説明

記録方法、及びこれに用いられる光硬化型インクセット

【課題】LEDタックフリー性、インクの色安定性、及びクリアインクの透明性に優れた、記録方法及びこれに用いられる光硬化型インクセットを提供する。
【解決手段】重合性化合物、光重合開始剤、及び色材を含有する光硬化型カラーインク組成物並びに重合性化合物及び光重合開始剤を含有する光硬化型クリアインク組成物からなる光硬化型インクセットを用いた記録方法であって、前記光硬化型カラーインク組成物は、(1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と、該カラーインク組成物の総質量に対して0.5〜4質量%の(2)チオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかと、を含み、前記光硬化型クリアインク組成物は、該クリアインク組成物の総質量に対して5〜12質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含み、該インクセットから形成した塗膜を光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーが100〜800mJ/cm2である、記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法、及びこれに用いられる光硬化型インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人物写真などの美観を高める目的で、特に硬化性及び審美性に優れたインクを用いることが求められており、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1のインクを吐出させた後、第2のインクが吐出される前に第1のインクを仮硬化させることを特徴とするシングルパス方式のインクジェット記録装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、フェニル基に複数のアルキル基を導入し、カルボン酸若しくはスルホン酸をペンダントしたアルキルフェノン系光開始剤、又はベンジルケタール系光開始剤を含む水系の光重合性組成物を、320nm〜380nmに主波長を有する発光ダイオードを用いて硬化することを特徴とする光硬化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−285854号公報
【特許文献2】特開2009−138150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1や特許文献2に開示されたインクを用いると、硬化性(LEDタックフリー性)又は審美性(インクの色安定性及びクリアインクの透明性)に劣る場合があるという問題が生じる。そのため、依然として、上記の硬化性及び審美性に優れた塗膜を形成する光硬化型インク組成物が強く求められている。
【0007】
そこで、本発明は、LEDタックフリー性、インクの色安定性、及びクリアインクの透明性に優れ、そのうちでも特にインクの色安定性、及びクリアインクの透明性に優れた、記録方法及びこれに用いられる光硬化型インクセットを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、所定の組成を有する光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物からなる光硬化型インクセットを用い、該インクセットから形成した塗膜を光照射により本硬化する際の照射エネルギーを所定範囲とする記録方法が、LEDタックフリー性、インクの色安定性、及びクリアインクの透明性に優れ、さらに画像の品質(画質)にも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1]
重合性化合物、光重合開始剤、及び色材を含有する光硬化型カラーインク組成物並びに重合性化合物及び光重合開始剤を含有する光硬化型クリアインク組成物からなる光硬化型インクセットを用いた記録方法であって、
前記光硬化型カラーインク組成物は、(1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と、該カラーインク組成物の総質量に対して0.5〜4質量%の(2)チオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかと、を含み、
前記光硬化型クリアインク組成物は、該クリアインク組成物の総質量に対して5〜12質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含み、
該インクセットから形成した塗膜を光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーが100〜800mJ/cm2である、記録方法。
【0011】
[2]
被記録媒体に前記光硬化型カラーインク組成物による第1の塗膜を形成し、前記第1の塗膜に前記光硬化型クリアインク組成物による第2の塗膜を形成する、[1]に記載の記録方法。
【0012】
[3]
前記前記光硬化型カラーインク組成物は、該カラーインク組成物の総質量に対して1〜4質量%のチオキサントン系光重合開始剤を含む、[1]又は[2]に記載の記録方法。
【0013】
[4]
前記光源が、水銀ランプ又はメタルハライドランプである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の記録方法。
【0014】
[5]
前記光硬化型クリアインク組成物に対して、前記光源からの照射エネルギーで光を照射する前に、仮硬化用光源から光を照射する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の記録方法。
【0015】
[6]
前記仮硬化用光源が発光ダイオードである、[5]記載の記録方法。
【0016】
[7]
被記録媒体をプリントヘッドに対して相対的に走査させながら、前記光硬化型インクセットを前記プリントヘッドから吐出し、前記被記録媒体に着弾させて形成した塗膜を光照射により硬化することによって画像を形成する記録方法であって、
前記光硬化型カラーインク組成物を前記被記録媒体に吐出して着弾させることにより、前記被記録媒体上に第1の塗膜を形成する第1の塗膜形成工程と、
前記第1の塗膜を第1の光照射により仮硬化させる第1の仮硬化工程と、
前記被記録媒体及び前記第1の塗膜の一部又は全部のうち少なくともいずれかに前記光硬化型クリアインク組成物を吐出することにより、前記被記録媒体上及び前記第1の塗膜の一部上又は全部上のうち少なくともいずれかに第2の塗膜を形成する第2の塗膜形成工程と、
前記第2の塗膜を第2の光照射により仮硬化させる第2の仮硬化工程と、
仮硬化した前記第1の塗膜と前記第2の塗膜とを前記光源からの光照射により本硬化する本硬化工程と、を含む、請求項[1]〜[6]のいずれか1項に記載の記録方法。
【0017】
[8]
前記第1の仮硬化工程における転化率が、30〜95%である、[7]に記載の記録方法。
【0018】
[9]
前記第2の仮硬化工程における転化率が、30〜100%である、[7]又は[8]に記載の記録方法。
【0019】
[10]
前記光源が、発光ダイオードである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の記録方法。
【0020】
[11]
ラインインクジェットプリンターを用いて記録を行なう[1]〜[3]のいずれか1項に記載の記録方法。
【0021】
[12]
シリアルインクジェットプリンターを用いて記録を行なう[1]〜[3]のいずれ1項に記載の記録方法。
【0022】
[13]
主走査によって被記録媒体へ付着されたインクに対して、当該主走査及び当該主走査より後の主走査によって照射が行なわれる、[12]に記載の記録方法。
【0023】
[14]
シアンインク組成物の照射エネルギーとクリアインク組成物の照射エネルギーとが異なる、[12]又は[13]に記載の記録方法。
【0024】
[15]
[1]〜[14]のいずれか1項に記載の記録方法に用いられる、前記光硬化型カラーインク組成物及び前記光硬化型クリアインク組成物を含む光硬化型インクセット。
【0025】
[16]
[1]〜[14]のいずれか1項に記載の記録方法により記録を行なう記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態において使用するラインプリンターの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態である記録方法を表すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態であるシリアルプリンターの構成の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
本明細書において、「タックフリー性」とは、綿棒で擦っても擦過痕がつかないことをいう。より詳細にいえば、記録物の面(硬化膜)に指で触れてみて、その膜表面の粘性(タック)により、膜が指に付着しなくなるまでの時間によって評価される性質をいい、その時間をタックフリータイム又は指触乾燥時間ともいう。タックフリー性に優れるとは、この時間がより短いことをいう。「LEDタックフリー性」とは、発光ダイオード(LED)を用いて行った仮硬化後の前記タックフリー性をいう。「色安定性」とは、CIE Lab(L***表色系)におけるL***が、印刷後経時的に見ても印刷直後のL***から殆ど変化しない性質をいう。「透明性」とは、硬化膜において黄変や青みなどの変色が目立たない性質をいう。「硬化性」とは、光の照射により、光重合開始剤の存在下又は不存在下で重合硬化する性質をいう。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。
【0029】
また、本明細書において、「カラーインク」とは、被記録媒体に色を付与するために用いるインクであって、あらゆる有色のインクを指す。「クリアインク」とは、被記録媒体に色を付与するために用いるインクではなく、被記録媒体に光沢性を付与するなどの目的で用いるインクであって、一般的には無色透明又はほぼ無色透明のインクである。「転化率」とは、インク組成物に含まれる重合性化合物が硬化物へ転化する率を意味し、光照射によるインク組成物の硬化度と換言することができる。「仮硬化」とは、インクの仮留め(ピニング)を意味し、ドットのブリードや混色を防止するために、本硬化の前に硬化させることを言い、一般に、仮硬化における転化率は仮硬化の後で行う本硬化による転化率よりも低い。「本硬化」とは、被記録媒体上に形成されたドットを、印刷物を使用するのに必要な硬化状態まで硬化させることをいう。
また、「本硬化用光源」とは本硬化に用いる光源を意味し、「仮硬化用光源」とは、仮硬化に用いる光源を意味する。
【0030】
また、本明細書において、「duty」とは、下式で算出される値であり、印字dutyないし印字率と換言することができる。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。また、「duty100%」とは単位画素当たりの単色の最大インク重量を意味する。)
【0031】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0032】
[記録方法]
本発明の一実施形態は、記録方法に係る。当該記録方法は、所定の組成を有する光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物からなる光硬化型インクセット(以下、「特定の光硬化型インクセット」ともいう。)を用い、且つ当該インクセットから形成した塗膜を光照射により本硬化する際の照射エネルギーが200〜800mJ/cm2である、記録方法である。
【0033】
〔記録装置〕
以下、本実施形態の記録方法に用いられる記録装置を詳細に説明する。
図1は、本実施形態で使用する記録装置の一例であるラインプリンターの構成を示すブロック図である。図2は、図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【0034】
(1.装置構成)
図1に示すように、本実施形態のプリンター1は、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0035】
プリンター1は、放射線(光)の照射により硬化する光硬化型インク組成物を吐出することにより、被記録媒体上に画像を形成する装置である。
ここで、本明細書における「被記録媒体上」とは、被記録媒体の表面上、及び、当該表面の上方に位置することを意味する。
【0036】
上記のプリンター1(記録装置)は、被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送ユニット20(搬送部)と、光硬化型カラーインク組成物を前記被記録媒体に吐出するヘッドユニット30の一部(第1のプリントヘッド)と、前記被記録媒体に着弾した前記カラーインク組成物からなる第1の塗膜を第1の光照射により仮硬化させる照射ユニット40の一部(第1の仮硬化用照射部)と、前記第1の仮硬化用照射部よりも前記搬送方向の下流側に配置され、少なくとも前記第1の塗膜の一部に、光硬化型クリアインク組成物を吐出するヘッドユニット30の一部(第2のプリントヘッド)と、仮硬化した前記第1の塗膜と少なくとも前記第1の塗膜の前記一部に着弾した前記クリアインク組成物からなる第2の塗膜とを第2の光照射により仮硬化させる照射ユニット40の一部(第2の仮硬化用照射部)と、仮硬化した前記第1の塗膜と仮硬化した前記第2の塗膜を本硬化用光源からの光照射により本硬化させる照射ユニット40の一部(本硬化用照射部)と、を備える。これに加えて、上記のプリンター1(記録装置)は、任意に、検出器群50及びコントローラー60を有する。なお、上記の第1の光照射及び第2の光照射とは、いずれも仮硬化用光源からの光照射を意味する。
【0037】
搬送ユニット20は、被記録媒体を搬送方向に搬送させるためのものである。搬送ユニット20は、図2に示すように、例えば、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bと、ベルト24と、を有する。
【0038】
ヘッドユニット30は、被記録媒体に向けて光硬化型インク組成物を吐出するためのものである。
【0039】
照射ユニット40は、被記録媒体S上に着弾した光硬化型インク組成物のドットに向けて光を照射するものである。本実施形態における照射ユニット40は、ブリードを抑制することができ、かつ、混色を防止することができるため、後述の図2に示すような態様で、第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fと本硬化用照射部44とを備えることが好ましい。
【0040】
検出器群50は、必要に応じてロータリー式エンコーダー(図示せず)及び紙検出センサー(図示せず)等を備える。
【0041】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御部であり、コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、を有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU62は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。ユニット制御回路64は、メモリー63に格納されているプログラムに従ったCPU62の制御に基づいて各ユニット(各部)を制御するものである。
【0042】
