触覚センサ、タッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイス
【課題】指が接触板から受ける接線方向の力をセンシングできる触覚センサ並びにその触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイスを提供する。
【解決手段】触覚センサにおいて、指11が接触する接触板13と、接触板13の指が接触する側とは反対側の面に設けられた複数の電極からなる電極アレイ14と、指11と電極アレイ14との間の静電容量の空間分布をセンシングする静電容量分布検知手段15と、を備えた触覚センサにおいて、静電容量分布検知手段15のセンシング結果に基づいて前記静電容量の空間分布の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段16と、分布特徴量抽出手段16の抽出結果と、指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさと前記特徴量とを対応付ける予め設定されたデータ18と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段17と、を備える。
【解決手段】触覚センサにおいて、指11が接触する接触板13と、接触板13の指が接触する側とは反対側の面に設けられた複数の電極からなる電極アレイ14と、指11と電極アレイ14との間の静電容量の空間分布をセンシングする静電容量分布検知手段15と、を備えた触覚センサにおいて、静電容量分布検知手段15のセンシング結果に基づいて前記静電容量の空間分布の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段16と、分布特徴量抽出手段16の抽出結果と、指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさと前記特徴量とを対応付ける予め設定されたデータ18と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段17と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルディスプレイやポインティングデバイスなどに用いられる触覚センサ、並びに、その触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
指でタッチパネルに直接ふれてGUI(Graphical User Interface)操作を行うタッチパネルディスプレイを備えたインタフェースデバイスが広く普及してきている。指でタッチパネルに触れて操作を行う場合には、指が柔軟なため指とタッチパネルとの接触範囲は広がった領域となり点とは見なせなくなる。そのため、指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置などを算出し、その位置を指とタッチパネルとの接触点とみなして指先位置としている。タッチパネルの指が触れる面とは反対側の面には複数の電極がパネル面に沿って設けられており、指は誘電体であるので指をタッチパネルに近づけるとタッチパネルの電極と指との間に静電容量が形成される。この静電容量は指に近い位置にある電極ほど増加するので、静電容量の変化を検知し検知結果を用いて指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置を算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タッチパネルディスプレイは、タッチパネルをタッチしている指の指先位置とディスプレイ上のカーソル位置とが一致することで直感的な操作をおこなえるデバイスである。しかしながら、指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置情報だけでは、目標位置へ指先を移動させた際に目標位置付近における指先位置とカーソル位置との位置関係の微調整を行うのが難しい。そのため、指先位置とカーソル位置とが一致せずに適切なポインティングがなされない虞がある。
【0004】
本願発明者らが行った鋭意研究から、指でタッチパネルをタッチした際に指がタッチパネルから受ける接線方向の力の大きさの情報を用いることで、目標位置付近における指先位置とカーソル位置との位置関係の微調整が行えることがわかった。指がタッチパネルから受ける接線方向の力の大きさをセンシングする手段としては、触覚センサを用いることが考えられる。
【0005】
特許文献1には、複数の感圧素子群と、感圧素子群の上に設けられた第1の板状弾性体と、第1の板状弾性体の上に設けられた複数の柱状体と、複数の柱状体の上に設けられた第2の板状弾性体と、第2の板状弾性体の上に設けられた複数の突起部とを具備した触覚センサが開示されている。特許文献1に記載の触覚センサにおいては、第2の板状弾性体の複数の突起部に外力が加わった場合、第2の板状弾性体が弾性変形し柱状体を介して感圧素子群のうちの一部の感圧素子において第1の板状弾性体が弾性変形するとともに、当該感圧素子の近くの別の感圧素子では第1の板状弾性体が弾性変形しないか若しくは変形量が小さくなる。そのため、その変形量を検出することにより、接線方向の力の大きさをセンシングすることが可能となるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の触覚センサでは、外力が加えられる複数の突起部が設けられた第2の板状弾性体を弾性変形させなければならない。そのため、特許文献1に記載の触覚センサでは、剛性を有する板状部材からなるタッチパネル上で前記接線方向の力の大きさをセンシングすることができないといった問題が生じる。
【0007】
また、本願発明者らは、パッド上を指でなぞることでディスプレイ上に表示されたカーソルの位置を指示するポインティングデバイスにおいても、指とパッドとの接触領域の重心の位置情報だけではなく、指がパッドから受ける接線方向の力の大きさの情報も用いることが好ましいことを見出した。しかしながら、ポインティングデバイスの指でなぞるパッド部分は剛性を有する板状部材からなるので、ポインティングデバイスにおいても上述したのと同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、剛性を有する板状部材から柔軟性を有する誘電体が受ける接線方向の力の大きさをセンシングできる触覚センサ、並びに、その触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、触覚センサにおいて、剛性を有する板状部材と、前記板状部材の一方の側面に沿って設けられた複数の電極と、前記板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、該板状部材を介して該誘電体と該複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段と、前記静電容量分布検知手段の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段と、該誘電体が該板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、前記分布特徴量抽出手段の抽出結果と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段と、を備えることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の触覚センサにおいて、上記所定の特徴量は、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量であることを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1または2の触覚センサにおいて、上記複数の電極が2次元のマトリクス状に配置されていることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、誘電体のタッチによる座標の入力を受けつける座標入力面と、該座標入力面が入力した座標にしたがって制御される画像を表示するディスプレイ画面とを備えるタッチパネルディスプレイにおいて、請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、表示手段上に表示されたポインタの位置を指示するポインティングデバイスにおいて、請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするものである。
【0010】
剛性を有する板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、前記誘電体と前記板状部材との接触状態によって前記板状部材を介して複数の電極と前記誘電体との間に形成される静電容量の分布状態が変化する。本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、前記静電容量の分布状態から抽出される所定の特徴量と、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力の大きさとの間に相関関係があることを見出した。
【0011】
