。このことにより、基板30にわたって移動する燃料がさらされる比較的高い着火温度の材料の表面積のパーセンテージは、第1の部分50にわたる温度プロフィールが上昇するほど増大する。このことにより、燃焼効率が上昇する。第2の部分52も同様に、該部分に関連する温度プロフィールに依存して帯域分けすることができる。第1の部分50および/または第2の部分52にわたる表面積の相対的なパーセンテージを漸次的に変化することにより、比較的高価なパラジウムまたは白金等の低い着火温度の材料の量を減少して、コーティングを堆積させるコストを低減することができる。
【0023】
基板30の各部分における触媒とTBC組成物との表面積の相対的割合を最適化することにより、触媒燃焼器10の全長を縮小し、ひいては製造コストおよび作動コストを低減することができる。
【0024】
表面領域42には、ヘキサルミネートの群から選択された1つのような、ステージ2の燃焼に適した相対的な量のTBC組成物および触媒材料が一緒に堆積している。択一的な実施形態で、触媒とTBC組成物との表面積の相対的なパーセンテージを基板30にわたって、燃焼器10の関連する表面温度プロフィールとコーティングの別の性能要件とに依存して変化するように構成することが考えられる。ここでは前記性能要件は、たとえば着火温度、表面限界温度および耐久性要件である。ここでは、触媒とTBC組成物との表面積の相対的なパーセンテージは基板30の各部分にわたって一定であるか、または1つの部分から別の部分まで、たとえば経験的に変化するかまたは階段関数として変化する。
【0025】
本発明の1つの側面では、TBC層34の厚さおよび/またはTBCと触媒材料層36とが組み合わされた厚さをそれぞれの堆積中に制御することができる。図2に示された層34,36の相対的な厚さは、たとえば堆積するコーティングまたは最終的なコーティングの性能要件および/または燃焼環境の作動パラメータ等の、種々のファクタに依存することができる。1つのファクタは、最終的なコーティングの耐久性とすることができる。このような耐久性は、周期的な炉試験または高温セラミックひずみ試験によって求めることができる。耐久性は、TBCコーティングが使用時に、破砕、侵食、焼結、触媒活性の損失または別の材料の特性の劣化を受ける率として表すことができる。1つの側面では、TBCおよび触媒材料を層36として第1の厚さまで一緒に堆積し、TBCコーティングがたとえば破砕されるにつれて、「新しい」または活性の触媒材料が連続的に露出されるように構成することができる。このようにして、触媒活性材料が燃焼作動中に連続的に露出されることが保証される。層36の第1の厚さは、燃焼環境におけるTBCおよび触媒材料の層36の予測有効寿命、および/または触媒材料が燃焼中の温度で失活する率にも依存することができる。1つの実施形態では、触媒材料をTBC組成物と一緒に、接着コート層32または基板30上に直接堆積することができる。このような実施形態では、純粋または独立したTBC層34を必要としない場合がある。というのも、TBC組成物および触媒材料の層36によって基板30が十分に熱保護されるからである。層36を形成するために一緒に沈着されるTBC組成物と触媒活性材料との相対的な量は、層36の厚さまたは深さにわたって一定であるか、またはたとえば、層36が破砕、侵食または別の損耗を受ける率に依存して変化することができる。
【0026】
最終的なコーティングの目標表面温度は、層34,36の相対的な厚さと、TBC組成物と触媒材料との相対的な量と、一緒に沈着すべき特定のTBC材料および触媒材料とを決定するのに使用できるファクタである。燃焼中の層36の表面温度は、TBC層34全体にわたる熱勾配に依存する。この熱勾配は、コーティングシステム29で使用される材料の熱伝導係数と熱伝導度に依存する。
【0027】
コーティングシステム29で使用される材料の選定、および/または層34,36の相対的な厚さの制御により、層36の表面温度を目標着火温度以上にすることができる。層36の熱伝導係数および熱伝導度は、層が一緒に沈着される際に使用される特定のTBC組成物および/または触媒材料を変化することによって制御できる。このことにより、この層の表面温度および着火温度を制御することができる。TBC組成物層の厚さを制御することによって、たとえばステージ3の燃焼のための独立したTBC層を堆積させる場合に、この層の関連の表面温度を実現することができる。
【0028】