プリンター1は、上記のとおり、少なくとも、先に吐出される光硬化型カラーインク組成物(以下、単に「カラーインク組成物」ともいう。)と、後に吐出される光硬化型クリアインク組成物(以下、単に「クリアインク組成物」ともいう。)と、を用いて、画像を形成可能(印刷を実行可能)に構成されている。
【0043】
図2は、プリンター1において印刷に関連する構成を概略的に示した図である。図2は、カラーインク組成物が1種単独又は2種以上の組み合わせからなる態様を例示する。図2の態様において、カラーインク組成物が2種以上の組み合わせからなる場合、各色のカラーインク組成物用のプリントヘッド(図示せず)(以下、単に「ヘッド」ともいう。)が、図2のヘッドCOLORの位置に、搬送方向に対し上流側から下流側に順番に並んでいるものとする。具体例として、図2のヘッドCOLORの位置に、上流側から、ブラックインクヘッド、シアンインクヘッド、マゼンタインクヘッド、及びイエローインクヘッドの各ヘッドが順番に設けられる。そして、図2に示すように、搬送方向の上流側から順に、上記のカラーヘッドCOLOR、クリアインクヘッドCLが設けられる。
【0044】
図2に示す態様において、第1の仮硬化用照射部42eは、ヘッドCOLORの搬送方向下流側に設けられている。また、この第1の仮硬化用照射部42eの他、クリアインクヘッドCLの搬送方向下流側に第2の仮硬化用照射部42fが設けられている。さらに、この第2の仮硬化用照射部42fの搬送方向下流側に本硬化用照射部44が設けられている。
【0045】
(2.装置動作)
外部装置であるコンピューター110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニット(各部)、即ち搬送ユニット20、ヘッドユニット30、及び照射ユニット40を制御して、印刷データに従い、被記録媒体上に画像を形成する。コントローラー60は、コンピューター110から受信した印刷データに基づいて、各部を制御し、被記録媒体上に画像を形成する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各部を制御する。
【0046】
搬送ユニット20においては、搬送モーター(図示せず)が回転すると、図2に示した上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bが回転し、ベルト24が移動する。給紙ローラー(図示せず)によって給紙された被記録媒体Sは、ベルト24によって、記録可能な領域(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。そして、この領域を通過した被記録媒体Sは、ベルト24によって外部へ排紙される。
【0047】
このとき、搬送ユニット20(走査部)は、被記録媒体Sをヘッドユニット30(ヘッド)に対して相対的に搬送方向(走査方向)に走査させながら、インク(後述の光硬化型インクセット)をヘッドユニット30から吐出する。被記録媒体Sの搬送を行わずにヘッドユニット30を被記録媒体Sに対して移動させる走査を行いながらインクの吐出を行わせてもよい。ここで、被記録媒体Sがヘッドユニット30に対して移動する走査を行う場合は被記録媒体Sが搬送されていく側が下流であり、ヘッドユニット30が被記録媒体Sに対して移動する走査を行う場合は、ヘッドユニット30が移動していく方向が上流側である。
【0048】
なお、搬送中の被記録媒体Sは、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されていてもよい。また、本明細書では便宜上、「給紙」という文言を用いているが、本実施形態における被記録媒体Sとしては、後述の被記録媒体を用いることができる。
【0049】
ヘッドユニット30は、画像を形成するための光硬化型インク組成物として、カラーインク組成物及びクリアインク組成物を少なくとも吐出する。
【0050】
ヘッドユニット30は、搬送中の被記録媒体Sに対して各インクを吐出することによって、被記録媒体S上にドットを形成し(インクを着弾させて)、塗膜が形成されて画像を形成する。プリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは被記録媒体の幅相当のドットを形成することができる。
【0051】
照射ユニット40において、被記録媒体S上に形成されたドット(着弾したインク)は、照射ユニット40から光照射を受けることにより、硬化する。
【0052】
図2に示した第1の仮硬化用照射部42eは、被記録媒体S上に形成された第1の塗膜に相当するドットを、その上にクリアインク組成物が着弾する前に仮硬化させるための第1の光照射をする。この第1の仮硬化用照射部では、仮硬化を行うことができればよいため、ドット(液滴)の少なくとも一部、例えばドット表面が硬化されればよい。この仮硬化を行うことにより、インクの滲みを防止することができる。
【0053】
また、図2に示した第2の仮硬化用照射部42fは、クリアインクについて第2の光照射をして迅速に仮硬化することにより、カラーインク及びクリアインクのブリードを確実に抑制可能なものである。なお、図2において第2の仮硬化用照射部42fを設けずクリアインクに本硬化用照射部44のみを照射してもよい。
【0054】
図2に示した本硬化用照射部44は、前記被記録媒体に着弾した前記カラーインク組成物及び前記クリアインク組成物を本硬化用光源からの光照射により本硬化させる。換言すれば、本硬化用照射部44は、被記録媒体S上に形成されたドット(第1の塗膜、及びクリアインク組成物による第2の塗膜)をほぼ完全に硬化(本硬化)させるための光照射を行う。また、被記録媒体Sの幅方向における本硬化用照射部44の長さは被記録媒体Sの幅以上である。そして、本硬化用照射部44は、ヘッドユニット30の各ヘッドによって形成されたドットに光を照射する。
【0055】
本硬化用照射部44は、本硬化用光源として、LED又はランプを有する。当該ランプとして、特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、及び高圧水銀ランプが挙げられる。
【0056】
第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fは、仮硬化用光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を有する。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することができる。
【0057】
本硬化用照射部44による本硬化の光照射エネルギーは、本硬化を1回で行う場合、光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物の間で共通となる。他方、光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物の間で本硬化の光照射エネルギーを相違させるためには、各インク組成物を被記録媒体に着弾させた後に本硬化をその都度行う必要がある。しかし、本硬化を2回以上行った場合、煩雑になると共に記録方法の工程が複雑になるため、本硬化は1回行うのが好ましい。そこで、本硬化を1回で行うことができるようにするため、光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物はセットとして用いることが好ましい。
なお、本明細書において、仮硬化(ピニング)時に光源から照射される照射エネルギーは、本硬化時のそれと比較して波長が異なる(非常に小さい)ことなどから、上記の本硬化時の照射エネルギーとは区別される。
【0058】
上記の本硬化時の照射エネルギー、すなわち後述の光硬化型インクセットから形成した塗膜を本硬化用光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーは、100〜800mJ/cm2であり、200〜800mJ/cm2が好ましく、250〜750mJ/cm2がより好ましく、300〜700mJ/cm2が特に好ましい。上記の照射エネルギーに関する詳細は後述する。
【0059】
プリンター1が、図2に示すように、クリアインクヘッドCLと本硬化用照射部44との間に、第2の仮硬化用照射部42fをさらに備えることにより、カラーインク及びクリアインクの間のブリード(混色)を効果的に抑制することができる。
【0060】
検出器群50に備えられ得るロータリー式エンコーダーは、上流側搬送ローラー23Aや下流側搬送ローラー23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダーの検出結果に基づいて、被記録媒体Sの搬送量を検出することができる。また、検出器群50に備えられ得る紙検出センサーは、給紙中の被記録媒体Sの先端の位置を検出する。
なお、コントローラー60を構成する各部の動作については、上述のとおりである。
【0061】
コンピューター110は、プリンタードライバーをインストールするものである。プリンタードライバーは、表示装置(図示せず)にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データ(画像形成データ)に変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどのコンピューターが読み取り可能な被記録媒体に記録されている。あるいは、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
そして、コンピューター110は、プリンター1に画像を形成させるため、当該画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0062】
なお、上記で説明してきた本実施形態におけるプリンター(記録装置)としては、プリンター1のようなラインプリンターの他に後述のシリアルプリンターが挙げられる。これらはプリンターの方式が異なる。簡潔にいえば、ラインプリンターは、ヘッドが移動せずに固定されて印刷が行われるものである。一方、シリアルプリンターは、ヘッドが被記録媒体の搬送方向と交差した方向に往復移動(シャトル移動)しながら印刷が行われるものである。
これらの中でもラインプリンターにおいては、被記録媒体に対してヘッドを所定の方向に一度走査(シングルパス)するだけで画像が形成される。被記録媒体が所定の搬送方向に搬送される場合、相対的に、その搬送方向の逆方向にヘッドが走査される。換言すれば、ラインプリンターにおいては、記録の際にヘッドの下方を被記録媒体が一度しか通過しない。これは、一般にシングルパスプリントと称される。
【0063】
(3.変形例)
ヘッドユニット30は、吐出するカラーインク組成物が2種以上存在する場合、図2を用いて説明したような態様には限られない。例えば、ヘッドユニット30は、互いに異なるカラーインク組成物を吐出する複数のヘッドが搬送方向に順番に並んでいるような態様であってもよい。この変形例において、各カラーインク組成物のヘッドはそれぞれ、接触して互いに隣り合うように配置されてもよく、又は間隔を空けて配置されてもよい。
【0064】
また、各カラーインク組成物のヘッドがそれぞれ、間隔を空けて配置される場合、各ヘッド同士の間に、第1の仮硬化用照射部を備えてもよい。つまり、照射ユニット40において、各カラーインク組成物のヘッド及び第1の仮硬化用照射部を交互に備えてもよい。換言すると、第1の仮硬化用照射部が各インク色のヘッドの搬送方向下流側にそれぞれ設けられる。
【0065】
図2の態様及び上記の変形例において、プリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは被記録媒体の幅相当のドットを一度に形成することができる。
【0066】
一方、本発明の記録方法はシリアルプリンターで行ってもよい。この場合、例えば、特開2003−341021号公報のように、キャリッジに設けられたヘッドと仮硬化用光源によりインク組成物の吐出と仮硬化を行い、その後、キャリッジよりも搬送方向下流に設けられた本硬化用光源により本硬化を行えばよい。
【0067】
〔記録方法の各工程〕
以下、本実施形態の記録方法を構成する工程を詳細に説明する。
当該記録方法は、上記の記録装置を用いて行われるものであって、被記録媒体を搬送方向に搬送させながら、光硬化型インク組成物を前記被記録媒体に着弾させて形成した塗膜(ドット)を光照射により硬化することによって、画像を形成するものである。その際、当該記録方法は、下記の各工程を実施することにより行われる。図3は、本実施形態の記録方法を表すフローチャートである。
【0068】
図3に示すように、上記の各工程は、第1の塗膜形成工程(S1)と、第1の仮硬化工程(S2)と、第2の塗膜形成工程(S3)と、第2の仮硬化工程(S4)と、本硬化工程(S5)を含む。以下、各工程を詳細に説明する。
なお、各工程において、対応する記録装置の部位の項で既に説明した内容は省略する。
【0069】
(第1の塗膜形成工程)
上記の第1の塗膜形成工程(S1)においては、光硬化型カラーインク組成物を被記録媒体に吐出して着弾させることにより、前記被記録媒体上に第1の塗膜を形成する。
この第1の塗膜形成工程(S1)は、上記のプリンター1(記録装置)におけるヘッドユニット30で行われる。より具体的にいえば、当該工程は、搬送方向の上流側に位置するヘッドで行われる。第1の塗膜形成工程(S1)は、例えば、図2に示す態様においては、カラーインクヘッドCOLORで行われる。
【0070】
また、カラーインク組成物の液滴重量は、特に限定されないが、1ng〜20ngであることが好ましく、カラーインク組成物の解像度は、特に限定されないが、720dpi×720dpi〜1440dpi×1440dpiであることが好ましい。
【0071】
さらに、カラーインク組成物を被記録媒体上に塗布(印刷)する際の膜厚は、良好な硬化性が得られるため、5〜10μmが好ましい。
【0072】
(第1の仮硬化工程)
上記の第1の仮硬化工程(S2)においては、前記第1の塗膜を第1の光照射により仮硬化させる。
この第1の仮硬化工程(S2)は、上記のプリンター1(記録装置)における照射ユニット40の第1の仮硬化用照射部42e(図2)で行われる。
【0073】
本明細書における転化率は、赤外吸収(IR)分光法(Infrared spectroscopy)により測定された値を用いる。すなわち、IR分光法によりインク組成物中の二重結合量を測定すると、転化率が高いほど重合反応が進行するため二重結合量は少なくなるので、転化率はその二重結合が減少した割合で表される。
【0074】
第1の仮硬化工程(S2)における上記の転化率としては、カラーインクとクリアインクの交じり合いを抑制するため、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。一方、転化率の上限について言うと、第1の仮硬化工程はカラーインクとクリアインクの混色を防止するためのものであるが、カラーインクの転化率が高すぎると硬化したカラーインクの上にクリアインクを吐出したときに、クリアインクのハジキが発生する場合がある。したがって、仮硬化によるカラーインクの転化率を95%以下とすることが好ましい。
【0075】
第1の仮硬化工程(S2)は、第1の光照射の光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を用いることができる。上述のとおり、LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。
【0076】
第1の仮硬化工程(S2)におけるLEDは、好ましくは350nm〜450nmの範囲、より好ましくは380nm〜450nmの範囲にピーク波長を持つ。LEDが上記範囲内にピーク波長を持つと、コストの低下という有利な効果が得られる。
【0077】