本発明においては、前記板状部材を介して前記誘電体と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知手段が検知する。そして、その検知結果から分布特徴量抽出手段が前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する。その抽出した所定の特徴量と、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、に基づいて、接線力算出手段が前記接線方向の力の大きさを算出する。よって、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力をセンシングすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、剛性を有する板状部材から柔軟性を有する誘電体が受ける接線方向の力の大きさをセンシングできるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】触覚センサの概略構成図。
【図2】(a)指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示す模式図。(b)指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態における静電容量分布図。
【図3】(a)接触板に対し指を左に動かした状態を示す模式図。(b)接触板に対し指を左に動かした状態における静電容量分布図。
【図4】(a)接触板に対し指を右に動かした状態を示す模式図。(b)接触板に対し指を右に動かした状態における静電容量分布図。
【図5】(a)指を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。(b)接触板に対し指を左に動かした状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。(c)接触板に対し指を右に動かした状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。
【図6】分布の対称性からのズレ量(|Xp−Xc|)と接線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図7】接線力のキャリブレーションを行う際の説明図。
【図8】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図9】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図10】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図11】(a)指を接触板に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示す模式図。(b)指を接触板に対しまっすぐ下に押し付けた状態における静電容量分布図。
【図12】(a)図11(a)よりもさらに接触板に対して下方向に向かって指を押し付けた状態を示す模式図。(b)図12(a)の状態における静電容量分布図。
【図13】静電容量の総和と法線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図14】分布の特徴量と接線力・法線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図15】法線力のキャリブレーションを行う際の説明図。
【図16】2次元の静電容量の分布を示したグラフ。
【図17】本実施例で行われる処理の流れの一例を示したフローチャート。
【図18】ポインティングデバイスを備えたモバイル機器の模式図。
【図19】ポインティングデバイスに搭載される触覚センサの概略構成図。
【図20】タッチパネルディスプレイに搭載される触覚センサの概略構成図。
【図21】ユーザーが接線力Ftのキャリブレーションを行う場合の説明図。
【図22】ユーザーが法線力Fnのキャリブレーションを行う場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の触覚センサの一実施形態について説明する。
図1は、触覚センサ10の全体構成について説明する図である。
触覚センサ10は、指11と接触板(フロントガラス、ガラスに限らず指に比べ十分硬いオーバーレイ)13が接しており、接触板13をはさんで指11(断面を示してある)と対向して複数個並べられている電極アレイ14を備える。接触板13を挟んで電極アレイ14と誘電体である指11とでコンデンサが構成され、電極アレイ14と指11との間に静電容量の形成される。一般に面積S、距離dの平行平板導体の間に誘電率εの誘電体が均一に存在している場合の静電容量Cは、C=εS/dとなるので、電極アレイ14の各電極と指11との間に形成される静電容量は、指11から対向する電極アレイ14の各電極までの距離や面積によって変化する。すなわち、電極アレイ14の各電極と指11との間隔が狭まるほど、言い換えれば、指11が接触板13に近づくほど増加する。また、指11と接触板13との接触面積が増加するほど前記静電容量は増加する。
【0015】
各電極と指11との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15にて検知し、その静電容量の空間分布の特徴量を分布特徴量抽出装置16で抽出し、その分布の特徴量および、あらかじめ取得しておいたキャリブレーションデータ18から、接線力算出装置17にて接線力を算出する。
【0016】
次に、静電容量分布検知装置15によって検知された、各電極と指11との間に形成される静電容量の分布について説明する。なお、ここでは、説明を簡単にするために1次元の分布で説明する。図2(a)は、指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示しており、その際の各電極と指11との間に形成される静電容量の分布を図2(b)のグラフに示してある。また、図2(b)中のXiは電極アレイのi番目の電極位置であり、そこで検知される指11と電極間の静電容量をZiとする。
【0017】
図2(a)に示すように指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付け、指11を接触板13に対して図中左右方向にずらさない場合においては、指11と電極アレイ14の各電極との距離が図2(a)中でほぼ左右対称となるので、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布は、図2(b)に示すように左右対称に近い形となり、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpと静電容量の空間分布の重心位置を示す重心Xcとはほぼ一致している。
【0018】
通常の静電容量方式のタッチパネルにおいては、指11の位置の算出に数1に示すように指11の重心が用いられている。
【0019】
【数1】
【0020】
なお、指11と電極アレイ14間の静電容量を検知する方式としては、弛緩発振方式、チャージトランスファ方式、CSA方式(CapSense Successive Approximation)、直列容量分圧比較方式、シャント方式などが提案されており(参考文献:トランジスタ技術2008年2月号pp167〜172)、これらを用いても良い。
【0021】
次に、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図2(a)中左右方向(図2(b)のX軸に沿う方向)に指11をスライドさせた場合を考える。
【0022】
図3(a)では、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図3(a)中左方向に動かして、指11が接触板13から図3(a)中右方向の接線力Ftを受けている状態を示してある。
【0023】
この場合、接触板13と指11との接触状態が図3(a)中で左右対称ではなくなる。そのため、指11と電極アレイ14の各電極との距離も図3(a)中で左右非対称となり、図3(b)に示すように、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布のグラフも図3(b)中右側に偏った形となる。図3(b)では、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpが静電容量の空間分布の重心位置を示す重心XcよりもX軸方向で右側に位置する(Xc<Xp)。
【0024】
図4(a)では、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図4(a)中右方向に動かして、指11が接触板13から図4(a)中左方向の接線力Ftを受けている状態を示してある。
【0025】
この場合も、接触板13と指11との接触状態が図4(a)中で左右対称ではなくなる。そのため、指11と電極アレイ14の各電極との距離も図4(a)中で左右非対称となり図4(b)に示すように、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布のグラフも図4(b)中左側に偏った形となる。図4(b)では、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpが静電容量の空間分布の重心位置を示す重心XcよりもX軸方向で左側に位置する(Xc>Xp)。