1つの実施例では、TBC組成物の第1の層34を接着コート層32上に、約8ミルの第1の厚さまで堆積させ、TBC組成物および触媒材料の第2の層36を第1の層34上に、約2ミルの第2の厚さまで一緒に堆積させる。これらの例の厚さにより、十分な量の第1の層34が、連続的な作動を行う際に、必要な燃焼環境において、第2の層36が損耗、破砕によって疲労した場合、または劣化または剥離した場合に残留することが保証される。択一的な実施形態では、第1の厚さを約2ミルとし、第2の厚さを約8ミルとすることができる。これらの例の厚さにより、第2の層36が破砕または侵食されるにつれて、または燃焼運転中に侵食されるにつれて、触媒活性材料が所要の燃焼環境において、連続的に露出されて燃焼が行われることが保証される。当業者が考え得るコーティングファクタおよび燃焼ファクタに依存して、第1の厚さおよび第2の厚さを相互に相対的に変化することも考えられる。
【0029】
本発明の側面では、TBC組成物と触媒活性材料とを一緒に堆積させて、図2に示された層36のような触媒活性コーティングを形成することができる。触媒材料の例に、たとえばロジウム、イリジウム、パラジウムおよび白金等の貴金属元素と、当分野でヘキサルミネートとして知られている群から選択された材料とが含まれる。触媒活性層36は、TBC組成物と触媒材料との組み合わせを使用して堆積させることができる。このTBC組成物および触媒材料は、混合された粉末形状で、たとえば単独の堆積法を使用するかまたは複数のプロセスおよび/またはスプレーガンの組み合わせを使用して一緒に堆積させることができる。この1つまたは複数の堆積法は、独自の着火温度または調整された着火温度を有する層36を堆積するために制御することができる。このような着火温度からの触媒燃焼は、堆積中に材料の特性を制御することによって実現できる。こうするためには、TBC材料の固有特性または触媒活性材料の固有特性に基づいて触媒燃焼を実現するか、または、堆積中にこれらの材料の相互間の作用を種々に組み合わせることから得られる固有特性に基づいて触媒燃焼を実現することができる。調整された着火温度は、堆積中にバルク材料および微細材料の相互作用から得ることができる。このような相互作用により、燃焼環境にさらされる際の独自の燃焼システム特性が実現される。関連の1つまたは複数の同時堆積法を制御することによってTBC組成物と触媒材料とを一緒に堆積することにより、触媒燃焼の以下の例が実現できる:
1)還元された状態に固有の貴金属触媒燃焼
2)酸化された状態に固有の貴金属触媒燃焼
3)堆積中に形成される貴金属の酸化物とTBC組成物の酸化物との混合物の新たに形成された相に固有の混合酸化物触媒燃焼
4)TBC組成物に固有のTBC酸化物触媒燃焼
5)多重の堆積相互作用の組み合わせから得られる多重的な相に起因する触媒燃焼、すなわち、ここに記載された1)〜4)の組み合わせから得られる多重的な相に起因する触媒燃焼。
【0030】
相とは、TBC組成物および/または触媒材料の混合によって定義された堆積層の化学的または物理的に区別された領域であるか、または化学的または物理的に独自の領域である。
【0031】
堆積した材料の異なる相および相対的な容量割合または表面積割合は、上記の種類の触媒燃焼を実現する堆積プロセスを制御することによって得られる。
【0032】
着火温度は、たとえば上記のような堆積法および堆積すべき材料の種々の組み合わせを使用することにより、特定の用途に対して調整することができる。第1の着火温度を有するTBC組成物は、還元された状態にある触媒材料または還元された状態に固有の第2の着火温度を有する金属状態にある触媒材料と一緒に堆積させることができる。このような触媒材料は、たとえば貴金属であるパラジウムまたは白金である。このようにして、第1の着火温度および第2の着火温度を有する層36が得られる。択一的に、貴金属の少なくとも一部が浮遊中に酸化することにより、たとえば酸化された状態に固有の第3の着火温度を有する酸化パラジウムまたは酸化白金が生成されるように、同時堆積プロセスを制御することができる。
【0033】
こうすることにより、貴金属のすべてまたは実質的にすべてが浮遊中に酸化する場合、第1の着火温度と第2の着火温度と第3の着火温度とを有する層36が得られるか、または第1の着火温度および第3の着火温度を有する層36が得られる。
【0034】
択一的な実施形態では、気相蒸着法等の堆積プロセスを制御することにより、TBC組成物と、貴金属またはヘキサルミネート等の触媒材料とを一緒に堆積させることができる。たとえば熱噴霧法を使用して行われるTBC組成物とヘキサルミネートとの堆積等、堆積する材料に依存して、別の堆積法を使用することができる。堆積プロセスを制御することによって、得られるTBC組成物および触媒材料のそれぞれの部分が堆積中に相互作用し、それによって、材料の独自の相または該独自の相の独自の化学的物質に関連する独自の着火温度を形成することができる。このような独自の化学的物質は、独自の着火温度を有する堆積層の1つまたは複数の相を形成することができる。こうするために層36は、各相が調整された着火温度または独自の着火温度を定義する1つまたは複数の相を有することができる。