仮硬化の光照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、紫外線照射エネルギーとして好ましくは300mJ/cm2以下であり、より好ましくは5〜200mJ/cm2である。紫外線照射エネルギーが上記範囲内であると、ブリードが抑制され、かつ、その照射後のカラーインク上にさらにインクを塗布した際に、塗布されたインクのハジキが抑制される。
【0078】
(第2の塗膜形成工程)
上記の第2の塗膜形成工程(S3)においては、上記被記録媒体及び上記第1の塗膜の一部又は全部のうち少なくともいずれかに光硬化型クリアインク組成物を吐出して着弾させることにより、上記被記録媒体上及び上記第1の塗膜の一部上又は全部上のうち少なくともいずれかに第2の塗膜を形成する。つまり、第1の塗膜の一部上又は全部上に第2の塗膜が形成される場合、光硬化型インクセットを構成するカラーインクとクリアインクとが(ほぼ)重なった画像を形成することができる。また、被記録媒体上に第2の塗膜が形成される場合、光硬化型インクセットを構成するカラーインクとクリアインクとが重ならない別々の画像を形成することができる。さらに、被記録媒体上及び上記第1の塗膜の一部上又は全部上に第2の塗膜が形成される場合、光硬化型インクセットを構成するカラーインクとクリアインクとが重なったパターンと、重ならない別々のパターンと、からなる画像を形成することができる。
【0079】
この第2の塗膜形成工程(S3)は、上記のプリンター1(記録装置)におけるヘッドユニット30で行われる。より具体的にいえば、図2に示す態様において、当該工程は、搬送方向の下流側に位置するクリアインクヘッドCLで行われる。
ここで、クリアインク組成物のdutyは、特に制限されない。
【0080】
また、クリアインク組成物を被記録媒体上に塗布(印刷)する際の膜厚は、良好な硬化性が得られるため、3〜15μmが好ましい。
【0081】
(第2の仮硬化工程)
上記の第2の仮硬化工程(S4)においては、前記第2の塗膜を第2の光照射により仮硬化させる。クリアインク組成物に対して、後述の本硬化工程において本硬化用光源からの照射エネルギーで光を照射する前に、この第2の仮硬化工程において仮硬化用光源から光を照射することが好ましい。これにより、カラーインクとクリアインクの混じり合い(ブリーディング)を抑制できる。
【0082】
この第2の仮硬化工程(S4)は、上記のプリンター1(記録装置)における照射ユニット40の第2の仮硬化用照射部42f(図2)で行われる。
【0083】
第2の仮硬化工程(S4)における上記の転化率としては、カラーインクとクリアインクの交じり合いを抑制するため、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。
【0084】
第2の仮硬化工程(S4)は、第2の光照射の光源、すなわち仮硬化用光源としてLEDを用いることが好ましい。上述のとおり、LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。
【0085】
第2の仮硬化工程(S4)におけるLEDは、好ましくは350nm〜450nmの範囲、より好ましくは380nm〜450nmの範囲にピーク波長を持つ。LEDが上記範囲内にピーク波長を持つと、コストの低下という有利な効果が得られる。
【0086】
仮硬化の光照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、紫外線照射エネルギーとして好ましくは300mJ/cm2以下であり、より好ましくは5〜200mJ/cm2である。紫外線照射エネルギーが上記範囲内であると、ブリードが抑制される。
【0087】
(本硬化工程)
上記の本硬化工程(S5)においては、仮硬化した前記第1の塗膜と前記第2の塗膜とを本硬化用光源からの光照射により硬化させて画像を形成する。
この本硬化工程(S5)は、上記のプリンター1(記録装置)における照射ユニット40の本硬化用照射部44で行われる。本硬化用照射部44で用いられ得る本硬化用光源からの光照射の光源としては、上記のとおり、LED又はランプが挙げられる。当該ランプとして、特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、及び低圧水銀ランプや高圧水銀ランプ等の水銀ランプが挙げられ、中でも十分な硬化性が得られるため、水銀ランプ又はメタルハライドランプが好ましい。
【0088】
本硬化工程における照射エネルギー、すなわち後述の光硬化型インクセットから形成した塗膜を本硬化用光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーは、上記のとおり、200〜800mJ/cm2であり、250〜750mJ/cm2が好ましく、300〜700mJ/cm2がより好ましい。その照射エネルギーが200mJ/cm2以上であると、クリアインクの硬化膜の透明性が良好なものとなる。一方、その照射エネルギーが800mJ/cm2以下であると、良好な色安定性が得られる。
なお、クリアインクの本硬化工程とカラーインクの本硬化工程を同時に行う場合は、クリアインクの照射エネルギーとカラーインクの照射エネルギーを同一の照射エネルギーとすることができ、特に好ましいが、クリアインクの本硬化工程とカラーインクの本硬化工程とを別々に行なう場合は、クリアインクの照射エネルギーとカラーインクの照射エネルギーを異ならせることも可能である。ただし、この場合であっても、クリアインクの本硬化工程とカラーインクの本硬化工程に用いる本硬化光源の種類や本硬化工程に要する時間を近いものとして記録装置や記録方法を簡単なものとするために、クリアインクの本硬化工程の照射エネルギーとカラーインクの本硬化工程の照射エネルギーはそれぞれ、上述の範囲のものとする。
また、本明細書における照射エネルギーは、塗膜の硬化後の膜厚を10μmとして評価を行ったときの照射エネルギーを意味する。
ここで、本実施形態における上記の照射エネルギーは、本硬化用光源からの照射エネルギーであって、仮硬化用光源からの照射エネルギーを一切考慮していない。その理由は、光源の種類の違いに起因する波長の違いにある。
【0089】
なお、本実施形態においては、前述の第1の仮硬化工程及び第2の仮硬化工程を行わずに、本硬化工程を行っても良い。つまり、前述の第1の塗膜工程において形成した第1の塗膜に、前述の第2の塗膜形成工程において第2の塗膜を形成する際に、該第1の塗膜は前述の第1の仮硬化工程が行なわれたものであっても行なわれないものであっても良い。第1の仮硬化工程及び第2の仮硬化工程を行わない場合は、第1の塗膜形成工程及び第2の塗膜形成工程を行なってから早い段階で本硬化工程を行うことなどにより、ブリード(滲み)を低減することが可能である。例えば、塗膜形成工程の完了後、1秒以内、好ましくは0.1秒以内に本硬化工程を行えばよい。
また、第1の仮硬化及び第2の仮硬化を行う場合、及び第1の仮硬化及び第2の仮硬化を行わずに本硬化を行う場合といずれも、塗膜形成工程の完了後、1秒以内、好ましくは0.1秒以内に、最初の硬化工程を行うことが好ましい。
あるいは、ブリードが問題にならない用途に本実施形態を用いれば良い。
【0090】
第1の仮硬化工程及び第2の仮硬化工程を行わずに本硬化工程を行う場合は、図2のインクジェットプリンターにおいて、仮硬化用照射部42e及び42fをOFFとして記録を行なったり、仮硬化用照射部を設けずに記録を行なったりすればよい。本実施形態において、第1の仮硬化工程及び第2の仮硬化工程を行う場合あるいは行なわない場合において、「本硬化」を単に「硬化」、「本硬化用光源」を「光源」、「本硬化用照射部」を「照射部」、「本硬化工程」を「硬化工程」とも言う。
また、前述のシリアルプリンターで本実施形態を行なう場合において、第1の仮硬化工程及び第2の仮硬化工程を行わずに本硬化工程を行う場合は、例えば、キャリッジにおいて、インクを吐出するヘッドの主走査方向の下流側に設けた光源によって、インクを吐出する主走査と同じ主走査にて、硬化(本硬化)を行えばよい。
【0091】
(各照射部の照射強度)
各照射部による照射エネルギーは、当該照射部の照射強度に照射継続時間を掛けたものとして求めることができる。照射において、照射部の照射強度は一定であり、照射継続時間を調整することで、照射エネルギーを調整することが好ましい。照射継続時間の調整は、照射部が被記録媒体に対して相対的な走査を行なう際の照射速度や照射面積を調整することでおこなうことができる。仮硬化用照射部の照射強度は、100〜2000mW/cm2とすることが好ましく、100〜1000mW/cm2とすることがより好ましく、100〜500mW/cm2とすることが特に好ましい。一方、本硬化用光源の照射強度は100〜2000mW/cm2とすることが好ましく、500〜2000mW/cm2とすることがより好ましく、800〜2000mW/cm2とすることが特に好ましい。本硬化用光源には、水銀ランプ又はメタルハライドランプの他に、発光ダイオードを用いることもできる。
【0092】
[光硬化型インクセット]
本発明の一実施形態は、上記実施形態の記録方法に用いられる光硬化型インクセットに係る。当該光硬化型インクセット(特定の光硬化型インクセット)は、所定の組成を有する光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物からなる。
【0093】
〔光硬化型カラーインク組成物〕
光硬化型インクセットを構成する光硬化型カラーインク組成物は、重合性化合物、光重合開始剤、及び色材を含有し、前記光重合開始剤として、(1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と、(2)チオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかと、を含む。これに加えて、当該カラーインク組成物に含まれるチオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかの含有量が、該カラーインク組成物の総質量(100質量%)に対して、所定量含まれることを特徴とする。
【0094】
〔光硬化型クリアインク組成物〕
一方、光硬化型インクセットを構成する光硬化型クリアインク組成物は、重合性化合物及び光重合開始剤を含有し、前記光重合開始剤としてアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む。これに加えて、当該クリアインク組成物に含まれるアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が、該クリアインク組成物の総質量に対して、所定量含まれることを特徴とする。
【0095】
以下、本実施形態における光硬化型カラーインク組成物及び光硬化型クリアインク組成物(以下、これらをまとめて単に「インク組成物」ともいう。)に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0096】
〔光重合開始剤〕
本実施形態におけるインク組成物に含まれる光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。放射線の中でも紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。
【0097】
(アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤)
本実施形態のカラーインク組成物及びクリアインク組成物は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む。これにより、LEDタックフリー性に優れる。
【0098】
このアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を構成するアシルフォスフィンオキサイド化合物として、特に限定されないが、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリエチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリフェニルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0099】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、及びCGI403(ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド)が挙げられる。
【0100】
(チオキサントン系光重合開始剤)
本実施形態のカラーインク組成物は、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と共にチオキサントン系光重合開始剤を含み得る。これにより、LEDタックフリー性に優れる。
【0101】
チオキサントン系光重合開始剤を構成するチオキサントン化合物としては、特に限定されないが、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、及び2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。
【0102】
チオキサントン化合物の市販品としては、例えば、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)、及びKAYACURE ITX(2−/4−イソプロピルチオキサントン)などが挙げられ、2,4−ジエチルチオキサントンが特に好ましい。
【0103】
(αアミノアルキルフェノン系光重合開始剤)
本実施形態のカラーインク組成物は、上記アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と共にαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤を含み得る。これにより、LEDタックフリー性に優れる。
【0104】
αアミノアルキルフェノン系光重合開始剤を構成するαアミノアルキルフェノン化合物としては、1,3−αアミノアルキルフェノン化合物が好ましく、その具体例として、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンが挙げられる。
【0105】
αアミノアルキルフェノン系光重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)が挙げられる。
【0106】
(その他の光重合開始剤)
その他の光重合開始剤として、光(紫外線)のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0107】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオキサントン化合物を除くチオ化合物(チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びαアミノアルキルフェノン化合物を除くアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0108】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルが挙げられる。
【0109】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製商品名)、及びユベクリルP36(UCB社製商品名)などが挙げられる。
【0110】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