【0026】
以上のことから、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布を示すグラフの形状との関係をまとめると、図5(a)、図5(b)、図5(c)に示したようになる。なお、図5(a)は指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付け、指11を接触板13に対して左右方向にずらさない場合(図2を参照)、図5(b)は指11を接触板13に対してまっすぐしたに押し付け、そのまま指11を左方向にスライドさせた場合(図3を参照)、図5(c)は指11を接触板13に対してまっすぐ押し付け、そのまま指を右方向に指11をスライドさせた場合(図4を参照)である。
【0027】
ここで、分布形状の対称性からのズレ量の一例として、|Xp−Xc|を考えると、図6に示すように、|Xp−Xc|と指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtとの間に、何らかの相関があると考えられる。
【0028】
事前のキャリブレーションにおいて、図6に示すような|Xp−Xc|と指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtとの関係(図1で示したキャリブレーションデータ18)を取得・保持しておけば、静電容量分布検知装置15によって検知された各電極と指11との間に形成される静電容量の分布から、指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtを得ることができる。
【0029】
<接線力のキャリブレーション>
図7に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器60の側端に力センサ50を取り付け、指11で壁70にモバイル機器60をゆっくり押し付ける動作をする。この際、モバイル機器60が床80から受ける摩擦が十分小さくなるようにモバイル機器60にローラ61を取り付けておけば、力センサ50の出力Ft´と指11の受ける接線力Ftは等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量をPとすると、既知の接線力Ftと、その際の静電容量の分布特徴量Pの曲線が一つ得られることになる。なお、静電容量の分布特徴量Pとしては、例えば、上述した分布形状の対称性からのズレ量|Xp−Xc|などである。
【0030】
ここで、使用する指を人差し指に限定すると、人によって指先の特性の違いが生じる。そのため、複数人に対して上述したような測定を実施し、例えば、図8に示すように曲線のパターンが分類されるとする。
【0031】
以上のようなデータを予め作成しておく。ユーザーが使用開始する際のキャリブレーションにおいては、後述する方法で(P,Ft)の組を測定し、上記曲線を推定する。(P,Ft)が図9中の丸印が位置する座標位置とするなら、このユーザーの指の特性は曲線Iを採用することで、任意の静電容量の分布特徴量Pから接線力Ftが得られる。
【0032】
また、例えば(P,Ft)が図10中の丸印が位置する座標位置であるならば、曲線Iと曲線IIの内挿で得られるカーブ(図中点線で示したカーブ)を用いることもできる。
【0033】
次に、指11が接触板13から法線方向に受ける法線力の大きさFnについて考える。
図11(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ押し付け、さらに図12(a)に示すように接触板13に対して下方向に向かって指11を押し付けると、指11と接触板13との接触面積が大きくなるため、静電容量分布検知装置15によって検知(センシング)される各静電容量Ziが、図12(b)に示すように、全体的に図11(b)よりも大きくなる。
【0034】
このことから、数2を用いて算出できる各電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、指11が接触板13から法線方向にうける法線力の大きさFnと、の間には図13に示すように何らかの関係があると考えられる。
【0035】
【数2】
【0036】
よって、事前のキャリブレーションにおいて、各電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、指11が接触板13から法線方向にうける法線力の大きさFnとの関係を取得・保持しておけば、静電容量分布検知装置15によって検知された各電極と指11との間に形成される静電容量の分布から法線力の大きさFnを得ることができる。
【0037】
さらに、電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、|Xp−Xc|との間にも何らか関連があることを考慮にいれれば、図14に示すような分布形状の特徴量から接線力の大きさFt・法線力の大きさFnを求めることができる。
【0038】
<法線力のキャリブレーション>
図15に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器60の背面と床80との間に力センサ50を配置し、指11で床80にモバイル機器60をゆっくり押し付ける動作をする。力の作用反作用によって力センサ50の出力Fn´と指11の受ける法線力Fnとは等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量をPとすると、既知の法線力Fnと、その際の静電容量の分布特徴量Pの曲線が一つ得られることになる。なお、静電容量の分布特徴量Pとしては、例えば、上述した静電容量の総和Z0などである。
【0039】
ここまで、各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布が1次元の例を挙げて説明したが、図16に示すように、マトリクス状の電極群による2次元の各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布であってもよい。この場合には、|Xp−Xc|の代わりに、下記数3とすれば、これまでと同様の議論が成り立つ。
【0040】
【数3】
【0041】
図17は、本実施形態で行われる処理の流れの一例を示したフローチャートである。
事前に作成してあるキャリブレーションデータを読み込み、メモリ上に保持する(S1)。次に、各電極アレイ14から検知された、指11と各電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15で検知する(S2)。静電容量分布検知装置15によって検知された静電容量の分布状態の特徴量を算出し(S3)、その算出した前記特徴量と前記キャリブレーションデータとから、指11が接触板13から受ける接線方向の力である接線力の大きさFtと、指11が接触板13から受ける法線方向の力である法線力の大きさFnとを接線力算出装置17などにより算出する(S4)。
【0042】
次に、図18に示すような、PDA100、モバイルパソコン101、携帯電話102などのモバイル機器に用いられるポインティングデバイス20に、本発明の触覚センサを搭載した場合について説明する。
【0043】
図1に示したのと同等の構成の触覚センサにおいて、図19に示した、静電容量分布検知装置、分布特徴量抽出装置、接線力算出装置及びキャリブレーションデータが記憶された記憶装置などからなるセンサ信号処理部22では、図17に示したフローチャートの処理が行われる。ポインティングデバイス20の接触板23を指先だけが乗せられる程度の大きさとし、接触板23に設ける電極を2次元のマトリクス状のもの(電極マトリクス24)とする。このようなモジュールからなる触覚センサを備えたポインティングデバイス20をモバイル機器に搭載し、それらの画面上でのカーソル移動に用いる。カーソル位置は、指先を接触板23の中央位置からずらした際に発生する接触板23から指21が受ける接線方向の力である接線力Ftを積分(加算)していくことで得られる。
【0044】
PDA(Personal Digital(Data) Assistants)、モバイルパソコン、携帯電話などのモバイル機器におけるポインティングデバイスとしては、タッチパッド(メーカーにより呼称は異なる)のように、画面に対応したある程度の領域で指先位置をセンシングし、画面上のマウスカーソルを移動させているので、パッドのサイズをある程度大きくする必要があり、小型化には向いていない。
【0045】
小型の機器においてはポインティングデバイスとしてポインティングスティック(メーカーにより呼称は異なる)を用いるのが一般的であるが、ポインティングスティックは変形・可動する機構を持つ圧力センサなどを用いて接線力をセンシングしカーソル移動をおこなっており、タッチパッドのように指をすべらせたり大きく動かす必要はなく小型が可能となっている。しかしながら、ポインティングスティックは可動部がある構造のため、劣化、キャリブレーション、汚れなどの問題がある。
【0046】
これに対し、本発明の触覚センサを搭載したポインティングデバイス20は、接触板23と電極群である電極マトリクス24という可動部の無いシンプルな構成であるため、ポインティングスティックのように小型化が可能で、且つ、タッチパッドのように薄型化、高い耐久性、清潔性が実現できるという効果が得られる。