【0035】
TBC組成物に固有の調整された着火温度は、TBC酸化物によっても得られる。上記のものの種々の組み合わせを使用して、調整された着火温度の範囲を達成することも考えられる。
【0036】
TBC組成物と触媒活性材料との同時堆積は本発明では、1つまたは複数の堆積法の作業パラメータを調節することによって制御することができる。作業パラメータには、当業者によって想到されるものの中でもとりわけ、キャリアガス速度、供給原料の供給速度、粒径、ポート直径、噴霧ジェットを基準とする供給材料ポートの角度位置、Z軸に対する供給材料噴射の角度、軸噴射の角度、下流または上流の粒子噴射の角度、多重的な噴射場所の角度、環状噴射の角度、集中噴射の角度、または供給材料導入の構成に関する別の作業パラメータが含まれる。付加的に熱源設定も、粒子温度の最大値、平均値および分布を決定することができる。燃焼ガスまたはプラズマガスの流量と、スプレートーチ排出ノズルの幾何的形状が、粒子速度の最大値、平均値および分布を決定することができる。
【0037】
典型的なEB‐PVD堆積されたTBC組成物は、蒸着法から成長する柱状構造を有する。本発明の発明者は、貴金属等の触媒活性材料とTBC組成物とを一緒に堆積させることにより、堆積した材料の格子において貴金属の原子規則化が実現されることを突き止めた。このことを、置換合金化と称する。触媒活性材料が柱に浸入することにより、この浸入材料の着火温度が、図2に示されたシステム29の層36等のコーティングシステムに与えられる。
【0038】
本発明の発明者はまた、APSを使用してTBC組成物を堆積させ、堆積構造に異なる量の貴金属を含有することができることも突き止めた。たとえば貴金属を、熱噴射されたセラミックTBC中に一緒に堆積させる。噴霧される貴金属の量をTBC組成物の量に対して相対的に変化し、貴金属の所望の形成を実現することができる。噴霧プロセス中に貴金属およびTBC組成物の溶融された飛沫によって生じる相互作用が、特定の堆積する材料の構造を変化することにより、独自の固有着火温度を実現することができる。
【0039】
本発明の有利な実施形態をここで図示および説明したが、これらの実施形態は例示するためだけに挙げられたものであることは自明である。当業者であれば、本発明から逸脱せずに、数多くの変化、変更および置換に想到することができる。したがって、本発明は特許請求の範囲の基本的思想および範囲によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来技術の燃焼器の断面の一例である。
【図2】基板およびコーティング例の断面の一部である。
【図3】触媒燃焼中の温度プロフィールを示すグラフである。
【図4】図2の基板の平面図である。
【図5】図4の基板の一部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒反応性コーティングを基板に堆積させる方法において、
所定の触媒燃焼環境に関して、目標着火温度を選択するステップと、
TBC組成物を選定するステップと、
触媒材料を選定するステップと、
該TBC組成物と触媒材料とを該基板上に、該燃焼環境にさらされた場合に目標着火温度をもたらすために選択された比で同時堆積させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、前記TBC組成物および触媒材料のうち少なくとも一方の所望の第1の部分が酸化されるように、同時堆積させる前記ステップを制御する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記TBC組成物が前記触媒材料と相互作用して、該TBC組成物および触媒材料のそれぞれの着火温度と異なる着火温度を有する相が形成されるように、同時堆積させる前記ステップを制御する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
さらに、第1の表面積割合の前記TBC組成物と、第2の表面積割合の前記触媒材料とが堆積するように、同時堆積させる前記ステップを制御する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記TBC組成物の第1の質量割合は実質的に、前記TBC組成物の第1の表面積割合に等しく、
前記触媒材料の第2の質量割合は実質的に、前記触媒材料の第2の表面積割合に等しい、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記基板はセラミック材料を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