光重合開始剤は、紫外線硬化速度が十分大きく、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色が殆どないため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜12質量%であることが好ましい。
【0112】
特に、上記カラーインク組成物に含まれる(2)チオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかの含有量は、該カラーインク組成物の総質量に対して、0.5〜4質量%であり、1〜4質量%が好ましく、1.5〜2.5質量%がより好ましい。上記含有量が0.5質量%以上であると、LEDタックフリー性に優れる。一方、上記含有量が4質量%以下であると、インクの色安定性に優れる。チオキサントン系光重合開始剤及びαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうちでも特にチオキサントン系光重合開始剤を含む場合、密着性も優れる。
また、クリアインク組成物には、チオキサントン系光重合開始剤及びαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤を含まないことが好ましい。これは、クリアインク組成物にチオキサントン系光重合開始剤及びαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤を含む場合、色安定した後も、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む場合と同様に透明性が劣ることがある為である。
【0113】
また、上記カラーインク組成物に含まれる(1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量は、該カラーインク組成物の総質量に対して、4〜12質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。含有量が上記範囲内であると、チオキサントン系開始剤やαアルキルフェノン系開始剤と組み合わせた時、良好なLEDタックフリー性が得られる。
【0114】
また、上記クリアインク組成物に含まれるアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量は、該クリアインク組成物の総質量に対して、5〜12質量%であり、6.5〜9.5質量%が好ましく、7〜9質量%がより好ましい。上記含有量が5質量%以上であると、LEDタックフリー性に優れる。他方、上記含有量が12質量%以下であると、クリアインクの透明性に優れる。
【0115】
なお、前述の重合性化合物として光重合性の化合物を用いることで、光重合開始剤の添加を省略することが可能であるが、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ、好適である。
【0116】
〔重合性化合物〕
本実施形態におけるインク組成物に含まれる重合性化合物は、上述した光重合開始剤の作用により紫外線などの光の照射時に重合し、固化する化合物であれば、特に制限はないが、単官能基、2官能基、及び3官能基以上の多官能基を有する種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。
【0117】
前記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、前記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0118】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、基材への密着性を良好なものとすることができるため、N−ビニルカプロラクタムが好ましい。
【0119】
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。
【0120】
前記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシエチル)エチル及びイソボルニル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリンが挙げられる。
【0121】
前記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0122】
前記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0123】
これらの中でも、硬化時の塗膜の伸び性が高く、かつ低粘度であるため、インクジェット記録時の射出安定性が得られやすいという観点から、重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗膜の硬さが増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。上記の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
さらに、上記単官能(メタ)アクリレートは、芳香環骨格、飽和脂環骨格及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。前記重合性化合物が前記骨格を有する単官能(メタ)アクリレートであることにより、インク組成物の粘度を低下させ、かつ、上記のエポキシ基含有ポリマーをインク組成物中に効果的に溶解させることができる。
【0125】
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、上記においては、(メタ)アクリレートを例示したが、単なるアクリレートも同様に有用である。
【0126】
上記の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0127】
重合性化合物の含有量は、カラーインク組成物又はクリアインク組成物の総質量に対し、20質量%以上が好ましく、より好ましくは60〜90質量%である。含有量が上記範囲内であると、保存安定性及び硬化性が良好になる。
また、カラーインク組成物及び又はクリアインク組成物に、単官能モノマーと多官能モノマーとを含有することが特に好ましく、単官能モノマーとして、N−ビニルカプロラクタム、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシエチル)エチルの少なくともいずれかを含有することが好ましく、多官能モノマーとして、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、のいずれかを含有することが好ましい。
【0128】
〔色材〕
本実施形態におけるインク組成物は、色材をさらに含んでもよい。色材は、顔料及び/又は染料のうち少なくとも一方を用いることができる。ここで、上述のとおり、本明細書におけるカラーインクは、無色透明のクリアインクを除くあらゆる有色のインクを指す。そのため、本実施形態におけるクリアインク組成物は、カラーインク組成物と異なり、色材を含まない。
【0129】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0130】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0131】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0132】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製商品名)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製商品名)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製商品名)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4等(以上、デグッサ(Degussa)社製商品名)が挙げられる。
【0133】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0134】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント イエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0135】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント レッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、14
4、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、及びC.I.ピグメント ヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0136】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント ブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、及びC.I.バット ブルー 4、60が挙げられる。
【0137】
また、マゼンタ、シアン及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7、10、及びC.I.ピグメント ブラウン 3、5、25、26、及びC.I.ピグメント オレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0138】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0140】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0141】
色材の含有量は、カラーインク組成物の総質量に対して、2〜25質量%が好ましい。含有量が2質量%以上である場合、発色性が良好なものとなり、含有量が25質量%以下である場合、色材の紫外線吸収が硬化性に与える影響が小さいため硬化性を良好なものとすることができる。つまり、含有量が上記範囲内であると、発色性及び硬化性を共に良好なものとすることができる。
【0142】
〔界面活性剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、基材へのハジキを防止することができるため、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)を挙げることができる。
【0143】
〔重合禁止剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、その保存安定性が良好になるため、重合開始剤をさらに含んでもよい。その光硬化型クリアインク組成物に含まれ得る重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、IRGASTAB UV10及びUV22(BASF社製商品名)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製商品名)等を用いることができる。
【0144】
〔その他の添加剤〕
本実施形態におけるインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、顔料分散剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0145】
[被記録媒体]
上記の記録方法を用いて、本実施形態におけるインク組成物を被記録媒体上に吐出すること等により、記録物が得られる。この被記録媒体として、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。上記実施形態の記録方法は、水溶性インク組成物の浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、水溶性インク組成物の浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、当該インク組成物を非吸収性の被記録媒体に適用した場合は、紫外線を照射し硬化させた後に乾燥工程を設けること等が必要となる場合がある。
【0146】
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、水性インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、水性インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0147】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0148】
このように、本実施形態によれば、LEDタックフリー性、インクの色安定性、及びクリアインクの透明性に優れた、記録方法及びこれに用いられる光硬化型インクセットを提供することができる。特に、シングルパス方式における高速他色印刷において、カラーインク組成物及びクリアインク組成物にそれぞれ含まれる光重合開始剤の種類及び含有量と、本硬化時の照射エネルギーと、を調整することにより、色安定の優れる印刷物が得られる。
【実施例】
【0149】
以下、本発明の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0150】
[使用成分]
下記の実施例及び比較例において使用した成分は、以下の通りである。
【0151】
〔顔料分散液〕
顔料としてIRGALITE BLUE GLO(C.I.Pigment Blue 15:3、BASF社製)を用い、分散剤としてソルスパーズ36000(ノベオン社(Noveon Inc.)製商品名)(顔料分散液に対して1質量%)を用いた。そして、分散媒(TPGDA)中に顔料を分散させて、顔料濃度15質量%の顔料分散液を作製した。
【0152】
〔光重合開始剤〕
・KAYACURE DETX−S(チオキサントン型、日本化薬社製商品名、表1及び表2では「DETX−S」と略記した。)
・IRGACURE 369(1,3−αアミノアルキルフェノン型、BASF社製商品名、表1及び表2では「369」と略記した。)
・IRGACURE 819(アシルフォスフィンオキサイド型、BASF社製商品名、表1及び表2では「819」と略記した。)
・DAROCURE TPO(アシルフォスフィンオキサイド型、BASF社製商品名、表1及び表2では「TPO」と略記した。)
【0153】
〔重合性化合物〕
・トリプロピレングリコールジアクリレート(V#310HP(商品名)、大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製、表1及び表2では「TPGDA」と略記した。)
・N−ビニルカプロラクタム(ビニルカプロラクタム(商品名)、BASF社製、表1及び表2では「NVC」と略記した。)
【0154】
〔重合禁止剤〕
・Irgastab UV22(BASF社製商品名、表1及び表2では「UV22」と略記した。)
【0155】
〔界面活性剤〕
・シリコーン系表面調整剤 BYK−UV3500(BYK社製商品名、表1及び表2では「UV3500」と略記した。)
【0156】
[光硬化型シアンインク組成物の調製]
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、光硬化型シアンインク組成物(以下、単に「シアン」ともいう。)を調製した。
【0157】
【表1】