【0047】
次に、PDA、モバイルパソコン、携帯電話などのモバイル機器などに用いられるタッチパネルディスプレイに、本発明の触覚センサを搭載した場合について説明する。
【0048】
図20に示すようにタッチパネルディスプレイ30は、表示パネル35、表示制御部37といった表示モジュールを備え、接触板として透明であるカバーガラス33を用い、カバーガラス33に設ける電極としてITO(Indium Tin Oxide)電極などの透明電極34を用いる。
【0049】
静電容量分布検知装置、分布特徴量抽出装置、接線力算出装置及びキャリブレーションデータが記憶された記憶装置などからなるセンサ信号処理部36では、図17に示したフローチャートの処理が行われ、従来同等の指先位置は静電容量分布の重心位置Xcから得られ、力情報(カバーガラス33から指31が受ける接線方向の力である接線力Ft、カバーガラス33から指31が受ける法線方向の力である法線力Fn)は上述の通り静電容量の分布の特徴量(ずれ量及び総和)から算出される。
【0050】
また、例えば、大きなカーソル移動は従来通り重心位置Xcでおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftの加算による移動をおこなってもよい。
【0051】
タッチパネルディスプレイは、タッチしている指先位置と表示画面上のカーソル位置が一致しており、直感的な操作を売りにしているデバイスであるが、目標位置・軌跡への指先移動において位置情報だけでは指先位置とカーソル位置との微妙な調整をすることが難しいという問題点がある。
【0052】
本発明の触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ30においては、透明化した上記ポインティングデバイスと同等の機能をタッチする画面領域全体に付加することが可能となる。
【0053】
小さい接線力Ftに対してはカーソルがゆっくり動き、大きな接線力Ftではカーソルが大きく動くという動作を行うとする。
2次元の例で示すと、数4のようになる。
【数4】
【0054】
時刻tでのカーソル位置はこれを積分して、数5のようになる。
【数5】
【0055】
さらに、離散化すると、数6のようになる。
【数6】
【0056】
定数αはユーザーの好みによって可変にしておくこともできる。
【0057】
以上のような動作にしておくことで、カーソルが所望の目標位置に接近して行くにしたがって、ユーザーが接線力Ftを調整(徐々に小さく)することで、目標位置に精度良く停止させることができる。
【0058】
これにより、大きなカーソル移動は従来通り重心位置でおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftによる移動をさせることで、より細やかな操作を実現することが可能となる。
【0059】
ここで、本発明の触覚センサ10が設けられた、ポインティングデバイスやタッチパネルディスプレイを備えたモバイル機器90を、ユーザーが用いる場合に行う簡易的なキャリブレーション方法の一例について説明する。
まず、ユーザーが接線力Ftのキャリブレーションを行う場合には、図21に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器90を壁70に押し付け、指11で落ちないように支える。壁70から受ける摩擦が無視できるほど十分小さくなるようなしくみ、例えば、モバイル機器90の背面にローラ91を設置しておけば、接線力Ftはモバイル機器全体の重さMg(質量M、重力加速度g)と等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量Pと既知のMg(=Ft´=Ft)の組み(P,Ft)が一つ得られることになる。その後の処理は上述した「<接線力のキャリブレーション>」と同じ処理を行う。
【0060】
次に、ユーザーが法線力Fnのキャリブレーションを行う場合には、図22に示すように前述のモバイル機器90を触覚センサ10の11と接する側の面が床80に面するように、言い換えれば、重力方向下方に向くようにして、モバイル機器90が水平になるように指11の腹に乗せる。力の作用反作用によりモバイル機器90の重さMgがそのまま法線力Fnとなるので、これにより静電容量の分布特徴量Pと既知のMg(=Fn´=Fn)の組(P,Fn)が一つ得られることになる。その後の処理は上述した「<法線力のキャリブレーション>」と同じ処理を行う。
【0061】
以上、本実施形態によれば、触覚センサ10において、剛性を有する板状部材である接触板13と、接触板13の一方の側面に沿って設けられた複数の電極である電極アレイ14と、接触板13の電極アレイ14が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体である指11を接触させた際、接触板13を介して指11と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段である静電容量分布検知装置15と、静電容量分布検知装置15の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段である分布特徴量抽出装置16と、前記分布特徴量抽出装置16の抽出結果と、指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさと前記特徴量とを対応付ける予め設定されたデータであるキャリブレーションデータ18と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段である接線力算出装置17と、を備える。これにより、接触板13を介して指11と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15が検知する。そして、その検知結果から分布特徴量抽出装置16が前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する。その抽出した所定の特徴量とキャリブレーションデータ18とに基づいて、接線力算出装置17が前記接線方向の力の大きさを算出する。よって、触覚センサ10により指11が接触板13から受ける接線方向の力をセンシングすることができる。
また、本実施形態によれば、上記所定の特徴量としては、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量を用いればよい。
また、本実施形態によれば、電極アレイ14が2次元のマトリクス状に配置されている場合でも指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさをセンシングすることができる。
また、本実施形態によれば、タッチパネルディスプレイに本発明の触覚センサを用いることで、上述したように、大きなカーソル移動は従来通り重心位置でおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftによる移動をさせることで、より細やかな操作を実現することが可能となる。
また、本実施形態によれば、ポインティングデバイスに本発明の触覚センサを用いることで、接触板と電極群という可動部の無いシンプルな構造であるため、ポインティングスティックのように小型化が可能で、且つ、タッチパッドのように薄型化、高い耐久力、清潔性が実現できる。
【0062】
なお、本実施形態においては、触覚センサ10の接触板13に指11を接触させる場合について説明したが、接触板13に接触させた際に変形可能な柔軟性を有する誘電体(誘電率が大きなものが好ましい)であれば接触板13に接触させるものとしては指11に限るものではなく、上述したのと同様の種々の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
10 触覚センサ
11 指
13 接触板
14 電極アレイ
15 静電容量分布検知装置
16 分布特徴量抽出装置
17 接線力算出装置
18 キャリブレーションデータ
20 ポインティングデバイス
21 指
22 センサ信号処理部
23 接触板
24 電極マトリクス
30 タッチパネルディスプレイ
31 指
33 カバーガラス
34 透明電極
35 表示パネル
36 センサ信号処理部
37 表示制御部
50 力センサ
60 モバイル機器
61 ローラ
70 壁
80 床
90 モバイル機器
91 ローラ
101 モバイルパソコン
102 携帯電話
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】特開2006−250705号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルディスプレイやポインティングデバイスなどに用いられる触覚センサ、並びに、その触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