燃焼環境で使用するための触媒活性コーティングにおいて、
第1の着火温度を有するTBC組成物と、第2の着火温度を有する触媒材料とを含む第1の層を備えており、
該TBC組成物と触媒材料とは、基板上に同時堆積されていることを特徴とする、触媒活性コーティング。
【請求項8】
前記TBC組成物および触媒材料のうち少なくとも一方の一部は酸化された状態にあり、これによって、前記第1の着火温度または第2の着火温度と異なる第3の着火温度が得られる、請求項7記載の触媒活性コーティング。
【請求項9】
さらに、TBC組成物を含み同時堆積された触媒材料を含まない第2の層が、前記基板と第1の層との間に挿入されている、請求項7記載の触媒活性コーティング。
【請求項10】
前記第1の層はさらに、前記基板の長さにわたって、前記TBC組成物と触媒材料との表面積の相対的なパーセンテージの勾配を有する、請求項7記載の触媒活性コーティング。
【請求項11】
前記TBC組成物はイットリウム安定化ジルコニアを含み、
前記触媒材料は貴金属を含む、請求項7記載の触媒活性コーティング。
【請求項12】
前記第1の層はさらに、酸化された状態の前記TBC組成物および触媒材料のうち少なくとも1つを含み、
該TBC組成物および触媒材料のうち少なくとも1つは、第3の着火温度を有する、請求項7記載の触媒活性コーティング。
【請求項13】
触媒エレメントにおいて、
基板と、第1の層とを有し、
該第1の層は、該基板の第1の部分上に配置された該第1の層の深さにわたって、TBC組成物および触媒材料を含むことを特徴とする、触媒エレメント。
【請求項14】
触媒材料から成る第2の層がさらに、前記基板の第2の部分上に配置されている、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項15】
TBC組成物から成る第3の層がさらに、前記基板の第3の部分上に配置されている、請求項14記載の触媒エレメント。
【請求項16】
前記第1の層はさらに、前記基板の第1の部分の長さにわたって配置された前記TBC組成物および触媒材料のそれぞれの表面積のパーセンテージの勾配を有する、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項17】
前記第1の層はさらに、500〜800℃の間の燃焼のステージで使用するための着火温度を有する酸化された触媒材料の相を有する、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項18】
前記第1の層はさらに、約500〜800℃の間の燃焼のステージで使用するための着火温度を有する酸化されたTBC組成物の相を有する、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項19】
前記第1の層はさらに、前記TBC組成物および触媒材料のそれぞれの着火温度と異なる着火温度を有するTBC組成物の酸化物と触媒材料の酸化物とを含む混合酸化物相を有する、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項20】
前記第1の層ではさらに、該第1の層の厚さにわたって前記触媒材料のパーセンテージが変化する、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項21】
さらに、同時堆積された触媒材料を含まないTBC組成物層が、前記基板と第1の層との間に配置されている、請求項13記載の触媒エレメント。
【請求項22】
前記TBC組成物はイットリウム安定化ジルコニアを含み、
前記触媒材料は貴金属を含む、請求項13記載の触媒エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−536074(P2007−536074A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511475(P2007−511475)
【出願日】平成17年5月3日(2005.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/015196
【国際公開番号】WO2005/120685
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(505428721)シーメンス パワー ジェネレーション インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Power Generation Inc.
【住所又は居所原語表記】4400Alafaya Trail,Orlando,Florida 32826,USA
【Fターム(参考)】