【0158】
[光硬化型クリアインク組成物の調製]
下記表2記載の成分を、表2に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、光硬化型クリアインク組成物(以下、単に「クリア」ともいう。)を調製した。
【0159】
【表2】

【0160】
[実施例1〜6、比較例1〜6]
光硬化型インクセットによる評価1を行った。評価項目は下記のとおりである。結果を下記表3及び表4に示す。
【0161】
〔1.色安定性に関する画質評価〕
図2に示されるインクジェットプリンター(インクジェットプリンター1)を用いて評価を行った。まず、インク吐出重量15ng、解像度720×720dpiの条件で、1インチ×1インチのシアン色のベタパターンを印刷した。次に、第1の仮硬化用照射部42eのLED Firefly(Phoseon社製、ピーク波長395nm、照射強度100mW/cm2)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。
続いて、インク吐出重量15ng、解像度720×720dpiの条件で、1インチ×2インチのクリアのベタパターンを上塗りした。その際、シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部におけるブリードの発生の有無を観察することにより本評価を行うため、シアン色のベタパターン及びクリアのベタパターンを中央で合わせた。次に、第2の仮硬化用照射部42fのLED Firefly(Phoseon社製商品名、ピーク波長395nm、照射強度100mW/cm2)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。
そして、メタルハライドランプ(本体照射装置名:UVAPRINT 300HPLK、Honle社製)を用いて所定の積算エネルギー(本硬化時の照射エネルギー)になるようインクに、本硬化用光源から光照射して、光硬化型インクを硬化させることで、被記録媒体(#125−E20(東レ社製商品名))上に硬化膜(画像)を形成したテストパターンを得た。なお、照射エネルギーの値は、紫外線照度計UM−10、受光部UM−400(コニカミノルタ・センシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製商品名)を用いて測定した。
【0162】
この硬化膜のL*、a*、b*を測定し、1週間後の色相を基準とした時の色差(ΔE)について、硬化膜形成後からの経時変化をプロットし、ΔEが2未満となるまでの時間を導出した。なお、テストパターンの作製は図1及び図2に記載された印刷装置を用いた。
【0163】
評価基準は下記のとおりである。評価基準のうち1、2、及び3が実用上許容される基準である。
3:1時間未満、
2:1時間以上2時間未満、
1:2時間以上24時間未満、
0:24時間以上。
【0164】
〔2.滲みに関する画質評価〕
上記「1.色安定性に関する画質評価」と同様の方法により、テストパターンを得た。
評価は、上記のテストパターンを目視することにより行った。評価基準は下記のとおりである。
A:シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部に滲みが無かった。
B:シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部に滲みが有った。
【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