指でタッチパネルに直接ふれてGUI(Graphical User Interface)操作を行うタッチパネルディスプレイを備えたインタフェースデバイスが広く普及してきている。指でタッチパネルに触れて操作を行う場合には、指が柔軟なため指とタッチパネルとの接触範囲は広がった領域となり点とは見なせなくなる。そのため、指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置などを算出し、その位置を指とタッチパネルとの接触点とみなして指先位置としている。タッチパネルの指が触れる面とは反対側の面には複数の電極がパネル面に沿って設けられており、指は誘電体であるので指をタッチパネルに近づけるとタッチパネルの電極と指との間に静電容量が形成される。この静電容量は指に近い位置にある電極ほど増加するので、静電容量の変化を検知し検知結果を用いて指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置を算出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
タッチパネルディスプレイは、タッチパネルをタッチしている指の指先位置とディスプレイ上のカーソル位置とが一致することで直感的な操作をおこなえるデバイスである。しかしながら、指とタッチパネルとの接触領域の重心の位置情報だけでは、目標位置へ指先を移動させた際に目標位置付近における指先位置とカーソル位置との位置関係の微調整を行うのが難しい。そのため、指先位置とカーソル位置とが一致せずに適切なポインティングがなされない虞がある。
【0004】
本願発明者らが行った鋭意研究から、指でタッチパネルをタッチした際に指がタッチパネルから受ける接線方向の力の大きさの情報を用いることで、目標位置付近における指先位置とカーソル位置との位置関係の微調整が行えることがわかった。指がタッチパネルから受ける接線方向の力の大きさをセンシングする手段としては、触覚センサを用いることが考えられる。
【0005】
特許文献1には、複数の感圧素子群と、感圧素子群の上に設けられた第1の板状弾性体と、第1の板状弾性体の上に設けられた複数の柱状体と、複数の柱状体の上に設けられた第2の板状弾性体と、第2の板状弾性体の上に設けられた複数の突起部とを具備した触覚センサが開示されている。特許文献1に記載の触覚センサにおいては、第2の板状弾性体の複数の突起部に外力が加わった場合、第2の板状弾性体が弾性変形し柱状体を介して感圧素子群のうちの一部の感圧素子において第1の板状弾性体が弾性変形するとともに、当該感圧素子の近くの別の感圧素子では第1の板状弾性体が弾性変形しないか若しくは変形量が小さくなる。そのため、その変形量を検出することにより、接線方向の力の大きさをセンシングすることが可能となるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の触覚センサでは、外力が加えられる複数の突起部が設けられた第2の板状弾性体を弾性変形させなければならない。そのため、特許文献1に記載の触覚センサでは、剛性を有する板状部材からなるタッチパネル上で前記接線方向の力の大きさをセンシングすることができないといった問題が生じる。
【0007】
また、本願発明者らは、パッド上を指でなぞることでディスプレイ上に表示されたカーソルの位置を指示するポインティングデバイスにおいても、指とパッドとの接触領域の重心の位置情報だけではなく、指がパッドから受ける接線方向の力の大きさの情報も用いることが好ましいことを見出した。しかしながら、ポインティングデバイスの指でなぞるパッド部分は剛性を有する板状部材からなるので、ポインティングデバイスにおいても上述したのと同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、剛性を有する板状部材から柔軟性を有する誘電体が受ける接線方向の力の大きさをセンシングできる触覚センサ、並びに、その触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ及びポインティングデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、触覚センサにおいて、剛性を有する板状部材と、前記板状部材の一方の側面に沿って設けられた複数の電極と、前記板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、該板状部材を介して該誘電体と該複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段と、前記静電容量分布検知手段の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段と、該誘電体が該板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、前記分布特徴量抽出手段の抽出結果と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段と、を備えることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の触覚センサにおいて、上記所定の特徴量は、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量であることを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1または2の触覚センサにおいて、上記複数の電極が2次元のマトリクス状に配置されていることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、誘電体のタッチによる座標の入力を受けつける座標入力面と、該座標入力面が入力した座標にしたがって制御される画像を表示するディスプレイ画面とを備えるタッチパネルディスプレイにおいて、請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、表示手段上に表示されたポインタの位置を指示するポインティングデバイスにおいて、請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするものである。
【0010】
剛性を有する板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、前記誘電体と前記板状部材との接触状態によって前記板状部材を介して複数の電極と前記誘電体との間に形成される静電容量の分布状態が変化する。本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、前記静電容量の分布状態から抽出される所定の特徴量と、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力の大きさとの間に相関関係があることを見出した。
【0011】
本発明においては、前記板状部材を介して前記誘電体と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知手段が検知する。そして、その検知結果から分布特徴量抽出手段が前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する。その抽出した所定の特徴量と、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、に基づいて、接線力算出手段が前記接線方向の力の大きさを算出する。よって、前記誘電体が前記板状部材から受ける接線方向の力をセンシングすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、剛性を有する板状部材から柔軟性を有する誘電体が受ける接線方向の力の大きさをセンシングできるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】触覚センサの概略構成図。
【図2】(a)指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示す模式図。(b)指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態における静電容量分布図。
【図3】(a)接触板に対し指を左に動かした状態を示す模式図。(b)接触板に対し指を左に動かした状態における静電容量分布図。
【図4】(a)接触板に対し指を右に動かした状態を示す模式図。(b)接触板に対し指を右に動かした状態における静電容量分布図。
【図5】(a)指を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。(b)接触板に対し指を左に動かした状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。(c)接触板に対し指を右に動かした状態における、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、静電容量の分布形状との関係を示したグラフ。
【図6】分布の対称性からのズレ量(|Xp−Xc|)と接線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図7】接線力のキャリブレーションを行う際の説明図。
【図8】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図9】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図10】静電容量の分布特徴量Pと接線力Ftとの関係を示すグラフ。
【図11】(a)指を接触板に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示す模式図。(b)指を接触板に対しまっすぐ下に押し付けた状態における静電容量分布図。
【図12】(a)図11(a)よりもさらに接触板に対して下方向に向かって指を押し付けた状態を示す模式図。(b)図12(a)の状態における静電容量分布図。
【図13】静電容量の総和と法線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図14】分布の特徴量と接線力・法線力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図15】法線力のキャリブレーションを行う際の説明図。
【図16】2次元の静電容量の分布を示したグラフ。
【図17】本実施例で行われる処理の流れの一例を示したフローチャート。
【図18】ポインティングデバイスを備えたモバイル機器の模式図。
【図19】ポインティングデバイスに搭載される触覚センサの概略構成図。
【図20】タッチパネルディスプレイに搭載される触覚センサの概略構成図。
【図21】ユーザーが接線力Ftのキャリブレーションを行う場合の説明図。
【図22】ユーザーが法線力Fnのキャリブレーションを行う場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の触覚センサの一実施形態について説明する。
図1は、触覚センサ10の全体構成について説明する図である。
触覚センサ10は、指11と接触板(フロントガラス、ガラスに限らず指に比べ十分硬いオーバーレイ)13が接しており、接触板13をはさんで指11(断面を示してある)と対向して複数個並べられている電極アレイ14を備える。接触板13を挟んで電極アレイ14と誘電体である指11とでコンデンサが構成され、電極アレイ14と指11との間に静電容量の形成される。一般に面積S、距離dの平行平板導体の間に誘電率εの誘電体が均一に存在している場合の静電容量Cは、C=εS/dとなるので、電極アレイ14の各電極と指11との間に形成される静電容量は、指11から対向する電極アレイ14の各電極までの距離や面積によって変化する。すなわち、電極アレイ14の各電極と指11との間隔が狭まるほど、言い換えれば、指11が接触板13に近づくほど増加する。また、指11と接触板13との接触面積が増加するほど前記静電容量は増加する。
【0015】
各電極と指11との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15にて検知し、その静電容量の空間分布の特徴量を分布特徴量抽出装置16で抽出し、その分布の特徴量および、あらかじめ取得しておいたキャリブレーションデータ18から、接線力算出装置17にて接線力を算出する。
【0016】
次に、静電容量分布検知装置15によって検知された、各電極と指11との間に形成される静電容量の分布について説明する。なお、ここでは、説明を簡単にするために1次元の分布で説明する。図2(a)は、指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付けた状態を示しており、その際の各電極と指11との間に形成される静電容量の分布を図2(b)のグラフに示してある。また、図2(b)中のXiは電極アレイのi番目の電極位置であり、そこで検知される指11と電極間の静電容量をZiとする。
【0017】
図2(a)に示すように指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付け、指11を接触板13に対して図中左右方向にずらさない場合においては、指11と電極アレイ14の各電極との距離が図2(a)中でほぼ左右対称となるので、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布は、図2(b)に示すように左右対称に近い形となり、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpと静電容量の空間分布の重心位置を示す重心Xcとはほぼ一致している。
【0018】
通常の静電容量方式のタッチパネルにおいては、指11の位置の算出に数1に示すように指11の重心が用いられている。
【0019】
【数1】
【0020】
なお、指11と電極アレイ14間の静電容量を検知する方式としては、弛緩発振方式、チャージトランスファ方式、CSA方式(CapSense Successive Approximation)、直列容量分圧比較方式、シャント方式などが提案されており(参考文献:トランジスタ技術2008年2月号pp167〜172)、これらを用いても良い。
【0021】
次に、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図2(a)中左右方向(図2(b)のX軸に沿う方向)に指11をスライドさせた場合を考える。
【0022】
図3(a)では、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図3(a)中左方向に動かして、指11が接触板13から図3(a)中右方向の接線力Ftを受けている状態を示してある。
【0023】
この場合、接触板13と指11との接触状態が図3(a)中で左右対称ではなくなる。そのため、指11と電極アレイ14の各電極との距離も図3(a)中で左右非対称となり、図3(b)に示すように、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布のグラフも図3(b)中右側に偏った形となる。図3(b)では、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpが静電容量の空間分布の重心位置を示す重心XcよりもX軸方向で右側に位置する(Xc<Xp)。
【0024】
図4(a)では、図2(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ下に押し付け、そのまま指11を図4(a)中右方向に動かして、指11が接触板13から図4(a)中左方向の接線力Ftを受けている状態を示してある。
【0025】
この場合も、接触板13と指11との接触状態が図4(a)中で左右対称ではなくなる。そのため、指11と電極アレイ14の各電極との距離も図4(a)中で左右非対称となり図4(b)に示すように、静電容量分布検知装置15によって検知される各電極と指11との間に形成される静電容量の分布のグラフも図4(b)中左側に偏った形となる。図4(b)では、静電容量の値がピークとなる電極位置を示すピークXpが静電容量の空間分布の重心位置を示す重心XcよりもX軸方向で左側に位置する(Xc>Xp)。
【0026】
以上のことから、重心XcとピークXpとの大小関係、及び、各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布を示すグラフの形状との関係をまとめると、図5(a)、図5(b)、図5(c)に示したようになる。なお、図5(a)は指11を接触板13に対しまっすぐ下に押し付け、指11を接触板13に対して左右方向にずらさない場合(図2を参照)、図5(b)は指11を接触板13に対してまっすぐしたに押し付け、そのまま指11を左方向にスライドさせた場合(図3を参照)、図5(c)は指11を接触板13に対してまっすぐ押し付け、そのまま指を右方向に指11をスライドさせた場合(図4を参照)である。
【0027】
ここで、分布形状の対称性からのズレ量の一例として、|Xp−Xc|を考えると、図6に示すように、|Xp−Xc|と指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtとの間に、何らかの相関があると考えられる。
【0028】
事前のキャリブレーションにおいて、図6に示すような|Xp−Xc|と指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtとの関係(図1で示したキャリブレーションデータ18)を取得・保持しておけば、静電容量分布検知装置15によって検知された各電極と指11との間に形成される静電容量の分布から、指11が接触板13から受ける接線力の大きさFtを得ることができる。
【0029】
<接線力のキャリブレーション>
図7に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器60の側端に力センサ50を取り付け、指11で壁70にモバイル機器60をゆっくり押し付ける動作をする。この際、モバイル機器60が床80から受ける摩擦が十分小さくなるようにモバイル機器60にローラ61を取り付けておけば、力センサ50の出力Ft´と指11の受ける接線力Ftは等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量をPとすると、既知の接線力Ftと、その際の静電容量の分布特徴量Pの曲線が一つ得られることになる。なお、静電容量の分布特徴量Pとしては、例えば、上述した分布形状の対称性からのズレ量|Xp−Xc|などである。
【0030】
ここで、使用する指を人差し指に限定すると、人によって指先の特性の違いが生じる。そのため、複数人に対して上述したような測定を実施し、例えば、図8に示すように曲線のパターンが分類されるとする。
【0031】