【0167】
上記表3及び表4より、シアンにクリアを重ねたテストパターンの画像において、色安定性に劣るもの、又は滲みがあるものが見られた。そこで、光硬化型インクセットの記録方法と画質との間の関係をより明確に把握するため、次に、シアンとクリアを重ねない別々のテストパターンの画像で評価(インクセットによる評価2)を行った。
【0168】
[実施例7〜12、比較例7〜12]
インクセットによる評価2を行った。評価項目は下記のとおりである。結果を下記表5及び表6に示す。
【0169】
ここで、下記のLEDタックフリー性は、LEDを用いて行った仮硬化(ピニング)後のタックフリー性の評価である。一方、表に記載した積算エネルギーは、メタルハライドランプを用いて行った本硬化の際に光照射したエネルギーの総量であってLEDを用いて行った仮硬化の際の光照射(第1、第2)は含まない。なお、本硬化で使用した照射装置はHonle社製のUVAPRINT 300HPLK(商品名)である。
【0170】
〔シアンインク、クリアインクに共通の評価項目〕
(1.LEDタックフリー性)
ルミラー#125−E20(東レ社製商品名、PETフィルム)に膜厚10μmとなるようにバーコーターで光硬化型インクを塗布した。次いで、波長395nmにピークを有するLED「Firefly(Phoseon社製商品名)」・照度70mW/cm2の紫外線を、塗布したインクに所定の時間、照射した。照射後、塗膜の表面を綿棒で擦り、擦過痕がつかなくなるまでの照射時間を測定した。
評価基準は下記のとおりである。
2:0秒以上30秒未満、
1:30秒以上60秒未満、
0:60秒以上。
【0171】
(2.色安定性)
図2に示されるインクジェットプリンターを用いて評価を行った。まず、インク吐出重量15ng、解像度720×720dpiの条件で、1インチ×1インチのシアン色のベタパターンを印刷した。次に、第1の仮硬化用照射部42eのLED Firefly(Phoseon社製)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。
そして、メタルハライドランプ(本体照射装置名:UVAPRINT 300HPLK Honle社製)を用いて所定の積算エネルギー(本硬化時の照射エネルギー)になるようインクに、本硬化用光源から光照射して、光硬化型インクを硬化させることで、被記録媒体(#125−E20(東レ社製商品名))上に硬化膜(画像)を形成したテストパターンを得た。硬化膜のL*、a*、b*を測定し、1週間後の色相を基準とした時の色差(ΔE)について、硬化膜形成後からの経時変化をプロットし、ΔEが2未満となるまでの時間を導出した。
評価基準は下記のとおりである。評価基準のうち1、2及び3が実用上許容される基準である。
3:1時間未満、
2:1時間以上2時間未満、
1:2時間以上24時間未満、
0:24時間以上。
【0172】
(3.滲みに関する画質評価)
図2に示されるインクジェットプリンターを用いて評価を行った。まず、インク吐出重量15ng、解像度720×720dpiの条件で、1インチ×1インチのシアン色のベタパターンを印刷した。次に、第1の仮硬化用照射部42eのLED Firefly(Phoseon社製)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。
続いて、インク吐出重量15ng、解像度720×720dpiの条件で、1インチ×2インチのクリアのベタパターンを上塗りした。その際、シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部におけるブリードの発生の有無を観察することにより本評価を行うため、シアン色のベタパターン及びクリアのベタパターンを中央で合わせた。次に、第2の仮硬化用照射部42fのLED Firefly(Phoseon社製商品名)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。
そして、メタルハライドランプ(本体照射装置名:UVAPRINT 300HPLK、Honle社製)を用いて所定の積算エネルギー(本硬化時の照射エネルギー)になるようインクに、本硬化用光源から光照射して、光硬化型インクを硬化させることで、被記録媒体(#125−E20(東レ社製商品名))上に硬化膜(画像)を形成したテストパターンを得た。なお、照射エネルギーの値は、紫外線照度計UM−10、受光部UM−400(コニカミノルタ・センシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製商品名)を用いて測定した。
評価は、上記したテストパターンを目視することにより行った。評価基準は下記のとおりである。
A:シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部に滲みが無かった。
B:シアン色のベタパターンとクリアのベタパターンとの境界部に滲みが有った。
【0173】
〔クリアインクの評価項目〕
(4.クリアインクの透明性)
図2に示されるインクジェットプリンターを用いて評価を行った。まず、インク吐出重量15ng、解像度720dpi×720dpiの条件で、クリアインクを用いて1インチ×1インチの領域にベタ印刷した。次に、第2の仮硬化用照射部42fのLED Firefly(Phoseon社製商品名)で、照射エネルギー10mJ/cm2の紫外線を照射し、仮硬化を行った。そして、メタルハライドランプ(本体照射装置名:UVAPRINT 300HPLK、Honle社製)を用いて所定の積算エネルギー(本硬化時の照射エネルギー)になるよう、本硬化用光源から光を照射して光硬化型インクを硬化させた。これにより、被記録媒体(#125−E20〔商品名〕、東レ社製)上に硬化膜(画像)が形成されたテストパターンを得た。硬化膜とサブストレートを測色し、それらの間の色差(ΔE)を算出した。
評価基準は下記のとおりである。評価基準のうち1、2及び3が実用上許容される基準である。
3:2未満、
2:2以上3未満、
1:3以上4未満、
0:4以上。
【0174】
【表5】

【0175】
【表6】

【0176】
上記表5及び表6より、シアンインク及びクリアインクをそれぞれ、被記録媒体上の異なる箇所に塗布して硬化させたテストパターンの画像において、シアン画像に色安定性の劣るものや滲みのあるものが見られた。クリア画像については、色安定性こそ全ての実施例及び比較例で問題なかったものの、透明性が劣るもの、即ち初期の着色があるものがあることが新たに分かった。
【0177】
上記表5及び表6の結果より、シアンインク及びクリアインクをそれぞれ別個にタックフリー性評価してみると、シアンインクの滲みと各インクのタックフリー性評価結果との間に、相関性のあることが分かった。なお、比較例8、比較例11については後述でも触れる。
【0178】
ここで、インクをセットで用いる意義を説明する。上記のとおり、テストパターンの作製は図2に記載された印刷装置を用いたが、図2中、本硬化用照射部44による照射エネルギーが積算エネルギーである。そうすると、この積算エネルギーは、カラーインクとクリアインクとの間で共通になる。カラーインク及びクリアインクの積算エネルギーを各別にするためには、インク色ごとに本硬化用照射部44が必要となる。しかし、本硬化用照射部44をそのように設けた場合、煩雑になると共に記録方法の工程が複雑になるので、本硬化用照射部44により、カラーインクとクリアインクとを一度に本硬化するのが好ましい。そこで、本硬化を一度で行うことができるようにするため、カラーインク及びクリアインクはセットとして用いることが好ましい。この場合、共通の積算エネルギーで全ての評価が0以外になるように各インク組成と積算エネルギーを選択する必要がある。
【0179】
なお、図2中の第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fの照射エネルギーは積算エネルギーに含まれない。本硬化用照射部44(メタルハライドランプ)と第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42f(LED)とは互いに波長が異なるが、メタルハライドランプの積算エネルギーが色安定性や透明性に影響する。一方、第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fはインクごとに滲み等を考慮して照射させればよい。記録媒体の搬送速度において、充分なエネルギー量で第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fにより光を照射する場合は、インク組成物の硬化性が必要になる。その目安としてタックフリー評価を行った。
【0180】
[参考例1〜23]
次に、参考として、本発明の記録方法に用いるインクセットを構成するシアンインク及びクリアインクとして、どのような条件のものが好適であるかを検討するため、上記の実施例及び比較例で用いたインク組成物、及びさらに新たに調製したインク組成物を用いて、インクの個別評価(評価3)を行った。評価項目は下記のとおりである。結果を下記表7、表8、及び表9に示す(表8中の「−」は、評価を行わなかったことを示す。)。なお、インク組成物セットで試験を行わずに各インク組成物単独で試験を行った点以外は、前述の実施例7〜12及び比較例7〜12と同じ手順でテストパターンの作成、評価を行った。
【0181】
ここで、下記のLEDタックフリー性はLEDによる仮硬化(ピニング)性の評価である。一方、表に記載した積算エネルギーはメタルハライドランプによる本硬化のものであってLEDによるピニング(仮硬化)を含めていない。なお、本硬化で使用した照射装置はHonle社製のUVAPRINT 300HPLK(商品名)である。
【0182】
〔1.LEDタックフリー性〕
上記の実施例7〜12及び比較例7〜12で行ったLEDタックフリー性評価と同様にして、本評価を行った。
評価基準は下記のとおりである。
2:0秒以上30秒未満、
1:30秒以上60秒未満、
0:60秒以上。
【0183】
〔2.色安定性〕
上記の実施例7〜12及び比較例7〜12で行った色安定性評価と同様にして、本評価を行った。
評価基準は下記のとおりである。評価基準のうち1、2及び3が実用上許容される基準である。
3:1時間未満、
2:1時間以上2時間未満、
1:2時間以上24時間未満、
0:24時間以上。
【0184】
〔3.クリアインクの透明性〕
上記の実施例7〜12及び比較例7〜12で行ったクリアインクの透明性評価と同様にして、本評価を行った。
評価基準は下記のとおりである。評価基準のうち1、2及び3が実用上許容される基準である。
3:2未満、
2:2以上3未満、
1:3以上4未満、
0:4以上。
【0185】
【表7】