以上のようなデータを予め作成しておく。ユーザーが使用開始する際のキャリブレーションにおいては、後述する方法で(P,Ft)の組を測定し、上記曲線を推定する。(P,Ft)が図9中の丸印が位置する座標位置とするなら、このユーザーの指の特性は曲線Iを採用することで、任意の静電容量の分布特徴量Pから接線力Ftが得られる。
【0032】
また、例えば(P,Ft)が図10中の丸印が位置する座標位置であるならば、曲線Iと曲線IIの内挿で得られるカーブ(図中点線で示したカーブ)を用いることもできる。
【0033】
次に、指11が接触板13から法線方向に受ける法線力の大きさFnについて考える。
図11(a)に示すように指11を接触板13に対してまっすぐ押し付け、さらに図12(a)に示すように接触板13に対して下方向に向かって指11を押し付けると、指11と接触板13との接触面積が大きくなるため、静電容量分布検知装置15によって検知(センシング)される各静電容量Ziが、図12(b)に示すように、全体的に図11(b)よりも大きくなる。
【0034】
このことから、数2を用いて算出できる各電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、指11が接触板13から法線方向にうける法線力の大きさFnと、の間には図13に示すように何らかの関係があると考えられる。
【0035】
【数2】
【0036】
よって、事前のキャリブレーションにおいて、各電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、指11が接触板13から法線方向にうける法線力の大きさFnとの関係を取得・保持しておけば、静電容量分布検知装置15によって検知された各電極と指11との間に形成される静電容量の分布から法線力の大きさFnを得ることができる。
【0037】
さらに、電極間と指11との間に形成される静電容量の総和Z0と、|Xp−Xc|との間にも何らか関連があることを考慮にいれれば、図14に示すような分布形状の特徴量から接線力の大きさFt・法線力の大きさFnを求めることができる。
【0038】
<法線力のキャリブレーション>
図15に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器60の背面と床80との間に力センサ50を配置し、指11で床80にモバイル機器60をゆっくり押し付ける動作をする。力の作用反作用によって力センサ50の出力Fn´と指11の受ける法線力Fnとは等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量をPとすると、既知の法線力Fnと、その際の静電容量の分布特徴量Pの曲線が一つ得られることになる。なお、静電容量の分布特徴量Pとしては、例えば、上述した静電容量の総和Z0などである。
【0039】
ここまで、各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布が1次元の例を挙げて説明したが、図16に示すように、マトリクス状の電極群による2次元の各電極間と指11との間に形成される静電容量の分布であってもよい。この場合には、|Xp−Xc|の代わりに、下記数3とすれば、これまでと同様の議論が成り立つ。
【0040】
【数3】
【0041】
図17は、本実施形態で行われる処理の流れの一例を示したフローチャートである。
事前に作成してあるキャリブレーションデータを読み込み、メモリ上に保持する(S1)。次に、各電極アレイ14から検知された、指11と各電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15で検知する(S2)。静電容量分布検知装置15によって検知された静電容量の分布状態の特徴量を算出し(S3)、その算出した前記特徴量と前記キャリブレーションデータとから、指11が接触板13から受ける接線方向の力である接線力の大きさFtと、指11が接触板13から受ける法線方向の力である法線力の大きさFnとを接線力算出装置17などにより算出する(S4)。
【0042】
次に、図18に示すような、PDA100、モバイルパソコン101、携帯電話102などのモバイル機器に用いられるポインティングデバイス20に、本発明の触覚センサを搭載した場合について説明する。
【0043】
図1に示したのと同等の構成の触覚センサにおいて、図19に示した、静電容量分布検知装置、分布特徴量抽出装置、接線力算出装置及びキャリブレーションデータが記憶された記憶装置などからなるセンサ信号処理部22では、図17に示したフローチャートの処理が行われる。ポインティングデバイス20の接触板23を指先だけが乗せられる程度の大きさとし、接触板23に設ける電極を2次元のマトリクス状のもの(電極マトリクス24)とする。このようなモジュールからなる触覚センサを備えたポインティングデバイス20をモバイル機器に搭載し、それらの画面上でのカーソル移動に用いる。カーソル位置は、指先を接触板23の中央位置からずらした際に発生する接触板23から指21が受ける接線方向の力である接線力Ftを積分(加算)していくことで得られる。
【0044】
PDA(Personal Digital(Data) Assistants)、モバイルパソコン、携帯電話などのモバイル機器におけるポインティングデバイスとしては、タッチパッド(メーカーにより呼称は異なる)のように、画面に対応したある程度の領域で指先位置をセンシングし、画面上のマウスカーソルを移動させているので、パッドのサイズをある程度大きくする必要があり、小型化には向いていない。
【0045】
小型の機器においてはポインティングデバイスとしてポインティングスティック(メーカーにより呼称は異なる)を用いるのが一般的であるが、ポインティングスティックは変形・可動する機構を持つ圧力センサなどを用いて接線力をセンシングしカーソル移動をおこなっており、タッチパッドのように指をすべらせたり大きく動かす必要はなく小型が可能となっている。しかしながら、ポインティングスティックは可動部がある構造のため、劣化、キャリブレーション、汚れなどの問題がある。
【0046】
これに対し、本発明の触覚センサを搭載したポインティングデバイス20は、接触板23と電極群である電極マトリクス24という可動部の無いシンプルな構成であるため、ポインティングスティックのように小型化が可能で、且つ、タッチパッドのように薄型化、高い耐久性、清潔性が実現できるという効果が得られる。
【0047】
次に、PDA、モバイルパソコン、携帯電話などのモバイル機器などに用いられるタッチパネルディスプレイに、本発明の触覚センサを搭載した場合について説明する。
【0048】
図20に示すようにタッチパネルディスプレイ30は、表示パネル35、表示制御部37といった表示モジュールを備え、接触板として透明であるカバーガラス33を用い、カバーガラス33に設ける電極としてITO(Indium Tin Oxide)電極などの透明電極34を用いる。
【0049】
静電容量分布検知装置、分布特徴量抽出装置、接線力算出装置及びキャリブレーションデータが記憶された記憶装置などからなるセンサ信号処理部36では、図17に示したフローチャートの処理が行われ、従来同等の指先位置は静電容量分布の重心位置Xcから得られ、力情報(カバーガラス33から指31が受ける接線方向の力である接線力Ft、カバーガラス33から指31が受ける法線方向の力である法線力Fn)は上述の通り静電容量の分布の特徴量(ずれ量及び総和)から算出される。
【0050】
また、例えば、大きなカーソル移動は従来通り重心位置Xcでおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftの加算による移動をおこなってもよい。
【0051】
タッチパネルディスプレイは、タッチしている指先位置と表示画面上のカーソル位置が一致しており、直感的な操作を売りにしているデバイスであるが、目標位置・軌跡への指先移動において位置情報だけでは指先位置とカーソル位置との微妙な調整をすることが難しいという問題点がある。
【0052】
本発明の触覚センサを備えたタッチパネルディスプレイ30においては、透明化した上記ポインティングデバイスと同等の機能をタッチする画面領域全体に付加することが可能となる。
【0053】
小さい接線力Ftに対してはカーソルがゆっくり動き、大きな接線力Ftではカーソルが大きく動くという動作を行うとする。
2次元の例で示すと、数4のようになる。
【数4】
【0054】
時刻tでのカーソル位置はこれを積分して、数5のようになる。
【数5】
【0055】
さらに、離散化すると、数6のようになる。
【数6】
【0056】
定数αはユーザーの好みによって可変にしておくこともできる。
【0057】
以上のような動作にしておくことで、カーソルが所望の目標位置に接近して行くにしたがって、ユーザーが接線力Ftを調整(徐々に小さく)することで、目標位置に精度良く停止させることができる。
【0058】
これにより、大きなカーソル移動は従来通り重心位置でおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftによる移動をさせることで、より細やかな操作を実現することが可能となる。
【0059】
ここで、本発明の触覚センサ10が設けられた、ポインティングデバイスやタッチパネルディスプレイを備えたモバイル機器90を、ユーザーが用いる場合に行う簡易的なキャリブレーション方法の一例について説明する。
まず、ユーザーが接線力Ftのキャリブレーションを行う場合には、図21に示すように、触覚センサ10を搭載したモバイル機器90を壁70に押し付け、指11で落ちないように支える。壁70から受ける摩擦が無視できるほど十分小さくなるようなしくみ、例えば、モバイル機器90の背面にローラ91を設置しておけば、接線力Ftはモバイル機器全体の重さMg(質量M、重力加速度g)と等しくなる。これにより、静電容量の分布特徴量Pと既知のMg(=Ft´=Ft)の組み(P,Ft)が一つ得られることになる。その後の処理は上述した「<接線力のキャリブレーション>」と同じ処理を行う。
【0060】
次に、ユーザーが法線力Fnのキャリブレーションを行う場合には、図22に示すように前述のモバイル機器90を触覚センサ10の11と接する側の面が床80に面するように、言い換えれば、重力方向下方に向くようにして、モバイル機器90が水平になるように指11の腹に乗せる。力の作用反作用によりモバイル機器90の重さMgがそのまま法線力Fnとなるので、これにより静電容量の分布特徴量Pと既知のMg(=Fn´=Fn)の組(P,Fn)が一つ得られることになる。その後の処理は上述した「<法線力のキャリブレーション>」と同じ処理を行う。
【0061】
以上、本実施形態によれば、触覚センサ10において、剛性を有する板状部材である接触板13と、接触板13の一方の側面に沿って設けられた複数の電極である電極アレイ14と、接触板13の電極アレイ14が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体である指11を接触させた際、接触板13を介して指11と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段である静電容量分布検知装置15と、静電容量分布検知装置15の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段である分布特徴量抽出装置16と、前記分布特徴量抽出装置16の抽出結果と、指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさと前記特徴量とを対応付ける予め設定されたデータであるキャリブレーションデータ18と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段である接線力算出装置17と、を備える。これにより、接触板13を介して指11と前記複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を静電容量分布検知装置15が検知する。そして、その検知結果から分布特徴量抽出装置16が前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する。その抽出した所定の特徴量とキャリブレーションデータ18とに基づいて、接線力算出装置17が前記接線方向の力の大きさを算出する。よって、触覚センサ10により指11が接触板13から受ける接線方向の力をセンシングすることができる。
また、本実施形態によれば、上記所定の特徴量としては、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量を用いればよい。
また、本実施形態によれば、電極アレイ14が2次元のマトリクス状に配置されている場合でも指11が接触板13から受ける接線方向の力の大きさをセンシングすることができる。
また、本実施形態によれば、タッチパネルディスプレイに本発明の触覚センサを用いることで、上述したように、大きなカーソル移動は従来通り重心位置でおこない、目標位置付近の小さな微調整は接線力Ftによる移動をさせることで、より細やかな操作を実現することが可能となる。
また、本実施形態によれば、ポインティングデバイスに本発明の触覚センサを用いることで、接触板と電極群という可動部の無いシンプルな構造であるため、ポインティングスティックのように小型化が可能で、且つ、タッチパッドのように薄型化、高い耐久力、清潔性が実現できる。
【0062】
なお、本実施形態においては、触覚センサ10の接触板13に指11を接触させる場合について説明したが、接触板13に接触させた際に変形可能な柔軟性を有する誘電体(誘電率が大きなものが好ましい)であれば接触板13に接触させるものとしては指11に限るものではなく、上述したのと同様の種々の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
10 触覚センサ
11 指
13 接触板
14 電極アレイ
15 静電容量分布検知装置
16 分布特徴量抽出装置
17 接線力算出装置
18 キャリブレーションデータ
20 ポインティングデバイス
21 指
22 センサ信号処理部
23 接触板
24 電極マトリクス
30 タッチパネルディスプレイ
31 指
33 カバーガラス
34 透明電極
35 表示パネル
36 センサ信号処理部
37 表示制御部
50 力センサ
60 モバイル機器
61 ローラ
70 壁
80 床
90 モバイル機器
91 ローラ
101 モバイルパソコン
102 携帯電話
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】特開2006−250705号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性を有する板状部材と、
前記板状部材の一方の側面に沿って設けられた複数の電極と、
前記板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、該板状部材を介して該誘電体と該複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段と、
前記静電容量分布検知手段の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段と、
該誘電体が該板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、前記分布特徴量抽出手段の抽出結果と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段と、
を備えることを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
請求項1の触覚センサにおいて、
上記所定の特徴量は、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量であることを特徴とする触覚センサ。
【請求項3】
請求項1または2の触覚センサにおいて、
上記複数の電極が2次元のマトリクス状に配置されていることを特徴とする触覚センサ。
【請求項4】
誘電体のタッチによる座標の入力を受けつける座標入力面と、
該座標入力面が入力した座標にしたがって制御される画像を表示するディスプレイ画面とを備えるタッチパネルディスプレイにおいて、
請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするタッチパネルディスプレイ。
【請求項5】
表示手段上に表示されたポインタの位置を指示するポインティングデバイスにおいて、
請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするポインティングデバイス。
【請求項1】
剛性を有する板状部材と、
前記板状部材の一方の側面に沿って設けられた複数の電極と、
前記板状部材の前記複数の電極が設けられた側面とは反対側の側面に柔軟性を有する誘電体を接触させた際、該板状部材を介して該誘電体と該複数の電極との間に形成される静電容量の分布状態を検知する静電容量分布検知手段と、
前記静電容量分布検知手段の検知結果に基づいて前記静電容量の分布状態の所定の特徴量を抽出する分布特徴量抽出手段と、
該誘電体が該板状部材から受ける接線方向の力の大きさと前記所定の特徴量とを対応付ける予め設定されたデータと、前記分布特徴量抽出手段の抽出結果と、に基づいて前記接線方向の力の大きさを算出する接線力算出手段と、
を備えることを特徴とする触覚センサ。
【請求項2】
請求項1の触覚センサにおいて、
上記所定の特徴量は、前記複数の電極の内の静電容量の値が最も大きい値を示す電極の位置と、前記静電容量の空間分布の重心位置との位置ずれ量であることを特徴とする触覚センサ。
【請求項3】
請求項1または2の触覚センサにおいて、
上記複数の電極が2次元のマトリクス状に配置されていることを特徴とする触覚センサ。
【請求項4】
誘電体のタッチによる座標の入力を受けつける座標入力面と、
該座標入力面が入力した座標にしたがって制御される画像を表示するディスプレイ画面とを備えるタッチパネルディスプレイにおいて、
請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするタッチパネルディスプレイ。
【請求項5】
表示手段上に表示されたポインタの位置を指示するポインティングデバイスにおいて、
請求項1、2または3の触覚センサを備えることを特徴とするポインティングデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−33404(P2011−33404A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178185(P2009−178185)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]