【0186】
【表8】

【0187】
【表9】

【0188】
上記表7、表8、及び表9より、次のことが分かった。参考例9より、チオキサントン系光重合開始剤及び1,3−αアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のいずれも含有しない場合、タックフリー性に劣ることが分かった。また、参考例23より、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が4質量%と少ない場合、タックフリー性に劣ることが分かった(なお、含有量が6質量%である参考例20のタックフリー性は良好である。)。
【0189】
参考例10より、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤をクリアインクで許容できる最大量(12質量%)まで入れても、シアン顔料が吸収波長を有するため、クリアインクの場合と異なりタックフリー性は不十分となることがわかった。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量を5質量%に低減した参考例9と比較すると、その硬化性の改善効果は見られなかった。また、参考例11より、DETX−S(チオキサントン系光重合開始剤)が所定量含有されることでタックフリー性を確保できることがわかった。チオキサントン系光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤よりも短波長側での吸光量が大きく、顔料の吸収波長との重なりはアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤よりも少ないので、タックフリー状態を確保できることがわかった。また、参考例12より、シアンインクがアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有しない場合、硬化性に劣るとともに、チオキサントン系光重合開始剤のみでは硬化性を良好にすることが困難なことも分かった。また、参考例13より、1,3−αアミノアルキルフェノン系光重合開始剤もチオキサントン系光重合開始剤と同じ結果を生じさせることが分かった。
【0190】
さらに、下記のことも確認されたか、又は予想される。シアンインクのアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量は2〜10質量%の範囲であれば好ましいといえることを確認した。具体的には、この範囲内にある参考例において各評価結果が良好であった。一方、参考例12より、上記含有量が2質量%未満であるとタックフリー性が劣ることが予想される。上記含有量の上限については、参考例11より、10質量%まで添加可能であることが確認された。なお、上記含有量が10質量%を上回ると、クリアインクの透明性評価の結果から黄変する可能性が予想されるが、シアンインクはクリアインクと異なり着色(黄変)が目立たないため、10質量%を上回る含有量が実用上許容される範囲であるかどうかは不明である。ただし、上記含有量が10質量%であっても、参考例10の結果より、光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド系のみでは硬化性に劣る。そのため、上記含有量が11質量%であっても実用上許容されない可能性が高く、さらにアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量をさらに増やすと黄変の恐れが高まるため、10質量%を上回る含有量では試験しなかった。
【0191】
以上説明してきた実施例、比較例、及び参考例の結果より、シアンインクの色安定性評価結果とクリアインクの透明性評価結果とは独立のものであって相互作用を及ぼすものではないことが分かる。したがって、上記の実施例や比較例に限らず、所定範囲内の積算エネルギー量であれば、シアンに関する参考例1〜14とクリアに関する参考例15〜23とを適宜組み合わせて所望のインクセットを作製することができる。
【0192】
[実施例12〜20、比較例13〜19]
インクセットによる評価4を行った。インク組成物、評価項目は下記の通りである。結果を下記表10、11に示す。
〔インク組成物〕
シアンインク組成物11、シアンインク組成物12以外のインク組成物については前述のものと同じインク組成物であり、新たにシアンインク組成物11、シアンインク組成物12を作製した。
・シアンインク組成物11:シアンインク組成物1において、DETX−Sを3質量%を用いる代わりに、イソプロピルチオキサントン(日本化薬社製、2−イソプロピルチオキサントン,4−イソプロピルチオキサントン混合品)を3%用いたこと以外は同様にしてシアンインク組成11を作製した。
・シアンインク組成物12:シアンインク組成物1において、DETX−Sを3質量%を用いる代わりに4質量%用い、トリプロピレングリコールジアクリレートを55.9質量%用いる代わりに54.9質量%用いたこと以外は同様にしてシアンインク組成物12を作成した。
【0193】
〔1.色安定性に関する画質評価〕
前述の評価1の色安定性に関する画質評価と同様の方法で評価を行った。
〔2.滲みに関する画質評価〕
前述の評価1の滲みに関する画質評価と同様の方法で評価を行った。
〔3.密着性に関する画質評価〕
前述の評価1の色安定性に関する画質評価と同様の方法により、テストパターンを得た。
得られたテストパターンのシアンインクによるベタパターンとクリアインクによるベタパターンが重なって形成されている箇所について下記方法で密着性評価をおこなった。
JIS K5600−5−6(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、フィルムと硬化膜との密着性の評価を行った。なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
A:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがない。
B:カットの交差点における塗膜の小さな剥がれが認められる。
C:塗膜がカットの縁に沿って、および/または交差点において剥がれている。
D:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大剥がれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的に剥がれている。
【0194】
〔実施例17について〕
実施例17については、上記の各画質評価においてテストパターンを作成する際に、インクジェットプリンター1の第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fをOFFにして、シアンインクによるベタパターン及びクリアインクによるベタパターンの仮硬化を行わずに、本硬化用光源による本硬化を行った。
【0195】
〔比較例20について〕
比較例20は、インクジェットプリンター1において、搬送方向上流側のシアンインクヘッドにクリアインクを充填し、下流側のクリアインクヘッドにシアンインクを充填し、最初にクリアインクを被記録媒体に吐出しクリアパターンを形成しクリアパターンの一部の上へシアンパターンを形成したこと以外は、実施例13と同様の構成としたものである。
【0196】
【表10】

【0197】
【表11】

【0198】
上記表10、11から、全実施例は色安定性に関する画質評価、密着性に関する画質評価が優れていた。また、シアンインク組成物及びクリアインク組成物の仮硬化を行わなかった実施例17は、滲みに関する画質評価は評価Bであったが、色安定性に関する画質評価、密着性に関する画質評価は、仮硬化を行った実施例と同等の評価であった。なお、実施例17について、前述の評価2の、4.クリアインクの透明性評価と同じ方法でテストパターンを作成し、クリアインクの透明性評価を行った所、評価は1であった。一方、比較例は何れも、密着性に関する画質評価が劣っていた。なお、比較例18は前述の比較例8と、比較例19は前述の比較例11と同じ構成としたものであるが、密着性に関する画質評価が劣っていた。比較例20は密着性が劣っていた。
【0199】
[実施例21〜29、比較例21〜28]
インクセットによる評価5を行った。インク組成物、評価項目は下記の通りである。内容と結果を下記表12〜14に示す。
【0200】
[インク組成物]
組成を表12、表13に記載のものに変えたこと以外は前述の評価に用いたインク組成物と同様の手順で、シアンインク組成物(組成13〜17)、クリアインク組成物(組成6〜10)を調製した。
【0201】
[使用成分]
・アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシエチル)エチル(日本触媒社製、表中ではVEEAと記載)
・フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学社製、表中ではPEAと記載)
・ジシクロペンテニルアクリレート(FA―511AS、日立化成工業社製、表中ではFA511と記載)
【0202】
[画質評価方法]
前述の評価と同様の方法で各画質評価をおこなった。
【0203】
[記録方法]
評価5の実施例21〜27、比較例21〜26は、前述の評価1で用いた図2のインクジェットプリンター(インクジェットプリンター1)において本硬化用照射部44を、LED(ピーク波長395nm、照射強度1000mW/cm2)に置き換えたもの(インクジェットプリンター2)を用い、下記に記載したこと以外は評価1と同様にして画質評価用パターンの作成を行った。一方、実施例28〜29、比較例27,28は、図4に示すシリアルプリンターであるインクジェットプリンター3を用いて画質評価用パターンの作成を行った。
【0204】
インクジェットプリンター3はヘッドや照射部を含むキャリッジの周辺や被記録媒体搬送機構に関して図4の構成を備えており、これら以外のプリンター全体の構成はインクジェットプリンター1と同様である。
図4において、6はキャリッジであり、8はシアンインクヘッドを含む各色インクヘッドであり、10はクリアインクヘッドであり、11は照射部であり、5はガイドレールであり、2はプラテンであり、4は搬送ローラーであり、A、Bは、主走査方向であり、Xは副走査方向である。キャリッジの主走査方向(A方向あるいはB方向のいずれか)への主走査によってインクヘッドからインクの記録媒体(被記録媒体)へインクが吐出され、かつ、2個の照射部11のうちの主走査方向におけるインクヘッドよりも後方側の照射部から被記録媒体に付着したインクに照射が行なわれる。主走査と副走査(被記録媒体の搬送)とが交互に行なわれ、主走査のたびに主走査方向はA方向かB方向に交互に切り替わる。
【0205】
各色インクヘッド8とクリアインクヘッド10のそれぞれにおいて、1つのインクの吐出に用いるノズル列の副走査方向の長さ(距離H)は同じ長さである。1回の副走査方向の距離(距離S)が距離Hと同じ場合は、1つのインクについて1回の主走査(パス)で記録が行なわれるシリアル1パス記録方法が行なわれ、距離Sが距離Hより短い場合は、1つのインクについて2回以上の主走査(パス)で記録が行なわれるシリアルマルチパス記録方法が行なわれる。シリアルマルチパス記録方法が行なわれる場合、距離Sが短いほどパス数を多くさせ、パス数は2以上とすることができる。シリアルマルチパス記録方法が行なわれる場合、1パス目に被記録媒体に吐出されたインクには、1パス目において1個の照射部11から1回の照射が行なわれた後、2パス目以降のパスにおいてさらに1パスにつき2個の照射部11から2回の照射が行なわれる。それぞれの照射部11は、LED(ピーク波長395nm、照射強度1000mW/cm2)を用い、照射部11のうち各色インクヘッド8あるいはクリアインクヘッド10と主走査方向に並ぶ部分(副走査方向の位置が一致する部分)のみからUVを発光させ被記録媒体を照射可能とした。インクジェットプリンター3の詳細は例えば特開2006−289722を参照することができる。
【0206】
・実施例21〜25、比較例21〜24:評価1と同様、ラインプリンターによりプリントヘッドに対して被記録媒体が1回のみ走査(パス)される記録方式である(ライン1パス)。シアンパターンは、第1仮硬化用照射部44eによる第1仮硬化(照射エネルギー10mJ/cm2)と、その後の第2の仮硬化用照射部44fによる第2仮硬化(照射エネルギー10mJ/cm2)とさらにその後の本硬化用照射部による本硬化(照射エネルギー200mJ/cm2)とにより合計220mJ/cm2の照射をうけインクが硬化して作成された。クリアパターンは、第2の仮硬化用照射部44fによる第2仮硬化(照射エネルギー10mJ/cm2)とその後の本硬化用照射部による本硬化(照射エネルギー200mJ/cm2)とにより合計210mJ/cm2の照射をうけインクが硬化して作成された。各仮硬化用照射部及び本硬化用照射部の照射エネルギーは、各照射部部から被記録媒体に照射される照射継続時間を調整することによりおこなった。
【0207】
・実施例26、27、比較例25、26:本硬化の照射エネルギーを表中のものに変えた以外は実施例21と同様にして画質評価用パターンを作成した。
【0208】
・実施例28:シリアルプリンター(インクジェットプリンター3)を用い、インクヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の上流方向に配置されるシアンインクヘッドによる2パスによってシアンパターンの形成が完了し、シアンパターン中に、1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。続いて、プリントヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の下流方向に配置されるクリアインクヘッドによる2パスによってシアンパターンの上の一部に重ねてクリアパターンを形成する。クリアパターン中に、1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。照射部11による1回の照射の照射エネルギーが100mJ/cm2となるよう1回の主走査における照射継続時間を調整した。
シアンパターンには、(A)シアンインクヘッドの1パス目に被記録媒体に付着され、ドットが付着されたパスにおいて1個の照射部11により1回照射され、その後のシアンヘッドの2パス目、クリアヘッドの2パスによる3パスでそれぞれ2個の照射部11により6回照射され、合計100×7=700mJ/cm2照射されたシアンドットと、(B)シアンヘッドの2パス目に付着され、ドットが付着されたパスにおいて1個の照射部11により1回照射され、その後、クリアヘッドの2パスによりそれぞれ2個の照射部11により4回照射され、合計100×5=500mJ/cm2照射されたシアンドットと、が存在する。また、クリアパターンには、(A)クリアインクヘッドの1パス目に被記録媒体に付着され、ドットが付着されたパスにおいて照射部11により1回照射され、その後のクリアヘッドの2パス目で照射部11により2回照射され、合計100×3=300mJ/cm2照射されたクリアドットと、(B)クリアインクヘッドの2パス目に付着され、ドットが付着されたパスにおいて照射部11により1回照射され、100×1=100mJ/cm2照射されたシアンドットと、が存在する。
【0209】
・実施例29:シリアルプリンター(インクジェットプリンター3)の各照射部による被記録媒体に対する1回の照射のエネルギーを、200mJ/cm2となるよう1回の主走査における照射継続時間を調整した。インクヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の上流方向に配置されるシアンインクヘッドによる1パスによってシアンパターンの形成が完了し、シアンパターン中に、1パスの走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。続いて、プリントヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の下流方向に配置されるクリアインクヘッドによる1パスによってシアンパターンの上の一部に重ねてクリアパターンを形成する。クリアパターン中に、1パスの走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。シアンドットの照射エネルギーは200+200mJ/cm2であり、クリアドットの照射エネルギーは200mJ/cm2である。
【0210】
・比較例27:シリアルプリンター(インクジェットプリンター3)の各照射部による被記録媒体に対する1回の照射のエネルギーを、50mJ/cm2となるよう1回の主走査における照射継続時間を調整した。インクヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の上流方向に配置されるシアンインクヘッドによる2パスによってシアンパターンの形成が完了し、シアンパターン中に、1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。続いて、プリントヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の下流方向に配置されるクリアインクヘッドによる1パスによってシアンパターンの上の一部に重ねてクリアパターンを形成する。クリアパターン中に1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。シアンパターン中には照射エネルギーが50×1+50×4mJ/cm2のシアンドットと50×3+50×4mJ/cm2のシアンドットとが存在し、クリアパターン中には照射エネルギーが50×1mJ/cm2のシアンドットと50×3mJ/cm2のシアンドットとが存在する。
【0211】
・比較例28:シリアルプリンター(インクジェットプリンター3)の各照射部による被記録媒体に対する1回の照射のエネルギーを、150mJ/cm2となるよう1回の主走査における照射継続時間を調整した。インクヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の上流方向に配置されるシアンインクヘッドによる2パスによってシアンパターンの形成が完了し、シアンパターン中に、1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。続いて、プリントヘッドのうち被記録媒体の副走査方向の下流方向に配置されるクリアインクヘッドによる1パスによってシアンパターンの上の一部に重ねてクリアパターンを形成する。クリアパターン中に1パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットと2パス目の走査により被記録媒体に付着されたドットが存在する。シアンパターン中には照射エネルギーが150×1+150×4mJ/cm2のシアンドットと150×3+150×4mJ/cm2のシアンドットとが存在し、クリアパターン中には照射エネルギーが150×1mJ/cm2のシアンドットと150×3mJ/cm2のシアンドットとが存在する。
【0212】
【表12】

【0213】
【表13】

【0214】
【表14】

【0215】
上記表13、14から、全実施例は、各画質評価結果が優れていた、一方、比較例は、各画質評価の少なくともいずれかが劣っていた。このことから、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と、0.5〜4質量%のチオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかとを含むシアンインク組成物と、5〜12質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含むクリアインク組成物と、からなるインクセットを用いて、インクセットから形成した塗膜を光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーが100〜800mJ/cm2である場合に、画質評価の優れるものとすることができ、特に透明性と色安定性の両立ができることがわかった。本評価5においては、照射を行なう際の各照射部は同じ種類の光源であり、また、複数回の照射を行なう場合、合計の照射エネルギーを上述の所定の範囲内とすればよいことがわかる。また、シアンインクとクリアインクの照射エネルルギーは同一ではなくともよく、それぞれが所定の範囲内であればよいことがわかる。
【0216】
また、シリアルプリンターを用いる場合、下記のことも言える。シリアルプリンターではインクを吐出した主走査よりも後の主走査によっても照射が行なわれるよう構成することも可能であるため、仮に1回の照射では照射エネルギーが少なくても、後の主走査による照射で、合計の照射エネルギーを大きくすることができる。また、図4においては図示していないが、照射部11の少なくとも一方を副走査方向のクリアインクヘッドよりも下流側まで延在させこの延在部も発光させ、クリアインクヘッドによる印刷のための主走査の後にさらに照射部の延在部により照射がおこなわれるようにしてもよい。この場合、照射部の延在部による照射も含めた合計の照射エネルギーを上述の範囲内とすれば良い。この場合、シリアルインクジェットプリンターを用いながらシアンインクとクリアインクの照射エネルギーの差を小さくできる点や、クリアインクの照射エネルギーが足りない場合に、延在部からの照射により照射エネルギーを補える点で好ましい。
【符号の説明】
【0217】
1…プリンター、20…搬送ユニット、23A…上流側搬送ローラー、23B…下流側搬送ローラー、24…ベルト、30…ヘッドユニット、40…照射ユニット、42e…第1の仮硬化用照射部、42f…第2の仮硬化用照射部、44…本硬化用照射部、50…検出器群、60…コントローラー、110…コンピューター、CL…クリアインクヘッド、COLOR…カラーヘッド、S…被記録媒体、S1…第1の塗膜形成工程、S2…第1の仮硬化工程、S3…第2の塗膜形成工程、S4…第2の仮硬化工程、S5…本硬化工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物、光重合開始剤、及び色材を含有する光硬化型カラーインク組成物並びに重合性化合物及び光重合開始剤を含有する光硬化型クリアインク組成物からなる光硬化型インクセットを用いた記録方法であって、
前記光硬化型カラーインク組成物は、(1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と、該カラーインク組成物の総質量に対して0.5〜4質量%の(2)チオキサントン系光重合開始剤及び/又はαアミノアルキルフェノン系光重合開始剤のうち少なくともいずれかと、を含み、
前記光硬化型クリアインク組成物は、該クリアインク組成物の総質量に対して5〜12質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含み、
該インクセットから形成した塗膜を光源からの光照射により硬化する際の照射エネルギーが100〜800mJ/cm2である、記録方法。
【請求項2】
被記録媒体に前記光硬化型カラーインク組成物による第1の塗膜を形成し、前記第1の塗膜に前記光硬化型クリアインク組成物による第2の塗膜を形成する、請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記前記光硬化型カラーインク組成物は、該カラーインク組成物の総質量に対して0.5〜4質量%のチオキサントン系光重合開始剤を含む、請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記光源が、水銀ランプ又はメタルハライドランプである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記光硬化型クリアインク組成物に対して、前記光源からの照射エネルギーで光を照射する前に、仮硬化用光源から光を照射する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記仮硬化用光源が発光ダイオードである、請求項5記載の記録方法。
【請求項7】
被記録媒体をプリントヘッドに対して相対的に走査させながら、前記光硬化型インクセットを前記プリントヘッドから吐出し、前記被記録媒体に着弾させて形成した塗膜を光照射により硬化することによって画像を形成する記録方法であって、
前記光硬化型カラーインク組成物を前記被記録媒体に吐出して着弾させることにより、前記被記録媒体上に第1の塗膜を形成する第1の塗膜形成工程と、
前記第1の塗膜を第1の光照射により仮硬化させる第1の仮硬化工程と、
前記被記録媒体及び前記第1の塗膜の一部又は全部のうち少なくともいずれかに前記光硬化型クリアインク組成物を吐出することにより、前記被記録媒体上及び前記第1の塗膜の一部上又は全部上のうち少なくともいずれかに第2の塗膜を形成する第2の塗膜形成工程と、
前記第2の塗膜を第2の光照射により仮硬化させる第2の仮硬化工程と、
仮硬化した前記第1の塗膜と前記第2の塗膜とを前記光源からの光照射により本硬化する本硬化工程と、を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記第1の仮硬化工程における転化率が、30〜95%である、請求項7に記載の記録方法。
【請求項9】
前記第2の仮硬化工程における転化率が、30〜100%である、請求項7又は8に記載の記録方法。
【請求項10】
前記光源が、発光ダイオードである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項11】
ラインインクジェットプリンターを用いて記録を行なう請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項12】
シリアルインクジェットプリンターを用いて記録を行なう請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項13】
主走査によって被記録媒体へ付着されたインクに対して、当該主走査及び当該主走査より後の主走査によって照射が行なわれる、請求項12に記載の記録方法。
【請求項14】
シアンインク組成物の照射エネルギーとクリアインク組成物の照射エネルギーとが異なる、請求項12又は13に記載の記録方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の記録方法に用いられる、前記光硬化型カラーインク組成物及び前記光硬化型クリアインク組成物を含む光硬化型インクセット。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の記録方法により記録を行なう記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−126122(P2012−126122A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204287(P2011−204287)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】